(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-25
(45)【発行日】2022-05-09
(54)【発明の名称】静電荷像現像用トナー
(51)【国際特許分類】
G03G 9/087 20060101AFI20220426BHJP
G03G 9/097 20060101ALI20220426BHJP
【FI】
G03G9/087 331
G03G9/087 325
G03G9/097 365
(21)【出願番号】P 2017213450
(22)【出願日】2017-11-06
【審査請求日】2020-09-28
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 深雪
(72)【発明者】
【氏名】平野 史朗
(72)【発明者】
【氏名】藤▲崎▼ 達矢
(72)【発明者】
【氏名】宮島 謙史
【審査官】福田 由紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-072442(JP,A)
【文献】特開2016-184157(JP,A)
【文献】特開2015-038627(JP,A)
【文献】特開2015-036723(JP,A)
【文献】特開2017-009630(JP,A)
【文献】特開2017-037245(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/08-9/097
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともトナー母体粒子を含有する静電荷像現像用トナーであって、
前記トナー母体粒子が、非晶性樹脂と、離型剤と、結晶性樹脂1と、結晶性樹脂2とを含有し、
前記結晶性樹脂1及び結晶性樹脂2は、多価アルコールと多価カルボン酸をモノマー成分とする結晶性ポリエステル樹脂であり、
前記結晶性樹脂1の多価アルコール成分の炭素数(C1(alcohol))と、前記結晶性樹脂2の多価アルコール成分の炭素数(C2(alcohol))と、前記結晶性樹脂1の多価カルボン酸成分の炭素数(C1(acid))と、前記結晶性樹脂2の多価カルボン酸成分の炭素数(C2(acid))とが、下記式(1)~(4)の関係を満た
し、前記多価カルボン酸成分の炭素数とは、カルボキシ基の炭素を含まない炭素数をいうことを特徴とする静電荷像現像用トナー。
C1(acid)>C1(alcohol)・・・式(1)
C2(acid)>C2(alcohol)・・・式(2)
C1(alcohol)≠C2(alcohol)・・・式(3)
12≦C1(acid)=C2(acid)≦14・・・式(4)
【請求項2】
少なくとも前記結晶性樹脂1及び結晶性樹脂2の含有量が、前記非晶性樹脂に対して、2.0~30質量%の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項3】
前記結晶性樹脂1の多価アルコール成分の炭素数(C1(alcohol))と、前記結晶性樹脂2の多価アルコール成分の炭素数(C2(alcohol))が、下記式(5)の関係を満たすことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の静電荷像現像用トナー。
|C1(alcohol)-C2(alcohol)|≧2・・・式(5)
【請求項4】
少なくとも前記結晶性樹脂1の炭素数(C1(alcohol))と前記結晶性樹脂2の多価アルコール成分の炭素数(C2(alcohol))が、下記式(8)を満たし、かつ、その質量比の値(結晶性樹脂1/結晶性樹脂2)が60/40~1/99の範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー。
C1(alcohol)>C2(alcohol)・・・式(8)
【請求項5】
前記非晶性樹脂が、スチレン・アクリル樹脂を含有することを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電荷像現像用トナーに関し、特に、低温定着性及び耐熱保管性に優れるとともに、トナー流動性を兼ね備えた静電荷像現像用トナーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子写真方式の画像形成装置において、プリントスピードの高速化、環境負荷低減等を目的とした一層の省エネルギー化を図るために、より低い温度で熱定着される静電荷像現像用トナー(以下、単に「トナー」ともいう。)が要求されている。このようなトナーにおいては、結着樹脂の溶融温度や溶融粘度を下げることが必要であり、結晶性ポリエステル樹脂等の結晶性樹脂を添加することで、低温定着性を向上させたトナーが提案されている。
しかしながら、結晶性樹脂を含有するトナーにおいては、トナーの製造時に結晶性樹脂の融点以上に加熱した場合、製造時においても結晶性樹脂が非晶性樹脂に相溶してしまうため、耐熱保管性が悪化するという問題があった。
【0003】
このような構成のトナーの耐熱保管性を向上させる手段として、例えば特許文献1には、2種類の結晶性ポリエステル樹脂に異なるドメインを持たせ含有させることで、結晶性ポリエステル樹脂とビニル樹脂との非相溶を制御が可能になることから、低温定着性と耐熱保管性に対してのトレードオフが解決できると報告されている。
しかしながら、その結晶性ポリエステル樹脂の粒度分布のバラツキにより、他の樹脂との相溶非相溶の関係が崩れてしまうことで耐熱保管性が変動してしまう恐れがあり、確実に耐熱保管性が確保できないという問題がある。
【0004】
特許文献2においては、2種類の結晶性ポリエステル樹脂を含有することで、薄紙両面印刷のような紙が高温定着になり易いとき、樹脂Aと樹脂Bが融解するが、このとき、近しいSP値であるならば、お互いに相溶しあい、両樹脂の中間的な結晶性ポリエステル樹脂としての挙動となり、低温定着と耐熱保管性を確保するという報告がされている。
しかしながら、結晶性樹脂の表面露出を抑制することが十分ではないため、環境変動によりトナー粒子間での凝集・融着が発生してしまうため、低温定着と耐熱保管性の確保が両立できないという問題が残されていた。
【0005】
特許文献3においては、スチレン・アクリル樹脂中の結晶性ポリエステルを分散させる手段として、スチレン・アクリル樹脂と分散剤のSP値を0.10以下にすることで、実現している。常温では、スチレン・アクリル樹脂と変性ポリエステル樹脂が相分離構造をとることで軟化点を維持し、高い耐熱保管性を得ている。また、分散剤を使用することでスチレン・アクリル樹脂中に変性ポリエステル樹脂が高分散し、定着ムラが抑制されるので、面内均一のグロスを得ることを実現している。
しかしながら、結晶性樹脂の表面露出を抑制することが十分ではないため、環境変動によりトナー粒子間での凝集・融着が発生してしまうため、低温定着性と耐熱保管性の確保が両立できないという問題が残されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-11054号公報
【文献】特開2015-114482号公報
【文献】特開2016-224139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、低温定着性及び耐熱保管性に優れるとともに、トナー流動性を兼ね備えた静電荷像現像用トナーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討する過程において、2種類の結晶性ポリエステル樹脂の、多価アルコール成分の炭素数と多価カルボン酸成分の炭素数とが特定の関係を満たすように制御することで、低温定着性及び耐熱保管性に優れるとともに、トナー流動性を兼ね備えた静電荷像現像用トナーを提供することができることを見いだし本発明に至った。
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
1.少なくともトナー母体粒子を含有する静電荷像現像用トナーであって、
前記トナー母体粒子が、非晶性樹脂と、離型剤と、結晶性樹脂1と、結晶性樹脂2とを含有し、
前記結晶性樹脂1及び結晶性樹脂2は、多価アルコールと多価カルボン酸をモノマー成分とする結晶性ポリエステル樹脂であり、
前記結晶性樹脂1の多価アルコール成分の炭素数(C1(alcohol))と、前記結晶性樹脂2の多価アルコール成分の炭素数(C2(alcohol))と、前記結晶性樹脂1の多価カルボン酸成分の炭素数(C1(acid))と、前記結晶性樹脂2の多価カルボン酸成分の炭素数(C2(acid))とが、下記式(1)~(4)の関係を満たし、前記多価カルボン酸成分の炭素数とは、カルボキシ基の炭素を含まない炭素数をいうことを特徴とする静電荷像現像用トナー。
C1(acid)>C1(alcohol)・・・式(1)
C2(acid)>C2(alcohol)・・・式(2)
C1(alcohol)≠C2(alcohol)・・・式(3)
12≦C1(acid)=C2(acid)≦14・・・式(4)
【0009】
2.少なくとも前記結晶性樹脂1及び結晶性樹脂2の含有量が、前記非晶性樹脂に対して、2.0~30質量%の範囲内であることを特徴とする第1項に記載の静電荷像現像用トナー。
【0010】
3.前記結晶性樹脂1の多価アルコール成分の炭素数(C1(alcohol))と、前記結晶性樹脂2の多価アルコール成分の炭素数(C2(alcohol))が、下記式(5)の関係を満たすことを特徴とする第1項又は第2項に記載の静電荷像現像用トナー。
|C1(alcohol)-C2(alcohol)|≧2・・・式(5)
【0012】
4.少なくとも前記結晶性樹脂1の炭素数(C1(alcohol))と前記結晶性樹脂2の多価アルコール成分の炭素数(C2(alcohol))が、下記式(8)を満たし、かつ、その質量比の値(結晶性樹脂1/結晶性樹脂2)が60/40~1/99の範囲内であることを特徴とする第1項から第3項までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー。
C1(alcohol)>C2(alcohol)・・・式(8)
【0014】
5.前記非晶性樹脂が、スチレン・アクリル樹脂を含有することを特徴とする第1項から第4項までのいずれか一項に記載の静電荷像現像用トナー。
【発明の効果】
【0015】
本発明の上記手段により、低温定着性及び耐熱保管性に優れるとともに、トナー流動性を兼ね備えた静電荷像現像用トナーを提供することができる。
本発明の効果の発現機構又は作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように推察している。
結晶性樹脂1及び2において、カルボン酸成分の炭素数をアルコール成分の炭素数よりも多くすること(上記式(1)及び式(2))により、非晶性樹脂との相溶性が上がり、結晶性樹脂がトナー母体粒子表面に露出することを抑制でき、低温定着性に優れる。つまり、カルボン酸成分の炭素数を多くすることで、SP値が小さくなり、定着時に非晶性樹脂と相溶しやすくなる。
また、2種類の結晶性樹脂1及び2を用いること(上記式(3)及び式(4))により、一方の結晶性樹脂1で離型剤との相溶性を高め、離型剤の高温保管時におけるブリードアウトを抑制させることができ、他方の結晶性樹脂2で非晶性樹脂との相溶性を高めることができる。
また、結晶性樹脂1及び2のカルボン酸成分の炭素数を同一にすること(上記式(4))により、上記のようなそれぞれの機能を持った2種類の結晶性樹脂の融点を揃えることができ、結晶性樹脂1及び2同士の相溶性を高めることができる。また、結晶化具合が同等であることにより、トナー中での結晶性樹脂1及び2が同一ドメインをとりやすくなる。
以上のように、上記式(1)~(4)を満たすこと、すなわち、それぞれの組成物のSP値を制御することで、トナーに含有する組成物の効果を最大限に発揮することができ、具体的には、結晶性樹脂が非晶性樹脂と相溶性が高まり、さらに、離型剤との相溶性も高まることから、低温定着性、耐熱保管性及びトナー流動性に優れたトナーを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の静電荷像現像用トナーは、少なくともトナー母体粒子を含有する静電荷像現像用トナーであって、前記トナー母体粒子が、非晶性樹脂と、離型剤と、結晶性樹脂1と、結晶性樹脂2とを含有し、前記結晶性樹脂1及び結晶性樹脂2は、多価アルコールと多価カルボン酸をモノマー成分とする結晶性ポリエステル樹脂であり、前記結晶性樹脂1の多価アルコール成分の炭素数(C1(alcohol))と、前記結晶性樹脂2の多価アルコール成分の炭素数(C2(alcohol))と、前記結晶性樹脂1の多価カルボン酸成分の炭素数(C1(acid))と、前記結晶性樹脂2の多価カルボン酸成分の炭素数(C2(acid))とが、上記式(1)~(4)の関係を満たすことを特徴とする。
この特徴は、本実施形態に係る発明に共通又は対応する技術的特徴である。
【0017】
本発明の実施態様としては、少なくとも前記結晶性樹脂1及び結晶性樹脂2の含有量が、前記非晶性樹脂に対して、2.0~30質量%の範囲内であることが、低温定着性が良好となる点で好ましい。
【0018】
また、前記結晶性樹脂1の多価アルコール成分の炭素数(C1(alcohol))と、前記結晶性樹脂2の多価アルコール成分の炭素数(C2(alcohol))が、上記式(5)の関係を満たすことが、結晶性樹脂を2種類含有させることによる効果が高まり、低温定着性、耐熱保管性及びトナー流動性の点で好ましい。
【0020】
また、少なくとも前記結晶性樹脂1の炭素数(C1(alcohol))と前記結晶性樹脂2の多価アルコール成分の炭素数(C2(alcohol))が、式(8)を満たし、かつ、その質量比の値(結晶性樹脂1/結晶性樹脂2)が60/40~1/99の範囲内であることが、2種類の結晶性樹脂が含有され、トナー性能を損なわずに、トナー流動性を確保することができる点で好ましい。
【0022】
また、前記非晶性樹脂が、スチレン・アクリル樹脂を含有することが、安価にトナーを製造することができる点で好ましい。
【0023】
以下、本発明とその構成要素及び本発明を実施するための形態・態様について説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0024】
[静電荷像現像用トナー]
本発明のトナーは、少なくともトナー母体粒子を含有する静電荷像現像用トナーであって、前記トナー母体粒子が、非晶性樹脂と、離型剤と、結晶性樹脂1と、結晶性樹脂2とを含有し、非晶性樹脂と、離型剤と、結晶性樹脂1と、結晶性樹脂2とを含有し、前記結晶性樹脂1及び結晶性樹脂2は、多価アルコールと多価カルボン酸をモノマー成分とする結晶性ポリエステル樹脂であり、前記結晶性樹脂1の多価アルコール成分の炭素数(C1(alcohol))と、前記結晶性樹脂2の多価アルコール成分の炭素数(C2(alcohol))と、前記結晶性樹脂1の多価カルボン酸成分の炭素数(C1(acid))と、前記結晶性樹脂2の多価カルボン酸成分の炭素数(C2(acid))とが、下記式(1)~(4)の関係を満たし、前記多価カルボン酸成分の炭素数とは、カルボキシ基の炭素を含まない炭素数をいうことを特徴とする。
C1(acid)>C1(alcohol)・・・式(1)
C2(acid)>C2(alcohol)・・・式(2)
C1(alcohol)≠C2(alcohol)・・・式(3)
12≦C1(acid)=C2(acid)≦14・・・式(4)
【0025】
本発明において、多価カルボン酸成分の炭素数とは、カルボキシ基の炭素を含まない炭素数をいい、多価アルコール成分の炭素数とは、ヒドロキシ基からつながる炭素数をいう。
【0026】
<トナー母体粒子>
本発明に係るトナー母体粒子は、非晶性樹脂と、離型剤と、結晶性樹脂1と、結晶性樹脂2とを含有する。
また、本発明に係るトナー母体粒子は、その他必要に応じて、着色剤、離型剤(ワックス)及び荷電制御剤などの他の構成成分を含有してもよい。
【0027】
なお、本発明において、トナー母体粒子に外添剤を添加したものをトナー粒子といい、トナー粒子の集合体をトナーという。トナー母体粒子は、一般的には、そのままでもトナー粒子として用いることもできるが、本発明においては、トナー母体粒子に外添剤を添加したものをトナー粒子として用いる。
【0028】
<結晶性樹脂1及び結晶性樹脂2>
本発明に係る結晶性樹脂1及び結晶性樹脂2は、多価アルコールと多価カルボン酸をモノマー成分とする結晶性ポリエステル樹脂である。
ここで、2種類の結晶性樹脂1及び2を用いるのは、製造性及びトナーとしての性能を両立させるためである。
結晶性樹脂1及び2を以下で詳説する非晶性樹脂と混合して用いることにより、加熱定着時に、結晶性樹脂2が非晶性樹脂と相溶する。その結果、トナーの低温定着化を図ることができ、省エネルギー化を図ることができる。
【0029】
本発明において、結晶性樹脂とは、示差走査熱量測定(DSC)において、階段状の吸熱変化ではなく、明確な吸熱ピークを有する樹脂をいう。明確な吸熱ピークとは、具体的には、示差走査熱量測定(DSC)において、昇温速度10℃/分で測定した際に、吸熱ピークの半値幅が15℃以内であるピークのことを意味する。
【0030】
結晶性樹脂1及び2としては、上記特性を有し、かつ、上記式(1)~(4)の関係を満たすものであれば特に制限はなく、本技術分野における従来公知の結晶性樹脂を用いることができる。
その具体例としては、結晶性ポリエステル樹脂、結晶性ポリウレタン樹脂、結晶性ポリウレア樹脂、結晶性ポリアミド樹脂、結晶性ポリエーテル樹脂等が挙げられる。結晶性樹脂は、単独でも又は2種以上組み合わせても用いることができる。
中でも、本発明に係る結晶性樹脂は、結晶性ポリエステル樹脂であることが好ましい。ここで、「結晶性ポリエステル樹脂」とは、2価以上のカルボン酸(多価カルボン酸)及びその誘導体と、2価以上のアルコール(多価アルコール)及びその誘導体との重縮合反応によって得られる公知のポリエステル樹脂のうち、上記吸熱特性を満たす樹脂である。
【0031】
結晶性ポリエステル樹脂の融点は特に制限されないが、55~90℃の範囲内であることが好ましい。結晶性ポリエステル樹脂の融点が上記範囲であることにより、十分な低温定着性が得られる。このような観点から、より好ましくは60~85℃の範囲内である。なお、結晶性ポリエステル樹脂の融点は、樹脂組成によって制御することができる。
また、本明細書中、樹脂の融点は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0032】
また、本発明において、少なくとも前記結晶性樹脂1及び結晶性樹脂2の含有量が、前記非晶性樹脂に対して、2.0~30質量%の範囲内であることが、低温定着性が良好となる点で好ましく、20質量%程度であることがより好ましい。
【0033】
(式(1)及び式(2)について)
C1(acid)>C1(alcohol)・・・式(1)
C2(acid)>C2(alcohol)・・・式(2)
2種類の結晶性樹脂1及び2が、上記式(1)及び式(2)の関係を満たすことを特徴とする。これにより、アルコール成分の炭素数よりもカルボン酸成分の炭素数が多くなる。カルボン酸成分の炭素数が多くなることで、SP値が小さくなり、定着時に非晶性樹脂と相溶しやすくなる。その結果、低温定着性が良好となる。
【0034】
(式(3)及び式(4)について)
C1(alcohol)≠C2(alcohol)・・・式(3)
12≦C1(acid)=C2(acid)≦14・・・式(4)
2種類の結晶性樹脂1及び2が、上記式(3)及び(4)の関係を満たすことを特徴とする。これにより、一方の結晶性樹脂1で離型剤との相溶性を高め、離型剤の高温保管時におけるブリードアウトを抑制させることができ、他方の結晶性樹脂2で非晶性樹脂との相溶性を高めることができる。
また、結晶性樹脂1及び2のカルボン酸成分の炭素数を同一とすることにより、2種類の結晶性樹脂1及び2の融点を揃えることができ、結晶性樹脂1及び2同士の相溶性を高めることができる。また、結晶化具合が同等であることにより、トナー中での結晶性樹脂1及び2が同一ドメインをとりやすくなる。
【0035】
(式(5)について)
前記結晶性樹脂1の多価アルコール成分の炭素数(C1(alcohol))と、前記結晶性樹脂2の多価アルコール成分の炭素数(C2(alcohol))が、下記式(5)の関係を満たすことが、結晶性樹脂を2種類含有させることによる効果が高まり、低温定着性、耐熱保管性及びトナー流動性の点で好ましい。
|C1(alcohol)-C2(alcohol)|≧2・・・式(5)
(式(6)及び式(7)について)
前記結晶性樹脂1の多価カルボン酸成分の炭素数(C1(acid))と、前記結晶性樹脂2の多価カルボン酸成分の炭素数(C2(acid))が、下記式(6)及び(7)の関係を満たすことが、離型剤との相溶性が高まり、トナー高温保管時における離型剤のブリードアウト抑制の点で好ましい。
C1(acid)≧10・・・式(6)
C2(acid)≧10・・・式(7)
【0036】
(式(8)について)
少なくとも前記結晶性樹脂1の炭素数(C1(alcohol))と前記結晶性樹脂2の多価アルコール成分の炭素数(C2(alcohol))が、式(8)を満たし、かつ、その質量比の値(結晶性樹脂1/結晶性樹脂2)が60/40~1/99の範囲内であることが、2種類の結晶性樹脂が含有され、トナー性能を損なわずに、トナー流動性を確保することができる点で好ましい。
C1(alcohol)>C2(alcohol)・・・式(8)
また、前記質量比の値は、30/70~1/99の範囲内であることがより好ましい。
【0037】
(多価カルボン酸成分)
本発明に係る結晶性ポリエステル樹脂1及び2を構成する多価カルボン酸成分としては、例えば、シュウ酸(エタン二酸)、マロン酸(プロパン二酸)、コハク酸(ブタン二酸)、グルタル酸(ペンタン二酸)、アジピン酸(ヘキサン二酸)、ピメリン酸(ヘプタン二酸)、スベリン酸(オクタン二酸、1,6-ヘキサンジカルボン酸:COOH-C
6
H
12
-COOH)、アゼライン酸(ノナン二酸)、セバシン酸(デカン二酸、1,8-オクタンジカルボン酸:COOH-C
8
H
16
-COOH)、1,9-ノナンジカルボン酸(ウンデカン二酸:COOH-C
9
H
18
-COOH)、1,10-デカンジカルボン酸(ドデカン二酸:COOH-C
10
H
20
-COOH)、1,11-ウンデカンジカルボン酸(トリデカン二酸:COOH-C
11
H
22
-COOH)、1,12-ドデカンジカルボン酸(テトラデカン二酸:COOH-C
12
H
24
-COOH)、1,13-トリデカンジカルボン酸(ペンタデカン二酸:COOH-C
13
H
26
-COOH)、1,14-テトラデカンジカルボン酸(ヘキサデカン二酸:COOH-C
14
H
28
-COOH)などを用いることができる。また、これらの低級アルキルエステルや酸無水物を用いてもよい。上記多価カルボン酸は、単独でも又は2種以上を混合して用いてもよい。
なお、上記多価カルボン酸成分の名称において、括弧内に別名及び構造式を示した。
【0038】
(多価アルコール成分)
本発明に係る結晶性ポリエステル樹脂1及び2を構成する多価アルコール成分としては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-へキサンジオール、1,7-へ
プタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-ブテンジオールなどの脂肪族ジオール;グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ソルビトールなどの3価以上の多価アルコール;などが挙げられる。また、これらの誘導体を用いてもよい。上記多価アルコールは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
【0040】
結晶性ポリエステル樹脂の数平均分子量(Mn)は、特に制限されないが、1500~25000の範囲内であることが好ましく、3000~20000の範囲内であることがより好ましい。このような範囲であれば、低温定着性をより向上させることができる。上記数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定することができ、具体的には、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0041】
結晶性ポリエステル樹脂の製造方法は特に制限されず、公知のエステル化触媒を利用して、上記多価アルコール及び多価カルボン酸を重縮合する(エステル化する)ことにより製造することができる。
結晶性ポリエステル樹脂の製造の際に使用可能な触媒としては、ナトリウム、リチウム等のアルカリ金属化合物;マグネシウム、カルシウム等の第2族元素を含む化合物;アルミニウム、亜鉛、マンガン、アンチモン、チタン、スズ、ジルコニウム、ゲルマニウム等の金属化合物;亜リン酸化合物;リン酸化合物;及びアミン化合物等が挙げられる。入手容易性等を考慮すると、酸化ジブチルスズ、オクチル酸スズ、ジオクチル酸スズ、これらの塩や、テトラノルマルブチルチタネート(オルトチタン酸テトラブチル)、テトライソプロピルチタネート(チタンテトライソプロポキシド)、テトラメチルチタネートなどを用いることが好ましい。これらは単独でも又は2種以上を混合して用いてもよい。
重縮合(エステル化)の温度は特に限定されるものではないが、150~250℃の範囲内であることが好ましい。また、重縮合(エステル化)の時間は特に限定されるものではないが、0.5~15時間の範囲内であることが好ましい。重縮合中には、必要に応じて反応系内を減圧にしてもよい。
【0042】
本発明のトナーは、結着樹脂として、上記結晶性ポリエステル樹脂1及び2に加え、非晶性樹脂を含む。
本発明のトナーは、少なくとも前記結晶性樹脂1及び結晶性樹脂2の含有量が、前記非晶性樹脂に対して、2.0~30質量%の範囲内であることが、低温定着性が良好となる点で好ましい。より好ましくは、5~25質量%の範囲内である。
【0043】
本発明のトナーにおける結晶性ポリエステル樹脂1及び2の総含有量は、それぞれ、結着樹脂全体に対して、1~30質量%の範囲内であることが好ましく、3~20質量%の範囲内であることがより好ましく、6~17質量%の範囲内であることが特に好ましい。
結晶性ポリエステル樹脂1及び2の総含有量が1質量%以上であると、非晶性樹脂との相溶により適度に可塑化し、低温定着性が向上しやすくなる。一方、結晶性ポリエステル樹脂1及び2の含有量が30質量%以下であると、トナーにおいて、結晶性ポリエステル樹脂1及び2がトナー母体粒子表面に露出しにくくなるため、帯電性がより向上し、高温高湿環境下であっても画像濃度むらが抑制され、また、画像濃度も向上する。
【0044】
また、同じく低温定着性の向上及び画像濃度むらの環境依存性の抑制という観点から、本発明のトナーにおける結晶性ポリエステル樹脂の含有量は、それぞれ、結晶性ポリエステル樹脂1及び2と、非晶性樹脂と、離型剤とを合計した全質量に対し、1~30質量%の範囲内であることが好ましく、3~20質量%の範囲内であることがより好ましく、6~15質量%の範囲内であることが特に好ましい。このような範囲内とすると、低温定着性に優れると共に、形成される画像の濃度もまた向上する。
なお、上記結晶性ポリエステル樹脂1及び2の構成成分(構成単位)の構造及び各構成成分(各構成単位)の含有量(割合)は、例えば、NMR測定、メチル化反応Py-GC/MS測定により特定することができる。
【0045】
<非晶性樹脂>
非晶性樹脂は、トナーに含まれる結着樹脂の主成分であることが好ましい。
結着樹脂が主成分として非晶性樹脂を含むことにより、非晶性樹脂がトナー母体粒子表面に存在しやすくなる。その結果、非晶性樹脂の電気抵抗の高さに起因して、トナー母体粒子の帯電性を良好にすることができる。
ここで、「主成分」とは、結着樹脂の中で最も含有割合が高い樹脂であることを意味する。非晶性樹脂は、結着樹脂全体に対して、50質量%以上であることが好ましく、70~99質量%の範囲内であることがより好ましく、80~97質量%の範囲内であることがさらにより好ましく、83~94質量%の範囲内であることが特に好ましい。
また、非晶性樹脂の含有量は、結晶性ポリエステル樹脂1及び2と、非晶性樹脂と、離型剤とを合計した全質量に対し、65~95質量%の範囲内であることが好ましく、75~90質量%の範囲内であることがより好ましく、80~88質量%の範囲内であることが特に好ましい。このような範囲内とすると、低温定着性に優れると共に、形成される画像の濃度もまた向上する。
【0046】
本発明において、非晶性樹脂とは、示差走査熱量測定(DSC)を行った時に、融点を有さず、比較的高いガラス転移温度(Tg)を有する樹脂である。このとき、ガラス転移温度(Tg)が、30~80℃の範囲内であることが好ましく、40~65℃の範囲内であることが特に好ましい。
なお、ガラス転移温度(Tg)は、示差熱量分析装置(DSC)により測定することができ、具体的には、実施例に記載の方法により測定される。上記ガラス転移温度は、当業者であれば、樹脂の組成によって制御することが可能である。
非晶性樹脂としては、本技術分野における従来公知の非晶性樹脂が用いられうるが、中でも、非晶性ポリエステル樹脂又はビニル樹脂が好ましく、これらの樹脂を混合して用いてもよい。特に、非晶性樹脂は、帯電量の環境安定性に優れるという観点から、ビニル樹脂を含んでいることが好ましい。
【0047】
(ビニル樹脂)
ビニル樹脂とは、少なくともビニル単量体を用いた重合により得られる樹脂である。ビニル樹脂として、具体的には、アクリル樹脂、スチレン・アクリル共重合体樹脂(スチレン・アクリル樹脂)などが挙げられる。
中でも、ビニル樹脂としては、スチレン単量体及び(メタ)アクリル酸エステル単量体を用いて形成されるスチレン・アクリル共重合体樹脂が好ましい。すなわち、本発明に係る非晶性樹脂は、スチレン・アクリル樹脂を含むことが好ましい。
スチレン・アクリル共重合体樹脂は、帯電量の環境安定性に優れるため、本発明に係る非晶性樹脂として特に好適である。なお、ビニル樹脂は、単独でも又は2種以上組み合わせて用いてもよい。
ビニル樹脂を形成するビニル単量体としては、下記のものから選択される1種又は2種以上を用いることができる。
【0048】
(1)スチレン単量体
スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレン、p-フェニルスチレン、p-エチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、p-n-ヘキシルスチレン、p-n-オクチルスチレン、p-n-ノニルスチレン、p-n-デシルスチレン、p-n-ドデシルスチレン及びこれらの誘導体など。
【0049】
(2)(メタ)アクリル酸エステル単量体
(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル(n-ブチル(メタ)アクリレート)、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル及びこれらの誘導体など。
【0050】
(3)ビニルエステル類
プロピオン酸ビニル、酢酸ビニル、ベンゾエ酸ビニルなど。
【0051】
(4)ビニルエーテル類
ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテルなど。
【0052】
(5)ビニルケトン類
ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルヘキシルケトンなど。
【0053】
(6)N-ビニル化合物類
N-ビニルカルバゾール、N-ビニルインドール、N-ビニルピロリドンなど。
【0054】
(7)その他
ビニルナフタレン、ビニルピリジンなどのビニル化合物類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミドなどのアクリル酸あるいはメタクリル酸誘導体など。
【0055】
また、ビニル単量体としては、例えば、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基などのイオン性解離基を有する単量体を用いることが好ましい。具体的には、以下のものがある。
カルボキシ基を有する単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、ケイ皮酸、フマル酸、マレイン酸モノアルキルエステル、イタコン酸モノアルキルエステルなどが挙げられる。
また、スルホン酸基を有する単量体としては、スチレンスルホン酸、アリルスルホコハク酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸などが挙げられる。
さらに、リン酸基を有する単量体としてはアシドホスホオキシエチルメタクリレートなどが挙げられる。
【0056】
さらに、ビニル単量体として多官能性ビニル類を使用し、架橋構造を有するビニル樹脂としてもよい。
多官能性ビニル類としては、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレートなどが挙げられる。
【0057】
ビニル樹脂の製造方法は、特に制限されず、上記単量体の重合に通常用いられる過酸化物、過硫酸塩、過硫化物、アゾ化合物などの任意の重合開始剤を用い、塊状重合、溶液重合、乳化重合法、ミニエマルション法、分散重合法など公知の重合手法により重合を行う方法が挙げられる。
また、分子量を調整することを目的として、一般的に用いられる連鎖移動剤を用いることができる。連鎖移動剤としては特に限定されるものではなく、例えばアルキルメルカプタン、メルカプト脂肪酸エステルなどを挙げることができる。
また、ビニル樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定される分子量は、重量平均分子量(Mw)で10000~100000の範囲内であると好ましい。
本発明に係る非晶性樹脂は、ビニル樹脂を含んでいることが好ましく、スチレン・アクリル樹脂を含んでいることがより好ましい。ビニル樹脂(特にスチレン・アクリル樹脂)は、非晶性ポリエステル樹脂と比較して、極性の高い官能基が少なく、吸湿性が低いため、高温高湿環境下における転写性が良好となる。したがって、画像濃度むらの環境依存性を低減しやすい。また、環境に依存せず、良好な画像濃度を得ることができる。
非晶性樹脂中のスチレン・アクリル樹脂の含有量は特に制限されない。上記のように、画像濃度むらの環境依存性を低減するという観点からは、スチレン・アクリル樹脂の含有量は、非晶性樹脂の全量に対し、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが特に好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
【0058】
<離型剤>
本発明に係る離型剤としては、特に限定されるものではなく、公知の種々のワックスを用いることができ、例えば、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスなどのポリオレフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスなどの分枝鎖状炭化水素ワックス、パラフィンワックス、サゾールワックスなどの長鎖炭化水素系ワックス、ジステアリルケトンなどのジアルキルケトン系ワックス、カルナバワックス、モンタンワックス、ベヘン酸ベヘニル、トリメチロールプロパントリベヘネート、ペンタエリスリトールテトラベヘネート、ペンタエリスリトールジアセテートジベヘネート、グリセリントリベヘネート、1,18-オクタデカンジオールジステアレート、トリメリット酸トリステアリル、ジステアリルマレエートなどのエステル系ワックス、エチレンジアミンベヘニルアミド、トリメリット酸トリステアリルアミドなどのアミド系ワックスなどが挙げられる。
中でも、本発明のトナーにおいてトナー母体粒子の内部に結晶性ポリエステル樹脂を存在させやすくし、帯電性を向上させるため、離型剤としては、疎水性の高い炭化水素系ワックス類を用いることが好ましい。
【0059】
離型剤の含有量は、結着樹脂全量に対して2~20質量%の範囲内であることが好ましく、3~18質量%の範囲内であることがより好ましく、5~15質量%の範囲内であることが特に好ましい。
また、離型剤の含有量は、結晶性ポリエステル樹脂1及び2と、非晶性樹脂と、離型剤とを合計した全質量に対し、1~15質量%の範囲内であることが好ましく、4~13質量%の範囲内であることがより好ましく、5~10質量%の範囲内であることが特に好ましい。このような範囲内とすると、低温定着性に優れると共に、形成される画像の濃度もまた向上する。
また、離型剤の融点は、電子写真方式におけるトナーの低温定着性と離型性との観点から、50~95℃の範囲内であることが好ましい。
【0060】
<着色剤>
本発明のトナーは、ブラックトナー、イエロートナー、マゼンタトナー又はシアントナーである場合、それぞれ下記に示すブラック系着色剤、イエロー系着色剤、マゼンタ系着色剤又はシアン系着色剤を含有する。
【0061】
(ブラック系着色剤)
ブラックトナーに用いられる着色剤としては、カーボンブラックを含む。
カーボンブラックとしては、チャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、又はランプブラックなどが使用される。
さらに、ブラックトナーは、カーボンブラックに加えて、磁性体、染料、その他の顔料などをさらに含んでいてもよい。磁性体としては鉄、ニッケル、又はコバルトなどの強磁性金属、これらの金属を含む合金、フェライト、又は、マグネタイトなどの強磁性金属の化合物などを用いることができる。また、その他の顔料としてはチタンブラック、アニリンブラックなどを用いることができる。
【0062】
(イエロー系着色剤)
イエロートナーに用いられるオレンジ又はイエロー用の着色剤としては、特に制限されない。例えば、有機顔料として、C.I.ピグメントオレンジ31、C.I.ピグメントオレンジ43、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー15、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー94、C.I.ピグメントイエロー138、C.I.ピグメントイエロー155、C.I.ピグメントイエロー180、C.I.ピグメントイエロー185等が挙げられる。
また、染料としては、例えば、C.I.ソルベントイエロー19、C.I.ソルベントイエロー44、C.I.ソルベントイエロー77、C.I.ソルベントイエロー79、C.I.ソルベントイエロー81、C.I.ソルベントイエロー82、C.I.ソルベントイエロー93、C.I.ソルベントイエロー98、C.I.ソルベントイエロー103、C.I.ソルベントイエロー104、C.I.ソルベントイエロー112、C.I.ソルベントイエロー162等が挙げられる。これらの着色剤は、単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0063】
(マゼンタ系着色剤)
マゼンタトナーに用いられるマゼンタ又はレッド用の着色剤としては、特に制限されない。例えば、有機顔料として、C.I.ピグメントレッド2、C.I.ピグメントレッド3、C.I.ピグメントレッド5、C.I.ピグメントレッド6、C.I.ピグメントレッド7、C.I.ピグメントレッド15、C.I.ピグメントレッド16、C.I.ピグメントレッド48;1、C.I.ピグメントレッド53;1、C.I.ピグメントレッド57;1、ピグメントレッド81;4、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド123、C.I.ピグメントレッド139、C.I.ピグメントレッド144、C.I.ピグメントレッド149、C.I.ピグメントレッド150、C.I.ピグメントレッド166、C.I.ピグメントレッド177、C.I.ピグメントレッド178、ピグメントレッド184、C.I.ピグメントレッド222、C.I.ピグメントレッド238、C.I.ピグメントレッド269等が挙げられる。
また、染料としては、例えば、C.I.ソルベントレッド1、ソルベントレッド11、C.I.ソルベントレッド49、C.I.ソルベントレッド52、C.I.ソルベントレッド58、C.I.ソルベントレッド68、C.I.ソルベントレッド111、C.I.ソルベントレッド122等が挙げられる。これらの着色剤は、単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0064】
(シアン系着色剤)
シアントナーに用いられるグリーン又はシアン用の着色剤としては、特に制限されない。例えば、有機顔料としては、C.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー15:2、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー15:4、C.I.ピグメントブルー16、C.I.ピグメントブルー60、C.I.ピグメントブルー62、C.I.ピグメントブルー66、C.I.ピグメントブルー76、C.I.ピグメントグリーン7等が挙げられる。
また、染料としては、例えば、C.I.ソルベントブルー25、C.I.ソルベントブルー36、C.I.ソルベントブルー69、C.I.ソルベントブルー70、C.I.ソルベントブルー93、C.I.ソルベントブルー95等が挙げられる。これらの着色剤は、単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0065】
(着色剤の含有量)
各着色剤の含有量は、トナー母体粒子100質量部に対し1~30質量部の範囲内であることが好ましく、3~20質量部の範囲内であることがより好ましい。また、このような範囲であると画像の色再現性を確保できる。
【0066】
(着色剤粒子の大きさ)
着色剤(粒子)の大きさとしては、特に制限されないが、体積基準のメジアン径が、10~1000nmの範囲内であることが好ましく、50~500nmの範囲内であることがより好ましく、80~300nmの範囲内であることが特に好ましい。このような範囲であると高い色再現性を得ることができるほか、高画質に必要な小径トナーの形成に適している点で好ましい。
なお、着色剤(粒子)の体積基準のメジアン径は、例えば、マイクロトラック(登録商標、以下同じ)粒度分布測定装置「UPA-150」(日機装株式会社製)を用いて測定することができる。
【0067】
<荷電制御剤>
本発明に係るトナー母体粒子は、必要に応じて他の内添剤を含んでもよい。このような内添剤としては、荷電制御剤が挙げられる。
荷電制御剤の例としては、例えば、サリチル酸誘導体の亜鉛やアルミニウムによる金属錯体(サリチル酸金属錯体)、カリックスアレーン化合物、有機ホウ素化合物、及び、含フッ素4級アンモニウム塩化合物などを挙げることができる。
荷電制御剤の含有量は、トナー中の結着樹脂100質量部に対して通常0.1~10質量部の範囲内であることが好ましく、0.5~5質量部の範囲内であることがより好ましい。
【0068】
<トナー母体粒子の形態>
トナー母体粒子は、いわゆる単層構造を有するものであってもよいし、コア・シェル構造(コア粒子の表面にシェル層を形成する樹脂を凝集、融着させた形態)を有するものであってもよく、低温定着性がより良好となる点で、コア・シェル構造を有するものであることが好ましい。
なお、コア・シェル構造は、シェル層がコア粒子を完全に被覆した構造のものに限定されるものではなく、例えば、シェル層がコア粒子を完全に被覆せず、所々コア粒子が露出しているものも含む。
また、高温高湿環境下における帯電性を向上させるという観点から、本発明のトナーは、結晶性ポリエステル樹脂1及び2がトナー母体粒子表面に露出せず、トナー母体粒子の内部に含有されると共に、非晶性樹脂がトナー母体粒子表面に露出した形態であると好ましい。このようなトナーのトナー母体粒子の形態は、上述のように、結晶性ポリエステル樹脂1及び2を形成する多価カルボン酸成分及び多価アルコール成分の炭素数によって制御することができる。また、後述するように、乳化凝集法によりトナー母体粒子を製造する際、各樹脂の添加のタイミング等によってもまたトナー母体粒子の形態を制御することができる。
【0069】
上述のトナー母体粒子の形態(コア-シェル構造の断面構造や結晶性ポリエステル樹脂の存在位置)は、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)や走査型プローブ顕微鏡(SPM)等の公知の手段を用いて確認することが可能である。
【0070】
<トナー母体粒子の平均円形度>
低温定着性を向上させるという観点から、トナー母体粒子の平均円形度は0.920~1.000の範囲内であることが好ましく、0.940~0.995の範囲内であることがより好ましい。
ここで、上記平均円形度は「FPIA-2100」(Sysmex社製)を用いて測定した値である。具体的には、トナー母体粒子を界面活性剤水溶液に湿潤させ、超音波分散を1分間行い、分散した後、「FPIA-2100」を用い、測定条件HPF(高倍率撮像)モードにて、HPF検出数4000個の適正濃度で測定を行う。円形度は下記式で計算される。
円形度=(粒子像と同じ投影面積を持つ円の周囲長)/(粒子投影像の周囲長)
また平均円形度は、各粒子の円形度を足し合わせ、測定した全粒子数で割った算術平均値である。
【0071】
≪トナー母体粒子の粒子径≫
トナー母体粒子の粒子径について、体積基準のメジアン径(D50)が3~10μmであると好ましい。体積基準のメジアン径を上記範囲とすることにより、細線の再現性や、写真画像の高画質化が達成できると共に、トナーの消費量を、大粒径トナーを用いた場合に比して削減することができる。また、トナー流動性も確保できる。ここで、トナー母体粒子の体積基準のメジアン径(D50)は、例えば、「コールターマルチサイザー3」(ベックマン・コールター社製)に、データ処理用のコンピュータシステムを接続した装置を用いて測定、算出することができる。
トナー母体粒子の体積基準のメジアン径は、後述のトナーの製造時の凝集・融着工程における凝集剤の濃度や溶剤の添加量、又は融着時間、さらには樹脂成分の組成等によって制御することができる。
【0072】
<外添剤>
本発明のトナーは、帯電性能や流動性、又はクリーニング性を向上させる観点から、トナー母体粒子表面に公知の無機粒子や有機粒子などの粒子、滑剤等を外添剤として含有することが好ましい。
外添剤としては種々のものを組み合わせて使用してもよい。粒子としては、例えば、シリカ粒子、アルミナ粒子及びチタニア粒子などの無機酸化物粒子や、ステアリン酸アルミニウム粒子、ステアリン酸亜鉛粒子などの無機ステアリン酸化合物粒子、又はチタン酸ストロンチウム粒子、チタン酸亜鉛粒子などの無機チタン酸化合物粒子などが挙げられる。
また、滑剤としては、ステアリン酸の亜鉛、アルミニウム、銅、マグネシウム、カルシウム等の塩、オレイン酸の亜鉛、マンガン、鉄、銅、マグネシウム等の塩、パルミチン酸の亜鉛、銅、マグネシウム、カルシウム等の塩、リノール酸の亜鉛、カルシウム等の塩、リシノール酸の亜鉛、カルシウム等の塩等の高級脂肪酸の金属塩が挙げられる。
これら外添剤は、耐熱保管性及び環境安定性の観点から、シランカップリング剤やチタンカップリング剤、高級脂肪酸又はシリコーンオイルなどによって表面処理が行われたものであってもよい。外添剤は、単独でも又は2種以上混合したものでも用いることができる。
上記の中でも、外添剤として、シリカ粒子(球形シリカ)、アルミナ粒子及びチタニア粒子などの無機酸化物粒子が好ましく用いられる。
【0073】
外添剤の添加量(2種以上使用する場合は、その合計量)は、外添剤を含むトナー全体の質量を100質量%として、好ましくは0.05~5質量%の範囲内、より好ましくは0.1~3質量%の範囲内である。
外添剤の粒子径は特に制限されないが、数平均一次粒子径が2~800nm程度の無機微粒子や数平均一次粒子径が10~2000nm程度の有機微粒子等の粒子が好ましい。なお、本明細書中、「数平均一次粒子径」とは、外添剤粒子の走査電子顕微鏡写真を2値化処理し、1万個について水平フェレ径を算出し、その平均を取った値をいう。
【0074】
[トナーの製造方法]
本発明に係るトナーの製造方法としては、特に限定されず、混練粉砕法、懸濁重合法、乳化凝集法、溶解懸濁法、ポリエステル伸長法、分散重合法など公知の方法が挙げられる。
これらの中でも、粒子径の均一性、形状の制御性、コア・シェル構造形成の容易性の観点からは、乳化凝集法を採用することが好ましい。また、結晶性ポリエステル樹脂1及び2、離型剤の疎水性を利用して、トナー母体粒子中の結晶性ポリエステル樹脂が所望の位置となるように制御しやすいという観点からも、乳化凝集法を用いることが好ましい。以下、乳化凝集法について説明する。
【0075】
<乳化凝集法>
乳化凝集法とは、界面活性剤や分散安定剤によって分散された結着樹脂の粒子(以下、「結着樹脂粒子」ともいう)の分散液を、離型剤の粒子(以下、「離型剤粒子」ともいう)の分散液と混合し、所望の粒子径となるまで凝集させ、さらに結着樹脂粒子間の融着を行うことにより形状制御を行って、トナー母体粒子を製造する方法である。ここで、結着樹脂の粒子は、任意に着色剤、荷電制御剤などを含有していてもよい。また、上記結着樹脂粒子の分散液、離型剤粒子の分散液に対し、着色剤粒子の分散液の形態で着色剤を添加してもよい。
乳化凝集法により本発明のトナーを製造する場合、好ましい実施形態による製造方法は、
(a)結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液、非晶性樹脂粒子分散液及び離型剤粒子分散液、さらに必要に応じて着色剤粒子分散液を調製する工程(以下、調製工程とも称する)
(b)結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液、非晶性樹脂粒子分散液及び離型剤粒子分散液、さらに必要に応じて着色剤粒子分散液を混合して凝集・融着させる工程(以下、凝集・融着工程とも称する)
を含む。
【0076】
以下、工程(a)~(b)、及びこれらの工程以外に任意で行われる工程(c)~(g)について詳述する。
(a)調製工程
工程(a)は、結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液調製工程、非晶性樹脂粒子分散液調製工程及び離型剤粒子分散液調製工程、さらに必要に応じて着色剤粒子分散液調製工程を含む。
(a-1)結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液調製工程
結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液調製工程は、結着樹脂を構成する結晶性ポリエステル樹脂として、上記式(1)~(4)の関係を満たす結晶性ポリエステル樹脂1及び2を合成し、各結晶性ポリエステル樹脂1及び2を水性媒体中に微粒子状に分散させて結晶性ポリエステル樹脂粒子1の分散液及び結晶性ポリエステル樹脂粒子2の分散液を調製する工程である。
結晶性ポリエステル樹脂の製造方法は上記記載したとおりであるため、ここでは説明を省略する。
【0077】
結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液は、例えば、溶剤を用いることなく、水系媒体中において分散処理を行う方法、又は結晶性ポリエステル樹脂を酢酸エチルやメチルエチルケトンなどの溶剤に溶解させて溶液とし、分散機を用いて当該溶液を水系媒体中に乳化分散させた後、脱溶剤処理を行う方法などが挙げられる。
【0078】
本発明において、「水系媒体」とは、少なくとも水が50質量%以上含有されたものをいい、水以外の成分としては、水に溶解する有機溶剤を挙げることができ、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、ジメチルホルムアミド、メチルセルソルブ、テトラヒドロフランなどが挙げられる。これらのうち、樹脂を溶解しない有機溶剤であるメタノール、エタノール、イソプロパノールのようなアルコール系有機溶剤を使用することが好ましい。好ましくは、水系媒体として水のみを使用する。
【0079】
結晶性ポリエステル樹脂がその構造中にカルボキシ基を含む場合、当該カルボキシ基をイオン解離させて、水相に安定に乳化させて乳化を円滑に進めるためにアンモニア、水酸化ナトリウムなどを添加してもよい。さらに、水系媒体中には、分散安定剤が溶解されていてもよく、また油滴の分散安定性を向上させる目的で、界面活性剤や樹脂粒子などが添加されていてもよい。
【0080】
分散安定剤としては、公知のものを使用することができ、例えば、リン酸三カルシウムなどのように酸やアルカリに可溶性のものを使用することが好ましく、又は環境面の視点からは、酵素により分解可能なものを使用することが好ましい。界面活性剤としては、公知のアニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、非イオン界面活性剤、両性界面活性剤を用いることができる。また、分散安定性の向上のための樹脂粒子としては、ポリメタクリル酸メチル樹脂粒子、ポリスチレン樹脂粒子、ポリスチレン-アクリロニトリル樹脂粒子などが挙げられる。
【0081】
このような上記分散処理は、機械的エネルギーを利用して行うことができ、分散機としては、特に限定されるものではなく、ホモジナイザー、低速せん断式分散機、高速せん断式分散機、摩擦式分散機、高圧ジェット式分散機、超音波分散機、高圧衝撃式分散機アルティマイザー、乳化分散機などが挙げられる。
分散の際には、溶液を加熱することが好ましい。加熱条件は特に限定されるものではないが、通常60~200℃程度である。
【0082】
このように準備された結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液中の結晶性ポリエステル樹脂粒子の体積基準のメジアン径は、60~1000nmの範囲内が好ましく、80~500nmの範囲内であることがより好ましい。なお、このメジアン径は、乳化分散時の機械的エネルギーの大きさなどによって制御することができる。
【0083】
また、結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液における結晶性ポリエステル樹脂粒子の含有量は、分散液全体に対して10~50質量%の範囲内が好ましく、15~40質量%の範囲内がより好ましい。このような範囲であると、粒度分布の広がりを抑制し、トナー特性を向上させることができる。
【0084】
(a-2)非晶性樹脂粒子分散液調製工程
非晶性樹脂粒子分散液調製工程では、非晶性樹脂の水系分散液を準備する。上述のとおり、非晶性樹脂としては、ビニル樹脂が好適に用いられるため、以下では、ビニル樹脂粒子分散液の調製方法(調製工程)を説明する。
ビニル樹脂粒子分散液の調製工程では、ビニル樹脂の水系分散液を準備する。水系媒体中でたとえば乳化重合を行い、ビニル樹脂を得た場合には、重合反応後の液をそのままビニル樹脂粒子分散液として用いることができる。
又は、単離したビニル樹脂を必要に応じて粉砕した後、界面活性剤の存在下、超音波分散機などを用いて水系媒体中にビニル樹脂を分散させる方法を用いることもできる。前記水系媒体及び前記界面活性剤の例は、上記(a-1)と同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0085】
ビニル樹脂粒子分散液中のビニル樹脂粒子の体積基準のメジアン径は、60~1000nmの範囲内が好ましく、80~500nmの範囲内であることがより好ましい。なお、このメジアン径は、重合時の機械的エネルギーの大きさなどによってコントロールすることができる。
【0086】
ビニル樹脂粒子分散液におけるビニル樹脂粒子の含有量は、分散液全体に対して10~50質量%の範囲内とすることが好ましく、15~40質量%の範囲内とすることがより好ましい。このような範囲であると、粒度分布の広がりを抑制し、トナー特性を向上させることができる。
【0087】
(a-3)離型剤粒子分散液調製工程
離型剤粒子分散液調製工程は、離型剤を水系媒体中に微粒子状に分散させて離型剤粒子の分散液を調製する工程である。
当該水系媒体は上記(a-1)で説明したとおりであり、この水系媒体中には、分散安定性を向上させる目的で、界面活性剤や樹脂粒子などが添加されていてもよい。
離型剤の分散は、機械的エネルギーを利用して行うことができ、このような分散機としては、特に限定されるものではなく、上記(a-1)において説明したものを用いることができる。
離型剤粒子分散液中の離型剤粒子の体積基準のメジアン径は、10~300nmの範囲内であることが好ましい。
離型剤粒子分散液における離型剤粒子の含有量は、分散液全体に対して5~45質量%の範囲内とすることが好ましく、8~30質量%の範囲内とすることがより好ましい。このような範囲であると、ホットオフセット防止及び分離性確保の効果が得られる。
【0088】
(a-4)着色剤粒子分散液調製工程
着色剤粒子分散液調製工程は、着色剤を水性媒体中に微粒子状に分散させて着色剤粒子の分散液を調製する工程である。
当該水系媒体は上記(a-1)で説明したとおりであるため、ここでは説明を省略する。この水系媒体中には、分散安定性を向上させる目的で、界面活性剤や樹脂粒子などが添加されていてもよい。
着色剤の分散は、機械的エネルギーを利用した分散機で行うことができ、このような分散機としては、特に限定されるものではなく、上記(a-1)において説明したものを用いることができる。
着色剤粒子分散液中の着色剤粒子の体積基準のメジアン径は、10~300nmの範囲内であることが好ましい。
着色剤粒子分散液における着色剤の含有量は、分散液全体に対して5~45質量%の範囲内であることが好ましく、10~30質量%の範囲内であることがより好ましい。このような範囲であると、色再現性確保の効果がある。
【0089】
(b)凝集・融着工程
この凝集・融着工程は、水系媒体中で前述の結晶性ポリエステル樹脂粒子1及び2、非晶性樹脂粒子及び離型剤粒子、及び、必要に応じて着色剤粒子を凝集させ、凝集させると同時にこれら粒子を融着させる工程である。
【0090】
この工程では、まず、結晶性ポリエステル樹脂粒子1の分散液、結晶性ポリエステル樹脂粒子2の分散液、非晶性樹脂粒子分散液及び離型剤粒子分散液、さらに必要に応じて着色剤粒子分散液を混合し、水性媒体中にこれら粒子を分散させる。クリアトナーを製造する場合には、着色剤粒子分散液を添加せずに凝集・融着工程を行う。
【0091】
次に、凝集剤を添加した後、非晶性樹脂粒子のガラス転移点以上の温度で加熱して凝集を進行させ、同時に樹脂粒子同士を融着させる。
【0092】
凝集剤としては、特に限定されるものではないが、アルカリ金属塩や第2族の金属の塩などの金属塩から選択されるものが好適に使用される。金属塩としては、ナトリウム、カリウム、リチウムなどの一価の金属塩;カルシウム、マグネシウム、マンガン、銅などの二価の金属塩;鉄、アルミニウムなどの三価の金属塩などが挙げられる。具体的な金属塩としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、硫酸銅、硫酸マグネシウム、硫酸マンガン、硫酸アルミニウムなどを挙げることができる。これらの中で、より少量で凝集を進めることができることから、二価又は三価の金属塩を用いることが特に好ましい。これら凝集剤は単独でも、又は2種以上を組み合わせても用いることができる。
前記凝集剤の使用量は、特に制限されないが、トナー母体粒子を構成する結着樹脂の固形分100質量部に対して、好ましくは0.1~20質量部の範囲内であり、より好ましくは1~15質量部の範囲内である。
【0093】
凝集工程においては、凝集剤を添加した後、加熱により速やかに昇温させることが好ましく、昇温速度は0.05℃/分以上とすることが好ましい。昇温速度の上限は、特に限定されないが、急速な融着の進行による粗大粒子の発生を抑制する観点から15℃/分以下とすることが好ましい。
さらに、凝集用分散液が所望の温度に到達した後、当該凝集用分散液の温度を一定時間、好ましくは体積基準のメジアン径が4.5~7.0μmになるまで保持して、融着を継続させることが肝要である。
【0094】
(c)熟成工程
この工程は、必要に応じて行われるものであって、当該熟成工程においては、凝集・融着工程によって得られた会合粒子を熱エネルギーにより所望の形状になるまで熟成させてトナー母体粒子を形成させる熟成処理が行われる。
熟成処理は、具体的には、会合粒子が分散された系を加熱撹拌し、会合粒子の形状を所望の円形度になるまで、加熱温度、撹拌速度、加熱時間などを調整することにより、行われる。
【0095】
(d)冷却工程
この工程は、トナー母体粒子の分散液を冷却処理する工程である。冷却処理の条件としては、1~20℃/分の冷却速度で冷却することが好ましい。冷却処理の具体的な方法としては特に限定されるものではなく、反応容器の外部より冷媒を導入して冷却する方法や、冷水を直接反応系に投入して冷却する方法などを例示することができる。
【0096】
(e)濾過・洗浄工程
この工程は、冷却されたトナー母体粒子の分散液から当該トナー母体粒子を固液分離し、固液分離によって得られたトナーケーキ(ウェット状態にあるトナー母体粒子をケーキ状に凝集させた集合物)から界面活性剤や凝集剤などの付着物を除去して洗浄する工程である。
固液分離には、特に限定されずに、遠心分離法、ヌッチェなどを使用して行う減圧濾過法、フィルタープレスなどを使用して行う濾過法などを用いることができる。
【0097】
(f)乾燥工程
この工程は、洗浄処理されたトナーケーキを乾燥する工程であり、一般的に行われる公知のトナー母体粒子の製造方法における乾燥工程に従って行うことができる。
具体的には、トナーケーキの乾燥に使用される乾燥機としては、スプレードライヤー、真空凍結乾燥機、減圧乾燥機などを挙げることができ、静置棚乾燥機、移動式棚乾燥機、流動層乾燥機、回転式乾燥機、撹拌式乾燥機などを使用することが好ましい。
【0098】
(g)外添剤の添加工程
この工程は、トナー母体粒子に対して外添剤を添加する場合に必要に応じて行う工程である。
外添剤の混合装置としては、ヘンシェルミキサー、コーヒーミル、サンプルミルなどの機械式の混合装置を使用することができる。
【0099】
<現像剤>
本発明のトナーは、磁性又は非磁性の一成分現像剤として使用することもできるが、キャリアと混合して二成分現像剤として使用してもよい。トナーを二成分現像剤として使用する場合において、キャリアとしては、鉄、フェライト、マグネタイトなどの金属、それらの金属とアルミニウム、鉛などの金属との合金などの従来から公知の材料からなる磁性粒子を用いることができ、特にフェライト粒子が好ましい。また、キャリアとしては、磁性粒子の表面を樹脂などの被覆剤で被覆したコートキャリアや、バインダー樹脂中に磁性体微粉末を分散してなる分散型キャリアなど用いてもよい。
【0100】
キャリアの体積平均粒子径としては20~100μmの範囲内であることが好ましく、25~80μmの範囲内であることがより好ましい。キャリアの体積平均粒子径は、代表的には湿式分散機を備えたレーザ回折式粒度分布測定装置「ヘロス(HELOS)」(シンパティック社製)により測定することができる。
二成分現像剤は、上記のキャリアとトナーとを、混合装置を用いて混合することにより作製することができる。混合装置としては、例えば、ヘンシェルミキサー、ナウターミキサー、V型混合器等が挙げられる。
二成分現像剤を作製する際のトナーの配合量は、キャリアとトナーとの合計100質量%に対して、1~10質量%の範囲内であることが好ましい。
【0101】
[画像形成方法]
本発明に係る画像形成方法は、記録媒体上に、本発明のトナーを用いて画像形成層を形成することを含む。
本発明に係る画像形成方法は、本発明のトナーを用いる方法であり、フルカラーの画像形成方法に好適に用いることができる。フルカラーの画像形成方法では、イエロー、マゼンタ、シアン及びブラックの各々に係る4種類のカラー現像装置と、一つの静電潜像担持体(「電子写真感光体」又は単に「感光体」とも称する)と、により構成される4サイクル方式の画像形成装置を用いる方法や、各色に係るカラー現像装置及び静電潜像担持体を有する画像形成ユニットを、それぞれ色別に搭載するタンデム方式の画像形成装置を用いる方法など、いずれの画像形成方法も用いることができる。
また、クリアトナーをさらに用いる場合には、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック及びクリアの各々に係る5種類の現像装置と、一つの静電潜像担持体(「電子写真感光体」又は単に「感光体」とも称する)と、により構成される5サイクル方式の画像形成装置を用いる方法や、クリアトナーを含む各色に係る現像装置及び静電潜像担持体を有する画像形成ユニットを、それぞれ色別に搭載するタンデム方式の画像形成装置を用いる方法などの画像形成方法を用いることができる。
【0102】
画像形成方法としては、圧力を付与すると共に加熱することができる熱圧力定着方式による定着工程を含む画像形成方法が好ましく挙げられる。
この画像形成方法においては、具体的には、上記トナーを使用して、例えば、感光体上に形成された静電潜像を現像してトナー像を得て、このトナー像を画像支持体に転写し、その後、画像支持体上に転写されたトナー像を熱圧力定着方式の定着処理によって画像支持体に定着させることにより、可視画像が形成された印画物を得ることができる。
定着工程における圧力の付与及び加熱は、同時であることが好ましく、また、まず圧力を付与し、その後、加熱してもよい。
【0103】
また、本発明に係る画像形成方法は、熱圧力定着方式の画像形成方法において好適に用いられる。本発明に係る画像形成方法に用いられる熱圧力定着方式の定着装置としては、公知の種々のものを採用することができる。以下に、熱圧力定着装置として、熱ローラー方式の定着装置及びベルト加熱方式の定着装置を説明する。
【0104】
(i)熱ローラー方式の定着装置
熱ローラー方式の定着装置は、一般に、加熱ローラーと、これに当接する加圧ローラーとによるローラー対を有する。当該定着装置において、加熱ローラーと加圧ローラーとの間に付与された圧力によって加圧ローラーが変形することにより、この変形部にいわゆる定着ニップ部が形成される。
加熱ローラーは、一般に、アルミニウムなどよりなる中空の金属ローラーからなる芯金の内部に、ハロゲンランプなどの熱源が配設されてなる。当該加熱ローラーは、当該熱源によって芯金が加熱される。このとき、加熱ローラーの外周面が所定の定着温度に維持されるように当該熱源ヘの通電が制御されて温度調節される。
定着装置が、4層のトナー層(イエロー、マゼンタ、シアン及びブラック)又は5層のトナー層(イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック及びクリア)からなるトナー像を十分に加熱溶融させて混色させる能力を要求されるフルカラー画像の形成を行う画像形成装置において用いられる場合は、以下の構成を有していると好ましい。
すなわち、定着装置は、加熱ローラーとして、高い熱容量を有する芯金を有し、当該芯金の外周面上に、トナー像を均質に溶融させるための弾性層が形成されたものを含んでいると好ましい。
【0105】
また、加圧ローラーは、例えばウレタンゴム、シリコーンゴムなどの軟質ゴムからなる弾性層を有するものである。
加圧ローラーとしては、アルミニウムなどよりなる中空の金属ローラーからなる芯金を有し、当該芯金の外周面上に弾性層が形成されたものを用いてもよい。
さらに、加圧ローラーが芯金を有する場合に、当該芯金の内部に、加熱ローラーと同様、ハロゲンランプなどの熱源を配設してもよい。そして、当該熱源によって芯金を加熱し、加圧ローラーの外周面が所定の定着温度に維持されるように当該熱源ヘの通電が制御されて温度調節される構成であってもよい。
これらの加熱ローラーや加圧ローラーとしては、その最外層として、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)などのフッ素樹脂などよりなる離型層が形成されてなるものを用いることが好ましい。
このような熱ローラー方式の定着装置においては、ローラー対を回転させて定着ニップ部に可視画像を形成すべき画像支持体を挟持搬送させることによって、加熱ローラーによる加熱と、定着ニップ部における圧力の付与とを行い、これにより、未定着のトナー像が画像支持体に定着される。
【0106】
本発明に係る画像形成方法は、低温定着性もまた良好となる。よって、上記熱ローラー方式の定着装置において、加熱ローラーの温度を比較的低くすることができ、具体的には、150℃以下とすることができる。さらに、加熱ローラーの温度は、140℃以下であると好ましく、135℃以下であるとより好ましい。低温定着性に優れるという観点からは、加熱ローラーの温度は低いほど好ましく、その下限値は特に制限されないが、実質的には90℃程度である。
【0107】
(ii)ベルト加熱方式の定着装置
ベルト加熱方式の定着装置は、一般に、例えばセラミックヒータよりなる加熱体と、加圧ローラーと、これらの加熱体と加圧ローラーとの間に耐熱性ベルトよりなる定着ベルトが挟まれてなるものであり、加熱体と加圧ローラーとの間に付与された圧力によって加圧ローラーが変形されることにより、この変形部にいわゆる定着ニップ部が形成されてなるものである。
【0108】
定着ベルトとしては、ポリイミドなどよりなる耐熱性のベルト及びシートなどが用いられる。また、定着ベルトは、ポリイミドなどよりなる耐熱性のベルト及びシートなどを基体とし、当該基体上にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)又はテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)などのフッ素樹脂などよりなる離型層が形成された構成を有していてもよく、さらに、基体と離型層との間に、ゴムなどよりなる弾性層が設けられた構成を有していてもよい。
【0109】
このようなベルト加熱方式の定着装置においては、定着ニップ部を形成する定着ベルトと加圧ローラーとの間に、未定着のトナー像が担持された画像支持体を前記定着ベルトと共に挟持搬送させる。これにより、定着ベルトを介した加熱体による加熱と、定着ニップ部における圧力の付与とを行い、未定着のトナー像が画像支持体に定着される。
このようなベルト加熱方式の定着装置によれば、加熱体を、画像形成時のみ当該加熱体に通電して所定の定着温度に発熱させた状態にすればよい。したがって、画像形成装置の電源の投入から画像形成が実行可能な状態に至るまでの待ち時間を短くすることができる。また、画像形成装置のスタンバイ時の消費電力も極めて小さく、省電力化が図られるなどの利点がある。
【0110】
上記のように、定着工程で定着部材として用いられる、加熱体、加圧ローラー及び定着ベルトは、複数の層構成を有するものが好ましい。
上記ベルト加熱方式の定着装置において、加熱体の温度を比較的低くすることができ、具体的には、150℃以下とすることができる。さらに、加熱体の温度は、140℃以下であると好ましく、135℃以下であるとより好ましい。低温定着性に優れるという観点からは、加熱体の温度は低いほど好ましく、その下限値は特に制限されないが、実質的には90℃程度である。
【0111】
(記録媒体)
記録媒体(記録材、記録紙、記録用紙等ともいう)は、一般に用いられているものでよく、例えば、画像形成装置等による公知の画像形成方法により形成したトナー像を保持するものであれば特に限定されるものではない。使用可能な画像支持体として用いられるものには、例えば、薄紙から厚紙までの普通紙、上質紙、アート紙、又は、コート紙等の塗工された印刷用紙、市販の和紙やはがき用紙、OHP用のプラスチックフィルム、布、いわゆる軟包装に用いられる各種樹脂材料、又はそれをフィルム状に成形した樹脂フィルム、ラベル等が挙げられる。
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記の形態に限定されるものではなく、種々の変更を加えることができる。
【実施例】
【0112】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において、「部」又は「%」の表示は、特に断りがない限り、「質量部」又は「質量%」を表す。
【0113】
[各分析条件]
<非晶性樹脂のガラス転移温度及び結晶性樹脂の融点>
非晶性樹脂(スチレン・アクリル樹脂)のガラス転移温度(Tg)は、「ダイヤモンドDSC」(パーキンエルマー社製)を用いて測定した。まず、測定試料(樹脂)3.0mgをアルミニウム製パンに封入し、「ダイヤモンドDSC」のサンプルホルダーにセットした。リファレンスは空のアルミニウム製パンを使用した。そして、昇温速度10℃/分で0℃から200℃まで昇温する第1昇温過程、冷却速度10℃/分で200℃から0℃まで冷却する冷却過程、及び昇温速度10℃/分で0℃から200℃まで昇温する第2昇温過程をこの順に経る測定条件(昇温・冷却条件)によってDSC曲線を得た。この測定によって得られたDSC曲線に基づいて、その第2昇温過程における第1の吸熱ピークの立ち上がり前のベースラインの延長線と、第1のピークの立ち上がり部分からピーク頂点までの間で最大傾斜を示す接線を引き、その交点をガラス転移温度(Tg)とした。
また、結晶性ポリエステル樹脂の融点は、上記と同様にして得られたDSC曲線に基づいて、その第2昇温過程における結晶性樹脂に由来する吸熱ピーク(半値幅が15℃以内である吸熱ピーク)のピークトップの温度を融点(Tc)とした。
【0114】
<樹脂の重量平均分子量及び数平均分子量>
各樹脂のGPCによる分子量(重量平均分子量及び数平均分子量)は、以下のようにして測定した。
すなわち、装置「HLC-8120GPC」(東ソー株式会社製)及びカラム「TSKguardcolumn+TSKgelSuperHZ-M3連」(東ソー株式会社製)を用い、カラム温度を40℃に保持しながら、キャリア溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を流速0.2mL/分で流した。測定試料(樹脂)は、濃度1mg/mlになるようにテトラヒドロフランに溶解させた。当該溶液の調製は、超音波分散機を用いて、室温にて5分間処理を行うことにより行った。次いで、ポアサイズ0.2μmのメンブランフィルターで処理して試料溶液を得、この試料溶液10μLを上記のキャリア溶媒と共に装置内に注入し、屈折率検出器(RI検出器)を用いて検出した。単分散のポリスチレン標準粒子を用いて作成された検量線に基づいて、測定試料の分子量分布を算出した。上記検量線測定用のポリスチレンとしては10点用いた。
【0115】
[結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液の調製]
<結晶性ポリエステル樹脂〔A1〕の合成>
窒素導入管、脱水管、撹拌装置及び熱電対を装備した四つ口フラスコに下記の重縮合系樹脂の原料モノマー及びエステル化触媒としてTi(n-OBu)4 0.8質量部を入れ、180℃で4時間反応させた。
・1,6-ヘキサンジオール 250質量部
・1,14-テトラデカンジカルボン酸(ヘキサデカン二酸(COOH-C
14
H
28
-COOH) 250質量部
その後、毎時10℃で210℃まで昇温し、210℃で5時間保持した後、減圧下(8kPa)にて1時間反応させることで結晶性ポリエステル樹脂〔A1〕を得た。得られた結晶性ポリエステル樹脂〔A1〕は、数平均分子量(Mn)が4500、融点が81℃であった。
【0116】
<結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液〔a1〕の調製>
結晶性ポリエステル樹脂〔A1〕30質量部を溶融させて溶融状態のまま、乳化分散機「キャビトロンCD1010」(株式会社ユーロテック製)に対して毎分100質量部の移送速度で移送した。また、この溶融状態の結晶性ポリエステル樹脂〔A1〕の移送と同時に、当該乳化分散機に対して、濃度0.37質量%の希アンモニア水(水性溶媒タンクにおいて試薬アンモニア水70質量部をイオン交換水で希釈したもの)を、熱交換機で100℃に加熱しながら毎分0.1Lの移送速度で移送した。そして、この乳化分散機を、回転子の回転速度60Hz、圧力5kg/cm2の条件で運転し、その後、イオン交換水を加えて固形分量が20質量%となるように調整し体積基準のメジアン径が200nmの結晶性ポリエステル樹脂〔A1〕粒子を含む分散液〔a1〕を調製した。
【0117】
<結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液〔分散液a2〕~〔分散液a10〕の調製>
結晶性ポリエステル樹脂〔A1〕の合成において、原料モノマーを下記表IIに示すとおりに変更した以外は同様にして、結晶性ポリエステル樹脂〔A2〕~〔A10〕を得た。
さらに、結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液〔a1〕の調製で、結晶性ポリエステル樹脂〔A1〕を結晶性ポリエステル樹脂〔A2〕~〔A10〕にそれぞれ変更した以外は同様にして、結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液〔a2〕~〔a10〕を得た。
【0118】
[スチレン・アクリル樹脂粒子分散液の調製]
撹拌装置、温度センサー、冷却管及び窒素導入装置を取り付けた5Lの反応容器に、ラウリル硫酸ナトリウム5.0質量部と、イオン交換水2500質量部とを仕込み、窒素気流下230rpmの撹拌速度で撹拌しながら、内温を80℃に昇温させた。
次いで、過硫酸カリウム(KPS)15.0質量部をイオン交換水300質量部に溶解させた溶液を添加し、液温を80℃とした。さらに、スチレン(St)840.0質量部、n-ブチルアクリレート(BA)288.0質量部、メタクリル酸(MAA)72.0質量部及びn-オクチルメルカプタン15質量部からなる単量体混合液を2時間かけて滴下した。滴下終了後、80℃において2時間にわたって加熱、撹拌することによって重合させ、体積基準のメジアン径が120nmであるスチレン・アクリル樹脂〔B1〕粒子の分散液〔b1〕を調製した。
スチレン・アクリル樹脂〔B1〕のガラス転移温度(Tg)は52.0℃、重量平均分子量(Mw)は28000であった。
【0119】
[着色剤粒子分散液の作製]
<ブラック着色剤粒子分散液〔Bk〕の調製>
・ドデシル硫酸ナトリウム 90質量部
・カーボンブラック「リーガル(登録商標)330R」(キャボット社製)
200質量部
・イオン交換水 1600質量部
上記の成分を混合した溶液をウルトラタラックスT50(IKA社製)にて十分に分散した後、超音波分散機で20分間処理することによりブラック着色剤粒子分散液〔Bk〕を調製した。得られたブラック着色剤粒子分散液〔Bk〕について、着色剤粒子の体積基準のメジアン径は110nmであった。
【0120】
<イエロー着色剤粒子分散液〔Ye〕の調製>
・ドデシル硫酸ナトリウム 90質量部
・C.I.ピグメントイエロー74 200質量部
・イオン交換水 1600質量部
上記の成分を混合した溶液をウルトラタラックスT50(IKA社製)にて十分に分散した後、超音波分散機で20分間処理することによりイエロー着色剤粒子分散液〔Ye〕を調製した。得られたイエロー着色剤粒子分散液〔Ye〕について、着色剤粒子の体積基準のメジアン径は240nmであった。
【0121】
<マゼンタ着色剤粒子分散液〔Ma〕の調製>
・ドデシル硫酸ナトリウム 90質量部
・C.I.ピグメントレッド269 200質量部
・イオン交換水 1600質量部
上記の成分を混合した溶液をウルトラタラックスT50(IKA社製)にて十分に分散した後、超音波分散機で20分間処理することによりマゼンタ着色剤粒子分散液〔Ma〕を調製した。
得られたマゼンタ着色剤粒子分散液〔Ma〕について、着色剤粒子の体積基準のメジアン径は200nmであった。
【0122】
<シアン着色剤粒子分散液〔Cy〕の調製>
・ドデシル硫酸ナトリウム 90質量部
・C.I.ピグメントブルー15:3 200質量部
・イオン交換水 1600質量部
上記の成分を混合した溶液をウルトラタラックスT50(IKA社製)にて十分に分散した後、超音波分散機で20分間処理することによりシアン着色剤粒子分散液〔Cy〕を調製した。得られたシアン着色剤粒子分散液〔Cy〕について、着色剤粒子の体積基準のメジアン径は180nmであった。
【0123】
<離型剤粒子分散液〔W1〕の調製>
・パラフィンワックス(HNP0190、日本精蝋株式会社製(融点85℃))
200質量部
・ドデシル硫酸ナトリウム 20質量部
・イオン交換水 1800質量部
上記の材料を混合し95℃に加熱して、IKA社製のウルトラタラックスT50にて十分に分散した。その後、圧力吐出型ゴーリンホモジナイザーで分散処理し、離型剤粒子分散液〔W1〕を調製した。この分散液中の離型剤粒子の体積基準のメジアン径は、110nmであった。
【0124】
[ブラックトナー〔Bk1〕の作製]
(凝集・融着工程及び熟成工程)
撹拌装置、温度センサー及び冷却管を取り付けた反応容器に、結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液〔a1〕38.4質量部(固形分換算7.7質量部)、結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液〔a5〕89.6質量部(固形分換算17.97質量部)、スチレン・アクリル樹脂粒子分散液〔b1〕268.8質量部(固形分換算80.6質量部)、着色剤粒子分散液〔Bk〕51.9質量部(固形分換算5.8質量部)、離型剤粒子分散液〔W1〕76.8質量部(固形分換算7.7質量部)を投入した後、5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を添加してpH(25℃)を10に調整した。
次いで、塩化マグネシウム12質量部をイオン交換水12質量部に溶解した水溶液を、撹拌下、30℃において10分間かけて添加した。昇温を開始し、この系を60分間かけて80℃まで昇温し、「コールターマルチサイザー3」(ベックマン・コールター社製)にて会合粒子の粒径を測定し、体積基準のメジアン径が6.0μmとなるように、撹拌速度を制御した。その後、塩化ナトリウム45質量部をイオン交換水180質量部に溶解した水溶液を添加して粒子成長を停止させた。さらに80℃の状態で加熱撹拌することにより、粒子の融着を進行させた。
【0125】
(冷却工程)
その後、トナー母体粒子の平均円形度の測定装置「FPIA-3000」(Sysmex社製)を用いて(HPF検出数:4000個)平均円形度が0.957になった時点で5℃/分の冷却速度で30℃に冷却した。
【0126】
(濾過・洗浄工程及び乾燥工程)
次いで、固液分離し、脱水したトナーケーキをイオン交換水に再分散し固液分離する操作を3回繰り返して洗浄したのち、40℃で24時間乾燥させることにより、ブラックトナー母体粒子〔XBk1〕を得た。
【0127】
(外添剤の添加工程)
得られたトナー母体粒子〔XBk1〕100質量部に、疎水性シリカ(数平均一次粒子径=12nm、疎水化度=68)0.6質量部及び疎水性酸化チタン(数平均一次粒子径=20nm、疎水化度=63)1.0質量部を添加し、「ヘンシェルミキサー」(三井三池化工機社製)により回転翼周速35m/sec、32℃で20分間混合する外添剤処理工程後、45μmの目開きの篩を用いて粗大粒子を除去することにより、ブラックトナー〔Bk1〕を得た。
【0128】
(現像剤の作製工程)
ブラックトナー〔Bk1〕に対して、シクロヘキシルメタクリレートとメチルメタクリレートとの共重合樹脂(モノマー質量比=1:1)を被覆した体積平均粒子径30μmのフェライトキャリアを用い、トナー濃度が6質量%となるようにして混合することにより、ブラック現像剤〔Bk1〕を得た。
【0129】
[ブラック現像剤〔Bk2〕~〔Bk12〕の作製]
上記ブラック現像剤〔Bk1〕の作製において、使用した分散液(樹脂)の種類及び使用量を、それぞれ以下の表IIIのように変更したこと以外は、上記と同様にしてブラック現像剤〔Bk2〕~〔Bk12〕をそれぞれ作製した。
【0130】
なお、表IIIでは、結晶性樹脂1及び結晶性樹脂2の多価カルボン酸成分の炭素数と、多価アルコール成分の炭素数が、上記式(1)~(4)を満たすか否かについて、○又は×で記載している。
【0131】
[イエロー現像剤〔Ye1〕~〔Ye12〕の作製]
上記ブラック現像剤〔Bk1〕の作製において、使用した分散液(樹脂)の種類及び使用量、さらに着色剤の種類及び使用量を、それぞれ以下の表IVのように変更したこと以外は、上記と同様にしてイエロー現像剤〔Ye1〕~〔Ye12〕をそれぞれ作製した。
【0132】
[マゼンタ現像剤〔Ma1〕~〔Ma12〕の作製]
上記ブラック現像剤〔Bk1〕の作製において、使用した分散液(樹脂)の種類及び使用量、さらに着色剤の種類及び使用量を、それぞれ以下の表Vのように変更したこと以外は、上記と同様にしてマゼンタ現像剤〔Ma1〕~〔Ma12〕をそれぞれ作製した。
【0133】
[シアン現像剤〔Cy1〕~〔Cy12〕の作製]
上記ブラック現像剤〔Bk1〕の作製において、使用した分散液(樹脂)の種類及び使用量、さらに着色剤の種類及び使用量を、それぞれ以下の表VIのように変更したこと以外は、上記と同様にしてシアン現像剤〔Cy1〕~〔Cy12〕をそれぞれ作製した。
【0134】
[評価]
<低温定着性>
複写機「bizhub PRESS(登録商標)C1070」(コニカミノルタ株式会社製)の定着装置を、加熱ローラーの表面温度(定着温度)を120~180℃の範囲で変更することができるように改造した。当該複写機に下記表VIIに示す現像剤の組み合わせで各現像剤セットを装填して評価を行った。
まず、常温常湿(温度20℃、湿度50%RH)の環境下において、A4サイズの上質紙「CFペーパー」(コニカミノルタ株式会社製)上でブラックトナー、イエロートナー、マゼンタトナー及びシアントナーを重ね合わせた画像の付着量を10.0g/m2となるように設定した。このとき、ブラックトナー、イエロートナー、マゼンタトナー及びシアントナーの付着量に差がないように設定した。その後、100mm×100mmサイズの4色画像を定着させる定着実験を、設定される定着温度を120℃から1℃刻みで上げるように変更しながら180℃まで繰り返し行った。
上記で得られた各定着温度におけるプリント物を目視確認し、すべてのトナーが定着器に付着せず紙に定着した最も低い温度を最低定着温度(℃)とし、下記のようにランク評価した。
―評価基準―
○:140℃未満
△:140℃以上150℃未満
×:150℃以上
○及び△を合格レベルとする。
【0135】
<トナーの耐熱保管性>
調製したトナーについて、それぞれ、トナー0.5gを内径21mmの10mLガラス瓶に取り、蓋を閉めて、振とう機「タップデンサーKYT-2000」(セイシン企業社製)を用い、室温で600回振とうした。その後、蓋を開けた状態で温度55℃、湿度35%RHの環境下において2時間放置した。
次いで、トナーを48メッシュ(目開き350μm)の篩上に、トナーの凝集物を解砕しないように注意しながらのせて、「パウダーテスター」(ホソカワミクロン社製)にセットし、押さえバー、ノブナットで固定した。送り幅1mmとなる振動強度に調整し、10秒間振動を加えた後、篩上の残存したトナー量の比率(質量%)を測定し、下記式(A)によりトナー凝集率を算出した。
式(A):トナー凝集率(%)=(篩上の残存トナー質量(g))/0.5(g)×100)
同様の測定を温度57.5℃、60℃でそれぞれ行い、X軸を温度、Y軸をトナー凝集率、としてプロットする。温度55℃、57.5℃、60℃の内、トナー凝集率が50%となる領域を挟む2つの温度間で近似直線を引き、内挿からトナー凝集率が50%となる温度を算出する。その時の温度を耐熱性の温度とする。下記のようにランク評価した。
―評価基準―
○:58℃以上
△:57℃以上58℃未満
×:57℃未満
○及び△を合格レベルとする。
【0136】
<トナーの母体流動性>
画像評価する前のトナー20.0gを、120メッシュの篩い上にトナーをのせ振動強度6で60秒落下させた後、篩上の残存したトナー量を測定し、下記式(B)によりトナー篩通過率を算出し、下記のようにランク評価した。
式(B):トナー篩通過率(%)=(篩上の通過トナー質量(g))/20.0(g)×100)
―評価基準―
○:60%以上
△:50%以上60%未満
×:50%未満
○及び△を合格レベルとする。
【0137】
【0138】
【0139】
【0140】
【0141】
【0142】
【表7】
なお、表I~表IIIにおいて、「多価カルボン酸の炭素数」、「炭素数C1(acid)」「炭素数C2(acid)」とは、カルボキシ基の炭素を含まない炭素数をいう。
【0143】
上記結果より、本発明のトナーを用いた場合、比較例のトナーに比べて、低温定着性、耐熱保管性及び流動性の点で優れていることが認められる。