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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-22
(45)【発行日】2022-05-06
(54)【発明の名称】シソ風味香料組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/20 20160101AFI20220425BHJP
   C11B 9/00 20060101ALI20220425BHJP
【FI】
A23L27/20 E
C11B9/00 K
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021187294
(22)【出願日】2021-11-17
【審査請求日】2021-11-19
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591011410
【氏名又は名称】小川香料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(72)【発明者】
【氏名】川島 大輝
(72)【発明者】
【氏名】庄司 靖隆
(72)【発明者】
【氏名】熊沢 賢二
(72)【発明者】
【氏名】田▲崎▼ 佳恵
(72)【発明者】
【氏名】長沢 祐一
【審査官】二星 陽帥
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第01875815(EP,A1)
【文献】特開2020-198837(JP,A)
【文献】国際公開第2008/153118(WO,A1)
【文献】特開2019-099615(JP,A)
【文献】特開昭63-126839(JP,A)
【文献】FRONZA, G. et al.,Stereochemical aspects of the bioreduction of the conjugated double bond of perillaldehyde,Tetrahedron: Asymmetry,2004年,Vol. 15,pp. 3073-3077
【文献】MUSELLI, A. et al.,Dihydroperillaldehydes from Enhydra fluctuans Lour. essential oil,Flavour Fragr. J,2000年,Vol. 15,pp. 299-302
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/00
C11B 9/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペリラアルデヒド及び1,2-ジヒドロペリラアルデヒドを含有することを特徴とする、シソ風味香料組成物。
【請求項2】
1,2-ジヒドロペリラアルデヒドを0.1ppm~50000ppm含有する、請求項1に記載のシソ風味香料組成物。
【請求項3】
シス-1,2-ジヒドロペリラアルデヒド1質量部に対し、トランス-1,2-ジヒドロペリラアルデヒドを1質量部以上含有する、請求項1又は2に記載のシソ風味香料組成物。
【請求項4】
ペリラアルデヒド及び1,2-ジヒドロペリラアルデヒドを含有し、
1,2-ジヒドロペリラアルデヒドの含有量が、ペリラアルデヒド1質量部に対して0.0000003~0.25質量部である、請求項1~3のいずれか一項に記載のシソ風味香料組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のシソ風味香料組成物を含有することを特徴とする、経口組成物。
【請求項6】
1,2-ジヒドロペリラアルデヒドの含有量が0.1ppb~50ppmである、請求項5に記載の経口組成物。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか一項に記載のシソ風味香料組成物を添加することを特徴とする、シソ風味を有する経口組成物の製造方法。
【請求項8】
ペリラアルデヒドを含有するシソ風味を有する経口組成物に、1,2-ジヒドロペリラアルデヒドを0.1ppb~50ppmになるように添加することを特徴とする、経口組成物のシソ風味増強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シソ風味香料組成物及び当該香料組成物を含有する経口組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
シソは、アジアを原産とする一年草で、日本では古くから食材として用いられている。シソは、葉及び花穂に精油成分が存在し、水蒸気蒸留等により得られる精油や抽出物が、香料原料として飲食品や口腔ケア製品等に用いられている。シソは、全国各地で生産されているが、その多くは生食用として出荷されており、精油の製造を目的として栽培されるシソは一部に限られる。また、近年は、生産農家の高齢化等により、シソ精油の生産量は減少傾向にある。
【0003】
シソ精油は、ペリラアルデヒドを主成分とし、モノテルペン系炭化水素やモノテルペン系アルコールなどの多数の香気成分を含有する(非特許文献1)。このようなシソ精油に含まれている香気成分を主体に各種合成香料や天然香料を組み合わせることによって、シソ精油の配合量を削減したシソ香料や、シソ精油を含まないシソ香料も用いられている。しかし、十分な量のシソ精油を配合したシソ香料に比べると風味のボリュームが不足し、シソ香料として十分な効果が得られない場合が多い。
【0004】
シソを含む飲食品やシソ抽出物の風味を維持、改善する方法として、各種の方法が開示されている。例えば、特許文献1には、シソを細断後直ちに-19~5℃の低温条件下でアルコール性溶媒により抽出することにより得られる、有効成分としてロスマリン酸を含有するシソエキスが、風味や溶解性等の物性に優れていることが開示されている。特許文献2には、飲食品に、シソ抽出物とユーカリ抽出物を配合することにより、苦味や渋味といったシソ特有の風味の問題が改善できることが開示されている。特許文献3には、シソ加工品にバジル抽出物やバジルオイルを組み合わせることで、製造工程や保存中に失われるシソ風味を増強し、シソの自然でみずみずしいフレッシュな清涼感が活かされたシソ風味食品が得られることが開示されている。特許文献4には、シソの葉を含有する調味料に、食酢、クエン酸を含む果汁等を特定量含有させることにより、シソ風味を増強させられることが開示されている。
【0005】
その他にも、特許文献5には、シソ精油の主成分であるペリラアルデヒドのアセタールをシソフレーバー剤に含有させることにより、劣化しやすいシソフレーバーを安定化できることが開示されている。当該フレーバー剤を用いることにより、飲食品中で高レベルのシソ様香気香味を継続的に発現させることができる。
【0006】
一方で、ペリラアルデヒドの誘導体のうち、1,2-ジヒドロペリラアルデヒドは、南アジアで食用に供される水生植物のヌマキクナ(Enhydra fluctuans)の精油から見出された化合物である(非特許文献2)。例えば、非特許文献3には、1,2-ジヒドロペリラアルデヒドは、0.2ppmの濃度でフルーツフレーバーに水様の特徴を付与する効果があり、スイカのフレーバーへの使用が特に適していることが報告されている。また、特許文献6には、1,2-ジヒドロペリラアルデヒドを0.15ppm以下の濃度で添加することにより、乳製品、柑橘類製品、肉製品などの様々な飲食品の風味を改善又は増強できることも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2004-097108号公報
【文献】特開2005-102635号公報
【文献】特開2010-022208号公報
【文献】特開2020-198837号公報
【文献】特開昭63-126839号公報
【文献】欧州特許出願公開第1875815号明細書
【非特許文献】
【0008】
【文献】藤田安二ら、日本農芸化学会誌、1970年、第44巻、第9号、428~432ページ
【文献】Muselli et al., Flavour & Fragrance Journal, 2000, Vol.15, p.299~302
【文献】Fronza et al., Tetrahedron Asymmetry, 2004, Vol.15, p.3073~3077
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1~4に開示されている技術は、いずれもシソを含む飲食品やシソ抽出物自体の風味を維持、改善するものであり、シソ香料中のシソ精油配合量減少に起因する香料のシソ風味不足を解決するものではない。特許文献5に開示されているフレーバー剤も、加熱や保存中に生じるペリラアルデヒドの消失に伴うシソ香気香味の減衰を効果的に補うことを目的としたものであり、フレーバー中のシソ精油の配合量減少に伴う風味の不足を補うものではない。
【0010】
本発明の目的は、シソ精油の配合量を削減したシソ風味香料組成物においても、十分な量のシソ精油を配合した従来のシソ風味香料組成物と同等のシソ風味を飲食品等に付与できるシソ風味香料組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、シソ香料にはこれまで使用されることがなかった1,2-ジヒドロペリラアルデヒドをシソ風味香料組成物に添加したところ、シソ本来の風味が増強されることを見出した。さらにシソ精油の配合量を削減したシソ風味香料組成物に1,2-ジヒドロペリラアルデヒドを添加した場合も、シソ本来の風味が増強され、十分な量のシソ精油を配合したシソ風味香料組成物と同等又はそれ以上のシソ風味を有する香料組成物が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] 1,2-ジヒドロペリラアルデヒドを含有することを特徴とする、シソ風味香料組成物。
[2] 1,2-ジヒドロペリラアルデヒドを0.1ppm~50000ppm含有する、前記[1]のシソ風味香料組成物。
[3] シス-1,2-ジヒドロペリラアルデヒド1質量部に対し、トランス-1,2-ジヒドロペリラアルデヒドを1質量部以上含有する、前記[1]又は[2]のシソ風味香料組成物。
[4] ペリラアルデヒド及び1,2-ジヒドロペリラアルデヒドを含有し、
1,2-ジヒドロペリラアルデヒドの含有量が、ペリラアルデヒド1質量部に対して0.0000003~0.25質量部である、前記[1]~[3]のいずれかのシソ風味香料組成物。
[5] 前記[1]~[4]のいずれかのシソ風味香料組成物を含有することを特徴とする、経口組成物。
[6] 1,2-ジヒドロペリラアルデヒドの含有量が0.1ppb~50ppmである、前記[5]の経口組成物。
[7] 前記[1]~[4]のいずれかのシソ風味香料組成物を添加することを特徴とする、シソ風味を有する経口組成物の製造方法。
[8] シソ風味を有する経口組成物に、1,2-ジヒドロペリラアルデヒドを0.1ppb~50ppmになるように添加することを特徴とする、経口組成物のシソ風味増強方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るシソ風味香料組成物は、1,2-ジヒドロペリラアルデヒドを含有することにより、シソ本来の風味が増強されているため、シソ精油の配合量を削減した場合でも、十分な量のシソ精油を配合したシソ風味香料組成物と同等又はそれ以上の強さのシソ風味を有する。このため、本発明に係るシソ風味香料組成物を飲食品等に添加することにより、シソ本来のボリュームのある風味を付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施の形態に即して詳細に説明する。
【0015】
本発明及び本願明細書における「風味」とは、飲食物を喫食した時に感じられる、呈味や香り、口腔の刺激等による総合的な感覚である。「シソ風味」とは、喫食した際に「シソ」を想起させる風味、すなわち、シソを食した際に感じられる、呈味や香り、口腔の刺激等による総合的な感覚である。
【0016】
(1)1,2-ジヒドロペリラアルデヒド
本発明に係るシソ風味香料組成物の有効成分である1,2-ジヒドロペリラアルデヒドは、下記式(1)で表されるトランス体と式(2)で表されるシス体が存在する(非特許文献2)。
【0017】
【化1】
【0018】
1,2-ジヒドロペリラアルデヒドはペリラアルデヒドの還元体であるが、シソの主要香気成分であるペリラアルデヒドが強いシソの香気を有するのに対して、1,2-ジヒドロペリラアルデヒドには、ペリラアルデヒドのようなシソ香気はなく、カレー様のスパイシーな香調を有する。トランス体の方がスパイシーな香調が強く、シス体はトランス体に比べてファッティ、アルデヒド様の香調が強い。このため、これまでにシソ香料に使用された事例はなく、シソ本来の風味を増強する効果については全く知られていなかった。
【0019】
1,2-ジヒドロペリラアルデヒドは、例えば非特許文献3に記載された方法を用いて合成することにより得ることができる。具体的には、ペリラアルデヒドを触媒量のクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(I)存在下、トリエチルシランと処理し、得られたシリルエノールエーテルを酸加水分解することによって、シス-1,2-ジヒドロペリラアルデヒドとトランス-1,2-ジヒドロペリラアルデヒドの1:1混合物が得られる。当該混合物を、クロマトグラフィー、蒸留等の通常の分離及び精製方法で処理することにより、シス-1,2-ジヒドロペリラアルデヒドとトランス-1,2-ジヒドロペリラアルデヒドをそれぞれ単離して得ることができる。
【0020】
(2)シソ風味香料組成物
本発明に係るシソ風味香料組成物は、シソ香料に一般的に用いられる天然香料素材、合成香料素材を組み合わせて配合したシソ風味を有する香料組成物に、1,2-ジヒドロペリラアルデヒドを含有させた香料組成物である。シソ風味香料組成物に1,2-ジヒドロペリラアルデヒドを添加することによってシソ風味が増強され、シソ精油が有しているようなシソ本来の風味を有する香料組成物とすることができる。1,2-ジヒドロペリラアルデヒド自体にはシソを想起させるような香気はほとんど感じられないが、1,2-ジヒドロペリラアルデヒドをシソ風味香料組成物に添加すると、シソ本来の風味を増強する効果を有する。
【0021】
本発明に係るシソ風味香料組成物への1,2-ジヒドロペリラアルデヒドの添加量は、特に制限されるものではない。十分なシソ風味増強効果が得られるという観点から、本発明に係るシソ風味香料組成物の1,2-ジヒドロペリラアルデヒドの含有量は、好ましくは0.1ppm~50000ppm、より好ましくは5ppm~50000ppm、さらに好ましくは10ppm~10000ppm、よりさらに好ましくは800ppm~3000ppmである。シソ風味香料組成物における1,2-ジヒドロペリラアルデヒドの含有量が0.1ppm未満では、十分なシソ風味増強効果が得られない場合があり、50000ppmを超えると1,2-ジヒドロペリラアルデヒド自体の風味が違和感として感じられる場合がある。
【0022】
本発明に係るシソ風味香料組成物に含有されている1,2-ジヒドロペリラアルデヒドは、シス体であってもよく、トランス体であってもよい。また、本発明に係るシソ風味香料組成物に含有させる1,2-ジヒドロペリラアルデヒドとしては、シス体とトランス体をそれぞれ単独で使用してもよく、シス体とトランス体の異性体混合物を使用してもよい。シス体とトランス体は香調がやや異なるが、トランス体の方がシソ本来の風味の増強という点では効果が高い。このため、本発明に係るシソ風味香料組成物には、トランス体を単独で、又はトランス体の含有比率が高い異性体混合物を用いることが好ましい。異性体混合物を用いる場合の異性体の比率は、シス体1質量部に対してトランス体1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましい。
【0023】
本発明に係るシソ風味香料組成物に用いられる天然香料素材としては、シソ科植物の葉、茎、種子から得られる精油、抽出物を挙げることができる。シソ科植物は特に限定されるものではないが、アカジソ、カタメンジソ、アオジソ、チリメンジソ等が例示される。これらのシソ科植物の葉等を水蒸気蒸留することによって得られる精油(シソ精油)が、最も一般的に用いられる天然香料素材である。また、シソ科植物の葉等を、水、アルコール等の有機溶媒、超臨界状態の二酸化炭素などを用いて抽出することにより得られるエキストラクトやオレオレジン等も、天然香料素材として例示される。これらのシソ科植物由来の天然香料素材(以下、「シソ天然香料素材」ということがある)の香気成分組成は、原料となるシソ科植物の種類や組織、産地、採取時期の他、製造方法や製造条件により変動する。一般には、シソ天然香料素材は、リモネン、リナロール、ベンズアルデヒド、カリオフィレン、ペリラアルデヒド、シス/トランス-シソオール、ぺリラアルコール等の香気成分を含有する。これらの香気成分うち主成分であるペリラアルデヒドは、シソ風味を達成するために最も重要な香気成分であり、シソ天然香料素材中に20~60質量%含まれる。
【0024】
本発明に係るシソ風味香料組成物に用いられる合成香料素材としては、一般的に香料原料として用いられている化合物であれば特に制限されるものではなく、化学的・生物的手法で合成された化合物、市販されている化合物、天然原料から単離・精製した化合物を適宜使用することができる。具体的には、シソ天然香料素材の主要香気成分である前記の香気成分の他、α-ピネン、β-ピネン、カンフェン、ミルセン、p-シメン、3-オクタノール、1-オクテン-3-オール、α-フムレン、α-テルピネオール、ベンジルアルコール、β-フェニルエチルアルコール、カルボン、8-メチル-8-ノネン-1-オール、シス/トランス-リナロールオキサイド、α-ビサボレン、β-カリオフィレンオキサイド、10-ピナナール、10-ピナノール、エレミシン、α-ファルネセン、シス/トランス-カルベオール、炭素数4~8の脂肪族カルボン酸等が挙げられるが、これには限定されない。合成香料素材としても、ペリラアルデヒドは最も重要な香気成分であり、シソ香気を代表する成分としてシソ風味香料組成物中に約20~60質量%含まれることが好ましい。天然香料素材と合成香料素材を組み合わせたシソ風味香料組成物の場合は、天然香料素材中に含まれるペリラアルデヒドと合成香料素材として香料組成物に添加したペリラアルデヒドの合計の含有量が約20~60質量%となることが好ましい。
【0025】
シソ精油等の天然香料素材は、シソ本来のボリュームある風味を付与する効果が高く、合成香料素材だけでは再現が困難な天然のシソ風味を飲食品に付与するためには、シソ風味香料組成物全体に対するシソ精油等のシソ天然香料素材の含有量を、できるだけ増量することが好ましい。しかし、近年のシソ精油等の生産量減少により、シソ風味香料組成物へのシソ精油等の含有量増量は困難な状況となっている。
【0026】
近年の香料用に栽培されるシソの生産量減少により、シソ風味香料組成物へのシソ精油等のシソ天然香料素材の配合量は、多くても20質量%程度である。原料の入手やコスト等の面からは、シソ天然香料素材の配合量をこれよりさらに削減することが好ましい。しかし、シソ天然香料素材の配合量を削減するとシソ本来の風味は弱くなり、シソ香料としての価値は低下する。これに対して、1,2-ジヒドロペリラアルデヒドにはシソ本来の風味を増強する効果があることから、シソ風味香料組成物に1,2-ジヒドロペリラアルデヒドを含有させることにより、天然のシソが有しているような好ましい風味を維持しつつ、香料組成物へのシソ天然香料素材の配合量を削減することができる。例えば、1,2-ジヒドロペリラアルデヒドをシソ風味香料組成物に含有させることにより、シソ天然香料素材の配合量を20質量%以下、例えば0.5~20質量%の範囲に削減しつつ、香料としての価値を落とすことなく所望の風味のシソ風味香料組成物を得ることができる。すなわち、本発明に係るシソ風味香料組成物は、近年のシソ精油の供給不足の問題にも対応することができる。
【0027】
本発明に係るシソ風味香料組成物において、シソ天然香料素材の削減量と1,2-ジヒドロペリラアルデヒドの含有量は、シソ風味香料組成物に対して所望するシソ風味の強さに応じて、適宜定めることができる。本発明に係るシソ風味香料組成物としては、シソ風味香料組成物中のペリラアルデヒドと1,2-ジヒドロペリラアルデヒドの比率が一定の範囲内に調整されていることが好ましい。本発明に係るシソ風味香料組成物は、前記のとおりシソ天然香料素材に含まれるペリラアルデヒド及び合成香料素材としてシソ風味香料組成物に配合したペリラアルデヒドを一定量含有していることが好ましい。
【0028】
本発明に係るシソ風味香料組成物としては、1,2-ジヒドロペリラアルデヒドの含有量が、ペリラアルデヒド1質量部に対して0.0000003~0.25質量部である、すなわち、質量比でペリラアルデヒドの含有量に対する1,2-ジヒドロペリラアルデヒドの含有量の比率(1,2-ジヒドロペリラアルデヒド配合比率)が0.0000003~0.25であることが好ましい。本発明に係るシソ風味香料組成物の1,2-ジヒドロペリラアルデヒド配合比率としては、より好ましくは0.00003~0.2の範囲内、さらに好ましくは0.00003~0.01の範囲内である。本発明に係るシソ風味香料組成物の1,2-ジヒドロペリラアルデヒド配合比率を前記範囲内とすることにより、シソ天然香料素材の配合量と1,2-ジヒドロペリラアルデヒドの配合量とのバランスがとれたシソ風味香料組成物とすることができる。1,2-ジヒドロペリラアルデヒド配合比率が0.0000003未満では、1,2-ジヒドロペリラアルデヒドの含有量が不足し、シソ風味増強効果が十分に得られず、当該比率が0.25を超える場合は、1,2-ジヒドロペリラアルデヒドの風味が強くなり過ぎることで、自然なシソの風味が損なわれる場合がある。
【0029】
本発明に係るシソ風味香料組成物は、水、エタノール、プロピレングリコール、グリセリン、中鎖脂肪酸油(MCT)等の溶剤に溶解させて、使用目的に応じて水溶性香料、油溶性香料として使用することができる。また、一般的に用いられる乳化剤や賦形剤を含有させて、常法に従って乳化香料、粉末香料とすることもできる。
【0030】
(3)経口組成物
本発明に係るシソ風味香料組成物を経口組成物に含有させることにより、当該経口組成物にシソ風味を付与することができる。そこで、本発明に係るシソ風味香料組成物を原料として用いて、経口組成物に添加することによって、シソ風味を有する経口組成物を製造することができる。
【0031】
本発明に係るシソ風味香料組成物が適用される経口組成物は、経口摂取される製品又は口腔内で用いられる製品であり、飲食品、医薬部外品、医薬品、口腔衛生剤等が該当する。具体的には、飲食品としては、炭酸飲料、果実飲料、果実風味飲料(無果汁を含む)、野菜飲料、茶飲料、スポーツドリンク、乳性飲料、エナジードリンク、コーヒー飲料等の清涼飲料、乳飲料、アルコール飲料等の飲料類;ドレッシング、たれ、つゆ、ソース、マヨネーズ等の調味料類;まんじゅう、羊羹、ういろう、キャンディー、チューインガム、スナック類、クッキー、ビスケット、ケーキ等の和洋菓子類;ゼリー、プリン、ババロア、アイスクリーム、アイスキャンディー、シャーベット等の冷菓・氷菓類;ラーメン、うどん、そば等のインスタント食品のスープ・だし類、カレー、シチュー、パスタソース、スープ、ふりかけ、お茶漬け、漬物、おむすびの素、すしの素、即席みそ汁、即席お吸い物、調理冷凍食品、練り製品、乳製品、栄養ドリンク等が挙げられる。医薬品としては、うがい薬等が挙げられる。口腔衛生剤としては、歯磨き、口中清涼剤、口臭防止剤等が挙げられる。
【0032】
本発明に係るシソ風味香料組成物の経口組成物への添加量は、特に制限されるものではなく、経口組成物のシソ風味が所望の強さになるよう添加量を適宜調整することができる。一般的には、経口組成物中の1,2-ジヒドロペリラアルデヒドの含有量が0.1ppb~50ppmの範囲内となるように添加することが好ましく、5ppb~50ppmの範囲内となるように添加することがより好ましい。
【0033】
本発明に係るシソ風味香料組成物を含有する経口組成物を製造する際、本発明に係るシソ風味香料組成物を経口組成物へ添加する時期は特に制限されるものではなく、当該経口組成物の製造工程の各段階で適宜添加することができる。経口組成物の製造が殺菌工程を含む場合は、一般的には殺菌工程の前に添加するが、シソ風味香料組成物を膜濾過等で除菌することにより、殺菌工程の後に添加することもできる。
【0034】
(4)経口組成物のシソ風味増強方法
シソ風味を有する経口組成物に、1,2-ジヒドロペリラアルデヒドを添加することにより、当該経口組成物のシソ風味を増強することができる。シソ風味を有する経口組成物に添加する1,2-ジヒドロペリラアルデヒドの量は特に制限されるものではなく、経口組成物のシソ風味が所望の強さになるよう添加量を適宜調整することができる。1,2-ジヒドロペリラアルデヒドの経口組成物への添加量としては、十分なシソ風味増強効果が得られることから、例えば、経口組成物全体に対する濃度が0.1ppb~50ppmとなる量とすることができる。また、経口組成物がペリラアルデヒドを含有している場合、当該経口組成物の1,2-ジヒドロペリラアルデヒド配合比率がペリラアルデヒドの含有量に対し0.0000003~0.25の範囲内となる量の1,2-ジヒドロペリラアルデヒドを添加させることが好ましい。
【実施例
【0035】
次に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限
定されるものではない。
【0036】
[実施例1] シソ風味香料組成物
ペリラアルデヒドを含有するシソ風味香料組成物に、各種濃度の1,2-ジヒドロペリラアルデヒドを添加し、シソ風味に対する影響を調べた。
【0037】
ペリラアルデヒドを46.3質量%含有しており、かつシソ天然香料素材を含まないシソ風味香料A(小川香料株式会社製)を50質量部、ペリラアルデヒドを50.0質量%含有する市販のシソ精油Aを5質量部、溶剤としてMCTを45質量部配合したシソ風味香料組成物を調製し、対照サンプルとした。
【0038】
対照サンプルと同じシソ風味香料A(ペリラアルデヒド46.3質量%)、シソ精油A(ペリラアルデヒド50.0質量%)、及びMCTを配合したシソ風味香料組成物に、シス-1,2-ジヒドロペリラアルデヒド(cis-1,2-DHP)及びトランス-1,2-ジヒドロペリラアルデヒド(trans-1,2-DHP)を添加し、表1の組成のシソ風味香料組成物1~6を調製した。
【0039】
【表1】
【0040】
[試験例1] シソ風味香料組成物への1,2-ジヒドロペリラアルデヒド添加効果
実施例1で製造された対照サンプル及び香料組成物1~6を、イオン交換水にそれぞれ0.1質量%添加した評価用サンプルを調製した。これらの評価用サンプルを用いて、11名の訓練されたパネルにより、香料組成物1~6のシソ精油由来のボリュームあるシソ風味の強さを、下記の基準で評価した。
【0041】
(評価基準)
優れる:対照サンプルと比較して、強度が強い
変化なし:対照サンプルと比較して、概ね同等の強度
劣る:対照サンプルと比較して、強度が弱い、又は違和感がある
【0042】
香料組成物1~6の評価結果を表2に示す。評価結果は、評価基準に従って判定したパネルの人数で表した。表中、「1,2-DHP」は1,2-ジヒドロペリラアルデヒド、「Perilla」はペリラアルデヒドを、それぞれ表す。
【0043】
【表2】
【0044】
表2に示したとおり、1,2-ジヒドロペリラアルデヒドを含有している香料組成物1~6は、対照サンプルと同等又はそれ以上のシソ精油由来のボリュームある風味を呈し、さらに1,2-ジヒドロペリラアルデヒドを0.1ppm~50000ppm含有する含有している香料組成物2~5は、いずれも、対照サンプル以上のシソ精油由来のボリュームある風味を持つシソ風味香料組成物であった。これらの結果から、1,2-ジヒドロペリラアルデヒドを添加することにより、シソ風味香料組成物のシソ風味が強化されることがわかった。
【0045】
[実施例2] シソ風味香料組成物
実施例1と同じシソ風味香料A、シソ精油A、及びMCTを配合したシソ風味香料組成物に、シス-1,2-ジヒドロペリラアルデヒド及びトランス-1,2-ジヒドロペリラアルデヒドを比率を変えて添加し、表3の組成の香料組成物7~9を調製した。表3には、実施例1で製造した香料組成物3も記載した。
【0046】
【表3】
【0047】
[試験例2] シス体及びトランス体による添加効果の比較
試験例1と同様に、香料組成物7~9について評価用サンプルを調製し、11名の訓練されたパネルにより、試験例1と同様にして、同じ対照サンプル、評価基準で評価した。結果を表4に示した。実施例1で製造した香料組成物3も同様に評価した。
【0048】
【表4】
【0049】
表4に示したとおり、シス-1,2-ジヒドロペリラアルデヒドに対するトランス-1,2-ジヒドロペリラアルデヒドの添加比率を上げていくことによって、シソ精油のボリュームのある風味を増強する効果が高まった。また、1,2-ジヒドロペリラアルデヒドのトランス体はシス体と比較して、顕著なシソ風味増強効果が認められた。
【0050】
[実施例3] シソ風味香料組成物
実施例1と同じシソ風味香料A、シソ精油A、及びMCTを用い、シソ精油の配合量と1,2-ジヒドロペリラアルデヒドの添加量がそれぞれ異なる表5の組成の対照サンプル及び香料組成物10~13を調製した。実施例1で製造した香料組成物4も同様に評価した。
【0051】
【表5】
【0052】
[試験例3]シソ精油配合量の削減効果
試験例1と同様に、香料組成物10~13について評価用サンプルを調製し、11名の訓練されたパネルにより、試験例1と同様にして、以下の評価基準で評価した。結果を表6に示した。表6には、実施例1で製造した香料組成物4の評価結果も記載した。
【0053】
(評価基準)
優れる:対照サンプルと比較して、強度が強い
概ね同等:対照サンプルと比較して、概ね同等の強度(わずかに異なるが許容範囲内)
劣る:対照サンプルと比較して、強度が弱い、又は違和感がある
【0054】
【表6】
【0055】
表6に示したとおり、対照サンプルよりシソ精油の配合量を削減した香料組成物4、11、及び12は、対照サンプルに比べて同等以上のボリュームあるシソ風味を有していた。これらの結果から、1,2-ジヒドロペリラアルデヒドの添加量を調整することによって、シソ精油の配合量を削減しても、シソ精油由来のボリュームあるシソ風味を維持できることがわかった。
【0056】
[実施例4]和風ノンオイルドレッシング
表7の処方に記載の原料のうち、増粘剤(キサンタンガム)と99%エタノール以外の原料を混合して、ハンドブレンダー(バーミックス社製)(強)で30秒間攪拌した。その後、99%エタノールに分散させたキサンタンガムを添加し、前記ハンドブレンダー(強)で1分間攪拌した。得られた混合物を容器に充填し、70℃の湯浴中で10分間加熱殺菌し、1,2-ジヒドロペリラアルデヒドを0.1ppb含有する和風ノンオイルドレッシングを調製した。
【0057】
【表7】
【0058】
[実施例5]冷やし中華のたれ(キムチベース)
表8の処方に記載の原料を混合し、90℃達温殺菌して、1,2-ジヒドロペリラアルデヒドを10ppb含有する梅シソ風味の冷やし中華のたれを調製した。
【0059】
【表8】
【0060】
[実施例6]ふりかけ
表9の処方に記載の原料を混合し、少量の水を加えて練り合わせた後、顆粒化して、1,2-ジヒドロペリラアルデヒドを1ppm含有するシソ風味のふりかけを調製した。
【0061】
【表9】
【0062】
[実施例7]浅漬けの素
表10の処方に記載の原料を混合し、殺菌(85℃、30分間)し、1,2-ジヒドロペリラアルデヒドを1ppm含有するシソ風味の浅漬けの素を調製した。
【0063】
【表10】
【0064】
[実施例8]佃煮
表11の処方に記載の原料を用い、1,2-ジヒドロペリラアルデヒドを10ppm含有する佃煮を調製した。具体的には、まず、水と醸造酢を混ぜた混合物に、水洗いした昆布を入れ、沸騰するまで加熱した。沸騰後に弱火にし、30分間煮た。得られた煮昆布に、醤油、みりん、砂糖を加え、沸騰するまで加熱し、沸騰後に弱火にし、30分間煮た。その後、香料組成物5を添加し、均一になるまで混合して、佃煮を得た。煮詰め後の合計量は約100gであった。
【0065】
【表11】
【0066】
[実施例9]シソ風味飲料
表12の処方に記載の原料のうち、実施例1の香料組成物3以外の全ての原料を混合してシソ風味飲料を調製した後、得られたシソ風味飲料(1000g)に香料組成物3を0.1g添加した後、殺菌(65℃、10分間)して、1,2-ジヒドロペリラアルデヒドを1ppb含有するシソ風味飲料(pH2.5、Bx.(ブリックス)5.3)を調製した。
【0067】
【表12】
【0068】
[実施例10]シソ風味アルコール飲料
表13の処方に記載の原料のうち、実施例1の香料組成物3以外の全ての原料を混合してシソ風味飲料を調製した後、得られたシソ風味飲料(1000g)に香料組成物3を0.1g添加した後、殺菌(65℃、10分間)して、1,2-ジヒドロペリラアルデヒドを1ppb含有するシソ風味飲料(pH2.5、Bx.5.3)を調製した。
【0069】
【表13】
【0070】
[実施例11]シソ風味キャンディー
還元パラチノース(パラチニット(商品名)、三井製糖社製)(180g)、還元澱粉糖化物(120g)、及び水(30g)を鍋に入れ、170℃まで炊き上げた後、140℃まで冷却した後、アセスルファムカリウム(0.2g)を添加した。得られた混合物を130℃まで冷却した後、実施例2の香料組成物8を0.3g添加し、スタンピング成形して、1,2-ジヒドロペリラアルデヒドを10ppb含有するシソ風味キャンディーを調製した。
【0071】
[実施例12]シソ風味チューインガム
ガムベース(25g)、キシリトール(40g)、還元パラチノース(16g)、マルチトール粉末(13g)、マルチトールシロップ(6g)、及び実施例2の香料組成物8(1g)を混和した後、圧延ロールにて延ばし、裁断機を用いて板状に裁断することによって、1,2-ジヒドロペリラアルデヒドを100ppb含有するシソ風味板状チューングガムを調製した。
【0072】
[試験例4]
実施例4~12で調製された経口組成物について、それぞれ表1の対照サンプルを添加した経口組成物を対照として、11名の訓練されたパネルにより、シソ精油由来のボリュームあるシソ風味の強さと嗜好性を、下記の基準で評価した。結果を表14に示した。
【0073】
(シソ風味の強さの評価基準)
++:8名以上のパネルが、対照よりも香料組成物添加品のほうがシソ風味が強いと評価した。
+:6名以上のパネルが、対照よりも香料組成物添加品のほうがシソ風味が強いと評価した。
+/-:5名以下のパネルが、対照よりも香料組成物添加品のほうがシソ風味が強いと評価した。
【0074】
(嗜好性の評価基準)
++:8名以上のパネルが、対照よりも香料組成物添加品のほうが好ましいと評価した。
+:6名以上のパネルが、対照よりも香料組成物添加品のほうが好ましいと評価した。
+/-:5名以下のパネルが、対照よりも香料組成物添加品のほうが好ましいと評価した。
【0075】
【表14】
【0076】
表14に示したとおり、1,2-ジヒドロペリラアルデヒドを含有するシソ風味香料組成物を添加することによって、経口組成物のシソ風味が強くなり、嗜好性も高まった。
【要約】
【課題】シソ精油の配合量を削減したシソ風味香料組成物においても、十分な量のシソ精油を配合した従来のシソ風味香料組成物と同等のシソ風味を飲食品等に付与できるシソ風味香料組成物を提供すること。
【解決手段】1,2-ジヒドロペリラアルデヒドを含有する、シソ風味香料組成物、前記シソ風味香料組成物を含有する、経口組成物、前記シソ風味香料組成物を添加する、シソ風味を有する経口組成物の製造方法、及びシソ風味を有する経口組成物に、1,2-ジヒドロペリラアルデヒドを0.1ppb~50ppm添加する、経口組成物のシソ風味増強方法。
【選択図】なし