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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-25
(45)【発行日】2022-05-09
(54)【発明の名称】光ファイバの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 25/26 20180101AFI20220426BHJP
   C03C 25/104 20180101ALI20220426BHJP
   C03C 25/6226 20180101ALI20220426BHJP
   G02B 6/44 20060101ALI20220426BHJP
【FI】
C03C25/26
C03C25/104
C03C25/6226
G02B6/44 301B
G02B6/44 331
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018182358
(22)【出願日】2018-09-27
(65)【公開番号】P2020050549
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-04-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【弁理士】
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100190470
【弁理士】
【氏名又は名称】谷澤 恵美
(72)【発明者】
【氏名】岩口 矩章
(72)【発明者】
【氏名】奥山 玄稀
(72)【発明者】
【氏名】藤井 隆志
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-242470(JP,A)
【文献】特開平2-192437(JP,A)
【文献】特開2002-221647(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C25/00-25/70
G02B6/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスファイバと、前記ガラスファイバに接して前記ガラスファイバを被覆する被覆樹脂層と、を備える光ファイバを製造する方法であって、
紫外線硬化型樹脂組成物の溶存酸素濃度を増加させる工程と、
溶存酸素濃度を増加させた前記紫外線硬化型樹脂組成物を前記ガラスファイバ上に塗布する工程と、
前記ガラスファイバ上に塗布された前記紫外線硬化型樹脂組成物に紫外線を照射し、前記紫外線硬化型樹脂組成物を硬化させる工程と、を含む、光ファイバの製造方法。
【請求項2】
前記溶存酸素濃度を増加させる工程では、前記溶存酸素濃度を1.1倍以上に増加させる、請求項1に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項3】
前記溶存酸素濃度を増加させる工程では、前記溶存酸素濃度を1.1倍以上8.5倍以下に増加させる、請求項1に記載の光ファイバの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、コア及びクラッドからなるガラス光ファイバと、ガラス光ファイバを覆う被覆樹脂層と、を備える樹脂被覆光ファイバが開示されている。被覆樹脂層は、紫外線硬化性樹脂からなるプライマリ層及びセカンダリ層を有している。プライマリ層は、内層及び外層の2層からなっている。この樹脂被覆光ファイバでは、内層のヤング率を高くすることにより、ガラス光ファイバの破断を抑制している。
【0003】
特許文献2には、光ファイバ被覆用液状硬化型樹脂組成物が開示されている。この樹脂組成物によりガラスファイバに被覆膜を形成すると、ガラスファイバ自体の強度を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-136401号公報
【文献】特開2006-249265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように特定の樹脂組成物を用いると、製造工程が複雑化する傾向がある。
【0006】
そこで、本発明は、特定の樹脂組成物を用いることなく、光ファイバの強度を向上させることが可能な光ファイバの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る光ファイバの製造方法は、ガラスファイバと、ガラスファイバに接してガラスファイバを被覆する被覆樹脂層と、を備える光ファイバを製造する方法であって、紫外線硬化型樹脂組成物の溶存酸素濃度を増加させる工程と、溶存酸素濃度を増加させた紫外線硬化型樹脂組成物をガラスファイバ上に塗布する工程と、ガラスファイバ上に塗布された紫外線硬化型樹脂組成物に紫外線を照射し、紫外線硬化型樹脂組成物を硬化させる工程と、を含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、特定の樹脂組成物を用いることなく、光ファイバの強度を向上させることが可能な光ファイバの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一実施形態に係る光ファイバの構成を示す断面図である。
図2】一実施形態に係る光ファイバの製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本願発明の実施形態の説明]
最初に本願発明の実施態様を列記して説明する。本発明の一態様に係る光ファイバの製造方法は、ガラスファイバと、ガラスファイバに接してガラスファイバを被覆する被覆樹脂層と、を備える光ファイバを製造する方法であって、紫外線硬化型樹脂組成物の溶存酸素濃度を増加させる工程と、溶存酸素濃度を増加させた紫外線硬化型樹脂組成物をガラスファイバ上に塗布する工程と、ガラスファイバ上に塗布された紫外線硬化型樹脂組成物に紫外線を照射し、紫外線硬化型樹脂組成物を硬化させる工程と、を含む。
【0011】
上記の実施態様に係る光ファイバの製造方法では、紫外線硬化型樹脂組成物の溶存酸素濃度を増加させ、溶存酸素濃度を増加させた紫外線硬化型樹脂組成物を用いて被覆樹脂層を形成する。本発明者らの調査によれば、このように溶存酸素濃度を増加させた紫外線硬化型樹脂組成物を用いて被覆樹脂層を形成することで、光ファイバの強度を向上可能であることが分かった。したがって、上記の実施態様に係る光ファイバの製造方法によれば、特定の樹脂組成物を用いることなく、光ファイバの強度を向上させることができる。
【0012】
一実施形態において、溶存酸素濃度を増加させる工程では、溶存酸素濃度を1.1倍以上に増加させてもよい。
【0013】
一実施形態において、溶存酸素濃度を増加させる工程では、溶存酸素濃度を1.1倍以上8.5倍以下に増加させてもよい。
【0014】
[本願発明の実施形態の詳細]
以下、本発明の実施形態に係る光ファイバの製造方法の具体例を、図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。以下の説明では、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0015】
(光ファイバ)
図1は、一実施形態に係る光ファイバの構成を示す断面図である。図1では、光ファイバ1の中心軸方向(光軸方向)に対して垂直な断面が示されている。図1に示されるように、本実施形態の光ファイバ1は、光伝送体であるガラスファイバ10と、ガラスファイバ10に接してガラスファイバ10を被覆する被覆樹脂層20とを備えている。
【0016】
ガラスファイバ10は、コア12と、コア12を覆うクラッド14とを備えている。ガラスファイバ10は、ガラス製の部材であって、例えばシリカ(SiO)ガラスからなっている。ガラスファイバ10は、光ファイバ1に導入された光を伝送する。コア12は、例えばガラスファイバ10の中心軸線を含む領域に設けられている。コア12は、例えば、純SiOガラス、又は、SiOガラスにGeO及び/又はフッ素元素等が含まれたものからなっている。クラッド14は、コア12を囲む領域に設けられている。クラッド14は、コア12の屈折率より低い屈折率を有している。クラッド14は、例えば、純SiOガラス、又はフッ素元素が添加されたSiOガラスからなっている。
【0017】
被覆樹脂層20は、クラッド14を覆う紫外線硬化型の樹脂層である。被覆樹脂層20は、ガラスファイバ10の外周を被覆するプライマリ樹脂層22と、プライマリ樹脂層22の外周を被覆するセカンダリ樹脂層24と、を備えている。プライマリ樹脂層22は、クラッド14の外周面に接しており、クラッド14の全体を被覆している。セカンダリ樹脂層24は、プライマリ樹脂層22の外周面に接しており、プライマリ樹脂層22の全体を被覆している。プライマリ樹脂層22の厚さは、例えば、10μm以上50μm以下である。セカンダリ樹脂層24の厚さは、例えば、10μm以上40μm以下である。被覆樹脂層20は、セカンダリ樹脂層24の外周を被覆する着色樹脂層を更に備えていてもよい。
【0018】
プライマリ樹脂層22及びセカンダリ樹脂層24は、例えば、オリゴマー、モノマー及び光重合開始剤(反応開始剤)を含む紫外線硬化型樹脂組成物を硬化させて形成される。
【0019】
オリゴマーとしては、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、又は、これらの混合物が用いられ得る。ウレタン(メタ)アクリレートとしては、ポリオール化合物、ポリイソシアネート化合物及び水酸基含有(メタ)アクリレート化合物を反応させて得られるものが用いられ得る。
【0020】
ポリオール化合物としては、ポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ビスフェノールA・エチレンオキサイド付加ジオール等が用いられ得る。ポリイソシアネート化合物としては、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等が用いられ得る。水酸基含有(メタ)アクリレート化合物としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールモノ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等が用いられ得る。
【0021】
モノマーとしては、重合性基を1つ有する単官能モノマー、重合性基を2つ以上有する多官能モノマーを用いることができる。モノマーは、2種以上を混合して用いてもよい。
【0022】
単官能モノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、s-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n-ペンチル(メタ)アクリレート、イソペンチル(メタ)アクリレート、へキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ノニルフェノールポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート系モノマー;(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸ダイマー、カルボキシエチル(メタ)アクリレート、カルボキシペンチル(メタ)アクリレート、ω-カルボキシ-ポリカプロラクトン(メタ)アクリレート等のカルボキシル基含有モノマー;3-(3-ピリジル)プロピル(メタ)アクリレート、N-アクリロイルモルホリン、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム、N-アクリロイルピペリジン、N-メタクリロイルピペリジン、N-アクリロイルピロリジン等の複素環含有(メタ)アクリレート;マレイミド、N-シクロへキシルマレイミド、N-フェニルマレイミド等のマレイミド系モノマー;(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N-ヘキシル(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-メチロールプロパン(メタ)アクリルアミド等のN-置換アミド系モノマー;(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸アミノプロピル、(メタ)アクリル酸N,N-ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸t-ブチルアミノエチル等の(メタ)アクリル酸アミノアルキル系モノマー;N-(メタ)アクリロイルオキシメチレンスクシンイミド、N-(メタ)アクリロイル-6-オキシヘキサメチレンスクシンイミド、N-(メタ)アクリロイル-8-オキシオクタメチレンスクシンイミド等のスクシンイミド系モノマーが挙げられる。
【0023】
多官能モノマーとしては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物のジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,12-ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,14-テトラデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,16-ヘキサデカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,20-エイコサンジオールジ(メタ)アクリレート、イソペンチルジオールジ(メタ)アクリレート、3-エチル-1,8-オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのEO付加物ジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールオクタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンポリエトキシトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンポリプロポキシトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンポリエトキシポリプロポキシトリ(メタ)アクリレート、トリス[(メタ)アクロイルオキシエチル]イソシアヌレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールポリエトキシテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールポリプロポキシテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリトリトールヘキサ(メタ)アクリレート及びカプロラクトン変性トリス[(メタ)アクリロイルオキシエチル]イソシアヌレートが挙げられる。
【0024】
光重合開始剤としては、公知のラジカル光重合開始剤の中から適宜選択して使用することができる。光重合開始剤として、例えば、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノ-プロパン-1-オン(Irgacure 907、BASF社製)、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド(Irgacure TPO、BASF社製)及びビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(Irgacure 819、BASF社製)が挙げられる。光重合開始剤は、2種以上を混合して用いてもよいが、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシドを少なくとも含むことが好ましい。
【0025】
(光ファイバの製造方法)
図2は、一実施形態に係る光ファイバの製造方法を示すフローチャートである。図2に示されるように、本実施形態に係る光ファイバ1の製造方法は、濃度増加工程S1と、塗布工程S2と、照射工程S3とを含んでいる。
【0026】
まず、濃度増加工程S1では、被覆樹脂層20の形成に用いられる紫外線硬化型樹脂組成物の溶存酸素濃度を増加させる。具体的には、プライマリ樹脂層22の形成に用いられる第1紫外線硬化型樹脂組成物の溶存酸素濃度、及びセカンダリ樹脂層24の形成に用いられる第2紫外線硬化型樹脂組成物の溶存酸素濃度のうちの少なくとも一方を増加させる。溶存酸素濃度を増加させる方法としては、例えば、対象とする樹脂組成物(樹脂液)を空気又は高濃度酸素ガスで加圧する方法、樹脂組成物中に空気又は高濃度酸素ガスを吹き込むバブリング方法が挙げられる。バブリング方法では、樹脂組成物を加熱すると、樹脂組成物中に気泡を形成(バブリング)しやすくなる。しかしながら、樹脂組成物の温度が高くなると酸素の溶解度が小さくなるので、例えば、樹脂組成物を加熱することなく室温(20℃~30℃)でバブリング方法を実施してもよい。
【0027】
濃度増加工程S1では、被覆樹脂層20の形成に用いられる紫外線硬化型樹脂組成物の溶存酸素濃度を、濃度増加工程S1前の1.1倍以上8.5倍以下となるように増加させる。具体的には、第1紫外線硬化型樹脂組成物の溶存酸素濃度、及び第2紫外線硬化型樹脂組成物の溶存酸素濃度のうちの少なくとも一方を濃度増加工程S1前の1.1倍以上8.5倍以下となるように増加させる。増加前の溶存酸素濃度は5mg/L程度であってもよい。溶存酸素濃度を1.1倍以上、好ましくは1.2倍以上、より好ましくは1.4倍以上となるように増加させることで、光ファイバ1の強度を向上させることができる。また、溶存酸素濃度を8.5倍以下、好ましくは8倍以下、より好ましくは7倍以下となるように増加させることで、被覆樹脂層20の硬化度の低下を抑制することができる。被覆樹脂層20の硬化度が低下すると、光ファイバ1の巻取り時に、被覆樹脂層20が剥離したり、裂けたりする場合がある。
【0028】
濃度増加工程S1に続く塗布工程S2では、濃度増加工程S1において溶存酸素濃度を増加させた紫外線硬化型樹脂組成物をガラスファイバ10上に塗布する。具体的には、濃度増加工程S1において溶存酸素濃度を増加させた第1紫外線硬化型樹脂組成物をガラスファイバ10の表面上に塗布し、第1紫外線硬化型樹脂組成物からなる第1層(硬化後のプライマリ樹脂層22に対応する層)を形成する。その後、濃度増加工程S1において溶存酸素濃度を増加させた第2紫外線硬化型樹脂組成物を第1層の表面上に塗布し、第2紫外線硬化型樹脂組成物からなる第2層(硬化後のセカンダリ樹脂層24に対応する層)を形成する。
【0029】
塗布工程S2に続く照射工程S3では、ガラスファイバ10上に塗布された紫外線硬化型樹脂組成物に紫外線を照射し、当該紫外線硬化型樹脂組成物を硬化させる。具体的には、ガラスファイバ10上に塗布された第1層及び第2層に紫外線を照射し、第1紫外線硬化型樹脂組成物及び第2紫外線硬化型樹脂組成物を硬化させる。これにより、ガラスファイバ10と、第1層が硬化されてなるプライマリ樹脂層22と、第2層が硬化されてなるセカンダリ樹脂層24と、を備える光ファイバ1が得られる。紫外線光源として、例えば、紫外線LED、紫外線ランプが用いられる。紫外線の波長領域は、例えば290nm~390nm(UVA、UVB領域)である。紫外線の照度は、例えば300mW/cm以上1000mW/cm以下である。紫外線の照射時間は、例えば1秒以下である。紫外線は、例えば窒素雰囲気等の不活性ガス雰囲気で照射される。
【0030】
以上の工程S1~S3により、特定の樹脂組成物を用いることなく、強度が向上された光ファイバ1が得られる。
【実施例
【0031】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって限定されるものではない。
【0032】
(実施例1)
濃度増加工程として、プライマリ樹脂層の形成に用いられる第1紫外線硬化型樹脂組成物、及びセカンダリ樹脂層の形成に用いられる第2紫外線硬化型樹脂組成物に対し、それぞれ室温でバブリング方法を実施した。第1紫外線硬化型樹脂組成物は、オリゴマーとしてウレタンアクリレートオリゴマーを70質量部と、モノマーとしてEO変性ノニルフェノールアクリレートを27質量部と、光重合開始剤として2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシドを2.0質量部と、シランカップリング剤として3-メルカプトプロピルトリメトキシシランを1.0質量部とを混合して作製した。第2紫外線硬化型樹脂組成物は、セカンダリ樹脂層用の樹脂組成物は、オリゴマーとしてウレタンアクリレートオリゴマーを50質量部と、エポキシアクリレートを28質量部と、モノマーとしてアクリル酸イソボルニルを20質量部と、光重合開始剤として2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシドを2.0質量部とを混合して作製した。
【0033】
各樹脂組成物を貯留した容器に、エア配管に接続されたノズルを挿入し、室温(25℃)環境で各樹脂組成物に空気を供給した。これにより、各樹脂組成物中の溶存酸素濃度をバブリング前の1.5倍に増加させた。各樹脂組成物中の溶存酸素濃度は、バブリングの実施時間によって調整した。溶存酸素濃度の測定には、有機溶媒用酸素濃度計を用いた。有機溶媒用酸素濃度計を各樹脂組成物に挿入した後、値が安定したときの値を溶存酸素濃度とした。バブリング後の溶存酸素濃度は、撹拌脱泡を行い、目視できる気泡を除去した状態で測定した。
【0034】
次に、塗布工程として、コア及びクラッドから構成される直径125μmのガラスファイバの外周に、溶存酸素濃度を増加させた第1紫外線硬化型樹脂組成物を用いて厚さ32.5μmの第1層を形成し、更にその外周に溶存酸素濃度を増加させた第2紫外線硬化型樹脂組成物を用いて厚さ27.5μmの第2層を形成した。
【0035】
次に、照射工程として、窒素雰囲気で紫外線を照度300mW/cm、照射時間0.1秒で照射して第1層及び第2層を硬化させ、プライマリ樹脂層及びセカンダリ樹脂層からなる被覆樹脂層を形成した。紫外線の照度は、紫外線強度計(測定波長領域290nm~390nm(UVA、UVB領域))を用いて測定した。
【0036】
(実施例2)
濃度増加工程において、各樹脂組成物中の溶存酸素濃度をバブリング前の1.7倍に増加させた以外は実施例1と同じ条件で光ファイバを製造した。
【0037】
(実施例3)
濃度増加工程において、各樹脂組成物中の溶存酸素濃度をバブリング前の2.3倍に増加させた以外は実施例1と同じ条件で光ファイバを製造した。
【0038】
(実施例4)
濃度増加工程において、各樹脂組成物中の溶存酸素濃度をバブリング前の3.3倍に増加させた以外は実施例1と同じ条件で光ファイバを製造した。
【0039】
(実施例5)
濃度増加工程において、各樹脂組成物中の溶存酸素濃度をバブリング前の5倍に増加させた以外は実施例1と同じ条件で光ファイバを製造した。
【0040】
(実施例6)
濃度増加工程において、各樹脂組成物中の溶存酸素濃度をバブリング前の8倍に増加させた以外は実施例1と同じ条件で光ファイバを製造した。
【0041】
(比較例1)
濃度増加工程を実施せず、各樹脂組成物を加熱し、各樹脂組成物中の溶存酸素濃度を加熱前の0.8倍に減少させた以外は実施例1と同じ条件で光ファイバを製造した。
【0042】
実施例1~6及び比較例1の光ファイバについて、ガラス強度の増加量及びゲル分率の低下量を測定した。ガラス強度の増加量は、溶存酸素濃度増加工程有無のガラス強度の差とし、溶存酸素濃度増加工程の有無のガラス強度をそれぞれ測定して求めた。ガラス強度は、被試験光ファイバの半数が破断する強度である50%強度とし、引張速度25mm/分で各被試験光ファイバの引張試験を行って測定した。ゲル分率は、60℃のメチルエチルケトン(MEK)に光ファイバを17時間浸漬し、光ファイバの重量の低下率((浸漬前の光ファイバの重量-浸漬後の光ファイバの重量)/浸漬前の光ファイバの重量×100)として算出した。ゲル分率の低下量は、硬化度の低下量の指標とすることができる。
【0043】
実施例1~6及び比較例1,2の溶存酸素濃度比(バブリング前の溶存酸素濃度に対するバブリング後の溶存酸素濃度の比)、ガラス強度の増加量、ゲル分率の低下量を表1に示す。
【表1】
【0044】
実施例1では、ガラス強度が0.2kgf増加し、ゲル分率が低下しなかった。実施例2では、ガラス強度が0.2kgf増加し、ゲル分率が低下しなかった。実施例3では、ガラス強度が0.3kgf増加し、ゲル分率が低下しなかった。実施例4では、ガラス強度が0.3kgf増加し、ゲル分率が低下しなかった。実施例5では、ガラス強度が0.6kgf増加し、ゲル分率が1%低下した。実施例6では、ガラス強度が0.05kgf増加し、ゲル分率が10%低下した。比較例1では、ガラス強度が増加せず、ゲル分率が低下しなかった。
【符号の説明】
【0045】
1…光ファイバ、10…ガラスファイバ、20…被覆樹脂層、22…プライマリ樹脂層、24…セカンダリ樹脂層。
図1
図2