(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-25
(45)【発行日】2022-05-09
(54)【発明の名称】高分泌収量の組み換えタンパク質を産生するための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/19 20060101AFI20220426BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20220426BHJP
C07K 14/435 20060101ALN20220426BHJP
C12N 15/67 20060101ALN20220426BHJP
【FI】
C12N1/19 ZNA
C12P21/02 C
C07K14/435
C12N15/67 Z
(21)【出願番号】P 2019548956
(86)(22)【出願日】2018-03-09
(86)【国際出願番号】 US2018021817
(87)【国際公開番号】W WO2018165594
(87)【国際公開日】2018-09-13
【審査請求日】2021-03-05
(32)【優先日】2017-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】516079198
【氏名又は名称】ボルト スレッズ インコーポレイテッド
【住所又は居所原語表記】5858 Horton Street, Suite 400 Emeryville CA 94608 USA
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】キトルソン ジョシュア
(72)【発明者】
【氏名】スティーブンス トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ヒル レナ
(72)【発明者】
【氏名】ペッシェ カルロス グスタボ
【審査官】北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-167062(JP,A)
【文献】特表2015-533286(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02258855(EP,A1)
【文献】特表2009-501020(JP,A)
【文献】特表2016-531845(JP,A)
【文献】特表2016-516412(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
別個の分泌シグナルに融合されている、構造的に同一な組み換えタンパク質をコードする第1のポリヌクレオチド配列および第2のポリヌクレオチド配列を含む、組み換え宿主細胞であって、
前記第1のポリヌクレオチド配列によってコードされる組み換えタンパク質は、S.セレビシエ(S.cerevisiae)のα接合因子シグナル配列のpre領域およびS.セレビシエのα接合因子シグナル配列のpro領域を含み、配列番号8を含む第1の分泌シグナルまたはその機能的変異体に、作動可能に連結されており、かつ
前記第2のポリヌクレオチド配列によってコードされる組み換えタンパク質は、P.パストリス(P.pastoris)のEPX1シグナル配列のpre領域およびS.セレビシエのα接合因子シグナル配列のpro領域を含み、配列番号11を含む第2の分泌シグナルまたはその機能的変異体に、作動可能に連結されており、
ここで、該組み換え宿主細胞はP.パストリスである、
前記組み換え宿主細胞。
【請求項2】
前記タンパク質がシルクタンパク質である、請求項1に記載の組み換え宿主細胞。
【請求項3】
前記タンパク質が配列番号13を含む、請求項1に記載の組み換え宿主細胞。
【請求項4】
前記組み換えタンパク質がシルクタンパク質の反復単位を含む、請求項1に記載の組み換え宿主細胞。
【請求項5】
前記組み換えタンパク質が配列番号110を含む、請求項1に記載の組み換え宿主細胞。
【請求項6】
前記組み換えタンパク質が、配列番号13~配列番号110からなる群より選択される配列を含む、請求項1に記載の組み換え宿主細胞。
【請求項7】
組み換えタンパク質を産生するための方法であって、
(a)培養培地中で請求項1に記載の組み換え宿主細胞を培養して、前記組み換え宿主細胞を含む発酵を得る段階、及び
(b)前記培養培地から前記組み換えタンパク質を抽出する段階
を含む、前記方法。
【請求項8】
前記組み換えタンパク質がシルクタンパク質の反復単位を含む、請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互参照
本出願は、2017年3月10日に出願された米国仮特許出願第62/470,153号の利益を主張し、この開示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
発明の分野
本開示は、組み換えタンパク質を産生するための方法、及びそのような方法に使用され、且つ方法により産生される組成物、に関する。具体的には、本開示は、高分泌収量の組み換えタンパク質を産生するための方法、ならびに、そのような方法に使用される組み換えベクター、組み換え宿主細胞、及び発酵に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
研究、産業、または治療目的のために必要な多くのタンパク質(例えば、酵素、ワクチン、ホルモン、及びバイオ医薬品タンパク質)は、組み換え宿主細胞内で工業的に産生されている。酵母、特に、出芽酵母は、そのような用途に好まれる真核生物の宿主生物である。酵母細胞は、安価な培地中で高細胞密度まで急速に成長し、タンパク質のフォールディング及び翻訳後修飾(例えば、タンパク質分解性成熟、ジスルフィド結合の形成、リン酸化、O結合型及びN結合型グリコシル化)のための細胞機序を含む。組み換えタンパク質の産生に最も一般に使用される酵母種は、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、ハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)、及びクライベロミセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)を含む。これらのうち、ピキア・パストリスは、高密度の細胞成長を達成することができるので、特に、組み換えタンパク質がより大きな(例えば、工業用)規模で産生されることになる用途に適する。
【0004】
分泌タンパク質が、インタクトな細胞から容易に分離されるため、組み換えタンパク質が細胞から分泌される時、組み換え宿主細胞における組み換えタンパク質の工業規模の産生が促進されて、細胞溶解の必要性及びそれに続く細胞破片からのタンパク質の分離が不要になる。ピキア・パストリスが濾過及び低伝導度のクロマトグラフィーによる分泌タンパク質の単離を許容する最小塩培地中で成長し得るので、且つ、ピキア・パストリスが比較的少ない発酵産物(すなわち、小タンパク質)を自然に分泌し、それが分泌組み換えタンパク質の単離及び精製をさらに促進するので、ピキア・パストリスは、特に、分泌組み換えタンパク質の産生に適する。
【0005】
分泌組み換えタンパク質の産生に使用される組み換え宿主細胞は、理想的には、大量の組み換えタンパク質を産生し、産生された組み換えタンパク質の大きな画分を分泌する。前者は通常、当該技術分野で周知の方策、例えば、組み換え宿主細胞内に操作されて組み換えタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列をコドン最適化すること、強力なプロモーター及び効果的なターミネーターの制御下に、そのようなポリヌクレオチド配列の転写を置くこと、好適なリボース結合部位を導入することにより翻訳を最適化すること、ならびに、(例えば、2コピー以上の特定のポリヌクレオチド配列を含む宿主細胞を操作することにより)組み換え宿主細胞におけるポリヌクレオチド配列のコピー数を増加させること、を用いることにより達成される。しかし、これらの方策は、高コピー数が組み換え宿主細胞を遺伝的に不安定化させ、強力なプロモーターは、組み換え宿主細胞が、適切にフォールド及び/または分泌し得るよりも高いレベルの組み換えタンパク質を生じるので、有効性における自然の限界に到達する傾向がある(Damasceno et al.[2012]Appl Microbiol Biotechnol 93:31-39(非特許文献1);Parekh et al.[1995]Protein Expr Purif.6(4):537-45(非特許文献2);Zhu et al.[2009]J Appl Microbiol 107:954-963(非特許文献3);Liu et al.[2003]Protein Expr.Purif.30:262-274(非特許文献4))。その結果、組み換えタンパク質の収量は、アンフォールドまたはミスフォールドした組み換えタンパク質が組み換え宿主細胞内部で蓄積し、且つ組み換え宿主細胞が分子ストレス応答(例えば、アンフォールドしたタンパク質応答[UPR]またはER関連タンパク質分解経路[ERAD])を活性化させるので、横ばいか、またはさらに減少する傾向がある(Hohenblum et al.[2004]Biotechnol Bioeng.12:367-375(非特許文献5);Vassileva et al.[2001]J Biotechnol.12:21-35(非特許文献6);Inan et al.[2006]Biotechnol Bioeng.12:771-778(非特許文献7);Zhu et al.[2009]J Appl Microbiol.12(3):954-963(非特許文献3))。実に、シャペロンタンパク質または主要なUPR転写制御因子(Hac1p)の上方制御は、UPRの影響を低減させ、組み換えタンパク質収量を高めることが示されている(Zhang et al.[2006]Biotechnol Prog.12:1090-1095(非特許文献8);Lee et al.[2012]Process Biochem.12:2300-2305(非特許文献9);Valkonen et al.[2003]Appl Environ Microbiol.12:6979-6986(非特許文献10))。しかし、そのような手段は、功罪相半ばする結果を生じており(Guerfal et al.[2010]Microb Cell Fact.12:49(非特許文献11))、依然として、組み換え宿主細胞の分泌経路の飽和を完全に解決しない(Inan et al.[2006]Biotechnol Bioeng.12:771-778(非特許文献7))。従って、組み換え宿主細胞の分泌機序の能力は、依然として、組み換えタンパク質の産生に対する主要なボトルネックである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Damasceno et al.[2012]Appl Microbiol Biotechnol 93:31-39
【文献】Parekh et al.[1995]Protein Expr Purif.6(4):537-45
【文献】Zhu et al.[2009]J Appl Microbiol 107:954-963
【文献】Liu et al.[2003]Protein Expr.Purif.30:262-274
【文献】Hohenblum et al.[2004]Biotechnol Bioeng.12:367-375
【文献】Vassileva et al.[2001]J Biotechnol.12:21-35
【文献】Inan et al.[2006]Biotechnol Bioeng.12:771-778
【文献】Zhang et al.[2006]Biotechnol Prog.12:1090-1095
【文献】Lee et al.[2012]Process Biochem.12:2300-2305
【文献】Valkonen et al.[2003]Appl Environ Microbiol.12:6979-6986
【文献】Guerfal et al.[2010]Microb Cell Fact.12:49
【発明の概要】
【0007】
従って、必要なものは、組み換え宿主細胞における過剰発現の負の影響を緩和しながら、望ましい組み換えタンパク質の発現の増加を可能にする方法及び組成物である。
[本発明1001]
少なくとも2つの別個の分泌シグナルに作動可能に連結されている組み換えタンパク質をコードする少なくとも2つのポリヌクレオチド配列を含む、組み換え宿主細胞。
[本発明1002]
前記別個の分泌シグナルのうちの少なくとも1つが、シグナルペプチドを含むがリーダーペプチドを含まない、本発明1001の組み換え宿主細胞。
[本発明1003]
前記別個の分泌シグナルのうちの少なくとも1つが、シグナルペプチド及びリーダーペプチドを含む、本発明1001の組み換え宿主細胞。
[本発明1004]
前記別個の分泌シグナルのうちの少なくとも1つが、天然分泌シグナル、または天然分泌シグナルと少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有する機能的変異体である、本発明1001の組み換え宿主細胞。
[本発明1005]
前記別個の分泌シグナルのうちの少なくとも1つが、組み換え分泌シグナルである、本発明1001の組み換え宿主細胞。
[本発明1006]
前記別個の分泌シグナルのうちの少なくとも1つが、表1から選択されるシグナルペプチド、または表1から選択されるシグナルペプチドと少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有する機能的変異体を含む、本発明1001の組み換え宿主細胞。
[本発明1007]
前記別個の分泌シグナルのうちの少なくとも1つが、天然pro-αMF(sc)であるリーダーペプチド、または配列番号1と少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有する機能的変異体を含む、本発明1001の組み換え宿主細胞。
[本発明1008]
前記組み換え分泌シグナルが、配列番号1と少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有するリーダーペプチド、及び、pre-αMF(sc)を含まないシグナルペプチドを含む、本発明1005の組み換え宿主細胞。
[本発明1009]
前記別個の分泌シグナルのうちの少なくとも1つが、天然pre-αMF(sc)/pro-αMF(sc)または配列番号7と少なくとも80%のアミノ酸同一性を有する機能的変異体であり、かつ前記別個の分泌シグナルのうちの少なくとももう1つが、天然pro-αMF(sc)または配列番号1と少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有する機能的変異体及びpre-αMF(sc)ではないシグナルペプチドを含む、組み換え分泌シグナルである、本発明1001の組み換え宿主細胞。
[本発明1010]
天然pre-αMF(sc)/pro-αMF(sc)の前記機能的変異体が、配列番号7と少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有する、本発明1009の組み換え宿主細胞。
[本発明1011]
天然pre-αMF(sc)/pro-αMF(sc)の前記機能的変異体が、1つまたは2つの置換アミノ酸変化を含む天然pre-αMF(sc)/pro-αMF(sc)である、本発明1009の組み換え宿主細胞。
[本発明1012]
天然pre-αMF(sc)/pro-αMF(sc)の前記機能的変異体が、配列番号8である、本発明1009の組み換え宿主細胞。
[本発明1013]
天然pro-αMF(sc)の前記機能的変異体が、配列番号1と少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有する、本発明1009の組み換え宿主細胞。
[本発明1014]
天然pro-αMF(sc)の前記機能的変異体が、1つまたは2つの置換アミノ酸変化を含む天然pro-αMF(sc)である、本発明1009の組み換え宿主細胞。
[本発明1015]
天然pro-αMF(sc)の前記機能的変異体が、配列番号2である、本発明1009の組み換え宿主細胞。
[本発明1016]
前記シグナルペプチドが表1から選択されるか、または、表1から選択されるシグナルペプチドと少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有する機能的変異体である、本発明1009の組み換え宿主細胞。
[本発明1017]
前記シグナルペプチドの前記機能的変異体が、表1から選択されるシグナルペプチドと少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%のアミノ酸同一性を有する、本発明1016の組み換え宿主細胞。
[本発明1018]
前記組み換え分泌シグナルが、配列番号9~12から選択されるか、または、配列番号9~12から選択される組み換え分泌シグナルと少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有する機能的変異体である、本発明1009の組み換え宿主細胞。
[本発明1019]
前記機能的変異体が、配列番号9~12から選択される組み換え分泌シグナルと少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有する、本発明1018の組み換え宿主細胞。
[本発明1020]
前記ポリヌクレオチド配列のうちの少なくとも1つが、前記組み換え宿主細胞のゲノム内に安定的に組み込まれている、本発明1001の組み換え宿主細胞。
[本発明1021]
前記ポリヌクレオチド配列のうちの少なくとも1つが、前記組み換え宿主細胞において染色体外に維持されている、本発明1001の組み換え宿主細胞。
[本発明1022]
前記タンパク質が、シルクまたはシルク様タンパク質である、本発明1001の組み換え宿主細胞。
[本発明1023]
前記タンパク質が、配列番号13を含む、本発明1022の組み換え宿主細胞。
[本発明1024]
前記タンパク質が、配列番号13の複数のコピーを含む、本発明1022の組み換え宿主細胞。
[本発明1025]
前記ポリヌクレオチド配列のうちの少なくとも1つが、プロモーターに作動可能に連結されている、本発明1001の組み換え宿主細胞。
[本発明1026]
前記プロモーターが、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)のpGCW14プロモーターである、本発明1025の組み換え宿主細胞。
[本発明1027]
前記プロモーターが、ピキア・パストリスのpGAPプロモーターである、本発明1025の組み換え宿主細胞。
[本発明1028]
前記プロモーターが、誘導性プロモーターである、本発明1025の組み換え宿主細胞。
[本発明1029]
酵母細胞である、本発明1001の組み換え宿主細胞。
[本発明1030]
出芽酵母細胞である、本発明1029の組み換え宿主細胞。
[本発明1031]
メチロトローフ酵母細胞である、本発明1029の組み換え宿主細胞。
[本発明1032]
ピキア種である、本発明1030の組み換え宿主細胞。
[本発明1033]
ピキア・パストリスである、本発明1032の組み換え宿主細胞。
[本発明1034]
前記組み換え宿主細胞により産生される前記組み換えタンパク質の総収量の少なくとも30重量%の分泌収量である前記組み換えタンパク質を産生する、本発明1001の組み換え宿主細胞。
[本発明1035]
本発明1001~1034のいずれかの組み換え宿主細胞及び培養培地を含む、発酵。
[本発明1036]
前記組み換え宿主細胞により産生される前記組み換えタンパク質の総収量の少なくとも30重量%を分泌組み換えタンパク質として含む、本発明1035の発酵。
[本発明1037]
前記培養培地が、少なくとも0.5g/Lの前記組み換えタンパク質を含む、本発明1035の発酵。
[本発明1038]
組み換えタンパク質を産生するための方法であって、
(a)培養培地中で本発明1001~1034のいずれかの組み換え宿主細胞を培養して、本発明1035~1037のいずれかの発酵を得る段階、及び
(b)前記培養培地から前記組み換えタンパク質を抽出する段階
を含む、前記方法。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】高分泌収量の組み換えタンパク質を産生するための方法のフローチャートである。
【
図2A】サッカロミセス・セレビシエのα接合因子(pre-αMF(sc)/*pro-αMF(sc))の分泌シグナルの機能的変異体を含むN末端分泌シグナル、または、サッカロミセス・セレビシエのα接合因子(*pro-αMF(sc))のリーダーペプチドの機能的変異体及びシグナルペプチドからなる組み換え分泌シグナルに作動可能に連結されているシルク様タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を1つ含む組み換えベクターの例示的なマップである。ポリヌクレオチド配列の単一コピーの導入に使用される組み換えベクターの例示的なマップである。
【
図2B】サッカロミセス・セレビシエのα接合因子(pre-αMF(sc)/*pro-αMF(sc))の分泌シグナルの機能的変異体を含むN末端分泌シグナル、または、サッカロミセス・セレビシエのα接合因子(*pro-αMF(sc))のリーダーペプチドの機能的変異体及びシグナルペプチドからなる組み換え分泌シグナルに作動可能に連結されているシルク様タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を3つ含む組み換えベクターの例示的なマップである。ポリヌクレオチド配列の3コピーの導入に使用される組み換えベクターの例示的なマップである。
【
図3】ELISAでアッセイされた、種々のピキア・パストリス組み換え宿主細胞により産生される組み換えシルク様タンパク質の細胞内(非分泌)及び細胞外(分泌)収量を示す。凡例:4/5/6xαMF=シグナル配列pre-αMF(sc)/*pro-αMF(sc)(配列番号8)に作動可能に連結されているシルク様タンパク質をコードする4/5/6ポリヌクレオチド配列を含む組み換え宿主株;4xαMF+3xPep4=シグナル配列pre-PEP4(sc)/*pro-αMF(sc)(配列番号9)に作動可能に連結されているシルク様タンパク質をコードする3つのポリヌクレオチド配列をさらに含む組み換え宿主株4xαMF;4xαMF+3xDse4=シグナル配列pre-DSE4(pp)/*pro-αMF(sc)(配列番号10)に作動可能に連結されているシルク様タンパク質をコードする3つのポリヌクレオチド配列をさらに含む組み換え宿主株4xαMF。
【
図4】ELISAでアッセイされた、種々のピキア・パストリス組み換え宿主細胞により産生される組み換えシルク様タンパク質の細胞内(非分泌)及び細胞外(分泌)収量を示す。凡例:6xαMF=シグナル配列pre-αMF(sc)/*pro-αMF(sc)(配列番号8)に作動可能に連結されているシルク様タンパク質をコードする6ポリヌクレオチド配列を含む組み換え宿主株;4xαMF+2xEpx1=シグナル配列pre-EPX1(pp)/*pro-αMF(sc)(配列番号11)に作動可能に連結されているシルク様タンパク質をコードする2つのポリヌクレオチド配列をさらに含む組み換え宿主株4xαMF。
【
図5】ELISAでアッセイされた、種々のピキア・パストリス組み換え宿主細胞により産生される組み換えシルク様タンパク質の細胞内(非分泌)及び細胞外(分泌)収量を示す。凡例:4/5/6xαMF=シグナル配列pre-αMF(sc)/*pro-αMF(sc)(配列番号8)に作動可能に連結されているシルク様タンパク質をコードする4/5/6ポリヌクレオチド配列を含む組み換え宿主株;4xαMF+2xEpx1=シグナル配列pre-EPX1(pp)/*pro-αMF(sc)(配列番号11)に作動可能に連結されているシルク様タンパク質をコードする2つのポリヌクレオチド配列をさらに含む組み換え宿主株4xαMF;4xαMF+2xEpx1+1xCLSP=シグナル配列pre-CLSP(gg)/*pro-αMF(sc)(配列番号12)に作動可能に連結されているシルク様タンパク質をコードする1つのポリヌクレオチド配列をさらに含む組み換え宿主株4xαMF+2xEpx1。
【
図6】本発明の一実施形態による、組み換え分泌シグナルでポリペプチドを発現するための発現構築物を含む組み換えベクターの図である。
【
図7】種々の組み換え分泌シグナルで組み換えα-アミラーゼを発現するように形質転換されたピキア・パストリス由来のα-アミラーゼの分泌レベルを示す。
【
図8】種々の組み換え分泌シグナルで組み換え蛍光タンパク質を発現するように形質転換されたピキア・パストリス由来の蛍光タンパク質の分泌レベルを示す。
【0009】
図は、説明のみを目的として、本開示の種々の実施形態を示す。本明細書に記載の原理から逸脱することなく、本明細書に示される構造及び方法の代替実施形態が用いられ得ることを、当業者は以下の考察から容易に認識するであろう。
【発明を実施するための形態】
【0010】
発明の詳細な説明
定義
別途記載のない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本開示が関係する当業者により一般に理解されるのと同じ意味を有する。
【0011】
本明細書で使用される「a」及び「an」及び「the」という用語ならびに類似の指示対象は、本明細書で別途指示のない限り、または文脈により明らかに矛盾しない限り、単数及び複数の双方を指す。
【0012】
アミノ酸は、1文字のコードまたは3文字のコードで指すことができる。1文字コード、アミノ酸名、及び3文字コードは、次の通りである:G-グリシン(Gly)、P-プロリン(Pro)、A-アラニン(Ala)、V-バリン(Val)、L-ロイシン(Leu)、I-イソロイシン(Ile)、M-メチオニン(Met)、C-システイン(Cys)、F-フェニルアラニン(Phe)、Y-チロシン(Tyr)、W-トリプトファン(Trp)、H-ヒスチジン(His)、K-リジン(Lys)、R-アルギニン(Arg)、Q-グルタミン(Gln)、N-アスパラギン(Asn)、E-グルタミン酸(Glu)、D-アスパラギン酸(Asp)、S-セリン(Ser)、T-トレオニン(Thr)。
【0013】
本明細書で使用される「機能的変異体」という用語は、機能的特性が天然タンパク質特性の10%以内に保存されている、天然タンパク質と組成が異なるタンパク質を指す。一部の実施形態では、機能的変異体及び天然タンパク質の間の差は、1次アミノ酸配列(例えば、1つ以上のアミノ酸が、除去、挿入、または置換されている)、または翻訳後修飾(例えば、グリコシル化、リン酸化)中に存在し得る。アミノ酸挿入は、N末端及び/またはC末端融合、ならびに単一または複数のアミノ酸の配列内挿入を含み得る。アミノ酸置換としては、非保存的及び保存的置換が挙げられ、保存的アミノ酸置換表は、当該技術分野で周知である(例えば、Creighton(1984)Proteins.W.H.Freeman and Company(Eds)を参照のこと)。一部の実施形態では、機能的変異体及び天然タンパク質は、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、もしくは少なくとも99%のアミノ酸またはヌクレオチド配列同一性を有する。
【0014】
本明細書で使用される核酸またはアミノ酸配列の文脈における「同一性」または「同一の」という用語は、配列が最大限一致するようにアラインされる時に同じである2つの配列内のヌクレオチドまたはアミノ酸残基を指す。用途に応じて、パーセント「同一性」は、比較される配列の領域(すなわち、[例えば、機能ドメインにわたる]部分配列)全体に存在するか、または、代わりに、配列の全長にわたって存在し得る。「領域」は、少なくとも9、20、24、28、32、もしくは36ヌクレオチド、または少なくとも6アミノ酸の連続ストレッチと考えられる。配列比較では、通常、1つの配列が、試験配列が比較される参照配列として機能する。配列比較アルゴリズムを使用する時、試験及び参照配列がコンピューターに入力され、必要に応じて、部分配列の座標が指定され、配列アルゴリズムプログラムパラメーターが指定される。次に、配列比較アルゴリズムは、指定されたプログラムパラメーターに基づいて、参照配列に対する試験配列(複数可)のパーセント配列同一性を計算する。比較のための配列の最適なアラインメントは、例えば、Smith & Waterman,Adv.Appl.Math.2:482(1981)の局所相同性アルゴリズムにより、Needleman & Wunsch,J.Mol.Biol.48:443(1970)の相同性アラインメントアルゴリズムにより、Pearson & Lipman,Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA 85:2444(1988)の類似性検索法により、これらのアルゴリズムのコンピューターでの実行(Wisconsin Genetics Software Package、Genetics Computer Group、575 Science Dr.、ウィスコンシン州マディソンのGAP、BESTFIT、FASTA、及びTFASTA)により、または目視検査(一般に、以下のAusubel et al.を参照のこと)により、行うことができる。パーセント配列同一性及び配列類似性を決定するのに適するアルゴリズムの一例は、BLASTアルゴリズムである(例えば、Altschul et al.[1990]J.Mol.Biol.215:403-410;Gish & States.[1993]Nature Genet.3:266-272;Madden et al.[1996]Meth.Enzymol.266:131-141;Altschul et al.[1997]Nucleic Acids Res.25:3389-3402;Zhang 7 Madden.[1997]Genome Res.7:649-656を参照のこと)。BLAST分析を実施するためのソフトウェアは、国立生物工学情報センター(National Center for Biotechnology Information)から公的に入手可能である。そのようなソフトウェアは、ポリペプチド配列内またはそのような配列のドメイン内にある特定した任意のアミノ酸のモル百分率を決定するために使用することもできる。そのような百分率が検査及び手動計算により決定することもできることを、当業者は認識するであろう。
【0015】
「含むこと(including)」、「含む(includes)」、「有すること(having)」、「有する(has)」、「有する(with)」という用語、またはそれらの変形は、「含むこと(comprising)」という用語と同様に包括的であることが意図される。
【0016】
本明細書で使用される「微生物」という用語は、微生物を指し、単細胞生物を指す。本明細書で使用される場合、この用語は、全ての細菌、全ての古細菌、単細胞原生生物、単細胞動物、単細胞植物、単細胞真菌、単細胞藻類、全ての原生動物、及び全てのクロミスタを含む。
【0017】
本明細書で使用される「天然」という用語は、天然の変更されていない状態で自然界にみられるものを指す。
【0018】
本明細書で使用される「作動可能に連結されている」という用語は、タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列またはタンパク質と連続的に連結している、ポリヌクレオチドまたはアミノ酸配列、及び、タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列に対してトランスでまたは距離を置いて作用し且つタンパク質をコードするポリヌクレオチドまたはタンパク質の転写、翻訳、フォールディング、分泌、もしくは他の機能的態様を制御する、ポリヌクレオチドまたはアミノ酸配列を指す。
【0019】
「任意」または「任意に」という用語は、特徴もしくは構造が存在しても存在しなくてもよいこと、または事象もしくは状況が生じても生じなくてもよいこと、ならびに、本明細書が、特定の特徴もしくは構造が存在する場合及び特徴もしくは構造が存在しない場合、または事象もしくは状況が生じる場合及び事象もしくは状況が生じない場合を含むことを意味する。
【0020】
本明細書で使用される「タンパク質」という用語は、機能的構造を有さないポリペプチド及び活性構造にフォールドするポリペプチドの双方を指す。
【0021】
本明細書で使用される「組み換えタンパク質」という用語は、組み換え宿主細胞で産生されるタンパク質、または組み換え核酸から合成されるタンパク質を指す。
【0022】
本明細書で使用される「組み換え宿主細胞」という用語は、組み換え核酸を含む宿主細胞を指す。
【0023】
本明細書で使用される「組み換え核酸」という用語は、天然の環境から取り出される核酸、または自然で見つかった時、核酸に接するもしくは最も近い核酸の全てもしくは一部と会合しない核酸、または自然に連結されていない核酸に有効に連結されている核酸、または自然に生じない核酸、または自然の核酸にみられない修飾(例えば、人工的に、例えば、人間の介入により導入された挿入、欠失、もしくは点変異)を含有する核酸、または異種部位で染色体に組み込まれている核酸を指す。この用語は、化学合成されたヌクレオチドアナログを含むクローン化されたDNA分離株及び核酸を含む。
【0024】
本明細書で使用される「組み換え分泌シグナル」という用語は、シグナルペプチド及びリーダーペプチドの非天然の組み合わせを含む分泌シグナルを指す。
【0025】
本明細書で使用される「組み換えベクター」という用語は、それが連結されている別の核酸分子を輸送することが可能な核酸分子を指す。この用語は、追加のDNAセグメントをライゲートすることができる環状二本鎖DNAループ、及び、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による増幅または制限酵素を用いるプラスミドの処理から生じるような線形二本鎖分子を一般に指す「プラスミド」を含む。ベクターの他の非限定例としては、バクテリオファージ、コスミド、細菌人工染色体(BAC)、酵母人工染色体(YAC)、及びウイルスベクター(すなわち、追加のDNAセグメントがライゲートされる完全または部分的なウイルスゲノム)が挙げられる。ある特定のベクターは、それらが導入される組み換え宿主細胞において自律複製ができる(例えば、細胞内で機能する複製起点を有するベクター)。導入の際に他のベクターは、組み換え宿主細胞のゲノムに組み込むことができ、それにより細胞ゲノムと一緒に複製される。
【0026】
本明細書で使用される「分泌組み換えタンパク質」という用語は、組み換えタンパク質を産生する組み換え宿主細胞の細胞膜及び/または細胞壁を越えて輸出される組み換えタンパク質を指す。
【0027】
本明細書で使用される「分泌収量」という用語は、宿主細胞を含む発酵に供給される固定量の炭素に基づく、宿主細胞により産生される分泌タンパク質の量を指す。
【0028】
本明細書で使用される「総収量」という用語は、宿主細胞を含む発酵に供給される固定量の炭素に基づく、宿主細胞により産生される総タンパク質の量を指す。
【0029】
本明細書で使用される「切断型」という用語は、天然タンパク質よりも長さが短いタンパク質配列を指す。一部の実施形態では、切断型タンパク質は、天然タンパク質の長さの10%を超える、または20%を超える、または30%を超える、または40%を超える、または50%を超える、または60%を超える、または70%を超える、または80%を超える、または90%を超えるものとし得る。
【0030】
例示的な方法及び材料を以下に記載する。但し、本明細書に記載のものと類似または同等の方法及び材料が、本発明の実施に使用することもでき、当業者らには明らかであろう。本明細書で言及される全ての出版物及び他の参考文献は、その全体が参照により組み込まれる。矛盾する場合、定義を含む本明細書が優先される。材料、方法、及び例は、単に例示であり、限定するものではない。
【0031】
値の範囲が列挙されている場合はいつでも、その範囲は、明示的に書かれたかのように、範囲内の全ての値を含み、さらに範囲の境界値を含む。従って、「X~Y」の範囲は、X及びYの間に入る全ての値を含み、X及びYを含む。
【0032】
高分泌収量の組み換えタンパク質を産生するための組成物及び方法
組み換え宿主細胞及び発酵、ならびに、高分泌収量の組み換えタンパク質を産生するために、そのような組み換え宿主細胞及び発酵を使用する方法が、本明細書で提供される。
【0033】
本明細書で提供される組成物及び方法の利点は、それらが、大量の組み換えタンパク質を産生するための費用効果の高い手段を提供することを含む。大量の産物が、分泌経路を介して組み換えタンパク質を分泌する組み換え宿主細胞を使用して得られる。組み換えタンパク質のそのような分泌は、(a)組み換えタンパク質の細胞内蓄積の毒性を回避し、(b)細胞破壊、細胞構成要素からの分離、及びタンパク質リフォールディングプロセスをなくすことにより精製を簡略化し、(c)組み換えタンパク質の活性/機能にとって重要であり得る翻訳後修飾を用いて適切にフォールドされた組み換えタンパク質を提供する。
【0034】
組み換え宿主細胞
本明細書で提供される組み換え宿主細胞は、組み換えタンパク質の分泌をもたらすために複数の別個の分泌シグナルを用いる宿主細胞である。
【0035】
分泌シグナル
分泌されるために、タンパク質は、それを産生する細胞の細胞内分泌経路を通って運ばれる必要がある。タンパク質は、N末端分泌シグナルにより、選ぶべき細胞の行き先ではなく、この経路に向けられる。少なくとも、分泌シグナルは、シグナルペプチドを含む。シグナルペプチドは通常、N末端の塩基性アミノ酸及びC末端の極性アミノ酸に隣接する13~36の、主に疎水性アミノ酸で構成されている。シグナルペプチドは、サイトゾルからERの内腔への新生タンパク質の共翻訳もしくは翻訳後移行を媒介するシグナル認識粒子(SRP)または他の輸送タンパク質(例えば、SND、GET)と相互作用する。ERでは、シグナルペプチドは通常、切断され、タンパク質は、フォールディングし、翻訳後修飾を受ける。次に、タンパク質は、ERからゴルジ体に、次に、分泌小胞及び細胞外部に送達される。シグナルペプチドに加えて、本来分泌が予定される新生タンパク質のサブセットは、リーダーペプチドも含む分泌シグナルを保有する。リーダーペプチドは通常、荷電または極性アミノ酸が割り込む疎水性アミノ酸で構成されている。理論に拘束されることを望むものではないが、リーダーペプチドは、タンパク質の輸送を停滞させ、適切なフォールディングを確実にし、且つ/またはERから、リーダーペプチドが通常切断されるゴルジ体へのタンパク質の輸送を促進すると考えられている。
【0036】
細胞から分泌されるタンパク質の量は、タンパク質間で大きく異なり、発生期のタンパク質に作動可能に連結されている分泌シグナルに部分的に依存する。多くの分泌シグナルが、当該技術分野で知られており、いくつかは、分泌組み換えタンパク質の産生に一般に使用される。これらの中で顕著なものは、N末端19アミノ酸シグナルペプチド(本明細書において、pre-αMF(sc)とも呼ばれる)、続いて、70アミノ酸リーダーペプチド(本明細書において、pro-αMF(sc)とも呼ばれ;配列番号1)からなる、サッカロミセス・セレビシエのα接合因子(αMF)の分泌シグナルである。サッカロミセス・セレビシエのαMFの分泌シグナル(本明細書ではpre-αMF(sc)/pro-αMF(sc)(配列番号7)とも呼ばれる)に、pro-αMF(sc)が含まれることが、タンパク質の高分泌収量を達成するために重要であることが判明している(例えば、Fitzgerald & Glick[2014]Microb Cell Fact 28;13(1):125;Fahnestock et al.[2000]J Biotechnol 74(2):105を参照のこと)。pre-αMF(sc)以外のシグナルペプチドに、pro-αMF(sc)またはその機能的変異体を追加することは、組み換えタンパク質の分泌を達成する手段としても検討されているが、ある特定の組み換え宿主細胞内で特定の組み換えタンパク質の分泌を増加させるが、他の組み換えタンパク質の分泌には効果がないか、それを減少させるという、程度の異なる有効性を示している(Fitzgerald & Glick.[2014]Microb Cell Fact 28;13(1):125;Liu et al.[2005]Biochem Biophys Res Commun.326(4):817-24;Obst et al.[2017]ACS Synth Biol.2017 Mar 2)。
【0037】
本明細書で提供される本発明は、複数の別個の分泌シグナルの使用により、組み換えタンパク質の分泌収量を改善することができるという本発明者らによりなされた驚くべき発見に基づいている。具体的には、1つのみの分泌シグナル(例えば、pre-αMF(sc)/pro-αMF(sc))に作動可能に連結されている組み換えタンパク質をコードする複数のポリヌクレオチド配列を含む組み換え宿主細胞と比較して、少なくとも2つの別個の分泌シグナルに作動可能に連結されている組み換えタンパク質をコードする同数のポリヌクレオチド配列を含む組み換え宿主細胞は、より高い分泌収量の組み換えタンパク質を産生することを、本発明者らは見出した。理論に拘束されることを望むものではないが、少なくとも2つの別個の分泌シグナルの使用により、組み換え宿主細胞が、組み換えタンパク質の効率的な分泌を達成する別個の細胞の分泌経路に関与し、従って、いずれか1つの分泌経路の過剰飽和を防ぐことを可能にし得る。
【0038】
従って、本明細書で提供される組み換え宿主細胞は、少なくとも2つの別個の分泌シグナルに作動可能に連結されている組み換えタンパク質をコードする少なくとも2つのポリヌクレオチド配列を含む宿主細胞である。分泌シグナルは通常、タンパク質のN末端に連結されている。
【0039】
一部の実施形態では、別個の分泌シグナルのうちの少なくとも1つは、シグナルペプチドを含むが、リーダーペプチドは含まない。一部の実施形態では、別個の分泌シグナルのうちの少なくとも1つは、シグナルペプチド及びリーダーペプチドを含む。一部の実施形態では、別個の分泌シグナルのうちの少なくとも1つは、天然分泌シグナルまたは天然分泌シグナルと少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有する機能的変異体である。一部の実施形態では、別個の分泌シグナルのうちの少なくとも1つは、組み換え分泌シグナルである。
【0040】
一部の実施形態では、別個の分泌シグナルのうちの少なくとも1つは、表1から選択されるシグナルペプチドを含むか、または、表1から選択されるシグナルペプチドと少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有する機能的変異体である。一部の実施形態では、機能的変異体は、1つまたは2つの置換アミノ酸を含む表1から選択されるシグナルペプチドである。一部のそのような実施形態では、機能的変異体は、表1から選択されたシグナルペプチドと少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有する。一部の実施形態では、シグナルペプチドは、ERへの新生組み換えタンパク質の翻訳後移行を媒介する(すなわち、タンパク質合成は、新生組み換えタンパク質がERに移行する前の細胞サイトゾル内に存在するように、移行に先行する)。他の実施形態では、シグナルペプチドは、ERへの新生組み換えタンパク質の共翻訳的移行を媒介する(すなわち、タンパク質合成及びERへの移行が同時に生じる)。ERへの共翻訳移行を媒介するシグナルペプチドを使用する利点は、急速なフォールディングの傾向のある組み換えタンパク質が、ERへの移行、従って、分泌を妨げる立体構造をとることを防ぐことである。
【0041】
【0042】
一部の実施形態では、別個の分泌シグナルのうちの少なくとも1つは、天然pro-αMF(sc)(配列番号1)であるリーダーペプチド、または、配列番号1と少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有する機能的変異体を含む。一部の実施形態では、機能的変異体は、1つまたは2つの置換アミノ酸を含む天然pro-αMF(sc)である。一部の実施形態では、機能的変異体は、*pro-αMF(配列番号2)である。一部の実施形態では、機能的変異体は、配列番号1と少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%のアミノ酸同一性を有する。一部の実施形態では、機能的変異体は、αMF_no_EAEAまたはαMFΔまたはαMFΔ_no_Kexである(Obst et al.[2017]ACS Synth Biol.2017 Mar 2)。
【0043】
一部の実施形態では、別個の分泌シグナルのうちの少なくとも1つは、天然pro-αMF(sc)(配列番号1)であるリーダーペプチド、または、配列番号1と少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有する機能的変異体、及びpre-αMF(sc)を含まないシグナルペプチドを含む。一部の実施形態では、機能的変異体は、配列番号1と少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、もしくは少なくとも99%のアミノ酸同一性を有するか、1つもしくは2つの置換アミノ酸を含む天然pro-αMF(sc)であるか、*pro-αMF(配列番号2)であるか、またはαMF_no_EAEAもしくはαMFΔもしくはαMFΔ_no_Kexである(Obst et al.[2017]ACS Synth Biol.2017 Mar 2)。一部の実施形態では、シグナルペプチドは、表1から選択されるか、1つもしくは2つの置換アミノ酸を含む表1から選択されるシグナルペプチドであるか、または表1から選択されるシグナルペプチドと少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、もしくは少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有する。一部の実施形態では、別個の分泌シグナルのうちの少なくとも1つは、天然pre-αMF(sc)/pro-αMF(sc)(配列番号7)または配列番号7と少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有する機能的変異体であり、かつ別個の分泌シグナルのうちの少なくとももう1つは、天然pro-αMF(sc)(配列番号1)または配列番号1と少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有する機能的変異体及びpre-αMF(sc)ではないシグナルペプチドを含む、組み換え分泌シグナルである。一部の実施形態では、天然pre-αMF(sc)/pro-αMF(sc)の機能的変異体は、2~4つの置換アミノ酸変化を含む天然pre-αMF(sc)/pro-αMF(sc)であるか、pre-αMF(sc)/*pro-αMF(sc)(配列番号8)であるか、または配列番号7と少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、もしくは少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有する。一部のそのような実施形態では、天然pro-αMF(sc)の機能的変異体は、1つもしくは2つの置換アミノ酸変化を含む天然pro-αMF(sc)であるか、*pro-αMF(配列番号2)であるか、配列番号1と少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、もしくは少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有するか、またはαMF_no_EAEAもしくはαMFΔもしくはαMFΔ_no_Kexである(Obst et al.[2017]ACS Synth Biol.2017 Mar 2)。一部の実施形態では、pre-αMF(sc)ではないシグナルペプチドは、表1、または表1から選択されるシグナルペプチドと少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有する機能的変異体から選択される。一部のそのような実施形態では、シグナルペプチドは、1つもしくは2つの置換アミノ酸を含む表1から選択されるシグナルペプチドであるか、または、表1から選択されるシグナルペプチドと少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、もしくは少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有する。一部の実施形態では、組み換え分泌シグナルは、表2の配列番号9~12から選択されるか、または、配列番号9~12から選択される組み換え分泌シグナルと少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、もしくは少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有する機能的変異体である。
【0044】
【0045】
好適な別個の分泌シグナル及び分泌シグナルの組み合わせは、本明細書に開示の方法を使用することにより特定することができる。そのような方法は、
(a)第1の分泌シグナルに作動可能に連結されている組み換えタンパク質をコードする、z個のコピーの第1のポリヌクレオチド配列を含む組み換え宿主細胞Aにより産生される組み換えタンパク質の分泌収量を測定するステップ、
(b)第2の分泌シグナルに作動可能に連結されている組み換えタンパク質をコードする、m個のコピーの第1のポリヌクレオチド配列及びn個のコピーの第2のポリヌクレオチド配列を含む組み換え宿主細胞Bにより産生される組み換えタンパク質の分泌収量を測定するステップ(組み換え宿主細胞A及び組み換え宿主細胞Bは、第1及び第2のポリヌクレオチド配列のコピー数を除いて同一であり、m+n=zであり、第1及び第2の分泌シグナルは同一ではない)、ならびに
(c)組み換え宿主細胞Bにおいて、組み換え宿主細胞Aで達成されるよりも、少なくとも2%、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%大きい分泌収量の組み換えタンパク質を提供する第1及び第2の分泌シグナルの組み合わせを選択するステップ
を含む。
【0046】
一部の実施形態では、組み換え宿主細胞Bは、第3の分泌シグナルに作動可能に連結されている組み換えタンパク質をコードする、y個のコピーの第3のポリヌクレオチド配列を含み、組み換え宿主細胞A及び組み換え宿主細胞Bは、第1、第2、及び第3のポリヌクレオチド配列のコピー数を除いて同一であり、m+n+y=zであり、第1、第2、及び第3の分泌シグナルは同一ではない。さらなる実施形態では、組み換え宿主細胞Bは、追加の別個の分泌シグナルに作動可能に連結されている組み換えタンパク質をコードする追加のポリヌクレオチド配列を含む。組み換え宿主細胞Bと同数のポリヌクレオチド配列を含む組み換え宿主細胞Aを単離できない実施形態では、ステップ(c)は、より少ないコピーのポリヌクレオチド配列を含む組み換え宿主細胞Aを使用することができる。理論に拘束されることを望むものではないが、ある特定数のポリヌクレオチド配列を有する組み換え宿主細胞Aを単離できないことは、同一のポリヌクレオチド配列のコピー数の増加によりもたらされる遺伝的不安定性または宿主細胞の不十分な健康状態によるものであり得る。
【0047】
一部の実施形態では、発現構築物は、例えば、相同組み換えまたは標的化組み込みを介して、組み換え宿主細胞のゲノム(例えば、染色体)内に安定して組み込まれる。ゲノムインテグレーションに好適な部位の非限定例は、サッカロミセス・セレビシエゲノムのTy1遺伝子座、ピキア・パストリスゲノムのrDNA及びHSP82遺伝子座、ならびに組み換え宿主細胞のゲノム全体にコピーが点在する転位因子を含む。他の実施形態では、発現構築物は、組み換え宿主細胞のゲノム内に安定して組み込まれているのではなく、むしろ染色体外で(例えば、プラスミド上で)維持されている。ポリヌクレオチド配列は、組み換え宿主細胞のゲノム内の単一の場所に配置されるか、または組み換え宿主細胞のゲノム全体に分布させてもよい。一部の実施形態では、ポリヌクレオチド配列は、head-to-tail型発現カセット多量体として組み換え宿主細胞のゲノムに配置される。
【0048】
本明細書で提供されるような少なくとも2つの別個の分泌シグナルの使用により、高分泌収量の組み換えタンパク質が提供される。従って、種々の実施形態では、組み換え宿主細胞は、組み換え宿主細胞により産生される組み換えタンパク質の総収量の少なくとも1重量%、少なくとも5重量%、少なくとも10重量%、少なくとも20重量%、もしくは少なくとも30重量%;1重量%~100重量%、~90重量%、~80重量%、~70重量%、~60重量%、~50重量%、~40重量%、~30重量%、~20重量%、もしくは10重量%;10重量%~100重量%、~90重量%、~80重量%、~70重量%、~60重量%、~50重量%、~40重量%、~30重量%、もしくは~20重量%;20重量%~100重量%、~90重量%、~80重量%、~70重量%、~60重量%、~50重量%、~40重量%、もしくは~30重量%;30重量%~100重量%、~90重量%、~80重量%、~70重量%、~60重量%、~50重量%、もしくは~40重量%;40重量%~100重量%、~90重量%、~80重量%、~70重量%、~60重量%、もしくは~50重量%;50重量%~100重量%、~90重量%、~80重量%、~70重量%、もしくは~60重量%;60重量%~100重量%、~90重量%、~80重量%、もしくは~70重量%;70重量%~100重量%、~90重量%、もしくは~80重量%;80重量%~100重量%、もしくは~90重量%;または90重量%~100重量%の分泌収量である組み換えタンパク質を産生する。産生されたタンパク質の識別は、HPLC定量、ウェスタンブロット分析、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、及び2次元質量分析法(2D-MS/MS)配列同定により確認することができる。
【0049】
組み換えタンパク質
本明細書で提供される組み換え宿主細胞に含まれる少なくとも2つのポリヌクレオチド配列によりコードされる組み換えタンパク質は、任意のタンパク質であってよい。
【0050】
一部の実施形態では、組み換えタンパク質は、シルクまたはシルク様タンパク質である。そのようなシルクまたはシルク様タンパク質は、広範囲の全長もしくは切断型天然シルクタンパク質、または広範囲の全長もしくは切断型天然シルクタンパク質の機能的変異体から選択するか、あるいは、天然シルクタンパク質またはシルクタンパク質の機能的変異体のドメインを含むことができる。推定上の天然シルクタンパク質は、適切な語(例えば、カイコシルク、クモシルク、スピドロイン、フィブロイン、MaSp)に関し配列データベース(例えば、GenBank)を検索して、任意のヌクレオチド配列をアミノ酸配列に翻訳することにより同定することができる。
【0051】
一部の実施形態では、シルクまたはシルクもしくはシルク様タンパク質は、カイコの全長もしくは切断型天然シルクタンパク質、またはカイコの全長もしくは切断型天然シルクタンパク質の機能的変異体であるか、あるいは、カイコの天然シルクタンパク質または天然シルクタンパク質の機能的変異体のドメインを含む。一部のそのような実施形態では、カイコは、Bombyx moriである。
【0052】
一部の実施形態では、シルクまたはシルクもしくはシルク様タンパク質は、クモの全長もしくは切断型天然シルクタンパク質、またはクモの全長もしくは切断型天然シルクタンパク質の機能的変異体であるか、あるいは、クモの天然シルクタンパク質または天然シルクタンパク質の機能的変異体のドメインを含む。一部の実施形態では、天然シルクタンパク質は、ナガコガネグモの大瓶状クモフィブロイン(MaSp、ドラグラインとも呼ばれる;例えば、MaSp1、MaSp2)シルクタンパク質、小瓶状クモフィブロイン(MiSp)シルクタンパク質、鞭毛状クモフィブロイン(Flag)シルクタンパク質、ブドウ状クモフィブロイン(AcSp)シルクタンパク質、小管状クモフィブロイン(TuSp)シルクタンパク質、及び梨状クモフィブロイン(PySp)シルクタンパク質からなる群より選択される。一部の実施形態では、クモは、アゲレノプシス・アペルタ(Agelenopsis aperta)、アリアチプス・グロサス(Aliatypus gulosus)、アフォノペルマ・シーマニー(Aphonopelma seemanni)、アプトスチチュス種(Aptostichus sp.)AS217、アプトスチチュス種AS220、アラネウス・ディアデマツス(Araneus diadematus)、アラネウス・ゲムモイデス(Araneus gemmoides)、アラネウス・ヴェントリコサス(Araneus ventricosus)、アルギオペ・アモエナ(Argiope amoena)、アルギオペ・アルゲンタタ(Argiope argentata)、ナガコガネグモ(Argiope bruennichi)、アルギオペ・トリファスシアタ(Argiope trifasciata)、アチポイデス・リヴェルシ(Atypoides riversi)、アヴィキュラリア・ジュルエンシス(Avicularia juruensis)、ボスリオシルツム・カリフォルニカム(Bothriocyrtum californicum)、デイノピス・スピノサ(Deinopis Spinosa)、ディグエチア・カニチエス(Diguetia canities)、ドロメデス・テネブロサス(Dolomedes tenebrosus)、エウアグルス・キソセウス(Euagrus chisoseus)、エウプロスセノプス・オーストラリス(Euprosthenops australis)、ガステラキャンタ・マンモサ(Gasteracantha mammosa)、ヒポキルス・トレルリ(Hypochilus thorelli)、ククルカニア・ヒベルナリス(Kukulcania hibernalis)、ラトロデクツス・ヘスペルス(Latrodectus hesperus)、メガヘクスラ・フルヴァ(Megahexura fulva)、メテペイラ・グランディオサ(Metepeira grandiosa)、ネフィラ・アンチポディアナ(Nephila antipodiana)、ネフィラ・クラヴァタ(Nephila clavata)、ネフィラ・クラヴィペス(Nephila clavipes)、ネフィラ・マダガスカリエンシス(Nephila madagascariensis)、ネフィラ・ピリペス(Nephila pilipes)、ネフィレンギス・クルエンタタ(Nephilengys cruentata)、パラウィキシア・ビストリアタ(Parawixia bistriata)、ペウセチア・ヴィリダンス(Peucetia viridans)、プレクトレウリス・トリスチス(Plectreurys tristis)、ポエシロセリア・レガリス(Poecilotheria regalis)、テトラグナタ・カウアイエンシス(Tetragnatha kauaiensis)、またはウロボルス・ディヴェルサス(Uloborus diversus)からなる群より選択される。
【0053】
通常、シルクタンパク質は、3つのドメイン、すなわちN末端非反復ドメイン(NTD)、反復ドメイン(REP)、及びC末端非反復ドメイン(CTD)に分割することができる大きなタンパク質(150kDaを超える、1000アミノ酸を超える)である。REPは、少なくとも12アミノ酸長であり、完全に(「完全反復単位」)または不完全(「準反復単位」)のいずれかで繰り返され、且つ2~10アミノ酸長の配列モチーフを含むことができるアミノ酸配列のブロック(「反復単位」)を含む(
図1を参照のこと)。REPは通常、天然のクモシルクタンパク質の約90%を占め、理論に拘束されることを望むものではないが、それぞれクモシルク繊維に強度及び柔軟性を与えると考えられているアラニンリッチのナノ結晶(10nm未満)ドメイン(交互のβシートで構成される可能性が高い)及びグリシンリッチの非晶質ドメイン(αヘリックス及び/またはβターンを含有する可能性がある)に組み立てられる。REPの長さ及び組成は、異なるクモシルクタンパク質間で、及び異なるクモ種にわたって変動することが知られており、特定の特性を有する広範囲のシルク繊維を生じさせる。
【0054】
一部の実施形態では、シルクまたはシルク様タンパク質は、1つ以上(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8)の天然REPまたは天然REPの機能的変異体、NTDの0以上(例えば、0、1)の天然または機能的変異体、及び0以上(例えば、0、1)の天然CTDまたは天然CTDの機能的変異体を含む。一部の実施形態では、シルクまたはシルク様タンパク質は、それぞれが75~350のアミノ酸を含む1つ以上のNTDを含む。一部の実施形態では、シルクまたはシルクもしくはシルク様タンパク質は、それぞれ75~350のアミノ酸を含む1つ以上のCTDを含む。一部の実施形態では、シルクまたはシルクもしくはシルク様タンパク質は、それぞれが60を超える、100を超える、150を超える、200を超える、250を超える、300を超える、350を超える、400を超える、450を超える、500を超える、600を超える、700を超える、800を超える、900を超える、1000を超える、1250を超える、1500を超える、1750を超える、もしくは2000を超える;60~2000、~1750、~1500、~1250、~1000、~900、~800、~700、~600、~500、~450、~400、~350、~300、~250、~200、~150、もしくは~100;100~2000、~1750、~1500、~1250、~1000、~900、~800、~700、~600、~500、~450、~400、~350、~300、~250、~200、もしくは~150;150~2000、~1750、~1500、~1250、~1000、~900、~800、~700、~600、~500、~450、~400、~350、~300、~250、もしくは~200;200~2000、~1750、~1500、~1250、~1000、~900、~800、~700、~600、~500、~450、~400、~350、~300、もしくは~250;250~2000、~1750、~1500、~1250、~1000、~900、~800、~700、~600、~500、~450、~400、~350、もしくは~300;300~2000、~1750、~1500、~1250、~1000、~900、~800、~700、~600、~500、~450、~400、もしくは~350;350~2000、~1750、~1500、~1250、~1000、~900、~800、~700、~600、~500、~450、もしくは~400;400~2000、~1750、~1500、~1250、~1000、~900、~800、~700、~600、~500、もしくは~450;450~2000、~1750、~1500、~1250、~1000、~900、~800、~700、~600、もしくは~500;500~2000、~1750、~1500、~1250、~1000、~900、~800、~700、もしくは~600;600~2000、~1750、~1500、~1250、~1000、~900、~800、もしくは~700;700~2000、~1750、~1500、~1250、~1000、~900、もしくは~800;800~2000、~1750、~1500、~1250、~1000、もしくは~900;900~2000、~1750、~1500、~1250、もしくは~1000;1000~2000、~1750、~1500、もしくは~1250;1250~2000、~1750、もしくは~1500;1500~2000、もしくは~1750;または1750~2000アミノ酸残基を含む反復単位を含む1つ以上のREPを含む。
【0055】
一部の実施形態では、シルクまたはシルクもしくはシルク様タンパク質は、それぞれが、5kDaを超える、10kDaを超える、20kDaを超える、30kDaを超える、40kDaを超える、50kDaを超える、60kDaを超える、70kDaを超える、80kDaを超える、もしくは90kDaを超える;5kDa~100kDa、~90kDa、~80kDa、~70kDa、~60kDa、~50kDa、~40kDa、~30kDa、~20kDa、もしくは~10kDa;10kDa~100kDa、~90kDa、~80kDa、~70kDa、~60kDa、~50kDa、~40kDa、~30kDa、もしくは~20kDa;20kDa~100kDa、~90kDa、~80kDa、~70kDa、~60kDa、~50kDa、~40kDa、もしくは~30kDa;30kDa~100kDa、~90kDa、~80kDa、~70kDa、~60kDa、~50kDa、もしくは~40kDa;40kDa~100kDa、~90kDa、~80kDa、~70kDa、~60kDa、もしくは~50kDa;50kDa~100kDa、~90kDa、~80kDa、~70kDa、もしくは~60kDa;60kDa~100kDa、~90kDa、~80kDa、もしくは~70kDa;70kDa~100kDa、~90kDa、もしくは~80kDa;80kDa~100kDa、もしくは~90kDa;または90kDa~100kDaの分子量を有する、2を超える、4を超える、6を超える、8を超える、10を超える、12を超える、14を超える、16を超える、18を超える、20を超える、22を超える、24を超える、26を超える、28を超える、または30を超える;2~30、~28、~26、~24、~22、~20、~18、~16、~14、~12、~10、~8、~6、または~4;4~30、~28、~26、~24、~22、~20、~18、~16、~14、~12、~10、~8、または~6;6~30、~28、~26、~24、~22、~20、~18、~16、~14、~12、~10、または~8;8~30、~28、~26、~24、~22、~20、~18、~16、~14、~12、または~10;10~30、~28、~26、~24、~22、~20、~18、~16、~14、または~12;12~30、~28、~26、~24、~22、~20、~18、~16、または~14;14~30、~28、~26、~24、~22、~20、~18、または~16;16~30、~28、~26、~24、~22、~20、または~18;18~30、~28、~26、~24、~22、または~20;20~30、~28、~26、~24、または~22;22~30、~28、~26、または~24;24~30、~28、または~26;26~30、または~28;28~30の完全反復及び/または準反復単位を含む。一部のそのような実施形態では、シルクまたはシルクもしくはシルク様タンパク質内の2つ以上の完全反復または準反復単位の順序は天然のものではない。
【0056】
一部の実施形態では、シルクまたはシルクもしくはシルク様タンパク質は、1を超える、2を超える、4を超える、6を超える、8を超える、10を超える、15を超える、20を超える、もしくは25を超える;1~30、~25、~20、~15、~10、~8、~6、~4、もしくは~2;2~30、~25、~20、~15、~10、~8、~6、もしくは~4;4~30、~25、~20、~15、~10、~8、もしくは~6;6~30、~25、~20、~15、~10、もしくは~8;8~30、~25、~20、~15、もしくは~10;10~30、~25、~20、もしくは~15;15~30、~25、もしくは~20;20~30、もしくは~25;または25~30の、グリシンリッチの完全反復及び/または準反復単位を含む。一部のそのような実施形態では、グリシンリッチの完全反復及び/または準反復単位のうちの1つ以上は、30%を超える、40%を超える、45%を超える、50%を超える、55%を超える、60%を超える、70%を超える、もしくは80%を超える;30%~100%、~90%、~80%、~70%、~60%、~55%、~50%、~45%、もしくは~40%;40%~100%、~90%、~80%、~70%、~60%、~55%、~50%、もしくは~45%;45%~100%、~90%、~80%、~70%、~60%、~55%、もしくは~50%;50%~100%、~90%、~80%、~70%、~60%、もしくは~55%;55%~100%、~90%、~80%、~70%、もしくは~60%;60%~100%、~90%、~80%、もしくは~70%;70%~100%、~90%、もしくは~80%;80%~100%、もしくは~90%;または90%~100%のグリシンである、4を超える、6を超える、8を超える、10を超える、12を超える、15を超える、18を超える、20を超える、25を超える、30を超える、40を超える、50を超える、60を超える、70を超える、80を超える、90を超える、100を超える、もしくは150を超える;4~200、~150、~100、~90、~80、~70、~60、~50、~40、~30、~25、~20、~18、~15、~12、~10、~8、もしくは~6;6~200、~150、~100、~90、~80、~70、~60、~50、~40、~30、~25、~20、~18、~15、~12、~10、もしくは~8;8~200、~150、~100、~90、~80、~70、~60、~50、~40、~30、~25、~20、~18、~15、~12、もしくは~10;10~200、~150、~100、~90、~80、~70、~60、~50、~40、~30、~25、~20、~18、~15、もしくは~12;12~200、~150、~100、~90、~80、~70、~60、~50、~40、~30、~25、~20、~18、もしくは~15;15~200、~150、~100、~90、~80、~70、~60、~50、~40、~30、~25、~20、もしくは~18;18~200、~150、~100、~90、~80、~70、~60、~50、~40、~30、~25、もしくは~20;20~200、~150、~100、~90、~80、~70、~60、~50、~40、~30、もしくは~25;25~200、~150、~100、~90、~80、~70、~60、~50、~40、もしくは~30;30~200、~150、~100、~90、~80、~70、~60、~50、もしくは~40;40~200、~150、~100、~90、~80、~70、~60、もしくは~50;50~200、~150、~100、~90、~80、~70、もしくは~60;60~200、~150、~100、~90、~80、もしくは~70;70~200、~150、~100、~90、もしくは~80;80~200、~150、~100、もしくは~90;90~200、~150、もしくは~100;100~200、もしくは~150;または150~200の連続したアミノ酸を含む。
【0057】
一部の実施形態では、シルクまたはシルクもしくはシルク様タンパク質は、1を超える、2を超える、4を超える、6を超える、8を超える、10を超える、15を超える、20を超える、もしくは25を超える;1~30、~25、~20、~15、~10、~8、~6、~4、もしくは~2;2~30、~25、~20、~15、~10、~8、~6、もしくは~4;4~30、~25、~20、~15、~10、~8、もしくは~6;6~30、~25、~20、~15、~10、もしくは~8;8~30、~25、~20、~15、もしくは~10;10~30、~25、~20、もしくは~15;15~30、~25、もしくは~20;20~30、もしくは~25;または25~30の、アラニンリッチの完全反復及び/または準反復単位を含む。一部のそのような実施形態では、アラニンリッチの完全反復及び/または準反復単位のうちの1つ以上は、70%を超える、75%を超える、80%を超える、85%を超える、もしくは90%を超える;70%~100%、~90%、~85%、~80%、もしくは~75%;75%~100%、~90%、~85%、もしくは~80%;80%~100%、~90%、もしくは~85%;85%~100%、もしくは~90%;または90%~100%のアラニンである、4を超える、6を超える、8を超える、10を超える、12を超える、15を超える、もしくは18を超える;4~20、~18、~15、~12、~10、~8、もしくは~6;6~20、~18、~15、~12、~10、もしくは~8;8~20、~18、~15、~12、もしくは~10;10~18、~15、もしくは~12;12~20、~18、もしくは~15;15~20、もしくは~18;または18~20の連続アミノ酸を含む。
【0058】
一部の実施形態では、シルクまたはシルクもしくはシルク様タンパク質は、20~100アミノ酸長であり、且つ4~20アミノ酸長であるポリアラニンリッチ領域と連結されている1つ以上のグリシンリッチ完全反復及び/または準反復単位を含む。一部の実施形態では、シルクまたはシルクもしくはシルク様タンパク質は、5~25%のポリアラニン領域(4~20ポリアラニン残基)を含む。一部の実施形態では、シルクまたはシルクもしくはシルク様タンパク質は、25~50%のグリシンを含む。一部の実施形態では、シルクまたはシルクもしくはシルク様タンパク質は、15~35%のGGXを含み、Xは、任意のアミノ酸である。一部の実施形態では、シルクまたはシルクもしくはシルク様タンパク質は、15~60%のGPGを含む。一部の実施形態では、シルクまたはシルクもしくはシルク様タンパク質は、10~40%のアラニンを含む。一部の実施形態では、シルクまたはシルクもしくはシルク様タンパク質は、0~20%のプロリンを含む。一部の実施形態では、シルクまたはシルクもしくはシルク様タンパク質は、10~50%のβターンを含む。一部の実施形態では、シルクまたはシルクもしくはシルク様タンパク質は、10~50%のαヘリックス組成を含む。一部の実施形態では、これらの組成範囲の全ては、同じシルクまたはシルクもしくはシルク様タンパク質に適用される。一部の実施形態では、これらの組成範囲の2つ以上が、同じシルクまたはシルクもしくはシルク様タンパク質に適用される。
【0059】
一部の実施形態では、シルクまたはシルクもしくはシルク様タンパク質の構造は、βシート構造、βターン構造、またはαヘリックス構造を形成する。一部の実施形態では、シルクまたはシルクもしくはシルク様タンパク質の2次、3次、及び4次構造は、ナノ結晶βシート領域、非晶質βターン領域、非晶質αヘリックス領域、非結晶マトリックスに埋め込まれているランダムに空間的に分布したナノ結晶領域、または非結晶マトリックスに埋め込まれているランダムに配向したナノ結晶領域を有する。一部の実施形態では、シルクまたはシルクもしくはシルク様タンパク質は、高度に結晶性である。他の実施形態では、シルクまたはシルクもしくはシルク様タンパク質は、高度に非晶質である。一部の実施形態では、シルクまたはシルクもしくはシルク様タンパク質は、結晶領域及び非晶質領域の双方を含む。一部の実施形態では、シルクまたはシルクもしくはシルク様タンパク質は、体積比で10%~40%の結晶質を含む。
【0060】
一部の実施形態では、シルクまたはシルクもしくはシルク様タンパク質は、天然クモシルクタンパク質の反復単位と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有する1つ以上の完全反復または準反復単位を含む。一部の実施形態では、シルクまたはシルクもしくはシルク様タンパク質は、天然クモドラグラインシルクタンパク質の反復単位と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有する1つ以上の完全反復または準反復単位を含む。一部の実施形態では、シルクまたはシルクもしくはシルク様タンパク質は、天然MAドラグラインシルクタンパク質の反復単位と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有する1つ以上の完全反復または準反復単位を含む。一部の実施形態では、シルクまたはシルクもしくはシルク様タンパク質は、天然MaSp2ドラグラインシルクタンパク質の反復単位と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有する1つ以上の完全反復または準反復単位を含む。
【0061】
一部の実施形態では、シルクまたはシルクもしくはシルク様タンパク質は、1つ以上の準反復単位を含み、各準反復単位のアミノ酸配列は、式1により記載され、X1のアミノ酸配列(「モチーフ」と称される)は、式2により記載され、各準反復単位内でランダムに変動し得る。配列[GPG-X1]n1は、「第1の領域」と呼ばれ、グリシンリッチである。配列(A)n2は、「第2の領域」と呼ばれ、アラニンリッチである。一部の実施形態では、n1の値は、4、5、6、7、または8のいずれか1つである。一部の実施形態では、n2の値は、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20のいずれか1つである。一部の実施形態では、n3の値は、2~20のいずれか1つである。一部の実施形態では、シルクまたはシルクもしくはシルク様タンパク質は、式1及び2で記載される準反復単位と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有する準反復単位のうちの1つ以上を含む。
{GGY-[GPG-X1]n1-GPS-(A)n2}n3(式1)
X1=SGGQQまたはGAGQQまたはGQGPYまたはAGQQまたはSQ(式2)
【0062】
一部の実施形態では、シルクまたはシルクもしくはシルク様タンパク質は、式1及び式2で記載される準反復単位を含み、n1は、準反復単位の少なくとも半分について、4または5である。一部の実施形態では、シルクまたはシルクもしくはシルク様タンパク質は、式1及び式2で記載される準反復単位を含み、n2は、準反復単位の少なくとも半分について、5~8である。
【0063】
本明細書で使用される「短い準反復単位」という用語は、n1が4または5である反復単位を指す(式1に示される通り)。本明細書で使用される「長い準反復単位」という用語は、n1が6、7、または8である反復を指す(式1に示される通り)。一部の実施形態では、n1は、準反復単位の少なくとも半分について、4~5である。一部の実施形態では、n2は、準反復単位の少なくとも半分について、5~8である。一部の実施形態では、シルクまたはシルクもしくはシルク様タンパク質は、3つの「長い準反復単位」、続いて、3つの「短い準反復単位」を含む。一部の実施形態では、シルクまたはシルクもしくはシルク様タンパク質は、単一の準反復内で、連続して2回を超えて、または2回を超えて、同じX1モチーフを有さない準反復単位を含む。一部の実施形態では、シルクまたはシルクもしくはシルク様タンパク質は、同じ場所に同じX1モチーフを含む準反復単位を含む。一部の実施形態では、シルクまたはシルクもしくはシルク様タンパク質は、同じ場所に同じ式2の配列を含む準反復単位を含む。一部の実施形態では、シルクまたはシルクもしくはシルク様タンパク質は、準反復単位を含み、6つのうち3つ以下の準反復単位が同じX1を共有することはない。
【0064】
一部の実施形態では、シルクまたはシルクもしくはシルク様タンパク質は、Xqr準反復単位を含み、
Xqr=Xsqr+Xlqr(式3)、
(式中、Xqrは、2~20の数であり、Xsqrは、短い準反復の数及び1~(Xqr-1)の数であり、Xlqrは、長い準反復の数及び1~(Xqr-1)の数である)である。一部の実施形態では、Xqrは、2~20の数である。反復単位のアミノ酸配列の非限定例が表3に示される。
【0065】
(表3)シルクまたはシルク様タンパク質の例示的な反復単位
【0066】
一部の実施形態では、シルクまたはシルクもしくはシルク様タンパク質は、配列番号13を含む1つ以上の反復単位を含む。この反復単位は、6つの準反復単位を含有する。準反復単位は、約50kDal~約1,000kDalのポリペプチド分子を形成するように、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20回連結させることができる。この反復単位は、ナノ結晶領域に関連するポリアラニン領域、及び、結晶性が低い領域を含有するβターンに関連するグリシンリッチ領域も含有する。
【0067】
追加の好適なシルクまたはシルクもしくはシルク様タンパク質の非限定例は、例えば、2016年12月15日に公表された国際特許公報第WO/2016/201369号、2016年9月14日に出願された米国特許出願第62/394,683号、2017年9月14日に出願された米国特許出願第15/705,185号、2016年8月4日に公表された米国特許公報第US20160222174号、2016年3月16日に公表された国際特許公報第WO2016/149414号、2014年1月5日に公表された国際特許公報第WO2014/066374号、及び2015年3月26日に公表された国際特許公報第WO2015/042164号で提供され、これらのそれぞれは、全体が本明細書で参照により組み込まれる。
【0068】
通常は、組み換えタンパク質の分泌シグナルとの作動可能な連結は、組み換えタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列の開始コドンの除去が必要である。
【0069】
他の構成成分
一部の実施形態では、組み換え宿主細胞に含まれるポリヌクレオチド配列のうちの少なくとも1つはさらに、タンパク質のC末端に作動可能に連結されているタグペプチドまたはポリペプチドをコードする。そのようなタグペプチドまたはポリペプチドは、組み換えタンパク質の精製に役立ち得る。タグペプチドまたはポリペプチドの非限定例としては、アフィニティータグ(すなわち、ある特定の薬剤またはマトリックスに結合するペプチドまたはポリペプチド)、可溶化タグ(すなわち、タンパク質の適切なフォールディングを助け、沈殿を防ぐペプチドまたはポリペプチド)、クロマトグラフィータグ(すなわち、特定の分離技術に対して異なる解像度を得るために、タンパク質のクロマトグラフィー特性を変更するペプチドまたはポリペプチド)、エピトープタグ(すなわち、抗体により結合されるペプチドまたはポリペプチド)、蛍光タグ、発色タグ、酵素基質タグ(すなわち、特定の酵素反応の基質であるペプチドまたはポリペプチド)、化学基質タグ(すなわち、具体的な化学修飾の基質であるペプチドまたはポリペプチド)、またはそれらの組み合わせが挙げられる。好適なアフィニティータグの非限定例としては、マルトース結合タンパク質(MBP)、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、ポリ(His)タグ、SBPタグ、Strepタグ、及びカルモジュリンタグが挙げられる。好適な溶解度タグの非限定例としては、チオレドキシン(TRX)、ポリ(NANP)、MBP、及びGSTが挙げられる。クロマトグラフィータグの非限定例としては、ポリアニオン性アミノ酸(例えば、FLAGタグ)及びポリグルタミン酸タグが挙げられる。エピトープタグの非限定例としては、V5タグ、VSVタグ、Mycタグ、HAタグ、Eタグ、NEタグ、Haタグ、Mycタグ、及びFLAGタグが挙げられる。蛍光タグの非限定例としては、緑色蛍光タンパク質(GFP)、青色蛍光タンパク質(BFP)、シアン色蛍光タンパク質(CFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、橙赤色蛍光タンパク質(OFP)、赤色蛍光タンパク質(RFP)、及びそれらの誘導体が挙げられる。酵素基質タグの非限定例としては、ビオチン化に適する配列内にリジンを含むペプチドまたはポリペプチドが挙げられる(例えば、AviTag、ビオチンカルボキシルキャリアタンパク質[BCCP])。化学基質タグの非限定例としては、FIAsH-EDT2との反応に適する基質が挙げられる。C末端タグの組み換えタンパク質とのペプチドまたはポリペプチドの融合は、(例えば、TEVプロテアーゼ、トロンビン、第Xa因子、またはエンテロペプチダーゼにより)切断可能であるか、または切断不可能であり得る。
【0070】
一部の実施形態では、組み換え宿主細胞に含まれるポリヌクレオチド配列のうちの少なくとも1つはさらに、組み換えタンパク質及び分泌シグナルの間に作動可能に連結されているリンカーペプチドをコードする。リンカーペプチドは、種々のサイズを有し得る。一部のそのような実施形態では、リンカーペプチドをコードするポリヌクレオチド配列は、他のポリヌクレオチド配列の置換または付加を可能にする制限酵素部位を含む。
【0071】
一部の実施形態では、組み換え宿主細胞に含まれる組み換えタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列は、プロモーターに、それらがポリヌクレオチド配列の転写を駆動するように作動可能に連結されている。プロモーターは、構成的プロモーターまたは誘導性プロモーターであってよい。誘導は、例えば、グルコース抑制、ガラクトース誘導、スクロース誘導、リン酸抑制、チアミン抑制、またはメタノール誘導を介して生じ得る。好適なプロモーターは、本明細書で提供される組み換え宿主細胞におけるタンパク質の発現を媒介するプロモーターである。好適なプロモーターの非限定例としては、ピキア・パストリスのアルコールオキシダーゼ(AOX1)プロモーター(pAOX1)、ピキア・パストリスのグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAP)プロモーター(pGAP)、YPT1プロモーター、サッカロミセス・セレビシエの3-ホスホグリセリン酸キナーゼ1(PGK1)プロモーター(pPKG1)、SSA4プロモーター、HSP82プロモーター、GPM1プロモーター、KAR2プロモーター、ピキア・パストリスのトリオースリン酸イソメラーゼ1(TPI1)プロモーター(pTPI1)、ピキア・パストリスのエノラーゼ1(ENO1)プロモーター(pENO1)、PET9プロモーター、PEX8(PER3)プロモーター、AOX2プロモーター、AODプロモーター、THI11プロモーター、DASプロモーター、FLD1プロモーター、PHO89プロモーター、CUP1プロモーター、GTH1プロモーター、ICL1プロモーター、TEF1プロモーター、LAC4-PBIプロモーター、T7プロモーター、TACプロモーター、GCW14プロモーター、GAL1プロモーター、λPLプロモーター、λPRプロモーター、β-ラクタマーゼプロモーター、spaプロモーター、CYC1プロモーター、TDH3プロモーター、GPDプロモーター、サッカロミセス・セレビシエの翻訳開始因子1(TEF1)プロモーター、ENO2プロモーター、PGL1プロモーター、GAPプロモーター、SUC2プロモーター、ADH1プロモーター、ADH2プロモーター、HXT7プロモーター、PHO5プロモーター、及びCLB1プロモーターが挙げられる。使用することができる追加のプロモーターは、当該技術分野で既知である。
【0072】
一部の実施形態では、組み換え宿主細胞に含まれる組み換えタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列は、ターミネーターに、それらが組み換えポリヌクレオチド配列の転写の終結をもたらすように作動可能に連結されている。好適なターミネーターは、本明細書で提供される組み換え宿主細胞の転写を終結させるターミネーターである。好適なターミネーターの非限定例としては、ピキア・パストリスのAOX1ターミネーター(tAOX1)、PGK1ターミネーター、及びTPS1ターミネーターが挙げられる。追加のターミネーターは、当該技術分野で既知である。
【0073】
組み換え宿主細胞に含まれる組み換えタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列は、同じプロモーター及び/もしくはターミネーター、または少なくとも2つの異なるプロモーター及び/もしくはターミネーターに作動可能に連結させることができる。
【0074】
一部の実施形態では、組み換え宿主細胞に含まれる組み換えタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列はさらに、選択マーカー(例えば、抗生物質耐性遺伝子、栄養要求性マーカー)を含む。選択マーカーは、当該技術分野で既知である。一部の実施形態では、選択マーカーは、薬剤耐性マーカーである。薬剤耐性マーカーは、細胞が、それがなければ細胞を死滅させる外因的に添加された薬剤を解毒することを可能にする。薬剤耐性マーカーの例示的例としては、アンピシリン、テトラサイクリン、カナマイシン、ブレオマイシン、ストレプトマイシン、ハイグロマイシン、ネオマイシン、Zeocin(商標)などの抗生物質への耐性に対するものが挙げられるが、これらに限定されない。他の実施形態では、選択マーカーは、栄養要求性マーカーである。栄養要求性マーカーは、細胞が、必須構成成分(通常はアミノ酸)を欠く培地中で成長しながら必須構成成分を合成することを可能にする。選択可能な栄養要求性マーカーは、例えば、ヒスチジノールの存在下でヒスチジン不含培地中での成長を可能にするhisDを含む。他の選択マーカーとしては、ブレオマイシン耐性遺伝子、メタロチオネイン遺伝子、ハイグロマイシンB-ホスホトランスフェラーゼ遺伝子、AURI遺伝子、アデノシンデアミナーゼ遺伝子、アミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ遺伝子、ジヒドロ葉酸レダクターゼ遺伝子、チミジンキナーゼ遺伝子、及びキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子が挙げられる。
【0075】
宿主細胞
組み換え宿主細胞は、哺乳動物、植物、藻類、真菌、または微生物のものとし得る。好適な真菌の非限定例としては、メチロトローフ酵母、糸状酵母、アークスラ・アデニニボランス(Arxula adeninivorans)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・ニガー 変種アワモリ(Aspergillus niger var.awamori)、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、カンジダ・エチェルシー(Candida etchellsii)、カンジダ・ギリエルモンディ(Candida guilliermondii)、カンジダ・フミリス(Candida humilis)、カンジダ・リポリティカ(Candida lipolytica)、カンジダ・プソイドトロピカリス(Candida pseudotropicalis)、カンジダ・ユチリス(Candida utilis)、カンジダ・バーサチルス(Candida versatilis)、デバリオミセス・ハンゼニイ(Debaryomyces hansenii)、エンドティア・パラシティカ(Endothia parasitica)、エレモテシウム・アシュビイ(Eremothecium ashbyii)、フサリウム・モニリフォルメ(Fusarium moniliforme)、ハンゼヌラ・ポリモルファ、クライベロミセス・ラクチス、クライベロミセス・マルシアヌス(Kluyveromyces marxianus)、クライベロミセス・サーモトレランス(Kluyveromyces thermotolerans)、モルティエレラ・ヴィナセア 変種ラフィノースウチライザ(Morteirella vinaceae var.raffinoseutilizer)、ムコール・ミエヘイ(Mucor miehei)、ムコール・ミエヘイ 変種コーニーエトエマルソン(Mucor miehei var.Cooney et Emerson)、ムコール・プシルス・リント(Mucor pusillus Lindt)、ペニシリウム・ロックフォルティ(Penicillium roqueforti)、ピキア・メタノリカ(Pichia methanolica)、ピキア(コマガタエラ)・パストリス(Pichia(Komagataella)pastoris)、ピキア(シェフェルソミセス)・スティピティス(Pichia(Scheffersomyces)stipitis)、リゾプス・ニベウス(Rhizopus niveus)、ロドトルラ属(Rhodotorula sp.)、サッカロミセス・バヤヌス(Saccharomyces bayanus)、サッカロミセス・ベティカス(Saccharomyces beticus)、サッカロミセス・セレビシエ、サッカロミセス・チェバリエリ(Saccharomyces chevalieri)、サッカロミセス・ディアスタティカス(Saccharomyces diastaticus)、サッカロミセス・エリプソイデウス(Saccharomyces ellipsoideus)、サッカロミセス・イグジグース(Saccharomyces exiguus)、サッカロミセス・フロレンチヌス(Saccharomyces florentinus)、サッカロミセス・フラギリス(Saccharomyces fragilis)、サッカロミセス・パストリアヌス(Saccharomyces pastorianus)、サッカロミセス・ポンべ(Saccharomyces pombe)、サッカロミセス・サケ(Saccharomyces sake)、サッカロミセス・ウバルム(Saccharomyces uvarum)、スポリディオボラス・ジョンソニイ(Sporidiobolus johnsonii)、スポリディオボラス・サルモニカラー(Sporidiobolus salmonicolor)、スポロボロミセス・ロゼウス(Sporobolomyces roseus)、トリコデルマ・リーセイ(Trichoderma reesi)、キサントフィロミセス・デンドロロウス(Xanthophyllomyces dendrorhous)、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)、チゴサッカロミセス・ルーキシィ(Zygosaccharomyces rouxii)、ならびにその誘導体及び交雑種が挙げられる。
【0076】
好適な微生物の非限定例としては、アセトバクター・サブオキシダンス(Acetobacter suboxydans)、アセトバクター・キシリナム(Acetobacter xylinum)、アクチノプラネス・ミズリエンシス(Actinoplane missouriensis)、アルスロスピラ・プラテンシス(Arthrospira platensis)、アルスロスピラ・マキシマ(Arthrospira maxima)、バチルス・セレウス(Bacillus cereus)、バチルス・コアグランス(Bacillus coagulans)、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)、バチルス・ステアロサーモフィルス(Bacillus stearothermophilus)、枯草菌(Bacillus subtilis)、大腸菌(Escherichia coli)、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・ブルガリクス(Lactobacillus bulgaricus)、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)、ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)、ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)ランスフィールドN群、サイトロボラム乳酸菌(Leuconostoc citrovorum)、ロイコノストック・デキストラニカム(Leuconostoc dextranicum)、ロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)NRRL B-512(F)株、ミクロコッカス・リゾディクティクス(Micrococcus lysodeikticus)、スピルリナ、ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)、ストレプトコッカス・ラクチス(Streptococcus lactis)、ストレプトコッカス・ラクチス(Streptococcus lactis)亜種ジアセチラクチス(diacetylactis)、レンサ球菌、ストレプトミセス・チャタノオゲンシス(Streptomyces chattanoogensis)、ストレプトミセス・グリセウス(Streptomyces griseus)、ストレプトミセス・ナタレンシス(Streptomyces natalensis)、ストレプトミセス・オリバセウス(Streptomyces olivaceus)、ストレプトミセス・オリボクロモゲネス(Streptomyces olivochromogenes)、ストレプトミセス・ルビギノサス(Streptomyces rubiginosus)、ザントモナス・カンペストリス(Xanthomonas campestris)、ならびにそれらの誘導体及び交雑種が挙げられる。
【0077】
組み換え宿主細胞として使用することができる追加の株は、当該技術分野で既知である。「組み換え宿主細胞」という用語は、特定の対象細胞だけでなく、そのような細胞の子孫も指すものであると理解すべきである。あう特定の変更が、変異または環境の影響のいずれかにより、後続の世代で生じ得るので、そのような子孫は、実際には、親細胞と同一ではないことがあるが、依然として、本明細書で使用されるような「組み換え宿主細胞」という用語の範囲内に含まれている。
【0078】
発酵
本明細書で提供される発酵は、本明細書で提供される組み換え宿主細胞、及び組み換え宿主細胞を成長させるのに適する培養培地を含む。発酵は、細胞の生存及び/または成長のために組み換え宿主細胞に必要な栄養素を提供する培養培地中で組み換え宿主細胞を培養することにより得られる。そのような培養培地は通常、過剰な炭素源を含有する。好適な炭素源の非限定例としては、単糖類、二糖類、多糖類、アルコール、及びそれらの組み合わせが挙げられる。好適な単糖類の非限定例としては、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、リボース、及びそれらの組み合わせが挙げられる。好適な二糖類の非限定例としては、スクロース、ラクトース、マルトース、テハロース、セロビオース、及びそれらの組み合わせが挙げられる。好適な多糖類の非限定例としては、ラフィノース、デンプン、グリコーゲン、グリカン、セルロース、キチン、及びそれらの組み合わせが挙げられる。好適なアルコールの非限定例としては、メタノール及びグリコールが挙げられる。
【0079】
本明細書で提供されるような少なくとも2つの別個の分泌シグナルの使用により、組み換えタンパク質の高分泌収量が促進される。従って、種々の実施形態では、本明細書で提供される発酵は、分泌組み換えタンパク質として組み換え宿主細胞により産生される組み換えタンパク質の総収量の少なくとも1重量%、5重量%、10重量%、20重量%、もしくは30重量%;1重量%~100重量%、90重量%、80重量%、70重量%、60重量%、50重量%、40重量%、30重量%、20重量%、もしくは10重量%;10重量%~100重量%、90重量%、80重量%、70重量%、60重量%、50重量%、40重量%、30重量%、もしくは20重量%;20重量%~100重量%、90重量%、80重量%、70重量%、60重量%、50重量%、40重量%、もしくは30重量%;30重量%~100重量%、90重量%、80重量%、70重量%、60重量%、50重量%、もしくは40重量%;40重量%~100重量%、90重量%、80重量%、70重量%、60重量%、もしくは50重量%;50重量%~100重量%、90重量%、80重量%、70重量%、もしくは60重量%;60重量%~100重量%、90重量%、80重量%、もしくは70重量%;70重量%~100重量%、90重量%、もしくは80重量%;80重量%~100重量%、もしくは90重量%;または90重量%~100重量%を含む。一部の実施形態では、発酵の培養培地は、組み換え宿主細胞により産生される組み換えタンパク質を、少なくとも0.1g/L、少なくとも0.5g/L、少なくとも1g/L、少なくとも2g/L、少なくとも5g/L、少なくとも7g/L、少なくとも10g/L、少なくとも15g/L、もしくは少なくとも20g/L;0.1g/L~30g/L、~25g/L、~20g/L、~15g/L、~10g/L、~7g/L、~5g/L、~2g/L、~1g/L、もしくは~0.5g/L;0.5g/L~30g/L、~25g/L、~20g/L、~15g/L、~10g/L、~7g/L、~5g/L、~2g/L、もしくは~1g/L;1g/L~30g/L、~25g/L、~20g/L、~15g/L、~10g/L、~7g/L、~5g/L、もしくは~2g/L;2g/L~30g/L、~25g/L、~20g/L、~15g/L、~10g/L、~7g/L、もしくは~5g/L;5g/L~30g/L、~25g/L、~20g/L、~15g/L、~10g/L、もしくは~7g/L;7g/L~30g/L、~25g/L、~20g/L、~15g/L、もしくは~10g/L;10g/L~30g/L、~25g/L、~20g/L、もしくは~15g/L;15g/L~30g/L、~25g/L、もしくは~20g/L;20g/L~30g/L、もしくは~25g/L;または25g/L~30g/L含む。
【0080】
高分泌収量の組み換えタンパク質を産生する方法
高分泌収量の組み換えタンパク質を産生するための方法が、本明細書で提供される。方法は一般に、別途指示のない限り、本明細書を通して引用及び考察される当該技術分野で周知の且つ種々の一般的でより具体的な参考文献に記載されるような従来の方法に従って実施される。例えば、Sambrook et al.Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2d ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,1989;Ausubel et al.Current Protocols in Molecular Biology,Greene Publishing Associates,1992,and Supplements to 2002);Harlow and Lane,Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,1990;Taylor and Drickamer,Introduction to Glycobiology,Oxford Univ.Press,2003;Worthington Enzyme Manual,Worthington Biochemical Corp.,Freehold,N.J.;Handbook of Biochemistry:Section A Proteins,Vol I,CRC Press,1976;Handbook of Biochemistry:Section A Proteins,Vol II,CRC Press,1976;Essentials of Glycobiology,Cold Spring Harbor Laboratory Press,1999を参照のこと。
【0081】
本明細書で提供される方法は、本明細書で提供される発酵を得るのに適する条件下、培養培地中で、本明細書で提供される組み換え宿主細胞を培養するステップを含む(
図1のステップ1003)。これらの方法での使用に好適な培養培地は、当該技術分野で既知であり、好適な培養条件も同様である。酵母宿主細胞の培養の詳細は、例えば、Idiris et al.(2010)Appl.Microbiol.Biotechnol.86:403-417;Zhang et al.(2000)Biotechnol.Bioprocess.Eng.5:275-287;Zhu(2012)Biotechnol.Adv.30:1158-1170;及びLi et al.(2010)MAbs 2:466-477に記載されている。
【0082】
一部の実施形態では、方法はさらに、分泌シグナルに作動可能に連結されている組み換えタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を含む組み換えベクターを構築するステップを含む(
図1のステップ1001)。組み換えベクターを構築するための方法は、当該技術分野で既知である。一部の実施形態では、組み換えベクターは、合成により生成される。他の実施形態では、組み換えベクターは、生物、細胞、組織、またはプラスミド構築物から標準手順により単離またはPCR増幅される。一部の実施形態では、組み換えタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列は、特定の宿主細胞での発現のためにコドン最適化されている。
【0083】
一部の実施形態では、方法は、組み換えタンパク質の発現(例えば、ポリヌクレオチド配列の数及び/またはポリヌクレオチド配列に作動可能に連結されているプロモーターの強度を増加または低減させることによる)と組み換えタンパク質の分泌の効率(例えば、別個の分泌シグナル、または別個の分泌シグナルの組み合わせを選択することによる)のバランスをとるステップを含む。
【0084】
一部の実施形態では、方法はさらに、本明細書で提供される組み換え宿主細胞を得るために組み換えベクターで細胞を形質転換するステップを含む(
図1のステップ1002)。そのような形質転換の場合、組み換えベクターは、環状化または線形化することができる。細胞を形質転換するための方法は、当該技術分野で周知である。そのような方法の非限定例としては、リン酸カルシウムトランスフェクション、デンドリマートランスフェクション、リポソームトランスフェクション(例えば、カチオン性リポソームトランスフェクション)、カチオン性ポリマートランスフェクション、電気穿孔法、細胞スクイージング(cell squeezing)、ソノポレーション、光学トランスフェクション、原形質融合、インペールフェクション(impalefection)、流体力学的送達、遺伝子銃、磁気感染、スフェロブラスト生成(spheroblast generation)、ポリエチレングリコール(PEP)処理、及びウイルス形質導入が挙げられる。当業者は、ベクターを導入するためのある特定の技術がある特定タイプの細胞によりよく機能するという当該技術分野の知識に基づいて、本明細書で提供される発現構築物または組み換えベクターで細胞を形質転換するための1つ以上の好適な方法を選択することができる。本明細書で提供される発現構築物または組み換えベクターを含む組み換え宿主細胞の形質転換は、例えば、細胞の成長のための選択、もしくは成長しないことに対する選択を可能にする組み換えベクターによりコードされる薬剤耐性または栄養要求性マーカーを発現することにより、あるいは他の手段(例えば、発現構築物または組み換えベクターに含まれる発光ペプチドの検出、個々の組み換え宿主細胞コロニーの分子解析[例えば、制限酵素マッピング、PCR増幅、または単離染色体外ベクターもしくは染色体組み込み部位の配列解析により])により、容易に同定することができる。一部の実施形態では、方法は、2つ以上の組み換えベクターを用いる宿主細胞の連続形質転換を含む。
【0085】
一部の実施形態では、方法はさらに、本明細書で提供される発酵からの分泌組み換えタンパク質を抽出するステップを含む(
図1のステップ1004)。抽出は、分泌タンパク質を精製するための当該技術分野で既知の様々な方法により生じ得る。そのような方法における一般のステップは、細胞のペレット化を引き起こす速度の遠心分離ならびに組み換え宿主細胞及び細胞破片を含む細胞ペレットの除去、続いて、沈殿剤を使用する組み換えタンパク質の沈殿(例えば、5~60%飽和の硫酸アンモニウム、続いて、遠心分離)あるいはアフィニティー分離(例えば、組み換えタンパク質もしくはそのC末端タグ[例えば、FLAG、血球凝集素]に特異的に結合する抗体との免疫学的相互作用による、または6~8ヒスチジン残基でタグ化されたポリペプチドの単離のためのニッケルカラムへの結合による)を含む。懸濁した組み換えタンパク質は、溶解した塩を除去するために透析することができる。加えて、透析した組み換えタンパク質は、他のタンパク質を変性するために加熱することができ、変性したタンパク質は、遠心分離により除去することができる。
【実施例】
【0086】
実施例1:高収量の分泌組み換えタンパク質を産生するピキア・パストリス組み換え宿主細胞の生成
GS115(NRRL Y15851)のHIS+誘導体を第1の組み換えベクター及び第2の組み換えベクターで形質転換することにより、シルク様タンパク質を分泌するピキア・パストリス(コマガタエラ・ファフィ(Komagataella phaffii))組み換え宿主細胞を生成した。
【0087】
組み換えベクター(
図2を参照のこと)は、pre-αMF(sc)/*pro-αMF(sc)(配列番号8)または*pro-αMF(sc)(配列番号2)及びシグナルペプチドからなる種々の組み換え分泌シグナルのいずれかに作動可能に連結されているシルク様タンパク質(配列番号110)をコードするポリヌクレオチド配列を含んでいた。シルク様タンパク質はさらに、C末端FLAGタグに作動可能に連結されていた。
【0088】
組み換えベクター内のシルク様タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列は、プロモーター(pGCW14)及びターミネーター(tAOX1 pAシグナル)に隣接していた。組み換えベクターはさらに、細菌及び酵母の形質転換体の選択のための優性耐性マーカー、ならびに細菌の複製起点を含んでいた。組み換えベクターはさらに、ピキア・パストリスのゲノム内のHIS4、HSP82、AOX2、TEF1、MAE1、またはICL1遺伝子座の3’に隣接したポリヌクレオチド配列の組み込みを目的とする標的指向領域を含んでいた。
【0089】
電気穿孔法を介して、組み換えベクターをピキア・パストリス宿主細胞に連続的に形質転換して、組み換え宿主株を生成した。形質転換体を、ヒスチジンを欠く最小寒天プレートまたは抗生物質が補充されたYPD寒天プレートのいずれかにプレーティングし、30℃で48時間インキュベートした。
【0090】
得られたクローンを、96ウェルブロック中の緩衝化グリセロール複合培地(BMGY)400μLに接種し、1,000rpmで撹拌しながら30℃で48時間インキュベートした。48時間のインキュベーションの後、各培養物4μLを使用して、96ウェルブロック中の最小培地400μLに接種し、次に、これを30℃で48時間インキュベートした。
【0091】
ELISAによる測定のために組み換えタンパク質を抽出するために、グアニジンチオシアナートを、細胞培養物に最終濃度2.5Mまで添加した。5分間のインキュベーションの後、溶液を遠心分離し、上清をサンプリングした(
図3~5で細胞外とラベル付けされたデータを示した)。逆さにして上清を除去し、残った細胞ペレットを、元の体積までグアニジンチオシアナートに再懸濁した。ビーズミル中で機械的破壊することにより、細胞を溶解し、得られた溶解物を遠心分離により清澄化し、サンプリングした(
図3~5で細胞内とラベル付けされたデータを示した)。
【0092】
図3に示されるように、pre-αMF(sc)/*pro-αMF(sc)に作動可能に連結されているシルク様タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列の数を4から6に増加させると、シルク様タンパク質のより高い全体的な産生がもたらされたが、その分泌収量はそれほど有意には増加しなかった。
図3にさらに示されるように、2つの別個の分泌シグナル(すなわち、4つのポリヌクレオチド配列内のpre-αMF(sc)/*pro-αMF(sc)及び3つのポリヌクレオチド配列内のpre-DSE4(pp)/*pro-αMF(sc)またはpre-PEP4(sc)/*pro-αMF(sc))に作動可能に連結されているシルク様タンパク質をコードする7コピーのポリヌクレオチド配列を含む組み換え宿主細胞は、単一タイプの分泌シグナル(すなわち、pre-αMF(sc)/*pro-αMF(sc))に作動可能に連結されているシルク様タンパク質をコードする6コピーのポリヌクレオチド配列を含む組み換え宿主細胞よりも高い分泌収量を産生した。pre-αMF(sc)/*pro-αMF(sc)分泌シグナルに作動可能に連結されているシルク様タンパク質をコードする7コピーのポリヌクレオチド配列を含む組み換え宿主細胞を直接比較のために得ることはできなかったが、推測するに、これは、そのような宿主細胞が不安定及び/または生存不能であることを示し得ることに留意すべきである。
【0093】
図4に示されるように、2つの別個の分泌シグナル(すなわち、4つのポリヌクレオチド配列内のpre-αMF(sc)/*pro-αMF(sc)及び2つのポリヌクレオチド配列内のpre-EPX1(pp)/*pro-αMF(sc))に作動可能に連結されているシルク様タンパク質をコードする6コピーのポリヌクレオチド配列を含む組み換え宿主細胞は、単一タイプの分泌シグナル(すなわち、pre-αMF(sc)/*pro-αMF(sc))に作動可能に連結されているシルク様タンパク質をコードする同数のポリヌクレオチド配列を含む組み換え宿主細胞よりも高い分泌収量及びパーセント分泌のシルク様タンパク質を産生した。
【0094】
図5に示されるように、
図4の4+2xEPX1(pp)株に第3の組み換え分泌シグナル(すなわち、pre-CLSP(gg)/*pro-αMF(sc))を追加すると、シルク様タンパク質の分泌収量がさらに改善した。pre-αMF(sc)/*pro-αMF(sc)分泌シグナルに作動可能に連結されているシルク様タンパク質をコードする7コピーのポリヌクレオチド配列を含む細胞、または、pre-αMF(sc)/*pro-αMF(sc)分泌シグナルに作動可能に連結されているシルク様タンパク質をコードする4コピーのポリヌクレオチド配列及びpre-EPX1(pp)/*pro-αMF(sc)分泌シグナルに作動可能に連結されているシルク様タンパク質をコードする3コピーのポリヌクレオチド配列を含む細胞は、直接比較のために得ることができなかったが、推測するに、これは、そのような宿主細胞が不安定及び/または生存不能であることを示し得ることに留意すべきである。
【0095】
実施例2:高分泌収量のα-アミラーゼまたは緑色蛍光タンパク質を産生するピキア・パストリス組み換え宿主細胞の生成
種々の組み換えベクターでGS115(NRRL Y15851)のHIS+誘導体を形質転換することにより、α-アミラーゼまたは緑色蛍光タンパク質のいずれかを分泌するピキア・パストリス(コマガタエラ・ファフィ)組み換え宿主細胞を生成した。
【0096】
組み換えベクター(
図6を参照のこと)は、種々のN末端組み換え分泌シグナルに作動可能に連結されているα-アミラーゼ(配列番号111)または緑色蛍光タンパク質(配列番号112)のいずれかをコードするポリヌクレオチド配列を含む発現構築物を含んでいた。組み換え分泌シグナルは、*pro-αMF(sc)(配列番号2)に作動可能に連結されているN末端シグナルペプチドからなっていた。α-アミラーゼまたは緑色蛍光タンパク質はさらに、C末端FLAGタグに作動可能に連結されていた。ポリヌクレオチド配列のそれぞれは、プロモーター(pGCW14)及びターミネーター(tAOX1 pAシグナル)に隣接していた。組み換えベクターはさらに、ピキア・パストリスのゲノムにおけるTHI4遺伝子座の3’に隣接した領域への発現構築物の組み込みを目的とする標的指向領域、細菌及び酵母の形質転換体の選択のための優性耐性マーカー、ならびに細菌の複製起点を含んでいた。
【0097】
【0098】
組み換えベクターを、電気穿孔法を介してピキア・パストリス宿主細胞に形質転換して、組み換え宿主株を生成した。形質転換体を、抗生物質が補充されたYPD寒天プレートにプレーティングし、30℃で48~96時間インキュベートした。
【0099】
最後の形質転換それぞれからのからのクローンを、96ウェルブロック中の緩衝化グリセロール複合培地(BMGY)400μLに接種し、1,000rpmで撹拌しながら30℃で48時間インキュベートした。48時間のインキュベーションの後、各培養物4μLを使用して、96ウェルブロック中の最小培地400μLに接種し、次に、これを30℃で48時間インキュベートした。
【0100】
ELISAによる測定のために組み換えタンパク質を抽出するために、グアニジンチオシアナートを、細胞培養物に最終濃度2.5Mまで添加した。5分間のインキュベーションの後、溶液を遠心分離し、上清をサンプリングした。
【0101】
図7に示されるように、pre-EPX1(pp)/*pro-αMF(sc)及びpre-PEP4(sc)/*pro-αMF(sc)組み換え分泌シグナルは、pre-αMF(sc)/*pro-αMF(sc)組み換え分泌シグナルよりも高い分泌収量のアミラーゼを産生した一方、pre-DSE4(pp)/*pro-αMF(sc)分泌シグナルは、ほぼ同量の分泌アミラーゼを産生した。
【0102】
図8に示されるように、pre-EPX1(pp)/*pro-αMF(sc)組み換え分泌シグナルは、pre-αMF(sc)/*pro-αMF(sc)組み換え分泌シグナルよりも高い分泌収量の緑色蛍光タンパク質を産生した一方、pre-PEP4(sc)/*pro-αMF(sc)及びpre-DSE4(pp)/*pro-αMF(sc)分泌シグナルは、より分泌の少ない蛍光タンパク質を産生した。
【0103】
本開示の実施形態の上述の説明は、例示の目的で提示されており、網羅的であるものでも、本発明の範囲を限定するものでもない。
【0104】
実施例では、使用される数値(例えば、量、温度など)に関して正確性を確保するための取り組みがなされているが、一部の実験誤差及び偏差は、当然のことながら、許容されるべきである。実施例に用いられた試薬は、一般に市販されているか、または当該技術分野で公知の市販の機器、方法、もしくは試薬を使用して調製することができる。実施例は、本発明の多くの異なる実施形態の網羅的な説明を提供するものではない。添付の特許請求の範囲の趣旨または範囲から逸脱することなく、実施例に提示された実施形態に、多くの変更及び修正を行うことができることを、当業者らは容易に理解するであろう。
【0105】
【配列表】