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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-22
(45)【発行日】2022-05-06
(54)【発明の名称】車両の周囲の安全確保
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/16 20060101AFI20220425BHJP
   G01S 17/931 20200101ALI20220425BHJP
   G05D 1/02 20200101ALI20220425BHJP
   G01C 21/28 20060101ALI20220425BHJP
【FI】
G08G1/16 C
G01S17/931
G05D1/02 H
G01C21/28
【請求項の数】 12
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020079194
(22)【出願日】2020-04-28
(65)【公開番号】P2020184334
(43)【公開日】2020-11-12
【審査請求日】2020-05-29
(31)【優先権主張番号】10 2019 111 642.2
(32)【優先日】2019-05-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591005615
【氏名又は名称】ジック アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】トーマス ミスバッハ
(72)【発明者】
【氏名】ヨナス リスト
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン マット
【審査官】田中 将一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-230527(JP,A)
【文献】特開2014-010637(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0077814(US,A1)
【文献】特開2003-077099(JP,A)
【文献】特開2015-127663(JP,A)
【文献】特開2007-230277(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00 - 99/00
G01S 7/48 - 7/51
G01S 17/00 - 17/95
G05D 1/00 - 1/12
G01C 21/00 - 21/36
G01C 23/00 - 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両(50)、特に無人車両の周囲の安全を確保するための安全システム(10、64)であって、前記周囲を監視するための光電式の安全センサ(10)と、前記車両(50)の速度を表す第1の速度値を測定するために第1の運動センサ(56)と接続できる第1の入力(40)と、前記車両(50)の運動情報を求めるための慣性計測装置(38)と、前記第1の速度値と前記運動情報を相互に比較して速度測定の妥当性を検査し、前記安全センサ(10)のセンサデータに基づいて前記周囲にある物体を検出し、前記車両(50)の速度を考慮して、該車両(50)の安全確保がなされているかどうか評価するように構成された制御及び評価ユニット(34、64)とを備える安全システム(10、64)において、
前記安全センサ(10)が安全用レーザスキャナとして構成され、前記慣性計測装置(38)が前記安全センサ(10)に統合されていること、及び
前記安全センサ(10)が、光線(16)を送出するための発光器(12)と、前記光線(16)を前記周囲に向けて周期的に偏向させるための回転可能な偏向ユニット(18)と、前記偏向ユニット(18)の角度位置を特定するための角度測定ユニット(30)と、前記周囲にある物体により拡散反射又は直反射された光線(22)から受光信号を生成するための受光器(26)とを有する安全用レーザスキャナとして構成され、前記制御及び評価ユニット(34)が、前記受光信号を用いて、各時点において前記光線で検知された物体までの光伝播時間を測定し、特に前記車両(50)の安全確保が行われているかどうかの評価のために、速度に応じて調整される少なくとも1つの防護区域(60a~c)で物体の侵入を監視すること
を特徴とする安全システム(10、64)。
【請求項2】
前記制御及び評価ユニット(34、64)が、前記安全センサ(10)のセンサデータから、光学的な速度推定を用いて、前記車両(50)の速度を表す第2の速度値を測定して速度測定の正しさを確認するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の安全システム(10、64)。
【請求項3】
前記車両(50)の速度を表す第2の速度値を測定して速度測定の正しさを確認するために第2の運動センサ(62)と接続できる第2の入力(42)を備えていることを特徴とする請求項1に記載の安全システム(10、64)。
【請求項4】
前記第2の運動センサ(62)が少なくとも間接的に前記車両(50)の車軸と結合されている回転エンコーダであることを特徴とする請求項3に記載の安全システム(10、64)。
【請求項5】
前記第1の運動センサ(56)が少なくとも間接的に前記車両(50)の車軸と結合されている回転エンコーダであることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の安全システム(10、64)。
【請求項6】
前記制御及び評価ユニット(34、64)が、前記第1の速度値と前記第2の速度値、及び/又は、前記第2の速度値と前記運動情報を互いに比較するように構成されていることを特徴とする請求項2~5のいずれかに記載の安全システム(10、64)。
【請求項7】
前記制御及び評価ユニット(34、64)が、前記第1の運動センサ(56)、前記安全センサ(10)のセンサデータから得られる光学的な速度推定、及び前記慣性計測装置(38)の運動情報を用いて、安全なやり方で前記車両(50)の速度を測定するように構成されていることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の安全システム(10、64)。
【請求項8】
前記制御及び評価ユニット(34、64)が、前記第1の運動センサ(56)、前記第2の運動センサ(62)、及び前記慣性計測装置(38)の運動情報を用いて、安全なやり方で前記車両(50)の速度を測定するように構成されていることを特徴とする請求項3~6のいずれかに記載の安全システム(10、64)。
【請求項9】
前記制御及び評価ユニット(34、64)が、前記第1の速度値と前記第2の速度値が停止値にある場合、前記運動情報が前記車両(50)の停止と合致しているかどうかを調べるように構成されていることを特徴とする請求項2~8のいずれかに記載の安全システム(10、64)。
【請求項10】
前記停止値が一定時間を超えて持続的に存在するときには前記運動情報が何の運動も示してはならないこと、及び/又は、前記第1の速度値と前記第2の速度値が前記停止値まで低下するときには前記運動情報がそれに合った制動加速度を示さなければならないこと、を特徴とする請求項9に記載の安全システム(10、64)。
【請求項11】
前記制御及び評価ユニット(34)が前記安全センサ(10)に統合されていることを特徴とする請求項1~10のいずれかに記載の安全システム(10、64)。
【請求項12】
車両(50)、特に無人車両の周囲の安全を確保するための方法であって、光電式の安全センサ(10)で周囲を監視し、運動センサ(56)を用いて前記車両(50)の速度を表す第1の速度値を測定し、慣性計測装置(38)を用いて前記車両(50)の運動情報を求め、前記第1の速度値と前記運動情報を相互に比較して速度測定の妥当性を検査し、前記安全センサ(10)のセンサデータに基づいて前記周囲にある物体を検出し、前記車両(50)の速度を考慮して、該車両(50)の安全確保がなされているかどうか評価する方法において、
前記安全センサ(10)が安全用レーザスキャナとして構成され、前記慣性計測装置(38)が前記安全センサ(10)に統合されていること、及び
前記安全センサ(10)が、光線(16)を送出するための発光器(12)と、前記光線(16)を前記周囲に向けて周期的に偏向させるための回転可能な偏向ユニット(18)と、前記偏向ユニット(18)の角度位置を特定するための角度測定ユニット(30)と、前記周囲にある物体により拡散反射又は直反射された光線(22)から受光信号を生成するための受光器(26)とを有する安全用レーザスキャナとして構成され、前記受光信号を用いて、各時点において前記光線で検知された物体までの光伝播時間を測定し、特に前記車両(50)の安全確保が行われているかどうかの評価のために、速度に応じて調整される少なくとも1つの防護区域(60a~c)で物体の侵入を監視すること
を特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1又は12のプレアンブルに記載の車両の周囲の安全を確保するための安全システム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
事故回避のために、車両の周囲を監視する光電センサが用いられている。その大きな応用分野の一つが物流等における無人運搬システムである。物体が走行路を横断するとセンサがそれを認識し、人と衝突する恐れがあれば適時に車両にブレーキをかけたり進路を変えたりする。
【0003】
そのために特に適したセンサとしてレーザスキャナがある。このスキャナでは、レーザにより生成された発射光線が偏向ユニットにより周期的に周囲の一部を塗りつぶすように掃引される。光はそこにある物体の表面で反射され、レーザスキャナ内で評価される。偏向ユニットの角度位置から物体の角度位置が推定され、更に光の速度を用いて光伝播時間からレーザスキャナと物体との間の距離も推定される。角度及び距離の情報から監視領域内における物体の位置が2次元極座標で把握される。
【0004】
安全技術に用いられるセンサは特に高い信頼性で作動しなければならないため、例えば機械の安全に関する規格EN13849や非接触型防護装置(beruehrungslos wirkende Schutzeinrichtungen; BWS)に関する機器規格EN61496といった高い安全要求を満たさなければならない。これらの安全規格を満たすには、冗長で多様性を持つ電子機器を用いた信頼性の高い電子的評価、機能の監視、あるいは光学部品(特に前面パネル)の汚染の監視等、様々な対策を講じる必要がある。
【0005】
このような要求を満たすレーザスキャナは安全用レーザスキャナと呼ばれ、例えば特許文献1から公知である。このスキャナは、物体が一切存在してはならない防護区域を監視したり、より複雑な評価を行う場合には、予期せぬ物体が存在してはならない防護区域を監視したりする。防護区域で不許可の侵入が発生すると安全確保の措置が講じられる。防護区域の手前には警告区域があることが多い。警告区域で侵入が起きるとまず警告のみが発せられる。これは、防護区域への侵入とそれによる保安動作を早めに防止し、以て車両及び周囲の設備の可用性を高めるためである。
【0006】
車両の安全確保の場合は衝突の危険が速度に依存するため、公知の安全用レーザスキャナには防護区域の形状を変化させたり切り替えたりできるものがある。また、それらのスキャナには、車輪の回転運動を測定し、以て車両の位置又は速度を測定する回転エンコーダを接続することができる。このようにすれば、防護区域を車両の速度に適応させることで、該防護区域の侵害の際に常に十分な制動距離が確実に残るようにすることができる。これにより車両の挙動をより動的にして車両の使用効率を高めることができる。
【0007】
もちろん、その場合、車両の速度は安全上重要な測定値となり、関連規格に則った所要の安全水準(例えば性能レベル)に相当する信頼性で以て捕らえる必要がある。考えられる要求として「単一エラーセキュリティ(Einfehlersicherheit)」がある。これは、予期せぬエラーが生じてもなお速度測定が信頼できる動作を続けること、又はそのエラーを認識して車両を安全な状態に移行させることを意味する。
【0008】
この安全性は速度を2つの情報源から得ることにより達成される。ある態様では、接続された回転エンコーダの信頼できない速度信号が、時間とともに変化する安全用レーザスキャナの距離測定値から求められる光学的な速度測定と組み合わされる。この場合、動かない壁のような適宜の不動の物体が視野内に存在し、車両に対するその相対運動を速度に換算できなければならないという問題がある。そのため、光学的な速度測定が十分に信頼できなかったり完全に欠落したりする状況があまりに多い。このような場合として、広大な自由面に沿った走行や滑らかな側壁を持つ細長い道に沿った走行等、並進運動による周囲の変化がない場合が挙げられる。また、それより実際上の重要度は低いが、回転運動による周囲の変化がない場合や、視野内に他の車両等の大きな動く物体があり、その速度が安全用レーザスキャナには分からないためそれが静止していると誤認されたり、速度測定に適している静止した物体を隠したりする場合もある。
【0009】
別の態様では、2つの独立した回転エンコーダが用いられ、それらが安全用レーザスキャナに各々の信号を送り、この両者の測定速度の差が所定の許容差の範囲内になければならない。この態様では、必要なエラーセキュリティが冗長性により作り出される。ここでの大きな欠点は第2の回転エンコーダのためのコストと必要とされる組立空間である、このエンコーダは第1の回転エンコーダとは別に機械的及び電気的に駆動システムに接続されなければない。これは特に小型車両の場合に構造上の困難をもたらす。また、安全用レーザスキャナの側でも、2番目の回転エンコーダの信号を安全に2チャンネルで伝送するために2つの追加的な入力端子が必要である。これらを全て容認するとしても、このやり方では、差分値が所定の許容閾値を超えること(一方の回転エンコーダの故障も含む)によるエラーしか検出できない。しかし、検出できないエラーの事例は他にもある。特に両方の回転エンコーダがゼロという値を出力する場合である。
【0010】
特許文献2から、速度に依存して変化する防護区域を持つ安全用レーザスキャナを用いた車両保安装置が知られている。この装置では、安全用レーザスキャナが回転エンコーダの信号に加えて車両制御装置の目標速度信号も受け取り、両者を比較することにより速度検出の信頼性が得られる。しかし、目標速度は常に信頼できる比較値とは限らない。しかも、それに適したインターフェイスを車両制御装置内に作らなければならないが、それに対しては前述のような機能拡張のためのアクセスが一度もないのが通例である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】DE 43 40 756 A1
【文献】EP 2 302 416 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
故に、本発明の課題は、前述のような欠点のない確実な速度検出を可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この課題は、請求項1又は12に記載の車両の周囲の安全を確保するための安全システム及び方法により解決される。前記車両は特に無人車両(AGV; Automated Guided Vehicle、又はAGC; Automated Guided Container)である。車両の周囲が安全センサで光学的に監視される。「安全」及び「安全な」という概念は、本明細書全体にわたって、関連規格に則ったエラーセキュリティ又はエラー検出を意味するものとする。安全システムの入力は第1の運動センサから信号を受け取る。この信号を用いて監視対象の車両の速度を表す第1の速度値を測定することができる。そのために第1の運動センサは速度信号を既に供給したり、速度を測定できる元になる信号(位置、進んだ距離等)を供給したりする。
【0014】
制御及び評価ユニットが安全センサのセンサデータから周囲の物体を検出し、検出された物体のいずれかが危険なものであるかどうか評価する。危険が迫っている場合、好ましくは車両制御装置を通じて安全確保に向けた対処を行う(急ブレーキをかける、避ける、速度を落とす等)。この危険評価は車両の速度を考慮して行う。例えば、走行路内で遠くに物体がある場合、高速ならブレーキをかける必要があるが、低速ではそうではなく、それより後の時点で、その走行路内の物体が近づいてきたらようやくブレーキをかける。制御及び評価ユニットは実施形態に応じて安全センサ内に統合されるか、安全センサに接続された安全制御装置内に実装される。あるいは様々な部分機能が両方の構成要素に分配される。
【0015】
本発明の出発点となる基本思想は、慣性計測装置(IMU; Inertial Measurement Unit、慣性センサ)を追加的に使用し、該ユニットの運動情報を用いて第1の運動センサによる車両速度の測定値を検査するということである。こうして慣性計測装置の運動情報を用いて第1の運動センサの第1の速度値に妥当性を付与することにより、検出された速度が信頼できるものになる。なお、慣性計測装置はもともと速度ではなく加速度を測定するものであるから、これらの異なる物理量を直接比較することはできないことは明らかである。しかし、第1の速度値又はその履歴から加速度の期待値を導いたり、逆に加速度から速度の期待値を導いたりすることは十分できる。速度測定においてエラーが検出されると安全確保に向けた対処が行われる。これに伴って原因を表示してもよい。別のやり方では、速度測定がもはや信頼できない場合、最悪の事態(例えば最大の車両速度)を想定した動作が行われる。
【0016】
危険の評価には第1の運動センサの第1の速度値を利用することが好ましく、その場合、運動情報は単なる補助値であり、それを用いて速度検出を確実なものにする。もっとも、例えば加速度を積分することにより、慣性計測装置を用いて速度を測定し、その値をその後の評価に用いることや、両方の情報源の速度情報を互いに付き合わせることも考えられる。
【0017】
本発明には、冒頭で説明したような不都合な状況でも速度が確実に検出されるという利点がある。追加の速度情報を得るために2つの冗長な回転エンコーダを設けたり車両制御装置と通信したりする必要はもはやない。それでもこのような情報源を用いればより高い安全レベルが達成される。車輪が完全に又は部分的に止まった場合を含めて数多くのエラーの状況が認識できる。
【0018】
制御及び評価ユニットは、安全センサのセンサデータから、光学的な速度推定を用いて、車両の速度を表す第2の速度値を測定するように構成されていることが好ましい。第2の速度測定は安全レベルを高める。光学的な速度推定には、オプティカルフロー、ナビゲーションのためのSLAM(同時位置決め地図作成)法により自己の位置決めを繰り返し行うという方法、あるいは周囲の物体までの距離を光学的に測定し、不動の物体までの距離の変化を時系列的に評価するという方法等、様々な方法が考えられる。第2の速度値は追加のセンサ系や接続を用いずに純粋に分析に基づいて取得される。
【0019】
安全システムは、車両の速度を表す第2の速度値を測定するために第2の運動センサと接続できる第2の入力を備えていることが好ましい。この実施形態では光学的な速度推定の代わりに追加のセンサが用いられる。原理的には2つの運動センサを光学的な速度推定及び慣性計測装置と組み合わせることもできる。しかし、これほど多数の情報源は通常の安全レベルにとっては不要であり、そのための費用はほとんどの場合、正当化できない。
【0020】
第1の運動センサは少なくとも間接的に車両の車軸と結合されている回転エンコーダであることが好ましい。第2の運動センサがある場合はそれも同様である。これにより、路程又は速度の情報が車両の車輪の回転から導かれる。
【0021】
制御及び評価ユニットは、第1の速度値と第2の速度値、及び/又は、第2の速度値と運動情報を互いに比較するように構成されていることが好ましい。光学的な速度推定又は第2の運動センサに基づいて第2の速度値が利用できる。そして、それら2つの速度値を互いに比較して例えば両者の差が許容範囲内にあるかどうか調べたり、慣性計測装置の運動情報を利用してそれらに妥当性を付与したりする。
【0022】
制御及び評価ユニットは、第1の運動センサ、安全センサのセンサデータから得られる光学的な速度推定、及び慣性計測装置の運動情報を用いて、安全なやり方で車両の速度を測定するように構成されていることが好ましい。これは既に挙げた特徴を改めてまとめたものである。この実施形態では、第1の運動センサ、慣性計測装置及び光学的な速度推定から成る3重の多様な冗長性が作り出される。また、車両側にエンコーダの束を設けなくて済むためコストが削減される。
【0023】
制御及び評価ユニットは、第1の運動センサ、第2の運動センサ、及び慣性計測装置の運動情報を用いて、安全なやり方で車両の速度を測定するように構成されていることが好ましい。これは既に挙げた特徴をまとめた別の実施形態である。この形態では、2つの運動センサを用いた冗長な検出に加えて慣性計測装置による多様で冗長な検査が行われる。
【0024】
制御及び評価ユニットは、第1の速度値と第2の速度値が停止値にある場合、運動情報が車両の停止と合致しているかどうかを調べるように構成されていることが好ましい。停止と誤認することは非常に危機的な状況である。第1及び第2の速度値が停止を示しているとき、特に両方の運動センサが一定の許容差でゼロという値を示しているときは、慣性計測装置の運動情報が車両の停止と合致していなければならない。
【0025】
停止値が一定時間を超えて存在するときには運動情報は何の運動も示してはならないこと、及び/又は、第1の速度値と第2の速度値が停止値まで低下するときには運動情報はそれに合った制動加速度を示さなければならないことが好ましい。これにより、静止状態の監視に関してなお2つの特殊な場合が区別される。まず、両方の速度値が一定の時間、静止状態を示すことがあり得る。その場合、車両は静止しているはずであり、従って慣性計測装置でも加速度が検出されてはならない。他方で、速度値が停止値まで低下することもあり得る。その場合、最後に測定された速度からのブレーキによる減速に相当する加速度が慣性計測装置により測定されることが期待される。慣性計測装置の測定に対するそれぞれの期待が実現しなければ、それがエラーと認識される。
【0026】
慣性計測装置及び/又は制御及び評価ユニットは安全センサに統合されていることが好ましい。慣性計測装置を安全センサに含めれば、車両の車軸を監視する運動センサの場合と違って、そのための接続が一切不要になるという利点がある。また、慣性計測装置が安全センサの安全な環境内にあるため、この安全上重要な機能が外部から保護される。同様の理由から制御及び評価ユニットを安全センサ内に収納することが有利である。ただし、少なくともその一部は安全センサに接続された安全制御装置内に実装することができる。
【0027】
安全センサは、光線を送出するための発光器と、前記光線を周囲に向けて周期的に偏向させるための回転可能な偏向ユニットと、前記偏向ユニットの角度位置を特定するための角度測定ユニットと、周囲にある物体により拡散反射又は直反射された光線から受光信号を生成するための受光器とを有する安全用レーザスキャナとして構成され、制御及び評価ユニットは、前記受光信号を用いて、各時点において前記光線で検知された物体までの光伝播時間を測定し、特に車両の安全確保が行われているかどうかの評価のために、速度に応じて調整される少なくとも1つの防護区域で物体の侵入を監視することが好ましい。偏向ユニットは構成に応じて回転ミラーとしたり、発光器及び/又は受光器を収納した回転式走査ヘッドとしたりすることができる。偏向ユニットを追加的に傾けたり、仰角方向に間隔を空けた複数の走査光線を用いたりする場合は、監視される周囲の領域が単一の平面から3次元空間領域に拡張される。制御及び評価ユニットの一部が、接続された安全制御装置内に移されている場合、少なくとも光伝播時間の測定、又はそれに加えて防護区域の評価も安全用レーザスキャナ内で行うことが好ましい。その場合、安全制御装置は例えば確実な速度検出と防護区域の切り替えを担当する。
【0028】
本発明に係る方法は、前記と同様のやり方で仕上げていくことが可能であり、それにより同様の効果を奏する。そのような効果をもたらす特徴は、例えば本願の独立請求項に続く従属請求項に模範的に記載されているが、それらに限られるものではない。
【0029】
以下、本発明について、更なる特徴及び利点をも考慮しつつ、模範的な実施形態に基づき、添付の図面を参照しながら詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】慣性計測装置を有する安全用レーザスキャナの概略断面図。
図2】光電センサを用いて安全が確保される車両、並びに回転エンコーダと速度推定による確実な速度測定の概略図。
図3図2と同様の車両であって、2つの回転エンコーダにより速度測定を行うものの概略図。
図4図2と同様の車両であって、評価の少なくとも一部を安全制御装置内で行うものの概略図。
図5図3と同様の車両であって、評価の少なくとも一部を安全制御装置内で行うものの概略図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1は安全用レーザスキャナ10の概略断面図である。これは、後で図2~5を参照して説明するように、車両の安全確保のために用いることができる。
【0032】
この安全用レーザスキャナ10において、発光器12(例えば、赤外又は他のスペクトル領域のレーザ光源を備えるもの)が発光光学系14の助けを借りて発射光線16を生成する。この光線は偏向ユニット18において監視領域20内へ方向転換される。監視領域20内で発射光線16が物体に当たると、反射光22が再び安全用レーザスキャナ10に戻り、その内部で偏向ユニット18を経由し、受光光学系24を介して受光器26(例えばフォトダイオードやアバランシェフォトダイオード(APD))により検出される。
【0033】
本実施形態の偏向ユニット18は回転ミラーとして構成されており、モータ28の駆動により連続的に回転する。あるいは、発光器12及び受光器26を含む測定ヘッドを回転させることもできる。モータ28又は偏向ユニット18の各時点での回転位置は角度測定ユニット30を通じて検出される。ここでは模範例として、一緒に回転するコード板とフォーク状光遮断機の形でこのユニットを構成している。
【0034】
こうして、発光器12により生成された発射光線16が、回転運動により生じる監視領域20を塗りつぶすように掃引する。発光光学系14と受光光学系24の構成は、例えば光線形成型のミラーを偏向ユニットとしたり、レンズの配置を変えたり、レンズを追加したりする等、様々に変えることができる。特に、自動コリメーション型の配置になったレーザスキャナも知られている。図示した実施形態では発光器12と受光器26が共通の回路基板32上に収まっているが、これも一例に過ぎない。なぜなら、専用の回路基板を設けたり、例えば互いに高さをずらした配置に変えたりできるからである。
【0035】
さて、監視領域20からの反射光22が受光器26により受光されると、角度測定ユニット30により測定される偏向ユニット18の角度位置から監視領域20内における物体の角度位置を推定することができる。加えて、光信号が発射されてから監視領域20内で物体に反射された後、受光されるまでの光伝播時間を例えばパルス法や位相法で算出し、光の速度を用いて安全用レーザスキャナ10から物体までの距離を推定することが好ましい。
【0036】
この評価は評価ユニット34において行われる。該ユニットはそのために発光器12、受光器26、モータ28及び角度測定ユニット30と接続されている。これにより、前記角度及び距離を通じて監視領域20内にある全ての物体の二次元極座標が利用可能になる。評価ユニット34は、監視領域20の内側に設定された少なくとも1つの防護区域内に不許可の物体が侵入したかどうか調べる。侵入があった場合、保安出力36(OSSD; Output Signal Switching Device)を通じて安全信号が出力される。安全用レーザスキャナ10は冒頭に挙げた規格に従った対策によって安全に構成されている。
【0037】
安全用レーザスキャナ10には更に慣性計測装置38が収納されている。これは例えば統合されたMEMS部品とすることができる。慣性計測装置38は好ましくは空間の3方向全てにおいて加速度を測定し、更に3軸全てを中心とする角速度を測定する。車両上での安全用レーザスキャナ10の取り付け位置が分かっていれば、原理的には、例えば走行方向において前方への加速度のみを測定する等、より低い自由度でも十分である。
【0038】
安全用レーザスキャナ10は速度測定用のセンサを接続するための1つの入力40又は2つの入力40、42を備えている。これらを通じて検出される、安全用レーザスキャナ10が取り付けられた車両の速度は、2つの入力を通じて受け取られる速度同士の間で後述の方法により検証され、更に、慣性計測装置38の加速度情報や、場合によっては安全用レーザスキャナの測定データから得られる光学的な速度推定を用いて後述の方法により検証されることで、冒頭に挙げた規格に則った確かな情報となる。それから防護区域を最新の速度に適応させることができる。
【0039】
ここまでに挙げた機能的な構成要素は全て筐体44内に配置されている。筐体44は光が出入りする領域に前面パネル46を備えている。
【0040】
図2は車両50の概略図である。特に、この車両は無人車両又は自動車両(AGV; Automated Guided Vehicle)であり、走行路の安全を確保するための少なくとも1つの安全用レーザスキャナ10が取り付けられている。車両50が方向52にのみ動いている限り、前側にだけ安全用レーザスキャナ10があれば足りるが、そうでなければ、例えば後退時に周囲の安全を確保するために後ろ側にも追加の安全用レーザスキャナ10を設けることができる。安全用レーザスキャナ10ではなく、例えばカメラ(特に光伝播時間の原理に基づく3次元カメラ、又はステレオカメラ)等、他の光電式の安全センサを用いることもできる。
【0041】
車両50は車輪54に乗って前進するが、その際、回転エンコーダ56が車輪54の一つの回転速度を測定することで車両50の速度を測定し、その速度をそれに対応する入力40、42との接続を通じて安全用レーザスキャナ10へ送る。車両制御装置58が車両の制御、即ちその加速度、ステアリング角、速度等の設定を行う。好ましくは、危険を認識したときに車両50の安全を確保するため、安全用レーザスキャナ10の安全出力36が車両制御装置58と接続される。
【0042】
回転エンコーダ56並びにその安全用レーザスキャナ10との接続部及び該スキャナの入力40、42は単一チャンネル型又は信頼できない形態で構成されていてもよい。速度測定の信頼性は慣性計測装置38で高められる。これにより、安全用レーザスキャナ10の周囲の状況に依存することなく、接線速度の変化の少なくとも粗い推定と、回転の変化の正確な推定が測定可能になる。回転エンコーダ56を用いて測定される速度と、場合によっては保存済みの安全用レーザスキャナ10の運動履歴に基づいて、制御及び評価ユニット34は慣性計測装置38の信号についての期待値、つまり全ての必要な軸における角速度と直線加速度を算出できる。そしてそれが慣性計測装置38の実際の出力信号と比較される。十分な一致が見られれば、測定された速度は信頼できるとみなされる。逆に、慣性計測装置38の加速度を積分して回転エンコーダ56による測定速度と比較することもできる。
【0043】
慣性計測装置38は単に妥当性を付与するために役立てることが好ましい。なぜならそれは、少なくとも安全用レーザスキャナ10への統合に特に適した安価な実施形態では、本来の速度測定にとって不正確すぎるからである。故に、速度は更に別の情報源で測定することが有利である。これについては後で図3を参照して追加の回転エンコーダについて論じる。一方、引き続き図2に関して述べると、安全用レーザスキャナ10の運動をその距離測定データから光学的に推定する方法もある。そのためには、SLAM(Simultaneous Location And Mapping)やオプティカルフロー等、様々なアルゴリズムが考えられる。特に好適なのは、次々に実行されるスキャンから、時間とともに変化する測定距離を評価する方法である。推定の質は周囲の領域の特性に依存する。通常は精度が高いものの、冒頭に挙げた長い通路の場合や大きな動く物体が視野内にある場合等、個々の事例においては信頼性が低いこともあり得る。
【0044】
いま、車輪54が固定的に取り付けられており、安全用レーザスキャナ10の取り付け位置に対する位置関係が既知で固定されているものとして、エンコーダからの出力値が光学的な運動推定により計算される速度と合致しているかどうかを連続的に調べる。そのために、用途によっては、車両制御装置58から最新の曲線半径の情報、また旋回可能な車輪の場合はステアリング角の情報が追加的に必要とされることもあり得る。
【0045】
既に2つの情報源から正しさを確認されたこの速度測定に、更に既述のように慣性計測装置38を通じて妥当性が付与される。これにより、回転エンコーダ56が1つだけであり、冗長な第2の回転エンコーダがない場合でも、確かな速度値を算出することができる。回転エンコーダ56で測定された速度が慣性計測装置38の信号と合致している限り、回転エンコーダ56で測定された速度と安全用レーザスキャナ10の測定データから光学的に推定された速度の間の短時間の不一致や、光学的な運動推定の短い欠落は切り抜けることができる。
【0046】
特別な場合として車両50の停止がある。これは特に高い信頼性で認識する必要がある。なぜなら、動いていない車両50からは何の危険も生じないため、停止していると誤認された車両50からはそれだけ大きな危険が生じるからである。ここでは2つの場合が生じ得る。まず、回転エンコーダ56と光学的な速度推定がいずれも持続的に、つまり少なくとも一定の時間、停止値「0」を出力することがあり得る。そのとき慣性計測装置38は有意な加速度を出力してはならず、そうでなければエラーがある。また、測定又は推定された速度が停止値「0」まで低下することがあり得る。そのときは慣性計測装置38によりその速度変化又は急ブレーキに対応する加速度が測定されるはずであり、そうでなければエラーがある。
【0047】
上記のような対策により車両50の最新の速度が確実な方法で制御及び操作ユニット34に知らされる。その速度に依存して今度は複数の構成の防護区域60a~cのいずれかが選択され、作動状態になる。あるいは、最新の速度と、場合によっては走行方向等の他のパラメータも考慮しつつ、防護区域60a~cを用いて構成が動的に定められる。例えば、高速の場合は広い防護区域60aを持つ長い制動距離で安全確保が行われるが、低速の場合にはそれが不必要な安全措置を発動する可能性があるため、短い防護区域60cに切り替えられる。
【0048】
走行中、不許可の物体が作動状態の防護区域60a~cで認識されると、何より人との衝突、そして別の物体(他の車両等)との衝突も回避するために、安全信号が車両制御装置58に出力される。該装置は緊急停止、ブレーキ動作あるいは回避動作を実行することができる。あるいは、最初は単に速度を落とす。
【0049】
速度測定の際にエラーが認識されたとき、つまり回転エンコーダ56で測定された速度が光学的な速度推定からあまりに外れている場合、及び/又は、慣性計測装置38の信号と合致していない場合にも、安全信号が出力される。すべての運動衝撃に際して緊急停止が発動されることがないようにするため、前記のような不一致を所定の限られた時間だけ許容することも考えられる。また、エラーがあると認識された速度測定に対して、安全確保の措置ではなく、最悪の事態とみなして対応することも考えられる。そのためには、例えば車両50が最大速度にあると仮定したり、念のため最大限の防護区域60aに切り替えたりする。可用性を高めるための他の対策は、車両50をその都度完全に停止させるのではなく、安全な速度に制限することである(「クリープ走行」)。
【0050】
図3は安全用レーザスキャナ10を用いて走行の安全確保を行う車両50を再度示している。図2とは違い、こちらには安全用レーザスキャナ10の入力40、42と接続された第2の回転エンコーダ62が設けられ、2つの回転エンコーダ56、62で速度が冗長に検出される。これにより、第2の回転エンコーダ62は図2に示した実施形態における光学的な運動推定に機能的に代わるものとなる。それでもなお光学的な運動推定を実行することもできる。そうすれば速度測定のための別の情報源が更に加わる。
【0051】
この実施形態の機能の仕方は図2のものと同様であるため改めて説明しない。確実な速度検出には、回転エンコーダ56、62により測定された2つの速度が所定の許容差の範囲内で一致する必要がある。2つの回転エンコーダ56、62を用いた冗長な検出に加えて、安全用レーザスキャナ10内に統合された慣性計測装置38を用いる別の手法で運動認識が行われる。
【0052】
特に、停止状態の監視により、2つの回転エンコーダ56、62の同時の故障を認識すること、つまり回転エンコーダ56、62がどちらも有効な信号を出力しているか調べることができる。この検査は2つの論理条件に基づいて行われる。まず、両方の回転エンコーダ56、62の出力が停止値「ゼロ」まで低下するときには、慣性計測装置38からそれに対応する加速度が出力されなければならない。また、2つの回転エンコーダ56、62の出力から持続的に、つまり単なる短時間ではなくより長い時間の間、停止値「ゼロ」が出力されているときには、慣性計測装置38は有意な加速度を出力してはならない。いずれかの条件が満たされない場合はエラーがある。
【0053】
図4及び5は別の実施形態を説明するために車両50を再度示している。ここで、図4は光学的な運動評価を用いる図2に基づいており、図5は2つの回転エンコーダ56、62を用いる図3に基づいている。ここまでは慣性計測装置38と制御及び評価ユニット34が安全用レーザスキャナ10の一部であるものとしてきた。これは好ましい実施形態でもある。
【0054】
一方、制御及び評価の機能の少なくとも一部を安全制御装置64に移し、該装置に安全用レーザスキャナ10と1つの回転エンコーダ56又は2つの回転エンコーダ56、62を接続することも考えられる。任務の配分としては、制御及び操作ユニット34が安全用レーザスキャナ内で光伝播時間の測定と防護区域の監視を担当する一方、安全制御装置が速度の評価と検査を行うとともに、防護区域60a~cを速度に合った作動状態にするために切替信号を安全用レーザスキャナ10へ出力することが有利である。更に、慣性計測装置38を外部、つまり安全用レーザスキャナ10の外側に設け、安全用レーザスキャナ10又は安全制御装置64に接続することも考えられる。
図1
図2
図3
図4
図5