(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-25
(45)【発行日】2022-05-09
(54)【発明の名称】ステアリング装置
(51)【国際特許分類】
B62D 1/18 20060101AFI20220426BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20220426BHJP
【FI】
B62D1/18
B62D5/04
(21)【出願番号】P 2020553256
(86)(22)【出願日】2019-10-16
(86)【国際出願番号】 JP2019040750
(87)【国際公開番号】W WO2020080435
(87)【国際公開日】2020-04-23
【審査請求日】2021-04-14
(31)【優先権主張番号】P 2018197226
(32)【優先日】2018-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】特許業務法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒川 祥史
【審査官】鈴木 貴晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-264810(JP,A)
【文献】特開平11-043050(JP,A)
【文献】実開平05-086752(JP,U)
【文献】特開2009-208488(JP,A)
【文献】特開2008-174047(JP,A)
【文献】特開2008-110701(JP,A)
【文献】特開2012-201334(JP,A)
【文献】特開2014-221588(JP,A)
【文献】特開2008-049992(JP,A)
【文献】特開2018-052271(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 1/16-1/20, 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングコラムと、
前記ステアリングコラムの内側に回転自在に支持されたステアリングシャフトと、
を備え、
前記ステアリングコラムは、車体に支持固定された筒状の前側コラムと、前記前側コラムの後側に配され、かつ、前記前側コラムの後端部に連結された前端部を有する、筒状の後側コラムとを有し、
前記ステアリングシャフトは、前記前側コラムの内側に回転自在に支持された前側シャフトと、前記後側コラムの内側に回転自在に支持され、かつ、ステアリングホイールが支持固定される後端部を有する、後側シャフトと、前記前側シャフトの後端部と前記後側シャフトの前端部とを連結する自在継手とを有し
、
前記前側コラムの中心軸
は、水平面に対して平行となるように配されており、
前記後側コラムは、その中心軸が水平面に対して前方に向かうほど下方に向かう方向に傾斜するように配されており、および、
前記前側コラムは、その前端部が、常に、前記後側コラムの中心軸の延長線のうち該前端部と同じ前後方向位置に存在する部分よりも上方に配されている、
ステアリング装置。
【請求項2】
ステアリングコラムと、
前記ステアリングコラムの内側に回転自在に支持されたステアリングシャフトと、
を備え、
前記ステアリングコラムは、車体に支持固定された筒状の前側コラムと、前記前側コラムの後側に配され、かつ、前記前側コラムの後端部に連結された前端部を有する、筒状の後側コラムとを有し、
前記ステアリングシャフトは、前記前側コラムの内側に回転自在に支持された前側シャフトと、前記後側コラムの内側に回転自在に支持され、かつ、ステアリングホイールが支持固定される後端部を有する、後側シャフトと、前記前側シャフトの後端部と前記後側シャフトの前端部とを連結する自在継手とを有し
、
前記前側コラムの中心軸
は、水平面に対して前方に向かうほど上方に向かう方向に傾斜するように配されており、
前記後側コラムは、その中心軸が水平面に対して前方に向かうほど下方に向かう方向に傾斜するように配されており、および、
前記前側コラムは、その前端部が、常に、前記後側コラムの中心軸の延長線のうち該前端部と同じ前後方向位置に存在する部分よりも上方に配されている、
ステアリング装置。
【請求項3】
水平面に対する前記前側コラムの中心軸の傾斜角度は、30度以下に設定されている、請求項2に記載のステアリング装置。
【請求項4】
前記後側コラムの前端部は、前記前側コラムの後端部に対して、幅方向に伸長する揺動軸を中心とする揺動を可能に連結されており、前記前側コラムに対して前記後側コラムが上端となる揺動位置と前記後側コラムが下端となる揺動位置との間で揺動変位できる所定範囲において、前記前側コラムに対して前記後側コラムを揺動させることに基づいて、前記ステアリングホイールの高さ位置を調節することが可能である、請求項1~3のうちの何れか1項に記載のステアリング装置。
【請求項5】
前記後側コラムが下端となる前記揺動位置においても、前記前側コラムの前端部は、前記後側コラムの中心軸の延長線のうち該前端部と同じ前後方向位置に存在する部分よりも上方に配される、請求項4に記載のステアリング装置。
【請求項6】
前記ステアリングシャフトを含んで構成され、かつ、前記ステアリングホイールから操舵輪につながる操舵力伝達経路の一部に配置され、前記ステアリングホイールの操作力を軽減するための補助力を入力する電動アシスト装置が備えられており、
該電動アシスト装置は、前記自在継手によって伝達される回転の角速度およびトルクの変動の少なくとも一部を、前記補助力によって打ち消すように制御される、
請求項1~5のうちの何れか1項に記載のステアリング装置。
【請求項7】
ステアリングホイールが取り付けられる操舵側装置と、1対の操舵輪に舵角を付与するための転舵側装置とを備え、操舵側装置と転舵側装置とが電気的に結合されている、ステアバイワイヤ方式のステアリング装置からなり、
前記操舵側装置は、前記ステアリングコラムおよび前記ステアリングシャフトを含み、
前記前側シャフトに前記ステアリングホイールの操作反力となる逆トルクを付与する電動反力付与装置を備え、
前記電動反力付与装置は、前記自在継手によって伝達される回転の角速度およびトルクの変動の少なくとも一部を、前記逆トルクによって打ち消すように制御される、
請求項1~5のうちの何れか1項に記載のステアリング装置。
【請求項8】
ステアリングホイールが取り付けられる操舵側装置と、1対の操舵輪に舵角を付与するための転舵側装置とを備え、操舵側装置と転舵側装置とが電気的に結合されている、ステアバイワイヤ方式のステアリング装置からなり、
前記操舵側装置は、前記ステアリングコラムおよび前記ステアリングシャフトを含み、
前記後側シャフトに前記ステアリングホイールの操作反力となる逆トルクを付与する電動反力付与装置を備える、
請求項1~5のうちの何れか1項に記載のステアリング装置。
【請求項9】
前記自在継手のジョイント角、および、前記自在継手の回転位置を検出するセンサをさらに備える、請求項1~6のいずれかに記載のステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の操舵輪に舵角を付与するためのステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図9は、従来のステアリング装置の1例を示している。図示のステアリング装置は、運転者が操作するステアリングホイール1と、ステアリングシャフト2と、ステアリングコラム3と、1対の自在継手(カルダンジョイント)4a、4bと、中間シャフト5と、ラックアンドピニオン式のステアリングギヤユニット6と、1対のタイロッド7とを備える。
【0003】
以下の説明中、ステアリング装置に関して、前後方向、幅方向、および上下方向は、ステアリング装置が組み付けられる車体の前後方向、幅方向、および上下方向をいう。
【0004】
ステアリングコラム3は、筒状に構成されている。ステアリングコラム3は、前方に向かうほど下方に向かう方向に傾斜するように配置され、かつ、車体に支持されている。ステアリングシャフト2は、ステアリングコラム3の内側に回転自在に支持されている。ステアリングホイール1は、ステアリングシャフトの後端部に支持固定されている。ステアリングシャフト2の前端部は、1対の自在継手4a、4bおよび中間シャフト5を介して、ステアリングギヤユニット6のピニオン軸8に接続されている。ステアリングホイール1を回転させることで、ピニオン軸8を回転させることができる。ピニオン軸8の回転は、図示しないラック軸の直線運動に変換され、1対のタイロッド7を押し引きする。これにより、1対の操舵輪にステアリングホイール1の操作量に応じた舵角が付与される。
【0005】
自動車のステアリング装置は、通常、運転者の体格や運転姿勢に応じて、ステアリングホイールの高さ位置を調節可能とするチルト機構を備える。チルト機構として、ステアリングホイールの高さ位置の調節時に、ステアリングシャフトおよびステアリングコラムの後側部のみを揺動変位させる首振り式のチルト機構が知られている(たとえば、特開平8-295246号公報、特開2000-85590号公報、特開2005-125926号公報、特開2005-153879号公報参照)。
【0006】
首振り式のチルト機構を備えたステアリング装置は、
図10に示すように、ステアリングコラム3aが、車体に支持固定された筒状の前側コラム9と、前側コラム9の後側に配された筒状の後側コラム10とに2分割されている。後側コラム10の前端部は、前側コラム9の後端部に対し、幅方向の揺動軸14を中心とする揺動を可能に連結されている。ステアリングシャフト2aも、前側コラム9の内側に回転自在に支持された前側シャフト11と、後側コラム10の内側に回転自在に支持された後側シャフト12とに2分割されている。前側シャフト11の後端部と後側シャフト12の前端部とは、自在継手(カルダンジョイント)13によって、揺動可能にかつトルク伝達可能に連結されている。
【0007】
前側コラム9(前側シャフト11)に対して後側コラム10(後側シャフト12)が揺動変位できる範囲は、所定範囲に規制されている。この所定範囲で、ステアリングホイール1の高さ位置が調節可能である。
図11(a)は、ステアリングホイール1の高さ位置を、調節可能な範囲の上端位置とした場合を示しており、この場合の水平面Pに対する後側コラム10の中心軸Srの傾斜角度は、βHである。
図11(b)は、ステアリングホイール1の高さ位置を、調節可能な範囲の下端位置とした場合を示しており、この場合の水平面Pに対する後側コラム10の中心軸Srの傾斜角度は、βLである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平8-295246号公報
【文献】特開2000-85590号公報
【文献】特開2005-125926号公報
【文献】特開2005-153879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の首振り式のチルト機構を備えたステアリング装置は、運転席の足元の空間を上下方向に関してより広くする面から改良の余地がある。この点について、以下に説明する。
【0010】
従来の首振り式のチルト機構を備えたステアリング装置では、車体に支持固定された前側コラム9が、前方に向かうほど下方に向かう方向に傾斜するように配されており、かつ、水平面Pに対する前側コラム9の中心軸Sfの傾斜角度αが、ある程度大きく設定されている。具体的には、水平面Pに対する前側コラム9の中心軸Sfの傾斜角度αは、
図11(b)に示すように、ステアリングホイール1の高さ位置を調節可能な範囲の下端位置とした場合の、水平面Pに対する後側コラム10の中心軸Srの傾斜角度βLよりも、大きく設定されている(α>βL)。少なくとも、この場合には、前側コラム9の前端部は、後側コラム10の中心軸Srの延長線のうち前側コラム9の前端部と同じ前後方向位置に存在する部分よりも、下方に配される。
【0011】
従来の首振り式のチルト機構を備えたステアリング装置では、前側コラム9の中心軸Sfは、運転席の足元の空間が、前方に向かうほど上下方向に関して狭くなるように、ある程度大きな傾斜角度αで傾斜している。このため、運転席の足元の空間を上下方向に関してより広くする面から、改良の余地がある。
【0012】
本発明の目的は、運転席の足元の空間を上下方向に関して広く確保することができる、ステアリング装置の構造を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のステアリング装置は、ステアリングコラムと、該ステアリングコラムの内側に回転自在に支持されたステアリングシャフトとを備える。
前記ステアリングコラムは、車体に支持固定された筒状の前側コラムと、該前側コラムの後側に配され、かつ、前記前側コラムの後端部に連結された前端部を有する、筒状の後側コラムとを有する。
前記ステアリングシャフトは、前記前側コラムの内側に回転自在に支持された前側シャフトと、前記後側コラムの内側に回転自在に支持され、かつ、ステアリングホイールが支持固定される後端部を有する、後側シャフトと、前記前側シャフトの後端部と前記後側シャフトの前端部とを連結する自在継手とを有する。
前記後側コラムの中心軸は、水平面に対して前方に向かうほど下方に向かう方向に傾斜するように配されている。
前記前側コラムの前端部は、常に、前記後側コラムの中心軸の延長線のうち該前端部と同じ前後方向位置に存在する部分よりも上方に配されている。
【0014】
前記前側コラムの中心軸は、水平面に対して平行となるように配されることができる。
【0015】
前記前側コラムの中心軸は、水平面に対して前方に向かうほど上方に向かう方向に傾斜するように配されることができる。
【0016】
前記後側コラムの前端部は、前記前側コラムの後端部に対して、幅方向に伸長する揺動軸を中心とする揺動を可能に連結されることができる。この場合、前記前側コラムに対して前記後側コラムが上端となる揺動位置と前記後側コラムが下端となる揺動位置との間で揺動変位できる所定範囲において、前記前側コラムに対して前記後側コラムを揺動させることに基づいて、前記ステアリングホイールの高さ位置を調節することができる。本例のステアリング装置では、かかる構成において、前記後側コラムが下端となる前記揺動位置においても、前記前側コラムの前端部は、前記後側コラムの中心軸の延長線のうち該前端部と同じ前後方向位置に存在する部分よりも上方に配される。
【0017】
本発明のステアリング装置は、前記ステアリングシャフトを含んで構成され、かつ、前記ステアリングホイールから操舵輪につながる操舵力伝達経路の一部に配置され、前記ステアリングホイールの操作力を軽減するための補助力を入力する電動アシスト装置を備えることができる。この場合、前記電動アシスト装置は、前記自在継手によって伝達される回転の角速度およびトルクの変動の少なくとも一部を、前記補助力によって打ち消すように制御されることができる。
【0018】
本発明のステアリング装置は、ステアリングホイールが取り付けられる操舵側装置と、1対の操舵輪に舵角を付与するための転舵側装置とを備え、操舵側装置と転舵側装置とが電気的に結合されている、ステアバイワイヤ方式のステアリング装置に適用することが可能である。この場合、本発明のステアリング装置は、前記前側シャフトに前記ステアリングホイールの操作反力となる逆トルクを付与する電動反力付与装置を備えることができる。この場合、前記電動反力付与装置は、前記自在継手によって伝達される回転の角速度およびトルクの変動の少なくとも一部を、前記逆トルクによって打ち消すように制御されることができる。
【0019】
あるいは、本発明のステアリング装置は、前記後側シャフトに前記ステアリングホイールの操作反力となる逆トルクを付与する電動反力付与装置を備えることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のステアリング装置によれば、運転席の足元の空間を上下方向に関して広く確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態の第1例に係るステアリング装置を組み付けた車両の運転席およびその周辺部を模式的に示す側面図である。
【
図2】
図2は、第1例に係るステアリング装置を車両に組み付けた状態で示す模式図である。
【
図3】
図3(a)は、
図2に示したステアリング装置のうちの右半部についての、ステアリングホイールの高さ位置を調節可能な範囲の上端位置とした図であり、
図4(b)は、前記右半部についての、ステアリングホイールの高さ位置を調節可能な範囲の中央位置とした図であり、
図4(b)は、前記右半部についての、ステアリングホイールの高さ位置を調節可能な範囲の下端位置とした図である。
【
図4】
図4(a)~
図4(c)は、本発明の実施の形態の第2例に関する、
図3(a)~
図3(c)に相当する図である。
【
図5】
図5(a)~
図5(c)は、本発明の実施の形態の第3例に関する、
図3(a)~
図3(c)に相当する図である。
【
図6】
図6は、本発明の実施の形態の第4例に関する、
図2と同様の図である。
【
図7】
図7は、本発明の実施の形態の第5例に関する、
図2と同様の図である。
【
図8】
図8は、本発明の実施の形態の第6例に関する、
図2と同様の図である。
【
図9】
図9は、従来のステアリング装置の1例を示す斜視図である。
【
図10】
図10は、従来の首振り式のチルト機構を備えたステアリング装置の一部を模式的に示す側面図である。
【
図11】
図11(a)は、
図10のステアリング装置についての、ステアリングホイールの高さ位置を調節可能な範囲の上端位置とした図であり、
図11(b)は、
図10のステアリング装置についての、ステアリングホイールの高さ位置を調節可能な範囲の下端位置とした図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[実施の形態の第1例]
実施の形態の第1例について、
図1~
図3を用いて説明する。
【0023】
本例のステアリング装置は、ステアリングシャフト2bと、ステアリングコラム3bとを備える。本例のステアリング装置は、1対の自在継手(カルダンジョイント)を構成する前側の自在継手4cおよび後側の自在継手4dと、中間シャフト5aと、ラックアンドピニオン式のステアリングギヤユニット6aと、電動アシスト装置16とをさらに備える。
【0024】
運転者Dが操作するステアリングホイール1は、ステアリングシャフト2bの後端部に支持固定されている。ステアリングシャフト2bは、車体に支持されたステアリングコラム3bの内側に回転自在に支持されている。ステアリングシャフト2bの前端部は、電動アシスト装置16と、後側の自在継手4cと、中間シャフト5と、前側の自在継手4dとを介して、ステアリングギヤユニット6aのピニオン軸8aに接続されている。ステアリングホイール1を回転させることで、ピニオン軸8aを回転させることができる。ピニオン軸8aの回転は、図示しないラック軸の直線運動に変換され、1対のタイロッド7(
図9参照)を押し引きする。これにより、1対の操舵輪15にステアリングホイール1の操作量に応じた舵角が付与される。
【0025】
電動アシスト装置16は、ステアリングシャフト2bを含んで構成され、かつ、ステアリングホイール1から操舵輪15につながる操舵力伝達経路の一部である、ステアリングシャフト2bの前端部と後側の自在継手4cとの間に配置されている。電動アシスト装置16は、動力源となる電動モータと、ウォーム減速機などの減速機と、ステアリングシャフト2bの前端部にトーションバーを介して接続され、かつ、後側の自在継手4cに接続された出力軸と、トルクセンサと、制御部とを備える。電動アシスト装置16は、トルクセンサにより、ステアリングホイール1からステアリングシャフト2bに入力されたトルクの方向および大きさを検出する。制御部により、検出されたトルクの方向および大きさと車速信号などに応じて、電動モータが駆動される。電動モータが発生したトルクを減速機により増大した補助トルク(補助力)が、出力軸に付与される。これにより、後側の自在継手4cが、ステアリングホイール1からステアリングシャフト2bに入力されたトルクよりも大きなトルクで回転する。この結果、ステアリングホイール1を操作するために要する力である操舵力が低減される。
【0026】
本例のステアリング装置は、ステアリングホイール1の高さ位置の調節を可能とするための、首振り式のチルト機構を備える。
【0027】
ステアリングコラム3bは、前側に配された筒状の前側コラム9aと、後側に配された筒状の後側コラム10aとを有する。後側コラム10aの前端部は、前側コラム9aの後端部に対して、幅方向に伸長する揺動軸14aを中心とする揺動を可能に連結されている。前側コラム9aの軸方向を前後方向に一致させることにより、前側コラム9aは、水平に配され、かつ、図示しない支持ブラケットなどのコラム固定部材を用いて車体に対して支持固定されている。換言すれば、前側コラム9aは、車体に支持固定された状態で、水平面である車室の床面17に対して平行に配されている。電動アシスト装置16は、前側コラム9aの前端部に支持固定されている。
【0028】
前側コラム9aに対して後側コラム10aが揺動変位できる範囲は、図示しない規制手段によって、
図3(a)~
図3(c)の間の範囲である、所定範囲に規制されている。後側コラム10aは、この所定範囲の何れの揺動位置においても、常に、前方に向かうほど下方に向かう方向に傾斜するように配されている。なお、水平面P(前側コラム9aの中心軸Sf)に対する後側コラム10aの中心軸Srの傾斜角度は、
図3(a)に示す上端の揺動位置でβHとなり、
図3(c)に示す下端の揺動位置でβLとなり、
図3(b)に示す中央の揺動位置でβM{=(βH+βL)/2}となる。
【0029】
本例では、前側コラム9aを水平に配しているため、前側コラム9aの前端部は、後側コラム10aの揺動位置にかかわらず、常に、後側コラム10aの中心軸Srの延長線のうち前側コラム9aの前端部と同じ前後方向位置に存在する部分よりも上方に配される。
【0030】
ステアリングシャフト2bは、前側に配された前側シャフト11aと、後側に配された後側シャフト12aと、前側シャフト11aの後端部と後側シャフト12aの前端部とを揺動可能にかつトルク伝達可能に連結する自在継手(カルダンジョイント)13aとを有する。前側シャフト11aは、前側コラム9aの内側に、図示しない転がり軸受によって回転自在に支持されている。この状態で、前側シャフト11aは、前側コラム9aと同軸に配されている。後側シャフト12aは、後側コラム10aの内側に、図示しない転がり軸受によって回転自在に支持されている。この状態で、後側シャフト12aは、後側コラム10aと同軸に配されている。自在継手13aの揺動中心は、揺動軸14aの中心軸線上に位置する。これにより、前側コラム9aに対する後側コラム10aの揺動と、前側シャフト11aに対する後側シャフト12aの揺動とは、互いに同期して円滑に行われる。
【0031】
ステアリングホイール1は、前側コラム9aに対して後側コラム10aが揺動変位できる範囲である前記所定範囲で、その高さ位置を調節できるようになっている。すなわち、
図3(a)は、ステアリングホイール1の高さ位置を、調節可能な範囲の上端位置とした状態を、
図3(c)は、ステアリングホイール1の高さ位置を、調節可能な範囲の下端位置とした状態を、
図3(b)は、ステアリングホイール1の高さ位置を、調節可能な範囲の中央位置とした状態をそれぞれ示している。
【0032】
本例のステアリング装置は、図示しないロック機構を備える。該ロック機構により、前側コラム9aに対する後側コラム10aの揺動変位を可能として、ステアリングホイール1の高さ位置の調節を可能とする状態と、前側コラム9aに対する後側コラム10aの揺動変位を不能として、ステアリングホイール1の高さ位置を調節後の位置に保持する状態とを、切り換えられることが可能である。
【0033】
本例のステアリング装置では、前側コラム9a(前側シャフト11a)が水平に配されているため、ステアリングホイール1の高さ位置によっては、前側シャフト11aの中心軸に対する後側シャフト12aの中心軸の傾斜角度である、自在継手13aのジョイント角が大きくなる場合がある。一方、自在継手13aにジョイント角が付された状態では、自在継手13aによって伝達される回転の角速度およびトルクに変動が生じる。また、この角速度およびトルクの変動の度合いは、自在継手13aのジョイント角が大きくなるほど大きくなる。このため、ステアリングホイール1の高さ位置によって自在継手13aのジョイント角が大きくなった場合には、後側シャフト12aから前側シャフト11aに伝達される回転の角速度およびトルクの変動が大きくなる。このような変動は、ステアリングホイール1に反作用として伝わり、このステアリングホイール1を操作する運転者Dに違和感を与える場合がある。たとえば、運転者Dがステアリングホイール1を一定のトルクで操作する際に、運転者Dにステアリングホイール1の角速度が変動する違和感を与えたり、運転者Dがステアリングホイール1を一定の角速度で操作する際に、運転者Dにステアリングホイール1を操作するために必要なトルクが変動する違和感を与えたりする場合がある。
【0034】
本例では、ステアリングホイール1を操作する運転者Dに違和感を与えないようにするために、自在継手13aによって伝達される回転の角速度およびトルクの変動の少なくとも一部(好ましくは全部)を、電動アシスト装置16が発生する補助トルクによって打ち消すようにしている。
【0035】
自在継手13aによって伝達される回転の角速度およびトルクは、自在継手13aの回転位置(ヨークの回転角度)によって変化する。このような自在継手13aによって伝達される回転の角速度およびトルクと自在継手13aの回転位置との関係は、自在継手13aのジョイント角によって異なったものになる。
【0036】
本例では、予め調べておいた、自在継手13aのジョイント角ごとの前記関係を、数式やマップなどの形式で、電動アシスト装置16の制御部に記憶させている。また、自在継手13aのジョイント角、および、自在継手13aの回転位置を検出するセンサが備えられており、該センサの検出値を電動アシスト装置16の制御部に入力するようにしている。必要に応じて、電動アシスト装置16が備えるトルクセンサなどによって検出した、自在継手13aによって伝達される角速度、角加速度、およびトルクのうちの少なくとも1つの検出値を、電動アシスト装置16の制御部に入力するようにしている。電動アシスト装置16の制御部により、上述のように入力された各検出値と、上述のように記憶された前記関係とを利用して、自在継手13aによって伝達される回転の角速度およびトルクの変動を求めると共に、求めた変動を打ち消すような補助トルクを電動アシスト装置16に発生させるようにしている。
【0037】
自在継手13aのジョイント角を検出するためのセンサとしては、自在継手13aのジョイント角を直接検出するセンサのほか、たとえば、自在継手13aのジョイント角と等価な量である後側コラム10aの傾斜角度(コラムポジション)やステアリングホイール1の高さ位置を検出するセンサを採用することができる。これらのセンサとしては、たとえば変位センサを用いることができる。これらのセンサの検出値を用いて自在継手13aのジョイント角を算出する際には、その基準値として、たとえば、予め設定したジョイント角(後側コラム10aの傾斜角度、ステアリングホイール1の高さ位置)の標準値(ノミナル値など)を利用することができる。
【0038】
自在継手13aの回転位置を検出するためのセンサとしては、自在継手13aの回転位置を直接検出するセンサのほか、たとえば、自在継手13aの回転位置と等価な量である前側シャフト11aまたは後側シャフト12aやステアリングホイール1の回転位置(回転角度)を検出するセンサを採用することができる。これらのセンサとしては、たとえばエンコーダを含む回転センサや、電動アシスト装置16が備えるトルクセンサを用いることができる。
【0039】
本例では、中間シャフト5aの両側に存在する1対の自在継手4c、4dのそれぞれによって伝達される回転の角速度およびトルクにも変動が生じる。ただし、本例では、該変動が自在継手4c、4d同士の間で打消されるように、自在継手4c、4dの回転方向の組み付け位相を互いにずらしている。
【0040】
本例の構造では、前側コラム9aが水平に配されているため、中間シャフト5aが長くなる。このため、自在継手4c、4dの回転方向の組み付け位相を互いにずらすだけでは、自在継手4c、4dのそれぞれによって伝達される回転の角速度およびトルクの変動を、自在継手4c、4d同士の間で打ち消しきれないことも考えられる。本例の構造を実施する場合には、自在継手13aによって伝達される回転の角速度およびトルクの変動と同様の方法で、自在継手4c、4dのそれぞれによって伝達される回転の角速度およびトルクの変動も補助トルクによって打ち消すように、電動アシスト装置16を制御することもできる。
【0041】
本例のステアリング装置では、前側コラム9aが水平に配されている。このため、
図11(a)および
図11(B)に示す、車体に支持固定された前側コラム9が、前方に向かうほど下方に向かう方向に傾斜するように配されており、かつ、水平面Pに対する前側コラム9の中心軸Sfの傾斜角度αが、ある程度大きく設定されている構造に比べて、本例のステアリング装置では、運転席の足元の空間18を上下方向に関して広く確保することができる。
【0042】
換言すれば、本例のステアリング装置では、
図3(a)~
図3(c)に示すように、前側コラム9aの前端部は、後側コラム10aの揺動位置にかかわらず、常に、後側コラム10aの中心軸Srの延長線のうち前側コラム9aの前端部と同じ前後方向位置に存在する部分よりも上方に配される。すなわち、前側コラム9aに対して後側コラム10aが揺動変位できる前記所定範囲のうち、後側コラム10aが
図3(c)に示す下端の揺動位置にある場合であっても、前側コラム9aの前端部は、後側コラム10aの中心軸Srの延長線のうち前側コラム9aの前端部と同じ前後方向位置に存在する部分よりも上方に配される。このため、少なくとも、
図11(b)に示すステアリングホイール1の高さ位置を調節可能な範囲の下端位置とした場合に、前側コラム9の前端部が、後側コラム10の中心軸Srの延長線のうち前側コラム9の前端部と同じ前後方向位置に存在する部分よりも下方に配される従来構造に比べて、本例のステアリング装置では、運転席の足元の空間18を上下方向に関して広く確保することができる。したがって、その分、運転席における居住性を向上させることができる。
【0043】
[実施の形態の第2例]
本発明の実施の形態の第2例について、
図4を用いて説明する。本例では、前側コラム9aは、車体に支持固定された状態で、前方に向かうほど下方に向かう方向に傾斜するように配されている。ただし、本例では、水平面Pに対する前側コラム9aの中心軸Sfの傾斜角度α1(勾配)は、
図4(c)に示すように、ステアリングホイール1の高さ位置を調節可能な範囲の下端位置とした場合の、水平面Pに対する後側コラム10aの中心軸Srの傾斜角度βL(勾配)よりも小さく設定されている(α1<βL)。このため、本例の場合も、前側コラム9aの前端部は、後側コラム10aの揺動位置にかかわらず、常に、後側コラム10aの中心軸Srの延長線のうち前側コラム9aの前端部と同じ前後方向位置に存在する部分よりも上方に配される。
【0044】
本例のステアリング装置では、
図10、
図11(a)および
図11(b)に示した従来構造に比べて、運転席の足元の空間18(
図1参照)を上下方向に関して広く確保することができる。本例の構造を実施する場合には、運転席の足元の空間18を上下方向に関して広く確保する観点から、水平面Pに対する前側コラム9aの中心軸Sfの傾斜角度α1は、30度以下に設定することが好ましい。その他の構成および作用は、第1例と同様である。
【0045】
[実施の形態の第3例]
本発明の実施の形態の第3例について、
図5を用いて説明する。本例では、前側コラム9aは、車体に支持固定された状態で、前方に向かうほど上方に向かう方向に傾斜するように配されている。すなわち、前側コラム9aは、水平面Pと比較して、前方に向かうほど上方に傾斜している。本例の場合も、前側コラム9aの前端部は、後側コラム10aの揺動位置にかかわらず、常に、後側コラム10aの中心軸Srの延長線のうち前側コラム9aの前端部と同じ前後方向位置に存在する部分よりも上方に配される。
【0046】
本例のステアリング装置では、
図10、
図11(a)および
図11(b)に示した従来構造に比べて、運転席の足元の空間18(
図1参照)を上下方向に関して広く確保することができる。本例の構造を実施する場合には、中間シャフト5aの長さを抑えるなどの実用的なレイアウトを実現する観点から、水平面Pに対する前側コラム9aの中心軸Sfの傾斜角度α2は、25度以下に設定することが好ましい。その他の構成および作用は、第1例と同様である。
【0047】
[実施の形態の第4例]
実施の形態の第4例について、
図6を用いて説明する。本例では、電動アシスト装置16aの設置箇所が、第1例と異なっている。本例では、電動アシスト装置16aは、ステアリングシャフト2bを含んで構成され、かつ、ステアリングホイール1から操舵輪15(
図1参照)につながる操舵力伝達経路の一部である、前側の自在継手4dとピニオン軸8aとの間に設置されている。すなわち、前側の自在継手4dとピニオン軸8aとは、電動アシスト装置16aを介して接続されている。本例では、前側シャフト11aの前端部は、後側の自在継手4cに直接接続されている。電動アシスト装置16aは、第1例の電動アシスト装置16と同様に、ピニオン軸8aに補助トルクを付与し、かつ、自在継手13aによって伝達される回転の角速度およびトルクの変動を、電動アシスト装置16aが発生する補助トルクによって打ち消すように制御される。その他の構成および作用は、第1例と同様である。
【0048】
[実施の形態の第5例]
実施の形態の第5例について、
図7を用いて説明する。本例のステアリング装置は、ステアバイワイヤ方式のステアリング装置からなる。ステアバイワイヤ方式のステアリング装置は、ステアリングホイール1が取り付けられる操舵側装置19と、1対の操舵輪15(
図1参照)に舵角を付与するための転舵側装置20とを備える。操舵側装置19と転舵側装置20とは電気的に結合されている。ステアバイワイヤ方式のステアリング装置では、ステアリングホイール1の操作量をセンサにより検出し、該センサの出力信号に基づいて、転舵側装置20のアクチュエータを駆動することにより、1対の操舵輪15に舵角が付与される。
【0049】
本例の操舵側装置19は、ステアリング装置を構成する、ステアリングシャフト2bと、ステアリングコラム3bとを備える。本例の操舵側装置は、電動反力付与装置21をさらに備える。本例においても、ステアリングコラム3bを構成する前側コラム9aは、車体に支持固定された状態で、水平に配されている。電動反力付与装置21は、前側コラム9aの前端部に支持されている。
【0050】
電動反力付与装置21は、動力源となる電動モータと減速機とを有しており、運転者Dによるステアリングホイール1の操作に伴って、電動モータを駆動する。電動モータのトルクは、減速機により増大されてから、前側シャフト11aに対し、ステアリングホイール1の回転方向と逆方向のトルクである、逆トルクとして伝達される。これにより、該逆トルクに基づく操作反力が、ステアリングホイール1に付与される。ステアリングホイール1に付与される操作反力の大きさは、基本的には、前記センサにより取得した、ステアリングホイール1の回転位置やステアリングホイール1からステアリングシャフト2bに入力されるトルクなどに応じて決定される。
【0051】
本例では、電動反力付与装置21は、第1例の電動アシスト装置16と同様に、自在継手13aによって伝達される回転の角速度およびトルクの変動を、電動反力付与装置21から前側シャフト11aに伝達される逆トルクによって打ち消すように制御される。
【0052】
本例のステアバイワイヤ方式のステアリング装置でも、前側コラム9aが水平に配されているため、運転席の足元の空間18(
図1参照)を上下方向に関して広く確保することができる。その他の構成および作用は、第1例と同様である。
【0053】
[実施の形態の第6例]
本発明の実施の形態の第6例について、
図8を用いて説明する。本例では、電動反力付与装置21aの設置箇所が、第5例と異なっている。本例では、電動反力付与装置21aは、ステアリングコラム3bを構成する後側コラム10aに支持されている。電動反力付与装置21aは、電動モータのトルクを、減速機により増大してから、後側シャフト12aに伝達する。これにより、該トルクに基づく操作反力が、ステアリングホイール1に付与される。
【0054】
本例では、電動反力付与装置21aからステアリングシャフト2bに付与されるトルク(操作反力)が、自在継手13aよりもステアリングホイール1に近い側に位置する後側シャフト12aに入力される。このため、自在継手13aによって伝達される回転の角速度およびトルクの変動を、電動反力付与装置21aから後側シャフト12aに入力されるトルクによって打ち消す必要がない。本例において、前側コラム9aおよび前側シャフト11aは、たとえば、ステアリングホイール1の操作量を検出するためのセンサの設置箇所として利用することができる。その他の構成および作用は、第1例および第5例と同様である。
【0055】
本発明の実施の形態の各例の構造は、相互に矛盾を生じない限り、適宜組み合わせて実施することができる。たとえば、実施の形態の第4例~第6例の構造に関しても、実施の形態の第2例または第3例のように、前側コラムを車体に支持固定した状態で、前側コラムを水平面に対して傾斜した構成を採用することができる。
【0056】
本発明は、水平面に対する後側コラムの中心軸の傾斜角度を一定の大きさにしたまま使用する構造、すなわち、ステアリングホイールの高さ位置の調節を可能とするチルト機能を備えていない構造のステアリング装置にも適用することが可能である。
【0057】
本発明のステアリング装置において、ステアリングシャフト、ステアリングコラム、およびロック機構などに関しては、より具体的な構造として、特開平8-295246号公報、特開2000-85590号公報、特開2005-125926号公報、特開2005-153879号公報などに記載されている構造を採用することができる。
【0058】
本発明は、特開2005-153879号公報などに記載されている、ステアリングホイールの前後位置を調節する機能をさらに備えた構造のステアリング装置、ステアリングホイールの位置の調節を電動で行える機能をさらに備えた構造のステアリング装置にも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0059】
1 ステアリングホイール
2、2a、2b ステアリングシャフト
3、3a、3b ステアリングコラム
4a~4d 自在継手
5、5a 中間シャフト
6、6a ステアリングギヤユニット
7 タイロッド
8、8a ピニオン軸
9、9a 前側コラム
10、10a 後側コラム
11、11a 前側シャフト
12、12a 後側シャフト
13、13a 自在継手
14、14a 揺動軸
15 操舵輪
16、16a 電動アシスト装置
17 床面
18 足元の空間
19 操舵側装置
20 転舵側装置
21、21a 電動反力付与装置