(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-25
(45)【発行日】2022-05-09
(54)【発明の名称】がんに対する栄養処置
(51)【国際特許分類】
A23L 33/20 20160101AFI20220426BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220426BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20220426BHJP
A61K 31/525 20060101ALI20220426BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220426BHJP
A61K 38/48 20060101ALI20220426BHJP
A61K 31/185 20060101ALI20220426BHJP
A61K 31/675 20060101ALI20220426BHJP
A61K 31/198 20060101ALI20220426BHJP
A61P 3/02 20060101ALI20220426BHJP
A61K 38/55 20060101ALI20220426BHJP
A23L 33/175 20160101ALI20220426BHJP
C12Q 1/04 20060101ALI20220426BHJP
【FI】
A23L33/20
A61P35/00
A61P35/02
A61K31/525
A61K45/00
A61K38/48
A61K31/185
A61K31/675
A61K31/198
A61P3/02 101
A61K38/55
A23L33/175
C12Q1/04
(21)【出願番号】P 2018515026
(86)(22)【出願日】2016-09-20
(86)【国際出願番号】 US2016052720
(87)【国際公開番号】W WO2017053328
(87)【国際公開日】2017-03-30
【審査請求日】2019-09-18
(32)【優先日】2015-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503115205
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】リ, シヤン
(72)【発明者】
【氏名】スナイダー, マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ワン, シン
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/031735(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/197533(WO,A1)
【文献】特表2008-533208(JP,A)
【文献】特表2012-502996(JP,A)
【文献】特開昭57-014534(JP,A)
【文献】米国特許第04988724(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0235569(US,A1)
【文献】特開平10-028580(JP,A)
【文献】特表2019-507754(JP,A)
【文献】Glenda, C-M., et al.,"Methionine-Adequate Cysteine-Free Diet Does Not Limit Erythrocyte Glutathione Synthesis in Young Healthy Adult Men.",The Journal of Nutrition,2008年,138 (11),pp2172-2178
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 33/20
A61P 35/00
A61P 35/02
A61K 31/525
A61K 45/00
A61K 38/48
A61K 31/185
A61K 31/675
A61K 31/198
A61P 3/02
A61K 38/55
A23L 33/18
C12Q 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、スレオニン、トリプトファンおよびバリンを含む全ての必須アミノ酸を含み;
b システイン非含有であり、かつ
c アルギニン、グルタミン、セリン、およびチロシンからなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸を含有しない、
ことを特徴とする包装済みミールであって、前記包装済みミールが朝食用ミール、昼食用ミール、夕食用ミールまたは軽食である、包装済みミール。
【請求項2】
前記包装済みミールが、1日あたりの米国推奨許容量(USRDA)ガイドラインに従うレベルでシステインまたはシスチン以外の栄養素を含む、請求項1に記載の包装済みミール。
【請求項3】
前記包装済みミールが、タンパク質不含有ミールまたは低タンパク質ミールである、請求項1に記載の包装済みミール。
【請求項4】
被験体におけるがんを処置するための、請求項1~
3のいずれか一項に記載の包装済みミール。
【請求項5】
被験体におけるがんを処置するための低システイン食であって、
請求項1に記載の包装済みミールを含む前記低システイン食が前記被験体に用意されることを特徴とし、前記低システイン食がシステインまたはシスチンの前記被験体の一日摂取量を少なくとも80%低減し、前記がんが低システイン食に応答性である、低システイン食。
【請求項6】
前記被験体は、少なくとも1~4ヶ月間、少なくとも5カ月~1年間、または少なくとも部分的な腫瘍応答がもたらされるまで前記低システイン食を継続する、請求項
5に記載の低システイン食。
【請求項7】
前記低システイン食は、1日あたりの米国推奨許容量(USRDA)ガイドラインに従うレベルでシステインまたはシスチン以外の栄養素を提供する、請求項
5に記載の低システイン食。
【請求項8】
前記低システイン食はタンパク質不含有食を含む、請求項
5に記載の低システイン食。
【請求項9】
前記低システイン食が、メチオニンの投与と組み合わせて用意されることを特徴とする、請求項
5に記載の低システイン食。
【請求項10】
前記低システイン食が、外科手術、放射線療法、化学療法、ホルモン療法、免疫療法または生物学的療法と組み合わせて用意される、請求項
5に記載の低システイン食。
【請求項11】
前記低システイン食が、1つまたは複数の治療剤の投与と組み合わせ用意され、前記1つまたは複数の治療剤は、システイン/シスチン枯渇薬、システイン分解酵素、ガンマグルタミルトランスペプチダーゼ阻害剤、システイン/シスチン輸送体阻害剤またはシステイン生合成の阻害剤である、請求項
5に記載の低システイン食。
【請求項12】
前記がんは、肺がん、肝がん、乳がん、前立腺がん、結腸がん、リンパ腫または白血病である、請求項
5に記載の低システイン食。
【請求項13】
前記低システイン食がシステインまたはシスチンの前記被験体の一日摂取量を少なくとも90%低減する、請求項
5に記載の低システイン食。
【請求項14】
前記低システイン食がシステインまたはシスチンの前記被験体の一日摂取量を少なくとも95%低減する、請求項
5に記載の低システイン食。
【請求項15】
前記低システイン食が、全ての必須アミノ酸の投与と組み合わせて用意されることを特徴とし、前記必須アミノ酸が、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、スレオニン、トリプトファンおよびバリンである、請求項
5に記載の低システイン食。
【請求項16】
アルギニン、グルタミン、セリン、およびチロシンからなる群から選択される1つまたは複数のアミノ酸の前記被験体の一日摂取量が、さらに低減されるか取り除かれる、請求項
5に記載の低システイン食。
【請求項17】
前記被験体が、少なくとも1~4カ月間前記低システイン食を継続する、請求項
5に記載の低システイン食。
【請求項18】
前記がんが、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、慢性リンパ芽球性白血病(CLL)、慢性骨髄性白血病(CML)、急性骨髄性白血病(AML)、バーキットリンパ腫、非小細胞肺がん(NSCLC)、大細胞肺がん、扁平上皮癌、小細胞肺がん(SCLC)、肝細胞癌(HCC)、腺癌タイプの乳がん、原発性腺管癌タイプの乳がん、腺癌タイプの前立腺がん、前立腺癌由来骨転移、ホルモン不応性前立腺がん、および、結腸直腸癌からなる群から選択される、請求項
5に記載の低システイン食。
【請求項19】
前記低システイン食が、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、スレオニン、トリプトファンおよびバリンを含む全ての必須アミノ酸を含む、請求項
5に記載の低システイン食。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アメリカ国立衛生研究所により与えられたコントラクトGM062480の下、政府支援によってなされた。政府は本発明における一定の権利を有する。
【0002】
本発明は、全般に、がんを処置する方法に関する。特に、本発明は、がん細胞の栄養学的弱点を同定すること、およびがんの成長を抑制するための栄養療法を使用することによってがんを処置する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
がんは、広く存在する、多くは不治の致死性の疾患群である。現在の処置は、費用がかかり、有効性が様々である。がん細胞は、細胞の解糖作用とミトコンドリアの好気性呼吸との脱共役に関与するワールブルグ効果と称される、特有のタイプの代謝を用いていることが公知である(Hanahanら、(2011年)Cell 144巻(5号):646~674頁;Cairnsら、(2011年)Nat. Rev. Cancer 11巻(2号):85~95頁)。生じた代謝インバランスは、非効率的な流束制御および生合成を引き起こし得、結果として正常細胞では必要ないある特定の栄養素に対する要求性をもたらす。散発的な研究が、がんのこの態様を調査しているが(Maddocksら、(2013年)Nature 493巻(7433号):542~546頁;Sheenら、(2011年)Cancer Cell 19巻(5号):613~628頁)、体系的にこれを検査したものはない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Hanahanら、(2011年)Cell 144巻(5号):646~674頁
【文献】Cairnsら、(2011年)Nat. Rev. Cancer 11巻(2号):85~95頁
【文献】Maddocksら、(2013年)Nature 493巻(7433号):542~546頁
【文献】Sheenら、(2011年)Cancer Cell 19巻(5号):613~628頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
したがって、がん細胞の栄養学的弱点を同定することは当技術分野において依然として必要であり、現在のがんを処置する方法を改善するために利用できる。
特に、本発明は、がん細胞の栄養学的弱点を同定すること、およびがんの成長を抑制するための栄養療法を使用することによってがんを処置する方法に関する。
【0006】
一態様では、本発明は、がん性細胞の栄養学的弱点を同定する方法であって、a)正常細胞の成長のためのすべての必須栄養素を有するが、正常細胞の成長のために必須でないが、がん性細胞の成長のために必要である可能性がある、少なくとも1つの栄養素を欠いている培地でがん性細胞を培養するステップ、およびb)がん性細胞の成長を測定するステップであって、培地でのがん性細胞の成長の抑制が、がん性細胞が栄養学的弱点を有し、正常細胞の成長のために必須でない少なくとも1つの栄養素にがん性細胞の成長が依存していることを示す、ステップを含む、方法を含む。栄養学的弱点についてスクリーニングされるがん性細胞は、がん細胞株、またはがんを有する被験体由来の生物学的試料(例えば、腫瘍生検、またはがん性細胞を含む血液もしくは尿などの体液)から得られてよい。本方法は、食事応答性がんを同定するために使用でき、スクリーニングによって同定された1つまたは複数の栄養素をがんに与えないことは、がんの成長および増殖を抑制する、またはより好ましくは、細胞死を誘導する。
【0007】
本明細書に記載の方法によってがんの栄養学的弱点が同定されると、がんの栄養学的弱点に関連する少なくとも1つの栄養素を含有する食品の被験体の一日摂取量を低減するまたは取り除く食事を被験体に用意することによって、がんについて被験体は処置されてよい。栄養療法はがんの栄養学的弱点に関連する1つまたは複数の栄養素の一日摂取量を低減するまたは取り除くことについての食事指導を被験体に提供することによって実行されてよい。あるいは、被験体は、がんの栄養学的弱点に関連する1つまたは複数の栄養素を含有しないまたは少量を有するミール(例えば、朝食用ミール、昼食用ミール、夕食用ミールまたは軽食)を提供されてよい。ある特定の実施形態では、食事は、がんの栄養学的弱点に関連する1つまたは複数の栄養素を含有する食品の被験体の一日摂取量を、少なくとも70%から100%(70、75、80、85、90、95、96、97、98、99または100%などのこの範囲内の任意のパーセントを含んで)まで、低減する。好ましくは、食事は、1日あたりの米国推奨許容量(USRDA)ガイドラインに従うレベルで他の栄養素を提供する。
【0008】
ある特定の実施形態では、がん性細胞は、がん性細胞の成長および増殖が、正常細胞の成長ために必須でない少なくとも1つのアミノ酸に依存するような栄養学的弱点を有する。ある特定の実施形態では、がん性細胞は、システイン、アルギニン、グルタミン、セリンおよびチロシンからなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸に依存する。
【0009】
別の実施形態では、本発明は、食事応答性がんを有する被験体を同定するおよび処置する方法であって、a)被験体からがん性細胞を含む生物学的試料を得るステップ、b)正常細胞の成長のためのすべての必須アミノ酸を有するが、正常細胞の成長のために必須でないが、がん性細胞の成長のために必要である可能性がある、1つまたは複数のアミノ酸が欠損している検査培地でがん性細胞を培養するステップ、および、c)がん性細胞の成長を測定するステップであって、検査培地でのがん性細胞の成長の抑制が、がん性細胞の成長のために必要な1つまたは複数のアミノ酸を被験体の食事から除去することによってがんを処置できることを示す、ステップ、およびd)がん性細胞の成長のために必要な1つまたは複数のアミノ酸の被験体の一日摂取量を低減するまたは取り除く食事を被験体に用意することによってがんについて被験体を処置するステップを含む、方法を含む。
【0010】
別の実施形態では、被験体は、タンパク質不含有食または低タンパク質食を用意され、すべての必須アミノ酸(すなわち、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、スレオニン、トリプトファンおよびバリン)を含むアミノ酸含有サプリメントをさらに投与される。アミノ酸含有サプリメントが、個体が治療を受けているがんの成長のために必要であるとして本明細書に記載の方法によって同定されたいずれの非必須アミノ酸も含有していない条件で、アミノ酸含有サプリメントは、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパルテート、グルタメート、グルタミン、グリシン、プロリン、セリンおよびチロシンからなる群から選択される1つまたは複数の非必須アミノ酸をさらに含んでよい。一実施形態では、アミノ酸含有サプリメントは、システインまたはシスチンを含有しない。
【0011】
栄養療法は、抗腫瘍効果などの、特定のがんについての個体の処置に関して陽性の治療応答をもたらすのに十分長く継続されなければならない。被験体は、がんが少なくとも部分奏効、またはより好ましくは完全奏効を示すまで栄養療法を継続してよい。ある特定の実施形態では、被験体は、栄養療法を少なくとも1カ月から3カ月、少なくとも1カ月から4カ月、少なくとも5カ月から1年(1カ月、2カ月、2.5カ月、3カ月、3.5カ月、4カ月、5カ月、6カ月、7カ月、8カ月、9カ月、10カ月、11カ月、1年などのこれらの範囲内の任意の期間を含んで)継続してよいが、長期が被験体におけるがんを処置するために有益である。継続的栄養療法は、がんの再発を予防するまたは寛解の期間を延長するためにも有益であり得る。
【0012】
別の実施形態では、方法は、被験体におけるがん性細胞の成長のために必要な1つまたは複数の栄養素のレベル(例えば、血流中またはがん細胞の細胞内)をモニタリングすることをさらに含む。がん性細胞の成長のために必要な1つまたは複数の栄養素のレベルは、がん性細胞の成長のために必要な1つまたは複数の栄養素の被験体の一日摂取量を低減するまたは取り除く食事を被験体が行っている期間についてモニタリングされてよい。
【0013】
ある特定の実施形態では、被験体の食事は、がん性細胞の成長のために必要な1つまたは複数の栄養素のレベルを、被験体に食事を用意する前の被験体におけるレベル(例えば、血流中またはがん細胞の細胞内)の1~10%未満に(1、2、3、4、5、6、7、8、9または10%未満などのこの範囲内の任意の百分率を含んで)、低減するように調整される。一実施形態では、方法は、被験体の血液中の、がん性細胞の成長のために必要な少なくとも1つのアミノ酸のレベルをモニタリングすることを含む。
【0014】
別の実施形態では、方法は、栄養療法中の被験体におけるがんの成長をモニタリングすることをさらに含む。被験体におけるがんの成長は、がんの成長のために必要な1つまたは複数の栄養素の被験体の一日摂取量を低減するまたは取り除く食事を被験体が続けている間の期間にわたってモニタリングされてよい。ある特定の実施形態では、モニタリングを使用して、がん性細胞の成長を抑制するために1つまたは複数の栄養素のレベルを十分に低減するように被験体の食事を調整する。
【0015】
ある特定の実施形態では、被験体は、がんの成長および増殖をシステイン、アルギニン、グルタミン、セリンおよびチロシンからなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸に依存性にする栄養学的弱点を有するがんについて処置される。
【0016】
ある特定の実施形態では、本発明は、システインを含有する食品の被験体の一日摂取量を低減するまたは取り除く低システイン食を被験体に用意することを含む、システイン依存性がんについて被験体を処置するための方法を含む。システインは、例えば、システイン含有タンパク質、特に、システイン含有動物性タンパク質の被験体の一日摂取量を低減するまたは取り除くことによって食事において低減できる。特に、これだけに限らないが、鶏肉、豚肉、乳製品、卵または穀物などの概してシステイン含有量が高い食品の摂取は、低下または取り除かれるべきである。加えて、メチオニンの被験体の一日摂取量は、正常細胞による含硫アミノ酸の需要を維持するために増大させてよい。好ましくは、低システイン食は、1日あたりの米国推奨許容量(USRDA)ガイドラインに従うレベルで他の栄養素を提供する。
【0017】
栄養療法は、がんについて処置されている被験体に、毎日消費されるシステインの量を低下させることについての食事指導を提供することによって実行されてよい。あるいは、被験体は、必要な食事制限に従う被験体を補助するために、低システインまたはシステイン不含有ミール(例えば、システイン不含有または低システイン含有食品を含む朝食用ミール、昼食用ミール、夕食用ミールまたは軽食)を提供されてよい。
【0018】
ある特定の実施形態では、低システイン食は、システインを含有する食品の被験体の一日摂取量を、少なくとも70%から100%(70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99または100%などのこの範囲内の任意のパーセントを含んで)まで、低減する。低システイン食は、シスチンなどの酸化システイン誘導体を含む任意の形態のシステインの被験体の一日摂取量を低減するはずである。
【0019】
別の実施形態では、被験体は、タンパク質不含有食を用意され、すべての必須アミノ酸(すなわち、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、スレオニン、トリプトファンおよびバリン)を含むアミノ酸含有サプリメントをさらに投与される。アミノ酸含有サプリメントがシステインまたはシスチンを含有しない条件で、アミノ酸含有サプリメントはアラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパルテート、グルタメート、グルタミン、グリシン、プロリン、セリンおよびチロシンからなる群から選択される1つまたは複数の非必須アミノ酸をさらに含んでよい。
【0020】
本発明の方法は、低システイン食に応答性である任意のがん、例えば、腺癌、扁平上皮癌、大細胞癌または小細胞癌について被験体を処置するために使用されてよい。ある特定の実施形態では、がんは、肺がん(例えば、扁平上皮肺癌、大細胞肺癌または小細胞肺癌)、肝がん、乳がん、前立腺がん、結腸がん、リンパ腫または白血病である。
【0021】
被験体は、既存のシステイン依存性がんに対して治療的にまたは予防的に(例えば、遺伝的素因または発生性、環境性、職業性、または行動性の危険因子の1つもしくは複数の存在のためにがんを発症する危険がある被験体)のいずれかで処置されてよい。特に、被験体は、被験体が喫煙、長期カテーテル留置、または発癌物質への環境性曝露のためにがんを有する危険がある場合に予防的に処置されてよい。例えば、がんを発症する危険がある(例えば、1つまたは複数の危険因子を有する)被験体は、被験体に1~3カ月間低システイン食を用意することによって、がんについて予防的に処置されてよい。予防的処置は、被験体ががんを発症するまたは再発する危険を低減するために、例えば、毎年、2年ごと、3年ごと、4年ごとまたは5年ごとに反復されてよい。
【0022】
ある特定の実施形態では、方法は、がんの他の栄養学的弱点に起因する、被験体におけるがん性細胞の増殖または腫瘍成長を抑制するまたは予防する1つまたは複数の他のアミノ酸の被験体の一日摂取量を低減することをさらに含む。ある特定の実施形態では、アルギニン、グルタミン、セリンおよびチロシンからなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸の摂取量は、被験体の毎日の食事において低減または取り除かれる。
【0023】
ある特定の実施形態では、がんの処置のための栄養療法は、これだけに限らないが、システイン(cytsteine)/シスチン枯渇薬、システイン分解酵素、ガンマグルタミルトランスペプチダーゼ阻害剤、システイン/シスチン輸送体阻害剤、およびシステイン生合成の阻害剤(例えば、シスタチオニンガンマリアーゼ阻害剤またはシスタチオニンベータ合成酵素の阻害剤)などの、被験体におけるシステインまたはシスチンレベル(例えば、血流中またはがん細胞の細胞内)をさらに低減する1つまたは複数の治療剤または薬物療法の投与と組み合わされる。
【0024】
別の実施形態では、方法は、被験体におけるシステインまたはシスチンのレベル(例えば、血流中)をモニタリングすることをさらに含む。システインまたはシスチンのレベルは、被験体が低システイン食を続けている間の期間にわたってモニタリングされてよい。ある特定の実施形態では、被験体の食事は、システインまたはシスチンのレベルを、被験体に低システイン食を用意する前の被験体におけるレベルの70~100%(70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99または100%などのこの範囲内の任意の百分率を含んで)まで、低減するように調整される。一実施形態では、方法は、被験体の血液中のシステインまたはシスチンのレベルをモニタリングすることを含む。
【0025】
別の実施形態では、方法は、被験体におけるがんの成長をモニタリングすることをさらに含む。被験体におけるがんの成長は、被験体が低システイン食を続けている間の期間にわたってモニタリングされてよい。ある特定の実施形態では、モニタリングを使用して、がん性細胞の成長を抑制するためにシステインまたはシスチンのレベルを十分に低減するように被験体の食事を調整する。
【0026】
ある特定の実施形態では、栄養療法は、被験体におけるがんの成長を抑制するために1つまたは複数のビタミンの一日摂取量を増加させるまたは減少させることを含む。一実施形態では、方法は、がんの成長を低減するために十分な投与量でマルチビタミン剤の有効量を投与することを含む。別の実施形態では、方法は、がんの成長を低減するために十分な投与量でビタミンB2の有効量を投与することを含む。マルチビタミンサプリメントまたはビタミンB2の投与によって成長抑制を示す例示的ながんについて、例えば実施例1および表5を参照されたい。例示的なマルチビタミンサプリメントは、ビオチン(B7)、コリン、パントテン酸カルシウム(B5)、葉酸(B9)、ナイアシンアミド(B3)、パラアミノ安息香酸、ピリドキシン(B6)、リボフラビン(B2)、チアミン(B1)、コバラミン(B12)およびi-イノシトールを含む。さらなる実施形態では、方法は、乳がんまたは結腸がんの成長を低減するためにビタミンB1の一日摂取量を低減することを含む。そのようなビタミン栄養療法(すなわち、1つまたは複数のビタミンの一日摂取量の制御を使用すること)は、単独で、またはがんの成長のために必要な1つもしくは複数の栄養素(例えば、非必須アミノ酸)の一日摂取量を低減することもしくは取り除くことなどの本明細書に記載の他の栄養療法との組合せで使用されてよい。
【0027】
別の態様では、本発明は、食事応答性がんを有する被験体による消費のための、システイン不含有食品または低システイン含有食品を含む包装済み治療用ミールを含む。包装済み治療用ミールは、朝食用ミール、昼食用ミール、夕食用ミールまたは軽食であってよい。一実施形態では、包装済み治療用ミールは、すべての必須アミノ酸(すなわち、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、スレオニン、トリプトファンおよびバリン)を含むアミノ酸含有サプリメントを含むタンパク質不含有ミールである。アミノ酸含有サプリメントがシステインまたはシスチンを含有しない条件で、アミノ酸含有サプリメントはアラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパルテート、グルタメート、グルタミン、グリシン、プロリン、セリンおよびチロシンからなる群から選択される1つまたは複数の非必須アミノ酸をさらに含んでよい。
【0028】
本発明の方法は、これだけに限らないが、外科手術、放射線療法、化学療法、ホルモン療法、免疫療法または生物学的療法などのがんを処置する任意の他の方法と組み合わされてよい。
【0029】
さらに別の態様では、本発明は、栄養学的弱点についてがん性細胞をスクリーニングすることにおける使用のためのキットを提供する。キットは、がん性細胞を培養するための複数の異なる成長培地を含んでよく、各培地は少なくとも1つの非必須栄養素が欠乏している。ある特定の実施形態では、キットは、がん性細胞を培養するための複数の異なる成長培地を含み、各培地はシステイン、アルギニン、グルタミン、セリンおよびチロシンからなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸が欠乏している。一実施形態では、キットは、システインを欠いている第1の培地、アルギニンを欠いている第2の培地、グルタミンを欠いている第3の培地、セリンを欠いている第4の培地およびチロシンを欠いている第5の培地を含む。別の実施形態では、キットは、システイン、アルギニン、グルタミン、セリンおよびチロシンアミノ酸の少なくとも2つ、または少なくとも3つ、または少なくとも4つまたはすべてが欠乏している少なくとも1つの培地を含有する。異なる培地は別々の容器に包装されてよい。加えて、キットは、1つまたは複数のビタミンまたはマルチビタミンサプリメントを含んでよい(例えば、培地中または別々に)。キットは、本明細書に記載のがん性細胞の栄養学的弱点を同定するための指示をさらに含んでよい。
【0030】
本発明のこれらおよび他の実施形態は、本明細書の開示に鑑みて当業者に容易に見出される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】
図1は、単一ドロップアウト培地パネルについての典型的なプレートレイアウトを示す。左は、プレートレイアウトのスキームを示している。右は、3日間成長させたH69のXTTアッセイの実際のスキャン画像を示している。濃灰色は細胞成長を示す。ブランク:細胞を含まない完全培地。緩衝液:リン酸緩衝食塩水(PBS)。
【0032】
【
図2A】
図2A~2Fは、がん細胞が培地NEAAドロップアウトにさまざまに応答することを示す。ジャーカット(白血病)およびH69(肺がん)の相対的成長は、XTTアッセイ(
図2Aおよび2B)およびCellTiter-Gloアッセイ(CTG、
図2Cおよび2D)からプロットされている。
図2Eおよび2Dは、同じ培地パネルにおける非活性化状態(
図2E)および活性化状態(
図2F)の正常ヒト末梢血単核球(PBMC)の相対的成長を示している。PBMCSは、5μg/mlフィトヘマグルチニン(PHA)で活性化された。ヒト赤血球の活力は、シスチン制限またはドロップアウトによって処置の2日後に損なわれなかった。エラーバーは、それぞれ5回の技術的反復の平均の標準誤差である。
【0033】
【
図3A】
図3A~3Fは、がん細胞形態の概要を示す。細胞形態の写真例は、完全培地(
図3A~3C)またはシスチンドロップアウト培地(
図3D~3F)での3日間培養後のジャーカット(白血病)、H69およびH520(肺がん)細胞を示している。通常条件下では、ジャーカットおよびH69は懸濁物中でクラスターを形成する一方で、H520は表面に付着して成長する。スケールバーは、各グラフに示されている。
【0034】
【
図4A】
図4A~4Dは、NEAAドロップアウトによるU937(
図4A)、H661(
図4B)、GA10(
図4C)およびH69(
図4D)細胞の成長抑制が他の栄養素の補充の増大によって救済されないことを示すグラフである。シスチン(Cys)、グルタミン(Gln)、チロシン(Tyr)をドロップアウトすること、またはGlnおよびTyrの二重ドロップアウトによるがん細胞の抑制された成長は、最大20倍の余分のメチオニン(Met、正常細胞ではCysを補完する)またはフェニルアラニン(Phe、正常細胞ではTyrを補完する)を加えることによって改善されなかった。4倍の他の非必須アミノ酸(NEAA)、必須アミノ酸(EAA)または両方を加えることも、システインドロップアウトによる抑制された成長を改善できなかった。2回の生物学的反復からの結果が各グラフの下列に並んで示されている。細胞株は、各グラフに示されている。エラーバーは、それぞれ5回の技術的反復の平均の標準誤差である。
【0035】
【
図5】
図5は、シスチンドロップアウトによる成長抑制が用量依存性であることを示す。この研究で検査したすべてのがん細胞の成長は、シスチンドロップアウトによって抑制された。正常細胞=PBMC。RBC=赤血球。
【0036】
【
図6A】
図6A~6Dは、シスチンドロップアウトによって抑制された成長をグルタチオンが酸化還元依存的様式で部分的に回復させることを示す。グルタチオン(Glut)は、培地に種々の濃度でシステインの非存在下で加えられた。還元型(Glut)および酸化型(Glut(O)の両方が検査された。3日間にわたる相対的成長のプロットがGA10(
図6A)、H69(
図6B)、ジャーカット(
図6C)およびH1437(
図6D)細胞について示されている。1xGlutまたはGlut(O)=1mg/l。エラーバーは、それぞれ5回の技術的反復の平均の標準誤差である。
【0037】
【
図7A】
図7A~7Dは、低シスチンで前処理した細胞のシスチンドロップアウトへの耐性の欠如を示す。成長アッセイを実施する前に、ジャーカット(
図7A)、HL60(
図7B)、H520(
図7C)およびH69(
図7D)細胞は、通常(1x、対照、濃灰色)または低シスチン(0.05x、薄灰色)培地で6カ月間前処理された。
【0038】
【
図8A】
図8A~8Cは、非腫瘍形成性細胞株のシスチンドロップアウトへの耐性を示す。乳がん細胞株、MDA-MB-453は、シスチンドロップアウトへの感受性を示さなかった(
図8Aおよび8B)。しかし、MDA-MB-453の成長は、ビタミンサプリメントでの処理によって抑制された(
図8C)。
図8Cでは、対照以外のすべての処理はシステインを含有しなかった。グラフに量がまだ示されていない場合、細胞は、50x量の個々のビタミンを補充された。Vitは、すべてのビタミンを含有している。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明の実施は、他に示す場合を除いて、当技術分野の範囲内の薬理学、化学、生化学、組換えDNA技法および免疫学の従来の方法を用いる。そのような技法は、文献に十分説明されている。例えば、T. Seyfried Cancer as a Metabolic Disease: On the Origin, Management, and Prevention of Cancer(Wiley、2012年);Tumor Cell Metabolism: Pathways, Regulation and Biology (S. MazurekおよびM. Shoshan編、Springer、2015年);Cancer Cell Lines (Human Cell Culture)1999年版(J. MastersおよびB. Palsson編、Springer、2013年);P.C. NascaおよびH. Pastides Fundamentals Of Cancer Epidemiology(Jones & Bartlett Publishing Co.、第2版、2007年);Handbook of Experimental Immunology、I~IV巻(D.M. WeirおよびC.C. Blackwell編、Blackwell Scientific Publications);A.L. Lehninger、Biochemistry (Worth Publishers, Inc.、現行版);Sambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual(第3版、2001年);Methods In Enzymology (S. ColowickおよびN. Kaplan編、Academic Press, Inc.)を参照されたい。
【0040】
本明細書に引用するすべての刊行物、特許および特許出願は、上記または下記に関わらず、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0041】
I.定義
本発明の記載において、次の用語が用いられ、下に示すとおり定義されることが意図される。
【0042】
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用される場合、単数形「a」、「an」および「the」が、内容が他を明らかに示す場合を除いて複数の参照物を含むことは留意されるべきである。したがって、例えば、「がん細胞(a cancer cell)」への言及は、2つまたはそれより多いがん細胞の混合物を含む、など。
【0043】
用語「約」は、特に所与の量に関して、プラスまたはマイナス5パーセントの偏差を包含することが意味される。
【0044】
用語「腫瘍」、「がん」および「新生物」は、互換的に使用され、その成長、増殖または生存が対応物の正常細胞の成長、増殖または生存より大きい、例えば細胞増殖障害、過剰増殖障害または分化障害の細胞または細胞の集団を指す。典型的には、成長は制御されていない。用語「悪性」は、近くの組織への侵入を指す。用語「転移」または二次性、再発または再発性腫瘍、がんまたは新生物は、被験体内の他の部位、位置または領域への腫瘍、がんまたは新生物の拡散または散在を指し、部位、位置または領域は原発性腫瘍またはがんとは異なる。新生物、腫瘍およびがんは、良性、悪性、転移性および非転移性型を含み、任意のステージ(I、II、III、IVもしくはV)またはグレード(G1、G2、G3など)の新生物、腫瘍もしくはがん、または進行している、悪化している、安定化したもしくは寛解にある新生物、腫瘍、がんもしくは転移を含む。特に、用語「腫瘍」、「がん」および「新生物」は、扁平上皮癌、腺癌、腺扁平上皮癌、未分化癌、大細胞癌および小細胞癌などの癌を含む。これらの用語は、これだけに限らないが、乳がん、前立腺がん、肺がん、卵巣がん、精巣がん、結腸がん、膵臓がん、胃がん(gastric cancer)、肝がん、白血病、リンパ腫、骨髄腫、副腎がん、甲状腺がん、下垂体がん、腎臓がん、脳がん、皮膚がん、頭部がん、頸部がん、口腔がん、舌がんおよび咽喉がんを含む。
【0045】
「抗腫瘍効果」によって細胞増殖の速度の低減、およびそれにより既存の腫瘍もしくは治療中に生じる腫瘍の成長速度の低下、ならびに/または既存の新生物(腫瘍)細胞もしくは新たに形成された新生物細胞の破壊、およびそれにより治療中の腫瘍全体のサイズの減少が意図される。そのような活性は動物モデルを使用して評定できる。
【0046】
本明細書において使用される場合、用語「腫瘍応答」は、すべての測定可能な病変の低減または排除を意味する。腫瘍応答についての判定基準は、the WHO Reporting Criteria [WHO Offset Publication、48-World Health Organization、Geneva、Switzerland、(1979年)]に基づいている。理想的には、すべての一次元または二次元的に測定可能な病変は、各評定で測定されるべきである。任意の器官に複数の病変が存在する場合、そのような測定は可能でない場合がり、そのような状況下では、最大6個の代表的な病変が、利用可能であれば選択されるべきである。
【0047】
本明細書において使用される場合、用語「完全奏効」(CR)は、少なくとも4週間離した2回の評定によって決定された、すべての臨床的に検出可能な悪性疾患の完全な消失を意味する。
【0048】
本明細書において使用される場合、用語「部分奏効」(PR)は、少なくとも4週間離した少なくとも2回連続の評定によって決定される評価可能な疾患の進行を伴わず、いかなる新たな病変の証拠も有さずに、すべての測定可能な疾患の最大垂直直径の積和におけるベースラインからの50%またはそれを超える低減を意味する。評定は、溶解性病変のサイズの部分的減少、溶解性病変のカルシウム再沈着または、芽細胞性病変の密度の減少を示すはずである。
【0049】
用語「被験体」、「個体」または「患者」は、本明細書において互換的に使用され、脊椎動物、好ましくは哺乳動物を指す。「脊椎動物」によって、非限定的に、ヒト、ならびにチンパンジーおよび他の類人猿およびサル種などの非ヒト霊長類を含む他の霊長類;ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギおよびウマなどの農場動物;イヌおよびネコなどの飼育哺乳動物;マウス、ラットおよびモルモットなどのげっ歯類を含む実験動物;ニワトリ、シチメンチョウおよび他の家禽(gallinaceous bird)、アヒル、ガチョウなどの飼育、野生および狩猟鳥を含む鳥類などを含む、脊索動物亜門の任意のメンバーが意味される。この用語は、特定の年齢を示さない。それにより成体および新生個体の両方を網羅することが意図される。
【0050】
本明細書において使用される場合、「生物学的試料」は、これだけに限らないが、例えば、尿、血液、血漿、血清、糞便、骨髄、胆汁、脊髄液、リンパ液を含む、被験体から単離された組織、細胞または体液の試料、皮膚の試料、皮膚の、気道の、腸管のおよび尿生殖路の外分泌物、涙、唾液、乳汁、血液細胞、器官、生検、ならびに被験体に由来し、培養で成長させた細胞または組織を含有する試料、ならびにこれだけに限らないが、培養による細胞および組織の成長から生じた順化培地、組換え細胞、がん性細胞および細胞構成成分を含むin vitro細胞培養構成物を指す。
【0051】
II.本発明を実行する様式
本発明を詳細に記載する前に、本発明が特定の製剤または工程パラメーターに、それ自体が当然変動し得るので、限定されないことを理解されたい。本明細書において使用される専門用語が本発明の特定の実施形態を記載する目的のためだけであり、限定されることが意図されないことも理解されたい。
【0052】
本明細書に記載の方法および材料に類似のまたは等価のいくつかの方法および材料が本発明の実行において使用できるが、好ましい材料および方法は本明細書に記載されている。
【0053】
本発明は、栄養学的弱点を同定するためにがん性細胞をスクリーニングための体系的な方法およびがんの成長を抑制するために栄養療法を使用することによってがんを処置する方法に関する。ある特定のがんは、正常細胞には必須でない1つまたは複数の栄養素の供給に依存する。本発明者らは、その非存在ががん細胞の成長および増殖の低減を、またはさらに細胞死をもたらす栄養素を同定するために、特定の栄養素を欠いている培地での培養でがん性細胞を成長させるスクリーニング方法を開発した(実施例1を参照されたい)。栄養学的弱点についてスクリーニングする本方法は、任意の実験用がん細胞株または培養可能な臨床腫瘍細胞に適用可能である(実施例1を参照されたい)。特定の種類のがんについて栄養学的弱点が同定されると、被験体は、がんの増殖および成長のために必要な1つまたは複数の栄養素をがん性細胞に与えない制限食を被験体に用意することによって、そのがんについて栄養的に処置され得る。
【0054】
本発明のさらなる理解のために、さらに詳細な考察が、栄養学的弱点についてのがん性細胞をスクリーニングする方法およびがんを栄養的に処置するために同定された弱点を利用する方法に関して下に提供される。
【0055】
A.栄養学的弱点についてのがん性細胞のスクリーニング
栄養学的弱点は、正常細胞の成長のためのすべての必須栄養素を有するが、正常細胞の成長のために必須でないが、がん性細胞の成長のために必要である少なくとも1つの栄養素を欠いている培地においてがん性細胞を培養することによってがん性細胞において同定できる。正常細胞の成長のために必須でない少なくとも1つの栄養素を欠いている培地でのがん性細胞の成長の抑制は、がん性細胞が栄養学的弱点を有する、すなわち正常細胞の成長のためには必須でない少なくとも1つの栄養素にがん性細胞が依存性であることを示している。本方法は、食事応答性がんを同定するために使用でき、本明細書に記載のスクリーニングによって同定された1つまたは複数の栄養素をがんに与えないことは、がんの成長および増殖を抑制する、またはより好ましくは細胞死を誘導する。
【0056】
栄養学的弱点についてスクリーニングされるがん性細胞は、例えば任意のがん細胞株から得られてよい。ある特定の実施形態では、がん細胞株は、脊椎動物細胞株、好ましくは哺乳動物細胞株、より好ましくはヒトがん細胞株である。利用可能な種々のがん細胞株および種々の種類のがんに関連する遺伝子変異の記載について、例えば、The Cancer Cell Line Encyclopedia (CCLE) project (broadinstitute.org/software /cprg/?q=node/11)およびWellcome Trust Sanger Institute: Cancer Genome Project and the COSMIC database (cancer.sanger.ac.uk/cell_lines)を参照されたい。本明細書にその全体が参照により組み込まれる、肺がん細胞株の記載についてのGazdarら、(2010年)J. Natl. Cancer Inst. 102巻(17号):1310~1321頁およびLinnoila(1996年)J. Cell Biochem. 増補24巻:92~106頁、白血病およびリンパ腫細胞株の記載についてのDrexlerら、(1998年)Leuk. Lymphoma 31巻(3~4号):305~316頁、Drexlerら、(2004年)Leukemia 18巻(2号):227~232頁、Matsuo(1998年)Leuk. Res. 22巻(7号):567~579頁、Tohyamaら、(1997年)Int. J. Hematol. 65巻(4号):309~317頁およびDrexlerら、(1995年)Leuk. Res. 19巻(10号):681~691頁、乳がん細胞株の記載についてのNeveら、(2006年)Cancer Cell. 10巻(6号):515~527頁およびOsborneら、(1987年)Breast Cancer Res Treat. 9巻(2号):111~121頁、結腸直腸がん細胞株の記載についてのMouradovら、(2014年)Cancer Res. 74巻(12号):3238~3247頁、前立腺がん細胞株の記載についてのSobelら、(2005年)J. Urol. 173巻(2号):342~359頁、甲状腺がん細胞株の記載についてのSaiseletら、Front Endocrinol(2012年)3巻:133頁、ならびに種々のヒトがん細胞株の記載についてのKlijnら、(2015年)Nat. Biotechnol. 33巻(3号):306~312頁およびCancer Cell Lines (Human Cell Culture) 1999年版(J. MastersおよびB. Palsson編、Springer、2013年)も参照されたい。
【0057】
加えて、がん性細胞および組織は、American Type Culture Collection(ATCC)から入手可能である。栄養学的弱点についてのスクリーニングにおいて使用できる例示的な細胞株として、肺がん(ATCC番号CRL-11350、TCP-1016、TCP-2030、TCP-2040、CRL-5878、CRL-5944、CRL-5892、CRL-5885、CRL-5908、CRL-5883、CRL-5939、CRL-5914)、白血病(ATCC番号TCP-1010、CRL-2724、CCL-243、CCL-246、CRL-2256、CRL-1929、TIB-153)、リンパ腫(ATCC番号TCP-1025、TCP-1015、CRL-3006、CRL-2961、CRL-2956、HTB-62、CRL-1593、TIB-162、CRL-2277、CRL-1942、HTB-176)、骨髄腫(ATCC番号CCL-155)、乳がん(ATCC番号30-4500K、TCP-1001、TCP-2010、CRL-2324)、結腸および直腸がん(ATCC番号TCP-1007、TCP-2020、TCP-1006、HTB-38、CCL-235、HTB-39、CCL-227、CCL-253、CCL-231、CRL-2134)、骨がん(ATCC番号TCP-1009)、卵巣がん(ATCC番号TCP-1021、HTB-78)、膵臓がん(ATCC番号TCP-2060、TCP-1026、CRL-1687)、子宮がん(ATCC番号TCP-1023、CRL-1976、CRL-1671)、前立腺がん(ATCC番号PTA-3568)、黒色腫(ATCC番号TCP-1013、TCP-1014、CRL-11147、HTB-71、CRL-7898、HTB-63、HTB-69、CRL-1424、HTB-68)、胃がん(stomach cancer)(ATCC番号TCP-1008、CRL-5974、CRL-5973、CRL-5971)、脳がん(ATCC番号TCP-1017、CRL-1620、HTB-14、HTB-12、CRL-2273)、肝がん(ATCC番号TCP-1011、HTB-52)、膀胱がん(ATCC番号TCP-1020、CRL-1473)、上皮がん(ATCC番号CCL-255、HTB-26)、脂肪肉腫(ATCC番号HTB-92)、筋肉がん(ATCC番号CRL-1598、CCL-136)、滑膜がん(ATCC番号HTB-93)、グリア細胞がん(CRL-2020)ならびに舌がん(ATCC番号CRL-1624)細胞株が挙げられる。
【0058】
あるいは、がん性細胞は、がんを有する被験体由来の生物学的試料から得ることができる。生物学的試料は、典型的には、がん性細胞を含有すると疑われる異常な組織の生検またはがん性細胞を含有する血液もしくは尿などの体液である。生物学的試料は、培養において細胞、組織また器官の成長から生じるin vitro細胞培養物由来の試料も含み得る。生物学的試料は、従来の技法によって被験体から得ることができる。例えば、組織または細胞の試料は外科的技法によって得られてよく、血液は静脈穿刺によって得られてよく、尿は被験体によって自発的に排尿されるまたは当技術分野において周知の方法を使用して膀胱カテーテル留置によって回収されてよい。
【0059】
ある特定の実施形態では、生物学的試料は、被験体の無傷組織から得られたまたは取り出された組織の一部、片、部分、セグメントまたは画分を含む組織試料を含んでよい。組織試料は、例えば、乳房、膵臓、胃、肝臓、分泌腺、膀胱、肺、前立腺、卵巣、子宮頸部、子宮、脳、眼、結合組織、骨、筋肉、血管系、皮膚、口腔、舌、頭部、頸部または咽喉から得られてよい。組織生検は、これだけに限らないが、吸引生検、ブラシ生検、表面生検、針生検、パンチ生検、切除生検、直視下生検、切開生検または内視鏡生検を含む方法によって得られてよい。
【0060】
ある特定の実施形態では、生物学的試料は、腫瘍全体または腫瘍の一部、片、部分、セグメントもしくは画分を含む腫瘍試料である。腫瘍試料は、固形腫瘍からまたは非固形腫瘍、例えば、扁平上皮癌、皮膚癌、口腔癌、頭部癌、咽喉癌、頸部癌、乳癌、肺癌、基底細胞癌、結腸癌、子宮頸癌、カポジ肉腫、前立腺癌、腺癌、黒色腫、血管腫、髄膜腫、星状腫、神経芽腫、膵臓癌、胃癌(gastric carcinoma)、結腸直腸癌、結腸癌、膀胱移行細胞癌、喉頭癌、慢性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、急性前骨髄球性白血病、多発性骨髄腫、T細胞リンパ腫、B細胞リンパ腫、網膜芽細胞腫、胆嚢肉腫または気管支がんから得られてよい。腫瘍試料は、原発性腫瘍からまたは転移性病変から得られてよい。
【0061】
がん性細胞の成長は、正常生物学的試料由来の正常または対照細胞の成長と比較されてよい。本明細書において使用される場合、「正常」試料は、罹患していない組織または細胞などの生物学的試料を指す。すなわち正常試料は、正常被験体(例えば、がんまたは、異常な細胞成熟もしくは増殖に関連する任意の状態もしくは症状を有さないことが公知の個体)から得られる。
【0062】
がん性細胞は、例えば非必須(すなわち、正常細胞の成長のために必要ない)アミノ酸への依存性についてスクリーニングされてよい。一実施形態では、がん性細胞は、システイン、アルギニン、グルタミン、セリンおよびチロシンからなる群から選択される1つまたは複数のアミノ酸への依存性について、これらのアミノ酸の少なくとも1つが欠乏している培地でがん性細胞を培養し、これらのアミノ酸の1つまたは複数の非存在での成長不良または細胞死に基づいて栄養学的弱点を有するがん性細胞を同定することによってスクリーニングされる。
【0063】
あるいはまたは加えて、がん性細胞は、ビタミンへのそれらの成長の依存性についてスクリーニングされてよい。一実施形態では、がん性細胞は、ビオチン(B7)、コリン、パントテン酸カルシウム(B5)、葉酸(B9)、ナイアシンアミド(B3)、パラアミノ安息香酸、ピリドキシン(B6)、リボフラビン(B2)、チアミン(B1)、コバラミン(B12)およびi-イノシトールからなる群から選択される1つまたは複数のビタミンへの依存性についてスクリーニングされる。別の実施形態では、がん性細胞は、成長に対するマルチビタミンサプリメントの投与量の増大の効果についてスクリーニングされる。例示的なマルチビタミンサプリメントは、ビオチン(B7)、コリン、パントテン酸カルシウム(B5)、葉酸(B9)、ナイアシンアミド(B3)、パラアミノ安息香酸、ピリドキシン(B6)、リボフラビン(B2)、チアミン(B1)、コバラミン(B12)およびi-イノシトールを含む。
【0064】
B.キット
別の態様では、本発明は、栄養学的弱点についてのがん性細胞のスクリーニングにおける使用のためのキットを提供する。例えば、キットは、がん細胞の成長および増殖のために必要であるが、正常細胞には必須でない1つまたは複数の栄養素を同定するために使用されてよい。キットは、がん性細胞を培養するための複数の異なる成長培地を含んでよく、各培地は少なくとも1つの非必須栄養素が欠乏している。ある特定の実施形態では、キットは、がん性細胞を培養するための複数の異なる成長培地を含み、各培地はシステイン、アルギニン、グルタミン、セリンおよびチロシンからなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸が欠乏している。キットは、がん細胞の成長を促進するための1つまたは複数の追加の試薬(例えば、成長因子および他の培地サプリメント)または対照参照試料(例えば、正常細胞)をさらに含んでよい。
【0065】
一実施形態では、キットは、システインを欠いている第1の培地、アルギニンを欠いている第2の培地、グルタミンを欠いている第3の培地、セリンを欠いている第4の培地およびチロシンを欠いている第5の培地を含有する。
【0066】
ある特定の実施形態では、キットは、1つより多い栄養素が欠乏している少なくとも1つの培地を含有する。例えば、キットは、システイン、アルギニン、グルタミン、セリンおよびチロシンアミノ酸の少なくとも2つ、または少なくとも3つ、または少なくとも4つ、またはすべてが欠乏している少なくとも1つの培地を含有してよい。
【0067】
別の実施形態では、キットは、ビタミンのレベルへのがん性細胞の成長依存性を検査するための、ビオチン(B7)、コリン、パントテン酸カルシウム(B5)、葉酸(B9)、ナイアシンアミド(B3)、パラアミノ安息香酸、ピリドキシン(B6)、リボフラビン(B2)、チアミン(B1)、コバラミン(B12)およびi-イノシトールまたはそれらの任意の組合せから選択される1つまたは複数のビタミンをさらに含む。ビタミンは、培地組成物中に含まれてもよく、または別々であってもよい。
【0068】
キットは、キットに含有される異なる培地組成物および/またはビタミンのための1つまたは複数の容器を含んでよい。異なる培地および他の薬剤は、別々の容器に包装されていてよい。組成物は、液体形態であってよく、または凍結乾燥されていてよい。組成物のための好適な容器として、例えば、ビン、バイアル、シリンジおよび試験管が挙げられる。容器はガラスまたはプラスチックを含む種々の材料から形成されてよい。キットは、本明細書に記載のがん性細胞の栄養学的弱点を同定するための書面の指示を含有する添付文書も含んでよい。
【0069】
C.がんを処置する方法
特定の種類のがんについて栄養学的弱点が同定されると、食事応答性がんを有する被験体は、がんの成長および増殖のために必要な1つまたは複数の栄養素をがん性細胞に与えない制限食を被験体に用意することによって、そのがんについて栄養的に処置され得る(すなわち、栄養療法)。例えば、制限食は、がん細胞によって必要とされる栄養素を含有する食品の被験体の一日摂取量を、少なくとも70%から100%(70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99または100%などのこの範囲内の任意のパーセントを含んで)まで、低減できる。
【0070】
栄養療法は、がんの栄養学的弱点に関連する1つまたは複数の栄養素の一日摂取量を低減するまたは取り除くための食事指導を、がんについて処置されている被験体に提供することによって実行されてよい。あるいは、被験体は、がんの栄養学的弱点に関連する1つまたは複数の栄養素を含有しない、またはその少量を有する包装済み治療用ミール(例えば、朝食用ミール、昼食用ミール、夕食用ミールまたは軽食)を提供されてよい。そのような包装済み治療用ミールは、食事制限に従っている患者を補助できる。好ましくは、任意の処方された食事は、1日あたりの米国推奨許容量(USRDA)ガイドラインに従うレベルで他の栄養素を提供する。
【0071】
ある特定の実施形態では、被験体は、正常細胞には必須でないが、個体が治療を受けているがんの成長のために必要である1つまたは複数のアミノ酸の毎日の消費を低減するまたは取り除くことによって、食事応答性がんについて栄養的に処置される。この場合、包装済み治療用ミールは、すべての必須アミノ酸(すなわち、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、スレオニン、トリプトファンおよびバリン)を含むアミノ酸含有サプリメントを含むタンパク質不含有または低タンパク質ミールであってよい。個体が治療を受けているがんの成長のために必要であるとして本明細書に記載の方法によって同定されたいかなる非必須アミノ酸もアミノ酸含有サプリメントが含有しない(does not contain does not contain)条件で、アミノ酸含有サプリメントはアラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパルテート、グルタメート、グルタミン、グリシン、プロリン、セリンおよびチロシンからなる群から選択される1つまたは複数の非必須アミノ酸をさらに含んでよい。
【0072】
栄養療法は、特定のがんについての個体の処置に関して、抗腫瘍効果などの本明細書に定義する陽性の治療応答をもたらすはずである。「陽性の治療応答」によって、本発明による栄養療法を受けている個体が、個体が治療を受けているがんの1つまたは複数の症状における改善を示すことが意図される。例えば、陽性の治療応答は、次の改善:(1)腫瘍サイズにおける低減;(2)がん細胞の数の低減;(3)腫瘍成長の阻害(すなわち、ある程度の遅延、好ましくは停止);(4)がん細胞の末梢器官への浸潤の阻害(すなわち、ある程度の遅延、好ましくは停止);(5)腫瘍転移の阻害(すなわち、ある程度の遅延、好ましくは停止);および(6)がんに関連する1つまたは複数の症状(例えば、疼痛、疲労)のある程度の軽減、の1つまたは複数を指すことができる。
【0073】
そのような治療応答は、改善の程度としてさらに特徴付けられる場合がある。したがって、例えば改善は、完全奏効として特徴付けられる場合がある。「完全奏効」は、すべての最初の異常または研究への登録のときに陽性であった部位について反復された身体検査、検査室、核および放射線学的検査(すなわち、CT(コンピューター断層撮影法)および/またはMRI(磁気共鳴画像法))、ならびに他の非侵襲的手順によって確認されるすべての測定可能なまたは評価可能な疾患のすべての症状および徴候の消失の記述である。あるいは、がんにおける改善は、部分奏効であるとして分類されてもよい。「部分奏効」は、前処置の測定値と比較した場合、すべての測定可能な病変の垂直直径の積和における50%を超える低減を意図する。
【0074】
被験体は、がんが少なくとも部分奏効、またはより好ましくは完全奏効を示すまで栄養療法を継続してよい。好ましくは、栄養療法は、がんが完全に根絶されるまで継続されるが、これは時間がかかる場合がある。例えば、被験体は、栄養療法を少なくとも1カ月から3カ月、少なくとも1カ月から4カ月、少なくとも5カ月から1年(1カ月、2カ月、2.5カ月、3カ月、3.5カ月、4カ月、5カ月、6カ月、7カ月、8カ月、9カ月、10カ月、11カ月、1年などのこれらの範囲内の任意の期間を含んで)、継続してよいが、長期が被験体におけるがんを処置するために有益である。継続的栄養療法は、がんの再発を予防するまたは寛解の期間を延長するためにも有益であり得る。
【0075】
上述のとおり、被験体は、1つまたは複数の非必須アミノ酸を含有する食品の被験体の一日摂取量を低減するまたは取り除く食事を被験体に用意することによってがんについて栄養的に処置されてよい。ある特定の実施形態では、栄養療法は、システイン、アルギニン、グルタミン、セリンおよびチロシンからなる群から選択される1つまたは複数のアミノ酸の毎日の消費を低減するまたは取り除くことを含む。
【0076】
被験体は、タンパク質不含有食または低タンパク質食を用意されてよく、すべての必須アミノ酸(すなわち、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、スレオニン、トリプトファンおよびバリン)を含むアミノ酸含有サプリメントをさらに投与されてよい。アミノ酸含有サプリメントは、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパルテート、グルタメート、グルタミン、グリシン、プロリン、セリンおよびチロシンからなる群から選択される1つまたは複数の非必須アミノ酸をさらに含んでよく、アミノ酸含有サプリメントは、個体が治療を受けているがんの成長のために必要であるとして本明細書に記載の方法によって同定されたいかなるアミノ酸も含有しない。
【0077】
実施例1に示されるとおり、システインを与えないことは、種々のがんを抑制することに成功している。したがって、一実施形態では、被験体は、システインを含有する食品の被験体の一日摂取量を低減するまたは取り除く低システイン食を被験体に用意することによってがんについて栄養的に処置される。システインは、例えば、システイン含有タンパク質、特にシステイン含有動物性タンパク質の被験体の一日摂取量を低減することによって食事において低減できる。特に、これだけに限らないが、鶏肉、豚肉、乳製品、卵または穀物などの概してシステイン含有量が高い食品の摂取は、低下または取り除かれるべきである。加えて、メチオニンの被験体の一日摂取量は、正常細胞による含硫アミノ酸の需要を維持するために増大させてよい。別の実施形態では、被験体は、タンパク質不含有食または低タンパク質食を用意され、すべての必須アミノ酸を含むアミノ酸含有サプリメントをさらに投与され、アミノ酸含有サプリメントはシステインまたはシスチンを含まない。アミノ酸含有サプリメントがシステインまたはシスチンを含有しない条件で、アミノ酸含有サプリメントはアラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパルテート、グルタメート、グルタミン、グリシン、プロリン、セリンおよびチロシンからなる群から選択される1つまたは複数の非必須アミノ酸をさらに含んでよい。
【0078】
ある特定の実施形態では、低システイン食は、システインを含有する食品の被験体の一日摂取量を、少なくとも70%から100%(70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99または100%などのこの範囲内の任意のパーセントを含んで)まで、低減する。低システイン食は、シスチンなどの酸化システイン誘導体を含む任意の形態のシステインの被験体の一日摂取量を低減するべきである。
【0079】
被験体は、既存のシステイン依存性がんに対して治療的にまたは予防的に(例えば、遺伝的素因または発生性、環境性、職業性、または行動性の危険因子の1つもしくは複数の存在のためにがんを発症する危険がある被験体)のいずれかで処置されてよい。特に、被験体は、被験体が喫煙、長期カテーテル留置、または発癌物質への環境性曝露のためにがんを有する危険がある場合に予防的に処置されてよい。これだけに限らないが、退役軍人、消防士、化学者、バス運転手、ゴム労働者、機械工、皮革労働者、鍛冶工、機械調節者または美容師などのある特定の職業の被験体も、がんを発症する高い危険を有し、予防的処置から利益があり得る。例えば、がんを発症する危険がある(例えば、1つまたは複数の危険因子を有する)被験体は、被験体に1~3カ月間低システイン食を用意することによってがんについて予防的に処置されてよい。予防的処置は、被験体ががんを発症するまたは再発する危険を低減するために、例えば毎年、2年ごと、3年ごと、4年ごとまたは5年ごとに反復されてよい。
【0080】
あるいはまたは加えて、栄養療法は、被験体におけるがんの成長を抑制するために1つまたは複数のビタミンの一日摂取量を増加させるまたは減少させることを含んでよい。一実施形態では、方法は、がんの成長を低減するために十分な投与量でマルチビタミン剤の有効量を投与することを含む。別の実施形態では、方法は、がんの成長を低減するために十分な投与量でビタミンB2の有効量を投与することを含む。マルチビタミンサプリメントまたはビタミンB2の投与によって成長抑制を示す例示的ながんについて、例えば実施例1および表5を参照されたい。例示的なマルチビタミンサプリメントは、ビオチン(B7)、コリン、パントテン酸カルシウム(B5)、葉酸(B9)、ナイアシンアミド(B3)、パラアミノ安息香酸、ピリドキシン(B6)、リボフラビン(B2)、チアミン(B1)、コバラミン(B12)およびi-イノシトールを含む。さらなる実施形態では、方法は、乳がんまたは結腸がんの成長を低減するためにビタミンB1の一日摂取量を低減することを含む。そのようなビタミン栄養療法(すなわち、1つまたは複数のビタミンの一日摂取量の制御を使用すること)は、単独で、またはがんの成長のために必要な1つもしくは複数の栄養素(例えば、非必須アミノ酸)の一日摂取量を低減することもしくは取り除くことなどの本明細書に記載の他の栄養療法との組合せで使用されてよい。
【0081】
本発明の方法は、任意の食事応答性がんについて被験体を処置するために使用されてよい。したがって、本明細書に記載の栄養療法は、例えば、任意のステージ(I、II、III、IVまたはV)またはグレード(G1、G2、G3など)の新生物、腫瘍もしくはがん、または進行している、悪化している、安定したもしくは寛解にある新生物、腫瘍、がんもしくは転移を含む、良性、悪性、転移性および非転移性型を含む新生物、腫瘍またはがんを処置するために使用できる。特に、用語「腫瘍」、「がん」および「新生物」は、扁平上皮癌、腺癌、腺扁平上皮癌、未分化癌、大細胞癌および小細胞癌などの癌を含む。さらに、本明細書に記載の方法は、これだけに限らないが、乳がん、前立腺がん、肺がん、卵巣がん、精巣がん、結腸がん、膵臓がん、胃がん(gastric cancer)、肝がん、白血病、リンパ腫、骨髄腫、副腎がん、甲状腺がん、下垂体がん、腎臓がん、脳がん、皮膚がん、頭部がん、頸部がん、口腔がん、舌がんおよび咽喉がんを含む種々の種類のがんを処置するために使用され得る。
【0082】
栄養療法は、これだけに限らないが、メルカプトエタンスルホネート(メスナ)、イホスファミド、イホスファミドとメスナとの組合せなどのシステイン/シスチン枯渇薬;AECase(Aeglea Biotherapeutics(Austin、TX))などのシステイン分解酵素;アシビシン、OU749およびGGsTopなどのガンマグルタミルトランスペプチダーゼ阻害剤;スルファサラジン、(S)-4-カルボキシフェニルグリシン、イソキサゾール、キスカレート、1-α-アミノアジペート、1-α-アミノピメレートおよびL-Glu類似物などのシステイン/シスチン輸送体阻害剤;ならびにβ-シアノアラニン、アミノオキシ酢酸、プロパルギルグリシンおよびL-アミノエトキシビニルグリシンなどのシスタチオニンガンマリアーゼ阻害剤およびシスタチオニンベータ合成酵素の阻害剤を含むシステイン生合成の阻害剤を含む、システインまたはシスチンレベル(例えば、血流中またはがん細胞の細胞内)を低減する1つまたは複数の治療剤または薬物療法の投与と組み合わされてよい。
【0083】
加えて、栄養療法は、これだけに限らないが、外科手術、放射線療法、化学療法、ホルモン療法、免疫療法または分子標的化もしくは生物学的療法などのがんに対する任意の他の医学的処置と組み合わされてよい。これらの他の医学的処置方法と本明細書に記載の栄養療法との任意の組合せは、被験体におけるがんを効果的に処置するために使用されてよい。他の方法によるがん処置を既に受けている患者においてさえ、処置レジメンに栄養療法を加えることは、患者の転帰を改善できる。
【0084】
例えば、栄養療法は、これだけに限らないが、アビトレキセート、アドリアマイシン、アドルシル、アムサクリン、アスパラギナーゼ、アントラサイクリン、アザシチジン、アザチオプリン、bicnu、ブレノキサン、ブスルファン、ブレオマイシン、カンプトサール、カンプトテシン、カルボプラチン、カルムスチン、セルビジン、クロラムブシル、シスプラチン、クラドリビン、コスメゲン、シタラビン、サイトサール、シクロホスファミド、シトキサン、ダクチノマイシン、ドセタキセル、ドキソルビシン、ダウノルビシン、エレンス、エルスパー、エピルビシン、エトポシド、フルダラビン、フルオロウラシル、フルダラ、ゲムシタビン、ジェムザール、ハイカムチン、ヒドロキシウレア、ハイドレア、イダマイシン、イダルビシン、イホスファミド、ifex、イリノテカン、ランビス、ロイケラン、ロイスタチン、マツラン、メクロレタミン、メルカプトプリン、メトトレキセート、マイトマイシン、ミトキサントロン、ミスラマイシン、ムタマイシン、ミレラン、ミロサール(mylosar)、ナベルビン、ニペント、ノバントロン、オンコビン、オキサリプラチン、パクリタキセル、パラプラチン、ペントスタチン、プラチノール、プリカマイシン、プロカルバジン、プリネトール、ラリトレキセド(ralitrexed)、タキソテール、タキソール、テニポシド、チオグアニン、トムデックス、トポテカン、バルルビシン、ベルバン、ベプシド、ビンブラスチン、ビンデシン、ビンクリスチン、ビノレルビン、VP-16およびブモンなどの1つまたは複数の化学療法剤を含む化学療法と組み合わされてよい。
【0085】
別の例では、栄養療法は、これだけに限らないが、メシル酸イマチニブ(グリベック、STI-571としても公知)、ゲフィチニブ(イレッサ、ZD1839としても公知)、エルロチニブ(タルセバとして市販)、ソラフェニブ(ネクサバール)、スニチニブ(スーテント)、ダサチニブ(スプリセル)、ラパチニブ(タイケルブ)、ニロチニブ(タシグナ)およびボルテゾミブ(ベルケイド)などのチロシンキナーゼ阻害剤;トファシチニブなどのヤヌスキナーゼ阻害剤;クリゾチニブなどのALK阻害剤;オバトクラックスおよびゴシポールなどのBcl-2阻害剤;イニパリブおよびオラパリブなどのPARP阻害剤;ペリフォシンなどのPI3K阻害剤;アパチニブなどのVEGF受容体2阻害剤;[D-Lys(6)]-LHRHに連結されたAN-152(AEZS-108)ドキソルビシン;ベムラフェニブ、ダブラフェニブおよびLGX818などのBraf阻害剤;トラメチニブなどのMEK阻害剤;PD-0332991およびLEE011などのCDK阻害剤;サリノマイシンなどのHsp90阻害剤;ビンタフォリドなどの小分子薬コンジュゲート;テムシロリムス(トーリセル)、エベロリムス(アフィニトール)、ベムラフェニブ(ゼルボラフ)、トラメチニブ(メキニスト)およびダブラフェニブ(タフィンラー)などのセリン/スレオニンキナーゼ阻害剤;ならびにリツキシマブ(マブセラまたはリツキサンとして市販)、トラスツズマブ(ハーセプチン)、アレムツズマブ、セツキシマブ(アービタックスとして市販)、パニツムマブ、ベバシズマブ(アバスチンとして市販)およびイピリムマブ(ヤーボイ)などのモノクローナル抗体、などの1つまたは複数の小分子阻害剤またはモノクローナル抗体での標的療法と組み合わされてよい。
【0086】
さらなる例では、栄養療法は、これだけに限らないが、次の:がんワクチン(例えば、シプロイセル-T)、抗体療法(例えば、アレムツズマブ、イピリムマブ、オファツムマブ、ニボルマブ、ペンブロリズマブまたはリツキシマブ)、サイトカイン療法(例えば、I型(IFNαおよびIFNβ)、II型(IFNγ)およびIII型(IFNλ)を含むインターフェロンならびにインターロイキン-2(IL-2)を含むインターロイキン)、アジュバント免疫化学療法(例えば、ポリサッカリドK)、養子T細胞療法、ならびに免疫チェックポイント遮断療法のいずれかの使用を含む免疫療法と組み合わされてよい。
【0087】
加えて、がん性細胞の成長のために必要な1つまたは複数の栄養素のレベル(例えば、血流中またはがん細胞の細胞内)は、被験体においてモニタリングされてよい。がん性細胞の成長のために必要な1つまたは複数の栄養素のレベルは、がん性細胞の成長のために必要な1つまたは複数の栄養素の被験体の一日摂取量を低減するまたは取り除く食事を被験体が続けている間の期間にわたってモニタリングされてよい。ある特定の実施形態では、そのようなモニタリングを使用して、がん性細胞の成長のために必要な1つまたは複数の栄養素のレベルを、被験体に食事を用意する前の被験体におけるレベル(例えば、血流中またはがん細胞の細胞内)の1~10%未満(1、2、3、4、5、6、7、8、9または10%未満などのこの範囲内の任意の百分率を含んで)に、低減するように、被験体の食事を調整する。一実施形態では、方法は、被験体の血液中の、がん性細胞の成長のために必要な少なくとも1つの非必須アミノ酸のレベルをモニタリングすることを含む。
【0088】
別の実施形態では、方法は、栄養療法中の被験体におけるがんの成長をモニタリングすることをさらに含む。被験体におけるがんの成長は、がんの成長のために必要な1つもしくは複数の栄養素の被験体の一日摂取量を低減するもしくは取り除く食事を被験体が続けている間の期間にわたって、またはビタミン栄養療法の間の期間にわたってモニタリングされてよい。ある特定の実施形態では、モニタリングを使用して、がん性細胞の成長を抑制するために1つまたは複数の栄養素(例えば、非必須アミノ酸)のレベルを十分に低減するために被験体の食事を調整する。他の実施形態では、モニタリングを使用して、がん性細胞の成長を抑制するための1つまたは複数のビタミンまたはマルチビタミンサプリメントのレベルを調整する(例えば、増加させるまたは減少させる)。
【0089】
III.実験
以下は、本発明を実行するための具体的な実施形態の例である。実施例は、例示的な目的のみのために提供され、本発明の範囲をいかなる方法においても限定することは意図されない。
【0090】
使用される数値(例えば、量、温度など)に関して正確さを確保する努力はなされたが、ある程度の実験誤差および偏差は、当然のことながら許容されるべきである。
【実施例】
【0091】
(実施例1)
がん細胞の栄養学的弱点の決定
【0092】
序論
本発明者らは、正常細胞には必要ないある特定の栄養素の供給にがんだけが依存性である、がん細胞の栄養学的弱点を決定する体系的な方法を開発した。本方法は、わずかな修正を伴って、任意の実験用がん細胞株および培養可能な臨床腫瘍細胞に適用可能である。
【0093】
実験手順
1、培養がん細胞の調製
【0094】
1)がん細胞株の培養
がん細胞の栄養学的弱点についてのスクリーニングアッセイを確立するために、ヒト血液がん細胞株5個、ヒト肺がん細胞株4個、ヒト結腸がん細胞株1個、ヒト肝がん細胞株1個、ヒト乳がん細胞株5個およびヒト前立腺がん細胞株3個を使用した(表1)。19個すべての細胞株を再構成補完RPMI1640ベース培地R-comp(表2)でスクリーニングアッセイ前に10日間を超えて培養した。
【0095】
2)患者由来の原発性がん細胞の培養
個々のがん患者の生検由来の原発性がん細胞での診断検査を、がん組織の酵素的、化学的または機械的処理およびがんの種類の基づいて種々の成長因子を補充したR-comp培地での原発性がん細胞の続く培養で開始する。この診断検査は、研究および臨床の両方で十分に確立されている臨床試料由来の細胞を培養するための手順を使用して臨床試料に適用可能である(Zhengら、(2011年)Acta Pharmacologica Sinica 32巻(3号):385~392頁;Mitraら、(2013年)Trends Biotechnol. 31巻(6号):347~354頁、参照により本明細書に組み込まれる)。
【0096】
3)ヒト末梢血単核球(PBMC)の調製および活性化
非活性化およびフィトヘマグルチニン(PHA)活性化ヒトPBMCを任意の非必須栄養素ドロップアウトの毒性を検査するための正常細胞対照として使用した。4名の健康なドナー由来のPBMCをパーコール勾配での密度遠心分離によって単離した。アール平衡塩溶液(EBSS)で3回洗浄後、PBMCを5μg/mlのPHA有りまたは無しで刺激し、R-compベース培地での細胞成長への栄養素ドロップアウトの効果についてアッセイした。
【0097】
2,成長アッセイの設定および分析
がん細胞株または原発性がん細胞の栄養学的弱点について検査するために、それぞれ個々の非必須アミノ酸をR-comp培地からドロップアウトさせた(表2)。複数のアミノ酸のドロップアウト培地を、コンビナトリアル効果を検査するために使用した。実験の前に、細胞を最初にR-comp培地に順化し、次いで収集し、EBSS溶液で洗浄した。細胞密度を細胞1~3×10
5個/mlに調整した後、96ウェルプレート中の等体積の2xドロップアウト培地プラス2xR-comp(陽性対照)に加えた。次いでプレートを37℃、5%CO
2供給に設定したインキュベーターに入れた。5回の技術的反復を各培地処理について使用した。各細胞株について、少なくとも3回の生物学的反復を2時点で実施した(1日目および3日目)。単一ドロップアウト培地を検査するための代表的なプレートレイアウトを
図1に示す。
【0098】
細胞成長を2つの細胞生存率法(XTTおよびCellTiter-Gloベースのアッセイ)で分析した。XTTベースアッセイでは、細胞成長は、製造者の指示(ThermoFisher X6493)に従って、XTT試薬を各培養物に加え、同じ培養条件下で2時間インキュベートした後に450nmの吸光度によって測定する。690nmでの吸収もバックグラウンドとして測定し、450nmの吸収から減算した。CellTiter-Glo-ベースのアッセイ(Promega、G7572)では、細胞成長は、Tecanプレートリーダー上、200ミリ秒の滞留時間のルミネセンスによって測定する。
【0099】
相対的成長は次の式を用いて算出する:
成長%=(読み値ドロップアウト-平均(読み値ブランク))/(平均(読み値sR-comp)-平均(読み値ブランク))×100%
【0100】
結果
1)がん細胞は非必須アミノ酸ドロップアウトによる成長抑制の多様なパターンを示す
図2および4に示すとおり、さまざまながんの細胞成長は、非必須アミノ酸(NEAA)の単一ドロップアウトに定量的および定性的様式の両方で差別的に応答する。例えば、シスチンドロップアウトは、18個すべての種類のがんの細胞成長を厳しく、普遍的に抑制した(MDA-MB-453を除く、
図5も参照されたい)。アルギニン(Arg)、グルタミン(Gln)、セリン(Ser)およびチロシン(Tyr)などの他のアミノ酸のドロップアウトは、がん細胞成長に多様な抑制効果を有した(
図2および4)。そのような差異は、これらのがん細胞が異なる器官および/または異なる人において発癌の経過に沿って取り入れた、特有の代謝が原因である可能性がある。対照的に、正常血液細胞(PBMC)は、任意の単一NEAAドロップアウトによって、非活性化状態および活性化状態の両方でほんのわずかしか影響を受けなかった。同様に、ヒト赤血球の活力も、シスチン制限またドロップアウトによって影響を受けなかった。この観察は、ヒトの健康のためのこれらのアミノ酸の非必須性の標準的(canonical)結論と一致する(Roseら、(1937年)Science 86巻(2231号):298~300頁;Rose(1949年)Nutrition Classics. Federation Proceedings 8巻(2号):546~552頁;Rose(1976年)Nutr. Rev. 34巻(10号):307~309頁;Young(1994年)J. Nutr. 124巻(8号増補):1517S~1523S頁)。
【0101】
最も強力で最も高頻度の抑制は、シスチン(Cys、システインと栄養的に等価)ドロップアウトからであり、この研究で使用された9個すべてのがん細胞株においてがん細胞成長を10倍を超えて抑制した(
図2)。Cysドロップアウト培地で成長させたがん細胞は、曝露後早ければ3日目に細胞死を示し(
図3)、懸濁成長の非効率的な細胞クラスター形成(ジャーカットおよびH69)または接着成長の表面付着の少なさ(H520)(
図3)により示された。これらの形態学的特徴は、細胞成長が抑制された他のドロップアウト培養物においても観察され(示さず)、NEAAドロップアウトがさまざまな種類のがんにおいて細胞死を強く誘導したことを実証した。
【0102】
単一NEAAドロップアウトに対するがんだけの成長抑制の多様性は、器官の起源または個人の遺伝的素因から生じる可能性があり(表3)、より多くの種類のがんおよび同じ種類のより多くのがん患者を研究することによって明らかにし得る。両方の場合において本発明者らの方法は、個人ベースで腫瘍からがん細胞の栄養学的弱点を見出すためのロバストで正確なアッセイを提供する。最終目標は、本発明者らの現在のアッセイをフォローアップ食事介入と統合した後に制御された栄養レジメンでがんの成長を止めるために発見を使用することである。薬物は導入されておらず、非必須栄養素だけが省かれることから、本発明者らは、統合された治療全体が副作用または安全上の懸念をほとんど引き起こさないと期待している。
【0103】
2)NEAAドロップアウトによるがんの成長抑制は、関連栄養素の補充の増強では軽減されない
代謝が高度に関連したネットワークであることから、多くの栄養欠乏は、関連代謝物の補充の増強によっていかなる健康上の問題も伴わずに補われる可能性がある(Rose(1937年)、上記)。例えば、シスチンはメチオニンの供給の増加によって完全に置き換えることができ、チロシンはフェニルアラニンの増加によって完全に補うことができる(Rose(1937年)、上記)。次いで本発明者らは、ある特定の栄養素の供給の増加がシスチンおよびチロシンドロップアウトによるがん細胞の成長抑制を軽減できるかどうかを検査した。結果は、20倍のメチオニンまたはフェニルアラニンでさえ、抑制された成長は白血病(U937)および肺がん(H661)の両方において回復されなかったことを示した(
図4)。実際、メチオニンを最大50xの強度で加えたが、シスチンドロップアウトに感受性である細胞株の成長を依然として促進できなかった(表4)。唯一の例外は、ヒト結腸がん株HCT116であった。10xのメチオニン補充はシスチンの非存在下でHCT116成長を実質的に回復できた(表4)。
【0104】
さらに、シスチン(Cys)ドロップアウトによる成長抑制は、非常にロバストで、9個すべての必須アミノ酸を4倍量、他の8個の非必須アミノ酸を4倍量、またはその両方を培地に加えることによってさえも軽減されなかった(
図4、下列)。単一AAドロップアウトからのこの強い抗がん有効性は、それが同等の栄養素からの干渉が最小であることから、がんを処置するためのロバストな栄養療法として本発明者らの発明の臨床展開のために非常に重要である。
【0105】
本発明者らは、がん細胞成長のさらに厳しい抑制が示されるのを期待して栄養素の二重ドロップアウトも実施した。
図4の上列に示すとおり、グルタミンまたはチロシンの単一ドロップアウトは部分的な成長抑制をもたらしたが、それらを合わせた省略は白血病(U937)および肺がん(H661)においてより顕著な成長抑制を生じることができなかった。
【0106】
3)シスチンドロップアウトによるロバストな成長抑制への機構的手掛かり
個々のNEAAドロップアウトによる増殖抑制の厳しさが細胞株および細胞型の間で変化する(表3)一方で、シスチンドロップアウトは、最も顕著な効果をこの研究で検査したすべてのがん細胞株において生じた(
図5に纏められている)。この効果がシスチンによってだけ生じたことを確認するために、本発明者らはシスチンをいくつかの制限的レベルで培地に再度加え、がん細胞のシスチン供給への定量的依存を比較した。結果は、シスチンを再度加えることは細胞成長を対照の細胞成長と同じレベルまたはさらに超えるレベルに戻した一方で、さまざまながんがシスチンへの差別的な定量的要求性を示すことを示した(表4)。例えば、0.1xレベルのシスチン補充で、H520(肺がん)の成長は単に回復されただけであった一方で、K562(白血病)の成長は対照のレベルに実質的に回復された。これらの結果は、合わせて、観察された成長抑制がシスチン欠乏によって引き起こされることを確認した。シスチンへのがん細胞の投与量感受性は、それらの代謝が本質的に関係している(wired)方法に関連している可能性がある。
【0107】
システインは、細胞の酸化還元状態を維持するために還元型および酸化型で存在するトリペプチド代謝物であるグルタチオンの前駆体である。がん細胞は、他の高速増殖性細胞と同様に、細胞の酸化還元状態を撹乱し、細胞構成成分を損傷する反応性酸素種(ROS)を生成するより高い潜在力を有することが公知である(Cairnsら、上記;Heiden(2011年)Nat. Rev. Drug Discov. 10巻(9号):671~684頁)。したがって、がん細胞は、ROSのより高いフラックスを補うためにグルタチオンに対する高い需要を有し得、これは、シスチンドロップアウトが厳しくがん細胞成長を抑制する理由を説明できる(
図2および6)。一方、グルタチオンは、栄養素としてシステインを提供するために加水分解され得る。
【0108】
したがって、本発明者らは、還元型グルタチオン(Glut)またはその酸化型(Glut(O))がシスチンドロップアウトによる成長抑制を軽減できるかどうかを検査した。結果は、10xGlut補充は、ジャーカット(白血病)およびH1437(肺がん)などの一部のがん細胞の抑制された成長を実質的に回復させたが、GA10(白血病)およびH69(肺がん)などの他の細胞については有意に回復させなかったことを示した(表4、
図6)。興味深いことに、酸化型グルタチオンは、同じがん細胞において抑制された成長を回復させる能力を欠いており、酸化還元維持の機能不全ががんのみがシスチンを必須とすることに役割を演じている可能性があることを示唆している。それにより、シスチンドロップアウトによって観察された成長抑制ががん細胞における酸化還元状態の調節不全から生じている可能性は非常に高い。
【0109】
伝統的抗がん薬に共通する課題は、がん細胞が急速に抵抗性を発達させることである。これは、シスチンドロップアウトについてはあてはまらない。
図7に示すとおり、低シスチンでの6カ月間の長期の前処理は、シスチン制限またはドロップアウト条件下で検査したすべてのがん細胞株にいかなる成長の利点も付与できなかった。これらの結果から、がんを処置するためにシスチン制限を使用することでの強く持続する有効性が予測される。
【0110】
4)多様な栄養学的弱点パターン
本発明者らが検査した19個すべての細胞株の内、乳がん細胞株MDA-MB-453は、シスチンドロップアウト条件下でほとんど正常に成長するものであった(
図8)。同時に、MDA-MB-453は、免疫抑制マウスで非腫瘍形成性であり(供給源、ATCCウェブサイト)、シスチンドロップアウトへの感受性が腫瘍細胞の内在性特性を表し得ることを示唆している。MDA-MB-453は、50xに量を増加させたマルチビタミンサプリメントによって依然として効果的に抑制することができたが(表5)、その成長はシスチンの非存在下で個々のビタミンを増加させることによって促進された(B1単独など、
図9および10を参照されたい)。同様に、乳がん株HCC1599の成長は、ビタミンB1を単独で再度加えることによって実質的に回復した(表5)。別の例について、結腸がん株HCT116は、シスチンドロップアウトと50xビタミンB2とを組み合わせた場合にさらに強烈な成長抑制を示した一方で、その成長は50x単独でのビタミンB1補充によって大きく回復された(
図5)。栄養素応答における多様性は、がん医薬を開発することにおいて栄養学的弱点を決定するための個別化されたプラットフォームの必要性および実効性を再度強調する。
【0111】
5)コンビナトリアル療法の可能性
時間感受性がある場合でシスチンの食事制限が循環シスチンを減少させられない場合、患者におけるシスチン枯渇状態を迅速に確立するためにシスチン枯渇薬(イホスファミド/メスナ)を使用できる。メルカプトエタンスルホネート(メスナ)は、マウスにおいて直接的化学的反応を通じて循環サルフェート含有メチオニン、シスチンおよびグルタチオンを枯渇させるためにメスナとの組合せで使用されている(Lauterburgら、(1994年)Cancer Chemother. Pharmacol. 35巻(2号):132~136頁)。
【0112】
結論
この研究では、本発明者らは、がん細胞の栄養学的弱点を決定する体系的な方法を開発した。本発明者らは、白血病および肺がんの9個のサブタイプにおいて非必須アミノ酸に対する栄養要求性の多様なパターンを発見したが、正常ヒト細胞ではそれがなかった。非必須アミノ酸へのがん細胞の成長感受性は、がんの種類および患者の間で様々であり、新たな一般的抗がん標的の発見のための単なる研究ツールとして使用するよりむしろ(これに関連してその適用も同様であるが)、このアッセイを個人ベースで実施する本発明者らの意図を支持している。
【0113】
個々の腫瘍細胞の具体的な栄養要求性に適合するための処方のわずかな修正を伴って、本発明者らの方法は、がんの成長を止めるための栄養レジメンの製剤化における使用のために、他のがんの栄養学的弱点を個人ベースで決定するために臨床生検に広げることができる。この点で、本発明者らの方法は、臨床業務で実行されてよい。
【0114】
本発明者らの方法の治療実行は、次の有利点を有し得る:
1)高い安全性、最小の副作用。人工薬物を含まない。証明および再証明されたヒトでのアミノ酸の栄養非必須性。
2)ロバストな有効性。他の栄養素からの最小限の干渉および最小限の耐性/抵抗性を伴う、がんの成長の実質的な抑制が期待される。
3)展開に適している。がん細胞の栄養学的弱点を見出すより良い機会のための品質向上として、コリンおよびビタミンなどの他の群の栄養素を既存の検査に好都合に組み込むことができる。
4)個人ベース。ビジネス様式は、スクリーニングと個別化がん療法とを組み合わせ得る臨床業務の形態に入る。
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【0115】
本発明の好ましい実施形態が例示され、記載されたが、本発明の精神および範囲から逸脱することなくそれらに種々の変更がなされ得ることが理解される。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
がんについて被験体を処置するための方法であって、システインまたはシスチンを含有する食品の該被験体の一日摂取量を低減するまたは取り除く低システイン食を該被験体に用意するステップを含む、方法。
(項目2)
前記低システイン食が、システインまたはシスチンを含有する食品の該被験体の一日摂取量を少なくとも80%、90%または95%まで低減する、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記被験体が、少なくとも1~4カ月間前記食事を継続する、項目1に記載の方法。
(項目4)
前記低システイン食が、システイン含有タンパク質の前記被験体の一日摂取量を低減するまたは取り除く、項目1に記載の方法。
(項目5)
前記低システイン食が、他の栄養素を1日あたりの米国推奨許容量(USRDA)ガイドラインに従うレベルで提供する、項目1に記載の方法。
(項目6)
前記被験体が、低システイン食に応答性であるがんを有する、項目1に記載の方法。
(項目7)
前記がんが、肺がん、肝がん、乳がん、前立腺がん、結腸がん、リンパ腫または白血病である、項目1に記載の方法。
(項目8)
前記被験体に低システイン食を用意する前記ステップが、食事指導を該被験体に提供するステップを含む、項目1に記載の方法。
(項目9)
前記被験体に低システイン食を用意する前記ステップが、該被験体にシステイン不含有ミールを提供するステップを含む、項目1に記載の方法。
(項目10)
前記低システイン食が、タンパク質不含有食品およびすべての必須アミノ酸を含むアミノ酸含有サプリメントを含む、項目1に記載の方法。
(項目11)
すべての必須アミノ酸を含むアミノ酸含有サプリメントを処方するステップをさらに含む、項目1に記載の方法。
(項目12)
アルギニン、グルタミン、セリンおよびチロシンからなる群から選択される1つまたは複数のアミノ酸の前記被験体の一日摂取量を低減するまたは取り除くステップをさらに含む、項目1に記載の方法。
(項目13)
外科手術、放射線療法、化学療法、ホルモン療法、免疫療法または生物学的療法をさらに含む、項目1に記載の方法。
(項目14)
ビタミンB1の前記被験体の一日摂取量を低減するステップをさらに含む、項目1に記載の方法。
(項目15)
前記がんの成長をさらに低減するために十分な投与量の、有効量のマルチビタミン剤で前記被験体を処置するステップをさらに含む、項目1に記載の方法。
(項目16)
前記マルチビタミン剤の前記投与量が、USRDAガイドラインによって推奨される量の5から50倍である、項目15に記載の方法。
(項目17)
前記がんの成長をさらに低減するために十分な投与量の、有効量のビタミンB2で前記被験体を処置するステップをさらに含む、項目1に記載の方法。
(項目18)
前記被験体が、哺乳動物である、項目1に記載の方法。
(項目19)
前記被験体が、ヒトである、項目18に記載の方法。
(項目20)
前記低システイン食が、抗腫瘍効果を有する、項目1に記載の方法。
(項目21)
前記低システイン食が、少なくとも部分的な腫瘍応答がもたらされるまで継続される、項目20に記載の方法。
(項目22)
前記低システイン食が、完全な腫瘍応答がもたらされるまで継続される、項目21に記載の方法。
(項目23)
前記被験体の血液中のシステインまたはシスチンのレベルをモニタリングするステップをさらに含む、項目1に記載の方法。
(項目24)
前記モニタリングするステップが、前記がんの成長を抑制するためにシステインまたはシスチンのレベルを十分に低減するために、前記被験体の前記食事を調整するために使用される、項目23に記載の方法。
(項目25)
前記被験体の血流またはがん細胞の細胞内におけるシステインまたはシスチンレベルをさらに低減する少なくとも1つの治療剤を該被験体に投与するステップをさらに含む、項目1に記載の方法。
(項目26)
前記少なくとも1つの治療剤が、システイン/シスチン枯渇薬、システイン分解酵素、ガンマグルタミルトランスペプチダーゼ阻害剤、システイン/シスチン輸送体阻害剤およびシステイン生合成の阻害剤からなる群から選択される、項目25に記載の方法。
(項目27)
前記少なくとも1つの治療剤が、メルカプトエタンスルホネート(メスナ)もしくはイホスファミドまたはこれらの組合せである、項目26に記載の方法。
(項目28)
システイン不含有食品およびすべての必須アミノ酸を含むアミノ酸含有サプリメントを含む、食事応答性がんを有する被験体による消費のための包装済み治療用ミール。
(項目29)
タンパク質不含有ミールである、項目28に記載の包装済み治療用ミール。
(項目30)
朝食用ミール、昼食用ミールまたは夕食用ミールである、項目28に記載の包装済み治療用ミール。
(項目31)
がん性細胞の栄養学的弱点を同定する方法であって、
a)正常細胞の成長のためのすべての必須栄養素を有するが、該正常細胞の成長のために必須でないが、該がん性細胞の成長のために必要である可能性がある、少なくとも1つの栄養素を欠いている培地で該がん性細胞を培養するステップ;および
b)該がん性細胞の成長を測定するステップであって、該培地での該がん性細胞の成長の抑制が、該がん性細胞が栄養学的弱点を有し、該正常細胞の成長のために必須でない少なくとも1つの栄養素に該がん性細胞の成長が依存していることを示す、ステップ
を含む、方法。
(項目32)
前記少なくとも1つの栄養素が、非必須アミノ酸である、項目31に記載の方法。
(項目33)
前記非必須アミノ酸が、システイン、アルギニン、グルタミン、セリンおよびチロシンからなる群から選択される、項目32に記載の方法。
(項目34)
前記少なくとも1つの栄養素を欠いている前記培地中で前記がん性細胞を培養するステップが、細胞死を誘導する、項目31に記載の方法。
(項目35)
前記がん性細胞が、がんを有する被験体由来の生物学的試料またはがん性細胞株から得られる、項目31に記載の方法。
(項目36)
前記がんが、肺がん、肝がん、乳がん、前立腺がん、結腸がん、リンパ腫または白血病である、項目35に記載の方法。
(項目37)
1つまたは複数のビタミンが前記がん性細胞の成長を抑制するかどうかを決定するために、該1つまたは複数のビタミンを含む培地で該がん性細胞を培養するステップをさらに含む、項目31に記載の方法。
(項目38)
マルチビタミンサプリメントが前記がん性細胞の成長を抑制するかどうかを決定するために、ビオチン(B7)、コリン、パントテン酸カルシウム(B5)、葉酸(B9)、ナイアシンアミド(B3)、パラアミノ安息香酸、ピリドキシン(B6)、リボフラビン(B2)、チアミン(B1)、コバラミン(B12)およびi-イノシトールを含む該マルチビタミンサプリメントを含む培地で該がん性細胞を培養するステップをさらに含む、項目31に記載の方法。
(項目39)
食事応答性がんを有する被験体を同定するおよび処置する方法であって、
a)該被験体からがん性細胞を含む生物学的試料を得るステップ;
b)正常細胞の成長のためのすべての必須アミノ酸を有するが、該正常細胞の成長のために必須でないが、該がん性細胞の成長のために必要である可能性がある、1つまたは複数のアミノ酸が欠乏している検査培地で該がん性細胞を培養するステップ;および
c)該がん性細胞の成長を測定するステップであって、該検査培地での該がん性細胞の成長の抑制が、該がん性細胞の成長のために必要な少なくとも1つのアミノ酸の該被験体の食事からの除去によって該がんが処置できることを示す、ステップ、および
d)該がん性細胞の成長のために必要な該1つまたは複数のアミノ酸の該被験体の一日摂取量を低減するまたは取り除く食事を該被験体に用意することによって該がんについて該被験体を処置するステップ
を含む、方法。
(項目40)
前記生物学的試料が、前記がん性細胞を含む生検または生体液である、項目39に記載の方法。
(項目41)
前記1つまたは複数のアミノ酸が、システイン、アルギニン、グルタミン、セリンおよびチロシンからなる群から選択される、項目39に記載の方法。
(項目42)
前記被験体に前記食事を用意する前記ステップが、食事指導を該被験体に提供するステップを含む、項目39に記載の方法。
(項目43)
前記被験体に前記食事を用意する前記ステップが、前記がん性細胞の成長のために必要な前記1つまたは複数のアミノ酸を含有しないミールを該被験体に提供するステップを含む、項目39に記載の方法。
(項目44)
前記食事が、タンパク質不含有食である、項目39に記載の方法。
(項目45)
前記食事が、すべての必須アミノ酸を含むアミノ酸含有サプリメントをさらに含む、項目44に記載の方法。
(項目46)
前記アミノ酸含有サプリメントが前記がん性細胞の成長のために必要な前記1つまたは複数のアミノ酸を含有しない条件で、該アミノ酸含有サプリメントが、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパルテート、グルタメート、グルタミン、グリシン、プロリン、セリン、およびチロシンからなる群から選択される1つまたは複数の非必須アミノ酸をさらに含む、項目45に記載の方法。
(項目47)
外科手術、放射線療法、化学療法、ホルモン療法、免疫療法または生物学的療法をさらに含む、項目39に記載の方法。
(項目48)
前記被験体が、哺乳動物である、項目39に記載の方法。
(項目49)
前記被験体が、ヒトである、項目39に記載の方法。
(項目50)
前記食事が、前記がん性細胞の成長のために必要な前記1つまたは複数のアミノ酸を含有する食品の前記被験体の一日摂取量を少なくとも80%、90%または95%まで低減する、項目39に記載の方法。
(項目51)
前記被験体が、少なくとも1~4カ月間前記食事を継続する、項目39に記載の方法。
(項目52)
前記食事が、抗腫瘍効果を有する、項目39に記載の方法。
(項目53)
前記食事が、少なくとも部分的な腫瘍応答がもたらされるまで継続される、項目52に記載の方法。
(項目54)
前記食事が、完全な腫瘍応答がもたらされるまで継続される、項目53に記載の方法。
(項目55)
ビタミンB1の前記被験体の一日摂取量を低減するステップをさらに含む、項目39に記載の方法。
(項目56)
前記がんの成長をさらに低減するために十分な投与量の、有効量のマルチビタミン剤で前記被験体を処置するステップをさらに含む、項目39に記載の方法。
(項目57)
前記マルチビタミン剤の前記投与量が、USRDAガイドラインによって推奨される量の5から50倍である、項目56に記載の方法。
(項目58)
前記がんの成長をさらに低減するために十分な投与量の、有効量のビタミンB2で前記被験体を処置するステップをさらに含む、項目39に記載の方法。
(項目59)
栄養学的弱点についてがん性細胞をスクリーニングするためのキットであって、がん性細胞を培養するための複数の異なる成長培地、がん性細胞の栄養学的弱点を同定するための指示を含み、各培地がシステイン、アルギニン、グルタミン、セリンおよびチロシンからなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸について欠乏している、キット。
(項目60)
システインを欠いている第1の培地、アルギニンを欠いている第2の培地、グルタミンを欠いている第3の培地、セリンを欠いている第4の培地およびチロシンを欠いている第5の培地を含む、項目59に記載のキット。
(項目61)
少なくとも1つの培地が、システイン、アルギニン、グルタミン、セリンおよびチロシンからなる群から選択される少なくとも2つのアミノ酸を欠乏している、項目59に記載のキット。