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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-25
(45)【発行日】2022-05-09
(54)【発明の名称】ミネラルウール
(51)【国際特許分類】
   D04H 1/4218 20120101AFI20220426BHJP
【FI】
D04H1/4218
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018155633
(22)【出願日】2018-08-22
(65)【公開番号】P2020029633
(43)【公開日】2020-02-27
【審査請求日】2021-01-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003975
【氏名又は名称】日東紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100140578
【弁理士】
【氏名又は名称】沖田 英樹
(72)【発明者】
【氏名】後藤 敏晴
(72)【発明者】
【氏名】窪田 厚史
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 智広
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/078615(WO,A1)
【文献】特開平05-179551(JP,A)
【文献】特開2015-067929(JP,A)
【文献】特表2019-521264(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16
B29B 15/08 - 15/14
C08J 5/04 - 5/10
C08J 5/24
D04H 1/00 - 18/04
D06M 13/00 - 15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機繊維と、前記無機繊維に付着したバインダーと、を含有し、
前記無機繊維の繊維径(バインダーの厚さを含む。)が、3.0~10.0μmであり、
前記バインダーが、カルボキシル基を有する(メタ)アクリル系樹脂と、金属イオンと、を含み、
前記(メタ)アクリル系樹脂が、(メタ)アクリル酸に由来する構成単位のみからなり、
前記(メタ)アクリル系樹脂が、前記金属イオンにより架橋されており、
前記金属イオンの含有量が、前記(メタ)アクリル系樹脂が有するカルボキシル基の総量に対して、0.30化学当量以上であり、かつ、0.4化学当量以下であり、
前記バインダーの付着量が、グラスウール100質量部に対して、0.5~15.0質量部である、
断熱・吸音材用グラスウール。
【請求項2】
前記金属イオンが、亜鉛イオン又はジルコニウムイオンである、請求項1に記載のグラスウール。
【請求項3】
前記金属イオンが、亜鉛イオンである、請求項1又は2に記載のグラスウール。
【請求項4】
前記金属イオンが、ジルコニウムイオンである、請求項1又は2に記載のグラスウール。
【請求項5】
前記(メタ)アクリル系樹脂及び前記金属イオンの合計含有量が、前記バインダー全量に対して、40~100質量%である、請求項1~のいずれか1項に記載のグラスウール。
【請求項6】
前記(メタ)アクリル系樹脂及び前記金属イオンの合計含有量が、前記バインダー全量に対して、100質量%である、請求項1~5のいずれか1項に記載のグラスウール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミネラルウールに関する。
【背景技術】
【0002】
グラスウール、又は、ロックウール等のミネラルウールにおいて、繊維間を接着させるためにバインダー(ミネラルウール用バインダー)が使用されている。例えば、特許文献1には、ミネラルウール、特にロックウールまたはグラスウールと、有機バインダーとをベースにした難燃性の熱および/または音響絶縁製品であって、難燃剤としてカルボン酸金属塩を含有することを特徴とする製品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-514141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ミネラルウール用バインダーの主成分としては、種々の樹脂が用いられてきた。しかし、従来のバインダーでは、ミネラルウールの硬さが不足する場合があった。
【0005】
そこで、本発明の主な目的は、十分な硬さを有するミネラルウールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面は、無機繊維と、無機繊維に付着したバインダーと、を含有し、バインダーが、カルボキシル基を有する(メタ)アクリル系樹脂と、金属イオンと、を含み、(メタ)アクリル系樹脂が、金属イオンにより架橋されているミネラルウールに関する。金属イオンの含有量は、(メタ)アクリル系樹脂が有するカルボキシル基の総量に対して、0.03化学当量以上であってよい。
【0007】
金属イオンの含有量が、(メタ)アクリル系樹脂が有するカルボキシル基の総量に対して、0.07~0.70化学当量であってよく、0.20~0.60化学当量であってよい。
【0008】
金属イオンが、亜鉛イオン又はジルコニウムイオンであってよく、亜鉛イオンであってよい。
【0009】
(メタ)アクリル系樹脂及び金属イオンの含有量が、バインダー全量に対して、40~100質量%であってよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一側面によれば、十分な硬さを有するミネラルウールを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のいくつかの実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0012】
本実施形態に係るミネラルウールは、無機繊維と、無機繊維に付着したバインダーと、を含有し、バインダーが、カルボキシル基を有する(メタ)アクリル系樹脂と、金属イオンと、を含み、(メタ)アクリル系樹脂が、金属イオンにより架橋されている。金属イオンの含有量が、(メタ)アクリル系樹脂が有するカルボキシル基の総量に対して、0.03化学当量以上であってよい。本実施形態に係るミネラルウールは、水性溶媒を実質的に含まず、適度な硬さを有することから、その後の加工がなくとも、自動車用吸音材、その他の複雑な形状をとる対象物に用いられる断熱・吸音材等として利用することが可能である。
【0013】
ミネラルウールは、無機繊維を含むウール状の繊維集合体であり、バインダーを介して無機繊維同士が結着している。無機繊維は、ガラス繊維、又は、けい酸分と石灰分を主成分とする高炉スラグ、又は岩石等を原料とした繊維であってよい。無機繊維としてガラス繊維を含むミネラルウールは、一般にグラスウールと称される。無機繊維として、けい酸分と石灰分を主成分とする高炉スラグ、又は岩石等を原料とした繊維を含むミネラルウールは、一般にロックウールと称される。ミネラルウールは、断熱性及び吸音性がより優れたものとなる観点から、ガラス繊維を含むグラスウールであることが好ましい。
【0014】
ミネラルウールの密度は10~250kg/mであってよい。ミネラルウールの密度及び厚さは、JIS A 9521:2014に準拠して測定することができる。ここでの密度は、空隙体積を含む体積を基準とする見かけ密度である。ミネラルウールはマット状であってもよく、マット状のミネラルウールの厚さは、例えば、10~300mmであってよい。
【0015】
ミネラルウールを構成する無機繊維の繊維径(バインダーの厚さを含む。)は、好ましくは3.0~10.0μm、3.5~8.0μm、又は4.0~7.0μmである。ここでの繊維径は、マイクロネア法で測定される値である。ミネラルウールを構成する無機繊維の繊維長は、好ましくは2.0~500.0mmである。
【0016】
本実施形態に係るミネラルウールにおいて、バインダーは、カルボキシル基を有する(メタ)アクリル系樹脂を含む。カルボキシル基を有する(メタ)アクリル系樹脂は、カルボキシル基を有するモノマーに由来する構成単位(単量体単位)を含む。カルボキシル基を有するモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸(アクリル酸又はメタクリル酸)が挙げられる。
【0017】
カルボキシル基を有する(メタ)アクリル系樹脂は、カルボキシル基を有するモノマー以外のモノマーに由来する構成単位を含んでいてもよい。カルボキシル基を有する(メタ)アクリル系樹脂において、カルボキシル基を有するモノマー以外のモノマーに由来する構成単位数の割合は、重合体又は共重合体を構成する全構成単位数に対して、50%未満であり、30%未満が好ましく、10%未満がより好ましく、1%未満がさらに好ましく、カルボキシル基を有するモノマー以外のモノマーに由来する構成単位を含まないことが最も好ましい。カルボキシル基を有する(メタ)アクリル系樹脂は、カルボキシル基を有するモノマーに由来する構成単位のみからなっていてよく、(メタ)アクリル酸に由来する構成単位のみからなっていてよい。
【0018】
なお、本明細書において「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」又はそれに対応する「メタクリル」を意味し、「(メタ)アクリロイル」とは、「アクリロイル」又はそれに対応する「メタクリロイル」を意味する。
【0019】
カルボキシル基を有する(メタ)アクリル系樹脂は、濃度20質量%水溶液(水溶液の全量を100質量%とする)で25℃の粘度が100mPa・s以上50000mPa・s以下、又は500mPa・s以上10000mPa・s以下であってよい。
【0020】
バインダーは、金属イオンを含む。金属イオンの価数は、2以上であり、例えば、4以下であってよく、2であってよい。金属イオンとしては、例えば、亜鉛イオン、ジルコニウムイオン、チタニウムイオン、アルミニウムイオン、鉄イオン、マグネシウムイオン、ベリリウムイオン、ビスマスイオン、コバルトイオンが挙げられる。金属イオンは、亜鉛イオン(Zn2+)及びジルコニウムイオン(Zr4+)からなる群より選択される少なくとも1種であってよく、亜鉛イオン(Zn2+)又はジルコニウムイオン(Zr4+)であってよく、亜鉛イオン(Zn2+)であってよい。
【0021】
カルボキシル基を有する(メタ)アクリル系樹脂と、金属イオンとを含むバインダーにおいて、少なくとも一部のカルボキシル基は、金属イオンを介して架橋されている。少なくとも一部のカルボキシル基が金属イオンを介して架橋されている(メタ)アクリル系樹脂は、金属架橋(メタ)アクリル系樹脂ということもできる。
【0022】
金属イオンの含有量は、(メタ)アクリル系樹脂が有するカルボキシル基の総量に対して、0.03化学当量(カルボキシル基に対する金属イオンのモル比×金属イオンの価数)以上であってよく、ミネラルウールの硬さがより向上する観点から、0.07化学当量以上、0.20化学当量以上、又は0.30化学当量以上であってよく、1.00化学当量以下、0.90化学当量以下、0.80化学当量以下、0.70化学当量以下、又は0.60化学当量以下であってよい。金属イオンの含有量は、ミネラルウールの硬さがより向上する観点から、(メタ)アクリル系樹脂が有するカルボキシル基の総量に対して、0.03~0.80化学当量、0.07~0.70化学当量、0.20~0.60化学当量、又は、0.30~0.50化学当量であってもよい。金属イオンの含有量が、(メタ)アクリル系樹脂が有するカルボキシル基の総量に対して、0.80化学当量以下である場合、ミネラルウール製造時に使用される分散助剤(例えばアンモニア水溶液)の量が低減されるため、ミネラルウールの製造がより容易になる(製造性がより優れたものとなる)。
【0023】
カルボキシル基を有する(メタ)アクリル系樹脂及び金属イオンの合計含有量は、バインダー全量に対して、40質量%以上、50質量%以上、60質量%、70質量%、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上であってよく、100質量%以下であってよい。カルボキシル基を有する(メタ)アクリル系樹脂及び金属イオンの合計含有量は、バインダー全量に対して、40~100質量%、60~100質量%、70~100質量%、80~100質量%、又は100質量%であってよい。
【0024】
バインダーの付着量が、ミネラルウール100質量部に対して、0.5~15.0質量部、又は1.0~6.0質量部であってもよい。バインダーの付着量は、後述する実施例に記載の方法で測定することができる。
【0025】
本実施形態に係るバインダー組成物は、以上例示した成分に加えて、必要に応じてその他の成分を更に含有していてよい。その他の成分としては、シランカップリング剤、鉱物油、消泡剤、界面活性剤、防塵剤、撥水剤、粘着抑制剤、離型剤、着色剤が挙げられる。
【0026】
バインダーは、バインダー組成物を加熱することにより形成される。バインダー組成物は、カルボキシル基を有する(メタ)アクリル系樹脂と、金属イオンと、分散助剤と、を含んでいてよい。分散助剤としては、例えば、アンモニア水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液が挙げられる。
【0027】
本実施形態に係るミネラルウールは、例えば、上記バインダー組成物を無機繊維に付着させる工程と、無機繊維及びこれに付着したバインダー組成物を含むウール状の中間繊維基材を形成させる工程と、中間繊維基材を加熱する工程とを含む方法によって製造することができる。
【0028】
バインダー組成物を無機繊維に付着させる工程では、例えば、熱溶融されたガラス、又は岩石等の鉱物のような無機質原料を繊維化して無機繊維を形成させながら、形成された無機繊維にバインダー組成物を付着させてもよい。無機繊維を繊維化する方法としては、例えば、火焔法、吹き飛ばし法、遠心法(ロータリー法とも言う)等の通常の方法を用いることができる。グラスウールを製造する場合、繊維化する方法として、遠心法が好ましく用いられる。無機繊維にバインダー組成物を付着させる方法としては、例えば、無機繊維に対し、スプレー装置等により、霧状のバインダー組成物を吹き付ける方法を用いることができる。
【0029】
バインダー組成物を無機繊維に付着させながら、バインダー組成物が付着した無機繊維を堆積させることによって、ウール状の中間繊維基材を形成させることができる。堆積した無機繊維同士が徐々に絡み合い、ウール状の形態をとる。無機繊維にバインダー組成物を付着させる時期は、無機繊維が形成された後であればいつでもよいが、中間繊維基材の内部におけるバインダー組成物の付着が容易であることから、形成された直後の無機繊維にバインダー組成物を付着させ、その後、ウール状の中間繊維基材を形成させることが好ましい。
【0030】
中間繊維基材を加熱することにより、無機繊維に付着したバインダー組成物が加熱硬化することでバインダーが形成されて、無機繊維と無機繊維に付着したバインダーとを含むミネラルウールが得られる。中間繊維基材を加熱する方法は、特に制限されない。例えば、所定の加熱温度に設定された1つ又は複数の加熱ゾーンを通過させることにより、中間繊維基材を加熱することができる。複数の加熱ゾーンは中間繊維基材の搬送方向に沿って直列的に設置されていてもよい。加熱温度は、バインダー組成物から水性溶媒を除去するように設定すればよく、例えば平均加熱温度が200℃以上であってもよく、200℃以上250℃以下、又は210℃以上240℃以下であることが好ましい。平均加熱温度が、これら範囲内であることで、ミネラルウールにおける未乾燥部分の発生(水の残留)を防止又は抑制することができ、結果としてミネラルウールの復元性が確保される。
【0031】
それぞれ所定の加熱温度に設定可能なn個の加熱ゾーンを通過させることによって中間繊維基材を加熱する場合、平均加熱温度Taveは、下記式(1)によって算出される値である。式(1)において、Lは各加熱ゾーン内で中間繊維基材が搬送される距離を示し、Tは各加熱ゾーンの設定温度を示す。iは加熱ゾーンの数を示し、これは1以上の整数である。
【数1】
【0032】
中間繊維基材の加熱時間は、バインダー組成物が付着した無機繊維の密度、厚さにより、適宜調整される。加熱時間は、例えば、30秒~10分、又は、2分~10分であってよい。
【0033】
加熱工程後の中間繊維基材、すなわちミネラルウールは、必要により例えばマット状に成形され、さらに所望の幅、長さに切断してもよい。
【0034】
ミネラルウールは、そのままの形態で用いてもよく、また、ミネラルウールの表面を表皮材で被覆して、ミネラルウール及び表皮材を有するパネル等の部材を作製してもよい。表皮材としては、特に制限されないが、例えば、紙(特に耐熱紙、例えば、ガラスペーパー)、合成樹脂フィルム、金属箔フィルム、不織布(例えば、ガラスチョップドストランドマット)、織布(例えば、ガラス繊維織物)又はこれらを組み合わせたものを用いることができる。
【0035】
本実施形態に係るミネラルウールは、例えば、断熱・吸音機能を持つ素材として好適に用いることができる。とりわけ、本実施形態に係るミネラルウールは、自動車用吸音材(特に、ボンネット裏に配置される吸音材)として特に好適に用いることができる。
【実施例
【0036】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0037】
カルボキシル基を有する(メタ)アクリル系樹脂としてポリメタクリル酸水溶液を準備した。ポリメタクリル酸水溶液は、脱イオン水中で、メタクリル酸を、重合開始剤として過硫酸カリウムを用いてラジカル重合させることにより調製した。
【0038】
実施例1
(バインダー組成物の調製)
特許第3950996号公報の段落0040に記載の調製方法にしたがって、亜鉛含有アンモニア水溶液を調製した。この亜鉛含有アンモニア水溶液をポリメタクリル酸水溶液に添加して、実施例1のバインダー組成物を調製した。実施例1のバインダー組成物は、金属イオン(Zn2+)の含有量が、ポリメタクリル酸が有するカルボキシル基の総量に対して、0.4化学当量となるように調製した。実施例1のバインダー組成物の粘度は、25℃において、24mPa・sであった。
【0039】
実施例2
酸化亜鉛(ZnO)に代えて、酸化ジルコニウム(ZrO)を用いたこと以外は、特許第3950996号公報の段落0040に記載の調製方法にしたがって、ジルコニウム含有アンモニア水溶液を調製した。亜鉛含有アンモニア溶液に代えて、ジルコニウム含有アンモニア水溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして実施例2のバインダー組成物を得た。実施例2のバインダー組成物は、金属イオン(Zr4+)の含有量が、ポリメタクリル酸が有するカルボキシル基の総量に対して、0.4化学当量となるように調製した。実施例2のバインダー組成物の粘度は、25℃において、24mPa・sであった。
【0040】
実施例3
亜鉛含有アンモニア水溶液の使用量を変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例3のバインダー組成物を得た。実施例3のバインダー組成物は、金属イオン(Zn2+)の含有量が、ポリメタクリル酸が有するカルボキシル基の総量に対して、0.1化学当量となるように調製した。実施例3のバインダー組成物の粘度は、25℃において、29mPa・sであった。
【0041】
実施例4
亜鉛含有アンモニア水溶液の使用量を変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例4のバインダー組成物を得た。実施例4のバインダー組成物は、金属イオン(Zn2+)の含有量が、ポリメタクリル酸が有するカルボキシル基の総量に対して、0.04化学当量となるように調製した。実施例4のバインダー組成物の粘度は、25℃において、31mPa・sであった。
【0042】
実施例5
亜鉛含有アンモニア水溶液の使用量を変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例5のバインダー組成物を得た。実施例5のバインダー組成物は、金属イオン(Zn2+)の含有量が、ポリメタクリル酸が有するカルボキシル基の総量に対して、0.4化学当量となるように調製した。
【0043】
比較例1
ポリメタクリル酸水溶液に、アンモニア水溶液及び金属イオンに代えて、架橋剤として機能する、トリエチレンテトラミン(TETA)水溶液を添加し、比較例1のバインダー組成物を調製した。比較例1のバインダー組成物は、ポリメタクリル酸が有するカルボキシル基の総モル数に対して、架橋剤中の架橋基(TETA中のアミノ基)のモル比が0.99となるように調製した。比較例1のバインダー組成物の粘度は、25℃において30mPa・sであった。
【0044】
比較例2
ポリメタクリル酸水溶液に、金属イオンを含まないアンモニア水溶液を添加し、比較例2のバインダー組成物を調製した。比較例2のバインダー組成物の粘度は、25℃において、33mPa・sであった。
【0045】
比較例3
ポリビニルアルコール樹脂を水に溶解させることにより、比較例3のバインダー組成物を調製した。ポリビニルアルコール樹脂としては、日本酢ビ・ポバール社製「JL-05E」を用いた。
【0046】
バインダー組成物の粘度は、JIS K6833-1:2008に準拠して、B型粘度計を用いて測定した。
【0047】
(バインダーによる硬さ向上評価)
実施例1~4及び比較例1~3のバインダー組成物から得られるグラスウールの硬さ向上の程度を定量的に対比するため、以下の手順で荷重変動量を測定した。
【0048】
まず、実施例1~4及び比較例1~3のバインダー組成物に、水を加えて、固形分濃度2%に調整した。固形分濃度が調整されたバインダー組成物に、ガラスペーパー(Whatman製、商品名:GF/A 直径70mm)を含浸し、次いで、180℃10分間の条件で乾燥させ、幅30mm、長さ50mmのサイズに切り出して、測定用サンプルを作製した。
【0049】
次いで、作製した測定用サンプルの短辺側から、治具に固定されていない部分の長さが30mmとなるように、測定用サンプルを治具で挟み、水平方向に測定用サンプルを保持した。次いで、治具に固定されていない測定用サンプルの先端に1gのダブルクリップ(幅13mm)を重りとして取り付けた。なお、ダブルクリップを取り付ける際には、ダブルクリップのクリップの奥に測定用サンプル先端位置が達するように、測定用サンプルをダブルクリップに差し込んだ。
【0050】
次いで、治具に取り付けられた状態で、測定用サンプルを220℃の恒温槽(ヤマト科学製、商品名:DN43N)に入れて加熱し、10分後に測定用サンプルを取り出した。加熱することによって、金属イオンによって架橋されたポリメタクリル酸を含むバインダーが形成された。
【0051】
次いで、ダブルクリップを取り除き、ダブルクリップを取り付ける前の測定用サンプルの治具に固定されない先端の位置を基準とした、測定用サンプルの治具に固定されない先端の垂下がり量(荷重変動量)(単位:mm)を測定した。結果を表1~2に示す。ここで、荷重変動量が少ない程、バインダーによる硬さ向上の程度が大きいことを意味する。バインダーが付着したガラスペーパーの硬さが向上すると、ミネラルウール(硝子繊維集合体)でも同様に硬さが向上するといえる。
【0052】
Zn2+の含有量が、ポリメタクリル酸が有するカルボキシル基の総量に対して、0.9化学当量となるように調製した実施例5のバインダー組成物では、使用するアンモニアの量が増大し、実施例1~4のバインダー組成物と比べて、アンモニア臭がより強く感じられた。すなわち、ポリメタクリル酸が有するカルボキシル基の総量に対する金属イオンの含有量が0.8化学当量以下であるバインダーを用いる場合には、臭気が抑制され、製造時の作業環境が改善する(製造性により優れる)ことが示された。
【0053】
【表1】

【表2】
【0054】
(グラスウールの製造)
熱溶融した原料ガラスを繊維化装置に導入し、遠心法により、熱溶融した原料ガラスを繊維状に噴出させることで、ガラス繊維を形成した。形成されたガラス繊維が空冷される際に、実施例1~4又は比較例1~3の各バインダー組成物を霧状にして吹きつけることで、バインダー組成物をガラス繊維に付着させた。バインダー組成物が付着したガラス繊維を堆積させて、ウール状の中間繊維基材を形成させた。このとき、得られた中間繊維基材の含水率は5%以下とした。
【0055】
得られた中間繊維基材を1000g/mの目付量で準備し、平均加熱温度200℃、加熱時間5分間の条件で加熱すると共に、300mm×300mm×15mmの形状にプレス成形した。これにより、バインダーが付着したガラス繊維を含むマット状のグラスウール(実施例1~4及び比較例1~2のグラスウール)を得た。加熱することによって、金属イオンによって架橋されたポリメタクリル酸を含むバインダーが形成された。
【0056】
実施例1~4及び比較例1~3のグラスウールにおけるバインダーは、ポリメタクリル酸及び金属イオンの合計含有量がバインダー全量に対して、100質量%であった。
【0057】
(バインダーの付着量)
まず、グラスウールの質量(焼却前質量)を測定し、次いで、空気雰囲気下、500℃の条件で30分間加熱して、バインダーを焼却した。残ったガラス繊維の質量(焼却後質量)を測定し、下記式によりバインダーの付着量を算出した。実施例1~4及び比較例1~2のいずれのグラスウールについても、バインダーの付着量は、グラスウール100質量部に対して、3.1質量部であった。
バインダーの付着量=(焼却前質量-焼却後質量)/焼却前質量×100
【0058】
(ミネラルウールの硬さの評価)
グラスウールをプレス成形により得た後、プレス成形機を冷却せずにグラスウールを取り出すことにより、ミネラルウールの硬さを評価した。その結果、実施例1~4のグラスウールは、比較例1~3のグラスウールと比べて、硬さが向上していた。