(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-22
(45)【発行日】2022-05-06
(54)【発明の名称】近赤外発光材料および当該材料で作製された発光装置
(51)【国際特許分類】
C09K 11/80 20060101AFI20220425BHJP
H01L 33/50 20100101ALI20220425BHJP
【FI】
C09K11/80
H01L33/50
(21)【出願番号】P 2019564500
(86)(22)【出願日】2018-09-13
(86)【国際出願番号】 CN2018105573
(87)【国際公開番号】W WO2019153742
(87)【国際公開日】2019-08-15
【審査請求日】2019-11-21
(31)【優先権主張番号】201810147400.3
(32)【優先日】2018-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】515330421
【氏名又は名称】有研稀土新材料股▲フン▼有限公司
(73)【特許権者】
【識別番号】519229622
【氏名又は名称】有研稀土高技術有限公司
【氏名又は名称原語表記】GRIREM HI-TECH CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】North of Gushan South Road And East Of Happiness Road,Hi-tech industrial zone,Yanjiao Town,Sanhe City, Langfang City, Hebei 065200, China
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】劉 栄輝
(72)【発明者】
【氏名】陳 暁霞
(72)【発明者】
【氏名】劉 元紅
(72)【発明者】
【氏名】李 彦峰
(72)【発明者】
【氏名】馬 小楽
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06344261(US,B1)
【文献】特表2017-536674(JP,A)
【文献】国際公開第2016/084008(WO,A1)
【文献】特開2014-094996(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106867537(CN,A)
【文献】特開2006-213910(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103855288(CN,A)
【文献】特開昭61-017496(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102473803(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00-11/89
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
近赤外発光材料であって、
当該近赤外発光材料は、R
uQ
vO
w:Cr
x、Yb
yの化学式の無機化合物を含み、
前記R元素は、
Tb元素および/またはLu元素を含み、
前記Q元素は、Ga元素であるか、又は前記Q元素は、Ga元素とAl元素であり、
且つ、前記パラメータu、v、w、xおよびyは、2.5≦u≦3.5、4.2≦v≦5.5、11.25≦w≦13.25、0.02≦x≦0.30、0.02≦y≦0.30、および、
0.6≦y/x≦
1を満たすことを特徴とする近赤外発光材料。
【請求項2】
前記Q元素は、Ga元素であることを特徴とする請求項1に記載の近赤外発光材料。
【請求項3】
前記Q元素は、Ga元素とAl元素との組み合わせであり、前記Ga元素のAl元素に対するモル比はjであり、且つ80%≦j<100%であることを特徴とする請求項1に記載の近赤外発光材料。
【請求項4】
前記R元素は、
Tb元素またはLu元素であり、または、前記R元素は、Y元素とTb元素またはLu元素との組み合わせであることを特徴とする請求項1から3の何れか一項に記載の近赤外発光材料。
【請求項5】
前記パラメータu、v、xおよびyは、1.2≦(v+x)/(u+y)≦1.65を満たすことを特徴とする請求項1から
4の何れか一項に記載の近赤外発光材料。
【請求項6】
前記発光材料は、Baまたは/およびF元素をさらに含むことを特徴とする請求項1から
5の何れか一項に記載の近赤外発光材料。
【請求項7】
蛍光体と励起光源とを含む発光装置であって、
前記蛍光体は、請求項1から
6の何れか一項に記載の近赤外発光材料を含むことを特徴とする発光装置。
【請求項8】
半導体チップ(2)と光変換部I(1)と光変換部II(6)とを含み、
前記光変換部I(1)は、前記半導体チップ(2)が発した一次光を吸収して高波長の二次光に変換し、前記光変換部II(6)は、前記半導体チップ(2)の一次光と前記光変換部I(1)が発した二次光とを吸収して高波長の三次光に変換し、
前記光変換部I(1)は、発光材料Iを少なくとも含み、前記光変換部II(6)は、請求項1から
6の何れか一項に記載の近赤外発光材料を少なくとも含むことを特徴とする請求項
7に記載の発光装置。
【請求項9】
前記発光材料Iは、前記半導体チップ(2)の励起で580~650nmのピーク波長の放射光を放射可能な発光材料であることを特徴とする請求項
8に記載の発光装置。
【請求項10】
前記発光材料Iは、一般式M
mAl
aSi
bN
c:Eu
dまたはM
eSi
fN
g:Eu
nの発光材料から選択された一種または二種であり、
前記M元素は、Ca元素および/またはSr元素から選択され、
前記パラメータm、a、b、c、d、e、f、gおよびnは、0.8≦m≦1.2、0.8≦a≦1.2、0.8≦b≦1.2、2≦c≦4、0.0001≦d≦0.1、1.8≦e≦2.2、4≦f≦6、7≦g≦9、および、0.0001≦n≦0.1を満たすことを特徴とする請求項
8または
9に記載の発光装置。
【請求項11】
前記発光材料Iは、CaAlSiN
3またはSr
2Si
5N
8と同じ結晶構造を有することを特徴とする請求項
8から
10の何れか一項に記載の発光装置。
【請求項12】
前記発光材料Iにおいて、前記Mは、CaとSr元素との組み合わせであり、前記Sr元素のM元素に対するモル比はzであり、且つ80%≦z<100%であることを特徴とする請求項
8から
11の何れか一項に記載の発光装置。
【請求項13】
前記半導体チップ(2)の放射ピーク波長範囲は、350~500nmおよび/または550~700nmであることを特徴とする請求項
8から
12の何れか一項に記載の発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光材料技術の分野に属し、特に紫外可視光によって有効に励起されて広帯域近赤外光を放射することができる近赤外発光材料に関し、更に当該材料で作製された発光装置を開示する。
【背景技術】
【0002】
近年、近赤外分野(700~2500nm)の研究の深化とその応用範囲の拡大、特に光ファイバー通信、植物照明、顔認識、虹彩認識、セキュリティ監視、レーザレーダ、デジタルヘルス、3Dセンシング、太陽電池の効率化、偽造防止などの分野の発展に伴って、より効率的で、より安定した近赤外発光技術の開発が急務となっている。
【0003】
従来の近赤外短波光の取得方式には、主に赤外チップまたはハロゲンランプの分光が含まれる。しかしながら、従来の近赤外発光装置は、使用する赤外チップの励起効率が低く、コストが高いという問題が存在する。ハロゲンランプを使用する場合、フィルタリング処理が必要であり、大半の光が分光されてしまうため、使用効率が低いとともに、ハロゲンランプが大量の熱を発生するため、小型機器には適用できない。
【0004】
赤外チップおよびハロゲンランプ分光と比較して、フォトルミネッセンスの遷移金属または希土類金属の酸化物、またはエレクトロルミネッセンスの有機錯体(Chemistry Letters,2004,33:50~51;Advanced Functional Materials,2002,12:745~751;中国化学会学術年会,2016)で作製された近赤外発光装置は、発光効率が高く、コストが低い。しかし、有機錯体発光材料は、熱安定性および光安定性が悪いという特徴がある。
【0005】
現在、ガーネット構造のアルミネートおよびガレートは、良好な熱安定性および化学構造安定性などの長所を有するため、発光材料の基質に広く用いられ、且つ、異なる活性剤イオンを添加することによって緑色光、黄色光、赤色光および近赤外の異なるバンドから発光を実現することができる。励起剤イオンとしてのYb3+は、その2F5/2→2F7/2のエネルギーレベル遷移のため1000nm程度の近赤外光を放射することができる。アルミネートおよびガレート基質において、Haohai Yuなど(Haohai Yu, Kui Wu, Bin Yao, Huaijin Zhang, Zhengping Wang, Jiyang Wang, Yongdong Zhang, Zhiyi Wei, Zhiguo Zhang, Xingyu Zhang, and Minhua Jiang. Growth and Characteristics of Yb~doped Y3Ga5O12 Laser Crystal, IEEE JOURNAL OF QUANTUM ELECTRONICS, VOL. 46, NO.12, DECEMBER 2010)は、YGGおよびYAGにYbをドープしたレーザ結晶を研究した結果として、当該結晶が970nm程度の光を吸収して1000nm程度の光を発することができることを見出した。しかしながら、紫外光および青色光、赤色光などの励起光源を良好に吸収して発光することはできない。
【0006】
したがって、発光効率が高く、作製工程が簡単で、安定性が良好な無機近赤外線発光材料および当該材料を用いて作製された発光装置を開発研究する必要があり、これは積極的な意義を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明が解決しようとする技術的課題は、化学的性質が安定で発光性能が良い、紫外可視光によって有効に励起されて近赤外光を効率的に放射することができる発光材料を提供することにある。
【0008】
本発明が解決しようとする第2の技術的課題は、近赤外チップ、ハロゲンランプおよび他の近赤外発光材料の安定性が悪く、発光効率が低く、作製コストが高いという従来技術における問題を解決可能な、前記近赤外発光材料を用いて作製された発光装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記技術的課題を解決すべく、本発明に係る近赤外発光材料は、RuQvOw:Crx、Ybyの化学式の無機化合物を含み、
前記R元素は、Y元素、La元素、Lu元素、Gd元素またはTb元素から選択された少なくとも一種であり、
前記Q元素は、Ga元素および/またはAl元素であり、
前記パラメータu、v、w、xおよびyは、2.5≦u≦3.5、3.5≦v≦5.5、11.25≦w≦13.25、0.02≦x≦0.30、および、0.02≦y≦0.30を満たす。
【0010】
好ましくは、前記近赤外発光材料において、前記Q元素は、Ga元素である。
【0011】
好ましくは、前記近赤外発光材料において、前記Q元素は、Ga元素とAl元素との組み合わせであり、前記Ga元素のAl元素に対するモル比はjであり、且つ80%≦j<100%である。
【0012】
好ましくは、前記近赤外発光材料において、前記R元素は、Y元素、Tb元素またはLu元素であり、または、前記R元素は、Y元素とTb元素またはLu元素との組み合わせである。
【0013】
好ましくは、前記近赤外発光材料において、前記R元素は、Tb元素または/およびLu元素を含む。
【0014】
より好ましくは、前記近赤外発光材料において、前記パラメータx、yは、0.15≦y/x≦2を満たし、好ましくは、0.3≦y/x≦1を満たす。
【0015】
より好ましくは、前記近赤外発光材料において、前記パラメータu、v、xおよびyは、1.2≦(v+x)/(u+y)≦1.65を満たし、好ましくは、1.45≦(v+x)/(u+y)≦1.60を満たす。
【0016】
好ましくは、前記近赤外発光材料において、前記発光材料は、Baまたは/およびF元素をさらに含む。
【0017】
本発明に係る近赤外発光材料の作製方法は、下記の通りである。前記R元素の酸化物、フッ化物、炭酸塩または塩化物、前記Q元素の酸化物、フッ化物、炭酸塩または塩化物、前記Crの酸化物、フッ化物または炭酸塩、前記Ybの酸化物、フッ化物または炭酸塩を原料とし、所定の化学量論比に従って、前記原料を正確に秤量し、1400~1500℃の温度で、空気、窒素ガスおよび/または水素雰囲気で2~20h焼成して焼成品を取得し、焼成品を処理した後で所望の蛍光粉を取得する。後処理は、破砕、洗浄(水洗いまたは弱酸洗いなど)、分級などを含む。
【0018】
本発明に係る近赤外発光材料は、従来技術の方法または将来見出される新しい方法を用いて作製することができる。
【0019】
本発明に係る近赤外発光材料は、900~1100のnm範囲における放射スペクトルの最も高いピーク強度がAであり、700~750のnm範囲における放射スペクトルの最も高いピーク強度がBであり、0.95≦A/(A+B)≦0.99である。
本発明は、発光装置を作製するための前記近赤外発光材料の用途をさらに開示する。
【0020】
本発明で得られる近赤外発光材料は、発光装置を作製することができ、本発明の近赤外発光材料を用いて作製される発光装置は、光効果通信、植物照明、顔虹彩認識、セキュリティ監視、偽造防止、レーザレーダ、食品検査、デジタルヘルス、3Dセンシング、太陽電池の効率化などの分野に使用できる。
【0021】
本発明は、蛍光体と励起光源とを含む発光装置をさらに開示し、前記蛍光体は、前記近赤外発光材料を含む。
【0022】
具体的に、前記発光装置は、半導体チップと光変換部Iと光変換部IIとを含み、前記光変換部Iは、前記半導体チップが発した一次光を吸収して高波長の二次光に変換し、前記光変換部IIは、前記半導体チップの一次光と前記光変換部Iが発した二次光とを吸収して高波長の三次光に変換する。
【0023】
前記光変換部Iは、発光材料Iを少なくとも含み、前記光変換部IIは、前記近赤外発光材料を少なくとも含む。
【0024】
より好ましくは、前記発光材料Iは、前記半導体チップの励起で580~650nmのピーク波長の放射光を放射可能な発光材料である。
【0025】
より好ましくは、前記発光材料Iは、一般式MmAlaSibNc:EudまたはMeSifNg:Eunの発光材料から選択された一種または二種であり、
前記M元素は、Ca元素および/またはSr元素から選択され、
前記パラメータm、a、b、c、d、e、f、gおよびnは、0.8≦m≦1.2、0.8≦a≦1.2、0.8≦b≦1.2、2≦c≦4、0.0001≦d≦0.1、1.8≦e≦2.2、4≦f≦6、7≦g≦9、および、0.0001≦n≦0.1を満たす。
【0026】
より好ましくは、前記発光材料Iは、CaAlSiN3またはSr2Si5N8と同じ結晶構造を有する。
【0027】
より好ましくは、前記発光材料Iにおいて、前記Mは、CaとSr元素との組み合わせであり、前記Sr元素のM元素に対するモル比はzであり、且つ80%≦z<100%である。
【0028】
本発明で使用される発光材料Iは、従来技術の方法または将来見出される新しい方法を用いて作製することができる。
【0029】
好ましくは、上記発光装置において、前記光変換部Iは、発光材料Iのみを含む。
【0030】
好ましくは、上記発光装置において、前記光変換部IIは、前記近赤外発光材料のみを含む。
【0031】
上記発光装置において、発光材料Iと近赤外発光材料とを同時に使用することにより、装置はより強い赤外放射スペクトルおよび独特の用途を有することができる。
【0032】
好ましい技術案として、前記半導体チップの放射ピーク波長範囲は、350~500nmおよび/または550~700nmであり、好ましくは、430~465nmである。
【0033】
本発明に係る近赤外発光材料は、化学式がRuQvOw:Crx、Ybyの無機化合物を含み、当該発光材料は、励起波長が300~700nmであり、且つ近赤外領域において効率的に放射し(900~1100nm)、当該発光材料の励起波長は比較的広く、紫外可視光を良好に吸収することができ、近赤外有機発光材料および他の系の無機発光材料と比較してより強い近赤外発光を有し、且つ良好な耐熱性および耐水性ならびに光安定性を有し、作製プロセスが簡単で、コストが低いため、近赤外装置の理想的な応用材料である。
【発明の効果】
【0034】
本発明の技術案を適用し、上記のような発光装置を構成することにより、異なる青色光、近紫外光および赤色光の励起で近赤外光を取得することができ、近光効果通信、植物照明、顔虹彩認識、セキュリティ監視、偽造防止、レーザレーダ、食品検査、デジタルヘルス、3Dセンシング、太陽電池の効率化などの分野に応用できるだけではなく、他の近赤外光取得方式の弊害を回避し、本発明の発光装置は、発光効率が高く、コストが低く、各種のタイプの機器に応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
本発明の内容がより容易で明瞭に理解されるように、以下、本発明の具体的な実施例に基づいて図面を参照して、本発明を更に詳細に説明する。
【
図1】本発明の実施例1において作製された近赤外発光材料の励起スペクトルであり、モニタリング波長は1025nmである。
【
図2】本発明の実施例1において作製された近赤外発光材料と比較例1において作製された材料の放射スペクトルであり、その励起波長は460nmである。
【
図3】本発明の実施例2において作製された近赤外発光材料の放射スペクトルであり、その励起波長は460nmである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明の理解を容易にするために、本発明は実施例を以下に挙げる。当業者に理解されるように、前記実施例は単に本発明の理解を容易にするだけであり、本発明に対する具体的な制限と見なされてはならない。
【0037】
なお、矛盾しない場合、本願における実施例および実施例における特徴は、互いに組み合わせることができる。以下、実施例を組み合わせて本発明を詳細に説明する。
【0038】
背景技術に紹介したとおり、従来の近赤外発光装置は、使用する赤外チップの励起効率が低く、コストが高いという問題がある。ハロゲンランプを使用する場合、フィルタリング処理が必要であり、大部分の光が分光されてしまうため、使用効率が低いとともに、ハロゲンランプが大量の熱を発生するため、小型機器には適用できない。従来のエレクトロルミネッセンス材料は、装置および技術がまだ成熟しておらず、且つ赤外スペクトル部分において発光効率が低く、安定性が悪く、依然としてその応用を制限する最大のボトルネックとなっている。本発明の典型的な実施形態では、近赤外発光材料を提供し、当該発光材料は、化学式がRuQvOw:Crx,Ybyの無機化合物を含み、Rは、Y、La、Lu、GdおよびTb元素のうちの一種または二種以上の組み合わせであり、Qは、Ga、Al元素のうちの一種または二種であり、2.5≦u≦3.5、3.5≦v≦5.5、11.25≦w≦13.25、0.02≦x≦0.30、および、0.02≦y≦0.30である。
【0039】
Ybで単一ドープされている従来の近赤外発光材料は量子効率が低いため、その応用が制限される。この欠陥を克服する有効な方法は、上記近赤外発光材料にCr3+などの広帯域放射希土類元素を共ドーピングし、増感剤Cr3+と活性剤Ybとの共鳴エネルギー伝達により、量子効率および放射強度を向上することである。本発明の技術案を応用し、R、Q、O成分の比率および増感剤、活性剤イオンの比率を最適化することによって、活性がより高い遷移エネルギーを得ることができ、現在の窒化物発光材料の光効果が低いという問題を改善し、より高い光効果放射を取得する。
【0040】
本発明の上記アルミネートまたはガレート発光材料において、その結晶構造は一般的にガーネット構造である。他の不純相を導入することなく本発明の発光材料がガーネットの結晶構造を有するために、本発光材料において、R元素として3価の希土類元素Y、La、Lu、GdおよびTbのうちの一種または二種を選択するとき、Q元素としてGa、Alのうちの一種または二種を選択することで、発光材料の格子の厳密な成長を保証することができ、高い安定性の発光材料を取得することができる。しかしながら、上記元素の導入量は適切であるべきであり、2.5≦u≦3.5、3.5≦v≦5.5、および11.25≦w≦13.25を満たさなければならない。成分がこの範囲にないと、当該材料は、成分の違いにより純相を形成できず,発光材料の性能が悪くなる。
【0041】
本発明の上記アルミネートまたはガレート発光材料において、Yb3+を活性剤イオンとし、Cr3+を増感剤イオンとし、複数回の試験後、活性剤および増感剤の濃度の限定範囲がそれぞれ0.02≦x≦0.30、0.02≦y≦0.30であるときに、最適な効果を有するということを見出した。yの含有量が0.3より大きいときに、格子に入った後、イオン半径の不整合のため、構造の不安定性が増大し、不純相を生成するが、一方、活性剤イオンが多すぎると、濃度消光効果が生じ、発光輝度は逆にyの増加に応じて低下する。好ましくは、前記近赤外発光材料において、活性剤イオンYb3+と増感剤イオンCr3+との比率は、0.15≦y/x≦2を満たし、さらに好ましくは、0.3≦y/x≦1を満たす。これは、増感剤イオンCr3+が活性剤イオンYb3+の所定の比率に達して初めて十分多くの可視光および紫外光を吸収することができ、十分多くのエネルギーを有して活性剤イオンYb3+に伝達し、より高い光効果の近赤外放射を実現できるからである。また、Yb3+イオンはR位置を占め、Cr3+はQ位置を占め、好ましくは、前記近赤外発光材料において、1.2≦(v+x)/(u+y)≦1.65であり、さらに好ましくは、前記近赤外発光材料において、1.45≦(v+x)/(u+y)≦1.60であり、この好ましい比率を満たすことにより作製される当該発光材料は、より純粋な相およびより安定な格子構造を有するため、より高い光効果の近赤外放射が得られる。
【0042】
本発明の発光材料の作製方法は、高温固相法などの本分野で公知の方法を用いて作製することができ、本発明では、好ましくは、実施例において、R元素の酸化物、フッ化物、炭酸塩または塩化物、Q元素の酸化物、フッ化物、炭酸塩または塩化物、Crの酸化物、フッ化物または炭酸塩、Ybの酸化物、フッ化物または炭酸塩を原料とし、所定の化学量論比に従って、前記原料を正確に秤量し、1400~1500℃の温度で、空気、窒素ガスおよび/または水素雰囲気で2~20h焼成して焼成品を取得し、焼成品を処理した後で所望の蛍光粉を取得する。後処理は、破砕、洗浄(水洗いまたは弱酸洗いなど)、分級などを含む。
【0043】
作製する装置は、蛍光体と励起光源とを含み、前記蛍光体は、上記近赤外発光材料を含む。好ましくは、前記発光装置は、半導体チップと光変換部Iと光変換部IIとを含み、光変換部Iは、半導体チップが発した一次光を吸収して高波長の二次光に変換し、光変換部IIは、半導体チップの一次光と光変換部Iが発した二次光とを吸収して高波長の三次光に変換し、前記光変換部Iは、発光材料Iを少なくとも含み、光変換部IIは、上記近赤外発光材料を少なくとも含む。前記発光材料Iは、半導体チップの励起の下で、ピーク波長が580~650nmの放射光を放射することができる。光変換部IIは、本発明に係る近赤外発光材料を少なくとも含む。好ましくは、前記発光装置、前記半導体チップの放射ピーク波長範囲は、350~500nm 、550~700nmである。さらに好ましくは、前記発光装置、前記半導体チップの放射ピークの波長範囲は、430~465nmである。
【0044】
以下、具体的な実施例を組み合わせて本発明の有益な効果をさらに説明する。
【0045】
実施例1
本実施例に記載の近赤外発光材料に含まれる無機化合物の組成式は、Y2.92Ga4.4O11.25:Cr0.10,Yb0.08である。
【0046】
本実施例に記載の近赤外発光材料は、Y2O3、Ga2O3、Cr2O3、Yb2O3を原料とし、それらの成分がY2.92Ga4.4O11.25:Cr0.10,Yb0.08の化学量論比に従って、前記原料を正確に秤量し、1400℃で、空気中で5h焼成して焼成品を取得し、焼成品を破砕、水洗い、乾燥して所望の発光材料を得た。
【0047】
測定により得られた発光材料の励起スペクトルは、
図1に示すように、そのモニタリング波長は1025nmであった。
図1から分かるように、本実施例において作製された発光材料は、250~300nm、400~500nm、550~700のnm範囲で有効に励起可能であり、近紫外光、青色光および赤色光によって励起され得るだけでなく、紫外光、青色光および赤色光のいずれにおいても強い広帯域吸収を有し、広範な用途を有する。
【0048】
本実施例において作製された発光材料は、460nmの光源の励起で、その放射スペクトルは
図2に示すとおりであり、これから分かるように、当該発光材料の近赤外光放射強度は比較的高い。
【0049】
比較例1
本比較例に記載の近赤外蛍光粉に含まれる化合物組成式は、Y2.9Ga5O12:Yb0.10である。
【0050】
化学式Y2.9Ga5O12:Yb0.10の化学量論比に従って、Y2O3、Ga2O3とYb2O3およびフラックスBaF2を正確に称量し、粉砕して均一に混合した後、混合物を取得する。取得された混合物を1500℃で5h焼成し、冷却後、焼成品を取得する。取得された焼成品に対して破砕、粉砕、分級、ふるい洗いの後処理を行い、所望の赤外蛍光粉サンプルを取得した。
【0051】
本比較例において作製された発光材料は、460nmの光源の励起で、その放射スペクトルは
図2に示すとおりである。
図2から分かるように、実施例1における発光材料の放射スペクトルを比較することにより、Cr元素の加入に伴って、本発明において作製された発光材料の近赤外光放射強度が増加し、その放射の最も高いピーク波長は1025nmであり、比較例1の相対発光強度が100%とすると、実施例1の相対発光強度は867%であり、Cr
3+のYb
3+へのエネルギー伝達のため、その発光強度は明らかに8.67倍向上した。
【0052】
実施例2
本実施例に記載の近赤外発光材料に含まれる化合物組成式は、Y3.38Ga4.9O12.66:Cr0.10,Yb0.06である。
【0053】
化学式Y3.38Ga4.9O12.66:Cr0.10,Yb0.06の化学量論比に従って、Y2O3、Ga2O3を正確に秤量し、Cr2O3とYb2O3とを混合し、混合物を取得する。前記混合物を粉砕して均一に混合した後に1500℃で5h焼成し、降温後、焼成品を取得する。取得された焼成品に対して破砕、粉砕、分級、ふるい洗いなどの後処理を行い、近赤外蛍光粉サンプルを取得する。
【0054】
取得された近赤外蛍光粉サンプルに対して励起テストを行うと、励起波長は460nmであり、その赤外放射スペクトルは
図3に示すとおりである。結果から分かるように、当該近赤外蛍光粉サンプルは、460nmの励起下で、900~1100nmの短波近赤外光を放射することができる。
図3の結果から分かるように、900~1100のnm範囲における放射スペクトルの最も高いピーク強度はAであり、700~750のnm範囲における放射スペクトルの最も高いピーク強度はBであり、A/(A+B)は約0.96である。
【0055】
実施例3~17
実施例3~17に記載の近赤外蛍光粉の作製方法は、実施例1および2と同様であり、相違点は、目的化合物の化学式に従って、適切な計量の化合物を選択して混合、粉砕、焼成し、所望の近赤外蛍光粉材料を取得する、ということのみにあり、実施例3~17において作製された発光材料の無機化合物の化学式は、表1に示される。
【0056】
実施例1~17および比較例1において作製された近赤外蛍光粉をそれぞれ取って励起テストを行い、460nmの波長の励起下での1025nmピーク波長の相対発光強度を測定し、比較例1の相対発光強度を100とした。テスト結果を下記表1に示す。
【0057】
【0058】
以上のデータより、本発明に係る近赤外発光材料は、900~1100nmの近赤外広帯域放射を有し、当該近赤外蛍光粉の励起波長は比較的広く、紫外光、青色光および赤色光を良好に吸収することができることが分かる。比較例1と比較して、本発明に係る近赤外蛍光粉材料は、より強い近赤外発光性能を有する。
【0059】
上記実施例1~17において作製された近赤外蛍光粉材料をそれぞれ水中に浸し、同時に酸溶液を添加してボールミル処理を行った。測定によると、本発明において作製された近赤外蛍光粉材料は、上記処理後に性能が明らかに変化していない。これは、本発明において作製された蛍光粉が良好な耐水性を有することを示す。
【0060】
上記実施例1~17において作製された近赤外蛍光粉材料をそれぞれ高温雰囲気で焼成した。測定によると、前記蛍光粉の性能は明らかに変化していない。これは、本発明において作製された蛍光粉材料が良好な熱安定性を有することを示す。
【0061】
実施例15~18
下記の実施例15~18は、本発明の近赤外蛍光粉材料で作製された発光装置、すなわち、従来技術における公知の発光装置構造を例にしたものであり、前記発光装置の構造模式図を
図4に示す。前記発光装置は、台座5を含み、ヒートシンク4とピン3とが設けられており、前記発光装置の光源は、半導体チップ2であり、その光学材料部分は、光変換部Iと光変換部IIとを含み、その外層にはプラスチックレンズ7が設けられている。前記光変換部Iは、前記半導体チップ2が発した一次光を吸収して高波長の二次光に変換し、前記光変換部IIは、前記半導体チップ2の一次光と前記光変換部Iが発した二次光とを吸収して高波長の三次光に変換する。
【0062】
以下の実施例15~18に係る発光装置は、選択的に前記光変換部IIのみが設けられ、または、前記光変換部Iと光変換部IIとが同時に設けられている。前記光変換部Iは、ピーク波長が580~650nmの放射光の発光材料を少なくとも含み、前記光変換部IIは、本発明に係る近赤外発光材料を少なくとも含む。
【0063】
以下の実施例15~18における発光装置の発光効率は、上記比較例1における蛍光材料を発光材料として含む発光装置を照合装置とするものである。前記照合発光装置は、ピーク波長が460nmの半導体チップを光源とし、光変換部IIのみを含み、光変換部IIは、比較例1の近赤外蛍光粉を含み、当該蛍光粉は、光源の青色光放射ピーク波長が1025nmの近赤外光を吸収し、その発光光効果が100%とする。
【0064】
上記の表のデータより、本発明に係る近赤外蛍光粉材料を用いて作製された発光装置は、発光効率がより高いことが分かる。
【0065】
上記実施例は、説明を明瞭にするために挙げられた例に過ぎず、実施形態に対する限定ではないことは明らかである。当業者は、上記説明を基に他の異なる形態の変形または修正を行うことも可能である。ここでは全ての実施形態を列挙する必要がない。これから拡張される自明な変形または修正は、依然として本発明の保護範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0066】
1-光変換部I、2-半導体チップ、3-ピン、4-ヒートシンク、5-台座、6-光変換部II、7-プラスチックレンズ。