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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-25
(45)【発行日】2022-05-09
(54)【発明の名称】印刷物
(51)【国際特許分類】
   B41M 1/30 20060101AFI20220426BHJP
   C09D 11/101 20140101ALI20220426BHJP
【FI】
B41M1/30 B
C09D11/101
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017238591
(22)【出願日】2017-12-13
(65)【公開番号】P2019104180
(43)【公開日】2019-06-27
【審査請求日】2020-10-22
(73)【特許権者】
【識別番号】310000244
【氏名又は名称】DICグラフィックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(72)【発明者】
【氏名】井上 真司
(72)【発明者】
【氏名】伊豆原 暢子
(72)【発明者】
【氏名】山本 誓
【審査官】亀田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-058566(JP,A)
【文献】特開2017-202574(JP,A)
【文献】特開2013-156313(JP,A)
【文献】特開2016-093979(JP,A)
【文献】特開2017-197626(JP,A)
【文献】特開2002-040231(JP,A)
【文献】特開2011-156790(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0321865(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 1/30
C09D 11/101
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、少なくとも活性エネルギー線硬化型インキ(1)の硬化物である版を使用した印刷層とを備えた印刷物であって、前記活性エネルギー線硬化インキ(1)が、フェノールノボラック型エポキシアクリレート、ヒドロキシエチルアクリルアミド、リン酸基含有メタアクリレート、及び2-アクリロイルオキシエチルサクシネートからなる群から選ばれる少なくとも1つのモノマーAと、ポリエステル樹脂とを含有することを特徴とする印刷物。
【請求項2】
前記モノマーAを前記活性エネルギー線硬化型インキ(1)に対し2質量%~98質量%の範囲で含有する請求項1に記載の印刷物。
【請求項3】
前記ポリエステル樹脂を、前記活性エネルギー線硬化型インキ(1)に対し2質量%~60質量%の範囲で含有する請求項1または2に記載の印刷物。
【請求項4】
基材上に、前記活性エネルギー線硬化型インキ(1)の硬化物である印刷層と、色材を含有する活性エネルギー線硬化型インキ(2)の硬化物である印刷層とを、少なくともこの順に有する請求項1~3のいずれかに記載の印刷物。
【請求項5】
前記基材が、ポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリスチレンフィルム又はポリアミドフィルムである請求項1~4の何れかに記載の印刷物。
【請求項6】
前記印刷物が、前記活性エネルギー線硬化型インキ(1)及び/又は前記活性エネルギー線硬化型インキ(2)を、コーターユニットを使った印刷方式、水なしオフセット印刷方式、凸版印刷方式、またはスクリーン印刷方式で基材に印刷後、ピーク波長が350~400nmであるLED-UVランプで硬化させたものである請求項4に記載の印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材と、少なくとも活性エネルギー線硬化型インキ(1)の硬化物である印刷層とを備えた印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、希釈や溶解用の有機溶剤等の非重合性溶剤を実質的に含有せず、紫外線等の活性エネルギー線で印刷被膜を硬化、乾燥させることの可能な活性エネルギー線硬化型インキが使用されており、紙あるいはプラスチック材料、金属、木材等、様々な基材に対する印刷材料として展開されている。
【0003】
活性エネルギー線硬化型インクは、活性エネルギー線で印刷被膜を硬化させるために、比較的耐久性に優れる印刷被膜が得られる。しかしながらプラスチック基材等の非吸収印刷材料への印刷に対して接着性に劣るといった問題があった。
【0004】
プラスチック基材への接着性を改善させる方法として、インクジェット記録用インクではいくつかの試みがなされ、例えばメタクリル基を有する活性エネルギー線重合性化合物を前記活性エネルギー線重合性化合物全量に対し少量%有し、且つ(2)テトラヒドロフルフリルアクリレートまたはN-ビニルカプロラクタムを前記活性エネルギー線重合性化合物全量に対し特定量使用する活性エネルギー線硬化型インクジェット記録用インクや(例えば特許文献1参照)、特定の単官能(メタ)アクリレートを特定量使用する活性エネルギー線硬化型インクジェット記録用インク(例えば特許文献2参照)が知られている。しかしながらインクジェット記録用インクは一般に粘度が非常に低く10mPa・sec以下であり、版を使用する印刷方式にそのまま適用するのは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-053208号公報
【文献】特開2008-179810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、版を使用する印刷方式で印刷された活性エネルギー線硬化型インキ(1)の硬化物である印刷物を備えた印刷物であって、基材と印刷物との密着性が良好な印刷物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、特定のアクリル系モノマーと、活性エネルギー線に不活性な樹脂とを併用することで、前記課題を解決した。
【0008】
即ち本発明は、基材と、少なくとも活性エネルギー線硬化型インキ(1)の硬化物である版を使用した印刷層とを備えた印刷物であって、前記活性エネルギー線硬化インキ(1)が、フェノールノボラック型エポキシ(メタ)アクリレート、水酸基を有する(メタ)アクリルアミド、リン酸基を有する(メタ)アクリレート、及びカルボキシル基を有する(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる少なくとも1つのモノマーAと、活性エネルギー線に不活性な樹脂とを含有する印刷物を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、版を使用する印刷方式で印刷された活性エネルギー線硬化型インキ(1)の硬化物である印刷物を備えた印刷物であって、基材と印刷物との密着性が良好な印刷物を得ることができる。
【0010】
(活性エネルギー線硬化インキ(1))
本発明で使用する活性エネルギー線硬化インキ(1)は、フェノールノボラック型エポキシ(メタ)アクリレート、水酸基を有する(メタ)アクリルアミド、リン酸基を有する(メタ)アクリレート、及びカルボキシル基を有する(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる少なくとも1つのモノマーAと、活性エネルギー線に不活性な樹脂とを含有する。
なお本発明において(メタ)アクリレートとは、アクリレートとメタクリレートとの総称を表し、(メタ)アクリルアミドとは、アクリルアミドとメタクリルアミドとの総称を表す。
【0011】
水酸基を有する(メタ)アクリルアミドとしては、具体的には例えば、ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリルアミド、ジヒドロキシエチレンビス(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0012】
リン酸基を有する(メタ)アクリレートとしては、具体的には例えば、リン酸エチル(メタ)アクリレート、リン酸プロピル(メタ)アクリレート、リン酸ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、リン酸ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0013】
カルボキシル基を有する(メタ)アクリレートとしては、具体的には例えば、カルボキシエチル(メタ)アクリレート、コハク酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリル酸エステル、フタル酸モノヒドロキシエチルアクリル酸エステル、コハク酸モノヒドロキシプロピル(メタ)アクリル酸エステル、フタル酸モノヒドロキシプロピルアクリル酸エステル等が挙げられる。
【0014】
これらのモノマーAは、単独で使用してもよいし複数を組み合わせて使用してもよい。
また前記モノマーAは、前記活性エネルギー線硬化型インキ(1)に対し2~98質量%の範囲で含有することが好ましい。もっと好ましくは3~80質量%の範囲であり、最も好ましくは5~60質量%の範囲である。この範囲において、粘度や印刷適性が良好なインキが作製しやすく、また、プラスチック基材に対する良好な密着性を得ることができる。
【0015】
前記活性エネルギー線硬化型インキ(1)は、硬化性成分として、前記モノマーA以外の他の活性エネルギー線硬化性モノマー及び又はオリゴマーを含んでいてもよく好ましい。
本発明で使用する活性エネルギー線硬化性モノマー及び又はオリゴマーは、活性エネルギー線硬化性技術分野で使用されるモノマー及び又はオリゴマーであれば特に限定なく使用することができる。特に反応基として(メタ)アクリロイル基、ビニルエーテル基等を有するものが好ましい。また反応基数や分子量にも特に限定はなく、反応基数の多いものほど反応性は高いが粘度や結晶性が高くなる傾向にあり、また分子量が高いものほど粘度が高くなる傾向にあることから、所望の物性に応じて適宜組み合わせて使用することができる。例えばUV-LEDのような低エネルギー照射で好適に硬化させるという点では、より反応性の高い3官能以上の活性エネルギー線硬化性モノマーを組み合わせ、用途に応じて印刷基材への接着性、皮膜の柔軟性等の必要物性を得る為に、適宜単官能、2官能のモノマーを単独もしくは併用することが好ましい。
【0016】
具体的には例えば、単官能(メタ)アクリレート、多官能(メタ)アクリレート、重合性オリゴマー等の、ランプ方式で実績のあるものが、本発明で述べる紫外線発光ダイオード方式においてもそのまま使用することが可能である。
【0017】
単官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシー3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシエチルテトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニロキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0018】
2官能以上の(メタ)アクリレートとしては、例えば、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、3-メチル-1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、2-メチル-1,8-オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、2-ブチルー2-エチルー1,3-プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等の2価アルコールのジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートのジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール1モルに4モル以上のエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たジオールのジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA1モルに2モルのエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たジオールのジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールのポリ(メタ)アクリレート等の3価以上の多価アルコールのポリ(メタ)アクリレート、グリセリン1モルに3モル以上のエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たトリオールのトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパン1モルに3モル以上のエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たトリオールのジ又はトリ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA1モルに4モル以上のエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たジオールのジ(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレンポリオールのポリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0019】
重合性オリゴマーとしては、アミン変性ポリエーテルアクリレート、アミン変性エポキシアクリレート、アミン変性脂肪族アクリレート、アミン変性ポリエステルアクリレート、アミノ(メタ)アクリレートなどのアミン変性アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、ポリオレフィン(メタ)アクリレート、ポリスチレン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0020】
(活性エネルギー線に不活性な樹脂)
本発明において活性エネルギー線に不活性な樹脂とは、活性エネルギー線活性基を有さずに活性エネルギー線を照射した際に硬化や重合等を生じない樹脂であり、具体的には、活性エネルギー線活性基を有さないポリエステル樹脂、ポリアクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ビニル樹脂等が挙げられる。中でもポリエステル樹脂が好ましい。
【0021】
ポリエステル樹脂としては例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバチン酸等二塩基酸若しくはそれらのジアルキルエステル又はそれらの混合物と、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、3,3’-ジメチロールヘプタン、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等のグリコール類若しくはそれらの混合物とを反応させて得られるポリエステルポリオール或いはポリカプロラクトン、ポリバレロラクトン、ポリ(β-メチル-γ-バレロラクトン)等のラクトン類を開環重合して得られるポリエステルが挙げられる。
【0022】
これらの活性エネルギー線に不活性な樹脂は、前記活性エネルギー線硬化型インキ(1)に対し2質量%~60質量%の範囲で含有することが好ましい。もっと好ましくは3質量%~55質量%の範囲であり、さらに好ましくは3質量%~50質量%の範囲であり、最も好ましいのは5質量%~30質量%の範囲である。この範囲において、粘度や印刷適性が良好なインキが作製しやすく、また、プラスチック基材に対する良好な密着性を得ることができる。
【0023】
(光重合開始剤)
本発明において、活性エネルギー線として紫外線を使用する場合には、光重合開始剤を使用することが好ましい。光重合開始剤としてはラジカル重合型の光重合開始剤が使用される。
具体的には、ベンゾインイソブチルエーテル、2,4-ジエチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、ベンジル、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタン-1-オン、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルフォスフィンオキシド等が好適に用いられ、さらにこれら以外の分子開裂型のものとして、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オンおよび2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン等を併用しても良いし、さらに水素引き抜き型光重合開始剤である、ベンゾフェノン、4-フェニルベンゾフェノン、イソフタルフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチル-ジフェニルスルフィド等も併用できる。
特に光源としてLEDを使用する場合には、LEDの発光ピーク波長を加味して光重合開始剤を選択することが好ましい。例えばUV-LEDを使用する場合に適した光重合開始剤としては、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタン-1-オン、2-(ジメチルアミノ)-2-[(4-メチルフェニル)メチル]-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタン-1-オン)、ビス(2、4、6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド、2,4-ジエチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン等が挙げられる。
【0024】
また上記光重合開始剤に対し、増感剤として例えば、トリメチルアミン、メチルジメタノールアミン、トリエタノールアミン、p-ジエチルアミノアセトフェノン、p-ジメチルアミノ安息香酸エチル、p-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、N,N-ジメチルベンジルアミンおよび4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン等の、前述重合性成分と付加反応を起こさないアミン類を併用することもできる。
【0025】
本発明で使用する活性エネルギー線硬化型インキには、保存安定性を高めるため、ハイドロキノン、メトキノン、ジ-t-ブチルハイドロキノン、P-メトキシフェノール、ブチルヒドロキシトルエン、ニトロソアミン塩等の重合禁止剤をインキ中に0.01~2質量%の範囲で添加しても良い。
【0026】
(他の成分)
更に必要に応じて、本発明の目的を逸脱しない範囲、とりわけ保存安定性、耐熱性、耐溶剤性等を保持できる範囲内で、他の成分を含有してもよい。他の成分としては、例えば、各種のカップリング剤;充填剤等を添加することができる。
【0027】
カップリング剤は、無機材料と有機材料において化学的に両者を結び付け、あるいは化学的反応を伴って親和性を改善し複合系材料の機能を高める化合物であり、例えば、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン;γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン;γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のシラン系化合物、テトラ-イソプロポキシチタン、テトラ-n-ブトキシチタン等のチタン系化合物、アルミニウムイソプロピレート等のアルミニウム系化合物が挙げられる。これらの添加量は、活性エネルギー線硬化型コーティングニスの全硬化性成分に対して、0.1~10質量%であり、好ましくは0.2~5質量%である。
【0028】
耐摩擦性、ブロッキング防止性、スベリ性またはスリキズ防止性を付与する目的で、例えば、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、ポリテトラフルオロエチレンワックス、シリコン化合物等を添加することができる。その他、要求性能に応じて、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、抗菌剤、界面活性剤、レベリング添加剤、マット剤、膜物性を調整するためのポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ゴム系樹脂等の添加剤も添加することができる。これらの添加剤の添加量は活性エネルギー線硬化型コーティングニスの全硬化性成分に対して、0~10質量%である。
【0029】
本発明で使用する活性エネルギー線硬化型インキは、無溶剤で使用することもできるし、必要に応じて適当な溶媒を使用する事も可能である。溶媒としては、上記各成分と反応しないものであれば特に限定されるものではなく、単独あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0030】
(色剤)
本発明で使用する活性エネルギー線硬化型インキは色材を含まなくてもよいし含んでいてもよい。色材を含まない場合、透明の印刷層となり、例えばベタ版で全面に印刷した印刷物は表面コーティング膜として機能する。色材を含む場合、該色材の色インキとして、各種意匠性を発現する。
使用する色剤としては染料、顔料のいずれであってもよいが、印刷物の耐久性の点から顔料を使用することが好ましい。また色材の添加量は本発明で使用する活性エネルギー線硬化型インキ全硬化性成分に対して5~30質量%であることが好ましい。
【0031】
本発明で使用することができる染料としては、特に限定はないが、直接染料、酸性染料、食用染料、塩基性染料、反応性染料、分散染料、建染染料、可溶性建染染料、反応分散染料、などの各種染料が挙げられる。
【0032】
本発明で使用することができる顔料としては、特に限定はないが、アゾ顔料(アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料などを含む)、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフラロン顔料など)、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレートなど)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料などを挙げることができる。
【0033】
(印刷物)
本発明の印刷物は、基材と、前記活性エネルギー線硬化型インキ(1)の硬化物である印刷層とを備えた印刷物である。
【0034】
(基材)
使用できる基材は特に限定は無く、例えば、上質紙、コート紙、アート紙、模造紙、薄紙、厚紙等の紙、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンビニルアルコール共重合体、エチレンメタクリル酸共重合体、ナイロン、ポリ乳酸、ポリカーボネート等のフィルム又はシート、セロファン、アルミニウムフォイル、その他従来から印刷基材として使用されている各種基材を挙げることが出来る。中でも、本発明の効果を十分に発揮するためには、基材として包装材料用の熱可塑性樹脂フィルム等のプラスチック材からなるフィルムを使用することがこのましい。例えば食品包装用として使用される熱可塑性樹脂フィルムとしては、ポリエチレンレテフタレート(PET)フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリアミドフィルム(ナイロン)、ポリアクリロニトリルフィルム、ポリエチレンフィルム(LLDPE:低密度ポリエチレンフィルム、HDPE:高密度ポリエチレンフィルム)やポリプロピレンフィルム(CPP:無延伸ポリプロピレンフィルム、OPP:二軸延伸ポリプロピレンフィルム)等のポリオレフィンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、エチレン-ビニルアルコール共重合体フィルム等が挙げられる。これらは一軸延伸や二軸延伸等の延伸処理を施してあってもよい。またフィルム表面には必要に応じて火炎処理やコロナ放電処理などの各種表面処理を施してもよい。
本発明で使用する前記活性エネルギー線硬化型インキ(1)は、特にPETフィルム、ナイロン、OPPに対する接着性に優れる。
【0035】
前記基材に印刷する方法は公知の版を使用した印刷方法であればよい。例えばコーターユニットを使った印刷方式、オフセット印刷方式、凸版印刷方式、またはスクリーン印刷方式等が上げられる。本発明の効果を最大限発揮するために、オフセット印刷方式は水無し印刷方式であることが好ましい。コーターユニットを使った印刷方式では、前記活性エネルギー線硬化型インキ(1)は、25℃でのB型粘度計の粘度値が50~1000mPa・sであることが好ましい。オフセット印刷方式では、25℃でのL型粘度計の粘度値が5~70Pa・sであることが好ましい。凸版印刷方式では、25℃でのB型粘度計の粘度値が500~20000mPa・sであることが好ましい。スクリーン印刷方式では、25℃でのB型粘度計の粘度値が500~20000mPa・sであることが好ましい。粘度が低すぎると印刷中にインキが飛び散るトラブルが発生しやすくなる一方、粘度が高すぎると良好な印刷適性が得られず均一な塗膜を得ることが困難となる。
【0036】
印刷は、所望の意匠に応じ、例えば、
(1)基材上に、前記活性エネルギー線硬化型インキ(1)の硬化物である印刷層と、色材を含有する活性エネルギー線硬化型インキ(2)の硬化物である印刷層とを、少なくともこの順に有した印刷物や、
(2)基材上に、前記活性エネルギー線硬化型インキ(1)の硬化物である印刷層と、接着剤層と、シーラントフィルムとを、少なくともこの順に有する印刷物や、
(3)基材上に、前記活性エネルギー線硬化型インキ(1)の硬化物である印刷層と、色材を含有する活性エネルギー線硬化型インキ(2)の硬化物である印刷層と、接着剤層と、シーラントフィルムとを、少なくともこの順に有する印刷物等が挙げられる。
【0037】
前記色材を含有する活性エネルギー線硬化型インキ(2)は、特に限定はなく、本発明で使用する、色材を含有した前記活性エネルギー線硬化型インキ(1)であってもよいし、前記活性エネルギー線硬化型インキ(1)のようモノマーAや活性エネルギー線に不活性な樹脂を含まない汎用の色材を含む活性エネルギー線硬化型インキであってもよい。
【0038】
前記基材に前記方法にて活性エネルギー線硬化型インキ(1)等を印刷後、ピーク波長が350~400nmであるLED-UVランプで硬化させて、本発明の印刷物を得る。
LED-UVランプより印刷面へ照射される紫外線の積算光量値に関しては、印刷基材上のUV硬化性組成物の種別や印刷層の厚み等により異なる為、厳密には特定出来ず、適宜好ましい条件を選択するものであるが、例えば、積算光量の総和が5~200mJ/cm程度であり、より好ましくは、10~100mJ/cm程度である。
【0039】
積算光量値5mJ/cmを下回る条件では十分な硬化性を得ることが困難となり、一方、積算光量値200mJ/cmを超える条件は、本発明で述べる印刷方式においては不必要であり、LED-UVランプの特徴である省エネルギー性を維持する目的においても過剰量のエネルギー照射は行わない。
【0040】
LED-UVランプより印刷基材上のUV硬化性組成物へ照射される紫外線の照射強度(mW/cm2)に関しては、印刷方向に並べるLED-UVランプの個数、光源から組成物までの照射距離等の諸条件によっても適切な照射強度範囲が変動することから特に規定はしないが、本発明で述べる印刷方式における印刷基材の移動速度は6030~400m/min.程度であるから、該印刷速度で移動する印刷基材上のUV硬化性組成物に対して、積算光量値が先に述べた程度となる照射強度であることが好ましい。
【実施例
【0041】
以下に、本発明の内容および効果を実施例により更に詳細に説明する。尚、例中「部」とあるのは「質量部」を示す。
【0042】
(調整例1)
着色顔料としてカーボンブラックであるラーベン1060Ultraをインキ全量の15質量%、光重合開始剤としてBASF社製IrgacureTPO(2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド)10質量%、大同化成工業社製EAB-SS(4,4′-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン)5質量%、MIWON社製MIRAMER M300(トリメチロールプロパントリアクリレート)37.5質量%、固体ポリエチレンワックスであるSHAMROCK社製S-381-N1(25℃にて固体、融点97℃)3質量%、モノマーAとしてフェノールノボラック型エポキシアクリレート5質量%、活性エネルギー線に不活性な樹脂としてポリエステル樹脂22.5質量%、安定剤溶液2質量%を添加した組成物を三本ロールミルにて練肉することで、本発明の印刷物に使われる活性エネルギー線硬化型インキ(1)を作製した。
尚、安定剤溶液は、p-メトキシフェノール(メトキノン、精工化学社製)10質量%を
エチレンオキサイド変性ペンタエリスリトールテトラアクリレート(SR494NS、サ
ートマー社製)90質量%に溶解させた液状混合物である。
【0043】
(調整例2~9、比較調整例1~9)
調整例2~9、比較調整例1~9についても、調整例1と同様の手順にて表1、表2、表4、表5の配合に従って、活性エネルギー線硬化型インキ(1)を作製した。
【0044】
(調整例10、11)
調整例10、11についても調整例1と同様の手順にて、表3の配合に従って、活性エネルギー線硬化型インキ(1)を作製した。また、活性エネルギー線硬化型インキ(2)も同様の手順にて作製した。
【0045】
【表1】



【0046】
【表2】
【0047】
【表3】

【0048】
【表4】
【0049】
【表5】

【0050】
表1~5中の数値は質量%である。諸原料及び略を以下に示す。
・不活性樹脂:活性エネルギー線に不活性な樹脂
・MIRAMER SC6300:フェノールノボラック型エポキシアクリレート50質量%とトリメチロールプロパントリアクリレート50質量%の混合物、MIWON社製
・HEAA:ヒドロキシエチルアクリルアミド、KJケミカルズ社製
・カヤマーPM-21:リン酸基含有メタアクリレート、日本化薬社製
・NKエステルA-SA:2-アクリロイルオキシエチルサクシネート、新中村化学社製
・EBECRYL436:塩素化ポリエステル樹脂60質量%とトリメチロールプロパントリアクリレート40質量%の混合物、ダイセル・オルネクス社製
・MIRAMER SC6400:クレゾールノボラック型エポキシアクリレート50質量%とトリメチロールプロパントリアクリレート50質量%の混合物、MIWON社製
・ACMO:アクリロイルモルフォリン、KJケミカルズ社製
・MIRAMER M142:エチレンオキサイド変性フェノールアクリレート、MIWON社製
・MIRAMER M284:ポリエチレングリコール300ジアクリレート、MIWON社製
・TMPTA:トリメチロールプロパントリアクリレート
・ラーベン1060Ultra:カーボンブラック、ビルラカーボン社製
・S-381-N1:ポリオレフィンワックス、SHAMROCK社製
・安定剤溶液:p-メトキシフェノール(メトキノン、精工化学社製)10質量%をエチ
レンオキサイド変性ペンタエリスリトールテトラアクリレート(SR494NS、サート
マー社製)90質量%に溶解させた液状混合物
・IRGACURE TPO:2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォス
フィンオキサイド、BASF社製
・EAB-SS:4,4-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、大同化成工業社製
【0051】
(実施例、比較例)
(活性エネルギー線硬化型インキ(1)の印刷)
調整例、比較調整例で得た活性エネルギー線硬化型インキ(1)0.15mlを、簡易展色機(RIテスター、豊栄精工社製)を用い、RIテスターのゴムロール及び金属ロール上に均一に引き伸ばした後、基材上に均一に塗布されるように展色し、印刷物を作製した。なおRIテスターとは、紙やフィルムにインキを展色する試験機であり、インキの転移量や印圧を調整することが可能である。使用した基材は以下の3種類である。
PET:二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム「E5102」、厚み12μm、東洋紡製
ナイロン:二軸延伸ナイロンフィルム「ON」、厚み15μm、ユニチカ製
OPP:二軸延伸ポリプロピレンフィルム「P2161」、厚み20μm、東洋紡製
【0052】
(LEDランプによる活性エネルギー線硬化型インキ(1)の硬化)
前記手順で得た活性エネルギー線硬化型インキ(1)の印刷物を、アイグラフィックス社製LED-UVランプ(UEL0320-16E-02T、発光波長385nm)を使って硬化させた。LED-UVランプの出力は100%で、コンベアスピードは50m/分で実施した。
【0053】
(活性エネルギー線硬化型インキ(2)の印刷と硬化)
実施例10と11においては、前記手順で得た基材上に活性エネルギー線硬化型インキ(1)が硬化された印刷物に、更に、活性エネルギー線硬化型インキ(2)を印刷し硬化させた。印刷、硬化の手順は、活性エネルギー線硬化型インキ(1)と同様である。
【0054】
(印刷物の評価)
各実施例、比較例で作製した印刷物の密着性を、次に示す手順によって評価した。粘着テープ(ニチバン製セロテープ(登録商標)、幅18mm)を約2cmの長さで印刷物に貼り、指で擦ってテープと印刷物の間に残っている空気を抜いた。その後直ちに、テープの端を持って90度上方に引っ張りテープを剥がした。テープが付着していた部分の印刷物の状態を目視にて、次の3段階で評価した。
○:テープが付着していた部分で、基材に残っているインキ皮膜の面積が80%以上
△:テープが付着していた部分で、基材に残っているインキ皮膜の面積が50~80%
×:テープが付着していた部分で、基材に残っているインキ皮膜の面積が50%以下
【0055】
表6~10に評価結果を示す。
【0056】
【表6】

【0057】
【表7】
【0058】
【表8】

【0059】
【表9】

【0060】
【表10】

【0061】
これにより、実施例で得た印刷物は、プラスチックフィルムへの密着が良好であった。特にPET、ナイロン、OPPといった極性の異なるプラスチックフィルムにも良好な密着を達成することができた。一方比較例で得た印刷物は、いずれかのプラスチックフィルムに対して密着性に劣ることがわかった。