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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-25
(45)【発行日】2022-05-09
(54)【発明の名称】負圧創傷閉鎖器具
(51)【国際特許分類】
   A61M 27/00 20060101AFI20220426BHJP
【FI】
A61M27/00
【請求項の数】 28
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019006438
(22)【出願日】2019-01-17
(62)【分割の表示】P 2017111453の分割
【原出願日】2012-02-03
(65)【公開番号】P2019076756
(43)【公開日】2019-05-23
【審査請求日】2019-01-25
(31)【優先権主張番号】61/439,525
(32)【優先日】2011-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505220170
【氏名又は名称】ユニバーシティー オブ マサチューセッツ
【氏名又は名称原語表記】University of Massachusetts
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ダン、レイモンド、エム.
【審査官】鈴木 洋昭
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0160876(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0015595(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負圧により創傷を治療するための創傷閉鎖器具であって、
2つの直交軸(x軸及びy軸)で定義される平面(x-y平面)に配置されて創傷縁を有する創傷を治療する多孔性創傷充填材料であって、前記x-y平面に垂直な方向(z方向に延びる厚さを有する、前記多孔性創傷充填材料と、
前記創傷を治療するために前記多孔性創傷充填材料と接触するように構成された複数の部材であり、前記複数の部材は、前記多孔性創傷充填材料より剛性の高い材料からなる、前記複数の部材と、を備え、
前記創傷閉鎖器具に負圧を加えると、前記多孔性創傷充填材料は、前記x-y平面のx方向に収縮し、y方向の動きを抑制して、前記複数の部材が前記創傷閉鎖器具の前記z方向の動きを抑制して前記x方向に前記創傷縁の閉鎖運動を引き起こすように構成される、創傷閉鎖器具。
【請求項2】
前記多孔性創傷充填材料は、前記z方向に延びる前記複数の部材を取り囲む、請求項1に記載の創傷閉鎖器具。
【請求項3】
前記多孔性創傷充填材料は、前記z方向に延びる前記複数の部材の間に延びる、請求項2に記載の創傷閉鎖器具。
【請求項4】
前記多孔性創傷充填材料は、前記複数の部材が配置される複数の分離された領域を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の創傷閉鎖器具。
【請求項5】
前記多孔性創傷充填材料は、前記多孔性創傷充填材料が創傷内に配置され、負圧下に置かれると、前記複数の部材の間に配置されて、前記複数の部材を互いに向かって前記x-y平面内で圧縮する多孔性発泡材料を含み、前記複数の部材は、前記多孔性発泡材料の前記z方向の収縮を抑制する、請求項2に記載の創傷閉鎖器具。
【請求項6】
前記複数の部材は、接着剤を用いて前記多孔性創傷充填材料に付着される、請求項1から5のいずれか一項に記載の創傷閉鎖器具。
【請求項7】
前記複数の部材は、前記創傷閉鎖器具が前記z方向に実質的に収縮しないように構成されるロッド又は剛性の柱である、請求項1から6のいずれか一項に記載の創傷閉鎖器具。
【請求項8】
前記複数の部材は、剛性又は屈曲要素を含む、請求項1に記載の創傷閉鎖器具。
【請求項9】
前記創傷閉鎖器具は、壁を含む、請求項1に記載の創傷閉鎖器具。
【請求項10】
前記壁は、外面を有する、請求項9に記載の創傷閉鎖器具。
【請求項11】
前記剛性の柱の間に間隔が設けられる、請求項7に記載の創傷閉鎖器具。
【請求項12】
前記多孔性創傷充填材料は、連続気泡発泡体を含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の創傷閉鎖器具。
【請求項13】
前記創傷閉鎖器具は、摺動面を含む、請求項1に記載の創傷閉鎖器具。
【請求項14】
前記複数の部材は、さらに、前記x-y平面内で延び、前記x方向に収縮し、前記y方向の動きを抑制する関節部材を含み、前記複数の部材は、ヒンジ、接合部、又はフレキシブルな領域で接続される、請求項1に記載の創傷閉鎖器具。
【請求項15】
さらに接着剤を備える、請求項1に記載の創傷閉鎖器具。
【請求項16】
前記多孔性創傷充填材料は、成形された連続気泡発泡材料を含む、請求項1に記載の創傷閉鎖器具。
【請求項17】
前記創傷閉鎖器具は、内臓の上方に配置され、摺動面を有する層上を移動する楕円形を有する患者の腹部創傷内に置かれる、請求項1に記載の創傷閉鎖器具。
【請求項18】
前記複数の部材は、Z軸安定化要素を有する安定化構造を含む、請求項1に記載の創傷閉鎖器具。
【請求項19】
前記創傷に負圧を加えると、互いに向かって移動して創傷の縁に接触する外周面をさらに備える、請求項1に記載の創傷閉鎖器具。
【請求項20】
前記複数の部材は、クロスハッチ構造の安定化要素をさらに含む、請求項1に記載の創傷閉鎖器具。
【請求項21】
前記複数の部材は、安定化要素によって分離された複数の収縮領域を有する安定化構造を含む、請求項1に記載の創傷閉鎖器具。
【請求項22】
前記安定化要素は、トラス安定器をさらに含む、請求項21に記載の創傷閉鎖器具。
【請求項23】
請求項1から19のいずれか一項に記載の創傷閉鎖器具と、
前記創傷閉鎖器具の上方に配置されるように構成される導管結合部材と、
を備える負圧創傷治療システム。
【請求項24】
前記導管結合部材を負圧源に接続するためのチューブ接続ポートをさらに備える、請求項23に記載の負圧創傷治療システム。
【請求項25】
前記創傷内に配置されると、前記創傷閉鎖器具に負圧をもたらす前記導管結合部材に接続されるように構成される負圧源をさらに備える、請求項23又は24に記載の負圧創傷治療システム。
【請求項26】
1又は複数のポートで前記導管結合部材に接続された腹部創傷、筋膜切開創傷、縦隔創傷、又は褥瘡創傷に吸引力を加えるポンプをさらに備える、請求項23に記載の負圧創傷治療システム。
【請求項27】
流体制御コンポーネントをさらに備え、前記創傷閉鎖器具は、前記流体制御コンポーネントの表面上を摺動する、請求項23に記載の負圧創傷治療システム。
【請求項28】
前記流体制御コンポーネントは、前記創傷閉鎖器具及び創傷開口内の腹部臓器の間に配置される、請求項27に記載の負圧創傷治療システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本願は、2011年2月4日に提出された米国特許出願第61/439,525号の優先権を主張する。当該特許出願の内容はその全体が本明細書に参照により組み込まれるものとする。
【背景技術】
【0002】
事故が原因の創傷、および手術に伴う創傷を含む創傷の治療に用いられる多くの技術が開発されてきている。縫合またはステープルにより創傷を閉鎖することも多い。しかしこれら力学的な閉鎖技術の挿入には、皮膚に新たに穴をあけたり、新たな創傷を生成したりすることが必要となり、組織に傷がつけられ、腫れの程度が大きな場合には、虚血または組織の欠損に繋がり得る。またステープルおよび縫合などの力学的な創傷閉鎖は、挿入された部位において高度に局所的なストレスを引き起こし、これにより皮膚の通常の創傷治癒プロセスを遅らせ、その効果を損ないうる。
【0003】
近年、創傷の治療に負圧器具を用いることに注目が集まっている。負圧創傷治療においては、負圧による吸引力を創傷に対し加えることにより創傷からの流体を取り除く器具が用いられる。そのような負圧を用いた治療を用いると、創傷部位における肉芽組織の形成を促進し、身体の通常の炎症過程を促しつつ、有害なサイトカインバクテリアを含みうる過剰な流体を取り除くことにより、創傷の治癒が促進されるものとされている。しかし、負圧創傷治療から最大限の治療効果を得るには、まだ改善の余地がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願発明は、創傷の閉鎖を促進するために創傷の縁に力を特定的に加える負圧創傷閉鎖器具に関する。当該器具は、従来より用いられている創傷充填材料の交換を繰り返し行う必要性を低減し、治癒速度を向上させられる。同時に当該器具は負圧を用いて創傷流体を取り除く。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一実施形態において負圧創傷閉鎖器具は、創傷の開きに適応するようサイズおよび形状が決められ、負圧がかけられると少なくとも1つの寸法の方向に選択的に収縮する創傷充填材料を含む。よって創傷充填材料は、少なくとも1方向に選択的に収縮し、他の1以上の方向への収縮が妨げられる。従来の負圧器具は創傷閉鎖の補助はせず、流体のドレナージのために用いられてきた。本願発明に関連して説明されるように、創傷からの流体のドレナージと併せて治癒プロセスの間の組織の動きを制御することにより、治癒速度の著しい改善を実現することが出来る。なお、創傷のサイズに応じて異なる負圧を用いることが出来る。
【0006】
他の好ましい実施形態において、組織把持表面が創傷充填材料の外周面に延在し、創傷の縁において組織と係合する複数の組織固定器を含む。負圧がかけられると、創傷の縁において組織が変位し、創傷の閉鎖を促進する。真空ポンプなどの負圧源が創傷充填材料に結合され、負圧を提供する。
【0007】
一般的に創傷充填材料は、発泡体などの多孔質材料からなる。組織固定器を採用する実施形態において、当該組織固定器は創傷充填材料内で一体的に形成される。他の実施形態において組織固定器は、創傷充填材料に固定された別個のカバーまたはフィルム上に設けられる。
【0008】
好ましい実施形態において、創傷充填材料は、創傷充填材料の少なくとも1つの第1方向への収縮を可能とし、少なくとも1つの第2方向への収縮を妨げる安定化構造を有する。安定化構造は、比較的圧縮性の材料からなる領域に囲まれた比較的剛性の材料からなる領域を含んでよい。好ましい実施形態において、安定化構造は、剛性および/または半剛性材料から形成される内骨格である。
【0009】
特定の実施形態において、安定化構造は、創傷充填材料がその高さ寸法の方向に収縮するのを妨げ、創傷の縁により画定される平面内で収縮することを可能とする。このことは、例えば手術による切開が直線に沿い楕円形の創傷を形成する腹部の手術の場合において有用である。このような略楕円形の創傷は、互いに異なる力学的性質を有する筋肉および脂肪組織を跨ぎ得る。創傷の治癒は、元の切開線に向かって選択的に収縮するよう適合された楕円形の構造を用いることにより改善される。好ましい実施形態において、安定化構造は創傷組織を再接近させるよう創傷充填材料の収縮を促進させる。本願発明の実施形態を用いることにより、筋膜切開の創傷、他の創傷離開、またはあらゆる開放創を適切に治療することが出来る。
【0010】
創傷閉鎖器具は、縦隔の創傷の治療、褥瘡の治療、四肢(腕、足)などの創傷の治療などに用いることが出来る。創傷閉鎖器具は、円形、正方形、長方形、または不規則な形状の創傷など、様々な形状の創傷の治療にも用いることが出来る。複数の創傷閉鎖要素で1つの創傷に適応するよう形状決めされてもよく、それらが互いに取り付けられることにより、創傷を所望される方向に選択的に閉鎖してもよい。複数の異なる要素は複数の異なる材料から形成され、または、細孔径および/または固定器のサイズ、並びに、細孔径、および/または固定器の分布など異なる様々な特性を有し、複合構造を形成してもよい。
【0011】
一実施形態において、内骨格安定化構造は、クロスハッチ構造を形成する互いに離間した複数の剛性部材を含む。内骨格は、創傷充填材料の幅寸法の方向への収縮を可能とし、より小さな程度だけ創傷充填材料を長さ寸法の方向に伸ばすことが出来る。特定の実施形態において、例えば、複数の剛性部材が創傷充填材料の高さ寸法の方向に延在し、創傷充填材料の高さ寸法の方向への収縮を妨げる。特定の実施形態によると、内骨格は、創傷充填材料が収縮すると互いに一体となることが出来る相互接続された剛性部材からなる網状構造を含む。内骨格は創傷充填材料の傾斜動作を妨げるトラス支持体を含んでよい。いくつかの実施形態において、組織固定器は内骨格内で一体的に形成される。
【0012】
特定の実施形態において、創傷充填材料は平滑な底面を含み、当該平滑な底面は、創傷からの流体を、除去するべく、底面を通過させ創傷閉鎖器具内へと流入させる複数の微細孔を有する。当該微細孔のサイズおよび/または細孔密度が異なり、負圧源からの真空力の分布を方向付けてよい。いくつかの実施形態において、創傷充填材料の内部細孔径および/または細孔密度が異なり、真空力の分布を方向付ける。
【0013】
一実施形態において、流体を制御し、および/または取り除く負圧創傷治療コンポーネントが創傷充填材料に結合される。創傷閉鎖、および流体の制御/ドレナージには単一の負圧源を用いることが出来る。創傷充填材料と負圧創傷治療コンポーネントとの間の接触面において摺動面が設けられる。
【0014】
さらに他の実施形態において、創傷充填材料は創傷閉鎖器具のサイズを調整するための取り除き可能部分を含む。創傷充填材料には当該創傷充填材料の部分を引き剥がす、または切り離すための所定の切断線が設けられてもよい。特定の実施形態において、複数の固定器からなるセットが複数、創傷充填材料に埋め込まれており、当該創傷充填材料の余分な部分を取り除くことにより、当該セットが露出させられる。
【0015】
他の実施形態によると、組織固定器は一様ではない力プロファイルを有する。力プロファイルは、係合する組織の深さ、またはタイプに応じて異なってもよい。いくつかの実施形態において、組織把持表面の力プロファイルは、創傷閉鎖器具の周囲の各部分において異なる。複数の組織固定器の長さ、複数の組織固定器の形状、複数の組織固定器の材料、および複数の組織固定器の密度のうち1以上が互いに異なり、当該力プロファイルが異なる。
【0016】
本願発明は、上述した創傷閉鎖器具を用いて創傷を閉鎖する方法にも関する。例えば、腹部の皮膚を線状に切開することにより、人または動物の体の消化器系などの手術部位の施術が可能となる。手術が完了すると治癒を促進するべく、創傷を負圧によって治療する必要がある。よって、創傷を閉鎖する治療を行うべく、本願発明の好ましい実施形態に係る創傷閉鎖器具が挿入される。
【0017】
本願発明に係る負圧創傷閉鎖器具 を用いれば、サイズの大きな創傷、または重篤な創傷を負った患者は、退院し、またはリハビリ治療を受け、自宅で交換し、創傷を閉鎖するために縫合するべく病院へ戻ればよいこととなる。創傷閉鎖治療を向上し、それによってコストを削減することにより、これらのデバイスが創傷ケアに用いられる器具のうち重要な部分を担うことが出来る可能性が高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
本願発明の他の特徴および効果は、添付の図面と関連して説明される以下の詳細な説明から明らかとなるであろう。
図1A図1Aは、負圧創傷閉鎖器具 の概略斜視図である。
図1B図1Bは、創傷閉鎖器具の組織把持表面の断面図である。
図1C図1Cは、組織把持表面の一実施形態の側面図である。
図1D図1Dは、x-y安定器を点線で示す創傷閉鎖器具の上面図である。
図1E図1Eは、x-y安定器およびz安定器を示す、創傷充填材料の断面図である。
図1F図1Fは、平滑な底面、および創傷部位から流体を取り除くための微細孔を示す、創傷閉鎖器具の下面図である。
図1G図1Gは、周囲安定化要素の正面図である。
図2A図2Aは、支持内骨格の斜視図である。
図2B図2Bは、支持内骨格の側面図である。
図3A図3Aは、支持トラスを有する支持内骨格の斜視図である。
図3B図3Bは、支持トラスを有する支持内骨格の側面図である。
図3C図3Cは、xの形状の支持トラスを有する支持内骨格の側面図である。
図4A図4Aは、本願発明の創傷閉鎖器具が創傷を閉鎖している状態を示す。
図4B図4Bは、本願発明の創傷閉鎖器具が創傷を閉鎖している状態を示す。
図4C図4Cは、本願発明の創傷閉鎖器具が創傷を閉鎖している状態を示す。
図4D図4Dは、異なる様々な形状の創傷に用いられる複数の創傷閉鎖要素の利用を示す。
図4E図4Eは、異なる様々な形状の創傷に用いられる複数の創傷閉鎖要素の利用を示す。
図5図5は、二段階の負圧創傷治療および負圧創傷閉鎖(NPWT/NPWC)器具を示す。
図6図6は、本願発明に係る組織固定システムの好ましい実施形態の拡大図を示す。
図7図7は、創傷充填材料の所定の切断点において組織固定器が埋め込まれている、異なる様々な創傷のサイズに対応するための引き剥がし設計または切り離し設計を有する創傷充填材料の実施形態を示す。
図8A図8Aは、複数の異なるタイプの組織(T、T)に用いられる異なる様々な組織固定器、並びに、それらのそれぞれに関し、真空閉鎖の際にかかる最大の力(F)、および組織を損傷することなく組織から固定器を取り除くのに必要な力(F)を含む固定器の力プロファイルを示す、組織把持表面の側面図である。
図8B図8Bは、本願発明に係る組織固定器の異なる様々な設計を示す。
図8C図8Cは、楕円形の創傷閉鎖器具の周囲面上の組織固定化要素の拡大図である。
図9A図9Aは、一実施形態に係る、創傷の縁周りの異なる力プロファイルを示す、創傷内に位置付けられた創傷閉鎖器具の概略図である。
図9B図9Bは、創傷および創傷閉鎖器具の元の構成を点線で示す、創傷閉鎖および治癒期間の後における図9Aに示される創傷閉鎖器具を示す。
図10図10は、本願発明に係る、創傷閉鎖器具を用いる処理を概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1A~1Fは、本願発明に係る創傷閉鎖器具100の実施形態を示す。器具100は、人または動物の患者の創傷の開きに適応するようサイズおよび形状が決められた創傷充填材料102を含む。好ましい実施形態において、充填材料102は、連続気泡ポリウレタンフォームなどの多孔質かつ生体適合性の材料である。また充填材料102は選択的に収縮可能である。つまり、充填材料102に負圧をかけることにより、充填材料102のサイズは少なくとも1つの寸法(例えば、長さ、幅、高さ)に沿って収縮可能であり、同時に、他の方向に関しては収縮が妨げられるか、若しくはより遅い速度で収縮する。
【0020】
充填材料102の少なくとも1つの表面上には組織把持表面104が延在しており、好ましくは組織把持表面104は、充填材料102の外周面に延在している。一実施形態において組織把持表面104は、充填材料102の外周面に固定され、充填材料102の拡大および収縮に合わせて拡大および収縮することが出来る、メッシュフィルムなどの可撓性のカバーである。一実施形態において組織把持表面102は、Covidien(Mansfield,MA)により販売されるParietex(登録商標)メッシュなどのメッシュフィルムまたは複合ポリエステルメッシュフィルムである。組織把持表面104は、複数の外向きの組織固定化要素106を含む。好ましい実施形態において組織固定化要素106は、メッシュフィルムと一体的に形成されてもよい、複数の密集した返し(barbs)、フック、または組織把持要素である。
【0021】
図1Bは、創傷充填材料102の周囲上の組織把持表面104から突出する組織把持要素106を示す器具100の側面図である。図1Cは、組織把持表面104が特にメッシュ材料である可撓性材料により形成される一実施形態の側面図を示す。把持要素106は図1Cから飛び出す方向に突出する。可撓性のメッシュ材料で形成されることにより組織把持表面104は、下方に位置する創傷充填材料102の拡大および収縮に合わせて必要に応じて拡大および収縮することが出来る。
【0022】
他の実施形態において、固定化要素106を有する組織把持表面104は、充填材料102と一体的に形成されてもよい。組織把持表面および/または固定化要素は、吸収性の材料を用いて形成されてもよい。
【0023】
好ましくは組織固定化要素106は、充填材料102の外周面全体に設けられる。充填材料102が創傷内に配置されると、固定化要素106は創傷の縁の組織内に埋め込まれ、器具100を創傷の開き内に固定する。好ましくは組織固定化要素106は創傷の縁の表面全体に広がり、十分に強い把持力を提供する。好ましくは組織把持表面104は、創傷閉鎖器具100の配置が容易であり、かつ、容易に取り除くことが可能であり、新しい器具100または必要であれば他の創傷被覆材との交換(例えば2~7日後に)が容易であるように設計される。把持表面104はその表面の少なくとも一部において大きな把持力を提供し、かつ、例えば縁部において引き離すことにより容易に取り除き可能であるように構成され得る。好ましくは組織把持表面104は、創傷の周囲組織に損傷を与えることなく創傷から取り除くことな可能であるように設計される。好ましくは固定化要素106は、筋肉、脂肪、肌、コラーゲン、およびこれらの様々な組み合わせなど、様々な組織への適用に対応できるように設計される。また特定の実施形態において固定化要素106は、一定の期間の間、特定の組織に確実に取り付けられたままの状態が維持されるように設計されてもよい。
【0024】
把持表面104が充填材料102の外周面上のカバーによって形成される実施形態において、把持表面は、接着剤または力学的な締結システムなどの何らかの適した技術を用いて充填材料102に取り付けられる。好ましい実施形態において組織把持表面104は、把持表面を創傷充填材料に固定する返しであってもよい充填材料を把持する固定化要素を含む。図6の断面図に示されるように、例えば把持表面400は、複数の返しまたは同様の固定化要素からなる2組のセットを有する薄いメッシュまたはフィルムを備える。第1のセット410は、組織内へと突出するよう設計された、外向きの組織把持要素412を含み、第2のセット404は、把持表面を創傷充填材料に固定する、創傷充填材料に突出する要素406を含む。
【0025】
図1A~1Fを再び参照すると、ポンプなどの負圧源120が、チューブ121などの適した結合部材または導管により充填材料102へ結合される。側壁104に沿って加えられる力を、流体を吸引する力とは独立して制御出来るように吸引力を空間的に分配するべく、追加のチューブ107が、複数の離間された一連のポート105を介して接続されてもよい。負圧源120は、充填材料102に負圧をかけるべく動作させられる。一般的に負圧は、充填材料102を収縮または「崩れ」させる圧力差を引き起こす。充填材料102が収縮すると組織把持表面104は、好ましくは創傷の縁周りの組織である隣接する組織を把持し引っ張る。これにより、組織が変位させられ、創傷の閉鎖を促進する。好ましい実施形態において充填材料102は、少なくとも1つの方向に選択的に収縮するよう設計される。例えば図1Aの実施形態において、充填材料102はy軸およびx軸のそれぞれに沿って長さ寸法および幅寸法を有し、z軸に沿って高さ寸法を有する。皮下創傷または他の創傷の縁へと負圧を効率的に伝えるべく、好ましくは、充填材料102は(ホットケーキのように)z方向に中心方向には収縮せず、負圧は主にx-y方向に働き、より特定的には、開かれた腹部または筋膜切開などの創傷の縁に沿って2次元平面内で収縮する。なおいくつかの実施形態においては、腹部または足の湾曲に沿った創傷などの場合のように、創傷の縁の平面は湾曲していることもある。
【0026】
さらに、好ましい実施形態において、創傷の縁の組織を再接近させるように充填材料102は、長さ、および/または幅方向に(つまりx軸およびy軸に沿って)選択的に収縮するよう構成される。なお、特定のタイプの創傷は、本明細書で説明する固定化要素を用いずとも治療することが出来る。
【0027】
選択的に収縮する特性を有するように充填材料102を構成する方法はいくつかある。例えば、充填材料102のいくつかの部分の材料を、周囲の材料よりも剛性である材料で形成する。これにより、創傷充填材料が特定の方向に選択的に収縮するようになる。一実施形態において充填材料102は、連続気泡発泡体などの「収縮可能な」充填材料内に埋め込まれた、適した剛性材料で形成される安定化内骨格を含む。なお、かけられる負圧の大きさは、創傷のサイズおよび形状に応じて調整可能である。創傷の閉鎖を補助するには、125mmより高く、250mm以上の圧力を用いてもよい。創傷が収縮するのに合わせて圧力は低下させられてもよい。
【0028】
図1Dおよび1Eに示すように、例えば充填材料102は、創傷充填材料の特定の方向への収縮を可能とし、他の方向への収縮を妨げる(点線で示される)複数の安定化要素108を含む。本実施形態において安定化要素108は、プラスチックなどの適切な程度に剛性である、または半剛性である材料から形成された複数の安定化リブ、屈曲部、またはロッドを含む。リブを設けられた構造は、創傷の適切な閉鎖を促進するべく特定の軸に沿って選択的に収縮するように構成される。本実施形態に係る内部安定化要素108は、図1Dに示されるクロスハッチ構造を形成する。ただし、他の構成を用い得ることは理解いただけるであろう。「開かれた」状態において要素同士の間の間隔は、例えば1~2cmの範囲である。安定化要素108は、図1Eの断面図に示されるように創傷充填材料内の異なる深さ位置に設けられてもよく、これによりz方向への収縮が妨げられる。いくつかの実施形態において、z軸安定化要素110を用いて、z軸方向への収縮を妨げられる。図1Eにおいて、z軸安定化要素110はリブ108から縦方向に延在する突出部である。他の実施形態において、ロッドまたはリブ構造の別個のz軸安定器を採用することが出来る。
【0029】
特定の実施形態において器具100は、図1Eに示すように、充填材料102の外周周りに延在する周囲安定化要素111を含む。安定化要素111は、z方向への収縮を防ぎ、かつ、z-y平面およびz-x平面内での創傷充填材料の傾斜を妨げるべく、充填材料102を補強するリブ構造を含む。よって、創傷充填材料の好ましい実施形態は、負圧をかけられると、第2方向と相対的な少なくとも第1方向に選択的に収縮する。よって、例えば、創傷充填材料102は、長さ方向への収縮と比較して幅方向により速い速度で収縮し、高さ方向(創傷の深さ方向)には実質的に収縮しない。
【0030】
いくつかの実施形態において組織固定化要素106は、周囲安定化要素111に含まれてもよく、充填材料102の周囲から突出する。この構成は、別個のメッシュまたはフィルムに固定化要素106を設けることの代替または追加として用いられてもよい。好ましくは周囲安定化要素111は、創傷充填材料102の拡大および収縮に合わせて必要に応じて拡大および収縮するよう構成される。よって好ましい実施形態において、安定化要素111は、x方向およびy方向(つまり充填材料102の周囲)に収縮および拡大出来るよう十分な可撓性を有しており、かつ、z方向への収縮または傾斜を妨げるべくz方向に(つまり充填材料の高さ方向に)十分な剛性を有している。
【0031】
図1Gは、周囲安定化要素111の実施形態を示す正面図である。安定化要素111は、z方向への収縮を妨げるよう方向付けられた複数の安定化ロッド113を含む。ロッド113は、下方に位置する創傷充填材料の拡大および収縮に合わせて安定化要素111が創傷の縁周りに拡大および収縮出来るようにする可撓性材料114によって隔てられている。本実施形態において、組織固定化要素106は周囲安定化要素111に形成されており、図面から飛び出す方向に突出する。
【0032】
図2Aおよび図2Bは、本願発明に係る創傷充填材料の内骨格の一実施形態を示す。内骨格は、第1のセットのx-y安定化要素108a、および第2のセットのx-y安定化要素108bを含む。第1のセットのx-y安定化要素108a、および第2のセットのx-y安定化要素108bは互いに対応するもの同士が複数のz軸安定化要素110によって接続されている。充填材料102の収縮の際、x-y安定化要素108a、108bはそれぞれx-y方向に収縮可能であるが、z軸安定化要素110によってz方向への収縮が妨げられる。好ましい実施形態において、収縮の際、安定化要素は互いに一体となる。当該構造における接合部109は、蝶番で動くようにされるか、システムの屈曲が可能であるように薄い厚さを有する。第1の軸、または水平方向の軸117(図4B参照)に沿った所望される圧縮が可能であるよう、接合部間の屈曲部は屈曲してもよい。器具が圧縮されるに従い、第2の軸、または長手方向の軸119に沿った拡大がいくらか起こり得る。枠材は、形状記憶特性を有していてもよく、当該特性と吸引力25とにより、組織に加えられる力の大きさが決まる。
【0033】
図3Aおよび図3Bに示す他の実施形態において、内骨格は、収縮の際に充填材料102の傾斜を妨げるトラス安定器112を含む。トラス安定器112により、充填材料102が収縮する際に、上側のx-y安定器108aおよび下側のx-y安定器108bが互いに整列した状態が保たれる。いくつかの実施形態においてトラス安定器112は特定の方向への収縮を促進するべく、特定の方向に関して剛性であり、他の方向に関して比較的剛性ではない(例えばトラス安定器が曲げられ得る)。図3Cは、「x」形状のパターンを有するトラス安定器112を有する他の実施形態を示す。
【0034】
特定の実施形態に係る安定化内骨格は全体的または部分的に、形状記憶材料から形成される。変形された状態(一時的な形状)から自身の元の(恒久的な)形状へと戻ることが出来る様々な形状記憶材料を用いることが出来る。この形状の変化は、外部からの刺激または誘因要因により引き起こされ得る。一実施形態において、内骨格の元の、または「恒久的な」形状は、創傷閉鎖器具の「収縮した」構成であり、創傷の再接近をもたらす形状である。創傷閉鎖器具が初めに創傷の開きに挿入される際には、内骨格は変形させられた、または一時的な状態であり、その状態で創傷充填材料内に埋め込まれている。内骨格は選択的に元の、または「収縮した」状態に戻ることが出来、若しくは、器具を拡大させ組織と係合させられる。形状記憶型の内骨格の「収縮」力は、負圧源により引き起こされる真空力の代替または追加として用いられてもよい。特定の実施形態において、創傷閉鎖器具に対して負圧をかけることにより、内骨格の元の状態の復元を引き起こし得る。
【0035】
図1Fは、一実施形態に係る創傷閉鎖器具100の底部を示す。本実施形態に係る器具100は、平滑な底面115を含む。用いられる材料は、Smith&Nephewから販売されるRenasys(登録商標)システムと関連して提供される生体適合性のフィルムであってよい。好ましい実施形態は、Renasys(登録商標)システムで提供されるゲージと共に用いられてもよい。底面115は、創傷閉鎖器具100とその下方に位置する組織との間の低摩擦の接触面となる。例えば腹部創傷の場合、下方に位置する組織とは、腸などの内臓を含みうる。平滑な底面115を用いることにより、下方に位置する組織からの干渉を受けず、かつ、下方に位置する組織に損傷を与えることなく、充填材料102は自由に収縮および拡大出来る。好ましい実施形態において底面115は、創傷部位から流体を除去するべく底面115を通過させ器具100内へと流入させる微細孔116(図1Fにおいては図示を分かりやすくするべくサイズに関して誇張して示されている)を含む。創傷閉鎖器具は、当該器具が摺動層上で収縮するよう独立した材料層上に挿入されてもよい。
【0036】
いくつかの実施形態において、真空源からの複数の異なる力のレベルを器具100の複数の異なる領域へ方向付けるべく、微細孔116は、領域毎に異なるサイズを有するか、および/または、領域毎に異なる細孔密度を有する。同様に充填材料102は、真空源からの複数の異なる力の器具100の複数の異なる領域への分布を方向付けるべく、異なる内部細孔径、および/または細孔密度を用いて設計されてもよい。
【0037】
図4A図4B、および図4Cは、創傷200を閉鎖するための器具100の利用を示す。図4Aに示すように創傷200は、創傷の開き201および創傷の縁203を含む。図4Bにおいて、組織把持表面104が創傷の縁203に接触するように、創傷閉鎖器具100は創傷の開き201内に配置される。特定の実施形態において創傷閉鎖器具100は、充填材料102を切り取るか引き剥がすことにより適切なサイズに形成され、その後、充填材料102の周囲に組織把持要素106を取り付ける。一実施形態において把持要素106は、2つの側面を有するバーブが形成されたメッシュを充填材料102へ取り付けることにより取り付けられる。ここで外向きの突起物が組織を把持するよう設計され、内向きの突起物は、メッシュを充填材料102へ固定するよう設計される。チューブ121は、充填材料102を負圧源へ接続する。充填材料102を含む創傷200の領域がシーリングドレープ(sealing drape)205により覆われてもよい。
【0038】
図4Bの実施形態において充填材料102は、充填材料102に対し選択的に収縮する特性を付与する、(点線で示される)複数の内部安定化要素108を含む。安定化要素108は充填材料102の収縮、および結果として生じる、x方向およびy方向の創傷の縁203周りの組織の変位の制御を補助する。z方向の収縮を制御する、または妨げるべく安定化要素を追加して設けてもよい。図1Dに関連して上述したように、本実施形態に係る安定化要素108は、クロスハッチ構造を有する。
【0039】
図4Cは、創傷閉鎖器具100へ負圧をかけた後の創傷200を示す。組織固定化要素106が創傷の縁203を把持し、充填材料102の収縮に応じた創傷の縁203の変位を引き起こす。図4Cに示されるように充填材料102は、創傷の縁203の組織を再接近させるようにx方向およびy方向に収縮する。図4Bおよび4Cの実施形態において、安定化要素108のクロスハッチ構造は、収縮の際の組織の変位の方向の制御を補助する。本実施形態において、組織の変位が最も大きくなるのは、創傷200の開き201の幅が最も大きい中央領域においてであり、この変位は、x方向に主に内向きに起こる。創傷の縁同士が互いに近い、中央領域から離れた位置(例えば、図4Aおよび4Bに示される創傷の最上部および最下部など)において、組織同士を再接近させるにはx方向の変位はより小さくてよい。一般的に創傷充填材料のy方向の内側への収縮は、望ましくない。事実、組織の再接近の際、創傷の縁のx方向の閉鎖に応じ、創傷200はy方向に長くなる。好ましい実施形態において、内部安定化要素108は創傷を再接近させるよう創傷充填材料の収縮を促す。例えば図4Cの実施形態において、充填材料が収縮する際、クロスハッチ構造の安定化要素108は、アコーディオン型のゲートのように互いに相対的に真っ直ぐになる。最も大きな変位は充填材料102の中央領域における、x方向の変位である。一般的に安定器108は、y方向の内側への収縮を妨げる。真っ直ぐになるにつれ安定器108は、y方向に創傷が細長い形状となり、適切な組織の再接近を促進する。複数の創傷閉鎖要素を組み合わせて充填される異なる形状を有する創傷220、240を図4Dおよび4Eに示す。図4Dにおいて要素222、224、226、228は、本例においては円形である創傷を実質的に充填出来るようなサイズに切り取られた複数の異なる形状を有する。負圧がかけられると要素は互いに協働し、所望される方向に創傷を閉鎖する。図4Eは、充填するための閉鎖要素242、244、246、248、250が用いられる長方形の創傷240を示す。各閉鎖要素の組織固定器は隣接する閉鎖要素同士を取り付けるのにも用いられ得る。中央の要素224、250に吸引力がかけられると、隣接する要素が中央の要素へと引き寄せられ、創傷を閉鎖する。
【0040】
創傷閉鎖器具200は創傷200の閉鎖および治癒を促進するべく、数日か数週間などの期間この状態のままであってよい。治癒のための期間の後、器具100は取り除かれ、場合によってはより小さなサイズの器具と交換される。本願発明に係る器具により創傷が十分に閉鎖されると、縫合により閉鎖され得る。
【0041】
図5は、二段階の負圧創傷治療および負圧創傷閉鎖(NPWT/NPWC)器具300を示す。当該器具は、当技術分野で公知であるような、上方に位置する負圧創傷閉鎖器具100と接続される負圧ドレナージ/流体制御コンポーネント301を含む。創傷閉鎖器具100は、上述したものと実質的に同様の収縮可能な創傷充填材料102、および組織把持表面104を含む。チューブ121により器具300は、創傷閉鎖および創傷治療コンポーネントに負圧をかける単一のポンプへと接続される。特定の創傷への適用のために生じる必要性に応じて器具300は、交換可能な部品を含んでよい。一実施形態において器具300は腹部創傷に対して用いられ、縦隔および筋膜切開の創傷にも用いられ得る。
【0042】
好ましい実施形態において充填材料102はNPWT/NPWC器具300全体の中で「摺動する」ことが出来る。充填材料102は創傷閉鎖コンポーネントと流体制御コンポーネントとの間の接触面において摺動面303を含む。摺動面は、加工された表面または独立した材料層を備えてよい。摺動面303は流体制御コンポーネントからの干渉を受けない創傷閉鎖コンポーネントの自由な収縮を促進する。下方に位置する流体制御コンポーネント301は特に、流体のみを制御し、「摺動」の速度を遅くするか、または「摺動」を妨げ得る粒状化を引き起こすことがないよう構成されてよい。
【0043】
図6は、本願発明に係る組織固定システム400の好ましい実施形態の拡大図を示す。材料402の一側面には、創傷充填材料を把持するよう適合させられた第1のグループの固定化要素404が設けられている。第1固定化要素404は末端にフック形状406を有するなど充填材料を把持するように形状決めされてよい。組織に対し十分な引っ張り力を加えるべく材料402は一定の把持力で充填材料に取り付けられなければならないので、創傷充填材料からフックを取り除くには、組織に対して加えられる引っ張り力を超える一定の力レベルFを加える必要がある。同様に材料402によって把持される組織は、創傷充填材料とは異なる構造特性を有するので、組織を把持するよう適合させられた第2のグループの固定化要素410は、第1固定化要素とは異なる形状および把持力を有してよい。本実施形態において、返し412は、組織に挿入されると収縮し、かつ反対方向に引っ張られると一定の引っ張り力が組織に対して加わるよう拡大する左右対称の突起物414を有する。しかし、突起物またはコーン形状の固定化要素は、損傷を与えることなく人の力により返しを傷から引き抜くことが出来るようなリリース力を有する。
【0044】
図7は、異なる様々な創傷のサイズに対応するための引き剥がし設計または切り離し設計を有する創傷充填材料500の実施形態を示す。充填材料500は、閉鎖対象である創傷に適応するよう材料のサイズの調整を可能とする自然な切断線501、503、505を含む。材料500は、材料の1以上の部分502a、502b、502cを取り除き、材料のサイズを調整出来るよう切断線に沿って引き剥がされるか切り取られるように設計されている。所定の切断点において創傷充填材料内に複数の組織固定器506a、506b、506c、506dからなる複数のセットが埋め込まれており、当該セットは、部分502a、502b、502cが取り除かれることにより露出させられる。組織固定器506a、506b、506c、506dは、図1A図4Eに関連して上述したように、安定化内骨格構造と関連付けられていてよい。いくつかの実施形態において安定化内骨格構造は、充填材料500のサイズを調整する際に安定化構造の部分を取り除くための所定の切断点を含む。
【0045】
図8Aは、複数の異なるタイプの組織(T、T)に用いられる異なる組織固定器601、602、603、604を示す、組織把持表面の側面図である。それらのそれぞれに関し、真空閉鎖の際にかかる最大の力(F)、および組織を損傷することなく組織から固定器を取り除くのに必要な力(F)を含む固定器にかけられる力のプロファイルの例も併せて示す。一実施形態において組織固定器の特性は、組織閉鎖器具と周囲の組織との間の接触面に亘り異なる力プロファイルを提供するべく一様ではない。例えば上部の組織層Tに関しては、固定器601は、真皮中などのコラーゲン物質に取り付けられるよう設計されている。図8Aに示すように固定器601は、上部の組織層T上に関して異なる力プロファイル(F、F)を有する。下部の組織層Tに関し、固定器602、603、604は皮下層の脂肪組織に取り付けされるよう設計されている。一般的にこの組織へ固定器を固定するには、小さい力プロファイルで済む。
【0046】
固定器の長さ、固定器の形状、把持特徴の構造、固定器に用いられる材料、固定器の相対的な可撓性/剛性、および固定器の間隔/密度など多くのパラメータによって、固定器の特性、および結果として生じるそれらの力プロファイルは異なるものと出来る。例えば図8Aにおいて、固定器601は、固定器602、603よりもはるかに長く、そして固定器602、603は固定器604よりも長い。図8Aは602、603、および604に示されるように固定器の密度を異ならせる例も示す。図8Bは、複数の異なるタイプの把持特徴として3つの例、返しが設けられた構造605、ずらしてフックが設けられた構造606、および、ずらして返しが設けられた構造607を示す。図8Cの拡大斜視図に示されるような固定化要素620などの他の適した把持特徴を用いてもよい。固定処理は、創傷充填材料または支持内骨格を組織に対し縫合することにより補強されてもよい。力プロファイルは、充填材料の細孔径、および/または細孔密度を変化させるなど、創傷充填材料内での真空力の分布を制御することによっても異ならせられる。
【0047】
本願発明に係る創傷閉鎖器具は、複数の異なるタイプの創傷(腹部、筋膜切開など)を閉鎖するためのキットとして提供されてもよい。組織把持表面は、コラーゲン、脂肪組織、および筋肉など創傷部位の組織の構造に応じて複数の異なるタイプの組織に合わせて最適化されてもよい。
【0048】
特定の実施形態において、創傷閉鎖器具の力プロファイルは、創傷の周囲に亘り一様ではない。図9Aは、例示的な実施形態に係る、創傷の周囲の複数の位置において創傷の縁に加えられる力プロファイル(f)を示す。本実施形態において、最も大きなfが加えられるのは、創傷の開きの幅が最も大きく、創傷を閉鎖する力が全体的またはほぼ全体的にx方向にかかる創傷充填材料102の中央領域においてである。創傷の最上部および最下部の領域においては、閉鎖する力(f)ははるかに小さくなる。このような力プロファイルとなる一つの理由は、これらの領域において創傷の開きがはるかに小さく、組織を再接近させるのに必要な力がはるかに小さくて済むからである。またこれらの領域において加えられる内向きの力は、x方向およびy方向の成分を含む。よって、y方向への組織の内側の収縮を避けるには、より小さい力プロファイルが好ましい。図9Bに示されるように、創傷が閉鎖され、(点線で示される)当初の状態よりも(実線で示される)後期の状態へ治癒が進むにつれ、創傷はy方向に長くなる。よって、組織固定器701a、701bの変位は専らx方向であり閉鎖する力(f)の方向への変位であり、組織固定器703a、703bの変位は、内側へのx方向(閉鎖する力の方向)、および外側へのy方向(閉鎖する力の反対方向)への変位である。よって、固定化要素と周囲の組織との間のより大きな「遊び」を提供するには、これらの領域においてfは、より小さいのが好ましい。代替的に創傷閉鎖器具は、細長くはならず、長軸720に沿った長さが変わらないように構成される。
【0049】
創傷閉鎖器具の周囲の各部分において力プロファイルを異ならせるのは、組織固定器の間隔/密度、固定器のタイプ、固定器の長さなどを変化させるなど様々な方法により実現することが出来る。例えば図9Aおよび9Bにおいて、固定器703a、703bと比較し固定器701a、701bはより長く、組織内へとより深く貫通する。力プロファイルは、充填材料の細孔径および/または細孔密度を変化させるなど、創傷充填材料内の真空力分布を制御することにより異ならせることも出来る。
【0050】
一実施形態において、本願発明に係る創傷閉鎖器具を製造する方法は、剛性または半剛性材料からなる安定化内骨格を形成する工程と、当該内骨格上に収縮可能な創傷充填材料を形成する工程とを含む。安定化内骨格は、成形プロセスを用いて形成することが出来、一体型のユニット、または1以上の部材として成形することが出来る。当該1以上の部材は組立てられることにより内骨格を形成する。内骨格の複数の異なる部材は、複数の異なる方向に異なるレベルの剛性および可撓性を提供するべく、それぞれ異なる厚さ、および/または剛性度を有してもよい。内骨格は、適した接着剤、または他の接合プロセスを用いるなどにより部材を繋ぎ合わせることにより組立てられ得る。特定の実施形態において部材の少なくともいくつかは、一体化させる接合部を提供するべく組立てられる。好ましい実施形態において創傷充填材料は、適切に測量した成分(例えばポリウレタンフォームの場合、イソシアネート、ポリオール、触媒、界面活性剤、発泡剤など)を混ぜ合わせ、型内に反応混合物を注入し、当該材料を硬化させ型から取り出すことにより形成される。場合によっては材料は最終形状となるよう切り取られてもよい。好ましい実施形態において内骨格支持構造は組立てられ型内に配置され、創傷充填材料が内骨格周りに成形される。本願発明に係る創傷閉鎖器具に適した生分解性の発泡体製品、およびそのような発泡体を製造する方法の例は、Rolfesらによる米国特許公開出願第2009/0093550号に説明されている。当該特許公開出願の内容はその全体が、参照により本願に組み込まれる。
【0051】
図10は、本願発明の好ましい実施形態に係る創傷閉鎖器具を用いた手術手順800を実行する方法を示す。手術を行うべく患者の準備800が整った後、典型的には腹部である手術部位を露出させるべく切開820が行われる。手術が実行された後、閉鎖を行うための創傷の処理830を行う。周囲組織取り付け部材が器具の周囲面または外壁面に位置付けられた状態で、創傷閉鎖器具の適切なサイズおよび形状が選択840される。創傷に器具が挿入850され、組織取り付け要素が組織内へと挿入860される。その後、創傷の縁を閉鎖する力を加えるべく負圧が加えられる870。大きなサイズの創傷の場合など特定の適用によっては、最初の大きなサイズの器具が取り除かれた後、より小さなサイズの第2の閉鎖器具を配置880する必要がある。最後に、器具が取り除かれ890、典型的には縫合により創傷が閉鎖される。
【0052】
特定の方法および装置に関連して本願発明を説明してきたが、当業者であれば本明細書で説明した特定の実施形態の他の同等の実施形態を思い付くであろう。説明は例示であり、本願発明の態様を限定するものとして解されるべきではない。同等の実施形態は、以下の特許請求項により包含される。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図1G
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図9A
図9B
図10