(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-22
(45)【発行日】2022-05-06
(54)【発明の名称】熱遮蔽複合クロス
(51)【国際特許分類】
D03D 15/25 20210101AFI20220425BHJP
A41D 13/005 20060101ALI20220425BHJP
A41D 19/015 20060101ALI20220425BHJP
B32B 7/027 20190101ALI20220425BHJP
B32B 5/02 20060101ALI20220425BHJP
D03D 11/00 20060101ALI20220425BHJP
A41D 31/06 20190101ALI20220425BHJP
【FI】
D03D15/25
A41D13/005
A41D19/015 130Z
B32B7/027
B32B5/02 Z
D03D11/00 Z
A41D31/06
(21)【出願番号】P 2019571595
(86)(22)【出願日】2018-07-17
(86)【国際出願番号】 IB2018055273
(87)【国際公開番号】W WO2019016689
(87)【国際公開日】2019-01-24
【審査請求日】2021-07-09
(31)【優先権主張番号】102017000082051
(32)【優先日】2017-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】511020829
【氏名又は名称】サエス・ゲッターズ・エッセ・ピ・ア
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ダヴィデ・フリジェリオ
(72)【発明者】
【氏名】マルコ・チトロ
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第99/005926(WO,A1)
【文献】特開平08-049143(JP,A)
【文献】特表2000-511595(JP,A)
【文献】特開平01-092406(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105882095(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2001/0008821(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D13/00-13/12
19/00-20/00
31/00-31/32
B32B1/00-43/00
D03D1/00-27/18
F16L59/00-59/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
断熱材で作られ、かつ、1つまたは複数の形状記憶合金(SMA)ワイヤ(103、113、123)によって互いに移動可能に接続された上層(12)および下層(11)から構成されている対の層を少なくとも1つ備える熱遮蔽複合クロス(100、110、120、70、80、90)であって、
形状記憶合金ワイヤ(103、113、123)が作られている形状記憶合金のオーステナイト相温度(Af)以上の温度では、
Lu/Llの比が0.1と10の間に含まれ、
Luは、前記熱遮蔽複合クロス(100、110、120、70、80、90)の3cm
2のエリアにわたって前記上層(12)に拘束されている形状記憶合金ワイヤ(103、113、123)の部分の長さの合計であり、
Llは、前記熱遮蔽複合クロス(100、110、120、70、80、90)の前記3cm
2のエリアにわたって前記下層(11)に拘束されている形状記憶合金ワイヤ(103、113、123)の部分の長さの合計である、という関係が満たされ、
前記形状記憶合金ワイヤ(103、113、123)が、互いに平行に配置されている(70、90)かまたは格子パターンに配設されており(80)、前記熱遮蔽複合クロス(100、110、120、70、80、90)の10cm
2の正方形のエリアにわたる形状記憶合金ワイヤ(103、113、123)部分の数が1と200の間に含まれ、
また、
(Lu+Ll)/Hの比が0.1と10の間に含まれ、
Hは、前記上層(12)と前記下層(11)の間に配置され、前記熱遮蔽複合クロス(100、110、120、70、80、90)の前記3cm
2のエリアにわたって拘束されていない形状記憶合金ワイヤ(103、113、123)の部分の長さの合計である、という関係も満たされることによって特徴づけられ、
前記熱遮蔽複合クロス(100、110、120、70、80、90)の全体的な構成は、前記オーステナイト相温度(Af)以上の温度では、前記上層(12)と前記下層(11)の間の距離が、0mmと5mmの間に含まれる最小距離から始まって1mmと40mmの間に含まれる量だけ増加する、熱遮蔽複合クロス(100、110、120、70、80、90)。
【請求項2】
前記形状記憶合金ワイヤ(103、113、123)が、交差ワイヤ間の角度が90°の格子パターン(80)に従って配設されている、請求項
1に記載の熱遮蔽複合クロス(100、110、120、70、80、90)。
【請求項3】
前記上層(12)と前記下層(11)の間に熱絶縁性ガスが存在し、マルテンサイト相温度(Mf)よりも低い温度における前記上層(12)と前記下層(11)の間の最小距離が前記形状記憶合金ワイヤ(103、113、123)の直径によって決定される、請求項
1に記載の熱遮蔽複合クロス(100、110、120、70、80、90)。
【請求項4】
前記上層(12)と前記下層(11)の間に熱絶縁性固体材料が配置されている、請求項
1に記載の熱遮蔽複合クロス(100、110、120、70、80、90)。
【請求項5】
互いに重ね合わされた上層(12)と下層(11)の対を2つ以上備える熱遮蔽複合クロスであって、層の対(11、12)の上層(12)が、隣接した層の対(11、12)の下層(11)に結合されている、請求項
1に記載の熱遮蔽複合クロス(100、110、120、70、80、90)。
【請求項6】
互いに重ね合わされた上層(12)と下層(11)の対を2つ以上備える熱遮蔽複合クロスであって、一対の層(11、12)の上層(12)が、隣接した層の対(11、12)の下層(11)でもある、請求項
1に記載の熱遮蔽複合クロス(100、110、120、70、80、90)。
【請求項7】
請求項
1に記載の熱遮蔽複合クロス(100、110、120、70、80、90)を備える衣類。
【請求項8】
前記衣類が長手袋である、請求項
7に記載の衣類。
【請求項9】
前記衣類が消防士のベストの一部分である、請求項
7に記載の衣類。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱遮蔽複合クロスに関する。本発明の構成では、「クロス」という用語は、薄織物、織地、織物、織布などに類似かつ同等である。
【背景技術】
【0002】
熱遮蔽複合クロスなど熱に応答するクロスは、高温の環境または状況から着用者を保護するように、たとえば高温パイプに携わって働く作業者用の長手袋ならびに消防士のベストを製造するために採用される。
【0003】
熱遮蔽複合クロスの動作原理は当技術において既知であり、一般的には形状記憶ポリマーまたは形状記憶合金などの形状記憶材料で作られたインテリジェント材料の要素によって互いに拘束された熱絶縁性材料で作られた一対の平行な層の間の距離を調節することにある。2つの層の間隔を空けることにより、間に絶縁隙間を形成することが可能であり、このことは、外部環境に接触するかまたは接近するように意図された熱遮蔽複合クロスの外表面と、ユーザの身体に接触するかまたは接近するように意図された熱遮蔽複合クロスの内表面の間の層の断熱効果を強化する。
【0004】
形状記憶合金は、低温で安定しているいわゆるマルテンサイト相と、より高い温度で安定しているいわゆるオーステナイト相との2つの相の間の遷移によって特徴づけられる。形状記憶合金は、Mf、Ms,、As、およびAfの4つの温度によって特徴づけられ、Mfは、それ未満の温度で完全にマルテンサイト相にある、すなわちマルテンサイト組織を有するような温度であり、一方、Afは、それを超過する温度で完全にオーステナイト相にある、すなわちオーステン組織を有するような温度であり、それに対して、Ms、Asはそれぞれ、マルテンサイト相への遷移が始まる温度、および、オーステナイト相への遷移が始まる温度である。SMAワイヤとしても知られている形状記憶合金で作られたワイヤは、温度がMf未満からAf超過まで変化するとき、または逆方向に変化するとき、形状が変化するように訓練され得る。SMAワイヤの処理および訓練は、非特許文献1によって例示されるように、この分野で広く知られたプロシージャである。
【0005】
熱遮蔽複合クロス向けの形状記憶合金ワイヤの使用は、特許文献1に開示されている。しかしながら、この文献が提供しているのは、これらのクロスを製造するために形状記憶合金の糸状の要素が適切に採用され得るという事実の一般的な開示のみであり、それらの基本的な構成上の特徴を用いることを可能にする情報は提供していない。
【0006】
国際特許出願(特許文献2)は、熱的に適応性のあるシステムに対する形状記憶合金要素の使用を開示しており、ここでは、形状記憶合金要素は一対の層の間の挿入物として使用されている。
【0007】
熱遮蔽あるいは熱絶縁の製品の製造における形状記憶合金要素の使用は、国際特許出願(特許文献3)、特許文献4、ならびに国際特許出願(特許文献5)にも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許第6312784号明細書
【文献】国際公開第1999/005926号
【文献】国際公開2008/044814号
【文献】米国特許出願公開第2013/023930号明細書
【文献】国際公開2017/096044号
【非特許文献】
【0009】
【文献】2004年秋の訓練セクション「ME559 - Smart Materials and Structures」の「Shape Memory Alloy Shape Training Tutorial」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、長期間にわたって信頼できる一貫した作動を達成するとともに、熱絶縁性材料で作られた一対の層を互いに移動可能に接続する形状記憶合金ワイヤにより働く力をよりよく利用するという明確な目標を持って、熱遮蔽複合クロスを改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、1つまたは複数の形状記憶合金(SMA)ワイヤによって互いに移動可能に接続された断熱材の上層および下層を含む熱遮蔽複合クロスにあり、形状記憶合金ワイヤは、オーステナイト相温度Af以上の温度では、
- (Lu+Ll)/Hの比が0.1と10の間に含まれ、
- Lu/Llの比が0.1と10の間に含まれ、ここにおいて、
- Luは、複合クロスの3cm2のエリアにわたって上層に拘束された形状記憶合金ワイヤの部分の長さの合計であり、
- Llは、複合クロスの同じ3cm2のエリアにわたって下層に拘束された形状記憶合金ワイヤの部分の長さの合計であり、
- Hは、複合クロスの同じ3cm2のエリアにわたって、上層と下層の間に、拘束されることなく配置された形状記憶合金ワイヤの部分の長さの合計である、といった関係が満たされることによって特徴づけられ、
熱遮蔽複合クロスは、オーステナイト相温度Af以上の温度では、上層と下層の間の距離が、0mmと5mmの間に含まれる最小距離から始まって、1mmと40mmの間に含まれる量だけ増加するように全体的に構成されている。
【0012】
最小距離は、形状記憶合金のマルテンサイト相温度Mf以下の温度に関連している。
【0013】
これらの特徴により、熱遮蔽複合クロスは、適切な構造的剛性を確保したまま断熱性能が際立って改善され得る。したがって、高温パイプに携わって働く作業者用の長手袋または消防士のベストなどの衣類を製造するために、本発明の熱遮蔽複合クロスを効果的に採用することが可能である。
【0014】
(Lu+Ll)/Hの比は好ましくは0.6と4の間に含まれ、Lu/Llの比は好ましくは0.5と2の間に含まれる。
【0015】
本発明は、以下の図を援用してさらに説明されよう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態による熱遮蔽複合クロスの一部分の、SMAワイヤを形成する形状記憶合金のオーステナイト温度Afを超過する温度の動作条件における概略断面図である。
【
図2】本発明の代替実施形態による熱遮蔽複合クロスの一部分の概略断面図である。
【
図3】本発明のさらなる実施形態による熱遮蔽複合クロスの一部分の概略断面図である。
【
図4】本発明の熱遮蔽複合クロスの上層および下層に対してSMAワイヤを拘束するための可能なやり方を示す概略断面の詳細図である。
【
図5】本発明の熱遮蔽複合クロスの上層および下層に対してSMAワイヤを拘束するための可能なやり方を示す概略断面の詳細図である。
【
図6】本発明の熱遮蔽複合クロスの上層および下層に対してSMAワイヤを拘束するための可能なやり方を示す概略断面の詳細図である。
【
図7】本発明による複合クロスの一実施形態の、部分的に開いた概略上面図である。
【
図8】本発明による複合クロスの別の実施形態の、部分的に開いた概略上面図である。
【
図9】本発明による複合クロスのさらに別の実施形態の、部分的に開いた概略上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図において、たとえば形状記憶合金ワイヤの直径ならびに熱遮蔽クロスの上層および下層の厚さなど、複合クロスのいくつかの構成要素のサイズは、場合によっては本発明の理解を容易にするために変更されている。
【0018】
本発明者は、熱遮蔽複合クロスを改善するためには、形状記憶合金(SMA)ワイヤと、上層および下層との間に、それぞれ広い接触を有することが極度に重要であることを見いだしており、ここで該上層および下層は、それらが作成される形状記憶合金のマルテンサイト相温度Mfからオーステナイト相温度Af、すなわち作動温度まで、またはそれを超えてSMAワイヤが加熱されたとき、互いに離れるものである。
【0019】
形状記憶合金(SMA)ワイヤと上層および下層との間の接触が広い(長い)と、層を裂くかまたは壊すおそれのある局所的応力点の形成を回避するばかりでなく、起こり得る各箇所の開裂や損壊の結果としてSMAワイヤがこれらから離れるのを防止することも可能になる。複合クロスのSMAワイヤの傾く運動も効果的に防止され得る。
【0020】
その上に、接触が広ければ、加熱時に、すなわち、SMAワイヤの作動サイクル中に生じる応力を均一に分散させることができるばかりでなく、それに続くSMAワイヤの作動サイクル中の複合クロスの安定性も改善する。
【0021】
したがって、本発明による熱遮蔽複合クロスを採用する衣類の総合的性能は、従来技術の熱遮蔽複合クロスよりも経時的に信頼でき、一貫している。
【0022】
本発明の構成では、複合クロスの2つの層の間の距離が増加すると、その熱遮蔽能力が向上する。このため、クロスの2つの層の間の最小距離を、2つの層の間の最高の熱伝導度を有するポイント/領域として定義することが重要である。
【0023】
この最小距離は、SMAワイヤが作動しないとき、すなわち、マルテンサイト相温度Mfよりも低い温度にあるときの複合クロスの構成を特徴づける。この構成では、複合クロスの層同士は、少なくともいくつかのポイントまたはエリアにおいて互いに接触する。形状記憶合金ワイヤが配置されている領域では、2つの層は互いにわずかに分離されており、隙間寸法はワイヤ径に依拠することが理解されよう。
【0024】
複合クロスが作動する、すなわち、温度がオーステナイト相温度Afに達し、またはそれより高くなると、SMAワイヤが層の間隔を増大させる。そのような構成では、層は互いに実質的に平行である。
【0025】
図1~
図3に示されるように、SMAワイヤ103、113、123の長さLlを有するいくつかの部分が下層11に拘束されており、SMAワイヤ103、113、123の長さLuを有するいくつかの他の部分が上層12に拘束されており、SMAワイヤ103、113、123の長さHを有するさらなる部分が2つの層11と12の間に配設されている。
【0026】
本発明によれば、作動した構成では、すなわち、オーステナイト相温度Af以上の温度においては以下の関係が満たされる。
0.1≦(Lu+Ll)/H≦10
0.1≦(Lu/Ll)≦10
【0027】
前述のように、熱遮蔽複合クロス100、110、120の全体的な構成は、オーステナイト相温度Af以上の温度において、上層12と下層11の間の距離が、0mmと5mmの間に含まれる最小距離から始まって、1mmと40mmの間に含まれる量だけ増加する。
【0028】
次に
図1~
図3を参照すると、作動した構成における、すなわち、オーステナイト相温度Af以上の温度における本発明の複合クロスの3つの実施形態が示されている。この状態では、下層11と上層12は互いに実質的に平行である。「実質的に平行」という表現は、特に長手袋または消防士のベストなどの実製品の縫い目の近くでは、たとえば製造公差および境界条件によって層の間の相対距離がわずかに変動する可能性があることを包含するものであることが理解されよう。
【0029】
図1の概略断面図に示された複合クロス部分100は、下層11と、上層12と、それらの間に配設された少なくとも1つの形状記憶合金ワイヤ103とを有する。下層11と上層12は、以下でより詳細に説明されるように、形状記憶合金ワイヤ103によって互いに移動可能に接続されている。
【0030】
完全に作動した構成における、すなわち、複合クロスの温度がSMAワイヤが作成された形状記憶合金のオーステナイト相温度Af以上であるときの形状記憶合金ワイヤ103が示されている。
【0031】
より詳細には、下層11に拘束された形状記憶合金ワイヤ103の部分はそれぞれの長さLl1、Ll2、...、Llnを有し、上層12に拘束された形状記憶合金ワイヤ103の部分はそれぞれの長さLu1、Lu2、...、Lunを有し、下層11と上層12の間に配置された形状記憶合金ワイヤ103の部分はそれぞれの長さH1、H2、...、Hnを有する。
【0032】
引き続き上記で定義された関係を参照して、Llは長さLl1、Ll2、...、Llnの合計であり、Luは長さLu1、Lu2、...、Lunの合計であり、Hは長さH1、H2、...、Hnの合計であり、すべての合計が複合クロスの3cm2の同一のエリアに関係している。
【0033】
これによって、上記で表現された制限が満たされる限り、本発明の利点から逸脱することなく、実体物の製造特性によるそのような長さのわずかな差異を考慮に入れることが可能になる。
【0034】
図2および
図3は、それぞれ複合クロス110および120の概略断面図を示し、形状記憶合金ワイヤ113と123の作動した形状は異なる。
図1~
図3は、本発明による複合クロスに組み込まれて作動した形状記憶合金ワイヤの最も望ましい形状を示す。
【0035】
図4~
図6は、本発明の複合クロスの下層11および上層12に対して形状記憶合金ワイヤ103を拘束するための異なるやり方を概略的に示す詳細図である。形状記憶合金ワイヤ103、113、123を下層11および上層12に拘束するやり方は、
図4~
図6に表されたものが最も望ましいが、本発明はいかなる特定のやり方にも限定されないことに注意するべきであり、より具体的には、
・
図4では、形状記憶合金ワイヤ103はたとえば下層11上に縫いつけられる。
・
図5では、形状記憶合金ワイヤ103は接着剤1030を用いて下層11上に接着される。
・
図6では、形状記憶合金ワイヤ103は下層11に組み込まれる。
【0036】
本発明の状況では、複合クロスが、形状記憶合金ワイヤを含有していない特定のエリア、たとえば境界の縫い目があり得、したがって、エリアのそのユニットのすべてにおいて上記の関係を満たす複合クロスは本発明に包含されるものと見なされる。
【0037】
10cm
2の正方形のエリアBにわたって、ワイヤ103、113、123の数は1と200の間に含まれるのが望ましいが、本発明は、上層12と下層11の間に配置されるワイヤの特定の数に限定されることはない。これらの実施形態は、
図7および
図8の部分的に開かれた上面図において概略的に示されている。
【0038】
好ましくは、形状記憶合金ワイヤ103は、
図7の要素70のように平行なパターンに配設され、または
図8の要素80のように交差するワイヤが90°の角度で交差する格子状のパターンに配設される。ワイヤ同士を互いに非直角に交差させることも、それほど望ましくはないが可能であることが強調される。
図7に示される複合クロス70は10cm
2の正方形のエリアBに11本の平行な形状記憶合金ワイヤ103を含有しており、
図8に示される複合クロス80は10cm
2の正方形のエリアBに8本(5本の垂直と3本の水平)の形状記憶合金ワイヤを含有している。
【0039】
形状記憶合金ワイヤの望ましい直径は50μmと250μmの間に含まれる。形状記憶合金ワイヤが実体物であるので円形断面から離脱する可能性があり、したがって、直径という用語は、最小の囲む円の直径として意図されている。
【0040】
形状記憶合金のマルテンサイト相温度Mfは好ましくは40℃以下であり、オーステナイト相温度Afは60℃以上である。
【0041】
そのような温度を有する適切な合金は、Hf、Nb、Pt、Cuなどの追加元素を伴う、または伴わない、ニチノールなどNi-Tiベースの合金である。合金およびその特性の適切な選択肢は当業者に既知であり、たとえば次のURLを参照されたい。
http://memry.com/nitinol-iq/nitinol-fundamentals/transformation-temperatures
【0042】
本発明の一実施形態によれば、上層と下層を互いに移動可能に接続するために、複数の異なる形状記憶合金ワイヤが使用され得る。SMAワイヤは、異なる直径および/または合金組成(Mf温度、Af温度が異なる)を有し得る。この場合、SMAワイヤに関する「異なる直径」という用語は、SMAワイヤが、標準的なワイヤ直径の許容差を考慮に入れて、別のSMAワイヤに対して少なくとも±10%の直径を有することを意味し、一方、「異なるMf温度、Af温度」は、温度差に基づく作動(differential thermal actuation)を利用するために、異なるタイプのSMAワイヤのMf温度および/またはAf温度において少なくとも±10℃(好ましくは±20℃)の差があることを意味する。
【0043】
本発明は、複合クロス層用のいかなるタイプの断熱材にも限定されない。そのような材料は、グラスウールファイバ、ジュート、アラミド繊維、粘性レーヨン、任意の軽い難燃性材料、およびそれらの組合せを含み得る。
【0044】
本発明の一実施形態によれば、複合クロス層の一方または両方の外側に、断熱材で作られたさらなる層が与えられてよい。
【0045】
図9に示される本発明の一実施形態によれば、複合クロス90は、構造的な抵抗を強める働きをする金属ワイヤ104を備え得る。金属ワイヤ104はたとえば形状記憶合金ワイヤでよい。
図9が示す金属ワイヤ104は、互いに平行であってSMAワイヤ103に対して直角であるが、本発明は、そのようなパターンにも、いかなる特定のワイヤ配置にも限定されない。
【0046】
本発明の一実施形態によれば、複合クロスの熱遮蔽特性をさらに改善するために、上層と下層の間に熱絶縁性ガスが配置されてよい。別の実施形態では、上層と下層の間に、代わりに熱絶縁性固体材料が追加され、そのような材料はユーザの不快感を回避するように軽量にするべきであり、たとえばグラスウール繊維、アラミド繊維、粘性レーヨン、任意の軽い難燃性材料、ジュート、およびそれらの組合せを含み得る。
【0047】
この場合、下層と上層の間の最小距離は、マルテンサイト相温度Mf以下の温度のとき達成されるものであって、SMAワイヤの機構および追加材料の厚さによって決定され、一方で、作動した構成における、すなわち、オーステナイト相温度Afよりも高い温度における下層と上層の間の距離は、形状記憶合金ワイヤが作動することによって決定される。
【0048】
本発明の代替実施形態によれば、たとえば、複合クロスの上層と、別の複合クロスの下層とを、互いに重ね合わせて結合することにより、あるいは同一の層を1つの複合クロスの上層および隣接した複合クロスの下層として使用することにより、本発明による複数の複合クロスを互いに組み合わせて使用することが可能である。したがって、異なる温度において作動する/作動解除される必要のある、すなわち、異なるMf温度およびAf温度を有する合金で作られた形状記憶合金ワイヤを採用する複合クロスが製造され得る。
【0049】
本発明の第2の態様は、本発明による1つまたは複数の複合クロスで作られた、または1つまたは複数の複合クロスを組み込んだ衣類に関するものである。長手袋および消防士のベストは本発明の最も有効な用途の一つである。
【0050】
本発明を、以下の例を援用してさらに説明する。
【実施例1】
【0051】
(試料の準備)
異なる熱遮蔽複合クロス試料は、すべて、正方形(150mm×150mm)で秤量がそれぞれ300g/m2であるガラス繊維の等しい上層および下層を使用して作られた。2つの層は、0.2mmの直径を有する互いに平行な形状記憶合金ワイヤによって接続されている。したがって、作られる試料は、すべてが同一の材料で実現され、すべてが上部と下部において拘束された同一の量および長さのワイヤを有し、すなわちすべてについてLu/Llは1であり、したがって、唯一の差異は、次のTable 1(表1)に詳述されるようなパラメータ(Lu+Ll)/Hによって示された。
【0052】
【実施例2】
【0053】
(試料の試験)
層分離によって熱遮蔽機能を改善するために、SMAワイヤを作動させるように、試料S1および比較の試料C2を加熱した。加熱は、前もって300℃の温度に安定させた、試料の下層に接触させて配置した電熱プレートによって加熱した。
【0054】
下層と上層の平均15mmの分離を達成したのは、本発明によって作られた試料S1のみであるのに対して、比較の試料C1では、形状記憶合金ワイヤが層間に空隙をあけることなく層間から抜けた。すなわち、比較の試料1は、最初の加熱サイクル後にすでに構造的完全性を失った。この比較の試料C1は、前述した国際特許出願(特許文献2)に従って作られた布の予想される挙動に関する近似的表現である。
比較の試料C2では、複合クロスを作っている層がおそらく重すぎて、下層と上層の間に配置された形状記憶合金ワイヤの短い部分からの力によって克服することができないため、有効な分離がない[(Lu+Ll)/Hの比の値13は、「フリー」なワイヤが8%未満しかなく、残りは層に拘束されていることを意味することに留意されたい]。
【0055】
下層と上層の平均15mmの分離を達成したのは、本発明によって作られた試料S1のみであり、比較の試料C2では、複合クロスを作っている層が恐らく重すぎて、下層と上層の間に配置された形状記憶合金ワイヤの短い部分からの力によって克服することができないため、有効な分離がない[(Lu+Ll)/Hの比の値13は、「フリー」なワイヤが8%未満しかなく、残りは層に拘束されていることを意味することに留意されたい]。
【符号の説明】
【0056】
11 下層
12 上層
70 複合クロス
80 複合クロス
90 複合クロス
100 熱遮蔽複合クロス
103 形状記憶合金ワイヤ
104 金属ワイヤ
110 熱遮蔽複合クロス
113 形状記憶合金ワイヤ
120 熱遮蔽複合クロス
123 形状記憶合金ワイヤ
1030 接着剤