(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-25
(45)【発行日】2022-05-09
(54)【発明の名称】分析支援方法、分析支援装置、分析支援プログラムおよび分析システム
(51)【国際特許分類】
G01N 30/02 20060101AFI20220426BHJP
G01N 30/36 20060101ALI20220426BHJP
【FI】
G01N30/02 N
G01N30/36
(21)【出願番号】P 2018219639
(22)【出願日】2018-11-22
【審査請求日】2021-03-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100098305
【氏名又は名称】福島 祥人
(74)【代理人】
【識別番号】100108523
【氏名又は名称】中川 雅博
(74)【代理人】
【識別番号】100125704
【氏名又は名称】坂根 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100187931
【氏名又は名称】澤村 英幸
(72)【発明者】
【氏名】藤戸 由佳
【審査官】高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/031008(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0276652(US,A1)
【文献】特開平2-021100(JP,A)
【文献】特開平2-071148(JP,A)
【文献】米国特許第04901759(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0026704(US,A1)
【文献】特開平02-071148(JP,A)
【文献】特開平02-021100(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00-30/96
G01N 1/00- 1/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超臨界流体を含む移動相を供給流路に供給する送液部と、前記供給流路から分岐する第1および第2の流路にそれぞれ設けられる第1および第2の背圧調整器と、前記第1の流路において前記第1の背圧調整器の上流に設けられる分析カラムとを含む超臨界流体クロマトグラフの分析条件の決定を支援する分析支援方法であって、
前記第2の背圧調整器の圧力が予め規定された第2の設定値に設定された状態で、前記第1の背圧調整器の圧力を前記第2の設定値よりも高い値に設定するステップと、
予め規定された総流量および予め規定された試料導入割合で移動相が前記供給流路に供給された場合に理論上前記第1の流路に供給される移動相の流量で、移動相を前記供給流路に供給するように前記超臨界流体クロマトグラフに指示した後、前記第1の背圧調整器の圧力の設定値を漸次低下させるように前記超臨界流体クロマトグラフに指示するステップと、
前記第1の背圧調整器の圧力の設定値の低下により前記第2の流路に移動相が供給されなくなったときの前記第1の背圧調整器の圧力の設定値を第1の設定値として検出するステップとを含む、分析支援方法。
【請求項2】
前記第1の背圧調整器の圧力を前記検出された前記第1の設定値に設定するステップをさらに含む、請求項1記載の分析支援方法。
【請求項3】
規定された試料導入割合、移動相の規定された総流量および規定された第2の設定値を含む分析条件を記憶するステップと、
前記検出された前記第1の設定値を分析条件の一部として決定または更新するステップとをさらに含む、請求項1記載の分析支援方法。
【請求項4】
前記漸次低下する前記第1の背圧調整器の圧力の設定値が予め定められたしきい値よりも低下した場合に警告を提示するステップをさらに含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の分析支援方法。
【請求項5】
超臨界流体を含む移動相を供給流路に供給する送液部と、前記供給流路から分岐する第1および第2の流路にそれぞれ設けられる第1および第2の背圧調整器と、前記第1の流路において前記第1の背圧調整器の上流に設けられる分析カラムとを含む超臨界流体クロマトグラフの分析条件の決定を支援する分析支援装置であって、
前記第2の背圧調整器の圧力が予め規定された第2の設定値に設定された状態で、前記第1の背圧調整器の圧力を前記第2の設定値よりも高い値に設定する設定部と、
予め規定された総流量および予め規定された試料導入割合で移動相が前記供給流路に供給された場合に理論上前記第1の流路に供給される移動相の流量で、移動相を前記供給流路に供給するように前記超臨界流体クロマトグラフに指示した後、前記第1の背圧調整器の圧力の設定値を漸次低下させるように前記超臨界流体クロマトグラフに指示する指示部と、
前記第1の背圧調整器の圧力の設定値の低下により前記第2の流路に移動相が供給されなくなったときの前記第1の背圧調整器の圧力の設定値を第1の設定値として検出する検出部とを備える、分析支援装置。
【請求項6】
前記設定部は、前記第1の背圧調整器の圧力を前記検出された前記第1の設定値に設定する、請求項5記載の分析支援装置。
【請求項7】
規定された試料導入割合、移動相の規定された総流量および規定された第2の設定値を含む分析条件を記憶する記憶部と、
前記検出された前記第1の設定値
を分析条件
の一部として決定または更新する決定更新部とをさらに備える、請求項5または6記載の分析支援装置。
【請求項8】
前記指示部の指示により漸次低下する前記第1の背圧調整器の圧力の設定値が予め定められたしきい値よりも低下した場合に警告を提示する提示部をさらに備えた、請求項5~7のいずれか一項に記載の分析支援装置。
【請求項9】
超臨界流体を含む移動相を供給流路に供給する送液部と、前記供給流路から分岐する第1および第2の流路にそれぞれ設けられる第1および第2の背圧調整器と、前記第1の流路において前記第1の背圧調整器の上流に設けられる分析カラムとを含む超臨界流体クロマトグラフの分析条件の決定を支援する分析支援プログラムであって、
前記第2の背圧調整器の圧力が予め規定された第2の設定値に設定された状態で、前記第1の背圧調整器の圧力を前記第2の設定値よりも高い値に設定する処理と、
予め規定された総流量および予め規定された試料導入割合で移動相が前記供給流路に供給された場合に理論上前記第1の流路に供給される移動相の流量で、移動相を前記供給流路に供給するように前記超臨界流体クロマトグラフに指示した後、前記第1の背圧調整器の圧力の設定値を漸次低下させるように前記超臨界流体クロマトグラフに指示する処理と、
前記第1の背圧調整器の圧力の設定値の低下により前記第2の流路に移動相が供給されなくなったときの前記第1の背圧調整器の圧力の設定値を第1の設定値として検出する処理とを、コンピュータに実行させる、分析支援プログラム。
【請求項10】
超臨界流体を含む移動相を供給流路に供給する送液部と、前記供給流路から分岐する第1および第2の流路にそれぞれ設けられる第1および第2の背圧調整器と、前記第1の流路において前記第1の背圧調整器の上流に設けられる分析カラムとを含む超臨界流体クロマトグラフと、
前記超臨界流体クロマトグラフの分析条件の決定を支援する請求項5~8のいずれか一項に記載の分析支援装置とを備える、分析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超臨界流体クロマトグラフにおける分析条件の決定を支援する分析支援方法、分析支援装置、分析支援プログラムおよび分析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
超臨界流体を移動相として用いる超臨界流体クロマトグラフ(SFC;Supercritical Fluid Chromatograph)が知られている。特許文献1に記載された分析装置では、第1の流路に分析カラムが設けられ、分析カラムの下流に第1背圧調整弁が設けられている。また、第1の流路から分岐する第2の流路が設けられ、第2の流路に第2背圧調整弁が設けられている。超臨界流体クロマトグラフに導入された試料および移動相の一部が第1の流路の分析カラムに導入され、残りの試料および移動相が第2の流路を通して排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の分析装置では、第1背圧調整弁および第2背圧調整弁の圧力の設定値を調整することにより第1の流路に供給される試料の量と第2の流路から排出される試料の量との割合(以下、試料導入割合と呼ぶ。)を調整することができる。それにより、分析カラムに導入される試料の量を調整することができる。
【0005】
しかしながら、試料導入割合は、第1背圧調整弁および第2背圧調整弁の圧力の設定値がそれぞれ一定であっても、分析装置に使用される配管および分析カラムによる圧力損失により変動する。試料導入割合の変動は、検出感度および分析精度に影響するため、第1背圧調整弁の圧力の設定値を調整することにより試料導入割合を分析条件を示す分析メソッドに規定された値に調整することが必要である。この場合、分析装置の検出器の感度が一定であることを確認した後に、試料導入割合の調整のための分析を行い、検出器により得られたピーク強度を指標として用いて試行錯誤により第1背圧調整弁の圧力の設定値を調整しなければならない。それにより、分析のための設定に手間および時間がかかる。
【0006】
本発明の目的は、試料導入割合を容易かつ確実に調整することを可能にする分析支援方法、分析支援装置、分析支援プログラムおよび分析システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一局面に従う分析支援方法は、超臨界流体を含む移動相を供給流路に供給する送液部と、供給流路から分岐する第1および第2の流路にそれぞれ設けられる第1および第2の背圧調整器と、第1の流路において第1の背圧調整器の上流に設けられる分析カラムとを含む超臨界流体クロマトグラフの分析条件の決定を支援する分析支援方法であって、第2の背圧調整器の圧力が予め規定された第2の設定値に設定された状態で、第1の背圧調整器の圧力を第2の設定値よりも高い値に設定するステップと、予め規定された総流量および予め規定された試料導入割合で移動相が供給流路に供給された場合に理論上第1の流路に供給される移動相の流量で、移動相を供給流路に供給するように超臨界流体クロマトグラフに指示した後、第1の背圧調整器の圧力の設定値を漸次低下させるように超臨界流体クロマトグラフに指示するステップと、第1の背圧調整器の圧力の設定値の低下により第2の流路に移動相が供給されなくなったときの第1の背圧調整器の圧力の設定値を第1の設定値として検出するステップとを含む。
【0008】
その分析支援方法によれば、第2の流路に移動相が供給されなくなったときの第1の背圧調整器の圧力の設定値が予め規定された試料導入割合で第1の流路に所定流量の移動相を供給するための第1の設定値に相当する。そのため、分析を行うことなく、所望の試料導入割合を得るための第1の背圧調整器の圧力の設定値を短時間で決定することができる。また、検出器の感度等の他の因子に影響されることなく、第1の背圧調整器の圧力の設定値を決定することができる。したがって、試料導入割合を容易かつ確実に調整することが可能になる。
【0009】
分析支援方法は、第1の背圧調整器の圧力を検出された第1の設定値に設定するステップをさらに含んでもよい。この場合、規定された試料導入割合が得られるように第1の背圧調整器の圧力が自動的に設定される。
【0010】
分析支援方法は、規定された試料導入割合、移動相の規定された総流量および規定された第2の設定値を含む分析条件を記憶するステップと、検出された第1の設定値を分析条件の一部として決定または更新するステップとをさらに含んでもよい。この場合、試料の分析条件を規定する分析メソッドを容易に作成および更新することができる。
【0011】
分析支援方法は、漸次低下する第1の背圧調整器の圧力の設定値が予め定められたしきい値よりも低下した場合に警告を提示するステップをさらに含んでもよい。この場合、第1または第2の流路の詰まり等の不具合の発生を使用者に知らせることが可能となる。
【0012】
本発明の他の局面に従う分析支援装置は、超臨界流体を含む移動相を供給流路に供給する送液部と、供給流路から分岐する第1および第2の流路にそれぞれ設けられる第1および第2の背圧調整器と、第1の流路において第1の背圧調整器の上流に設けられる分析カラムとを含む超臨界流体クロマトグラフの分析条件の決定を支援する分析支援装置であって、第2の背圧調整器の圧力が予め規定された第2の設定値に設定された状態で、第1の背圧調整器の圧力を第2の設定値よりも高い値に設定する設定部と、予め規定された総流量および予め規定された試料導入割合で移動相が供給流路に供給された場合に理論上第1の流路に供給される移動相の流量で、移動相を供給流路に供給するように超臨界流体クロマトグラフに指示した後、第1の背圧調整器の圧力の設定値を漸次低下させるように超臨界流体クロマトグラフに指示する指示部と、第1の背圧調整器の圧力の設定値の低下により第2の流路に移動相が供給されなくなったときの第1の背圧調整器の圧力の設定値を第1の設定値として検出する検出部とを備える。
【0013】
その分析支援装置によれば、試料導入割合を自動的に容易かつ確実に調整することが可能になる。
【0014】
設定部は、第1の背圧調整器の圧力を検出された第1の設定値に設定してもよい。この場合、規定された試料導入割合が得られるように第1の背圧調整器の圧力が自動的に設定される。
【0015】
分析支援装置は、規定された試料導入割合、移動相の規定された総流量および規定された第2の設定値を含む分析条件を記憶する記憶部と、検出された第1の設定値を分析条件の一部として決定または更新する決定更新部とをさらに備えてもよい。この場合、試料の分析条件を規定する分析メソッドを容易に作成および更新することができる。
【0016】
分析支援装置は、指示部の指示により漸次低下する第1の背圧調整器の圧力の設定値が予め定められたしきい値よりも低下した場合に警告を提示する提示部をさらに備えてもよい。この場合、第1または第2の流路の詰まり等の不具合の発生を使用者に知らせることが可能となる。
【0017】
本発明のさらに他の局面に従う分析支援プログラムは、超臨界流体を含む移動相を供給流路に供給する送液部と、供給流路から分岐する第1および第2の流路にそれぞれ設けられる第1および第2の背圧調整器と、第1の流路において第1の背圧調整器の上流に設けられる分析カラムとを含む超臨界流体クロマトグラフの分析条件の決定を支援する分析支援プログラムであって、第2の背圧調整器の圧力が予め規定された第2の設定値に設定された状態で、第1の背圧調整器の圧力を第2の設定値よりも高い値に設定する処理と、予め規定された総流量および予め規定された試料導入割合で移動相が供給流路に供給された場合に理論上第1の流路に供給される移動相の流量で、移動相を供給流路に供給するように超臨界流体クロマトグラフに指示した後、第1の背圧調整器の圧力の設定値を漸次低下させるように超臨界流体クロマトグラフに指示する処理と、第1の背圧調整器の圧力の設定値の低下により第2の流路に移動相が供給されなくなったときの第1の背圧調整器の圧力の設定値を第1の設定値として検出する処理とを、コンピュータに実行させる。
【0018】
その分析支援プログラムによれば、試料導入割合を容易かつ確実に調整することが可能になる。
【0019】
本発明のさらに他の局面に従う分析システムは、超臨界流体を含む移動相を供給流路に供給する送液部と、供給流路から分岐する第1および第2の流路にそれぞれ設けられる第1および第2の背圧調整器と、第1の流路において第1の背圧調整器の上流に設けられる分析カラムとを含む超臨界流体クロマトグラフと、超臨界流体クロマトグラフの分析条件の決定を支援する上記の分析支援装置とを備える。
【0020】
その分析システムによれば、試料導入割合を容易かつ確実に調整することが可能になる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、試料導入割合を容易かつ確実に調整することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る分析支援装置を含む分析システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】
図1の分析システムに含まれる超臨界流体クロマトグラフの構成を示す模式図である。
【
図3】
図1の分析支援装置の機能的な構成を示すブロック図である。
【
図4】分析支援プログラムのアルゴリズムを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態に係る分析支援方法、分析支援装置、分析支援プログラムおよび分析システムについて図面を参照しながら詳細に説明する。
【0024】
(1)分析システムの構成
図1は、本発明の一実施の形態に係る分析支援装置を含む分析システムの構成を示すブロック図である。
図2は、
図1の分析システムに含まれる超臨界流体クロマトグラフの構成を示す模式図である。
【0025】
図1の分析システム100は、超臨界流体クロマトグラフ1および分析支援装置3を含む。まず、
図2に示される超臨界流体クロマトグラフ1について説明する。本実施の形態では、超臨界流体としてCO
2(二酸化炭素)が用いられる。
【0026】
超臨界流体クロマトグラフ1は、送液部110、超臨界流体抽出部120、オートサンプラ130、カラムオーブン140、検出器150、第1の背圧調整器(Back Pressure Regulator;以下、BPRと呼ぶ。)161、第2の背圧調整器(Back Pressure Regulator;以下、BPRと呼ぶ。)162、およびメイクアップポンプ170を含む。本実施の形態では、超臨界流体抽出部120およびオートサンプラ130が試料導入部200を構成する。
【0027】
送液部110は、CO2ポンプ111、モディファイアポンプ112およびミキサ113を含む。CO2ポンプ111は、ボンベ114からCO2を加圧しつつ引き出す。CO2ポンプ111は、吐出側の圧力を検出するための圧力計および圧力値を表示するモニタを有する。モディファイアポンプ112は、モディファイア容器115から極性溶媒であるモディファイア(修飾剤)を引き出す。モディファイアとしては、例えばメタノールまたはエタノールが用いられる。
【0028】
ミキサ113は、CO2ポンプ111により引き出されたCO2およびモディファイアポンプ112により引き出されたモディファイアを混合し、混合液を移動相として供給流路PAに供給する。本実施の形態では、ミキサ113は、CO2とモディファイアとを設定された比率で混合するグラディエントミキサである。
【0029】
供給流路PAには、超臨界流体抽出部120が設けられている。超臨界流体抽出部120は、試料を収容する抽出容器121を含む。超臨界流体抽出部120は、試料の分析時に、移動相に含まれる超臨界流体(本実施の形態ではCO2)により試料から分析対象の成分を試料成分として抽出する。抽出された試料成分および移動相は供給流路PAに供給される。
【0030】
オートサンプラ130は、ニードル131、注入ポート132、切替バルブ133およびサンプルループ134を含む。ニードル131は、標準試料を吸入し、注入ポート132に吐出する。サンプルループ134は、注入ポート132に注入された標準試料を一時的に保持する。切替バルブ133には、供給流路PA、供給流路PB、注入ポート132およびサンプルループ134が接続されている。切替バルブ133は、供給流路PAを供給流路PBに接続しかつ注入ポート132をサンプルループ134に接続する第1の状態と、供給流路PA、サンプルループ134および供給流路PBを接続する第2の状態とに切り替えられる。
【0031】
供給流路PBは、分岐部N1で第1の流路P1と第2の流路P2とに分岐している。カラムオーブン140は分析カラム141を収容し、分析カラム141を設定された温度に維持する。第1の流路P1には、分析カラム141、検出器150および第1のBPR161が順に設けられている。分析カラム141には、試料成分および移動相が導入される。分析カラム141は、試料成分をさらに成分ごとに分離する。分離された成分は検出器150により検出される。検出器150は、例えば紫外線検出器である。
【0032】
第1のBPR161は、吸入側の圧力(本実施の形態では、検出器150の下流の圧力)を設定値に維持するように動作する。第1のBPR161の下流の圧力は大気圧である。メイクアップポンプ170は、メイクアップ容器171内からメイクアップ液を引き出し、第1の流路P1との合流部N2に供給する。
【0033】
第2の流路P2には、第2のBPR162が設けられている。第2のBPR162は、吸入側の圧力(本実施の形態では、第2の流路P2の圧力)を設定値に維持するように動作する。第2のBPR162のドレインには流量センサ163が設けられている。流量センサ163は、第2のBPR162のドレインから移動相が排出されなくなったこと(移動相の流量が0となったこと)を検出するために用いられる。流量センサ163が設けられなくてもよい。その場合には、使用者が目視でドレインから移動相が排出されなくなったこと、または第2のBPR162が閉鎖状態になったことを検出する。
【0034】
第1のBPR161の圧力の設定値および第2のBPR162の圧力の設定値を調整することにより、供給流路PA,PB、第1の流路P1および第2の流路P2内のCO2が超臨界状態となる。また、第1のBPR161の圧力の設定値および第2のBPR162の圧力の設定値を調整することにより、第1の流路P1に導入される試料の流量と第2の流路P2に導入される試料の流量との比(以下、試料導入割合と呼ぶ。)が変化する。試料導入割合は、第1の流路P1に供給される移動相の流量と第2の流路P2に供給される移動相の流量との比に相当する。試料導入割合は、スプリット比とも呼ばれる。例えば、超臨界流体抽出部120に導入される試料の量は多いことが好ましく、分析カラム141に導入される試料の量は比較的少ないことが好ましい場合がある。このような場合に、試料導入割合を調整することにより超臨界流体抽出部120および分析カラム141に導入される試料の流量をそれぞれ適切な値に調整することが可能である。
【0035】
図1に示すように、超臨界流体クロマトグラフ1は、制御装置180を備える。制御装置180は、CO
2ポンプ111、モディファイアポンプ112、ミキサ113、超臨界流体抽出部120およびオートサンプラ130を制御する。また、制御装置180は、カラムオーブン140、第1のBPR161、第2のBPR162、検出器150およびメイクアップポンプ170を制御する。さらに、制御装置180は、CO
2ポンプ111の圧力計から圧力値を取得し、流量センサ163により検出される流量の値を取得する。
【0036】
分析支援装置3は、入出力I/F(インタフェース)31、CPU(中央演算処理装置)32、RAM(ランダムアクセスメモリ)33、ROM(リードオンリメモリ)34および記憶装置35を含み、例えばパーソナルコンピュータまたはサーバにより構成される。入出力I/F31、CPU32、RAM33、ROM34および記憶装置35はバス38に接続されている。分析支援装置3のバス38には、操作部36および表示部37が接続される。操作部36は、キーボードおよびポインティングデバイス等を含み、種々の値等の入力および種々の操作のために用いられる。表示部37は、液晶ディスプレイまたは有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ等を含み、種々の情報および画像を表示する。操作部36および表示部37は、タッチパネルディスプレイにより構成されてもよい。
【0037】
記憶装置35は、ハードディスク、光学ディスク、磁気ディスク、半導体メモリまたはメモリカード等の記憶媒体を含み、分析支援プログラムを記憶する。RAM33は、CPU32の作業領域として用いられる。ROM34にはシステムプログラムが記憶される。CPU32が記憶装置35に記憶された分析支援プログラムをRAM33上で実行することにより、後述する分析支援方法が実施される。
【0038】
(2)試料導入割合の調整方法
以下に、試料導入割合の調整方法について説明する。試料の分析方法として、試料導入割合、分析カラム141の種類(分析カラムの内径、分析カラムの長さおよび充填剤)、移動相の総流量、モディファイアの種類、モディファイア濃度、メイクアップ液の種類および第2のBPR162の圧力の設定値等が分析メソッドにおいて規定されている。供給流路PAと供給流路PBとは切替バルブ133を通して接続されている。
【0039】
まず、使用者は、分析メソッドにおいて規定された分析カラム141およびモディファイア容器115を超臨界流体クロマトグラフ1に装着する。次に、使用者または分析支援装置3は、第2のBPR162の圧力を分析メソッドに規定された第2の設定値に設定する。また、必要に応じて、使用者は、分析メソッドに規定されたメイクアップ液を収容するメイクアップ容器171を超臨界流体クロマトグラフ1に装着する。
【0040】
この状態で、使用者による操作部36の操作または分析支援装置3の指示により、第1のBPR161の圧力が第2の設定値よりも高い値に設定される。また、使用者による操作部36の操作または分析支援装置3の指示により、送液部110が規定されたモディファイア濃度の移動相を所定流量で供給流路PA,PBに供給する。ここで、所定流量は、予め規定された総流量および予め規定された試料導入割合で供給流路PA,PBに移動相が供給された場合に理論上第1の流路P1に供給される移動相の流量である。例えば、移動相の総流量が5mL/minであり、試料導入割合が5%である場合には、第1の流路P1には理論上0.25mL/minの流量で移動相が供給される。したがって、送液部110は0.25mL/minの流量で供給流路PA,PBに移動相を供給する。最初は、移動相は第1の流路P1および第2の流路P2に供給される。
【0041】
使用者による操作部36の操作または分析支援装置3の指示により、第1のBPR161の圧力の設定値が一定値(例えば0.1MPa)ずつ低下される。これにより、第2の流路P2における移動相の流量が漸次減少する。
【0042】
分析支援装置3は、流量センサ163により検出される移動相の流量が0となったときの第1のBPR161の圧力の設定値を第1の設定値として検出する。あるいは、使用者は、第2のBPR162のドレインから移動相が排出されなくなったときまたは第2のBPR162が閉鎖状態になったときの第1のBPR161の圧力の設定値を第1の設定値として入力する。この場合における第1のBPR161の圧力の第1の設定値と第2のBPR162の圧力の第2の設定値との差は、分析カラム141に所定流量(規定された総流量および規定された試料導入割合により理論上算出される流量)で移動相が導入されるときの圧力差である。
【0043】
このようにして、規定された総流量の移動相が規定された試料導入割合で第1のBPR161と第2のBPR162とに供給されるための第1のBPR161の圧力の第1の設定値が決定される。
【0044】
(3)分析支援装置3の機能的な構成
図3は
図1の分析支援装置3の機能的な構成を示すブロック図である。
図3に示すように、分析支援装置3は、条件取得部301、条件設定部302、制御指示部303、設定値検出部304、記憶部305、提示部306および決定更新部307を含む。上記の構成要素(301~307)の機能は、
図1のCPU32が記憶装置35等の記憶媒体(記録媒体)に記憶されたコンピュータプログラムである分析支援プログラムを実行することにより実現される。なお、分析支援装置3の一部または全ての構成要素が電子回路等のハードウエアにより実現されてもよい。
【0045】
記憶部305には、1または複数の分析メソッドが記憶される。条件取得部301は、操作部36を用いて使用者により入力された各種設定値等の分析条件または記憶部305に記憶された分析メソッドにより規定された分析条件を取得する。条件設定部302は、条件取得部301により取得された分析条件に基づいて超臨界流体クロマトグラフ1の制御装置180を介して超臨界流体クロマトグラフ1の各部の設定を行う。制御指示部303は、操作部36を用いて使用者により入力された各種指示または条件取得部301により取得された分析条件に基づいて超臨界流体クロマトグラフ1の各部の制御を制御装置180に指示する。
【0046】
設定値検出部304は、第2のBPR162のドレインに移動相が流れなくなったときの第1のBPR161の圧力の設定値を第1の設定値として検出する。具体的には、設定値検出部304は、流量センサ163により検出される移動相の流量が0となったときの第1のBPR161の圧力の設定値を第1の設定値として検出する。あるいは、使用者が第2のBPR162のドレインから移動相が排出されなくなったときまたは第2のBPR162が閉鎖したときの第1のBPR161の圧力の設定値を目視し、その設定値を操作部36により第1の設定値として入力してもよい。この場合、設定値検出部304は、入力された第1の設定値を検出する。
【0047】
決定更新部307は、設定値検出部304により検出された第1のBPR161の圧力の第1の設定値を記憶部306内の分析メソッドの分析条件の一部として決定し、または分析メソッドに規定された第1のBPR161の圧力の設定値を第1の設定値に更新する。上記の条件設定部302は、設定値検出部304により検出された第1の設定値を制御装置180を介して超臨界流体クロマトグラフ1の第1のBPR161に設定する。
【0048】
提示部306は、第1のBPR161の圧力の設定値が低下する過程で第1のBPR161の圧力の設定値が予め定められたしきい値よりも低いか否かを判定し、第1のBPR161の圧力の設定値がしきい値よりも低い場合に、第1または第2の流路P1,P2の詰まり等の不具合の発生を示す警告を表示部37により使用者に提示する。この場合、制御指示部303は、超臨界流体クロマトグラフ1の動作を停止させる。
【0049】
(4)分析支援プログラム
図4は分析支援プログラムのアルゴリズムを示すフローチャートである。
図4を用いて分析支援プログラムのアルゴリズムを説明する。分析支援プログラムの実行により分析支援方法が実施される。
【0050】
まず、条件設定部302は、第2のBPR162の圧力を分析メソッドに規定された第2の設定値に設定する(ステップS1)。詳細には、使用者が操作部36を用いて第2のBPR162の圧力の第2の設定値を入力してもよい。この場合、条件取得部301が入力された第2の設定値を取得し、条件設定部302が取得された第2の設定値を制御装置180を介して第2のBPR162に設定する。また、条件取得部301が記憶部305内の分析メソッドに規定された第2のBPR162の圧力の設定値を第2の設定値として取得し、条件設定部302が取得された第2の設定値を制御装置180を介して第2のBPR162に設定してもよい。あるいは、使用者が超臨界流体クロマトグラフ1の第2のBPR162に第2の設定値を直接設定してもよい。
【0051】
次に、条件設定部302は、制御装置180を介して第1のBPR161の圧力を第2のBPR162の圧力の第2の設定値よりも高い所定の値に設定する(ステップS2)。また、条件設定部302は、制御装置180を介してモディファイア濃度を送液部110に設定する(ステップS3)。具体的には、使用者が操作部36を用いて、規定されたモディファイア濃度を入力する。この場合、条件取得部301は入力されたモディファイア濃度を取得し、条件設定部302が取得されたモディファイア濃度を送液部110に設定する。あるいは、条件設定部302が記憶部305に記憶された分析メソッドに基づいてモディファイア濃度を送液部110に設定してもよい。
【0052】
次いで、制御指示部303は、移動相を規定された総流量および規定された試料導入割合から算出される所定流量で供給流路PAに供給するように制御装置180に指示する(ステップS4)。それにより、制御装置180は、所定流量で移動相が供給流路PAに供給されるように送液部110を制御する。
【0053】
その後、制御指示部303は、第1のBPR161の圧力の設定値を一定値(例えば0.1MPa)ずつ低下させるように制御装置180に指示する(ステップS5)。それにより、制御装置180は、第1のBPR161の圧力の設定値を一定値ずつ低下させる。
【0054】
提示部306は、制御指示部303の指示により低下される第1のBPR161の圧力の設定値がしきい値以上であるか否かを判定する(ステップS6)。この場合、提示部306は、制御指示部303による設定値の低下の指示に基づいて第1のBPR161の圧力の設定値を取得してもよく、または制御装置180から第1のBPR161の圧力の設定値を取得してもよい。ここで、しきい値は、第1または第2の流路P1,P2に詰まり等の不具合が発生しているか否かを判定するためのしきい値であり、例えば8Mpaである。
【0055】
第1のBPR161の圧力の設定値がしきい値以上である場合には、設定値検出部304は、第2のBPR162のドレインから排出される移動相の流量が0であるか否かを判定する(ステップS7)。第2のBPR162のドレインから排出される移動相の流量が0でない場合には、制御指示部303はステップS5に戻り、ステップS5~S7の処理を繰り返す。
【0056】
第2のBPR162のドレインから排出される移動相の流量が0になった場合には、設定値検出部304は、第1のBPR161の圧力の設定値を第1の設定値として検出する(ステップS8)。検出された第1の設定値は、記憶部305に記憶される。決定更新部307は、分析メソッドの分析条件の一部として第1の設定値を決定または更新する(ステップS9)。具体的には、決定更新部307は、記憶部305に記憶された分析メソッドの分析条件の一部として第1の設定値を決定する。あるいは分析メソッドに第1のBPR161の圧力の設定値が規定されている場合には、決定更新部307は規定された設定値を第1の設定値に更新する。条件設定部302は、第1のBPR161の圧力を設定値検出部304により検出された第1の設定値に設定する(ステップS10)。
【0057】
ステップS6で第1のBPR161の圧力の設定値がしきい値よりも低い場合には、提示部306は表示部37により使用者に警告を提示する(ステップS11)。また、制御指示部303は、超臨界流体クロマトグラフ1の動作を停止するように制御装置180に指示する(ステップS12)。
【0058】
(5)実施の形態の効果
本実施の形態によれば、第2のBPR162の圧力が予め規定された第2の設定値に設定された状態で、第1のBPR161の圧力が第2の設定値よりも高い値に設定される。この状態で、予め規定された総流量および予め規定された試料導入割合で移動相が供給流路PA,PBに供給された場合に理論上第1の流路P1に供給される移動相の流量で、移動相が供給流路PA,PBに供給される。この場合、少なくとも第2の流路P2に移動相が供給される。その後、第1のBPR161の圧力の設定値が漸次低下される。それにより、第1の流路P1に供給される移動相の流量が増加し、第2の流路P2に供給される移動相の流量が減少する。第2の流路P2に移動相が供給されなくなったときの第1のBPR161の圧力の設定値が第1の設定値として検出される。第1の設定値が予め規定された試料導入割合で第1の流路P1に所定流量の移動相を供給するための第1のBPR161の圧力の設定値に相当する。そのため、分析を行うことなく、所望の試料導入割合を得るための第1のBPR161の圧力の設定値を短時間で決定することができる。また、検出器150の感度等の他の因子に影響されることなく、第1のBPR161の圧力の設定値を決定することができる。したがって、試料導入割合を容易かつ確実に調整することが可能となる。
【0059】
また、種々の試料について試料導入割合、第1のBPR161の圧力の第1の設定値および第2のBPR162の圧力の第2の設定値を含む分析メソッドを容易に作成および更新することが可能となる。
【0060】
さらに、使用者は、表示部37により提示された警告に基づいて第1または第2の流路P1,P2に詰まり等の不具合が発生したことを容易に把握することができる。
【0061】
(6)他の実施の形態
(a)使用者は、複数の分析条件の値の一部を超臨界流体クロマトグラフ1の該当する部分に直接設定してもよい。
【0062】
(b)上記実施の形態では、試料導入部200が超臨界流体抽出部120およびオートサンプラ130を含むが、試料導入部200が超臨界流体抽出部120またはオートサンプラ130のいずれか一方を含んでもよい。
【0063】
(7)請求項の各構成要素と実施の形態の各要素との対応
以下、請求項の各構成要素と実施の形態の各要素との対応の例について説明するが、本発明は下記の例に限定されない。上記実施の形態では、条件設定部302が設定部の例であり、制御指示部303が指示部の例であり、設定値検出部304が検出部の例である。請求項の各構成要素として、請求項に記載されている構成または機能を有する他の種々の要素を用いることもできる。
【符号の説明】
【0064】
1…超臨界流体クロマトグラフ,3…分析支援装置,31…入出力I/F,32…CPU,33…RAM,34…ROM,35…記憶装置,36…操作部,37…表示部,38…バス,100…分析システム,110…送液部,111…CO2ポンプ,112…モディファイアポンプ,113…ミキサ,114…ボンベ,115…モディファイア容器,120…超臨界流体抽出部,121…抽出容器,130…オートサンプラ,131…ニードル,132…注入ポート,133…切替バルブ,134…サンプルループ,140…カラムオーブン,141…分析カラム,150…検出器,161,162…BPR,163…流量センサ,170…メイクアップポンプ,171…メイクアップ容器,180…制御装置,200…試料導入部,301…条件取得部,302…条件設定部,303…制御指示部,304…設定値検出部,305…記憶部,306…提示部,307…決定更新部,N1…分岐部,N2…合流部,P1,P2…流路,PA,PB…供給流路