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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-22
(45)【発行日】2022-05-06
(54)【発明の名称】半透明ナノ結晶ガラスセラミック
(51)【国際特許分類】
   C03B 8/02 20060101AFI20220425BHJP
   C03C 14/00 20060101ALI20220425BHJP
   C04B 35/624 20060101ALI20220425BHJP
   C04B 35/626 20060101ALI20220425BHJP
   C04B 35/645 20060101ALI20220425BHJP
   A61K 6/80 20200101ALI20220425BHJP
   A61K 6/831 20200101ALI20220425BHJP
【FI】
C03B8/02 F
C03B8/02 A
C03B8/02 K
C03B8/02 M
C03B8/02 N
C03C14/00
C04B35/624
C04B35/626 150
C04B35/645
A61K6/80
A61K6/831
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019525976
(86)(22)【出願日】2017-11-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-12-12
(86)【国際出願番号】 SE2017051135
(87)【国際公開番号】W WO2018093322
(87)【国際公開日】2018-05-24
【審査請求日】2020-11-12
(31)【優先権主張番号】1600326-1
(32)【優先日】2016-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】511196490
【氏名又は名称】アドゥロ・マテリアル・アクチボラゲット
【氏名又は名称原語表記】ADURO MATERIAL AB
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100206140
【弁理士】
【氏名又は名称】大釜 典子
(72)【発明者】
【氏名】ホーカン・エングクヴィスト
(72)【発明者】
【氏名】ルァ・フー
(72)【発明者】
【氏名】ウェイ・シア
【審査官】大塚 晴彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/111535(WO,A1)
【文献】特開昭61-083648(JP,A)
【文献】特開2007-261825(JP,A)
【文献】M.NOGAMI and M.TOMOZAWA,ZrO2-Transformation-Toughened Glass-Ceramics Prepared by the Sol-Gel Process from Metal Alkoxides,Journal of the American Ceramic Society,Vol.69, No.2,米国,1986年,99-102
【文献】野上正行,ゾル-ゲル法によるジルコニア含有ガラス,NEW GLASS,No.9,日本,1988年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 8/02
C03C 14/00
C03C 10/02
C04B 35/624
C04B 35/626
C04B 35/645
A61K 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半透明ZrO-SiOナノ結晶ガラスセラミックを製造する方法であって、
ケイ素(IV)を含む第1の前駆体と、溶媒と、酸性水溶液とを混合し、それにより前記第1の前駆体を加水分解することによって第1の溶液を提供する工程であって、前記第1の前駆体の前記加水分解のための前記酸性水溶液の濃度は0.1~1モル/Lである、第1の溶液を提供する工程と、
ジルコニウム(IV)を含む第2の前駆体と、溶媒とを混合して第2の溶液を提供する工程と、
前記第1の溶液と前記第2の溶液を配合する工程であって、前記溶液中のZrとSiとの間のモル比は60:40~80:20の範囲である、配合する工程と、
コロイド溶液(又はゾル)を形成するために、5~12モル/Lの濃度を有する、前記第2の前駆体の加水分解用酸性水溶液の添加により、配合溶液中の前記第2の前駆体を加水分解し、前記配合溶液を重合する工程と、
透明なゾルを形成するために、前記ゾルを熟成する工程と
酸性水溶液の添加により前記透明なゾルを重合する工程と、
ゲルを形成するために、前記透明なゾルを熟成する工程と、
キセロゲルを形成するために、前記ゲルを乾燥する工程と、
粉末を形成するために前記キセロゲルを微粉化し、任意で粒径選択を含む、微粉化する工程と、
前記粉末をか焼し、任意で予備圧縮又は前記か焼処理中に圧縮を行う、か焼する工程と、
か焼された粉末を焼結し、任意で予備圧縮又は前記か焼処理中に圧縮を行う、焼結する工程と、を含む方法。
【請求項2】
前記第1の前駆体が、テトラエチルオルトシリケート、エチルシリケート及びシリコンアルコキシドからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2の前駆体が、ジルコニウム(IV)プロポキシド又はZr(OPr)などのジルコニウムアルコキシド、硝酸ジルコニル、ZrOCl溶液及び塩化ジルコニウム(IV)からなる群から選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記酸性水溶液が、HCl、HSO、HNO及びCHCOOHの溶液から選択される、請求項1~3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
前記ゲルを乾燥する工程が、80~150℃で1~3日間行われる、請求項1~のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
前記微粉化する工程の後に、粒径50~100μmの画分を選択する、粒子選択工程/篩い分け工程が続く、請求項1~のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
前記粉末が、か焼前に加熱して若しくは加熱なしで圧縮される、又はか焼中に圧縮される、請求項1~のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
前記焼結する工程が、900~1250℃の温度、4~12分間の放電プラズマ焼結によって行われる、請求項1~のいずれか1つに記載の方法。
【請求項9】
5~10重量%のナノ結晶正方晶ZrOを含、半透明ガラスセラミック材料の前駆体粉末。
【請求項10】
ZrOとSiOとの間のモル比は20:80~90:10である、請求項に記載の前駆体粉末
【請求項11】
非晶質SiOマトリクス中に埋め込まれた単結晶ZrO球状ナノ結晶の微細構造を有し、ZrOの量は30%(体積%)超であり、ZrO とSiO との間のモル比は60:40~80:20の範囲である、半透明ガラスセラミック材料。
【請求項12】
前記ZrO球状ナノ結晶の結晶サイズは10nmから400nmの範囲である、請求項11に記載の材料。
【請求項13】
前記材料の密度が前記材料の理論密度の少なくとも99%となるように、前記材料が完全に緻密化されている、請求項11または12に記載の材料。
【請求項14】
アモルファスSiOマトリクス中に埋め込まれた単結晶ZrO球状ナノ結晶の微細構造を有する半透明ガラスセラミック材料を含み、ZrOの量は30%(体積%)超であり、ZrO とSiO との間のモル比は60:40~80:20の範囲である、歯科用修復材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加圧焼結又は常圧焼結によって超高機械強度を有する半透明な(又は透明な:translucent)ZrO-SiO ナノ結晶ガラスセラミック(NCGC)を生産する方法に関する。特に、本発明はゾル-ゲル法及び放電プラズマ焼結によるZrO-SiOの調整方法を提供する。本発明はまた、その方法を使用して製造された材料も記載する。
【背景技術】
【0002】
それらの適切な機械特性及び美感のために、セラミック及びガラスセラミックは歯科用材料として広く使用されている。非常に伝統的なラミネートべニア(no-preparation veneers)からマルチユニット固定性臼歯架工義歯(FPD)及び中間のあらゆるものまで、あらゆる種類の間接修復物(indirection restorations)のために、多くの種類のセラミック又はガラスセラミックが近年導入されている(歯科用セラミック-パートI:材料の種類、Inside Dentistry、2009年、第7巻、94~103頁)。イボクラール・ビバデント社によって開発されたガラスセラミックは、薄いベニアから12ユニットブリッジまでの範囲で、オールセラミック修復のための事実上すべての適応症を達成することを可能にする(イボクラール・ビバデント社、IPS e.max Press-Scientific Documentation、2011)。ZrOベースのセラミックは、「セラミックスチール」として知られる優れた機械特性、及び良好な生物学的及び美的特性も有するという事実から、明らかに最も研究されている歯科用材料の1つである。高強度のZrOベースのセラミックは、固定性臼歯架工義歯の実現を可能にし、コア厚さの実質的な(又は相当な:substantial)低減を可能にする(歯科用ジルコニアの最先端技術、Dental Materials、2008年、第24巻、299~307頁)。しかしながら、高い曲げ強度を有するほとんどのZrOベースの全セラミックは、不透明であり、従ってガラスセラミック材料よりも美的に満足されず、周囲の歯の色に適合することがより困難である。歯科修復用途の態様において、全セラミックを超えるガラスセラミックの主な利点は、自然な人間の歯の色を模倣するためにそれらの色合いを調整する高い柔軟性を提供するそれらの優れた半透明性であり、一方で、二ケイ酸リチウムなどのほとんどのガラスセラミック歯科用材料は、一般に、全セラミックの半分未満の破壊靭性及び曲げ強度を有し、それが歯科産業におけるそれらの用途を制限する。ZrOベースのセラミックとガラスセラミックの利点、すなわち優れた機械特性と半透明性の両方を兼ね備えたZrO-SiONCGCは、歯科修復用途に望ましい。米国特許公開公報第20140205972A1号は、溶液中にZr及びSiを含む前駆体を加水分解すること工程と、加水分解された前駆体を溶媒中で重合する工程と、前記ポリマーを含むコロイドを形成する工程と、前記コロイドからゲルを形成する工程と、ゲルを熟成する(又はエイジングする:aging)工程と、ゲルを乾燥する工程と、及びガラスセラミック材料の形成下でゲルを焼結する工程と、によって特徴づけられるZrO-SiOガラスセラミックの生産方法を提供している。この方法の主な問題点は、1)クラックの無い試料を得るために長時間乾燥すること、2)大きな寸法の試料を得ることは本当に時間がかかること、(3)機械的強度が現在市販されているガラスセラミックと比較して同様であることである。
【発明の概要】
【0003】
本発明は、高いジルコニア含有量を有する均質なナノ粉末を合成し、続いて主に加圧焼結することを含む製造方法によって上記の問題を克服する。この方法は以下の一般的な工程を含む。
a)異なるケイ素(又はシリコン:silicon)前駆体及びジルコニウム前駆体を使用することによってゾル―ゲル法を介して高純度で均質なZrO-SiOナノサイズ粉末を生産する工程。
b)ZrO-SiONCGCを得るために、ZrO-SiOゾル―ゲル粉末を、適切な焼結パラメータを用いた、加圧焼結又は熱間等方圧圧縮(又は熱間静水圧圧縮:hot isostatic pressing)(HIP)又は常圧焼結によって焼結する工程。
【0004】
本発明に係る製造方法を使用することによって、大きなサンプルを製造することは容易である。新しい方法は、高いZrO含有量でも高純度の均質なガラスセラミックナノサイズ粉末を生産するために使用することができ、それはゾル-ゲル法においてさらなる析出の程度を提供する。ガラスマトリクス中の3D結晶構造を制御することにより、材料の高い半透明性(又は透明性:translucency)を達成することができる。加圧焼結は、超高機械強度への寄与をもたらす。いかなる理論にも束縛されることを望むものではないが、3D結晶構造の制御はまた、半透明性を増大させることに加えて破壊強度を改善する粒子のより良好な充填も可能にするより丸い粒子を提供する。粒径の選択もおそらくより良い充填に寄与する。
【0005】
本発明は、超高曲げ強度を有する半透明のZrO-SiOナノガラスセラミックの調整方法を提供する。材料の曲げ強度は400MPa超、いくつかのケースでは600MPa超、そしていくつかの材料に関しては1000MPa超にさえもなる。生産された材料は、例えば高速ミリングによってさらに機械加工可能である。
【0006】
均質なゾル-ゲル粉末を得るためには、ジルコニウム前駆体の加水分解に多くの注意を払う必要がある。
【0007】
より具体的には、一態様によれば、
ケイ素(IV)を含む第1の前駆体と、溶媒と、酸性水溶液とを混合し、それにより第1の前駆体を加水分解する、第1の溶液を提供する工程と、
ジルコニウム(IV)を含む第2の前駆体と溶媒とを混合して第2の溶液を提供する工程と、
第1及び第2の溶液を配合する工程であって、前記溶液中のZrとSiとの間のモル比が20:80~90:10、好ましくは60:40~80:20の範囲である、配合する工程と、
コロイド溶液(又はゾル)を形成するために酸性水溶液を添加(好ましくは滴下)することにより、配合された溶液を加水分解及び重合する工程と、
透明なゾルを形成するためにゾルを熟成する工程と、
酸性水溶液の添加(好ましくは滴下)により透明なゾルを重合する工程と、
ゲルを形成するために透明なゾルを熟成する工程と、
キセロゲルを形成するためにゲルを乾燥する工程と、
粉末を形成するためにキセロゲルを微粉化し、任意で粒径選択を含む、微粉化する工程と、
粉末をか焼し(又は焼成し:Calucining)、任意で予備圧縮又はか焼プロセス中に圧縮を行う、か焼する工程と
か焼粉末を焼結し、任意で予備圧縮又は焼成プロセス中に圧縮を行う、焼結する工程と、を含む半透明ZrO-SiOナノ結晶ガラスセラミックを調製するための方法が提供される。
【0008】
別の態様によれば、5~10重量%のナノ結晶正方晶ZrOを含む半透明の前駆体ガラスセラミック材料粉末の形態で前駆体材料が提供される。前記前駆体材料はか焼工程後に形成される。前駆体材料は、歯科修復物などの歯科用途に使用することができる。
【0009】
本発明の他の態様は、前記方法によって生産された材料に関する。前記材料は、非晶質SiOマトリクス中に埋め込まれた単結晶ZrO球状ナノ結晶の微細構造を有する半透明ガラスセラミック材料であることを特徴としており、ZrOの量は30%(体積%)超、例えば35、40、45、50、55、60、及び65体積%である。この材料は、歯科修復物などの歯科用途に使用することができる。
【0010】
本発明のさらなる態様によれば、非晶質SiOマトリクス中に埋め込まれた単結晶ZrO球状ナノ結晶の微細構造を有し、ZrOの量は30%(体積%)超、例えば、35、40、45、50、55、60、及び65体積%である、半透明ガラスセラミック材料を含む歯科用修復材料が提供される。
【0011】
本製造方法を使用して、65%(モル比)までのジルコニアを含有する粉末材料を達成することができる。前駆体材料、材料、及び歯科用修復材料のZrOとSiOとのモル比は、20:80~90:10、好ましくは60:40~80:20の範囲である。焼結材料の平均粒径は約400nm未満である。
【0012】
本願を通して、用語「コロイド溶液」及び「ゾル」は、二者択一的に使用される。ゾル-ゲル法の目的は、粒状固体材料を液体中に分散させる(すなわち均一に分布させる)ことである。本プロセスのいくつかの段階では、加水分解により固体材料が分散する前に酸の使用が塩の形成及び析出を引き起こすので、いくつかの材料は分散されないかもしれない。「コロイド溶液」及び「ゾル」は、それが短期間の間に十分に分散され得ないという事実にもかかわらず、完全に分散された固体材料を意味する。用語「コロイド溶液」はより広く、ゾル(均一に分散された固体材料を有する溶液)、懸濁液(液体中の液体)及び泡(液体中の気体)を包含するが、本開示では用語「コロイド溶液」をゾルに限定する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】ZrO-SiOゾル-ゲル法の合成経路のフローチャート。
図2】(a)か焼前、及び(b)1℃/分の傾斜率、600℃1時間でか焼した後の、ゾル-ゲル粉末のXRDパターン。
図3】a)非晶質領域、及びb)ナノサイズのZrO領域の、か焼後の65Zrゾル-ゲル粉末のHRTEM画像で、FFTパターンが挿入されている。
図4】(a)45Zr(EDSスペクトルは、Zr、Si、及びO元素が、結晶状粒子及び小片の両方に均一に分布していることを示す)、(b)55Zr、及び(c)65Zrの、か焼後のゾル-ゲル粉末のSEM画像。
図5】1150-5-60下で焼結した試料のXRDパターンで、全試料の結晶相は正方晶のZrOであったことを明らかしている。SiO及び単斜晶系ZrOの明らかなピークは見られなかった。
図6】(a)45Zr、(b)55Zr、(c~d)65Zrの曲げ試験後の破断面のSEM画像、、(e)45Zr、(f)55Zr、並びに(g)65Zrの1時間のHFゲルエッチング後の試料表面。
図7】厚さ約1mmのSPSedガラスセラミックの光学画像。
図8】65Zr試料の明視野TEM像(a)、及び明視野像から測定されたZrO粒径分布(b)。
図9】65Zr試料のHRTEM結果であって、(a)SiOマトリクス中に埋め込まれた異なるサイズのZrO粒子、(b)隣接するZrO粒子間の関係の概略図で、大文字は図(a)のものに対応する。
図10】ナノサイズのZrO粒子のHAADF STEM像であって、(a)、(b)はそれぞれ、65Zr試料の低解像度および高解像度の像であり、(c)、(d)は参照として35Zr試料の像である。35Zr試料中のZrO粒子はほぼ完全に球形であって、あまり接触することなく単離されていたが、65Zr試料中の粒子は粒界及び合体(又は融合:coalescence)を有する楕円形であった。
図11】65Zr試料のEELSマッピングであり、O、Si及びZrの元素分布を示す。2つのZrO粒子の間にSiOの薄層が存在する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[製造方法]
図1は、工程100~1000を含む本発明に係る製造方法のフローチャートを示す。溶液S1(ケイ素を含む第1の前駆体A、溶媒B、及び酸性溶液C)並びに溶液S2(ジルコニウム及び溶媒Eを含む第2の前駆体D)を、工程100で別々に混合し攪拌する。S1中の酸性溶液によって加水分解が開始される。
【0015】
1つの実施形態では、第1の前駆体は、テトラエチルオルトシリケート(TEOS)、エチルシリケート、及びシリコンアルコキシドからなる群から選択されてもよい。別の実施形態では、第1の前駆体はTEOSから選択される。さらなる実施形態では、第2の前駆体は、ジルコニウムプロポキシド又はZr(OPr)などのジルコニウムアルコキシド、硝酸ジルコニル、ZrOCl溶液、及び塩化ジルコニウム(IV)から選択されてもよい。さらなる他の実施形態では、第2の前駆体は、ジルコニウムプロポキシド又はZr(OPr)から選択される。さらに別の実施形態では、第2の前駆体はZr(OPr)から選択される。さらなる他の実施形態では、第1及び第2の前駆体はそれぞれTEOS及びZr(OPr)から選択される。
【0016】
1つの実施形態では、第1の前駆体を、無水1-プロパノール又は無水エタノールで1:1~1:3の比率で適切に希釈してもよい。別の実施形態では、第2の前駆体をエタノール、メタノール又はイソプロパノールで1:0.4から1:3の比率で希釈してもよい。さらなる実施形態では、第1の前駆体を無水エタノールで1:1~1:3の比率で希釈し、第2の前駆体をエタノール、メタノール又はイソプロパノールで1:0.4から1:3の比率で希釈する。
【0017】
製造プロセスで使用される酸性水溶液を、1つの実施形態によれば、HCl、HSO、HNO、及びCHCOOHの溶液から選択してもよく、0.1~12モル/L、例えば0.4~12モル/Lの濃度で使用してもよい。別の実施形態では、第1の前駆体を加水分解するとき、濃度は0.4~1mol/Lでもよい。さらなる実施形態では、第1の前駆体の加水分解は、HCL、好ましくは濃HCLを用いて行われる。別の実施形態では、第2の前駆体を加水分解するとき、濃度は5~12モル/L、例えば7~12モル/Lでもよい。溶液1では、酸性溶液(例えば、HCl)とケイ素化合物(例えば、TEOS)との間の比率は、0.08~0.2体積%の範囲内でもよい。配合された溶液では、酸性溶液(例えば、HCl)とジルコニウム化合物(例えば、ジルコニウムプロポキシド)との間の比率は、0.22~0.3体積%の範囲内でもよい。
【0018】
工程200では、2つの溶液を混合して撹拌する。工程300では、酸性溶液を添加する(好ましくは滴下する)。酸性溶液により、ゾルが形成されるまでの最終的な加水分解及び重合が開始される。この工程では、第2の前駆体は5~12モル/Lの濃度、例えば1つの実施形態に係る7~12モル/Lを用いて加水分解される。1つの実施形態では、第1の前駆体の加水分解のための酸性水溶液の濃度は、0.1~12モル/L、例えば、0.4~12モル/Lであり、及び第2の前駆体の加水分解のための酸性水溶液の濃度は、5~12モル/L、例えば7~12モル/Lである。
【0019】
本開示に係る混合及び酸添加工程では、白色析出物の凝集を回避するために混合物を激しく撹拌し続けた。毎回1ml~3mlの酸性溶液を30分~60分の間隔で添加した。
【0020】
工程400は、ゾルを一晩熟成させることを含む。プロセスを早めるために、室温を超えて、好ましくは20~80℃にゾルを加熱して透明なゾルを形成してもよい。加熱は、0.5~24時間行ってもよい。さらなる実施形態では、ゾルを40~80℃で8~12時間熟成させる。
【0021】
工程500では、追加の酸性溶液を添加する(好ましくは滴下する)。酸性水溶液の濃度は、5~12モル/L、例えば7~12モル/Lでもよい。添加量は通常10~20mlであり得る。
【0022】
工程600では、ゾルを熟成させてゲルを形成させる。1つの実施形態では、ゾルを3時間~3日間熟成させてもよい。別では、プロセスを早めるために、室温を超えて、好ましくは40℃超、好ましくは40~80℃、より好ましくは40~70℃にゾルを加熱することによって熟成させてもよい。さらなる実施形態では、ゾルを40~80℃で2~3日間熟成させる。
【0023】
続く工程700では、ゾルを1~3日間乾燥してキセロゲルを形成してもよい。別では、ゾルを80℃超、好ましくは80℃~150℃に加熱しながら乾燥する。さらなる実施形態では、ゾルを80℃~150℃で2~3日間乾燥させる。
【0024】
工程800では、キセロゲルは、遊星ボールミルなどの製粉(又はミリング:milling)又は研削よって微粉化される。微粉化工程に、微粉化材料を篩い分けしてマイクロメートル範囲の特定の粒径を有する粉末を形成する工程が続くのが有利である。1つの実施形態では、粒径は10~400nmである。1つの実施形態では、粉末画分は、>100μm、50~100μm、及び<50μmの粒径で篩い分けされた。別の実施形態では、篩い分けされた粒径50~100μmが選択される。
【0025】
工程900では、前記粉末を、加熱炉内で、400℃超、好ましくは400~700℃で、30~180分間、好ましくは室温から0.5℃/分~5℃/分の傾斜率でか焼して、残留化学物質を燃焼させる。1つの実施形態では、炉はマッフル炉である。1つの実施形態では、か焼工程後に形成される粉末は、か焼後に5~10重量%のナノ結晶正方晶ZrOを含む。粉末はか焼前に加熱して若しくは加熱なしに圧縮されてもよく(予備圧縮)、又はか焼中に圧縮されてもよい。
【0026】
最終工程1000では、か焼粉末を焼結する。1つの実施形態では、焼結チャンバの圧力は、焼結の開始時に約10Pa未満に排気された。粉末を、焼結前に加熱して若しくは加熱なしに圧縮してもよく(予備圧縮)、又は焼結中に圧縮してもよい。1つの実施形態では、焼結は放電プラズマによって行われる。別の実施形態では、焼結は、900~1250℃の温度で4~12分間、放電プラズマによって行われる。別の実施形態によれば、焼結は、熱間等方圧圧縮(HIP)/又は熱間圧縮によって行われる。別の実施形態では、焼結は、900~1400℃の温度で30~300分間、熱間等方圧圧縮によって行われる。例示的な手順は以下の通りにすることができた。例えばパンチにより圧力が加えられるとき、一軸圧力がパンチユニットに徐々に加えられて、温度が600℃~900℃に達する前に40MPa~100MPaの最大値に達してもよく、圧力は全体の焼結プロセスを通して維持されてもよい。別の実施形態では、366℃から700℃~1000℃まで、80~150℃/分の傾斜率で、及び700℃~1000℃から保持温度まで20~50℃/分の傾斜率で2段階加熱プロセスを適用してもよい。保持温度は1000℃超にすることができた。滞留時間(又は保持時間:dwelling time)は約2分超でもよい。
【0027】
1つの実施形態によれば、ZrOとSiOとの間のモル比は、最終材料において20:80~90:10、好ましくは60:40~80:20の範囲である。
【0028】
得られた材料は、球状正方晶ZrOナノ結晶が10~400nm、例えば10~60nm又は50~100nmの範囲の結晶サイズを有することを特徴とするZrO-SiOナノガラスセラミックである。ZrO粒子は、アモルファスSiOマトリクス中に埋め込まれている。
【0029】
例示的な実施形態では、溶液S1は、テトラエチルオルトシリケート(TEOS)、エタノール、及びHCl溶液(0.4モル/L)を混合して撹拌することによって調製される。溶液S2は、Zr(OPr)と無水1-プロパノールを混合して攪拌することによって調製される。2つの溶液を配合して撹拌する。15mlのHCl溶液(12モル/L)を混合物に添加し(好ましくは滴下し)、形成されたゾルをオーブンに入れ、それを60℃に一晩保ち、透明なゾルを生産した。続いて、10~20mlのHCl溶液(12モル/L)を添加し(好ましくは滴下し)、次にゾルを再びオーブンに入れ、熟成及びゲル化のために3日間60℃に保った。オーブンの温度をゲルの120℃に上げてさらに3日間ゲルを乾燥させてキセロゲルを形成させた。キセロゲルを製粉し、篩い分けして、半透明のZrO-SiOナノ結晶ガラスセラミック粉末を形成した。
【0030】
[半透明の前駆体ガラスセラミック材料]
別の態様によれば、5~10重量%のナノ結晶正方晶ZrOを含む前駆体材料、半透明ガラスセラミック材料粉末が提供される。前記前駆体はか焼工程後に形成される。ZrOとSiOとの間のモル比は、20:80~90:10、好ましくは60:40~80:20の範囲でもよい。ZrOの量は30%(体積%)超である。ZrO球状ナノ結晶の結晶サイズは10nmから50nmの範囲である。
【0031】
[半透明ガラスセラミック材料]
本発明の1つの態様によれば、非晶質SiOマトリクス中に埋め込まれた単結晶ZrO球状ナノ結晶の微細構造を有し、ZrOの量は30%(体積%)超、例えば、35、40、45、50、55、60、及び65体積%である、半透明ガラスセラミック材料が提供される。
【0032】
1つの実施形態では、ZrO球状ナノ結晶の結晶サイズは10nm~400nmの範囲である。ZrOとSiOとのモル比は、20:80~90:10、好ましくは60:40~80:20の範囲でもよい。別の実施形態では、材料中の唯一の結晶相は、正方晶のZrOである。さらなる実施形態では、少なくとも99%の材料が完全に緻密化される(densified)。材料は、400MPa超、500MPa超、600MPa超、700MPa超、800MPa超、900MPa超、及び1000MPa超の曲げ強度を示す。1つの実施形態では、破壊靭性は約2MPa√m超である。
【0033】
[歯科用修復材料]
本発明のさらなる態様によれば、非晶質SiOマトリクス中に埋め込まれた単結晶ZrO球状ナノ結晶の微細構造を有し、ZrOの量は30%(体積%)超、例えば、35、40、45、50、55、60、及び65体積%である、半透明ガラスセラミック材料を含む歯科用修復材料が提供される。
【0034】
1つの実施形態では、ZrO球状ナノ結晶の結晶サイズは10nm~400nmの範囲である。ZrOとSiOとの間のモル比は、20:80~90:10、好ましくは60:40~80:20の範囲でもよい。別の実施形態では、材料中の唯一の結晶相は、正方晶ZrOである。別の実施形態では、材料中の唯一の結晶相は、正方晶ZrOである。さらなる実施形態では、少なくとも99%の材料が完全に緻密化される。材料は、400MPa超、500MPa超、600MPa超、700MPa超、800MPa超、900MPa超、及び1000MPa超の曲げ強度を示す。1つの実施形態では、破壊靭性は約2MPa√m超である。
【実施例1】
【0035】
[ZrO-SiOゾル-ゲル粉末の調製]
xZrO・(100-x)SiO系の3つの組成のゾル-ゲル粉末を作製した(x=45、55、65モル%)。この検討では、試験片をそれぞれ45Zr、55Zr及び65Zrとして設計した。ゾル-ゲル法を図1に示す。ゾル-ゲル法に使用した化学物質を表1に示す。テトラエチルオルトシリケート(TEOS)(シグマ・アルドリッチ社、米国ミズーリ州セントルイス)及びジルコニウムプロポキシド又はZr(OPr)(シグマ・アルドリッチ社製、1-プロパノール中、70重量%)を出発アルコキシド前駆体として用いた。溶液1を調製するために、エタノール(EtOH、>99%)、HCl(水溶液、0.4モル/L)及びTEOSを500mLの丸底フラスコ中で混合し、2時間磁気撹拌した。Zr(OPr)の、水との強い反応性に注意した。したがって、Zr(OPr)を無水1-プロパノール(99.7%、シグマ・アルドリッチ社)で1:1の比率で希釈した。溶液2を調製するために、Zr(OPr)及び無水1-プロパノールを250mLの丸底フラスコ中で混合し、そして2時間撹拌し続けた。層化(Stratification)は最初の20分で観察することができ、次にZr(OPr)を1-プロパノール中に完全に溶解させて均質な溶液を形成させた。250mLフラスコ中の溶液2を500mLフラスコ中の溶液1に移し、続いてさらに2時間撹拌した。
【0036】
均質なゾル-ゲル粉末の調製が、放電プラズマ焼結前に良好なガラスセラミック試料を得るための重要なポイントであることを見出した。均質なゾル-ゲル粉末を得るために、Zr(OPr)の加水分解に多くの注意を払った。HCl溶液の添加は水の添加を暗示し、その結果は最終的なゾルの加水分解及び重合の開始である。アクロスオーガニックの発煙性HCl溶液(37重量%、純粋、発煙性、アクロスオーガニック、フィッシャーサイエンティフィック)を、mLピペットを用いて一滴ずつ添加した。ゾル中に1滴のHCl溶液を添加するとすぐに白色析出物が現れた。白色析出物の凝集を回避するために、混合物を強く撹拌し続け、毎回1mLのHCl溶液を30分間隔で添加した。15mLのHCl溶液を添加した後、ゾルをオーブンに移し、60℃で一晩保って白色析出物をさらに溶解させた。同じ方法を用いてさらにHCl溶液を添加した。その後、ゲル化及び熟成のために、ゾルを3日間オーブン(60℃)に入れた。ゾルがゲル化するのに約8時間かかった。ゲルをビーカーに移して、温度を120℃に上げてさらに3日間乾燥工程を実施した。キセロゲルは、ZrOミリングジャー及びボールを用いて遊星ボールミルにより製粉した。次に粉末を3つのサイズ範囲:>100μm、50~100μm、及び<50μmに篩い分けした。放電プラズマ焼結には、50~100μmの粒径を有する粉末を使用した。篩い分けされた粉末の予備か焼を、室温から1℃/分の傾斜率で、600℃で1時間、マッフル炉内で行い、残留化学物質を燃焼させた。
【0037】
【表1】
【実施例2】
【0038】
[ZrO-SiOガラスセラミックを得るための放電プラズマ焼結]
予備か焼したゾル-ゲル粉末を放電プラズマ焼結法(SPS-825、富士電子工業株式会社、日本)によって焼結した。約3.3gの粉末をグラファイトダイ(直径20mm)及び2つのパンチユニットに入れた。放電プラズマ焼結機に入れる前に、低圧力(約10Pa)をダイに印加した。焼結実験の開始時にチャンバの圧力を10Pa未満に排気した。一軸圧力をパンチユニットに徐々に印加し、温度が800℃に達して全体の焼結プロセスを通して圧力を維持する前に、60MPaの最大値に達した。機器が室温から366℃に温まるのに1分かかった。その後、366℃から900℃まで120℃/分、900℃から1150℃まで30℃/分の2段階の加熱処理を適用した。グラファイトダイの非貫通孔に焦点を合わせた光学高温計によって温度をモニターした。滞留時間は5分であった。
【0039】
焼結試験片ディスク(直径約20mm及び厚さ2.5mm)上でゆがんだグラファイトシートを除去するために、自動研磨機及び120#、320#、500#、800#、1200#のグリット紙を使用して段階的に試料を湿式研磨し、次いで、続いて6μm、3μm、1μmのダイヤモンドペーストを使用して段階的に精密研磨処理した。試験片の表面粗さ値はナノメートルスケールであり(表2に示す)、試料表面上の細孔及び微小亀裂の悪影響が機械試験の間に最小化されたことを示唆している。
【0040】
【表2】
【0041】
[ZrO-SiOガラスセラミックの機械試験]
本検討では、グループ1、2、及び3の少なくとも4つの試験片の曲げ強度を評価するために、ピストンオンスリーボール試験(Piston-on-three-ball test)を選択した。研磨した試験片を、対称的に間隔を空けて配置された、3.445mmの支持円半径(support circle radius)を有する3つのボール上に支持した。破断(又は破壊:fracture)が生じるまで、試験片の中心に鋼鉄棒を備えた万能試験機(オートグラフAGS-H、島津製、日本)の使用により1mm/分の負荷速度を適用した。この実験ではポアソン比を0.3に設定した。最大荷重を記録し、二軸曲げ強度を以下のように試験規格(ASTM F 394-78)によって示唆された式に従って計算した。
【0042】
【数1】
Sは最大引張応力(MPa)、Pは破断時の荷重(N)、dは破断起点の試験片の厚さ(mm)である。XとYは次のように決定される。
【0043】
【数2】
【0044】
【数3】
γはポアソン比、Bはピストンの先端の半径(0.8mm)、Cは試験片の半径である。
ビッカース硬さは、2kgfの押込み荷重を有する微小硬さ試験機(Buehler Micromet 2104、米国イリノイ州レイクブラフ)によって決定された。装置に具備されたソフトウェアを使用することによって、亀裂の長さ及びくぼみの対角線を直ちに測定した。各試料に少なくとも12個のくぼみを施した。くぼみの光学顕微鏡写真を、オリンパスAX70光学顕微鏡(オリンパス社製、東京、日本)によって得た。
【0045】
ナノインデンテーション試験機(ウルトラナノインデンテンター、CSM Instruments社)を使用して、8000μN/分の速度、8000μNの荷重で、ナノスケールでヤング率と硬さを測定した。各試料に対して、互いに適切な距離で12個のくぼみを施した。ヤング率はオリバー・ファー法に従って計算した。式は、以下のようになる。
【0046】
【数4】
γは試験片のポアソン比、βはオリバー・ファー定数、Sは除荷曲線の開始時の傾き、Aは圧子面積関数(indenter area function)、γ、Eはそれぞれ圧子材料のポアソン比とヤング率である。
破壊靭性の計算には、Niihara KがPalmqvist亀裂に対して提案した式(l/a<2.5)を使用した。
【0047】
【数5】
aはくぼみの対角線、Eはヤング率、Hvはビッカース硬さ、lはくぼみの先端からの亀裂の長さである。ヤング率及びビッカース硬さは、それぞれナノインデンテーション及びマイクロインデンテーションから得られた。
【0048】
[相同定と微細構造の特性評価]
ゾル-ゲル粉末及び放電プラズマ焼結した試験片の両方をX線回折測定にかけた(ディフラクトメータD5000、シーメンス社製、ドイツ)。X線回折パターンは、Niフィルター処理したCuKαX線源を用いて、スキャンステップ0.2秒/ステップ、ステップサイズ0.02°で、5°から80°の範囲で記録した。走査型電子顕微鏡(SEM、Merlin、Zeiss、Germany)を使用して、粉末及び焼結ガラスセラミックの形態を評価した。ガラスセラミックの研磨された試料表面を、HFゲルを用いて1時間エッチングした。ピストンオンスリーボール試験の後、破断面もSEM観察にかけた。300kVで操作されたTitan80-300透過型電子顕微鏡(TEM、FEI Company、オランダ)でより高解像度の調査を行った。画像は明視野TEM、高分解能TEM(HRTEM)、及び組成コントラストを示す高角環状暗視野STEM(HAADF STEM)で記録した。結晶性を決定するために相補的制限視野電子回折(SAED)パターンを記録した。元素情報は、Quantum GIF(ガタン社、カルフォルニア州プレザントン)の電子エネルギー損失分光法(EELS)から得た。
【0049】
[ゾル-ゲル粉末の特性評価]
XRDを使用して予備か焼粉末の結晶度を調査した。結果(図2a)は、3つの異なる組成の未精製のゾル-ゲル粉末がか焼前には全て非晶質であることを示した。異なる結晶化挙動は異なる組成で生じる。45Zr粉末は600℃で1時間か焼した後も非晶質のままであり、一方、55Zr及び65Zr粉末は正方晶ZrOの最も高いピークに対応する30°付近に弱いピークを示した(図2b)。それは、か焼中に少量の正方晶ZrOが非晶質の未精製ゾルゲル粉末から結晶化することを意味する。か焼した65Zr粉末を高分解能TEMで観察した。図3aに示すように、出力(power)は主に非晶質相から構成されていたが、図3bの挿入された高速フーリエ変換(FFT)パターンには明確な格子縞を観察することができて、回折スポットが現れている領域がある。格子縞(3.07Å及び2.97Å)から計算されたd間隔は、正方晶ZrOの報告されている(111)d間隔(2.964nm)と同等である。XRDの結果と合わせて、観察されたナノサイズの結晶(約5nm)は正方晶ZrOナノ結晶であると結論付けることができる。粉末のSEM観察(図4)は、それらが比較的大きな粒子(4~10μm)と小さな不規則粒子(1μm未満)からなる同様の形態を共有することを示した。45Zr粉末のEDSマッピング(図4)は、Zr、Si及びO元素が大きな粒子と小さな不規則粒子の両方において均一に分布していることを示した。
【0050】
[ZrO-SiOガラスセラミックの特性評価]
[組成と密度]
放電プラズマ焼結したガラスセラミック試料中のZrOとSiOの含有量が本発明者らの設計組成と一致することを確認するために、放電プラズマ焼結した試料をXRFで分析した。結果を表3に記載し、得られたセラミック試験片の実際の組成は公称組成とよく一致した。XRDの結果(図5)は、3つの異なる組成を有する焼結ガラスセラミックは単に正方晶ZrOからなり、SiOは非晶質のままであることを示した。45Zr、55Zr及び65Zrガラスセラミックの見掛け密度は、それぞれ3.82g/cm、4.14g/cm及び4.53g/cmであった。密度はZrO含有量の増加と共に増加し、これはZrOがSiOより重いので理解できる。全てのガラスセラミックは完全な緻密化(理論密度の97%以上)を達成した。表2を参照。
【0051】
【表3】
【0052】
[破断面及びエッチングされた試料表面の形態]

ピストンオンスリーボール曲げ試験後にガラスセラミックの破断面をSEMで調査した。3つのセラミックの破断面には、多数のナノサイズのZrO粒子と穴が見られる。粒子と穴が同じサイズレベルにあると判断すると、ナノサイズのZrO粒子は曲げ試験中に引き抜かれ、対応する穴が残ったと考えられる(図6a、b及びc)。3つの画像を注意深く観察すると、45Zr試料中のZrO粒子の大部分が単離され、一方65Zrサンプル中の粒子は互いに接触して結合していたことが分かる。これは、45Zr試料において非晶質SiOがマトリクスとなり、60.3%(体積分率、表2)を占め、そしてZrO粒子がマトリクスに埋め込まれた第2相となった(39.7%)という事実による。対照的に、65Zrサンプルでは、マトリクス相はZrO(58.7%)であり、サンプルの三次元骨格を構築し、残りの41.3%の非晶質SiOはZrO骨格の空間を埋めた。したがって、45Zrサンプル中のZrO粒子は、65Zrサンプル中のものよりもより単離しているように見えた。3つのガラスセラミックは、破断面形態によって表される、曲げ試験中に典型的な貝殻状脆性破壊挙動(brittle conchoidal fracture behavior)を示した(図6d、45Zr及び55Zr試料の画像は示されていない)。エッチングされた試料表面のSEM画像(図6e、f、g)は、ZrO粒子のサイズ及び形態の概観を提供した。3つのセラミックの全てが、異常成長することなしに、均質なZrO粒子サイズ分布を示した。65Zr試料中の粒径は45Zr及び55Zr試料のそれよりも比較的大きいことが分かる。これは、45Zr、55Zr及び65Zrに対して、XRD(表2)によって測定された結晶サイズ値、それぞれ29.5nm、35.1nm及び47.5nmと一致する。
【0053】
[半透明性]
図7から分かるように、放電プラズマ焼結した試料は高い半透明性を示し、約20%の透過率を達成した。45Zr試料の下にあるテキストははっきりと認識できるが、65Zrサンプルの下にあるテキストはぼやけて認識しにくかった。しかし、65Zrサンプルの下にあるストライプは容易に識別できる。
【0054】
[TEMにより評価した65Zr試料の微細構造]
典型的な明視野TEM画像(図8a)は、ZrO粒子の大部分が楕円形の形態を有することを示した。ソフトウェアを使用して図8aから測定された粒径分布は、15.2nm~56.8nmの範囲のサイズ及び34.8nmの平均値を有するZrO楕円体のガウス分布を示した(図8b)。HRTEM画像(図9a)から明らかに分かるように、大きなZrO粒子(粒子B)及び比較的小さな粒子(粒子A及びE)があった。ZrO粒子の配置は非常に興味深い。図9bは、隣接するZrO粒子間の関係の概略図を示した。図9bの大文字は、図9aのそれらに対応する。粒子Aと粒子Bとの間にSiOの薄層があった。粒子Cと粒子Bは、TEM試験片中の異なる高さに位置し、その結果、画像に重なりが生じた。粒子CとDとの間にネック領域を観察でき、一方粒子DとEとの間に粒子の合体が起こっており、これは放電プラズマ焼結の後期における粒子成長プロセスの発生を示している。著者らは、Fig.8aの楕円形のZrO粒子は、粒子の合体の結果であると、ある程度信じている。楕円状の形態を有するZrO粒子は、層のコントラストを提供する高角環状暗視野走査TEM(HADDF-STEM)画像(図10a)を介して明確に観察することができる。より高い倍率でのSTEM画像(図10b)は、粒界と合体の両方を示した。ZrO含有量の増加に伴うガラスセラミックの微細構造の発達を実証するために、図10の35Zr試料の2つのSTEM画像を比較のために使用した。図10c及びdから分かるように、ZrO粒子は、注目に値するほどの接触はなく、ほぼ完全に球形であったが、65Zr試料中のZrO粒子は放電プラズマ焼結プロセス中の粒子成長に起因し得る粒界と合体を持つ楕円形であった。もう1つの違いは、65Zr試料はあまり間隔を空けずにZrO粒子でコンパクトに満たされており(SiOマトリクス)、一方、35Zrサンプル中のZrO結晶は、SiOマトリクスにゆるく(loosely)埋め込まれ、分離されていた。EELSスペクトル(図11)は、粒子中とマトリクス中にそれぞれZrとSiの明確な分布を示した。そしてOは粒子中とマトリクス中の両方に均一に分布した。2つのZrO粒子は、厚さ約3nmのSiOの薄層によって分離されていた。
【0055】
[機械特性]
機械特性試験前に試料表面上の傷(flaws)及び欠陥(defects)の悪影響を最小化するために、焼結試料を慎重に研削及び研磨した。表面粗さ値はナノメートルスケールに達した(表2)。機械特性を表4にまとめた。全体の傾向として、記載されているすべての機械特性は、ZrO含有量の増加とともに増加する。45Zr、55Zr及び65Zr試料の平均値は、それぞれ4.16MPa√m、5.58MPa√m及び6.83MPa√mであった。くぼみから発生する亀裂の長さもまた、45Zr、55Zr及び65Zr試料についてそれぞれ39.9μm、26.1μm及び18.8μmであり(表2)、65Zr試料がより強い亀裂進展抵抗を有することも示した。本検討では、靭性の改善は主にZrO含有量の増加に起因し、それはより強い変形効果をもたらした。別の観点から見ると、ヤング率が高いほど機械強度が高くなる(式2)。表4に示すように、より多くのZrOを添加するとヤング率が増加し、従ってより高い靭性をもたらす。45Zr、55Zr及び65Zr試料の曲げ強度は、それぞれ757MPa、818MPa及び1063MPaであった。
【0056】
【表4】
【実施例3】
【0057】
[ZrO-SiOガラスセラミックを得るための熱間等方圧圧縮(HIP)]
予備か焼ゾル-ゲル粉末はまた、熱間等方圧圧縮(HIP)方によっても焼結できた。グリーン体を、冷間等方圧圧縮法によって成形した。ディスク形状(直径20mm、厚さ3.5mm)を20MPa下で金型プレスし(またダイプレスし:die pressing)、次に240MPa下で3分間冷間等方圧圧縮して作った。グリーン体を空気中で1350℃で2時間、5℃/分の傾斜率で、炉内において予備焼結した。
【0058】
予備焼結試料を用いて熱間等方圧圧縮を行った。予備焼結試料をアルミナプレートで覆われたアルミナ容器に入れて、汚染を避けた。試料を150MPaのアルゴンガス圧力下で1650℃1時間維持した。この処理では、10℃/分の加熱速度で温度と圧力を同時に上昇させた。
【実施例4】
【0059】
[ZrO-SiOガラスセラミックを得るための熱間圧縮(HP)]
予備か焼ゾル-ゲル粉末はまた、熱間圧縮(HP)法によっても焼結できた。グリーン体を、冷間等方圧圧縮法によって成形した。ディスクは、直径25mm、厚さ5mmに成形される。グリーン体を手動プレス(5MPa)により予備プレスした。試料を4トン/kg重(kgf)の荷重で1200℃で3時間維持した。傾斜率は5℃/分であった。
本明細書の開示内容は、以下の態様を含み得る。
(態様1)
半透明ZrO -SiO ナノ結晶ガラスセラミックを製造する方法であって、
ケイ素(IV)を含む第1の前駆体と、溶媒と、酸性水溶液とを混合し、それにより前記第1の前駆体を加水分解する、第1の溶液を提供する工程と、
ジルコニウム(IV)を含む第2の前駆体と、溶媒とを混合して第2の溶液を提供する工程と、
前記第1の溶液と前記第2の溶液を配合する工程であって、前記溶液中のZrとSiとの間のモル比は20:80~90:10、好ましくは60:40~80:20の範囲である、配合する工程と、
コロイド溶液(又はゾル)を形成するために酸性水溶液の添加により、配合溶液を加水分解して重合する工程と、
透明なゾルを形成するために、前記ゾルを熟成する工程と
酸性水溶液の添加により前記透明なゾルを重合する工程と、
ゲルを形成するために、前記透明なゾルを熟成する工程と、
キセロゲルを形成するために、前記ゲルを乾燥する工程と、
粉末を形成するために前記キセロゲルを微粉化し、任意で粒径選択を含む、微粉化する工程と、
前記粉末をか焼し、任意で予備圧縮又は前記か焼処理中に圧縮を行う、か焼する工程と、
か焼された粉末を焼結し、任意で予備圧縮又は前記か焼処理中に圧縮を行う、焼結する工程と、を含む方法。
(態様2)
前記第1の前駆体が、テトラエチルオルトシリケート、エチルシリケート及びシリコンアルコキシドからなる群から選択される、態様1に記載の方法。
(態様3)
前記第2の前駆体が、ジルコニウム(IV)プロポキシド又はZr(OPr) などのジルコニウムアルコキシド、硝酸ジルコニル、ZrOCl 溶液及び塩化ジルコニウム(IV)からなる群から選択される、態様1又は2に記載の方法。
(態様4)
前記第1の前駆体が、無水1-プロパノール又は無水エタノールで1:1~1:3の比率で希釈される、態様1~3のいずれか1つに記載の方法。
(態様5)
前記第2の前駆体が、エタノール、メタノール又はイソプロパノールで1:0.4~1:3の比率で希釈される、態様1~4のいずれか1つに記載の方法。
(態様6)
前記酸性水溶液が、HCl、H SO 、HNO 及びCH COOHの溶液から選択される、態様1~5のいずれか1つに記載の方法。
(態様7)
前記酸性水溶液の濃度は0.1~12モル/Lである、態様1~6のいずれか1つに記載の方法。
(態様8)
前記第1の前駆体の前記加水分解のための前記酸性水溶液の前記濃度が、前記第2の前駆体の前記加水分解のための0.1~1モル/L及び5~12モル/Lである、態様1~7のいずれか1つに記載の方法。
(態様9)
前記ゾルを熟成する工程が、20~80℃で0.5~24時間行われる、態様1~8のいずれか1つに記載の方法。
(態様10)
前記透明なゾルを熟成する工程が、40~80℃で3時間~3日間行われる、態様1~9のいずれか1つに記載の方法。
(態様11)
前記ゲルを乾燥する工程が、80~150℃で1~3日間行われる、態様1~10のいずれか1つに記載の方法。
(態様12)
前記微粉化する工程が、遊星ボールミルなどの製粉によって、又は研削によって行われる、態様1~11のいずれか1つに記載の方法。
(態様13)
前記微粉化する工程の後に、粒径50~100μmの画分を選択する、粒子選択工程/篩い分け工程が続く、態様1~12のいずれか1つに記載の方法。
(態様14)
前記か焼が400~700℃で30分~180分間行われる、態様1~13のいずれか1つに記載の方法。
(態様15)
前記粉末が、か焼前に加熱して若しくは加熱なしで圧縮される、又はか焼中に圧縮される、態様1~14のいずれか1つに記載の方法。
(態様16)
前記焼結する工程が、900~1250℃の温度、4~12分間の放電プラズマ焼結によって行われる、態様1~15のいずれか1つに記載の方法。
(態様17)
前記焼結する工程が、900~1400℃の温度、30~300分間の熱間等方圧圧縮/熱間圧縮によって行われる、態様1~15のいずれか1つに記載の方法。
(態様18)
前記粉末が、焼結前に加熱して若しくは加熱なしで圧縮される、又は焼結中に圧縮される、態様1~17のいずれか1つに記載の方法。
(態様19)
5~10重量%のナノ結晶正方晶ZrO を含む半透明の前駆体ガラスセラミック材料粉末。
(態様20)
ZrO とSiO との間のモル比は20:80~90:10、好ましくは60:40~80:20の範囲である、態様19に記載の前駆体材料。
(態様21)
ZrO の量は30%(体積%)超である態様19又は20に記載の前駆体材料。
(態様22)
ZrO 球状ナノ結晶の結晶サイズは10nmから50nmの範囲である、態様19~21のいずれか1つに記載の前駆体材料。
(態様23)
非晶質SiO マトリクス中に埋め込まれた単結晶ZrO 球状ナノ結晶の微細構造を有し、ZrO の量は30%(体積%)超である、半透明ガラスセラミック材料。
(態様24)
前記ZrO 球状ナノ結晶の結晶サイズは10nmから400nmの範囲である、態様23に記載の材料。
(態様25)
前記材料中の唯一の結晶相が正方晶ZrO である、態様23又は24に記載の材料。
(態様26)
ZrO とSiO との間のモル比は20:80~90:10、好ましくは60:40~80:20の範囲である、態様23~25のいずれか1つに記載の材料。
(態様27)
前記材料の少なくとも99%が完全に緻密化されている、態様23~26のいずれか1つに記載の材料。
(態様28)
前記材料の曲げ強度は、400MPa超、好ましくは600MPa超であって、その破壊靱性は約2MPa√m超である、態様23~27のいずれか1つに記載の材料。
(態様29)
アモルファスSiO マトリクス中に埋め込まれた単結晶ZrO 球状ナノ結晶の微細構造を有する半透明ガラスセラミック材料を含み、ZrO の量は30%(体積%)超である、歯科用修復材料。



図1
図2a)】
図2b)】
図3
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図11