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特許7063383蛍光X線分析装置および蛍光X線分析方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-25
(45)【発行日】2022-05-09
(54)【発明の名称】蛍光X線分析装置および蛍光X線分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/223 20060101AFI20220426BHJP
【FI】
G01N23/223
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020523970
(86)(22)【出願日】2018-06-08
(86)【国際出願番号】 JP2018022117
(87)【国際公開番号】W WO2019234935
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2020-08-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100108523
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 雅博
(74)【代理人】
【識別番号】100098305
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 祥人
(74)【代理人】
【識別番号】100125704
【弁理士】
【氏名又は名称】坂根 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100187931
【弁理士】
【氏名又は名称】澤村 英幸
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 佑多
【審査官】越柴 洋哉
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-324009(JP,A)
【文献】特開2011-200532(JP,A)
【文献】特表2015-513423(JP,A)
【文献】特開2006-317370(JP,A)
【文献】特開2003-229084(JP,A)
【文献】特開2012-159404(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00 - G01N 23/2276
G21K 1/00 - G21K 7/00
A61B 6/00 - A61B 6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析対象の試料が支持される支持部と、
X線を遮断する遮断領域およびX線を透過する透過領域を有するコリメータと、
前記コリメータの前記透過領域を通して前記支持部により支持された試料にX線を照射するX線源と、
前記支持部と前記コリメータとを回転軸の周りで相対的に回転させる回転駆動装置と、
前記支持部により支持された試料からの蛍光X線を検出する検出器と、
前記検出器により検出される蛍光X線に基づいて試料の組成の分析を行う分析実行部とを備え、
前記透過領域は前記回転軸上に位置する頂点を有し、
前記透過領域の周方向の長さは、前記頂点から外方へ比例的に増加し、
前記X線源は、前記コリメータまたは前記支持部が回転している状態で、X線が前記コリメータの前記透過領域と前記遮断領域とに常時またがるようにX線を出射することにより、時分割で試料の各部分にX線を照射する、蛍光X線分析装置。
【請求項2】
前記透過領域は扇形状を有する、請求項1記載の蛍光X線分析装置。
【請求項3】
前記透過領域は開口部である、請求項1または2記載の蛍光X線分析装置。
【請求項4】
分析対象の試料が支持される支持部と、
X線を遮断する遮断領域およびX線を透過する透過領域を有するコリメータと、
前記コリメータの前記透過領域を通して前記支持部により支持された試料にX線を照射するX線源と、
前記支持部と前記コリメータとを回転軸の周りで相対的に回転させる回転駆動装置と、
前記支持部により支持された試料からの蛍光X線を検出する検出器と、
前記検出器により検出される蛍光X線に基づいて試料の組成の分析を行う分析実行部とを備え、
前記透過領域は前記回転軸上に位置する頂点を有し、
前記透過領域の周方向の長さは、前記頂点から外方へ比例的に増加し、
前記コリメータは固定され、前記支持部が前記コリメータに対して回転するように構成される蛍光X線分析装置。
【請求項5】
前記コリメータと前記支持部との相対的な回転速度は720度/秒である、請求項1~4のいずれか一項に記載の蛍光X線分析装置。
【請求項6】
試料に照射されるX線の強度は、前記透過領域の面積と前記コリメータの全体の面積との比率に基づいて補正される、請求項1~5のいずれか一項に記載の蛍光X線分析装置。
【請求項7】
前記コリメータは、前記X線源から出射されるX線の一部を遮断し、X線の他の一部を通過させるように配置される、請求項1~6のいずれか一項に記載の蛍光X線分析装置。
【請求項8】
前記コリメータは、前記透過領域の周方向の長さが可変に構成される、請求項1~7のいずれか一項に記載の蛍光X線分析装置。
【請求項9】
前記X線源により出射されるX線の強度を制御する強度制御部をさらに備える、請求項1~8のいずれか一項に記載の蛍光X線分析装置。
【請求項10】
前記検出器により検出される蛍光X線の検出量を示す検出信号が飽和しているか否かを判定する判定部をさらに備え、
前記強度制御部は、前記判定部による判定結果に基づいて検出信号が飽和しない範囲で出射されるX線の強度が大きくなるように前記X線源を制御する、請求項9記載の蛍光X線分析装置。
【請求項11】
分析対象の試料が支持される支持部とX線を遮断する遮断領域およびX線を透過する透過領域を有するコリメータとを回転駆動装置により回転軸の周りで相対的に回転させるステップと、
前記コリメータまたは前記支持部が回転している状態で、前記コリメータの前記透過領域を通して前記支持部により支持された試料の各部分に時分割でX線源によりX線を照射するステップと、
前記支持部により支持された試料からの蛍光X線を検出器により検出するステップと、
前記検出器により検出される蛍光X線に基づいて試料の組成の分析を行うステップとを含み、
前記透過領域は前記回転軸上に位置する頂点を有し、
前記透過領域の周方向の長さは、前記頂点から外方へ比例的に増加し、
前記試料の各部分に時分割でX線源によりX線を照射するステップは、X線が前記コリメータの前記透過領域と前記遮断領域とに常時またがるようにX線を出射することを含む、蛍光X線分析方法。
【請求項12】
分析対象の試料が支持される支持部とX線を遮断する遮断領域およびX線を透過する透過領域を有するコリメータとを回転駆動装置により回転軸の周りで相対的に回転させるステップと、
前記コリメータの前記透過領域を通して前記支持部により支持された試料にX線源によりX線を照射するステップと、
前記支持部により支持された試料からの蛍光X線を検出器により検出するステップと、
前記検出器により検出される蛍光X線に基づいて試料の組成の分析を行うステップとを含み、
前記透過領域は前記回転軸上に位置する頂点を有し、
前記透過領域の周方向の長さは、前記頂点から外方へ比例的に増加し、
前記回転させるステップは、固定された前記コリメータに対して前記支持部を回転させることを含む蛍光X線分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、蛍光X線により試料の分析を行う蛍光X線分析装置および蛍光X線分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光X線分析装置においては、X線源から試料にX線が照射されることにより、試料が励起され、試料から蛍光X線が放出される。試料から放出された蛍光X線の単位時間当たりのフォトン数(以下、単にフォトン数と呼ぶ。)が検出器により検出される。検出器は、検出されたフォトン数を示す検出信号を出力する。検出器により出力される検出信号に基づいて、試料に含まれる元素の分析が行われる。
【0003】
検出信号が飽和することなく検出可能なフォトン数には制限がある。そのため、X線源により出射されるX線の強度(線量)を最小にした場合でも、検出信号が飽和することがある。これを防止するために、コリメータと呼ばれる部材がX線源と試料との間に配置される。コリメータは、開口部を有する板状部材であり、X線源により出射されたX線の一部を遮断することにより試料に照射されるX線を減衰させる。
【0004】
一方、特許文献1には、蛍光X線を用いた分析技術の分野ではなく、医療の分野で用いられるX線低減システムが記載されている。このX線低減システムにおいては、X線を透過するベッドの下方にX線源が配置され、ベッドの上方にコリメータが配置され、コリメータの上方にイメージインテンシファイアが配置される。コリメータは円板形状を有し、コリメータの中央には円形アパーチャが形成される。ベッドの上には患者が横たわり、患者のそばにオペレータが存在する。
【0005】
オペレータの操作に応答してX線源から上方の患者にX線が照射される。患者に照射されたX線の一部は、コリメータの円形アパーチャを通過してイメージインテンシファイアに到達する。イメージインテンシファイアに到達したX線に基づいて、関心領域において高い画質を有する画像が生成される。また、X線の他の一部がコリメータの円形アパーチャを除く部分で遮断されることにより、患者の周囲にいるオペレータへの被曝が低減される。
【文献】特表2016-501656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これに対して、蛍光X線を用いた分析技術の分野においては、試料に照射されるX線の強度が空間的に不均一であると、試料全体の組成を正しく分析することができない。特に、不均一に分布した元素を含む試料を分析するときには、この問題はより顕在化する。そのため、試料に照射されるX線を空間的に均一に減衰させることが要求される。
【0007】
本発明の目的は、試料に照射されるX線を空間的に均一に減衰させることが可能な蛍光X線分析装置および蛍光X線分析方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明の一局面に従う蛍光X線分析装置は、分析対象の試料が支持される支持部と、X線を遮断する遮断領域およびX線を透過する透過領域を有するコリメータと、コリメータの透過領域を通して支持部により支持された試料にX線を照射するX線源と、支持部とコリメータとを回転軸の周りで相対的に回転させる回転駆動装置と、支持部により支持された試料からの蛍光X線を検出する検出器と、検出器により検出される蛍光X線に基づいて試料の組成の分析を行う分析実行部とを備え、透過領域は回転軸上に位置する頂点を有し、透過領域の周方向の長さは、頂点から外方へ比例的に増加し、X線源は、コリメータまたは支持部が回転している状態で、X線がコリメータの透過領域と遮断領域とに常時またがるようにX線を出射することにより、時分割で試料の各部分にX線を照射する。
【0009】
この蛍光X線分析装置においては、支持部とコリメータとが回転駆動装置により回転軸の周りで相対的に回転される。コリメータの透過領域を通して支持部により支持された試料にX線源によりX線が照射され、試料からの蛍光X線が検出器により検出される。検出器により検出される蛍光X線に基づいて試料の組成の分析が行われる。
【0010】
この構成によれば、X線源により出射されるX線の一部がコリメータの遮断領域により遮断され、X線の他の一部がコリメータの透過領域を通過する。ここで、透過領域は回転軸上に位置する頂点を有し、透過領域の周方向の長さは、頂点から外方へ比例的に増加する。そのため、支持部とコリメータとが相対的に1回転する間にコリメータの透過領域を通過して試料の各部に照射されるX線は空間的に一様となる。これにより、試料に照射されるX線を空間的に均一に減衰させることができる。
【0011】
(2)透過領域は扇形状を有してもよい。この場合、透過領域の周方向の長さが頂点から外方へ比例的に増加するコリメータを簡単な形状により実現することができる。
【0012】
(3)透過領域は開口部であってもよい。この場合、コリメータの透過領域を通過して試料の各部に照射されるX線をより容易に空間的に一様にすることができる。
【0013】
(4)本発明の他の局面に従う蛍光X線分析装置は、分析対象の試料が支持される支持部と、X線を遮断する遮断領域およびX線を透過する透過領域を有するコリメータと、コリメータの透過領域を通して支持部により支持された試料にX線を照射するX線源と、支持部とコリメータとを回転軸の周りで相対的に回転させる回転駆動装置と、支持部により支持された試料からの蛍光X線を検出する検出器と、検出器により検出される蛍光X線に基づいて試料の組成の分析を行う分析実行部とを備え、透過領域は回転軸上に位置する頂点を有し、透過領域の周方向の長さは、頂点から外方へ比例的に増加し、コリメータは固定され、支持部がコリメータに対して回転するように構成され。この場合、簡単な構成で支持部とコリメータを回転軸の周りで相対的に回転させることができる。
(5)コリメータと支持部との相対的な回転速度は720度/秒であってもよい。
(6)試料に照射されるX線の強度は、透過領域の面積とコリメータの全体の面積との比率に基づいて補正されてもよい。
(7)コリメータは、X線源から出射されるX線の一部を遮断し、X線の他の一部を通過させるように配置されてもよい。
【0014】
)コリメータは、透過領域の周方向の長さが可変に構成されてもよい。この場合、試料の組成に応じてコリメータの透過領域の周方向の長さを容易に変化させることができる。これにより、試料の組成に応じてX線を適切な強度に均一に減衰させることができる。
【0015】
)蛍光X線分析装置は、X線源により出射されるX線の強度を制御する強度制御部をさらに備えてもよい。この場合、試料の組成に応じてX線の強度を適切に調整することができる。
【0016】
10)蛍光X線分析装置は、検出器により検出される蛍光X線の検出量を示す検出信号が飽和しているか否かを判定する判定部をさらに備え、強度制御部は、判定部による判定結果に基づいて検出信号が飽和しない範囲で出射されるX線の強度が大きくなるようにX線源を制御してもよい。この場合、試料の組成によらず高い効率で試料の分析を実行することができる。
【0017】
(11)本発明のさらに他の局面に従う蛍光X線分析方法は、分析対象の試料が支持される支持部とX線を遮断する遮断領域およびX線を透過する透過領域を有するコリメータとを回転駆動装置により回転軸の周りで相対的に回転させるステップと、コリメータまたは支持部が回転している状態で、コリメータの透過領域を通して支持部により支持された試料の各部分に時分割でX線源によりX線を照射するステップと、支持部により支持された試料からの蛍光X線を検出器により検出するステップと、検出器により検出される蛍光X線に基づいて試料の組成の分析を行うステップとを含み、透過領域は回転軸上に位置する頂点を有し、透過領域の周方向の長さは、頂点から外方へ比例的に増加し、試料の各部分に時分割でX線源によりX線を照射するステップは、X線がコリメータの透過領域と遮断領域とに常時またがるようにX線を出射することを含む
【0018】
この蛍光X線分析方法によれば、支持部とコリメータとが相対的に1回転する間にコリメータの透過領域を通過して試料の各部に照射されるX線は空間的に一様となる。これにより、試料に照射されるX線を空間的に均一に減衰させることができる。
【0019】
(12)本発明のさらに他の局面に従う蛍光X線分析方法は、分析対象の試料が支持される支持部とX線を遮断する遮断領域およびX線を透過する透過領域を有するコリメータとを回転駆動装置により回転軸の周りで相対的に回転させるステップと、コリメータの透過領域を通して支持部により支持された試料にX線源によりX線を照射するステップと、支持部により支持された試料からの蛍光X線を検出器により検出するステップと、検出器により検出される蛍光X線に基づいて試料の組成の分析を行うステップとを含み、透過領域は回転軸上に位置する頂点を有し、透過領域の周方向の長さは、頂点から外方へ比例的に増加し、回転させるステップは、固定されたコリメータに対して支持部を回転させることを含。この場合、簡単な構成で支持部とコリメータを回転軸の周りで相対的に回転させることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、X線を空間的に均一に減衰させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は本発明の一実施の形態に係る蛍光X線分析装置の構成を示す図である。
図2図2図1のコリメータの構成を示す平面図である。
図3図3図1の処理装置の機能部の構成を示す図である。
図4図4は分析プログラムにより行われる分析処理のアルゴリズムを示すフローチャートである。
図5図5はコリメータの第1の変形例を示す平面図である。
図6図6はコリメータの第1の変形例を示す平面図である。
図7図7はコリメータの第2の変形の例を示す平面図である。
図8図8はコリメータの第2の変形の例を示す平面図である。
図9図9はコリメータの第3の変形例を示す平面図である。
図10図10はコリメータの第3の変形例を示す平面図である。
図11図11はコリメータの第4の変形例を示す平面図である。
図12図12はコリメータの第4の変形例を示す平面図である。
図13図13はコリメータの第5の変形例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(1)蛍光X線分析装置の構成
以下、本発明の実施の形態に係る蛍光X線分析装置および蛍光X線分析方法について図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の一実施の形態に係る蛍光X線分析装置の構成を示す図である。図2は、図1のコリメータ40の構成を示す平面図である。図1に示すように、蛍光X線分析装置100は、波長分散型の蛍光X線分析装置であり、回転駆動装置10、支持部20、X線源30、コリメータ40、分光結晶50、検出器60および処理装置70を含む。なお、蛍光X線分析装置100は、エネルギー分散型の蛍光X線分析装置であってもよい。
【0023】
回転駆動装置10は、例えば電動モータであり、上方に延びる駆動軸11を有する。支持部20は、円板形状を有する試料台であり、回転駆動装置10の駆動軸11の上端に取り付けられる。支持部20には、分析対象の試料Sが支持される。支持部20は、上下方向に平行な回転軸Rを中心に回転駆動装置10により一定速度で回転される。X線源30は、支持部20の上方に配置され、支持部20により支持された試料SにX線を照射する。
【0024】
コリメータ40は、X線を遮断する材料(例えば鉛)により形成された板状部材であり、支持部20とX線源30との間に配置される。コリメータ40は、円板形状を有し、円板の中心が回転駆動装置10の回転軸Rと重なるように配置される。
【0025】
図2に示すように、コリメータ40には、扇形状の開口部41が形成される。開口部41における扇形の頂点は回転軸Rと重なる。なお、扇形の頂点は、扇形における径方向に沿った直線状の2つの縁部の交点を意味する。扇形の中心角はθである。中心角θの値は、特に限定されない。図2の例では、開口部41は切り欠きであり、扇形の外周部分(弧)がコリメータ40の側面から側方に露出している。コリメータ40における開口部41を除く部分がX線を遮断する遮断領域となる。
【0026】
図1に示すように、コリメータ40は、X線源30から出射されるX線の一部を遮断し、X線の他の一部を通過させる。支持部20は一定速度で回転されているので、コリメータ40を通過したX線は、試料Sの各部分に時分割で均一に照射される。時間平均すると、試料Sの各部分に照射されるX線は、空間的に均一に減衰される。
【0027】
なお、本実施の形態において、コリメータ40が回転されずに支持部20が回転されるが、本発明はこれに限定されない。支持部20とコリメータ40とが相対的に回転されればよい。したがって、コリメータ40が回転可能に保持される場合には、支持部20が回転されずにコリメータ40が回転されてもよい。
【0028】
試料SにX線が照射されることにより試料Sが励起され、試料Sから蛍光X線が放出される。分光結晶50は、例えば反射型の回折格子であり、試料Sから放出された蛍光X線を波長ごとに異なる角度で反射するように分光する。分光結晶50は、透過型の回折格子であってもよい。
【0029】
検出器60は、例えば比例計数管であり、分光結晶50により分光された波長ごとの単位時間当たりの蛍光X線のフォトン数(以下、単にフォトン数と呼ぶ。)を検出し、検出されたフォトン数を示す検出信号を出力する。蛍光X線分析装置100がエネルギー分散型の蛍光X線分析装置である場合には、検出器60は半導体検出器であってもよい。
【0030】
処理装置70は、CPU(中央演算処理装置)71およびメモリ72を含む。メモリ72は、RAM(ランダムアクセスメモリ)、ROM(リードオンリメモリ)、ハードディスクまたは半導体メモリ等により構成され、分析プログラムを記憶する。処理装置70は、回転駆動装置10、X線源30および検出器60の動作を制御するとともに、検出器60により出力される検出信号に基づいて、試料Sに含まれる元素の定量分析または定性分析を行う。処理装置70の詳細については後述する。
【0031】
(2)分析処理
図3は、図1の処理装置70の機能部の構成を示す図である。図4は、分析プログラムにより行われる分析処理のアルゴリズムを示すフローチャートである。図3に示すように、処理装置70は、機能部として、強度制御部1、回転制御部2、取得部3、判定部4および分析実行部5を含む。図1のCPU71がメモリ72に記憶された分析プログラムを実行することにより処理装置70の機能部が実現される。処理装置70の機能部の一部または全てが電子回路等のハードウエアにより実現されてもよい。
【0032】
使用者は、分析対象の試料Sを図示しないオートサンプラにセットし、蛍光X線分析装置100に分析開始の指示を行うことにより、試料Sが支持部20により支持され、分析処理が開始される。以下、図3の処理装置70および図4のフローチャートを用いて分析処理を説明する。
【0033】
まず、強度制御部1は、X線源30により出射されるX線の強度(線量)を設定する(ステップS1)。回転制御部2は、支持部20を回転させるように回転駆動装置10を制御する(ステップS2)。支持部20の回転速度は、例えば720度/秒である 。ステップS2はステップS1の後に実行されるが、本発明はこれに限定されない。ステップS2は、ステップS1よりも先に実行されてもよいし、ステップS1と同時に実行されてもよい。
【0034】
次に、強度制御部1は、ステップS1で設定された強度を有するX線を出射するようにX線源30を制御する(ステップS3)。これにより、X線源30からコリメータ40を通して回転する支持部20上の試料SにX線が照射され、試料Sから蛍光X線が放出される。取得部3は、検出器60を制御することにより試料Sから放出される蛍光X線のフォトン数を検出するとともに、検出器60により出力される検出信号を取得する(ステップS4)。
【0035】
判定部4は、ステップS4で取得された検出信号が飽和しているか否かを判定する(ステップS5)。検出信号が飽和している場合、強度制御部1は、ステップS1で設定されたX線源30により出射されるX線の強度を低減させ(ステップS6)、ステップS2に戻る。検出信号が飽和しなくなるまでステップS3~S6が繰り返される。
【0036】
ステップS5で検出信号が飽和していない場合、分析実行部5は、ステップS4で取得された検出信号に基づいて試料Sの組成の分析を実行する(ステップS7)。具体的には、分析実行部5は、蛍光X線の波長と蛍光X線のフォトン数との関係を示すスペクトルを生成し、生成されたスペクトルから試料Sの組成を同定する。このとき、分析実行部5は、試料Sに照射されるX線の強度を開口部41の面積とコリメータ40の全体の面積との比率に基づいて補正することができる。ステップS7の後、分析実行部5は分析処理を終了する。
【0037】
ステップS1において、検出器60により出力される検出信号が飽和しないように、X線源30により出射されるX線の強度が十分小さく設定される場合には、分析処理においてステップS5,S6はスキップされてもよい。この場合、処理装置70は判定部4を含まない。
【0038】
一方で、ステップS1において、検出器60により出力される検出信号が飽和するように、X線源30により出射されるX線の強度が十分大きく設定されてもよい。この場合、ステップS3~S6が繰り返されることにより、ステップS6において、検出信号が飽和しない範囲でX線の強度が大きく設定される。これにより、ステップS7において高い効率で試料Sの分析を実行することができる。
【0039】
(3)効果
本実施の形態に係る蛍光X線分析装置100においては、X線源30により出射されるX線の一部がコリメータ40により遮断され、X線の他の一部がコリメータ40の扇形状の開口部41を通過する。開口部41の扇形の頂点は回転軸R上に位置する。そのため、支持部20とコリメータ40とが相対的に1回転する間にコリメータ40の開口部41を通過して試料Sの各部に照射されるX線は空間的に一様となる。これにより、試料Sに照射されるX線を空間的に均一に減衰させることができる。
【0040】
また、本実施の形態においては、コリメータ40は固定され、支持部20がコリメータ40に対して回転するように構成される。この場合、簡単な構成で支持部20とコリメータ40回転軸Rの周りで相対的に回転させることができる。
【0041】
(4)コリメータの変形例
(a)第1の変形例
図5および図6は、コリメータ40の第1の変形例を示す平面図である。図5の例では、コリメータ40に扇形状の2つの開口部41が形成される。図5の一方の開口部41を開口部41aと呼び、他方の開口部41を開口部41bと呼ぶ。開口部41a,41bの扇形の中心角はそれぞれθ,θである。図5の例では、θとθとの和は、図2の開口部41の中心角θに等しい。この場合、図5のコリメータ40は、図2のコリメータ40実質的に等価である。
【0042】
図6の例においては、コリメータ40に扇形状の開口部41と環状扇形状(annular sector)の開口部42とが形成される。図6の開口部41を開口部41cと呼ぶ。開口部41cは、直線状の2つの縁部L1,L2と、弧状の外縁部L3とを有する。開口部42は、直線状の2つの縁部L4,L5と、弧状の内縁部L6とを有する。開口部41cにおける扇形の頂点(2つの縁部L1,L2の交点)は回転軸Rと重なる。開口部42は切り欠きであり、環状扇形の外周部分(弧)がコリメータ40の側面から側方に露出している。
【0043】
開口部41cの外縁部L3と開口部42の内縁部L6とは、互いに等しい長さを有し、図6に点線で示す共通の円の円周上に位置する。縁部L1と縁部L2とが成す角度はθである。同様に、縁部L4と縁部L5とが成す角度はθである。図6の例では、θは、図2の開口部41の中心角θに等しい。この場合、図6のコリメータ40は、図2のコリメータ40実質的に等価である。このように、図2の開口部41は、コリメータ40の周方向に複数に分割されてもよいし(図5参照)、コリメータ40の周方向および径方向に複数に分割されてもよい(図6参照)。
【0044】
(b)第2の変形例
上記実施の形態においては、開口部41は切り欠きであり、外周部分(弧)がコリメータ40の側面から側方に露出しているが、本発明はこれに限定されない。図7および図8は、コリメータ40の第2の変形例を示す平面図である。図7の例のように、開口部41の外周部分にコリメータ40の外周部分43が残存することにより、開口部41の外周部分がコリメータ40の側面から側方に露出していなくてもよい。
【0045】
また、図8の例のように、コリメータ40は矩形状を有してもよい。あるいは、コリメータ40は、長円形状、楕円形状または多角形状等の他の形状を有してもよい。第2の変形例においては、図5の例のように、コリメータ40に複数の開口部41が形成される場合でも、コリメータ40が複数の部分に分割されることなく一体的にコリメータ40を形成することができる。
【0046】
(c)第3の変形例
コリメータ40は、開口部41の扇形の周方向の長さ(弧の長さ)、すなわち中心角が変化可能に構成されてもよい。この場合、試料Sの組成に応じてコリメータ40の開口部41の周方向の長さを容易に変化させることができる。これにより、試料Sの組成に応じてX線を適切な強度に均一に減衰させることができる。
【0047】
図9および図10は、コリメータ40の第3の変形例を示す平面図である。図9の例では、コリメータ40の周方向における端部44(開口部41に隣接する部分)がコリメータ40の周方向に引き出し自在でかつ引き込み自在に形成される。これにより、開口部41の扇形の中心角が変化可能となる。
【0048】
図10の例では、コリメータ40は、2つの半円形状の板部材40a,40bにより構成される。板部材40a,40bは、各々の半円の中心が回転軸Rと重なる状態で積層される。なお、半円の中心は、弦の中点を意味する。板部材40aにおける半円の弦の半分の部分と板部材40bにおける半円の弦の半分の部分との間が扇形状の開口部41となる。板部材40a,40bの一方は、他方に対して周方向に引き出し自在でかつ引き込み自在に形成される。これにより、開口部41の扇形の中心角が変化可能となる。
【0049】
板部材40a,40bは、半円形状ではなく他の扇形状であってもよく、同一の形状でなくてもよい。例えば、板部材40aが半円形状であり、板部材40bが扇形状である場合、板部材40a,40bは、板部材40aの半円の中心および板部材40bの扇形の頂点が回転軸Rと重なる状態で積層される。また、板部材40a,40bの各々が扇形状である場合、板部材40a,40bは、各々の扇形の頂点が回転軸Rと重なる状態で積層される。
【0050】
(d)第4の変形例
上記実施の形態においては、開口部41は扇形状を有するが、本発明はこれに限定されない。開口部41は、周方向の長さが頂点(回転軸Rと重なる点)から外方に向かうにつれて比例的に増加する形状を有すればよく、扇形状を有さなくてもよい。この場合でも、コリメータ40を通過したX線を空間的に均一に減衰させることができる。
【0051】
図11および図12は、コリメータ40の第4の変形例を示す平面図である。図11の例では、コリメータ40に扇形状とは異なる形状を有する開口部41が形成される。図11の開口部41を開口部41dと呼ぶ。開口部41dは、回転軸Rと重なる位置(頂点)から湾曲しつつ外方に延びる2つの縁部L7,L8を有する。回転軸Rを中心に縁部L7を所定の角度だけ仮想的に回転させると、縁部L7は縁部L8に重なる。この場合、開口部41dの周方向の長さは、頂点から外方に向かうにつれて比例的に増加する。
【0052】
同様に、図12の例では、コリメータ40に扇形状とは異なる形状を有する開口部41が形成される。図12の開口部41を開口部41eと呼ぶ。開口部41eは、回転軸Rと重なる位置(頂点)から屈曲しつつ外方に延びる2つの縁部L9,L10を有する。具体的には、縁部L9は、直線状の縁部La,Lbおよび弧状の縁部Lcからなる。縁部L10は、直線状の縁部Ld,Leおよび弧状の縁部Lfからなる。
【0053】
縁部Laは、回転軸Rに重なる位置から外方に向かって直線状に延びる。縁部Lbはコリメータ40の外方から回転軸Rに重なる位置に向かって直線状に延びる。縁部Lcは、縁部Laの外端部と縁部Lbの内端部とを接続する。縁部Ldは、回転軸Rに重なる位置から外方に向かって直線状に延びる。縁部Leはコリメータ40の外方から回転軸Rに重なる位置に向かって直線状に延びる。縁部Lfは、縁部Ldの外端部と縁部Leの内端部とを接続する。
【0054】
縁部La,Lb,Lcの長さは、縁部Ld,Le,Lfの長さとそれぞれ等しい。縁部Lcと縁部Lfとは、図12に点線で示す共通の円の円周上に位置する。縁部Laと縁部Ldとが成す角度は、縁部Lbと縁部Leとが成す角度と等しい。したがって、回転軸Rを中心に縁部La,Lb,Lcを所定の角度だけ仮想的に回転させると、縁部La,Lb,Lcは縁部Ld,Le,Lfにそれぞれ重なる。すなわち、回転軸Rを中心に縁部L9を所定の角度だけ仮想的に回転させると、縁部L9は縁部L10に重なる。この場合、開口部41eの周方向の長さは、頂点から外方に向かうにつれて比例的に増加する。
【0055】
(e)第5の変形例
上記実施の形態においては、コリメータ40は開口部を有するが、本発明はこれに限定されない。図13は、コリメータ40の第5の変形例を示す平面図である。図13の例では、コリメータ40は、開口部に代えて、X線を透過する材料(例えばガラス)により形成された透過領域45を有する。図13では、透過領域45がドットパターンにより図示されている。コリメータ40における透過領域45を除く部分は、X線を遮断する遮断領域となる。この場合でも、コリメータ40を通過したX線を空間的に均一に減衰させることができる。
【0056】
なお、透過領域45の形状は、上記の実施の形態またはコリメータ40の第1~第4の変形例に記載されたいずれの開口部の形状と同じであってもよい。また、第1~第4の変形例に記載された開口部および第5の変形例に記載された透過領域が組み合わされてコリメータ40が構成されてもよい。
(5)参考形態
(5-1)本発明の第1の参考形態に従う蛍光X線分析装置は、分析対象の試料が支持される支持部と、X線を遮断する遮断領域およびX線を透過する透過領域を有するコリメータと、コリメータの透過領域を通して支持部により支持された試料にX線を照射するX線源と、支持部とコリメータとを回転軸の周りで相対的に回転させる回転駆動装置と、支持部により支持された試料からの蛍光X線を検出する検出器と、検出器により検出される蛍光X線に基づいて試料の組成の分析を行う分析実行部とを備え、透過領域は回転軸上に位置する頂点を有し、透過領域の周方向の長さは、頂点から外方へ比例的に増加する。
この蛍光X線分析装置においては、支持部とコリメータとが回転駆動装置により回転軸の周りで相対的に回転される。コリメータの透過領域を通して支持部により支持された試料にX線源によりX線が照射され、試料からの蛍光X線が検出器により検出される。検出器により検出される蛍光X線に基づいて試料の組成の分析が行われる。
この構成によれば、X線源により出射されるX線の一部がコリメータの遮断領域により遮断され、X線の他の一部がコリメータの透過領域を通過する。ここで、透過領域は回転軸上に位置する頂点を有し、透過領域の周方向の長さは、頂点から外方へ比例的に増加する。そのため、支持部とコリメータとが相対的に1回転する間にコリメータの透過領域を通過して試料の各部に照射されるX線は空間的に一様となる。これにより、試料に照射されるX線を空間的に均一に減衰させることができる。
(5-2)透過領域は扇形状を有してもよい。この場合、透過領域の周方向の長さが頂点から外方へ比例的に増加するコリメータを簡単な形状により実現することができる。
(5-3)透過領域は開口部であってもよい。この場合、コリメータの透過領域を通過して試料の各部に照射されるX線をより容易に空間的に一様にすることができる。
(5-4)コリメータは固定され、支持部がコリメータに対して回転するように構成されてもよい。この場合、簡単な構成で支持部とコリメータと回転軸の周りで相対的に回転させることができる。
(5-5)コリメータは、透過領域の周方向の長さが可変に構成されてもよい。この場合、試料の組成に応じてコリメータの透過領域の周方向の長さを容易に変化させることができる。これにより、試料の組成に応じてX線を適切な強度に均一に減衰させることができる。
(5-6)蛍光X線分析装置は、X線源により出射されるX線の強度を制御する強度制御部をさらに備えてもよい。この場合、試料の組成に応じてX線の強度を適切に調整することができる。
(5-7)蛍光X線分析装置は、検出器により検出される蛍光X線の検出量を示す検出信号が飽和しているか否かを判定する判定部をさらに備え、強度制御部は、判定部による判定結果に基づいて検出信号が飽和しない範囲で出射されるX線の強度が大きくなるようにX線源を制御してもよい。この場合、試料の組成によらず高い効率で試料の分析を実行することができる。
(5-8)本発明の第2の参考形態に従う蛍光X線分析方法は、分析対象の試料が支持される支持部とX線を遮断する遮断領域およびX線を透過する透過領域を有するコリメータとを回転駆動装置により回転軸の周りで相対的に回転させるステップと、コリメータの透過領域を通して支持部により支持された試料にX線源によりX線を照射するステップと、支持部により支持された試料からの蛍光X線を検出器により検出するステップと、検出器により検出される蛍光X線に基づいて試料の組成の分析を行うステップとを含み、透過領域は回転軸上に位置する頂点を有し、透過領域の周方向の長さは、頂点から外方へ比例的に増加する。
この蛍光X線分析方法によれば、支持部とコリメータとが相対的に1回転する間にコリメータの透過領域を通過して試料の各部に照射されるX線は空間的に一様となる。これにより、試料に照射されるX線を空間的に均一に減衰させることができる。
(5-9)回転させるステップは、固定されたコリメータに対して支持部を回転させることを含んでもよい。この場合、簡単な構成で支持部とコリメータと回転軸の周りで相対的に回転させることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13