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特許7062757材料および半導体構造を多孔質化する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-22
(45)【発行日】2022-05-06
(54)【発明の名称】材料および半導体構造を多孔質化する方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/3063 20060101AFI20220425BHJP
   H01L 33/32 20100101ALI20220425BHJP
   H01L 33/10 20100101ALI20220425BHJP
   H01L 33/16 20100101ALI20220425BHJP
   H01S 5/18 20210101ALI20220425BHJP
   H01S 5/323 20060101ALI20220425BHJP
【FI】
H01L21/306 L
H01L33/32
H01L33/10
H01L33/16
H01S5/18
H01S5/323 610
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2020517083
(86)(22)【出願日】2017-09-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-03-25
(86)【国際出願番号】 GB2017052895
(87)【国際公開番号】W WO2019063957
(87)【国際公開日】2019-04-04
【審査請求日】2020-09-18
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2017年4月6日 パブリックセミナー 「GaN研究の新しい方向性-多孔質III族窒化物半導体」(ユニバーシティ オブ 上海 フォー サイエンス アンド テクノロジー、上海、中国)において発表 2017年4月10日 パブリックセミナー 「新しいフォトニクスと量子フォトニクスのためのIII族窒化物ナノ構造」(シャーメン ユニバーシティ、中国)において発表 2017年3月27日 刊行物「電気化学的多孔質化による非極性メソポーラスGaN分布ブラッグ反射器のウエハースケール製造」Sci.Rep.7,45344; doi:10.1038/srep45344 (2017)において発表
(73)【特許権者】
【識別番号】501308812
【氏名又は名称】ケンブリッジ エンタープライズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100208731
【弁理士】
【氏名又は名称】真々田 忠博
(74)【代理人】
【識別番号】100092679
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 盛之助
(72)【発明者】
【氏名】ズー,トントン
(72)【発明者】
【氏名】オリバー,レイチェル エー.
(72)【発明者】
【氏名】リュー,インジュン
【審査官】田中 崇大
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0203292(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0237234(US,A1)
【文献】特開2000-106455(JP,A)
【文献】特開2013-173641(JP,A)
【文献】特開2005-129682(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3063
H01L 33/32
H01L 33/10
H01L 33/16
H01S 5/18
H01S 5/323
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体構造中のIII属窒化物材料を多孔質化する方法であって、
1×1014cm-3から1×1017cm-3の間の電荷担体密度を有する第2のIII族窒化物材料の表面層の下に、5×1017cm-3を超える電荷担体密度を有する第1のIII族窒化物材料の表面下構造を含む半導体構造中のIII族窒化物材料を多孔質化するにあたり、
表面層を電解質に曝露するステップと、
表面下構造が表面層を通して電気化学エッチングによって多孔質化され、一方で表面層が多孔質化されないように、第1のIII族窒化物材料と電解質の間に電位差を印加するステップと
を含む、方法。
【請求項2】
表面層および表面下構造が、GaN、AlGaN、InGaN、InAlNおよびAlInGaNからなる群から選択されるIII族窒化物材料を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
表面下構造における電荷担体密度が、表面層における電荷担体密度よりも、少なくとも
5倍、または10倍、または100倍、または1000倍、または10,000倍、または100,000倍、または1,000,000倍高い、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
表面層および表面下構造の両方における貫通転位密度が、少なくとも1×10cm-2、1×10cm-2、1×10cm-2、1×10cm-2、もしくは1×10cm-2であり、および/または1×10cm-2もしくは1×1010cm-2未満である、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
表面層の厚みが、少なくとも1nm、もしくは10nm、もしくは100nmであり、および/または1μm、もしくは5μm、もしくは10μm未満である、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
表面層の外表面が、少なくとも300μm、または少なくとも500μm、または少なくとも1mm、または少なくとも10mm、または少なくとも5cm、または少なくとも15cm、または少なくとも20cmの最小横方向寸法を有し、
および/または、表面下構造が、少なくとも300μm、または少なくとも500μm、または少なくとも1mm、または少なくとも10mm、または少なくとも5センチメートルの最小横方向寸法を有し、
好ましくは、半導体構造が、1インチ(2.54cm)、または2インチ(5.08cm)、または6インチ(15.24cm)、または8インチ(20.36cm)の直径を有するウエハーとして提供される、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
半導体構造が複数の表面下構造を含み、前記表面下構造が、スタックに配置された複数の表面下層を形成し、表面下層が表面層から下方に逐次エッチングされる、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
電気化学エッチング中に電解質と選択された表面下層の間の電位差を制御することによって、前記選択された表面下層の多孔度を制御するステップを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
半導体構造が、1cm、または5mm、または1mm、または600μm、または400μm、または200μm未満で分けられたトレンチを用いてプレパターン形成されておらず、
表面層が、電気化学エッチング中に電気絶縁層またはその他の保護層でコーティングされない、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
半導体構造であって、
第1のIII族窒化物材料の多孔質の表面下構造と、
第2のIII族窒化物材料の表面層であって、1×1014cm-3から1×1017cm-3の間の電荷担体密度を有する表面層とを含み、
表面下構造が構造全体で均一な多孔度を有し、表面層および表面下構造の両方が550μmよりも長い最小横方向寸法を有する半導体構造であって、
前記半導体構造は、層のスタックの形態のIII族窒化物材料から形成された複数の表面下層を含み、(表面層から離れる方にカウントして)奇数番号の表面下層が多孔質であって各層全体で均一な多孔度を有し、偶数番号の表面下層が非多孔質であり、
少なくとも2つの奇数番号の表面下層が異なる多孔度を有する、半導体構造。
【請求項11】
表面層が、少なくとも1mm、または少なくとも10mm、または少なくとも5cm、または少なくとも15cm、または少なくとも20cmの最小横方向寸法を有する、請求項10に記載の構造。
【請求項12】
表面層および表面下構造が、GaN、AlGaN、InGaNおよびAlInGaNからなる群から選択されるIII族窒化物材料を含む、請求項10または11に記載の構造。
【請求項13】
表面層および表面下構造の両方における貫通転位密度が、少なくとも1×10cm-2、1×10cm-2、1×10cm-2、1×10cm-2、もしくは1×10cm-2であり、および/または1×10cm-2、もしくは1×1010cm-2未満である、請求項10~12のいずれかに記載の構造。
【請求項14】
表面層の厚みが、少なくとも1nm、もしくは10nm、もしくは100nmであり、および/または1μm、もしくは5μm、もしくは10μm未満である、請求項10~13のいずれかに記載の構造。
【請求項15】
多孔質の表面下構造が、1nm、もしくは2nm、もしくは10nm、もしくは20nmを超える平均孔サイズであり、および/または50nm、もしくは60nm、もしくは70nm未満の平均孔サイズを有する、請求項10~14のいずれかに記載の構造。
【請求項16】
半導体構造が、1cm、または5mm、または1mm、または600μm、または400μm、または200μm未満で分けられたトレンチを用いてパターン形成されない、請求項10~15のいずれかに記載の構造。
【請求項17】
表面層の最外面が、1平方マイクロメートルを超える面積にわたって、10nm未満、または5nm未満、または2nm未満、または1nm未満、または0.5nm未満の二乗平均平方根粗さを有する、請求項10~16のいずれかに記載の構造。
【請求項18】
レーザーまたはLEDのような、または、分布ブラッグ反射器(DBR)のような、1以上の半導体デバイスの過成長のための基板としての請求項10~17のいずれかに記載の半導体構造の使用。
【請求項19】
請求項10~18のいずれかに記載の半導体構造を、組み込むか、または取り付けられたデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体材料、特に、III族窒化物材料、半導体構造を多孔質化する方法、半導体構造の使用および半導体構造を組み込むか、または取り付けられたデバイスに関する。本発明は、半導体デバイスの製作において分布ブラッグ反射器(distributed Bragg reflectors:DBRs)および基板として使用するための多孔質半導体構造の製造にとって特に有利であり得る。
【背景技術】
【0002】
「III族窒化物」材料として知られる半導体材料のクラスは、窒化ガリウム(GaN)、窒化インジウム(InN)および窒化アルミニウム(AlN)を、その三元および四元合金とともに含む。III族窒化物材料は、ソリッドステート照明およびパワーエレクトロニクスにおいて商業的成功を達成しただけでなく、量子光源および光-物質相互作用にとって特別な利点も示す。
【0003】
種々のIII族窒化物材料は、商業的に興味深いものであるが、窒化ガリウム(GaN)は、最も重要な新規半導体材料の1つとして広く見なされており、いくつかの適用にとって特に興味深い。
【0004】
バルクGaNに孔を導入することは、その電気伝導率に負に影響を及ぼすことなく、その材料特性、例えば、その屈折率に大いに影響を及ぼし得るということは公知である。したがって、その多孔度を変更することによってGaNの光学特性を調整する可能性が、多孔質GaNをオプトエレクトロニック適用にとって大いに興味深いものにする。
【0005】
WO2011/094391A1には、電気化学エッチング法によってナノポーラスGaNを作製する可能性が開示されており、それによれば、n型ドープGaNを電解質と接触させることおよびエッチング電位を印加することによって、n型ドープGaNが、多孔度をもたらすようにエッチングされる。WO2011/094391A1(段落[0031])には、2つの型のGaN構造のエッチングが記載されている。第1の型では、n型ドープGaNの露出した層の表面が電解質と接触してエッチングされ、多孔質層を生成する。エッチングは層表面に対して垂直に進行し、WO2011/094391A1では垂直エッチングと呼ばれている。第2の型の構造では、n型ドープGaNの層の上に、ドープされていないGaNの頂部層が形成される。したがって、n型ドープGaNは、表面下層(sub-surface layer)を形成する。次いで、層はドライエッチングされるか、または劈開されて、層のエッジもしくはサイドウォールを露出するトレンチが形成され、これらのエッジが電解質に曝露され得る。次いで、エッチングは、その露出したエッジからn型層を通って選択的に進行し、ドープされた表面下層を多孔質化するが、覆っているドープされていない層は多孔質化しない。WO2011/094391A1では、これは、水平または横方向エッチングと呼ばれている。
【0006】
n型GaNの電気化学エッチングは、種々の学術論文においてさらに記載されている。これらの先行技術文書のすべてはWO2011/094391A1の教示に従っており、エッチングは、露出されたn型GaN表面に「垂直に」、またはドープされていないGaNおよび/もしくは電気絶縁基層の2つの層の間に挟まれたn型GaN層のエッジに「水平に」実施され得るとしている。
【0007】
Chen et al, Journal of Applied Physics, 112, 064303 (2012)は、n型GaNの垂直エッチングに関し、さらなるエッチングを防ぐための「エッチストップ」としての500nm厚の下層のドープされていないGaN層の使用が記載されている。Chen et alは、垂直エッチングが、n型GaNの表面に表面ピットを形成させたことをさらに注記している。
【0008】
他方、C. Zhang, et al. ACS Photonics 2015, 2, 980には、ドープされていないGaNおよびn型GaNの交互層からなる多層構造を水平にエッチングすることが開示されている。水平エッチングを可能にするために、まず、多層サンプルを50μmの間隔のトレンチを用いてリソグラフィーでパターン形成して、層のエッジまたはサイドウォールを露出させ、多孔質化の間にn型層中に水平に電解質を輸送することを可能にした。最上層のドープされていないGaNの頂部に保護層としてSiO2の電気絶縁層も形成した。
【0009】
表面下層のエッジからの水平または横方向エッチングは、エッチング中の層へのおよび層からの電解質の拡散速度を含む因子によって制限され、これは、エッチングされ得る層のエッジからの距離に対して制限となり、したがって、水平エッチングによって多孔質化され得るサンプルの幅に対して(反対のエッジからエッチングされる場合)制限があるということを意味する。
【0010】
先行技術の著者は、エッチングに先立つサンプルへのドライエッチング垂直トレンチによって、このサンプル側の制限に対処しており、その結果、サンプル層のエッジが一定間隔で露出される。これは、電解質が層エッジと接触し、サンプル構造中に水平にエッチングすることを可能にする。ドライエッチングトレンチとは、各サンプルが、隣接するトレンチの間に広がる複数のより小さいサンプルに効果的に分けられることを意味する。隣接するトレンチ間の距離は、水平エッチングが層に浸透することが可能である距離の2倍に自然に制限される(サンプルが両サイドから水平にエッチングされると仮定して)。C. Zhang, et alでは、例えば、水平エッチングのサンプル幅はトレンチ間で50μmの寸法に制限される。
【0011】
この追加された処理ステップはウエハー処理の費用を増大し、得られる多孔質化構造の最大寸法も制限する。ドライエッチングトレンチによって半導体構造を小さいメサ(small mesas)に分割することが、得られた多孔質化構造を、特定の半導体デバイスの製作において使用するのに不適にすることもある。したがって、この技術は、大規模な実用的なオプトエレクトロニックデバイスのための、水平エッチング法の実行可能性およびその結果として得られる構造を制限し得る。
【0012】
さらに、先行技術の水平エッチング法は、エッチングに先立って、半導体構造の頂部に比較的厚い誘電層を適用することを含む。この誘電層は、シリカ(SiO2)から形成されることが多く、表面層を覆い、エッチング中に電解質がサンプルの表面層と接触することを防ぐ。この層は、トレンチのドライエッチング中に、または水平エッチングプロセス中に損傷から表面層を保護するためのマスクとして働く。この層の適用および必要に応じたその後の除去によって、さらなる処理ステップが導入され、材料設計が制約される。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、ここで参照されなければならない添付の独立クレームにおいて定義されるように、III族窒化物材料や半導体構造を多孔質化する方法、半導体構造の使用および半導体構造を組み込むか、取り付けられたデバイスに関する。本発明の好ましいまたは有利な特徴は、従属クレームに記載されている。
【0014】
本発明者らの刊行物Zhu, T. et al. Wafer-scale Fabrication of Non-polar Mesoporous GaN Distributed Bragg Reflectors via Electrochemical Porosification. Sci. Rep. 7, 45344; doi: 10.1038/srep45344 (2017)は、参照によりその全文で本明細書に組み込まれる。
【0015】
本発明の第1の側面によれば、半導体構造におけるIII族窒化物材料を多孔質化する方法が提供される。半導体構造は、1×1014cm-3から1×1017cm-3の間の電荷担体密度(charge carrier density)を有する第2のIII族窒化物材料の表面層(surface layer)の下に、5×1017cm-3を超える電荷担体密度を有する第1のIII族窒化物材料の表面下構造(sub-surface structure)を含む。本方法は、表面層を電解質に曝露するステップ、および表面下構造が電気化学エッチングによって多孔質化され、一方で表面層が多孔質化されないように、表面下構造と電解質の間に電位差を印加するステップを含む。
【0016】
本方法は、これとは別に、III族窒化物材料を表面下多孔質化する方法、またはIII族窒化物材料の表面下多孔質化の方法と呼ばれることもある。表面下III族窒化物材料は、その電荷担体密度に応じて選択的に多孔質化され得るので、このような方法は、III族窒化物材料を選択的に多孔質化する方法であり得る。
【0017】
表面下構造は、表面層の下に所望の配置またはパターンで提供され得る。表面下構造は、表面層の下に表面下層(sub-surface layer)を形成することが好ましい。表面下構造は、表面層の下に連続する、または途切れのない表面下層を形成することが特に好ましい。
【0018】
表面下構造は、有利には、表面層を通した電気化学エッチングによって多孔質化され得る。すなわち、方法は、層を通した多孔質化方法であり得る。
【0019】
先行技術においてとは異なり、本方法では、エッチングされるべきIII族窒化物材料を電解質に曝露することは必要ではない。WO2011/094391A1では、例えば、「水平」エッチングおよび「垂直」エッチングの両方とも、エッチングされるべき層のエッジまたは表面が、電解質に対して曝露されることを必要とする。n型ドープGaNの頂部面が露出している場合には、層中に下方に「垂直」エッチングが生じる。n型ドープ層のサイドウォールまたはエッジのみが電解質に対して曝露される場合には、これらの曝露されたエッジ中に内方に「水平」エッチングが生じる。
【0020】
本方法は、1×1014cm-3から1×1017cm-3の間の電荷担体密度を有するIII族窒化物材料の表面層を電解質に対して曝露することによって、エッチングを可能にする。しかし、表面下構造(エッチングされるべき材料)を電解質に対して曝露することは必要ではない。
【0021】
表面層を電解質に曝露するステップは、別に、表面層を電解質と接触させることとして記載されることもある。表面層の上面、頂部面または最外面が、電解質に対して曝露されることが好ましい。表面層のみが電解質に対して曝露されることが特に好ましい。
【0022】
先行技術では、名目上「ドープされていない」GaNの表面層が、SiO2などの誘電材料の層によってマスクされている場合には、表面層の頂部面は電解質に対して曝露されない。
【0023】
表面層は、表面下構造の上面のみを覆う場合がある。言い換えれば、表面下構造は、表面層の下方もしくは真下に配置される場合があり、または表面層は、表面下構造の上方に配置される場合がある。表面下構造のサイドウォールまたはエッジは露出している場合があり、すなわち、表面層によって覆われない場合がある。
【0024】
あるいは、表面下構造が表面層によって完全に覆われる場合もある。すなわち、表面下構造の上面およびサイドウォールの両方が、またはエッジが、表面層によって覆われる場合がある。したがって、表面下構造および表面層から形成された構造が、電解質中に完全に浸漬される場合に、表面層が、電解質に対して曝露される唯一の材料であり得る。
【0025】
先行技術は、電気化学エッチングの進行を停止する「エッチストップ」(etch stop)としてのドープされていないGaNの使用を開示するが、本発明者らは、GaNまたはその他のIII族窒化物材料の表面層であって、1×1014cm-3から1×1017cm-3の間の電荷担体密度を有する表面層の使用によって、第2のIII族窒化物材料の表面層を通る電気化学エッチングが起こることが可能となることを見い出した。言い換えれば、表面下構造を電解質と直接接触させることなく、表面層自体をエッチングすることなく、表面下構造は表面層を通したエッチングによって多孔質化され得る。
【0026】
表面層の電荷担体密度ならびに表面下構造の電荷担体密度を制御することによって、本発明者らは、第1のIII族窒化物材料の表面下構造を、表面層自体が多孔質化されることなく表面層を通して多孔質化できることを見い出した。エッチングプロセス中に表面層が損傷を受けるか、または粗面化することなく、表面下構造を電気化学的にエッチングできることが特に有利である。したがって、本発明の方法は、有利には、表面層上に例えば、SiO2の保護的導電層を適用しなくても、複合体(例えば、多層体)III族窒化物構造の選択的多孔質化を可能にし得る。これは、多孔質構造が使用され得る前に、先行技術によって必要とされる、頂部保護層を適用し、その後に除去するという時間と費用のかかる余分な処理ステップの必要性を排除し得る。
【0027】
エッチング中に表面層が多孔質化されないように、表面層は、少なくとも5×1014cm-3、もしくは1×1015cm-3、もしくは5×1015cm-3の電荷担体密度であり、および/または7×1015cm-3、もしくは1×1016cm-3、もしくは5×1016cm-3、もしくは8×1016cm-3未満の電荷担体密度を有し得る。
【0028】
表面層の電荷担体密度が1×1014cm-3未満である場合には、多孔質化されるべき表面下構造へ電流を運ぶために存在する十分な電荷担体がないので、表面層は、表面層を通した電気化学エッチングを可能にするには電気抵抗が高すぎる場合がある。
【0029】
しかし、表面層の電荷担体密度が1×1017cm-3を超える場合には、表面層は、電気化学的プロセス中に表面層がそれ自身多孔質化されるほど十分に導電性である場合がある。したがって、表面層が、多孔質化、表面の「孔食」および/または粗面化を起こすことがあり、これが、表面層が、さらなる処理、例えば、さらなるエピタキシャル過成長することを不適切にする。これは、表面層が意図的にドープされていない場合であっても、表面層中の不純物濃度が高すぎて、表面層が1×1017cm-3を超える電荷担体密度を有する場合に起こり得る。
【0030】
層の電荷担体密度および隣接層間の電荷担体密度のコントラストを制御することによって、電気化学エッチングによって多孔質化される層を予め決定することが可能である。
【0031】
表面下構造は、電気化学エッチングによって多孔質化される場合に、少なくとも5×1017cm-3、もしくは少なくとも1×1018cm-3、もしくは少なくとも5×1018cm-3、もしくは少なくとも1×1019cm-3、もしくは少なくとも5×1019cm-3、もしくは少なくとも1×1020cm-3の電荷担体密度を有し、および/または1×1021cm-3、もしくは5×1021cm-3、もしくは1×1022cm-3未満の電荷担体密度を有し得る。
【0032】
本発明者らは、本発明の方法によれば、5×1017cm-3を超える電荷担体密度を有する表面下構造は多孔質化され、一方で1×1017cm-3未満の電荷担体密度を有する層は多孔質化されないことを見い出した。1×1017cm-3から5×1017cm-3の間では多孔質化が可能であるが、この範囲の外側の電荷担体密度を使用することにより、表面層と表面下構造の電気伝導率にコントラストを形成でき、表面下構造が選択的に多孔質化されることを促進する。
【0033】
「ドープされていない」表面層への損傷を避けるために、先行技術の著者らは、そのサンプルの頂部面に保護的誘電層を適用することが必要であることを見い出している。
【0034】
当業者ならば、事実上、すべての半導体材料が「ドーパント」原子と考えられ得る固有の不純物を含有するので、用語「ドープされていない」は、半導体技術において相対的に不正確であることは理解するであろう。半導体成長の種々の方法は、種々のレベルの不純物、従って、種々の固有の電荷担体の濃縮をもたらし得る。不純物レベルが高い場合には、得られる半導体材料は、その層が意図的にドープされていなかった場合であっても、1×1017cm-3を超える電荷担体密度を有し得る。
【0035】
したがって、先行技術の著者が、表面層の望ましくないエッチングを防ぐために保護的誘電層を適用することが必要であると見い出した理由は、その「ドープされていない」表面層が実際に1×1017cm-3を超える電荷担体密度を有し、その結果、電位差の印加の際に、表面層がそれ自体エッチングされた、または部分的にエッチングされたからである。表面層の頂部に誘電層を適用することによって、その電荷担体濃度に関わらず、表面層は偶発的なエッチングから保護される。
【0036】
表面層の外表面上に電気絶縁層が存在することで、表面層を通して下方の(複数の)表面下構造への電気伝導を防ぎ、その結果、表面層を通した電気化学エッチングを防ぐ。
【0037】
先行技術において行われているような、誘電材料において表面層の外表面をコーティングすることは、エッチングを、層の露出しているエッジ中に水平に進行させる。先行技術の著者は、これを行うことによって、n型ドープGaN層のみが多孔質化され、一方で、「ドープされていない」GaN層は多孔質化されず、「エッチストップ」として作用したことを見い出した。
【0038】
本発明の発明者らは、先行技術では、水平エッチングは、「n型」層の露出しているエッジ中に選択的に進行するが、これは、これらの層が、最低電気抵抗の経路を提供するからであると仮説を立てている。したがって、先行技術の名目上「ドープされていない」GaN層が、実際には、1×1017cm-3を超える電荷担体密度を有する場合であっても、これらの層が「ドープされていない」層よりも高い電荷担体密度を有し、従って、より高い電気伝導率を有する限り、水平エッチングは「n型」層中に優先的に進行する。
【0039】
電解質が表面層の露出している頂部面と接触している場合には、この「最低抵抗の経路」挙動はあり得ない。したがって、表面層の電荷担体濃度は、表面層を通したエッチングは起こり得るが、表面層自体への損傷またはその多孔質化を引き起こさないように制御されなくてはならない。
【0040】
したがって、本発明の方法は、先行技術の方法で必要なものよりも少ない処理ステップを用いて、III族窒化物材料を多孔質化する方法を有利に提供し、また、その方法はトレンチをプレエッチングする必要なく、大きなサンプルサイズを有利に多孔質化することができる。
【0041】
表面層および表面下構造は、GaN、AlGaN、InGaN、InAlNおよびAlInGaNからなる群から選択されるIII族窒化物材料を含むことが好ましい。表面層および表面下構造は、同一ではあるが各層において異なる電荷担体密度を有するIII族窒化物材料から形成されてもよいが、または各層は、異なるIII族窒化物材料から形成されてもよい。
【0042】
適したIII族窒化物材料は、例えば、任意の極性結晶方位または非極性結晶方位を有し得る。適したIII族窒化物材料は、任意の結晶構造、例えば、ウルツ鉱型または立方晶構造を有し、任意の結晶方位を有し得る。例えば、適したIII族窒化物材料は、極性c面、非極性a面またはさらに立方晶III族窒化物材料を含み得る。
【0043】
特に好ましい実施形態では、表面層は、1×1014cm-3から1×1017cm-3の間の電荷担体密度を有するGaNからなり、表面下構造は、5×1017cm-3を超える電荷担体密度を有するn型ドープGaNからなる。
【0044】
表面下構造は、n型ドープIII族窒化物材料からなることが好ましい。表面下構造は、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)および/または酸素(O)をドープされることが特に好ましい。
【0045】
所与の層の電荷担体密度は、例えば、静電容量-電圧プロファイリング(capacitance-voltage profiling)または較正された走査静電容量顕微鏡法(calibrated scanning capacitance microscopy)によって当業者が容易に測定可能である。深度プロファイリングホール効果技術(depth profiling Hall effect technique)も適している場合がある。電荷担体密度は、別に、担体密度または担体濃度と呼ばれる場合もある。本明細書において電荷担体密度への言及は、室温での電荷担体密度を指す。
【0046】
好ましい実施形態では、表面下構造は、第1のIII族窒化物材料の平面の表面下層からなる。表面層および表面下構造は隣接した平面層を形成し、表面下層の上面が表面層の下面と接触し、またはそれらがIII族窒化物材料の介在層によって分かれている。好ましくは、表面下層は、同一のIII族窒化物材料または異なるIII族窒化物材料から形成される複数の表面下層のうちの1つであり得る。
【0047】
表面層および表面下構造は、エピタキシャル成長によって形成され得る。表面層および表面下構造は、分子線エピタキシー(MBE)、有機金属化学気相成長(MOCVD)(有機金属気相エピタキシー(MOVPE)としても知られる)、ハイドライド気相エピタキシー(HVPE)、アンモノサーマルプロセス、または必要な電荷担体濃度を有するIII族窒化物材料を成長させるのに適した、その他の従来のプロセスによって形成され得る。
【0048】
表面層および(複数の)表面下構造は、電気絶縁基層または基板上で成長させることができる。基層は、好ましくは、多層構造の底部を形成するように構成され、表面層は、(複数の)表面下構造が表面層と基層の間に配置された、多層構造の頂部を形成する。電気絶縁基層は、サファイア、シリコン、シリコンカーバイド、LiAlO3、ガラスまたはバルクGaNを含み得ることが好ましい。
【0049】
電気化学エッチングは、種々の酸性または塩基性の電解質中で実施することができる。例えば、適した電解質として、シュウ酸、KOH、NaOH、HF、HClおよびHNO3が挙げられる。
【0050】
好ましくは、電解質は、表面層の露出面と120°以上の濡れ角または接触角を形成しなくてはならない。
【0051】
サンプルを電気化学的にエッチングするために、電気化学的セルは、サンプル自体がアノードとして作用し、白金箔電極などの不活性電極がカソードとして働くように配置される。サンプルおよび白金電極が電源に接続され、電解質中にサンプルが浸漬または部分浸漬されて回路を形成する。
【0052】
サンプルの電解質と表面下構造の間に電位差を印加するために、多孔質化されるべき表面下構造は、電源の端子と電気的に接続されるか、または電気的に接触していなければならない。
【0053】
電気化学エッチングを実施するために、表面下構造と電解質の間に電位差(電圧)を印加するように電源が制御され、電解質およびサンプルを通って電流が流れるようにする。サンプルを通る電流の流れは、5×1017cm-3を超える電荷担体密度を有する任意の表面下構造の電気化学エッチングを引き起こし、その結果、これらの層の多孔度が増大する。
【0054】
表面下構造を選択的に多孔質化するためには、表面下構造および電解質の間に印加される電位差は、少なくとも4ボルト(v)、もしくは6V、もしくは8V、もしくは10V、もしくは15Vであり、および/または20V、もしくは25V、もしくは30V未満であることが好ましい。
【0055】
電気化学エッチングは、連続モードで実施しても、パルスモードで実施してもよく、セル全体の電圧または電流を制御することによって制御してもよい。
【0056】
反応中のエッチング電流を測定することによって、エッチング反応の進行をモニタリングできることは有利である。
【0057】
エッチング後、脱イオン水ですすぎN2で乾燥させることによってサンプルを清浄化し、表面下構造の多孔質構造に影響を及ぼすことなく、残存する任意のエッチング化学物質および生成物の完全溶解を確実にできる。
【0058】
表面下構造中の電荷担体密度は、表面層中の電荷担体密度よりも少なくとも5倍、または10倍、または100倍、または1000倍、または10,000倍、または100,000倍、または1,000,000倍高いことが好ましい。異なる層間の電荷担体密度間差が大きいことは、電荷担体密度の「コントラスト」が大きいと考えることができ、エッチングプロセスの選択性を有利に増大し得ることができる。
【0059】
表面層および表面下構造の両方における貫通転位密度(threading dislocation density)は、1×104cm-2から1×1010cm-2の間であることが好ましい。特に好ましくは、表面層および表面下構造両方における貫通転位密度は、表面層および表面下構造において実質的に等しい。表面層および表面下構造の両方における貫通転位密度は、少なくとも1×104cm-2、1×105cm-2、1×106cm-2、1×107cm-2もしくは1×108cm-2であり、および/または1×109cm-2、もしくは1×1010cm-2未満であることが好ましい。通常、半導体材料の生産者は、材料品質を改善する努力において材料の貫通転位密度を最小にしようとする。しかし、本発明において、表面層および表面下層間の十分な貫通転位密度は、表面層を通した電気化学エッチングを可能にするために必要であり得る。これは、表面下層への増大した電解質または電荷担体の輸送によるものであり得る。
【0060】
表面層は、III族窒化物材料の連続層であることが好ましい。すなわち、表面層は、正孔または大規模欠損を実質的に含まないことが好ましい。
【0061】
好ましい実施形態では、表面下構造もまた、III族窒化物材料の連続した表面下層であり得る。
【0062】
表面層の厚みは、少なくとも1nm、もしくは10nm、もしくは100nmであり、および/または1μm、もしくは5μm、もしくは10μm未満であることが好ましい。好ましい実施形態では、表面層の厚みは50nmである。
【0063】
表面下構造または表面下層の厚みは、少なくとも1nm、もしくは10nm、もしくは100nmであり、および/または1μm、もしくは5μm、もしくは10μm未満であることが好ましい。
【0064】
特に好ましくは、連続した表面層の外表面は、少なくとも300μm、または少なくとも600μm、または少なくとも1mm、または少なくとも10mm、または少なくとも5cm、または少なくとも15cm、または少なくとも20cmの最小横方向寸法(minimun lateral dimension)を有する。
【0065】
特に好ましくは、表面下構造は連続層であり、少なくとも300μm、または少なくとも600μm、または少なくとも1mm、または少なくとも10mm、または少なくとも5cm、または少なくとも15cm、または少なくとも20cmの最小横方向寸法を有することが特に好ましい。
【0066】
層の最小横方向寸法とは、その最狭点での層の横方向幅を指す。本発明の好ましい実施形態において使用される層は、比較的大きくて薄い。そのため、層の横方向寸法は、層の「頂部」および「底」表面の寸法を指すと理解されなければならず、層の厚みは、その「高さ」、すなわち、その頂部と底表面の間の距離を指す。したがって、サンプルの頂部面は四角であり、サンプルの最小横方向寸法は、四角の反対のエッジの間の距離となる。この状態において「底」表面は、基板上の層のエピタキシャル成長の際に最初に形成される表面であると理解されなければならず、「頂部」表面は、「底」表面の反対の層の側に形成される表面である。
【0067】
本発明の方法は、有利には、先行技術の水平エッチング技術を使用して可能である半導体構造よりも、かなり大きな半導体構造を多孔質化可能である。本発明の方法は、個々の各々の層の露出したエッジから水平にではなく、表面層を通した表面下構造の電気化学エッチングをもたらすので、本発明の有効性は、最大サンプル幅に制限されない。
【0068】
本方法を使用して、層エッジを露出するためにウエハーに規則的なトレンチをまず形成することなく、2インチの半導体ウエハー全体の連続した表面下層を均一に多孔質化することが可能である。水平エッチングは、このような大きなウエハーの中心にまでエッチングできなかったので、これは、先行技術のエッチング法を用いた場合には可能ではない。水平エッチングは、ウエハーのエッジから数十または数百マイクロメーターの距離をエッチングすることに制限されるであろう。さらに、表面層を電気絶縁層で保護することなく、2インチの半導体ウエハー全体の連続した表面下層を均質に多孔質化することが可能である。これは、頂部面の保護を必要とする先行技術のエッチング法を用いた場合には可能ではない。
【0069】
先行技術の水平エッチングの特徴は広く研究されており、サンプルエッジからのエッチングの速度において制限されるとわかっている。電解質および電荷輸送などの制限は、特定のサンプル幅を超えると、水平エッチングはどのような時間経過後であっても、サンプルの中心にまで到達できないということを意味する。長期間のサンプルエッジでの電流の濃縮は、層全体の均一でない多孔質化につながり、サンプルエッジに多孔度を濃縮し、サンプル中心には多孔質化がほとんど発生しないことになる。
【0070】
これらの理由のために、先行技術の著者は、電解質が50μmほど毎にサンプルエッジに接近することを可能にするために、サンプル全体にわたる一定間隔のドライエッチングトレンチをサンプルに事前準備することに頼ってきた。これによって、電解質が表面下層の露出されたエッジに接近することが可能となり、その結果、水平エッチングが発生し得る。
【0071】
本発明の発明者らは、層のエッジからだけではなく、表面層を通したエッチングによってこれらの問題を回避した。この方法は、有利には、エッジからではなく、表面下層全体に多孔度が均一に発生することを可能にする。これは、有利には、水平エッチングのみを行った場合と比較して、サンプルをエッチングするのに必要な時間を低減し、多孔質化の均一性を増大することができる。
【0072】
特に有利には、層エッジへの接近は必要ではないので、本発明の方法では、層中にトレンチを作出することでサンプルを事前準備することを必要としない。したがって、本発明は、より少ない処理ステップしか必要とせず、規則的なトレンチを用いて層を分断する必要はなく、大きな連続する半導体層の多孔質化を可能にする。
【0073】
さらに、本方法は、エッチングされるべき材料のエッジに接近する必要がないので、種々の表面下構造が多孔質化され得る。先行技術とは異なり、表面下構造が、サンプルのエッジまで拡張される必要はなく、またはエッチングプロセス中に電解質に対する曝露のためのサイドウォールの大きな表面積を示す必要はない。したがって、表面層の下の多孔質の表面下構造として、種々のパターンまたは構造の多孔質材料を形成することができる。
【0074】
好ましくは、本方法は、表面下構造中に、平均孔サイズ(average pore size)が1nm、もしくは2nm、もしくは10nm、もしくは20nmを超える孔であって、および/または50nm、もしくは60nm、もしくは70nm未満の平均孔サイズを有する孔を生成し得る。
【0075】
表面下構造の孔サイズと形態、および得られた多孔度パーセンテージは、有利には(複数の)表面下構造の電荷担体濃度を制御すること、およびエッチング中に電解質と(複数の)表面下構造間に印加される電位差を制御することによって制御され得る。
【0076】
本方法は、好ましくは、表面下構造をミクロポーラスであるように多孔質化できる。すなわち、表面下構造は2nm未満の平均孔サイズを有する。あるいは、本方法は、表面下構造をメソポーラスであるように多孔質化できる。すなわち、表面下構造は2nmから50nmの間の平均孔サイズを有する。あるいは、本方法は、表面下構造をマクロポーラスであるように多孔質化できる。すなわち、表面下構造は50nmを超える平均孔サイズを有する。
【0077】
好ましい実施形態では、本方法は、複数の表面下構造を多孔質化するために使用され得る。したがって、本方法は、多孔質化されるべき表面下構造と電解質の間に電位差を印加するステップを含み、5×1017cm-3を超える電荷担体密度を有する構造が電気化学エッチングによって多孔質化され、一方で、1×1014cm-3から1×1017cm-3の間の電荷担体密度を有する構造は多孔質化されない。
【0078】
特に好ましい実施形態では、表面下構造は表面下層である場合があり、本方法を使用して複数の表面下層を多孔質化できる。半導体構造がIII族窒化物材料から形成された複数の表面下層を含む場合には、本方法は、多孔質化されるべき表面下層と電解質の間に電位差を印加するステップを含み、5×1017cm-3を超える電荷担体密度を有する層が電気化学エッチングによって多孔質化され、一方で、1×1014cm-3から1×1017cm-3の間の電荷担体密度を有する層は多孔質化されない。
【0079】
5×1017cm-3を超える電荷担体密度を有する層は、その上方の層を通した電気化学エッチングによって多孔質化され得る。
【0080】
各層の電荷担体密度を制御することにより、電気化学エッチングプロセスでどの複数の表面下層を多孔質化するかを制御することが可能である。したがって、あらかじめ決めた層において異なった多孔度の特徴を達成するために、種々の多層構造を成長させることができる。
【0081】
表面下構造または表面下層が、電気化学エッチングによって多孔質化される場合には、その電荷担体密度は5×1017cm-3を超えなければならない。この閾値を超えると、得られる多孔質構造の多孔度は、おおよそ当初の表面下構造の電荷担体密度に応じて変化する。したがって、5×1017cm-3を超える電荷担体密度を有する2つの表面下構造が提供される場合には、各々に同一の電位差が印加されるという条件では、より高い電荷担体密度を有する表面下構造が、別の表面下構造よりも大きな程度に多孔質化される。
【0082】
好ましい実施形態では、表面下構造は、上下にスタックに配置された複数の表面下層を形成する。本発明の方法は、有利には、表面層から下方に逐次、表面下層をエッチングできる。すなわち、表面層に最も近い表面下層がまず多孔質化され、それに続いて、エッチングが表面下構造を通って下方の5×1017cm-3を超える電荷担体密度を有する次の表面下層に進行し、順番にこれが多孔質化され、これが繰り返される。
【0083】
特に有利には、この逐次エッチングは、ユーザーが、層の電気化学エッチング中に電解質と表面下層の間の電位差を制御することによって、特定の表面下層の多孔度を制御することを可能にできる。エッチング中のエッチング電流をモニタリングすることによって、有利にはユーザーが、多層の積み重ねを通してエッチングの進行を逐次モニタリングすることが可能になり、その結果、特定の層の電気化学エッチング中に電位差を制御することができる。
【0084】
特に好ましい実施形態では、表面下構造は第1の表面下層であり、半導体構造はIII族窒化物材料の第2の表面下層であって、1×1014cm-3から1×1017cm-3の間の電荷担体密度を有する第2の表面下層、およびIII族窒化物材料の第3の表面下層であって、5×1017cm-3を超える電荷担体密度を有する第3の表面下層を含み、第2の表面下層は、第1および第3の表面下層の間に配置される。本方法は第3の表面下層と電解質の間に電位差を印加する追加のステップを含み、第3の表面下層が電気化学エッチングによって多孔質化され、一方で、表面層および第2の表面下層が多孔質化されない。
【0085】
第1の表面下層の多孔質化に加えて、第3の表面下層が、表面層、第1の表面下層および第2の表面下層を通した電気化学エッチングによって多孔質化され得る。
【0086】
したがって、本発明の方法は、表面層、および1×1014cm-3から1×1017cm-3の間の電荷担体密度を有する任意の表面下層を通したエッチングによって、その電荷担体密度に基づいて複数の表面下層を選択的に表面下を多孔質化することを可能にする。特に有利には、本方法が、1×1014cm-3から1×1017cm-3の間の電荷担体密度を有する層を損傷したり粗面化または多孔質化することなく、5×1017cm-3を超える電荷担体密度を有する表面下層を多孔質化できる。
【0087】
好ましくは、表面層の二乗平均平方根粗さ(root mean square roughness)は電気化学エッチング中に変更されない。特に好ましくは、エッチング後の表面層の最外表面の二乗平均平方根粗さが、1平方マイクロメートルの面積にわたって10nm未満、または5nm未満、または2nm未満、または1nm未満、または0.5nm未満である。すなわち、本発明の方法は「エピレディ」(epi-ready)表面を生産することができ、表面層の二乗平均平方根粗さが十分に低いので、中間的な処理ステップを必要とすることなく、表面層上でさらなるエピタキシャル成長を実施することができる。
【0088】
好ましい実施形態では、表面層および(複数の)表面下層は、1インチ(2.54cm)、または2インチ(5.08cm)、または6インチ(15.24cm)、または8インチ(20.36cm)の直径を有するウエハーとして提供される。
【0089】
本方法は、1×1014cm-3から1×1017cm-3の間の電荷担体密度を有する層を通した電気化学エッチングを提供するので、半導体構造の任意のサイドウォールやエッジから遠く離れている表面下構造または表面下層の領域をエッチングすることが可能である。
【0090】
したがって、本方法は、有利には、半導体構造の最も近いサイドウォールまたはエッジから、少なくとも300μm、または500μm、または750μm、または1mm、または1cm、または5cm離れた表面下構造の領域をエッチングすることができる。このことは、エッチングできる距離に制限があり、層エッジから数十マイクロメートルまたは最大でも数百マイクロメートルまでをエッチングすることが可能な水平エッチングを用いた場合には可能ではない。
【0091】
本方法は、特に好ましくは、表面層および表面下構造にトレンチを提供することなく実施される。
【0092】
好ましくは、表面層は、電気化学エッチング中に電気絶縁層でコーティングされない。
【0093】
好ましくは、サンプルは、電気化学エッチング中にUV照明で照らされない。
【0094】
本発明の第2の側面によれば、本発明の第1の側面として上記した方法によって形成された半導体構造が提供される。
【0095】
本発明の第3の側面によれば、第1のIII族窒化物材料の多孔質の表面下構造、および第2のIII族窒化物材料の表面層であって、1×1014cm-3から1×1017cm-3の間の電荷担体密度を有する表面層を含み、表面下構造は、その構造全体で均一な多孔度を有し、表面層および表面下構造の両方は、550μmよりも長い最小横方向寸法を有する半導体構造が提供される。
【0096】
好ましい実施形態によれば、半導体構造は多層半導体構造であり得る。
【0097】
本発明の第1の側面に関連して上記で論じたように、先行技術の水平エッチング法は、数百マイクロメートルよりも長い最小横方向寸法を有する表面下層を多孔質化することはできない。層中に垂直トレンチカットが施されたプレパターン形成された構造では、サンプルの最少横方向寸法は隣接するトレンチ間の距離であり得る。
【0098】
さらに、水平エッチング法は、層全体にわたって均一な多孔度を有する多孔質の表面下層を作出しない場合がある。特に、表面下層の最小横方向寸法が比較的大きい場合、例えば250μmである場合には、電解質の制限、および/またはエッジから層への電荷輸送における制限は、表面下層全体にわたって均一でない多孔度を作出し得る。このような水平エッチング法では、表面下層が電解質に曝露されると、表面下層の露出されたエッジの領域に、またはその付近の領域に高多孔度の領域を作出し、表面下層のエッジから離れるにつれ多孔度が減少する。この効果は大きな構造において特に顕著となり、電解質および/または電荷輸送の問題は、エッジから離れるほど顕著となる。
【0099】
好ましくは、表面層および表面下構造は、GaN、AlGaN、InGaN、InAlNおよびAlInGaNからなる群から選択されるIII族窒化物材料を含む。表面層および表面下構造は、同一のIII族窒化物材料から形成されてもよく、異なるIII族窒化物材料から形成されてもよい。
【0100】
特に好ましい実施形態では、表面層は1×1014cm-3から1×1017cm-3の間の電荷担体密度を有するGaNからなり、表面下構造は多孔質GaNからなる。
【0101】
好ましい実施形態では、表面下構造は、第1のIII族窒化物材料の表面下層である。表面層および表面下層は隣接層であり、表面下層の上面が表面層の下部表面と接触しているか、またはそれらがIII族窒化物材料の介在層によって分離されている。好ましくは、表面下層は、III族窒化物材料から形成された複数の表面下層のうちの1つであり得る。
【0102】
好ましくは、表面層と表面下構造の両方、または表面下層における貫通転位密度は、1×104cm-2から1×1010cm-2の間である。表面層と表面下構造の両方、または表面下層における貫通転位密度は、少なくとも1×104cm-2、1×105cm-2、1×106cm-2、1×107cm-2もしくは1×108cm-2であり、および/または1×109cm-2、もしくは1×1010cm-2未満であることが特に好ましい。
【0103】
表面層の厚みは、好ましくは、少なくとも1nm、もしくは10nm、もしくは100nmであり、および/または1μmもしくは5μmもしくは10μm未満である。
【0104】
表面層は、好ましくは、第2のIII族窒化物材料の連続層である。
【0105】
表面下構造または表面下層の厚みは、好ましくは、少なくとも1nm、もしくは10nm、もしくは100nmであり、および/または1μm、もしくは5μm、もしくは10μm、もしくは100μm未満である。
【0106】
特に好ましくは、表面層の外表面は、少なくとも600μm、または少なくとも1mm、または少なくとも10mm、または少なくとも5cm、または少なくとも15cm、または少なくとも20cmの最小横方向寸法を有する。
【0107】
表面下構造は、連続した表面下層であることが特に好ましい。表面下層は、少なくとも600μm、または少なくとも1mm、または少なくとも10mm、または少なくとも5cm、または少なくとも15cm、または少なくとも20cmの最小横方向寸法を有することが好ましい。
【0108】
表面層は表面下構造の上面のみを覆う場合がある。言い換えれば、表面下構造は、表面層の下もしくは真下に配置される場合があり、または表面層は、表面下構造の上方に配置される場合がある。表面下構造のサイドウォールまたはエッジは、露出している場合、すなわち、表面層によって覆われない場合がある。
【0109】
あるいは、表面下構造が表面層によって完全に覆われる場合もある。すなわち、表面下構造の上面とサイドウォールの両方またはエッジが、表面層によって覆われる場合がある。
【0110】
好ましくは、多孔質の表面下構造は、1nm、もしくは2nm、もしくは10nm、もしくは20nmを超える平均孔サイズであり、および/または50nm、もしくは60nm、もしくは70nm未満の平均孔サイズを有する。多孔質の表面下構造はミクロポーラスであり得る。すなわち、2nm未満の平均孔サイズを有し得る。あるいは、多孔質の表面下構造はメソポーラスであり得る。すなわち、2nmから50nmの間の平均孔サイズを有し得る。あるいは、多孔質の表面下構造はマクロポーラスであり得る。すなわち、50nmを超える平均孔サイズを有し得る。
【0111】
半導体構造は、III族窒化物材料から形成された複数の積み重ねられた表面下層を含んでもよく、そこでは、奇数の表面下層が層全体にわたって均一な多孔度を有する多孔質であり、偶数の表面下層は非多孔質である。すなわち、表面下層は、複数の交互の多孔質/非多孔質層からなり得る。
【0112】
特に好ましくは、奇数の表面下層の各々は多孔質で同一の多孔度を有する場合があり、偶数の表面下層は各々が非多孔質であり得る。隣接層間の多孔度の差は、屈折率の差につながり、その結果、その構造は分布ブラッグ反射器(DBR)として働き得る。層の厚みおよび/または多孔質層の多孔度を制御することによって、DBRのフォトニックストップバンド(photonic stopband)を所望の光の波長を反射するように調整できる。特に好ましくは、各表面下層の厚みは、DBRによって反射されるために、波長の4分の1、または4分の1の波長の倍数に等しくすることができる。
【0113】
本発明の半導体構造は、層を通した良好な電気伝導率を示し、表面層および(複数の)表面下層の厚みを変更することによって、そのスペクトル応答を調整する可能性を提供する。したがって、これらの構造は、電気的に駆動されたVCSELおよび量子光源のためのミクロキャビティー構造として使用可能であり得る。
【0114】
好ましい実施形態では、少なくとも2つの多孔質の表面下層は異なる多孔度を有する。
【0115】
半導体構造は、トレンチを用いてパターン化されないことが特に好ましい。言い換えれば、表面層および(複数の)表面下構造は、その全幅にわたって連続的であるか、または中断されていないものであり得る。
【0116】
好ましくは、表面層の上面、頂部面または最外面は、1平方マイクロメートルの面積にわたって10nm未満、または5nm未満、または2nm未満、または1nm未満、または0.5nm未満の二乗平均平方根粗さを有する。GaNのc面上で、例えば、二乗平均平方根粗さは、1μm×1μmの面積にわたって1nm未満であり得る。
【0117】
半導体構造上で直接的なエピタキシャル過成長(epitaxial overgrowth)を可能にするために、低い二乗平均平方根粗さが望ましい。
【0118】
好ましくは、さらなるIII族窒化物エピタキシャル層およびデバイス構造が、清浄化後、MBE、MOCVDまたはHVPEなどの技術によって、半導体構造上に直接成膜され得る。この過成長後、高性能の光学的および電気的デバイスが構造上に製作され得る。適したデバイスとして、例えば、発光ダイオード(LED)、レーザーダイオード(LD)、高電子移動度トランジスタ(high electron mobility transisters:HEMT)、太陽電池および半導体ベースのセンサーデバイスを挙げることができる。
【0119】
表面層の頂部面、最外面または上面は、電気絶縁層でコーティングされないことが好ましい。言い換えれば、表面層の頂部面は露出していてもよい。
【0120】
本発明の第4の側面によれば、第1のIII族窒化物材料の多孔質の表面下構造、および第2のIII族窒化物材料の表面層を含み、表面層は1×1014cm-3から1×1017cm-3の間の電荷担体密度を有し、表面層は表面下構造を覆う半導体構造が提供される。
【0121】
表面層は、表面下構造を完全に覆うことが好ましい。表面下構造の上面およびすべてのサイドウォール、またはエッジが表面層によって覆われるように、表面下構造は表面層によって完全に覆われてもよい。
【0122】
半導体構造は、多層半導体構造であり得る。
【0123】
電解質がエッチングされるべき材料と接触することを必要とする先行技術のエッチング法を使用したのでは、表面層が表面下構造を完全に覆う半導体デバイスを形成することは可能ではないであろう。
【0124】
半導体構造は、絶縁基層、例えば、サファイア基板上で形成され、表面下構造の「底」表面または下面(すなわち、表面層から離れて直面する表面)が、基層またはさらなる表面下構造のいずれかと隣接する。したがって、表面下構造の底表面は、その周囲に対して曝露されない。
【0125】
表面下構造はどの部分も露出していないので、エッチングされるべき材料の一部が電解質に対して曝露されることを必要とする先行技術のエッチング法を使用して、このような半導体構造を形成することは可能ではないであろう。
【0126】
好ましくは、表面層の上面は、少なくとも1μm、または10μm、または50μm、または100μm、または500μm、または少なくとも1mm、または少なくとも10mm、または少なくとも5cm、または少なくとも15cm、または少なくとも20cmの最小横方向寸法を有する。
【0127】
表面下構造は表面層によって完全に覆われるので、表面下構造の横方向幅は、表面層の横方向幅よりも小さいであろう。しかし、表面層は極めて薄いので、数ナノメートルまたはマイクロメートルの差しかあり得ない。表面下構造は、連続した表面下層であることが好ましい。
【0128】
特に好ましくは、表面下構造は、少なくとも500nm、1μm、5μm、45μm、95μm、または1mm、または少なくとも10mm、または5cm、または15cm、または20cmの最小横方向寸法を有する。
【0129】
例示的な好ましい実施形態では、多孔質GaNの20μm×20μm×20μmの立方体は、1×1014cm-3から1×1017cm-3の間の電荷担体密度を有するGaNの表面層によって覆われる。立方体の底表面は、サファイア基板と接触しており、一方で、立方体のその他の5つの面は、GaN表面層によって覆われる。
【0130】
このような構造は、1×1014cm-3から1×1017cm-3の間の電荷担体密度を有するGaNの表面層によって完全に覆われた、1×1014cm-3を超える電荷担体密度を有するGaNの20μm×20μm×20μmの立方体をエッチングすることによって、本発明の方法に従って形成され得る。本発明の方法は、立方体の内側の材料を多孔質化するために、III族窒化物材料の表面層を通って電気化学エッチングが進行することを可能にする。これは、先行技術の水平エッチング法を使用すれば可能ではない。これらの方法では、エッチング中に多孔質化されるべき層が電解質に対して曝露されることを必要とするからである。
【0131】
第4の側面に従う多層半導体構造のさらなる特徴は、本発明の第3の側面に関連して上記で記載された通りである。
【0132】
本発明の第5の側面によれば、多層半導体構造を、1またはそれ以上の半導体デバイスの過成長のための基板として使用することが提供される。多層半導体構造は、上記の本発明の第2、第3または第4の側面に関連して記載された通りである。
【0133】
本発明の第6の側面によれば、多層半導体構造を、分布ブラッグ反射器(DBR)として使用することが提供される。多層半導体構造は、上記の本発明の第2、第3または第4の側面に関連して記載された通りであり得る。
【0134】
上記のように、本発明の第1の側面に従う方法を使用して、非多孔質III族窒化物材料および多孔質III族窒化物材料の交互層を含む多層半導体構造を製作できる。隣接層間の多孔度の差は屈折率の差につながる可能性があり、その結果、その構造は、分布ブラッグ反射器(DBR)として働き得る。層の厚みおよび多孔質層の多孔度を制御することによって、DBRのフォトニックストップバンドを所望の光の波長を反射するように調整できる。特に好ましくは、各表面下層の厚みは、DBRによって反射されるために、波長の4分の1、または4分の1の波長の倍数に等しくすることができる。
【0135】
特に好ましい実施形態では、非多孔質GaN/多孔質GaNのDBRは、有意な屈折率のコントラストを提供する可能性があり、このためDBRの統合において典型的な問題となる、歪み管理や亀裂および転位生成の問題を心配することなく、DBRを製作することが容易である。例えば、エピタキシャルIII族窒化物DBRの従来の製作は、非極性配向では極めて困難であるが、これは、非極性GaNに対して格子整合する利用可能な同種の物がないからである(c面GaNは、低屈折率In0.18Al0.82Nによって格子整合され得る)。しかし、本発明は、亀裂のない、高反射率の非極性III族窒化物DBRを提供し得る。
【0136】
本発明の多層半導体構造を、フォトニックデバイスの下のDBRとして使用すれば、下方に向けられた光を反射することができ、したがって、フォトニックデバイスの光抽出効率を大幅に改善する。
【0137】
本発明の第7の側面によれば、多層半導体構造を組み込むか、または取り付けられたデバイスが提供される。多層半導体構造は、上記の本発明の第2、第3の側面に関連して、記載される通りであり得る。
【0138】
例示的デバイスとして、このような多層構造がミクロキャビティー構造を形成し得る、垂直キャビティ面発光レーザー(vertical-cavity surface-emitting lasers:VCSEL)または他の量子光源(quantum light sources)を挙げることができる。このような多層半導体構造を組み込むことができるさらなるデバイスとして、単一光子源のためのLEDおよびマイクロピラーキャビティー構造が挙げられる。
【0139】
本発明の第8の側面によれば、1×1014cm-3から1×1017cm-3の間の電荷担体密度を有する第2のGaN材料の表面層の下に、5×1017cm-3を超える電荷担体密度を有する第1のGaN材料から形成される表面下構造を含む半導体構造において、GaNを多孔質化する方法が提供される。本方法は、表面層を電解質に対して曝露するステップと、表面下構造と電解質の間に電位差を印加するステップとを含み、その結果、表面下構造が電気化学エッチングによって多孔質化され、一方で、表面層が多孔質化されない。
【0140】
本方法のさらなる特徴は、本発明の第1の側面に関連して上記で記載される通りである。
【図面の簡単な説明】
【0141】
本発明の特定の実施形態を、図面を参照してここで説明する:
図1図1は、電気化学エッチングの実験セットアップの概略図を示す図である。
図2A図2Aは、本発明の側面に従った、分布ブラッグ反射器(DBR)を形成する多層半導体構造の概略図を示す図である。
図2B図2Bは、図2Aの多層半導体構造の断面走査電子顕微鏡(SEM)画像示す図である。
図3A図3Aは、図2Bのエッチングされたサンプルの上面図ノマルスキー光学画像(Nomarski optical image)を示す図である。
図3B図3Bは、図2Bに示されるサンプルのエッチングされていない領域の表面層の原子力顕微鏡(atomic force microscopy:AFM)画像を示す図である。
図3C図3Cは、図2Bに示されるサンプルのエッチングされた領域の表面層の原子間力顕微鏡(AFM)画像を示す図である。
図4図4は、本発明の好ましい実施形態による、GaN DBR構造の測定された反射スペクトルを示す図である。
図5A図5Aは、DBRを形成するエッチングされた半導体ウエハーの頂部面のAFM画像を示す図である。
図5B図5Bは、エッチングされていないGaNエピタキシャル層の頂部面のAFM画像を示す図である。
図6図6は、本発明の好ましい実施形態による、DBRを形成するエッチングされた2インチの半導体ウエハーの写真を示す図である。
図7A図7Aは、本発明の好ましい実施形態による、さまざまなGaN DBR構造の写真を示す図である。
図7B図7Bは、図7AのDBR構造の測定された反射スペクトルを示す図である。
図8A図8Aは、本発明の好ましい実施形態による、GaN DBR基板上で過成長したGaNベースのLEDの模式図を示す図である。
図8B図8Bは、図8Aの過成長したLED構造の断面SEM画像を示す図である。
図8C図8Cは、下層の多孔質GaN DBRがないGaN LED構造の写真を示す図である。
図8D図8Dは、本発明の好ましい実施形態による、多孔質GaN DBRの頂部上に形成されたGaN LED構造の写真を示す図である。
図8E図8Eは、疑似基板としての多孔質GaN DBRを有する、および有さないLEDの、室温エレクトロルミネッセンス(EL)「内部量子効率」(IQE)を示す図である。
図9A図9Aは、本発明の好ましい実施形態による、いくつかのIII族窒化物材料を含む多層半導体構造の模式図を示す図である。
図9B図9Bは、図9Aの多層半導体構造のSEM画像を示す図である。
図9C図9Cは、図9Bの多層半導体構造の拡大SEM画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0142】
図1は、本発明の方法において使用可能な電気化学(EC)実験セットアップ配置の概略図を示す。図1に示されるように、実験セットアップは、アノードとして接続されたサンプル110、およびカソードとして接続された白金箔120を有する、2電極電気化学セル100からなる。白金カソードおよび少なくともサンプルの表面層の一部分は、電解質中に浸漬することによって電解質130に対して曝露される。アノードとカソードの間に定電流DC電源140が接続され、回路を通して流れるエッチング電流をモニタリングし、記録するために電流計150が使用される。
【0143】
特に断りのない限り、本明細書において記載されるECエッチング実験は、アノードとして半導体構造および対電極(カソード)として白金箔を用い、室温で行った。0.25Mの濃度を有するシュウ酸を電解質として使用した。エッチングプロセスは、Keithley 2400ソースメーターによって制御される定電圧モードで実施した。エッチング後、サンプルを脱イオン水ですすぎ、N2でブロー乾燥した。
【0144】
本発明の概要において上記で論じたように、当業者ならば、用語「ドープされていない」は、半導体技術において相対的に不正確であることは理解するであろう。事実上、すべての半導体材料は、「ドーパント」原子として考えられ得る固有の不純物を含有する。半導体成長の種々の方法は、種々のレベルの不純物、従って、種々の固有の電荷担体の濃縮をもたらし得る。
【0145】
したがって、「ドープされていない」と先行技術において呼ばれる半導体材料が、高い不純物レベルを有する可能性があり、その結果、それらが不純物のみから生じる1×1017cm-3を超える天然の電荷担体密度を有することはあり得る。
【0146】
これを認めて、本発明の発明者らは、意図的なドーピングを行わずに作製されている半導体材料を指すために、用語「非意図的にドープされた」(non-intentionally-doped)(NID)を使用することを好む。半導体材料の不純物レベルは、それらが形成される方法、それらが形成される環境および半導体材料を形成するために使用される反応物の純度を含む因子に応じて当然変わる。
【0147】
本願において、用語「非意図的にドープされた」(NID)は、1×1014cm-3から1×1017cm-3の間の電荷担体密度を有すると測定されている、できる限り純粋であるように慎重に成長された半導体材料を指すと理解されなくてはならない。
【0148】
5×1017cm-3を超える電荷担体密度を得るためにn型ドーパントを用いて意図的にドープされている半導体材料は、「n+」半導体材料と呼ばれることがある。
【0149】
図2Aは、非意図的にドープされたGaN(NID-GaN)と重度にドープされたn型GaN(n+-GaN)層の交互層からなる、エピタキシャル非極性サンプル構造の模式図を示す。NID-GaN層は、1×1017cm-3未満の電荷担体密度を有し、一方で、n+-GaN層は、2.3×1019cm-3の名目上のシリコンドーピング濃度を有する。交互NID-GaN/n+-GaN層の各々は、およそ136nmの厚みを有する。
【0150】
サンプルは、NID-GaNの最上の表面層および10対の交互NID-GaN/n+-GaN層を含み、これらは、サファイア基板および下層の軽度にドープされたn型GaN(n-GaN)およびNID-GaNの基層上に形成されている。n-GaN層は2μmの厚みを有し、サンプル全体での陽極酸化バイアスの均一な分布のために存在する。
【0151】
サンプルを、6×2インチのThomas Swan製の緊密結合シャワーヘッド反応器(close-coupled showerhead reactor)中で、r面サファイア基板上に有機金属気相エピタキシー(MOVPE)によって成長させた。前駆体としてトリメチルガリウムおよびアンモニア、キャリアガスとして水素およびn型ドーピングのためのシランを使用した。。第1に、約4×109cm-2の名目上の転位密度および約5×105cm-1の基底面の積層欠陥密度を有する4μm厚のa面GaN疑似基板を成長させた。ここでは、欠損低減のために単一SiNx中間層を使用した。別の500nmのドープされていないGaN層を成長させた後、10対の交互のn+-GaNおよびNID-GaN層を成長させた。
【0152】
図2Aのサンプルは、インジウムワイヤをサンプルのエッジに鑞着することによって、電気的に接触させた。次いで、およそ1cm×1cmの大きさのサンプルの部分を電解質中に浸漬した。図1に示される実験セットアップを使用して、定電圧モードで6VのDCバイアスを用いてECエッチングプロセスをサンプルに対して実施し、室温でUV照明を用いずにエッチング電流シグナルをモニタリングすることおよび記録することによって制御した。
【0153】
EC多孔質化プロセスは、正のアノードバイアスの適用の際の正孔の局所注入による交互n+-GaN層の酸化で始まり、酸ベースの電解質中での酸化物層の局所溶解は、メソポーラス構造の形成をもたらす。陽極酸化プロセスの終了は、通常、およそ30分後に、エッチング電流がベースラインレベルに低下する時に到達され、これは、すべてのn+-GaN層がエッチングされ、メソポーラスGaN層に変換されたことを示す。
【0154】
図2Bにおける断面走査電子顕微鏡(SEM)画像は、多孔質DBR構造200の形態を示す。図2Bの断面は、当初のサンプルエッジから遠く離れた、エッチング後に劈開したエッジからとられた。これによって、エッチング溶液中に浸漬された全サンプル面積にわたって、多孔質化プロセスが極めて均一に進行したことが確認される。これによってまた、平均孔サイズがおよそ30nmであるので、エッチングされた層の形態が、実際にメソポーラスであるということも確認される。図2Bは、NID-GaN層が、ECエッチングの間ほとんど無傷で留まっており、それら自体は多孔質化されないことを示す。n+-GaN層のみが選択的にエッチングされ、メソポーラスGaN(MP-GaN)のメソポーラス層に変換される。
【0155】
1cm×1cmのサンプルは、先行技術である水平エッチングによって多孔質化されたサンプルよりもかなり大きいが、これは、水平エッチングは、サンプル表面における規則的なトレンチなしには、このような大きなサンプルの中心に水平に浸透することができないであろうからである。さらに、30分というエッチング時間は、水平エッチングがサンプルのバルク材料中にかなり進行するには不十分であろう。したがって、サンプルエッジから遠く離れてとられた図2Bの多孔質断面は、n+-GaN層が、サンプルエッジから水平にではなく、NID-GaNの表面層を通してエッチングされていることを示す証拠である。
【0156】
図3Aは、エッチングされたサンプルのノマルスキー光学画像の上面図を示し、これでは、ECエッチング溶液中に浸漬されたサンプルの位置に対応する境界(白色矢印によって示されている)を見ることができる。多孔質構造を有する領域と有さない領域間の光学的コントラストは、多孔質化された層の変更された屈折率のために生じており、エッチングされた領域におけるかなり高い反射率につながっている。エッチングされた領域とエッチングされていない領域間のはっきりとした境界は、均一な反射率(従って、多孔度)が構造のエッジから遠く離れて達成されているので、表面層を通したエッチングが行われていることを示す証拠を提供する。
【0157】
NID-GaNの表面層頂部のエッチング損傷の可能性を評価するために、原子間力顕微鏡(AFM)画像を非多孔質および多孔質領域からとり、それぞれ図3Bおよび3Cに示す。多孔質領域に存在するいくつかの汚れ/小粒子は、ECエッチング生成物、エッチング化学物質および/またはサンプル清浄化における混入物と関連している可能性があるが、これらを別にすれば、表面の形態の変化は観察されず、頂部GaN表面の二乗平均平方根粗さ(RRMS)は、1μm×1μmの面積にわたって測定された1nm粗さ程度であり、エッチングされた領域とエッチングされていない領域の両方において類似している。したがって、表面下のEC多孔質化は、GaN表面層の表面に損傷を与えず、エッチング後サンプルのRRMSは、さらなる半導体過成長を行うにあたって十分に低いと思われる。
【0158】
したがって、このような多孔質DBRは、他のヘテロ構造の再成長や、例えば、平面ミクロキャビティーを形成するための高品質誘電DBRの成膜のために、底部ミラーテンプレートとして使用できる。
【0159】
図2B~3Cに例示される多孔質DBR構造は、交互NID-GaN/n+-GaN層のエピタキシャル成長と、それに続くEC多孔質化によって純粋に形成される。本発明の方法を使用することによって、サンプル表面をSiO2で保護したり、または規則的なトレンチを用いてサンプルにパターン形成する必要はない。また、UV照明を使用する必要もない。
【0160】
エッチングされたGaN/MP-GaN DBRの反射スペクトルを、室内光を使用したマイクロ反射セットアップを使用して測定し、約1μmのスポットサイズを有する市販の銀鏡に対して正規化した。図4は、GaN/メソポーラス-GaN DBR構造の測定された反射スペクトルを示し、約564nmを中心とするピーク反射率および91nmの半値全幅を有するストップバンドを有する。
【0161】
96%より大きいピーク反射率は、非極性GaN/MP-GaN DBR構造で達成され、80nmより大きい極めて大きなスペクトル幅を有する。本発明者らは、測定されたピーク反射率は、シミュレート値よりもわずかに低いが、これは、メソポーラスGaN層および層を通したエッチング経路の局所的不均一性に起因する可能性があり、これらは、NID-GaNのわずかな多孔質化につながることを注記する。それにもかかわらず、本発明者らが知る限り、これは、非極性III族窒化物DBR構造からの最高のピーク反射率の報告であり、これまでに報告された構造と比較して、ストップバンド幅の2倍より大きい増大である。これは、(亀裂の形成および転位の生成を介して)大きな歪みと構造品質の劣化につながる重大な格子不整合を導入することがなければ、メソポーラスGaN層を使用しすることでかなり大きな屈折率コントラストが達成され得るという事実に起因する。対照的に、窒化物DBRの製作のためのより普通の方法であって、屈折率コントラストを達成するためのAl(Ga)NおよびInAlNなどのGaN上でのAl含有エピタキシャル層の使用は、非極性構造のための少なくとも1つの面内方向において、必然的に大幅な歪みを導入することにつながる。
【0162】
別の実験では、同等なDBR構造を、2インチ(5.08cm)の直径を有する円形半導体ウエハー上にエピタキシャル成長させた。次いで、図1~2Bに関連して上記で記載されるように、ウエハーの一部分を電解質中に浸漬してエッチングした。6Vでの通常の2インチウエハーのエッチング時間は、6時間未満であった。
【0163】
メソポーラスGaN DBRのウエハー規模の製作は、貫通転位密度と相関するとわかった。本発明者らは、これらの貫通転位は、層を通したエッチング経路として作用し、表面層を通して、および多層構造を通して下方に、表面下エッチングを促進すると考えている。完全な貫通転位のみが、層を通したエッチング経路となると思われる。
【0164】
メソポーラスGaN DBRの2インチウエハー規模形成を達成するために、表面層および表面下層が、少なくとも1×104cm-2の最小貫通転位密度を有することが必要であり得る。
【0165】
貫通転位の存在のために、頂部NID-GaN表面から開始したECプロセスは、貫通転位部位を通って、下方の多層構造中に進行すると思われる。エッチング液が5×1017cm-3を超える電荷担体密度を有する表面下層に到達すると、ECプロセスの伝導度選択的特性が原因で、エッチングは貫通転位からn+-GaN層に外向きに進行する。
【0166】
図5Aおよび5Bは、完了したウエハー規模DBRサンプルの頂部NID-GaN表面、および標準の成長したままのGaNエピタキシャル層のAFM画像を示す。多孔質DBRの表面形態は、成長したままのGaNエピタキシャル層とほとんど同一である。表面粗さ(5μm×5μmスキャンにわたる二乗平均平方根粗さ)は、極めて類似しており、約0.4nmで維持され得る。
【0167】
図6は、室内照明下でのエッチングされたままの2インチの半導体ウエハー600の写真であり、ロゴが印刷されたカードの反射を示す。ウエハー-フラットに近い領域は透明でエッチングされていないが、エッチングされたDBR領域における強い反射は、EC多孔質化プロセスが均一であること、およびウエハー規模での高反射率非極性GaN/MP-GaN DBRが実現したことを実証する。均一な多孔質化が2インチのウエハー全体にわたって起こったとすると、ウエハーエッジで生じる任意の横方向エッチングに加えて、n+-GaNの表面下層は、NID-GaNの表面層およびNID-GaNのすべての中間層を通って下方に電気化学的にエッチングされることが再び確認される。
【0168】
NID-GaN層の局所的な屈折率は、層を通したエッチングによって変更され得るが、測定された反射率値は理論値に極めて近く、このような層を通したエッチング経路の密度は十分に低く(約2×109cm-2)、ウエハー規模(約5cm径)での全体的な反射率は、わずかにしか影響を受けないと考えられる。
【0169】
材料の大部分は十分な反射率を示し、単一光子源のためのLEDおよびマイクロピラーキャビティー構造などのデバイスの製作を、妥当な歩留まりで可能にするため、これらの事情によって影響を受けない。
【0170】
かなり低い密度の完全転位を有する改善されたGaN疑似基板は、典型的な転位間隔が数ミクロンまたはそれより大きい場合であって、ウエハー規模製作が依然として可能であっても垂直エッチング経路の効果をさらに低減する場合でさえ、多孔質化を依然として示す。
【0171】
DBRの調整可能性は、NID-GaNおよびn+-GaN層の厚みを変更することによって簡単に達成できる。図7Aおよび7Bは、種々のGaN/多孔質GaN DBR構造の室内照明下での写真および測定された反射スペクトルを示す。単にNID-GaNおよびn+-GaNのエピタキシャル層厚を変更することによって、可視スペクトル全体にわたって高反射率(>96%)を有する、広く調整可能なストップバンドが実証される。GaNおよび多孔質GaN層間の大きな屈折率のコントラストが原因で、ストップバンド幅も極めて広く維持される(>80nm)。
【0172】
特に好ましくは、本発明の多孔質GaN構造は、追加の半導体材料のさらなる過成長または成膜のための基板または「疑似基板」(pseudo-substrates)として使用可能であり得る。言い換えれば、有利には、種々のデバイスを形成するために、本発明の多孔質化半導体構造上に、III族窒化物材料またはその他の半導体材料の追加の層を成膜または過成長することが可能である。DBRの上記の例によって示された優れた反射性特性は、例えば、本発明によって形成されたDBRを、LEDなどのオプトエレクトロニックデバイスの過成長のための疑似基板として有望にする。
【0173】
特に有利には、本方法は、「エピレディ」表面を有する多孔質化半導体構造、すなわち、追加の半導体層がその構造上に直接エピタキシャル成長され得るに十分に低い粗さの上面を有する多孔質化半導体構造の調製を可能にする。
【0174】
例えば、本発明の実施形態に従う多孔質GaNベースのDBR疑似基板は、III族窒化物LED、レーザー、単一光子源の製造のために使用でき、また、ハイブリッドキャビティー構造およびデバイスの形成のために使用できる。
【0175】
図8Aは、図2~7に関連して上記で記載されるような、NID-GaN/MP-GaN DBR850上のGaNベースのLED構造800を示す。上記の方法に従うDBRの形成後、発光ダイオード(LED)を形成するために、追加の半導体層が、公知のエピタキシャル技術に従ってDBR上でエピタキシャル成長される。したがって、DBRは、LEDの過成長のための疑似基板として作用する。
【0176】
過成長したLED構造は単純なp-i-n構造を含み、7.5nm厚のGaNバリアで分けられた5周期の2.5nmのInGaN量子井戸を含有する。活性領域の底部は、3×1018cm-3の電荷担体密度を有するSiドープn型GaNの500nm厚の層によって被覆され、活性領域の上端は、Mgドープp型GaNの300nm厚の層によって被覆されている。
【0177】
メサを形成するために、塩素ベースの誘電結合型プラズマエッチングを使用して、電気注入されたLEDデバイスを製作した。N2中でアニーリングされたTi/Al/Ti/Au金属スタックはn型接点として働き、N2/O2の混合物中でアニーリングされた薄いNi/Au層は、p型GaN層の頂部であってTi/Auのp型接点の下で半透明の電流拡散層として作用する。
【0178】
図8Bは、多孔質GaN DBR疑似基板850上で過成長したLED構造800の断面SEM画像を示す。DBRの孔の形態は、過成長プロセスで保持されている。
【0179】
図8Cは、下層の多孔質GaN DBRを伴わない同様のLED構造860の写真を示し、一方で、図8Dは、上記で記載されるような多孔質GaN DBR850上に形成された同一のLED構造800を示す。比較すると、多孔質GaN DBR上で過成長したLEDは、疑似基板としてGaN DBRを用いないLEDよりもかなり明るい。光学発光の強度は、図8Dのデバイス全体で極めて均一であるとわかり、これは、転位およびGaN材料不均一性によってのみ妨げられるが、このことは、過成長前のDBRの不適切な清浄化に起因する可能性がある。
【0180】
図8Eは、疑似基板としての多孔質GaN DBRを有するLEDとこれを有さないLEDの、電流密度の関数としての室温エレクトロルミネッセンス(EL)「内部量子効率」(internal quantum efficiency:IQE)を示す。非多孔質DBR上に形成されたLEDは低IQEを示し、低電流密度で減少し、一方で、LED/多孔質GaN DBRのIQEは、かなり高いピーク効率を示し、1桁よりも高い電流密度で減少し始める。
【0181】
図9Aは、本発明の好ましい実施形態による、GaN HEMTトランジスタ構造を形成する多層半導体構造の模式図である。その構造は、いくつかのIII族窒化物材料を含む。
【0182】
図9Aに示される構造は、公知の方法に従って、2インチのサファイアウエハー910上にMOVPEによってエピタキシャル成長された。まず最初に、1×1014cm-3から1×1017cm-3の間の電荷担体密度を有するNID-GaNの層Aをサファイア基板上に成膜し、続いて、5×1017cm-3を超える電荷担体密度を有するGaNの5μm厚の層Bを成膜した。5×1017cm-3を超える電荷担体密度を有するGaNの250nm厚の層C。層Cの電荷担体密度は、層Cを意図的により高い程度にドープすることによって、層Bの電荷担体密度よりも高くした。次いで、1×1014cm-3から1×1017cm-3の間の電荷担体密度を有するNID-GaNの500nm厚の層Dを、層Cの頂部上に成膜した。層Dの上にNID-AlNの1nm厚の層Eを成膜し、続いて、NID-Al0.25GaNの25nm厚の層FおよびNID-GaNの2nm厚の表面層Gを形成した。
【0183】
多層構造の側に電気接点を作製し、ウエハーを電解質中に浸漬し、上記で図1に関連して記載されるようにエッチングした。
【0184】
図9Bおよび9Cは、エッチング後ウエハーの断面のSEM画像である。ウエハーのエッジから遠く離れて断面図をとることで、ウエハーのエッジからの水平エッチングによってではなく、表面層を通したエッチングによって多孔質化が生じたことを実証した。上記で論じられた先行技術の方法の制限が原因で、2インチのウエハー全体の水平エッチングは可能ではない。
【0185】
図9Bおよび9Cからわかるように、層E、FおよびGならびにNID-GaN層Dは、その電荷担体密度が1×1014cm-3から1×1017cm-3の間であるので多孔質化されていない。しかし、下のGaN層Cは、その高い電荷担体密度のために高度に多孔質化されており、層中には比較的大きな孔が分布していることがわかる。GaN層Bもまた、エッチングの前に5×1017cm-3を超える電荷担体密度を有していたので多孔質化されている。しかし、層B中に形成された孔は、層C中のものよりもかなり小さい。これは、層Bの有するより低い電荷担体密度のためである。
【0186】
したがって、図9Bは、非意図的にドープされた表面層、ならびにAlGaNおよびAlNのNID層を通して電気化学エッチングが生じたことを示す。したがって、本発明の方法は、複数層からなる半導体構造中の種々の位置に存在する複数の表面下層を、多孔質化することが可能であり、III族窒化物材料の当初の電荷担体密度に基づいて、異なる多孔度をもたらすことが可能であることは明らかである。
図1
図2A-2B】
図3A
図3B-3C】
図4
図5A-5B】
図6
図7A-7B】
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図9A-9B】
図9C