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  • 特許-透明ウメシロップの製造方法 図1
  • 特許-透明ウメシロップの製造方法 図2
  • 特許-透明ウメシロップの製造方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-25
(45)【発行日】2022-05-09
(54)【発明の名称】透明ウメシロップの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 19/00 20160101AFI20220426BHJP
【FI】
A23L19/00 D
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018138718
(22)【出願日】2018-07-24
(65)【公開番号】P2020014397
(43)【公開日】2020-01-30
【審査請求日】2020-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】591137628
【氏名又は名称】中野BC株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藤田 紗与
(72)【発明者】
【氏名】我藤 伸樹
(72)【発明者】
【氏名】門脇 昭夫
【審査官】飯室 里美
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-165667(JP,A)
【文献】特開2012-165668(JP,A)
【文献】特開2008-306997(JP,A)
【文献】年中無休♪冷凍で作る琥珀色の梅シロップ,Cookpad [online],2009年04月29日,[検索日:2021年1月21日],https://cookpad.com/recipe/99522
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷凍したウメ果実を糖質に漬け込み抽出温度を-14℃~-2℃に保持することを特徴とするゲル状物質非発生ウメシロップの製造方法。
【請求項2】
ウメ果実が完熟させたものであることを特徴とする、請求項1に記載のゲル状物質非発生ウメシロップの製造方法。
【請求項3】
酢酸ヘキシルが増強されたウメシロップであることを特徴とする請求項1~2に記載のゲル状物質非発生ウメシロップの製造方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウメシロップのゲル状物質発生を抑制した透明ウメシロップの製造方法に関するものであり、より詳細には、完熟させたウメ果実を冷凍し、これを糖質に漬け込み抽出温度を低温保持することにより得られるものである。
【背景技術】
【0002】
ウメを原料とする果汁の製造方法の一つにウメ果実を糖質に浸漬し、浸透圧の差を利用して、ウメシロップを製造する方法がある。
【0003】
原料となるウメ果実は、樹上で完熟することや、エチレンガスなどによる追熟処理により熟度を増すことにより、風味が良くなる、色彩が鮮やかになる、有用成分が増加する等が知られている。(特許文献1)このことから、商品価値の高い製品を得るために完熟、追熟ウメを原料として用いられることが多い。
【0004】
一方、果実の熟度が増すことで果実内に含まれるペクチンが低分子化するという報告もある。(非特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4566978号公報
【文献】張 世明 他3名,「収穫後の青ウメペクチン質の変化に及ぼす包装とエチレン除去の影響」,日本食品工業学会誌,第40巻,第3号,1993年3月,P.163-169
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
低分子化したペクチンは水溶性が高いため、完熟、追熟ウメを原料としたシロップ中には低分子ペクチンが流出しやすい。また、傷みやすい完熟させたウメは品質を保つために冷凍される場合が多いが、冷凍したウメは氷結晶による組織損傷が発生する。低分子ペクチンはこの組織損傷個所からシロップ中に流出しやすくなる。結果、冷凍した完熟させたウメ果実を原料としたウメシロップは極めてゲル状物質が発生しやすい。
【0007】
この流出した低分子ペクチンは通常現場で使用する濾過膜は通過してしまう。また、シロップの粘性は非常に高いため、精密濾過膜においては目詰まりが起こりやすく、ペクチンの除去は困難であった。また、果汁清澄化の手法の一つとして、酵素処理によりペクチンを分解する澱下げ処理が一般的に行われているが、こちらも粘性が高い液体では分解されたペクチンは浮遊したまま澱として沈殿せず、シロップからの除去は困難であった。
【0008】
さらにウメシロップは高糖度、低pHであり、なおかつ殺菌等による熱処理工程が加わるため、低分子ペクチンが結合しやすい条件下となり、殺菌処理後のウメシロップはジャムが固まるようにゲル状物質が発生しやすいという問題があった。
【0009】
瓶詰後に析出したゲル状物質は外観を損ね、さらに瓶上部でゲル状物質が発生した場合は蓋のようになってしまい、商品価値を著しく低減させる。本発明の目的は、完熟ウメのように熟度の高いウメ果実を原料としたウメシロップにおいて、ゲル状物質の発生が抑制された透明ウメシロップの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、冷凍ウメ果実を糖質に浸漬、0℃以下の低温条件を保持しながら抽出することで、果実中の凝固点の高い純粋な水からなる氷結晶は凍結状態を保持したまま、香り成分などが溶け込み、凝固点が低くなった水相より選択的に抽出することで、ゲル状物質の発生が抑制された透明ウメシロップが得られることを見出した。
【0011】
なお、本発明における製造方法が適用されるウメ果実については特に限定されないが、品種は翠香が望ましいが、南高、露茜、古城、白加賀、豊後、養老なども挙げられる。また、ウメ果実に限らず、アンズ、スモモ、カリン、ラ・フランスに代表されるバラ科植物で食用できる果実であれば適用可能である。
【0012】
本発明における製造方法は、完熟、又は追熟処理したウメの実を洗浄後、水分を拭き取る。凍結方法は限定されず、任意の凍結方法を採用できる。例えば、空気凍結法、エア・ブラスト凍結法、接触式凍結法、ブライン凍結法、液体窒素を用いる凍結法等食品製造に用いられている冷凍手段であればいずれの冷凍手段でも良い。好適には、-20℃の冷凍庫で24時間以上経過させることで凍結することができる冷凍手段が良い。
【0013】
凍結した果実をグラニュー糖に漬け込む作業時間としては、果実中の氷結晶が融解してしまう前に処理することが好ましく、室温が30℃の場合、3時間以内の作業時間が好ましい。
【0014】
漬け込む糖質としては、例えばグラニュー糖、氷砂糖、異性化糖、単糖類(果糖、ブドウ糖)、二糖類(ショ糖・乳糖)等が挙げられる。
【0015】
抽出期間中、静置する温度帯としては、0℃~-14℃、好ましくは、-2℃~-10℃、より好ましくは、-4℃~-6℃とすることが望ましい。その理由として、0℃以上では、果実が融解してしまい、-14℃以下ではシロップが凍結してしまい抽出が進まないためである。
【0016】
抽出工程の漬け込み方法は特に限定するものではないが、抽出期間短縮化、品質安定化のために重石をのせても良い。
【発明の効果】
【0017】
完熟、追熟処理を行った冷凍ウメ果実を原料とするウメシロップを、本発明の方法で製造した場合、ゲル状物質の発生量がみごとに抑制された。通常、シロップは粘性が高く、またペクチンが低分子化しているため困難であったシロップ液の清澄化、異物除去が容易になった。このことで、製造時の作業性を改善し、ひいては製品時にかかる費用を低減させることが可能となった。
【0018】
また、完熟、追熟処理を行ったウメ果実原料は腐敗しやすく、さらにウメ果実表面に付着した野生酵母によるアルコール発酵の影響が懸念される。本発明は抽出期間中、0℃以下の環境下であるため、これら酵母、一般性細菌の繁殖を抑えられ、安定した品質の果汁の生産が可能となる。
【0019】
さらに、揮発性の高い芳香性特徴成分が通常の抽出方法に比べ約3倍含まれていた。本発明の実施により、外観が良好でかつ、完熟、追熟ウメ本来の自然で優れた風味を持つウメシロップが得られた。
【0020】
また、本発明で得られる果汁は、飲料用果汁としてだけでなく、洋菓子、和菓子などの菓子類、肉・魚・野菜等を用いて調理した惣菜類、リキュールなどのアルコール飲料、ヨーグルトやチーズ、穀物飯類などの食品に適宜配合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】ウメシロップを調製、瓶詰め殺菌後、半年間常温保存後の外観の様子である。
図2】ウメシロップ中の酸性糖含有量を示した棒グラフである。
図3】ウメシロップ中の酢酸ヘキシルの面積比を示した棒グラフである。
【実施例1】
【0022】
以下に実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0023】
通常のウメ果実よりもペクチンが豊富であることが報告されている翠香果実(黄熟果 追熟4日)を洗浄後、水気を切り-20℃の冷凍庫で一晩凍結させた。
【0024】
凍結状態を保った1kgのウメ果実を等量のグラニュー糖(新光製糖株式会社製)に浸漬し、1kgの重石をのせ、-5℃の環境下で抽出を行った。果汁が抽出され始めた日から一週間に一回、全体が混ざり合うように撹拌を行った。抽出期間終了後、残ったウメ果実を取り除き、ウメシロップとした。
【0025】
[比較例1]
次に、抽出条件を4℃の環境下に置くこと以外は実施例と全く同じ条件でウメシロップを調製した。
【0026】
実施例1と比較例1において、得られたシロップを100メッシュパス処理後、300mlのガラス製容器に充填した。85℃達温殺菌後、常温で半年間静置保管した。保管後のゲル状物質発生の有無を図1に示す。
【0027】
図1から、実施例1は比較例1に見られるゲル状物質が発生しないことが確認できた。
【0028】
実施例1と比較例1において、ペクチンの主成分である酸性糖含有量の測定を行った。測定方法はm-ヒドロキシジフェニル法を用いた。結果を図2に示す。
【0029】
図2より、比較例1では84.1mg/100mlであるのに対し、実施例1では63.8mg/100mlとなり、ウメ果実からのペクチン流出を約24%抑制できることが明らかとなった。
【0030】
実施例1と比較例1において、翠香の特徴香として推定される酢酸ヘキシルについてGC分析を行った。芳香性成分の捕集にはMonoTrap DCC18(GLサイエンス)を用い、測定条件は以下の通りである。
【0031】
[GC測定条件]GC2014(島津製作所)
・カラム:DB-WAX(30m,0.25μm Film,Agilent Technologies)
・昇温条件:40℃(5分保持)~220℃(10分保持),6℃/分
・注入口温度:230℃
・サンプル量:1μL
・キャリアガス:He(定流量1.2ml/分)
・導入モード:スプリットレス


【0032】
図3より、実施例1は比較例1よりも3倍の酢酸ヘキシルを保有していることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明により、完熟、追熟冷凍ウメ果実を原料とする、ゲル状物質の発生が抑制され、香り成分が増強されたウメシロップを得ることができる。







図1
図2
図3