(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-25
(45)【発行日】2022-05-09
(54)【発明の名称】光学フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 41/28 20060101AFI20220426BHJP
B29C 41/46 20060101ALI20220426BHJP
B29C 41/52 20060101ALI20220426BHJP
B29K 23/00 20060101ALN20220426BHJP
B29K 79/00 20060101ALN20220426BHJP
B29L 7/00 20060101ALN20220426BHJP
B29L 11/00 20060101ALN20220426BHJP
【FI】
B29C41/28
B29C41/46
B29C41/52
B29K23:00
B29K79:00
B29L7:00
B29L11:00
(21)【出願番号】P 2020516027
(86)(22)【出願日】2019-01-23
(86)【国際出願番号】 JP2019001993
(87)【国際公開番号】W WO2019207863
(87)【国際公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-06-28
(31)【優先権主張番号】P 2018084773
(32)【優先日】2018-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】特許業務法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川野 友輝
(72)【発明者】
【氏名】中島 新之助
【審査官】▲来▼田 優来
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-023312(JP,A)
【文献】特開2003-175523(JP,A)
【文献】特開2007-076001(JP,A)
【文献】国際公開第2018/070146(WO,A1)
【文献】特開2008-221508(JP,A)
【文献】特開2011-098442(JP,A)
【文献】特開2007-290345(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C41/28,41/46,41/52
B29D7/00,11/00
B29L7/00,11/00
B29K23/00,79/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース系樹脂とは異なる樹脂および良溶媒を含むドープを支持体上に流延して流延膜を形成する流延工程と、前記支持体から前記流延膜を剥離する剥離工程と、前記支持体から剥離した前記流延膜をロールによって搬送する搬送工程と、前記ロールによって搬送された前記流延膜を延伸または乾燥させて光学フィルムとする延伸/乾燥工程とを含む光学フィルムの製造方法であって、
前記搬送工程では、前記支持体から剥離した前記流延膜の幅手方向の一部である加熱対象領域を、前記流延膜とは非接触の熱源によって加熱し、
前記加熱対象領域の幅手最端部は、前記流延膜の剥離前の幅手最端部に相当する位置から、前記流延膜の全幅に対してP%の距離だけ幅手内側に入った位置にあり、
前記Pは、1%以上20%以下であり、
前記良溶媒の沸点をT℃としたとき、
前記加熱対象領域の加熱時の表面温度は、T+40℃~T+110℃である、光学フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記剥離工程において、前記流延膜の剥離時の残留溶媒量は、15質量%~55質量%である、請求項1に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記搬送工程では、前記支持体からの剥離後にカールする前記流延膜の幅手端部が平坦になるように応力を加えながら、前記熱源によって前記加熱対象領域を加熱する、請求項1または2に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記熱源は、前記流延膜に垂直な方向に対して幅手内側に角度θだけ傾斜した方向から、前記加熱対象領域を加熱する、請求項3に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記角度θは、20°~40°である、請求項4に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記熱源は、前記加熱対象領域を前記ロール上で加熱する、請求項3から5のいずれかに記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記熱源は、熱風を吹き付けることによって、前記加熱対象領域を加熱する、請求項1から6のいずれかに記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記熱源は、赤外線を照射することによって、前記加熱対象領域を加熱する、請求項1から6のいずれかに記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記樹脂は、シクロオレフィン系樹脂またはポリイミド系樹脂を含む、請求項1から8のいずれかに記載の光学フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液流延製膜法による光学フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
OLED(Organic light-Emitting Diode)とも呼ばれる有機EL(Electro-Luminescence)表示装置の外光反射防止用の円偏光板や、液晶表示装置の偏光板には、光学フィルムが用いられている。従来、上記光学フィルムとして、セルロース系樹脂(例えばトリアセチルセルロース(TACとも呼ばれる)が主に使用されている。しかし、近年では、モバイルデバイスの普及により、使用用途の多様化および薄膜の要求が強まり、薄膜でも透湿性などの水に対する耐久性に優れたフィルムが必要となってきている。透湿性の高いTACは、モバイルデバイスにおける薄膜での使用が難しく、最近では、シクロオレフィン系樹脂(以下、COPとも称する)が使われるようになってきた。COPは、透湿性が低く、薄膜でも水に対する耐久性に優れており、モバイルデバイスにおける薄膜での使用に好適となっている。
【0003】
ところで、光学フィルムの代表的な製造方法として、溶融流延製膜法(メルト製膜法)および溶液流延製膜法(キャスト製膜法)が知られている。溶融流延製膜法で光学フィルムを製膜する場合、光学フィルムに添加剤(例えばマット剤)を入れるのが難しい(添加剤が高温で焦げ付くため)、薄膜にしづらい(膜厚制御が難しい)、などの理由で、光学フィルムの設計自由度が低い。また、上記のようにマット剤の混入が難しいため、光学フィルムのすべり性が悪く、巻き取ったときに上下のフィルム同士が引っ付くなどの問題が依然として残っている。
【0004】
そこで、本願発明者らは、COPを含む光学フィルム(以下、COPフィルムとも称する)を、フィルムの設計自由度が比較的高い溶液流延製膜法によって製膜する検討を行った。すると、COPを含む光学フィルムの製膜では、支持体からの流延膜の剥離後に、TACを含む光学フィルム(以下、TACフィルムとも称する)の製膜時よりもさらに大きなカールが生じることがわかった。なお、このようなカールが発生する理由の詳細については後述する。
【0005】
溶液流延製膜法で発生するカールについては、従来から様々な対策が提案されている。例えば、特許文献1では、支持体から剥離後の流延膜の幅手端部よりも外側の温度を、主溶媒の沸点をT℃として、T~T+30℃に制御することにより、流延膜の幅手端部のカールを防止するようにしている。また、特許文献2では、支持体から流延膜を剥離し、流延膜を乾燥させてから、フィルムとして巻き取る直前に、カールが生じたフィルム端部を裁断するようにしている。併せて、裁断部分を所定の温度に加熱してから裁断することにより、裁断部分の平面性および裁断部分の切れ具合を改善している。また、特許文献3および4では、支持体から流延膜を剥離した後、流延膜の幅手端部のカール部分をニップロールで挟み込んで加熱することにより、幅手端部のカールを低減するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-175523号公報(請求項1~2、段落〔0005〕~〔0010〕、
図1、
図2等参照)
【文献】特開2003-71783号公報(請求項1~3、段落〔0003〕、〔0004〕、〔0011〕、〔0018〕、
図1等参照)
【文献】特開2010-23312号公報(請求項1~4、段落〔0006〕~〔0008〕、
図3、
図4等参照)
【文献】特許第4390254号公報(請求項1、9、10、段落〔0005〕、〔0011〕、〔0051〕、
図2、
図3等参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、特許文献1および2は、いずれもセルロース系樹脂を含むフィルムの製膜におけるカール対策を提案しているに留まる。セルロース系樹脂とCOPとでは、製膜時に発生するカールの程度が大きく異なるため(詳細は後述する)、それゆえ、特許文献1および2で提案されている方法をCOPフィルムの製膜に適用しても、カールを低減する効果を十分に得ることができないと考えられる。特に、特許文献2では、カールが生じた幅手端部を巻き取り前に裁断するだけであり、これでは、支持体からの剥離後に流延膜のカールが大きい場合に、その後の搬送途中で流延膜がロールに抱かれたときに(ロールの外周面との接触によって搬送方向が変換されるときに)、流延膜にシワや割れが発生しやすくなり、搬送不良が生じる可能性がある。
【0008】
また、特許文献3および4のように、流延膜の端部をニップして加熱することによって端部の形状を矯正する方法では、流延膜が多量の溶媒を含む場合に、流延膜から蒸発しようとする溶媒の逃げ場がなくなる(2つのロールで流延膜端部が挟まれているため)。この場合、流延膜内での発泡により流延膜が変形し、その後の搬送においてクリップミスなどが生じる可能性があり、搬送が不安定になることが懸念される。このため、ニップ以外の方法で流延膜を加熱することによってカールを低減することが望まれる。
【0009】
また、カールの低減のために流延膜の幅手最端部を加熱すると、幅手最端部が乾燥しすぎて硬くなり、その後の搬送途中で流延膜がロールに抱かれたときに幅手最端部が割れて搬送に支障が生じることが懸念される。また、剥離後の流延膜の加熱温度が高すぎると、加熱された部分が軟化しすぎてヨレヨレになり、シワが発生して搬送途中で破断が生じる可能性がある。このため、流延膜のカールを低減すべく、流延膜を加熱する際には、流延膜の加熱位置および加熱温度を適切に制御することが望まれる。
【0010】
なお、以上で述べた問題は、COPのみならず、セルロース系樹脂とは異なる樹脂(例えばポリイミド系樹脂)を用いて光学フィルムを溶液流延製膜法で製膜する場合には、同様に起こり得る。
【0011】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、セルロース系樹脂とは異なる樹脂を用いて光学フィルムを溶液流延製膜法で製膜する場合において、支持体からの剥離後の流延膜をニップ以外の方法で加熱するとともに、その加熱位置および加熱温度を適切に制御することにより、流延膜の幅手端部のカールを低減しつつ、搬送安定性を確保することができる光学フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の上記目的は、以下の製造方法によって達成される。
【0013】
本発明の一側面に係る光学フィルムの製造方法は、セルロース系樹脂とは異なる樹脂および良溶媒を含むドープを支持体上に流延して流延膜を形成する流延工程と、前記支持体から前記流延膜を剥離する剥離工程と、前記支持体から剥離した前記流延膜をロールによって搬送する搬送工程と、前記ロールによって搬送された前記流延膜を延伸または乾燥させて光学フィルムとする延伸/乾燥工程とを含む光学フィルムの製造方法であって、前記搬送工程では、前記支持体から剥離した前記流延膜の幅手方向の一部である加熱対象領域を、前記流延膜とは非接触の熱源によって加熱し、前記加熱対象領域の幅手最端部は、前記流延膜の剥離前の幅手最端部に相当する位置から、前記流延膜の全幅に対してP%の距離だけ幅手内側に入った位置にあり、前記Pは、1%以上20%以下であり、前記良溶媒の沸点をT℃としたとき、前記加熱対象領域の加熱時の表面温度は、T+40℃~T+110℃である。
【発明の効果】
【0014】
セルロース系樹脂とは異なる樹脂を用いて光学フィルムを溶液流延製膜法で製膜する場合でも、支持体からの剥離後の流延膜の幅手端部のカールを低減しつつ、搬送安定性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の形態に係る光学フィルムの製造装置の概略の構成を示す説明図である。
【
図2】上記光学フィルムの製造工程の流れを示すフローチャートである。
【
図4】上記製造装置の支持体からの剥離後に流延膜にカールが発生する原理を模式的に示す説明図である。
【
図5】上記搬送部において、流延膜と熱源との相対的な位置関係を示す説明図である。
【
図6】加熱によって流延膜のカールを低減する原理を模式的に示す説明図である。
【
図8】上記搬送部のさらに他の構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の一形態について、図面に基づいて説明すれば以下の通りである。なお、本明細書において、数値範囲をA~Bと表記した場合、その数値範囲に下限Aおよび上限Bの値は含まれるものとする。なお、本発明は、以下の内容に限定されるわけではない。
【0017】
図1は、本実施形態の光学フィルムの製造装置20の概略の構成を示す説明図である。また、
図2は、光学フィルムの製造工程の流れを示すフローチャートである。本実施形態の光学フィルムの製造方法は、溶液流延製膜法によって光学フィルムを製造する方法であり、
図2に示すように、攪拌調製工程(S1)、流延工程(S2)、剥離工程(S3)、搬送工程(S4)、延伸工程(S5)、乾燥工程(S6)、切断工程(S7)、エンボス加工工程(S8)、巻取工程(S9)を含む。以下、
図1および
図2を参照しながら、各工程について説明する。
【0018】
(S1;攪拌調製工程)
攪拌調製工程では、攪拌装置1の攪拌槽1aにて、少なくとも樹脂および溶媒を攪拌し、支持体3(エンドレスベルト)上に流延するドープを調製する。上記樹脂としては、例えばシクロオレフィン系樹脂(COP)を用いることができる。溶媒としては、良溶媒および貧溶媒の混合溶媒を用いることができる。なお、良溶媒とは、樹脂を溶解させる性質(溶解性)を有する有機溶媒を言い、1,3-ジオキソラン、THF(テトラヒドロフラン)、メチルエチルケトン、アセトン、酢酸メチル、塩化メチレン(ジクロロメタン、メチレンクロライド)、トルエンなどがこれに相当する。一方、貧溶媒とは、単独では樹脂を溶解させる性質を有していない溶媒を言い、メタノールやエタノールなどがこれに相当する。
【0019】
なお、ドープを構成する樹脂は、上記のCOPには限定されず、セルロース系樹脂以外の樹脂であればよい。このような樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル系樹脂、アセテート系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂(PC)、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂等を挙げることができる。
【0020】
(S2;流延工程)
流延工程では、攪拌調製工程で調製されたドープを、加圧型定量ギヤポンプ等を通して、導管によって流延ダイ2に送液し、無限に移送する回転駆動ステンレス鋼製エンドレスベルトよりなる支持体3上の流延位置に、流延ダイ2からドープを流延する。そして、支持体3は、流延されたドープ(流延ドープ)を支持しながら搬送する。これにより、支持体3上に流延膜(ウェブ)5が形成される。
【0021】
ベルト状の支持体3は、一対のロール3a・3bおよびこれらの間に位置する複数のロール(不図示)によって保持されている。ロール3a・3bの一方または両方には、支持体3に張力を付与する駆動装置(不図示)が設けられており、これによって支持体3は張力が掛けられて張った状態で使用される。なお、支持体3は、回転ドラムで構成されてもよい。
【0022】
流延工程では、流延膜5を支持体3上で加熱し、支持体3から剥離ロール4によって流延膜5が剥離可能になるまで溶媒を蒸発させる。溶媒を蒸発させるには、ウェブ側から風を吹かせる方法や、支持体3の裏面から液体により伝熱させる方法、輻射熱により表裏から伝熱する方法等があり、適宜、単独であるいは組み合わせて用いればよい。
【0023】
(S3;剥離工程)
上記の流延工程にて、支持体3上で流延膜5が剥離可能な膜強度となるまで乾燥固化あるいは冷却凝固させた後、剥離工程では、流延膜5を、自己支持性を持たせたまま剥離ロール4によって剥離する。
【0024】
剥離時点での支持体3上での流延膜5の残留溶媒量は、乾燥の条件の強弱、支持体3の長さ等により、10質量%~120質量%の範囲であることが望ましく、10質量%~60質量%の範囲であることがより望ましく、15質量%~55質量%であることがより一層望ましく、20質量%~50質量%の範囲であることがさらに望ましく、25質量%~45質量%の範囲であることが最も望ましい。残留溶媒量がより多い時点で剥離する場合、流延膜5が柔らか過ぎると剥離時平面性を損ね、剥離張力によるシワや縦スジが発生しやすいため、経済速度と品質との兼ね合いで剥離時の残留溶媒量が決められる。なお、残留溶媒量は、下記式で定義される。
【0025】
残留溶媒量(質量%)=(ウェブの加熱処理前質量-ウェブの加熱処理後質量)/(ウェブの加熱処理後質量)×100
ここで、残留溶媒量を測定する際の加熱処理とは、115℃で1時間の加熱処理を行うことを表す。
【0026】
(S4;搬送工程)
搬送工程では、支持体3から剥離した流延膜5を搬送部11によってテンター6に搬送する。ここで、
図3は、搬送部11の拡大図である。搬送部11は、少なくとも1本のロール(搬送ロール)を備えており、
図3では、3つのロール11、12、13を示している。搬送工程では、流延膜5をロール11~13によって搬送するとともに、流延膜5の幅手方向の一部を、流延膜5とは非接触の熱源15によって局所的に加熱する。なお、熱源15による流延膜5の加熱の詳細については後述する。
【0027】
(S5;延伸工程)
延伸工程では、支持体3から剥離された流延膜5を、テンター6によって、搬送方向および/または幅手方向に延伸する。延伸工程では、流延膜5の両側縁部をクリップ等で固定して延伸するテンター方式が、フィルムの平面性や寸法安定性を向上させるために好ましい。なお、テンター6内では、延伸に加えて乾燥を行ってもよい。
【0028】
(S6;乾燥工程)
テンター6にて延伸された流延膜5は、乾燥装置7にて乾燥される。乾燥装置7内では、側面から見て千鳥状に配置された複数の搬送ロールによって流延膜5が搬送され、その間に流延膜5が乾燥される。乾燥装置7での乾燥方法は、特に制限はなく、一般的に熱風、赤外線、加熱ロール、マイクロ波等を用いてウェブ5を乾燥させる。簡便さの点から、熱風で流延膜5を乾燥させる方法が好ましい。流延膜5は、乾燥装置7にて乾燥後、光学フィルムとして巻取装置10に向かって搬送される。
【0029】
なお、S6の乾燥工程は、S5の延伸工程の前後で分けて行われてもよい。つまり、S4の搬送工程の後は、延伸工程および乾燥工程がこの順で行われてもよいし、乾燥工程(第1乾燥工程)、延伸工程および乾燥工程(第2乾燥工程)がこの順で行われてもよい。したがって、本実施形態の光学フィルムの製造方法は、S4の搬送工程の後に、流延膜5を延伸または乾燥させて光学フィルムとする延伸/乾燥工程(S5、S6)を含むと言うことができる。
【0030】
(S7;切断工程、S8;エンボス加工工程)
乾燥装置7と巻取装置10との間には、切断部8およびエンボス加工部9がこの順で配置されている。切断部8では、製膜された光学フィルムを搬送しながら、その幅手方向の両端部を、スリッターによって切断する切断工程が行われる。光学フィルムにおいて、両端部の切断後に残った部分は、フィルム製品となる製品部を構成する。一方、光学フィルムから切断された部分は、シュータにて回収され、再び原材料の一部としてフィルムの製膜に再利用される。
【0031】
切断工程の後、光学フィルムの幅手方向の両端部には、エンボス加工部9により、エンボス加工(ナーリング加工)が施される。エンボス加工は、加熱されたエンボスローラーを光学フィルムの両端部に押し当てることにより行われる。エンボスローラーの表面には細かな凹凸が形成されており、エンボスローラーを光学フィルムの両端部に押し当てることで、上記両端部に凹凸が形成される。このようなエンボス加工により、次の巻取工程での巻きズレやブロッキング(フィルム同士の貼り付き)を極力抑えることができる。
【0032】
(S9;巻取工程)
最後に、エンボス加工が終了した光学フィルムを、巻取装置10によって巻き取り、光学フィルムの元巻(フィルムロール)を得る。すなわち、巻取工程では、光学フィルムを搬送しながら巻芯に巻き取ることにより、フィルムロールが製造される。光学フィルムの巻き取り方法は、一般に使用されているワインダーを用いればよく、定トルク法、定テンション法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法等の張力をコントロールする方法があり、それらを使い分ければよい。光学フィルムの巻長は、1000~7200mであることが好ましい。また、その際の幅は500~3200mm幅であることが望ましく、膜厚は30~150μmであることが望ましい。
【0033】
〔カールの発生原理について〕
次に、流延膜5の支持体3からの剥離後にカールが発生する原理と、セルロース系樹脂よりもCOPを用いた場合にカールが大きくなる理由について説明する。
【0034】
図4は、支持体3からの剥離後に流延膜5にカールが発生する原理を模式的に示している。なお、以下での説明の便宜上、支持体3上に形成される流延膜5において、支持体3側の面をB面とも称し、支持体3とは反対側(空気側)の面をA面とも称する。
【0035】
支持体3上にドープを流延した直後においては、溶媒が蒸発せずに十分に残っているため、流延膜5のB面側およびA面側ともに、ドープ中の樹脂(高分子)は比較的自由に動く状態である。支持体3上でドープが搬送されるに伴って乾燥が進む、つまり、溶媒が蒸発するが、支持体3上の流延膜5においてB面側よりもA面側のほうが、空気に接しているために溶媒が蒸発しやすい(B面側は支持体3の存在によって空気と遮断されるため溶媒が蒸発しにくい)。このため、支持体3上では、流延膜5のA面側よりもB面側に溶媒が多く残留する。
【0036】
一方、COPを含むドープとTACを含むドープとでは、含有樹脂の相違により、支持体3上での溶媒の乾燥速度に差が生じる。具体的には、COPを含むドープのほうがTACを含むドープよりも支持体3上での溶媒の乾燥速度が遅い。このため、支持体3上では、COPを含む流延膜5のほうが、TACを含む流延膜よりも、B面側に残留する溶媒が多くなる(ここではドープ中の樹脂と溶媒の含有比率、流延膜の膜厚および流延幅は、COPとTACとで同じとする)。
【0037】
流延膜5を支持体3から剥離すると、剥離後において、流延膜5のB面側(支持体3と接していた側)が空気と接することで、B面側に残留していた溶媒が急激に蒸発し、この結果、流延膜5のB面側で体積収縮が起こる。このとき、COPを含む流延膜5のほうが、TACを含む流延膜よりもB面側に残留する溶媒が多いため、体積収縮が大きく起こる。その結果、COPを含む流延膜5のほうが、TACを含む流延膜よりも、支持体3からの剥離後にカールが大きく発生する。特に、COPを含む流延膜5は、TACを含む流延膜に比べてコシが弱く、曲がりやすいため、発生するカールは、流延膜5の幅手端部において顕著に現れることになる。
【0038】
〔搬送工程での流延膜の加熱について〕
次に、剥離後の流延膜5のカールの低減と、流延膜5の搬送安定性の確保とを実現するための方法について説明する。
【0039】
図5は、上述した搬送部11において、流延膜5と熱源15との相対的な位置関係を示す説明図である。なお、同図では、流延膜5の幅手方向の一端部側での熱源15の配置を示しているが、他端部側でも同様の配置である。熱源15は、流延膜5に対して熱風を吹き付けることにより、流延膜5を局所的に加熱する送風装置で構成されている。熱源15は、流延膜5の膜面(フィルム面)に対して垂直上方に流延膜5とは非接触で配置されており、垂直下方に熱風を吹き付けることによって、流延膜5を加熱する。
【0040】
ここで、本実施形態では、流延膜5の幅手最端部E0を加熱の対象とせず、幅手最端部E0よりも幅手内側にある領域を加熱対象領域Rとし、この加熱対象領域Rを熱源15によって加熱することで、流延膜5を幅手方向において局所的に加熱するようにしている。流延膜5の加熱対象領域Rの幅手最端部E1は、流延膜5の剥離前の(カールする前の)幅手最端部E0に相当する位置から、流延膜5の全幅W(mm)に対してP%の距離だけ幅手内側に入った位置にあり、本実施形態では、Pは、1%以上20%以下の値である。つまり、加熱対象領域Rの幅手最端部E1は、剥離前の幅手最端部E0から幅手内側に0.01W以上0.20W以下の範囲内にある。なお、全幅Wの範囲としては、例えば1000~2000(mm)を考えることができる。
【0041】
上述の原理によって生じる流延膜5の端部のカールを低減すべく、支持体3からの流延膜5の剥離後に、流延膜5の幅手端部を加熱するが、Pが1%未満となるように流延膜5を加熱すると、加熱対象領域Rの幅手最端部E1が流延膜5の幅手最端部E0と一致するか、それに非常に近づく。この場合、幅手最端部E0またはその近傍が乾燥しすぎて硬くなり、その後の搬送途中で流延膜5がロール(例えばロール14や乾燥装置7内のロール)に抱かれたときに幅手最端部E0付近が割れて搬送に支障が生じる可能性がある。一方、支持体3からの流延膜5の剥離後に、Pが20%を超えるように流延膜5を加熱すると、加熱対象領域Rの幅手最端部E1が流延膜5の幅手最端部E0から遠ざかり、加熱対象領域Rがカール部分から遠ざかることになるため、流延膜5の幅手端部のカールを加熱によって効果的に低減(矯正)することが困難となる。
【0042】
ここで、
図6は、加熱によって流延膜のカールを低減する原理を模式的に示している。樹脂は、長い鎖状の高分子の集合体であり、高分子同士は、分子間相互作用が働くことによって複雑に絡み合っている。流延膜のカール部分を加熱することで、加熱された領域における分子の熱運動が大きくなるため、分子間隔が広がり、高分子間の分子間結合力が弱くなる。流延膜の搬送中では、搬送方向に流延膜が引っ張られて応力(張力)が働き、この応力は、流延膜を平らにする方向に働く。したがって、流延膜の搬送中に加熱を行うことにより、カールを低減することが可能となる。
【0043】
また、本実施形態では、ドープに含まれる良溶媒の沸点をT℃としたとき、熱源15による加熱対象領域Rの加熱時の表面温度が、T+40℃~T+110℃である。例えば良溶媒として、メチレンクロライドを用いた場合、メチレンクロライドの沸点Tは39℃であるため、加熱対象領域Rの表面温度は、79℃~149℃の範囲となる。また、良溶媒として、トルエンを用いた場合、トルエンの沸点Tは110℃であるため、加熱対象領域Rの表面温度は、150℃~220℃の範囲となる。
【0044】
加熱対象領域Rの加熱時の表面温度が、T+110℃を超える高温であると、加熱によってカールは低減されるが、流延膜5自体が平面性を保てなくなるほど軟化してしまい(ヨレヨレになってしまい)、シワが発生するため搬送性を悪化させる(安定した搬送ができなくなる)。一方、上記表面温度がT+40℃以下の低温では、樹脂配向を乱すほどの熱量が加熱対象領域Rに付与されないため、カールを低減する効果が弱く、特にCOPのようにカールが大きく発生する場合には、加熱によるカールの低減効果が非常に弱くなる。
【0045】
したがって、本実施形態のように、支持体3から剥離後の流延膜5を熱源15によって加熱する際に、加熱位置(特に加熱対象領域Rの幅手最端部E1の位置)および加熱温度を適切に制御することにより、樹脂として、支持体3からの剥離後に流延膜5の支持体側(B面)の体積収縮がセルロース系樹脂よりも大きくなる樹脂(例えばCOP)を用いた場合でも、上記体積収縮によるカールを低減しつつ、搬送安定性に優れた光学フィルムを製造することが可能となる。
【0046】
また、熱源15を流延膜5と非接触で配置して流延膜5を非接触で加熱するため、流延膜5をニップして加熱する場合のような不都合は生じない。つまり、流延膜5が多量の溶媒を含む場合でも、剥離後の流延膜5の熱源15での加熱時に、溶媒を内部に閉じ込めることなく蒸発させることができ、これによって、流延膜5の発泡変形を防止することができる。したがって、その後の搬送において流延膜5の変形によってクリップミスなどが発生するのを低減することができ、搬送が不安定になるのを低減することができる。
【0047】
なお、Pの好ましい範囲は、3%以上8%以下である。つまり、加熱対象領域Rの幅手最端部E1は、剥離前の幅手最端部E0から幅手内側に0.03W以上0.08W以下の範囲内にあれば、カールを低減する効果がより効果的に得られる。また、加熱対象領域Rの加熱時の表面温度の好ましい範囲は、T+70℃~T+110℃である。
【0048】
なお、加熱対象領域Rにおける幅手最端部E1とは反対側(流延膜5の幅手中心側)の端部E2の位置については特に規定していないが、あまり幅手中心側に位置すると、製品部(最終的に幅手端部が切り落とされたときに製品として残る部分)に近くなり、加熱による配向の乱れが製品部にも影響して製品部の品質低下につながるおそれがある。また、加熱によって配向が乱れる部分の幅が広くなり、流延膜5のうちで製品部として利用できる幅も狭くなるおそれがある。このため、加熱対象領域Rの幅手中心側の端部E2の位置は、流延膜5の剥離前の(カールする前の)幅手最端部E0に相当する位置から、流延膜5の全幅W(mm)に対してQ%の距離だけ幅手内側に入った位置にあり、Qは、30%以下の値であることが好ましく、25%以下の値であることがより好ましく、20%以下の値であることがより一層好ましい。
【0049】
ところで、上述したS3の剥離工程において、流延膜5の支持体3からの剥離時の残留溶媒量が多すぎると、剥離後に流延膜5のB面側の溶媒が多く蒸発することで、体積収縮が大きくなる。このため、S4の搬送工程において、上述した熱源15での加熱によってカールを低減する効果が得られにくくなる。また、剥離時の残留溶媒量が少なすぎると、剥離後の溶媒の蒸発に起因するカールの量が元々少ないため、熱源15での加熱によってカールを低減する本実施形態の手法の有効性が低くなる。以上のことから、本実施形態の手法によってカールを有効にかつ確実に低減する観点から、流延膜5の支持体3からの剥離時の残留溶媒量は、15質量%~55質量%であることが望ましく、20質量%~50質量%であることがより望ましい。
【0050】
また、S4の搬送工程では、支持体3からの剥離後にカールする流延膜5の幅手端部が平坦になるように応力を加えながら、熱源15によって加熱対象領域Rを加熱してもよい。例えば、上述したように流延膜5を搬送するだけでも、搬送方向の張力によって幅手端部が平坦になるように流延膜5に応力を加えることができる。また、熱源15から吹き付ける熱風の風圧を上げることによっても、幅手端部が平坦になるように流延膜5に応力を加えることができる。このように流延膜5に応力を加えながら加熱対象領域Rを加熱することにより、応力も加熱もカールの低減に作用するため、大きなカールを効率よく低減することが可能となる。
【0051】
図7は、搬送部11の他の構成を示している。熱源15は、流延膜5に垂直な方向に対して幅手内側に角度θだけ傾斜した方向から熱風を吹き付けて、加熱対象領域Rを加熱してもよい。この場合、熱風が幅手内側から幅手外側に向かうように流延膜5(加熱対象領域R)に対して斜め方向から吹き付けられるため、流延膜5の幅手端部を平坦にする応力を加えることができる。したがって、このような熱風の吹き付けによっても、流延膜5の幅手端部に応力を加えながら加熱対象領域Rを加熱して、カールを効率よく低減することができる。
【0052】
特に、上記の角度θは、20°~40°であることが望ましい。上記角度範囲であれば、流延膜5の幅手端部への応力付与と、加熱対象領域Rの加熱とを両方とも満足して行うことができ、カールの低減効果をより高めることが可能となる。
【0053】
図8は、搬送部11のさらに他の構成を示している。熱源15は、加熱対象領域Rをロール上で加熱してもよい。なお、上記ロールは、
図3のロール12、13、14のいずれでもよいが、
図8では一例としてロール13を図示している。この場合、流延膜5に対して、ロール13との接触することによって、つまり、流延膜5がロール13の周面に沿って移動することによって、流延膜5の幅手端部を平坦にする応力を加えることができる。したがって、この場合でも、流延膜5の幅手端部に応力を加えながら加熱対象領域Rを加熱して、カールを効率よく低減することが可能となる。また、
図7および
図8の手法を併用することにより、カールの低減効果をさらに上げることができる。
【0054】
以上のように、熱源15は、熱風を吹き付けることによって、流延膜5の加熱対象領域Rを加熱するため、流延膜5との非接触による加熱を確実に実現することができる。
【0055】
また、
図9は、熱源15の他の構成を示している。熱源15は、赤外線(IR)を照射することによって、流延膜5の加熱対象領域Rを加熱してもよい。この場合でも、赤外線の照射により、流延膜5との非接触による加熱を確実に実現することができる。
【0056】
本実施形態において、光学フィルムの製造に用いる樹脂(ドープに含める樹脂)は、シクロオレフィン系樹脂(COP)またはポリイミド系樹脂(PI)を含んでいてもよい。COPまたはPIを用いて製膜する場合、セルロース系樹脂(例えばTAC)を用いて製膜する場合よりも、支持体3上での溶媒の乾燥速度が遅いことに起因して、剥離後にカールが大きく発生する。このため、樹脂としてCOPまたはPIを用いる場合は、熱源15による非接触の加熱によってカールを低減する本実施形態の手法が非常に有効となる。
【0057】
〔添加剤〕
光学フィルムの製膜において、ドープには必要に応じて添加剤を加えてもよい。添加剤としては、可塑剤、紫外線吸収剤、リタデーション調整剤、酸化防止剤、劣化防止剤、剥離助剤、界面活性剤、染料、微粒子等がある。本実施形態において、微粒子以外の添加剤についてはドープの調製の際に添加してもよいし、微粒子分散液の調製の際に添加してもよい。
【0058】
〔実施例〕
以下、本実施形態における斜め延伸フィルムの具体例な実施例について、比較例も挙げながら説明する。なお、本発明は、以下の実施例には限定されない。
【0059】
<光学フィルム1の作製>
シクロオレフィン系樹脂フィルム(COPフィルム)からなる光学フィルム1を、以下の製造方法(溶液流延製膜法)によって作製した。
【0060】
《シクロオレフィン系樹脂ペレットの製造》
窒素雰囲気下、脱水したシクロヘキサン500質量部に、1-ヘキセン1.2質量部、ジブチルエーテル0.15質量部、トリイソブチルアルミニウム0.30質量部を室温で反応器に入れ混合した後、45℃に保ちながら、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ-3,7-ジエン(ジシクロペンタジエン、以下、DCPと略記)13質量部、8-メチル-8-メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデク-3-エン(以下、MMTと略記)87質量部からなるノルボルネン系モノマー混合物と、六塩化タングステン(0.7%トルエン溶液)40質量部とを、2時間かけて連続的に添加し重合した。重合溶液にブチルグリシジルエーテル1.06質量部とイソプロピルアルコール0.52質量部を加えて重合触媒を不活性化し重合反応を停止させた。
【0061】
次いで、得られた開環重合体を含有する反応溶液100質量部に対して、シクロヘキサン270質量部を加え、さらに水素化触媒としてニッケル-アルミナ触媒(日揮触媒化成(株)製)5質量部を加え、水素により5MPaに加圧して攪拌しながら温度200℃まで加温した後、4時間反応させ、DCP/MMT開環重合体水素化ポリマーを20%含有する反応溶液を得た。
【0062】
濾過により水素化触媒を除去した後、軟質重合体((株)クラレ製;セプトン2002)および酸化防止剤(チバスペシャリティ・ケミカルズ(株)製;イルガノックス1010)を、得られた溶液にそれぞれ添加して溶解させた(いずれも重合体100質量部あたり0.1質量部)。次いで、溶液から、溶媒であるシクロヘキサンおよびその他の揮発成分を、円筒型濃縮乾燥器((株)日立製作所製)を用いて除去し、水素化ポリマーを溶融状態で押出機からストランド状に押出し、冷却後ペレット化して回収した。重合体中の各ノルボルネン系モノマーの共重合比率を、重合後の溶液中の残留ノルボルネン類組成(ガスクロマトグラフィー法による)から計算したところ、DCP/MMT/=13/87でほぼ仕込組成に等しかった。この開環重合体水素添加物の、重量平均分子量(Mw)は89000、分子量分布(Mw/Mn)は2.5、水素添加率は99.9%、Tgは161℃であった。
【0063】
得られた開環重合体水素添加物のシクロオレフィン系樹脂ペレットを、空気を流通させた熱風乾燥器を用いて70℃で2時間乾燥して水分を除去した。
【0064】
《微粒子1の製造》
下記製造例で製造した重合体粒子集合体を、微粒子1として製造した。
【0065】
〈種粒子の製造〉
攪拌機、温度計を備えた重合器に、脱イオン水1000gを入れ、そこへメタクリル酸メチル200g、t-ドデシルメルカプタン6gを仕込み、攪拌下に窒素置換しながら70℃まで加温した。内温を70℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム1gを溶解した脱イオン水20gを添加した後、10時間重合させた。得られたエマルジョン中の重合体粒子の平均粒子径は、0.44μmであった。
【0066】
〈重合体粒子の製造〉
攪拌機、温度計を備えた重合器に、ポリオキシエチレントリデシルエーテル硫酸アンモニウム3gを溶解した脱イオン水800gを入れ、そこへ単量体混合物としてアクリル酸メチル144g、スチレン22gおよびエチレングリコールジメタクリレート34gと、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル1gとの混合液を入れた。次いで、混合液をT.Kホモミキサー(特殊機化工業社製)にて攪拌して、分散液を得た。
【0067】
さらに、分散液に種粒子を含む上記エマルジョン60gを加え、30℃で1時間攪拌して種粒子に単量体混合物を吸収させた。次いで、吸収させた単量体混合物を窒素気流下で50℃、5時間加温することで重合させた後、室温(約25℃)まで冷却することで重合体粒子を含むスラリーを得た。得られた重合体粒子(有機微粒子)の平均粒子径は、0.3μmであった。
【0068】
〈重合体粒子の集合体の製造〉
冷却後、得られたスラリーにスノーテックスO-40(日産化学工業社製:コロイダルシリカ(無機粉末)として固形分40%、粒子径:0.02-0.03μm)50gを加え、T.Kホモミキサー(特殊機化工業社製)にて10分間攪拌した。このスラリーを噴霧乾燥機としての坂本技研社製のスプレードライヤー(型式:アトマイザーテイクアップ方式、型番:TRS-3WK)で次の条件下にて噴霧乾燥して重合体粒子集合体を得た。重合体粒子集合体の平均粒子径は、30μmであった。
供給速度:25ml/min
アトマイザー回転数:11000rpm
風量:2m3/min
噴霧乾燥機のスラリー入口温度:130℃
重合体粒子集合体出口温度:70℃
【0069】
《微粒子分散液1の調製》
1.0質量部の微粒子1と、100質量部のメチレンクロライドとを、ディゾルバーで50分間撹拌混合した後、マントンゴーリンで分散して、微粒子分散液1を得た。
【0070】
《ドープの調製》
次いで、下記組成の主ドープ1を調製した。まず、加圧溶解タンクにメチレンクロライド、エタノールおよびトルエンを添加した。次いで、加圧溶解タンクに、上記で作製したシクロオレフィン系樹脂ペレットと添加剤(LA-F70)を撹拌しながら投入した。次いで、上記調製した微粒子分散液1を投入して、これを60℃に加熱し、撹拌しながら、完全に溶解した。加熱温度は、室温から5℃/minで昇温し、30分間で溶解した後、3℃/minで降温した。
【0071】
得られた溶液の粘度は、7000cpであり、含水率は0.50%であった。これを、(株)ロキテクノ製のSHP150を使用して、濾過流量300L/m2・h、濾圧1.0×106Paにて濾過し、主ドープ1を得た。
【0072】
〈主ドープ1の組成〉
シクロオレフィン系樹脂ペレット 100質量部
メチレンクロライド(沸点39℃) 270質量部
エタノール 20質量部
添加剤(アデカスタブLA-F70(ADEKA株式会社製))
3質量部
微粒子分散液1 30質量部
【0073】
《製膜》
次いで、無端ベルト流延装置を用い、主ドープ1を温度31℃、1800mm幅でステンレスベルトからなる支持体上に均一に流延した。このとき、支持体の温度は28℃に制御した。また、支持体の搬送速度は20m/minとした。
【0074】
支持体上で、流延膜中の残留溶剤量が35質量%になるまで溶媒を蒸発させた。次いで、剥離張力128N/mで、支持体上から流延膜を剥離した。その後、剥離したフィルムを多数のロールで搬送する搬送工程において、熱源を用い、ロールとロールとの間で流延膜の幅手端部を加熱した。
【0075】
このとき、熱源としては、熱風を吹き出す送風装置を用い、熱風吹出口と流延膜との距離が30mmとなる位置に熱源を配置した。なお、上記熱風吹出口のサイズは、流延膜の幅手に沿った方向で30mmであり、長手に沿った方向で200mmであった。そして、流延膜の加熱対象領域の幅手最端部が、剥離前の(カールする前の)流延膜の幅手最端部に相当する位置から、剥離前の流延膜の全幅の8%だけ幅手内側に位置するように、熱源から熱風を流延膜(加熱対象領域)に対して垂直に(垂直上方から)吹き付けて加熱対象領域を加熱した。このときの加熱対象領域の表面温度を非接触式の赤外線センサを用いて測定したところ、80℃であった。なお、熱源の熱風吹出口の幅手方向のサイズは30mmであり、熱風を垂直上方から流延膜に吹き付けるため、加熱対象領域の幅手中心側の位置は、剥離前の流延膜の幅手最端部に相当する位置から、剥離前の流延膜の全幅の30%以下の距離となる位置であることは明らかである。
【0076】
搬送工程において、上述のように熱源によって流延膜を加熱した後、流延膜をテンターにて120℃で搬送方向に1.2倍に延伸し、次いで、150℃条件下で幅方向に1.1倍延伸した。その後、テンタークリップで挟んだ端部をスリットし、その後、巻き取り、膜厚60μmの光学フィルム1を得た。
【0077】
<光学フィルム2の作製>
搬送工程で流延膜を加熱する際に、流延膜の加熱対象領域の幅手最端部が、剥離前の流延膜の幅手最端部に相当する位置から、剥離前の流延膜の全幅の1%だけ幅手内側に位置するように、熱源から熱風を流延膜に対して垂直に吹き付けて加熱対象領域を加熱した以外は、光学フィルム1の作製と同様にして、光学フィルム2を作製した。
【0078】
<光学フィルム3の作製>
搬送工程で流延膜を加熱する際に、流延膜の加熱対象領域の幅手最端部が、剥離前の流延膜の幅手最端部に相当する位置から、剥離前の流延膜の全幅の20%だけ幅手内側に位置するように、熱源から熱風を流延膜に対して垂直に吹き付けて加熱対象領域を加熱した以外は、光学フィルム1の作製と同様にして、光学フィルム3を作製した。
【0079】
<光学フィルム4の作製>
搬送工程で流延膜を加熱する際に、流延膜の加熱対象領域の幅手最端部が、剥離前の流延膜の幅手最端部に相当する位置から、剥離前の流延膜の全幅の3%だけ幅手内側に位置するように、熱源から熱風を流延膜に対して垂直に吹き付けて加熱対象領域を加熱した以外は、光学フィルム1の作製と同様にして、光学フィルム4を作製した。
【0080】
<光学フィルム5の作製>
搬送工程で流延膜を加熱する際に、流延膜の加熱対象領域の幅手最端部が、剥離前の流延膜の幅手最端部に相当する位置から、剥離前の流延膜の全幅の25%だけ幅手内側に位置するように、熱源から熱風を流延膜に対して垂直に吹き付けて加熱対象領域を加熱した以外は、光学フィルム1の作製と同様にして、光学フィルム5を作製した。
【0081】
<光学フィルム6の作製>
搬送工程において、流延膜の幅手最端部を加熱した以外は、光学フィルム1の作製と同様にして、光学フィルム6を作製した。つまり、流延膜を加熱する際に、流延膜の加熱対象領域の幅手最端部が、剥離前の流延膜の幅手最端部に相当する位置から、剥離前の流延膜の全幅の0%だけ幅手内側に位置するように、熱源から熱風を流延膜に対して垂直に吹き付けて加熱対象領域を加熱した以外は、光学フィルム1の作製と同様にして、光学フィルム6を作製した。
【0082】
<光学フィルム7の作製>
搬送工程において、熱源による流延膜の加熱を行わなかった以外は、光学フィルム1の作製と同様にして、光学フィルム7を作製した。
【0083】
<光学フィルム8の作製>
搬送工程において、加熱対象領域の表面温度が95℃となるように流延膜を加熱した以外は、光学フィルム1の作製と同様にして、光学フィルム8を作製した。
【0084】
<光学フィルム9の作製>
搬送工程において、加熱対象領域の表面温度が150℃となるように流延膜を加熱した以外は、光学フィルム1の作製と同様にして、光学フィルム9を作製した。
【0085】
<光学フィルム10の作製>
ドープの調製において、メチレンクロライドの代わりにトルエン(沸点110℃)を用い、搬送工程において、加熱対象領域の表面温度が150℃となるように流延膜を加熱した以外は、光学フィルム1の作製と同様にして、光学フィルム10を作製した。
【0086】
<光学フィルム11の作製>
ドープの調製において、COPの代わりにポリイミド(PI)を用いた以外は、光学フィルム1の作製と同様にして、光学フィルム11を作製した。なお、ポリイミドは、以下のようにして合成した。
【0087】
乾燥窒素ガス導入管、冷却器、トルエンを満たしたDean-Stark凝集器、撹拌機を備えた4口フラスコに、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物25.59g(57.6mmol)をN,N-ジメチルアセトアミド(134g)に加え、窒素気流下、室温で撹拌した。それに4,4′-ジアミノ-2,2′-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル19.2g(60mmol)を加え、80℃で6時間加熱撹拌した。その後、外温を190℃まで加熱して、イミド化に伴って発生する水をトルエンとともに共沸留去した。6時間加熱、還流、撹拌を続けたところ、水の発生は認められなくなった。引き続き、トルエンを留去しながら7時間加熱し、さらにトルエン留去後にメタノールを投入して再沈殿し、下記式で表されるポリイミドを得た。
【0088】
【0089】
<光学フィルム12の作製>
搬送工程において、加熱対象領域の表面温度が150℃となるように流延膜を加熱した以外は、光学フィルム11の作製と同様にして、光学フィルム12を作製した。
【0090】
<光学フィルム13の作製>
搬送工程において、加熱対象領域の表面温度が70℃となるように流延膜を加熱した以外は、光学フィルム1の作製と同様にして、光学フィルム13を作製した。
【0091】
<光学フィルム14の作製>
搬送工程において、加熱対象領域の表面温度が160℃となるように流延膜を加熱した以外は、光学フィルム1の作製と同様にして、光学フィルム14を作製した。
【0092】
<評価>
(カール量)
レーザー変位計を用い、テンターに入る前の流延膜の幅手方向内側の基準面(幅手中央部の位置)から、カールによる端部の反り上がり高さを測定し、以下の評価基準に基づいてカール量を評価した。
《評価基準》
◎ :カール量が3mm以下である。
○ :カール量が3mmよりも大きく7mm以下である。
× :カール量が7mmよりも大きく14mm以下である。
××:カール量が14mmよりも大きい。
【0093】
(端部ヨレ)
搬送工程での加熱によって流延膜が必要以上に軟化することで、流延膜の幅手端部にシワが発生していないかを外観で判断し、以下の評価基準に基づいて端部ヨレを評価した。
《評価基準》
◎:端部ヨレが全く発生していない。
○:端部ヨレがほとんど発生していない。
△:端部ヨレが僅かに見られるが、問題のない範囲である。
×:端部ヨレがかなり発生しており、問題がある。
【0094】
(搬送性)
以下の評価基準に基づき、流延膜の搬送性を外観評価した。
◎:搬送が非常に安定している。
○:搬送中にシワが若干発生しているが、搬送は安定している。
△:搬送中にシワが発生しているが、搬送に大きな支障はない。
×:カールによるクリップミス、端部割れ、または搬送中のシワによる破断が発生しており、搬送が不安定である。
【0095】
表1および表2は、作製した光学フィルム1~14についての評価の結果を示している。
【0096】
【0097】
【0098】
表1および表2より、光学フィルム5~7、13、14の作製では、カール量が低減されておらず、搬送も不安定である。光学フィルム7の作製では、支持体から剥離された流延膜に対して端部の加熱を行っていないため、端部のカールを低減することができない。そして、カールが残ったまま流延膜を搬送しているため、その後のテンターにおいてクリップミスが発生し、搬送が不安定になっていると考えられる。光学フィルム6の作製では、剥離後の流延膜の幅手最端部を加熱しており、幅手最端部よりも内側のカール部分を効率よく加熱できていないため、カール量の低減効果が少ないどころか、幅手最端部が乾燥しすぎてその後の搬送において端部割れが発生し、搬送が不安定になっていると考えられる。光学フィルム5の作製では、剥離後の流延膜の幅手最端部よりも内側に離れすぎた部分を加熱しているため、端部のカールを低減できてもその効果が小さく、その結果、カールによるテンターでのクリップミスが発生し、搬送が不安定になっていると考えられる。
【0099】
光学フィルム13の作製では、剥離後の流延膜の加熱対象領域の表面温度が70℃と低くすぎる、加熱によるカールの低減効果が低く、カールに起因するクリップミスが発生して搬送が不安定になっていると考えられる。光学フィルム14の作製では、剥離後の流延膜の加熱対象領域の表面温度が160℃と高すぎるため、流延膜の端部が軟化してシワが発生し、その後の搬送においてシワに起因する破断が生じて搬送が不安定になっていると考えられる。なお、光学フィルム14の作製では、端部の軟化により、カール量を測定することができなかった。
【0100】
これに対して、光学フィルム1~4、8~12の作製では、カール量、端部ヨレ、搬送性のいずれについても良好である(評価が◎、○または△である)。光学フィルム1~4、8~12の作製では、支持体から剥離した流延膜の幅手方向の一部である加熱対象領域を加熱する際に、加熱対象領域の幅手最端部が、流延膜の剥離前の幅手最端部に相当する位置から、流延膜の全幅に対してP%の距離だけ幅手内側に入った位置にあり、Pは、1%以上20%以下であり、良溶媒の沸点をT℃として、表面温度がT+40℃~T+110℃となるように加熱対象領域を加熱している。このように、流延膜に対して加熱位置および加熱温度を適切に制御しているため、樹脂としてCOPまたはPIを用いた場合でも、つまり、セルロース系樹脂を用いた場合でも、剥離後の流延膜の端部ヨレの発生を抑えながら、カールを効果的に低減することができ、これによってカールに起因するクリップミスやシワに起因する破断もなく、搬送を安定して行うことができると考えられる。
【0101】
特に、光学フィルム1、4の作製では、カール量が効果的に低減され、これによって搬送が非常に安定して行われていることから、Pは3%以上8%以下であることが望ましいと言える。
【0102】
<光学フィルム15の作製>
支持体上で、流延膜中の残留溶剤量が10%質量になるまで溶媒を蒸発させた以外は、光学フィルム1の作製と同様にして、光学フィルム15を作製した。
【0103】
<光学フィルム16の作製>
支持体上で、流延膜中の残留溶剤量が60%質量になるまで溶媒を蒸発させた以外は、光学フィルム1の作製と同様にして、光学フィルム16を作製した。
【0104】
<光学フィルム17の作製>
支持体上で、流延膜中の残留溶剤量が20%質量になるまで溶媒を蒸発させた以外は、光学フィルム1の作製と同様にして、光学フィルム17を作製した。
【0105】
<光学フィルム18の作製>
支持体上で、流延膜中の残留溶剤量が50%質量になるまで溶媒を蒸発させた以外は、光学フィルム1の作製と同様にして、光学フィルム18を作製した。
【0106】
作製した光学フィルム15~18について、上記と同様の評価基準に基づき、カール量、端部ヨレ、搬送性について評価した。表3は、作製した光学フィルム15~18についての評価の結果を示している。
【0107】
【0108】
表3より、剥離時の流延膜の残留溶媒量は、10質量%~60質量%であれば、カール量を低減する効果を損なうことなく、支持体からの剥離が可能となる。特に、剥離時の流延膜の残留溶媒量が20質量%~50質量%であれば、カール量を低減する効果を大きく得ながら剥離することが可能であると言える。
【0109】
ここで、残留溶媒量が10質量%のときにカール量が6mmであり、残留溶媒量が20質量%のときにカール量が5mmであることから、残留溶媒量がそれらの間の15質量%以上であれば、カール量を低減する効果が高いと推測できる。同様に、残留溶媒量が60質量%のときにカール量が6mmであり、残留溶媒量が50質量%のときにカール量が5mmであることから、残留溶媒量がそれらの間の55質量%以下であれば、カール量を低減する効果が高いと推測できる。このことから、剥離時の流延膜の残留溶媒量の好ましい範囲は、15質量%~55質量%であると言うことができる。
【0110】
また、残留溶媒量が20質量%のときにカール量が5mmであり、残留溶媒量が35質量%のときにカール量が4mmであることから、残留溶媒量がそれらの間の25質量%以上であれは、カール量を低減する効果がさらに高いと推測できる。同様に、残留溶媒量が50質量%のときにカール量が5mmであり、残留溶媒量が35質量%のときにカール量が4mmであることから、残留溶媒量がそれらの間の45質量%以下では、カール量を低減する効果がより高いと推測できる。このことから、剥離時の流延膜の残留溶媒量のさらに好ましい範囲は、25質量%~45質量%であると言うことができる。
【0111】
<光学フィルム19の作製>
支持体から流延膜を剥離した後の搬送工程において、流延膜に垂直な方向に対して幅手内側に20°だけ傾斜した方向(水平面に対して70°傾斜した方向)から加熱対象領域を加熱することができるように、熱源を傾けて配置した以外は、光学フィルム1の作製と同様にして、光学フィルム19を作製した。なお、熱源の幅手方向の位置については、加熱対象領域の幅手最端部の位置(剥離前の流延膜の幅手最端部から全幅の8%の位置)が、光学フィルム1の作製時と同じ位置となるように、熱源の位置を幅手内側に若干シフトさせた(以下の光学フィルムの作製でも、熱源を傾斜させる場合は同様にシフトさせるようにする)。
【0112】
<光学フィルム20の作製>
支持体から流延膜を剥離した後の搬送工程において、流延膜に垂直な方向に対して幅手内側に40°だけ傾斜した方向(水平面に対して50°傾斜した方向)から加熱対象領域を加熱することができるように、熱源を傾けて配置した以外は、光学フィルム1の作製と同様にして、光学フィルム20を作製した。
【0113】
<光学フィルム21の作製>
支持体から剥離した後の流延膜を少なくとも1本のロールによって搬送する際に、いずれかのロール上で加熱対象領域を熱源によって垂直上方から加熱した以外は、光学フィルム1の作製と同様にして、光学フィルム21を作製した。
【0114】
<光学フィルム22の作製>
支持体から流延膜を剥離した後の搬送工程において、流延膜に垂直な方向に対して幅手内側に40°だけ傾斜した方向(水平面に対して50°傾斜した方向)から加熱対象領域を加熱することができるように、熱源を傾けて配置した以外は、光学フィルム21の作製と同様にして、光学フィルム22を作製した。
【0115】
<光学フィルム23の作製>
支持体から流延膜を剥離した後の搬送工程において、流延膜を加熱する熱源として、赤外線ヒータを用いて流延膜に赤外線を照射して加熱対象領域を加熱した以外は、光学フィルム22の作製と同様にして、光学フィルム23を作製した。
【0116】
作製した光学フィルム19~23について、上記と同様の評価基準に基づき、カール量、端部ヨレ、搬送性について評価した。表4は、作製した光学フィルム19~23についての評価の結果を示している。
【0117】
【0118】
表4において、光学フィルム1、19、20の比較より、熱源を垂直方向から幅手内側に傾けるにつれて、カール量が低減されていることがわかる。これは、熱源を垂直方向から幅手内側に傾けることで、流延膜に対して斜めから吹き付ける熱風の力(風圧)が、幅手端部(カール部分)を平坦にする応力として働くためと考えられる。特に、流延膜に垂直な方向に対して幅手内側に20°~40°だけ傾斜した方向(水平面に対して50°~70°傾斜した方向)から熱風を加熱対象領域に吹き付けて加熱することが、カールの低減効果を確実に得る上で望ましいと言える。
【0119】
また、光学フィルム1と光学フィルム21、光学フィルム20と光学フィルム22との比較により、流延膜の幅手端部を、ロールとロールとの間に流延膜が位置するときに加熱するよりも、ロール上に位置するときに加熱するほうが、カールの低減効果が高いと言える。ロール上に位置するときに流延膜を加熱すると、ロールとの接触時に(ロールに抱かれる際に)幅手端部を平坦にする応力が流延膜に加えられるためと考えられる。
【0120】
特に、光学フィルム22の作製においては、カール量が最も少ない。これは、搬送工程において、熱源の傾斜配置とロール上での加熱とを併用しており、カール量の低減効果が最も高いためと考えられる。
【0121】
また、光学フィルム23の作製においては、カール量の低減効果は光学フィルム22の作製に比べて若干劣っている。これは、赤外線の照射では、熱風の吹き付けのような流延膜の押さえ付けがないため、つまり、幅手端部を平坦にする応力が流延膜に加えられないためと考えられる。しかし、赤外線の照射でも、非常に高いカール量の低減効果が得られており、流延膜の端部を加熱する手段として有効であると言える。
【0122】
〔その他〕
以上で説明した本実施形態の光学フィルムの製造方法は、以下のように表現することができる。
【0123】
1.セルロース系樹脂とは異なる樹脂および良溶媒を含むドープを支持体上に流延して流延膜を形成する流延工程と、前記支持体から前記流延膜を剥離する剥離工程と、前記支持体から剥離した前記流延膜をロールによって搬送する搬送工程と、前記ロールによって搬送された前記流延膜を延伸または乾燥させて光学フィルムとする延伸/乾燥工程とを含む光学フィルムの製造方法であって、
前記搬送工程では、前記支持体から剥離した前記流延膜の幅手方向の一部である加熱対象領域を、前記流延膜とは非接触の熱源によって加熱し、
前記加熱対象領域の幅手最端部は、前記流延膜の剥離前の幅手最端部に相当する位置から、前記流延膜の全幅に対してP%の距離だけ幅手内側に入った位置にあり、
前記Pは、1%以上20%以下であり、
前記良溶媒の沸点をT℃としたとき、
前記加熱対象領域の加熱時の表面温度は、T+40℃~T+110℃であることを特徴とする光学フィルムの製造方法。
【0124】
2.前記剥離工程において、前記流延膜の剥離時の残留溶媒量は、15質量%~55質量%であることを特徴とする前記1に記載の光学フィルムの製造方法。
【0125】
3.前記搬送工程では、前記支持体からの剥離後にカールする前記流延膜の幅手端部が平坦になるように応力を加えながら、前記熱源によって前記加熱対象領域を加熱することを特徴とする前記1または2に記載の光学フィルムの製造方法。
【0126】
4.前記熱源は、前記流延膜に垂直な方向に対して幅手内側に角度θだけ傾斜した方向から、前記加熱対象領域を加熱することを特徴とする前記3に記載の光学フィルムの製造方法。
【0127】
5.前記角度θは、20°~40°であることを特徴とする前記4に記載の光学フィルムの製造方法。
【0128】
6.前記熱源は、前記加熱対象領域を前記ロール上で加熱することを特徴とする前記3から5のいずれかに記載の光学フィルムの製造方法。
【0129】
7.前記熱源は、熱風を吹き付けることによって、前記加熱対象領域を加熱することを特徴とする前記1から6のいずれかに記載の光学フィルムの製造方法。
【0130】
8.前記熱源は、赤外線を照射することによって、前記加熱対象領域を加熱することを特徴とする前記1から6のいずれかに記載の光学フィルムの製造方法。
【0131】
9.前記樹脂は、シクロオレフィン系樹脂またはポリイミド系樹脂を含むことを特徴とする前記1から8のいずれかに記載の光学フィルムの製造方法。
【0132】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で拡張または変更して実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明の光学フィルムの製造方法は、セルロース系樹脂とは異なる樹脂を用い、溶液流延製膜法によって光学フィルムを製造する場合に利用可能である。
【符号の説明】
【0134】
3 支持体
5 流延膜
13 ロール
15 熱源
E0 流延膜の幅手最端部
E1 加熱対象領域の幅手最端部
R 加熱対象領域