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特許7062639弱酸性の活性作用物質を含有しているリポソーム組成物、リポソーム組成物を調製するための方法およびキット並びに送達用ビヒクル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-22
(45)【発行日】2022-05-06
(54)【発明の名称】弱酸性の活性作用物質を含有しているリポソーム組成物、リポソーム組成物を調製するための方法およびキット並びに送達用ビヒクル
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/127 20060101AFI20220425BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20220425BHJP
   A61K 31/5575 20060101ALI20220425BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20220425BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20220425BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20220425BHJP
   A61P 7/02 20060101ALI20220425BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220425BHJP
【FI】
A61K9/127
A61K47/24
A61K31/5575
A61K47/12
A61P21/00
A61P9/12
A61P7/02
A61P29/00
【請求項の数】 39
(21)【出願番号】P 2019504846
(86)(22)【出願日】2017-08-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-10-03
(86)【国際出願番号】 US2017045939
(87)【国際公開番号】W WO2018031568
(87)【国際公開日】2018-02-15
【審査請求日】2020-07-08
(31)【優先権主張番号】62/372,096
(32)【優先日】2016-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/375,698
(32)【優先日】2016-08-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507317971
【氏名又は名称】タイワン リポソーム カンパニー リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】514090142
【氏名又は名称】ティーエルシー バイオファーマシューティカルズ、インク.
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】ファン、クー-ミン
(72)【発明者】
【氏名】チェン、フー-ルー
(72)【発明者】
【氏名】ホン、キールン
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05939096(US,A)
【文献】国際公開第2015/155773(WO,A1)
【文献】特表2008-512446(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00
A61K 47/00
CAplus/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弱酸性の作用物質を送達するための送達用ビヒクルであって、前記送達用ビヒクルは水性媒体中のリポソームを含み、
前記リポソームは内部空間を有し、かつ前記内部空間は:
1)水性であり、
2)脂質混合物から構成される膜によって前記水性媒体から分離されており、前記脂質混合物は、1以上の脂質と、前記脂質混合物の総量に基づき0.5%~3%の範囲のモル百分比の親水性ポリマーコンジュゲート脂質とを含有し;かつ
3)弱酸塩を含有し、
前記親水性ポリマーコンジュゲート脂質はポリエチレングリコールで誘導体化された脂質であり、前記ポリエチレングリコールで誘導体化された脂質の脂質分子は、ジアシルホスファチジルコリン、スフィンゴミエリン、ジアシルホスファチジルエタノールアミン、ジアシルホファチジルセリン、ジアシルホスファチジルグリセロール、ジアシルホスファチデートおよびカルディオリピンからなる群より選択される、送達用ビヒクル。
【請求項2】
前記親水性ポリマーコンジュゲート脂質は、0.5%~1%の範囲のモル百分比である、請求項1に記載の送達用ビヒクル。
【請求項3】
前記弱酸塩は、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム又は酢酸カルシウムである、請求項1または請求項2に記載の送達用ビヒクル。
【請求項4】
前記弱酸塩は、少なくとも100mM;及び典型的には100mM~800mM;好ましくは200mM~800mM;最も好ましくは400mM~800mMの濃度である、請求項1~のいずれか1項に記載の送達用ビヒクル。
【請求項5】
前記リポソームは、前記リポソーム内で水性の内部空間に封入された多塩基酸をさらに含む、請求項1~のいずれか1項に記載の送達用ビヒクル。
【請求項6】
前記多塩基酸は有機の三塩基酸である、請求項に記載の送達用ビヒクル。
【請求項7】
前記多塩基酸は、クエン酸、コハク酸、酒石酸又はこれらの組み合わせで構成されている群から選択される、請求項に記載の送達用ビヒクル。
【請求項8】
前記多塩基酸は、50mM未満、好ましくは10mM未満、より好ましくは0.01mM~5mM、さらにより好ましくは0.1mM~3mM、及び最も好ましくは1.5mM~2.5mMの濃度である、請求項のいずれか1項に記載の送達用ビヒクル。
【請求項9】
リポソーム組成物を調製する方法であって、前記方法は、
水性媒体中で、脂質混合物から構成される膜によって前記水性媒体から分離された水性の内部空間の内側に封入された弱酸塩を含むリポソームを;
弱酸性の作用物質と、前記弱酸性の作用物質が前記リポソーム内に封入されるようになるのに十分な時間、接触させるステップを含み;
前記弱酸塩は、前記弱酸性の作用物質と対になるカチオンを有し、かつ前記脂質混合物は、1以上の脂質と、前記脂質混合物の総量に基づき0.5%~3%の範囲のモル百分比の親水性ポリマーコンジュゲート脂質とを含有しており、
前記親水性ポリマーコンジュゲート脂質はポリエチレングリコールで誘導体化された脂質であり、前記ポリエチレングリコールで誘導体化された脂質の脂質分子は、ジアシルホスファチジルコリン、スフィンゴミエリン、ジアシルホスファチジルエタノールアミン、ジアシルホファチジルセリン、ジアシルホスファチジルグリセロール、ジアシルホスファチデートおよびカルディオリピンからなる群より選択される、方法。
【請求項10】
水性媒体中でリポソームを弱酸性の作用物質と接触させるステップは、周囲温度で前記弱酸性の作用物質が前記リポソーム内に封入されるようになるのに十分な時間である条件の下で実施される、請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記親水性ポリマーコンジュゲート脂質は、0.5%~1%の範囲のモル百分比である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記弱酸塩は、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム又は酢酸カルシウムである、請求項11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記弱酸塩は、少なくとも100mM;及び典型的には100mM~800mM;好ましくは200mM~800mM;最も好ましくは400mM~800mMの濃度である、請求項11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記リポソーム組成物の、前記弱酸性の作用物質と脂質の量とのモル比は、少なくとも0.001:1である、請求項11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記弱酸性の作用物質はアラキドン酸代謝物である、請求項1012のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記弱酸性の作用物質はプロスタグランジンである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記リポソームは、前記リポソーム内で水性の内部空間に封入された多塩基酸をさらに含む、請求項1012のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記多塩基酸は有機の三塩基酸である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記多塩基酸は、クエン酸、コハク酸、酒石酸又はこれらの組み合わせで構成されている群から選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記多塩基酸は、50mM未満、好ましくは10mM未満、より好ましくは0.01mM~5mM、さらにより好ましくは0.1mM~3mM、及び最も好ましくは1.5mM~2.5mMの濃度である、請求項1719のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
リポソーム組成物を調製するためのキットであって、前記キットは:
弱酸性の作用物質を含有する凍結乾燥ケーキを収容している1つのコンテナと;
水性媒体中のリポソームを含有するリポソーム溶液を収容している別のコンテナと、を含み、前記リポソームは、脂質混合物から構成される膜によって水性媒体から分離された水性の内部空間の内側に封入された弱酸塩を含み、前記脂質混合物は、1以上の脂質と、前記脂質混合物の総量に基づき0.5%~3%の範囲のモル百分比の親水性ポリマーコンジュゲート脂質とを含有し、
前記親水性ポリマーコンジュゲート脂質はポリエチレングリコールで誘導体化された脂質であり、前記ポリエチレングリコールで誘導体化された脂質の脂質分子は、ジアシルホスファチジルコリン、スフィンゴミエリン、ジアシルホスファチジルエタノールアミン、ジアシルホファチジルセリン、ジアシルホスファチジルグリセロール、ジアシルホスファチデートおよびカルディオリピンからなる群より選択される、キット。
【請求項22】
前記親水性ポリマーコンジュゲート脂質は、0.5%~1%の範囲のモル百分比である、請求項21に記載のキット。
【請求項23】
前記弱酸塩は、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、又は酢酸カルシウムである、請求項2122のいずれか1項に記載のキット。
【請求項24】
前記弱酸塩は、少なくとも100mM;及び典型的には100mM~800mM;好ましくは200mM~800mM;最も好ましくは400mM~800mMの濃度である、請求項2122のいずれか1項に記載のキット。
【請求項25】
前記弱酸性の作用物質はアラキドン酸代謝物である、請求項2122のいずれか1項に記載のキット。
【請求項26】
前記弱酸性の作用物質はプロスタグランジンである、請求項25に記載のキット。
【請求項27】
前記リポソームは、前記リポソーム内で水性の内部空間に封入された多塩基酸をさらに含む、請求項2122のいずれか1項に記載のキット。
【請求項28】
前記多塩基酸は有機の三塩基酸である、請求項27に記載のキット。
【請求項29】
前記多塩基酸は、クエン酸、コハク酸、酒石酸又はこれらの組み合わせで構成されている群から選択される、請求項27に記載のキット。
【請求項30】
前記多塩基酸は、50mM未満、好ましくは10mM未満、より好ましくは0.01mM~5mM、さらにより好ましくは0.1mM~3mM、及び最も好ましくは1.5mM~2.5mMの濃度である、請求項29に記載のキット。
【請求項31】
水性媒体中のリポソームを含むリポソーム組成物であって、前記リポソームは内部空間を有し、かつ
前記内部空間は:
1)水性であり、
2)脂質混合物から構成される膜によって水性媒体から分離されており、前記脂質混合物は、1以上の脂質と、前記脂質混合物の総量に基づき0.5%~3%の範囲のモル百分比の親水性ポリマーコンジュゲート脂質とを含有し;かつ
3)弱酸塩と、弱酸性の作用物質とを含有し、
前記親水性ポリマーコンジュゲート脂質はポリエチレングリコールで誘導体化された脂質であり、前記ポリエチレングリコールで誘導体化された脂質の脂質分子は、ジアシルホスファチジルコリン、スフィンゴミエリン、ジアシルホスファチジルエタノールアミン、ジアシルホファチジルセリン、ジアシルホスファチジルグリセロール、ジアシルホスファチデートおよびカルディオリピンからなる群より選択される、リポソーム組成物。
【請求項32】
前記親水性ポリマーコンジュゲート脂質は、0.5%~1%の範囲のモル百分比である、請求項31に記載のリポソーム組成物。
【請求項33】
前記弱酸塩は、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム又は酢酸カルシウムである、請求項31に記載のリポソーム組成物。
【請求項34】
前記弱酸塩は、少なくとも100mM;及び典型的には100mM~800mM;好ましくは200mM~800mM;最も好ましくは400mM~800mMの濃度である、請求項3133のいずれか1項に記載のリポソーム組成物。
【請求項35】
前記リポソームは、前記リポソーム内で水性の内部空間に封入された多塩基酸をさらに含む、請求項31に記載のリポソーム組成物。
【請求項36】
前記多塩基酸は有機の三塩基酸である、請求項35に記載のリポソーム組成物。
【請求項37】
前記多塩基酸は、クエン酸、コハク酸、酒石酸又はこれらの組み合わせで構成されている群から選択される、請求項35に記載のリポソーム組成物。
【請求項38】
前記多塩基酸は、50mM未満、好ましくは10mM未満、より好ましくは0.01mM~5mM、さらにより好ましくは0.1mM~3mM、及び最も好ましくは1.5mM~2.5mMの濃度である、請求項3537のいずれか1項に記載のリポソーム組成物。
【請求項39】
前記リポソーム組成物の、前記弱酸性の作用物質と脂質の量とのモル比は、少なくとも0.001:1である、請求項31に記載のリポソーム組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、治療剤、特に弱酸性の薬物を封入しているリポソームを調製するための、送達手段、キット又は方法に関する。
【背景技術】
【0002】
関連技術の説明
弱酸性の薬物の安定性又は該薬物の治療的機能に関連するその他の特性の改善のために、数多くの取り組みがなされてきた。プロスタグランジン(PG)のような弱酸性の薬物には、医薬としての使用について不都合がある。例えば、edex(登録商標)は、プロスタグランジンEのアルファ-シクロデキストリン形態(PGE-CD)としても知られるアルファ-シクロデキストリン包接複合体中に含有している、無菌で発熱性物質を含まない粉末である。これは水に良く溶け、エタノール、酢酸エチル及びエーテル中には事実上不溶である。再構成の後、活性成分であるアルプロスタジルはα-シクロデキストリン包接複合体から直ちに解離する。しかしながら、PGEのヒト体内における短い半減期(約30秒)及び過剰服用された場合のその重大な副作用により、制限された用量を高頻度で投与することが、PGE-CDの取扱において必要とされ続けている。その他の医薬調製物は、PGEが脂質ミクロスフェア中に溶解された懸濁液の形態であって、これは水中油型乳剤である。しかしながら、そのような調製物の保管時又は血漿中での安定性は十分ではない(特許文献1)。
【0003】
1つの態様では、従来の弱酸性の薬物の調製物の不便な取扱を改善するために、リポソーム配合物がPGのような弱酸性の薬物を送達するために適用される。特許文献2は、特定の脂質、スフィンゴ脂質の使用によるリポソーム分散液を開示した。しかしながら、この従来のリポソーム分散液は、PGの封入効率が保証されないパッシブローディングによって調製される。閉じ込めがなされていないPGは、その対象者への投与の際に過剰服用の問題をもたらすということもあり得る。
【0004】
別の態様では、血液中でのリポソームの凝集を防止するため、及び細網内皮系(RES)により捕捉されないようにするために、リポソームの表面がポリエチレングリコール(PEG)でコーティングされる。閉じ込められたドキソルビシンを含有している、ステルスリポソームとして知られるPEG誘導体化リポソームは、長時間循環するリポソームを用いた治療の後に達成された腫瘍組織薬物レベルの上昇により、前臨床研究において高い治療的効能を示した(特許文献3、特許文献4)。しかしながら、臨床で使用し易いように周囲温度で迅速な手順を用いて弱酸性の薬物をPEG誘導体化リポソーム中に装荷(ローディング)又は封入するために適用可能であると証明されているものはほとんどない。さらに、遊離の薬物によって引き起こされる過剰服用の問題、又は水性分散液中での薬物の分解の問題を回避するために、PEG誘導体化リポソームへの弱酸性の薬物(特にPG)の装荷において高い効率を有するリポソーム分散液がなおも必要とされている。
【0005】
さらに別の態様では、より高い効率で化学物質をリポソーム中に安定的に封入するために、特許文献5は、高い内側/低い外側のpH勾配を生成するため、及びカチオン促進性の沈澱生成又はリポソーム膜横断バリアを越える透過性の低さを達成するために、化学物質の塩を伴うプロトンシャトル機構を利用する。
【0006】
しかしながら、本出願人らが実施した実験データ(図1)に関連するリポソーム又はステルスリポソーム内に弱酸性の薬物を装荷するための従来の技法に基づくと、ステルスリポソームは周囲温度(25℃)では封入効率が不十分であり、プロスタグランジンの透過性を高めるために加熱ステップを必要とすることが実証される。該装荷手法は、温度をリポソームの転移温度より高く、典型的には60℃(これは一般に周囲温度よりも高い)より高く上昇させることを必要とする。温度上昇は、水性環境にさらされている場合にプロスタグランジンのような不安定な薬物の分解を加速し、よって長期保管における組成物の安定性を妨げる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許第4684633号明細書
【文献】米国特許出願公開第20020182248号明細書
【文献】米国特許第5013556号明細書
【文献】米国特許第5676971号明細書
【文献】米国特許第5939096号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この欠点を克服するために、本開示は、周囲温度でより高い封入効率を得るために、かつ弱酸性の薬物の持続放出に望まれる薬物動態及び好ましくは前述の問題を軽減又は除去する棚上保管中の安定性の強化をもたらすのに適している、ポリエチレングリコール誘導体化リポソームを含有するリポソーム組成物を調製するための方法及びキットを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は、弱酸塩の勾配を備えたリポソームを形成するための脂質の混合物中における親水性ポリマーコンジュゲート脂質の量の低減が、リポソーム中に酸性化合物を装荷及び保持するのに有用であるという発見に基づく。従って、本開示は、対象者の病気、疾患、状態又は症状の、診断、予後、治療又は予防に有用な様々な酸性化合物を送達するための、方法、キット又は組成物を提供する。
【0010】
本開示の1つの態様では、提供されるのは送達用ビヒクル(delivery vehicle)であって、前記送達用ビヒクルは水性媒体中のリポソームを含み、
該リポソームは内部空間を有し、かつ、
前記内部空間は、
1)水性であり、
2)脂質混合物から構成される膜によって水性媒体から分離されており、該脂質混合物は、1以上の脂質と、脂質混合物の総量に基づき3%未満のモル百分比(molar percentage)の親水性ポリマーコンジュゲート脂質(hydrophilic polymer conjugated lipid)とを含有し;かつ、
3)弱酸塩を含有する。
【0011】
本開示の別の態様では、提供されるのはリポソーム組成物を調製する方法であって、前記方法は、
水性媒体中で、脂質混合物から構成された膜によって水性媒体から分離された水性の内部空間の内側に封入された弱酸塩を含むリポソームを;
弱酸性の作用物質と十分な時間接触させ、それにより弱酸性の作用物質がリポソーム内に封入されるようになる、ステップを含み;
弱酸塩は、弱酸性の作用物質と対になるカチオンを有し、かつ脂質混合物は、1以上の脂質と、脂質混合物の総量に基づき3%未満のモル百分比の親水性ポリマーコンジュゲート脂質とを含有している。
【0012】
一群の実施形態において、親水性ポリマーコンジュゲート脂質は、脂質混合物の総量に基づき0.1%~3%の、好ましくは0.5%~3%の、より好ましくは0.5%~1%の範囲のモル百分比の、ポリエチレングリコールで誘導体化された(polyethylene glycol-derived)脂質である。
【0013】
一群の実施形態では、リポソームは、リポソーム内で水性の内部空間に封入された多塩基酸をさらに含み、それにより多塩基酸がリポソーム中の閉じ込められたプロスタグランジンを強力に保持する。一般に、多塩基酸は天然の酸又は合成の生体適合性の酸である。好ましくは、多塩基酸は有機の三塩基酸である。1つの実施形態では、多塩基酸は、クエン酸、コハク酸、酒石酸又はこれらの組み合わせで構成されている群から選択される。
【0014】
一群の実施形態では、水性媒体中でリポソームを弱酸性の作用物質と接触させるステップは、周囲温度で弱酸性の作用物質がリポソーム内に封入されるようになるのに十分な時間である条件の下で実施される。
【0015】
本開示のさらに別の態様では、提供されるのは、弱酸性の作用物質を含有するリポソーム組成物を調製するためのキットであり、前記キットは:
凍結乾燥ケーキを収容している1つのコンテナであって、前記凍結乾燥ケーキは弱酸性の作用物質を含有する、コンテナと;
リポソーム溶液を収容している別のコンテナであって、前記リポソーム溶液は水性媒体中のリポソーム含有する、コンテナと、
を含み、
リポソームは、脂質混合物から構成された膜によって水性媒体から分離された水性の内部空間の内側に封入された弱酸塩を含み、脂質混合物は、1以上の脂質と、脂質混合物の総量に基づき3%未満のモル百分比の親水性ポリマーコンジュゲート脂質とを含有する。
【0016】
1つの一般的な実施形態では、弱酸性の作用物質は脂肪酸に由来する生理活性脂質である。特に、弱酸性の作用物質は、アラキドン酸代謝物、例えばプロスタサイクリンを含むプロスタグランジン(PG)又はトロンボキサンであって、これは広範囲の身体機能、例えば平滑筋の収縮及び弛緩、血管の拡張及び収縮、血圧の制御、血小板凝集の抑制並びに炎症の調節に関与するホルモン様の物質である。プロスタグランジンは、高血圧症、血栓症、喘息、及び胃腸の潰瘍の治療においての、妊娠哺乳動物の分娩及び流産の兆候を誘発するための、並びに動脈硬化症の予防のための、医薬品又は治療化合物として開発されてきた。
【0017】
1つの一般的な実施形態では、弱酸性の作用物質は、プロスタグランジンA(PGA)、プロスタグランジンA(PGA)、プロスタグランジンE(PGE)、プロスタグランジンE(PGE)、プロスタグランジンFα(PGFα)又はプロスタグランジンFα(PGFα)である。
【0018】
1つの好ましい実施形態では、本開示による弱酸性の作用物質はプロスタグランジンE(PGE)(アルプロスタジルとしても知られている)又はその誘導体、例えば、限定するものではないが6-ケト-プロスタグランジンE、15-ケト-プロスタグランジンE、13,14-ジヒドロ-15-ケトプロスタグランジンE、又は16,16-ジメチル-6-ケトプロスタグランジンEであり、これは間欠性跛行患者のための治療に適している。間欠性跛行患者については、アルプロスタジルは患者の末梢血流量及び血管の透過性を増大させ、かつ血小板凝集を阻害することができる。PGEは、末梢循環内の血流量が不十分であることにより引き起こされる疼痛から患者を救済することができる。しかしながら、PGE-CD(アルファ-シクロデキストリン形態)を用いた従来の治療は、数週間にわたるBID(1日2回)という投薬を受ける患者にとっては不便である。別の態様では、PGEの半減期がヒト体内において短く(約30秒~10分間の幅がある)、かつその副作用は過剰投薬された場合に重篤である(血圧を低下させる)ので、制限された用量で高頻度であることがPGE-CD治療においては必然である。
【0019】
従来のプロスタグランジンのこの不便な治療を改善するために、本開示は、プロスタグランジンを含有するリポソーム組成物、特にPGEがリポソーム内に封入されているリポソームPGE配合物を調製するための、送達手段、キット又は方法を提供する。リポソーム配合物についての有益性のうちの1つは、広間隔での対象の疾患又は症状の治療のために、リポソーム組成物中のリポソームからPGEが徐々に放出されることを可能にすることである。同様に、遊離形態のPGEのみが副作用を引き起こしリポソーム形態は引き起こさないので、リポソームPGEの用量を、重篤な副作用の問題を伴うことなく高めることが可能である。本開示による、送達手段、キット及び方法は、患者での使用のためにより使いやすくかつ放出を制御した状態の(continence)生成物を提供する。
【0020】
本開示の目的のうちの1つは、2バイアル型キットの形態の、PGEのような弱酸性の作用物質を含有している使用準備済のリポソーム組成物を作り上げることである。より優れた臨床的使用法を達成するためには、周囲温度での短時間のリモートローディングの後の、より高い封入効率が必要とされる。より高い封入効率は、過剰投薬時に望ましからぬ副作用を引き起こす可能性がある遊離型の作用物質を低減する。他方、in vitroでの放出後に保持される作用物質がより多いこと(これは徐放性に相当する)も必要である。その上、本開示のそのような目的のためには、キットは4℃に少なくとも1年間の保管で安定でなければならず、かつ動物モデルで効能を示すべきである。それらの必要条件に基づき、主題の送達手段、キット及び方法のパラメータは前記必要条件を達成するために改変される。
【0021】
本開示の他の目的、利点及び新規な特徴は、添付の図面と併せたときに以降の詳細な説明から一層明白になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】従来通りに実行可能な量のポリエチレングリコールで誘導体化された脂質(6%)を備えたリポソーム中への、プロスタグランジンの封入効率を、周囲温度及び高温の条件下で比較して示す図である。
図2】実施例7によって得られたリポソーム組成物中の、ポリエチレングリコールで誘導体化された脂質の用量設定(titration)に対して、封入効率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
I.定義
上記及び本開示全体にわたって使用されるように、次の用語は、そうでないことが指摘されていないかぎり、次の意味を有すると理解されるものとする。
【0024】
本明細書中で使用されるように、単数形「1つの(a,an)」及び「その(the)」は、文脈からそうでないことが明白でないかぎり、複数の参照物を含む。
本明細書中の全ての数字は「約」で修飾されているものと理解することができる。
【0025】
≪リポソーム≫
本明細書中で使用されるような用語「リポソーム」は通常、小胞を形成している1以上の二分子層の膜によって外側の媒体から隔離された水性の内部空間を有することを特徴とする。リポソームの二分子膜は、典型的には脂質、すなわち空間的に分離された疎水性ドメイン及び親水性ドメインを含む合成又は天然由来の両親媒性分子、によって形成される。好ましくは、本開示の実施に際し、リポソームには、小さな一枚膜リポソーム(SUV)、大きな一枚膜リポソーム(LUV)、すなわち50nm超の直径を備えた一枚膜リポソーム、及び2以上の脂質二重層を有する多重層リポソーム(MLV)が挙げられる。
【0026】
一般に、リポソームは1以上の脂質を含んでいる脂質混合物から構成されている。脂質の例には、限定するものではないが、(i)中性脂質、例えばコレステロール、セラミド、ジアシルグリセロール、アシル(ポリエーテル)又はアルキルポリ(エーテル);(ii)中性リン脂質、例えばジアシルホスファチジルコリン、スフィンゴミエリン、及びジアシルホスファチジルエタノールアミン、(iii)アニオン性脂質、例えばジアシルホファチジルセリン(diacylphophatidylserine)、ジアシルホスファチジルグリクロール(diacylphosphatidylglycrol)、ジアシルホスファチデート、カルディオリピン、ダシルホファチジルイノシトール(dacylphophatidylinositol)、ジアシルグリセロールヘミスクシナート、ジアシルグリセロールヘミグルタラートなど;並びに(v)カチオン性脂質、例えばジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド(DDAB)、1,2,-ジアシル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)、及び1,2-ジアシル-sn-グリセロ-3-エチルホスホコリンが挙げられる。
【0027】
親水性ポリマーで誘導体化されたリポソームの典型例では、該リポソームは、少なくとも1つのリン脂質及び中性脂質の混合物と、親水性ポリマーコンジュゲート脂質とで構成される。本開示で使用されるリン脂質の例には、限定するものではないが、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルグリセロール(PG)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジン酸(PA)、ホスファチジルイノシトール(PI)、卵ホスファチジルコリン(EPC)、卵ホスファチジルグリセロール(EPG)、卵ホスファチジルエタノールアミン(EPE)、卵ホスファチジルセリン(EPS)、卵ホスファチジン酸(EPA)、卵ホスファチジルイノシトール(EPI)、大豆ホスファチジルコリン(SPC)、大豆ホスファチジルグリセロール(SPG)、大豆ホスファチジルエタノールアミン(SPE)、大豆ホスファチジルセリン(SPS)、大豆ホスファチジン酸(SPA)、大豆ホスファチジルイノシトール(SPI)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルコリン(DOPC)、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)、ジオレオイルホスファチジルグリセロール(DOPG)、ジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)、ヘキサデシルホスホコリン(HEPC)、水素化大豆ホスファチジルコリン(HSPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、パルミトイルステアロイルホスファチジルコリン(PSPC)、パルミトイルステアロイルホスファチジルグリセロール(PSPG)、モノオレオイルホスファチジルエタノールアミン(MOPE)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルコリン(POPC)、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE)、ジパルミトイルホスファチジルセリン(DPPS)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルセリン(DOPS)、ジミリストイルホスファチジルセリン(DMPS)、ジステアロイルホスファチジルセリン(DSPS)、ジパルミトイルホスファチジン酸(DPPA)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジン酸(DOPA)、ジミリストイルホスファチジン酸(DMPA)、ジステアロイルホスファチジン酸(DSPA)、ジパルミトイルホスファチジルイノシトール(DPPI)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルイノシトール(DOPI)、ジミリストイルホスファチジルイノシトール(DMPI)、ジステアロイルホスファチジルイノシトール(DSPI)、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0028】
≪親水性ポリマーコンジュゲート脂質≫
用語「親水性ポリマーコンジュゲート脂質」は、脂質分子に付着した、高度に水和した可撓性の中性ポリマーの長い鎖を備えた親水性ポリマーを指す。該親水性ポリマーの例には、限定するものではないが、分子量約2,000~約5,000ダルトンのポリエチレングリコール(PEG)、メトキシPEG(mPEG)、ガングリオシドGM、ポリシアル酸、ポリグリコール酸、アポリアクティック・ポリグリコール酸(apolyacticpolyglycolic acid)、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリメトキサゾリン(polymethoxazoline)、ポリエチルオキサゾリン、ポリヒドロキシエチルオキサゾリン、ポリヒドロキシプロピルオキサゾリン、ポリアスパルトアミド、ポリヒドロキシプロピルメタクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、ポリビニルメチルエーテル、ポリヒドロキシエチルアクリラート、セルロース誘導体、例えばヒドロキシメチルセルロース又はヒドロキシエチルセルロースなど、及び合成ポリマーが挙げられる。脂質分子の例には、限定するものではないが、(i)中性脂質、例えばコレステロール、セラミド、ジアシルグリセロール、アシル(ポリエーテル)又はアルキルポリ(エーテル);(ii)中性リン脂質、例えばジアシルホスファチジルコリン、スフィンゴミエリン、及びジアシルホスファチジルエタノールアミン、(iii)アニオン性脂質、例えばジアシルホファチジルセリン(diacylphophatidylserine)、ジアシルホスファチジルグリクロール(diacylphosphatidylglycrol)、ジアシルホスファチデート、カルディオリピン、ダシルホファチジルイノシトール(dacylphophatidylinositol)、ジアシルグリセロールヘミスクシナート、ジアシルグリセロールヘミグルタラートなど;並びに(v)カチオン性脂質、例えばジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド(DDAB)、1,2,-ジアシル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)、及び1,2-ジアシル-sn-グリセロ-3-エチルホスホコリンが挙げられる。
【0029】
1群の実施形態では、親水性ポリマーコンジュゲート脂質はポリエチレングリコールで誘導体化された脂質であって、例えば、限定するものではないが:PEGの分子量が約2,000ダルトンであるDSPE-PEG(本明細書中では以下DSPE-PEG2000)が挙げられる。
【0030】
≪封入≫
用語「封入された(encapsulated)」又は「閉じ込められた(entrapped)」化合物、物質又は治療剤とは、リポソームに関連付けられているか、又はリポソームの内部区画内に少なくとも一部が隔離されている、化合物、物質又は治療剤を指す。用語「封入効率(encapsulation efficiency)」とは、遊離形態の薬物とリポソーム形態の薬物との合計に対するリポソーム形態の薬物の量の比率を指す。1群の実施形態では、封入効率は、リポソーム中に封入されたものの量を、リポソームに封入されていないもの及びリポソーム中に封入されたものの量の合計で除算したものに基づいて計算されるが、これは当分野で既知の様々な方法を使用して決定される。
【0031】
≪弱酸塩≫
用語「弱酸塩」は、弱酸の共役塩基を指す。本明細書中で使用されるように、弱酸塩は弱酸の共役塩基及び任意の付随するカウンターイオンの両方を指す。好ましくは、本開示で使用される弱酸塩は高濃度で水に可溶である。カウンターイオン又はカチオンは、実質的に脂質膜に不浸透性である(約10-12~10-11cm/秒未満の透過係数Pを有している)べきである。カウンターイオンは一価であっても多価であってもよい。本開示で使用される典型的な弱酸には、カルボキシル酸、例えばギ酸、酢酸、プロパン酸、ブタン酸、ペンタン酸、及びこれらの置換誘導体が挙げられる。本開示で使用される典型的なカチオンには、ナトリウム、カリウム、アンモニウム及びカルシウムが挙げられる。好ましくは、カルシウムがカチオンとして使用される一方でプロスタグランジンが本開示による弱酸性の作用物質として選択される。
【0032】
≪多塩基酸≫
用語「多塩基酸」は弱い有機多塩基酸を指す。本開示で使用される例示的な多塩基酸には、典型的には1~20mMの濃度の、クエン酸、酒石酸、コハク酸、アジピン酸及びアコニット酸が挙げられる。
【0033】
好ましくは、本開示で使用される多塩基酸は、3mM未満;より好ましくは2.5mM未満;最も好ましくは2.3mM未満の濃度のクエン酸である。特定の実施形態では、クエン酸の濃度は1.5~2.5mMである。
【0034】
≪弱酸性の作用物質≫
本明細書中で使用されるような用語「弱酸性の作用物質」は、リポソーム内に装荷するように意図され、さらには少なくとも1つのカルボキシ基を含みかつ両親媒性である、化合物を指す。該作用物質のpKaは典型的には約5未満である。特定の実施形態では、作用物質のpKaは約4.85である。該作用物質はさらに、カルボキシの機能に加えて1以上の官能基を含んでもよいが、ただしそのような官能基の存在が該作用物質の酸性度をその官能基化されていない相対物の酸性度から著しく変化させるべきではない。作用物質は、そのプロトン化形態からその任意の塩形態までの両方の化合物を指す。作用物質の塩には任意の薬学的に許容可能なカウンターイオンが付随してもよい。
【0035】
用語「両親媒性の」は本明細書中において、極性及び無極性両方のドメインを含んでおり、よって適切な条件下で通常は非浸透性の膜に浸透する能力を有している化合物を表すために使用される。
【0036】
用語「両親媒性の」は本明細書中において、疎水性(無極性)基及び親水性(極性)基の両方を有している分子であって、かつ下記すなわち、pKa:該分子が、約3.0より上、好ましくは約3.5より上、より好ましくは約3.5~約6.5の範囲のpKaを有していること;分配係数:pH7.0であるn-オクタノール/バッファー(水相)系において、該分子が約-3~約2.5の範囲のlogDを有していること、のうちのいずれか1つを特徴としている分子を表すために使用される。
【0037】
≪凍結乾燥ケーキ≫
用語「凍結乾燥ケーキ」は、弱酸性の作用物質を含有している凍結乾燥生成物であって、例えば再構成時に元の投薬形態の特徴を維持していることを含めた望ましい特徴、例えば溶液特性;及び懸濁液の粒度分布;及び再構成時の等張性を有しているものを指す。
【0038】
II.装荷のためのリポソーム溶液の調製
本開示は、弱酸塩の勾配であって該勾配を越えて弱酸性の作用物質を装荷するための勾配を備えたリポソームを有している、リポソーム溶液を提供する。該リポソーム溶液を調製するための一般法を下記に説明する。
【0039】
A.リポソームの形成
本開示に従ってリポソーム溶液を形成するのに適した、水性の内部空間内に閉じ込められた弱酸塩を備えたリポソームは、様々な技法によって調製可能である。本開示のリポソームを作製するのに適した方法の例には、溶媒注入、逆相蒸発、超音波処理、マイクロ流体化、界面活性剤透析、エーテル注入、及び脱水/再水和が挙げられる。典型的な手法では、脂質混合物がエタノールに溶解され、酢酸ナトリウム又は酢酸カルシウムのような弱酸塩を含有している水和バッファーに注入される。
【0040】
典型的には、リポソームの膜は脂質混合物で構成されており、該脂質混合物はリン脂質又は少なくとも1つのリン脂質と中性脂質との混合物、及び親水性ポリマーコンジュゲート脂質を含んでいる。好ましい実施形態では、脂質混合物は、1以上のリン脂質及びコレステロール、並びに親水性ポリマーコンジュゲート脂質で構成されており、該親水性ポリマーコンジュゲート脂質は、脂質混合物の総量に基づいて3%未満のモル百分比のDSPE-mPEGである。一群の実施形態では、コレステロールのモル百分比は脂質混合物の総量に基づいて10%~40%の幅がある。一群の実施形態では、リン脂質はDSPC、DMPC、DPPC及びDOPCから選択される。別の群の実施形態では、リン脂質、コレステロール及びDSPE-mPEGの量は3:2:0.045のモル比である。
【0041】
本開示に適した水和バッファーは、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム又は酢酸カルシウムを含有する。一群の実施形態では、水和バッファーは酢酸ナトリウムを含有し、かつ好ましくは、少なくとも100mM;及び典型的には100mM~800mM;好ましくは200mM~800mM;最も好ましくは400mM~800mM、の濃度である。別の群の実施形態では、水和バッファーは好ましくは200mM~400mM;より好ましくは250mM~350mMの濃度で酢酸カルシウムを含有する。水和バッファーは、酸又は塩基の添加によりpHが4.0~9.0、好ましくは7.5~8.5、及び最も好ましくは8.2に調整される。別例の実施形態では、水和バッファーがクエン酸のような多塩基酸をさらに含有する一方で、好ましいpHは6.5に調整され、かつその保持されたPGEは、in vitroの放出アッセイの後に、多塩基酸を含まないものと比較して相対的に維持可能であった。
【0042】
内側から外側へのプロトンシャトルとして機能しながら、内側区画と外側区画との間に分布することが可能となっている、弱酸性の作用物質及び弱酸については、弱酸性の作用物質の保持はリポソームの内部空間の様々な構成要素の間で変化してもよい。弱酸性の作用物質の保持を調節するためには、水和バッファーは多塩基酸を含有するように調整される。しかしながら、水和バッファーへの多塩基酸の添加はリポソームの水性内部空間のpHを低下させ、封入効率の望ましからぬ低下を引き起こす。好ましい実施形態では、水和バッファーは多塩基酸を50mM未満、好ましくは10mM未満、より好ましくは0.01mM~5mM、さらにより好ましくは0.1mM~3mM、及び最も好ましくは1.5mM~2.5mMの濃度で含有する。
【0043】
リポソームの大きさは、低圧押出に使用される膜の細孔径、又はマイクロ流体化若しくは任意の他の適切な方法で利用される圧力及び流路の数を制御することにより、制御可能である。本開示によるリポソームは、約30nm~約200nm、より好ましくは約50nm~約150nmの平均径を有する。
【0044】
B.弱酸塩の勾配を確立すること
寸法調整の後、リポソームの外部の水和バッファーは、弱酸塩、例えば、酢酸ナトリウムの、内側がより高い濃度勾配を形成するように処理される。これは、様々な技法によって、例えば(a)水性媒体の希釈、(b)水性媒体に対する透析、(c)分子篩クロマトグラフィー、又は(d)高速遠心分離及び遠心分離処理されたリポソームの水性媒体中への再懸濁、によって行うことが考えられ、ここで水性媒体は身体状態及び医薬としての投与に適したものである。
【0045】
一般的な場合、別法では外部のバッファーとして使用される、水性媒体は、所望の浸透圧モル濃度を維持するためのバッファー及び溶質を含有し、かつpHを4~7の範囲、好ましくは4~5、及び最も好ましくは5.5にpHが調整される。例となるバッファーは、5~50mMの範囲、及び好ましくは20mMの濃度でpH4~7の、ヒスチジン、MESなどである。例となる溶質は、生理食塩水を形成するための強酸の塩、又は単糖若しくは二糖(mono- or di-sacchride)であって例えばスクロース、グルコース、マンニトール、ラクトース若しくはマルトースなどである。
【0046】
III.凍結乾燥ケーキの調製
本開示で使用される凍結乾燥ケーキは、様々な技法によって調製可能である。典型的には、凍結乾燥プロセスは3つの段階すなわち:凍結、一次乾燥、及び二次乾燥、で構成される。凍結乾燥配合物の設計は、医薬品活性成分(API)、本明細書中では弱酸性の作用物質の要件、及び意図される投与経路に依存する。別例の実施形態では、弱酸性の作用物質を含有しているストック溶液が本開示内容に適用可能であり、かつ該溶液は、有機溶媒、例えばtert-ブチルアルコール(TBA);凍結保護剤;及び弱酸性の作用物質、で構成されている。該ストック溶液は、前記の凍結乾燥ケーキを得るために凍結乾燥プロセスに供される。例となる凍結乾燥ケーキは、1.2%~1.5%の範囲の水分、並びに重量比で0.0001:1.0~0.01:1.5、好ましくは0.005:1.25、より好ましくは0.0526:125の比率の量の、弱酸性の作用物質及び凍結保護剤を含有する。特定の実施形態では、凍結保護剤はマルトースである。
【0047】
IV.弱酸性の作用物質を含有するリポソーム組成物を調製するための方法
弱酸性の作用物質を封入している、親水性ポリマーで誘導体化されたリポソームは、本開示による方法によって調製される。
【0048】
典型的な手順において、リポソーム組成物は、本開示によるリポソーム溶液を、弱酸性の作用物質を含有している凍結乾燥ケーキと、弱酸性の作用物質がリポソーム内に封入されるようになる条件で接触させることにより調製され、該条件には、周囲温度、典型的には18℃~30℃で、20分間より短い時間であることが含まれる。膜によって水性媒体から分離された水性の内部空間に封入されている弱酸性の作用物質を含有しているリポソームは、このようにして得られ、かつ薬学的又はその他の適用において使用準備済みである。
【0049】
一般に、リポソーム組成物は、リポソーム溶液と凍結乾燥ケーキとを、所定の薬物対脂質比率で接触させることにより得られる。ここで薬物対脂質比率とは、凍結乾燥ケーキ中の弱酸性の作用物質の量と、リポソーム溶液中の脂質の量との比率を指す。薬物対脂質の例示のモル比は、0.001:1~0.05:1である。典型的には、PGE:脂質の比率は20μg:5μmol~10μg:20μmolの範囲にある。
【0050】
一群の実施形態では、条件には、限定するものではないが、弱酸性の作用物質が周囲温度でリポソーム内に封入されるようになるのに十分な時間が含まれ、その時間は少なくとも5分、例えば10分、60分又は24時間であり;好ましくは少なくとも10分である。より好ましくは、条件には、弱酸性の作用物質が、一般に18℃~30℃の範囲にある周囲温度で、リポソーム内に封入されるようになるのを可能にすることが含まれる。
【0051】
結果として生じるリポソーム組成物は、少なくとも85%;及び任意選択で少なくとも90%、95%、又は97%;好ましくは95~99%の、封入効率を有する。
【実施例
【0052】
本開示について、以下の具体的で非限定的な実施例を参照しながらここで一層詳細に説明する。
実施例1
凍結乾燥ケーキを調製するためのプロセス
凍結保護剤を温水(50~60℃)に溶解し、次いで40℃未満まで冷却して凍結保護剤溶液を形成した。プロスタグランジンEを、tert-ブチルアルコール(TBA)であって該溶剤を40℃で液化するために予め暖めているものに溶解し、次に凍結保護剤溶液に移して混合し、プロスタグランジン溶液を形成した。該プロスタグランジン溶液を無菌ろ過に供して6Rバイアルに充填し、続いて凍結乾燥してPGEを含有する凍結乾燥ケーキ(ここではアルプロスタジルケーキとも称される)を形成した。凍結乾燥は、以下の表Iに記されるようなパラメータを備えたプログラムの下で棚式凍結乾燥機を用いて実施した。
【0053】
【表1】
【0054】
実施例2
様々な構成要素を用いたアルプロスタジルケーキの調製
本開示に従ってアルプロスタジルケーキを形成するための適切な配合物を見出すために、1バイアル当たり52.6μgのPGEをアルプロスタジルケーキ用に提案し、125mgの凍結保護剤を本発明者らの配合物に使用した。
【0055】
PGEを配合物中のAPIとして使用したので、水不溶性のPGEを溶解するために適切な溶媒が必要であった。PGEはtert-ブチルアルコール(TBA)に可溶である。PGEを溶解してプロスタグランジン溶液を形成するためにTBAを選択した。
【0056】
PGEは脱水を経てプロスタグランジンAを形成する。PGEの保存寿命を長くするために、凍結乾燥を使用して分解を最小限にする極めて低いレベルまで含水量を低減した。候補配合物のスクリーニングは、40℃で加速した安定性試験の結果を基にした。
【0057】
1バイアル当たりの凍結保護剤及びPGEの含有量を上記のように固定したので、その他の凍結乾燥パラメータ、例えば含水量、TBAの添加又はその他などを表IIに記載されるようにさらに変化させ、以降の実施例に記載されるようにして調査した。
【0058】
【表2】
【0059】
実施例2A
プロスタグランジン溶液中の含水量の効果
最初に、TBAの百分比を固定して、凍結乾燥前の水の百分比の効果を、表IIIに記したような配合物をアルプロスタジルケーキの形成に使用することにより調査した。
【0060】
【表3】
【0061】
表IVに示されるように、全ての配合物が、40℃で6週間の後に90%のPGEが残存しているという基準を満たし、この残存含量率はプロスタグランジン溶液中の水の百分比が減少するにつれて減少した。これは、(水の百分比を増大させることによる)空間の増大によってAPIが水と接触する機会が低減することで、アルプロスタジルケーキの安定性を改善することができることを実証した。更に、配合物Pc029及びPc030の間に有意な差が無いことから、空間がある一定の値まで増大するにつれて、API及び水が十分に大きな間隔で隔てられるということが実証された。凍結乾燥の時間を最小限にするためには、最も少ない含水量の配合物が有望な候補であった。配合物Pc030を配合物Pc029の代わりに選択した。
【0062】
【表4】
【0063】
実施例2B
プロスタグランジン溶液中の溶媒含有量の効果
次に、PGE溶液中のTBAの含有量の効果について、表Vに記したような配合物をアルプロスタジルケーキの形成に使用することにより調査した。
【0064】
【表5】
【0065】
表VIに示されるように、TBA含有量の増大はPGEの分解を減速させた。これは凍結ステップにおける結晶化の相違から引き起こされるものと示唆され、低いTBA含有量の群における結晶様のものと比較して高いTBA含有量の群では疎性の(loose)見かけのケーキが観察され、このことは、様々なTBA含有量の群において結晶化が様々であることを示した。結晶条件の相違はPGEの安定性に影響を及ぼし、かつ観察された結果をもたらした。
【0066】
【表6】
【0067】
実施例2C
プロスタグランジン溶液中の凍結保護剤含有量の効果
最後に、表VIIに特定されるような様々な凍結保護剤の効果についても、表VIIに記したような配合物をアルプロスタジルケーキの形成のために使用することにより調査した。
【0068】
【表7】
【0069】
表VIIIに示されるように、凍結保護剤としてマルトースを用いたアルプロスタジルケーキが最も遅い分解速度を示した(Pc036)。他方、凍結保護剤としてスクロースを用いたアルプロスタジルケーキ(Pc035)はすべての配合物中で最悪であった。ここに示された種類の凍結保護剤は、凍結乾燥中の全配合物の間の結晶構造の相違の結果として、アルプロスタジルケーキ中のPGEの安定性を変化させたということも考えられる。
【0070】
【表8】
【0071】
結果
上記の結果に基づき、プロスタグランジン溶液中の、より高い含水量、より高いTBA含有量、及び凍結保護剤として使用するマルトースを、ケーキの安定性を改善するために選択した。
【0072】
Pc030の安定性を、40℃加速安定性試験の結果に基づいてさらに評価し、6週間のインキュベーション後にわずか4%の分解しか観察されなかった。配合物Pc030を、ラクトース一水和物を用いて最も遅いPGE分解速度について選択した。ラクトース一水和物を、以降の実施例における凍結保護剤として選択した。従って、Pc030をアルプロスタジルケーキのために適切な配合物として選択した。
【0073】
【表9】
【0074】
実施例3
リポソーム溶液を調製するための一般プロセス
リポソームは、HSPC、コレステロール、及び任意選択の1,2-ジステアロイル-ホスファチジルエタノールアミン-メチル-ポリエチレングリコールコンジュゲート(DSPE-mPEG)を用いて構成された(composted)。リポソーム粒子を形成するために、脂質を最初にエタノール中で混合及び溶解し;次いで水和バッファー中に注入したが、該水和バッファーは、7を超えるpH値で酢酸ナトリウムのような弱酸塩を含有する。脂質分子の両親媒性により、リポソーム粒子が自然に形成されて水和バッファー中に懸濁された。
【0075】
リポソーム粒子形成の後、押出法によって粒子の大きさを操作したが、同法ではリポソーム粒子を、ポリカーボネート膜を強制的に通過させて、80nm~180nmの範囲の平均直径を備えたリポソームを得る。複数回の通過処理の後、リポソーム粒子の大きさはサブマイクロメートルのレベルに低下し;かつリポソーム粒子は初期の粒子よりも安定であった。
【0076】
リポソームがその中に懸濁している外部の水和バッファーを、外部バッファーを用いた接線フロー濾過(TFF)を使用する透析濾過によって置換して、リポソームを懸濁している水性媒体を形成したが;さらに、リポソーム内側のアセタート分子のうちの一部を、このプロセスの間にリポソーム二分子層を貫通させて除去することも可能であった。これによりリポソーム膜を介したアセタート/pH勾配を生成することが可能であったが;そのような勾配はPGEの能動的装荷(すなわちリモートローディング)にとって不可欠であった。
【0077】
従って、PGEのリモートローディングのためのリポソーム溶液を調製した。次の実験を、PGEの高い封入効率及び徐放性を達成するための適切な配合パラメータ、プロセスパラメータ、及びPGEリモートローディングパラメータを調査するために設計した。
【0078】
封入効率は以下のステップを含む一般的なプロセスによって決定した。リポソーム形態及び遊離形態のPGEを自己パッキング式樹脂カラムによって分離した:最初に、バイオラッド(Bio-Rad)のカラム中にToyopearl(登録商標)HW-55F樹脂を備えたカラムを準備した。試料を調整済みのカラムに載せ、リポソームPGEのフラクションを収集するために通常生理食塩水によって溶出を行い、続いて遊離形態のPGEのフラクションを収集するために水を用いたカラムの溶出を行った。リポソーム形態及び遊離形態のPGE両方の含有量をHPLCによって分析した。封入効率は、リポソーム形態のPGEの量を、リポソーム形態及び遊離形態のPGE合計量で除算して算出した。
【0079】
in vitroの放出アッセイを、以下のステップを含む一般的なプロセスによって実施した。PGEが装荷されたリポソームを、該リポソームからのPGEの放出を誘発及び加速するために、酢酸ナトリウムバッファー又はヒト血漿(実施例6A)と混合した。放出アッセイ後の封入効率を、上記記載に従って、保持されたPGEとして決定した。
【0080】
実施例4
リポソーム溶液の調製
リポソーム溶液は、PGE装荷の手順、例えばリポソーム溶液を、実行するために(to conduct)凍結乾燥ケーキ(例えば先述のようなアルプロスタジルケーキ)又は溶液の形態のアルプロスタジル(例えばPGE溶液)と接触させ;そしてリポソーム組成物を形成するステップなどにおける、脂質、水和バッファー、水性媒体及びその他のパラメータについての記述を含んでいる、実施例3に記載されたようなプロセスに従って調製した。装荷時間、薬物と脂質との比率、及び得られる最終的な封入効率などの他のパラメータは、表Xに示されている。
【0081】
【表10】
【0082】
【0083】
実施例5
封入効率を改善するための様々な条件下でのリポソーム溶液の調製
より高い封入効率とは、遊離形態のPGEの最少化を意味する。最終的に得られるリポソーム組成物中のPGE装荷後のPGEの封入効率を改善することを優先した。リポソーム膜の両側の外側相及び内側相を、本実施例においてPGE装荷のための高い推進力を形成するために、水和バッファー及び水性媒体を変更することにより改変した。
【0084】
実施例5A
水和バッファーのpH改変
水和バッファーのpH値は、リポソームの内部pHを決定付けた。内部のアセタートが外へ染み出ることにより透析濾過プロセスの後に内部pHが上昇することもありうるが、残った水和バッファーのpHは、PGE装荷のためのリポソーム膜を介した勾配に大きく寄与する。
【0085】
アセタートを含有する水和バッファーによる内部pHの、封入効率に対する影響を評価し、表XIに概要を示した。
【0086】
【表11】
【0087】
封入効率は、薬物と脂質との比率が20μg:10μmol、及び5分間の60℃インキュベーションという同一の装荷条件の下でアッセイした。
その結果は、より高いバッファーpHほどより良好な封入効率を有していたことを示している。この結果は、リモートローディング理論:より大きなpH勾配を、より良好な封入効率に関連付けた。水和バッファーのpH値を8.2に決定した。
【0088】
実施例5B
水性媒体のpH改変
水性媒体のpH値はリポソームの外部pHを決定し、かつリポソーム膜を介したpH勾配に影響を及ぼすことによりPGE装荷にも寄与した。pHをそのレベルに調整することによる、20mMの濃度でヒスチジンを含有する水性媒体のpHの影響を、表XIIに示す。
【0089】
【表12】
【0090】
封入効率は、以下の装荷条件すなわち薬物と脂質との比率が10μg:5μmol、及び30分間の20℃インキュベーションの下でアッセイした。
水性媒体のpHはリポソーム膜を介したpH勾配を決定するので、6.0を超える外部pHは封入効率の劇的な低下をもたらした。水性媒体のpH値を5.5に決定した。
【0091】
実施例5C
水和バッファーの濃度改変
水和バッファー中の弱酸塩の濃度は封入効率に影響を及ぼしうる別の要因であった。
【0092】
表XIIIに示されるような弱酸塩の濃度のE.E.に対する影響を評価して表XIIIに概要を示した。
【0093】
【表13】
【0094】
封入効率を、以下の装荷条件すなわち:薬物と脂質との比率が10μg:5μmol、及び30分間の25℃インキュベーションの下でアッセイした。
E.E.は酢酸ナトリウムの濃度が400mMを超えるとプラトーに達した。より高いアセタート濃度は封入効率を変化させなかった。しかしながら、より高いアセタート濃度は、PGE装荷のためのアセタート勾配の形成にとって依然として不可欠なままであった、というのも低いアセタート濃度ではより低いE.E.が示されたからである。
【0095】
弱酸塩の濃度を400mM酢酸ナトリウムに決定した一方で、これはPGEの装荷に十分な勾配を生成した。
結果
実施例5A~5Cに従い、水和バッファー及び水性媒体の性質を封入の手法を使用して決定した。pH8.2で400mMの酢酸ナトリウムを含有する水和バッファー、及びpH5.5で20mMのヒスチジンを含有する水性媒体が、所望の封入効率を示した。
【0096】
実施例6
徐放性を改善するための様々な条件下でのリポソーム溶液の調製
本開示による目標のリポソーム組成物には、ヒト体内における薬物放出を制御するための徐放性が必要であった。よって、以下の改変点について、所望の配合物を選択するために封入効率だけでなくin vitroでの放出アッセイによっても評価した。
【0097】
保持されたPGEの百分比は、前述の実施例に記載されたような方法で決定した。
実施例6A
水和バッファー中のカチオンの改変
水和バッファー中の弱酸塩のカチオンは、PGE装荷の後にアニオンとしてのPGEと相互作用した。そのような相互作用はPGEの放出を遅延化するかもしれない。様々な酢酸塩を水和バッファー中の弱酸塩として使用し、封入効率アッセイ及びヒト血漿を用いたin vitro放出アッセイによって評価した。
【0098】
【表14】
【0099】
封入効率を、以下の装荷条件すなわち:薬物と脂質との比率が20μg:10μmol、及び5分間の60℃インキュベーション、の下でアッセイした。in vitroでの放出は、被検体をヒト血漿と1:1の比率で混合し、次いで37℃で2時間インキュベートすることにより行なった。
【0100】
酢酸ナトリウム及び酢酸カリウムのリポソームだけが高い封入効率及び血漿中放出後のPGE保持の両方を示した。さらなる調査では、表XVに示されるようにこれら2つの選択された配合物に注目した。
【0101】
【表15】
【0102】
封入効率を、以下の装荷条件すなわち:薬物と脂質との比率が20μg:10μmol、及び5分間の60℃インキュベーション、の下でアッセイした。in vitroでの放出は、被検体をヒト血漿と1:1の比率で混合し、次いで37℃で1時間インキュベートすることにより実施した。
【0103】
酢酸カリウムは血漿中放出アッセイにおいて所望の放出プロファイルを示したが、その当初の封入効率は、弱酸塩として酢酸ナトリウムを用いた群よりもはるかに低かった。よって、酢酸ナトリウムを水和バッファー中の弱酸塩として選択した。
【0104】
実施例6B
水和バッファー中へのクエン酸の添加
実施例5に従い、水和バッファーはpH8.2の400mM酢酸ナトリウムとして決定された。しかしながら、高いpHは脂質の不安定性をもたらす可能性がある。脂質の不安定性を回避するために、かつ装荷のためのより大きなアセタート勾配を確立しながら、表XVIに示されるような様々な濃度のクエン酸添加の影響について評価した。
【0105】
【表16】
【0106】
封入効率を、以下の装荷条件すなわち:薬物と脂質との比率が10μg:5μmol、及び30分間の20℃インキュベーション、の下でアッセイした。
クエン酸の添加は封入効率を低下させることが実証された。しかしながら、E.E.の減少(decease)は、PGEの装荷には不利である劇的なpH低下に起因する可能性もある。
【0107】
よって、表XVIIに示されるようなpH6.5を維持するクエン酸添加の効果について、封入効率(E.E.)及びin vitroでの放出(IVR)によってさらに評価した。
【0108】
【表17】
【0109】
封入効率を、以下の装荷条件すなわち:薬物と脂質との比率が10μg:5μmol、及び30分間の20℃インキュベーション、の下でアッセイした。IVRは、1:1の比率で、8.1%スクロースバッファー(pH5.5)を伴う15mMのNaAcと混合され、次いで25℃で30分間インキュベートされるようにして、実施した。
【0110】
結果によれば、水和バッファー中へのクエン酸の添加は封入効率を高めただけでなく、IVR後のリポソーム内部により多くのPGEを保持した。従って、水性媒体はこのように、pH6.5で1.5mM~2mMの範囲の濃度のクエン酸を伴う400mMの酢酸ナトリウムに決定した。
【0111】
実施例6C
薬物と脂質との比率の改変によるリポソーム組成物の調製
表Xに従って調製したリポソーム溶液をそれぞれ、以下に表XVIII(a)に示すような薬物と脂質との比率で、PGEを含有する凍結乾燥ケーキ又はPGE溶液と接触させて、対応するリポソーム組成物を形成した。PGE溶液は、PGEの粉末を適正量のエタノールに溶解して5mg/mLの濃度のPGEストック溶液を得ることにより調製した。本開示によるリポソーム組成物を調製するために、リポソーム溶液及びPGEストック溶液を9%スクロース溶液中で目標濃度まで希釈し;次いで、リポソーム中へのPGE装荷のために表記の条件でインキュベートした。
【0112】
【表18】
【0113】
初期の配合物では、薬物と脂質との比率を予め10μg:5μmolとした。封入効率をさらに高め、かつリポソームの放出特性を保持するために、PGE装荷における薬物と脂質との比率を改変し、PL130、PL156及びPL157のE.Eの結果について表XVIII(b)のように概要を示した。
【0114】
【表19】
【0115】
封入効率は、以下の装荷条件すなわち:30分間の25℃インキュベーション、の下でアッセイした。
薬物と脂質との比率がより小さいほど封入効率を高めた。その後、さらに試験したのは、25℃で10分間のインキュベーション条件における、薬物と脂質との比率が10μg:10μmol及び10μg:20μmolのリポソームであった。
【0116】
【表20】
【0117】
封入効率は、以下の装荷条件すなわち10分間の25℃インキュベーションの下でアッセイした。IVRは、1:1の比率で、8.1%スクロースバッファー(pH5.5)を伴う15mMのNaAcと混合するようにして実施し、次いで25℃で15分間インキュベートした。
【0118】
薬物と脂質との比率を小さくすると、封入効率及びIVR後のE.E.の両方がわずかに高くなった。しかしながら、10μg:20μmolとする薬物と脂質との比率は極めて低かった。したがって、10μg:10μmolの、薬物と脂質との比率に決定した。
【0119】
実施例7
mPEG含有量の調節
ホスホコリン及びコレステロールの量を3:2のモル比に固定したが、これはこの種の組成が最も優れた凝縮した(condense)脂質配置構成をもたらすからである。ヒト体内におけるリポソームクリアランス又はリポソーム凝集を回避するための表面負電荷を生成したDSPE-mPEGに関して、表XXに示されるようにPGE装荷及びIVRが変化した。
【0120】
【表21】
【0121】
封入効率は、以下の装荷条件すなわち:薬物と脂質との比率が10μg:10μmol、及び10分間の25℃インキュベーション、の下でアッセイした。IVRアッセイについては、1時間のPGE装荷(平衡装荷(equilibrium loading)に関して)の後、得られたリポソーム溶液を75mM酢酸ナトリウムの放出バッファーと比率9:1(v/v)で混合し、37℃で15分間インキュベートした。
【0122】
表XX及び図2に示されるように、0.9%~3%のDSPE-mPEGモル比(すなわちHSPC:コレステロール:DSPE-mPEG=3:2:0:045~3:2:0.15)では、10分間のインキュベーションで最も高い封入効率が示された。さらに、保持されたPGEの量は、IVRアッセイ後のこれらの配合物の中で上位に位置した。最終的な脂質組成を、HSPC:コレステロール:DSPE-mPEG=3:2:0:045の比率で脂質を含有するものと決定した。
【0123】
結果
実施例6A~6C及び7によれば、リポソーム溶液の配合は、表XXIに示されるような、HSPC:コレステロール:DSPE-mPEG=3:2:0.045の脂質組成;pH6.5で400mMの酢酸ナトリウム及び2mMのクエン酸を含有する水和バッファー;並びに10μg:10μmolの薬物と脂質との比率、として改変された。
【0124】
【表22】
【0125】
そのような配合物は、周囲温度で短時間(10分)の装荷の後に高いPGE封入効率(約90%)を示し;かつIVRアッセイにおいて他の配合物よりも多くのPGEを保持した。
【0126】
実施例8
血流量分析の使用によるPGE配合物の効能のin vivo評価
リポソーム組成物PL157及びPL194の効能を、後述のような血流量検査により遊離薬物(PEG-CD)で処置された動物と比較した。
【0127】
血流量検査
ウィスター(Wistar)ラットをイソフルランで麻酔し、ヒーティングパッド(36.5℃)上で体温を維持した。動物が深く麻酔されたとき、右の尾側肢の第5指の指球の皮膚微小血管の血流量を、3ug/kgのPGE-CD又はリポソーム組成物の静脈内投与の5分前にレーザードップラー流量計(MoorVMS LDF1、ムーア・インストルメンツ株式会社(Moor Instruments Ltd))によって記録し、次いで投薬後の応答をモニタリングするためにさらに20分間連続的に記録した。流量値の生データをmoorVNS-PCV2.0のソフトウェアによって記録し、データ処理のためにExcel(登録商標)ファイル(Microsoft(登録商標)ソフトウェア)にエクスポートした。
【0128】
血流量データを標準化してグラフ上にプロットし、パラメータBF、BFmax及びAUC%を算出したが、ここでBFはベースラインの平均血流量を表わし;BFmaxは投薬後の最大血流量を表わし;AUC%は、ベースラインのAUCと比較した、0~20分の血流量の曲線下面積の百分比を表わす。
【0129】
結果
表XXII及び表XXIIIに示されるように、PL194及びPL157はいずれもPGE-CDと比較してより高いBFmax/BF及びより大きなAUC比率をもたらした。
【0130】
PL194は、PL157と比較してわずかに低いBFmax/BF比及びより小さなAUC比率をもたらした。
【0131】
【表23】
【0132】
アルプロスタジルケーキ及びリポソーム溶液両方の配合物を上記のようにして調査した。配合物は、安定性試験及び動物実験に反映される所望の性質を処理した(processed)。アルプロスタジルケーキについては、配合物Pc030又はPc036は数ある中でも特に好ましい安定性を示した。リポソーム溶液については、配合物PL194は周囲温度条件にて短い装荷時間内で高い封入効率を示し;同様に、保持されたPGEはIVR検査において他の配合物よりも多かった。
【0133】
示された血流量の結果のように、本開示によるリポソーム組成物は、従来のプロスタグランジン組成物と比較して改善された効能を確かに獲得している。
本開示の数多くの特性及び利点について、構造の詳細及び本開示内容の特徴と共に、前述の説明において示してきたが、本開示は単に例証にすぎない。細部、特に部品の形状、大きさ及び配置構成に関して、本開示の原理の範囲内で、添付の特許請求の範囲が表現されている用語の広い一般的な意味によって示される十分な程度まで、変更を加えることができる。
図1
図2