(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-25
(45)【発行日】2022-05-09
(54)【発明の名称】流体デバイス用シリコーン部材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B81B 1/00 20060101AFI20220426BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20220426BHJP
B81C 1/00 20060101ALI20220426BHJP
【FI】
B81B1/00
G01N37/00 101
B81C1/00
(21)【出願番号】P 2017069579
(22)【出願日】2017-03-31
【審査請求日】2019-12-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【氏名又は名称】進藤 素子
(74)【代理人】
【識別番号】100115646
【氏名又は名称】東口 倫昭
(74)【代理人】
【識別番号】100196759
【氏名又は名称】工藤 雪
(72)【発明者】
【氏名】岡下 勝己
(72)【発明者】
【氏名】林 翔太
【審査官】永井 友子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-106916(JP,A)
【文献】国際公開第2009/120254(WO,A1)
【文献】特開2003-275999(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0165224(US,A1)
【文献】特開2017-026516(JP,A)
【文献】国際公開第2016/159068(WO,A1)
【文献】特開平11-300880(JP,A)
【文献】特開2007-075950(JP,A)
【文献】特開2006-266795(JP,A)
【文献】特開2015-198592(JP,A)
【文献】国際公開第2005/069001(WO,A1)
【文献】特開2011-005420(JP,A)
【文献】国際公開第2016/207721(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B81B 1/00
G01N 37/00
B81C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路に疎水性の流体を流す用途に用いられ、
シリコーン製の一体物であり、該流路を区画する一面が疎水性の該流体の一部を捕捉するための凹部とそれ以外の流路部とからなる基材と、
該基材の該凹部の全体に配置され、
乾式処理により形成され、疎水性の該流体の染み込みを抑制する疎水性のバリア層と、
該基材の該流路部に配置される親水性層と、
を有する流体デバイス用シリコーン部材。
【請求項2】
前記バリア層は、フッ化炭素膜である請求項1に記載の流体デバイス用シリコーン部材。
【請求項3】
前記親水性層は、有機成分を含む金属酸化物膜または金属酸化物膜である請求項1または請求項2に記載の流体デバイス用シリコーン部材。
【請求項4】
前記流路部において、前記親水性層と前記基材との間には疎水性のバリア層が配置されている請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の流体デバイス用シリコーン部材。
【請求項5】
前記凹部において、前記バリア層と前記基材との間には親水性層が配置されている請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の流体デバイス用シリコーン部材。
【請求項6】
請求項1に記載の流体デバイス用シリコーン部材の製造方法であって、
一面に凹部を有するシリコーン製の基材において、該一面全体に疎水性のバリア層をプラズマCVD法により形成するバリア層形成工程と、
該凹部以外の該バリア層の表面に、親水性層を形成する親水性層形成工程と、
を有する流体デバイス用シリコーン部材の製造方法。
【請求項7】
前記親水性層形成工程は、転写法により金属酸化物膜を形成する工程である請求項6に記載の流体デバイス用シリコーン部材の製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の流体デバイス用シリコーン部材の製造方法であって、
一面に凹部を有するシリコーン製の基材において、該一面全体に親水性層を形成する親水性層形成工程と、
形成された該親水性層の表面全体に、疎水性のバリア層をプラズマCVD法により形成するバリア層形成工程と、
該凹部以外の該バリア層を除去するバリア層除去工程と、
を有する流体デバイス用シリコーン部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細な流路を有する流体デバイスに有用なシリコーン部材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微細な流路を有するマイクロ流体デバイスを用いると、反応、抽出、分離、測定などの各種操作を、極めて少量の試料で短時間に行うことができる。マイクロ流体デバイスを構成する基材の材料としては、ガラスが一般的である。しかしながら、ガラス製の基材に微細な凹凸を形成するには、フォトリソグラフィおよびドライエッチングなどの工程が必要である。このため、基材の製造に時間がかかり生産性が低い。また、基材がガラス製の場合、焼却による廃棄ができないという問題もある。そこで、ガラスに代わる材料として、微細加工が容易であり、光透過性、耐薬品性に優れるという理由から、シリコーンが注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-181407号公報
【文献】特開2004-267152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シリコーン製の基材は、水に対する親和性が低い。このため、マイクロ流体デバイスに親水性の液体を流す場合には、例えば特許文献1に記載されているように、基材の表面に親水化処理が施されてきた。
【0005】
一方、マイクロ流体デバイスには、オイル、有機溶剤などの疎水性の液体を流す用途もある。例えば、溶媒が疎水性の液体である液状サンプルに含まれる所望の大きさの粒子数を計測するために、マイクロ流体デバイスを使用することができる。この場合の計測手順は以下の通りである。まず、流体デバイスの流路にサンプル液を導入し、続いて純水などの親水性の液体を導入する(フラッシング)。これにより、凹部以外の流路に残留する粒子を押し流しながら凹部に所望の粒子を捕捉すると共に、凹部における溶媒の揮発を抑制する。次に、凹部に捕捉された粒子を、光学顕微鏡などを用いた光学イメージング解析により計数する。
【0006】
また、合成された微細粒子のうち所望の大きさの粒子を回収したい場合にも、マイクロ流体デバイスを使用することができる。この場合の回収手順は以下の通りである。まず、流体デバイスの流路に、微細粒子が含まれているサンプル液(溶媒は疎水性の液体)を導入し、続いて純水などの親水性の液体を導入する(フラッシング)。これにより、先の用途の場合と同様に、凹部以外の流路に残留する粒子を押し流しながら凹部に所望の粒子を捕捉すると共に、凹部における溶媒の揮発を抑制する。次に、凹部に捕捉された粒子を顕微鏡などで検査した後、流路に疎水性の液体のみを導入する。そして、凹部に捕捉した粒子を当該液体に分散させて、液体ごと回収する。
【0007】
これらの用途においては、所望の大きさの粒子のみを確実に凹部に捕捉することが重要になる。しかしながら、シリコーン製の基材に、オイル、有機溶剤などの疎水性の液体を接触させると、液体が基材に染み込んで、基材が膨潤し変形するおそれがある。基材が変形すると凹部の大きさが変わってしまうため、所望の大きさの粒子を捕捉することができない。疎水性の液体の染み込みを抑制するには、例えば、基材の表面全体に疎水性のバリア層を形成することが考えられる。しかしながら、凹部を含めた流路全体を疎水化処理すると、凹部以外の流路にも粒子が付着し残留しやすくなる。このため、所望の大きさの粒子を漏れなく捕捉することが難しくなり、計測精度や回収率などが低下するおそれがある。
【0008】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、疎水性の液体と接触しても液体が染み込みにくく、捕捉対象物が収容される凹部以外に捕捉対象物が付着しにくい流体デバイス用シリコーン部材、およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記課題を解決するため、本発明の流体デバイス用シリコーン部材(以下、単に「本発明のシリコーン部材」と称する場合がある)は、シリコーン製の一体物であり、流路を区画する一面が流体の一部を捕捉するための凹部とそれ以外の流路部とからなる基材と、該基材の該凹部の少なくとも一部に配置される疎水性のバリア層と、該基材の該流路部に配置される親水性層と、を有することを特徴とする。
【0010】
(2)上記課題を解決するため、本発明の流体デバイス用シリコーン部材の第一の製造方法(以下、単に「本発明の第一の製造方法」と称する場合がある)は、本発明のシリコーン部材の製造方法の第一例であって、一面に凹部を有するシリコーン製の基材において、該一面全体に疎水性のバリア層をプラズマCVD法により形成するバリア層形成工程と、該凹部以外の該バリア層の表面に、親水性層を形成する親水性層形成工程と、を有することを特徴とする。
【0011】
(3)上記課題を解決するため、本発明の流体デバイス用シリコーン部材の第二の製造方法(以下、単に「本発明の第二の製造方法」と称する場合がある)は、本発明のシリコーン部材の製造方法の第二例であって、一面に凹部を有するシリコーン製の基材において、該一面全体に親水性層を形成する親水性層形成工程と、形成された該親水性層の表面全体に、疎水性のバリア層をプラズマCVD法により形成するバリア層形成工程と、該凹部以外の該バリア層を除去するバリア層除去工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
(1)本発明のシリコーン部材においては、基材の凹部の少なくとも一部に疎水性のバリア層が配置される。このため、オイル、有機溶剤などの疎水性の液体を流しても、当該液体と基材との直接的な接触がバリア層により回避され、当該液体の基材への染み込みが抑制される。これにより、基材の膨潤が抑制され変形が抑制される。よって、凹部の大きさが変化しにくい。また、本発明のシリコーン部材においては、凹部以外の流路部に親水性層が配置される。よって、流路部に疎水性の流体が残留しにくい。これにより、疎水性の流体に含まれる捕捉対象物を流路部に付着させることなく、凹部に漏れなく捕捉することができる。したがって、用途に応じて計測精度や回収率などを向上させることができる。なお、本明細書においては、JIS R3257:1999に準じて測定された水接触角が80°未満の場合を親水性、80°以上の場合を疎水性と定義する。
【0013】
ちなみに、特許文献2の
図2には、疎水性樹脂基材の窪み(凹部)以外の部分に親水性重合体層が配置されている細胞固定用基板が記載されている。しかしながら、特許文献2に記載されている疎水性樹脂基材の凹部には、バリア層が配置されているのではなく、樹脂基材そのものの疎水性表面が露出しているに過ぎない。このため、凹部にオイル、有機溶剤などの疎水性の液体が接触すると、樹脂基材が液体に溶解したり、樹脂基材に液体が染み込んでしまい、基材の変形を回避することはできない。
【0014】
(2)本発明の第一の製造方法においては、まず、凹部が形成されている基材の一面をプラズマCVD(化学気相蒸着)法により処理することで、一面全体に疎水性のバリア層を形成する。次に、凹部以外の部分(流路部を含む)のバリア層の表面に親水性層を形成する。こうすることにより、凹部全体がバリア層で被覆され、流路部が親水性層およびバリア層で被覆され、流路部の最表層が親水性層である形態の本発明のシリコーン部材を、容易に製造することができる。
【0015】
(3)本発明の第二の製造方法においては、まず、凹部が形成されている基材の一面全体に親水性層を形成する。次に、親水性層の表面全体をプラズマCVD法により処理することで、親水性層の表面全体に疎水性のバリア層を形成する。最後に、凹部以外の部分(流路部を含む)のバリア層を除去する。こうすることにより、凹部全体がバリア層および親水性層で被覆され、凹部全体の最表層がバリア層であり、流路部が親水性層で被覆された形態の本発明のシリコーン部材を、容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】第一実施形態のシリコーン部材を備える流体デバイスの透過上面図である。
【
図3】同流体デバイスのIII-III断面図である。
【
図4】同流体デバイスの下側部材の製造におけるバリア層形成工程の概略図である。
【
図5】同流体デバイスの下側部材の製造における親水性層形成工程の概略図である。
【
図6】同流体デバイスの製造における積層工程の概略図である。
【
図7】第二実施形態のシリコーン部材を備える流体デバイスの左右方向断面図である。
【
図8】同流体デバイスの下側部材の製造における親水性層形成工程の概略図である。
【
図9】同流体デバイスの下側部材の製造におけるバリア層形成工程の概略図である。
【
図10】同流体デバイスの下側部材の製造におけるマスキング工程の概略図である。
【
図11】同流体デバイスの下側部材の製造におけるバリア層除去工程の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の流体デバイス用シリコーン部材およびその製造方法の実施の形態を説明する。
【0018】
<第一実施形態>
[流体デバイス用シリコーン部材の構成]
まず、本実施形態のシリコーン部材の構成を説明する。
図1に、本実施形態のシリコーン部材を備える流体デバイスの透過上面図を示す。
図2に、同流体デバイスのII-II断面図を示す。
図3に、同流体デバイスのIII-III断面図を示す。本実施形態において、本発明のシリコーン部材は、流体デバイスの下側部材として具現化されている。
【0019】
図1~
図3に示すように、流体デバイス1は、上側部材10と、下側部材20と、を有している。上側部材10と下側部材20とは上下方向に積層されている。上側部材10の下面と、下側部材20の上面と、により流路11が区画されている。
【0020】
上側部材10は、上側基材12と、親水性層13と、を有している。上側基材12は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)製であり、長方形板状を呈している。上側基材12の下面には、上側凹部14が形成されている。上側基材12の前端部中央には、上側基材12を上下方向に貫通する導入孔15が穿設されている。流路11の上流端は、導入孔15と連通している。流路11の下流端には、後面に開口する排出口16が配置されている。親水性層13は、導入孔15の内周面を含めて上側基材12の下面全体に配置されている。親水性層13は、有機成分を含むケイ素酸化物膜である。
【0021】
下側部材20は、下側基材21と、バリア層22と、親水性層23と、を有している。下側基材21は、PDMS製であり、長方形板状を呈している。下側基材21の上面の中央付近には、7本の溝状の下側凹部24が形成されている。下側凹部24は、各々、左右方向に延びる直線状を呈している。下側凹部24は、各々、前後方向に所定の間隔で離間して平行に配置されている。下側凹部24の上下方向断面は矩形状を呈している。流路11を区画する下側基材21の上面は、下側凹部24と、それ以外の流路部25と、からなる。
【0022】
バリア層22は、下側凹部24を含む下側基材21の上面全体に配置されている。バリア層22は、疎水性のフッ化炭素膜である。親水性層23は、下側凹部24を除く領域においてバリア層22の上面を覆うように配置されている。親水性層23は、ケイ素酸化物膜である。これにより、下側凹部24の表面はバリア層22により被覆され、流路部25の表面はバリア層22および親水性層23により被覆されている。流路部25の最表層は、親水性層23である。
【0023】
[流体デバイス用シリコーン部材の製造方法]
次に、流体デバイス1の製造方法を説明しながら、本実施形態のシリコーン部材の製造方法を説明する。本実施形態のシリコーン部材の製造方法は、本発明の第一の製造方法に対応している。
図4に、流体デバイスの下側部材の製造におけるバリア層形成工程を示す。
図5に、同下側部材の製造における親水性層形成工程を示す。
図6に、上側部材と下側部材との積層工程を示す。
【0024】
まず、
図4に示すように、下側基材21の一面210に、フッ化炭素ガスを含む雰囲気中でマイクロ波プラズマPを照射して、フッ化炭素膜を形成する。これにより、下側凹部24を含む一面210全体にバリア層22が形成される。次に、
図5に示すように、下側基材21を反転させて、下側基材21のバリア層22側をスタンプ部材30に押しつける。スタンプ部材30には、予めポリシラザンを含む試薬300が含浸されている。これにより、下側基材21の下側凹部24以外のバリア層22の表面に、ポリシラザン液が付着する。その後、付着したポリシラザン液を乾燥させて、下側凹部24以外のバリア層22の表面に、親水性層23としてのケイ素酸化物膜を形成する。このようにして、
図6に示すように、下側基材21にバリア層22と親水性層23とが配置された下側部材20が製造される。これとは別に、上側基材12の下面全体に、テトラエトキシシラン(TEOS)ガスを含む雰囲気中でマイクロ波プラズマを照射して、有機成分を含むケイ素酸化物膜(親水性層13)を形成しておく。そして、
図6中、白抜き矢印で示すように、上側部材10と下側部材20とを重ね合わせて、前出
図2に示す流体デバイス1が製造される。
【0025】
[作用効果]
次に、本実施形態のシリコーン部材およびその製造方法の作用効果を説明する。本実施形態の流体デバイス1において、導入孔15から注入された流体は、流路11を流れて排出口16から排出される。例えば、有機溶媒に粒子が分散されている疎水性のサンプル液を流体デバイス1に流した場合、サンプル液と下側基材21との直接的な接触は、バリア層22および親水性層23により回避される。このため、下側基材21にサンプル液が染み込みにくく、下側基材21の膨潤が抑制される。したがって、下側基材21の変形が抑制され、下側凹部24の大きさが変化しにくい。また、下側凹部24は疎水性のバリア層22で被覆され、流路部25の最表層は親水性層23である。さらに、流路11を形成する上側基材12の下面全体にも親水性層13が配置されている。流路11における下側凹部24以外の部分は全て親水性を有しているため、下側凹部24以外の部分に疎水性のサンプル液が付着、残留しにくい。したがって、サンプル液中の所望の粒子を下側凹部24に漏れなく捕捉することができる。
【0026】
本実施形態の製造方法においては、下側基材21に親水性層23を形成する際に、ポリシラザン液をバリア層22の表面に転写させる転写法を採用した。これにより、下側凹部24以外の部分に容易に親水性層23を形成することができる。このように、本実施形態の製造方法によると、下側凹部24の全体がバリア層22で被覆され、流路部25が親水性層23およびバリア層22で被覆され、流路部25の最表層が親水性層23である形態の下側部材20を、容易に製造することができる。
【0027】
<第二実施形態>
第一実施形態のシリコーン部材と、本実施形態のシリコーン部材と、の相違点は、バリア層と親水性層との配置形態である。よって、ここでは相違点についてのみ説明する。
【0028】
まず、本実施形態のシリコーン部材の構成を説明する。
図7に、本実施形態のシリコーン部材を備える流体デバイスの左右方向断面図を示す。
図7は、前出
図2に対応している。
図7中、
図2と対応する部位については同じ符号で示す。
【0029】
図7に示すように、下側部材20は、下側基材21と、バリア層22と、親水性層26と、を有している。親水性層26は、下側凹部24を含む下側基材21の上面全体に配置されている。親水性層26は、有機成分を含むケイ素酸化物膜である。バリア層22は、下側凹部24における親水性層26のみを覆うように配置されている。これにより、下側凹部24の表面は親水性層26およびバリア層22により被覆され、流路部25の表面は親水性層26により被覆されている。下側凹部24の最表層は、バリア層22である。
【0030】
次に、本実施形態のシリコーン部材の製造方法を説明する。本実施形態のシリコーン部材の製造方法は、本発明の第二の製造方法に対応している。
図8に、流体デバイスの下側部材の製造における親水性層形成工程を示す。
図9に、同下側部材の製造におけるバリア層形成工程を示す。
図10に、同下側部材の製造におけるマスキング工程を示す。
図11に、同下側部材の製造におけるバリア層除去工程を示す。
【0031】
まず、
図8に示すように、下側基材21の一面210に、TEOSガスを含む雰囲気中でマイクロ波プラズマPを照射して、有機成分を含むケイ素酸化物膜を形成する。これにより、下側凹部24を含む一面210全体に親水性層26が形成される。次に、
図9に示すように、下側基材21の親水性層26の表面に、フッ化炭素ガスを含む雰囲気中でマイクロ波プラズマPを照射して、フッ化炭素膜を形成する。これにより、親水性層26の表面全体にバリア層22が形成される。続いて、下側基材21のバリア層22の表面全体にフォトレジスト31を塗布して表面を平坦化した後、酸素(O
2)を含むガス雰囲気でプラズマを照射して、下側凹部24以外の部分に塗布されたフォトレジスト31を除去する。この際、同じ厚さだけ下側凹部24に塗布されたフォトレジスト31も除去される。これにより、
図10に示すように、下側凹部24のみがマスキングされ、それ以外のバリア層22aが露出する。それから、
図11中、白抜き矢印で示すように、下側凹部24以外の部分に形成されたバリア層22aをプラズマドライエッチング法により除去する。最後に、下側凹部24に残っているフォトレジスト31を、洗浄液を用いて、またはO
2を含むガス雰囲気でプラズマを照射して除去する。このようにして、下側基材21にバリア層22と親水性層26とが配置された下側部材20が製造される(前出
図7参照)。
【0032】
次に、本実施形態のシリコーン部材およびその製造方法の作用効果を説明する。本実施形態の流体デバイス1に、有機溶媒に粒子が分散されている疎水性のサンプル液を流した場合、サンプル液と下側基材21との直接的な接触は、バリア層22および親水性層26により回避される。このため、下側基材21にサンプル液が染み込みにくく、下側基材21の膨潤が抑制される。したがって、下側基材21の変形が抑制され、下側凹部24の大きさが変化しにくい。また、下側凹部24の最表層は疎水性のバリア層22であり、流路部25は親水性層26で被覆されている。さらに、流路11を形成する上側基材12の下面全体にも親水性層13が配置されている。流路11における下側凹部24以外の部分は全て親水性を有しているため、下側凹部24以外の部分に疎水性のサンプル液が付着、残留しにくい。したがって、サンプル液中の所望の粒子を下側凹部24に漏れなく捕捉することができる。
【0033】
本実施形態の製造方法においては、親水性層26およびバリア層22の両方を、プラズマCVD法により形成した。これにより、親水性層26およびバリア層22を容易に形成することができる。このように、本実施形態の製造方法によると、下側凹部24の全体がバリア層22および親水性層26で被覆され、下側凹部24の最表層がバリア層22であり、流路部25が親水性層26で被覆された形態の下側部材20を、容易に製造することができる。
【0034】
<その他の形態>
以上、本発明のシリコーン部材およびその製造方法の実施の形態を示したが、本発明のシリコーン部材を備える流体デバイスの構成は、上記形態に限定されない。例えば、本発明のシリコーン部材に積層される相手部材の材質は、PDMSなどのシリコーンの他、フッ素樹脂、ガラスなどでもよい。相手部材の形状、大きさなども何ら限定されない。本発明のシリコーン部材と相手部材とは、単に積層させるだけでもよいが、接着剤などを用いて接着してもよい。
【0035】
また、本発明のシリコーン部材およびその製造方法は、上記形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。次に、本発明のシリコーン部材およびその製造方法について詳しく説明する。
【0036】
[流体デバイス用シリコーン部材]
本発明のシリコーン部材を構成する基材は、シリコーン製の一体物であり、流路を区画する一面は、流体の一部を捕捉するための凹部とそれ以外の流路部とからなる。本明細書において「シリコーン」とは、シリコーン樹脂およびシリコーンゴムの両方を含む概念である。本発明による作用効果を発揮させるためには、流路を流れる流体は、疎水性であることが望ましい。疎水性の流体の一部は凹部に捕捉される。流体の一部は、流体そのものの一部でもよく、流体に含まれている特定の物質のみでもよい。
【0037】
凹部の大きさ、形状、配置形態は、特に限定されない。例えば、凹部は、溝状でも窪み状でもよい。凹部の深さ方向の断面は、正方形、長方形、台形などの矩形状、半円、楕円などの曲面状、V字状などであればよい。
【0038】
疎水性のバリア層は、凹部の少なくとも一部に配置される。すなわち、凹部の全体を覆うように配置されてもよく、凹部の形状により底面のみ、側面のみなど凹部の一部を覆うように配置されてもよい。バリア層は、改質により形成されたものでもよく、成膜されたものでもよい。改質の場合、O2を含むガス雰囲気中でのプラズマの照射、エキシマ光の照射、短時間パルス過熱による極表面アニールなどを用いて、基材表面を酸化改質することにより、凹部に親水性の官能基が付与された形態が挙げられる。成膜されたものである場合、上記実施形態のフッ化炭素膜の他、有機成分を含む金属酸化物膜、フッ素樹脂膜などが挙げられる。この場合、膜は単分子膜であってもよい。用途により、バリア層は、疎水性に加えて撥油性などを有してもよい。
【0039】
親水性層は、凹部以外の流路部に配置される。親水性層は、改質により形成されたものでもよく、成膜されたものでもよい。改質の場合、水酸基、アミノ基、C-N結合、C=O結合、アミド結合(O=C-N)などが付与された形態が挙げられる。成膜されたものである場合、上記実施形態のケイ素酸化物膜、有機成分を含むケイ素酸化物膜の他、チタン酸化物膜、アルミニウム酸化物、亜鉛酸化物などの金属酸化物膜、および有機成分を含むこれらの金属酸化物膜が挙げられる。この場合、膜は単分子膜であってもよい。
【0040】
上記第一実施形態においては、流路部に、バリア層と親水性層とを積層して配置した。上記第二実施形態においては、凹部に、親水性層とバリア層とを積層して配置した。しかしながら、流路部に配置するのは、親水性層の一層でもよい。同様に、凹部に配置するのは、バリア層の一層でもよい。
【0041】
[流体デバイス用シリコーン部材の製造方法]
(1)本発明の第一の製造方法は、バリア層形成工程と、親水性層形成工程と、を有する。以下、各工程を説明する。
【0042】
(1-1)バリア層形成工程
本工程は、一面に凹部を有するシリコーン製の基材において、該一面全体に疎水性のバリア層をプラズマCVD法により形成する工程である。
【0043】
一面に凹部を有する基材は、シリコーンの射出成形などにより製造すればよい。また、基材を成形した後に一面を加工して凹部を形成してもよい。
【0044】
プラズマCVD法においては、真空容器内に、原料ガスおよびキャリアガスを供給して所定のガス雰囲気を形成した後、プラズマを発生させて成膜を行う。原料ガスは、膜の種類に応じて適宜選択すればよい。例えば、フッ化炭素膜を形成する場合には、CxFy(x、yは任意の整数)ガスを用いればよい。CxFyは、水素原子(H)またはフッ素以外のハロゲン原子を含んでいてもよい。具体的には、CH3F、CH2F2、CHF3、CF4、C2F6、C5F8などのガスを用いればよい。有機成分を含む金属酸化物膜を形成する場合には、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、TEOS、オルトチタン酸テトライソプロピル(TTIP)、チタン酸テトラエチル、チタン酸イソプロピルなどのガスを単独、またはO2ガスと混合して用いればよい。キャリガスとしては、アルゴン(Ar)、ヘリウムなどの希ガスや窒素などが挙げられる。成膜する際の圧力は、1~100Pa程度にすればよい。
【0045】
プラズマの発生方法は、特に限定されない。例えば、高周波(RF)電源を用いたRFプラズマや、マイクロ波電源を用いたマイクロ波プラズマなどを採用すればよい。なかでも、マイクロ波プラズマは、プラズマ密度が大きく成膜速度が大きいため生産性が高い、プラズマダメージが少なく薄膜の形成に適している、などの理由から好適である。マイクロ波の周波数は、特に限定されない。8.35GHz、2.45GHz、1.98GHz、915MHzなどが挙げられる。
【0046】
(1-2)親水性層形成工程
本工程は、凹部以外のバリア層の表面に、親水性層を形成する工程である。本工程により、流路部の最表層として親水性層が形成される。親水性層の形成方法は特に限定されない。例えば、バリア層の表面を改質したり、表面に親水性膜を形成すればよい。改質する場合には、例えばO2を含むガス雰囲気中でプラズマを照射して、バリア層の表面に親水性の官能基を付与すればよい。成膜する場合には、転写法、プラズマCVD法などを用いればよい。前者の場合、バリア層の表面を、成膜材料を含む液を保持する部材に押し当てて、当該液をバリア層の表面に転写させる。後者の場合、例えばTEOSガスなどを含む雰囲気中でマイクロ波プラズマを照射して、有機成分を含むケイ素酸化物膜を形成する。
【0047】
(2)本発明の第二の製造方法は、親水性層形成工程と、バリア層形成工程と、バリア層除去工程と、を有する。親水性層形成工程においては、基材の一面全体に親水性層を形成する。バリア層形成工程においては、親水性層の表面全体に疎水性のバリア層をプラズマCVD法により形成する。これらの工程は、第一の製造方法と同じように行えばよい。よって、ここではバリア層除去工程についてのみ説明する。
【0048】
バリア層除去工程は、凹部以外のバリア層を除去する工程である。本工程により、流路部に親水性層が表出する。バリア層を除去するには、次の方法が好適である。まず、バリア層の表面全体にフォトレジストを塗布して表面を平坦化する。次に、O2を含むガス雰囲気でプラズマを照射して、凹部以外の部分に塗布されたフォトレジストを除去する。続いて、凹部以外の露出したバリア層を、例えばAr、O2、水素(H2)ガスを単独、または混合した雰囲気中でRFプラズマを照射するドライエッチング法により除去する。最後に、凹部に残っているフォトレジストを、洗浄液を用いて、またはO2を含むガス雰囲気でプラズマを照射して除去する。
【0049】
(3)本発明のシリコーン部材は、上述した本発明の第一の製造方法および第二の製造方法以外の方法でも製造することができる。例えば、バリア層および親水性層は、スパッタ法や真空蒸着などの乾式処理、またはスプレーコーティング、ディップ処理などの湿式処理など、種々の方法により形成することができる。スプレーコーティングなどの湿式処理によると、薄膜化のために、コーティング材料に有機溶剤を加えて希釈することが必要になる。この際、有機溶剤が染み込んで基材が膨潤したり、基材が有機溶剤に溶解して変形するおそれがある。よって、乾式処理による形成が望ましい。なかでも、膜組成の調整が行いやすく、製造が容易であることから、プラズマCVD法がより望ましい。
【実施例】
【0050】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0051】
<シリコーン部材の製造>
[実施例1]
シリコーン部材として、上記第一実施形態の下側部材を製造した。下側部材の前後方向長さは50mm、左右方向長さは10mmである。下側凹部の前後方向長さ(幅)は6μm、左右方向長さは5mm、深さは10μm、凹部と凹部との間隔は10μmである(
図1参照)。
【0052】
まず、PDMSを射出成形して、上面に所定の下側凹部を有する板状の下側基材を製造した。次に、下側基材を真空容器内に配置して、内部を0.5Pa以下の減圧状態にした。続いて、真空容器内にArガスおよびC5F8ガスを供給して、合計圧力6Paの混合ガス雰囲気を形成した。それから、周波数2.45GHz、出力電力0.75kWにてマイクロ波プラズマを発生させて、25秒間成膜処理を行った。このようにして、下側基材の上面全体に、フッ化炭素膜からなるバリア層を形成した。バリア層の厚さは75nmであった。
【0053】
次に、厚さ0.2mmの板状のメラミンフォーム製のスタンプ部材に、ポリシラザン(AZエレクトロニックマテリアルズ(株)製「アクアミカ(登録商標)NAX120-20」)を含む試薬1mlを含浸させた。そして、下側基材の上面をスタンプ部材に押しつけて、下側凹部以外の部分に試薬を転写した。その後、温度65℃にて24時間乾燥させて、下側凹部以外の部分にケイ素酸化物膜からなる親水性層を形成した。親水性層の厚さは1~50nm程度であった。製造した下側部材を実施例1のシリコーン部材と称す。
【0054】
[比較例1]
実施例1と同じPDMS製の下側基材の上面全体(下側凹部および流路部を含む)に、親水性層を形成して下側部材を製造した。まず、真空容器内に下側基材を配置して、内部を0.5Pa以下の減圧状態にした。次に、真空容器内にArガス、O2ガス、およびTEOSガスを供給して、合計圧力6Paの混合ガス雰囲気を形成した。それから、周波数2.45GHz、出力電力0.5kWにてマイクロ波プラズマを発生させて、20秒間成膜処理を行った。このようにして、下側基材の上面全体に、有機成分を含むケイ素酸化物膜からなる親水性層を形成した。親水性層の厚さは30nmであった。製造した下側部材を比較例1のシリコーン部材と称す。
【0055】
[比較例2]
実施例1と同じPDMS製の下側基材の上面全体(下側凹部および流路部を含む)に、疎水性のバリア層を形成して下側部材を製造した。まず、真空容器内に下側基材を配置して、内部を0.5Pa以下の減圧状態にした。次に、真空容器内にArガスおよびC5F8ガスを供給して、合計圧力6Paの混合ガス雰囲気を形成した。それから、周波数2.45GHz、出力電力0.75kWにてマイクロ波プラズマを発生させて、25秒間成膜処理を行った。このようにして、下側基材の上面全体に、フッ化炭素膜からなるバリア層を形成した。バリア層の厚さは75nmであった。製造した下側部材を比較例2のシリコーン部材と称す。
【0056】
[比較例3]
実施例1で使用したPDMS製の下側基材そのものを、比較例3のシリコーン部材とした。
【0057】
<流体デバイスの製造>
製造したシリコーン部材を用いて、上記第一実施形態の流体デバイスを製造した(前出
図1~
図3参照)。上側部材については以下の手順で製造した。まず、PDMSを射出成形して、所定の形状の上側基材を製造した。上側基材において、流路を区画する上側凹部の深さは150μm、導入孔の直径は100μmである。次に、上側基材を真空容器内に配置して、内部を0.5Pa以下の減圧状態にした。続いて、真空容器内にArガス、O
2ガス、およびTEOSガスを供給して、合計圧力6Paの混合ガス雰囲気を形成した。それから、周波数2.45GHz、出力電力0.5kWにてマイクロ波プラズマを発生させて、20秒間成膜処理を行った。このようにして、上側基材の下面全体に、有機成分を含むケイ素酸化物膜からなる親水性層を形成した。親水性層の厚さは30nmであった。
【0058】
製造した上側部材とシリコーン部材(下側部材)とを積層して両者を接合した。このようにして製造された流体デバイスを、シリコーン部材の番号に対応させて、実施例1の流体デバイスなどと称す。
【0059】
<粒子捕捉性の評価>
[評価方法]
流体デバイスの流路に試液を流し、下側凹部における粒子の捕捉性を評価した。まず、有機溶剤のヘキサンにシリカ粒子(Bangs Laboratories社製「SS06N」、直径5μm)を分散させて、濃度1×107個/mlの試液を調製した。次に、流体デバイスの導入孔より、試液30μlをマイクロピペットを用いて注入した。そのまま3分間静置した後、流体デバイスの前端を持ち上げ、水平から30°傾けた状態で、導入孔より純水100μlを静かに注入して、下側凹部以外の部分に残留している試液を排出口から排出した。それから、下側凹部と流路部とにおける残留物を確認した。残留物の確認は、オリンパス(株)製の倒立顕微鏡「GX-51」を用いて行い、粒子が観察されれば残留物あり、観察されなければ残留物なしとした。そして、下側凹部に残留物があり、かつ流路部に残留物がない場合のみを捕捉性良好(後出表1中、〇印で示す)と評価し、それ以外は捕捉性不良(後出表1中、×印で示す)と評価した。
【0060】
[評価結果]
表1に、下側凹部における粒子の捕捉性の評価結果を示す。
【表1】
【0061】
表1に示すように、実施例1の流体デバイスにおいては、下側凹部に残留物があり、かつ、流路部に残留物がなかった。すなわち、実施例1の流体デバイスにおいては、捕捉性が良好であることが確認された。これに対して、下側凹部を含む上面全体に親水性層が形成されている比較例1の流体デバイスにおいては、下側凹部に残留物がなかったため、捕捉性は不良と判断した。また、比較例2の流体デバイスにおいては、下側凹部だけでなく流路部にも残留物があった。これは、試液が流路部に付着しやすいことを意味するため、捕捉性は不良と判断した。比較例3の流体デバイスにおいては、試液の染み込みにより下側部材が膨潤し変形したため、評価することができなかった。
【0062】
<水接触角の測定>
PDMS製のシート状の基材(縦50mm×横50mm×厚さ5mm)の表面に、実施例および比較例のシリコーン部材に形成したのと同様のバリア層または親水性層を形成して、各々の層の水接触角を測定した。また、比較例3のシリコーン部材に対応させて、基材表面の水接触角も測定した。水接触角については、水接触角計(協和界面科学(株)製「DM500」)を用いて測定した。表2に、水接触角の測定結果を示す。
【表2】
【0063】
表2に示すように、実施例1のシリコーン部材におけるバリア層の水接触角は110°であり、親水性層の水接触角は60°であった。これにより、実施例1のシリコーン部材の下側凹部は疎水性を有し、流路部は親水性を有することが確認された。一方、比較例1のシリコーン部材における親水性層の水接触角は10°未満であり、比較例1のシリコーン部材においては、下側凹部を含む上面全体が親水性を有することが確認された。また、比較例2のシリコーン部材におけるバリア層の水接触角は110°であり、比較例2のシリコーン部材においては、下側凹部を含む上面全体が疎水性を有することが確認された。また、基材表面の水接触角は110°であり、比較例3のシリコーン部材は、PDMS由来の疎水性を有することが確認された。
【0064】
<膨潤性の評価>
[評価方法]
水接触角の測定に使用した成膜後のシリコーンシートを用いて、膨潤性を評価した。具体的には、シートの成膜面に、有機溶剤のトルエンを接触させて、シートの変形の有無を観察した。比較例3については、シート(基材)の表面にトルエンを接触させて、変形の有無を観察した。まず、シートの成膜面の中央に、直径10mmの円筒状のステンレス管を配置した。次に、ステンレス管の内側にトルエンを10ml注入した。それから5分間経過した後、残留しているトルエンをスポイトで除去し、ステンレス管を取り外した。そして、成膜面におけるトルエン接触部と非接触部との厚さの差を、デジタルゲージ((株)小野測器製「DG-925」)にて測定した。この際、厚さの差が50μm未満であれば、変形なし(膨潤なし)と判断した。
【0065】
[評価結果]
表3に、各シートにおける変形の有無を示す。
【表3】
【0066】
表3に示すように、基材のみの比較例3のシートは、トルエンが染み込んで大きく変形した。これに対して、実施例1のバリア層が形成されたシート、および実施例1の親水性層が形成されたシートのいずれにおいても、変形なしという結果になった。すなわち、実施例1のシリコーン部材においては、疎水性の液体が接触しても、下側凹部および流路部のいずれも膨潤しにくいことが確認された。また、比較例1の親水性層が形成されたシート、および比較例2のバリア層が形成されたシートのいずれにおいても、変形なしという結果になった。
【符号の説明】
【0067】
1:流体デバイス、10:上側部材、11:流路、12:上側基材、13:親水性層、14:上側凹部、15:導入孔、16:排出口、20:下側部材(流体デバイス用シリコーン部材)、21:下側基材(基材)、22:バリア層、22a:バリア層、23:親水性層、24:下側凹部(凹部)、25:流路部、26:親水性層、30:スタンプ部材、31:フォトレジスト、210:一面、300:試薬、P:マイクロ波プラズマ。