(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-25
(45)【発行日】2022-05-09
(54)【発明の名称】氷上性能の評価方法
(51)【国際特許分類】
G01M 17/02 20060101AFI20220426BHJP
B60C 19/00 20060101ALI20220426BHJP
【FI】
G01M17/02
B60C19/00 H
(21)【出願番号】P 2018098170
(22)【出願日】2018-05-22
【審査請求日】2021-03-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【氏名又は名称】石原 幸信
(72)【発明者】
【氏名】山本 尚岐
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-143460(JP,A)
【文献】特開2006-103495(JP,A)
【文献】特開2005-081935(JP,A)
【文献】特開2013-023110(JP,A)
【文献】特開2013-186000(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/00 - 17/10
B60C 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤの氷上性能を評価するための方法であって、
氷上において車両の一対の駆動輪を回転させて前記車両を加速させる加速工程と、
加速時の前記各駆動輪の車輪速度を計測する第1計測工程と、
加速時の前記車両の車体速度を計測する第2計測工程と、
前記車輪速度と前記車体速度と
の差であるすべり速度に基づき、加速時の評価データの採否を選択する選択工程と、
選択された前記評価データに基づき、前記タイヤの氷上性能を評価する評価工程とを含む、
評価方法。
【請求項2】
前記選択工程は、左側の前記駆動輪の前記すべり速度と、右側の前記駆動輪の前記すべり速度との比である左右すべり速度比に基づいて、前記評価データを選択する、請求項
1に記載の評価方法。
【請求項3】
前記選択工程は、予め定められた時間における前記左右すべり速度比が、予め定められた範囲内の前記評価データを選択する、請求項
2に記載の評価方法。
【請求項4】
予め定められた前記時間は、前記加速工程の開始後の3秒間である、請求項
3に記載の評価方法。
【請求項5】
前記評価データは、前記車体速度が予め定められた速度となるまでの距離である、請求項
1~4のいずれかに記載の評価方法。
【請求項6】
前記車体速度の予め定められた前記速度は、10km/hである、請求項
5に記載の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤの氷上性能を評価するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タイヤの氷上走行時における性能(以下、「氷上性能」という。)を評価するために、タイヤを実際の車両に装着して、氷上を走行することで評価する方法が知られている。例えば、下記特許文献1は、雪路上で加速させた車両で、氷路上を走行させて、タイヤの氷上性能を評価している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の評価方法で、加速時におけるタイヤの氷上性能を評価しようとすると、氷路上で車両を加速させることになる。しかしながら、氷路上で車両を加速させたときの評価データは、バラツキが大きく、加速時におけるタイヤの氷上性能を正確に評価することは困難であった。
【0005】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、加速時におけるタイヤの氷上性能をより正確に評価するための方法を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、タイヤの氷上性能を評価するための方法であって、氷上において車両の一対の駆動輪を回転させて前記車両を加速させる加速工程と、加速時の前記各駆動輪の車輪速度を計測する第1計測工程と、加速時の前記車両の車体速度を計測する第2計測工程と、前記車輪速度と前記車体速度とに基づき、加速時の評価データの採否を選択する選択工程と、選択された前記評価データに基づき、前記タイヤの氷上性能を評価する評価工程とを含むことを特徴とする。
【0007】
本発明の評価方法において、前記選択工程は、前記車輪速度と前記車体速度との差であるすべり速度に基づいて、前記評価データを選択するのが望ましい。
【0008】
本発明の評価方法において、前記選択工程は、左側の前記駆動輪の前記すべり速度と、右側の前記駆動輪の前記すべり速度との比である左右すべり速度比に基づいて、前記評価データを選択するのが望ましい。
【0009】
本発明の評価方法において、前記選択工程は、予め定められた時間における前記左右すべり速度比が、予め定められた範囲内の前記評価データを選択するのが望ましい。
【0010】
本発明の評価方法において、予め定められた前記時間は、前記加速工程の開始後の3秒間であるのが望ましい。
【0011】
本発明の評価方法において、前記左右すべり速度比の予め定められた前記範囲は、20%であるのが望ましい。
【0012】
本発明の評価方法において、前記評価データは、前記車体速度が予め定められた速度となるまでの距離であるのが望ましい。
【0013】
本発明の評価方法において、前記車体速度の予め定められた前記速度は、10km/hであるのが望ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の評価方法は、車輪速度と車体速度とに基づき、加速時の評価データの採否を選択する選択工程と、選択された前記評価データに基づき、タイヤの氷上性能を評価する評価工程とを含んでいる。このような評価方法は、車輪速度と車体速度とに基づき評価対象となる評価データを選択しているので、評価データのバラツキが小さく、加速時におけるタイヤの氷上性能をより正確に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の評価方法に用いられる車両を示す模式図である。
【
図2】本発明の評価方法の一実施形態を示すフローチャートである。
【
図5】1回目の計測工程で計測された速度を示すグラフである。
【
図6】2回目の計測工程で計測された速度を示すグラフである。
【
図7】実施例と比較例の評価データのバラツキを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき詳細に説明される。
図1は、本実施形態の評価方法に用いられる車両1を示す模式図である。
図1に示されるように、車両1は、車体2に評価対象となるタイヤ3が装着されるのが望ましい。本実施形態の車両1は、少なくとも一対の駆動輪3Aに、評価対象となるタイヤ3が装着されている。車両1は、例えば、一対の後輪が駆動輪3Aである。
【0017】
各駆動輪3Aは、例えば、車体2に配された車輪速度計測手段4により、車輪速度Vwが計測される。車両1は、例えば、氷上に配された車体速度計測手段5により、車体速度Vvが計測される。本実施形態の評価方法は、このような車両1及び各計測手段4,5を用いて行われる。
【0018】
次に、
図1を参酌しつつ、本実施形態の評価方法が説明される。
図2は、本実施形態の評価方法を示すフローチャートである。
図2に示されるように、本実施形態の評価方法は、車両1の加速時におけるタイヤ3の氷上性能を評価するための方法である。
【0019】
本実施形態の評価方法は、まず、実際の車両1に評価対象となるタイヤ3を装着し、この車両1を氷上のスタート位置に停車させる準備工程S1が行われる。準備工程S1は、少なくとも車両1の一対の駆動輪3Aに、評価対象となるタイヤ3を装着するのが望ましい。本実施形態の準備工程S1は、車両1の全輪に、評価対象となるタイヤ3を装着している。このような準備工程S1は、タイヤ3の氷上性能を精度よく評価するのに役立つ。
【0020】
本実施形態の評価方法は、準備工程S1の後に、車両1を加速させる加速工程S2が行われる。加速工程S2は、例えば、氷上において停車中の車両1の一対の駆動輪3Aを回転させて、車両1を加速させている。加速工程S2は、少なくとも車両1側の条件を同一となるように加速させるのが望ましい。このような加速工程S2は、計測される評価データDの信頼性を向上させ得る。
【0021】
本実施形態の評価方法は、加速工程S2で加速される車両1及び駆動輪3Aを計測する計測工程S3が行われる。計測工程S3は、加速時の各駆動輪3Aの車輪速度Vwと、車両1の車体速度Vvと、評価データDとを計測するのが望ましい。
【0022】
図3は、計測工程S3のフローチャートである。
図3に示されるように、本実施形態の計測工程S3は、加速時の各駆動輪3Aの車輪速度Vwを計測する第1計測工程S31と、加速時の車両1の車体速度Vvを計測する第2計測工程S32とを含んでいる。計測工程S3は、さらに、加速時の評価データDを計測する第3計測工程S33を含むのが望ましい。本実施形態の第1計測工程S31と第2計測工程S32とは、互いに同期して車輪速度Vw及び車体速度Vvを計測している。
【0023】
図2に示されるように、本実施形態の評価方法は、計測工程S3で計測された車輪速度Vwと車体速度Vvとに基づき、加速時の評価データDの採否を選択する選択工程S4が行われる。選択工程S4は、第1計測工程S31で計測された各駆動輪3Aの車輪速度Vwと、第2計測工程S32で計測された車両1の車体速度Vvとに基づき、第3計測工程S33で計測された評価データDを評価の対象として採用するのかを選択するのが望ましい。
【0024】
本実施形態の評価方法は、選択工程S4で選択された評価データDが、予め定められた数N以上選択されているかを判断する判断工程S5が行われる。判断工程S5で、選択された評価データDの数が予め定められた数Nよりも少ないと判断されると、再び、加速工程S2から行われ、新たな評価データDを計測する。
【0025】
本実施形態の評価方法は、判断工程S5で評価データDの数が予め定められた数Nよりも多いと判断されると、選択工程S4で選択された評価データDに基づき、タイヤ3の氷上性能を評価する評価工程S6が行われる。このような評価方法は、車輪速度Vwと車体速度Vvとに基づき評価対象となる評価データDを選択しているので、評価データDのバラツキが小さく、加速時におけるタイヤ3の氷上性能をより正確に評価することができる。
【0026】
より好ましい態様として、計測工程S3は、車両1の左側の駆動輪3Aの車輪速度VwLと、右側の駆動輪3Aの車輪速度VwRとを計測している。
【0027】
本実施形態の選択工程S4は、下記の数式1に示されるような車輪速度Vwと車体速度Vvとの差であるすべり速度Vsに基づいて、評価データDを選択している。
【数1】
このような選択工程S4は、すべり速度Vsが大きく、過剰にスリップしている不適切な評価データDを除外することができる。
【0028】
選択工程S4は、より好ましくは、左側の駆動輪3Aのすべり速度VsLと、右側の駆動輪3Aのすべり速度VsRとに基づいて、評価データDを選択している。ここで、左側の駆動輪3Aのすべり速度VsLは、下記の数式2に示されるような左側の駆動輪3Aの車輪速度VwLと車体速度Vvとの差である。また、右側の駆動輪3Aのすべり速度VsRは、下記の数式3に示されるような右側の駆動輪3Aの車輪速度VwRと車体速度Vvとの差である。
【数2】
【数3】
【0029】
本実施形態の選択工程S4は、下記の数式4に示されるような左側の駆動輪3Aのすべり速度VsLと、右側の駆動輪3Aのすべり速度VsRとの比である左右すべり速度比Rsに基づいて、評価データDを選択している。
【数4】
このような選択工程S4は、左右のいずれかのタイヤ3のみが過剰にスリップしている不適切な評価データDを確実に除外することができる。
【0030】
選択工程S4は、予め定められた時間t1における左右すべり速度比Rsが、予め定められた範囲R1内の評価データDを選択するのが望ましい。左右すべり速度比Rsは、例えば、予め定められた時間t1における平均値が採用される。このような選択工程S4は、選択する評価データDを定量的に求めることができる。
【0031】
予め定められた時間t1は、例えば、加速工程S2の開始後の3秒間である。左右すべり速度比Rsの予め定められた範囲R1は、好ましくは20%である。本実施形態の選択工程S4は、加速工程S2の開始後の3秒間における左右すべり速度比Rsの平均値が、20%以内の評価データDを選択している。このような選択工程S4は、左側の駆動輪3Aと右側の駆動輪3Aとが均等にスリップしている評価データDを選択することができるので、評価データDの信頼性を向上させ得る。
【0032】
本実施形態の評価方法は、判断工程S5において、評価データDが予め定められた数N以上である場合には、評価工程S6に進み、評価データDが予め定められた数N未満である場合には、加速工程S2へ戻る。予め定められた数Nは、例えば、7個である。予め定められた数Nは、多い方が評価データDの信頼性を向上させ得る。
【0033】
図4は、評価工程S6を示すフローチャートである。
図4に示されるように、評価工程S6は、選択工程S4で選択された評価データDの中から、最大値と最小値とを除く除去工程S61が行われる。このような除去工程S61は、極端な値を含む可能性のある最大値と最小値とを除去しているので、残りの評価データDの信頼性を向上させ得る。
【0034】
評価工程S6は、除去工程S61で最大値と最小値とが除かれた評価データDの平均値Aと変動係数Cとを求める計算工程S62が行われる。評価データDの平均値Aは、タイヤ3の氷上性能を示す指標である。評価データDの変動係数Cは、評価データDのバラツキを示す指標である。
【0035】
評価工程S6は、計算工程S62で計算された変動係数Cが、所定の値C1以下であるかを確認する確認工程S63が行われる。評価工程S6は、確認工程S63において、変動係数Cが所定の値C1以下である場合には、評価データDの評価方法を終了する。一方、確認工程S63において、このような確認工程S63は、評価データDのバラツキが極端に大きい場合に、評価方法の全体をやり直すことができるので、評価の信頼性を向上させ得る。
【0036】
評価データDは、例えば、車体速度Vvが予め定められた速度V1となるまでの距離Lである。車体速度Vvの予め定められた速度V1は、例えば、10km/hである。このような評価データDは、計測が容易であり、多くの計測を短時間で行うことができる。
【0037】
評価データDは、例えば、車体速度Vvが予め定められた速度V1となるまでの時間tであってもよい。さらに、評価データDは、例えば、予め定められた距離L1を通過したときの車体速度Vvであってもよく、予め定められた時間t1を加速したときの車体速度Vvであってもよい。
【0038】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は、上述の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施し得る。
【実施例】
【0039】
図1の車両を用いて、
図2~
図4に示される実施例の評価方法で、タイヤの雪上性能が評価された。比較例として、
図1の車両を用いて、
図2の選択工程を省略した評価方法で、タイヤの雪上性能が評価された。共通仕様は、以下のとおりである。
【0040】
テストコース : 氷盤計測路
テスト車両 : 後輪駆動の中型トラック
評価タイヤ装着位置 : 全輪
評価タイヤサイズ : 225/80R17.5 123/122L
タイヤ内圧 : 800kPa
評価データ : 車体速度Vvが10km/hとなるまでの距離L
【0041】
図5は、1回目の計測工程で計測された速度を示すグラフであり、
図6は、2回目の計測工程で計測された速度を示すグラフである。
図5及び
図6では、横軸が加速工程を開始してからの時間であり、縦軸が速度である。
【0042】
図5に示されるように、1回目の計測では、右側の駆動輪のみスリップし、右側の駆動輪の車輪速度VwRと、左側の駆動輪の車輪速度VwLとの差が大きかった。その結果、右側の駆動輪のすべり速度VsRと、左側の駆動輪のすべり速度VsLとの差も大きかった。この1回目の計測において、加速工程の開始後3秒間における左右すべり速度比Rsの平均値は、93%であった。このため、1回目で計測された評価データは、実施例において不採用であり、比較例において採用された。
【0043】
図6に示されるように、2回目の計測では、右側及び左側の駆動輪が均等にスリップし、右側の駆動輪の車輪速度VwRと、左側の駆動輪の車輪速度VwLとの差が小さかった。その結果、右側の駆動輪のすべり速度VsRと、左側の駆動輪のすべり速度VsLとの差も小さかった。この2回目の計測において、加速工程の開始後3秒間における左右すべり速度比Rsの平均値は、12%であった。このため、2回目で計測された評価データは、実施例及び比較例の両者において採用された。
【0044】
上述のような計測が繰り返され、実施例及び比較例のそれぞれにおいて、7個の評価データが計測された。7個の評価データの内、最大値と最小値とは除かれ、残りの5個の評価データに基づいて、評価タイヤが評価された。
【0045】
図7は、実施例と比較例の評価データのバラツキを示すグラフである。
図7の縦軸は、変動係数である。
図7には、実施例及び比較例における上述の5個の評価データのバラツキが、変動係数で示されている。
図7から明らかなように、実施例の評価データのバラツキは、比較例の評価データのバラツキよりも小さい。
【0046】
テストの結果、実施例の評価方法は、比較例に比べて、評価データのバラツキが小さく、加速時におけるタイヤの氷上性能をより正確に評価することができることが確認された。
【符号の説明】
【0047】
1 車両
3 タイヤ
3A 駆動輪