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特許7063322電力変換装置、モータ駆動ユニットおよび電動パワーステアリング装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-25
(45)【発行日】2022-05-09
(54)【発明の名称】電力変換装置、モータ駆動ユニットおよび電動パワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/06 20060101AFI20220426BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20220426BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20220426BHJP
【FI】
H02P27/06
H02M7/48 M
B62D5/04
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019509080
(86)(22)【出願日】2018-03-05
(86)【国際出願番号】 JP2018008277
(87)【国際公開番号】W WO2018180237
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2021-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2017064081
(32)【優先日】2017-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232302
【氏名又は名称】日本電産株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大橋 弘光
(72)【発明者】
【氏名】アハマッド ガデリー
【審査官】佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-123223(JP,A)
【文献】特許第5797751(JP,B2)
【文献】特開2017-175747(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 4/00
H02P 21/00-25/03
H02P 25/04
H02P 25/08-31/00
H02M 7/48
B62D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源からの電力を、n相(nは2以上の整数)の巻線を有するモータに供給する電力に変換する電力変換装置であって、

前記モータの各相の巻線の一端に接続される第1インバータであって、各々がローサイドスイッチ素子およびハイサイドスイッチ素子を含むn個のレグを有する第1インバータと、

前記各相の巻線の他端に接続される第2インバータであって、各々がローサイドスイッチ素子およびハイサイドスイッチ素子を含むn個のレグを有する第2インバータと、

前記第1インバータとグランドとの接続・非接続を切替える第1スイッチ素子、および、前記第1インバータと前記電源との接続・非接続を切替える第2スイッチ素子を有する切替回路と、

を備え、

前記第1インバータにおいて、前記n個のレグを接続するハイサイド側の第1ノードと、前記n個のレグを接続するローサイド側の第2ノードとの電位を等しくし、かつ、前記n相の巻線のうちの二相の巻線の一端の電位を等しくした状態で、前記切替回路における前記第1および第2スイッチ素子を所定のデューティ比でスイッチングしながら、前記第2インバータの前記n個のレグのうちの、前記二相の巻線の他端に接続される2個のレグを用いて前記二相の巻線を通電する、電力変換装置。
【請求項2】
前記切替回路は、さらに、前記第2インバータとグランドとの接続・非接続を切替える第3スイッチ素子、および、前記第2インバータと前記電源との接続・非接続を切替える第4スイッチ素子を有する、請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
nは3以上の整数であり、

前記n相の巻線のうちのn-2相の巻線が故障した場合、

前記第1インバータにおいて、前記ハイサイド側の第1ノードと、前記ローサイド側の第2ノードとの電位を等しくし、かつ、前記n相の巻線のうちの故障していない二相の巻線の一端の電位を等しくした状態で、前記第1および第2スイッチ素子を前記所定のデューティ比でスイッチングしながら、前記第2インバータの前記n個のレグのうちの、前記二相の巻線の他端に接続される2個のレグを用いて前記二相の巻線を通電する、請求項1または2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記n相の巻線のうちのn-2相の巻線が故障し、かつ、前記第1インバータが故障したスイッチ素子を含む場合、

前記第1インバータにおいて、前記ハイサイド側の第1ノードと、前記ローサイド側の第2ノードとの電位を等しくし、かつ、前記n相の巻線のうちの故障していない二相の巻線の一端の電位を等しくした状態で、前記第1および第2スイッチ素子を前記所定のデューティ比でスイッチングしながら、前記第2インバータの前記n個のレグのうちの、前記二相の巻線の他端に接続される2個のレグを用いて前記二相の巻線を通電する、請求項1または2に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記故障していない二相の巻線が通電されるとき、

前記第1インバータにおいて、前記n個のレグのうちの少なくとも1個のレグに含まれるローサイドスイッチ素子およびハイサイドスイッチ素子の両方がオン状態である、請求項3または4に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記故障していない二相の巻線の一端に接続される2個のレグのうちの一方に含まれるハイサイドスイッチ素子がオン状態であり、他方のレグに含まれるハイサイドスイッチ素子およびローサイドスイッチ素子の少なくとも1つがオン状態である、請求項5に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記故障していない二相の巻線の一端に接続される2個のレグのうちの一方に含まれるローサイドスイッチ素子がオン状態であり、他方のレグに含まれるハイサイドスイッチ素子およびローサイドスイッチ素子の少なくとも1つがオン状態である、請求項5に記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記デューティ比は50%である、請求項1から7のいずれかに記載の電力変換装置。
【請求項9】
前記電源は、前記第1インバータ用の第1電源および前記第2インバータ用の第2電源を含む、請求項1から8のいずれかに記載の電力変換装置。
【請求項10】
前記モータと、

請求項1から9のいずれかに記載の電力変換装置と、

前記電力変換装置を制御する制御回路と、

を備えるモータ駆動ユニット。
【請求項11】
請求項10に記載のモータ駆動ユニットを備える電動パワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電動モータに供給する電力を変換する電力変換装置、モータ駆動ユニットおよび電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電動モータ(以下、単に「モータ」と表記する。)、電力変換装置およびECUが一体化された機電一体型モータが開発されている。特に車載分野において、安全性の観点から高い品質保証が要求される。そのため、部品の一部が故障した場合でも安全動作を継続できる冗長設計が取り入れられている。冗長設計の一例として、1つのモータに対して2つの電力変換装置を設けることが検討されている。他の一例として、メインのマイクロコントローラにバックアップ用マイクロコントローラを設けることが検討されている。
【0003】
特許文献1は、制御部と、2つのインバータとを有し、電源からの電力を三相モータに供給する電力に変換する電力変換装置を開示する。2つのインバータの各々は電源およびグランド(以下、「GND」と表記する。)に接続される。一方のインバータは、モータの三相の巻線の一端に接続され、他方のインバータは、三相の巻線の他端に接続される。各インバータは、各々がハイサイドスイッチ素子およびローサイドスイッチ素子を含む3つのレグから構成されるブリッジ回路を有する。制御部は、2つのインバータにおけるスイッチ素子の故障を検出した場合、モータ制御を正常時の制御から異常時の制御に切替える。正常時の制御では、例えば、2つのインバータのスイッチ素子をスイッチングすることによりモータが駆動される。異常時の制御では、例えば、故障したインバータにおける巻線の中性点を用いて、故障していないインバータによってモータが駆動される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-192950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来の技術では、巻線が故障したときの異常時の制御のさらなる向上が求められていた。巻線に故障が生じた場合、故障したインバータにおける巻線の中性点を用いて、故障していない二相の巻線を通電することを考える。その場合、中性点がフローティングであるために、モータを駆動することは困難である。
【0006】
本開示の実施形態は、二相の巻線を通電することによってモータを駆動することが可能な電力変換装置、当該電力変換装置を備えるモータ駆動ユニット、および、当該モータ駆動ユニットを備える電動パワーステアリング装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の例示的な電力変換装置は、電源からの電力を、n相(nは2以上の整数)の巻線を有するモータに供給する電力に変換する電力変換装置であって、前記モータの各相の巻線の一端に接続される第1インバータであって、各々がローサイドスイッチ素子およびハイサイドスイッチ素子を含むn個のレグを有する第1インバータと、前記各相の巻線の他端に接続される第2インバータであって、各々がローサイドスイッチ素子およびハイサイドスイッチ素子を含むn個のレグを有する第2インバータと、前記第1インバータとグランドとの接続・非接続を切替える第1スイッチ素子、および、前記第1インバータと前記電源との接続・非接続を切替える第2スイッチ素子を有する切替回路と、を備え、前記第1インバータにおいて、前記n個のレグを接続するハイサイド側の第1ノードと、前記n個のレグを接続するローサイド側の第2ノードとの電位を等しくし、かつ、前記n相の巻線のうちの二相の巻線の一端の電位を等しくした状態で、前記切替回路における前記第1および第2スイッチ素子を所定のデューティ比でスイッチングしながら、前記第2インバータの前記n個のレグのうちの、前記二相の巻線の他端に接続される2個のレグを用いて前記二相の巻線を通電する。
【発明の効果】
【0008】
本開示の例示的な実施形態によると、故障したインバータにおけるノードの電位が等しい状態で、二相の巻線を通電することによってモータを駆動することが可能な電力変換装置、当該電力変換装置を備えるモータ駆動ユニット、および、当該モータ駆動ユニットを備える電動パワーステアリング装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、例示的な実施形態1による電力変換装置100の回路構成を模式的に示す回路図である。
図2図2は、例示的な実施形態1による電力変換装置100の他の回路構成を模式的に示す回路図である。
図3図3は、電力変換装置100を備えるモータ駆動ユニット400の典型的なブロック構成を模式的に示すブロック図である。
図4図4は、三相通電制御に従って電力変換装置100を制御したときにモータ200のU相、V相およびW相の各巻線に流れる電流値をプロットして得られる電流波形(正弦波)を例示するグラフである。
図5図5は、第1インバータ120のハイサイドスイッチ素子が故障した場合の、第1インバータ120および切替回路110の中の各スイッチ素子のオン・オフ状態を例示する図である。
図6A図6Aは、モータ200の巻線に故障が生じた場合の、第1インバータ120および切替回路110の中の各スイッチ素子のオン・オフ状態を例示する図である。
図6B図6Bは、モータ200の巻線に故障が生じた場合の、第1インバータ120および切替回路110の中の各スイッチ素子のオン・オフ状態を例示する図である。
図6C図6Cは、モータ200の巻線に故障が生じた場合の、第1インバータ120および切替回路110の中の各スイッチ素子のオン・オフ状態を例示する図である。
図7図7は、二相通電制御に従って電力変換装置100を制御したときにモータ200のU相、V相の各巻線に流れる電流値をプロットして得られる電流波形を例示するグラフである。
図8図8は、巻線M1が断線した場合、二相通電制御に従って電力変換装置100を制御したときにモータ200のV相、W相の各巻線に流れる電流値をプロットして得られる電流波形を例示するグラフである。
図9図9は、巻線M2が断線した場合、二相通電制御に従って電力変換装置100を制御したときにモータ200のU相、W相の各巻線に流れる電流値をプロットして得られる電流波形を例示するグラフである。
図10A図10Aは、第1インバータ120が故障し、かつ、モータ200の巻線に故障が生じた場合の、第1インバータ120における各スイッチ素子のオン・オフ状態を例示する図である。
図10B図10Bは、第1インバータ120が故障し、かつ、モータ200の巻線に故障が生じた場合の、第1インバータ120における各スイッチ素子のオン・オフ状態を例示する図である。
図10C図10Cは、第1インバータ120が故障し、かつ、モータ200の巻線に故障が生じた場合の、第1インバータ120における各スイッチ素子のオン・オフ状態を例示する図である。
図10D図10Dは、第1インバータ120が故障し、かつ、モータ200の巻線に故障が生じた場合の、第1インバータ120における各スイッチ素子のオン・オフ状態を例示する図である。
図10E図10Eは、第1インバータ120が故障し、かつ、モータ200の巻線に故障が生じた場合の、第1インバータ120における各スイッチ素子のオン・オフ状態を例示する図である。
図11図11は、実施形態1のバリエーションによる電力変換装置100Aの回路構成を模式的に示す回路図である。
図12図12は、例示的な実施形態2による電力変換装置100Bの回路構成を模式的に示す回路図である。
図13図13は、例示的な実施形態2のバリエーションによる電力変換装置100Cの回路構成を模式的に示す回路図である。
図14図14は、例示的な実施形態3による電動パワーステアリング装置2000の典型的な構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付の図面を参照しながら、本開示の電力変換装置、モータ駆動ユニットおよび電動パワーステアリング装置の実施形態を詳細に説明する。但し、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするため、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。
【0011】
本明細書において、電源からの電力を、三相(U相、V相、W相)の巻線を有する三相モータに供給する電力に変換する電力変換装置を例にして、本開示の実施形態を説明する。ただし、電源からの電力を、四相または五相などのn相(nは4以上の整数)の巻線を有するn相モータに供給する電力に変換する電力変換装置も本開示の範疇である。
【0012】
(実施形態1)

図1は、本実施形態による電力変換装置100の回路構成を模式的に示す。
【0013】
電力変換装置100は、切替回路110、第1インバータ120および第2インバータ130を備える。電力変換装置100は、電源101からの電力を、モータ200に供給する電力に変換することができる。例えば、第1および第2インバータ120、130は、直流電力を、U相、V相およびW相の擬似正弦波である三相交流電力に変換することが可能である。
【0014】
モータ200は、例えば、三相交流モータである。モータ200は、U相の巻線M1、V相の巻線M2およびW相の巻線M3を備え、第1インバータ120と第2インバータ130とに接続される。具体的に説明すると、第1インバータ120はモータ200の各相の巻線の一端に接続され、第2インバータ130は各相の巻線の他端に接続される。本明細書において、部品(構成要素)同士の間の「接続」は、主に電気的な接続を意味する。
【0015】
第1インバータ120は、各相に対応した端子U_L、V_LおよびW_Lを有する。第2インバータ130は、各相に対応した端子U_R、V_RおよびW_Rを有する。第1インバータ120の端子U_Lは、U相の巻線M1の一端に接続され、端子V_Lは、V相の巻線M2の一端に接続され、端子W_Lは、W相の巻線M3の一端に接続される。第1インバータ120と同様に、第2インバータ130の端子U_Rは、U相の巻線M1の他端に接続され、端子V_Rは、V相の巻線M2の他端に接続され、端子W_Rは、W相の巻線M3の他端に接続される。このようなモータ結線は、いわゆるスター結線およびデルタ結線とは異なる。
【0016】
切替回路110は、第1から第4スイッチ素子111、112、113および114を有する。電力変換装置100において、第1および第2インバータ120、130は、切替回路110によって電源101とGNDとに電気的にそれぞれ接続可能である。具体的に説明すると、第1スイッチ素子111は、第1インバータ120とGNDとの接続・非接続を切替える。第2スイッチ素子112は、電源101と第1インバータ120との接続・非接続を切替える。第3スイッチ素子113は、第2インバータ130とGNDとの接続・非接続を切替える。第4スイッチ素子114は、電源101と第2インバータ130との接続・非接続を切替える。
【0017】

第1から第4スイッチ素子111、112、113および114のオン・オフは、例えばマイクロコントローラまたは専用ドライバによって制御され得る。第1から第4スイッチ素子111、112、113および114は、双方向の電流を遮断することが可能である。第1から第4スイッチ素子111、112、113および114として、例えば、サイリスタ、アナログスイッチIC、または寄生ダイオードが内部に形成された電界効果トランジスタ(典型的にはMOSFET)などの半導体スイッチ、および、メカニカルリレーなどを用いることができる。ダイオードおよび絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)などの組み合わせを用いても構わない。本明細書の図面には、第1から第4スイッチ素子111、112、113および114として、MOSFETを用いる例を例示する。以降、第1から第4スイッチ素子111、112、113および114を、SW111、112、113および114とそれぞれ表記する場合がある。
【0018】
SW111は、内部の寄生ダイオードに順方向電流が第1インバータ120に向けて流れるよう配置される。SW112は、寄生ダイオードに順方向電流が電源101に向けて流れるよう配置される。SW113は、寄生ダイオードに順方向電流が第2インバータ130に向けて流れるよう配置される。SW114は、寄生ダイオードに順方向電流が電源101に向けて流れるよう配置される。
【0019】
図示する例に限られず、使用するスイッチ素子の個数は、設計仕様などを考慮して適宜決定される。特に車載分野においては、安全性の観点から高い品質保証が要求されるので、各インバータ用として複数のスイッチ素子を設けておくことが好ましい。
【0020】
図2は、本実施形態による電力変換装置100の他の回路構成を模式的に示す。
【0021】
切替回路110は、逆接続保護用の第5および第6スイッチ素子115、116をさらに有していてもよい。第5および第6スイッチ素子115、116は、典型的に、寄生ダイオードを有するMOSFETの半導体スイッチである。第5スイッチ素子115は、SW112に直列に接続され、寄生ダイオードにおいて第1インバータ120に向けて順方向電流が流れるよう配置される。第6スイッチ素子116は、SW114に直列に接続され、寄生ダイオードにおいて第2インバータ130に向けて順方向電流が流れるよう配置される。電源101が逆向きに接続された場合でも、逆接続保護用の2つのスイッチ素子によって逆電流を遮断することができる。
【0022】
再び図1を参照する。
【0023】
電源101は所定の電源電圧(例えば、12V)を生成する。電源101として、例えば直流電源が用いられる。ただし、電源101は、AC-DCコンバータおよびDC-DCコンバータであってもよいし、バッテリー(蓄電池)であっても良い。
【0024】
電源101は、第1および第2インバータ120、130に共通の単一電源であってもよいし、図2に示すように、第1インバータ120用の第1電源101Aおよび第2インバータ130用の第2電源101Bを備えていてもよい。
【0025】
電源101と切替回路110との間にコイル102が設けられている。コイル102は、ノイズフィルタとして機能し、各インバータに供給する電圧波形に含まれる高周波ノイズ、または各インバータで発生する高周波ノイズを電源101側に流出させないように平滑化する。また、各インバータの電源端子には、コンデンサ103が接続される。コンデンサ103は、いわゆるバイパスコンデンサであり、電圧リプルを抑制する。コンデンサ103は、例えば電解コンデンサであり、容量および使用する個数は設計仕様などによって適宜決定される。
【0026】
第1インバータ120(「ブリッジ回路L」と表記する場合がある。)は、3個のレグを有するブリッジ回路を備える。各レグは、ローサイドスイッチ素子およびハイサイドスイッチ素子を有する。U相用レグは、ローサイドスイッチ素子121Lおよびハイサイドスイッチ素子121Hを有する。V相用レグは、ローサイドスイッチ素子122Lおよびハイサイドスイッチ素子122Hを有する。W相用レグは、ローサイドスイッチ素子123Lおよびハイサイドスイッチ素子123Hを有する。スイッチ素子として、例えばFETまたはIGBTを用いることができる。以下、スイッチ素子としてMOSFETを用いる例を説明し、スイッチ素子をSWと表記する場合がある。例えば、スイッチ素子121L、122Lおよび123Lは、SW121L、122Lおよび123Lと表記される。
【0027】
第1インバータ120は、U相、V相およびW相の各相の巻線に流れる電流を検出するための電流センサ(図3を参照)として、3個のシャント抵抗121R、122Rおよび123Rを備える。電流センサ150は、各シャント抵抗に流れる電流を検出する電流検出回路(不図示)を含む。例えば、シャント抵抗121R、122Rおよび123Rは、第1インバータ120の3個のレグに含まれる3個のローサイドスイッチ素子とGNDとの間にそれぞれ接続される。具体的には、シャント抵抗121RはSW121LとSW111との間に電気的に接続され、シャント抵抗122RはSW122LとSW111との間に電気的に接続され、シャント抵抗123RはSW123LとSW111との間に電気的に接続される。シャント抵抗の抵抗値は、例えば0.5mΩ~1.0mΩ程度である。
【0028】
第2インバータ130(「ブリッジ回路R」と表記する場合がある。)は、第1インバータ120と同様に、3個のレグを有するブリッジ回路を備える。U相用レグは、ローサイドスイッチ素子131Lおよびハイサイドスイッチ素子131Hを有する。V相用レグは、ローサイドスイッチ素子132Lおよびハイサイドスイッチ素子132Hを有する。W相用レグは、ローサイドスイッチ素子133Lおよびハイサイドスイッチ素子133Hを有する。また、第2インバータ130は、3個のシャント抵抗131R、132Rおよび133Rを備える。それらのシャント抵抗は、3個のレグに含まれる3個のローサイドスイッチ素子とGNDとの間に接続される。第1および第2インバータ120、130の各SWは、例えばマイクロコントローラまたは専用ドライバによって制御され得る。
【0029】
各インバータに対し、シャント抵抗の数は3つに限られない。例えば、U相、V相用の2つのシャント抵抗、V相、W相用の2つのシャント抵抗、および、U相、W相用の2つのシャント抵抗を用いることが可能である。使用するシャント抵抗の数およびシャント抵抗の配置は、製品コストおよび設計仕様などを考慮して適宜決定される。
【0030】
上述したように、第2インバータ130は、第1インバータ120の構造と実質的に同じ構造を備える。本明細書において、第1および第2インバータ120、130は、電力変換装置100の構成要素として区別なく用いられ得る。
【0031】
図3は、電力変換装置100を備えるモータ駆動ユニット400の典型的なブロック構成を模式的に示す。
【0032】
モータ駆動ユニット400は、電力変換装置100、モータ200および制御回路300を備える。
【0033】
モータ駆動ユニット400は、モジュール化され、例えば、モータ、センサ、ドライバおよびコントローラを有するモータモジュールとして製造および販売され得る。本明細書では、構成要素としてモータ200を備えるシステムを例に、モータ駆動ユニット400を説明する。ただし、モータ駆動ユニット400は、構成要素としてモータ200を備えない、モータ200を駆動するためのシステムであってもよい。
【0034】
制御回路300は、例えば、電源回路310と、角度センサ320と、入力回路330と、マイクロコントローラ340と、駆動回路350と、ROM360とを備える。制御回路300は、電力変換装置100に接続され、電力変換装置100を制御することによりモータ200を駆動する。
【0035】
具体的には、制御回路300は、目的とするロータの位置、回転速度、および電流などを制御してクローズドループ制御を実現することができる。なお、制御回路300は、角度センサ320に代えてトルクセンサを備えてもよい。この場合、制御回路300は、目的とするモータトルクを制御することができる。
【0036】
電源回路310は、回路内の各ブロックに必要なDC電圧(例えば3V、5V)を生成する。角度センサ320は、例えばレゾルバまたはホールICである。または、角度センサ320は、磁気抵抗(MR)素子を有するMRセンサとセンサマグネットとの組み合わせによっても実現される。角度センサ320は、モータ200のロータの回転角(以下、「回転信号」と表記する。)を検出し、回転信号をマイクロコントローラ340に出力する。
【0037】
入力回路330は、電流センサ150によって検出されたモータ電流値(以下、「実電流値」と表記する。)を受け取って、実電流値のレベルをマイクロコントローラ340の入力レベルに必要に応じて変換し、実電流値をマイクロコントローラ340に出力する。入力回路330は、例えばアナログデジタル変換回路である。
【0038】
マイクロコントローラ340は、電力変換装置100の第1および第2インバータ120、130における各SWのスイッチング動作(ターンオンまたはターンオフ)を制御する。マイクロコントローラ340は、実電流値およびロータの回転信号などに従って目標電流値を設定してPWM信号を生成し、それを駆動回路350に出力する。また、マイクロコントローラ340は、電力変換装置100の切替回路110における各SWのオン・オフを制御することができる。
【0039】
駆動回路350は、典型的にはゲートドライバである。駆動回路350は、第1および第2インバータ120、130における各SWのMOSFETのスイッチング動作を制御する制御信号(ゲート制御信号)をPWM信号に従って生成し、各SWのゲートに制御信号を与える。また、駆動回路350は、切替回路110における各SWのオン・オフを制御する制御信号を、マイクロコントローラ340からの指示に従って生成することができる。マイクロコントローラ340に駆動回路350の機能が実装されていてもよい。その場合、例えば、マイクロコントローラ340は、専用のポートを介して、切替回路110のSWのオン・オフおよび各インバータのSWのスイッチング動作を直接制御することが可能である。
【0040】
ROM360は、例えば書き込み可能なメモリ(例えばPROM)、書き換え可能なメモリ(例えばフラッシュメモリ)または読み出し専用のメモリである。ROM360は、マイクロコントローラ340に電力変換装置100を制御させるための命令群を含む制御プログラムを格納している。例えば、制御プログラムはブート時にRAM(不図示)に一旦展開される。
【0041】
電力変換装置100には正常時および異常時の制御がある。制御回路300(主としてマイクロコントローラ340)は、電力変換装置100の制御を正常時の制御から異常時の制御に切替えることができる。モータ200の巻線および各インバータ内のSWの故障パターンに従って、切替回路110における各SWのオン・オフ状態が決定される。また、故障したインバータにおける各SWのオン・オフ状態も決定される。
【0042】
(1.正常時の制御)

先ず、電力変換装置100の正常時の制御方法の具体例を説明する。正常とは、第1および第2インバータ120、130の各SWは故障しておらず、かつ、モータ200の三相の巻線M1、M2およびM3のいずれも故障していない状態を指す。
【0043】
正常時において、制御回路300は、切替回路110のSW111、112、113および114を全てオンする。これにより、電源101と第1インバータ120とが電気的に接続され、かつ、電源101と第2インバータ130とが電気的に接続される。また、第1インバータ120とGNDとが電気的に接続され、かつ、第2インバータ130とGNDとが電気的に接続される。この接続状態において、制御回路300は、第1および第2インバータ120、130の両方を用いて三相の巻線M1、M2およびM3を通電することによりモータ200を駆動する。本明細書において、三相の巻線を通電することを「三相通電制御」と呼び、二相の巻線を通電することを「二相通電制御」と呼ぶ場合がある。
【0044】
図4は、三相通電制御に従って電力変換装置100を制御したときにモータ200のU相、V相およびW相の各巻線に流れる電流値をプロットして得られる電流波形(正弦波)を例示する。横軸は、モータ電気角(deg)を示し、縦軸は電流値(A)を示す。図4の電流波形において、電気角30°毎に電流値をプロットしている。Ipkは各相の最大電流値(ピーク電流値)を表す。
【0045】
表1は、図4の正弦波において電気角毎に、各インバータの端子に流れる電流値を示す。具体的には、表1は、第1インバータ120(ブリッジ回路L)の端子U_L、V_LおよびW_Lに流れる、電気角30°毎の電流値、および、第2インバータ130(ブリッジ回路R)の端子U_R、V_RおよびW_Rに流れる、電気角30°毎の電流値を示す。ここで、ブリッジ回路Lに対しては、ブリッジ回路Lの端子からブリッジ回路Rの端子に流れる電流方向を正の方向と定義する。図4に示される電流の向きはこの定義に従う。また、ブリッジ回路Rに対しては、ブリッジ回路Rの端子からブリッジ回路Lの端子に流れる電流方向を正の方向と定義する。従って、ブリッジ回路Lの電流とブリッジ回路Rの電流との位相差は180°となる。表1において、電流値Iの大きさは〔(3)1/2/2〕*Ipkであり、電流値Iの大きさはIpk/2である。
【0046】
【表1】
【0047】

電気角0°において、U相の巻線M1には電流は流れない。V相の巻線M2にはブリッジ回路Rからブリッジ回路Lに大きさI1の電流が流れ、W相の巻線M3にはブリッジ回路Lからブリッジ回路Rに大きさI1の電流が流れる。
【0048】
電気角30°において、U相の巻線M1にはブリッジ回路Lからブリッジ回路Rに大きさIの電流が流れ、V相の巻線M2にはブリッジ回路Rからブリッジ回路Lに大きさIpkの電流が流れ、W相の巻線M3にはブリッジ回路Lからブリッジ回路Rに大きさIの電流が流れる。
【0049】
電気角60°において、U相の巻線M1にはブリッジ回路Lからブリッジ回路Rに大きさIの電流が流れ、V相の巻線M2にはブリッジ回路Rからブリッジ回路Lに大きさIの電流が流れる。W相の巻線M3には電流は流れない。
【0050】
電気角90°において、U相の巻線M1にはブリッジ回路Lからブリッジ回路Rに大きさIpkの電流が流れ、V相の巻線M2にはブリッジ回路Rからブリッジ回路Lに大きさIの電流が流れ、W相の巻線M3にはブリッジ回路Rからブリッジ回路Lに大きさIの電流が流れる。
【0051】
電気角120°において、U相の巻線M1にはブリッジ回路Lからブリッジ回路Rに大きさIの電流が流れ、W相の巻線M3にはブリッジ回路Rからブリッジ回路Lに大きさIの電流が流れる。V相の巻線M2には電流は流れない。
【0052】
電気角150°において、U相の巻線M1にはブリッジ回路Lからブリッジ回路Rに大きさIの電流が流れ、V相の巻線M2にはブリッジ回路Lからブリッジ回路Rに大きさIの電流が流れ、W相の巻線M3にはブリッジ回路Rからブリッジ回路Lに大きさIpkの電流が流れる。
【0053】
電気角180°において、U相の巻線M1には電流は流れない。V相の巻線M2にはブリッジ回路Lからブリッジ回路Rに大きさIの電流が流れ、W相の巻線M3にはブリッジ回路Rからブリッジ回路Lに大きさIの電流が流れる。
【0054】
電気角210°において、U相の巻線M1にはブリッジ回路Rからブリッジ回路Lに大きさIの電流が流れ、V相の巻線M2にはブリッジ回路Lからブリッジ回路Rに大きさIpkの電流が流れ、W相の巻線M3にはブリッジ回路Rからブリッジ回路Lに大きさIの電流が流れる。
【0055】
電気角240°において、U相の巻線M1にはブリッジ回路Rからブリッジ回路Lに大きさIの電流が流れ、V相の巻線M2にはブリッジ回路Lからブリッジ回路Rに大きさIの電流が流れる。W相の巻線M3には電流は流れない。
【0056】
電気角270°において、U相の巻線M1にはブリッジ回路Rからブリッジ回路Lに大きさIpkの電流が流れ、V相の巻線M2にはブリッジ回路Lからブリッジ回路Rに大きさIの電流が流れ、W相の巻線M3にはブリッジ回路Lからブリッジ回路Rに大きさIの電流が流れる。
【0057】
電気角300°において、U相の巻線M1にはブリッジ回路Rからブリッジ回路Lに大きさIの電流が流れ、W相の巻線M3にはブリッジ回路Lからブリッジ回路Rに大きさIの電流が流れる。V相の巻線M2には電流は流れない。
【0058】
電気角330°において、U相の巻線M1にはブリッジ回路Rからブリッジ回路Lに大きさIの電流が流れ、V相の巻線M2にはブリッジ回路Rからブリッジ回路Lに大きさIの電流が流れ、W相の巻線M3にはブリッジ回路Lからブリッジ回路Rに大きさIpkの電流が流れる。
【0059】
図4に示される電流波形において、電流の向きを考慮した三相の巻線に流れる電流の総和は電気角毎に「0」となる。ただし、電力変換装置100の回路構成によれば、三相の巻線に流れる電流を独立に制御することができるため、電流の総和が「0」とはならない制御を行うことも可能である。例えば、制御回路300は、図4に示される電流波形が得られるPWM制御によって第1および第2インバータ120、130の各スイッチ素子のスイッチング動作を制御する。
【0060】
(2.異常時の制御)

異常とは、主として、(1)各インバータのスイッチ素子の故障、および、(2)モータ200の巻線の故障を意味する。(1)各インバータのスイッチ素子の故障には、大きく分けて「オープン故障」と「ショート故障」とがある。「オープン故障」は、FETのソース-ドレイン間が開放する故障(換言すると、ソース-ドレイン間の抵抗rdsがハイインピーダンスになること)を指し、「ショート故障」は、FETのソース-ドレイン間が短絡する故障を指す。また、(2)モータ200の巻線の故障は、例えば、巻線の断線を意味する。
【0061】
再び図1を参照する。
【0062】
電力変換装置100の動作時において、通常は、16個のSWの中から1つのSWがランダムに故障するランダム故障が発生すると考えられる。本開示は、主としてランダム故障が発生した場合における電力変換装置100の制御方法を対象としている。ただし、本開示は、複数のSWが連鎖的に故障した場合などの電力変換装置100の制御方法も対象とする。連鎖的な故障とは、例えば1つのレグのハイサイドスイッチ素子およびローサイドスイッチ素子に同時に発生する故障を意味する。
【0063】
電力変換装置100を長期間使用すると、ランダム故障が起こる可能性がある。さらに、巻線が断線する可能性がある。これらのランダム故障および巻線の断線は、製造時に発生し得る製造故障とは異なる。2つのインバータの複数のスイッチ素子のうちの1つでも故障すると、正常時の三相通電制御は不可能となる。また、三相の巻線M1、M2およびM3のうちの1つでも断線すると、正常時の三相通電制御は不可能となる。
【0064】
故障検知の一例として、駆動回路350は、スイッチ素子(MOSFET)のドレイン-ソース間の電圧Vdsを監視し、所定の閾値電圧とVdsとを比較することによって、スイッチ素子の故障を検知する。閾値電圧は、例えば外部IC(不図示)とのデータ通信および外付け部品によって駆動回路350に設定される。駆動回路350は、マイクロコントローラ340のポートと接続され、故障検知信号をマイクロコントローラ340に通知する。例えば、駆動回路350は、スイッチ素子の故障を検知すると、故障検知信号をアサートする。マイクロコントローラ340は、アサートされた故障検知信号を受信すると、駆動回路350の内部データを読み出して、複数のスイッチ素子の中でどのスイッチ素子が故障しているのかを判別する。
【0065】
故障検知の他の一例として、マイクロコントローラ340は、モータ200の実電流値と目標電流値との差に基づいてスイッチ素子の故障を検知することも可能である。さらに、マイクロコントローラ340は、例えば、モータ200の実電流値と目標電流値との差に基づいて、モータ200の巻線が断線したかどうかを検知することも可能である。ただし、故障検知は、これらの手法に限られず、故障検知に関する公知の手法を広く用いることができる。
【0066】
マイクロコントローラ340は、故障検知信号がアサートされると、電力変換装置100の制御を正常時の制御から異常時の制御に切替える。例えば、正常時から異常時に制御を切替えるタイミングは、故障検知信号がアサートされてから10msec~30msec程度である。
【0067】
(2-1.インバータのスイッチ素子の故障)

以下、第1インバータ120が故障した場合のモータ制御方法を例示する。
【0068】
本明細書では、第1インバータ120においてスイッチ素子に故障が生じた場合の異常時の制御を例示する。第2インバータ130においてスイッチ素子に故障が生じた場合も、当然に、以下で説明する手法をその異常時の制御に適用することができる。以下、各インバータにおいてスイッチ素子が故障することを、「インバータが故障する」と表記する場合がある。
【0069】
図5は、第1インバータ120のハイサイドスイッチ素子が故障した場合の、第1インバータ120および切替回路110の中の各スイッチ素子のオン・オフ状態を例示する。
【0070】
例えば、第1インバータ120のSW121Hがオープン故障したとする。その場合、制御回路300は、第1インバータ120におけるSW121H以外のハイサイドスイッチ素子122H、123Hをオフし、かつ、3個のローサイドスイッチ素子121L、122Lおよび123Lをオンする。これにより、例えば特許文献1と同様に、3個のレグを接続するローサイド側のノードN1_Lを中性点として機能させることができる。例えば、制御回路300は、切替回路110の中のSW113、114をオンにして、SW111、112をオフする。これにより、第1インバータ120は、電源101およびGNDから電気的に分離される。
【0071】
例えば、制御回路300は、第1インバータ120の中性点を利用して、図3に示される電流波形が得られるPWM制御で第2インバータ130の各スイッチ素子のスイッチング動作を制御することによって、巻線M1、M2およびM3を通電することができる。例えば、正常時の制御と同様に、三相通電制御を行うことにより、モータトルクを維持しつつモータ駆動を継続させることができる。
【0072】
第1インバータ120のローサイドスイッチ素子、例えばSW121Lがオープン故障した場合(不図示)、制御回路300は、例えば、第1インバータ120におけるSW121L以外のローサイドスイッチ素子122L、123Lをオフし、かつ、3個のハイサイドスイッチ素子121H、122Hおよび123Hをオンする。これにより、3個のレグを接続するハイサイド側のノードN1_Hを中性点として機能させることができる。制御回路300は、第1インバータ120の中性点を利用して、図3に示される電流波形が得られるPWM制御で第2インバータ130の各スイッチ素子のスイッチング動作を制御することによって、巻線M1、M2およびM3を通電することができる。
【0073】
(2-2.モータ200の巻線の故障)

以下、モータ200の巻線M1、M2およびM3のうちの1つが故障した場合のモータ制御方法を例示する。
【0074】
図6Aから図6Cは、モータ200の巻線に故障が生じた場合の、第1インバータ120および切替回路110の中の各スイッチ素子のオン・オフ状態を例示する。
【0075】
例えば、モータ200の巻線M3が断線したとする。その場合、制御回路300は、モータ制御を三相通電制御から二相通電制御に切替えることができる。二相通電制御では、第1インバータ120において、ハイサイド側の第1ノードN1_Hと、ローサイド側の第2ノードN1_Lとの電位が等しくなり、かつ、巻線M1、M2およびM3のうちの二相の巻線M1、M2の一端の電位が等しくなるように第1インバータ120の各スイッチ素子のオン・オフ状態が決定される。
【0076】
第1インバータ120において、3個のレグのうちの少なくとも1個のレグに含まれるローサイドスイッチ素子およびハイサイドスイッチ素子の両方をオン状態にする。例えば、図6Aに示されるように、U相用レグのSW121H、121Lをオンすることにより、第1ノードN1_Hと、第2ノードN1_Lとの電位を等しくすることができる。
【0077】
さらに、制御回路300は、故障していない二相の巻線M1、M2の一端に接続される2個のレグのうちの一方に含まれるハイサイドスイッチ素子をオン状態とし、他方のレグに含まれるハイサイドスイッチ素子およびローサイドスイッチ素子の少なくとも1つをオン状態とする。例えば、図6Aに示されるように、制御回路300は、二相の巻線M1、M2の一端に接続される2個のレグのうちのV相用レグのSW122Lをオンにして、U相用レグのSW121H、121Lをオンする。これにより、巻線M1、M2の一端の電位、すなわち、U相用レグと巻線M1の一端とを接続するノードN1_1およびV相用レグと巻線M2の一端とを接続するノードN1_2の電位を等しくすることができる。SW122L、123Hおよび123Lのオン・オフ状態は問われない。
【0078】
制御回路300は、故障していない二相の巻線M1、M2の一端に接続される2個のレグのうちの一方に含まれるローサイドスイッチ素子をオン状態とし、他方のレグに含まれるハイサイドスイッチ素子およびローサイドスイッチ素子の少なくとも1つをオン状態としてもよい。例えば、図6Bに示されるように、制御回路300は、二相の巻線M1、M2の一端に接続される2個のレグのうちのV相用レグのSW122Lをオンにして、U相用レグのSW121H、121Lをオンすることができる。SW122H、123Hおよび123Lのオン・オフ状態は問われない。
【0079】
他の一例として、図6Cに示されるように、制御回路300は、W相用レグのSW123H、123Lをオンにし、U相用レグのSW121Hをオンにし、V相用レグのSW122Lをオンすることができる。または、制御回路300は、U相用レグのSW121Lをオンにし、V相用レグのSW122Hをオンにしてもよい。これにより、第1インバータ120における、第1ノードN1_Hと、第2ノードN1_Lとの電位を等しくすることができ、かつ、ノードN1_1およびノードN1_2の電位を等しくすることができる。
【0080】
上述した例において、第1インバータ120の中のノードN1_H、N1_L、N1_1およびN1_2の電位は全て等しくなる。制御回路300は、この状態において、さらに、切替回路110における第1および第2スイッチ素子111、112の両方をスイッチングする。
【0081】
制御回路300は、第1および第2スイッチ素子111、112を所定のデューティ比でスイッチングしながら、第2インバータ130の3個のレグのうちの、二相の巻線M1、M2の他端に接続される2個のレグを用いて二相の巻線M1、M2を通電することが可能である。例えば、制御回路300は、所定のデューティ比でSW111およびSW112をスイッチングする。デューティ比は、例えば50%である。
【0082】
SW111およびSW112のスイッチングのオン・オフは逆になる。SW111がオンのとき、SW112はオフである。SW111がオフのとき、SW112はオンである。SW111およびSW112は同時にオンにはならない。SW111およびSW112のスイッチング周期は、第2インバータ130の各レグに含まれるスイッチ素子のスイッチング周期と同じである。SW111およびSW112は、第1インバータ120の中のノード電位が等しくなることから、第2インバータ130の4番目のレグとして機能する。
【0083】
電源101の電圧は、例えば12Vである。例えば、50%のデューティ比でSW111およびSW112をスイッチングすることにより、第1インバータ120の中のノードN1_H、N1_L、N1_1およびN1_2の電位を6V程度にすることができる。デューティ比、具体的には、スイッチング周期におけるオンタイムの時間を調整することにより、第1インバータ120の中のノード電位を任意に設定することができる。オンタイム時間が長いほど、第1インバータ120の中のノード電位は電源電圧に近づく。
【0084】
U相のHブリッジに着目すると、第1インバータ120のノードN1_1の電位に対する、第2インバータ130のノードN2_1の電位の大小関係によって、巻線M1に流れる電流の大きさおよび向きが制御される。V相のHブリッジに着目すると、第1インバータ120のノードN1_2の電位に対する、第2インバータ130のノードN2_2の電位の大小関係によって、巻線M2に流れる電流の大きさおよび向きが制御される。
【0085】
図7は、二相通電制御に従って電力変換装置100を制御したときにモータ200のU相、V相の各巻線に流れる電流値をプロットして得られる電流波形を例示する。横軸は、モータ電気角(deg)を示し、縦軸は電流値(A)を示す。図7の電流波形において、電気角30°毎に電流値をプロットしている。Ipkは各相の最大電流値(ピーク電流値)を表す。図7に示される電流の向きは上述した定義に従う。
【0086】
表2は、図7の電流波形において電気角毎に、各インバータの端子に流れる電流値を示す。表2に示されるU相、V相の巻線M1、M2に流れる電気角毎の電流値は、表1に示される三相通電制御における電気角毎の電流値と同じである。W相の巻線M3は通電されないので、表2に示される巻線M3に流れる電気角毎の電流値は、ゼロである。
【0087】
【表2】
【0088】
参考として、V相の巻線M2が断線した場合の二相通電制御で得られる電流波形、およびW相の巻線M3が断線した場合の二相通電制御で得られる電流波形を例示する。図8は、巻線M1が断線した場合、二相通電制御に従って電力変換装置100を制御したときにモータ200のV相、W相の各巻線に流れる電流値をプロットして得られる電流波形を例示する。図9は、巻線M2が断線した場合、二相通電制御に従って電力変換装置100を制御したときにモータ200のU相、W相の各巻線に流れる電流値をプロットして得られる電流波形を例示する。
【0089】
例えば、制御回路300は、50%のデューティ比でSW111およびSW112をスイッチングしながら、図7に示される電流波形が得られるPWM制御によって第2インバータ130のSW131H、131L、132Hおよび132Lのスイッチング動作を制御する。これの制御により、巻線M1、M2を通電することが可能となる。本開示の二相通電制御によると、モータトルクは低下するもののモータ駆動を継続させることができる。
【0090】
(2-3.インバータの故障およびモータ200の巻線の故障)

以下、第1インバータ120が故障し、かつ、モータ200の巻線M1、M2およびM3のうちの1つが故障した場合のモータ制御方法を例示する。
【0091】
図10Aから図10Eは、第1インバータ120が故障し、かつ、モータ200の巻線に故障が生じた場合の、第1インバータ120における各スイッチ素子のオン・オフ状態を例示する。
【0092】
第1インバータ120における1個のローサイドスイッチ素子が故障し、かつ、モータ200の三相の巻線のうちの一相が故障したとする。図10Aには、SW122Lがオープン故障し、かつ、巻線M3が断線した場合の、第1インバータ120における各スイッチ素子のオン・オフ状態を例示する。上述したとおり、制御回路300は、第1インバータ120におけるノード電位が等しくなるように各スイッチ素子のオン・オフ状態を決定する。
【0093】
制御回路300は、U相用レグのSW121H、121Lをオンする。これにより、第1インバータ120におけるノードN1_H、N1_Lの電位は等しくなる。制御回路300は、さらに、SW122Hをオンする。これにより、第1インバータ120におけるノードN1_1およびN1_2の電位は等しくなり、その結果、ノードN1_H、N1_L、N1_1およびN1_2の全ての電位が等しくなる。例えば、制御回路300は、50%のデューティ比で切替回路110のSW111およびSW112をスイッチングしながら、第2インバータ130のU相、V相用レグの4個のSW131H、132H、131Lおよび132Lのスイッチング動作を制御する。この制御により、巻線M1、M2を通電することができる。
【0094】
例えば、SW122Lがショート故障し、かつ、巻線M3が断線した場合を考える。この場合、SW122Lは常時オン状態であるので、制御回路300は、U相用レグのSW122Hをオンすることにより、第1インバータ120におけるノードN1_H、N1_Lの電位を等しくすることが可能となる。このように、ショート故障したスイッチ素子はオン状態にすべきスイッチ素子として扱うことができる。
【0095】

第1インバータ120における1個のハイサイドスイッチ素子が故障し、かつ、モータ200の三相の巻線のうちの一相が故障したとする。図10Bには、SW122Hがオープン故障し、かつ、巻線M3が断線した場合の、第1インバータ120における各スイッチ素子のオン・オフ状態を例示する。
【0096】
制御回路300は、U相用レグのSW121H、121Lをオンする。制御回路300は、さらに、SW122Lをオン状態にする。これにより、ノードN1_H、N1_L、N1_1およびN1_2の全ての電位が等しくなる。例えば、制御回路300は、50%のデューティ比で切替回路110のSW111およびSW112をスイッチングしながら、第2インバータ140のU相、V相用レグの4個のSW131H、132H、131Lおよび132Lのスイッチング動作を制御する。
【0097】
第1インバータ120における1個のローサイドスイッチ素子が故障し、かつ、故障したそのスイッチ素子と同じ相の巻線が故障したとする。図10Cには、SW123Lがオープン故障し、かつ、巻線M3が断線した場合の、第1インバータ120における各スイッチ素子のオン・オフ状態を例示する。
【0098】
図10Cに示される例では、W相の巻線M3に接続されるHブリッジに含まれるSW123Lが故障しているので、制御手法として、巻線M3が断線した場合の二相通電制御と同じ制御手法を適用することができる。
【0099】
第1インバータ120における2個のローサイドスイッチ素子が故障し、かつ、モータ200の三相の巻線のうちの一相が故障したとする。図10Dには、SW121L、122Lがオープン故障し、かつ、巻線M3が断線した場合の、第1インバータ120における各スイッチ素子のオン・オフ状態を例示する。
【0100】

制御回路300は、W相用レグのSW123H、123をオンする。制御回路300は、さらに、SW121H、122Hをオンする。これにより、ノードN1_H、N1_L、N1_1およびN1_2の全ての電位が等しくなる。
【0101】
第1インバータ120における1個のローサイドスイッチ素子および1個のハイサイドスイッチ素子が故障し、かつ、モータ200の三相の巻線のうちの一相が故障したとする。図10Eには、第1インバータ120のSW121L、122Hがオープン故障し、かつ、巻線M3が断線した場合の、第1インバータ120における各スイッチ素子のオン・オフ状態を例示する。
【0102】
制御回路300は、W相用レグのSW123H、123をオンする。制御回路300は、さらに、例えばSW121H、122Lをオンする。これにより、ノードN1_H、N1_L、N1_1およびN1_2の全ての電位が等しくなる。
【0103】
本実施形態によると、三相の巻線のうちの一相が故障した場合、二相通電制御を行うことが可能となり、モータ駆動を継続させることができる。さらに、第1および第2インバータ120、130の一方の中のスイッチ素子が故障した場合でも、二相通電制御を行うことが可能となり、モータ駆動を継続させることができる。
【0104】
図11は、本実施形態のバリエーションによる電力変換装置100Aの回路構成を模式的に示す。
【0105】
電力変換装置100Aは、第1および第2スイッチ素子111、112を有する切替回路110を備える。第2インバータ130は、切替回路110を介さずに電源101およびGNDに接続される。このバリエーションによると、例えば、第1インバータ120が故障した場合、つまり、切替回路110が設けられたインバータが故障した場合、上述した制御手法に従って二相通電制御を行うことによりモータ駆動を継続させることができる。
【0106】
(実施形態2)

本開示の電力変換装置によると、二相の巻線およびそれらに接続されるインバータの2個のレグを用いることにより二相の巻線を通電することができる。換言すると、インバータが二相用の2個のレグを備えていれば、正常時の制御において二相通電制御が可能となる。
【0107】
図12は、本実施形態による電力変換装置100Bの回路構成を模式的に示す。
【0108】
電力変換装置100Bは、切替回路110、第1インバータ120および第2インバータ130を備える。電力変換装置100Bは、第1インバータ120および第2インバータ130の各々が、U相、V相用の2個のレグを備える点で、実施形態1による電力変換装置100とは異なる。以下、電力変換装置100との差異点を中心に説明する。
【0109】
第1インバータ120は、SW121H、121Lを含むU相用レグおよびSW122H、122Lを含むV相用レグを有する。第2インバータ130は、SW131H、131Lを含むU相用レグおよびSW132H、132Lを含むV相用レグを有する。電力変換装置100Bは、例えば二相交流モータに接続され、正常時および異常時の制御において、実施形態1で説明した二相通電制御を行うことができる。
【0110】
例えば、電力変換装置100Bの制御回路300は、正常時の制御において、第1インバータ120におけるU相用レグのSW121H、121Lをオンし、かつ、V相用レグのSW122Hおよび122Lの少なくとも1つをオンする。これにより、第1インバータ120におけるノードN1_H、N1_Lの電位は等しくなり、かつ、ノードN1_1、N1_2の電位は等しくなる。例えば、制御回路300は、50%のデューティ比で切替回路のSW111およびSW112をスイッチングしながら、第2インバータ130の2個のレグを用いて巻線M1、M2を通電することが可能である。
【0111】
例えば、第1インバータ120のSW121Lが故障したとする。その場合、制御回路300は、第1インバータ120におけるV相用レグのSW122H、122Lをオンし、かつ、U相用レグのSW121Hをオンする。これにより、第1インバータ120におけるノードN1_H、N1_Lの電位は等しくなり、かつ、ノードN1_1、N1_2の電位は等しくなる。
【0112】
図13は、本実施形態のバリエーションによる電力変換装置100Cの回路構成を模式的に示す。
【0113】
図11に示される回路構成と同様に、切替回路110は、第1および第2スイッチ素子111、112を有し、第3および第4スイッチ素子113、114を有していなくてもよい。
【0114】
(実施形態3)

図14は、本実施形態による電動パワーステアリング装置2000の典型的な構成を模式的に示す。
【0115】
自動車等の車両は一般に、電動パワーステアリング(EPS)装置を有する。本実施形態による電動パワーステアリング装置2000は、ステアリングシステム520、および補助トルクを生成する補助トルク機構540を有する。電動パワーステアリング装置2000は、運転者がステアリングハンドルを操作することによって発生するステアリングシステムの操舵トルクを補助する補助トルクを生成する。補助トルクにより、運転者の操作の負担は軽減される。
【0116】
ステアリングシステム520は、例えば、ステアリングハンドル521、ステアリングシャフト522、自在軸継手523A、523B、回転軸524、ラックアンドピニオン機構525、ラック軸526、左右のボールジョイント552A、552B、タイロッド527A、527B、ナックル528A、528B、および左右の操舵車輪529A、529Bを備える。
【0117】
補助トルク機構540は、例えば、操舵トルクセンサ541、自動車用電子制御ユニット(ECU)542、モータ543および減速機構544を備える。操舵トルクセンサ541は、ステアリングシステム520における操舵トルクを検出する。ECU542は、操舵トルクセンサ541の検出信号に基づいて駆動信号を生成する。モータ543は、駆動信号に基づいて操舵トルクに応じた補助トルクを生成する。モータ543は、減速機構544を介してステアリングシステム520に、生成した補助トルクを伝達する。
【0118】
ECU542は、例えば、実施形態1によるマイクロコントローラ340および駆動回路350などを有する。自動車ではECUを核とした電子制御システムが構築される。電動パワーステアリング装置2000では、例えば、ECU542、モータ543およびインバータ545によって、モータ駆動ユニットが構築される。そのユニットに、実施形態1によるモータ駆動ユニット400を好適に用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本開示の実施形態は、掃除機、ドライヤ、シーリングファン、洗濯機、冷蔵庫および電動パワーステアリング装置などの、各種モータを備える多様な機器に幅広く利用され得る。
【符号の説明】
【0120】
100:電力変換装置、101:電源、102:コイル、103:コンデンサ、110:切替回路、111:第1スイッチ素子、112:第2スイッチ素子、113:第3スイッチ素子、114:第4スイッチ素子、115:第5スイッチ素子、116:第6スイッチ素子、120:第1インバータ、121H、122H、123H:ハイサイドスイッチ素子、121L、122L、123L:ローサイドスイッチ素子、121R、122R、123R:シャント抵抗、130:第2インバータ、131H、132H、133H:ハイサイドスイッチ素子、131L、132L、133L:ローサイドスイッチ素子、131R、132R、133R:シャント抵抗、150:電流センサ、200:モータ、300:制御回路、310:電源回路、320:角度センサ、330:入力回路、340:マイクロコントローラ、350:駆動回路、360:ROM、400:モータ駆動ユニット、2000:電動パワーステアリング装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図7
図8
図9
図10A
図10B
図10C
図10D
図10E
図11
図12
図13
図14