(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-25
(45)【発行日】2022-05-09
(54)【発明の名称】抗TNFα糖操作抗体群およびその使用
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20220426BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20220426BHJP
A61P 17/06 20060101ALI20220426BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20220426BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20220426BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20220426BHJP
【FI】
A61K39/395 N
A61P1/04
A61P17/06
A61P19/02
A61P29/00
A61P29/00 101
C12P21/08
(21)【出願番号】P 2016569732
(86)(22)【出願日】2015-05-27
(86)【国際出願番号】 US2015032737
(87)【国際公開番号】W WO2015184001
(87)【国際公開日】2015-12-03
【審査請求日】2018-05-18
【審判番号】
【審判請求日】2020-08-03
(32)【優先日】2014-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2014-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2015-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】596118493
【氏名又は名称】アカデミア シニカ
【氏名又は名称原語表記】ACADEMIA SINICA
【住所又は居所原語表記】128 Sec 2,Academia Road,Nankang,Taipei 11529 TW
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ウォン, チ-フェイ
(72)【発明者】
【氏名】ウー, チュン-イ
【合議体】
【審判長】岡崎 美穂
【審判官】冨永 みどり
【審判官】齋藤 恵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/120066(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0263828(US,A1)
【文献】Biotechnology and Genetic Engineering Reviews,2012年,Vol.28,p147-175
【文献】ヒト型ヒトTNFαモノクローナル抗体製剤 ヒュミラ 皮下注40mg,添付文書,2009年,p1-7
【文献】科学技術動向(Science & Technology Trends),2009年,10月号,p13-25,<URL:http://hdl.handle.net/11035/2083>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K39/00-39/44
CA/Biosis/Medline/Embase(STN)
JSTplus/JMEDplus/JST7580(JDream III)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
各抗TNFα IgG分子のFc領域に同じN-グリカンを有する抗TNFα IgG分子の単離された均一な集団を含む抗TNFα糖操作抗体群または抗TNFアルファ結合性断片の組成物であって、
前記N-グリカンが
コアフコースを含まず、Sia
2(α2-6)Gal
2GlcNAc
2Man
3GlcNAc
2
の配列を含み、
前記抗TNFα IgG糖操作抗体群は、アダリムマブと比較して
、最大結合の程度の測定値に基づいてより強力なFcγRIIIaへの結合親和性を有する、組成物。
【請求項2】
前記抗TNFα IgG分子が、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有する重鎖、および配列番号2に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記抗TNFα IgG分子が、アダリムマブ(Humira)の軽鎖配列および重鎖配列を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記最大結合が少なくとも約3倍改善される、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記N-グリカンが前記Fc領域のAsn-297に付着している、および/または前記N-グリカンが、少なくとも1つのα2-6末端シアル酸もしくは2つのα2-6末端シアル酸を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記N-グリカンが、バイセクティングGlcNAcを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記N-グリカンが、α2-6シアル酸を少なくとも1つ含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記N-グリカンが、α2-6シアル酸を2つ含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
請求項1から
8までに記載の抗TNFα糖操作抗体群または抗原結合性断片の組成物と薬学的に許容される担体とを含む医薬製剤。
【請求項10】
TNF媒介性炎症性疾患の処置を必要とするヒトにおけるTNF媒介性炎症性疾患の処置において使用するための、請求項
9に記載の医薬製剤であって、前記製剤が前記ヒトに有効量で投与されることを特徴とする、医薬製剤。
【請求項11】
前記TNF媒介性炎症性疾患が、炎症性腸疾患、潰瘍性大腸炎、クローン病、関節リウマチ、乾癬、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎、または若年性特発性関節炎から選択される、請求項1
0に記載の医薬製剤。
【請求項12】
前記ヒトに少なくとも1種の抗TNF治療剤がさらに投与されることを特徴とする、請求項1
0に記載の医薬製剤。
【請求項13】
前記抗TNF治療剤がアダリムマブ、インフリキシマブまたはエタネルセプトである、請求項1
2に記載の医薬製剤。
【請求項14】
第2の治療剤が、前記医薬製剤と組み合わせて前記患者に投与されることを特徴とする、請求項1
0に記載の医薬製剤。
【請求項15】
脱フコシル化糖操作抗体を作出する方法であって、
(a)抗TNFαモノクローナル抗体をα-フコシダーゼおよび少なくとも1種のエンドグリコシダーゼと接触させ、それにより、Fc上に単一のN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)を有する脱フコシル化抗体を得るステップと、
(b)適切な条件下でGlcNAcに炭水化物部分を付加するステップであって、ここで、前記炭水化物部分がSia
2(α2-6)Gal
2GlcNAc
2Man
3GlcNA
cであるステップと
を含む、方法。
【請求項16】
前記抗TNFαモノクローナル抗体がアダリムマブ、インフリキシマブまたはエタネルセプトである、請求項1
5に記載の方法。
【請求項17】
前記抗TNFα糖操作抗体をin vitroで作製し、ここで、前記抗TNFα糖操作抗体を、細胞培養によって得られた抗体から酵素的に工学的に作製し、ここで、前記方法は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株を使用して流加培養するステップを含む、請求項1
5に記載の方法。
【請求項18】
ステップ(b)の前記付加をトランスグリコシラーゼによって行う、請求項1
5に記載の方法。
【請求項19】
前記エンドグリコシダーゼが、EndoA、EndoF、EndoF1、EndoF2、EndoF3、EndoH、EndoM、EndoSまたはそのバリアントである、請求項1
5に記載の方法。
【請求項20】
前記α-フコシダーゼが、配列番号5と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有するポリペプチドを含む、請求項1
5に記載の方法。
【請求項21】
前記α-フコシダーゼが組換えBacteroides α-フコシダーゼである、請求項1
5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
この出願は、2014年5月28日に出願された米国仮出願連続番号第(USSN)62/003,908号、2014年7月2日に出願されたUSSN 62/020,199号および2015年1月30日に出願されたUSSN 62/110,338号への優先権の利益を主張する。これらそれぞれの内容は、それらの全体が参考として本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
Fcグリコシル化は、治療用モノクローナル抗体の分野において重要な主題となっている。Fcグリコシル化により、Fc受容体結合および補体活性化などのFcエフェクター機能を有意に改変する、したがって、治療用抗体のin vivoにおける安全性および有効性プロファイルに影響を及ぼすことができる。
【0003】
遺伝子操作に基づくいくつかの発現系により治療用モノクローナル抗体が産生されることが報告されている。これらとしては、Pichia pastorisなどの酵母、昆虫細胞株、および、さらには細菌が挙げられる。しかし、これらの発現系には、治療用抗体のエフェクター機能に負の影響を及ぼす可能性があるいくつかの欠点がある。
【0004】
大多数の認可を受けた生物製剤は、所望のグリコシル化パターンを有するタンパク質を送達し、したがって、免疫原性の低下およびより高いin vivoにおける有効性および安定性を確実にするために、哺乳動物細胞培養系において産生される。CHO細胞またはNS0細胞などの非ヒト哺乳動物発現系は、複雑な、ヒト型グリカンを付加するために必要な機構を有する。しかし、これらの系において産生されるグリカンは、ヒトにおいて産生されるグリカンとは異なる可能性がある。それらのグリコシル化機構により、多くの場合、タンパク質フォールディングを変更させ、免疫原性を誘導し、薬物の循環寿命を短縮させる可能性がある望ましくない炭水化物決定因子が付加される。特に、N-アセチルノイラミン酸のようなシアル酸は大多数の哺乳動物細胞では効率的に付加されず、これらの細胞では6-結合が欠けている。シアル酸の移行に必要な種々の酵素活性を用いた細胞の工学的操作では、タンパク質薬にヒト様パターンのグリコフォームを成功裏にもたらすことが未だできていない。現在まで、動物細胞または糖タンパク質を工学的に操作してヒトタンパク質と可能な限り密接に類似した、高度にシアリル化された産物をもたらすことが必要とされている。
【0005】
さらに、哺乳動物の細胞培養では、全てが同じ性質を有するとは限らないグリコシル化パターンの不均一な混合物が送達される。治療用タンパク質の安全性、有効性および血清中半減期のような性質は、これらのグリコシル化パターンの影響を受ける可能性がある。
【0006】
自己免疫障害は、重要な広範にわたる医学的問題である。TNFα(壊死因子アルファ)は、関節リウマチ、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎、クローン病および乾癬などの自己免疫疾患における炎症の主要な一因である。
【0007】
炎症におけるTNFの重要性は、関節リウマチおよび他の炎症性の状態における疾患活動性の制御における抗TNF抗体の有効性により強調されている。現在、キメラ抗TNFαmAbであるREMICADE(商標)(インフリキシマブ)、TNFR-Ig Fc融合タンパク質であるENBREL(商標)(エタネルセプト)、ヒト抗TNFαmAbであるHUMIRA(商標)(アダリムマブ)、およびペグ化Fab断片であるCIMZIA(登録商標)(セルトリズマブペゴル)を含め、関節リウマチの処置に関して認可を受けた抗TNFαmAbが4種存在する。
【0008】
アダリムマブ(Humira(登録商標))は、遺伝子技術により工学的に作製されたヒト由来組換えIgG1モノクローナル抗体である。アダリムマブは、TNF-αには結合するがTNF-βには結合せず、半減期はおよそ2週間である。アダリムマブ(Humira(登録商標))は、RAの患者への使用に関して2002年12月31日に認可を受けている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
アダリムマブは、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞において産生され、Fcドメインにおけるグリコシル化パターンが非常に不均一である。不均一な混合物中のIgG分子のそれぞれは全てが同じ性質を有するとは限らない可能性があり、また、治療用タンパク質に結合したある特定のN結合オリゴ糖により患者において望ましくない影響が誘発される可能性があり、したがって、これらは安全性に懸念があるとみなされる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
したがって、本開示の一態様は、Fcのそれぞれに同じN-グリカンを有する抗TNFαIgG分子の均一な集団を含む抗TNFα糖操作抗体群(glycoantibodies)の組成物に関する。本発明の抗TNFα糖操作抗体群は、抗TNFαモノクローナル抗体からFc糖鎖工学によって作製することができる。重要なことに、本明細書に記載の抗TNFα糖操作抗体群は、糖鎖工学により操作されていない対応するモノクローナル抗体と比較してTNFα結合親和性が増大した、改善された治療的価値を有する。
【0011】
好ましい実施形態では、N-グリカンはFc領域のAsn-297に付着している。
【0012】
一部の実施形態では、本明細書に記載の抗TNFα糖操作抗体(glycoantibody)は、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有する重鎖、および配列番号2に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖を含む。好ましい実施形態では、糖操作抗体は、アダリムマブ(Humira(登録商標))の軽鎖配列および重鎖配列を含む。
【0013】
アダリムマブに由来する、機能的に活性な抗TNFα糖操作抗体群が本明細書に開示されている。抗TNFα糖操作抗体群は、アダリムマブと比較して同様のまたは改善されたTNFα結合親和性を示す。
【0014】
一部の実施形態では、本発明の糖操作抗体のN-グリカンは二分岐(biantennary)構造を有する。一部の実施形態では、N-グリカンは、バイセクティング(bisecting)GlcNAcを含む。
【0015】
一部の実施形態では、本明細書に記載のN-グリカンは、α2-6末端シアル酸を少なくとも1つ含む。ある特定の実施形態では、N-グリカンは、α2-6末端シアル酸を1つ含む。好ましい実施形態では、N-グリカンは、α2-6末端シアル酸を2つ含む。
【0016】
一部の実施形態では、本明細書に記載のN-グリカンは、α2-3末端シアル酸を少なくとも1つ含む。ある特定の実施形態では、N-グリカンは、α2-3末端シアル酸を1つ含む。好ましい実施形態では、N-グリカンは、α2-3末端シアル酸を2つ含む。
【0017】
一部の実施形態では、本明細書に記載のN-グリカンは、ガラクトースを少なくとも1つ含む。ある特定の実施形態では、N-グリカンは、ガラクトースを1つ含む。好ましい実施形態では、N-グリカンは、ガラクトースを2つ含む。
【0018】
好ましい実施形態では、N-グリカンはフコシル化されている。一部の実施形態では、N-グリカンは脱フコシル化されている。
【0019】
一部の実施形態では、N-グリカンは、Sia2(α2-6)Gal2GlcNAc2Man3GlcNAc2、Sia(α2-6)Gal2GlcNAc2Man3GlcNAc2、Sia(α2-6)GalGlcNAc2Man3GlcNAc2、Sia2(α2-6)Gal2GlcNAc3Man3GlcNAc2、Sia(α2-6)Gal2GlcNAc3Man3GlcNAc2、Sia(α2-6)GalGlcNAc3Man3GlcNAc2、Sia2(α2-3)Gal2GlcNAc2Man3GlcNAc2、Sia(α2-3)GalGlcNAc3Man3GlcNAc2、Sia2(α2-3)Gal2GlcNAc3Man3GlcNAc2、Sia(α2-3)Gal2GlcNAc3Man3GlcNAc2、Sia2(α2-3/α2-6)Gal2GlcNAc3Man3GlcNAc2、Sia2(α2-6/α2-3)Gal2GlcNAc3Man3GlcNAc2、Sia2(α2-3/α2-6)Gal2GlcNAc3Man3GlcNAc2、Sia2(α2-6/α2-3)Gal2GlcNAc3Man3GlcNAc2、Sia2(α2-6)Gal2GlcNAc2Man3GlcNAc2(F)、Sia(α2-6)Gal2GlcNAc2Man3GlcNAc2(F)、Sia(α2-6)GalGlcNAc2Man3GlcNAc2(F)、Sia2(α2-6)Gal2GlcNAc3Man3GlcNAc2(F)、Sia(α2-6)Gal2GlcNAc3Man3GlcNAc2(F)、Sia(α2-6)GalGlcNAc3Man3GlcNAc2(F)、Sia2(α2-3)Gal2GlcNAc2Man3GlcNAc2(F)、Sia(α2-3)Gal2GlcNAc3Man3GlcNAc2(F)、Sia2(α2-3)Gal2GlcNAc3Man3GlcNAc2(F)、Sia(α2-3)Gal2GlcNAc3Man3GlcNAc2(F)、Sia2(α2-3/α2-6)Gal2GlcNAc3Man3GlcNAc2(F)、Sia2(α2-6/α2-3)Gal2GlcNAc3Man3GlcNAc2(F)、Sia2(α2-3/α2-6)Gal2GlcNAc3Man3GlcNAc2(F)およびSia2(α2-6/α2-3)Gal2GlcNAc3Man3GlcNAc2(F)からなる群より選択されるグリカン配列を有する。
【0020】
好ましい実施形態では、N-グリカンは、Sia2(α2-6)Gal2GlcNAc2Man3GlcNAc2、Sia(α2-6)GalGlcNAc2Man3GlcNAc2、Sia2(α2-3)Gal2GlcNAc2Man3GlcNAc2、Sia2(α2-3)Gal2GlcNAc3Man3GlcNAc2、Sia2(α2-3/α2-6)Gal2GlcNAc3Man3GlcNAc2、Sia2(α2-6/α2-3)Gal2GlcNAc3Man3GlcNAc2、Sia2(α2-6)Gal2GlcNAc2Man3GlcNAc2(F)、Sia(α2-6)GalGlcNAc2Man3GlcNAc2(F)、Sia2(α2-3)Gal2GlcNAc2Man3GlcNAc2(F)、Sia2(α2-3)Gal2GlcNAc3Man3GlcNAc2(F)、Sia2(α2-3/α2-6)Gal2GlcNAc3Man3GlcNAc2(F)およびSia2(α2-6/α2-3)Gal2GlcNAc3Man3GlcNAc2(F)からなる群より選択されるグリカン配列を有する。
【0021】
本開示の別の態様は、本明細書に記載の抗TNFα糖操作抗体群の組成物と薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物を特徴とする。
【0022】
本開示による医薬組成物は、治療薬に使用することができる。本開示には、ヒト患者においてTNF媒介性炎症性疾患を処置するための方法であって、それを必要とするヒトに有効量の本明細書に記載の医薬組成物を投与するステップを含む方法が含まれる。
【0023】
一部の実施形態では、投与するステップは、前記医薬組成物を前記ヒトに経口投与するステップを含む。TNF媒介性炎症性疾患の例としては、これだけに限定されないが、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎およびクローン病を含む)、関節リウマチ、乾癬、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎、および若年性特発性関節炎が挙げられる。
【0024】
一部の実施形態では、本明細書に記載の処置方法は、患者に、抗TNFα治療剤を投与するステップをさらに含む。一部の実施形態では、抗TNFα治療剤は、アダリムマブ、インフリキシマブまたはエタネルセプトである。
【0025】
本発明の抗TNFα糖操作抗体群は、細胞において産生される抗TNFαモノクローナル抗体から生成することができる。好ましい実施形態では、抗TNFαモノクローナル抗体は、治療的使用のためのものである。一部の実施形態では、治療用モノクローナル抗体は市販されているものまたは開発中のものである。抗TNFαモノクローナル抗体は、ヒト化モノクローナル抗体、ヒトモノクローナル抗体またはキメラモノクローナル抗体であってよい。
【0026】
本明細書に記載の抗TNFα糖操作抗体群はin vitroにおいて作製することができる。抗TNFα糖操作抗体群は、Fc糖鎖工学によって生成することができる。ある特定の実施形態では、抗TNFα糖操作抗体群を、哺乳動物細胞などの細胞において産生される抗TNFαモノクローナル抗体から酵素的にまたは化学酵素的に工学的に作製する。
【0027】
本明細書には、フコシル化糖操作抗体を作出するための方法であって、(a)モノクローナル抗体を少なくとも1種のエンドグリコシダーゼと接触させ、それにより、Fc上に二糖(GlcNAc-Fuc)を有する抗体を得るステップと、(b)適切な条件下で二糖のGlcNAcに炭水化物部分を付加するステップとを含む方法が記載されている。
【0028】
脱フコシル化糖操作抗体を作出するための方法であって、(a)モノクローナル抗体をα-フコシダーゼおよび少なくとも1種のエンドグリコシダーゼと接触させ、それにより、Fc上に単糖(GlcNAc)を有する抗体を得るステップと、(b)適切な条件下でGlcNAcに炭水化物部分を付加するステップとを含む方法も本明細書の記載に含まれる。
【0029】
本発明の方法のモノクローナル抗体は、抗TNFαモノクローナル抗体であってよい。一部の実施形態では、本発明の方法の抗TNFαモノクローナル抗体は、アダリムマブ、インフリキシマブまたはエタネルセプトである。
【0030】
一部の実施形態では、炭水化物部分は、Sia2(α2-6)Gal2GlcNAc2Man3GlcNAc、Sia(α2-6)GalGlcNAc2Man3GlcNAc、Sia2(α2-3)Gal2GlcNAc2Man3GlcNAc、Sia2(α2-3)Gal2GlcNAc3Man3GlcNAc、Sia2(α2-3/α2-6)Gal2GlcNAc3Man3GlcNAc、Sia2(α2-6/α2-3)Gal2GlcNAc3Man3GlcNAc、Sia2(α2-6)Gal2GlcNAc2Man3GlcNAc(F)、Sia(α2-6)GalGlcNAc2Man3GlcNAc(F)、Sia2(α2-3)Gal2GlcNAc2Man3GlcNAc(F)、Sia2(α2-3)Gal2GlcNAc3Man3GlcNAc(F)、Sia2(α2-3/α2-6)Gal2GlcNAc3Man3GlcNAc(F)およびSia2(α2-6/α2-3)Gal2GlcNAc3Man3GlcNAc(F)からなる群より選択される。
【0031】
ステップ(b)の付加は、トランスグリコシラーゼによって実施することができる。トランスグリコシラーゼとしては、これだけに限定されないが、EndoS、EndoH、EndoA、EndoM、EndoF1、EndoF2およびEndoF3が挙げられる。
【0032】
一部の実施形態では、本発明の方法のエンドグリコシダーゼは、EndoA、EndoF、EndoF1、EndoF2、EndoF3、EndoH、EndoM、EndoSまたはそのバリアントである。
【0033】
一部の実施形態では、アルファ-フコシダーゼは、配列番号5と少なくとも約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%同一であるアミノ酸配列を有するポリペプチドを含む。
【0034】
ある特定の実施形態では、アルファ-フコシダーゼは、組換えBacteroidesアルファ-L-フコシダーゼである。
【0035】
一部の実施形態では、炭水化物部分は、糖オキサゾリンである。
【0036】
本発明の1つまたは複数の実施形態の詳細が以下の説明に記載されている。本発明の他の特徴または利点は、以下の図およびいくつかの実施形態の詳細な説明から、ならびに添付の特許請求の範囲からも明らかになるであろう。
本発明の実施形態の例として、以下の項目が挙げられる。
(項目1)
各抗TNFαIgG分子のFc領域に同じN-グリカンを有する抗TNFαIgG分子の均一な集団を含む抗TNFα糖操作抗体群または抗TNFアルファ結合性断片の組成物。
(項目2)
前記抗TNFαIgG分子が、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有する重鎖、および配列番号2に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖を含む、項目1に記載の組成物。
(項目3)
前記抗TNFαIgG分子が、アダリムマブ(Humira)の軽鎖配列および重鎖配列を含む、項目1に記載の組成物。
(項目4)
前記抗TNFα糖操作抗体群が、アダリムマブ(Humira)と比較してTNFαへの改善された結合を示すことを特徴とする、項目1に記載の組成物。
(項目5)
前記結合が少なくとも約3倍改善される、項目4に記載の組成物。
(項目6)
前記N-グリカンが前記Fc領域のAsn-297に付着している、項目1に記載の組成物。
(項目7)
前記N-グリカンがコアフコースを含まない、項目1に記載の組成物。
(項目8)
前記N-グリカンが、バイセクティングGlcNAcを含む、項目1に記載の組成物。
(項目9)
前記N-グリカンが、α2-6シアル酸を少なくとも1つ含む、項目1に記載の組成物。
(項目10)
前記N-グリカンが、α2-6シアル酸を2つ含む、項目1に記載の組成物。
(項目11)
前記N-グリカンが、Sia
2
(α2-6)Gal
2
GlcNAc
2
Man
3
GlcNAc
2
、Sia(α2-6)Gal
2
GlcNAc
2
Man
3
GlcNAc
2
、Sia(α2-6)GalGlcNAc
2
Man
3
GlcNAc
2
、Sia
2
(α2-6)Gal
2
GlcNAc
3
Man
3
GlcNAc
2
、Sia(α2-6)Gal
2
GlcNAc
3
Man
3
GlcNAc
2
、Sia(α2-6)GalGlcNAc
3
Man
3
GlcNAc
2
、Sia
2
(α2-3)Gal
2
GlcNAc
2
Man
3
GlcNAc
2、
Sia(α2-3)GalGlcNAc
3
Man
3
GlcNAc
2
、Sia
2
(α2-3)Gal
2
GlcNAc
3
Man
3
GlcNAc
2
、Sia(α2-3)Gal
2
GlcNAc
3
Man
3
GlcNAc
2
、Sia
2
(α2-3/α2-6)Gal
2
GlcNAc
3
Man
3
GlcNAc
2
、Sia
2
(α2-6/α2-3)Gal
2
GlcNAc
3
Man
3
GlcNAc
2
、Sia
2
(α2-3/α2-6)Gal
2
GlcNAc
3
Man
3
GlcNAc
2
、Sia
2
(α2-6/α2-3)Gal
2
GlcNAc
3
Man
3
GlcNAc
2
、Sia
2
(α2-6)Gal
2
GlcNAc
2
Man
3
GlcNAc
2
(F)、Sia(α2-6)Gal
2
GlcNAc
2
Man
3
GlcNAc
2
(F)、Sia(α2-6)GalGlcNAc
2
Man
3
GlcNAc
2
(F)、Sia
2
(α2-6)Gal
2
GlcNAc
3
Man
3
GlcNAc
2
(F)、Sia(α2-6)Gal
2
GlcNAc
3
Man
3
GlcNAc
2
(F)、Sia(α2-6)GalGlcNAc
3
Man
3
GlcNAc
2
(F)、Sia
2
(α2-3)Gal
2
GlcNAc
2
Man
3
GlcNAc
2
(F)、Sia(α2-3)Gal
2
GlcNAc
3
Man
3
GlcNAc
2
(F)、Sia
2
(α2-3)Gal
2
GlcNAc
3
Man
3
GlcNAc
2
(F)、Sia(α2-3)Gal
2
GlcNAc
3
Man
3
GlcNAc
2
(F)、Sia
2
(α2-3/α2-6)Gal
2
GlcNAc
3
Man
3
GlcNAc
2
(F)、Sia
2
(α2-6/α2-3)Gal
2
GlcNAc
3
Man
3
GlcNAc
2
(F)、Sia
2
(α2-3/α2-6)Gal
2
GlcNAc
3
Man
3
GlcNAc
2
(F)およびSia
2
(α2-6/α2-3)Gal
2
GlcNAc
3
Man
3
GlcNAc
2
(F)からなる群より選択される、項目1に記載の組成物。
(項目12)
前記N-グリカンが、Sia
2
(α2-6)Gal
2
GlcNAc
2
Man
3
GlcNAc
2
、Sia(α2-6)GalGlcNAc
2
Man
3
GlcNAc
2
、Sia
2
(α2-3)Gal
2
GlcNAc
2
Man
3
GlcNAc
2
、Sia2(α2-3)Gal
2
GlcNAc
3
Man
3
GlcNAc
2
、Sia
2
(α2-3/α2-6)Gal
2
GlcNAc
3
Man
3
GlcNAc
2
、Sia
2
(α2-6/α2-3)Gal
2
GlcNAc
3
Man
3
GlcNAc
2
、Sia
2
(α2-6)Gal
2
GlcNAc
2
Man
3
GlcNAc
2
(F)、Sia(α2-6)GalGlcNAc
2
Man
3
GlcNAc
2
(F)、Sia
2
(α2-3)Gal
2
GlcNAc
2
Man
3
GlcNAc
2
(F)、Sia
2
(α2-3)Gal
2
GlcNAc
3
Man
3
GlcNAc
2
(F)、Sia
2
(α2-3/α2-6)Gal
2
GlcNAc
3
Man
3
GlcNAc
2
(F)およびSia
2
(α2-6/α2-3)Gal
2
GlcNAc
3
Man
3
GlcNAc
2
(F)からなる群より選択される、項目11に記載の組成物。
(項目13)
項目1から12までに記載の抗TNFα糖操作抗体群または抗原結合性断片の組成物と薬学的に許容される担体とを含む医薬製剤。
(項目14)
TNF媒介性炎症性疾患の処置を必要とするヒトにおいてTNF媒介性炎症性疾患を処置する方法であって、前記ヒトに有効量の項目13に記載の医薬組成物を投与するステップを含む、方法。
(項目15)
前記投与するステップが、前記ヒトに項目13に記載の医薬製剤を投与するステップを含む、項目14に記載の方法。
(項目16)
前記TNF媒介性炎症性疾患が、炎症性腸疾患、潰瘍性大腸炎、クローン病、関節リウマチ、乾癬、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎、または若年性特発性関節炎から選択される、項目14に記載の方法。
(項目17)
前記ヒトに少なくとも1種の抗TNF治療剤を投与するステップをさらに含む、項目14に記載の方法。
(項目18)
前記抗TNF治療剤がアダリムマブ、インフリキシマブまたはエタネルセプトである、項目17に記載の方法。
(項目19)
第2の治療剤を共投与としてまたは共製剤として前記患者に投与するステップをさらに含む、項目14に記載の方法。
(項目20)
脱フコシル化糖操作抗体を作出する方法であって、
(a)モノクローナル抗体をα-フコシダーゼおよび少なくとも1種のエンドグリコシダーゼと接触させ、それにより、Fc上に単一のN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)を有する脱フコシル化抗体を得るステップと、
(b)適切な条件下でGlcNAcに炭水化物部分を付加するステップと
を含む、方法。
(項目21)
フコシル化糖操作抗体を作出する方法であって、
(a)モノクローナル抗体を少なくとも1種のエンドグリコシダーゼと接触させ、それにより、Fc上に二糖(GlcNAc-Fuc)を有する抗体を得るステップと、
(b)適切な条件下で前記二糖のGlcNAcに炭水化物部分を付加するステップと
を含む、方法。
(項目22)
前記モノクローナル抗体が抗TNFαモノクローナル抗体である、項目20または21に記載の方法。
(項目23)
前記抗TNFαモノクローナル抗体がアダリムマブ、インフリキシマブまたはエタネルセプトである、項目22に記載の方法。
(項目24)
前記抗TNFα糖操作抗体群をin vitroで作製する、項目22に記載の方法。
(項目25)
前記抗TNFα糖操作抗体群を、細胞培養によって得られた抗体から酵素的に工学的に作製する、項目22に記載の方法。
(項目26)
チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株を使用して流加培養するステップを含む、項目25に記載の方法。
(項目27)
ステップ(b)の前記炭水化物部分が、Sia
2
(α2-6)Gal
2
GlcNAc
2
Man
3
GlcNAc
2
、Sia(α2-6)Gal
2
GlcNAc
2
Man
3
GlcNAc
2
、Sia(α2-6)GalGlcNAc
2
Man
3
GlcNAc
2
、Sia
2
(α2-6)Gal
2
GlcNAc
3
Man
3
GlcNAc
2
、Sia(α2-6)Gal
2
GlcNAc
3
Man
3
GlcNAc
2
、Sia(α2-6)GalGlcNAc
3
Man
3
GlcNAc
2
、Sia
2
(α2-3)Gal
2
GlcNAc
2
Man
3
GlcNAc
2、
Sia(α2-3)GalGlcNAc
3
Man
3
GlcNAc
2
、Sia
2
(α2-3)Gal
2
GlcNAc
3
Man
3
GlcNAc
2
、Sia(α2-3)Gal
2
GlcNAc
3
Man
3
GlcNAc
2
、Sia
2
(α2-3/α2-6)Gal
2
GlcNAc
3
Man
3
GlcNAc
2
、Sia
2
(α2-6/α2-3)Gal
2
GlcNAc
3
Man
3
GlcNAc
2
、Sia
2
(α2-3/α2-6)Gal
2
GlcNAc
3
Man
3
GlcNAc
2
、Sia
2
(α2-6/α2-3)Gal
2
GlcNAc
3
Man
3
GlcNAc
2
、Sia
2
(α2-6)Gal
2
GlcNAc
2
Man
3
GlcNAc
2
(F)、Sia(α2-6)Gal
2
GlcNAc
2
Man
3
GlcNAc
2
(F)、Sia(α2-6)GalGlcNAc
2
Man
3
GlcNAc
2
(F)、Sia
2
(α2-6)Gal
2
GlcNAc
3
Man
3
GlcNAc
2
(F)、Sia(α2-6)Gal
2
GlcNAc
3
Man
3
GlcNAc
2
(F)、Sia(α2-6)GalGlcNAc
3
Man
3
GlcNAc
2
(F)、Sia
2
(α2-3)Gal
2
GlcNAc
2
Man
3
GlcNAc
2
(F)、Sia(α2-3)Gal
2
GlcNAc
3
Man
3
GlcNAc
2
(F)、Sia
2
(α2-3)Gal
2
GlcNAc
3
Man
3
GlcNAc
2
(F)、Sia(α2-3)Gal
2
GlcNAc
3
Man
3
GlcNAc
2
(F)、Sia
2
(α2-3/α2-6)Gal
2
GlcNAc
3
Man
3
GlcNAc
2
(F)、Sia
2
(α2-6/α2-3)Gal
2
GlcNAc
3
Man
3
GlcNAc
2
(F)、Sia
2
(α2-3/α2-6)Gal
2
GlcNAc
3
Man
3
GlcNAc
2
(F)およびSia
2
(α2-6/α2-3)Gal
2
GlcNAc
3
Man
3
GlcNAc
2
(F)からなる群より選択される、項目20または21に記載の方法。
(項目28)
ステップ(b)の前記炭水化物部分が、Sia
2
(α2-6)Gal
2
GlcNAc
2
Man
3
GlcNAc、Sia(α2-6)GalGlcNAc
2
Man
3
GlcNAc、Sia
2
(α2-3)Gal
2
GlcNAc
2
Man
3
GlcNAc、Sia2(α2-3)Gal
2
GlcNAc
3
Man
3
GlcNAc、Sia
2
(α2-3/α2-6)Gal
2
GlcNAc
3
Man
3
GlcNAc、Sia
2
(α2-6/α2-3)Gal
2
GlcNAc
3
Man
3
GlcNAc、Sia
2
(α2-6)Gal
2
GlcNAc
2
Man
3
GlcNAc(F)、Sia(α2-6)GalGlcNAc
2
Man
3
GlcNAc(F)、Sia
2
(α2-3)Gal
2
GlcNAc
2
Man
3
GlcNAc(F)、Sia
2
(α2-3)Gal
2
GlcNAc
3
Man
3
GlcNAc(F)、Sia
2
(α2-3/α2-6)Gal
2
GlcNAc
3
Man
3
GlcNAc(F)およびSia
2
(α2-6/α2-3)Gal
2
GlcNAc
3
Man
3
GlcNAc(F)からなる群より選択される、項目27に記載の方法。
(項目29)
ステップ(b)の前記付加をトランスグリコシラーゼによって行う、項目20または21に記載の方法。
(項目30)
前記エンドグリコシダーゼが、EndoA、EndoF、EndoF1、EndoF2、EndoF3、EndoH、EndoM、EndoSまたはそのバリアントである、項目20または21に記載の方法。
(項目31)
前記α-フコシダーゼが、配列番号5と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有するポリペプチドを含む、項目20に記載の方法。
(項目32)
前記α-フコシダーゼが組換えBacteroides α-フコシダーゼである、項目20に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】
図1は、抗TNFαGAb201および101(上)、ならびにGAb200および401(下)についてのSDS-PAGE分析を示す図である。抗TNFαGAb101(上)、およびGAb401(下)についてのN-グリカンプロファイリング。
【0038】
【
図2】
図2は、TNFαの抗TNFαGAb200、401およびアダリムマブに対する結合親和性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
したがって、改善された抗TNFα抗体を用いてモノクローナル抗体療法を改善することが依然として必要とされている。グリコシル化パターンの不均一な混合物中の数種類の特定のグリコフォームにより所望の生物学的機能が付与されることが公知である。したがって、治療目的で、所望のグリコフォームとして明確に定義されたグリカン構造および配列を含有する治療用抗体を生成することが大変興味深い。
【0040】
本開示は、「糖操作抗体群(glycoantibodies)」という名称の新規クラスのモノクローナル抗体の開発に関する。「糖操作抗体群(glycoantibodies)」という用語は、本発明者、Chi-Huey Wong博士により造り出されたものであり、Fc上に単一の一様なグリコフォームを有するモノクローナル抗体(好ましくは、治療用モノクローナル抗体)の均一な集団を指す。均一な集団を構成する個々の糖操作抗体群は同一であり、同じエピトープに結合し、また、明確に定義されたグリカン構造および配列を有する同じFcグリカンを含有する。
【0041】
本発明の実施では、別段の指定のない限り、当技術分野の技術の範囲内に入る分子生物学、微生物学、組換えDNA、および免疫学の従来の技法を使用する。そのような技法は、文献において十分に説明されている。例えば、Molecular Cloning A Laboratory Manual、第2版、Sambrook、FritschおよびManiatis編(Cold Spring Harbor Laboratory Press、1989年);DNA Cloning、I巻およびII巻(D. N. Glover編、1985年);Culture Of Animal Cells(R. I. Freshney、Alan R. Liss, Inc.、1987年);Immobilized Cells And Enzymes(IRL Press、1986年);B. Perbal、A Practical Guide To Molecular Cloning(1984年);論文集、Methods In Enzymology(Academic Press, Inc.、N.Y.);Gene Transfer Vectors For Mammalian Cells(J. H. MillerおよびM. P. Calos編、1987年、Cold Spring Harbor Laboratory);Methods In Enzymology、154巻および155巻(Wuら編)、Immunochemical Methods In Cell And Molecular Biology(MayerおよびWalker編、Academic Press、London、1987年);Antibodies: A Laboratory Manual、HarlowおよびLanes(Cold Spring Harbor Laboratory Press、1988年);およびHandbook Of Experimental Immunology、I~IV巻(D. M. WeirおよびC. C. Blackwell編、1986年)を参照されたい。
【0042】
定義:
本明細書で使用される場合、「抗TNFα糖操作抗体群」(「抗TNFαGAbs」)という用語は、Fc上に同じグリコフォームを有する抗TNFαIgG分子の均一な集団を指す。「抗TNFα糖操作抗体」(「抗TNFαGAb」)という用語は、抗TNFα糖操作抗体群内の個々のIgG抗体分子を指す。本明細書で使用される場合、「分子」とは、抗原結合性断片も指し得る。
【0043】
本明細書で使用される場合、「グリカン」という用語は、多糖、オリゴ糖または単糖を指す。グリカンは糖残基の単量体であってもポリマーであってもよく、直鎖であっても分枝していてもよい。グリカンとしては、天然の糖残基(例えば、グルコース、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルノイラミン酸、ガラクトース、マンノース、フコース、ヘキソース、アラビノース、リボース、キシロースなど)および/または修飾された糖(例えば、2’-フルオロリボース、2’-デオキシリボース、ホスホマンノース、6’スルホN-アセチルグルコサミンなど)が含まれ得る。本明細書で使用される場合、「グリカン」という用語は、多糖、オリゴ糖または単糖を指す。グリカンは糖残基の単量体であってもポリマーであってもよく、直鎖であっても分枝していてもよい。グリカンには、天然の糖残基(例えば、グルコース、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルノイラミン酸、ガラクトース、マンノース、フコース、ヘキソース、アラビノース、リボース、キシロースなど)および/または修飾された糖(例えば、2’-フルオロリボース、2’-デオキシリボース、ホスホマンノース、6’-スルホN-アセチルグルコサミンなど)が含まれ得る。グリカンとは、本明細書では、糖タンパク質、糖脂質、グリコペプチド、グリコプロテオーム、ペプチドグリカン、リポ多糖またはプロテオグリカンなどの複合糖質の炭水化物部分を指すためにも使用される。グリカンは、通常、単糖間のO-グリコシド結合のみからなる。例えば、セルロースはβ-1,4結合したD-グルコースで構成されるグリカン(または、より詳細にはグルカン)であり、キチンはβ-1,4結合したN-アセチル-D-グルコサミンで構成されるグリカンである。グリカンは、単糖残基のホモポリマーであってもヘテロポリマーであってもよく、直鎖であっても分枝していてもよい。グリカンは、糖タンパク質およびプロテオグリカンのようにタンパク質に付着して見いだされ得る。グリカンは、一般に、細胞の外表面上に見いだされる。O結合およびN結合グリカンは、真核生物では非常に一般的であるが、原核生物においても、一般的ではないが見いだされ得る。N結合グリカンは、シークオン(sequon)内のアスパラギンのR基窒素(N)に付着して見いだされる。シークオンは、Asn-X-SerまたはAsn-X-Thr配列であり、Xはプロリン以外の任意のアミノ酸である。
【0044】
本明細書で使用される場合、「フコース」、「コアフコース」および「コアフコース残基」という用語は、互換的に使用され、N-アセチルグルコサミンとα1,6位結合したフコースを指す。
【0045】
本明細書で使用される場合、「フコシル化された」という用語は、FcのN-グリカンにコアフコースが存在することを指し、「脱フコシル化された」という用語は、FcのN-グリカンにコアフコースが存在しないことを指す。
【0046】
本明細書で使用される場合、「N-グリカン」、「N結合グリカン」、「N結合グリコシル化」、「Fcグリカン」および「Fcグリコシル化」という用語は、互換的に使用され、Fcを含有するポリペプチド内のアスパラギン残基のアミド窒素と結合したN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)が付着したN結合オリゴ糖を指す。「Fcを含有するポリペプチド」という用語は、Fc領域を含む、抗体などのポリペプチドを指す。
【0047】
本明細書で使用される場合、「グリコシル化パターン」および「グリコシル化プロファイル」という用語は、互換的に使用され、糖タンパク質または抗体から酵素的にまたは化学的に放出され、次いで、それらの炭水化物構造について、例えば、LC-HPLC、またはMALDI-TOF MSなどを使用して分析されたN-グリカン種の特徴的な「指紋」を指す。例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、Current Analytical Chemistry、1巻、1号(2005年)、28~57頁の総説を参照されたい。
【0048】
本明細書で使用される場合、「糖鎖工学により操作されたFc」という用語は、本明細書で使用される場合、Fc領域上のN-グリカンが、酵素的にまたは化学的に変更または工学的に操作されていることを指す。「Fc糖鎖工学」という用語は、本明細書で使用される場合、糖鎖工学により操作されたFcを作出するために使用される酵素的または化学的なプロセスを指す。工学的操作の典型的な方法は、例えば、その内容が本明細書によって参照により組み込まれるWongら、USSN12/959,351に記載されている。ある特定の実施形態では、グリカンは、エンド-GlcNACaseおよびフコシダーゼを使用することによって、次いで、エンド-S変異体およびグリカンオキサゾリンを使用することによって調製することができる。
【0049】
「エフェクター機能」という用語は、本明細書で使用される場合、抗体Fc領域のFc受容体またはリガンドとの相互作用によって生じる生化学的事象を指す。例示的な「エフェクター機能」としては、C1q結合;補体依存性細胞傷害;Fc受容体結合;抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC);食作用;細胞表面受容体(例えばB細胞受容体;BCR)の下方制御などが挙げられる。そのようなエフェクター機能は、当技術分野で公知の様々なアッセイを使用して評価することができる。
【0050】
本明細書で使用される場合、「抗体依存性細胞媒介性細胞傷害」または「ADCC」という用語は、ある特定の細胞傷害性細胞(例えば、ナチュラルキラー(NK)細胞、好中球、およびマクロファージ)上に存在するFc受容体(FcR)に結合した、分泌されたIgにより、これらの細胞傷害性エフェクター細胞が抗原を有する標的細胞に特異的に結合し、その後、細胞毒により標的細胞を死滅させることが可能になる、細胞傷害性の形態を指す。抗体は、細胞傷害性細胞を「武装」させるものであり、そのような死滅に絶対必要なものである。ADCCを媒介する一次細胞であるNK細胞はFcγRIIIのみを発現するが、単球はFcγRI、FcγRIIおよびFcγRIIIを発現する。造血細胞におけるFcR発現は、RavetchおよびKinet、Annu. Rev. Immunol 9巻:457~92頁(1991年)の464頁、表3に要約されている。目的の分子のADCC活性を評価するために、米国特許第5,500,362号または米国特許第5,821,337号に記載されているものなどのin vitro ADCCアッセイを実施することができる。そのようなアッセイのための有用なエフェクター細胞としては、末梢血単核細胞(PBMC)およびナチュラルキラー(NK)細胞が挙げられる。その代わりにまたはそれに加えて、目的の分子のADCC活性は、in vivoにおいて、例えば、Clynesら、PNAS(USA)95巻:652~656頁(1998年)に開示されているものなどの動物モデルにおいて評価することができる。
【0051】
「補体依存性細胞傷害」または「CDC」という用語は、本明細書で使用される場合、補体の存在下での標的細胞の溶解を指す。古典的な補体経路の活性化は、同族抗原に結合する抗体(適切なサブクラスのもの)に補体系の第1の構成成分(C1q)が結合することによって開始される。補体活性化を評価するために、例えば、Gazzano-Santoroら、J. Immunol. Methods 202巻:163頁(1996年)に記載のCDCアッセイを実施することができる。
【0052】
「アポトーシスを誘導する」抗体とは、アネキシンVの結合、DNAの断片化、細胞の収縮、小胞体の拡大、細胞断片化、および/または膜小胞(アポトーシス小体と称される)の形成によって決定されるプログラム細胞死を誘導する抗体である。細胞は、感染細胞であることが好ましい。アポトーシスに関連する細胞事象を評価するために種々の方法が利用可能である。例えば、ホスファチジルセリン(PS)のトランスロケーションはアネキシン結合によって測定することができ、DNA断片化はDNAラダー化によって評価することができ、DNA断片化に伴う核/クロマチン凝縮は低二倍体細胞の何らかの増加によって評価することができる。アポトーシスを誘導する抗体は、アネキシン結合アッセイにおいて、無処理の細胞に対して約2~50倍、好ましくは約5~50倍、最も好ましくは約10~50倍のアネキシン結合の誘導をもたらす抗体であることが好ましい。
【0053】
「キメラ」抗体(免疫グロブリン)は、特定の種に由来するまたは特定の抗体クラスまたはサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一または相同である重鎖および/または軽鎖の一部を有し、鎖(複数可)の残りは、別の種に由来するまたは別の抗体クラスまたはサブクラスに属する抗体、ならびに所望の生物活性を示す限りはそのような抗体の断片、の対応する配列と同一または相同である(米国特許第4,816,567号;およびMorrisonら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81巻:6851~6855頁(1984年))。ヒト化抗体とは、本明細書で使用される場合、キメラ抗体のサブセットである。
【0054】
非ヒト(例えば、マウス)抗体の「ヒト化」形態は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小の配列を含有するキメラ抗体である。ほとんどの部分に関して、ヒト化抗体は、レシピエントの超可変領域残基が所望の特異性、親和性、および能力を有するマウス、ラット、ウサギまたは非ヒト霊長類などの非ヒト種(ドナー抗体)由来の超可変領域残基で置き換えられた、ヒト免疫グロブリン(レシピエントまたはアクセプター抗体)である。いくつかの場合には、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク領域(FR)残基が対応する非ヒト残基で置き換えられている。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体またはドナー抗体においては見いだされない残基を含んでよい。これらの改変は、結合親和性などの抗体の性能をさらに磨くために行われる。一般に、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、一般には2つの可変ドメインの実質的に全てを含み、ここで、超可変ループの全てまたは実質的に全てが非ヒト免疫グロブリンの超可変ループに対応し、FR領域の全てまたは実質的に全てがヒト免疫グロブリン配列のFR領域であるが、FR領域は結合親和性を改善する1つまたは複数のアミノ酸置換を含んでよい。FRにおけるこれらのアミノ酸置換の数は、一般には、H鎖では6以下であり、L鎖では3以下である。ヒト化抗体は、場合により、一般にはヒト免疫グロブリンのものである免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部分も含む。さらなる詳細に関しては、Jonesら、Nature 321巻:522~525頁(1986年);Reichmannら、Nature 332巻:323~329頁(1988年);およびPresta、Curr. Op. Struct. Biol. 2巻:593~596頁(1992年)を参照されたい。
【0055】
「処置すること(treating)」または「処置(treatment)」または「緩和」とは、治療的処置および予防または防止措置の両方を指し、ここで、目的は、標的とした病的状態または障害を防止するまたは減速させる(減らす)ことである。処置を必要とするものとしては、すでに障害を有するものならびに障害を有しやすいものまたは障害が防止されるべきものが挙げられる。被験体または哺乳動物は、治療量の抗体を本発明の方法に従って受けた後、患者が以下のうちの1つまたは複数の観察可能かつ/または測定可能な低下または不在を示した場合、感染に対して成功裏に「処置」されている:感染細胞の数の低下または感染細胞の不在;感染した総細胞のパーセントの低下;ならびに/または特定の感染に付随する症状のうちの1つまたは複数のいくらかの程度までの軽減;罹患率および死亡率の低下、ならびに生活の質の問題の改善。疾患における成功裏の処置および改善を評価するための上記のパラメータは医師によく知られている常套的な手順によって容易に測定可能である。
【0056】
1種または複数種の別の治療剤「と組み合わせた(in combination with)」投与は、同時(並行(concurrent))投与および任意の順序での連続した(consecutive)投与を含む。
【0057】
「担体」とは、本明細書で使用される場合、使用される投与量および濃度でそれに暴露される細胞または哺乳動物に対して非毒性である、薬学的に許容される担体、賦形剤、または安定剤を含む。多くの場合、生理的に許容される担体は、水性pH緩衝溶液である。生理的に許容される担体の例としては、リン酸、クエン酸、および他の有機酸などの緩衝液;アスコルビン酸を含めた抗酸化剤;低分子量(約10残基未満の)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、もしくは免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンもしくはリシンなどのアミノ酸;グルコース、マンノース、もしくはデキストリンを含めた単糖、二糖、および他の炭水化物;EDTAなどのキレート剤;マンニトールもしくはソルビトールなどの糖アルコール;ナトリウムなどの塩形成性対イオン;ならびに/またはTWEEN(商標)ポリエチレングリコール(PEG)、およびPLURONICS(商標)などの非イオン性界面活性剤が挙げられる。
【0058】
「糖操作抗体群(glycoantibodies)」という用語は、本発明者、Chi-Huey Wong博士により造り出されたものであり、単一の一様化されたグリコフォームがFc領域に結合したモノクローナル抗体(好ましくは、治療用モノクローナル抗体)の均一な集団を指す。基本的に均一な集団を構成する個々の糖操作抗体群は同一であり、同じエピトープに結合し、また、明確に定義されたグリカン構造および配列を有する同じFcグリカンを含有する。
【0059】
「均一な(homogeneous)」、「一様な(uniform)」、「一様に(uniformly)」および「均一性(homogeneity)」という用語は、Fc領域のグリコシル化プロファイルに関しては、互換的に使用され、1つの所望のN-グリカン種によって単一のグリコシル化パターンが表され、前駆N-グリカンの痕跡量はほとんどないまたは全くないことを意味するものとする。ある特定の実施形態では、前駆N-グリカンの痕跡量は約2%未満である。
【0060】
「基本的に純粋な」タンパク質とは、組成物の総重量に基づいて、例えば、少なくとも約91重量%、少なくとも約92重量%、少なくとも約93重量%、少なくとも約94重量%、少なくとも約95重量%、少なくとも約96重量%、少なくとも約97重量%、少なくとも約98重量%、または少なくとも約99重量%を含め、少なくとも約90重量%のタンパク質を含む組成物を意味する。
【0061】
「基本的に均一な」タンパク質は、組成物の総重量に基づいて、例えば、少なくとも約98.5%、少なくとも約99%を含め、少なくとも約98重量%のタンパク質で構成される組成物を意味する。ある特定の実施形態では、タンパク質は、抗体、構造バリアント、および/またはその抗原結合性断片である。
【0062】
本明細書で使用される場合、「IgG」、「IgG分子」、「モノクローナル抗体」、「免疫グロブリン」、および「免疫グロブリン分子」という用語は、互換的に使用される。本明細書で使用される場合、「分子」とは、抗原結合性断片も指し得る。
【0063】
本明細書で使用される場合、「Fc受容体」または「FcR」という用語は、抗体のFc領域に結合する受容体について述べるものである。好ましいFcRは、ネイティブな配列のヒトFcRである。さらに、好ましいFcRはIgG抗体に結合するもの(ガンマ受容体)であり、これらの受容体の対立遺伝子バリアントおよび代替的にスプライスされた形態を含め、FcγRIサブクラスの受容体(CD64)、FcγRIIサブクラスの受容体(CD32)、およびFcγRIIIサブクラスの受容体(CD16)が挙げられる。FcγRII受容体としてはFcγRIIA(「活性化受容体」)およびFcγRIIB(「抑制受容体(inhibiting receptor)」)があり、これらは、同様のアミノ酸配列を有し、主にその細胞質ドメインが異なる。活性化受容体FcγRIIAは、細胞質ドメイン内に免疫受容活性化チロシンモチーフ(ITAM)を含有する。抑制受容体FcγRIIBは、細胞質ドメイン内に免疫受容抑制性チロシンモチーフ(ITIM)を含有する(総説、M.in Daeron、Annu.Rev.Immunol. 15巻:203~234頁(1997年)を参照されたい)。FcRは、RavetchおよびKinet、Annu. Rev. Immunol 9巻:457~92頁(1991年);Capelら、Immunomethods 4巻:25~34頁(1994年);およびde Haasら、J. Lab. Clin. Med. 126巻:330~41頁(1995年)に概説されている。今後同定されるものを含めた他のFcRが本明細書における「FcR」という用語に包含される。この用語は、母系IgGの胎児への移行に関与する新生児受容体、FcRnも包含する(Guyerら、J. Immunol. 117巻:587頁(1976年)およびKimら、J. Immunol. 24巻:249頁(1994年))。
【0064】
本明細書で使用される場合、「抗原」という用語は、免疫応答を引き出すことができる任意の物質と定義される。本明細書で使用される場合、「抗原特異的」という用語は、特定の抗原または抗原の断片の供給により特異的な細胞増殖がもたらされるような細胞集団の性質を指す。
【0065】
本明細書で使用される場合、「免疫原性」という用語は、免疫応答を刺激する免疫原、抗原、またはワクチンの能力を指す。
【0066】
本明細書で使用される場合、「エピトープ」という用語は、抗体またはT細胞受容体の抗原結合部位と接触する、抗原分子の一部と定義される。
【0067】
本明細書で使用される場合、「特異的に結合すること」という用語は、結合対(例えば、抗体と抗原)間の相互作用を指す。種々の例では、特異的に結合することは、約10-6モル/リットル、約10-7モル/リットル、または約10-8モル/リットル、またはそれ未満の親和性定数によって具体化することができる。
【0068】
「単離された」抗体とは、同定され、その天然の環境の構成成分から分離および/または回収された抗体である。その天然の環境の混入構成成分は、抗体の研究、診断または治療的な使用に干渉する材料であり、それらとして、酵素、ホルモン、および他のタンパク質性または非タンパク質性溶質が挙げられる。
【0069】
「実質的に類似した」、「実質的に同じ」、「等価の」、または「実質的に等価の」という句は、本明細書で使用される場合、2つの数値(例えば、一方が分子に関連し、他方が参照/比較用(comparator)分子に関連する)間の類似性の程度が十分に高く、したがって、当業者により、前記値(例えば、Kd値、抗ウイルス効果など)により測定される生物学的特性の文脈内で、その2つの値の差異の生物学的および/または統計的有意性がほとんどまたは全くないとみなされるだろうことを示す。前記2つの値の差異は、参照/比較用分子についての値の関数として、例えば、約50%未満、約40%未満、約30%未満、約20%未満、および/または約10%未満である。
【0070】
「実質的に低下した」または「実質的に異なる」という句は、本明細書で使用される場合、2つの数値(一般に、一方が分子に関連し、他方が参照/比較用分子に関連する)の差異の程度が十分に高く、したがって、当業者により、前記値(例えば、Kd値)により測定される生物学的特性の文脈内で、その2つの値の差異が統計的に有意であるとみなされるだろうことを示す。前記2つの値の差異は、参照/比較用分子についての値の関数として、例えば、約10%超、約20%超、約30%超、約40%超、および/または約50%超である。
【0071】
「結合親和性」とは、一般に、分子(例えば、抗体)の単一の結合性部位とその結合パートナー(例えば、抗原)の間の非共有結合性の相互作用の総計の強度を指す。別段の指定のない限り、本明細書で使用される場合、「結合親和性」とは、結合対(例えば、抗体と抗原)のメンバー間の1:1相互作用を反映する内因性の結合親和性を指す。分子XのそのパートナーYに対する親和性は、一般に、解離定数(Kd)によって表すことができる。親和性は、本明細書に記載のものを含めた当技術分野で公知の一般的な方法によって測定することができる。低親和性抗体は、一般に、抗原にゆっくりと結合し、容易に解離する傾向があるが、高親和性抗体は、一般に、抗原により速く結合し、より長く結合したままである傾向がある。結合親和性を測定する種々の方法は当技術分野で公知であり、そのいずれも本発明の目的に関して使用することができる。特定の例示的な実施形態は以下に記載されている。
【0072】
抗体の「可変領域」または「可変ドメイン」とは、抗体の重鎖または軽鎖のアミノ末端ドメインを指す。これらのドメインは、一般に、抗体の最も可変性の部分であり、抗原結合部位を含有する。
【0073】
「可変性」という用語は、可変ドメインのある特定の部分が、その配列が抗体の間で広範囲にわたって異なり、特定の抗体のそれぞれのその特定の抗原に対する結合および特異性に使用されるという事実を指す。しかし、可変性は抗体の可変ドメイン全体を通して一様に分布しているのではない。可変性は、軽鎖可変ドメインおよび重鎖可変ドメインの両方にある相補性決定領域(CDR)または超可変領域と称される3つのセグメントに集中している。可変ドメインのより高度に保存された部分は、フレームワーク(FR)と称される。ネイティブな重鎖および軽鎖の可変ドメインはそれぞれ、大部分がベータ-シート立体配置をとっている4つのFR領域を含み、これは、ベータ-シート構造の一部と接続し、いくつかの場合にはそれを形成するループを形成する3つのCDRと接続している。各鎖のCDRはFR領域の極めて近傍に一緒に保持され、他の鎖由来のCDRと共に、抗体の抗原結合部位の形成に寄与する(Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、National Institute of Health、Bethesda、Md(1991年)を参照されたい)。定常ドメインは抗体の抗原への結合に直接関与しないが、抗体依存性細胞傷害(antibody-dependent cellular toxicity)への抗体の関与などの、種々のエフェクター機能を示す。
【0074】
抗体のパパイン消化により、それぞれが単一の抗原結合部位を有する「Fab」断片と称される2つの同一の抗原結合性断片と、容易に結晶化できることが名称に反映されている残りの「Fc」断片とが生じる。ペプシン処理により、抗原結合性部位を2つ有し、なお抗原と架橋結合することが可能なF(ab’)2断片がもたらされる。
【0075】
「Fv」は、完全な抗原認識および抗原結合部位を含有する最小の抗体断片である。二本鎖Fv種では、この領域は、密接に非共有結合により結びついた重鎖可変ドメイン1つと軽鎖可変ドメイン1つの二量体からなる。単鎖Fv種では、重鎖可変ドメイン1つと軽鎖可変ドメイン1つが柔軟なペプチドリンカーによって共有結合により連結していてよく、したがって、軽鎖および重鎖が二本鎖Fv種のものと類似した「二量体」構造で結びついていてよい。この立体配置では、各可変ドメインの3つのCDRが相互作用してVH-VL二量体の表面上の抗原結合部位が規定される。集合的に、6つのCDRによって抗原結合特異性が抗体に付与される。しかし、単一の可変ドメイン(または抗原に特異的なCDRを3つのみ含むFvの半分)でさえ、結合性部位全体よりも親和性は低いが、抗原を認識し、それに結合する能力を有する。
【0076】
Fab断片は、軽鎖の定常ドメインおよび重鎖の第1の定常ドメイン(CH1)も含有する。Fab’断片は、抗体ヒンジ領域由来の1つまたは複数のシステインを含めた重鎖CH1ドメインのカルボキシ末端の数残基の付加により、Fab断片とは異なる。Fab’-SHとは、本明細書では、定常ドメインのシステイン残基(複数可)に遊離のチオール基を有するFab’に対する名称である。F(ab’)2抗体断片は、最初は、間にヒンジシステインを有するFab’断片の対として生じた。抗体断片の他の化学的カップリングも公知である。
【0077】
任意の脊椎動物種に由来する抗体(免疫グロブリン)の「軽鎖」は、それらの定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)およびラムダ(λ)と称される、2つの明白に異なる型のうちの一方に割り当てることができる。
【0078】
抗体(免疫グロブリン)は、重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に応じて、異なるクラスに割り当てることができる。免疫グロブリンには主要なクラスが5つ存在する:IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgM、これらの一部は、サブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、およびIgA2にさらに分けられる。異なるクラスの免疫グロブリンに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれα、δ、ε、γ、およびμと称される。異なるクラスの免疫グロブリンのサブユニット構造および3次元立体配置は周知であり、一般に、例えば、Abbasら、Cellular and Mol. Immunology、第4版(2000年)に記載されている。抗体は、抗体と1つまたは複数の他のタンパク質またはペプチドとの共有結合または非共有結合による結びつきによって形成されるより大きな融合分子の一部であってよい。
【0079】
「全長抗体」、「インタクトな抗体」および「全抗体」という用語は、本明細書では互換的に使用され、下で定義される通り、抗体断片ではなく実質的にインタクトな形態にある抗体を指す。この用語は、特に、Fc領域を含有する重鎖を有する抗体を指す。
【0080】
「抗体断片」は、インタクトな抗体の一部分のみを含み、その部分は、インタクトな抗体内に存在する場合にその部分に通常付随する機能の少なくとも1つ、できるだけ多く、大多数または全てを保持する。一実施形態では、抗体断片は、インタクトな抗体の抗原結合部位を含み、したがって、抗原に結合する能力を保持する。別の実施形態では、抗体断片、例えば、Fc領域を含む断片は、FcRn結合、抗体半減期調節、ADCC機能および補体結合などの、Fc領域がインタクトな抗体内に存在する場合に通常付随する生物学的機能の少なくとも1つを保持する。一実施形態では、抗体断片は、インタクトな抗体と実質的に類似したin vivo半減期を有する一価抗体である。例えば、そのような抗体断片は、断片にin vivoにおける安定性を付与することが可能なFc配列に連結した抗原結合性アームを含んでよい。
【0081】
「モノクローナル抗体」という用語は、本明細書で使用される場合、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体を指す、すなわち、集団を構成する個々の抗体は、微量に存在し得る、可能性のある天然に存在する変異以外は同一である。したがって、「モノクローナル」という修飾語は、別個の抗体の混合物ではないという抗体の特性を示す。そのようなモノクローナル抗体は、一般には、標的に結合するポリペプチド配列を含む抗体を含み、ここで、標的結合性ポリペプチド配列は、複数のポリペプチド配列から単一の標的結合性ポリペプチド配列を選択することを含むプロセスによって得られたものである。例えば、選択プロセスは、ハイブリドーマクローン、ファージクローンまたは組換えDNAクローンのプールなどの複数のクローンから固有のクローンを選択することであってよい。例えば、標的に対する親和性を改善するため、標的結合配列をヒト化するため、細胞培養物中でのその産生を改善するため、in vivoにおけるその免疫原性を低下させるため、多重特異性抗体を創出するためなどで、選択された標的結合配列をさらに変更できること、および、変更された標的結合配列を含む抗体も本発明のモノクローナル抗体であることが理解されるべきである。一般には異なる決定因子(エピトープ)を対象とする異なる抗体を含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、モノクローナル抗体調製物の各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定因子を対象とする。モノクローナル抗体調製物は、それらの特異性に加えて、一般には他の免疫グロブリンが混入していないという点で有利である。「モノクローナル」という修飾語は、抗体の実質的に均一な集団から得られるという抗体の特性を示すものであり、任意の特定の方法による抗体の作製が必要であるとは解釈されない。例えば、本発明に従って使用されるモノクローナル抗体は、例えば、ハイブリドーマ法(例えば、Kohlerら、Nature、256巻:495頁(1975年);Harlowら、Antibodies: A Laboratory Manual(Cold Spring Harbor Laboratory Press、第2版、1988年);Hammerlingら、Monoclonal Antibodies and T-Cell hybridomas 563~681頁(Elsevier、N.Y.、1981年))、組換えDNA法(例えば、米国特許第4,816,567号を参照されたい)、ファージディスプレイ技術(例えば、Clacksonら、Nature、352巻:624~628頁(1991年);Marksら、J. Mol. Biol. 222巻:581~597頁(1992年);Sidhuら、J. Mol. Biol. 338巻(2号):299~310頁(2004年);Leeら、J. Mol. Biol. 340巻(5号):1073~1093頁(2004年);Fellouse、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101巻(34号):12467~12472頁(2004年);およびLeeら、J. Immunol. Methods 284巻(1~2号):119~132頁(2004年)を参照されたい)、およびヒト免疫グロブリン配列をコードするヒト免疫グロブリン遺伝子座または遺伝子の一部または全部を有する動物においてヒトまたはヒト様抗体を産生させるための技術(例えば、WO98/24893;WO96/34096;WO96/33735;WO91/10741;Jakobovitsら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90巻:2551頁(1993年);Jakobovitsら、Nature 362巻:255~258頁(1993年);Bruggemannら、Year in Immunol. 7巻:33頁(1993年);米国特許第5,545,807号;5,545,806号;5,569,825号;5,625,126号;5,633,425号;5,661,016号;Marksら、Bio. Technology 10巻:779~783頁(1992年);Lonbergら、Nature 368巻:856~859頁(1994年);Morrison、Nature 368巻:812~813頁(1994年);Fishwildら、Nature Biotechnol. 14巻:845~851頁(1996年);Neuberger、Nature Biotechnol. 14巻:826頁(1996年)およびLonbergおよびHuszar、Intern. Rev. Immunol. 13巻:65~93頁(1995年)を参照されたい)を含めた様々な技法によって作出することができる。
【0082】
本明細書のモノクローナル抗体は、詳細には、重鎖および/または軽鎖の一部が特定の種に由来するまたは特定の抗体クラスまたはサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一または相同であり、鎖(複数可)の残りは、別の種に由来するまたは別の抗体クラスまたはサブクラスに属する抗体、ならびに所望の生物活性を示す限りはそのような抗体の断片、の対応する配列と同一または相同である「キメラ」抗体を含む(米国特許第4,816,567号;およびMorrisonら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81巻:6851~6855頁(1984年))。
【0083】
以下の総説論文およびそこに引用されている参考文献も参照されたい:VaswaniおよびHamilton、Ann. Allergy, Asthma & Immunol. 1巻:105~115頁(1998年);Harris、Biochem. Soc. Transactions 23巻:1035~1038頁(1995年);HurleおよびGross、Curr. Op. Biotech. 5巻:428~433頁(1994年)。
【0084】
「超可変領域」、「HVR」、または「HV」という用語は、本明細書で使用される場合、配列内で超可変性であり、および/または構造的に定義されているループを形成する抗体可変ドメインの領域を指す。一般に、抗体は、6つの超可変領域を含む;VHに3つ(H1、H2、H3)、およびVLに3つ(L1、L2、L3)。いくつもの超可変領域の記述が使用されており、本明細書に包含される。Kabat相補性決定領域(CDR)は配列の可変性に基づくものであり、最も一般的に使用されている(Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda、Md.(1991年))。Chothiaは、その代わりに、構造ループの場所に言及する(ChothiaおよびLesk J. Mol. Biol. 196巻:901~917頁(1987年))。AbM超可変領域は、Kabat CDRとChothia構造ループの折衷を示すものであり、Oxford Molecular’s AbM antibody modeling softwareに使用されている。「contact」超可変領域は、入手可能な複合体結晶構造の解析に基づくものである。これらの超可変領域のそれぞれに由来する残基を以下に示す。
ループ Kabat AbM Chothia Contact
L1 L24-L34 L24-L34 L26-L32 L30-L36
L2 L50-L56 L50-L56 L50-L52 L46-L55
L3 L89-L97 L89-L97 L91-L96 L89-L96
H1 H31-H35B H26-H35B H26-H32 H30-H35B
(Kabat番号付け)
H1 H31-H35 H26-H35 H26-H32 H30-H35
(Chothia番号付け)
H2 H50-H65 H50-H58 H53-H55 H47-H58
H3 H95-H102 H95-H102 H96-H101 H93-H101
【0085】
超可変領域は、以下の通り「伸長された超可変領域」を含み得る:VLにおける24-36または24-34(L1)、46-56または50-56または49-56(L2)および89-97または89-96(L3)、ならびにVHにおける26-35(H1)、50-65または49-65(H2)および93-102、94-102、または95-102(H3)。可変ドメイン残基は、これらの定義のそれぞれについて、Kabatら、上記に従って番号付けされる。
【0086】
「フレームワーク」または「FR」残基とは、本明細書において定義される超可変領域残基以外の可変ドメイン残基である。
【0087】
「Kabatと同様の可変ドメイン残基の番号付け」または「Kabatと同様のアミノ酸位番号付け」という用語およびその変形は、Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda、Md.(1991年)における抗体の編集物(compilation)の重鎖可変ドメインまたは軽鎖可変ドメインのために使用される番号付け系を指す。この番号付け系を使用して、実際の直鎖状アミノ酸配列は、可変ドメインのFRまたはHVRにおける短縮、または挿入に対応して、より少ないまたは追加的なアミノ酸を含有し得る。例えば、重鎖可変ドメインは、H2の残基52の後ろに単一のアミノ酸挿入(Kabatに従って残基52a)、および重鎖FR残基82の後ろに挿入残基(Kabatに従って例えば残基82a、82b、および82cなど)を含み得る。所与の抗体について、「標準の」Kabat番号付けされた配列を有する抗体の配列の相同性の領域におけるアラインメントによって残基のKabat番号付けを決定することができる。
【0088】
「単鎖Fv」または「scFv」抗体断片は、抗体のVHドメインおよびVLドメインを含み、これらのドメインは単一のポリペプチド鎖内に存在する。一般に、scFvポリペプチドは、VHドメインとVLドメインの間にポリペプチドリンカーをさらに含み、これにより、scFvが抗原結合のための所望の構造を形成することが可能になる。scFvの概説については、Pluckthun、The Pharmacology of Monoclonal Antibodies、113巻、RosenburgおよびMoore編、Springer-Verlag、New York、269~315頁(1994年)を参照されたい。
【0089】
「ダイアボディ(diabody)」という用語は、2つの抗原結合部位を有する小さな抗体断片を指し、断片は、同じポリペプチド鎖内で接続した重鎖可変ドメイン(VH)と軽鎖可変ドメイン(VL)(VH-VL)を含む。同じ鎖上の2つのドメイン間での対形成が可能になるには短すぎるリンカーを使用することによって、ドメインは強制的に別の鎖の相補的なドメインと対形成し、2つの抗原結合部位が創出される。ダイアボディは、例えば、EP404,097;WO93/1161;およびHollingerら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90巻:6444~6448頁(1993年)により詳細に記載されている。
【0090】
「ヒト抗体」とは、ヒトによって産生された抗体および/または本明細書に開示されているヒト抗体を作出するための技法のいずれかを使用して作出された抗体のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を有する抗体である。このヒト抗体の定義は、非ヒト抗原結合性残基を含むヒト化抗体を明確に排除する。
【0091】
「親和性成熟した」抗体とは、その1つまたは複数のHVRに1つまたは複数の変更を伴う抗体であり、その変更により、それらの変更(複数可)を有さない親抗体と比較して、抗体の抗原に対する親和性の改善がもたらされる。一実施形態では、親和性成熟した抗体は、標的抗原に対してナノモル濃度またはさらにはピコモル濃度の親和性を有する。親和性成熟した抗体は、当技術分野で公知の手順によって作製される。Marksら、Bio/Technology 10巻:779~783頁(1992年)には、VHドメインおよびVLドメインシャッフリングによる親和性成熟が記載されている。CDRおよび/またはフレームワーク残基のランダム変異誘発は、Barbasら、Proc Nat. Acad. Sci. USA 91巻:3809~3813頁(1994年);Schierら、Gene 169巻:147~155頁(1995年);Yeltonら、J. Immunol. 155巻:1994~2004頁(1995年);Jacksonら、J. Immunol. 154巻(7号):3310~9頁(1995年);およびHawkinsら、J. Mol. Biol. 226巻:889~896頁(1992年)により説明されている。
【0092】
「遮断」抗体または「アンタゴニスト」抗体とは、それが結合する抗原の生物活性を阻害するまたは低下させる抗体である。ある特定の遮断抗体またはアンタゴニスト抗体は、抗原の生物活性を実質的にまたは完全に阻害する。
【0093】
「アゴニスト抗体」とは、本明細書で使用される場合、目的のポリペプチドの機能活性の少なくとも1つを模倣する抗体である。
【0094】
「障害」とは、本発明の抗体を用いた処置から利益を得る任意の状態である。障害には、哺乳動物に問題の障害の素因を与える病的状態を含めた慢性および急性の障害または疾患が含まれる。本明細書において処置される障害の非限定的な例としてはがんが挙げられる。
【0095】
「細胞増殖性障害」および「増殖性障害」という用語は、ある程度の異常な細胞増殖に関連する障害を指す。一実施形態では、細胞増殖性障害はがんである。
【0096】
「腫瘍」とは、本明細書で使用される場合、悪性であるか良性であるかにかかわらず全ての新生細胞成長および増殖、ならびに全ての前がん性およびがん性細胞および組織を指す。「がん」、「がん性」、「細胞増殖性障害」、「増殖性障害」および「腫瘍」という用語は、本明細書で言及される場合、相互排他的なものではない。
【0097】
「がん」および「がん性」という用語は、一般に、調節されていない細胞成長/増殖を一般に特徴とする哺乳動物の生理的状態を指すまたは記述する。がんの例としては、これだけに限定されないが、癌腫、リンパ腫(例えば、ホジキンおよび非ホジキンリンパ腫)、芽細胞腫、肉腫、および白血病が挙げられる。そのようながんのより詳細な例としては、扁平上皮細胞がん(squamous cell cancer)、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、肺腺癌、肺扁平上皮癌(squamous carcinoma of the lung)、腹膜がん、肝細胞がん、胃腸がん、膵がん(pancreatic cancer)、神経膠芽腫、子宮頸がん(cervical cancer)、卵巣がん(ovarian cancer)、肝がん、膀胱がん、ヘパトーマ、乳がん(breast cancer)、結腸がん、結腸直腸がん、子宮内膜または子宮癌、唾液腺癌、腎がん、肝がん、前立腺がん、外陰がん、甲状腺がん、肝癌、白血病および他のリンパ球増殖性障害、および種々の型の頭頸部がんが挙げられる。
【0098】
本明細書で使用される場合、「抗原」という用語は、免疫応答を引き出すことができる任意の物質と定義される。
【0099】
本明細書で使用される場合、「抗原特異的」という用語は、特定の抗原または抗原の断片の供給により特異的な細胞増殖がもたらされるような細胞集団の性質を指す。
【0100】
本明細書で使用される場合、「処置」とは、処置される個体または細胞の自然経過を変更する試みにおける臨床介入を指し、予防法のためまたは臨床病理の過程中のいずれかで実施することができる。望ましい処置の効果としては、疾患の出現または再発の防止、症状の緩和、疾患のあらゆる直接または間接的な病理学的影響の減弱、炎症および/または組織/器官損傷の防止または減少、疾患の進行の速度の低下、病態の好転または一時的緩和(palliation)、および寛解または予後の改善が挙げられる。一部の実施形態では、疾患または障害の発生を遅延させるために本発明の抗体を使用する。
【0101】
「個体」または「被験体」は、脊椎動物である。ある特定の実施形態では、脊椎動物は、哺乳動物である。哺乳動物としては、これだけに限定されないが、農場動物(例えば、ウシなど)、競技動物、愛玩動物(例えば、ネコ、イヌ、およびウマなど)、霊長類、マウスおよびラットが挙げられる。ある特定の実施形態では、脊椎動物は、ヒトである。
【0102】
「哺乳動物」とは、処置の目的に関しては、ヒト、家畜動物および農場動物、ならびに動物園の動物、競技動物、または愛玩動物、例えば、イヌ、ウマ、ネコ、ウシなどを含めた、哺乳動物に分類される任意の動物を指す。ある特定の実施形態では、哺乳動物はヒトである。
【0103】
「有効量」とは、治療的または予防的結果を達成するために必要な投与量および期間で有効な量を指す。
【0104】
本発明の物質/分子の「治療有効量」は、個体の病態、年齢、性別、および体重、ならびに個体における所望の応答を引き出す物質/分子の能力などの因子に応じて変動し得る。治療有効量は、物質/分子のあらゆる毒性の影響または有害な影響よりも治療的に有益な影響が上回る量でもある。「予防有効量」とは、所望の予防的結果を達成するために必要な投与量および期間で有効な量を指す。必ずではないが、一般に、予防用量は、被験体に疾患の前またはより早い段階で使用されるので、予防有効量は治療有効量よりも少なくなる。
【0105】
「細胞傷害性薬剤」という用語は、本明細書で使用される場合、細胞の機能を阻害するもしくは妨げ、かつ/または細胞の破壊を引き起こす物質を指す。この用語は、放射性同位元素(例えば、At211、I131、I125、Y90、Re186、Re188、Sm153、Bi212、P32、Pb212およびLuの放射性同位元素)、化学療法剤(例えば、メトトレキサート、アドリアマイシン、ビンカアルカロイド(ビンクリスチン、ビンブラスチン、エトポシド)、ドキソルビシン、メルファラン、マイトマイシンC、クロラムブシル、ダウノルビシンまたは他の挿入剤)、核酸分解酵素などの酵素およびその断片、抗生物質、ならびに、断片および/もしくはそのバリアントを含めた、細菌、真菌、植物または動物起源の小分子毒素もしくは酵素的に活性な毒素などの毒素、ならびに以下に開示されている種々の抗腫瘍剤または抗がん剤を含むものとする。他の細胞傷害性薬剤が下に記載されている。殺腫瘍剤(tumoricidal agent)は腫瘍細胞の破壊を引き起こすものである。
【0106】
「化学療法剤」はがんの処置において有用な化学化合物である。化学療法剤の例としては、チオテパおよびCYTOXAN(登録商標)シクロホスファミド(cyclosphosphamide)などのアルキル化剤;ブスルファン、インプロスルファンおよびピポスルファンなどのアルキルスルホネート;ベンゾドパ、カルボコン、メツレドパ、およびウレドパなどのアジリジン;アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホラミド、トリエチレンチオホスホラミドおよびトリメチルオロメラミンを含めた、エチレンイミンおよびメチルアメラミン(methylamelamine);アセトゲニン(特に、ブラタシンおよびブラタシノン);デルタ-9-テトラヒドロカンナビノール(ドロナビノール、MARINOL(登録商標));ベータ-ラパコン(lapachone);ラパコール(lapachol);コルヒチン;ベツリン酸;カンプトテシン(合成類似体トポテカン(HYCAMTIN(登録商標))、CPT-11(イリノテカン、CAMPTOSAR(登録商標))、アセチルカンプトテシン、スコポレチン(scopolectin)、および9-アミノカンプトテシンを含む);ブリオスタチン;カリスタチン;CC-1065(そのアドゼレシン、カルゼレシンおよびビゼレシン合成類似体を含む);ポドフィロトキシン;ポドフィリン酸;テニポシド;クリプトフィシン(特に、クリプトフィシン1およびクリプトフィシン8);ドラスタチン;デュオカルマイシン(合成類似体、KW-2189およびCB1-TM1を含む);エリュテロビン;パンクラチスタチン(pancratistatin);サルコジクチイン(sarcodictyin);スポンギスタチン(spongistatin);クロラムブシル、クロマファジン、クロロホスファミド、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、メクロレタミンオキシド塩酸塩、メルファラン、ノベムビシン(novembichin)、フェネステリン、プレドニムスチン、トロホスファミド、ウラシルマスタードなどのナイトロジェンマスタード;カルムスチン、クロロゾトシン、フォテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、およびラニムスチン(ranimnustine)などのニトロソ尿素(nitrosurea);エンジイン抗生物質(例えば、カリチアマイシン、特に、カリチアマイシンガンマ1IおよびカリチアマイシンオメガI1など(例えば、Agnew、Chem. Intl. Ed. Engl.、33巻:183~186頁(1994年)を参照されたい);ジネミシン(dynemicin)Aを含めたジネミシン;エスペラミシン;ならびにネオカルジノスタチン発色団および関連する色素タンパク質エンジイン抗生物質発色団)、アクラシノマイシン、アクチノマイシン、アントラマイシン(authramycin)、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カルビシン(carabicin)、カミノマイシン、カルジノフィリン、クロモマイシン(chromomycinis)、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン、ADRIAMYCIN(登録商標)ドキソルビシン(モルホリノ-ドキソルビシン、シアノモルホリノ-ドキソルビシン、2-ピロリノ-ドキソルビシンおよびデオキシドキソルビシンを含む)、エピルビシン、エソルビシン(esorubicin)、イダルビシン、マルセロマイシン、マイトマイシンCなどのマイトマイシン、ミコフェノール酸、ノガラマイシン、オリボマイシン、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン、ピューロマイシン、クエラマイシン、ロドルビシン、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチン、ゾルビシン;メトトレキサートおよび5-フルオロウラシル(5-FU)などの代謝拮抗薬;デノプテリン(denopterin)、メトトレキサート、プテロプテリン(pteropterin)、トリメトレキサートなどの葉酸類似体;フルダラビン、6-メルカプトプリン、チアミプリン、チオグアニンなどのプリン類似体;アンシタビン、アザシチジン、6-アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、フロクスウリジンなどのピリミジン類似体;カルステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトンなどのアンドロゲン;アミノグルテチミド、ミトタン、トリロスタンなどの抗副腎剤(anti-adrenal);フォリン酸(frolinic acid)などの葉酸補充剤;アセグラトン;アルドホスファミドグリコシド(aldophosphamide glycoside);アミノレブリン酸;エニルウラシル;アムサクリン;ベストラブシル;ビサントレン;エダトラキセート;デフォファミン;デメコルチン;ジアジクオン;エルフロルニチン(elformithine);エリプチニウム(elliptinium)酢酸塩;エポチロン;エトグルシド;硝酸ガリウム;ヒドロキシウレア;レンチナン;ロニダイニン(lonidainine);マイタンシンおよびアンサマイトシンなどのメイタンシノイド;ミトグアゾン;ミトキサントロン;モピダモール(mopidanmol);ニトラクリン(nitraerine);ペントスタチン;フェナメット(phenamet);ピラルビシン;ロソキサントロン(losoxantrone);2-エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK(登録商標)多糖複合体(JHS Natural Products、Eugene、Oreg);ラゾキサン;リゾキシン(rhizoxin);シゾフラン(sizofuran);スピロゲルマニウム;テヌアゾン酸;トリアジクオン;2,2’,2’’-トリクロロトリエチルアミン;トリコテセン(特に、T-2毒素、ベラクリン(verracurin)A、ロリジン(roridin)Aおよびアングイジン(anguidine));ウレタン;ビンデシン(ELDISINE(登録商標)、FILDESIN(登録商標));ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール;ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン(gacytosine);アラビノシド(「Ara-C」);チオテパ;タキソイド、例えば、TAXOL(登録商標)パクリタキセル(Bristol-Myers Squibb Oncology、Princeton、N.J.)、パクリタキセルのアルブミンで工学的に操作したナノ粒子製剤であるABRAXANE(商標)Cremophor-free(American Pharmaceutical Partners、Schaumberg、Ill.)、およびTAXOTERE(登録商標)ドセタキセル(doxetaxel)(Rhone-Poulenc Rorer、Antony、France);クロラムブシル(chloranbucil);ゲムシタビン(GEMZAR(登録商標));6-チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキサート;シスプラチンおよびカルボプラチンなどの白金類似体;ビンブラスチン(VELBAN(登録商標));白金;エトポシド(VP-16);イホスファミド;ミトキサントロン;ビンクリスチン(ONCOVIN(登録商標));オキサリプラチン;ロイコボリン(leucovovin);ビノレルビン(NAVELBINE(登録商標));ノバントロン(novantrone);エダトレキサート;ダウノマイシン;アミノプテリン;イバンドロネート;トポイソメラーゼ阻害剤RFS2000;ジフルオロメチルオルニチン(DMFO);レチノイン酸などのレチノイド;カペシタビン(XELODA(登録商標));上記のいずれかの薬学的に許容される塩、酸または誘導体;ならびに、上記の2つまたはそれ超の組み合わせ、例えば、シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、およびプレドニゾロンの併用療法の略語であるCHOP、および、オキサリプラチン(ELOXATIN(商標))と5-FUおよびロイコボリン(leucovovin)の組み合わせの処置レジメンの略語であるFOLFOXなどが挙げられる。
【0107】
本明細書で使用される場合、「処置」とは、処置される個体または細胞の自然経過を変更する試みにおける臨床介入を指し、予防法のためまたは臨床病理の過程中のいずれかで実施することができる。望ましい処置の効果としては、疾患の出現または再発の防止、症状の緩和、疾患のあらゆる直接または間接的な病理学的影響の減弱、炎症および/または組織/器官損傷の防止または減少、疾患の進行の速度の低下、病態の好転または一時的緩和、および寛解または予後の改善が挙げられる。一部の実施形態では、疾患または障害の発生を遅延させるために本発明の抗体を使用する。
【0108】
「個体」または「被験体」は、脊椎動物である。ある特定の実施形態では、脊椎動物は、哺乳動物である。哺乳動物としては、これだけに限定されないが、農場動物(例えば、ウシなど)、競技動物、愛玩動物(例えば、ネコ、イヌ、およびウマなど)、霊長類、マウスおよびラットが挙げられる。ある特定の実施形態では、脊椎動物は、ヒトである。
【0109】
「哺乳動物」とは、処置の目的に関しては、ヒト、家畜動物および農場動物、ならびに動物園の動物、競技動物、または愛玩動物、例えば、イヌ、ウマ、ネコ、ウシなどを含めた、哺乳動物に分類される任意の動物を指す。ある特定の実施形態では、哺乳動物はヒトである。
【0110】
「有効量」とは、所望される治療的または予防的結果を達成するために必要な投与量および期間で有効な量を指す。
【0111】
本発明の物質/分子の「治療有効量」は、個体の病態、年齢、性別、および体重、ならびに個体における所望の応答を引き出す物質/分子の能力などの因子に応じて変動し得る。治療有効量は、物質/分子のあらゆる毒性の影響または有害な影響よりも治療的に有益な影響が上回る量でもある。「予防有効量」とは、所望の予防的結果を達成するために必要な投与量および期間で有効な量を指す。必ずではないが、一般に、予防用量は、被験体に疾患の前またはより早い段階で使用されるので、予防有効量は治療有効量よりも少なくなる。
【0112】
「細胞傷害性薬剤」という用語は、本明細書で使用される場合、細胞の機能を阻害するもしくは妨げ、かつ/または細胞の破壊を引き起こす物質を指す。この用語は、放射性同位元素(例えば、At211、I131、I125、Y90、Re186、Re188、Sm153、Bi212、P32、Pb212およびLuの放射性同位元素)、化学療法剤(例えば、メトトレキサート、アドリアマイシン、ビンカアルカロイド(ビンクリスチン、ビンブラスチン、エトポシド)、ドキソルビシン、メルファラン、マイトマイシンC、クロラムブシル、ダウノルビシンまたは他の挿入剤)、核酸分解酵素などの酵素およびその断片、抗生物質、ならびに、その断片および/もしくはバリアントを含めた、細菌、真菌、植物または動物起源の小分子毒素もしくは酵素的に活性な毒素などの毒素、および以下に開示されている種々の抗腫瘍剤または抗がん剤を含むものとする。他の細胞傷害性薬剤が下に記載されている。殺腫瘍剤は腫瘍細胞の破壊を引き起こすものである。
【0113】
1種または複数種の別の治療剤「と組み合わせた」投与は、同時(並行)投与および任意の順序での連続した投与を含む。
【0114】
糖操作抗体群
培養物中で哺乳動物細胞から産生された組換えタンパク質のグリコシル化は、治療用抗体の有効な使用を確実にすることにおける重要なプロセスである(Goocheeら、1991年;JenkinsおよびCurling、1994年)。哺乳動物の細胞培養では、全てが同じ性質を有するわけではない、グリコシル化パターンの不均一な混合物が送達される。治療用タンパク質の安全性、有効性および血清中半減期のような性質は、これらのグリコシル化パターンの影響を受ける可能性がある。本発明者らは、「糖操作抗体群(glycoantibodies)」という名称の新規クラスのモノクローナル抗体を開発することにより、グリコフォーム不均一性問題に成功裏に対処した。
【0115】
「糖操作抗体群(glycoantibodies)」という用語は、本発明者、Chi-Huey Wong博士により造り出されたものであり、Fc上に単一の一様化されたグリコフォームを有するモノクローナル抗体(好ましくは、治療用モノクローナル抗体)の均一な集団を指す。均一な集団を構成する個々の糖操作抗体群は同一であり、同じエピトープに結合し、また、明確に定義されたグリカン構造および配列を有する同じFcグリカンを含有する。
【0116】
糖操作抗体群は、細胞において産生されるモノクローナル抗体、好ましくは治療用モノクローナル抗体から生成することができる。糖操作抗体群は、市販されているものであっても臨床開発中のものであってもよい。治療的使用のためのモノクローナル抗体は、ヒト化モノクローナル抗体、ヒトモノクローナル抗体またはキメラモノクローナル抗体であってよい。治療的使用のための認可されたモノクローナル抗体の例としては、これだけに限定されないが、ムロモナブ(Muromomab)、アブシキシマブ、リツキシマブ、ダクリズマブ、バシリキシマブ、パリビズマブ、インフリキシマブ、トラスツズマブ、エタネルセプト、ゲムツズマブ、アレムツズマブ、イブリツモマブ(Ibritomomab)、アダリムマブ、アレファセプト、オマリズマブ、エファリズマブ、セツキシマブ、ベバシズマブ、ナタリズマブ、ラニビズマブ、パニツムマブ、エクリズマブおよびセルトリズマブが挙げられる。
【0117】
治療用モノクローナル抗体からFc糖鎖工学によって導出された機能的に活性な糖操作抗体群が本明細書に記載されている。最適化グリコフォームを有する糖操作抗体群は、治療用モノクローナル抗体と比較して同様のまたはより良好な活性を示す。最適化グリコフォームを有する糖操作抗体群により、治療的使用のための代替物がもたらされ得ることが意図されている。
【0118】
抗TNFα糖操作抗体
単球およびマクロファージは、内毒素または他の刺激に応答して、腫瘍壊死因子-α(TNFα)および腫瘍壊死因子-β(TNFβ)として公知のサイトカインを分泌する。TNFαは、17kDタンパク質サブユニットの可溶性ホモ三量体である(Smithら、J. Biol. Chem. 262巻:6951~6954頁(1987年))。膜に結合した26kDの前駆形態のTNFも存在する(Krieglerら、Cell 53巻:45~53頁(1988年))。TNF-αは、先天免疫の重要な調節因子である炎症反応の強力な誘導因子であり、細胞内細菌およびある特定のウイルスの感染に対するTh1免疫応答の調節において重要な役割を果たす。しかし、調節不全TNFは、多数の病理学的状況の一因となる可能性もある。これらの病理学的状況としては、関節リウマチ、クローン病、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎、潰瘍性大腸炎および重症慢性尋常性乾癬を含めた免疫媒介性炎症性疾患(IMID)が挙げられる。
【0119】
本開示は、「抗TNFα糖操作抗体群」(「抗TNFαGAbs」)と称される新規クラスの抗TNFαモノクローナル抗体を特徴とする。抗TNFα糖操作抗体群は、抗TNFαモノクローナル抗体(「親抗体」)からFc糖鎖工学によって生成することができる。「親抗体」という用語は、本明細書で使用される場合、抗TNFα糖操作抗体群を作製するために使用される抗TNFαモノクローナル抗体を指す。均一な集団を構成する個々の抗TNFα糖操作抗体群は同一であり、明確に定義されたグリカン構造および配列を有する同じFcグリカンを含有する。本発明の抗TNFα糖操作抗体群は、その親抗体が結合するのと同じヒトTNFα抗原のエピトープに結合し得る。
【0120】
親抗体は、哺乳動物細胞、Pichia pastorisまたは昆虫細胞などの細胞において産生させることができる。親抗体は哺乳動物細胞において産生させることが好ましい。親抗体はFDAの認可を受けたものであってもよく、開発中のものであってもよい。認可を受けたまたは開発中の抗TNFαモノクローナル抗体としては、インフリキシマブ、アダリムマブ、ゴリムマブ、CDP870(セルトリズマブ)、TNF-TeAbおよびCDP571が挙げられる。
【0121】
本発明の抗TNFα糖操作抗体は、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有する重鎖、および配列番号2に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖を含み得る。本発明の抗TNFα糖操作抗体は、アダリムマブ(Humira(登録商標))の軽鎖配列および重鎖配列を含み得る。
【0122】
以下の表1は、アダリムマブの重鎖および軽鎖配列を示す。
【表1】
【0123】
本明細書に記載の通り、N-グリカンをFc領域のAsn-297に付着させることができる。
【0124】
本発明によるN-グリカンは、「トリマンノースコア(trimannose core)」または「五糖コア」とも称されるMan3GlcNAc2という共通の五糖コアを有し、ここで、「Man」はマンノースを指し、「Glc」はグルコースを指し、「NAc」はN-アセチルを指し、GlcNAcはN-アセチルグルコサミンを指す。
【0125】
本明細書に記載のN-グリカンは、二分岐構造を有してよい。
【0126】
N-グリカンは、「バイセクティング」GlcNAcを含む鎖内置換を有し得る。グリカンがトリマンノースコア上にバイセクティングGlcNAcを含む場合、構造は、Man3GlcNAc3と表される。グリカンがトリマンノースコアに付着したコアフコースを含む場合、構造は、Man3GlcNAc2(F)と表される。N-グリカンは、1つまたは複数の末端シアル酸(例えば、N-アセチルノイラミン酸)を含んでよい。「Sia」と表される構造は、末端シアル酸を指す。シアリル化は、二分岐構造のα1-3アームまたはα1-6アームのいずれかにおいて起こり得る。
【0127】
本明細書に記載のN-グリカンは、少なくとも1つのα2-6末端シアル酸を含んでよい。一部の実施形態では、N-グリカンは、α2-6末端シアル酸を1つ含む。好ましい実施形態では、N-グリカンは、α2-6末端シアル酸を2つ含む。
【0128】
N-グリカンは、少なくとも1つのα2-3末端シアル酸を含んでよい。ある特定の実施形態では、N-グリカンは、α2-3末端シアル酸を1つ含む。好ましい実施形態では、N-グリカンは、α2-3末端シアル酸を2つ含む。
【0129】
N-グリカンは、少なくとも1つのガラクトースを含んでよい。ある特定の実施形態では、N-グリカンは、ガラクトースを1つ含む。好ましい実施形態では、N-グリカンは、ガラクトースを2つ含む。
【0130】
N-グリカンはフコシル化されていても脱フコシル化されていてもよい。N-グリカンはフコシル化されていることが好ましい。
【0131】
表2は、抗TNFα糖操作抗体群の例示的なN-グリカンの一覧である。本開示の複数の実施形態は、本明細書において列挙されているN-グリカンのいずれを含んでもよく排除してもよい。
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【表2-4】
【0132】
例示的な抗TNFα糖操作抗体の調製
本発明の抗TNFα糖操作抗体は、抗TNFαモノクローナル抗体(「親抗体」)からFc糖鎖工学によって作製することができる。一部の実施形態では、親抗体はアダリムマブ(Humira(登録商標))である。
【0133】
本明細書には、フコシル化糖操作抗体を作出するための方法であって、(a)モノクローナル抗体を少なくとも1種のエンドグリコシダーゼと接触させ、それにより、Fc上に二糖(GlcNAc-Fuc)を有する抗体を得るステップと、(b)適切な条件下で二糖のGlcNAcに炭水化物部分を付加するステップとを含む方法が記載されている。
【0134】
本発明の方法のモノクローナル抗体は、抗TNFαモノクローナル抗体であってよい。一部の実施形態では、抗TNFαモノクローナル抗体は、アダリムマブ、インフリキシマブまたはエタネルセプトである。
【0135】
本発明の方法に使用されるエンドグリコシダーゼは、EndoA、EndoF、EndoF1、EndoF2、EndoF3、EndoH、EndoM、EndoSまたはそのバリアントであってよい。
【0136】
本発明の方法では、トランスグリコシラーゼを使用したステップ(b)におけるその後の酵素媒介性グリコシル化を、炭水化物部分をGlcNAcに付加して糖鎖を伸長させることによって実施する。トランスグリコシラーゼの例としては、これだけに限定されないが、EndoA、EndoF、EndoF1、EndoF2、EndoF3、EndoH、EndoM、EndoS、およびそのバリアントが挙げられる。
【0137】
グリコシル化反応は付加反応であり、いかなる酸、水などの付随的な排除も伴わずに進行するので、糖ドナーとして糖オキサゾリンを使用するグリコシル化がオリゴ糖の合成に関して有用であることが当技術分野で周知である(Fujitaら、Biochim. Biophys. Acta 2001年、1528巻、9~14頁)。
【0138】
一部の実施形態では、炭水化物部分は、糖オキサゾリンである。
【0139】
一部の実施形態では、炭水化物部分は、Sia2(α2-6)Gal2GlcNAc2Man3GlcNAc、Sia(α2-6)GalGlcNAc2Man3GlcNAc、Sia2(α2-3)Gal2GlcNAc2Man3GlcNAc、Sia2(α2-3)Gal2GlcNAc3Man3GlcNAc、Sia2(α2-3/α2-6)Gal2GlcNAc3Man3GlcNAc、Sia2(α2-6/α2-3)Gal2GlcNAc3Man3GlcNAc、Sia2(α2-6)Gal2GlcNAc2Man3GlcNAc(F)、Sia(α2-6)GalGlcNAc2Man3GlcNAc(F)、Sia2(α2-3)Gal2GlcNAc2Man3GlcNAc(F)、Sia2(α2-3)Gal2GlcNAc3Man3GlcNAc(F)、Sia2(α2-3/α2-6)Gal2GlcNAc3Man3GlcNAc(F)およびSia2(α2-6/α2-3)Gal2GlcNAc3Man3GlcNAc(F)からなる群より選択される。
【0140】
脱フコシル化糖操作抗体を作出するための改善された方法であって、(a)モノクローナル抗体をα-フコシダーゼおよび少なくとも1種のエンドグリコシダーゼと接触させ、それにより、Fc上に単糖(GlcNAc)を有する抗体を得るステップと、(b)適切な条件下でGlcNAcに炭水化物部分を付加するステップとを含む方法も本明細書の記載に含まれる。
【0141】
本発明の改善された方法によるモノクローナル抗体は、抗TNFαモノクローナル抗体であってよい。一部の実施形態では、抗TNFαモノクローナル抗体はアダリムマブである。
【0142】
本発明の改善された方法のα-フコシダーゼは、配列番号5、その機能的バリアントの配列に対して少なくとも85%の同一性を有するアミノ酸配列を含有するポリペプチドを含む。
【0143】
α-フコシダーゼは、配列番号5の配列(表3に列挙されている)、そのバリアントまたは断片に対して少なくとも約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドを含んでよい。ある特定の実施形態では、α-フコシダーゼは、組換えBacteroides α-フコシダーゼである。
【表3】
【0144】
本発明のα-フコシダーゼのポリペプチドは、それらの単離または精製を補助するために、誘導体化または修飾することができることは理解されよう。したがって、本発明の一実施形態では、本発明において使用するためのポリペプチドを、分離手段に直接かつ特異的に結合することができるリガンドを付加することによって誘導体化または修飾する。あるいは、ポリペプチドを、結合対の一方のメンバーを付加することによって誘導体化または修飾し、分離手段に、結合対の他方のメンバーを付加することによって誘導体化または修飾される試薬を含める。任意の適切な結合対を使用することができる。本発明において使用するためのポリペプチドを、結合対の一方のメンバーを付加することによって誘導体化または修飾する好ましい実施形態では、ポリペプチドにヒスチジン-タグを付けるまたはビオチン-タグを付けることが好ましい。一般には、ヒスチジンまたはビオチンタグのアミノ酸コード配列を遺伝子レベルで含め、E.coliにおいて組換えによりタンパク質を発現させる。ヒスチジンまたはビオチンタグは、一般には、ポリペプチドの一端、N末端またはC末端のいずれかに存在する。ヒスチジンタグは、一般には6つのヒスチジン残基からなるが、これより長くてもよく、一般には、最大7アミノ酸、8アミノ酸、9アミノ酸、10アミノ酸または20アミノ酸またはそれ未満、例えば、5アミノ酸、4アミノ酸、3アミノ酸、2アミノ酸または1アミノ酸であってよい。さらに、ヒスチジンタグは、アミノ酸置換、好ましくは上で定義されている保存的置換を1つまたは複数含有してよい。
【0145】
本明細書に記載のバリアントポリペプチドは、アミノ酸配列が配列番号5のものから変動するが、配列番号5のアミノ酸配列を有するポリペプチドを含む酵素と同じまたは同様の機能を示すものである。
【0146】
本明細書で使用される場合、配列に関するパーセント(%)配列同一性は、配列をアラインメントし、必要であれば、最大のパーセント配列同一性を達成するためにギャップを導入した後の、参照ポリペプチド配列内のアミノ酸残基と同一である候補ポリペプチド配列内のアミノ酸残基の百分率と定義される。パーセント配列同一性を決定するためのアラインメントは、当技術分野の技術の範囲内である種々のやり方で、例えば、BLAST、ALIGNまたはMegalign(DNASTAR)ソフトウェアなどの公的に入手可能なコンピュータソフトウェアを使用して達成することができる。当業者は、比較される配列の全長にわたって最大のアラインメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含めた、アラインメントを測定するための適切なパラメータを決定することができる。
【0147】
いくつかの好ましい本発明の実施形態が実施例において実証されている。
【0148】
医薬組成物および製剤
抗TNFαGAbを本明細書に記載の通り調製した後、「凍結乾燥前製剤」を作製することができる。製剤を調製するための抗TNFαGAbは、基本的に純粋であることが好ましく、基本的に均一であることが望ましい(すなわち、混入タンパク質などを含まない)。「基本的に純粋な」タンパク質とは、組成物の総重量に基づいて、少なくとも約90重量%、好ましくは少なくとも約95重量%のタンパク質を含む組成物を意味する。「基本的に均一な」タンパク質とは、組成物の総重量に基づいて、少なくとも約99重量%のタンパク質を含む組成物を意味する。ある特定の実施形態では、タンパク質は抗体である。
【0149】
凍結乾燥前製剤中の抗TNFαGAbの量は、所望の用量体積、投与の様式(複数可)などを考慮に入れて決定する。選択されたタンパク質がインタクトな抗体(全長抗体)である場合、例示的な出発タンパク質濃度は、約2mg/mLから約50mg/mLまで、好ましくは約5mg/mLから約40mg/mLまで、最も好ましくは約20mg/mLから30mg/mLまでである。タンパク質は、一般に、溶液中に存在する。例えば、タンパク質は、pH緩衝溶液中に約4~8、好ましくは約5~7のpHで存在し得る。例示的な緩衝液としては、ヒスチジン、リン酸、トリス、クエン酸、コハク酸および他の有機酸が挙げられる。緩衝液の濃度は、例えば、緩衝液および製剤(例えば、再構成製剤)の所望の等張性に応じて、約1mMから約20mMまで、または約3mMから約15mMまでであり得る。以下で実証される通り、凍結保護性を有し得るという点で、ヒスチジンが好ましい緩衝液である。コハク酸が別の有用な緩衝液であることが示された。
【0150】
凍結保護剤を凍結乾燥前製剤に添加する。好ましい実施形態では、凍結保護剤は、スクロースまたはトレハロースなどの非還元糖である。凍結乾燥前製剤中の凍結保護剤の量は、一般に、再構成した時に得られる製剤が等張性になるような量である。しかし、高張性の再構成製剤も適切であり得る。さらに、凍結保護剤の量は、凍結乾燥した時に許容されない量のタンパク質の分解/凝集が起こるほど少ないものであってはならない。凍結保護剤が糖(例えば、スクロースまたはトレハロースなど)であり、タンパク質が抗体である場合、凍結乾燥前製剤中の例示的な凍結保護剤濃度は、約10mMから約400mMまで、好ましくは約30mMから約300mMまで、最も好ましくは約50mMから約100mMまでである。
【0151】
タンパク質と凍結保護剤の比は、各々のタンパク質と凍結保護剤の組み合わせに対して選択する。タンパク質濃度が高い等張性の再構成製剤を生成するためにタンパク質としての選択された抗体と、凍結保護剤としての糖(例えば、スクロースまたはトレハロース)との場合、抗体に対する凍結保護剤のモル比は、1モルの抗体に対して約100モルから約1500モルまでの凍結保護剤、好ましくは1モルの抗体に対して約200モルから約1000モルまでの凍結保護剤、例えば、1モルの抗体に対して約200モルから約600モルまでの凍結保護剤であり得る。
【0152】
本発明の好ましい実施形態では、凍結乾燥前製剤に界面活性剤を添加することが望ましいことが見いだされた。その代わりに、またはそれに加えて、凍結乾燥製剤および/または再構成製剤に界面活性剤を添加することができる。例示的な界面活性剤としては、ポリソルベート(例えば、ポリソルベート20または80);ポロキサマー(例えば、ポロキサマー188);トリトン;ドデシル硫酸ナトリウム(SDS);ラウリル硫酸ナトリウム(sodium laurel sulfate);オクチルグリコシドナトリウム(sodium octyl glycoside);ラウリルスルホベタイン、ミリスチルスルホベタイン、リノレイルスルホベタイン、またはステアリルスルホベタイン;ラウリルサルコシン、ミリスチルサルコシン、リノレイルサルコシンまたはステアリルサルコシン;リノレイルベタイン、ミリスチルベタイン、またはセチルベタイン;ラウロアミドプロピルベタイン、コカミドプロピルベタイン、リノールアミドプロピルベタイン、ミリスタミドプロピルベタイン、パルニドプロピルベタイン、またはイソステアラミドプロピルベタイン(例えばラウロアミドプロピル);ミリスタミドプロピルジメチルアミン、パルミドプロピルジメチルアミン、またはイソステアラミドプロピルジメチルアミン;ナトリウムメチルココイルタウレート、または二ナトリウムメチルオレイルタウレート;およびMONAQUATTMシリーズ(Mona Industries,Inc.、Paterson、N.J.)、ポリエチルグリコール(polyethyl glycol)、ポリプロピルグリコール(polypropyl glycol)、およびエチレンとプロピレングリコールの共重合体(例えば、Pluronics、PF68など)などの非イオン性界面活性剤が挙げられる。添加する界面活性剤の量は、再構成されたタンパク質の凝集が減少し、再構成後の微粒子物の形成が最小限になるような量にする。例えば、界面活性剤は、凍結乾燥前製剤中に、約0.001~0.5%、好ましくは約0.005~0.05%の量で存在してよい。
【0153】
本発明のある特定の実施形態では、凍結乾燥前製剤の調製において、凍結保護剤(例えば、スクロースまたはトレハロースなど)と増量剤(例えば、マンニトールまたはグリシン)の混合物を使用する。増量剤により、中に過剰なポケットを伴わない一様な凍結乾燥ケーキなどの作製が可能になり得る。
【0154】
製剤の所望の特性に悪影響を及ぼさないのであれば、Remington’s Pharmaceutical Sciences 第16版、Osol, A.編(1980年)に記載されているものなどの、他の薬学的に許容される担体、賦形剤または安定剤を凍結乾燥前製剤(および/または凍結乾燥製剤および/または再構成製剤)に含めることができる。許容される担体、賦形剤または安定剤は、使用される投与量および濃度でレシピエントに対して非毒性のものであり、それらとして、追加的な緩衝剤;防腐剤;共溶媒;アスコルビン酸およびメチオニンを含めた抗酸化剤;EDTAなどのキレート剤;金属錯体(例えば、Zn-タンパク質複合体);ポリエステルなどの生分解性ポリマー;ならびに/またはナトリウムなどの塩形成性対イオンが挙げられる。
【0155】
本明細書に記載の医薬組成物および製剤は、安定であることが好ましい。「安定な」製剤/組成物とは、保管に際してその中の抗体の物理的安定性および化学的安定性および完全性が基本的に保持される製剤/組成物である。タンパク質安定性を測定するための種々の分析技法が当技術分野において利用可能であり、Peptide and Protein Drug Delivery、247~301頁、Vincent Lee編、Marcel Dekker, Inc.、New York、N.Y.、Pubs(1991年)およびJones, A. Adv. Drug Delivery Rev. 10巻:29~90頁(1993年)に概説されている。安定性は、選択された温度で選択された期間にわたって測定することができる。
【0156】
in vivo投与に使用する製剤は、無菌であるべきである。これは、凍結乾燥および再構成の前またはその後に滅菌濾過膜を通して濾過することによって容易に達成される。あるいは、混合物全体の無菌性は、タンパク質以外の成分を、例えば約120℃で約30分にわたってオートクレーブすることによって達成することができる。
【0157】
タンパク質、凍結保護剤および他の任意選択の構成成分を混合した後、製剤を凍結乾燥する。この目的のために、Hull50(登録商標)(Hull、USA)またはGT20(登録商標)(Leybold-Heraeus、Germany)フリーズドライヤーなどの多くの異なるフリーズドライヤーが利用可能である。フリーズドライは、製剤を凍結させ、その後、一次乾燥に適した温度で凍結した内容物から氷を昇華させることによって達成される。この条件の下で、産物の温度は製剤の共融点または崩壊温度を下回る。一般には、一次乾燥の棚温度は、一般には約50~250mTorrにわたる適切な圧力で、約-30~25℃にわたる(産物が一次乾燥の間凍結したままであることを条件とする)。乾燥に必要な時間は、主に、製剤、試料を保持する容器のサイズおよび型(例えば、ガラスバイアル)ならびに液体の体積により規定され、これは、数時間から数日(例えば、40~60時間)までにわたる。二次乾燥段階は、主に、使用する容器の型およびサイズならびにタンパク質の型に応じて、約0~40℃で行うことができる。しかし、本明細書では、二次乾燥ステップは必要でない場合があることが見いだされた。例えば、凍結乾燥の水除去相全体を通した棚温度は、約15~30℃(例えば、約20℃)であり得る。二次乾燥に必要な時間および圧力は、例えば温度および他のパラメータに応じて、適切な凍結乾燥ケーキが生じる時間および圧力である。二次乾燥時間は、産物中の所望の残留水分レベルにより規定され、一般には、少なくとも約5時間(例えば、10~15時間)かかる。圧力は、一次乾燥ステップの間に使用する圧力と同じであってよい。フリーズドライ条件は、製剤およびバイアルサイズに応じて変動し得る。
【0158】
いくつかの場合には、移行ステップを回避するために、タンパク質の再構成を行う容器中でタンパク質製剤を凍結乾燥することが望ましい。この場合、容器は、例えば、3cc、5cc、10cc、20cc、50ccまたは100ccのバイアルであってよい。一般命題として、凍結乾燥により、水分含量が約5%未満、および好ましくは約3%未満である凍結乾燥製剤がもたらされる。
【0159】
所望の段階、一般には、タンパク質を患者に投与する時に、希釈剤を用いて凍結乾燥製剤を再構成し、したがって、再構成製剤中のタンパク質の濃度を少なくとも50mg/mL、例えば、約50mg/mLから約400mg/mLまで、より好ましくは約80mg/mLから約300mg/mLまで、最も好ましくは約90mg/mLから約150mg/mLまでにすることができる。そのような再構成製剤中の高タンパク質濃度は、再構成製剤の皮下送達が意図されている場合に特に有用であると考えられる。しかし、静脈内投与などの他の投与経路に関しては、再構成製剤中のタンパク質の濃度はより低いことが所望される場合がある(例えば、再構成製剤中、約5~50mg/mL、または約10~40mg/mLのタンパク質)。ある特定の実施形態では、再構成製剤中のタンパク質の濃度は、凍結乾燥前製剤中のタンパク質の濃度よりも有意に高い。例えば、再構成製剤中のタンパク質の濃度は、凍結乾燥前製剤中のタンパク質の濃度の約2~40倍、好ましくは3~10倍、最も好ましくは3~6倍(例えば、少なくとも3倍または少なくとも4倍)であり得る。
【0160】
さらに、本開示は、単独療法、または実質的に均一な本明細書に記載の糖操作抗体群と他の抗体および/もしくは他の治療剤とを含む併用療法に適した組み合わせ医薬組成物も提供する。医薬組成物は、共製剤(coformulation)として投与することもでき、共投与(co-administration)治療レジメンで使用することもできる。
【0161】
一般には、再構成は、完全な湿潤化(hydration)を確実にするために約25℃の温度で行うが、所望であれば他の温度を使用することができる。再構成に必要な時間は、例えば、希釈剤の型、賦形剤(複数可)およびタンパク質の量に依存する。例示的な希釈剤としては、滅菌水、注射用静菌水(BWFI)、pH緩衝溶液(例えば、リン酸緩衝食塩水)、滅菌食塩溶液、リンゲル液またはデキストロース溶液が挙げられる。希釈剤は、場合によって防腐剤を含有する。例示的な防腐剤が上に記載されており、好ましい防腐剤はベンジルまたはフェノールアルコールなどの芳香族アルコールである。使用する防腐剤の量は、異なる防腐剤濃度をタンパク質との適合性について評価すること、および防腐剤有効性試験によって決定する。例えば、防腐剤が芳香族アルコール(例えば、ベンジルアルコールなど)である場合、約0.1~2.0%、好ましくは約0.5~1.5%、しかし最も好ましくは約1.0~1.2%の量で存在してよい。再構成製剤は、サイズが10μm超の粒子をバイアル当たり6000個未満有する。
【0162】
免疫コンジュゲート
別の態様では、本発明は、化学療法剤、薬物、成長阻害剤、毒素(例えば、細菌、真菌、植物、もしくは動物起源の酵素的に活性な毒素、またはその断片)、もしくは放射性同位元素(すなわち、放射性コンジュゲート(radioconjugate))などの細胞傷害性薬剤とコンジュゲートした抗体を含む免疫コンジュゲート、または抗体-薬物コンジュゲート(ADC)を提供する。
【0163】
がんの処置において、細胞傷害性薬剤または細胞増殖抑制剤、すなわち、腫瘍細胞を死滅させるまたは阻害するための薬物を局所送達するために抗体-薬物コンジュゲートを使用することにより(SyrigosおよびEpenetos(1999年)Anticancer Research 19巻:605~614頁;Niculescu-DuvazおよびSpringer(1997年)Adv. Drg Del. Rev. 26巻:151~172頁;米国特許第4,975,278号)、薬物部分の腫瘍への標的化送達、およびそこでの細胞内蓄積が可能になり、これらのコンジュゲートしていない薬物薬剤を全身投与した場合には、排除しようとする腫瘍細胞だけでなく、正常細胞に対しても許容されないレベルの毒性が生じる可能性がある(Baldwinら、(1986年)Lancet(1986年3月15日):603~05頁;Thorpe、(1985年)「Antibody Carriers Of Cytotoxic Agents In Cancer Therapy:A Review」、Monoclonal Antibodies ’84:Biological And Clinical Applications、A. Pincheraら(編)、475~506頁)。そのため、最小の毒性での最大の有効性が求められる。ポリクローナル抗体とモノクローナル抗体のどちらもこれらの戦略において有用であることが報告されている(Rowlandら、(1986年)Cancer Immunol. Immunother.、21巻:183~87頁)。これらの方法において使用される薬物としては、ダウノマイシン、ドキソルビシン、メトトレキサート、およびビンデシンが挙げられる(Rowlandら、(1986年)、上記)。抗体-毒素コンジュゲートに使用される毒素としては、ジフテリア毒素などの細菌毒素、リシンなどの植物毒素、ゲルダナマイシンなどの小分子毒素(Mandlerら(2000年)Jour. of the Nat. Cancer Inst. 92巻(19号):1573~1581頁;Mandlerら(2000年)Bioorganic & Med. Chem. Letters 10巻:1025~1028頁;Mandlerら(2002年)Bioconjugate Chem. 13巻:786~791頁)、メイタンシノイド(EP1391213;Liuら、(1996年)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93巻:8618~8623頁)、およびカリチアマイシン(Lodeら(1998年)Cancer Res. 58巻:2928頁;Hinmanら(1993年)Cancer Res. 53巻:3336~3342頁)が挙げられる。毒素は、チューブリン(tubutin)結合、DNA結合、またはトポイソメラーゼ阻害を含めた機構によってそれらの細胞傷害効果および細胞増殖抑制効果に影響を及ぼす可能性がある。いくつかの細胞傷害性薬物は、大型の抗体またはタンパク質受容体リガンドとコンジュゲートすると不活性になるまたは活性が低くなる傾向がある。
【0164】
抗体誘導体
本発明の抗体は、当技術分野で公知であり、容易に入手可能な追加的な非タンパク質性部分を含有するようにさらに改変することができる。一実施形態では、抗体の誘導体化に適した部分は水溶性ポリマーである。水溶性ポリマーの非限定的な例としては、これだけに限定されないが、ポリエチレングリコール(PEG)、エチレングリコール/プロピレングリコールの共重合体、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ-1,3-ジオキソラン、ポリ-1,3,6-トリオキサン、エチレン/無水マレイン酸共重合体、ポリアミノ酸(ホモポリマーまたはランダム共重合体)、およびデキストランまたはポリ(n-ビニルピロリドン)ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール(propropylene glycol)ホモポリマー、ポリプロピレンオキシド(prolypropylene oxide)/エチレンオキシド共重合体、ポリオキシエチル化ポリオール(例えば、グリセロール)、ポリビニルアルコール、ならびにそれらの混合物が挙げられる。ポリエチレングリコールプロピオンアルデヒドは、水中で安定であるので、製造において有利であり得る。ポリマーは、任意の分子量のものであってよく、また、分枝していても分枝していなくてもよい。抗体に付着させるポリマーの数は変動し得、1つ超のポリマーを付着させる場合、そのポリマー分子は同じであっても異なってもよい。一般に、誘導体化に使用するポリマーの数および/または型は、これだけに限定されないが、改善しようとする抗体の特定の性質または機能、抗体誘導体が規定の条件下で療法に使用されるものであるかなどを含めた考察に基づいて決定することができる。
【0165】
別の実施形態では、放射に曝露させることによって選択的に加熱することができる抗体と非タンパク質性部分のコンジュゲートが提供される。一実施形態では、非タンパク質性部分は、炭素ナノチューブである(Kamら、Proc. Natl. Acad. Sci. 102巻:11600~11605頁(2005年))。放射は、任意の波長のものであってよく、これだけに限定されないが、普通の細胞は害されないが、非タンパク質性部分は抗体-非タンパク質性部分の近位の細胞が死滅する温度まで加熱される波長を含む。
【0166】
治療適用
自己免疫障害は、重要な広範にわたる医学的問題である。例えば、関節リウマチ(RA)は、米国において2百万人超に影響を及ぼしている自己免疫疾患である。RAは、関節の慢性炎症を引き起こし、一般には、関節破壊および機能障害を引き起こす潜在性がある進行性の疾病である。関節リウマチの原因は分かっていないが、遺伝的素因、感染因子および環境因子の全てがこの疾患の病因に関係づけられている。活動性RAでは、症状として、疲労、食欲不振、低度の発熱、筋肉痛および関節痛、ならびに硬直が挙げられる。疾患の再燃時には、滑膜の炎症に起因して、関節が頻繁に赤くなり、膨張し、痛みがあり、圧痛があるようになる。さらに、RAは、全身性疾患であるので、炎症が、眼および口の腺、肺の内層、心膜、および血管を含めた関節以外の体の器官および領域に影響を及ぼす可能性がある。
【0167】
腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)は、単球およびマクロファージを含めた多数の細胞型によって産生されるサイトカインであり、最初はある特定のマウス腫瘍の壊死を誘導する能力に基づいて同定された。その後、悪液質に関連するカケクチンと称される因子がTNF-αと同一であることが示された。TNF-αは、ショック、敗血症、感染、自己免疫疾患、RA、クローン病、移植片拒絶反応および移植片対宿主病を含めた種々の他のヒト疾患および障害の病態生理に関係づけられている。
【0168】
本開示は、ヒトにおいてTNF媒介性炎症性疾患を処置する方法であって、それを必要とするヒトに、炎症に有効な量の、本明細書に記載の例示的な抗TNFα糖操作抗体またはその抗原結合性断片およびその医薬製剤/組成物を投与するステップを含む方法を提供する。
【0169】
本発明の方法による例示的な炎症性疾患は、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎およびクローン病を含む)、関節リウマチ、乾癬、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎、および若年性特発性関節炎の群より選択することができる。
【0170】
本発明の1つまたは複数の実施形態の詳細が以下の説明に記載されている。本発明の他の特徴または利点は、以下の図およびいくつかの実施形態の詳細な説明から、ならびに添付の特許請求の範囲からも明らかになるであろう。
【0171】
以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を実証するために含まれる。以下の実施例に開示されている技法は、本発明者により、本発明の実施においてよく機能することが発見された技法であり、したがって、それを実施するための好ましい方式を構成するとみなすことができることが当業者には理解されるべきである。しかし、当業者は、本開示に照らして、開示されている特定の実施形態に多くの変更を行うことができ、それでもなお、本発明の主旨および範囲から逸脱することなく同様または類似の結果が得られることを理解するべきである。
【実施例】
【0172】
(実施例1)
抗TNFαのN-グリコシル化を分析するための一般手順
本発明者らは、グリコペプチド前駆体に適用した衝突解離(CID)エネルギーに対するオリゴ糖由来断片イオン(オキソニウムイオン)の収量をモニターする質量分析法を開発した。オキソニウムイオン法の多重反応モニタリング(MRM)は、来たるバイオシミラー(biosimilar)治療薬の常套的な品質管理分析に関する規制要件を満たすことができた。
【0173】
アダリムマブ(Humira(登録商標))(Abbvieから購入)5ugを2Mのグアニジン-HCl、25ulに溶解させ、ジチオスレイトール(DTT)を添加して最終濃度を5mMにした。110℃で10分インキュベートした後、10mMのヨードアセトアミド(IAA)中、37℃で1時間にわたって還元型システイン残基をアルキル化した。5mMのDTTを添加して室温で10分にわたって過剰なIAAをクエンチした。産物を50mMの炭酸水素アンモニウム中15倍に希釈した後、スピンカラムを用いて微量遠心分離した(タンパク質MWカットオフ10kDa)。トリプシン消化を、酵素:タンパク質比1:25(w/w)を使用し、37℃で4時間にわたって実施した。試料をLC-MS/MS分析のために-20℃で凍結させた。
【0174】
計装
m/z204オキソニウムイオン(HexNAc)モニタリングによるグリコペプチド定量化を、4000 QTrapトリプル四重極質量分析計(AB Sciex)をAglient 1200 HPLCシステムと共に使用して実施した。グリコペプチドの微小不均一性を相対的に定量化するために、可能性のあるグリカン組成物全てを網羅する前駆イオンm/zをin-silicoで導き、各前駆イオンについて単一の定量的トランジションをモニターした(Q3 m/z=204)。
【0175】
MSデータ解析
取得した生データを、Analyst 1.5(AB Sciex)を用いて処理した。各トランジションの質量クロマトグラムを統合し、ピーク面積によって定量化した。全ての構成成分を合わせた合計に対する各構成成分の百分率組成を算出した。
【0176】
(実施例2)
例示的な抗TNFαGAbsの生成
抗TNFαGAb301
アダリムマブのFc領域からのAsn297のN結合グリカンの完全な除去はPNGase Fによって達成され、改変IgGおよび無改変IgGからのトリプシン処理グリコペプチド(tryptic glycopeptide)の4~12%Bis-Tris NeuPAGEおよびLC-MS/MS分析を用いて評価される。各アスパラギンにおけるN結合グリコシル化の潜在的部位を決定するため、および優勢なグリカンの種を解明するために、トリプシン処理グリコペプチドの分子量を使用した。
【0177】
抗TNFαGAb200
リン酸ナトリウム緩衝液(50mM、pH7.0、1.25mL)中アダリムマブ(2.5mg)をEndo S(125μg)と一緒に37℃で5時間インキュベートして、アダリムマブのFc上に二糖(GlcNAc-Fuc)をもたらした(抗TNFαGAb200)。反応混合物を、リン酸ナトリウム緩衝液(20mM、pH7.0)を用いて予め平衡化したプロテインA-アガロース樹脂(1mL)のカラムでのアフィニティークロマトグラフィーに供した。カラムをリン酸ナトリウム緩衝液(20mM、pH7.0、10mL)で洗浄した。結合したIgGをグリシン-HCl(50mM、pH3.0、10mL)を用いて放出させ、溶出画分をTris-Cl緩衝液(1.0M、pH8.3)ですぐに中和した。Fc断片を含有する画分を合わせ、遠心濾過(Amicon Ultra centrifugal filter、Millipore、Billerica、MA)によって濃縮して抗TNFαGAb201を生じさせた。産物をトリプシン処理し、グリコペプチドTKPREEQYNSTYRおよびEEQYNSTYRを、ナノスプレーLC/MSを用いて分析してGAb200のグリコシル化パターンを検証した。抗TNFαGAb200のN-グリカンプロファイリングの結果が
図1に示されている。
【0178】
抗TNFαGAb201
リン酸ナトリウム緩衝液(50mM、pH7.0、1.25mL)中アダリムマブ(2.5mg)をEndo S(125μg)とBacteroidesアルファ-L-フコシダーゼ(2.5mg)の混合物と一緒に37℃で5時間インキュベートしてアダリムマブのFc上に単糖(GlcNAc)をもたらした(抗TNFαGAb201)。反応混合物を、リン酸ナトリウム緩衝液(20mM、pH7.0)を用いて予め平衡化したプロテインA-アガロース樹脂(1mL)のカラムでのアフィニティークロマトグラフィーに供した。カラムをリン酸ナトリウム緩衝液(20mM、pH7.0、10mL)で洗浄した。結合したIgGをグリシン-HCl(50mM、pH3.0、10mL)を用いて放出させ、溶出画分をTris-Cl緩衝液(1.0M、pH8.3)ですぐに中和した。Fc断片を含有する画分を合わせ、遠心濾過(Amicon Ultra centrifugal filter、Millipore、Billerica、MA)によって濃縮して抗TNFαGAb201を生じさせた。産物をトリプシン処理し、グリコペプチドTKPREEQYNSTYRおよびEEQYNSTYRをナノスプレーLC/MSを用いて分析してGAb201のグリコシル化パターンを確認した。
【0179】
抗TNFαGAb101
鶏卵の卵黄からのシアリルグリコペプチド(SGP)の単離は公開されている方法に従った。簡単に述べると、鶏卵の卵黄のフェノール抽出物を遠心分離し、濾過し、セファデックスG-50、セファデックスG-25、DEAE-Toyoperarl 650M、CM-セファデックスC-25およびセファデックスG-25を含むクロマトグラフィーカラムによって精製した。リン酸ナトリウム緩衝液(50mM、pH6.0、5mM)中シアリルグリコペプチド(SGP)(52mg)の溶液をEndo M(53μg)と一緒に37℃でインキュベートした。7時間後、反応混合物をセファデックスG-25カラムでのゲル濾過クロマトグラフィーに供し、水により溶出した。産物を含有する画分を合わせ、凍結乾燥して産物(グリカン-101)を白色粉末として生じさせた(30mg、収率82%)。
【0180】
水中、グリカン-101(Sia2(α2-6)Gal2GlcNAc2Man3GlcNAc)(30mg)、2-クロロ-1,3-ジメチルイミダゾリニウムクロリド(DMC)(62.7mg)およびEt3N(89μL)の溶液を4℃で1時間にわたって撹拌した。反応混合物をセファデックスG-25カラムでのゲル濾過クロマトグラフィーに供し、0.05%水性Et3Nによって溶出した。産物(グリカンオキサゾリン-101)を含有する画分を合わせ、凍結乾燥して白色粉末を生じさせた。
【0181】
グリカンオキサゾリン-101を50mMのトリス緩衝液(pH7.8)中エンドグリコシダーゼとGAb201の混合物に添加し、室温で1時間インキュベートした。反応混合物を、プロテインAアフィニティーカラム、その後、陰イオン交換カラムcapto Qを用いて精製して、所望の産物である抗TNFαGAb101を収集した。産物をトリプシン処理し、グリコペプチドTKPREEQYNSTYRおよびEEQYNSTYRを、ナノスプレーLC/MSを用いて分析してGAb101のグリコシル化パターンを確認した。
【0182】
抗TNFαGAb104
水中、グリカン-104(Sia2(α2-6)Gal2GlcNAc3Man3GlcNAc)(30mg)、2-クロロ-1,3-ジメチルイミダゾリニウムクロリド(DMC)(64mg)およびEt3N(95μL)の溶液を4℃で1時間にわたって撹拌した。反応混合物をセファデックスG-25カラムでのゲル濾過クロマトグラフィーに供し、0.05%水性Et3Nによって溶出した。産物(グリカンオキサゾリン-104)を含有する画分を合わせ、凍結乾燥して白色粉末を生じさせた。
【0183】
グリカンオキサゾリン-104を50mMのトリス緩衝液(pH7.8)中エンドグリコシダーゼとGAb201の混合物に添加し、室温で1時間インキュベートした。反応混合物を、プロテインAアフィニティーカラム、その後、陰イオン交換カラムcapto Qを用いて精製して、所望の産物である抗TNFαGAb104を収集した。産物をトリプシン処理し、グリコペプチドTKPREEQYNSTYRおよびEEQYNSTYRを、ナノスプレーLC/MSを用いて分析してGAb104のグリコシル化パターンを確認した。
【0184】
抗TNFαGAb107
水中、グリカン-107(Sia2(α2-3)Gal2GlcNAc2Man3GlcNAc)(30mg)、2-クロロ-1,3-ジメチルイミダゾリニウムクロリド(DMC)(62.7mg)およびEt3N(89μL)の溶液を4℃で1時間にわたって撹拌した。反応混合物をセファデックスG-25カラムでのゲル濾過クロマトグラフィーに供し、0.05%水性Et3Nによって溶出した。産物(グリカンオキサゾリン-107)を含有する画分を合わせ、凍結乾燥して白色粉末を生じさせた。
【0185】
グリカンオキサゾリン-107を50mMのトリス緩衝液(pH7.8)中エンドグリコシダーゼとGAb201の混合物に添加し、室温で1時間インキュベートした。反応混合物を、プロテインAアフィニティーカラム、その後、陰イオン交換カラムcapto Qを用いて精製して、所望の産物である抗TNFαGAb107を収集した。産物をトリプシン処理し、グリコペプチドTKPREEQYNSTYRおよびEEQYNSTYRを、ナノスプレーLC/MSを用いて分析してGAb107のグリコシル化パターンを確認した。
【0186】
抗TNFαGAb109
水中、グリカン-109(Sia2(α2-3)Gal2GlcNAc3Man3GlcNAc)(30mg)、2-クロロ-1,3-ジメチルイミダゾリニウムクロリド(DMC)(64mg)およびEt3N(95μL)の溶液を4℃で1時間にわたって撹拌した。反応混合物をセファデックスG-25カラムでのゲル濾過クロマトグラフィーに供し、0.05%水性Et3Nによって溶出した。産物(グリカンオキサゾリン-109)を含有する画分を合わせ、凍結乾燥して白色粉末を生じさせた。
【0187】
グリカンオキサゾリン-109を50mMのトリス緩衝液(pH7.8)中エンドグリコシダーゼとGAb201の混合物に添加し、室温で1時間インキュベートした。反応混合物を、プロテインAアフィニティーカラム、その後、陰イオン交換カラムcapto Qを用いて精製して、所望の産物である抗TNFαGAb109を収集した。産物をトリプシン処理し、グリコペプチドTKPREEQYNSTYRおよびEEQYNSTYRを、ナノスプレーLC/MSを用いて分析してGAb109のグリコシル化パターンを確認した。
【0188】
抗TNFαGAb401
鶏卵の卵黄からのシアリルグリコペプチド(SGP)の単離は公開されている方法に従った。簡単に述べると、鶏卵の卵黄のフェノール抽出物を遠心分離し、濾過し、セファデックスG-50、セファデックスG-25、DEAE-Toyoperarl 650M、CM-セファデックスC-25およびセファデックスG-25を含むクロマトグラフィーカラムによって精製した。リン酸ナトリウム緩衝液(50mM、pH6.0、5mM)中シアリルグリコペプチド(SGP)(52mg)の溶液をEndo M(53μg)と一緒に37℃でインキュベートした。7時間後、反応混合物をセファデックスG-25カラムでのゲル濾過クロマトグラフィーに供し、水により溶出した。産物を含有する画分を合わせ、凍結乾燥して産物(グリカン-101)を白色粉末として生じさせた(30mg、収率82%)。
【0189】
水中、グリカン-101(Sia2(α2-6)Gal2GlcNAc2Man3GlcNAc)(30mg)、2-クロロ-1,3-ジメチルイミダゾリニウムクロリド(DMC)(62.7mg)およびEt3N(89μL)の溶液を4℃で1時間にわたって撹拌した。反応混合物をセファデックスG-25カラムでのゲル濾過クロマトグラフィーに供し、0.05%水性Et3Nによって溶出した。産物(グリカンオキサゾリン-401)を含有する画分を合わせ、凍結乾燥して白色粉末を生じさせた。
【0190】
グリカンオキサゾリン-401を50mMのトリス緩衝液(pH7.8)中エンドグリコシダーゼとGAb200の混合物に添加し、室温で1時間インキュベートした。反応混合物を、プロテインAアフィニティーカラム、その後、陰イオン交換カラムcapto Qを用いて精製して、所望の産物である抗TNFαGAb401を収集した。産物をトリプシン処理し、グリコペプチドTKPREEQYNSTYRおよびEEQYNSTYRを、ナノスプレーLC/MSを用いて分析してGAb401のグリコシル化パターンを確認した。N-グリカンプロファイリングの結果が
図1に示されている。
【0191】
抗TNFαGAb404
水中、グリカン-104(Sia2(α2-6)Gal2GlcNAc3Man3GlcNAc)(30mg)、2-クロロ-1,3-ジメチルイミダゾリニウムクロリド(DMC)(64mg)およびEt3N(95μL)の溶液を4℃で1時間にわたって撹拌した。反応混合物をセファデックスG-25カラムでのゲル濾過クロマトグラフィーに供し、0.05%水性Et3Nによって溶出した。産物(グリカンオキサゾリン-404)を含有する画分を合わせ、凍結乾燥して白色粉末を生じさせた。
【0192】
グリカンオキサゾリン-404を50mMのトリス緩衝液(pH7.8)中エンドグリコシダーゼとGAb200の混合物に添加し、室温で1時間インキュベートした。反応混合物を、プロテインAアフィニティーカラム、その後、陰イオン交換カラムcapto Qを用いて精製して、所望の産物である抗TNFαGAb404を収集した。産物をトリプシン処理し、グリコペプチドTKPREEQYNSTYRおよびEEQYNSTYRを、ナノスプレーLC/MSを用いて分析してGAb404のグリコシル化パターンを確認した。
【0193】
抗TNFαGAb407
水中、グリカン-107(Sia2(α2-3)Gal2GlcNAc2Man3GlcNAc)(30mg)、2-クロロ-1,3-ジメチルイミダゾリニウムクロリド(DMC)(62.7mg)およびEt3N(89μL)の溶液を4℃で1時間にわたって撹拌した。反応混合物をセファデックスG-25カラムでのゲル濾過クロマトグラフィーに供し、0.05%水性Et3Nによって溶出した。産物(グリカンオキサゾリン-407)を含有する画分を合わせ、凍結乾燥して白色粉末を生じさせた。
【0194】
グリカンオキサゾリン-407を50mMのトリス緩衝液(pH7.8)中エンドグリコシダーゼとGAb200の混合物に添加し、室温で1時間インキュベートした。反応混合物を、プロテインAアフィニティーカラム、その後、陰イオン交換カラムcapto Qを用いて精製して、所望の産物である抗TNFαGAb407を収集した。産物をトリプシン処理し、グリコペプチドTKPREEQYNSTYRおよびEEQYNSTYRを、ナノスプレーLC/MSを用いて分析してGAb407のグリコシル化パターンを確認した。
【0195】
抗TNFαGAb409
水中、グリカン-109(Sia2(α2-3)Gal2GlcNAc3Man3GlcNAc)(30mg)、2-クロロ-1,3-ジメチルイミダゾリニウムクロリド(DMC)(64mg)およびEt3N(95μL)の溶液を4℃で1時間にわたって撹拌した。反応混合物をセファデックスG-25カラムでのゲル濾過クロマトグラフィーに供し、0.05%水性Et3Nによって溶出した。産物(グリカンオキサゾリン-409)を含有する画分を合わせ、凍結乾燥して白色粉末を生じさせた。
【0196】
グリカンオキサゾリン-409を50mMのトリス緩衝液(pH7.8)中エンドグリコシダーゼとGAb200の混合物に添加し、室温で1時間インキュベートした。反応混合物を、プロテインAアフィニティーカラム、その後、陰イオン交換カラムcapto Qを用いて精製して、所望の産物である抗TNFαGAb409を収集した。産物をトリプシン処理し、グリコペプチドTKPREEQYNSTYRおよびEEQYNSTYRを、ナノスプレーLC/MSを用いて分析してGAb409のグリコシル化パターンを確認した。
【0197】
(実施例3)
例示的な抗TNFαGAbsの結合親和性
158アミノ酸を含有するヒト組換えTNF-α(MW=17.5kDa)をE.coli(PROSPEC)において産生させ、精製した。組換えヒトTNF-αタンパク質の力価設定を行い(titrate)、HBS-EP緩衝液中、50nM、25nM、12.5nM、6.25nM、および3.125nMの段階希釈物を調製した。アダリムマブおよび抗TNFαGAb200および401をHBS-EP緩衝液中、10μg/mlの濃度に希釈し、次いで、抗ヒトFcドメイン抗体を予め固定化したCM5チップに捕捉した。段階的な濃度の組換えヒトTNFアルファを分析物とし、次いで、毎分30μlの流量で注射し、チップ上に捕捉された抗体に結合させた。結合後、抗体-分析物複合体を再生緩衝液、10mMのグリシン-HCl、pH1.5により、毎分50μlの流量で洗浄した。さらなる使用のために、CM5チップをPBS、pH7.4中、4℃で維持した。単一サイクルの動力学データを、Biacore T200評価ソフトウェアを使用して1:1結合モデルに当てはめて、平衡定数(Ka/Kd)を測定した。
図2の結果から、GAb200、GAb401およびアダリムマブの結合親和性定数が同等であり、1.27 E-11Mから1.95 E-11Mまでにわたることが示された。
【0198】
(実施例4)
例示的な抗TNFαGAbsのFcγRIIIAに対する結合親和性
FcγRIIIA組換えタンパク質を、トランスフェクトしたHEK-293細胞株から精製し、次いで、ELISAコーティング緩衝液(50mMのNa
2CO
3、50mMのNaHCO
3、pH10)中0.5ug/mLに調製した。抗TNFαGAbsを、2%BSA/PBST中、150nMから1.54×10
-5nMまで5倍の力価設定を行い、次いで、組換えFcγRIIIAを予め固定化したELISAプレートに適用した。室温で1時間インキュベートした後、プレートを、2%BSA/TBST中の抗ヒトIgG-HRPを用いて室温で0.5時間にわたって処理した。TBSTを用いて3回洗浄した後、発色のために色素原を添加し、次いで、2.5NのH
2SO
4を添加することによって停止させた
。吸光度をOD450において読み取り、ソフトウェアSoftMax Pro 6.0によってEC
50を得た。表4の結果から、抗TNFαGAb101およびGAb401が、Humiraと比較して、EC
50および最大結合の程度のどちらによってもより強力なFcγRIIIA結合親和性を示すことが示された。
【表4】
例示的な実施形態では、Fc受容体結合は、少なくとも約1.35倍、1.5倍、1.75倍、2倍、2.5倍、3倍またはそれを超えて増大する。
【配列表】