(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-25
(45)【発行日】2022-05-09
(54)【発明の名称】識別情報付き印刷媒体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B41M 3/14 20060101AFI20220426BHJP
B42D 25/378 20140101ALI20220426BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20220426BHJP
【FI】
B41M3/14
B42D25/378
B32B27/20 A
(21)【出願番号】P 2018096740
(22)【出願日】2018-05-21
【審査請求日】2021-04-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】工藤 令奈
【審査官】中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-153005(JP,A)
【文献】特表2013-545855(JP,A)
【文献】特表2008-526575(JP,A)
【文献】特開平07-331109(JP,A)
【文献】特開2017-115000(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第01489151(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 3/14
B42D 25/378
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上の一部を個体識別領域とし、その個体識別領域に対し、ニスにラメ顔料を配合したインキでグラビア印刷することでニス内の顔料を流動させて絵柄模様層を形成し上記顔料により形成されるランダムな模様を個体識別情報とし、
上記ラメ顔料の90質量%以上は、黒色のラメ顔料であり、その黒色のラメ顔料が、上記個体識別情報を形成する顔料であることを特徴とする識別情報付き印刷媒体の製造方法。
【請求項2】
上記ラメ顔料として更にメタリック色のラメ顔料を含み、黒色のラメ顔料の平均粒径が、色のラメ顔料の平均粒径よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載した識別情報付き印刷媒体の製造方法。
【請求項3】
グラビア印刷は、上記ニスを用いた厚盛り印刷であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載した識別情報付き印刷媒体の製造方法。
【請求項4】
基材の上の一部を個体識別領域とし、その個体識別領域に、ニスにラメ顔料を配合したインキで形成された絵柄模様層が形成され、上記ラメ顔料により形成されるランダムな模様で個体識別情報が構成され、
上記個体識別情報を形成するラメ顔料が、黒色のラメ顔料であることを特徴とする識別情報付き印刷媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、個体識別情報を有する印刷媒体及びその製造方法に関し、特に真贋判定などのための個体識別機能が付与されたパッケージに好適な技術である。
【背景技術】
【0002】
パッケージの真贋判定の方法としては、例えば特許文献1などに記載の判定方法がある。その真贋判定方法は、パッケージその他の印刷媒体に対し、個体識別情報としての印刷パターンを印刷しておき、その印刷パターンを予めデータベースに登録しておく。そして、真贋判定の対象となった印刷媒体に設けられている印刷パターンを、カメラなどの撮像媒体で撮影し、その撮像した撮像データと、データベースに記憶されている印刷パターンとを照合することで、真贋判定を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記印刷パターンは、予め設定したドットパターン等となるような版を使用して印刷を行うことで、パッケージに設けられる。
ここで、個体識別においては、一点ずつ異なる印刷パターンであることが求められる。このため、従来にあっては、例えばグラビア印刷機にて、複数の版胴を用意し、それぞれの胴版の円周位置を変えたり周期をずらしたりしながら印刷して個別性を確保している。
しかしこのような方法は、印刷機の仕様に制限が加わるなど、簡便な印刷方式とは言い難い。
【0005】
また、インクジェットプリンタなどを用いて可変データを印刷する方式では、媒体分だけ個別のデータ生成が必要であったり、印刷スピードに制限が出たりなど、識別情報付き印刷媒体を大量に且つ安価に作成することが困難である。
本発明は、上記のような点に着目してなされたもので、より容易に個別性を有する印刷パターンを付与可能な、識別情報付き印刷媒体及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
課題を解決するために、本発明の一態様の識別情報付き印刷媒体の製造方法は、基材上の一部を個体識別領域とし、その個体識別領域に対し、ニスにラメ顔料を配合したインキでグラビア印刷することでニス内の顔料を流動させて絵柄模様層を形成し上記顔料により形成されるランダムな模様を個体識別情報とし、上記ラメ顔料の90質量%以上は、黒色のラメ顔料であり、その黒色のラメ顔料が、上記個体識別情報を形成する顔料であることを特徴とする。
また、本発明の一態様である識別情報付き印刷媒体は、基材の上の一部を個体識別領域とし、その個体識別領域に、ニスにラメ顔料を配合したインキで形成された絵柄模様層が形成され、上記ラメ顔料により形成されるランダムな模様で識別情報が構成され、上記個体識別情報を形成するラメ顔料が、黒色のラメ顔料であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の態様によれば、より容易に個別性を有する印刷パターンを付与した識別情報付き印刷媒体を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明に基づく実施形態に係る印刷媒体の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
本実施形態の印刷媒体1は、
図1に示すように、基材10と、基材10の上に形成された絵柄模様層11と、絵柄模様層11の上に形成された透明樹脂層12とを備える。
基材10は、例えば紙基材や、PETなどのフィルム基材からなる。本実施形態では、基材10は紙基材とする。紙基材としては、薄紙、上質紙、クラフト紙、和紙、チタン紙、樹脂含浸紙、紙間強化紙等の紙が例示できる。
基材10の表面に下地層を印刷しておき、その下地層の上に絵柄模様層11を設けても良い。
基材10の表面の一部の領域を個体識別領域1Aとする。
図2の例では、個体識別領域1Aが、ハート形の領域である場合を例示している。
【0010】
絵柄模様層11は、色付き顔料を配合したニスをインキとし、グラビア印刷によって形成される。パッケージとしての加飾性を高めると共に、ラメ顔料の分散性及び印刷適性を考慮して、ニスによる厚盛り印刷とすることが好ましい。
上記の個体識別領域1Aを印刷するインキに配合する顔料はラメ顔料とする。
本実施形態では、ラメ顔料として黒色のラメ顔料を使用する。
ラメ顔料のニスに対する添加量は、例えばニス100質量部に対し0.2質量部以上5質量部以下とする。好ましくは0.5質量部以上3質量部以下とする。
また、ラメ顔料の平均粒径は、例えば30μm以上150μm未満である。好ましくは10μm以上100μm以下である。黒色のラメ顔料の場合、粒径が150μm以上では、グラビア印刷自体が困難となるおそれがある。また、絵柄模様層11の層厚にもよるが、絵柄模様層11からラメ顔料が脱落するおそれがある。
【0011】
なお、ラメ顔料として、黒色のラメ顔料に加えて、銀色などのメタリック色のラメ顔料も配合してもよい。ただし、この場合でも、黒色のラメ顔料が90質量%以上、好ましくは95質量%以上、より好ましくは100質量%の配合量とする。更に、黒色のラメ顔料の平均粒径を、メタリック色のラメ顔料の平均粒径よりも大きな粒径とする。例えば色のラメ顔料の平均粒径とメタリック色のラメ顔料の平均粒径の差を、30μm以上、好ましくは50μm以上として、画像において、有意に黒色のラメ顔料を識別可能とするようにする。なお、人の視認においては、同一粒径であっても、メタリック色のラメ顔料よりも黒色のラメ顔料の方が小さく見える。
【0012】
グラビア印刷のニス(厚盛りニスが好ましい)のラメ顔料を分散させて構成したインキを用いて、個体識別領域1Aに対しグラビア印刷すると、ラメ顔料がニス内を流動しつつ印刷されて、ラメ顔料による流動的な絵柄が生成され、ラメ顔料がランダムに分散した偏在パターン(印刷パターン)が形成される。ここで、本実施形態が想定しているラメ顔料は、比重が小さいため、ラメ顔料が沈降せず、印刷時に負荷される荷重によって流動しやすい。
ここで、ラメ顔料としては、エルジーneo(登録商標)などのグラビア印刷適性のあるラメ顔料を選定する。ラメ顔料の最大厚さとしては、3.0μm以下が好ましい。また、食品のパッケージなど使用用途によっては、ラメ顔料は耐熱性の高い無害なラメ顔料が好ましい。
【0013】
またラメ顔料は、例えば剥離粉砕処理によって作製されて、非定型偏平形状となっている。エルジーneo(登録商標)などのラメ顔料は、粒径が小さく表面が平滑であることから、見る方向が異なることによる光輝性自体の違いを小さく抑えることが可能である。すなわち、ラメ顔料の表面は平滑であることが好ましい。
ただし、意匠性向上のために使用されるメタリック色のラメ顔料は光学依存性が高く、同一の印刷パターンになっていても、光源の差によって同一のパターンではないと認識されてしまう。
【0014】
黒色のラメ顔料にメタリック色のラメ顔料を混合することで、個体識別領域1Aの加飾性(意匠性)が向上する。本実施形態は、個体識別は黒色のラメ顔料によるパターンとする。このため、メタリック色のラメ顔料を混合することで、メタリック色のラメ顔料が個体識別を構成するパターンを隠す効果もある。ただし、メタリック色のラメ顔料の添加量が多くなると、黒色のラメ顔料による識別パターンのランダム性に悪影響が発生するため、ラメ顔料のうちの黒色のラメ顔料の割合を90質量%以上とする。
ニスとしては、紫外線硬化性樹脂を使用するのが好ましい。紫外線硬化性樹脂は粘度が高く、グラビア印刷で厚盛り印刷適性に優れる。
【0015】
厚盛りにすることにより、ニスに含まれるラメ顔料の含有量が増えるため、ランダム性を大きくすることができる。また、ニス量が増えることで、ラメ顔料の流動性が良好になり、ランダム性を大きくすることができる。また、視認性の高い、平均粒径の大きいラメ顔料を使用することができる。
一方で、油性や水性のニスの場合、粘度が低いため乾燥工程において乾燥不良となりやすく、グラビア印刷では厚盛り印刷する自体が困難となる。
【0016】
透明樹脂層12は、トップコート層(表面保護層)を構成する。透明樹脂層12は、例えば、オレフィン系樹脂を主成分とした樹脂組成物から構成する。オレフィン系樹脂としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテン等の他に、αオレフィン(例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4、4-ジメチル-1-ペンテン、4-エチル-1-ヘキセン、3-エチル-1-ヘキセン、9-メチル-1-デセン、11-メチル-1-ドデセン、12-エチル-1-テトラデセン等)を単独重合あるいは2種類以上共重合させたものや、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチレン・メチルメタクリレート共重合体、エチレン・エチルメタクリレート共重合体、エチレン・ブチルメタクリレート共重合体、エチレン・メチルアクリレート共重合体、エチレン・エチルアクリレート共重合体、エチレン・ブチルアクリレート共重合体等のように、エチレンまたはαオレフィンとそれ以外のモノマーとを共重合させたものを用いることができる。特に、表面強度の更なる向上を図る場合には、高結晶性のポリプロピレンを用いることが好ましい。
【0017】
また、透明樹脂層12には、熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、ブロッキング防止剤、触媒捕捉剤及び着色剤等の添加剤を添加してもよい。これらの添加剤は、公知のものから適宜選択して使用することができる。透明樹脂層12は、熱圧を応用した方法、押出ラミネート方法、ドライラミネート方法等の各種積層方法によって形成することができる。
【0018】
本実施形態では、パッケージなどの印刷媒体1の固体識別を目的として、ラメ印刷によってランダムパターンを形成させ、個体識別の認証機能を発現させることができる。
本実施形態の印刷媒体1を使用した認証、例えばパッケージの真贋判定の方法は、従来と同様に、印刷媒体1の個体識別領域1Aを撮像して、個体識別領域1Aに形成されている印刷パターンをデータベースに登録しておく。そして、真贋判定の対象となった印刷媒体1の個体識別領域1Aに形成されている印刷パターンをスマホのカメラ機能などの撮像媒体で撮影し、その撮像データと、データベースに記憶されている印刷パターンを照合することで真贋判定する。真贋判定の対象とするパターンは、黒色のラメ顔料で形成されるパターンである。
【0019】
本実施形態では、顔料としてラメ顔料を使用しても、照合認識率の低下を抑制することができる。
また、ラメ顔料のニス内での流動によって、印刷パターンのランダムなパターンを自動的に形成させるので、複数の版胴を用意して版をずらしながら印刷するなどの印刷機の制限もなく、簡易にランダム性を確保することができる。このようなランダム性を大きくする観点から、紫外線硬化樹脂性のニスによる厚盛り印刷が好ましい。
このとき、印刷パターンの形成のために、ラメ顔料を使用しても黒色のラメ顔料を選定することで、光学依存性が抑えられて、真贋認証が使用可能なレベルを確保することができる。
【0020】
ここで、メタリック色のラメ顔料を添加した場合には、ラメ顔料による加飾性を向上させることが可能となる。ただし、メタリック色のラメ顔料は光学依存性が高いため、メタリック色のラメ顔料の添加量を少なく抑える。
更に、相対的に黒色のラメ顔料の平均粒径が大きな黒色顔料を採用する。このとき、例えば、撮像した撮像画像に対して、画像処理を行って、所定以上の粒径の顔料(黒色のラメ顔料と推定されるだけの粒径以上の顔料)だけの印刷パターンを抽出して記録する。そして、真贋判定で撮像した画像についても同様な画像処理を施してから、照合判定を行えば良い。
【実施例】
【0021】
基材10として、WESTROCK株式会社製のプロミナを使用した。その基材10の上に、ニスにラメ顔料を分散混合したインキをグラビア印刷によって塗布して絵柄模様層11を形成した。
グラビア印刷は、版の深さが90μm相当のバーコーター♯14にて実施した。
ニスには、DIC株式会社製のUVTクリヤ-EXP110224 TF-2を採用した。
ラメ顔料としては、尾池イメージング株式会社製のエルジーneo(登録商標)の銀色及び黒色の二色をそれぞれ配合した。
ラメ顔料の番手として150、200、325のものを使用した。
番手(♯)と平均粒径(μm)との関係は次の通りである。
#150:90μm以上100μm以下
#200:55μm以上65μm以下
#325:30μm以上40μm以下
【0022】
「印刷適性」
印刷適性の評価について表1に示す。
【0023】
【0024】
表1中「-」は未評価を示す。他の表でも同様である。
印刷適性は、インキを調整した際の分散性及び途工適性により総合的に確認した。
表1から分かるように、銀色及び黒色のラメ顔料ともに、粒径30μm以上100μm以下では印刷適性があることが分かる。なお、黒色のラメ顔料は、静電気の関係で銀色のラメ顔料よりも分散性が若干落ちたものと思われる。
【0025】
「判別性評価」
繰り返し判別性について評価した。
供試体について、データベースに印刷パターンをデータベースに登録し、同じ供試体について撮像し、照合を行って同一と判定されるか否かを評価した。
評価は、供試体を蛍光灯の真下で撮像した場合と、供試体に対し上方斜め45度にそれぞれ蛍光灯を配置し、2本の蛍光灯を照明した撮像し場合とで判定し、両方の場合にて同一と判定された場合を「○」とした。
その評価結果を表2に示す。
【0026】
【0027】
表2から分かるように、銀色のラメ顔料を使用した場合には、照明の向きによって印刷パターンが変化してしまい、繰り返し判別性が悪かった。
これに対し、黒色のラメ顔料を使用した場合には、照明の向きによる印刷パターンの変化が小さいか照明位置によるパターン変化がなく、繰り返し判別性であることを確認した。
このように、ラメ顔料であっても黒色のラメ顔料を使用することで、照明位置による判別性への影響が小さいことが分かった。
【符号の説明】
【0028】
1 印刷媒体
1A 個体識別領域
10 基材
11 絵柄模様層
12 透明樹脂層