IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社GSユアサの特許一覧

<>
  • 特許-非水電解質及び非水電解質蓄電素子 図1
  • 特許-非水電解質及び非水電解質蓄電素子 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-25
(45)【発行日】2022-05-09
(54)【発明の名称】非水電解質及び非水電解質蓄電素子
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0569 20100101AFI20220426BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20220426BHJP
   H01G 11/60 20130101ALI20220426BHJP
   H01G 11/62 20130101ALI20220426BHJP
【FI】
H01M10/0569
H01M10/0568
H01G11/60
H01G11/62
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018013057
(22)【出願日】2018-01-29
(65)【公開番号】P2019133773
(43)【公開日】2019-08-08
【審査請求日】2020-11-27
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100158540
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 博生
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100187768
【弁理士】
【氏名又は名称】藤中 賢一
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 昌子
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 克行
(72)【発明者】
【氏名】中川 裕江
【審査官】原 和秀
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-093322(JP,A)
【文献】特開2014-035866(JP,A)
【文献】特開2012-134151(JP,A)
【文献】国際公開第2013/108571(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0569
H01M 10/0568
H01G 11/60
H01G 11/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質塩及び非水溶媒を含み、
上記非水溶媒が、フッ素化環状カーボネート、フッ素化鎖状カーボネート、及び25℃における粘度が4mPa・s以下であるフッ素化非カーボネート化合物を含み、
上記25℃における粘度が4mPa・s以下であるフッ素化非カーボネート化合物が1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,2-トリフルオロエチルエーテルである蓄電素子用の非水電解質。
【請求項2】
上記電解質塩が、イミド塩を含む請求項1の非水電解質。
【請求項3】
上記電解質塩に占める上記イミド塩の含有量が、90mol%以上である請求項2の非水電解質。
【請求項4】
上記電解質塩の濃度が、0.5mol/kg以上3mol/kg以下である請求項1、請求項2又は請求項3の非水電解質。
【請求項5】
最大到達電位が4.5V(vs.Li/Li)以上となる充電条件下で作動する正極活物質を含む正極と、
請求項1から請求項4のいずれか1項の非水電解質と
を備える非水電解質蓄電素子。
【請求項6】
正極と、
請求項1から請求項4のいずれか1項の非水電解質と
を備え、
上記正極の最大到達電位が、4.5V(vs.Li/Li)以上である非水電解質蓄電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質及び非水電解質蓄電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池は、エネルギー密度の高さから、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等に多用されている。上記非水電解質二次電池は、一般的には、セパレータで電気的に隔離された一対の電極と、この電極間に介在する非水電解質(電解液)とを有し、両電極間でイオンの受け渡しを行うことで充放電するよう構成される。また、非水電解質二次電池以外の非水電解質蓄電素子として、リチウムイオンキャパシタや電気二重層キャパシタ等のキャパシタも広く普及している。
【0003】
非水電解質蓄電素子においては、充放電の繰り返しによっても良好な性能が維持されることが望まれる。しかし、非水電解質蓄電素子は、特に、正極の最大到達電位が例えば4.5V(vs.Li/Li)以上の高電位となる充電条件下で作動させることで、容量維持率の低下が顕著になる。このような容量維持率の低下は、高電位下で生じる非水電解質の酸化分解が原因の一つとされている。これに対し、耐酸化性を改善するため、フッ素化飽和環状カーボネート及びフッ素化鎖状カーボネートを含む電解液が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-191737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記のようなフッ素化カーボネートを含む非水溶媒を用いた非水電解質蓄電素子においても、正極の最大到達電位が高電位に至る充放電サイクル後の容量維持率は、十分に高いといえるものではない。
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、正極の最大到達電位が高電位に至る充放電サイクル後の非水電解質蓄電素子の容量維持率を改善することができる非水電解質、及びこれを備える非水電解質蓄電素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた本発明の一態様は、電解質塩及び非水溶媒を含み、上記非水溶媒が、フッ素化環状カーボネート、フッ素化鎖状カーボネート、及び25℃における粘度が4mPa・s以下であるフッ素化非カーボネート化合物を含む蓄電素子用の非水電解質である。
【0008】
本発明の他の一態様は、最大到達電位が4.5V(vs.Li/Li)以上となる充電条件下で作動する正極活物質を含む正極と、上記非水電解質とを備える非水電解質蓄電素子である。
【0009】
本発明の他の一態様は、正極と、上記非水電解質とを備え、上記正極の最大到達電位が、4.5V(vs.Li/Li)以上である非水電解質蓄電素子である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、正極の最大到達電位が高電位に至る充放電サイクル後の非水電解質蓄電素子の容量維持率を改善することができる非水電解質、及びこれを備える非水電解質蓄電素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子を示す外観斜視図である。
図2図2は、本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子を複数個集合して構成した蓄電装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態に係る非水電解質は、電解質塩及び非水溶媒を含み、上記非水溶媒が、フッ素化環状カーボネート、フッ素化鎖状カーボネート、及び25℃における粘度が4mPa・s以下であるフッ素化非カーボネート化合物を含む蓄電素子用の非水電解質である。
【0013】
当該非水電解質は、正極の最大到達電位が例えば4.5V(vs.Li/Li)以上といった高電位に至る充放電サイクル後の非水電解質蓄電素子の容量維持率を改善することができる。この理由は定かでは無いが、以下の理由が推測される。フッ素化カーボネートを用いた従来の非水電解質において容量維持率が低下する原因として、例えば正極の最大到達電位が4.5V(vs.Li/Li)以上の高電位条件下では、複数種の副反応が継続的かつ複雑に起こることが挙げられる。これに対し、当該非水電解質の非水溶媒においては、フッ素化環状カーボネート及びフッ素化鎖状カーボネートに加え、フッ素化非カーボネート化合物を含有することで、電解質塩を構成するカチオンとアニオンとの相互作用が強くなる。このようにカチオンとアニオンとの相互作用が強まった場合、アニオンのHOMO-LUMO準位が変化し、耐酸化性の向上などが生じることにより、容量維持率が改善されるものと推測される。さらに、上記フッ素化非カーボネート化合物は、25℃における粘度が4mPa・s以下であるため、このフッ素化非カーボネート化合物を含む当該非水電解質は、粘度が高すぎず、良好なイオン伝導性が確保される。このようなことから、当該非水電解質によれば、正極の最大到達電位が高電位に至る充電条件下で作動させる非水電解質蓄電素子の充放電サイクル後の容量維持率を改善することができると推測される。
【0014】
なお、本願明細書において、粘度は、落球式粘度計(AntonPaar GmbH(アントンパール社)製 Lovis 2000 M)を用い、Ar雰囲気下、試験セルに電解液を封入し、25℃の条件下で測定するものとする。
【0015】
上記電解質塩は、イミド塩を含むことが好ましい。上記電解質塩がイミド塩を含むことにより、非水電解質蓄電素子の容量維持率をより高めることができる。これは、イミド塩の方が、カチオンとアニオンとの相互作用が強くなることで生じるアニオンの耐酸化性の向上などの作用効果が、他のリチウム塩よりも顕著であるためと推測される。また、従来、イミド塩を電解質塩とした場合、正極基材等として用いられるアルミニウム等の酸化溶解が生じ、非水電解質蓄電素子の寿命に悪影響を与える。このアルミニウム等の酸化溶解を抑制するためには、イミド塩の濃度を高めることが必要であるとされている。これは、イミド塩が飽和した状態に近づけておくことで、高電位下での非水電解質中へのアルミニウム等の酸化溶解が抑制されるためであるとされる。しかし、イミド塩を飽和した状態に近くなるまで高濃度化した場合、非水電解質の粘度が高くなり、非水電解質蓄電素子の高率放電性能が低下するという問題がある。これに対し、当該非水電解質によれば、25℃における粘度が4mPa・s以下であるフッ素化非カーボネート化合物を用いることで、非水電解質の粘度を高くせずにアルミニウム等の酸化溶解を抑制でき、非水電解質蓄電素子の容量維持率を改善することができると推察される。具体的に説明すれば、例えば、フッ素化環状カーボネート及びフッ素化鎖状カーボネートを溶媒とするイミド塩の飽和溶液に対して、25℃における粘度が4mPa・s以下であり、イミド塩の溶解度が低いフッ素化非カーボネート化合物を加えて希釈することで、低粘度化を図りつつ、アルミニウム等が酸化溶解し難い状態を構成することができる。このため、当該非水電解質によれば、高粘度化を回避しつつ、正極の最大到達電位が高電位に至る充電条件下で作動させる非水電解質蓄電素子の容量維持率を改善することができ、高率放電性能の低下等も抑制することができる。
【0016】
上記電解質塩に占める上記イミド塩の含有量が、90mol%以上であることが好ましい。電解質塩に占めるイミド塩の含有量を90mol%以上とすることで、正極の最大到達電位が高電位に至る充電条件下で作動させる非水電解質蓄電素子の容量維持率がより改善され、特に、比較的高温下で(例えば45℃)かつ正極の最大到達電位が高電位に至る充放電サイクル後の容量維持率を改善することができる。
【0017】
上記電解質塩の濃度が、0.5mol/kg以上3mol/kg以下であることが好ましい。当該非水電解質によれば、電解質塩を例えば3mol/kgを超えるような飽和した状態に近くなるまで高濃度としなくとも、正極の最大到達電位が高電位に至る充電条件下で作動させる非水電解質蓄電素子の充放電サイクル後の容量維持率を改善することができる。また、上記電解質塩の濃度が0.5mol/kg以上3mol/kg以下であることで、非水電解質の高粘度化を回避し、その結果、高率放電性能の低下等も抑制することができる。
【0018】
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子は、最大到達電位が4.5V(vs.Li/Li)以上となる充電条件下で作動する正極活物質を含む正極と、上記非水電解質とを備える非水電解質蓄電素子(A)である。当該非水電解質蓄電素子(A)は、上記非水電解質を備えるため、充放電サイクル後の容量維持率が改善されている。また、当該非水電解質蓄電素子(A)は、正極の最大到達電位が4.5V(vs.Li/Li)以上となり得るため、高電圧化した非水電解質蓄電素子とすることができ、高いエネルギー密度を有する。
【0019】
なお、「最大到達電位が4.5V(vs.Li/Li)以上となる充電条件下で作動する正極活物質」とは、4.5V(vs.Li/Li)以上の電位においても作動する物質、すなわち正極活物質としての可逆的な充放電反応が生じる物質である。この正極活物質は、4.5V(vs.Li/Li)以下の電位においても作動してもよく、最大到達電位が4.5V(vs.Li/Li)以下である充電条件下でも作動してもよい。
【0020】
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子は、正極と、上記非水電解質とを備え、上記正極の最大到達電位が、4.5V(vs.Li/Li)以上である非水電解質蓄電素子(B)である。当該非水電解質蓄電素子(B)は、上記非水電解質を備えるため、充放電サイクル後の容量維持率が改善されている。また、当該非水電解質蓄電素子(B)は、正極の最大到達電位が、4.5V(vs.Li/Li)以上であるため、高いエネルギー密度を有する。
【0021】
以下、本発明の一実施形態に係る非水電解質及び非水電解質蓄電素子について詳説する。
【0022】
<非水電解質>
本発明の一実施形態に係る非水電解質は、電解質塩及び非水溶媒を含む。当該非水電解質は、非水電解質二次電池等、非水電解質蓄電素子の電解質として用いられる。
【0023】
(電解質塩)
上記電解質塩としては、一般的な蓄電素子用非水電解質の電解質塩として通常用いられる公知の電解質塩を用いることができる。上記電解質塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、オニウム塩等を挙げることができるが、リチウム塩が好ましい。また、上記電解質塩としては、LiPF、LiPO、LiBF、LiClO等の無機塩、イミド塩等の有機塩を挙げることができる。電解質塩は、1種又は2種以上を用いることができる。
【0024】
電解質塩としては、有機塩が好ましく、イミド塩がより好ましく、リチウムイミド塩がさらに好ましい。なお、本発明においてイミド塩とは、窒素原子に2つのカルボニル基が結合された構造を有するイミド塩のみならず、窒素原子に2つのスルホニル基が結合された構造を有するもの、窒素原子に2つのホスホニル基が結合された構造を有するもの、窒素原子にカルボニル基、スルホニル基及びホスホニル基から選ばれた2種と結合された構造を有するものなども含む。
【0025】
上記リチウムイミド塩としては、
LiN(SOF)(リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド:LiFSI)、LiN(SOCF(リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド:LiTFSI)、LiN(SO(リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド:LiBETI)、LiN(SO(リチウムビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド)、CF-SO-N-SO-N-SOCFLi、FSO-N-SO-CLi、CF-SO-N-SO-CF-SO-N-SO-CFLi、CF-SO-N-SO-CF-SOLi、CF-SO-N-SO-CF-SO-C(-SOCFLi等のリチウムスルホニルイミド塩;
LiN(POF(リチウムビス(ジフルオロホスホニル)イミド:LiDFPI)等のリチウムホスホニルイミド塩等を挙げることができる。
【0026】
リチウムイミド塩は、フッ素原子を有することが好ましく、具体的には例えばフルオロスルホニル基、ジフルオロホスホニル基、フルオロアルキル基等を有することが好ましい。リチウムイミド塩の中でも、リチウムスルホニルイミド塩が好ましく、LiFSI、LiTFSI及びLiBETIがより好ましく、LiFSIがさらに好ましい。これらのイミド塩は、高電位(例えば正極の最大到達電位が4.5V(vs.Li/Li)以上)に至る充電の際にアルミニウム等の酸化溶解を比較的生じさせやすいイミド塩である。従って、このようなイミド塩を用いた場合、正極の最大到達電位が高電位に至る充電条件下で作動する非水電解質蓄電素子の充放電サイクル後の容量維持率を改善することができるという本発明の効果が、特に効果的に得られる。
【0027】
上記電解質塩に占めるイミド塩の含有量の下限としては、例えば50mol%であってもよく、80mol%であってもよいが、90mol%が好ましく、95mol%がより好ましく、99mol%がさらに好ましい。なお、上記電解質塩に占めるイミド塩の含有量の上限は、100mol%であってよい。
【0028】
当該非水電解質における電解質塩の濃度(電解質塩の含有量)の下限としては、0.5mol/kgが好ましく、0.8mol/kgがより好ましく、1.0mol/kgがさらに好ましく、1.5mol/kgがよりさらに好ましい。電解質塩の濃度を上記下限以上とすることで、後述するようにフッ素化環状カーボネート及びフッ素化鎖状カーボネートに主に溶解した状態の電解質塩のカチオンとアニオンとの相互作用が強くなることでアニオンのHOMO-LUMO準位が変化し、耐酸化性の向上などが生じることなどにより、非水電解質蓄電素子の容量維持率をより高めることができる。一方、この電解質塩の濃度の上限としては、3mol/kgが好ましく、2.5mol/kgがより好ましく、1.5mol/kgがさらに好ましい場合もある。電解質塩の濃度を上記上限以下とすることで、非水電解質の高粘度化を抑制し、この結果、非水電解質蓄電素子の高率放電性能等を高めることができる。また、電解質塩の濃度を上記上限以下とすることで、非水電解質蓄電素子の放電容量が大きくなる傾向にある。
【0029】
(非水溶媒)
上記非水溶媒は、フッ素化環状カーボネート、フッ素化鎖状カーボネート、及びフッ素化非カーボネート化合物を含む。フッ素化環状カーボネート、フッ素化鎖状カーボネート、及びフッ素化非カーボネート化合物は、それぞれ1種ずつ又は2種以上混合して用いることができる。当該非水電解質を構成するフッ素化環状カーボネート及びフッ素化鎖状カーボネートへの電解質塩の溶解度は、通常、フッ素化非カーボネート化合物よりも高い。従って、当該非水電解質においては、電解質塩はフッ素化環状カーボネート及びフッ素化鎖状カーボネートに主に溶解している状態であると考えられる。
【0030】
(フッ素化環状カーボネート)
フッ素化環状カーボネートは、環状カーボネートが有する水素原子の一部又は全部がフッ素原子に置換された化合物である。フッ素化環状カーボネートは、負極表面に良好な被膜を形成し、容量維持率の向上に寄与する。
【0031】
上記フッ素化環状カーボネートとしては、フルオロエチレンカーボネート、ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネート、テトラフルオロエチレンカーボネート、(フルオロメチル)エチレンカーボネート、(ジフルオロメチル)エチレンカーボネート、(トリフルオロメチル)エチレンカーボネート、ビス(フルオロメチル)エチレンカーボネート、ビス(ジフルオロメチル)エチレンカーボネート、ビス(トリフルオロメチル)エチレンカーボネート、(フルオロエチル)エチレンカーボネート、(ジフルオロエチル)エチレンカーボネート、(トリフルオロエチル)エチレンカーボネート、4-フルオロ-4-メチルエチレンカーボネート、4,4-ジフルオロ-5-メチルエチレンカーボネート、4,5-ジフルオロ-4,5-ジメチルエチレンカーボネート等を挙げることができる。フッ素化環状カーボネートとしては、フルオロエチレンカーボネートが好ましい。
【0032】
非水溶媒に占めるフッ素化環状カーボネートの含有量の下限としては、1体積%が好ましく、5体積%がより好ましい。フッ素化環状カーボネートの含有量を上記下限以上とすることで、負極表面に十分な量の被膜を形成することができ、容量維持率をより高めることができる。一方、このフッ素化環状カーボネートの含有量の上限としては、30体積%が好ましく、20体積%がより好ましく、15体積%がさらに好ましい。フッ素化環状カーボネートの含有量を上記上限以下とすることで、他の非水溶媒であるフッ素化鎖状カーボネート及びフッ素化非カーボネート化合物を十分な量含有させることができ、非水電解質蓄電素子の容量維持率をより高めることができる。
【0033】
(フッ素化鎖状カーボネート)
フッ素化鎖状カーボネートは、鎖状カーボネートが有する水素原子の一部又は全部がフッ素原子に置換された化合物である。フッ素化鎖状カーボネートは比較的低粘度の溶媒であり、高粘度化を抑制し、非水電解質蓄電素子の高率放電性能等を高めることもできる。
【0034】
上記フッ素化鎖状カーボネートは、例えばR-O-CO-O-R(Rは、フッ素化アルキル基である。Rは、アルキル基又はフッ素化アルキル基である。)で表される化合物を挙げることができる。上記Rは、アルキル基が好ましい。また、R及びRの炭素数は、それぞれ、1~3であることが好ましく、1又は2であることがより好ましい。
【0035】
上記フッ素化鎖状カーボネートとしては、メチルフルオロメチルカーボネート、メチルフルオロエチルカーボネート、メチルジフルオロエチルカーボネート、メチルトリフルオロエチルカーボネート、ビス(トリフルオロエチル)カーボネート、メチルフルオロプロピルカーボネート、メチルジフルオロプロピルカーボネート、メチルトリフルオロプロピルカーボネート、メチルテトラフルオロプロピルカーボネート、メチルペンタフルオロプロピルカーボネート、ビス(トリフルオロプロピル)カーボネート、ビス(テトラフルオロプロピル)カーボネート、ビス(ペンタフルオロプロピル)カーボネート等を挙げることができる。フッ素化鎖状カーボネートとしては、メチルトリフルオロエチルカーボネートが好ましい。
【0036】
非水溶媒に占めるフッ素化鎖状カーボネートの含有量の下限としては、30体積%が好ましく、40体積%がより好ましく、45体積%がさらに好ましい。フッ素化鎖状カーボネートの含有量を上記下限以上とすることで、十分な量の電解質塩を溶解させることができる。フッ素化鎖状カーボネートの含有量は、フッ素化環状カーボネート及びフッ素化非カーボネート化合物のそれぞれの含有量よりも多いことが好ましい。一方、このフッ素化鎖状カーボネートの含有量の上限としては、80体積%が好ましく、65体積%がより好ましく、55体積%がさらに好ましい。フッ素化鎖状カーボネートの含有量を上記上限以下とすることで、電解質塩のカチオンとアニオンとの相互作用が強くなり、アニオンのHOMO-LUMO準位が変化し、アニオンの耐酸化性の向上などができ、非水電解質蓄電素子の容量維持率をより高めることができる。
【0037】
(フッ素化非カーボネート化合物)
上記フッ素化非カーボネート化合物は、25℃における粘度が4mPa・s以下であるフッ素化非カーボネート化合物である。フッ素化非カーボネート化合物は、フッ素原子を有する、カーボネート以外の非水溶媒である。なお、フッ素化非カーボネート化合物は、25℃以外においては常温で液体の化合物に限定されるものではない。フッ素化非カーボネート化合物は、フッ素化化合物であり、良好な耐酸化性を有する。このフッ素化非カーボネート化合物は、上述のように、電解質塩のカチオンとアニオンとの相互作用が強い状態を形成しつつ、非水電解質の高粘度化を抑制する、希釈溶媒として機能しているものと考えられる。
【0038】
上記機能は、フッ素化非カーボネート化合物への電解質塩の溶解度が、非水電解質を構成する他の溶媒(フッ素化環状カーボネート及びフッ素化鎖状カーボネート)への溶解度より低いことにより発揮されると推測される。このような機能が効果的に発現されるためには、フッ素化非カーボネート化合物は、比較的極性の低い化合物であることが好ましい。具体的には、フッ素化非カーボネート化合物としては、フッ素化炭化水素、フッ素化エーテル、フッ素化エステル等を挙げることができ、これらの中でも、フッ素化炭化水素及びフッ素化エーテルが好ましく、フッ素化エーテルがより好ましい。さらに、フッ素化エーテルの中でも、鎖状フッ素化エーテルが好ましい。
【0039】
上記フッ素化エーテルは、エーテルが有する水素原子の一部又は全部がフッ素原子に置換された化合物である。上記フッ素化エーテルとしては、例えばR-O-R(Rは、炭素数1~8のフッ素化炭化水素基である。Rは、炭素数1~8の炭化水素基又は炭素数1~8のフッ素化炭化水素基である。)で表される化合物を挙げることができる。
【0040】
上記Rは、フッ素化アルキル基が好ましい。Rの炭素数の上限は、5が好ましく、3がより好ましい。Rの炭素数の下限は、2が好ましい。上記Rとしては、フッ素化炭化水素基が好ましく、フッ素化アルキル基がより好ましい。Rの炭素数の上限は、5が好ましく、3がより好ましい。Rの炭素数の下限は、2が好ましい。
【0041】
フッ素化非カーボネート化合物の具体例としては、
1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,2-トリフルオロエチルエーテル(TFEE:25℃における粘度0.65mPa・s)、
1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル(HFE:25℃における粘度1.6mPa・s)、
エチル-1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル(23℃における粘度0.486mPa・s)、
ヘキサフルオロイソプロピルメチルエーテル(23℃における粘度0.498mPa・s)等を挙げることができる。
【0042】
上記フッ素化非カーボネート化合物の25℃における粘度の上限としては、2mPa・sが好ましく、1mPa・sがより好ましい。フッ素化非カーボネートの粘度を上記上限以下とすることにより、非水電解質蓄電素子の容量維持率をより高めることができる。一方、この粘度の下限は、例えば0.1mPa・sであってよく、0.3mPa・sであってもよく、0.5mPa・sであってもよい。
【0043】
非水溶媒に占めるフッ素化非カーボネート化合物の含有量の下限としては、5体積%が好ましく、15体積%がより好ましく、25体積%がさらに好ましく、35体積%がよりさらに好ましい。フッ素化非カーボネート化合物の含有量を上記下限以上とすることで、電解質塩を、カチオンとアニオンとの相互作用の強い好ましい状態とすることができる。一方、このフッ素化非カーボネート化合物の含有量の上限としては、60体積%が好ましく、50体積%がより好ましく、45体積%がさらに好ましい。フッ素化非カーボネート化合物の含有量を上記上限以下とすることで、他の非水溶媒であるフッ素化カーボネート等の含有量を高めることができ、非水電解質に十分な量の電解質塩を溶解させることができる。
【0044】
(他の溶媒)
上記非水溶媒は、フッ素化環状カーボネート、フッ素化鎖状カーボネート、及び25℃における粘度が4mPa・s以下であるフッ素化非カーボネート化合物以外の他の溶媒をさらに含有していてもよい。他の溶媒としては、25℃における粘度が4mPa・s超であるフッ素化非カーボネート化合物、フッ素化されていないカーボネート、エステル、エーテル、アミド、スルホン、ラクトン、ニトリル等を挙げることができる。
【0045】
但し、上記非水溶媒に占める上記他の溶媒の含有量の上限としては、10体積%が好ましく、1体積%がより好ましく、0.1体積%がさらに好ましい。このように、実質的に他の溶媒を含まない場合、耐酸化性が高まることなどにより、非水電解質蓄電素子の容量維持率をより高めることができる。
【0046】
(その他の成分等)
当該非水電解質は、本発明の効果を阻害しない限り、上記電解質塩及び非水溶媒以外の他の成分を含有していてもよい。上記他の成分としては、一般的な蓄電素子用非水電解質に含有される各種添加剤を挙げることができる。但し、上記他の成分の含有量の上限としては、10質量%が好ましいことがあり、1質量%がより好ましいことがあり、0.1質量%がさらに好ましいことがある。他の成分の含有量が多い場合、これらの成分が電解質塩の溶解度、粘度、耐酸化性等に影響を与え、これを備える非水電解質蓄電素子の容量維持率に影響を与える場合がある。
【0047】
当該非水電解質の調製方法は特に限定されず、各成分を所定の割合で混合することにより得ることができる。
【0048】
<非水電解質蓄電素子>
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子は、正極、負極及び非水電解質を有する。以下、非水電解質蓄電素子の一例として、非水電解質二次電池について説明する。上記正極及び負極は、通常、セパレータを介して積層又は巻回により交互に重畳された電極体を形成する。この電極体はケースに収納され、このケース内に上記非水電解質が充填される。当該非水電解質二次電池においては、非水電解質として、上述した当該非水電解質が用いられている。上記非水電解質は、正極と負極との間に介在する。また、上記ケースとしては、非水電解質二次電池のケースとして通常用いられる公知の金属ケース、樹脂ケース等を用いることができる。
【0049】
(正極)
上記正極は、正極基材、及びこの正極基材に直接又は中間層を介して配される正極活物質層を有する。
【0050】
上記正極基材は、導電性を有する。基材の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はそれらの合金が用いられる。これらの中でも、導電性の高さ及びコストのバランスからアルミニウム及びアルミニウム合金が好ましい。正極基材の形成形態としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの面から箔が好ましい。つまり、正極基材としてはアルミニウム箔が好ましい。なお、アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS-H-4000(2014年)に規定されるA1085P、A3003P等が例示できる。
【0051】
中間層は、正極基材の表面の被覆層であり、炭素粒子等の導電性粒子を含むことで正極基材と正極活物質層との接触抵抗を低減する。中間層の構成は特に限定されず、例えば樹脂バインダー及び導電性粒子を含有する組成物により形成できる。なお、「導電性」を有するとは、JIS-H-0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が10Ω・cm以下であることを意味し、「非導電性」とは、上記体積抵抗率が10Ω・cm超であることを意味する。
【0052】
正極活物質層は、正極活物質を含むいわゆる正極合材から形成される。また、正極活物質層を形成する正極合材は、必要に応じて導電剤、バインダー(結着剤)、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。
【0053】
上記正極活物質としては、例えばLiMeO(Meは少なくとも一種の遷移金属を表す)で表される複合酸化物(層状のα―NaFeO型結晶構造を有する複合酸化物、その他、スピネル型結晶構造を有するLiMn,LiNiαMn(2-α)等)、LiMe(XO(Meは少なくとも一種の遷移金属を表し、Xは例えばP、Si、B、V等を表す)で表されるポリアニオン化合物(LiFePO,LiMnPO,LiNiPO,LiCoPO,Li(PO,LiMnSiO,LiCoPOF等)などが挙げられる。これらの化合物中の元素又はポリアニオンは、他の元素又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。正極活物質層においては、これら化合物の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0054】
本発明の一実施形態として、上記正極は、最大到達電位が4.5V(vs.Li/Li)以上となる充電条件下で作動する正極活物質を含むことが好ましい。当該非水電解質二次電池は、正極の最大到達電位が4.5V(vs.Li/Li)以上となる使用においても、容量維持率が高い。従って、最大到達電位が4.5V(vs.Li/Li)以上となる充電条件下で作動する正極活物質を用いることで、エネルギー密度が高まり、かつ充放電サイクル後の容量維持率が高い非水電解質二次電池とすることができる。
【0055】
最大到達電位が4.5V(vs.Li/Li)以上となる充電条件下で作動する正極活物質とは、4.5V(vs.Li/Li)以上の電位において可逆的なリチウムイオンの挿入脱離が可能な正極活物質であってよい。このような正極活物質としては、例えば、層状のα―NaFeO型結晶構造を有するLi1+αMe1-α(MeはMnを含む金属元素、Mn/Me>0.5、0<α<0.5)や、スピネル型結晶構造を有するLiNiαMn(2-α)(0<x<1、0<α<1)の一例であるLiNi0.5Mn1.5、ポリアニオン化合物の一例であるLiNiPO、LiCoPO、LiCoPOF、LiMnSiO等を挙げることができる。
【0056】
上記正極活物質層における正極活物質の含有量としては、例えば80質量%以上98質量%以下とすることができ、90質量%以上であることが好ましい。
【0057】
上記導電剤としては、電池性能に悪影響を与えない導電性材料であれば特に限定されない。このような導電剤としては、天然又は人造の黒鉛、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、金属、導電性セラミックス等が挙げられる。導電剤の形状としては、粉状、繊維状等が挙げられる。
【0058】
上記バインダーとしては、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子等が挙げられる。
【0059】
上記増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。また、増粘剤がリチウムと反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させておくことが好ましい。
【0060】
上記フィラーとしては、電池性能に悪影響を与えないものであれば特に限定されない。フィラーの主成分としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、シリカ、アルミナ、ゼオライト、ガラス等が挙げられる。
【0061】
(負極)
上記負極は、負極基材、及びこの負極基材に直接又は中間層を介して配される負極活物質層を有する。上記中間層は正極の中間層と同様の構成とすることができる。
【0062】
上記負極基材は、正極基材と同様の構成とすることができるが、材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属又はそれらの合金が用いられ、銅又は銅合金が好ましい。つまり、負極基材としては銅箔が好ましい。銅箔としては、圧延銅箔、電解銅箔等が例示される。
【0063】
負極活物質層は、負極活物質を含むいわゆる負極合材から形成される。また、負極活物質層を形成する負極合材は、必要に応じて導電剤、バインダー、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。導電剤、バインダー、増粘剤、フィラー等の任意成分は、正極活物質層と同様のものを用いることができる。
【0064】
負極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材質が用いられる。具体的な負極活物質としては、例えばSi、Sn等の金属又は半金属;Si酸化物、Sn酸化物等の金属酸化物又は半金属酸化物;ポリリン酸化合物;黒鉛(グラファイト)、非黒鉛質炭素(易黒鉛化性炭素又は難黒鉛化性炭素)等の炭素材料等が挙げられる。
【0065】
さらに、負極合材(負極活物質層)は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Ta、Hf、Nb、W等の遷移金属元素を含有してもよい。
【0066】
(セパレータ)
上記セパレータの材質としては、例えば織布、不織布、多孔質樹脂フィルム等が用いられる。これらの中でも、強度の観点から多孔質樹脂フィルムが好ましく、非水電解質の保液性の観点から不織布が好ましい。上記セパレータの主成分としては、強度の観点から例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましく、耐酸化分解性の観点から例えばポリイミドやアラミド等が好ましい。また、これらの樹脂を複合してもよい。
【0067】
なお、セパレータと電極(通常、正極)との間に、無機絶縁物層が配設されていてもよい。この無機絶縁物層は、耐熱層等とも呼ばれる多孔質の層である。また、多孔質樹脂フィルムの一方又は両方の面に無機絶縁物層が形成されたセパレータを用いることもできる。上記無機絶縁物層は、通常、無機絶縁物粒子及びバインダーとで構成され、その他の成分が含有されていてもよい。無機絶縁物粒子としては、Al、SiO、アルミノシリケート等が好ましい。
【0068】
(最大到達電位)
当該非水電解質二次電池は、上記非水電解質を用いているため、正極の最大到達電位が4.5V(vs.Li/Li)以上といった高電位に至る場合も、充放電サイクル後の容量維持率が高い。従って当該非水電解質二次電池は、高い充電終止電圧に至る充電条件下で好適に用いることができる。例えば、当該非水電解質二次電池の正極の最大到達電位は、4.5V(vs.Li/Li)以上に充電されて使用することができ、この正極の最大到達電位は、4.7V(vs.Li/Li)以上であってもよい。このように正極の最大到達電位が高いことにより、高エネルギー密度化を図ることができる。なお、この正極の最大到達電位の上限は、例えば5.4V(vs.Li/Li)であってよく、5.2V(vs.Li/Li)であってよく、5.0V(vs.Li/Li)であってもよい。また、上記正極の最大到達電位は、通常使用時における当該非水電解質二次電池の充電終止電圧における正極電位であってよい。ここで、通常使用時とは、当該非水電解質二次電池において推奨され、又は指定される充放電条件を採用して当該非水電解質二次電池を使用する場合をいう。充電条件に関しては、当該非水電解質二次電池のための充電器が用意されている場合は、その充電器を適用して当該非水電解質二次電池を使用する場合を通常使用時という。
【0069】
(非水電解質二次電池の製造方法)
当該非水電解質二次電池の製造方法は、特に限定されない。当該非水電解質二次電池は、上記非水電解質を用いることにより製造することができる。上記製造方法は、例えば、正極を作製する工程、負極を作製する工程、非水電解質を調製する工程、正極及び負極をセパレータを介して積層又は巻回することにより交互に重畳された電極体を形成する工程、正極及び負極(電極体)を容器に収容する工程、並びに上記容器に上記非水電解質を注入する工程を備える。注入後、注入口を封止することにより非水電解質二次電池を得ることができる。
【0070】
<その他の実施形態>
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、上記態様の他、種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。例えば、正極及び負極において、中間層を設けなくてもよく、明確な層構造を有していなくてもよい。例えば正極及び負極は、メッシュ状の基材に活物質が担持された構造などであってもよい。また、上記実施の形態においては、非水電解質蓄電素子が非水電解質二次電池である形態を中心に説明したが、その他の非水電解質蓄電素子であってもよい。その他の非水電解質蓄電素子としては、キャパシタ(電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ)等が挙げられる。
【0071】
図1に、本発明に係る非水電解質蓄電素子の一実施形態である矩形状の非水電解質蓄電素子1(非水電解質二次電池)の概略図を示す。なお、同図は、容器内部を透視した図としている。図1に示す非水電解質蓄電素子1は、電極体2が容器3に収納されている。電極体2は、正極活物質を備える正極と、負極活物質を備える負極とが、セパレータを介して巻回されることにより形成されている。正極は、正極リード4’を介して正極端子4と電気的に接続され、負極は、負極リード5’を介して負極端子5と電気的に接続されている。また、容器3内には、本発明の一実施形態に係る非水電解質が注入されている。
【0072】
本発明に係る非水電解質蓄電素子の構成については特に限定されるものではなく、円筒型蓄電素子、角型蓄電素子(矩形状の蓄電素子)、扁平型蓄電素子等が一例として挙げられる。本発明は、上記の非水電解質蓄電素子を複数備える蓄電装置としても実現することができる。蓄電装置の一実施形態を図2に示す。図2において、蓄電装置30は、複数の蓄電ユニット20を備えている。それぞれの蓄電ユニット20は、複数の非水電解質蓄電素子1を備えている。上記蓄電装置30は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源として搭載することができる。
【実施例
【0073】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0074】
実施例及び比較例で用いた電解質塩及び非水溶媒を以下に示す。
(電解質塩)
・LiFSI:リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド
・LiPF
(フッ素化環状カーボネート及びその他の環状カーボネート:溶媒A)
・FEC:フルオロエチレンカーボネート
・EC:エチレンカーボネート
(フッ素化鎖状カーボネート及びその他の鎖状カーボネート:溶媒B)
・MFEC:メチルトリフルオロエチルカーボネート
・EMC:エチルメチルカーボネート
(フッ素化非カーボネート化合物:溶媒C)
・TFEE:1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,2-トリフルオロエチルエーテル(25℃における粘度0.65mPa・s)
・HFE:1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル(25℃における粘度1.6mPa・s)
・TFEP:リン酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)(25℃における粘度4.6mPa・s)
【0075】
[実施例1]
(非水電解質の調製)
フッ素化環状カーボネート(溶媒A)であるFEC、フッ素化鎖状カーボネート(溶媒B)であるMFEC、及びフッ素化非カーボネート化合物(溶媒C)であるTFEEを10:70:20の体積比で混合した。次いで、この混合溶媒1kgに対して電解質塩であるLiFSIを1.00molの割合で添加し、LiFSIを溶解させ、実施例1の非水電解質を得た。
【0076】
(非水電解質蓄電素子の作製)
最大到達電位が4.5V(vs.Li/Li)以上となる充電条件下で作動する正極活物質として、LiNi0.5Mn1.5を用い、正極基材としてアルミニウム箔を用いて正極板を作製した。また、負極活物質としてグラファイトを用いて負極板を作製した。ポリオレフィン製微多孔膜であるセパレータを介して、上記正極板と上記負極板とを積層することにより電極体を作製した。この電極体を金属樹脂複合フィルム製の容器に収納し、内部に上記非水電解質を注入した後、熱溶着により封口し、実施例1の非水電解質蓄電素子(ラミネート型の非水電解質二次電池)を得た。
【0077】
[実施例2~8、比較例1~22]
電解質塩の種類及び濃度、非水溶媒の種類及び体積比を表1及び表2に示すとおりとしたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2~8及び比較例1~22の各非水電解質の調製及び非水電解質蓄電素子の作製を行った。
【0078】
なお、表2の実施例8は、混合溶媒1kgに対してLiFSIを1.00molの割合で、LiPFを0.2molの割合で、それぞれ添加した。この実施例8において、電解質塩に占めるイミド塩(LIFSI)の含有量は、約83mol%である。
【0079】
比較例12、13、15、16、20、21については、添加した電解質塩が溶媒中に溶解しきらず、非水電解質を調製することができなかった。従って、これらの比較例については、非水電解質蓄電素子を作製していない。
【0080】
(初期充放電及び放電容量の測定)
得られた各非水電解質蓄電素子について、以下の条件にて初期充放電を行った。25℃で4.8Vまで充電電流0.1Cの定電流にて充電したのちに、4.8Vの定電圧にて充電した。なお、充電終止時の正極電位(正極の最大到達電位)は、4.9V(vs.Li/Li)であった。充電の終了条件は、充電電流が0.02Cとなるまでとした。充電後に10分間の休止を設けた後に、25℃で3.5Vまで0.1Cの定電流にて放電した。放電後に10分間の休止を設けた後の2サイクル目は充電電流および放電電流は0.2Cの定電流にて実施し、充電終了条件は、1サイクル目と同様に充電電流が0.02Cとなるまでとした。2サイクル目の正極活物質あたりの放電容量を表1に示す。
【0081】
(25℃における充放電サイクル試験及び容量維持率の測定)
上記放電容量の測定に続き、以下の条件にて、充放電サイクル試験を行った。25℃で4.8Vまで充電電流0.25Cの定電流にて充電したのちに、4.8Vの定電圧にて充電した。充電の終了条件は、充電電流が0.02Cとなるまでとした。充電後に10分間の休止を設けた後に、25℃で3.5Vまで0.25Cの定電流にて放電した。放電後に10分間の休止を設けた。この充放電サイクルを50サイクル実施した。1サイクル目の放電容量に対する50サイクル目の放電容量を容量維持率(%)として求めた。結果を表1に示す。
【0082】
なお、比較例18、19については、50サイクルの充放電を行うことができなかった。また、比較例22については、本測定を実施しなかった。
【0083】
(45℃における充放電サイクル試験及び容量維持率の測定)
実施例3、5及び8の各非水電解質蓄電素子を用い、45℃における充放電サイクル試験及び容量維持率の測定を行った。なお、45℃の環境下で行ったこと以外の測定条件は、上記「25℃における充放電サイクル試験及び容量維持率の測定」と同様である。結果を表2に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
【表2】
【0086】
上記表1に示されるように、フッ素化環状カーボネート(溶媒A)及びフッ素化鎖状カーボネート(溶媒B)に、25℃における粘度が4mPa・s以下であるフッ素化非カーボネート化合物(溶媒C)を加えた非水電解質を用いた実施例1~7は、正極の最大到達電位が高電位に至る充電条件を採用した充放電サイクル試験において、高い容量維持率を有することがわかる。実施例1~3を比較すると、溶媒Cの含有割合を高め、溶媒Bの含有割合を低くすることで、容量維持率がより高まることがわかる。これは、電解質塩に対する溶解性の高い溶媒AおよびBを少なくすることで、これらの溶媒に溶解している電解質塩のリチウムイオンとアニオンとの相互作用が強くなり、アニオンのHOMO-LUMO準位が変化し、耐酸化性の向上などが生じるためであると推測される。また、実施例3と4、及び実施例5と6を比較すると、フッ素化非カーボネート化合物(溶媒C)として、より粘度の低いTFEEを用いることで、容量維持率がより高まることがわかる。また、実施例3と5、及び実施例4と6を比較すると、電解質塩の含有量を多くすることで、容量維持率がより高まり、一方、電解質塩の含有量を少なくすることで、放電容量は大きくなることがわかる。さらに、実施例1~6と7とを比較すると、電解質塩としてイミド塩であるLiFSIを用いた場合、容量維持率が高まることがわかる。
【0087】
一方、比較例1~6のように、フッ素化環状カーボネート(溶媒A)及びフッ素化鎖状カーボネート(溶媒B)のみの混合溶媒の場合、容量維持率は十分ではない。また、フッ素化非カーボネート化合物(溶媒C)として、25℃における粘度が4mPa・sを超えるTFEPを用いた比較例7、8は、容量維持率が逆に低下している。さらに、その他の組成とした非水電解質を用いた比較例9~22はいずれにおいても、十分に容量維持率を改善できるものとはならなかった。
【0088】
また、表2に示されるように、電解質塩に占めるイミド塩(LIFSI)の含有割合の高い実施例3、5は、より容量維持率が低下しやすい環境である比較的高温下においても、正極の最大到達電位が高電位に至る充放電サイクル後も容量維持率が高いことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明は、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等の電源として使用される非水電解質蓄電素子に適用できる。
【符号の説明】
【0090】
1 非水電解質蓄電素子
2 電極体
3 容器
4 正極端子
4’ 正極リード
5 負極端子
5’ 負極リード
20 蓄電ユニット
30 蓄電装置
図1
図2