(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-25
(45)【発行日】2022-05-09
(54)【発明の名称】昇降装置
(51)【国際特許分類】
B66B 5/02 20060101AFI20220426BHJP
B66B 5/06 20060101ALI20220426BHJP
B66B 29/00 20060101ALI20220426BHJP
【FI】
B66B5/02 V
B66B5/06 C
B66B5/02 X
B66B29/00 Z
(21)【出願番号】P 2021140337
(22)【出願日】2021-08-30
【審査請求日】2021-08-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000112705
【氏名又は名称】フジテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001438
【氏名又は名称】特許業務法人 丸山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼濱 努
(72)【発明者】
【氏名】松井 良介
(72)【発明者】
【氏名】山岡 俊平
【審査官】八板 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-118290(JP,A)
【文献】特開2012-246073(JP,A)
【文献】特開2021-20763(JP,A)
【文献】国際公開第2006/090470(WO,A1)
【文献】特開2012-86959(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 1/00-31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定部位を測定して第1測定量x1を算出する第1処理部と、
前記所定部位を測定して第2測定量x2を算出する第2処理部と、
を具える昇降装置であって、
前記第1処理部は、第1時刻t1に第1同期信号を前記第2処理部に出力すると共に第1測定量x1を算出し、前記第1測定量x1を前記第2処理部に送信し、
前記第2処理部は、前記第1同期信号を入力した第2時刻t2に第2測定量x2を算出して第2比較対象データとして記憶し、前記第1測定量x1を受信した時刻t2bに前記第2比較対象データに対する前記第1測定量x1の誤差である第1誤差を求め、前記第1誤差が予め設定された許容誤差vaを超えていると、異常と判断する、
昇降装置。
【請求項2】
前記第2処理部は、第3時刻t3に第2同期信号を前記第1処理部に出力すると共に第2測定量x2を算出し、前記第2測定量x2を前記第1処理部に送信し、
前記第1処理部は、前記第2同期信号を入力した第4時刻t4に第1測定量x1を算出して第1比較対象データとして記憶し、前記第2測定量x2を受信した時刻t4bに前記第1比較対象データに対する前記第2測定量x2の誤差である第2誤差を求め、前記第2誤差が、前記許容誤差vaを超えていると、異常と判断する、
請求項1に記載の昇降装置。
【請求項3】
所定部位を第1周期毎に測定して第1測定量x1を算出し記憶する第1処理部と、
前記所定部位を第2周期毎に測定して第2測定量x2を算出し記憶する第2処理部と、
を具える昇降装置であって、
前記第1処理部は、第1時刻t1に第1同期信号を前記第2処理部に出力すると共に最新の第1測定量x1を読み出し、前記第1測定量x1を前記第2処理部に送信し、
前記第2処理部は、前記第1同期信号を入力した第2時刻t2における最新の第2測定量x2を読み出し、第2比較対象データとして記憶し、前記第1測定量x1を受信した時刻t2bに前記第2比較対象データに対する前記第1測定量x1の誤差である第1誤差を求め、前記第1誤差が予め設定された許容誤差vaを超えていると、異常と判断する、
昇降装置。
【請求項4】
前記第2処理部は、第3時刻t3に第2同期信号を前記第1処理部に出力すると共に最新の第2測定量x2を読出し、前記第2測定量x2を前記第1処理部に送信し、
前記第1処理部は、前記第2同期信号を入力した第4時刻t4における最新の第1測定量x1を読み出し、第1比較対象データとして記憶し、前記第2測定量x2を受信した時刻t4bに前記第1比較対象データに対する前記第2測定量x2の誤差である第2誤差を求め、前記第2誤差が、前記許容誤差vaを超えていると、異常と判断する、
請求項3に記載の昇降装置。
【請求項5】
前記第2時刻t2に読み出した第2測定量x2が算出された時刻t2aの後、前記第2時刻t2、前記時刻t2a+前記第2周期が到来し、その後に前記時刻t2bが到来するように、前記第2周期が設定されている、
請求項3又は請求項4に記載の昇降装置。
【請求項6】
前記第4時刻t4に読み出した第1測定量x1が算出された時刻t4aの後、前記第4時刻t4、前記時刻t4a+前記第1周期が到来し、その後に前記時刻t4bが到来するように、前記第1周期が設定されている、
請求項4に記載の昇降装置。
【請求項7】
前記第1処理部は、前記第1同期信号をデジタル出力し、前記第1測定量x1をシリアル通信により送信し、
前記第2処理部は、前記第1同期信号をデジタル入力し、前記第1測定量x1をシリアル通信により受信する、
請求項1乃至請求項6の何れかに記載の昇降装置。
【請求項8】
前記第2処理部は、前記第2同期信号をデジタル出力し、前記第2測定量x2をシリアル通信により送信し、
前記第1処理部は、前記第2同期信号をデジタル入力し、前記第2測定量x2をシリアル通信により受信する、
請求項2、請求項4又は請求項6に記載の昇降装置。
【請求項9】
昇降装置は、エレベーターである、
請求項1乃至請求項8の何れかに記載の昇降装置。
【請求項10】
第1測定量x1としては、かごが運動する速度を測定して第1速度v1を算出し、第2測定量x2としては、かごが運動する速度を測定して第2速度v2を算出する、
請求項9に記載の昇降装置。
【請求項11】
前記第1処理部と前記第2処理部は、
昇降路の終端領域でかごの過速度を検知して前記かごを非常停止させる終端階強制減速装置、及び/又は、かご戸が開いた状態で前記かごの過速度を検知して前記かごを非常停止させる戸開走行保護装置に設けられる、
請求項10に記載の昇降装置。
【請求項12】
昇降装置は、乗客コンベアである、
請求項1乃至請求項8の何れかに記載の昇降装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同じ測定量を二重に算出したときの誤差が、許容誤差を超えないかどうかで異常判定を行なう昇降装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
たとえば、エレベーターの速度は、巻上機や調速機などの回転部に配置されたエンコーダーのパルス信号から算出することができるが、特許文献1では、その算出を第1処理部と第2処理部で二重算出し、算出した速度を他方に送信して比較し、その誤差が許容誤差を超えた場合に異常と判定するようにしている。
【0003】
具体的には、第1処理部が時刻t1に算出した速度v1をシリアル通信で第2処理部に送信する。第2処理部は第1処理部から速度v1をシリアル通信で受信し、その受信時刻t2bに速度v2を算出する。そして、第2処理部は速度v2と速度v1の誤差|v1-v2|(|・・・|は絶対値を表わす。以下同様)を演算し、誤差|v1-v2|が許容誤差va以下であれば正常と判断、許容誤差vaを超えると異常と判断するようにしている。
【0004】
誤判定を避けるために、第1処理部が速度を算出する時刻t1から第2処理部が速度を算出する時刻t2bまでの期間のエレベーターの速度変化量が、最大速度変化幅vmに達した場合であっても、vm≦vaとなるように許容誤差vaを設定する必要がある。
【0005】
たとえば、エレベーターが最大加速度α0で等加速運動をしている場合、時刻差|t1-t2b|の間の最大速度変化幅はvm=α0×|t1-t2b|となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、シリアル通信により速度を第1処理部から第2処理部に送信する場合、2進表現された速度値の各ビットを切り出した上で各ビットを出力する時間が必要である。受信側は、入力した各ビットを一つにまとめ上げた上で2進表現された速度値に再現する時間が必要となる。すなわち、このシリアル通信には、数十ミリ秒のオーダーの時間が掛かることがある。その結果、時刻差|t1-t2b|が長くなって、最大速度変化幅vmが大きくなるから、許容誤差vaも大きな値を採用する必要がある。これにより、異常の見逃し幅が大きくなるから、速度異常判定の精度が低下してしまう。
【0008】
本発明の目的は、同じ測定量を二重に算出したときの許容誤差を小さくすることのできる昇降装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の昇降装置は、
所定部位を測定して第1測定量x1を算出する第1処理部と、
前記所定部位を測定して第2測定量x2を算出する第2処理部と、
を具える昇降装置であって、
前記第1処理部は、第1時刻t1に第1同期信号を前記第2処理部に出力すると共に第1測定量x1を算出し、前記第1測定量x1を前記第2処理部に送信し、
前記第2処理部は、前記第1同期信号を入力した第2時刻t2に第2測定量x2を算出して第2比較対象データとして記憶し、前記第1測定量x1を受信した時刻t2bに前記第2比較対象データに対する前記第1測定量x1の誤差である第1誤差を求め、前記第1誤差が予め設定された許容誤差vaを超えていると、異常と判断する。
【0010】
前記第2処理部は、第3時刻t3に第2同期信号を前記第1処理部に出力すると共に第2測定量x2を算出し、前記第2測定量x2を前記第1処理部に送信し、
前記第1処理部は、前記第2同期信号を入力した第4時刻t4に第1測定量x1を算出して第1比較対象データとして記憶し、前記第2測定量x2を受信した時刻t4bに前記第1比較対象データに対する前記第2測定量x2の誤差である第2誤差を求め、前記第2誤差が、前記許容誤差vaを超えていると、異常と判断する構成とすることができる。
【0011】
また、本発明の昇降装置は、
所定部位を第1周期毎に測定して第1測定量x1を算出し記憶する第1処理部と、
前記所定部位を第2周期毎に測定して第2測定量x2を算出し記憶する第2処理部と、
を具える昇降装置であって、
前記第1処理部は、第1時刻t1に第1同期信号を前記第2処理部に出力すると共に最新の第1測定量x1を読み出し、前記第1測定量x1を前記第2処理部に送信し、
前記第2処理部は、前記第1同期信号を入力した第2時刻t2における最新の第2測定量x2を読み出し、第2比較対象データとして記憶し、前記第1測定量x1を受信した時刻t2bに前記第2比較対象データに対する前記第1測定量x1の誤差である第1誤差を求め、前記第1誤差が予め設定された許容誤差vaを超えていると、異常と判断する。
【0012】
前記第2処理部は、第3時刻t3に第2同期信号を前記第1処理部に出力すると共に最新の第2測定量x2を読出し、前記第2測定量x2を前記第1処理部に送信し、
前記第1処理部は、前記第2同期信号を入力した第4時刻t4における最新の第1測定量x1を読み出し、第1比較対象データとして記憶し、前記第2測定量x2を受信した時刻t4bに前記第1比較対象データに対する前記第2測定量x2の誤差である第2誤差を求め、前記第2誤差が、前記許容誤差vaを超えていると、異常と判断する構成とすることができる。
【0013】
前記第2時刻t2に読み出した第2測定量x2が算出された時刻t2aの後、前記第2時刻t2、前記時刻t2a+前記第2周期が到来し、その後に前記時刻t2bが到来するように、前記第2周期が設定されている。
【0014】
前記第4時刻t4に読み出した第1測定量x1が算出された時刻t4aの後、前記第4時刻t4、前記時刻t4a+前記第1周期が到来し、その後に前記時刻t4bが到来するように、前記第1周期が設定されている。
【0015】
前記第1処理部は、前記第1同期信号をデジタル出力し、前記第1測定量x1をシリアル通信により送信し、
前記第2処理部は、前記第1同期信号をデジタル入力し、前記第1測定量x1をシリアル通信により受信する構成とすることができる。
【0016】
前記第2処理部は、前記第2同期信号をデジタル出力し、前記第2測定量x2をシリアル通信により送信し、
前記第1処理部は、前記第2同期信号をデジタル入力し、前記第2測定量x2をシリアル通信により受信する構成とすることができる。
【0017】
昇降装置は、エレベーターとすることができる。
【0018】
第1測定量x1としては、かごが運動する速度を測定して第1速度v1を算出し、第2測定量x2としては、かごが運動する速度を測定して第2速度v2を算出する。
【0019】
前記第1処理部と前記第2処理部は、
昇降路の終端領域でかごの過速度を検知して前記かごを非常停止させる終端階強制減速装置、及び/又は、かご戸が開いた状態で前記かごの過速度を検知して前記かごを非常停止させる戸開走行保護装置に設けることができる。
【0020】
昇降装置は、乗客コンベアとすることができる。
【発明の効果】
【0021】
従来は、第1測定量x1の算出時刻を、第1測定量x1の送信時刻t1または、その直前の周期的算出時刻とし、第2測定量x2の算出時刻を、第1測定量x1の受信時刻t2bまたは、その直前の周期的算出時刻としていた。本発明では、第1測定量x1の算出時刻を、第1同期信号の出力時刻t1または、その直前の周期的算出時刻とし、第2測定量x2の算出時刻を、第1同期信号の入力時刻t2または、その直前の周期的算出時刻とする。したがって本発明では、第1測定量x1と第2測定量x2の算出時刻の差を、従来よりも短縮できる。なぜならば、第1測定量x1の送受信にシリアル通信を適用し、第1同期信号の出入力にデジタル出入力を適用することによって、送受信時間よりも出入力時間を短縮できるからである。
【0022】
第1測定量x1と第2測定量x2の算出時刻の差を短くできたことで、二重算出される第1速度v1と第2速度v2の許容誤差vaも小さくできるから、異常判定の精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、エレベーターの要部構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、本発明の第1実施形態に係るシーケンス図であって、第1処理部が第1同期信号を出力し、第2処理部で速度比較する実施形態である。
【
図3】
図3は、本発明の第1実施形態に係るシーケンス図であって、第2処理部が第2同期信号を出力し、第1処理部で速度比較する実施形態である。
【
図4】
図4は、本発明の第2実施形態に係るシーケンス図であって、第1処理部が第1同期信号を出力し、第2処理部で速度比較する実施形態である。
【
図5】
図5は、本発明の第2実施形態に係るシーケンス図であって、第2処理部が第2同期信号を出力し、第1処理部で速度比較する実施形態である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図面を参照して本発明の一実施形態に係る昇降装置について説明を行なう。なお、昇降装置として、本実施形態ではエレベーター10を例に挙げるが、昇降装置は、エスカレーターや動く歩道などの乗客コンベアであってもよい。また、運動する速度を測定する所定部位として駆動装置20を例示し、駆動装置20の回転を監視用エンコーダー30でパルス信号として出力して速度を測定するようにしているが、所定部位は駆動装置20に限らず、また、速度はエンコーダーやパルス信号以外の方法で測定することもできる。
【0025】
図1は、本発明のエレベーター10の要部構成を示すブロック図である。図に示すように、エレベーター10は、かご11が主ロープ12の一端に吊り下げられており、主ロープ12の他端にはカウンターウェイト13が吊り下げられている。主ロープ12は、モーターやブレーキなどから構成される駆動装置20と同軸に設けられたシーブに掛けられ、駆動装置20が正逆回転することで、かご11をシャフト内で昇降させる。
【0026】
駆動装置20には、監視用エンコーダー30が取り付けられており、駆動装置20の回転に応じてパルス信号を出力する。なお、監視用エンコーダー30は、
図1では、運動する速度を測定可能な所定部位としての駆動装置20に配備しているが、調速機(ガバナー)や調速機からロープによって吊り下げられる張り車(テンションプーリー)(何れも図示せず)などの回転部に配置することもできる。監視用エンコーダー30から出力されるパルス信号は、
図1に示すように、次に説明する制御装置40に入力される。
【0027】
制御装置40は、運転制御部41と安全回路42、処理部50とを含んでいる。運転制御部41は、駆動装置20等を制御する。安全回路42は、運転制御部41や処理部50により制御され、ブレーキへの給電経路やモーターへの給電経路通電可能或いは遮断する切替えを行なう。
【0028】
処理部50は、第1処理部51と第2処理部54を有する。第1処理部51と第2処理部54は夫々、CPU、ROM、RAMなどを含むマイクロコントローラー(MCU)から構成する。
【0029】
第1処理部51と第2処理部54は夫々、監視用エンコーダー30から出力されるパルス信号が入力され、パルス信号からエレベーター10(かご11)の速度を算出し、算出された速度が所定基準に対して過剰の場合、過速度と判定する。過速度と判定すると、運転制御部41と安全回路42に異常信号を出力する。
【0030】
安全回路42は、異常信号が入力されると、ブレーキやモーターへの通電を遮断することで駆動装置20を非常停止する。運転制御部41は、異常信号が入力されると、エレベーター10を運行休止状態に移行させ、エレベーター10の管理室や遠隔管理所に異常を発報する。
【0031】
以上のように過速度の判定による非常停止は、第1処理部51と第2処理部54の一方が機能不全となることがあっても、もう一方によって機能が確保されることになって、二重化による信頼性向上となっている。
【0032】
なお、処理部50は、昇降路の終端領域でかご11の過速度を検知してかご11を非常停止させる終端階強制減速装置(ETS)や、かご戸が開いた状態でかご11の過速度を検知してかご11を非常停止させる戸開走行保護装置(UCMP)などの安全装置(図示せず)に配置することができる。
【0033】
第1処理部51が機能不全である兆候がないかを、第2処理部54によって判定することを考える。また、第2処理部54が機能不全である兆候がないかを、第1処理部51によって判定することを考える。
【0034】
機能不全の兆候がないかどうかを、算出した速度が正常かどうかによって判定する。そのため、第1処理部51で算出した速度が正常かどうかを、第2処理部54で算出した速度と比較することによって判定する。また、第2処理部54で算出した速度が正常かどうかを、第1処理部51で算出した速度と比較することによって判定する。
【0035】
第1処理部51と第2処理部54は夫々、デジタル出入力回路52,55とシリアル通信回路53,56を具える。そして、第1処理部51で算出された第1速度v1を第2処理部54に送信し、第2処理部54で算出された第2速度v2と比較し、速度差が所定の許容誤差vaを超えると速度異常と判定し、運転制御部41と安全回路42に異常信号を出力する。また、第2処理部54で算出された第2速度v2を第1処理部51に送信し、第1処理部51で算出された第1速度v1と比較し、速度差が所定の許容誤差vaを超えると速度異常と判定し、運転制御部41と安全回路42に異常信号を出力する。
【0036】
このように、第1処理部51と第2処理部54の両方で、速度異常が判定されないことによって、エレベーターの運行状態が維持される(非常停止したり、運転休止したりすることがない)。なお、速度異常の判定は、かご11が走行していない停止状態でも実行するのが望ましい。
【0037】
以上のように速度を比較するプロセスの詳細について、以下では第1実施形態と第2実施形態に分けて説明する。
【0038】
<1.第1実施形態>
<1.1
図2のシーケンス>
上記制御のより詳細な流れについて、シーケンス
図2を用いて説明する。まず、第1処理部51は、シーケンス
図2に示すように、第1時刻t1に監視用エンコーダー30のパルス信号から第1速度v1を算出すると直ちに第1同期信号をデジタル出入力回路52を介してデジタル出力する(第1時刻t1:ステップS11)。
【0039】
第1同期信号の出力と同時に、第1処理部51は、第1速度v1をシリアル通信回路53を介して第2処理部54にシリアル通信により送信する。
【0040】
第2処理部54には、デジタル出入力回路55を介して第1同期信号が入力される。第2処理部54は、第1同期信号が入力されると(ステップS21:入力時刻は第2時刻t2)、直ちに監視用エンコーダー30のパルス信号から第2速度v2を算出する。第2処理部54は、第2時刻t2に算出された第2速度v2を第2比較対象データとして記憶する。
【0041】
そして、第2処理部54は、シリアル通信回路56を介して第1処理部51から第1速度v1を受信する。第2処理部54は、第1速度v1を受信すると(受信時刻は時刻t2b)、ステップS21で記憶した第2比較対象データを読み出し、第2比較対象データに対する第1速度v1の第1誤差|v1-v2|(|・・・|は絶対値を表わす。以下同様)を求める(ステップS22)。そして、第2処理部54は、第1誤差|v2-v1|が所定の許容誤差va以下であれば正常と判断する。一方、許容誤差vaを超えていると異常と判断し、第2処理部54は、異常信号を運転制御部41及び安全回路42に出力する。
【0042】
これらシーケンスを単位シーケンスとして、時刻をずらしながら繰り返し実行する。
【0043】
<1.2
図3のシーケンス>
また、上記した
図2のシーケンスと並行して、第1処理部51では、第2処理部54の算出した第2速度v2を受信し、第1処理部51で算出された第1速度v1と比較するシーケンス(
図3)が実行される。この処理では、
図3に示すように、第2処理部54は、第3時刻t3に第2速度v2を算出すると共に、直ちに第1処理部51に第2同期信号をデジタル出力し、第2速度v2を第1処理部51にシリアル通信で送信する(ステップS31)。また、第1処理部51は、第2同期信号がデジタル入力された第4時刻t4に第1速度v1を算出して第1比較対象データとして記憶し(ステップS41)、第2速度v2をシリアル通信で受信すると(受信時刻は時刻t4b)、第2速度v2と第1比較対象データを比較し、第1比較対象データに対する第2誤差を求め(ステップS42)、第2誤差が許容誤差vaを超えていると、速度異常と判断する。
【0044】
これらシーケンスを単位シーケンスとして、時刻をずらしながら繰り返し実行する。
【0045】
<1.3
図2、3のシーケンスの効果>
図2のシーケンスで第2処理部54は時刻t2bに、第1速度v1を第2速度v2と比較している。第1速度v1は、第1時刻t1に算出したものである。第2速度v2は、第2時刻t2に算出し、第2比較対象データとして記憶したものである。第1速度v1と第2時刻t2の算出時刻差は、|t1-t2|となる。この第1時刻t1は、第1処理部51が第1速度v1を算出する時刻であると共に、第1同期信号をデジタル出力する時刻でもある。また第2時刻t2は、第2処理部54が第2速度v2を算出する時刻であると共に、第1同期信号をデジタル入力する時刻でもある。
【0046】
デジタル出入力は、2進表現の1ビットの出入力をするだけの時間で済み、1ミリ秒未満とすることができる。
【0047】
図2のシーケンスのように第1同期信号を導入する以前、第2速度v2は、時刻t2bに算出していた。第1速度v1と第2速度v2の算出時刻差は、|t1-t2b|であった。この第1時刻t1は、第1処理部51が第1速度v1を算出する時刻であると共に、シリアル通信により送信する時刻でもある。また時刻t2bは、第2処理部54が第2速度v2を算出する時刻であると共に、第1速度v1をシリアル通信により受信する時刻でもある。
【0048】
シリアル通信の場合、速度情報の送信には、2進表現された速度情報の各ビットを切り出した上で各ビットを出力する時間が必要となる。速度情報の受信には、入力した各ビットを一つにまとめ上げた上で2進表現された速度値に再現する時間が必要となる。これらを併せた時間は、数十ミリ秒にもなることがある。
【0049】
|v1算出時刻-v2算出時刻|が、第1同期信号の導入前は|t1-t2b|であったものが、導入後は|t1-t2|へと短縮したことになる。それによって、|v1-v2|≦vaとすべき許容誤差vaを小さくすることができる。つまり、速度異常の見逃し幅を小さくすることができるので、速度異常の判定精度を向上させることができる。
【0050】
なぜならば、|v1算出時刻-v2算出時刻|の短縮によって、「v1算出時刻~v2算出時刻」期間の最大速度変化幅vmが小さくなり、vm≦vaとすべき許容誤差vaを小さくすることができるからである。
【0051】
たとえば最大速度変化幅vmは、「v1算出時刻~v2算出時刻」期間にエレベーターが最大加速度α0で走り続けた場合でも、α0×|v1算出時刻-v2算出時刻|と見積もることができる。
【0052】
以上で述べた効果は、
図3のシーケンスでも同様に言えることである。
【0053】
<2.第2実施形態>
第1実施形態では、
図2のシーケンスで第1処理部51は、第1同期信号のデジタル出力時刻に第1速度v1を算出して送信した。第2処理部54は、第1同期信号のデジタル入力時刻に第2速度v2を算出して第2比較対象データとした。
【0054】
第2実施形態では、シーケンス
図4に示すように、第1処理部51が第1周期毎に第1速度v1を算出して記憶しておき、第2処理部54が第2周期毎に第2速度v2を算出して記憶しておく。そして第1処理部51は、第1同期信号のデジタル出力時刻に読み出した最新の第1速度v1を送信する。第2処理部54は、第1同期信号のデジタル入力時刻に読み出した最新の第2速度v2を第2比較対象データとする。
【0055】
<2.1
図4のシーケンス>
具体的には、シーケンス
図4に示すように、第1処理部51は、第1周期毎に監視用エンコーダー30のパルス信号から第1速度v1を算出して記憶する(P1)。その際、前回に算出して記憶した第1速度v1に上書きする。第2処理部54は、第2周期毎に監視用エンコーダー30のパルス信号から第2速度v2を算出して記憶する(P2)。その際、前回に算出して記憶した第2速度v2に上書きする。
【0056】
第1処理部51は第1時刻t1に、第1同期信号をデジタル出入力回路52を介してデジタル出力し、それと共に、記憶されている最新の第1速度v1を読み出して、シリアル通信で送信する(ステップS51)。なお、読み出した第1速度v1を算出した時刻が、時刻t1aであったとする。
【0057】
第2処理部54は、第1同期信号がデジタル入力されると(入力時刻は第2時刻t2)、記憶されている最新の第2速度v2を読み出して、第2比較対象データとして記憶する(ステップS61)。なお、読み出した第2速度v2を算出した時刻が、時刻t2aであったとする。
【0058】
続いて、第2処理部54は、シリアル通信回路56を介して第1速度v1を受信する(受信時刻は、「時刻t2a+第2周期」後の時刻t2b)。第2処理部54は、第1速度v1の受信をトリガーとして、ステップS61で記憶された第2比較対象データを読み出し、第1速度v1と比較する(ステップS62)。そして、これらの誤差|v1-v2|である第1誤差が、所定の許容誤差vaを超えていれば速度異常と判定し、異常信号を運転制御部41及び安全回路42に出力する。
【0059】
これらシーケンスを単位シーケンスとして、時刻をずらしながら繰り返し実行する。
【0060】
<2.2
図5のシーケンス>
また、上記した
図4のシーケンスと並行して、シーケンス
図5に示すように、第2処理部54は、第2同期信号をデジタル出力し、第2同期信号を出力する際に、記憶している第2速度v2を第1処理部51にシリアル通信により送信する。第2速度v2を受信した第1処理部51は、記憶している第1速度v1の最新データと比較して第2誤差|v1-v2|を求め、所定の許容誤差vaを超えていれば速度異常と判定する(シーケンス
図5のステップS71、ステップS81~S82)。
【0061】
これらシーケンスを単位シーケンスとして、時刻をずらしながら繰り返し実行する。
【0062】
<2.3
図4、
図5のシーケンスの効果>
図4のシーケンスで第2処理部54は時刻t2bに、第1速度v1を第2速度v2と比較している。第1速度v1は、時刻t1aに算出したものである。第2速度v2は、時刻t2aに算出後、第2比較対象データとして記憶したものである。第1速度v1と第2時刻t2の算出時刻差は、|t1a-t2a|となる。この時刻t1aは、第1処理部51が第1同期信号をデジタル出力する第1時刻t1の直前である。また時刻t2aは、第2処理部54が第1同期信号をデジタル入力する第2時刻t2の直前である。
【0063】
デジタル出入力は、2進表現の1ビットの出入力をするだけの時間で済み、1ミリ秒未満とすることができる。
【0064】
図4のシーケンスのように第1同期信号を導入する以前、第2速度v2は、時刻t2bに算出していた。第1速度v1と第2速度v2の算出時刻差は、|t1a-(t2a+第2周期)|であった。この時刻t1aは、第1処理部51が第1速度v1をシリアル通信により送信する第1時刻の直前である。また時刻(t2a+第2周期)は、第2処理部54が第1速度v1をシリアル通信により受信する時刻t2bの直前である。
【0065】
シリアル通信の場合、速度情報の送信には、2進表現された速度情報の各ビットを切り出した上で各ビットを出力する時間が必要となる。速度情報の受信には、入力した各ビットを一つにまとめ上げた上で2進表現された速度値に再現する時間が必要となる。これらを併せた時間は、数十ミリ秒にもなることがある。
【0066】
|v1算出時刻-v2算出時刻|が、第1同期信号の導入前は|t1a-(t2a+第2周期)|であったものが、導入後は|t1a-t2a|へと短縮したことになる。それによって、|v1-v2|≦vaとすべき許容誤差vaを小さくすることができる。つまり、速度異常の見逃し幅を小さくすることができるので、速度異常の判定精度を向上させることができる。
【0067】
なぜならば、|v1算出時刻-v2算出時刻|の短縮によって、「v1算出時刻~v2算出時刻」期間の最大速度変化幅vmが小さくなり、vm≦vaとすべき許容誤差vaを小さくすることができるからである。
【0068】
たとえば最大速度変化幅vmは、「v1算出時刻~v2算出時刻」期間にエレベーターが最大加速度α0で走り続けた場合でも、α0×|v1算出時刻-v2算出時刻|と見積もることができる。
【0069】
以上で述べた効果は、
図5のシーケンスでも同様に言えることである。
【0070】
<2.4 効果を発揮するための条件>
第2実施形態において
図4のシーケンスでは、第1同期信号を導入することによって第1速度v1と第2速度v2の測定時刻差が短縮するためには、次の式が成立するという条件が必要である。
t2a ≦ t2 < t2a+第2周期 … (1)
t2a+n×第2周期 ≦ t2b < t2a+(n+1)×第2周期 … (2)
nは自然数1、2、3、・・・の何れかである。シーケンス
図4はn=1の場合を示している。
【0071】
(1)と(2)が成立する場合、第1同期信号の導入前は、時刻「t2a+n×第2周期」に算出した第2速度v2と、時刻「t1a」に算出した第1速度v1を比較することになる。しかしながら、第1同期信号を導入することで時刻「t2a」に算出した第2速度v2と、時刻「t1a」に算出した第1速度v1とを比較することができるから、第1速度v1と第2速度v2の測定時刻差を短縮できる。
【0072】
一方、第2周期が長いと、次の式が成立する。
t2a ≦ t2 < t2a+第2周期 … (3)
t2a ≦ t2b < t2a+第2周期 … (4)
この場合には、第1同期信号の導入の有無に拘わらず、時刻「t2a」に算出した第2速度v2と、時刻「t1a」に算出した第1速度v1とを比較することになるから、第1速度v1と第2速度v2の測定時刻差は変わらない。このため、このような長い第2周期の実施形態に第1同期信号を導入しても、第1速度v1と第2速度v2の測定時刻差を短縮できない。
【0073】
従って、本発明では、上記した式(1)、(2)が成立するようになっていて第1同期信号を導入したときに、第1速度v1と第2速度v2の測定時刻差が短縮する。
【0074】
また、シーケンス
図5に示すパターンでも、次の式が成立するという条件が必要である。
t4a ≦ t4 < t4a+第1周期 … (1’)
t4a+n×第1周期 ≦ t4b < t4a+(n+1)×第1周期 … (2’)
【0075】
上記説明は、本発明を説明するためのものであって、特許請求の範囲に記載の技術的範囲を減縮するように解すべきではない。また、本発明の各部構成は、上記実施例に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能であることは勿論である。
【0076】
たとえば、第1処理部51と第2処理部54は、監視用エンコーダー30から2系統のパルス信号を夫々受信して速度を算出するようにしてもよい。また、第1処理部51と第2処理部54は、同じ所定部位に装着された異なるエンコーダーからパルス信号が入力されても構わない。
【0077】
第1実施形態や第2実施形態では、所定部位が運動する速度を対象としているが、所定部位の測定量一般を対象とすることにしても本発明は成立する。同じ測定量を二重に算出したx1とx2について、x1算出時刻とx2算出時刻の差を短縮することによって、両時刻の間の期間に測定量が変化する最大幅を短縮することができる、といった測定量を対象とすることで、本発明の効果を発揮することができるからである。
【0078】
第1実施形態や第2実施形態では、算出速度の送信や受信をシリアル通信で行なうと述べたが、シリアル通信でなくパラレル通信で行なってもよい。なぜなら送信時は、2進表現された速度値の各ビットを切り出した上で各ビットを出力する点で共通だからである。また受信時は、入力した各ビットを一つにまとめ上げた上で2進表現された速度値に再現する点で共通だからである。このような共通点は、同期信号のデジタル出力やデジタル入力よりも時間がかかることを示しており、逆に言えば、同期信号を導入することによる時間短縮効果を示すものである。また、シリアル通信やパラレル通信以外でも、このような共通点を有する通信方式であれば、採用可能である。
【符号の説明】
【0079】
10 エレベーター(昇降装置)
20 駆動装置
30 監視用エンコーダー
40 制御部
41 運転制御部
42 安全回路
50 処理部
51 第1処理部
52 デジタル出入力回路(第1処理部)
53 シリアル通信回路(第1処理部)
54 第2処理部
55 デジタル出入力回路(第2処理部)
56 シリアル通信回路(第2処理部)
【要約】
【課題】本発明は、同じ測定量を二重に算出したときの許容誤差を小さくすることのできる昇降装置を提供する。
【解決手段】本発明の昇降装置10は、所定部位を測定して第1測定量x1を算出する第1処理部51と、前記所定部位を測定して第2測定量x2を算出する第2処理部54と、を具える昇降装置であって、前記第1処理部は、第1時刻t1に第1同期信号を前記第2処理部に出力すると共に第1測定量x1を算出し、前記第1測定量x1を前記第2処理部に送信し、記第2処理部は、前記第1同期信号を入力した第2時刻t2に第2測定量x2を算出して第2比較対象データとして記憶し、前記第1測定量x1を受信した時刻t2bに前記第2比較対象データに対する前記第1測定量x1の誤差である第1誤差を求め、前記第1誤差が予め設定された許容誤差vaを超えていると、異常と判断する。
【選択図】
図2