(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-25
(45)【発行日】2022-05-09
(54)【発明の名称】スタッドピン及びそれを備えたタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/16 20060101AFI20220426BHJP
【FI】
B60C11/16 A
(21)【出願番号】P 2020095497
(22)【出願日】2020-06-01
【審査請求日】2021-05-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】下條 伸之
【審査官】弘實 由美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/014900(WO,A1)
【文献】韓国登録特許第10-1977293(KR,B1)
【文献】国際公開第2015/107864(WO,A1)
【文献】特開昭63-028705(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00-19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤのトレッド部に埋設される埋設基部と、該埋設基部の先端側に位置していて路面と接触する先端部とを有
し、前記先端部を構成する金属材料が前記埋設基部を構成する金属材料よりも硬く、前記埋設基部及び前記先端部が一体的に加工されているスタッドピンにおいて、前記先端部が、環状に形成された外郭と、該外郭により囲まれた内郭と、前記外郭と前記内郭との間に介在する溝部とを備え
、前記溝部が前記内郭の周囲で環状に連続することを特徴とするスタッドピン。
【請求項2】
前記内郭がその外周縁に沿って延びる内側溝部を有することを特徴とする請求項
1に記載のスタッドピン。
【請求項3】
前記外郭の内周形状と前記内郭の外周形状とが互いに異なることを特徴とする請求項1~
2のいずれかに記載のスタッドピン。
【請求項4】
前記外郭の内周形状と前記内郭の外周形状とが互いに相似することを特徴とする請求項1~
2のいずれかに記載のスタッドピン。
【請求項5】
スタッドピン中心軸と直交する方向に測定される前記外郭と前記内郭との間隔Lyがスタッドピン中心軸と直交する方向に測定される前記外郭の寸法Lxの10%~35%の範囲にあることを特徴とする請求項1~
4のいずれかに記載のスタッドピン。
【請求項6】
前記内郭が最内側に位置する内郭本体を含み、スタッドピン中心軸と直交する方向に測定される前記内郭本体の寸法Lzがスタッドピン中心軸と直交する方向に測定される前記外郭の寸法Lxの10%~60%の範囲にあることを特徴とする請求項1~
5のいずれかに記載のスタッドピン。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれかに記載されたスタッドピンがトレッド部に配設されていることを特徴とするタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スタッドピン及びそれを備えたタイヤに関し、更に詳しくは、エッジ効果を高めて氷上性能を改善することを可能にしたスタッドピン及びそれを備えたタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
氷雪路面上での走行性能を改善した空気入りタイヤにおいて、トレッド部にスタッドピンが打ち込まれたスタッドタイヤ(スパイクタイヤ)が知られている(例えば、特許文献1~3参照)。スタッドピンは、タイヤのトレッド部に埋設される埋設基部と、該埋設基部の先端側に位置していて路面と接触する先端部とを有している。そして、スタッドタイヤの走行時には、スタッドピンの先端部のエッジが氷路面と接触し、そのエッジ効果を発揮することにより優れた氷上性能を発揮する。
【0003】
しかしながら、従来のスタッドピン及びそれを備えたタイヤでは、個々のスタッドピンのエッジ効果が十分ではないため、氷上性能が必ずしも十分ではない。そのため、氷上性能の更なる改善が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5702817号公報
【文献】特許第5997518号公報
【文献】特許第6111010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、エッジ効果を高めて氷上性能を改善することを可能にしたスタッドピン及びそれを備えたタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明のスタッドピンは、タイヤのトレッド部に埋設される埋設基部と、該埋設基部の先端側に位置していて路面と接触する先端部とを有し、前記先端部を構成する金属材料が前記埋設基部を構成する金属材料よりも硬く、前記埋設基部及び前記先端部が一体的に加工されているスタッドピンにおいて、前記先端部が、環状に形成された外郭と、該外郭により囲まれた内郭と、前記外郭と前記内郭との間に介在する溝部とを備え、前記溝部が前記内郭の周囲で環状に連続することを特徴とするものである。
【0007】
また、上記目的を達成するための本発明のタイヤは、上述のスタッドピンがトレッド部に配設されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、スタッドピンの先端部が、環状に形成された外郭と、該外郭により囲まれた内郭と、その間に介在する溝部とを備えることにより、外郭及び内郭がそれぞれエッジを形成するので、スタッドピンのエッジ効果を格段に高めてタイヤの氷上性能を効果的に改善することができる。特に、スタッドピンの先端部を環状の外郭及びそれに囲まれた内郭で構成した場合、外郭及び内郭の各々に十分な強度を確保することが可能である。
【0009】
本発明において、溝部は内郭の周囲で環状に連続することが好ましい。この場合、エッジ効果を高めて氷上性能を効果的に改善することができる。
【0010】
内郭はその外周縁に沿って延びる内側溝部を有することが好ましい。この場合、エッジ量が更に増加するので、氷上性能を効果的に改善することができる。
【0011】
外郭の内周形状と内郭の外周形状とは互いに異なることが好ましい。この場合、スタッドピンの先端部の排雪氷性を改善すると共に、エッジ量の増加により氷上性能の更に改善することができる。外郭の内周形状と内郭の外周形状とは互いに相似していても良い。この場合も、十分なエッジ効果を期待することができる。
【0012】
スタッドピン中心軸と直交する方向に測定される外郭と内郭との間隔Lyはスタッドピン中心軸と直交する方向に測定される外郭の寸法Lxの10%~35%の範囲にあることが好ましい。これにより、スタッドピンの強度を十分に確保すると共に、排雪氷性及び加工性の悪化を回避することができる。
【0013】
また、内郭は最内側に位置する内郭本体を含み、スタッドピン中心軸と直交する方向に測定される内郭本体の寸法Lzがスタッドピン中心軸と直交する方向に測定される外郭の寸法Lxの10%~60%の範囲にあることが好ましい。これにより、スタッドピンの強度を十分に確保すると共に、排雪氷性及び加工性の悪化を回避することができる。
【0014】
本発明のタイヤは、空気入りタイヤであることが好ましいが、非空気式タイヤであっても良い。空気入りタイヤの場合、その内部には空気、窒素等の不活性ガス又はその他の気体を充填することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態からなるスタッドピンを示す斜視図である。
【
図5】スタッドピンの変形例
(参考例)を示す平面図である。
【
図6】スタッドピンの他の変形例を示す平面図である。
【
図7】スタッドピンの他の変形例を示す平面図である。
【
図8】スタッドピンの他の変形例を示す平面図である。
【
図9】本発明の空気入りタイヤの一例を示す子午線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
図1~
図4は本発明の実施形態からなるスタッドピンを示すものである。
【0017】
図1~
図4に示すように、本実施形態のスタッドピンPは、タイヤのトレッド部に埋設される埋設基部10と、該埋設基部10の先端側に位置していて路面と接触する先端部20とを備えている。埋設基部10は、円柱状の胴体部11と、該胴体部11に連接されていて該胴体部11よりも小径となる円柱状のシャンク部12と、該シャンク部12に連接されていて該シャンク部12よりも大径となる円柱状の底部13とから構成されている。先端部20を構成する金属材料は埋設基部10を構成する金属材料よりも高硬度であり、これら埋設基部10及び先端部20は一体的に加工されている。
【0018】
上記スタッドピンPにおいて、先端部20は、円環状に形成された外郭21と、該外郭21により囲まれた円柱状の内郭22と、これら外郭21と内郭22との間に介在する溝部23とを備えている。つまり、外郭21の接地面での外周端及び内周端にはそれぞれエッジが形成され、内郭22の接地面での外周端にもエッジが形成されている。
【0019】
このようにスタッドピンPの先端部20が、環状に形成された外郭21と、該外郭21により囲まれた内郭22と、その間に介在する溝部23とを備えることにより、外郭21及び内郭22がそれぞれエッジを形成するので、スタッドピンPのエッジ効果を格段に高めてタイヤの氷上性能を効果的に改善することができる。特に、スタッドピンPの先端部を環状の外郭21及びそれに囲まれた内郭22で構成した場合、外郭21及び内郭22の各々に十分な強度を確保することが可能である。
【0020】
図2に示すように、スタッドピンPにおいて、溝部23は内郭22の周囲で環状に連続していると良い。この場合、外郭21の内周端及び内郭22の外周端におけるエッジ量を最大化し、そのエッジ効果を高めて氷上性能を効果的に改善することができる。
【0021】
図5はスタッドピンの変形例を示すものである。
図5において、スタッドピンPの先端部20は、外郭21と内郭22とを互いに連結する複数の繋ぎ部24を備えている。これら繋ぎ部24は、スタッドピンPの中心軸に対して放射状に延在するように配置されている。また、外郭21と内郭22との間に繋ぎ部24を設けるにあたって、溝部23の内周側の長さの総和が内郭22の外周長の50%以上であると良い。例えば、
図5において、繋ぎ部24により分断された溝部23の4つの分割片の内周側の長さをL1,L2,L3,L4とし、その総和をLa(La=L1+L2+L3+L4)とし、内郭22の外周長(繋ぎ部24が存在しないと想定したときの外周長)をLbとしたとき、La≧0.5×Lbであるとことが好ましい。この場合、スタッドピンPの強度を増大させることができる。ここで、溝部23の内周側の長さの総和が内郭22の外周長の50%未満であると、エッジ量の減少により氷上性能の改善効果が低下することになる。
【0022】
図6~
図8はそれぞれスタッドピンの他の変形例を示すものである。
図6において、内郭22はその外周縁に沿って環状に延びる内側溝部22Cを有し、それによって、内郭22が最内側に位置する内郭本体22Aとその外周側に位置する内郭外縁部22Bとに区画されている。このように内郭22を内郭本体22Aと内郭外縁部22Bとに区画することにより、エッジ量が更に増加するので、氷上性能を効果的に改善することができる。
【0023】
図7及び
図8において、外郭21の内周形状と内郭22の外周形状とは互いに異なっている。
図7では、外郭21の内周形状は円形であるが、内郭22の外周形状は正方形になっている。
図8では、外郭21の内周形状は円形であるが、内郭22の外周形状は楕円形になっている。このように外郭21の内周形状と内郭22の外周形状とは互いに異ならせることにより、スタッドピンPの先端部20の排雪氷性を改善すると共に、エッジ量の増加により氷上性能の更に改善することができる。
【0024】
なお、外郭21の内周形状と内郭22の外周形状とは互いに相似していても良い(
図2参照)。この場合も、十分なエッジ効果を期待することができる。外郭21の内周形状及び内郭22の外周形状は、特に限定されるものではなく、円形、楕円形、四角形を含む多角形等の種々の形状を採用することが可能である。
【0025】
図4に示すように、スタッドピンPの中心軸Oと直交する方向に測定される外郭21と内郭22との間隔Lyは、スタッドピンPの中心軸Oと直交する方向に測定される外郭21の寸法Lxの10%~35%の範囲、より好ましくは、15%~30%の範囲にあると良い。これにより、スタッドピンPの強度を十分に確保すると共に、排雪氷性及び加工性の悪化を回避することができる。ここで、外郭21と内郭22との間隔Lyが小さ過ぎると排雪氷性や加工性が悪化し、逆に大き過ぎるとスタッドピンPの強度が低下する。
【0026】
また、内郭22において最内側に位置する内郭本体22Aについて、スタッドピンPの中心軸Oと直交する方向に測定される内郭本体22Aの寸法Lzは、スタッドピンPの中心軸Oと直交する方向に測定される外郭21の寸法Lxの10%~60%の範囲、より好ましくは、20%~40%の範囲にあると良い。これにより、スタッドピンPの強度を十分に確保すると共に、排雪氷性及び加工性の悪化を回避することができる。ここで、内郭本体22Aの寸法Lzが小さ過ぎるとスタッドピンPの強度が低下し、逆に大き過ぎると排雪氷性や加工性が悪化する。
【0027】
スタッドピンPの中心軸Oと直交する方向に測定される外郭21の寸法Lxは、2mm~4mmの範囲に設定されることが好ましい。また、スタッドピンPの中心軸Oと直交する方向に測定される外郭21の厚さtは、0.3mm~0.6mmの範囲に設定されることが好ましい。これにより、スタッドピンPの強度を十分に確保すると共に、排雪氷性及び加工性の悪化を回避することができる。
【0028】
上述した外郭21の寸法Lx、外郭21と内郭22との間隔Ly、内郭本体22Aの寸法Lz及び外郭21の厚さtは、外郭21と内郭22とが溝部23によって分断される位置であって、スタッドピンPの中心軸Oの周りの任意の位置で測定されるものである。また、外郭21又は内郭22が面取り加工されている場合、その面取り部は存在しないものとして寸法が測定される。
【0029】
図9は本発明の空気入りタイヤの一例を示すものである。
図5に示すように、空気入りタイヤTは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部31と、該トレッド部31の両側に配置された一対のサイドウォール部32,32と、これらサイドウォール部32のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部33,33とを備えている。
【0030】
一対のビード部33,33間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層34は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含み、各ビード部33に配置されたビードコア35の廻りにタイヤ内側から外側へ折り返されている。ビードコア35の外周上には断面三角形状のゴム組成物からなるビードフィラー36が配置されている。
【0031】
一方、トレッド部31におけるカーカス層34の外周側には複数層のベルト層37が埋設されている。これらベルト層37はタイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含み、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。ベルト層37において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°~40°の範囲に設定されている。ベルト層37の補強コードとしては、スチールコードが好ましく使用される。ベルト層37の外周側には、高速耐久性の向上を目的として、補強コードをタイヤ周方向に対して例えば5°以下の角度で配列してなる少なくとも1層のベルトカバー層38が配置されている。ベルトカバー層38の補強コードとしては、ナイロンやアラミド等の有機繊維コードが好ましく使用される。
【0032】
上記空気入りタイヤTにおいて、トレッド部31には、タイヤ周方向に延びる主溝41が形成されており、これら主溝41により複数の陸部42が区画されている。トレッド部31の陸部42には、スタッドピンPを植え込みための複数の植え込み穴43が形成されている。スタッドピンPは、その埋設基部10が植え込み穴43に挿入され、先端部20がトレッド部31から突き出すようにトレッド部31に配設されている。植え込み穴43の内径はスタッドピンPの外径よりも若干小さくなっており、植え込み穴43に植え込まれたスタッドピンPはトレッド部31に対して強固に保持される。
【0033】
上述のように空気入りタイヤTのトレッド部31に所定の構造を有するスタッドピンPを配設することにより、スタッドピンPのエッジ効果に基づいて優れた氷上性能を発揮することが可能となる。
【0034】
なお、
図9に示す空気入りタイヤTの補強構造は代表的な例を示すものであるが、これに限定されるものではない。また、空気入りタイヤTのトレッド部31に形成されるトレッドパターンも特に限定されるものではない。
【実施例】
【0035】
タイヤサイズ205/55R16 94Tである空気入りタイヤにおいて、トレッド部に配設されるスタッドピンの構造だけを異ならせた従来例及び実施例1~4のタイヤを製作した。
【0036】
従来例では、埋設基部と先端部とを有し、先端部が円柱状に加工されたスタッドピンを使用した。実施例1~4では、埋設基部と先端部とを有し、先端部が環状の外郭とそれによって囲まれた内郭と両者間に介在する溝部を備えたスタッドピンを使用した。実施例1~4について、内郭における内側溝部の有無、外郭の内周形状、内郭の外周形状を表1のように設定した。
【0037】
これら試験タイヤについて、下記試験方法により、氷上性能を評価し、その結果を表1に併せて示した。
【0038】
氷上性能:
各試験タイヤをリムサイズ16×6.5Jのホイールに組み付けて排気量1400ccの前輪駆動車に装着し、空気圧を250kPaとし、氷上において20km/hの走行状態から制動し、停止するまでの距離を計測した。評価結果は、測定値の逆数を用い、従来例を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど氷上性能が優れていることを意味する。
【0039】
【0040】
この表1から判るように、実施例1~4では、スタッドピンの先端部が環状の外郭とそれによって囲まれた内郭と両者間に介在する溝部を備えているため、従来例との対比において、改良されたスタッドピンのエッジ効果に基づいて優れた氷上性能を発揮することができた。
【符号の説明】
【0041】
10 埋設基部
11 胴体部
12 シャンク部
13 底部
20 先端部
21 外郭
22 内郭
22A 内郭本体
22B 内郭外縁部
22C 内側溝部
23 溝部
24 繋ぎ部
31 トレッド部
P スタッドピン
T 空気入りタイヤ