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特許7062777陽極酸化物および希土類酸化物を含む、金属のための疎水性コーティングおよびその適用方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-22
(45)【発行日】2022-05-06
(54)【発明の名称】陽極酸化物および希土類酸化物を含む、金属のための疎水性コーティングおよびその適用方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 11/18 20060101AFI20220425BHJP
   C25D 11/04 20060101ALI20220425BHJP
   C25D 11/06 20060101ALI20220425BHJP
   C25D 11/20 20060101ALI20220425BHJP
   C25D 11/26 20060101ALI20220425BHJP
   C25D 11/34 20060101ALI20220425BHJP
【FI】
C25D11/18 312
C25D11/04 101H
C25D11/04 302
C25D11/06 C
C25D11/18 313
C25D11/20 304Z
C25D11/26 302
C25D11/34 301
【請求項の数】 33
(21)【出願番号】P 2020541335
(86)(22)【出願日】2017-10-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-25
(86)【国際出願番号】 US2017055801
(87)【国際公開番号】W WO2019074482
(87)【国際公開日】2019-04-18
【審査請求日】2020-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】511177570
【氏名又は名称】ジーケイエヌ エアロスペース トランスパランシー システムズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】ランキン、クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】モンカー、マーロウ
【審査官】大塚 美咲
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-185391(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0318974(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第103817059(CN,A)
【文献】特表2019-528351(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 11/18
C25D 11/04
C25D 11/06
C25D 11/20
C25D 11/26
C25D 11/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムからなる金属基板の表面に金属陽極酸化物のナノ多孔質層を陽極酸化する工程と、
前記表面を陽極酸化した後、前記表面に流し塗り法、浸漬法、およびスプレー法からなる群から選択される付着方法でセラミックコーティング組成物を付着させる工程と、
コートした前記表面を150℃~300℃の硬化温度で少なくとも2時間加熱する工程と
を含む、アルミニウムからなる金属基板の表面にコーティングを施す方法であって、
前記セラミックコーティング組成物は、
イットリウム化合物と、
酸化イットリウムナノ粒子の分散と、
水溶性ポリマーと、
脱イオン水と水溶性アルコールの溶媒溶液とを含有する、
アルミニウムからなる金属基板の表面にコーティングを施す方法
【請求項2】
前記表面に前記セラミックコーティング組成物を付着させる前に、酸化イットリウムナノ粒子のコロイド分散中で前記表面を陰極化する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アルミニウムからなる金属基板の表面に金属陽極酸化物のナノ多孔質層を陽極酸化する工程と、
前記表面を陽極酸化した後、酸化イットリウムナノ粒子のコロイド分散中で前記表面を陰極化する工程と
前記表面を陰極化した後、前記表面に流し塗り法、浸漬法、およびスプレー法からなる群から選択される付着方法でセラミックコーティング組成物を付着させる工程と、
前記セラミックコーティング組成物を付着させた前記表面を150℃~300℃の硬化温度で少なくとも2時間加熱する工程と
を含む、アルミニウムからなる金属基板の表面にコーティングを施す方法であって、前記セラミックコーティング組成物は、
イットリウム化合物と、
酸化イットリウムナノ粒子の分散と、
水溶性ポリマーと、
脱イオン水と水溶性アルコールの溶媒溶液とを含有する、
アルミニウムからなる金属基板の表面にコーティングを施す方法
【請求項4】
前記金属陽極酸化物は陽極酸化アルミニウムからなる、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記陽極酸化する工程は、前記表面を0.1M~0.3Mの濃度を有する酸性溶液中で、8~12Vの陽極化電圧で20分~90分間陽極酸化する工程を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記酸性溶液のpHは、5未満である、請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記酸性溶液は、酢酸、クエン酸、塩化水素、硝酸、および硫酸からなる群から選択される酸を含有する、請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記酸は硫酸からなる、請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記濃度は0.2Mである、請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記陽極酸化する電圧は10Vである、請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記陽極酸化する時間は30分~60分である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記陰極化する工程は、前記表面を酸化イットリウムナノ粒子のコロイド分散中で、8~12Vの陰極化電圧と、0.05mA~0.15mAの電流とで、30分~90分間陰極化する工程を含む、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項13】
前記コロイド分散中の酸化イットリウムナノ粒子は10nmの平均粒子サイズを有し、その量は、前記コロイド分散の重量の2~10%である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記コロイド分散中の酸化イットリウムナノ粒子の量は、前記コロイド分散の重量の5%である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記陰極化する電圧は10Vであり、電流は0.1mAである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記陰極化する時間は60分間である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記表面を陰極化した後、前記表面からナノ粒子を除去する工程をさらに含む、請求項1216のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記除去する工程は、前記表面をイソプロパノールで拭く工程を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記基板の前記表面の前記セラミックコーティング組成物を1時間乾燥する工程をさらに含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記硬化温度は200℃である、請求項1~3及び19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記イットリウム化合物は、酢酸イットリウムを含有し、
前記酸化イットリウムナノ粒子の分散の量は、前記コーティング組成物の重量の0.5%~1%であり、
前記水溶性ポリマーは、前記コーティング組成物の重量の1~5%でポリビニルアルコールを含有し、
前記水溶性アルコールは、イソプロピルアルコールからなり、
前記脱イオン水と前記水溶性アルコールとは、2:1の比率で前記溶媒溶液中に存在する、請求項1~3、19及び20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
表面を有し且つアルミニウムからなる金属基板と、
前記表面に形成された金属陽極酸化物のナノ多孔質層と、
前記ナノ多孔質層に結合されたセラミックコーティング組成物
を含む、コートされた基板であって、
前記セラミックコーティング組成物は、
イットリウム化合物と、
酸化イットリウムナノ粒子の分散と、
水溶性ポリマーと、および
脱イオン水と水溶性アルコールの溶媒溶液を含有する、
コートされた基板
【請求項23】
前記ナノ多孔質層に埋めこまれた酸化イットリウムナノ粒子をさらに含む、請求項22に記載の基板。
【請求項24】
表面を有し且つアルミニウムからなる金属基板と、
前記表面に形成された金属陽極酸化物のナノ多孔質層と、
前記ナノ多孔質層に埋めこまれた酸化イットリウムナノ粒子と
前記ナノ多孔質層に結合されたセラミックコーティング組成物をさらに含み、
前記セラミックコーティング組成物は、
イットリウム化合物と、
酸化イットリウムナノ粒子の分散と、
水溶性ポリマーと、および
脱イオン水と水溶性アルコールの溶媒溶液を含有する、
ートされた基板。
【請求項25】
金属陽極酸化物の前記ナノ多孔質層はナノピペットを含む、請求項22~24のいずれか一項に記載の基板。
【請求項26】
前記ナノピペットは、10nm~100nmの平均直径を有する、請求項25に記載の基板。
【請求項27】
前記ナノピペットは、20nm~50nmの平均直径を有する、請求項26に記載の基板。
【請求項28】
前記ナノピペットは、100nm~10μmの平均長さを有する、請求項2527のいずれか一項に記載の基板。
【請求項29】
前記ナノピペットは、1.5μm~8μmの平均長さを有する、請求項28に記載の基板。
【請求項30】
前記酸化イットリウムナノ粒子は、10nmの平均粒子サイズを有する、請求項23又は24に記載の基板。
【請求項31】
前記金属陽極酸化物の前記ナノ多孔質層は、ナノピペットを含んでおり、前記酸化イットリウムナノ粒子は、前記ナノピペットに埋め込まれている、請求項23、24及び30のいずれか一項に記載の基板。
【請求項32】
記セラミックコーティングは、酢酸イットリウムを含有する、請求項22~24のいずれか一項に記載の基板
【請求項33】
前記金属陽極酸化物は、陽極酸化アルミニウムからなる、請求項22~32のいずれか一項に記載の基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疎水性コーティングに関する。より詳細には、陽極酸化物および希土類酸化物を含む疎水性コーティング、およびそのようなコーティングを金属基板の表面に付着させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
表面の濡れ特性を制御することは、科学研究の対象である。現在存在する疎水性表面のほとんどは、フルオロアルキルシランなどの表面エネルギーの低いポリマー、または短い長さの単位でパターン化された表面粗さに依存している。どちらの戦略にも重大な欠点がある。例えば、フッ素化ポリマーは耐摩耗性に欠け、紫外線によって分解されやすい。同様に、粗度の高いコーティングは、脆いことが多く、過酷な環境にはあまり適していない。さらに、これらのコーティングは、容易にスケーラブルにできない複雑な製造技術に依存していることが多い。
【0003】
航空機、自動車、およびその他の透明な用途には、さらなる課題がある。これらの用途では、疎水性コーティングは、高い硬度や、酸や塩基による侵食に対する耐性を維持しなければならない。さらに、これらの用途には、既存の多くの疎水性コーティングと適合しない熱膨張係数と弾性率を備えた金属基板が含まれる。
【0004】
環境に対して堅牢な疎水性を有する疎水性コーティングを付着させる、容易にスケーラブルにすることが可能な方法に対するニーズがあることを理解しなければならない。コーティングは、環境的劣化、機械的摩耗、および繰り返されるストレスに対して堅牢であるとともに、追加の表面パターンニングを施さなくとも本来低い表面エネルギーを示すべきである。金属基板を含む用途では、コーティングは、硬度や、酸や塩基による侵食に対する耐性を維持するとともに、表面が熱膨張や収縮する際に金属表面に対して永続的な結合を維持する必要がある。本発明は、これらのニーズを満たし且つ、さらに関連する利点を提供する。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、金属基板の表面に疎水性コーティングを付着させる方法、およびこの方法によって形成された疎水性コーティングに具体化される。一実施形態では、この方法は、表面に金属陽極酸化物のナノ多孔質層を陽極酸化する工程と、表面を陽極酸化した後、流し塗り法、浸漬法、およびスプレー法からなる群から選択される付着方法により、表面に疎水性セラミックコーティング組成物を付着させる工程と、コートした表面を少なくとも約150℃~約300℃の硬化温度で少なくとも2時間加熱する工程とを含む。別の実施形態では、この方法は、表面に疎水性セラミックコーティング組成物を付着させる前に、酸化イットリウムナノ粒子を陰極化する工程をさらに含む。要素または概念はそれぞれ独立しているが、本明細書に開示されている概念の任意の別の特徴と組み合わせることができる。
【0006】
一実施形態では、この方法は、表面に金属陽極酸化物のナノ多孔質層を陽極酸化する工程と、表面を陽極酸化した後、酸化イットリウムナノ粒子を表面上に陰極化する工程とを含む。別の実施形態では、この方法は、表面を陰極化した後、流し塗り法、浸漬法、スプレー法からなる群から選択される付着方法により、表面に疎水性セラミックコーティング組成物を付着させる工程と、コートした表面を少なくとも2時間約150℃~約300℃の硬化温度で加熱する工程とをさらに含む。特徴または概念はそれぞれ独立しているが、本明細書に開示された概念の任意の別の特徴と組み合わせることができる。
【0007】
上記実施形態のいずれかにおいて、方法は、陽極酸化工程の前にアセトンで金属基板の表面をクリーニングする工程をさらに含むことができる。別の実施形態では、金属陽極酸化物は、陽極酸化アルミニウムからなる。特徴または概念はそれぞれ独立しているが本明細書に開示された概念の任意の別の特徴と組み合わせることができる。
【0008】
上記実施形態のいずれかにおいて、陽極酸化工程は、約0.1M~約0.3Mの濃度を有する酸性溶液中で、約8V~約12Vの陽極酸化電圧で、約20分~約90分間の陽極酸化時間をかけて、表面を陽極酸化する工程を含むことができる。一実施形態では、酸性溶液は約5未満のpHを有することができる。別の実施形態では、酸性溶液は、酢酸、クエン酸、塩化水素、硝酸、および硫酸からなる群から選択される一定の酸を含むことができる。さらなる実施形態では、酸は硫酸からなることができる。さらなる実施形態では、濃度は約0.2Mであり得る。さらに別の実施形態では、陽極酸化電圧は約10Vであり得る。一実施形態では、陽極酸化時間は約30分~約60分間であり得る。特徴または概念はそれぞれ独立しているが、本明細書に開示されている概念の任意の別の特徴と組み合わせることができる。
【0009】
陰極化を含む上記実施形態のいずれか1つにおいて、陰極化工程は、酸化イットリウムナノ粒子のコロイド分散液中で、約8V~約12Vの電圧と約0.05mA~約0.15mAの電流とで、約30分~約90分間の時間をかけて表面を陰極化することを含む。一実施形態では、酸化イットリウムナノ粒子は、約10nmの平均粒子寸法を有することができ、且つ、量はコロイド分散液の重量の約2%~約10%であり得る。別の実施形態において、酸化イットリウムナノ粒子の量は、コロイド分散液の重量の約5%であり得る。さらなる実施形態では、陰極化電圧は約10Vであり、電流は約0.1mAであり得る。追加の実施形態では、陰極化時間は約60分であり得る。一実施形態では、この方法は、表面を陰極化した後、表面から過剰なナノ粒子を除去する工程をさらに含むことができる。別の実施形態では、除去する工程は、イソプロパノールで表面を拭く工程を含むことができる。特徴または概念はそれぞれ独立しているが、本明細書に開示されている概念の任意の別の特徴と組み合わせることができる。
【0010】
表面に疎水性セラミックコーティング組成物を付着させることを含む上記実施形態のいずれか1つでは、方法は、基板の表面上のコーティング組成物を約1時間乾燥する工程をさらに含むことができる。一実施形態では、この方法は、約200℃の硬化温度でコートした表面を加熱する工程を含むことができる。別の実施形態では、疎水性セラミックコーティング組成物は、イットリウム化合物、酸化イットリウムナノ粒子の分散、水溶性ポリマー、および脱イオン水と水溶性アルコールの溶媒溶液を含有できる。さらなる実施形態では、イットリウム化合物は酢酸イットリウムを含むことができ、酸化イットリウムナノ粒子の分散の量はコーティング組成物の重量の約0.5%~約1%であり、水溶性ポリマーは、コーティング組成物の重量の約1%~約5%の量でポリビニルアルコールを含むことができ、水溶性アルコールはイソプロピルアルコールからなることができ、脱イオン水および水溶性アルコールは、溶媒溶液中に約2:1の割合で存在することができる。特徴または概念はそれぞれ独立しているが、本明細書に開示されている概念の任意の別の特徴と組み合わせることができる。
【0011】
上記実施形態のいずれかにおいて、金属基板は、アルミニウム、チタン、およびステンレス鋼からなる群から選択される金属を含むことができる。一実施形態では、金属はアルミニウムからなる。特徴または概念はそれぞれ独立しているが、本明細書に開示されている概念の任意の別の特徴と組み合わせることができる。
【0012】
本発明はまた、疎水性コートされた基板に具体化される。一実施形態では、基板は、表面を有する金属基板と、表面に形成された金属陽極酸化物のナノ多孔質層と、ナノ多孔質層に結合した疎水性セラミックコーティングとを含むことができる。別の実施形態では、基板は、ナノ多孔質層に埋め込まれた酸化イットリウムナノ粒子をさらに含むことができる。特徴または概念はそれぞれ独立しているが、本明細書に開示されている概念の任意の別の特徴と組み合わせることができる。
【0013】
一実施形態では、疎水性コートされた基板は、表面を有する金属基板と、その表面に形成された金属陽極酸化物のナノ多孔質層と、ナノ多孔質層に埋め込まれた酸化イットリウムナノ粒子とを含むことができる。別の実施形態では、基板は、ナノ多孔質層に結合された疎水性セラミックコーティングをさらに含むことができる。特徴または概念はそれぞれ独立しているが、本明細書に開示されている概念の任意の別の特徴と組み合わせることができる。
【0014】
上記実施形態のいずれか1つでは、金属陽極酸化物のナノ多孔質層は、ナノピペットを含むことができる。一実施形態では、ナノピペットは約10nm~約100nmの一定の平均直径を有することができる。別の実施形態において、ナノピペットは、約20nm~約50nmの平均直径を有することができる。さらなる実施形態において、ナノピペットは、約10nmの最小直径および約100nmの最大直径を有することができる。一実施形態では、ナノピペットは約100nm~約10μmの一定の平均長さを有することができる。別の実施形態では、ナノピペットは約1.5μm~約8μmの一定の平均長さを有することができる。さらなる実施形態では、ナノピペットは、約100nmの最小の長さと約10μmの最大の長さを有することができる。特徴または概念はそれぞれ独立しているが、本明細書に開示されている概念の任意の別の特徴と組み合わせることができる。
【0015】
一実施形態において、酸化イットリウムナノ粒子は、約10nmの平均粒径を有することができる。別の実施形態では、酸化イットリウムナノ粒子をナノピペットに埋め込むことができる。さらなる実施形態では、疎水性セラミックコーティングは酢酸イットリウムを含むことができる。特徴または概念はそれぞれ独立しているが、本明細書に開示されている概念の任意の別の特徴と組み合わせることができる。
【0016】
上記実施形態のいずれか1つでは、金属基板は、アルミニウム、チタン、およびステンレス鋼からなる群から選択される金属を含むことができる。一実施形態では、金属はアルミニウムからなることができる。特徴または概念はそれぞれ独立しているが、本明細書に開示されている概念の任意の別の機能と組み合わせることができる。
【0017】
上記実施形態のいずれか1つにおいて、金属陽極酸化物は、陽極酸化アルミニウムからなることができる。特徴または概念はそれぞれ独立しているが、本明細書に開示されている概念の任意の別の特徴と組み合わせることができる。
【0018】
本発明の他の特徴および優位点は、例示することを目的として本発明の本質を示す添付の図面と併せて、好ましい実施形態についての以下の説明から明らかになるはずである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1A】本発明のいくつかの実施形態に従って疎水性コーティングを付着させる方法を示すフローチャート。
図1B】本発明のいくつかの実施形態に従って疎水性コーティングを付着させる方法を示すフローチャート。
図1C】本発明のいくつかの実施形態に従って疎水性コーティングを付着させる方法を示すフローチャート。
図2A】本発明の一実施形態に従って金属基板の表面に形成された金属陽極酸化物のナノ多孔質層の断面図。
図2B】本発明の一実施形態に従って金属基板の表面に形成された金属陽極酸化物のナノ多孔質層の上面図。
図3A】本発明の一実施形態に従って疎水性コートされた基板の断面図。
図3B】本発明の一実施形態に従って疎水性コートされた基板の断面図。
図3C】本発明の一実施形態に従って疎水性コートされた基板の断面図。
図4】天然の酸化アルミニウム層を有するアルミニウム基板に付着させた疎水性セラミックコーティングの断面図。
図5】本発明の一実施形態に従って陽極酸化された酸化アルミニウムナノピペット層を示す走査型電子顕微鏡写真。
図6】本発明の一実施形態に従って、酸化イットリウムナノ粒子で強化された疎水性セラミックコーティングを有するアルミニウム表面上の水滴を示す写真。
【発明を実施するための形態】
【0020】
例示的な図面の図1A~1Cを参照する。図1A~1Cは、本発明の実施形態に従って金属基板の表面に疎水性コーティングを付着させる方法を示す。図1Aを特に参照すると、一実施形態では、方法は、表面に金属陽極酸化物のナノ多孔質層を陽極酸化する工程110と、表面に酸化イットリウムナノ粒子を陰極化する工程120と、表面に疎水性セラミックコーティング組成物を付着させる工程130と、コーティングされた表面を加熱する工程140とを含むことができる。
【0021】
いくつかの実施形態では、この方法は、これらの工程のうちの1つまたは複数を省略することができる。例えば、図1Bを参照すると、一実施形態では、方法は、表面に陽極酸化金属のナノ多孔質層を陽極化する(anodize )工程110と、表面に疎水性セラミックコーティングを付着させる工程130と、コーティングされた表面を加熱する工程140とを含むことができる。代替的には、図1Cを参照すると、別の実施形態では、方法は、表面に陽極酸化金属のナノ多孔質層を陽極酸化する工程110と、表面に酸化イットリウムナノ粒子を陰極化する(cathodize )工程120とを含むことができる。
【0022】
(金属基板)
一実施形態では、金属基板は、アルミニウム、チタン、およびステンレス鋼からなる群から選択される金属を含み得る。別の実施形態では、金属はアルミニウムからなり得る。これらの金属基板は、耐久性のある疎水性コーティングの設計に固有の課題を提示し得る。例えば、アルミニウム、チタン、およびステンレス鋼は、多くの疎水性ゾル-ゲルコーティングと適合しない熱膨張係数と弾性係数を有する。
【0023】
さらに、アルミニウムとチタンの表面の自己不動態化特性は、追加の課題を提示する。アルミニウムやチタンなどの金属基板は、その表面に共形の酸化物が蓄積することが知られている。この酸化物層は、大気の暴露から数分以内に形成され、一般に10nmを超えない厚さに達する。自然に形成される層は、軽い摩耗と機械的変形で除去できるため、強力な接着力と耐久性とを備えた表面コーティングを維持することが困難になる。
【0024】
(表面の陽極酸化)
陽極酸化は、酸化により金属の表面の化学的性質を変化させて、陽極酸化物層を生成する電気化学的な工程である。驚くべきことに、工程110により表面に形成された金属陽極酸化物のナノ多孔質層は、疎水性セラミックコーティングなどのゾルゲルコーティングと金属基板の表面との間に永続的な結合を作り出すのに役立つ。一実施形態では、陽極酸化工程110は、酸性溶液中で表面を陽極酸化する工程を含むことができる。別の実施形態では、酸性溶液は約5未満のpHを有することができる。別の実施形態では、酸性溶液は、酢酸、クエン酸、塩化水素、硝酸、および硫酸からなる群から選択される酸からなり得る。別の実施形態では、酸は硫酸からなり得る。
【0025】
一実施形態では、酸性溶液は、約0.1M~約0.3Mの濃度を有することができる。別の実施形態では、濃度は約0.2Mであり得る。別の実施形態では、工程110は、約8V~約12Vの陽極酸化電圧で、約20分~約90分間の陽極酸化時間をかけて実施される。別の実施形態では、陽極酸化電圧は約10Vであり得る。さらに別の実施形態では、陽極酸化時間は約30分~約60分間であり得る。
【0026】
陽極酸化工程110の間に、図2A,2Bに示すように、陽極酸化アルミニウムなどの金属陽極酸化物210の自己組織化ナノ構造が表面205に発達する。一実施形態では、上記の陽極酸化パラメーターによれば、円筒形状の細孔、またはナノピペット215の規則正しい配列を有する金属陽極酸化物のナノ多孔質層210を生成できる。ナノピペット215の細孔直径D、周期性、密度分布は、上記陽極酸化パラメーターを調整することで制御できる。陽極酸化パラメーターを調整して、ナノピペット215の直径Dと長さLの両方を個別に制御できる。
【0027】
一実施形態では、ナノピペット215は、約10nm~約100nmの平均直径Dを有することができる。別の実施形態では、ナノピペット215は、約20nm~約50nmの平均直径Dを有することができる。さらに別の実施形態では、ナノピペット215は、約10nmの最小直径Dと約100nmの最大直径とを有することができる。
【0028】
一実施形態では、ナノピペット215は、約10nm、約15nm、約20nm、約25nm、約30nm、約35nm、約40nm、約45nm、約50nm、約55nm、約60nm、約65nm、約70nm、約75nm、約80nm、約85nm、約90nm、約95nm、または約100nmの最小直径Dを有することができる。別の実施形態では、ナノピペット215は、約10nm、約15nm、約20nm、約25nm、約30nm、約35nm、約40nm、約45nm、約50nm、約55nm、約60nm、約65nm、約70nm、約75nm、約80nm、約85nm、約90nm、約95nm、または約100nmの最大直径Dを有することができる。
【0029】
一実施形態では、ナノピペット215は、約100nm~約10μmの一定の平均長さLを有することができる。別の実施形態では、ナノピペット215は、約1.5μm~約8μmの一定の平均長さLを有することができる。さらに別の実施形態では、ナノピペット215は、約100nmの最小長さLと約10μmの最大長さLとを有することができる。
【0030】
一実施形態では、ナノピペット215は、約100nm、約500nm、約1μm、約1.5μm、約2μm、約2.5μm、約3μm、約3.5μm、約4μm、約4.5μm、約5μm、約5.5μm、約6μm、約6.5μm、約7μm、約7.5μm、約8μm、約8.5μm、約9μm、約9.5μm、または約10μmの最小長さLを有することができる。別の実施形態では、ナノピペット215は、約100nm、約500nm、約1μm、約1.5μm、約2μm、約2.5μm、約3μm、約3.5μm、約4μm、約4.5μm、約5μm、約5.5μm、約6μm、約6.5μm、約7μm、約7.5μm、約8μm、約8.5μm、約9μm、約9.5μm、または約10μmの最大長さLを有することができる。
【0031】
この金属陽極酸化物のナノ多孔質層210は、材料の相互浸透を促進して、表面205と、例えば埋め込まれた酸化イットリウムナノ粒子220(図3C)、疎水性セラミックコーティング230(図3B)、またはその両方(図3A)との間の機械的および化学的結合の強度を高めることができる。
【0032】
(表面の陰極化)
再び図1Aおよび1Cを参照する。一実施形態では、陰極化工程120は、酸化イットリウムナノ粒子のコロイド分散液中で表面を陰極化することを含むことができる。別の実施形態では、酸化イットリウムナノ粒子は、約10nmの平均粒子サイズを有することができ、量はコロイド分散液の重量の約2%~約10%であり得る。さらに別の実施形態では、酸化イットリウムナノ粒子の量は、コロイド分散液の重量の約5%であり得る。
【0033】
一実施形態では、陰極化工程120は、金属基板を電着アセンブリ(図示せず)の負(陰極)端子に電気的に接続する工程を含む。別の実施形態では、金属基板の表面は、約8V~約12Vの陰極化電圧で、約0.05mA~約0.15mAの電流で、約30分~約90分の時間陰極化される。さらに別の実施形態では、陰極化電圧は約10Vであり、電流は約0.1mAであり得る。追加の実施形態では、陰極化する時間は約60分間であり得る。さらに別の実施形態では、陰極化工程120は、表面を陰極化した後、表面から過剰なナノ粒子を除去する工程をさらに含むことができる。一実施形態では、除去する工程は、イソプロパノールで陰極化された表面を拭く工程を含むことができる。
【0034】
これらの陰極化条件下で、この方法の実施形態は、図3Cに示すように、疎水性コートされた基板200を形成し得る。一実施形態では、疎水性コートされた基板200は、表面205を有する金属基板と、表面205上に形成された陽極酸化金属のナノ多孔質層210と、ナノ多孔質層に埋め込まれた酸化イットリウムナノ粒子220とを含むことができる。さらなる実施形態では、酸化イットリウムナノ粒子220は、約10nmの平均粒子サイズを有することができる。さらに別の実施形態では、酸化イットリウムナノ粒子220は、ナノピペット215に埋め込むことができる。
【0035】
これらの埋め込まれた酸化イットリウムナノ粒子220は、表面の疎水性を改善できるとともに、表面の摩耗や変形に対して堅牢性を付与し得る。さらに、以下に説明するセラミックコーティングなどのセラミックコーティング(図3A)と組み合わせて使用した場合には、ナノ粒子220により、セラミックコーティングを低温で硬化させることができ、原子の移動やその他の金属基板の機械的特性に対する変化を抑制する。
【0036】
(セラミックコーティングの付着)
再び図1Aおよび1Bを参照する。コーティング組成物は、工程130で、流し塗り法、浸漬法、およびスプレー法からなる群から選択される付着方法によって、表面に付着できる。適切な方法または方法の組み合わせの選択は、当業者によって一般的に理解される。例えば、流し塗りコーティングやスプレーコーティングは、大きな部品や複雑な形状、または2つの異なるコーティングが必要な場合に適し得る。例えば、浸漬コーティングは、部品全体をコーティングする場合に適し得る。
【0037】
一実施形態では、コーティング組成物はイットリウム化合物、セリウム化合物および酸化イットリウムナノ粒子の分散からなる群から選択される添加剤、水溶性ポリマー、および脱イオン水と水溶性アルコールの溶剤溶液を含み得る。
【0038】
以下の表は、ゾル-ゲル合成に利用可能なイットリウムベースの化学試薬の化学式を示す。一実施形態では、イットリウムは、酢酸イットリウム、炭酸イットリウム、塩化イットリウム、フッ化イットリウム、水酸化イットリウム、金属イットリウム、硝酸イットリウム、シュウ酸イットリウム、および硫酸イットリウムからなる群から選択される。好ましい実施形態では、イットリウムは酢酸イットリウムである。
【0039】
【表1】
【0040】
一実施形態では、セリウム化合物は水溶性である。水溶性セリウム化合物の例には、臭化セリウム、塩化セリウム、および硝酸セリウムが含まれる。別の実施形態では、セリウム化合物はやや水に溶けにくい。やや水に溶けにくいセリウム化合物の例には、酢酸セリウムおよび硫酸セリウムが含まれる。
【0041】
別の実施形態では、コーティング組成物は、酸化イットリウムナノ粒子の分散の添加剤を含有する。酸化イットリウムナノ粒子の分散は、好ましくはコーティング組成物と適合性があるため、沈殿することなく高レベルで添加できる。一実施形態では、酸化イットリウムナノ粒子の分散は、コーティング組成物の重量の約0.1%~約5%である。好ましい実施形態では、酸化イットリウムナノ粒子の分散の量は、コーティング組成物の重量の約0.5%~約1%である。
【0042】
コーティング組成物の好ましい実施形態は、水溶性ポリマーをさらに含む。この水溶性ポリマー成分は、最終的な疎水性コーティングの厚さを増加させる働きをする。水溶性ポリマー無しではコーティング組成物の疎水性の性質により、コーティング組成物は、高い厚さを生成しにくくなる。コーティング組成物への水溶性ポリマーの添加は、最終のコーティングの厚さを約50nm以上、約75nm以上、約100nm以上、約125nm以上、約150nm以上、約200nm以上、約225nm以上、または約250nm以上に増加させる。
【0043】
一実施形態では、水溶性ポリマーは、ポリ(n-ビニルピロリドン)、ポリ(ビニルアミン)塩酸塩、ポリメタクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリ(エチレンオキシド-b-プロピレンオキシド)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(n-イソ-プロピルアクリルアミド)、およびポリ(2-ビニルピリジン)からなる群から選択される。別の実施形態では、水溶性ポリマーはポリビニルアルコールである。一実施形態では、水溶性ポリマーの量は、コーティング組成物の重量の約1%~約10%である。さらに別の実施形態では、水溶性ポリマーの量は、コーティング組成物の重量の約1%~約5%である。
【0044】
コーティング組成物の好ましい実施形態は、脱イオン水の溶媒溶液および水溶性アルコールをさらに含む。一実施形態では、水溶性アルコールは、イソプロピルアルコール、メタノール、エタノール、プロパノール、およびブタノールからなる群から選択される。下の表は、いくつかの水溶性アルコールの化学式と水溶性の程度を示すが、別の水溶性アルコールも使用できる。別の好ましい実施形態では、脱イオン水と水溶性アルコールは、約2:1の割合で溶媒溶液中に存在する。
【0045】
【表2】
【0046】
一実施形態では、図には示されていないが、この方法は、加熱する工程140の前に、基板の表面のコーティング組成物を乾燥させる工程を含む。別の実施形態では、この方法は、加熱する工程140の前に基板の表面のコーティング組成物を乾燥する工程を含むことができる。いずれの場合でも、コーティング組成物は、約1時間、約2時間、約3時間、またはコーティング組成物が「グリーン状態」になるまで乾燥させることができる。
【0047】
(表面を加熱する)
再び図1A図1Bを参照する。一実施形態では、方法は、少なくとも2時間の硬化時間をかけて、約150℃~約300℃の硬化温度でコートされた表面を加熱する工程140を含むことができる。別の実施形態では、硬化時間は、約2時間~約24時間であり得る。さらに別の実施形態では、硬化温度は約200℃であり、硬化時間は少なくとも2時間であり得る。
【0048】
(疎水性コートされた基板)
再び例示的な図面の図3A~3Cを参照する。図3A~3Cは、本発明の実施形態に従って疎水性コートされた基板200を示す。図3Aを特に参照すると、一実施形態では、基板は、表面205を有する金属基板と、表面に形成された金属陽極酸化物のナノ多孔質層210と、ナノ多孔質層210に埋め込まれた酸化イットリウムナノ粒子220と、ナノ多孔質層210に結合された疎水性セラミックコーティング230とを含むことができる。図3Aに示す疎水性コートされた基板200は、図1A示す方法で形成できる。
【0049】
いくつかの実施形態では、疎水性コートされた基板200は、これらの要素の1つまたは複数を省略できる。例えば、ここで図3Bを参照すると、一実施形態では、疎水性コートされた基板200は、表面205を有する金属基板と、表面205に形成された金属陽極酸化物のナノ多孔質層210と、ナノ多孔質層210に結合された疎水性セラミックコーティング230とを含むことができる。この疎水性コーティング基板200は、図1Bに示す方法で形成できる。代替的には、図3Cを参照すると、別の実施形態では、疎水性コートされた基板200は、表面205を有する金属基板と、表面205に形成された金属陽極酸化物210のナノ多孔質層210と、ナノ多孔質層210に埋め込まれた酸化イットリウムナノ粒子220とを含むことができる。この疎水性コートされた基板200は、図1Cに示す方法で形成できる。
【0050】
一実施形態では、金属陽極酸化物のナノ多孔質層210は、ナノピペット215を含むことができる。別の実施形態では、ナノピペット215は、約10nm~約100nmの平均直径Dを有することができる。さらに別の実施形態では、ナノピペット215は、約20nm~約50nmの平均直径Dを有することができる。さらに別の実施形態では、ナノピペット215は、約10nmの最小直径Dと約100nmの最大直径Dとを有することができる。
【0051】
一実施形態では、ナノピペット215は、約10nm、約15nm、約20nm、約25nm、約30nm、約35nm、約40nm、約45nm、約50nm、約55nm、約60nm、約65nm、約70nm、約75nm、約80nm、約85nm、約90nm、約95nm、または約100nmの最小直径Dを有することができる。別の実施形態では、ナノピペット215は、約10nm、約15nm、約20nm、約25nm、約30nm、約35nm、約40nm、約45nm、約50nm、約55nm、約60nm、約65nm、約70nm、約75nm、約80nm、約85nm、約90nm、約95nm、または約100nmの最大直径Dを有することができる。
【0052】
一実施形態では、ナノピペット215は、約100nm~約10μmの一定の平均長さLを有することができる。別の実施形態では、ナノピペット215は、約1.5μm~約8μmの一定の平均長さLを有することができる。さらに別の実施形態では、ナノピペット215は、約100nmの最小長さLと約10μmの最大長さLとを有することができる。
【0053】
一実施形態では、ナノピペット215は、約100nm、約500nm、約1μm、約1.5μm、約2μm、約2.5μm、約3μm、約3.5μm、約4μm、約4.5μm、約5μm、約5.5μm、約6μm、約6.5μm、約7μm、約7.5μm、約8μm、約8.5μm、約9μm、約9.5μm、または約10μmの最小長さLを有することができる。別の実施形態では、ナノピペット215は、約100nm、約500nm、約1μm、約1.5μm、約2μm、約2.5μm、約3μm、約3.5μm、約4μm、約4.5μm、約5μm、約5.5μm、約6μm、約6.5μm、約7μm、約7.5μm、約8μm、約8.5μm、約9μm、約9.5μm、または約10μmの最大長さLを有することができる。
【0054】
一実施形態では、酸化イットリウムナノ粒子220は、約10nmの平均粒子サイズを有することができる。追加の実施形態では、酸化イットリウムナノ粒子220は、ナノピペット215に埋め込むことができる。さらに別の実施形態では、疎水性セラミックコーティング230は、酢酸イットリウムを含有することができる。
【0055】
これらの埋め込まれた酸化イットリウムナノ粒子220は、表面205の疎水性を向上させると同時に、表面の摩耗や変形に対する堅牢性を付与し得る。さらに、セラミックコーティング230とともに使用した場合には、ナノ粒子220により、セラミックコーティング230をより低い温度で硬化させることができるため、原子の移動や金属基板の機械的特性に対するその他の変化が抑制される。
【0056】
いくつかの実施形態では、生成された疎水性コートされた基板200は、約90度、約95度、約100度、または約105度より大きな水接触角を示す。疎水性コーティングの厚さは、約50nm以上、約75nm以上、約100nm以上、約125nm以上、約150nm以上、約200nm以上、約225nm以上、または約250nm以上である。さらに、疎水性コーティングは、環境的な劣化、機械的な摩耗、繰り返しのストレスに対して堅牢になる。例えば、いくつかの実施形態では、疎水性コーティングは、高い硬度や酸および塩基による侵食に対して耐性を示す。
【0057】
上記説明から、本発明は、環境に対して堅牢な疎水性を示す疎水性コーティングを付着させるスケーラブルにすることが可能な方法を提供することを理解されたい。これらの方法で製造されたコーティングは、疎水性であり、環境的な劣化、機械的な摩耗、繰り返されるストレス、および酸や塩基による侵食に対して耐性がある。さらに、コーティングは、堅牢性のための十分な厚さを有し、硬化温度は原子の移動や金属基板の機械的特性に対するその他の変化を抑制するのに十分に低い。これらすべての理由から、本明細書で説明する方法と、およびその結果生成されるコーティングとは、航空機および自動車の透明性用途に最適である。
【0058】
具体的な方法、装置、および材料について説明したが、説明したものと同様または同等の任意の方法および材料を、本発明の実施または試験で使用できる。別段の定義がない限り、本出願で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。
【0059】
本願で使用されているように、「ひとつ(a)」や「ひとつ(an)」などの単数形の単語は、要素を「1」に限定する明確な意図が示されていない限り、「1つまたはそれ以上」を意味する。「約」という用語は、それが修飾する値の±2%を意味する。
【0060】
本願で使用されているように、「疎水性」という用語は、水に対する親和性を欠くことを意味し、水接触角が少なくとも約80度である場合、表面は疎水性であると見なされる。
【0061】
本願で使用されている「水溶性」という用語は、これらの用語が一般に理解されているように、化合物が水に無限に溶ける、水に非常によく溶ける、水に自由に溶ける、または水に溶けることを意味する。約1グラムの材料が溶けるのに約1ミリリットル以下の溶質を必要とする場合、その材料は一般に「非常によく溶ける」と見なされる。約1グラムの材料が溶けるのに約1ミリリットル~約10ミリリットルの溶質を必要とする場合、その材料は一般に「自由に溶ける」と見なされる。約1グラムの材料が溶けるのに約10ミリリットル~30ミリリットルの溶質を必要とする場合、その材料は一般に「溶ける」と見なされる。約1グラムの材料が溶解するために約30ミリリットル~約100ミリリットルの溶質を必要とする場合、その材料は一般に「やや溶ける」と見なされる。
【0062】
さらに詳述することなく、当業者であれば、上記説明を使用して、本発明を最大限に作成および使用できると考えられる。本実施形態の別の目的、特徴、および利点は、以下の具体的な実施例から明白になる。具体的な実施例は、具体的な実施形態を示しているが、例示することを目的としてのみ提供されている。したがって、本発明は、この詳細な説明から当業者であれば理解し得る本発明の趣旨および範囲内に含まれるそれらの様々な変更形態および変化形態を含む。以下の実施例は、例示であり、本開示を限定するものではない。
【0063】
(実施例1)
第1のサンプルシリーズは、アセトンで洗浄したアルミニウムクーポンを使用し調製した。セラミックコーティングは、流し塗りコーティングまたはスプレーコーティングでアルミニウム基板に付着させた。セラミックコーティング組成物(このサンプルと後述するすべてのサンプルの)には、イットリウム化合物、酸化イットリウムナノ粒子の分散、水溶性ポリマー、および脱イオン水の溶媒溶液と水溶性アルコールが含有されていた。コートされた基板を、大気圧中で、約300℃で約2時間熱処理した。第1のサンプルシリーズの図を図4に示す。図4は、アルミニウム基板の表面205に形成された天然の酸化アルミニウム層206上のセラミックコーティング230を示す。
【0064】
第2のサンプルシリーズは、アセトンで洗浄したアルミニウムクーポンを使用して調製した。第2のサンプルシリーズは、0.2M硫酸の酸性溶液中で陽極酸化処理を行った。この工程では、アルミニウムクーポンを陽極に取り付けて、10Vの定電圧を約30分間印加した。この陽極酸化条件下で、陽極酸化された酸化アルミニウムのナノ多孔質層がアルミニウム表面に発達した。ナノ多孔質構造には、約20nmからの平均直径と、約1.5μmの平均長さとを有するナノピペットが含まれていた。
【0065】
第3のサンプルシリーズは、電圧を約5時間印加したことを除いて、第2のサンプルシリーズと同じ条件で調製した。この陽極酸化条件下で、陽極酸化された酸化アルミニウムのナノ多孔質層がアルミニウム表面上に発達した。ナノ多孔質構造には、約20nmからの平均直径と、約8μmの平均長さとを有するナノピペットが含まれていた。
【0066】
第4のサンプルシリーズは、酸性溶液が0.2M塩酸からなることを除いて、第2のサンプルシリーズと同じ条件で調製した。この陽極酸化条件下で、陽極酸化された酸化アルミニウムのナノ多孔質層がアルミニウム表面に発達した。ナノ多孔質構造には、約50nmからの平均直径と、約500nmの平均長さとを有するナノピペットが含まれていた。
【0067】
(第2、第3、第4のサンプルで)生成される陽極酸化層は水接触角が小さく、その水接触角は、酸化アルミニウムのものと一致していた。スチールウールを用いた手による摩耗試験で測定したところ、層は耐摩耗性であった。図5に示すように、走査型電子顕微鏡による断面像は、非常に微細な構造を示した。陽極酸化層(ゾーン1)は、基板に対して直交して配向し、平均直径が約20nmで平均長さが約8μmの高いアスペクト比を有する酸化アルミニウム結晶粒子を含んでいた。
【0068】
次に、第2のサンプルシリーズにおいて、流し塗りコーティングまたはスプレーコーティングによりセラミックコーティングをアルミニウム基板に施して、コートされた基板を大気圧中で約300℃で約2時間熱処理した。第2のサンプルシリーズを図3Bに示す。図3Bは、表面205に形成された金属陽極酸化物のナノ多孔質層210と、ナノ多孔質層210に結合された疎水性セラミックコーティング230とを示す。
【0069】
天然のアルミニウム表面にコートした第1のサンプルシリーズを、第2のサンプルシリーズの陽極酸化された酸化アルミニウム(AAO:anodized aluminum oxide)で緩衝したコーティングと比較した。以下の表はその結果を示す。表に示すように、天然のアルミニウム表面に直接付着させた疎水性セラミックコーティングは、表面の仕上がりと疎水性において多様な品質を示した。さらに、陽極酸化層なしで付着させたセラミックコーティングは、手で押すと簡単に取り除けた。対照的に、第2のサンプルシリーズの表面は滑らかで疎水性を有し、優れた耐摩耗性を示した。
【0070】
【表3】
【0071】
(実施例2)
第5のサンプルシリーズでは、上記実施に従ってアルミニウムクーポンを洗浄し、0.2M硫酸中で約10Vで約1時間、陽極酸化した。陽極酸化処理後、クーポンを脱イオン水で洗浄した。陽極酸化した表面を図2A,2Bに示す。
【0072】
第6のサンプルシリーズでは、陽極酸化後に以下の手順を追加した。最初に、平均粒子サイズが10nmで5%の固形物重量を有する酸化イットリウムコロイド水溶液を調製した。次に、陽極酸化したアルミニウムクーポンを電着アセンブリの負(陰極)端子に電気的に接続した。この構成を選択したのは、酸化イットリウムが酸性水溶液中で正の表面電荷を有するためである。約10Vの電圧と約0.1mAの電流とを約1時間維持した。過剰なナノ粒子の蓄積が陽極酸化された表面に確認できた。この蓄積物は、イソプロパノールで表面を拭くと除去され、滑らかな陽極酸化された表面が残った。図3Cに示すように、酸化イットリウムナノ粒子が陽極酸化表面に埋まっていた。
【0073】
第5、第6のサンプルシリーズを比較した結果を下の表に示す。図に示すように、ナノ粒子で強化されたコーティングの初期テストは、顕著な耐摩耗性を示した。表面は疎水性であり、水の接触角は約80~約90度であり、第2のサンプルシリーズの疎水性セラミックコーティングの接触角と比較して減少していた。これはおそらく、表面が酸化イットリウムで不完全に覆われているためであると考えられる。コートされたクーポンは、表面の摩耗や変形に対して非常に優れた堅牢性を示し、水接触角の減少なしに5%以上の変形を維持した。
【0074】
【表4】
【0075】
(実施例3)
第7のサンプルシリーズでは、第2のサンプルシリーズで説明した工程に従って、アルミニウムクーポンを洗浄し、陽極酸化し、セラミックコーティングでコーティングした。セラミックコーティングは約300℃で硬化した。
【0076】
第8のサンプルシリーズでは、アルミニウムクーポンを第7のサンプルシリーズと同じ構成で調製したが、硬化は低くした200℃で行った。
第9のサンプルシリーズでは、アルミニウムクーポンを第8サンプルシリーズと同一の構成で調整した。しかしながら、疎水性セラミックコーティングを施す前に、陽極酸化したクーポンは、第6サンプルシリーズに関して上記したように、酸化イットリウムナノ粒子のコロイド分散中で陽極酸化した。第9のサンプルシリーズを図3Aに示す。図3Aは、表面205に形成された金属陽極酸化物のナノ多孔質層210と、ナノ多孔質層210に埋め込まれた酸化イットリウムナノ粒子220と、ナノ多孔質層210に結合された疎水性セラミックコーティング230とを示す。図6を参照すると、第9のサンプルシリーズは、約90度以上の水の接触角を示した。
【0077】
第7、第8、第9のサンプルシリーズを比較した結果を下の表に示す。図に示すように、ナノ粒子で強化された第9のサンプルシリーズは、同じ温度で硬化した酸化イットリウムナノ粒子なしのバージョン(第8シリーズ)と比較して、見た目が良くなり、水の接触角が大きくなっていた。データは、陽極酸化アルミニウムの細孔内の高濃度の酸化イットリウムナノ粒子が、表面下の核形成を高めて結晶化温度の下げることを示した。第7と第9のサンプルシリーズは、滑らかで高品質のコーティングを有し、強い疎水性を示した。よって、ナノ粒子が埋め込まれた陽極酸化アルミニウムのバッファー層により低い硬化温度で同様の望ましい特性が実現できる。硬化温度が低いと、原子の移動や金属基板の機械的特性のその他の変化が抑制される。
【0078】
【表5】
【0079】
本発明は、現在好ましい実施形態のみを参照して詳細に説明されている。当業者であれば、本発明から逸脱することなく、様々な変更を行うことができることが理解できる。したがって、本発明は、以下の特許請求の範囲によってのみ定義される。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6