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特許7062672微細藻類の選択に用いられるバイオリアクタ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-22
(45)【発行日】2022-05-06
(54)【発明の名称】微細藻類の選択に用いられるバイオリアクタ
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20220425BHJP
   C12N 1/12 20060101ALI20220425BHJP
【FI】
C12M1/00 E
C12N1/12 A
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019537893
(86)(22)【出願日】2017-09-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-10-17
(86)【国際出願番号】 FR2017052510
(87)【国際公開番号】W WO2018055282
(87)【国際公開日】2018-03-29
【審査請求日】2020-08-07
(31)【優先権主張番号】1658863
(32)【優先日】2016-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】500320316
【氏名又は名称】イー・エヌ・エール・イー・アー-アンスティチュ・ナシオナル・ドゥ・ルシェルシュ・アン・ナンフォルマティーク・エ・タン・ノトマティーク
(73)【特許権者】
【識別番号】510021203
【氏名又は名称】サントル・ナショナル・ド・ラ・ルシェルシェ・シアンティフィーク(セーエヌエールエス)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE(CNRS)
(73)【特許権者】
【識別番号】519100893
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ニース・ソフィア・アンティポリ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE NICE SOPHIA ANTIPOLIS
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】ベルナール・オリヴィエ
(72)【発明者】
【氏名】ボンヌフォン・ユベール
(72)【発明者】
【氏名】シアンドラ・アントワーヌ
(72)【発明者】
【氏名】プリュヴォ・エリック
(72)【発明者】
【氏名】グリモー・ギューバン
【審査官】松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/035042(WO,A2)
【文献】特開2010-246473(JP,A)
【文献】国際公開第2015/121987(WO,A1)
【文献】特開2015-216886(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
稼働期間の間に作動させることができ、かつ、前記稼働期間が一旦完了したときに、前記稼働期間を繰り返すことができるタンク(100)であって、光合成微生物の細胞培養物を含む培地を収容するように構成されたタンク(100)と、
前記タンクの方向に、選択した入光強度(Iin)を有する入射光を放射するように構成された光源(200)と、
前記タンク内の前記培地の温度を測定する温度プローブ(400)と、
前記タンク内の前記培地の前記温度を上昇および低下させることができる温度調整装置(500)とを備えるバイオリアクタにおいて、
第1期間の間、前記培地の前記温度を第1の設定値(VLS)に調整し、第2期間の間、前記培地の前記温度を第2の設定値(VHS)に調整するように構成された前記温度調整装置の制御部(700)をさらに備え、
前記第1期間と前記第2期間が続くことにより、前記稼働期間の間に、前記光合成微生物の少なくとも一部に細胞ストレスを誘起することが可能であり、
前記第1の設定値は、前記第2の設定値より低い値であり、
前記続くことは、前記光合成微生物の少なくとも一部の細胞分解を生じさせ、これにより、有益な特性を有する光合成微生物を選択するように、3回以上繰り返され、
前記制御部は、1回以上の稼働期間の後、光合成微生物の前記細胞培養物の前記増殖速度についてのデータを受信するように構成されており、前記制御部は、前記光合成微生物の前記細胞培養物の前記増殖速度についてのデータを受信した後、前記第1の設定値および前記第2の設定値を固定することを特徴とするバイオリアクタ。
【請求項2】
請求項1に記載のバイオリアクタにおいて、前記制御部(700)は、前記稼働期間の間、平均設定値(VM)を維持するように、前記第1の設定値および前記第2の設定値、ならびに前記第1期間および前記第2期間を決定するように構成されており、前記平均値は、前記第1の設定値および前記第1期間の積と、前記第2の設定値および前記第2期間の積との和を、前記稼働期間で除算した値に等しいバイオリアクタ。
【請求項3】
請求項2に記載のバイオリアクタにおいて、前記平均設定値は、前記光合成微生物の細胞培養物の最適増殖温度(Toptと等しいバイオリアクタ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のバイオリアクタにおいて、選択された前記入射光の前記入光強度(Iin)が、前記稼働期間の間、固定されているバイオリアクタ。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載のバイオリアクタにおいて、選択された前記入射光の前記入光強度(Iin)が、100から2000μmol量子m-2s-1の範囲であるバイオリアクタ。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載のバイオリアクタにおいて、前記稼働期間の間、前記培地において選択した細胞培養物濃度(xi)で、前記タンクを作動させるように構成されたコントローラ(600)をさらに備えるバイオリアクタ。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載のバイオリアクタにおいて、前記光源(200)に対向する光センサ(300)をさらに備え、この光センサ(300)は、前記細胞培養物濃度を算出し前記稼働期間の間に前記培地において選択した前記細胞培養物濃度(xi)で前記タンクを作動させるために、出光強度(Iout)を測定し、前記強度(Iout)についてのデータを前記コントローラに送信することが可能であるバイオリアクタ。
【請求項8】
光合成微生物を選択する方法であって、
1. 請求項1に記載のバイオリアクタを提供するステップと、
2. タンクを培地で満たすステップと、
3. 光合成微生物からなる細胞培養物を前記培地に接種するステップと、
4. 稼働期間の間、前記タンクを作動させ、選択した値に前記入光強度(Iin)を調整するステップと、
5. 第1期間の間、前記培地の温度を第1の設定値(VLS)に調整し、第2期間の間、前記培地の前記温度を第2の設定値(VHS)に調整するステップであって、前記第1期間と前記第2期間が続くことにより、前記稼働期間の間、前記光合成微生物の少なくとも一部に細胞ストレスを誘起することを可能にするステップと、
6. 前記光合成微生物を採取するステップと、を含み、
前記第1の設定値は、前記第2の設定値よりも低い値である方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法において、前記第1の設定値および前記第2の設定値ならびに前記第1期間および前記第2期間は、前記稼働期間の間、平均設定値(VM)を維持するように調整され、前記平均値は、前記第1の設定値および前記第1期間の積と、前記第2の設定値および前記第2期間の積との和を、前記稼働期間で除算した値に等しい方法。
【請求項10】
請求項8または9に記載の方法において、前記平均設定値は、光合成微生物の前記細胞培養物の最適増殖温度(Toptと等しい方法。
【請求項11】
請求項8から10のいずれか一項に記載の方法において、さらに、
4a. 前記光合成微生物の少なくとも一部を含む前記培地の一部を取り出すステップと、
4b. 取り出された、前記光合成微生物の少なくとも一部を含む前記培地の前記部分を、新鮮な培地で補うステップとを含む方法。
【請求項12】
請求項8から11のいずれか一項に記載の方法において、前記採取ステップ6は、前記培地が、有益な特性を有する光合成微生物が75%を越える光合成微生物からなる細胞培養物を含む場合に実施される方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法において、さらに、
7. バイオリアクタにおいて、有益な特性を有する前記光合成微生物を新鮮な培地に接種するステップと、
8. 有益な特性を有する前記光合成微生物からなるバイオマスを生産するために、前記ステップ7の前記バイオリアクタを作動させるステップとを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度変動によって微細藻類細胞に対して細胞ストレスを誘起することが可能なバイオリアクタに関する。また、本発明は、温度変動によって誘起される細胞ストレスに基づいて微細藻類を選択する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光合成微生物には原核性のものと真核性のものが存在し、これらは「微細藻類」という用語でまとめられている。原核性の光合成微生物はシアノバクテリアに代表される(「藍藻類」とも呼ばれることもある)。真核性の光合成微生物は複数の綱に代表され、中でも、緑藻綱(Chlorophyceae)、珪藻綱(diatoms)、黄金色藻綱(Chrysophyceae)、円石藻綱(Coccolithophyceae)、ユーグレナ藻綱(Euglenophyceae)、および紅藻綱(Rhodophyceae)が挙げられる。一般的に、微細藻類細胞の大きさは、1μmから100μmの範囲である。
【0003】
現在の推定では、100万種を超える微細藻類が存在すると示唆されており、そのうちの数万種が分類されている。微細藻類は偏在的であり、淡水、汽水および海水中に等しく見られる。
【0004】
微細藻類の生産は、著しく発展している分野である。これは、微細藻類が様々な性質の多様な生成物を合成するからであり、その中でも、蛋白質、抗酸化物質、色素、および長鎖多不飽和脂肪酸であるDHA(ドコサヘキサエン酸)およびEPA(エイコサペンタエン酸)が挙げられる。
【0005】
このように、微細藻類の用途は複数の技術分野にわたり、特には、化粧品産業、製薬産業、水産養殖業、または機能性食品もしくは補助食品の産業で用いられる。
【0006】
さらに、微細藻類はバイオエネルギーの生産に用いられる。微細藻類は、光エネルギーを捕捉して、エネルギー分子内で二酸化炭素(CO)から無機炭素を固定し、代謝する能力を有する。微細藻類がCOと結合すること、および、微細藻類は糖または油分を豊富に含んでいることが多いという点は、微細藻類がバイオ燃料の生産において極めて有利であるということ意味している。この結合は、微細藻類が有する浄化能力にも寄与している。
【0007】
微細藻類は、光合成を行う種である。微細藻類の細胞は、増殖に光を必要とする。微細藻類は、自然光(日光)を用いて培養しても、人工的な光を用いて培養してもよい。培養システムとしては、(「レースウェイ」ポンドとも呼ばれる)培養池型の開放式の培養システムと、バッチ式バイオリアクタ、フェッドバッチ式(流加培養式)バイオリアクタ、または連続バイオリアクタなどの閉鎖式の培養システムとが存在する。
【0008】
一般的に、全ての培養システムは、栄養を含む培地を収容するように設計されたタンクを有する。微細藻類は、この培地に分散され、一定温度または自然の気候条件に応じて可変の温度で光を受ける。
【0009】
上記温度は、一般的に、微細藻類にとって自然な環境の温度に近くなるように選択されることが理想的である。これにより、細胞の増殖速度を良好にすることができる。しかし、これは困難であったり、コストがかかったりする場合もある。
【0010】
微細藻類の培養システムにおいて、光は、増殖に重要な役割を果たしている。簡単に言えば、微細藻類が吸収する光が多いほど、その増殖がより促進される。しかしながら、先行技術のシステムにおいて、光は、光源に近い細胞によって主に吸収される。微細藻類の密度が高い場合、大部分の光は、タンクの深部へと透過することができない。すなわち、タンク深部の微細藻類は暗い場所にあり、適切に増殖することができない。よって、培養システムには、光源に近い細胞が過度に露光するという問題と、培地の深部に位置する細胞が露光不足となるという問題がある。こうした培養システム内の光勾配は、微細藻類の生産を制限する。よって、光源および光強度は、製造方法の制限要因である。
【0011】
先行技術では、微細藻類の遺伝子改変を含むアプローチが提案されている。これには、微細藻類をより透明にするために、集光性錯体(クロロフィル分子)のサイズまたは数を低減すること、ならびに/または、微細藻類の様々な色素(特に、クロロフィルa、クロロフィルb、クロロフィルc、およびカロテノイドなどの色素)の比率を変更することが含まれる。
【0012】
特許文献1には、集光性錯体が低減された突然変異型の微細藻類が開示されている。各微細藻類細胞が捕捉する光の量がより少ないことによって、タンクの深部まで光を透過させることができる。したがって、光源から最も遠い領域にある細胞に対する遮蔽が低減される。しかし、このアプローチには、化学的変異誘発、または紫外線もしくはガンマ線照射による処理などといった複雑かつ高価な遺伝子工学または突然変異選択のプロセスが必要となる。また、培養システムは1種類の突然変異種のみを含み、これらのシステムは微細藻類のモノカルチャーである。モノカルチャーは、特に工業的利用条件に対して強くない。
【0013】
培養システム内の光勾配に関連する問題は、依然として、製造方法(最も具体的には、バイオマス生産を最大化するためのシステム)の制限要因である。今なお、培養システムの歩留まりの向上が必要とされている。
【0014】
また、先行技術では、生産歩留まりを向上させるために、微細藻類が具体的に選択される培養システムが提案されている。
【0015】
特許文献2には、バイオ燃料を生産するために使用される成分の貯蔵能力が向上された微細藻類を選択する方法が開示されている。様々な微細藻類の株の培養物が栄養的ストレスに曝される。高濃度の栄養を蓄えることができる株のみがこのストレスに耐えることができる。そして、これらの株を採取し、上記の培養システムで培養する。
【0016】
しかしながら、栄養的ストレスに耐えることができる株の数は限られている。さらに、微細藻類にとって自然な環境の温度を模した環境で微細藻類を培養する必要性により、株ごとに適応させることが要求される。これには加熱/冷却プログラムが用いられるので、コストが高く、エネルギー損失が大きいということになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【文献】国際公開第2014/089533号
【文献】国際公開第2013/012329号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の目的は、上記の状況を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
このため、本発明は、稼働期間の間、作動させられることができるタンクであって、光合成微生物の細胞培養物を含む培地を収容するように構成されたタンクと、前記タンクの方向に、選択した入光強度を有する入射光を放射するように構成された光源と、前記タンク内の前記培地の温度を測定する温度プローブと、前記タンク内の前記培地の前記温度を上昇および低下させることができる温度調整装置とを備えるバイオリアクタである。また、本発明のバイオリアクタは、第1期間の間、前記培地の前記温度を低い設定値に調整し、第2期間の間、前記培地の前記温度を高い設定値に調整するように構成された前記温度調整装置の制御部を備え、前記第1期間と前記第2期間が続くことにより、前記稼働期間の間に、前記光合成微生物の少なくとも一部に細胞ストレスを誘起することが可能である。
【0020】
一実施形態において、前記バイオリアクタは、前記光源に対向する光センサをさらに備え、この光センサは、前記細胞培養物濃度を算出し前記稼働期間の間に前記培地において選択した前記細胞培養物濃度で前記タンクを作動させるために、出光強度を測定し、前記強度についてのデータを前記コントローラに送信することが可能である。
【0021】
他の実施形態において、前記バイオリアクタは、前記稼働期間の間、前記培地において選択した細胞培養物濃度(x)で、好ましくは実質的に1.0g/l以下の濃度で、前記タンクを作動させるように構成されたコントローラをさらに備える。
【0022】
細胞に対して誘起されたストレスによって、光合成微生物(微細藻類)の細胞培養物の選択および/または適応が実現される。このストレスに耐えることができる株のみが、本発明の方法の後(すなわち、好ましくは、連続する稼働期間の複数サイクル後)に採取される。採取された株は有益な特性を有する(特に、脂質貯蔵能力、または工業的に有益な脂質の合成が向上されている)。
【0023】
一実施形態において、前記制御部は、前記稼働期間の間、平均設定値Vを維持するように、前記低い設定値および前記高い設定値、ならびに前記第1期間および前記第2期間を決定するように構成されている。当該実施形態において、前記平均設定値Vは、前記低い設定値および前記第1期間の積と、前記高い設定値および前記第2期間の積との和を、前記稼働期間で除算した値に等しい。
【0024】
【数1】
【0025】
これにより、前記稼働期間の間、前記細胞培養物に対して、制御されたストレスを誘起することが可能である。過度な細胞分解または細胞死を防止しつつ、前記微細藻類の適応および/または選択が実行される。
【0026】
前記藻類細胞は、平均設定温度に順化する。前記稼働期間は、複数回繰り返してもよい。各稼働期間において平均設定値Vを再度定めることが可能である。これにより、各稼働期間の間、前記藻類細胞は新たな平均設定温度に順化することができる。一実施形態によれば、平均設定値Vは、連続する複数の稼働期間を経る間に上昇される。他の実施形態によれば、平均設定値Vは、連続する複数の稼働期間を経る間に低下される。このようにして、前記藻類細胞は、徐々に上昇する高い平均温度または徐々に低下する低い平均温度に順化する。
【0027】
前記平均設定値は、前記光合成微生物の細胞培養物の最適増殖温度(Topt)と実質的に等しくてもよい。したがって、前記微細藻類の適応および/または選択は、最適増殖温度付近で行われる。当該実施形態では、前記微細藻類の感受性およびその自然進化環境を考慮している。これにより、過度な細胞分解や細胞死がさらに防止される。
【0028】
選択された前記入射光の入光強度Iinは、前記稼働期間の間、固定されていることが好ましい。これにより、光変動によって誘起される過度なストレスが防止される。前記入光強度は、100から2000μmol量子m-2 s-1の範囲であってもよい。前記培地における細胞培養物濃度が高いほど、光強度の調整が大きくなる。これにより、前記バイオリアクタの前記タンク内で良好に光を散乱させることができる。有利なことに、前記入光強度は、約250μmol量子m-2 s-1である。これにより、前記培地において選択した細胞培養物濃度x(実質的に1.0g/lに等しい)での良好な作動が可能である。これらの条件下において、前記タンク内での光の散乱および前記培地の栄養条件を容易に制御することが可能である。これにより、良好な増殖速度、ひいては良好な全体歩留まりが得られる。
【0029】
一実施形態において、前記稼働期間は24時間であり、前記第1期間は8時間であり、前記第2期間は16時間である。低い設定値および高い設定値についてのこの適用方式により、微細藻類細胞を良好に適応させることが可能である。好ましくは、前記稼働期間が一旦完了したときに、前記稼働期間が繰り返される。これにより、追加の選択サイクルを行うことが可能である。数回繰り返した後、細胞の選択および/または適応は際立っている。一実施形態によると、前記稼働期間は7から360回繰り返される。
【0030】
1つの好適な実施形態において、前記制御部は、1回以上の稼働期間の後、前記光合成微生物の細胞培養物の前記増殖速度についてのデータを受信するように構成されている。受信後、前記制御部は、前記光合成微生物の細胞培養物の前記増殖速度についての前記データを受信した後の前記低い設定値および前記高い設定値を固定する。前記細胞培養物の前記増殖速度についての前記データは、この細胞培養物が増殖しているかどうかを示すものである。増殖が停滞しているときは、前記微細藻類細胞が気候条件に適応できるように温度変動方式は変更されない。前記細胞培養物が増殖しているときは、前記温度変動方式はより厳密になり、前記低い設定値と前記高い設定値との間の差が大きくなる。新たな、より極端な気候条件に適応することができる細胞のみが生存する。これにより、選択および/または適応基準を高めて、改良された特性を有する最終的な株を採取することができる。この最終的な株は、高い工業的価値を有する。
【0031】
また、本発明は、光合成微生物を選択する方法であって、
1. 上記のバイオリアクタを準備するステップと、
2. タンクを培地で満たすステップと、
3. 光合成微生物からなる細胞培養物を前記培地に接種するステップと、
4. 稼働期間の間、好ましくは前記培地において選択した細胞培養物濃度xで、前記タンクを作動させ、選択した値に入光強度(Iin)を調整するステップと、
5. 第1期間の間、前記培地の温度を低い設定値(VLS)に調整し、第2期間の間、前記培地の前記温度を高い設定値(VHS)に調整するステップであって、前記第1期間とt前記第2期間が続くことにより、前記稼働期間の間、前記光合成微生物の少なくとも一部に細胞ストレスを誘起することを可能にするステップと、
6. 前記光合成微生物を採取するステップと、を含む方法に向けられている。
【0032】
前記低い設定値および前記高い設定値ならびに前記第1期間および前記第2期間は、前記稼働期間の間、平均設定値(VM)を維持するように調整され、前記平均値は、前記低い設定値および前記第1期間の積と、前記高い設定値および前記第2期間の積との和を、前記稼働期間で除算した値に等しい。
【0033】
【数2】
【0034】
前記平均設定値は、前記光合成微生物の前記細胞培養物の前記最適増殖温度(Topt)と実質的に等しくてもよい。他の実施形態において、前記平均値は、選択した微細藻類の株に固有の、生物学的許容温度基準を満たすように選択される。換言すれば、前記平均設定値は、タンク内に存在する微細藻類の株にとって生物学的に許容できる任意の温度とすることが可能である。
【0035】
前記稼働期間は24時間であってもよい。このとき、前記第1期間は好ましくは8時間であり、前記第2期間は16時間である。
【0036】
一般的に、所与の(所定の)稼働期間において、前記第2期間の長さは前記第1期間の2倍である。
【0037】
温度調整ステップ5は、2から360回繰り返されることが有利である。これにより、選択および/または適応の基準が高められる。
【0038】
本発明の方法は、さらに、
4a. 前記光合成微生物の少なくとも一部を含む前記培地の一部を取り出すステップと、
4b. 取り出された、前記光合成微生物の少なくとも一部を含む前記培地の前記部分を、新鮮な培地で補うステップとを含んでもよい。
【0039】
好ましくは、前記温度調整ステップ5は、前記光合成微生物の少なくとも一部の細胞分解を生じさせ、これにより、有益な特性を有する光合成微生物を選択するように、3回以上繰り返される。
【0040】
前記採取ステップ6は、前記培地が、有益な特性を有する光合成微生物が75%を越える、好適には90%を越える、より好適には実質的に100%である光合成微生物からなる細胞培養物を含む場合に実施されることが好ましい。一実施形態において、本発明の方法は、さらに、
7. バイオリアクタにおいて、ステップ6で採取された改変光合成微生物を新鮮な培地に接種するステップと、
8. 前記改変光合成微生物からなるバイオマスを生産するために、ステップ7の前記バイオリアクタを作動させるステップとを含む。
【0041】
これにより、工業的利用のために、ステップ6の最後で採取された株を培養することが可能である。
【0042】
1つの好適な実施形態によると、前記温度調整ステップ5は2から360回繰り返される。当該実施形態において、繰り返し毎に、前記制御部は、1回以上の稼働期間の後で前記光合成微生物の前記細胞培養物の前記増殖速度についてのデータを受信する。そして、前記制御部は、前記増殖速度についてのデータを受信した後に、前記低い設定値および前記高い設定値を以下のように固定する。
●前記増殖速度がゼロ以下であるとき、
・ 次の稼働期間(つまりサイクル)に対する前記低い設定値および前記高い設定値は変更されない。
●前記増殖速度がゼロをよりも大きいとき、
・ 次の稼働期間に対する前記低い設定値が下げられ、かつ、
・ 次の稼働期間に対する前記高い設定値が上げられる。
【0043】
本発明の一実施形態によると、光合成微生物の細胞は、Tisochrisis luteaという種の細胞であり、好ましくは、Tisochrisis lutea CCAP 927/17株の細胞である。
【0044】
本発明の他の利点および特徴は、下記の詳細な説明および添付の図面を参照することで明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1】本発明に係るバイオリアクタにおける微細藻類のバイオマス生産に用いられる方式を示す図である。
図2】本発明に係る選択方法の概略的なフローチャートである。
図3】本発明の方法の稼働期間の間における温度変化を示すグラフである。
図4】本発明の方法の別の稼働期間の間における温度変化を示すグラフである。
図5】先行技術の微細藻類の株と、本発明に従って選択および/または改変された2種類の微細藻類の株との間の温度的ニッチの比較図である。
図6】先行技術の微細藻類の株と、本発明に従って選択および/または改変された2種類の微細藻類の株との間の増殖速度の比較図である。
図7】先行技術の微細藻類の株と、本発明に従って選択および/または改変された2種類の微細藻類の株との間の増殖温度および温度的ニッチの比較図である。
図8】本発明に従って得られた株と、先行技術の株とに存在する総脂質量の比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
添付の図面および以下の説明には、主として、明確な性質の要素が含まれている。これらの要素は説明に不可欠な部分であり、したがって、本発明をより明瞭に理解できるようにするだけでなく、場合によっては、その定義にも寄与してもよい。
【0047】
微細藻類(または、微細藻類のバイオマス)の良好な生産のため、微細藻類は、栄養(窒素、リン、硫黄、微量元素、ビタミン)に富む培地において、その微細藻類に最適な温度およびpH値で培養されるべきであり、十分な光が与えられるべきである。微細藻類がCOを代謝することによって光エネルギーを変換することができるように、栄養の存在が必要である。この変換の結果、酸素が生産され、微細藻類の増殖(細胞分裂による増殖)によりバイオマスが増大する。1回以上の稼働期間の後、微細藻類を含む前記培地の一部が前記タンクから取り除かれ、新鮮な培地が前記タンクに注入される。この理由としては、1回以上の稼働期間の後、前記培地の栄養は消耗されており、また、前記微細藻類が有害成分を分泌/生成する可能性があるからである。このとき、前記微細藻類の一部と共に前記培地の一部を除去し、この部分を新鮮な培地と交換することが望ましい。従来から、培地は、微細藻類細胞の増殖速度に応じて新しくされている(この場合、使用する比例係数が1であることが好ましい)。一実施形態において、本発明の方法は、全稼働期間における培地の平均更新度を約10%としている。
【0048】
従来、高い増殖速度を得るために、微細藻類に良く吸収される波長の光を放射することが可能な光源が使用される。
【0049】
次の出版物には、微細藻類養システムにおいて光を使用すること、つまり微細藻類に応じて良好な細胞増殖を得るための温度およびpH条件が記載されている。
Light requirements in in microalgal photobioreactors: an overview of biophotonic aspects(微細藻類光バイオリアクタにおける光要件:バイオフォトニック的側面の概要) - Carvalho et al., Appl Microbiology and Biotechnology, 2011, vol. 89, no. 5: 1275-1288;
Light Emitting diodes (LEDs) applied to microalgal production(微細藻類生産に適用される発光ダイオード(LED)) - Schulze et al., Trends in Biotechnology, 2014, vol. 32, no. 8: 422-430;および
Optimizing conditions for the continuous culture of Isochrysis affinis galbana relevant to commercial hatcheries(商業的養殖に関わるIsochrysis affinis galbanaの連続培養に用いる条件の最適化) - Marchetti, Bourgaran & Dean, Aquaculture, 2012, 326/329, 106-105
【0050】
図1は、連続モードで作動する本発明のバイオリアクタにおける微細藻類のバイオマスの生産に用いられる方式を示している。連続モードのバイオリアクタは、稼働期間の間、前記培地において選択した微細藻類濃度で連続的に前記タンクを作動させることが可能であるコントローラに接続されており、、培地の入口および出口を備えるという利点を有する。
【0051】
前記バイオリアクタは、微細藻類を含む培地を収容することができるタンク100を備える。この微細藻類は、培地に分散されるか、またはバイオフィルムの形態である。前記微細藻類は、光合成微生物の細胞Cから構成されている。前記バイオリアクタは、流速を調整する装置にそれぞれ接続された入口102および出口104を備える。これにより、これら入口102および出口104は、入口102および出口104を開閉するための第1バルブ(またはポンプ)106および第2バルブ(またはポンプ)108にそれぞれ接続されている。入口102および第1バルブ106により、タンク100への新鮮な培地の導入を制御することが可能である。出口104および第2バルブ108により、培地、および場合によっては細胞Cの少なくとも一部の排出を制御することが可能である。これらの入口および出口により、微細藻類のバイオマスの生産Pのために、前記バイオリアクタを連続的に作動させることが可能である。
【0052】
一般的に、連続モード培養システムにおけるバイオマス生産の制御は、微細藻類の培養物の細胞増殖の制御によって行う。培地における微細藻類濃度x[g/l]は、比増殖速度μ(x)[h-1]に応じて変化する。連続システムにおいて、前記濃度は、培地の希釈速度D[h-1]にも応じて変化する。この希釈速度Dは、入口流速(l/h)を培地の体積(l)で除算して定められる。
【0053】
培地における微細藻類濃度x[g/l]は、経時的に変化する。微細藻類の所与の株について、この変化は下記式F1によって表すことができる。
【0054】
【数3】
【0055】
よって、(一定容積の)バイオリアクタのタンク100におけるバイオマス生産について、
・ μ(x)>Dである場合、細胞は、排出されるよりも速く(細胞分裂によって)増殖し、その数、ひいてはその濃度(バイオマス)が増大する。
・ μ(x)<Dである場合、細胞は、排出されるよりも遅く(細胞分裂によって)増殖し、その数、ひいてはその濃度(バイオマス)が減少する。
・ μ(x)=Dである場合、細胞の数は時間が経っても一定である。前記タンクから培地と共に排出される細胞の数は、前記タンク内の培地において細胞増殖によって得られる細胞の数と等しい。前記濃度は一定である。
【0056】
前記バイオリアクタは、光源200を備える。光源200は、入射光Lを放射することが可能である。前記光Lは、典型的に、青色光(好ましくは、430nmから470nm)および赤色光(好ましくは、650nmから700nm)を含む太陽光スペクトル全体を含むように選択される。これらの波長範囲は、上記の微細藻類によって高く吸収されるので、微細藻類の良好な増殖速度が得られる。
【0057】
バイオリアクタタンクにおける光学的な、吸光およびフォトン代謝現象については、以下のハンドブックに詳述されている。
Microalgal biotechnology: potential and production(微細藻類バイオテクノロジー:可能性および生産), C. Posten and C. Walter, de Gruyter, 2012;および
Handbook of Microalgal Culture: Applied Phycology and Biotechnology(微細藻類培養ハンドブック:応用藻類学およびバイオテクノロジー), 2nd edition, A. Richmond and Q. Hu, Wiley-Blackwell, 2013
【0058】
本発明の細胞濃度は、光勾配(自己遮蔽現象)に関連する問題が生じないように選択される。一般的に、細胞濃度xは、0.01g/lから5.0g/lの範囲である。好ましくは、前記濃度は、約0.1g/lである。
【0059】
本発明の1つの目的は、工業的利益を有する物質に富んだ微細藻類を選択し、培養することである。よって、出願人は、微細藻類に対する熱ストレスの誘起に基づく新たな選択方法を提案する。出願人は、培養システムにおいて、連続的な温度フェーズの特定の方式により、工業的利用に適した微細藻類の選択および/または改変が可能であるという意外なことを見出した。本発明のシステムは、連続モードまたは半連続モードのフェッドバッチ式で作動させることが可能である。
【0060】
一部の種の微細藻類は、その自然環境の温度と一致しない温度に適応することが可能である。最適増殖温度よりも低い温度および/または高い温度に曝された微細藻類は、特定の代謝物を蓄える能力を高めることで順化することができる。例えば、一部の微細藻類細胞は、熱ストレスに反応して、ドコサヘキサエン酸(DHA)およびエイコサペンタエン酸(EPA)などの多不飽和脂肪酸に富んだ極性脂質を蓄える能力を高める。これらは、大きな工業的利益を有する生成物である。
【0061】
以下の出版物では、微細藻類に対する臨界温度が明らかにされている。
Validation of a simple model accounting for light and temperature effect on microalgal growth(微細藻類の増殖に対する光および温度の影響を考慮した簡易モデルの検証), Bernard & Remond, Bioresource Technology, 2012, 123, 520-7
これには、特に、最適増殖温度と、最高温度および最低温度とが関わっており、これらの最高温度および最低温度を越える温度では増殖が阻害される。最高増殖温度と最低増殖温度との間の差は、温度的ニッチとも称される。
【0062】
先行技術では、「熱的スペシャリスト(thermal specialists)」と呼ばれる微生物と、「熱的ジェネラリスト(thermal generalists)」と呼ばれる微生物とを区別している。Evolution in changing environments(変化する環境における進化), Levins, Princeton Univ Press Princeton NJ, 1968, 2(2), 120;およびHotter is better and broader: thermal sensitivity of fitness in a population of bacteriophages(より高い温度はより良く、より広い:バクテリオファージ集団における適応度の温度的感受性), Knies et al., The American Naturalist, 2009, 173(4), 419-430を参照のこと。熱的スペシャリストの微生物は、狭い温度的ニッチと高い増殖速度を有する。熱的ジェネラリストの微生物は、広い温度的ニッチと低い増殖速度を有する。
【0063】
出願人のアプローチは、先行技術の教示内容とは根本的に逆である。実際、出願人は、最低および最高の増殖温度を変える(温度的ニッチを増大させる)ことにより、微細藻類の増殖速度を向上させることが可能であるという意外なことを見出した。生産性および歩留まりが向上される。
【0064】
よって、本発明の1つの目的は、工業的利益を有する生成物(酵素、蛋白質など)の含有量が向上された新たな微細藻類の株を得ることである。本発明により、有益な微細藻類の細胞のバイオマスを多量に得ることが可能である。
【0065】
熱ストレスは細胞死を生じさせるか、または場合によっては微細藻類細胞を適応させる。この適応により、特に、微細藻類細胞において遺伝的突然変異が生じる。換言すれば、熱ストレスによって誘起された自然な遺伝的突然変異は、遺伝的適応機構を生じさせる。遺伝的突然変異は、1つの細胞からその子孫へと伝達することができるので、世代間で伝達することができる。
【0066】
遺伝的突然変異は、例えば、微細藻類細胞の膜蛋白質または脂質の増加を生じさせる可能性がある。また、細胞における代謝物の蓄積を生じさせる可能性がある。このようにして、微細藻類は、最適増殖温度から離れた温度変動に対してより耐性を有するようになる。
【0067】
図2には、本発明に係る選択方法の概略的なフローチャートが示されている。EMP操作は、微細藻類の細胞培養物と、選択した培養株の増殖に適した栄養培地を提供することを含む。この操作には、タンク100に培地を充填し、この培地に前記微細藻類細胞を接種する(植え付ける)ことを含む副操作が含まれる。
【0068】
サイクル1の操作には、最適増殖条件下における微細藻類の増殖フェーズが含まれる。このために、温度T℃は、最適増殖値VOGに調整される。最適増殖値VOGは、微細藻類の種に応じて異なる。サイクル1の操作の期間は可変である。一般的に、本発明における増殖操作は24時間続く。各増殖操作は繰り返してもよい。したがって、サイクル1の操作は、24時間にわたって続けてもよい(t=t0)。サイクル1の操作は、例えば、2回から7回繰り返してもよい。これにより、サイクル1の操作は、48時間から7日間続けることができる。
【0069】
サイクル1の操作の後、本発明のサイクル2の操作を行う。サイクル2の操作には、温度が第1の低い設定値VLS1に調整される第1フェーズC2Iが含まれる。この低い設定値VLS1は、最適増殖温度条件よりも低い温度条件(VLS1<VOG)を満たすように選択される。したがって、前記低い設定値は、微細藻類に対する熱ストレスを誘起する。第1フェーズC2Iは、所定期間(t=t1)維持される。
【0070】
前記サイクル2の操作には、温度が第1の高い設定値(VHS1)に調整される第2フェーズC2IIが含まれる。この高い設定値VHS1は、最適増殖温度条件よりも高い温度条件(VHS1>VOG)を満たすように選択される。したがって、前記高い設定値は、微細藻類に対する熱ストレスを誘起する。第2フェーズC2IIは、所定期間(t=t2)維持される。
【0071】
前記第1および第2フェーズの各期間は、t1+t2=24時間となるように選択される。前記第1および第2フェーズの連続は、例えば、7回繰り返してもよい。これにより、サイクル2の操作を7日間続けてもよい。
【0072】
図3には、サイクル2の操作の間の温度変化が、24時間にわたって経時的に示されている。
【0073】
サイクル2の操作の後、微細藻類の比増殖速度μを測定するMES操作が行われる。μがゼロ以下である場合、サイクル2の操作が繰り返され、μがゼロよりも大きい場合、次のサイクル3の操作が開始される。
【0074】
サイクル3の操作には、温度が第2の低い設定値(VLS2)に調整される第1フェーズC3Iが含まれる。この低い設定値VLS2は、サイクル2の操作における第1の低い設定値よりも低い温度条件(VLS2<VLS1)を満たすように選択される。第2の低い設定値は、微細藻類に対する熱ストレスを誘起する。第1フェーズC3Iは、所定期間(t=t3)維持される。
【0075】
前記サイクル3の操作には、温度が第2の高い設定値VHS2に調整される第2フェーズC3IIが含まれる。この第2の高い設定値VHS2は、サイクル2の操作における第1の高い設定値よりも高い温度条件(VHS2>VHS1)を満たすように選択される。前記高い設定値は、微細藻類に対する熱ストレスを誘起する。第2フェーズC3IIは、所定期間(t=t4)維持される。
【0076】
前記第1および第2フェーズの各期間は、t3+t4=24時間となるように選択される。前記第1および第2フェーズの連続は、例えば7回繰り返してもよい。これにより、サイクル3の操作は、7日間続けてもよい。
【0077】
図4には、サイクル3の操作の間の温度変化が、24時間にわたって経時的に示されている。
【0078】
上記の連続的な操作の方式(この場合、サイクル2、MES、そしてサイクル3)は、例えば微細藻類の種に応じて、所定回数繰り返してもよい。
【0079】
このようにして、前記サイクル3の操作の後、微細藻類の比増殖速度μを測定する新たな操作を行ってもよい。μがゼロ以下である場合、サイクル3の操作を繰り返すことができ、μがゼロよりも大きい場合、次のサイクル4の操作を開始することができる。このとき、サイクル4の操作には、サイクル3の操作の設定値を下回る低い設定値および上回る高い設定値が含まれる。これにより、微細藻類細胞に対して熱ストレスを誘起する。
【0080】
[例示的な実施形態]
本実施形態のバイオリアクタは、培地を含むタンク100を備える。前記培地は、光合成微生物の細胞培養物が分散している。
【0081】
選択された光合成微生物の出発細胞培養物は、Tisochrisis lutea CCAP 927/17という微細藻類の株である。本明細書の以下の部分において、この株をW2Xと呼ぶ。
【0082】
初期のW2X株は、良好なトリグリセリド生産性を発現する。Bougaran et al.によるEnhancement of neutral lipid productivity in the microalga Isochrysis affinis Galbana (T-Iso) by a mutation-selection procedure(突然変異-選択方法による微細藻類Isochrysis affinis Galbana (T-Iso)における中性脂質生産性の促進), Biotechnology and Bioengineering, 2012, 109(11), 2737-45およびCarrier et al.によるComparative transcriptome of wild type and selected strains of the microalgae Tisochrysis lutea provides insights into the genetic basis, lipid metabolism and the life cycle(野生種および選択された微細藻類Tisochrysis luteaの比較トランスクリプトームによる、遺伝的根拠に基づく脂質代謝およびライフサイクルについての洞察), PLoS ONE, 2014, 9(1)を参照されたい。
【0083】
前記タンクの容積は、1.9lである。この場合、前記培地はf/2型である。Culture of phytoplankton for feeding marine invertebrates(海洋性無脊椎動物に給餌する植物プランクトンの培養), Culture of Marine Invertebrate Animals -Plenum, 1975を参照のこと。前記タンク100は、この培地を混合する手段も備える。この場合、混合手段は、磁気撹拌具と、前記培地に微細な気泡を発生させることができる(エアポンプ型の)ブロワとを有する。前記バイオリアクタは、入口102および出口104を備える。入口102により、タンク100に新鮮な培地を導入することが可能である。出口104により、タンク100から培地および微細藻類を排出することが可能である。これらの入口102および出口104は、コントローラに接続されている。このコントローラにより、稼働期間の間、タンク100を連続モードで作動させることが可能である。前記稼働期間は、前記培地に存在する微細藻類の株に応じて異なる。前記稼働期間は、好適には少なくとも1か月にわたり(上限なし)、大まかには、微細藻類の少なくとも20世代に相当する(すなわち、20回連続する細胞分裂)。本発明によると、前記稼働期間は、微細藻類細胞のサイクル(細胞分裂)に要求される時間よりも長い。本実施形態において、前記稼働期間は260日である。有利なことには、前記バイオリアクタのタンクは、定期的に(例えば、毎月)清掃される。清掃は、70%エタノールを用いた後に塩酸(HCl)で洗浄し、新鮮な培地ですすぐことによって行うことができる。タンクを清掃する間、細胞培養物を含む培地は、無菌環境下で保存される。
【0084】
前記バイオリアクタは、微細藻類が分散した培地で満たされたタンク100を透過するのに十分な大きさの入光強度Iinの入射光Lを放射する光源200を備える。光源200は、5000μmol量子m-2 s-1までの範囲とすることができる入光強度Iinの放射が可能である。本実施形態では、前記光源は、一定強度(250μmol量子m-2 s-1)の放射を行うように構成されている。光源200は、稼働期間の間、一定値の入光強度Iinの放射を行う。この場合、前記光源は、Nichia Corporation社の発光ダイオード(型番:NVSL219BT 2 700°K)を備える。コントローラ600は、希釈速度Dで、タンク100を連続モードで作動させる。このため、コントローラ600は、タンク100内の培地/微細藻類の組み合わせの光学濃度を測定するために、光電セルなどの1つ以上の光センサ300を備える。これにより、コントローラ600は、稼働期間の間、前記培地において、細胞培養物濃度xを選択した値(例えば、約1.0g/l)に維持することができる。前記コントローラは、培地の導入および排出によって希釈速度Dを調整するように構成されている。濃度が約1.0g/lであることにより、タンク100において良好な光散乱が得られる。この場合、前記バイオリアクタは、Skye Instruments社の光センサ300(型番:SKL2620)を備える。
【0085】
本発明の例示的な実施形態において、本発明の選択プロトコルは、連続モードのバイオリアクタにおいて実行される。濁度は、約9×10細胞/mlで一定に保たれる。これは、センサ300による800nmでの連続的な測定と、コントローラ600による希釈の調節による操作によって実現される。これを「SFturb」選択モードと称する。
【0086】
同様に、本発明の選択プロトコルは、フェッドバッチ式のバイオリアクタにおいても実行される。新鮮な培地を用いた希釈は7日毎に実施され、希釈前に培地/微細藻類細胞の混合物が5%から10%保存される。したがって、希釈後の初期細胞濃度は、約5×10細胞/lである。これを「SFb」選択モードと称する。
【0087】
微細藻類を含む前記培地のpHは、稼働期間の間、二酸化炭素(CO)を加えることによってpH=8.2に維持される。
【0088】
前記バイオリアクタは、また、前記タンク内の培地の温度を上昇および低下させることができる温度調整装置500を備える。この場合、前記調整装置は、タンク100の周縁に配置されたウォータジャケットによって実施される冷却/加熱用のシステムを備える。前記バイオリアクタは、前記タンク内の培地の温度を測定するための温度プローブ400を備える。また、前記バイオリアクタは、第1期間の間、前記培地の温度を低い設定値VLSに調整し、第2期間の間、前記培地の温度を高い設定値VHSに調整するように構成された温度調整装置500の制御部700を備え、前記第1期間および前記第2期間の連続により、稼働期間の間、前記光合成微生物の少なくとも一部に細胞ストレスを誘起することが可能である。この場合、制御部700は、Lauda Brinkmann社のサーモスタット(型番:Proline RP 845)を備える。
【0089】
高い設定温度および低い設定温度に到達することを目的とした前記温度の調整は、前記制御部によって様々な方法で実施することが可能である。これにより、温度の低下および/または上昇は、特に、直線的、指数関数的、または段階的に行うことが可能である。
【0090】
本発明によると、培地の(ひいては、微細藻類細胞あたりの受ける)平均温度Tは、稼働期間の間、一定に保たれる。これは、細胞あたりの受ける平均温度を徐々に上昇させることを目指す先行技術のアプローチとは根本的に異なっている。制御部700は、稼働期間の間、以下の平均温度条件を満たすように構成されている。
【0091】
【数4】
【0092】
低い設定値と高い設定値との間の幅(つまり差)は、1つのサイクルから次のサイクルに(または、1つの稼働期間から次の稼働期間に)なるときに増大される。
【0093】
本願の選択プロトコルは、24時間毎の温度変動のサイクルを提供する。
【0094】
W2X株(Tisochrisis luteaCCAP 927/17)の最適増殖温度Topt(温度値VOG)は、28℃である。本発明の例示的な実施形態において、24時間にわたって選択された平均温度は、28℃である。
【0095】
各サイクル(稼働期間)は、培地の温度が、最適増殖温度よりも低い温度Tlowに調整される第1期間を含む。前記制御部は、前記温度を低い設定値VLSに調整する。本実施形態において、第1期間は8時間である。また、各サイクル(稼働期間)は、培地の温度が、最適増殖温度よりも高い温度Thighに調整される第2期間を含む。前記制御部は、前記温度を高い設定値VHSに調整する。本実施形態において、第2期間は16時間である。
【0096】
前記第1期間および第2期間の連続により、W2X株の細胞の少なくとも一部に細胞ストレスを誘起することが可能である。
【0097】
第1選択サイクルにおいて、低い設定値VLS(Tlow)は26℃である。第1選択サイクルにおいて、高い設定値VHS(Thigh)は29℃である。
【0098】
したがって、前記微細藻類は26℃に8時間曝され、その後、29℃に16時間曝される。24時間の間に前記微細藻類が受ける平均温度は、28℃(Topt)である。
【0099】
第1選択サイクルは、7日間繰り返される。7日後、増殖速度μが求められる。μがゼロ以下である場合、第1選択サイクルの温度条件が同じように繰り返され、μがゼロよりも大きい場合、第2選択サイクルが開始される。
【0100】
第2選択サイクルにおいて、低い設定値VLS(Tlow)は24℃である。第2選択サイクルにおいて、高い設定値VHS(Thigh)は30℃である。
【0101】
したがって、前記微細藻類は24℃に8時間曝され、その後、30℃に16時間曝される。24時間の間に前記微細藻類が受ける平均温度は、28℃(Topt)である。
【0102】
第2選択サイクルは、7日間繰り返される。7日後、増殖速度μが求められる。μがゼロ以下である場合、第2選択サイクルの温度条件が繰り返され、μがゼロよりも大きい場合、第3選択サイクルが開始される。
【0103】
その後の各サイクル(つまり稼働期間)では、低い設定値VLS(Tlow)が0.5℃から1℃下げられ、高い設定値VHS(Thigh)が0.25℃から0.5℃上げられる。一方、第1期間および第2期間は同一に保たれる(それぞれ8時間および16時間)。
【0104】
温度条件は、稼働期間ごとに徐々に極端になる。これにより、低い設定値VLS(Tlow)は、例えば12℃に到達し、高い設定値VHS(Thigh)は、例えば36℃に到達するかもしれない。連続する稼働期間の数が増えるほど、選択は厳密になる。
【0105】
本発明の例示的な実施形態では、24時間の稼働期間が259回繰り返される(合計260日)。
【0106】
変形例として、第1期間および第2期間を変更することが可能である。例えば、一実施形態では、第1期間は6時間に固定され、第2期間は12時間に固定されている。そして、温度が最適増殖値(VOG)に保たれる第3期間が設けられている。これにより、前記微細藻類が受ける平均温度は、24時間にわたって一定に保たれる。あくまでも例として、
・ 温度Tlowが低い設定値VLS(26℃)で6時間維持され、
・ 温度Thighが高い設定値VHS(29℃)で12時間維持され、かつ、
・ 第3期間(6時間)の間、温度Toptが最適増殖値VOG(28℃)で維持される選択サイクルが挙げられる。
【0107】
このとき、24時間の間に前記微細藻類細胞あたりの受ける平均温度は、28℃(Topt)である。
【0108】
この変形例において、所与(所定)の稼働期間について、第2期間の長さが第1期間の2倍であるという一般的な前提が確認される。この所与の稼働期間を補完するために、この稼働期間に第3期間が追加される。
【0109】
図5には、初期のW2X株および本発明の選択プロトコルが施されたW2X株の、温度(℃)に対する一日あたり(d-1)の増殖速度が示されている。これらの株は、それぞれ(連続モードのバイオリアクタにおいて選択されたW2X株の)W2XSTurb、および(フェッドバッチ式のバイオリアクタにおいて選択されたW2X株の)W2XSFbである。図5には、初期のW2X株と比較すると、適応した株W2XSTurbおよびW2XSFbの温度的ニッチが増大したことが示されている。各株に対する極端な温度(すなわち、最低増殖温度Tminおよび最高増殖温度Tmax)は、Validation of a simple model accounting for light and temperature effect on microalgal growth (微細藻類の増殖に対する光および温度の影響を考慮する簡易モデルの検証), Bernard & Remond, Bioresource Technology, 2012, 123, 520 7で提案されたモデルに従って算出された。
【0110】
図6には、初期のW2X株と、本発明の方法によって改変された株(W2XSFbおよびW2XSTurb)との間の比較図が示されている。本発明に従って得られた株は、初期のW2X株と比べて、増殖速度が向上されている。
【0111】
図7には、W2X株、W2XSFb株およびW2XSTurb株について、最低増殖温度Tmin、最高増殖温度Tmax、最適増殖温度Toptおよび温度的ニッチの比較図が示されている。
【0112】
図5および図6には、適応した株W2XSTurbおよびW2XSFbの増殖速度が、初期のW2X株の増殖速度よりも高いことが示されている。図7には、適応した株W2XSTurbおよびW2XSFbの温度的ニッチが、初期のW2X株の温度的ニッチよりも広いことが示されている。よって、図5から図7において、本発明の選択方法によって改変された微細藻類は増殖速度が高く、温度的ニッチが広いことが示されている。これは、低い増殖速度で広い温度的ニッチとなる先行技術の結果およびモデルとは対照的である。適応した株W2XSTurbおよびW2XSFbは、温度的ニッチがより狭い初期のW2X株と比べて、工業的利用のための利点が向上されている。
【0113】
図8には、野生型のTisochrisis lutea株(すなわち、CCAP 927/14株)(Bougaran et al.によるEnhancement of neutral lipid productivity in the microalga Isochrysis affinis Galbana (T-Iso) by a mutation-selection procedure(突然変異-選択方法による微細藻類Isochrysis affinis Galbana (T-Iso)における中性脂質生産性の促進), Biotechnology and Bioengineering, 2012, 109(11), 2737-45を参照)と、初期のW2X株と、W2XSFb株と、W2XSTurb株とに存在する総脂質量の比較図が示されている。本発明の方法によって改変された株(W2XSFbおよびW2XSTurb)は、野生株および初期のW2X株と比べて、脂質量(藻類炭素μgあたりの脂質μg)が高い。
【0114】
初期のW2X株、W2XSFb株、W2XSTurb株の試料に含まれる脂肪酸およびその各含有量が、ガスクロマトグラフィ(GC)によって特定された。脂肪酸の組成および各脂肪酸の量が特定された。表1にその結果を示す。
【0115】
【表1A】
【0116】
【表1B】
【0117】
表1の結果は、本発明の方法によって適応した(特に、遺伝的に改変された)微細藻類の株に含まれる脂肪酸の量が向上したことを示している。最も具体的には、工業的有用性が高いDHAについて、顕著な増大が確認される。
【0118】
本発明のバイオリアクタによるW2X株の改変により、温度的ニッチが数℃(この場合、3℃まで)増大したW2Xの改変株(この場合、W2XSFbおよびW2XSTurb)が得られた。本発明に従って改変されたW2X株は、また、(特に、DHAについて)初期のW2X株と比較すると、脂肪酸含有量が向上している。本発明に従って改変されたW2X株の増殖速度は、初期のW2X株と比較すると、向上している。
なお、本発明は、実施の態様として以下の内容を含む。
〔態様1〕
稼働期間の間に作動させられることが可能なタンク(100)であって、光合成微生物の細胞培養物を含む培地を収容するように構成されたタンク(100)と、
前記タンクの方向に、選択した入光強度(I in )を有する入射光を放射するように構成された光源(200)と、
前記タンク内の前記培地の温度を測定する温度プローブ(400)と、
前記タンク内の前記培地の前記温度を上昇および低下させることができる温度調整装置(500)とを備えるバイオリアクタにおいて、
第1期間の間、前記培地の前記温度を低い設定値(V LS )に調整し、第2期間の間、前記培地の前記温度を高い設定値(V HS )に調整するように構成された前記温度調整装置の制御部(700)をさらに備え、
前記第1期間と前記第2期間が続くことにより、前記稼働期間の間に、前記光合成微生物の少なくとも一部に細胞ストレスを誘起することが可能であることを特徴とするバイオリアクタ。
〔態様2〕
態様1に記載のバイオリアクタにおいて、前記制御部(700)は、前記稼働期間の間、平均設定値(V M )を維持するように、前記低い設定値および前記高い設定値、ならびに前記第1期間および前記第2期間を決定するように構成されており、前記平均値は、前記低い設定値および前記第1期間の積と、前記高い設定値および記第2期間の積との和を、前記稼働期間で除算した値に等しいバイオリアクタ。
〔態様3〕
態様2に記載のバイオリアクタにおいて、前記平均設定値が、前記光合成微生物の細胞培養物の最適増殖温度(T opt )と実質的に等しいバイオリアクタ。
〔態様4〕
態様1から3のいずれか一態様に記載のバイオリアクタにおいて、選択された前記入射光の前記入光強度(I in )が、前記稼働期間の間、固定されているバイオリアクタ。
〔態様5〕
態様1から4のいずれか一態様に記載のバイオリアクタにおいて、選択された前記入射光の前記入光強度(I in )が、100から2000μmol量子m -2 s -1 の範囲であり、好ましくは、約250μmol量子m -2 s -1 であるバイオリアクタ。
〔態様6〕
態様1から5のいずれか一態様に記載のバイオリアクタにおいて、前記稼働期間の間、前記培地において選択した細胞培養物濃度(x )で、好ましくは実質的に1.0g/l以下の濃度で、前記タンクを作動させるように構成されたコントローラ(600)をさらに備えるバイオリアクタ。
〔態様7〕
態様1から6のいずれか一態様に記載のバイオリアクタにおいて、前記光源(200)に対向する光センサ(300)をさらに備え、この光センサ(300)は、前記細胞培養物濃度を算出し前記稼働期間の間に前記培地において選択した前記細胞培養物濃度(x )で前記タンクを作動させるために、出光強度(I out )を測定し、前記強度(I out )についてのデータを前記コントローラに送信することが可能であるバイオリアクタ。
〔態様8〕
態様1から7のいずれか一態様に記載のバイオリアクタにおいて、前記稼働期間が一旦完了したときに、前記稼働期間を繰り返すことができるバイオリアクタ。
〔態様9〕
態様8に記載のバイオリアクタにおいて、前記制御部は、1回以上の稼働期間の後、光合成微生物の前記細胞培養物の前記増殖速度についてのデータを受信するように構成されており、前記制御部は、前記光合成微生物の前記細胞培養物の前記増殖速度についてのデータを受信した後、前記低い設定値および前記高い設定値を固定するバイオリアクタ。
〔態様10〕
光合成微生物を選択する方法であって、
1. 態様1に記載のバイオリアクタを準備するステップと、
2. タンクを培地で満たすステップと、
3. 光合成微生物からなる細胞培養物を前記培地に接種するステップと、
4. 稼働期間の間、前記タンクを作動させ、選択した値に前記入光強度(I in )を調整するステップと、
5. 第1期間の間、前記培地の前記温度を低い設定値(V LS )に調整し、第2期間の間、前記培地の前記温度を高い設定値(V HS )に調整するステップであって、前記第1期間と前記第2期間が続くことにより、前記稼働期間の間、前記光合成微生物の少なくとも一部に細胞ストレスを誘起することを可能にするステップと、
6. 前記光合成微生物を採取するステップと、を含む方法。
〔態様11〕
態様10に記載の方法において、前記低い設定値および前記高い設定値ならびに前記第1期間および前記第2期間は、前記稼働期間の間、平均設定値(V M )を維持するように調整され、前記平均値は、前記低い設定値および前記第1期間の積と、前記高い設定値および前記第2期間の積との和を、前記稼働期間で除算した値に等しい方法。
〔態様12〕
態様10または11に記載の方法において、前記平均設定値は、光合成微生物の前記細胞培養物の最適増殖温度(T opt )と実質的に等しい方法。
〔態様13〕
態様10から12のいずれか一態様に記載の方法において、さらに、
4a. 前記光合成微生物の少なくとも一部を含む前記培地の一部を取り出すステップと、
4b. 取り出された、前記光合成微生物の少なくとも一部を含む前記培地の前記部分を、新鮮な培地で補うステップとを含む方法。
〔態様14〕
態様10から13のいずれか一態様に記載の方法において、前記温度調整ステップ5が、前記光合成微生物の少なくとも一部の細胞分解を生じさせ、これにより、有益な特性を有する光合成微生物を選択するように、3回以上繰り返される方法。
〔態様15〕
態様10から14のいずれか一態様に記載の方法において、前記採取ステップ6は、前記培地が、有益な特性を有する光合成微生物が75%を越える、好適には90%を越える、より好適には実質的に100%である光合成微生物からなる細胞培養物を含む場合に実施される方法。
〔態様16〕
態様15に記載の方法において、さらに、
7. バイオリアクタにおいて、有益な特性を有する前記光合成微生物を新鮮な培地に接種するステップと、
8. 有益な特性を有する前記光合成微生物からなるバイオマスを生産するために、前記ステップ7の前記バイオリアクタを作動させるステップとを含む方法。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8