(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-22
(45)【発行日】2022-05-06
(54)【発明の名称】全体的な翻訳の減少に基づくパーキンソン病の診断
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20220425BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20220425BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20220425BHJP
C07K 16/18 20060101ALN20220425BHJP
C07K 14/705 20060101ALN20220425BHJP
C12N 9/90 20060101ALN20220425BHJP
【FI】
G01N33/68 ZNA
G01N33/53 D
G01N27/62 V
C07K16/18
C07K14/705
C12N9/90
(21)【出願番号】P 2019531381
(86)(22)【出願日】2017-12-14
(86)【国際出願番号】 FI2017050892
(87)【国際公開番号】W WO2018109277
(87)【国際公開日】2018-06-21
【審査請求日】2019-08-09
(32)【優先日】2016-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(73)【特許権者】
【識別番号】513323139
【氏名又は名称】オーボ アカデミー ユニヴァーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フリンクマン、ダニー
(72)【発明者】
【氏名】ホン、イエ
(72)【発明者】
【氏名】デシュパンデ、プラサンナクマール シュリプラカシュ
(72)【発明者】
【氏名】ラウレン、トマス ラッシ - ペッカ
(72)【発明者】
【氏名】ペルトネン、シルック
(72)【発明者】
【氏名】カーシネン、バルッテリ
(72)【発明者】
【氏名】ジェイムズ、ピーター ハイウェル
(72)【発明者】
【氏名】コフィー、エレノア テレーズ
【審査官】草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0244833(US,A1)
【文献】国際公開第2010/005077(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/098786(WO,A1)
【文献】TAYMANS JEAN-MARC ET AL,Deregulation of protein translation control, a potential game-changing hypothesis for Parkinson's disease pathogenesis,TRENDS IN MOLECULAR MEDICINE,2015年,Vol. 21, No. 8,p466-472
【文献】IAN MARTIN,Decoding Parkinson's Disease Pathogenesis: The Role of Deregulated mRNA Translation,JOURNAL OF PARKINSON'S DISEASE,2016年,Vol. 6, No. 1, ,p17-27
【文献】ZHANG TERRY ET AL,11.24 Determination of biomarker proteins for Parkinson's disease using differential quantitative proteomic analysis with clCAT and two-dimensional chromatography on a nanoelectrospray linear-lon trap LC/MS system, MOLECULAR & CELLULAR PROTEOMICS,2004年,Vol. 3, No. 10, Suppl. S144
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
G01N 27/62
C07K 16/18
C07K 14/705
C12N 9/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象におけるパーキンソン病(PD)の診断の補助またはモニタリングをする方法であって、全体的な翻訳レベルの変化について、対象から得られた試料を試験することを含み、全体的な翻訳の減少がPDを示し、
SNX2及び/又はLIMA1発現の減少を全体的な翻訳の減少の指標とし、
更に、以下の発現シグネチャのグループ(1)~(3):
(1)RRS1、TFRC、RASA1、NRAS、KRT36、Q56UQ5、PPIC、TRIM25、JAGN1、WDR36、CSE1LおよびRPL27、
(2)RASA1MX1、APOL2、DBI、ADA1B0GVG8、ERLEC1、TXNL1、TMSB10、CCDC50、BAG3、CHMP4B、EIF2S2、HNRNPH1、NACA、GNL3、PSMC1、ACOX1、TMEM167AおよびASNS、ならびに
(3)RRS1、TFRC、RASA1、NRAS、KRT36、Q56UQ5、PPIC、TRIM25、JAGN1、WDR36、CSE1L、RPL27、MX1、APOL2、DBI、ADA1B0GVG8、ERLEC1、TXNL1、TMSB10、CCDC50、BAG3、RA-SA1、CHMP4B、EIF2S2、HNRNPH1、NACA、GNL3、PSMC1、ACOX1、TMEM167A、ASNS
、FAM120A、ADAR、MAP1A、COL5A、BCL9L、USP7、RECK、CNOT7、NKIRAS1、ARPC5、CPN31、TMEM208、CRIP2、GDI1、USP9X、ADRM1、PEF1、YIF1B、GHITM、CANX、TNS1、OGDH、TNPO1、PEPD、HNRNFA3、MAP4、ALDH18A1、DDX21、DERL1、TPM2、NPM1、CLIC4、HLA-A、CDC41、STT3A、RHOA、CTNNB1、TRAM1、PLS3、SSR3、CTSK、NCBP1、PTRH2、SLC35B2、SF3B3、SLC2A14、SLC2A3、NUCB2、HEL-S-109、SEC61G、CLPTM1、PRMT1、ABCF2、VAMP7、RTCA、AEBP1、CPXM2、S100A16、RRAGD、RRAGC、EHD1、PALLD、CERS2、RPL17、RTN1、RAB8B、RPS15A、PYCR1、RAB5A、LOX、SEC61B、RPL36AL、PAWRおよびAPOL6から選択される遺伝子によりコードされる1種または複数のタンパク質
から選択される少なくとも1つのグループを、全体的な翻訳の減少の指標とする、方法。
【請求項2】
前記PDが孤発性PDである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記グループ(3)は、FAM120A、ADAR、MAP1A、COL5A、BCL9L、USP7、RECK、CNOT7、NKIRAS1、ARPC5、CPN31、TMEM208、CRIP2、GDI1、USP9X、ADRM1、PEF1、YIF1B、CANX、GHITM、CANX、TNS1、OGDH、TNPO1 PEPD、HNRNFA3、MAP4、ALDH18A1、DDX21、DERL1、TPM2、NPM1、CLIC4、HLA-A、CDC41、STT3A、RHOA、CTNNB1、TRAM1、PLS3、SSR3、CTSK、NCBP1、PTRH2、SLC35B2、SF3B3、SLC2A14、SLC2A3、NUCB2、HEL-S-109、SEC61G、CLPTM1、RECK、PRMT1、ABCF2、VAMP7、RTCA、AEBP1、CPXM2、S100A16、RRAGD、RRAGC、EHD1、PALLD、PSMC1、CERS2、RPL17、RTN1、RAB8B、RPS15A、PYCR1、RAB5A、LOX、HNRNPA3、SEC61B、RPL36AL、PAWRおよびAPOL6からなる群から選択された遺伝子によりコードされる1種または複数のタンパク質を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記対象が、G2019Sのキャリアであるか、または孤発性PD患者のサブグループに属する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
対照試料と比較した際の翻訳の変化レベルが、全体的な翻訳の減少を示す、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
翻訳レベルが、選択反応モニタリング(SRM)、多重反応モニタリング(MRM)、並行反応モニタリング(PRM)、データ依存型取得(DDA)またはデータ非依存型取得(DIA)を含む質量分析、代謝標識およびクリックケミストリーからなる群から選択される方法によって評価される抗体をベースとする方法である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
質量分析法または抗体によって定量的または定性的に評価された翻訳後修飾の変化が、翻訳の変化を示す、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記翻訳後修飾の構造の変化が、全体的な翻訳の減少を示す、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記モニタリングが、PDの進行をモニタリングすること、治療に対する反応をモニタリングすること、PDの寛解をモニタリングすること、またはPDの再発をモニタリングすることを含む、請求項1から8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記診断が、前記対象をPDのサブグループに層別化することを含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記試料が、皮膚生検試料、血液試料、細胞試料、組織試料、または体液である、請求項1から10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記試料が、細胞試料である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記細胞
試料が、線維芽細胞および/または血液細胞である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
PDを診断、分類診断またはモニタリングするための、またはPD患者を層別化するためのキットであって、
SNX2及び/又はLIMA1の発現、ならびに
以下のグループ(1)~(3):
(1)RRS1、TFRC、RASA1、NRAS、KRT36、Q56UQ5、PPIC、TRIM25、JAGN1、WDR36、CSE1LおよびRPL27、
(2)RASA1MX1、APOL2、DBI、ADA1B0GVG8、ERLEC1、TXNL1、TMSB10、CCDC50、BAG3、CHMP4B、EIF2S2、HNRNPH1、NACA、GNL3、PSMC1、ACOX1、TMEM167AおよびASNS、ならびに
(3)RRS1、TFRC、RASA1、NRAS、KRT36、Q56UQ5、PPIC、TRIM25、JAGN1、WDR36、CSE1L、RPL27、MX1、APOL2、DBI、ADA1B0GVG8、ERLEC1、TXNL1、TMSB10、CCDC50、BAG3、RA-SA1、CHMP4B、EIF2S2、HNRNPH1、NACA、GNL3、PSMC1、ACOX1、TMEM167A、ASNS、FAM120A、ADAR、MAP1A、COL5A、BCL9L、USP7、RECK、CNOT7、NKIRAS1、ARPC5、CPN31、TMEM208、CRIP2、GDI1、USP9X、ADRM1、PEF1、YIF1B、GHITM、CANX、TNS1、OGDH、TNPO1、PEPD、HNRNFA3、MAP4、ALDH18A1、DDX21、DERL1、TPM2、NPM1、CLIC4、HLA-A、CDC41、STT3A、RHOA、CTNNB1、TRAM1、PLS3、SSR3、CTSK、NCBP1、PTRH2、SLC35B2、SF3B3、SLC2A14、SLC2A3、NUCB2、HEL-S-109、SEC61G、CLPTM1、PRMT1、ABCF2、VAMP7、RTCA、AEBP1、CPXM2、S100A16、RRAGD、RRAGC、EHD1、PALLD、CERS2、RPL17、RTN1、RAB8B、RPS15A、PYCR1、RAB5A、LOX、SEC61B、RPL36AL、PAWRおよびAPOL6から選択される遺伝子によりコードされる1種または複数のタンパク質
から選択される少なくとも1つを、
検出するための試薬を含む、キット。
【請求項15】
PD
の診断の補助、分類診断
の補助またはモニタリングするための、またはPD患者
の層別化の補助をするためのキットの使用であって、前記キットが、
SNX2及び/又はLIMA1の発現、ならびに
以下のグループ(1)~(3):
(1)RRS1、TFRC、RASA1、NRAS、KRT36、Q56UQ5、PPIC、TRIM25、JAGN1、WDR36、CSE1LおよびRPL27、
(2)RASA1MX1、APOL2、DBI、ADA1B0GVG8、ERLEC1、TXNL1、TMSB10、CCDC50、BAG3、CHMP4B、EIF2S2、HNRNPH1、NACA、GNL3、PSMC1、ACOX1、TMEM167AおよびASNS、ならびに
(3)RRS1、TFRC、RASA1、NRAS、KRT36、Q56UQ5、PPIC、TRIM25、JAGN1、WDR36、CSE1L、RPL27、MX1、APOL2、DBI、ADA1B0GVG8、ERLEC1、TXNL1、TMSB10、CCDC50、BAG3、RA-SA1、CHMP4B、EIF2S2、HNRNPH1、NACA、GNL3、PSMC1、ACOX1、TMEM167A、ASNS、FAM120A、ADAR、MAP1A、COL5A、BCL9L、USP7、RECK、CNOT7、NKIRAS1、ARPC5、CPN31、TMEM208、CRIP2、GDI1、USP9X、ADRM1、PEF1、YIF1B、GHITM、CANX、TNS1、OGDH、TNPO1、PEPD、HNRNFA3、MAP4、ALDH18A1、DDX21、DERL1、TPM2、NPM1、CLIC4、HLA-A、CDC41、STT3A、RHOA、CTNNB1、TRAM1、PLS3、SSR3、CTSK、NCBP1、PTRH2、SLC35B2、SF3B3、SLC2A14、SLC2A3、NUCB2、HEL-S-109、SEC61G、CLPTM1、PRMT1、ABCF2、VAMP7、RTCA、AEBP1、CPXM2、S100A16、RRAGD、RRAGC、EHD1、PALLD、CERS2、RPL17、RTN1、RAB8B、RPS15A、PYCR1、RAB5A、LOX、SEC61B、RPL36AL、PAWRおよびAPOL6から選択される遺伝子によりコードされる1種または複数のタンパク質
から選択される少なくとも1つを、
検出するための試薬を含む、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、好ましくは発症前の段階におけるパーキンソン病(PD)の診断に関する。本発明は、例えば、PDを診断する方法、PDの進行をモニタリングする方法、治療に対する反応をモニタリングする方法、または臨床研究のために対象を層別化する方法に利用することができる。
【背景技術】
【0002】
パーキンソン病(PD)は、アルツハイマー病に次いで2番目に多い神経変性疾患であり、ヨーロッパと南北アメリカで最も罹患率が高くなっている。PDに対する治療法は存在しないが、いくつかの有望な介入が臨床試験中であり、長期の対症療法が合併症と関連している。その神経病理学的根拠は完全には理解されていないが、黒質緻密部(SNpc)におけるドーパミン作動性ニューロンの変性が繰り返し示されており、大脳基底核におけるその後のドーパミン放出の減少は、パーキンソン運動症状をもたらす。
【0003】
PDは、孤発性の非遺伝性(症例の95%)および遺伝性(家族性)PDに大別することができる不均一性疾患であり、28のリスク関連変異が知られている1。病理学の重要な特徴には、運動症状、ドーパミン作動性ニューロン死、神経炎性萎縮、ドーパミン枯渇および行動障害が挙げられる。興味深いことに、LRRK2-G2019Sキャリアは、孤発性症例と症状的に区別が付かず2、共通の根本的なメカニズムがある可能性を示唆している。したがって、LRRK2-G2019Sの研究は、より多くの集団の孤発性症例にも関連する見識を提供することが望まれている。
【0004】
PDの症状が現れるまでに、最大80%の脳のドーパミン作動性ニューロンが既に死滅している。これらの死滅したニューロンを交換または再生することは実現可能ではないが、長期前臨床フェーズは、広範囲のニューロン喪失の前に治療的介入の可能性を提供する。新しい推定機構に基づいて治療戦略が提案されているが3、4、PDの確定的なバイオマーカーは認められていない。したがって、治療または予防的処置が行われた際に最大の利益を得ることができるように、発症前の段階でPDを診断するためのバイオマーカーを同定する必要性が満たされていない。
【発明の概要】
【0005】
本発明の目的は、PDを診断するための手段および方法を提供することである。この目的は、独立請求項に記載されていることを特徴とする方法および装置によって達成される。本発明のいくつかの好ましい実施形態は、従属請求項に開示されている。
【0006】
本発明により、最小限の侵襲的な様式で(すなわち、皮膚生検または生検そのものからの線維芽細胞の使用、あるいは血液試料由来の末梢血単核細胞からの線維芽細胞あるいは例えば尿または脳脊髄などの他の体液からの線維芽細胞の使用)、様々な組織型における疾患の検出を可能にする。読み出しは、タンパク質合成レベルの変化の形態で、または疾患に固有のユニークなタンパク質またはペプチドシグネチャの発現の変化による形態であり得る。例に示されているように、読み出しは、孤発性の非遺伝性症例の診断ならびに遺伝性症例の診断に関連している。
【0007】
一態様では、本発明は、対象におけるパーキンソン病(PD)を診断またはモニタリングする方法を提供し、上記方法は、全体的な翻訳の減少について、対象から得られた試料を試験することを含む。全体的な翻訳の減少は、PDを示しており;一方、翻訳の変化がないことは、PDがないことを示している。
【0008】
全体的な翻訳の減少は、様々な形で証明することができる。いくつかの実施形態では、全体的な翻訳の減少の存在は、対照試料と比較した場合の翻訳の変化レベルによって示される。全体的な翻訳レベルの減少は、全体的な発現レベルが減少するように、種々のタンパク質についてのタンパク質発現レベルの増加および減少の組み合わせから生じ得る。翻訳レベルは、例えば、代謝標識およびクリックケミストリーからなる群から選択される方法によって評価され得る。
【0009】
いくつかの他の実施形態では、全体的な翻訳の減少の存在は、ユニークな分子シグネチャの存在によって示される。この方法は、当該シグネチャと、関連する対照のシグネチャとを比較することを含んでも含まなくてもよい。
【0010】
いくつかのさらなる実施形態では、全体的な翻訳の減少の存在は、定量的または定性的のいずれかで評価され得る、翻訳後修飾の変化によって示される。いくつかのさらなる実施形態では、翻訳後修飾の構造の変化は、全体的な翻訳の減少を示す。
【0011】
この方法は、様々な目的でPDをモニタリングするために使用できる。例えば、この方法は、PDの進行をモニタリングすること、治療に対する反応をモニタリングすること、PDの寛解をモニタリングすること、またはPDの再発をモニタリングすることに使用できる。
【0012】
他の態様では、本発明は、本方法の異なる実施形態において使用するためのキットを提供する。上記キットは、全体的な翻訳の減少について試料を試験するための少なくとも1つ以上の試薬を含む。
【0013】
PDを診断、分類診断またはモニタリングするための本キットの使用もまた提供され、上記キットは、全体的な翻訳の減少について試料を試験するための少なくとも1つ以上の試薬を含む。
【0014】
本発明の他の目的、態様、実施形態、詳細および利点は、以下の図面、詳細な説明、および例から明らかになるであろう。
【0015】
以下では、添付の図面を参照しながら好ましい実施形態を用いて本発明をさらに詳細に説明し、添付の図面には、本発明の基礎および2つのフォーマットでの診断への応用が示されている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、LRRK2-G2019S(家族性および孤発性PDと関連するLRRK2の機能獲得型キナーゼ変異体(PARK8))が、リボソームタンパク質をリン酸化し、一方、ミトコンドリアタンパク質のリン酸化は比較的低いことを示す。a)SDS-PAGEゲルの銀染色(l.h.s.)は、リボソーム画分およびミトコンドリア画分からのタンパク質負荷を示す。オートラジオグラフ(r.h.s.)は、予想外に、LRRK2-G2019Sが優先的にリボソームタンパク質をリン酸化することを示す。b)リボソーム画分からのLRRK2-G2019S基質の質量分析による同定。正確なLRRK2-G2019Sリン酸化部位が示されている。これらのデータは、LRRK2-G2019Sがリボソーム機能を調節することを示している。
【
図2】
図2は、パーキンソン病(PD)のロテノンモデルではタンパク質翻訳が損なわれていることを、S35-メチオニン標識を用いて示している。示されるように、海馬ニューロンをロテノン有りまたは無しで処理した。ロテノンは、慢性投与の際にげっ歯類における孤発性PDの特徴を再現する殺虫剤である。ヒトでは、ロテノンへの曝露は、PDを発症するリスクの増加と関連している。これらのデータは、PDにおいてタンパク質合成阻害が生じ、そして病理に寄与し得ることを示している。平均値の標準誤差を示す。
【
図3】
図3は、ロテノンがドーパミン作動性ニューロンおよびBHK21細胞において内因性LRRK2を活性化すること、およびこれがLRRK2-IN1を用いて内因性LRRK2キナーゼ活性の阻害を回復できることを実証する。さらに、LRRK2-G2019Sは、再構成翻訳系におけるタンパク質翻訳を直接損なう。a)LRRK2の活性型を認識するリン酸特異的抗体(LRRK2-S395)を用いてLRRK2活性を推定する。b)(a)に示すように、6回の独立した反復からの定量的データ。c、d)LRRK2キナーゼ活性の阻害が培養細胞中の正常なタンパク質翻訳を回復できるかどうかを決定するために、表示濃度のLRRK2-IN1の存在下または非存在下で、BHK21細胞をロテノン(100nM))の存在下または非存在下処理した。タンパク質翻訳は、AHAを用いた非標準アミノ酸標識、続いて、アルキン-Alexa-488の銅触媒クリック付加を用いて測定した。代表的な蛍光顕微鏡写真(c)および定量的データ(d)を示す。タンパク質翻訳レベルは、1μMのLRRK2-IN1を用いてLRRK2の阻害時に対照レベルに回復する。e)タンパク質合成に対するLRRK2-G2019Sの効果を直接試験するために、精製LRRK2-G2019Sを無細胞翻訳系に添加し、タンパク質翻訳をβ-ガラクトシダーゼの比色産生によって決定した。これらのデータは、LRRK2-G2019Sがタンパク質合成機構を直接損なうこと、および内因性LRRK2活性がロテノン処理に応答してタンパク質合成を抑制することを示している。平均値の標準誤差をプロットする。#、p<0.0001。
【
図4】
図4は、LRRK2キナーゼ阻害剤による処理が、培養中脳のドーパミン作動性ニューロンを、ロテノン誘導性神経突起萎縮から保護することを示す。a)示されるように、中脳培養物を24時間ロテノン(0~100nM)で処理した。ドーパミン作動性ニューロンを同定するために、チロシンヒドロキシラーゼについて培養物を免疫染色した。無傷の神経突起を有するドーパミン作動性、TH陽性細胞の割合を示す。ロテノンは神経突起の用量依存的な喪失を誘導した。2回の独立した実験からの平均データ±標準偏差を示す。1条件につき300を超える細胞を記録した。b)TH免疫染色(緑色)ドーパミン作動性ニューロンを示す代表的な蛍光顕微鏡写真を示す。(c、d)3つの構造的に異なるLRRK2阻害剤、LRRK2-IN1(1μM)、GSK-2578215A(1μM)またはMLi-2(10または50nM)での処理は、ドーパミン作動性ニューロンにおけるロテノン誘発性神経突起の喪失を防止した。(e)阻害剤単独での処理は、無傷の神経突起を有するドーパミン作動性ニューロンの数を変化させなかった。平均値の標準誤差を示す。#、p<0.0001。
【
図5】
図5は、クリックケミストリーおよびレポーターとしてAlexa-fluor-488-アルキンを使用することによって、その内因性LRRK2が初代培養ニューロンにおけるタンパク質翻訳を抑制することを示す。a~f)示されるように、海馬ニューロンをLRRK2阻害剤(LRRK2-IN1またはGSK-2578215A)有りまたは無しで処理した。タンパク質翻訳のレベルは、メチオニン類似体L-アジド-ホモアラニン(AHA)によるニューロンの代謝標識後に測定した。クリック反応を用いて、新生タンパク質をAlexa-fluor-488で共有結合的にタグ付けした。デノボタンパク質合成のレベルは、蛍光強度から推測した。2つの構造的に独立したLRRK2阻害剤での処理は、海馬ニューロンにおけるタンパク質合成のレベルを増加させた(a~f)。タンパク質合成の阻害剤であるアニソマイシンを陰性対照として添加した。平均値の標準誤差を示す。*、p<0.05;**、p<0.01;***、p<0.001。同様に、クリックケミストリーを使用して、経口投与可能なLrrk2の特異的阻害剤(MLi-2)を試験した。g~i)は、LRRK2の高度に特異的な阻害剤であるMLi-2を用いた培養海馬ニューロンの処理がデノボタンパク質合成を増加させたことを示す。g)示された量のMLi-2で処理した海馬ニューロンの代表的な蛍光画像を示す。(h、i)体細胞および樹状突起におけるデノボタンパク質合成のレベルを蛍光強度から推定した。平均値の標準誤差を示す。#、p<0.0001。
【
図6】
図6は、クリックケミストリーを使用して、新しく合成されたタンパク質をAHAで標識している。この知見は、内因性Lrrk2の阻害が、中脳ニューロンの初代培養におけるタンパク質翻訳を増加させることを示している。ドーパミン作動性ニューロンは、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)染色によって可視化される。a)漸増濃度のLrrk2 IN2で処理し、THについて染色した中脳培養物の代表的な画像を示す。b、c)TH陽性細胞およびTH陰性細胞の体細胞におけるタンパク質翻訳を示す。d)中脳培養デノボタンパク質合成に対する、アニソマイシン(翻訳を阻害するための)の効果を、代表的な画像によって示す。e)dからの定量的データを示す。p値は、それらが適用されるデータポイントの上のグラフに表示される。
【
図7】
図7は、同年齢の健常対照と比較して、臨床的に診断されたPD患者から得られた線維芽細胞において、タンパク質翻訳が有意に減少することを示す。a)健常対照(対照)および孤発性PDまたはG2019Sキャリアを有する個人からの線維芽細胞の代表的な蛍光画像。b)患者からの定量的データを示す。平均体細胞強度は、Alexa-488-アルキン蛍光強度を指し、タンパク質翻訳の尺度である。個人の年齢は、ヒストグラムバーの上に表示される。平均値の標準誤差を示す。**、p<0.01;***、p<0.001。
【
図8】
図8は、PD患者および健常個人の細胞から測定されたタンパク質合成のレベルを示す。タンパク質合成レベルは、患者集団において有意に減少している。この減少は、LRRK2阻害剤-2(IN2)またはMLi-2で処理すると線維芽細胞における正常レベルに逆転する。患者は67~75歳だった。平均値の標準誤差を示す。P値、#p<0.0001;***、p<0.001。
【
図9】
図9は、フィンランドのトゥルク大学病院からの別々のコホートからの患者および健常集団におけるタンパク質合成レベルを示す。この場合、推定PD個人からの線維芽細胞は、運動症状を有するが、DAT結合によってまだ診断されていない。a)対照(健常)および推定PD患者のタンパク質合成レベルを、平均値および標準偏差で示す。b)個々のデータは、ヒストグラムバーの上に示される年齢、性別および細胞継代数(pX)で示す。平均値の標準誤差を示す。対照個人(黒色、ヒストグラムバー1~7)、運動症状を有する個人(灰色、ヒストグラムバー8~20)。ほとんどの個人は、タンパク質合成の減少を示している。一人の個人が増加を示している。
【
図10】
図10a)患者および健常個人からの線維芽細胞におけるmRNA翻訳のレベルについての受信者動作特性(ROC)曲線。このデータは、2つのコホート:(NINDs-Coriell)およびトゥルク大学病院(T.U.H.)の全試料を組み合わせたものである。曲線下面積(AUC)は93%であり、患者群におけるタンパク質翻訳のレベルが良好な予測力を提供することを示していた。AUCの有意性(p=0.0002)は、スチューデントのt検定を用いて決定された。効果の大きさは1.86であった。b)ピアソンの相関分析を、同じ患者と対照からの翻訳データについて行った。タンパク質翻訳対年齢を、T.U.H.コホートおよびNINDS-Coriell群について示す。全体的な翻訳の減少は、患者集団内の年齢と負の相関があった。c)PD患者および健常対照に対するピアソンの相関係数(PCC)を示す。健常集団では、翻訳レベルの減少と年齢との間に有意な相関はなく、全体的な翻訳の減少がPDの疾患特異的な特徴であることを示している。
【
図11】
図11は、マルチウェルプレートアッセイにおける蛍光検出を用いたタンパク質合成の測定が、個々の細胞イメージングからの知見を再現することを示す。患者の線維芽細胞(PD1、PD2)および健常個人(C2)を、48ウェルプレート中で、L-アジド-ホモアラニン(AHA)標識に供し、続いてAlexa fluor-488を環状付加に供した。バックグラウンド蛍光(すなわち、20μMアニソマイシンの存在下での蛍光)を差し引いた。マルチウェルアッセイは、蛍光顕微鏡および個々の細胞分析を使用して、同じ患者細胞において観察された減少した翻訳レベルを再現した(
図9)。平均値の標準誤差を示す。
【
図12】
図12は、患者の線維芽細胞および末梢血単核細胞(PBMC)中のデノボ合成タンパク質のタンパク質強度測定値を示す。患者試料は、米国のNINDS-Coriell研究所、ミラノの欧州バイオバンク、およびフィンランドのトゥルク大学病院(T.U.H.)コホートからのものであった。a)AHA標識細胞(線維芽細胞およびPBMC)由来のMS/MS同定新生タンパク質の強度値を示すヒートマップ。アルキン-アガロースビーズへの共有結合後に新生タンパク質を単離した。トリプシン消化後、放出されたペプチドを質量分析法により配列決定し、Maxquantソフトウェアを用いて同定した。非特異的タンパク質結合を測定するための陰性対照として、細胞をAHAの代わりにメチオニンで標識した。これらの結果は、AHA-アルキンビーズ濃縮が、患者細胞由来のデノボ合成タンパク質を単離するために働くことを示している。このアプローチにより、選択反応モニタリングまたは並行反応モニタリングを用いるデータ依存型取得(DDA)を使用するか、またはデータ非依存型取得(DIA)を使用するか、あるいは他の種類の質量分析法を使用する質量分析計を使用して、迅速に定量できる一連のペプチドが得られる。代替的な方法は、単独または多重化された様式で、新規タンパク質に対する抗体を用いたELISAベースの検出を使用することである。b)図の部分は、質量分析法を用いてAHA基が正確に同定された、L-アジド-ホモアラニン(AHA)-標識ペプチドのパネルを示す。これを、AHAの代わりにメチオニンで標識された試料と比較する。これは、上記方法がAHAで標識されたデノボ合成タンパク質を首尾よく同定することを示している。c)AHA標識PBMCおよび線維芽細胞由来の新生タンパク質をビオチン-アルキンへの環状付加により精製し、ストレプトアビジンビーズを用いて精製した。抗ビオチン-HRP抗体を用いたイムノブロッティングを用いてタンパク質翻訳レベルを報告した。得られたシグナルが翻訳によるものであること(およびビーズへの非有意な結合ではないこと)を試験するために、翻訳阻害剤アニソマイシンで処理した試料を含めた。アニソマイシンの存在下ではシグナルは存在せず、新たに合成されたタンパク質に対する標識反応の特異性を示している。
【
図13】
図13は、3つの組み合わされたコホート(NINDS、T.U.Hおよび欧州バイオバンク、表1)からの患者および健常個人についての生強度値を示す。それらは、診断に従って孤発性G2019Sキャリアと健常に分類される。陰性対照は、AHA無しで標識された同じ線維芽細胞由来であり、非特異的バックグラウンドを表す。Log2強度値が示されている。このデータセットでは、1653個のタンパク質グループが同定された。これは、デノボ合成タンパク質の分析によって提供される情報の深さを説明している。すべての患者試料において、タンパク質レベルは、健常個人におけるタンパク質レベルよりも低かった。同等のMS/MS分析のために、HPLCにロードする前にタンパク質レベルを基準化した。これは、これらの試料における全体的な翻訳の減少の過小評価をもたらす。それでも、明らかな減少が見られる。この生強度データからまた明らかなのは、孤発性G2019Sと健常個人との間のシグネチャの違いである。
【
図14】
図14は、孤発性PD患者対健常個人において有意に変化しているデノボ合成タンパク質の比較を示す。試料をコホート(NINDS-Coriell、T.U.H、および欧州バイオバンク)から組み合わせた。タンパク質名をy軸に示し、log2タンパク質強度単位をx軸に示す。個々のボックスは、異なる患者を表す(左から右)。スチューデントのt検定によって孤発性患者と健常個人との間で有意に異なるタンパク質レベル(p値<0.05)のみを示す。
【
図15】
図15は、G2019Sの症例を健常個人と比較した場合に、有意に異なったデノボ合成タンパク質の比較を示す。試料をコホート(NINDS-Coriell、T.U.H、および欧州バイオバンク)から組み合わせた。タンパク質名をy軸に示し、log2タンパク質強度単位をx軸に示す。個々のボックスは異なる患者を表す(左から右)。スチューデントのt検定によってG2019S患者と健常個人との間で有意に異なるタンパク質レベル(p値<0.05)のみを示す。
【
図16】
図16は、強度が健常個人と比較して孤発性PDにおいて有意に変化している32個のタンパク質のシグネチャを示す。このシグネチャは、93%の予測精度で孤発性PDを明確に同定した。患者データを、フィンランド、米国、イタリアの3つの別々の患者群から組み合わせた。対照と比較したLog2タンパク質強度の変化を、グレースケールLUTおよび表2および3に示す。
【
図17】
図17は、強度が健常個人と比較して孤発性PDにおいて有意に変化している14個のタンパク質のシグネチャを示す。このシグネチャは、99%の予測精度で孤発性PDを明確に同定した。患者データを、フィンランド、米国、イタリアの3つの別々の患者コホートから組み合わせた。対照と比較したLog2タンパク質強度の変化を、グレースケールLUTおよび表2および3に示す。
【
図18】
図18は、強度が健常個人と比較して孤発性PDにおいて有意に変化している2個のタンパク質のシグネチャを示す。これら2つのタンパク質SNX2およびLIMA1は、88%の予測精度で孤発性PDを明確に同定した。患者データを、フィンランド、米国、イタリアの3つの別々の患者コホートから組み合わせた。対照と比較したLog2タンパク質強度の変化を、グレースケールLUTおよび表2および3に示す。
【
図19】
図19は、強度が健常個人と比較してG2019S PDにおいて有意に変化している13個のタンパク質のシグネチャを示す。このシグネチャは、98%の予測精度でPDを明確に同定した。患者データを、フィンランド、米国、イタリアの3つの別々の患者コホートから組み合わせた。対照と比較したLog2タンパク質強度の変化を、グレースケールLUTおよび表2および3に示す。
【
図20】
図20は、強度が健常個人と比較してG2019S PDにおいて有意に変化している2個のタンパク質のシグネチャを示す。これら2つのタンパク質ADARおよびFAM120Aは、98%の予測精度でG2019S PD患者を明確に同定した。患者データを、フィンランド、米国、イタリアの3つの別々の患者コホートから組み合わせた。対照と比較したLog2タンパク質強度の変化を、グレースケールLUTおよび表2および3に示す。 表1。この表は、この研究で使用された患者材料をリスト化している。トゥルク大学病院(T.U.H)からローカルに収集されたコホートを使用した。本発明者らはまた、遺伝性疾患に罹患した患者からのNINDSリポジトリからの試料と、細胞株と、DNAバイオバンクとの共有を確認する
5。 表2は、孤発性PD患者に対するタンパク質強度の変化を示す。示されたタンパク質(遺伝子名によって定義される)は、同じタンパク質に対する健常個人からの強度の%として記載されている。健常対照者との同等の一致は100%として示される。患者を表1に記載する。 表3は、G2019S PD患者に対するタンパク質強度の変化を示す。示されたタンパク質(遺伝子名によって定義される)は、そのタンパク質に対する健常個人からの強度の%として記載されている。健常対照者との同等の一致は100%になる。患者を表1に記載する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、少なくとも部分的には、家族性パーキンソン病(PD)の一般的な原因であるロイシンリッチリピートキナーゼ2(LRRK2)における機能獲得型変異(G2019S)の病態メカニズムを詳述することを目的とした研究に基づく。これらの研究は、孤発性非遺伝性PDおよびG2019Sキャリアの両方において、PDが翻訳の減少と関連しているという驚くべき認識をもたらした。したがって、全体的な翻訳の減少の決定または全体的な翻訳の減少から生じるシグネチャの決定は、孤発性および遺伝性PDの両方を診断およびモニタリングする際に使用され得る。
【0018】
本発明者らは、孤発性PDについてより学ぶことを予想して、ニューロンにおけるLRRK2-G2019S機能を同定することに着手した。本発明者らは、LRRK2-G2019Sがリボソームタンパク質をリン酸化することを見出した(
図1aおよびb)。本発明者らは、これがPDに関連しているのかどうか疑問に思ったので、タンパク質合成がPDのロテノンモデルで変化したかどうかを試験した(
図2)。実際、本発明者らは、全体的な翻訳が減少したPDのこのモデルが、S35代謝標識で測定できることを示した。本発明者らは、ニューロンのPDのロテノンモデルをさらに調査し、全体的な翻訳の減少のレポーターとして488-Alexa蛍光色素でのアジド-アルキン環化付加を用いた場合、全体的な翻訳の減少がロテノンによって引き起こされることを同定した(
図3a~d)。さらに、本発明者らは、LRRK2が阻害された条件下で、ロテノン誘導性翻訳低下が逆転したことを示し、これはPDとの機構的関連を示している。また、機能亢進性LRRK2-G2019S PD変異体タンパク質を使用した翻訳の再構成アッセイでは、全体的な翻訳が減少し(
図3e)、PDと翻訳減少との間の関連性がさらに実証された。本発明者らはさらに、ロテノンがドーパミン作動性ニューロンの翻訳を減少させることを示し、その喪失はPDにおける運動機能の障害の特徴を引き起こす。また、ドーパミン作動性ニューロン(チロシンヒドロキシラーゼ(TH)陽性細胞)は、ロテノン処理後に神経突起萎縮を生じた(
図4)。これは、LRRK2の3つの構造的に独立した阻害剤(IN1、GSK2578215AおよびMLi-1)による処理によって防止された(
図4c~e)。これは、全体的な翻訳の減少をもたらすLRRK2活性化が、PDの病理学的特徴であるドーパミン作動性ニューロン神経突起の死滅において因果的役割を果たすことを示した。また、3つの構造的に独立したLRRK2阻害剤は、Alexa-488蛍光読み出しと組み合わせたアジド-アルキン付加環化を用いて測定したように、健康なニューロンにおける翻訳を有意に増加させた(
図5a~i、
図6a~e)。まとめると、これらの結果は、ヒトのPDに関連する薬剤であるロテノンでの処理に基づいて、PDの細胞およびニューロンモデルにおけるLRRK2活性の上昇と全体的な翻訳の減少との間の関連を確立するものである
6。
【0019】
本発明者らは次に、全体的な翻訳の減少が患者試料から測定できるPDの特徴であるかどうかを試験した。本発明者らは、Coriell研究所(NINDS)から入手した、健常個人、孤発性PD症例およびG2019S PD症例由来の皮膚線維芽細胞における翻訳を測定した。これは、LRRK2およびPD病理学に機構的に関連している全体的な翻訳の減少が、孤発性非遺伝性PD患者およびG2019S遺伝性PD患者などの両方からの皮膚生検から得られた末梢細胞からも測定できることを示した(
図7)。
図8は、患者の皮膚細胞における翻訳の減少がLRRK2に依存することを示す。これらのデータは、LRRK2が孤発性PDおよび家族性G2019S PDなどの両方において翻訳を減少させることを示している。
【0020】
全体的な翻訳の減少が、疾患の初期段階でPD患者からの診断的読み出しを提供し得るかどうかを試験するために、フィンランドのトゥルク大学病院でPD患者を募集した。PDの家族歴がない(孤発性と呼ばれる)13名のボランティア患者および7名の健常対照(同年齢の配偶者または兄弟姉妹)が皮膚生検を提供した。上述のようにアジド-アルキン環状付加化学を用いて、これらの生検から増殖させた線維芽細胞から全体的な翻訳を測定できることを示した(
図3~8)。これは、健常個人由来の細胞と比較した場合、全体的な翻訳の減少が、初期段階のPD患者細胞における特徴であることを示した(
図9)。
【0021】
本発明者らは次に、患者データの受信者動作特性(R.O.C.)分析を行い、測定した全体的な翻訳の減少の診断的可能性を決定した。このために、NINDS-Coriell患者群から得られたデータをT.U.H.コホートと組み合わせた(表1)。これは、1.86のサイズ効果および93%の曲線下面積(A.U.C.)を生じた(
図10a)。これは、全体的な翻訳の減少の測定が、例3~8に記載されるように、シクロ付加化学および蛍光レポーターを用いて、健常対照からPD患者を分離するための優れた識別能力を有することを示す。本発明者らは次に、全体的な翻訳の減少が患者集団における年齢と相関することを示した(
図10b)。したがって、より高齢の患者、またはより長い間症状を有する患者は、全体的な翻訳のより大きい減少を示した。健常個人では年齢と負の相関は見出されなかったことに注意する(
図10c)。これは、全体的な翻訳の減少が通常の老化の特徴ではなく、疾患特異的なPDの特徴であることを意味している。これらの結果は、全体的な翻訳の減少の読み出しが、疾患の進行を測定するのに有用である可能性があり、したがって治療中の患者モニタリングの価値を保持すると共に、臨床試験中の新規薬物評価またはドラッグリパーパシングの価値を保持し、ここで薬物はPD症状の緩和または疾患進行の停止に関連する。
【0022】
次に、分光光度計ベースのマルチウェルアッセイを用いて、全体的な翻訳の減少も測定できることを示した(
図11)。これにより、蛍光顕微鏡を用いた例7~8で用いた方法と同等の結果が得られた。マルチウェルアッセイは、PDを定義する読み出しとして翻訳の減少を測定するための診断キットの基礎を形成するために、ハイスループットモードで使用することができる代替の分析方法を提供する。
【0023】
したがって、いくつかの実施形態では、本発明は、全体的な翻訳の減少に基づいて対象におけるPDを診断またはモニタリングする方法を提供し、上記全体的な翻訳の減少はPDを示す。本方法は、当技術分野で利用可能な任意の適切な技術を使用することにより実施することができ、これらには、上述した技術が含まれるが、これらに限定されない。そのような方法を実施するためのキットも提供される。
【0024】
本発明者らは次に、翻訳アウトプットのタンパク質シグネチャを同定し、全体的な翻訳の減少の読み出しとして使用することができることを示した。これらのシグネチャは、PDを健常個人と区別することができる。このために、本発明者らは最初に、アルキンタグアガロースを用いたAHA標識細胞からのデノボ合成タンパク質の単離が、新たに翻訳されたタンパク質を分離するために使用できることを示した。これにより、質量分析を用いて配列決定することができる、患者細胞から新たに合成されたタンパク質の精製試料が得られ、健常対照の試料と比較した場合の各タンパク質の強度はPDにおける全体的な翻訳の減少の詳細なシグネチャを提供した。本発明者らは最初に、この方法が、バックグラウンド干渉の少ないPD患者において新たに翻訳されたタンパク質を正確に同定することを実証した(
図12a)。AHA基を含むペプチドのみにMS/MS検索を限定することにより、本発明者らは、本方法が、全体的な翻訳の減少の詳細なフィンガープリントまたはシグネチャを提供するデノボ合成タンパク質を濃縮するために効率的に機能することを示すことができた(
図12b)。最後に、本発明者らは、抗体ベースの方法を用いて、全体的な翻訳の減少も測定できることを示した(
図12c)。
【0025】
健常対照と比較して孤発性PDおよびG2019S症例の群からの全体的な翻訳の減少のMS/MSシグネチャを測定し続けた(
図13~15)。これらの患者群は、前のようにT.U.H.初期段階PDコホートおよびNINDS-Coriellコホートを含んでいたが、それに加えて、欧州バイオバンクからの患者試料の群を含んでいた。すべての患者試料を表1に記載する。本発明者らは、健常対照と比較して孤発性PDにおいて強度が有意に変化した(増加または減少のいずれか)39個のデノボ翻訳タンパク質を同定した(
図14)。これらのタンパク質の80%が有意に低下した強度を示した。HPLC-MS/MSにより獲得された、強度の減少を特徴とする第1群タンパク質は、(遺伝子名により)LIMA1、CCDC50、TMSB10、MKRN2、DRG2、SNX2、TOMM40、MX1、FABP3、APOL2、TFRC、RRS1、DBI、CSE1L、RPL27、TMEM167、PSMca、HINT1、CHMP4B、EIF2S2、CERS2、HNRNPH1、JAGN1、TRIM25、ASNS、TXNL1m ERLEC1、ACOX1、GNL3、WDR36、およびADAM10であった。20%の有意に増加した強度を有する第2群タンパク質は、(遺伝子名により)Q56UQ5、NRAS、RASA1、KRT36、PPIC、BAG3およびYTHDF3であった。ここに示されているような質量分析法(
図14)による、または抗体ベースなどの他の方法による第1群(減少)または第2群(増加)のタンパク質の測定は、孤発性PDを診断する読み出しとしての全体的な翻訳の減少を決定するための基礎を提供する。
【0026】
したがって、いくつかの実施形態では、本発明は、PDを診断およびモニタリングする方法を提供し、上記方法は、PDに罹患している疑いのある対象由来の試料を、LIMA1、CCDC50、TMSB10、MKRN2、DRG2、SNX2、TOMM40、MX1、FABP3、APOL2、TFRC、RRS1、DBI、CSE1L、RPL27、TMEM167、PSMca、HINT1、CHMP4B、EIF2S2、CERS2、HNRNPH1、JAGN1、TRIM25、ASNS、TXNL1m ERLEC1、ACOX1、GNL3、WDR36、ADAM10からなる群から選択された1種または複数の遺伝子の遺伝子発現の変化の存在について試験またはアッセイすることを含む。Q56UQ5、NRAS、RASA1、KRT36、PPIC、BAG3およびYTHDF3、またはそれらの任意の組み合わせ。より具体的な実施形態では、LIMA1、CCDC50、TMSB10、MKRN2、DRG2、SNX2、TOMM40、MX1、FABP3、APOL2、TFRC、RRS1、DBI、CSE1L、RPL27、TMEM167、PSMca、HINT1、CHMP4B、EIF2S2、CERS2、HNRNPH1、JAGN1、TRIM25、ASNS、TXNL1m ERLEC1、ACOX1、GNL3、WDR36、およびADAM10、またはそれらの任意の組み合わせからなる群から選択された1種または複数の遺伝子の発現減少、および/またはQ56UQ5、NRAS、RASA1、KRT36、PPIC、BAG3およびYTHDF3、またはそれらの任意の組み合わせからなる群から選択された1種または複数の遺伝子の発現増加は、PD、特に孤発性PDを示している。いくつかの好ましい実施形態では、試験またはアッセイされる試料は、線維芽細胞を含む。本方法は、当技術分野で利用可能な任意の適切な技術を使用することにより実施することができ、これらには、上述した技術が含まれるが、これらに限定されない。
【0027】
本発明者らは次に、健常対照と比較してG2019S患者において有意に変化した56種のデノボ翻訳タンパク質強度を同定した。これらのうち、56種中55種のタンパク質は、対照と比較してG2019S症例において強度が有意に減少した。これらは(遺伝子名で)GDI1、USP9X、CRIP2、ADRM1、FAM120A、BCL9L、PEF1、ADAR、YIF1B、CANX、GHITM、CANX、TNS1、OGDH、TNPO1および2、PEPD、HNRNFA3、MAP4、ALDH18A1、DDX21、DERL1、TPM2、NPM1、CLIC4、HLA-A、CDC41、STT3A、RHOA、CTNNB1、TRAM1、PLS3、SSR3、CTSK、NCBP1、PTRH2、SLC35B2、SF3B3、SLC2A14、SLC2A3、NUCB2;HEL-S-109、SEC61G、CLPTM1、RECK、PRMT1、ABCF2、VAMP7、RTCA、AEBP1、CPXM2、S100A16、RRAGD、RRAGC、EHD1であった。強度が増加した1種のタンパク質は、(遺伝子名で)PALLDであった。本明細書に示されるような質量分析法による(
図15)、または抗体ベースなどの他の方法による、タンパク質の減少またはPALLDのレベルの上昇の測定は、孤発性PDを診断する読み出しとしての全体的な翻訳の減少を決定するための基礎を提供する。この読み出しは、家族性PD、特にG2019Sキャリアに関連する。また、孤発性PD患者のサブグループにおける全体的な翻訳の減少の読み出しを提供することができるが、解明されておらず、この方法では患者の層別化に用いることができる。重要なことに、すべての患者および対照試料を、必要な調製工程として、HPLC-MS/MSの前にタンパク質濃度の基準化に供した。
【0028】
したがって、いくつかの実施形態では、本発明は、PDを診断およびモニタリングする方法を提供し、上記方法は、PDに罹患している疑いのある対象由来の試料を、GDI1、USP9X、CRIP2、ADRM1、FAM120A、BCL9L、PEF1、ADAR、YIF1B、CANX、GHITM、CANX、TNS1、OGDH、TNPO1および2、PEPD、HNRNFA3、MAP4、ALDH18A1、DDX21、DERL1、TPM2、NPM1、CLIC4、HLA-A、CDC41、STT3A、RHOA、CTNNB1、TRAM1、PLS3、SSR3、CTSK、NCBP1、PTRH2、SLC35B2、SF3B3、SLC2A14、SLC2A3、NUCB2;HEL-S-109、SEC61G、CLPTM1、RECK、PRMT1、ABCF2、VAMP7、RTCA、AEBP1、CPXM2、S100A16、RRAGD、RRAGC、EHD1およびPALLDまたはそれらの任意の組み合わせからなる群から選択された1種または複数の遺伝子の遺伝子発現の変化の存在について試験またはアッセイすることを含む。より具体的な実施形態では、GDI1、USP9X、CRIP2、ADRM1、FAM120A、BCL9L、PEF1、ADAR、YIF1B、CANX、GHITM、CANX、TNS1、OGDH、TNPO1および2、PEPD、HNRNFA3、MAP4、ALDH18A1、DDX21、DERL1、TPM2、NPM1、CLIC4、HLA-A、CDC41、STT3A、RHOA、CTNNB1、TRAM1、PLS3、SSR3、CTSK、NCBP1、PTRH2、SLC35B2、SF3B3、SLC2A14、SLC2A3、NUCB2;HEL-S-109、SEC61G、CLPTM1、RECK、PRMT1、ABCF2、VAMP7、RTCA、AEBP1、CPXM2、S100A16、RRAGD、RRAGC、およびEHD1、またはそれらの任意の組み合わせからなる群から選択された1種または複数の遺伝子の発現減少、および/またはPALLDの発現増加は、PD、特に家族性PDを示している。いくつかの好ましい実施形態では、試験またはアッセイされる試料は、線維芽細胞を含む。本方法は、当技術分野で利用可能な任意の適切な技術を使用することにより実施することができ、これらには、上述した技術が含まれるが、これらに限定されない。
【0029】
シグネチャが使用される臨床診断の現場では、より少ない数の機能が、より多くの機能を持つシグネチャよりも有利になる可能性がある。したがって、本発明者らは、孤発性およびG2019S PDのシグネチャにおける疾患定義特徴の数を減らすために、機械学習を適用した。孤発性PDのパネル内の特徴の数を39から32に減らすことによって、93%の予測精度を得た。このシグネチャを
図16に示す。以下のタンパク質(遺伝子名によって記載される)MX1、APOL2、SNX2、RRS1、DBI、AOA1BOGVG8、LIMA1、ERLEC1、TSNL1、TFRC、JAGN1、TMSB10、CCDC50、CHMBP4B、EIF2S2、CERS2、HNRNPH1、NACA、GNL3、WDR36、PSMC1、ACOX1、TMEM167A、RPL27、TRIM25、ASNSおよびCSE1Lのレベルの減少は、孤発性PDを診断するための手段として全体的な翻訳の減少を実証するために使用することができ、NRAS、RASA1、KRT36、PPICまたはBAG3のレベルの増加は、予測力に寄与する。
【0030】
したがって、いくつかのさらなる実施形態では、本発明は、PDを診断およびモニタリングする方法を提供し、上記方法は、PDに罹患している疑いのある対象由来の試料を、MX1、APOL2、SNX2、RRS1、DBI、AOA1BOGVG8、LIMA1、ERLEC1、TSNL1、TFRC、JAGN1、TMSB10、CCDC50、CHMBP4B、EIF2S2、CERS2、HNRNPH1、NACA、GNL3、WDR36、PSMC1、ACOX1、TMEM167A、RPL27、TRIM25、ASNS、CSE1L、NRAS、RASA1、KRT36、PPICまたはBAG3、あるいはそれらの任意の組み合わせからなる群から選択された1種または複数の遺伝子の遺伝子発現の変化の存在について試験またはアッセイすることを含む。より具体的な実施形態では、MX1、APOL2、SNX2、RRS1、DBI、AOA1BOGVG8、LIMA1、ERLEC1、TSNL1、TFRC、JAGN1、TMSB10、CCDC50、CHMBP4B、EIF2S2、CERS2、HNRNPH1、NACA、GNL3、WDR36、PSMC1、ACOX1、TMEM167A、RPL27、TRIM25、ASNSおよびCSE1L、またはそれらの任意の組み合わせからなる群から選択された1種または複数の遺伝子の発現減少、および/またはNRAS、RASA1、KRT36、PPICおよびBAG3、またはそれらの任意の組み合わせからなる群から選択された1種または複数の遺伝子の発現増加は、PD、特に孤発性PDを示している。いくつかの好ましい実施形態では、試験またはアッセイされる試料は、線維芽細胞を含む。
【0031】
次に、2倍の変化(対照と比較して増加または減少)の閾値カットオフを課し、モデルのさらなるトレーニングを行い、特徴の数を14に減らした。このシグネチャは、孤発性PDにおいて強度が増加したRRS1、RASA1、KRT36、Q56UQ5、PPICおよびNRASならびに対照と比較して強度が減少したSNX2、TFRC、LIMA1、TRIM25、JAGN1、WDR36、CSE1LおよびRPL27を含み、孤発性PDを健常個人と区別するための98%の予測精度を有する(
図17)。孤発性予測には、タンパク質シグネチャの総当たり一対比較を使用した。得られたペアのシグネチャは、88%の予測精度でSNX2とLIMA1であった。SNX2レベルの減少は、孤発性PDを健常対照と単独で区別することができるタンパク質であった。したがって、
図17および
図18のシグネチャ(強度レベルが対照と2倍を超えて異なる場合)またはSNX2レベルの減少単独は、孤発性PDの診断方法として全体的な翻訳の減少を定義することができる。
【0032】
したがって、いくつかのさらなる実施形態では、本発明は、PDを診断およびモニタリングする方法を提供し、上記方法は、PDに罹患している疑いのある対象由来の試料を、RRS1、RASA1、KRT36、Q56UQ5、PPIC、NRAS、SNX2、TFRC、LIMA1、TRIM25、JAGN1、WDR36、CSE1LおよびRPL27、またはそれらの任意の組み合わせからなる群から選択された1種または複数の遺伝子の遺伝子発現の変化の存在について試験またはアッセイすることを含む。いくつかのより具体的な実施形態では、SNX2、TFRC、LIMA1、TRIM25、JAGN1、WDR36、CSE1LおよびRPL27、またはそれらの任意の組み合わせからなる群から選択された1種または複数の遺伝子の発現減少、および/またはRRS1、RASA1、KRT36、Q56UQ5、PPICおよびNRAS、またはそれらの任意の組み合わせからなる群から選択された1種または複数の遺伝子の発現増加は、PD、特に孤発性PDを示している。好ましくは、本方法は、SNX2およびLIMA1レベルの減少、またはさらにSNX2レベルの減少のみに基づくことができる。いくつかの好ましい実施形態では、試験またはアッセイされる試料は、線維芽細胞を含む。
【0033】
次に、G2019S PDのシグネチャ読み出しの特徴の数を減らすためにモデルトレーニングを使用した。対照と比較して2倍変化したタンパク質のみを含めた。これにより、16種の特徴および98%の予測精度を有するシグネチャが得られた(
図19)。これには、対照と比較して強度が減少したタンパク質MAP1A、COL5A1、BCL9L、USP7、RECK、FAM120A、CNOT7、NKIRAS1、ADAR、ARPC5、CPNE1、TMEM208および強度が増加した1種のタンパク質CRIP2が含まれた。本発明者らは、G2019S PDについて疾患を規定するタンパク質の最良の対を見出すために、総当たり一対比較を使用した。これにより、98%の予測精度を有する最良のペアとしてFAM120AおよびADARが同定された。
【0034】
したがって、いくつかのさらなる実施形態では、本発明は、PDを診断およびモニタリングする方法を提供し、上記方法は、PDに罹患している疑いのある対象由来の試料を、MAP1A、COL5A1、BCL9L、USP7、RECK、FAM120A、CNOT7、NKIRAS1、ADAR、ARPC5、CPNE1、TMEM208およびCRIP2、またはそれらの任意の組み合わせからなる群から選択された1種または複数の遺伝子の遺伝子発現の変化の存在について試験またはアッセイすることを含む。いくつかのより具体的な実施形態では、MAP1A、COL5A1、BCL9L、USP7、RECK、FAM120A、CNOT7、NKIRAS1、ADAR、ARPC5、CPNE1、およびTMEM208、またはそれらの任意の組み合わせからなる群から選択された1種または複数の遺伝子の発現減少、および/またはCRIP2の発現増加は、PD、特にG2019S PDを示している。好ましくは、本方法は、FAM120AおよびADARレベルの減少に基づくことができる。いくつかの好ましい実施形態では、試験またはアッセイされる試料は、線維芽細胞を含む。
【0035】
図14および15のシグネチャは、孤発性(
図14)およびG2019S(
図15)PDにおいて有意に変化した翻訳(上で定義された通り)のタンパク質強度変化を列挙する。
図16、17および18のシグネチャは、その強度が孤発性PDを定義するタンパク質を列挙する。
図19および20のシグネチャは、その強度がG2019S PDを定義するタンパク質を列挙する。将来的には、これらのシグネチャは、新しい対照試料を必要とせずに、患者試料を診断するために同じモデル内で適用することができる。対照レベルは、モデルによって既に設定されている。あるいは、これらのシグネチャは、新しい患者または対照試料が利用可能である際に、予測がさらに改善されるように、さらにトレーニングすることができる。本発明者らは、試料を2つのサブグループに分割することによって、線形回帰モデルを試験し;このサブグループは、確定的に診断されたPD(DAT結合不全)症例と健常対照のみからなるトレーニングセットおよびトレーニングされたモデルが試験される群である。結果は、高水準の神経学的診断に準拠していた。これは、現在の状態で、3つの独立したサイト(米国、フィンランドおよびイタリア)からのデータを学習したモデルが、PD患者の診断を支援するための貴重な試験を提供することを示している。
【0036】
例10~14に記載のシグネチャを、デノボ翻訳タンパク質の測定に基づいて同定した。しかし、それらの使用は、そのような試料の分析に限定されない。これらのシグネチャは、粗細胞溶解物、組織生検または体液からの測定にも同様に使用できる。明らかに、PDにおいて全体的な翻訳が減少した場合、(上記のように)粗試料からの単純な測定値はまた、翻訳の減少を示す。そのような実施形態では、SRM、PRM、MRM、DDAまたはDIAなどの質量分析アッセイが適切である。これらの方法または抗体法を用いて、これらのシグネチャを検出することができ、またはこれらのリストからのタンパク質の新たな組み合わせを検出して、新しいシグネチャを生成することができ、またはこれらのリストからの単一タンパク質を使用して、PDの読み出しとしての全体的な翻訳の減少を定義することができる。
【0037】
本明細書の例(10~14)は、孤発性およびG2019S PDが、新たに翻訳されたタンパク質の別個のシグネチャによって特徴付けられ得ることを実証する。PDは異質性疾患であるため、これはこれら2つの患者群の根本的な病態メカニズムの違いを表すことができる。これらのプロファイルを用いて、孤発性PDをG2019S PDと区別することができる。この方法では、これらのシグネチャを用いて、疾患のモニタリングまたはカスタム治療の定義に関して患者を層別化することができる。これらのシグネチャはまた、PDのサブタイプを定義するのにも役立つ。この例として、階層的クラスタリングは、患者群内のいくつかのさらなる層別化を明らかにする(
図14~20)。
【0038】
PDの指標として全体的な翻訳の減少を測定することは、例1~8に示すように、疾患過程自体に基本メカニズムを有する診断試験である。これは、「連座の誤謬」の論理に依存するバイオマーカーアッセイとは対照的である。PDベースのバイオマーカーアッセイは、遺伝子スクリーニングに基づいて提案されることが多い。しかし、PDの遺伝型は症例のごくわずかな割合(約5%)しか占めていないため、臨床の現場では、PDの家族歴が知られていない限り、PDの遺伝子検査は診断プロセスの一部ではない
4。したがって、例えば、LRRK2-G2019S変異についてスクリーニングすることによるPDの診断は、PDの家族歴を有する症状のある患者における診断を補助するために有用であることのみが示されている
7。全体的な翻訳の減少に基づく本発明者らの読み出しは、例により示されるように、患者のこのサブグループに制限されない。それは、孤発性PD症例とLRRK2-G2019S症例の両方の疾患を定義するためにうまく機能する。興味深いことに、この読み出しの徴候、すなわち
図16~10のシグネチャは、これらの患者群が分子的に異なる翻訳プロファイルを有することを示している。
【0039】
本明細書中で使用される場合、「PDを示す」という用語は、全体的な翻訳の減少に適用される場合、信頼水準を最小95%に設定する通常の統計的方法を用いて、検出された翻訳レベルが、PDまたは他の段階のPDを有さない対象よりも、PDまたはある段階のPDを有する対象おいて有意に頻繁に見出されるように、PDまたはある段階のPDの診断である翻訳レベルを意味する。好ましくは、PDを示す翻訳レベルは、疾患を有する対象の少なくとも80%に見られ、疾患を有さない対象の10%未満に見られる。より好ましくは、PDを示す翻訳レベルは、疾患を有する対象の少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、またはそれ以上に見られ、疾患を有さない対象の10%未満、8%未満、5%未満、2.5%未満、または1%未満に見られる。
【0040】
したがって、「全体的な翻訳の減少」という用語は、関連する対照試料と比較して、定量的に変化したタンパク質合成を意味することができる。いくつかの実施形態では、上記全体的な翻訳の減少は、翻訳障害を意味する。本明細書中で使用される場合、「翻訳」および「タンパク質合成」という用語は、交換可能である。あるいは、病状に固有の一連のシグネチャタンパク質またはペプチドを、全体的な翻訳の減少の定性分析に使用してもよい。
【0041】
本明細書中で使用される場合、「翻訳障害」という用語は、関連する対照試料と比較して、試料中の翻訳レベルの減少または低下を意味する。それはまた、新規のタンパク質またはペプチドの産生を含むか、または代替の読み枠の使用を引き起こし得る。上記減少は、当該分野で公知の標準的な方法を用いて決定され得る。試料中の翻訳レベルが、対照試料中の翻訳レベルよりも、例えば、少なくとも約1.5倍、1.75倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、8倍、9倍、10倍、20倍または30倍低い場合、翻訳は減少する。いくつかの実施形態では、「翻訳障害」という用語は、関連する対照のレベルと比較して、翻訳レベルの統計的に有意な減少を意味する。好ましい実施形態では、線維芽細胞および血液試料、ならびに尿、唾液および脳脊髄液を含むがこれらに限定されない他の体液を用いて、翻訳障害を測定することができる。
【0042】
翻訳の定量的評価は、細胞が合成するタンパク質の量の決定、または細胞内の翻訳レベルの決定を意味し、それは、細胞によって合成されるタンパク質の総量、または診断シグネチャとして定義することができるものなどのその任意の適切なサブフラクションに関し得る。「レベル」および「量」という用語は、絶対量または相対量を意味することができる。
【0043】
生物学的試料中の翻訳レベルは、当業者には容易に明らかであるように、種々の技術によって決定され得る。例えば、代謝標識は、生細胞の内因性合成および修飾機構によって分子をデノボ合成タンパク質に組み込むために使用され得る。これは、典型的には、その放射性崩壊(例えば、S35-メチオニン)により直接検出されるか、またはタグへの共有結合により検出され得るアミノ酸の存在下で細胞を培養することにより行われる。そのような目的のための適切な標識の非限定的な例には、顕微鏡法または分光法などの定量的蛍光検出法および他のバイオ共役技術のためのAlexa色素などの蛍光標識(例えば
図3、4、6、7、8、9、10、11)が含まれる。
【0044】
あるいは、クリックケミストリーを用いて、細胞内の全体的な翻訳の減少の有無を決定することができる。いくつかの実施形態では、クリックケミストリーは、L-アジド-ホモアラニン(AHA)またはホモプロパルギルグリシン(HPG)などのアジドまたはアルキレンを有するメチオニン類似体の生合成的取り込みに基づいてもよい。得られたアジド-またはアルキレン-標識タンパク質は、蛍光検出用の試薬を用いた銅-I-触媒アルキン-アジド環状付加(CuAAC)(例えば、
図3、4、6、7、8、9、10、11)によって、またはアルキン-アガロースを用いたアフィニティー精製および質量分析法による同定(例えば、
図12、13、14、15、16、17、18、19、20)によって、あるいはアルキン-ビオチン-ニュートラアビジン-セファロース共役の使用および抗ビオチン抗体または質量分析法を用いた検出(例えば
図12)によって検出することができる。組み込まれたAHAの可視化はまた、例えばFUNCAT(蛍光非古典的アミノ酸標識付け)と呼ばれるアプローチを使用した従来の蛍光顕微鏡検査により行うことができる。
【0045】
さらに、抗体は、異常に翻訳されたタンパク質を同定するために利用され得るか、あるいは翻訳開始の阻害剤(例えばハリングトニン)またはトランスロケーションの阻害剤(例えばシクロヘキシミド)の使用は、対象の新生タンパク質のN末端ペプチドを濃縮するために用いられ得る。
【0046】
いくつかの実施形態では、全体的な翻訳の減少はまた、代替のオープンリーディングフレームの使用または翻訳後修飾の変化から生じる全体的な翻訳の減少を示すシグネチャ分子、あるいは翻訳ブロックの正確なメカニズムが未知の場合でさえ、全体的な翻訳の減少を示すシグネチャに基づいて定性的に決定することができる。シグネチャを測定するための適切な方法は、疾患に関連する診断または予測情報を提供する翻訳生成物の質量分析選択的反応モニタリング(SRM)アッセイ、多重反応モニタリング(MRM)または並行反応モニタリング(PRM)アッセイ(ならびにDDAショットガンまたはDIAアプローチ)を含むことができる。さらに、全体的な翻訳の減少を検出するための抗体ベースの方法、例えばELISAを使用して、全体的な翻訳の減少から生じ、病状の特徴または予測である「シグネチャ」を指定する単一のタンパク質またはタンパク質群を測定することができる。
【0047】
翻訳レベルが疾患を示しているかどうかを決定するために、関連する対照における翻訳レベルを決定しなければならない。一旦対照レベルが分かると、決定された翻訳レベルをそれと比較することができ、標準的な統計的方法を用いて差異の有意性を評価することができる。本開示のいくつかの実施形態では、決定された翻訳レベルと対照レベルとの間の統計的有意差は、PDを示す。いくつかのさらなる実施形態では、対照と比較する前に、標準的な方法を用いて翻訳レベルを基準化する。
【0048】
新規タンパク質アイソフォームの産生の場合、本方法は対照試料を参照せずに使用することができる。想定される検出方法には、質量分析、ELISA型抗体認識による検出、または固有の翻訳産物の酵素活性の測定による検出が挙げられる。
【0049】
同様に、所与の分子シグネチャが疾患を示しているかどうかを決定するためには、関連する対照における対応するシグネチャを決定しなければならない。一旦対照シグネチャが分かると、決定されたシグネチャをそれと比較することができる。上記シグネチャ間の違いは、疾患を示し得る。しかし、固有のシグネチャはまた、非比較的または絶対的な方法で、すなわち、対照シグネチャと比較しなくても、全体的な翻訳の減少の指標として使用され得る。
【0050】
本明細書中で使用される場合、「対照」という用語は、見かけ上の健常個人または見かけ上の健常個人のプールから得られた対照試料を意味することができ、あるいはPDの有無を示す所定の閾値または分子シグネチャを意味することができる。適切な閾値を決定するための統計的方法は、当業者には容易に明らかであろう。対照または閾値、ならびに対照シグネチャは、必要に応じて、同年齢の対象の試料、人口統計学的特徴、および/または疾患状態などから決定されてもよい。対照または閾値、あるいは対照シグネチャは、PDに罹患していない単一の個人に由来してもよく、またはそのような複数の個人からプールされた値であってもよい。
【0051】
本明細書中で使用される場合、「見かけ上の健常」という用語は、PDの徴候を示さず、したがってPDに罹患していないと考えられるおよび/またはPDを発症しないと予測される個人または個人のプールを意味する。
【0052】
本明細書中で使用される場合、「対象」という用語は、動物、好ましくは哺乳動物、さらに好ましくはヒトを意味する。問題の実施形態に応じて、上記対象は、診断の有無にかかわらずPDに罹患している、PDに罹患していると疑われる、PDのリスクがある、または既にPDの治療を受けている可能性がある。本明細書では、「ヒト対象」、「患者」および「個人」という用語は、交換可能である。
【0053】
本明細書中で使用される場合、「試料」という用語は、生物学的試料、典型的には、対象から得た、例えば、皮膚試料などの組織試料、皮膚細胞試料(例えば、皮膚線維芽細胞試料)などの細胞試料、あるいは皮膚穿孔または皮膚剃毛、あるいは尿、血液、血漿または血清などの体液の試料であり得る臨床試料を意味する。一般に、分析される試料を対象から得ることは、本発明の方法の一部ではなく、したがって、インビトロ法と見なすことができる。好ましい試料には、皮膚生検または生検そのものからの線維芽細胞、あるいは血液試料由来の末梢血単核細胞からの線維芽細胞または血液から単離されたエキソソームからの線維芽細胞が挙げられる。結果として、本発明の方法は、最小の侵襲様式で行われ得る。
【0054】
本発明は様々な方法で行うことができる。第一に、全体的な翻訳の減少をPDの診断に使用することができる。本明細書中で使用される場合、「診断」という用語は、対象がPDに罹患しているか否かを決定することを目的とするプロセスを意味するが、これらに限定されない。これはまた、PDの存在またはPDの段階が最終的に決定されないが、さらなる診断試験が保証される事例を含むことを意味する。そのような実施形態では、本方法は、それ自体では対象におけるPDの有無、またはPDの段階を決定するものではないが、さらなる診断試験が必要であるかまたは有益であることを示すことができる。したがって、本方法は、対象におけるPDの有無、またはPDの段階の最終決定のための1種または複数の他の診断方法と組み合わせることができる。そのような他の診断方法は、当業者にはよく知られており、[125I]FP-CITおよび質量分析を用いた陽電子放射断層撮影(PET)または単一光子放射断層撮影(SPECT)スキャンなどの神経学的検査および脳スキャンが挙げられるが、これらに限定されない。質量分析は、タンパク質または一連のタンパク質(または消化によって産生されるそれらのペプチド産物)の絶対的または相対的発現レベルの変化を検出するために使用され得る。これは、タンパク質の選択的スプライシングの変化、それらの翻訳後修飾、または翻訳後修飾自体の構造の変化(例えば、O-またはN-結合型グリコシル化ペプチドのグリカン構造の変化)を含むと解釈されるべきである。
【0055】
重要なことに、本発明は、好ましくは前駆期に、またはドーパミン作動性ニューロンのいかなる有意な損失の前に、PDの早期検出または診断を可能にする。PDの早期診断は早期治療を可能にし、したがって進行を遅らせる可能性がある。さらに、早期診断により、対象は、進行を遅らせることまたは症状を軽減することを目的とした適切な措置を講じることが可能になる。そのような措置の非限定的な例には、健康的な食事療法および身体運動が含まれる。
【0056】
本明細書中で使用される場合、「前駆」という用語は、うつ、睡眠障害および便秘(腸管障害)などの症状がある疾患発症の初期段階を意味する。このような症状は、PDを定義するものではない。前駆期の症状は、運動症状、すなわちまだ疾患を定義するものではない古典的なPD症状に先行する。本発明の好ましい実施形態では、PDは、前駆期、または運動症状の発症後であるが古典的なPD診断の前に診断される。
【0057】
いくつかの実施形態では、本方法は、PDのサブグループを定義するために、すなわち対象をPDサブグループに層別化するために使用され得る。
【0058】
いくつかの実施形態では、生物学的試料は、治療前、治療中、または治療後の様々な時点で対象から取得することができる。次いで、生物学的試料中の翻訳レベルを決定し、異なる時点で同じ対象から得た生物学的試料中の翻訳レベルと比較するか、または例えばPD状態が吉であり、および/または上記治療にさらされていない個人由来の基準試料から得られた対照レベルと比較する。いくつかの実施形態では、見かけ上の健常個人のプールから得られた所定の基準値を、上記比較における対照レベルとして使用することができる。
【0059】
したがって、本発明は、診断目的だけでなくPDのモニタリングにも使用することができる。本明細書中で使用される場合、「モニタリング」という用語は、対象の病状またはPDの進行を経時的にモニタリングすること、ならびに疾患の可能性のある寛解または再発、あるいは治療に対する反応をモニタリングすることを含む。上記モニタリングは、翻訳レベルを連続的に評価すること、および/または医学的試験を繰り返し実施することによって行われ得る。本発明のいくつかの実施形態では、対象の病状は、試料を繰り返し取得し、全体的な翻訳の減少について試料をアッセイし、アッセイの結果を互いにおよび基準値と比較することによってモニタリングされ、対象の病状の変化を同定する。本発明のこれらの態様のいずれかは、神経学的検査および脳スキャンを含むがこれらに限定されない他の診断試験と組み合わせて使用することができる。
【0060】
いくつかの実施形態では、現在知られている、または将来の予防および/または治療計画を、本方法によってPDと診断された対象に処方および/または施すことができる。したがって、PDを有する対象、またはPDの危険性が高い対象を同定し、次いで、上記対象に予防的または治療的計画を処方するための方法が提供される。したがって、いくつかの実施形態は、対象におけるPDのリスクを低減する方法またはPDを治療する方法に関し得る。いくつかのさらなる実施形態では、そのような方法は臨床試験の状況で行うことができる。
【0061】
したがって、本発明はまた、臨床研究のために参加者を層別化するために使用され得る。初期段階の患者の治療に最も効果的なProSavin(OXB101)と呼ばれるオックスフォード・バイオメディカの遺伝子治療を使用するか、病状が進行した患者を対象としたより高用量の薬物であるOXB102を使用するかを選択できる。
【0062】
さらに、本発明は、細胞内の正常な翻訳を回復するのに適した薬物を同定するための薬物スクリーニングにおいて利用することができる。例えば、化合物ライブラリーは、当該分野で公知の任意の標準的な技術によって、PDを有する対象から得られた皮膚線維芽細胞の培養物などの全体的な翻訳の減少を示す細胞培養物上に候補化合物を適用し、翻訳レベルにおける変化について化合物を分析することによって、全体的な翻訳の減少のモジュレーターについてスクリーニングすることができる。薬理学的手段による基準化翻訳または全体的な翻訳の減少の軽減は、PDを予防、治癒、改善または軽減すると予想される。
【0063】
本発明はまた、対象におけるPDを診断またはモニタリングするのに使用するためのキットを提供する。上記キットは、本明細書に開示されるように、タンパク質翻訳を評価するために必要な任意の試薬または試験剤を含み得る。当業者は、問題の実施形態の詳細および上記評価を行うための所望の技術に応じて含まれるべき試薬を容易に決定することができる。いくつかの実施形態では、適切な対照試料または閾値がキットに含まれ得る。キットはまた、本開示の方法のうちのいずれかを行うためのコンピュータ実行可能命令を含むコンピュータ可読媒体を含み得る。
【0064】
当業者に明らかなように、開示された方法の任意の実施形態、詳細、利点などは、上記方法で使用するためのキットを含む本発明の他の態様に適宜適用され、その逆も同様である。
【0065】
技術が進歩するにつれて、本発明の概念が様々な方法で実施され得ることは当業者には明らかであろう。本発明およびその実施形態は、上述の例に限定されるものではなく、特許請求の範囲内で変更することができる。
【0066】
実験部分
すべての患者試料は、トゥルク大学およびNINDSリポジトリ(米国)から、倫理的ガイドラインに従って適切な許可およびインフォームドコンセントを得て入手した。
【0067】
すべての動物実験は、フィンランドの動物実験委員会によって確立された動物の世話および使用における倫理的行動のためのガイドラインに従って適切な許可を得て行われた(Elainkoelautakunta、許可、決定#1897)。
【0068】
例1。LRRK2-G2019S基質はリボソームが豊富である。
【0069】
目的。脳内のLRRK2の機能はほとんど知られていないままであるが、LRRK2はミトコンドリアや他の小胞構造に局在することが示されている8。本発明者らの予備的知見は、LRRK2がリボソームと共に機能することを示唆した。したがって、本発明者らは、LRRK2-G2019S基質がミトコンドリアまたはリボソームで濃縮しているかどうかを決定することに着手した。本発明者らは、潜在的な基質の供給源として精製オルガネラ、およびPDに関連するLRRK2の活性変異体としてLRRK2-G2019Sを用いてインビトロキナーゼアッセイを行った。
【0070】
方法。ミトコンドリア画分およびリボソーム画分を、修飾を伴って以前に記載されているように9、10、ラット脳から単離した。14日齢のラット脳を、プロテアーゼ阻害剤(1μg/mlロイペプチン、ペプスタチンおよびアプロチニンおよび100μg/ml PMSF)を添加した12mlホモジナイズ緩衝液(300mMスクロース、10mM HEPES、pH7.4、0.1mM EGTA、2mM EDTA)中でホモジナイズした。溶解物を20分間氷上に保った。次いで、未破壊細胞および核を、4℃でEppendorf 5804R遠心分離機で10分間、2800xgavgで遠心分離することにより除去した。SW41TiローターおよびBeckman L90K超遠心機を使用して、上清1(S1)を4℃で10分間、22,000xgavgで遠心分離した。これにより、ミトコンドリアペレット2(P2)を得た。残りの上清2(S2)を4℃で8時間、100,000xgavgで遠心分離して、リボソームおよび上清3(S3)を含むペレット3(P3)を得た。
【0071】
リボソームおよびミトコンドリアにおけるLRRK2基質の相対的濃縮度を比較するために、以下のように画分のインビトロリン酸化を行った-P7ラット脳からのP2ミトコンドリア画分およびP3リボソーム画分を、等容量(300~400μl)のプロテアーゼ阻害剤(1μg/mlロイペプチン、ペプスタチンおよびアプロチニンおよび100μg/ml PMSF)およびを1% IGEPAL添加した溶解緩衝液(20mM MOPS、pH7.2、2mM EGTA、2mM EDTA、10%グリセロール、1mMベンザミジン)に再懸濁した。氷上で5分後、溶解物を27Gシリンジを用いて8ストロークでホモジナイズし、次いで4℃で16,000×gで遠心分離した。タンパク質から内因性リン酸を除去するために、上清に0.1mM ZnCl
2および2.5 Uの南極ホスファターゼ(ニュー・イングランド・バイオラボ社)を添加し、37℃で2時間インキュベートして、共有結合したリン酸を除去した。次いでホスファターゼを65℃で10分間不活性化した。溶解物を、バイオ・ラッド社からのマイクロバイオスピンカラム(カタログ番号732-6223)を用いて脱塩した。LRRK2基質を可視化するために、インビトロキナーゼアッセイを行った。キナーゼ反応は、ATP(2mM)、MgCl
2(10mM)および0.0.9μg/100μl(44.12nM)のLRRK2-G2019S(インビトロジェン社、カタログ番号PV4881)を添加することによって開始した。5μCiのγ-[
32P]ATPを反応に含めて、リン酸取り込みの効率をモニターした。LRKK2反応物を30℃で1時間インキュベートし、そしてLaemmli緩衝液を添加することにより停止させた。放射標識ATPとの反応を、SDS-PAGE、続いてクマシー染色によって分離し、リン酸取り込みをオートラジオグラフィーによって可視化した(
図1上パネル)。放射性ATPを含まないリン酸化反応を並行して調製した。これらの非放射性試料を、潜在的なLRRK2-G2019S基質を同定するためにTiO2濃縮、続いてMS/MS検出(下記に記載)に供した。
【0072】
質量分析を用いたLRRK2基質の同定。200μgのLRRK2-G2019Sリン酸化タンパク質(上記)を12%ポリアクリルアミドゲル上で分離し、次いで染色し、脱色し、10片にスライスした。次いで、試料を還元し、アルキル化し、ACNで脱水した後、50mM AMBIC中の12.5μg/ml MSグレードトリプシンを添加し、37℃で一晩消化を行った。ペプチドを溶出し、乾燥させ、0.1%ギ酸に溶解させた。次いで、試料を、800rpmでEppendorf Thermomixer中で30分間、TiO2ビーズと共にインキュベートした。濃縮したホスホペプチドを溶出し、乾燥させ、0.1%ギ酸中に再懸濁し、そしてEksigent nano-LC 2Dシステムを用いて分離した。8μlの試料を、プレカラム(Acclaim PepMap 100、C18、3μm粒径)に充填し、一定流速の5μl/分の溶媒A(水中0.1%FA)で15分間洗浄し、10μmの融合シリカエミッタ、75μm×16cmピコティップエミッタ、New Objective社で分離し、C18レプロシル・ピュールを内部充填し、300nl/分での3%~90%溶媒B(80%ACN)の78分勾配を用いて分離した。HPLCシステムを、データ依存型取得モードで動作するLTQ-Orbitrap XL質量分析計に連結した。スプレー電圧を1.90kVに設定し、加熱されたキャピラリーの温度は200℃に設定した。Orbitrapによって行われたサーベイスキャンからの最も強い10イオンは、LTQ(基準化衝突エネルギー35、親質量選択ウィンドウ0.5Da、30ms活性化時間および100に設定したMS/MSスキャンセットの最小シグナル閾値)における衝突誘起解離によって断片化された。動的排除リストは、最大保持時間ウィンドウ2分および相対質量ウィンドウ10ppmの最大500質量に制限された。1%のFDRをペプチドレベルで使用し、ホスホ部位を手動およびMascot確率(カットオフ90%)の両方を使用して確認した。
【0073】
結果。結果は、LRRK2-G2019Sキナーゼが、リボソーム画分中のタンパク質に対して優先的な活性を示すのに対して、ミトコンドリア画分中のタンパク質は、リン酸化が不十分であることを同定した(両方の画分は総タンパク質量に対して基準化された)。これは、LRRK2-G2019Sがリボソームタンパク質を直接修飾することを示していた。次いで、MS/MS分析を用いて、本発明者らは、G2019S-LRRK2によってリン酸化されたタンパク質を同定し、そのうちのいくつかを示す(
図1)。これらには、とりわけ、40Sリボソームタンパク質Rps6、RpS3およびRpS2、ならびに真核生物開始因子eIF2B5、Eif4g3およびEiF3bが含まれた。本発明者らは、組換えタンパク質のインビトロリン酸化によってRpS2をさらに検証し、報告された基質M2K7よりも高い比活性でG2019S-LRRK2によってリン酸化されていることを見出した(図示せず)。本発明者らは、内因性LRRK2の70%がP3リボソーム画分と共精製されたのに対し、P2ミトコンドリア画分とは20%が共精製されたことを見出した(図示せず)。
【0074】
結論。まとめると、これらの知見は、LRRK2とリボソームとの際立った関連性を強調し、PDの試験としてホスホ抗体またはSRMアッセイを使用して検出され得るLRRK2-G2019Sに対するいくつかの潜在的基質を同定した。
【0075】
例2。タンパク質翻訳は、ロテノンへの曝露後のニューロンにおいて損なわれ、LRRK2活性は増加する。
【0076】
PDの根本的な分子メカニズムを理解するには、疾患の特徴を確実に再現する細胞および動物モデルの使用が必要である。ロテノンはそのようなモデルである。ロテノンは、げっ歯類でPDの解剖学的および行動的特徴を引き起こす天然の殺虫剤であるが4、5、ヒトでは、ロテノンはPDを発症するリスクの増加に関連する環境因子の1つである6。
【0077】
方法。様々なS35-メチオニン標識を用いたタンパク質翻訳の測定-インビトロでPDをモデル化するために、海馬ニューロンをS35-メチオニンで代謝的に標識した。24ウェルプレート中の海馬ニューロンを、Met/Cys不含培地(インビトロジェン社、Gibco)に移した。細胞を37℃、5%CO2で30分間処理した。1ウェルあたり500μlの標識培地(100μCiMet-S35/ml)を添加し、細胞をロテノン(0.01~10μM)の存在下または非存在下で37℃、5%CO2で2時間増殖させた。細胞を洗浄し、75μlのLaemmli溶解緩衝液中で溶解させた。試料をSDS PAGEにより分離し、EN3HANCE(NEN)と共にインキュベートし、ゲルを乾燥させ、増感スクリーンを有するオートラジオグラフィーフィルムに露光して、相対的なデノボタンパク質合成レベルを決定した。
【0078】
結果。S35-メチオニン標識を用いて測定したところ、ロテノンによるニューロンの処理は、用量依存的にデノボタンパク質合成を減少させた(
図2)。
【0079】
結論。mRNAの翻訳は、PDにおいて損なわれ、根本的な病状に寄与し得る。
【0080】
例3。ロテノンはLRRK2を活性化する。
【0081】
目的。本発明者らは、ラットにおいて、黒質-線条体ドーパミン作動性ニューロンの非常に特異的な変性、レビー小体形成およびL-DOPA行動障害を誘導する、PDの神経病理学的特徴を再現するロテノンモデルにおいてLRRK2が活性化されるかどうかを試験したいと考えた5、7。本発明者らはまた、タンパク質翻訳に対するLRRK2-G2019Sの効果を決定したいと考えた。
【0082】
方法。LRRK2活性に対するロテノン処理の効果を調べるために、BHK21細胞を、示された用量のロテノンを用いてまたは用いないで4時間処理した。細胞をLaemmli緩衝液中で溶解させ、タンパク質をSDS PAGEによって分離した。LRRK2活性を、ホスホ-S935-LRRK2を検出する抗体を用いたイムノブロッティングにより決定した。負荷変動性を確立するために、LRRK2を検出する抗体でブロットを再プローブした。LRRK2活性を、Gel Doc XRシステム(バイオ・ラッド社)を用いて、捕捉されたゲル曝露の濃度測定によって定量化した。
【0083】
LRRK2活性の阻害がロテノン処理後のBHK21細胞における正常な翻訳を回復させることができるかどうかを決定するために、LRRK2阻害剤(1または10μMのIN1)での前処理(30分)を伴うか、または伴わないBHK21細胞を、示すように、ロテノンまたはキャリア(対照)で処理した。翻訳はAHA標識後に可視化され、免疫蛍光は上述のように定量化された。
【0084】
LRRK2-G2019Sがタンパク質翻訳に直接影響を与えたかどうかを決定するために、本発明者らは、タカラバイオ社(日本)からの無細胞タンパク質発現システムを利用した。β-ガラクトシダーゼレポータープラスミド(150ng)を60nMのGST-G2019S-LRRK2またはGST単独と共に、5μlの反応において32℃で1.5時間インキュベートした。β-ガラクトシダーゼの量は、96ウェルフォーマットを用いた二連の試料から比色検出を用いて推定した。2μlの反応混合物ごとに、100μlのオルト-ニトロフェニル-β-ガラクトシド(ONPG)緩衝液(ONPG0.66mg/ml、1mM MgCl2、45mM β-メルカプトエタノール、0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液、pH7.2)を添加した。15分後に停止溶液(100mMグリシン、NaOH、pH12.8)100μl/ウェルを添加することによって反応を停止させた。420nmでの吸光度を、Synergy H1ハイブリッドリーダー(Biotek社)を用いて測定した。
【0085】
結果。ロテノンは、無傷の細胞においてLRRK2活性を用量依存的に増加させた(
図3)。
【0086】
例4。Lrrk2阻害は、ロテノン誘導性萎縮からドーパミン作動性ニューロンを保護する。
【0087】
目的。ロテノンに反応したLrrk2活性化がパーキンソン病の特徴である神経突起退縮を誘導するかどうかを確かめるために、本発明者らは、ロテノンに曝露された培養ドーパミン作動性ニューロンにおける神経突起萎縮の程度を測定した。
【0088】
方法。細胞培養物のロテノン処理-P0ラットからの中脳ニューロンを、ウェル当たり200,000細胞の密度で播種した。インビトロで3日目に、細胞を、示した濃度で、IN1、GSK-2578215AまたはMLi-2を含む、または含まないDMSO中のロテノンで処理した。24時間後、細胞をPBS中の4%PFAで固定し、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)を、当業者に明らかな標準的な免疫染色法により検出した。細胞をZeiss AxioVert 200M顕微鏡を用いて画像化した。萎縮を測定するために、無傷の神経突起を有するTH陽性ニューロンの%を記録した。
【0089】
結果。ロテノンは、ドーパミン作動性ニューロンの萎縮を誘導した。これは、3つすべてのLrrk2阻害剤で治療することによって予防された。ロテノンの非存在下でのLrrk2単独の阻害は、神経突起長を有意には変化させなかった。
【0090】
結論。Lrrk2活性は、パーキンソン病の特徴であるドーパミン作動性ニューロン萎縮を促進する。
【0091】
例5。構造的に独立した分子でLRRK2を阻害すると、海馬ニューロンにおいてタンパク質翻訳が増加する。
【0092】
目的。Lrrk2がニューロンのリボソーム機能を調節するかどうかを試験するために、本発明者らは、非標準アミノ酸標識を使用して、デノボタンパク質合成に対するLrrk2の3つの構造的に独立した阻害剤の効果を測定した。以前に記載されたように8、メチオニン類似体であるL-アジド-ホモアラニン(AHA)を用いてラット海馬ニューロンを標識し、続いてAlexa-488とアルキン部分との銅-I-触媒アルキン-アジド環状付加を行って、新たに合成されたタンパク質を可視化した。使用した阻害剤は、0.01μMの生化学的IC50でLrrk2をブロックするLRRK2-IN19、非常に特異的かつ強力なLRRK2阻害剤であるGSK-2578215A10およびLRRK2の選択的経口活性阻害剤である3-(4-ピリミミジル)インダゾール(MLI-2)11であった。
【0093】
方法。FUNCATを用いた海馬ニューロンにおけるタンパク質翻訳の測定。タンパク質翻訳を測定するために、海馬ニューロンを、24ウェルプレートの円形カバーガラス(直径1.3cm)上に、ウェルあたり100,000細胞の密度で播種した。播種してから20時間後にタンパク質翻訳を測定した。細胞を1回洗浄し、2mMグルタミンを添加したメチオニン不含DMEM培地(Gibco、サーモフィッシャーサイエンティフィック社)と共にインキュベートした。次いで、1mM L-アジドホモアラニン(AHA)を30分間添加した。細胞を1mlのPBSで洗浄し、4%パラホルムアルデヒドで固定した。LRRK2阻害剤を使用する場合は、メチオニン不含培地に添加し、AHA標識化手順全体を通して保持した。細胞をブロック溶液(PBS中の0.25%Triton X100、0.2%BSA、5%スクロース、10%ウマ血清)中で透過処理し、PBS中の3%BSA 1mlで5回洗浄した。AHAでのインサイチュ標識は、サーモフィッシャーライフテクノロジーズ社(カタログ番号A10267)の試薬を用いて、共有結合的にAlexa-488に対するclick-it反応を用いて達成された。カバーガラスを、2.5%1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンを含むMowiolにマウントした。蛍光画像は、ライカDMRE顕微鏡および浜松ホトニクスORCA C4742-95 CCDカメラおよびZenソフトウェア(カールツァイス社)を使用して取得した。平均蛍光強度は、ペリソーム領域内の対象領域から測定した。樹状突起測定は、線強度(体細胞から樹状突起までの10μm線)から行った。
【0094】
結果。Lrrk2阻害剤(GSK-2578215、LRRK2-IN1およびMLi-2)は、それぞれ0.1μM(GSK-2578215およびLRRK2-IN1)および0.01μM(MLi-2)程度の低い用量で処理した海馬ニューロンの海馬ニューロン神経体細胞(
図5Aa~b、5Ba、b)および樹状突起(
図5Ad~e、5Ba、c)において測定したように、タンパク質合成を有意に増加させた。これは、基礎的なLrrk2活性が、ニューロンにおけるタンパク質合成に対して抑制的効果を有することを示している。陰性対照として、本発明者らは、ペプチジルトランスフェラーゼのリボトキシン阻害剤であるアニソマイシンでニューロンを処理した。この処理は、このアッセイにおいてデノボタンパク質合成を効果的に阻害した(
図5Bc、f)。
【0095】
結論。LRRK2は、海馬ニューロンにおいて新生タンパク質へのmRNAの翻訳を抑制する。
【0096】
例6。構造的に独立した分子でLRRK2を阻害すると、ドーパミン作動性ニューロンにおいてタンパク質翻訳が増加する。
【0097】
目的。LRRK2阻害が中脳培養物、より具体的にはドーパミン作動性ニューロンにおけるタンパク質翻訳を変化させるかどうかを決定すること。
【0098】
方法。ドーパミン作動性ニューロンにおけるタンパク質翻訳を測定するために、中脳培養物を、24ウェルプレートの円形カバーガラス(直径1.3cm)上に、ウェル当たり500,000細胞の密度で播種した。播種後3日目に、ニューロンをFUNCATに供した(例4参照)。ドーパミン作動性ニューロンを、チロシンヒドロキシラーゼ免疫蛍光により検出した。例4(方法)に記載のように蛍光強度を測定した。
【0099】
結果。2つの構造的に独立した阻害剤を用いたLRRK2の阻害は、ドーパミン作動性ニューロンにおけるタンパク質翻訳を増加させた(
図5g~j、
図6a~c)。アニソマイシン(翻訳阻害剤)を陰性対照として添加した。蛍光を用いて決定されるように、翻訳を効果的に減少させた(
図5k、l、
図6a~c)。
【0100】
結論。これらの知見は、構成的LRRK2活性が、ドーパミン作動性ニューロンにおけるタンパク質翻訳を抑制し、機能獲得型LRRK2-G2019S変異体が、PDの神経病理学に関連し得るという考えと一致することを示している。
【0101】
例7。患者の皮膚線維芽細胞における新生タンパク質合成の測定は、PDの機能的読み出しを提供する。
【0102】
目的。Lrrk2は広範囲に発現しているタンパク質であるので、本発明者らは、PD患者からの末梢細胞(皮膚穿孔から得た)が翻訳障害を示すかどうかを試験したいと考えた。対照個人からの線維芽細胞および孤発性またはG2019S PDを有すると臨床的に診断された患者からの線維芽細胞は、国立神経疾患・脳卒中研究所(NINDS-Coriell)リポジトリから入手した。
【0103】
方法。
図7について、本発明者らは、例4に概説した非標準的標識アプローチを用いて、以下の変更を加えて、患者の皮膚生検から培養した線維芽細胞におけるmRNA翻訳を測定した。線維芽細胞を95%コンフルエントに達した際に継代し、継代数7~9でアッセイした。新生タンパク質合成の測定のために、播種後48時間の線維芽細胞は、メチオニンを枯渇させ、AHAと共にインキュベートし、続いて例4の方法の項に記載したようにAlexa-488のAHA-クリック共役を行った。平均体細胞蛍光強度を測定した。すべての線維芽細胞株を同時にアッセイすることができなかったので、同等の継代数の1種または複数の対照株と患者株を対にし、同じ日にアッセイした。
図8について、本発明者らは、1μM LRRK2阻害剤-1(IN1)または0.01μM MLi-2で処理すると、患者細胞で観察されたタンパク質合成の減少が逆転し得るかどうかを試験した。
【0104】
結果。LRRK2-G2019Sキャリアおよび孤発性症例由来の皮膚線維芽細胞では、翻訳は抑制された(
図7)。タンパク質合成のこの抑制は、構造的に独立したLRRK2阻害剤IN1またはMLi-2によるLRRK2活性の阻害によって逆転した(
図8)。
【0105】
結論。これらの結果は、LRRK2がG2019Sキャリアおよび孤発性PD患者からの末梢細胞におけるタンパク質合成を同様に抑制することを示している。この知見は、mRNA翻訳を負に調節するPD関連EIF4G1変異と一致している11。これらのデータは、リボソーム機能のLRRK2抑制が、家族性および孤発性PDに存在する収束メカニズムを提供することを示している。
【0106】
例8。タンパク質合成は、初期段階の可能性が高いPD患者では減少している。
【0107】
目的。PDの初期段階で「全体的な翻訳の減少」が観察されるかどうかを試験する。
【0108】
方法。本発明者らは、トゥルク大学病院(T.U.H)でパーキンソン病の可能性が高い患者の上腕から皮膚穿孔を採取した。同年齢の対照(配偶者または兄弟姉妹)からの皮膚穿孔も同時に採取した。これらの患者の大部分は、生検時にDAT結合異常について、[123I]-FP-CIT-SPECTイメージングで診断されていなかった。皮膚穿孔を最少必須培地(MEM、Sigma Aldrich)に直接播種し、抽出後1時間以内に分析した。皮下組織層から脂肪組織を除去し、残りの真皮層および表皮層を2mmの小片に細断し、次いで、グルタミン(2mM)、ペニシリン(50U/ml)およびストレプトマイシン(50μg/ml)を添加したMEM中に、37℃および5%CO2で維持した。線維芽細胞は、播種の数日以内にこれらの外植片から増殖した。
【0109】
結果。NINDコホート(例6)と比較して、PDの初期段階の患者(52~69歳)由来の線維芽細胞は、対照個人と比較して有意に減少したタンパク質合成を示した(
図9)。以前と同様に、AHA標識および蛍光検出を用いてmRNA翻訳を測定した(例7)。T.U.H.およびNINDSコホートを組み合わせることにより、1.86のサイズ効果が得られた。組み合わされたコホートに対する受信者動作特性曲線(ROC)分析は、93%の曲線下面積を与え、この測定が良好な予測力を提供することを示している(
図10a)。タンパク質合成は患者の年齢と負の相関を示したが(
図10b)、健常個人では相関しなかった(
図10c)。これは、翻訳阻害が、年齢とともに進行する疾患特異的な特徴であり、健常個人における正常な老化に関連していないことを示唆している。結論。新生タンパク質合成の測定により、初期段階で孤発性およびG2019S PDの両方のバイオマーカーの読み出しを提供することができる。
【0110】
例9。患者の線維芽細胞からのタンパク質合成は、マルチウェルフォーマットで測定することができる。
【0111】
目的。個々の細胞の蛍光測定(
図7-9)が、スケールアップに適している分光光度計の読み出し値を使用して、マルチウェルフォーマットで単純化できるかどうかを決定すること(
図11)。
【0112】
方法。患者および対照個人からの線維芽細胞を、例7に記載のように単離した。マルチウェルフォーマットでのタンパク質翻訳の測定のために、細胞を、DMEM中の48ウェルプレートウェル当たり30,000の密度で播種した。本質的に例4の方法に記載したように、細胞をメチオニン不含DMEM中で30分間インキュベートし、1mM AHAを添加した。30分後、細胞を4%スクロースを含む4%パラホルムアルデヒドで室温で30分間固定した。細胞をブロッキング緩衝液(PBS中の0.25%TX100、0.2%BSA、5%スクロース、10%ウマ血清)中で一晩透過処理した。細胞をPBS-BSA(3%)で3回洗浄した。標準的なclick-it反応プロトコルはいずれもうまくいくはずであるが、サーモフィッシャーライフテクノロジーズ社(カタログ番号A10267)からのキットを使用して、click-it反応を例4に記載のように行い、AHAをAlexa-488と連結した。反応は30分間行った。次いで、細胞をPBS-BSAで5回洗浄し、PBS中で4℃に維持した。350/461nmフィルターを使用するBioTek Synergy H1マルチモードプレートリーダーを使用して蛍光を検出した。バックグラウンド蛍光を、AHA標識に供さずに差し引いた細胞を含むウェルから決定した。
【0113】
結果。結果は、PD患者由来の線維芽細胞においてタンパク質翻訳が阻害されることを示している(
図11)。
【0114】
結論。この例は、単純なマルチウェル蛍光検出フォーマットで新生タンパク質合成を測定することが可能であり、これにより、PDについての定量的バイオマーカーが得られることを示す。
【0115】
例10。AHA標識を用いた患者の線維芽細胞および末梢血単核細胞(PBMC)における翻訳の測定は、翻訳障害を検出するための質量分析(MS)に基づく方法を提供する。
【0116】
目的。MSベースのタンパク質配列決定が、皮膚および血液由来の患者試料および健常試料のデノボ合成タンパク質を同定するために適用され得るかどうかを試験すること。
【0117】
方法。末梢血単核細胞(PBMC)の単離。血液(7~9ml)を、ヘパリンを含むバキュテイナチューブ(BD)に回収し、PBMCを以下のように患者または志願者からの抽出の1時間以内に単離し:血液を滅菌PBSで1:1に希釈し、15mlのファルコンチューブ中の4,5mlのFicoll Paque Plus溶液(アマシャムバイオサイエンス社、#17-1440-002)に、6mlを層にした。チューブを室温で30分間400 RCFで遠心分離した。PBMC細胞層を滅菌PBS中に回収し、30mlの滅菌PBS中で2回洗浄した。細胞ペレットをメチオニン不含RPMI-1640に再懸濁した。
【0118】
PBMCのAHA標識。PBMCをL-アジド-ヒドロアラニン(AHA)で標識するために、細胞を上述のように1mlのメチオニン不含RPMI-1640中のディッシュに播種し、37℃、5%CO2で30分間インキュベートした。培地を、2mM AHA(Baseclick社)を含むRPMIと交換して、インキュベートした。次いで、細胞をペレット化し、100μlの溶解緩衝液(10mM HEPES、pH7.4、2mM EGTA、50mM b-グリセロホスファート、1mM DTT、1mM Na3VO4、1%TX100、10%グリセロール、1%SDS、40mM NaF、1mMベンザマジン)を添加した。プロテアーゼ阻害剤(1μg/mlロイペプチン、ペプスタチンおよび100μg/mlのPMSF)を使用前に新たに添加した。8M尿素および250U/mlのベンゾナーゼ(MERCK#70746)も添加した。細胞を氷上で15分間インキュベートし、4℃で5分間、13,400 RCFで遠心分離して、未破壊細胞を除去した。任意のクリックケミストリープロトコルが機能するはずであるが、上清を、インビトロジェンキット(#C10269)を使用して、AHA標識タンパク質をアルキンアガロースに結合させるための環化付加反応に供した。成分A、CおよびBを、5:5:1の割合で混合した(クリック反応)。アルキンアガロース(試料あたり25μl)をミリQで洗浄した。50μlのクリック反応混合物をビーズに添加し、続いて400μgの溶解物を添加した。混合物をボルテックスし、穏やかに回転させながら室温でインキュベートした。次いで、ビーズをミリQで洗浄し、続いてSDS洗浄緩衝液で洗浄した。7mMヨードアセトアミドを含む1mlのSDS洗浄緩衝液、pH8.5を添加し、試料を暗所で30分間インキュベートした。アガロースを、5mM DTTを含む1mlのSDS洗浄緩衝液(pH8.5)中で洗浄し、トリプシン処理および質量分析のために調製する前に4℃で貯蔵した。樹脂結合タンパク質をトリプシンで一晩消化し、回収したペプチドを、C18 UltraMicroSpinカラムで洗浄し、MS/MSで分析した。
【0119】
線維芽細胞のAHA標識。患者の線維芽細胞(例7参照)を、10%FBS、2mM Gln、ペニシリン/ストレプトマイシンを添加した5ml DMEM中に6cmディッシュ当たり100kで播種し、37℃、5%CO2でインキュベートした。AHA標識の前に、培地をメチオニン不含無血清RPMI-1640と交換し、30分間インキュベートした。次いで、培地を、2mM AHA(Baseclick社)を含む3mlの無血清/メチオニン不含RPMIと交換し、14時間インキュベートした。細胞を穏やかにこすり、4℃で5分間、400RCFで遠心分離することにより回収した。試料あたり100μlの溶解緩衝液を用いて、PBMCについて上述のように溶解物を調製した。AHAの代わりにメチオニンで処理した試料を、陰性対照として用いた。AHA標識タンパク質のビーズへの結合、トリプシン処理およびMS/MS分析は、PBMC試料について上述したようにして行った。得られたRAWデータファイルを分析し、0.05%FDR率を用いてMaxQuantで定量した。逆配列および閾値スコアに達しなかった配列を除去した後、ペプチドを結合してタンパク質強度を得た。これらは、試料中の特定のタンパク質の量を表す。
【0120】
結果。結果は、タンパク質翻訳が、非侵襲的に得られたPBMCおよび患者の皮膚生検から得られた線維芽細胞において、AHA標識タンパク質の濃縮とそれに続くトリプシン処理されたタンパク質の質量分析検出によって測定できることを示す。これにより、患者の状態を定義するために使用することができる、デノボタンパク質合成シグネチャが同定される(
図12a)。また、特にAHA標識試料中の共役AHA基の検出は、本方法がAHA標識タンパク質を濃縮することを実証する(
図12b)。
【0121】
結論。これにより、質量分析検出を使用して、タンパク質翻訳ならびにタンパク質および/またはペプチドシグネチャの機能的読み出しを患者の試料から得ることができる方法が提供される。
【0122】
例11。タンパク質合成は、患者細胞におけるAHA標識、それに続くアルキン-ビオチン-ニュートラアビジン濃縮および抗体(または質量分析)検出を用いて測定することができる。
【0123】
目的。抗体検出が、患者細胞の翻訳レベルをモニターするために使用できるかどうかを決定すること。
【0124】
方法。PBMCを、例10に記載のように単離した。線維芽細胞を、例7および10に記載のようにして単離し、培養した。両方の細胞型について、メチオニン飢餓およびAHA標識を、例10に記載のように行った。細胞を、100μlの低張溶解緩衝液(使用前に新たに添加した、1μg/mlロイペプチンおよびペプスタチンおよび100μg/mlPMSFを含む、10mM HEPES、pH7.4、2mM EGTA、50mMβ-グリセロリン酸、1mM DTT、1mM Na3VO4、1%TX100、10%グリセロール、40mM NaF、1mMベンズアミジン)に溶解した。成分A(10μl)、成分B(2μl)および成分C(10μl)を混合した。示されるように、0.2μlのビオチン-アルキン(Lumiprobe社:C37B0)を添加した。溶解物をビーズと50:50で混合し、穏やかに混合しながら室温で20時間インキュベートした。アルキン-ビオチンとの反応のために、反応チューブを穏やかにボルテックスし、室温で30分間インキュベートした。過剰の試薬(遊離ビオチンを含む)を、PD-spintrap G25カラム(5kDaカットオフ)(アマシャムファルマシア社)および低張溶解緩衝液を用いた、ゲル濾過によって除去した。室温で30分間インキュベートすることによって、ビオチン-AHAタグ付きタンパク質を、20μl(ベッド容量)のニュートラアビジンアフィニティーセファロース樹脂(ピアス社)に固定化した。
【0125】
セファロースを1ml LiCl緩衝液(500mM LiCl2、100mMトリス、pH7.6、0.1%TX100、1mM DTT)で2回洗浄し、それに続いて1ml PBSで4回洗浄した。次いで、試料をLaemmliで溶解し、10分間煮沸し、SDS PAGEで分離した。試料をMS/MS同定のためにトリプシンでゲル内消化するか(例1)、または抗ビオチン、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合抗体(Cell Signalling Technology社)を用いる定量的免疫ブロット検出のためにニトロセルロースに移した(例9b)。AHAタグ付きタンパク質の相対量を化学発光検出から可視化し、Molecular Imaging Gel-docシステム(Biorad社)でスキャンした。タンパク質翻訳の阻害剤であるアニソマイシンを陰性対照として添加した。
【0126】
結果。患者由来のPBMCまたは線維芽細胞のAHA標識は、抗体検出を用いたタンパク質合成の高感度測定を可能にする。患者細胞由来のPBMCまたは線維芽細胞のAHA標識は、ゲル消化後のMS/MS検出のための新生タンパク質の濃縮を容易にする(
図12c)。
【0127】
結論。これにより、濃縮およびそれに続く抗体/酵素検出を使用して、タンパク質翻訳の機能的読み出し値を対照および患者の血液または皮膚試料から得ることができる方法が提供される。
【0128】
例12。質量分析は、健常対照と比較して、孤発性およびG2019S PD症例からの細胞における、損なわれた翻訳レベルを同定する。
【0129】
目的。対照とPD患者細胞との翻訳の間の有意差が、質量分析法を用いて検出できるかどうかを決定すること。
【0130】
方法。
図13について、試料調製は、本質的に例10に記載の通りであった。対応する陰性対象を各試料に含めた。これらは、AHAではなくメチオニンで標識された細胞からなっていた。LTQ-Orbitrap XL設定は、例1に記載の通りであった。得られたRAWデータファイルを分析し、0.05%FDR率を用いてMaxQuantで定量した。MaxQuantからの定量化されたタンパク質の結果を、Perseusソフトウェアにインポートし、そこで偽陽性の逆識別が除去された。生強度値をlog2変換し、欠損値を1とし、タンパク質をユークリッド距離および平均連結を用いて、ペルセウスの階層的クラスタリングでクラスタ化した。表1に示すように、試料を3つの独立したコホート(NINDS-Coriell、T.U.H、および欧州バイオバンク)から組み合わせた。
【0131】
結果。孤発性およびG2019S患者群と対照群との間で、単にタンパク質強度のヒートマップを可視化することによって、明らかなタンパク質強度の差が見られた(
図13)。孤発性PD患者のデノボ合成タンパク質強度を健常対照と比較すると、有意に翻訳障害が見られた。39種の有意に変化したタンパク質が同定された(
図14)。G2019S PD患者のデノボ合成タンパク質強度を健常対照と比較すると、有意に翻訳障害が見られた。50種の有意に変化したタンパク質が同定された(
図15)。
【0132】
結論。本発明者らは、健常対照と比較して孤発性およびG2019S PD患者において有意に変化しているタンパク質の別々のパネルを同定した。
【0133】
例13。患者の状態を予測するシグネチャ:正常な健常対孤発性PD。
【0134】
目的。孤発性PDを正常な(健常な)個人と区別するのに役立つ、翻訳障害から生じる単一のバイオマーカーまたはバイオマーカーシグネチャを同定すること。
【0135】
方法。孤発性PD対対照において有意に変化したタンパク質強度のリストを、線形回帰モデルに適合させ、どの特徴が疾患状態の最良の予測を与えるかを同定するために、Glmnetパッケージを用いてトレーニングした。すべての予測について、本発明者らは、上述のように3つのコホートからのすべての患者データを使用した(NINDS-Coriell、TUH、EB)。第1の図では、追加の閾値を使用せずに、孤発性対対照健常個人から、有意に変化するタンパク質のリストを使用した。これにより、93%の予測スコアで、患者の状態(孤発性PDまたは健常)を予測する32個の特徴のシグネチャが得られた(
図16)。次いで、2倍の変化をカットオフした。対照と比較してレベルが2倍を超えて有意に変化したタンパク質のみを含めた。これにより、Glmnetパラメータα=0.01、λ=0.005(
図17)を用いて、Glmnetパラメータα=0.1、λ=0.005を用いて、14個の特徴および99%の予測スコアを有するシグネチャが得られた。次いで、このシグネチャからどのペアの特徴が最良の予測スコアを与えたかを同定するために、総当たりを使用した。これにより、Glmnetパラメータα=1、λ=0.056を用いて、88%の予測スコアを有する二重特徴シグネチャとして、SNX2およびLIMA1が得られた(
図18)。
【0136】
結果。本発明者らは、それぞれ32、14または2個の特徴を含む3つのシグネチャを同定し、予測精度は93%、99%および88%であった。
【0137】
結論。これらのシグネチャは、PDの非遺伝性形態でPDの予測を助けるに使用されるべきである。それらは、患者試料、皮膚線維芽細胞、血液、または脳脊髄液もしくは尿などの他の体液をスクリーニングするために使用することができる。
【0138】
例14。患者の状態を予測するシグネチャ:正常な健常対G2019S PD。
【0139】
目的。G2019S PDを正常な(健常な)個人と区別するのに役立つ、翻訳障害から生じる単一のバイオマーカーまたはバイオマーカーシグネチャを同定すること。
【0140】
方法。対照個人と比較してG2019S PD患者において2倍を超えて有意に変化したタンパク質強度のリストを、例13のように、線形回帰モデルに適合させ、どの特徴が疾患状態の最良の予測を与えるかを同定するために、Glmnetパッケージを用いてトレーニングした。すべての予測について、本発明者らは、上述のように3つのコホートからのすべての患者データを使用した(NINDS-Coriell、TUH、EB)。これにより、Glmnetパラメータα=0.1、λ=0.003を用いて、13個の特徴および98%の予測精度スコアを有するシグネチャが得られた(
図19)。次いで、このサブグループの患者の予測スコアが最も高い一対のマーカーを同定するために、総当たりを使用した。これにより、一緒に試験した場合に、98%の予測スコアを与える2つのバイオマーカーとしてFAM120AおよびADARが得られた(
図20)。
【0141】
結果。本発明者らは、それぞれ13個または2個の特徴に由来する2つのシグネチャを同定し、予測精度は98%であった。
【0142】
結論。これらのシグネチャは、PDの遺伝性形態でPDの予測を助けるに使用されるべきである。それらは、患者試料、皮膚線維芽細胞、血液、または脳脊髄液もしくは尿などの他の体液をスクリーニングするために使用することができる。
【0143】