(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-25
(45)【発行日】2022-05-09
(54)【発明の名称】加工対象物切断方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/301 20060101AFI20220426BHJP
B23K 26/53 20140101ALI20220426BHJP
H01L 21/3065 20060101ALI20220426BHJP
【FI】
H01L21/78 V
H01L21/78 B
H01L21/78 S
B23K26/53
H01L21/302 105B
(21)【出願番号】P 2017081527
(22)【出願日】2017-04-17
【審査請求日】2020-04-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【氏名又は名称】柴山 健一
(72)【発明者】
【氏名】坂本 剛志
(72)【発明者】
【氏名】田口 智也
【審査官】内田 正和
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-039755(JP,A)
【文献】特開2013-055120(JP,A)
【文献】特開2012-023085(JP,A)
【文献】特開2014-019610(JP,A)
【文献】特開2007-69216(JP,A)
【文献】特開2006-140354(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
B23K 26/53
H01L 21/3065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶シリコン基板と、第1主面側に設けられた機能素子層と、を有する加工対象物を準備し、前記加工対象物の第2主面にエッチング保護層を形成する第1ステップと、
前記第1ステップの後に、前記加工対象物にレーザ光を照射することにより、複数の切断予定ラインのそれぞれに沿って、前記単結晶シリコン基板の内部に、少なくとも1列の改質領域を形成し、前記複数の切断予定ラインのそれぞれに沿って、前記加工対象物に、前記少なくとも1列の改質領域と前記エッチング保護層の表面との間に渡るように亀裂を形成する第2ステップと、
前記第2ステップの後に、前記エッチング保護層が前記第2主面に形成された状態で、前記加工対象物に前記第2主面側からドライエッチングを施すことにより、前記複数の切断予定ラインのそれぞれに沿って、前記加工対象物に、前記第2主面に開口する溝を形成する第3ステップと、を備え
、
前記第3ステップにおいては、前記複数の切断予定ラインのそれぞれに沿って前記エッチング保護層に形成された前記亀裂が、前記エッチング保護層においてガス通過領域として機能する、加工対象物切断方法。
【請求項2】
前記第1ステップにおいては、前記レーザ光に対して透過性を有する材料を用いて前記エッチング保護層を形成し、
前記第2ステップにおいては、前記エッチング保護層を介して前記加工対象物に前記レーザ光を照射する、請求項1に記載の加工対象物切断方法。
【請求項3】
前記第3ステップにおいては、前記エッチング保護層が残存するように、前記第2主面側から前記ドライエッチングを施す、請求項1又は2に記載の加工対象物切断方法。
【請求項4】
前記第3ステップにおいては、前記エッチング保護層が除去されるように、前記第2主面側から前記ドライエッチングを施す、請求項1又は2に記載の加工対象物切断方法。
【請求項5】
前記第2ステップにおいては、前記加工対象物の厚さ方向に並ぶ複数列の改質領域を形成することにより、前記複数の切断予定ラインのそれぞれに沿って前記少なくとも1列の改質領域を形成し、前記複数列の改質領域において互いに隣り合う改質領域の間に渡るように前記亀裂を形成する、請求項1~4のいずれか一項に記載の加工対象物切断方法。
【請求項6】
前記第2ステップにおいては、前記複数の切断予定ラインのそれぞれに沿って並ぶ複数の改質スポットを形成することにより、前記複数の切断予定ラインのそれぞれに沿って前記少なくとも1列の改質領域を形成し、前記複数の改質スポットにおいて互いに隣り合う改質スポットの間に渡るように前記亀裂を形成する、請求項1~5のいずれか一項に記載の加工対象物切断方法。
【請求項7】
前記第3ステップの後に、前記第2主面側に拡張フィルムを貼り付け、前記拡張フィルムを拡張させることにより、前記複数の切断予定ラインのそれぞれに沿って、前記加工対象物を複数の半導体チップに切断する第4ステップを更に備える、請求項1~6のいずれか一項に記載の加工対象物切断方法。
【請求項8】
単結晶シリコン基板と、第1主面側に設けられた機能素子層と、を有する加工対象物を準備し、前記第1主面にエッチング保護層を形成する第1ステップと、
前記第1ステップの後に、前記加工対象物にレーザ光を照射することにより、複数の切断予定ラインのそれぞれに沿って、前記単結晶シリコン基板の内部に、少なくとも1列の改質領域を形成し、前記複数の切断予定ラインのそれぞれに沿って、前記加工対象物に、前記少なくとも1列の改質領域と前記エッチング保護層の表面との間に渡るように亀裂を形成する第2ステップと、
前記第2ステップの後に、前記エッチング保護層が前記第1主面に形成された状態で、前記加工対象物に前記第1主面側からドライエッチングを施すことにより、前記複数の切断予定ラインのそれぞれに沿って、前記加工対象物に、前記第1主面に開口する溝を形成する第3ステップと、を備え
、
前記第3ステップにおいては、前記複数の切断予定ラインのそれぞれに沿って前記エッチング保護層に形成された前記亀裂が、前記エッチング保護層においてガス通過領域として機能する、加工対象物切断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工対象物切断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
加工対象物にレーザ光を照射することにより、複数の切断予定ラインのそれぞれに沿って加工対象物に少なくとも1列の改質領域を形成し、加工対象物に貼り付けられた拡張フィルムを拡張させることにより、複数の切断予定ラインのそれぞれに沿って加工対象物を複数の半導体チップに切断する加工対象物切断方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような加工対象物切断方法においては、拡張フィルムを拡張させることにより、改質領域から伸展した亀裂を加工対象物の両主面に到達させて加工対象物を複数の半導体チップに切断する場合があるが、複数の半導体チップに切断されない部分が残ることがある。
【0005】
本発明は、加工対象物を複数の半導体チップに確実に切断することができる加工対象物切断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の加工対象物切断方法は、単結晶シリコン基板と、第1主面側に設けられた機能素子層と、を有する加工対象物を準備し、加工対象物の第2主面にエッチング保護層を形成する第1ステップと、第1ステップの後に、加工対象物にレーザ光を照射することにより、複数の切断予定ラインのそれぞれに沿って、単結晶シリコン基板の内部に、少なくとも1列の改質領域を形成し、複数の切断予定ラインのそれぞれに沿って、加工対象物に、少なくとも1列の改質領域とエッチング保護層の表面との間に渡るように亀裂を形成する第2ステップと、第2ステップの後に、エッチング保護層が第2主面に形成された状態で、加工対象物に第2主面側からドライエッチングを施すことにより、複数の切断予定ラインのそれぞれに沿って、加工対象物に、第2主面に開口する溝を形成する第3ステップと、を備える。
【0007】
この加工対象物切断方法では、少なくとも1列の改質領域と第2主面上のエッチング保護層の表面との間に渡るように亀裂が形成された加工対象物に、第2主面側からドライエッチングを施す。このとき、第2主面には、複数の切断予定ラインのそれぞれに沿って亀裂が形成されたエッチング保護層が形成されている。これにより、ドライエッチングが第2主面側から亀裂に沿って選択的に進行し、開口の幅が狭く且つ深い溝が複数の切断予定ラインのそれぞれに沿って形成される。したがって、例えば、溝が開口する第2主面側に貼り付けられた拡張フィルムを拡張させることにより、切断予定ラインのそれぞれに沿って加工対象物を複数の半導体チップに確実に切断することができる。
【0008】
本発明の加工対象物切断方法では、第1ステップにおいては、レーザ光に対して透過性を有する材料を用いてエッチング保護層を形成し、第2ステップにおいては、エッチング保護層を介して加工対象物にレーザ光を照射してもよい。これによれば、単結晶シリコン基板に機能素子層とは反対側からレーザ光を入射せることができるため、機能素子層の構成によらず、改質領域及び亀裂を確実に形成することができる。
【0009】
本発明の加工対象物切断方法では、第3ステップにおいては、エッチング保護層が残存するように、第2主面側からドライエッチングを施してもよい。これによれば、半導体チップにおいて、エッチング保護層を、強度的な補強層、不純物を捕捉するゲッタリング層として機能させることができる。
【0010】
本発明の加工対象物切断方法では、第3ステップにおいては、エッチング保護層が除去されるように、第2主面側からドライエッチングを施してもよい。これによれば、半導体チップにおいて、エッチング保護層によって不要な影響が生じるのを防止することができる。
【0011】
本発明の加工対象物切断方法では、第2ステップにおいては、加工対象物の厚さ方向に並ぶ複数列の改質領域を形成することにより、複数の切断予定ラインのそれぞれに沿って少なくとも1列の改質領域を形成し、複数列の改質領域において互いに隣り合う改質領域の間に渡るように亀裂を形成してもよい。これによれば、ドライエッチングをより深く選択的に進行させることができる。
【0012】
本発明の加工対象物切断方法では、第2ステップにおいては、複数の切断予定ラインのそれぞれに沿って並ぶ複数の改質スポットを形成することにより、複数の切断予定ラインのそれぞれに沿って少なくとも1列の改質領域を形成し、複数の改質スポットにおいて互いに隣り合う改質スポットの間に渡るように亀裂を形成してもよい。これによれば、ドライエッチングをより効率良く選択的に進行させることができる。
【0013】
本発明の加工対象物切断方法は、第3ステップの後に、第2主面側に拡張フィルムを貼り付け、拡張フィルムを拡張させることにより、複数の切断予定ラインのそれぞれに沿って、加工対象物を複数の半導体チップに切断する第4ステップを更に備えてもよい。これによれば、切断予定ラインのそれぞれに沿って加工対象物を複数の半導体チップに確実に切断することができる。更に、拡張フィルム上において複数の半導体チップが互いに離間するため、半導体チップのピックアップの容易化を図ることができる。
【0014】
本発明の加工対象物切断方法は、単結晶シリコン基板と、第1主面側に設けられた機能素子層と、を有する加工対象物を準備し、第1主面にエッチング保護層を形成する第1ステップと、第1ステップの後に、加工対象物にレーザ光を照射することにより、複数の切断予定ラインのそれぞれに沿って、単結晶シリコン基板の内部に、少なくとも1列の改質領域を形成し、複数の切断予定ラインのそれぞれに沿って、加工対象物に、少なくとも1列の改質領域とエッチング保護層の表面との間に渡るように亀裂を形成する第2ステップと、第2ステップの後に、エッチング保護層が第1主面に形成された状態で、加工対象物に第1主面側からドライエッチングを施すことにより、複数の切断予定ラインのそれぞれに沿って、加工対象物に、第1主面に開口する溝を形成する第3ステップと、を備える。
【0015】
この加工対象物切断方法では、少なくとも1列の改質領域と第1主面上のエッチング保護層の表面との間に渡るように亀裂が形成された加工対象物に、第1主面側からドライエッチングを施す。このとき、第1主面には、複数の切断予定ラインのそれぞれに沿って亀裂が形成されたエッチング保護層が形成されている。これにより、ドライエッチングが第1主面側から亀裂に沿って選択的に進行し、開口の幅が狭く且つ深い溝が複数の切断予定ラインのそれぞれに沿って形成される。したがって、例えば、第2主面側に貼り付けられた拡張フィルムを拡張させることにより、切断予定ラインのそれぞれに沿って加工対象物を複数の半導体チップに確実に切断することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、加工対象物を複数の半導体チップに確実に切断することができる加工対象物切断方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】改質領域の形成に用いられるレーザ加工装置の概略構成図である。
【
図2】改質領域の形成の対象となる加工対象物の平面図である。
【
図3】
図2の加工対象物のIII-III線に沿っての断面図である。
【
図5】
図4の加工対象物のV-V線に沿っての断面図である。
【
図6】
図4の加工対象物のVI-VI線に沿っての断面図である。
【
図7】加工対象物切断方法に関する実験結果を説明するための断面図である。
【
図8】加工対象物切断方法に関する実験結果を説明するための断面図である。
【
図9】加工対象物切断方法に関する実験結果を説明するための断面図である。
【
図10】加工対象物切断方法に関する実験結果を説明するための断面図である。
【
図11】加工対象物切断方法に関する実験結果を説明するための図である。
【
図12】加工対象物切断方法に関する実験結果を説明するための図である。
【
図13】加工対象物切断方法に関する実験結果を説明するための図である。
【
図14】加工対象物切断方法に関する実験結果を説明するための図である。
【
図15】加工対象物切断方法に関する実験結果を説明するための図である。
【
図16】加工対象物切断方法に関する実験結果を説明するための図である。
【
図17】加工対象物切断方法に関する実験結果を説明するための図である。
【
図18】加工対象物切断方法に関する実験結果を説明するための図である。
【
図19】加工対象物切断方法に関する実験結果を説明するための図である。
【
図20】加工対象物切断方法に関する実験結果を説明するための図である。
【
図21】加工対象物切断方法に関する実験結果を説明するための加工対象物の斜視図である。
【
図22】一実施形態に係る加工対象物切断方法を説明するための断面図である。
【
図23】一実施形態に係る加工対象物切断方法を説明するための断面図である。
【
図24】一実施形態に係る加工対象物切断方法を説明するための断面図である。
【
図25】一実施形態に係る加工対象物切断方法を説明するための断面図である。
【
図26】一実施形態に係る加工対象物切断方法を説明するための半導体チップの斜視図である。
【
図27】一実施形態に係る加工対象物切断方法を説明するための図である。
【
図28】一実施形態に係る加工対象物切断方法を説明するための断面図である。
【
図29】一実施形態に係る加工対象物切断方法を説明するための断面図である。
【
図30】一実施形態に係る加工対象物切断方法を説明するための断面図である。
【
図31】一実施形態に係る加工対象物切断方法を説明するための断面図である。
【
図32】一実施形態に係る加工対象物切断方法を説明するための半導体チップの斜視図である。
【
図33】一実施形態に係る加工対象物切断方法を説明するための断面図である。
【
図34】一実施形態に係る加工対象物切断方法を説明するための断面図である。
【
図35】一実施形態に係る加工対象物切断方法を説明するための断面図である。
【
図36】一実施形態に係る加工対象物切断方法を説明するための断面図である。
【
図37】一実施形態に係る加工対象物切断方法を説明するための断面図である。
【
図38】一実施形態に係る加工対象物切断方法を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0019】
本実施形態に係る加工対象物切断方法では、加工対象物にレーザ光を集光することにより、切断予定ラインに沿って加工対象物に改質領域を形成する。そこで、まず、改質領域の形成について、
図1~
図6を参照して説明する。
【0020】
図1に示されるように、レーザ加工装置100は、レーザ光Lをパルス発振するレーザ光出射部であるレーザ光源101と、レーザ光Lの光軸(光路)の向きを90°変えるように配置されたダイクロイックミラー103と、レーザ光Lを集光するための集光用レンズ105と、を備えている。また、レーザ加工装置100は、集光用レンズ105で集光されたレーザ光Lが照射される加工対象物1を支持するための支持台107と、支持台107を移動させるためのステージ111と、レーザ光Lの出力(パルスエネルギ、光強度)やパルス幅、パルス波形等を調節するためにレーザ光源101を制御するレーザ光源制御部102と、ステージ111の移動を制御するステージ制御部115と、を備えている。
【0021】
レーザ加工装置100においては、レーザ光源101から出射されたレーザ光Lは、ダイクロイックミラー103によってその光軸の向きを90°変えられ、支持台107上に載置された加工対象物1の内部に集光用レンズ105によって集光される。これと共に、ステージ111が移動させられ、加工対象物1がレーザ光Lに対して切断予定ライン5に沿って相対移動させられる。これにより、切断予定ライン5に沿った改質領域が加工対象物1に形成される。なお、ここでは、レーザ光Lを相対的に移動させるためにステージ111を移動させたが、集光用レンズ105を移動させてもよいし、或いはこれらの両方を移動させてもよい。
【0022】
加工対象物1としては、半導体材料で形成された半導体基板や圧電材料で形成された圧電基板等を含む板状の部材(例えば、基板、ウェハ等)が用いられる。
図2に示されるように、加工対象物1には、加工対象物1を切断するための切断予定ライン5が設定されている。切断予定ライン5は、直線状に延びた仮想線である。加工対象物1の内部に改質領域を形成する場合、
図3に示されるように、加工対象物1の内部に集光点(集光位置)Pを合わせた状態で、レーザ光Lを切断予定ライン5に沿って(すなわち、
図2の矢印A方向に)相対的に移動させる。これにより、
図4、
図5及び
図6に示されるように、改質領域7が切断予定ライン5に沿って加工対象物1に形成され、切断予定ライン5に沿って形成された改質領域7が切断起点領域8となる。
【0023】
集光点Pとは、レーザ光Lが集光する箇所のことである。切断予定ライン5は、直線状に限らず曲線状であってもよいし、これらが組み合わされた3次元状であってもよいし、座標指定されたものであってもよい。切断予定ライン5は、仮想線に限らず加工対象物1の表面3に実際に引かれた線であってもよい。改質領域7は、連続的に形成される場合もあるし、断続的に形成される場合もある。改質領域7は列状でも点状でもよく、要は、改質領域7は少なくとも加工対象物1の内部に形成されていればよい。また、改質領域7を起点に亀裂が形成される場合があり、亀裂及び改質領域7は、加工対象物1の外表面(表面3、裏面、若しくは外周面)に露出していてもよい。改質領域7を形成する際のレーザ光入射面は、加工対象物1の表面3に限定されるものではなく、加工対象物1の裏面であってもよい。
【0024】
ちなみに、加工対象物1の内部に改質領域7を形成する場合には、レーザ光Lは、加工対象物1を透過すると共に、加工対象物1の内部に位置する集光点P近傍にて特に吸収される。これにより、加工対象物1に改質領域7が形成される(すなわち、内部吸収型レーザ加工)。この場合、加工対象物1の表面3ではレーザ光Lが殆ど吸収されないので、加工対象物1の表面3が溶融することはない。一方、加工対象物1の表面3又は裏面に改質領域7を形成する場合には、レーザ光Lは、表面3又は裏面に位置する集光点P近傍にて特に吸収され、表面3又は裏面から溶融され除去されて、穴や溝等の除去部が形成される(表面吸収型レーザ加工)。
【0025】
改質領域7は、密度、屈折率、機械的強度やその他の物理的特性が周囲とは異なる状態になった領域をいう。改質領域7としては、例えば、溶融処理領域(一旦溶融後再固化した領域、溶融状態中の領域及び溶融から再固化する状態中の領域のうち少なくとも何れか一つを意味する)、クラック領域、絶縁破壊領域、屈折率変化領域等があり、これらが混在した領域もある。更に、改質領域7としては、加工対象物1の材料において改質領域7の密度が非改質領域の密度と比較して変化した領域や、格子欠陥が形成された領域がある。加工対象物1の材料が単結晶シリコンである場合、改質領域7は、高転位密度領域ともいえる。
【0026】
溶融処理領域、屈折率変化領域、改質領域7の密度が非改質領域の密度と比較して変化した領域、及び、格子欠陥が形成された領域は、更に、それら領域の内部や改質領域7と非改質領域との界面に亀裂(割れ、マイクロクラック)を内包している場合がある。内包される亀裂は、改質領域7の全面に渡る場合や一部分のみや複数部分に形成される場合がある。加工対象物1は、結晶構造を有する結晶材料からなる基板を含む。例えば加工対象物1は、窒化ガリウム(GaN)、シリコン(Si)、シリコンカーバイド(SiC)、LiTaO3、及び、サファイア(Al2O3)の少なくとも何れかで形成された基板を含む。換言すると、加工対象物1は、例えば、窒化ガリウム基板、シリコン基板、SiC基板、LiTaO3基板、又はサファイア基板を含む。結晶材料は、異方性結晶及び等方性結晶の何れであってもよい。また、加工対象物1は、非結晶構造(非晶質構造)を有する非結晶材料からなる基板を含んでいてもよく、例えばガラス基板を含んでいてもよい。
【0027】
本実施形態では、切断予定ライン5に沿って改質スポット(加工痕)を複数形成することにより、改質領域7を形成することができる。この場合、複数の改質スポットが集まることによって改質領域7となる。改質スポットとは、パルスレーザ光の1パルスのショット(つまり1パルスのレーザ照射:レーザショット)で形成される改質部分である。改質スポットとしては、クラックスポット、溶融処理スポット若しくは屈折率変化スポット、又はこれらの少なくとも1つが混在するもの等が挙げられる。改質スポットについては、要求される切断精度、要求される切断面の平坦性、加工対象物1の厚さ、種類、結晶方位等を考慮して、その大きさや発生する亀裂の長さを適宜制御することができる。また、本実施形態では、切断予定ライン5に沿って、改質スポットを改質領域7として形成することができる。
[加工対象物切断方法に関する実験結果]
【0028】
まず、加工対象物切断方法の一例について、
図7~
図10を参照して説明する。なお、
図7~
図10に示される各構成は模式的なものであり、各構成の縦横比等は実際のものとは異なる。
【0029】
図7の(a)に示されるように、単結晶シリコン基板11と、第1主面1a側に設けられた機能素子層12と、を有する加工対象物1を準備し、保護フィルム21を加工対象物1の第1主面1aに貼り付ける。機能素子層12は、第1主面1aに沿って例えばマトリックス状に配列された複数の機能素子12a(フォトダイオード等の受光素子、レーザダイオード等の発光素子、又は回路として形成された回路素子等)を含んでいる。なお、加工対象物1の第2主面1b(第1主面1aとは反対側の主面)は、単結晶シリコン基板11における機能素子層12とは反対側の表面である。
【0030】
続いて、
図7の(b)に示されるように、第2主面1bをレーザ光入射面として加工対象物1にレーザ光Lを照射することにより、複数の切断予定ライン5のそれぞれに沿って単結晶シリコン基板11の内部に複数列の改質領域7を形成し、複数の切断予定ライン5のそれぞれに沿って加工対象物1に亀裂31を形成する。複数の切断予定ライン5は、加工対象物1の厚さ方向から見た場合に互いに隣り合う機能素子12aの間を通るように、例えば格子状に設定されている。複数の切断予定ライン5のそれぞれに沿って形成された複数列の改質領域7は、加工対象物1の厚さ方向に並んでいる。亀裂31は、少なくとも、第2主面1b側に位置する1列の改質領域7と第2主面1bとの間に渡っている。
【0031】
続いて、
図8の(a)に示されるように、加工対象物1に第2主面1b側からドライエッチングを施すことにより、
図8の(b)に示されるように、複数の切断予定ライン5のそれぞれに沿って加工対象物1に溝32を形成する。溝32は、第2主面1bに開口する例えばV溝(断面V字状の溝)である。溝32は、ドライエッチングが第2主面1b側から亀裂31に沿って(すなわち、複数の切断予定ライン5のそれぞれに沿って)選択的に進行することにより形成される。そして、第2主面1b側に位置する1列の改質領域7がドライエッチングによって除去されることにより、溝32の内面に凹凸領域9が形成される。凹凸領域9は、第2主面1b側に位置する1列の改質領域7に対応する凹凸形状を呈している。これらの詳細については後述する。
【0032】
なお、加工対象物1に第2主面1b側からドライエッチングを施すとは、第1主面1aを保護フィルム等で覆い、第2主面1b(又は、複数の切断予定ライン5のそれぞれに沿ってガス通過領域が形成されたエッチング保護層23(後述))をエッチングガスに晒した状態で、単結晶シリコン基板11にドライエッチングを施すことを意味する。特に、反応性イオンエッチング(プラズマエッチング)を実施する場合には、プラズマ中の反応種を第2主面1b(又は、複数の切断予定ライン5のそれぞれに沿ってガス通過領域が形成されたエッチング保護層23(後述))に照射することを意味する。
【0033】
続いて、
図9の(a)に示されるように、拡張フィルム22を加工対象物1の第2主面1bに貼り付け、
図9の(b)に示されるように、保護フィルム21を加工対象物1の第1主面1aから取り除く。続いて、
図10の(a)に示されるように、拡張フィルム22を拡張させることにより、複数の切断予定ライン5のそれぞれに沿って加工対象物1を複数の半導体チップ15に切断し、
図10の(b)に示されるように、半導体チップ15をピックアップする。
【0034】
次に、上述した加工対象物切断方法の一例のように改質領域を形成した後にドライエッチングを実施した場合の実験結果について説明する。
【0035】
第1実験(
図11及び
図12参照)では、厚さ400μmの単結晶シリコン基板に2mm間隔でストライプ状に複数の切断予定ラインを設定し、複数の切断予定ラインのそれぞれに沿って、単結晶シリコン基板の厚さ方向に並ぶ複数列の改質領域を単結晶シリコン基板に形成した。
図11の(a)は、改質領域形成後の単結晶シリコン基板の断面写真(正確には、後述する反応性イオンエッチングを実施する前に単結晶シリコン基板を切断した際の切断面の写真)であり、
図11の(b)は、改質領域形成後の単結晶シリコン基板の平面写真である。以下、単結晶シリコン基板の厚さ方向を単に「厚さ方向」といい、単結晶シリコン基板に一方の表面側からドライエッチングを施す場合の当該一方の表面(
図11の(a)では、単結晶シリコン基板の上側の表面)を単に「一方の表面」という。
【0036】
図11において、「標準加工 表面:HC」は、自然球面収差(加工対象物にレーザ光を集光させることに起因して、スネルの法則等により当該集光位置で自然発生する収差)でレーザ光を集光した場合において、一方の表面側に位置する1列の改質領域が一方の表面から離れており、且つ当該1列の改質領域から一方の表面に亀裂が至っている状態であって、各改質領域から厚さ方向に伸展した亀裂が互いに繋がっている状態である。「タクトアップ加工 表面:HC」は、光軸方向における集光点の長さが収差補正によって自然球面収差よりも短くなるようにレーザ光を集光した場合において、一方の表面側に位置する1列の改質領域が一方の表面から離れており、且つ当該1列の改質領域から一方の表面に亀裂が至っている状態であって、各改質領域から厚さ方向に伸展した亀裂が、
図11の(a)に見られる黒いスジの部分で繋がっていない状態である。
【0037】
「VLパターン加工 表面:HC」は、光軸方向における集光点の長さが収差付与によって自然球面収差よりも長くなるようにレーザ光を集光した場合において、一方の表面側に位置する1列の改質領域が一方の表面から離れており、且つ当該1列の改質領域から一方の表面に亀裂が至っている状態である。「VLパターン加工 表面:ST」は、光軸方向における集光点の長さが収差付与によって自然球面収差よりも長くなるようにレーザ光を集光した場合において、一方の表面側に位置する1列の改質領域が一方の表面から離れており、且つ当該1列の改質領域から一方の表面に亀裂が至っていない状態である。「VLパターン加工 表面:アブレーション」は、光軸方向における集光点の長さが収差付与によって自然球面収差よりも長くなるようにレーザ光を集光した場合において、一方の表面側に位置する1列の改質領域が一方の表面に露出している状態である。
【0038】
以上のように改質領域を形成した後に、単結晶シリコン基板の一方の表面に、CF
4(四フッ化炭素)を用いた反応性イオンエッチングを60分間施した。その結果は、
図12に示されるとおりである。
図12の(a)は、反応性イオンエッチング実施後の単結晶シリコン基板の平面写真であり、
図12の(b)は、反応性イオンエッチング実施後の単結晶シリコン基板の断面写真(切断予定ラインに垂直な切断面の写真)である。
【0039】
ここで、
図12に示される各用語の定義について、
図13を参照して説明する。「溝幅」とは、ドライエッチングによって形成された溝の開口の幅Wである。「溝深さ」とは、ドライエッチングによって形成された溝の深さDである。「溝アスペクト比」とは、DをWで除した(割った)値である。「Siエッチング量」とは、ドライエッチング実施前の単結晶シリコン基板の厚さ(元厚)からドライエッチング実施後の単結晶シリコン基板の厚さを減じた(引いた)値E1である。「SDエッチング量」とは、E1にDを加えた値E2である。「エッチング時間」とは、ドライエッチングを実施した時間Tである。「Siエッチングレート」とは、E1をTで除した値である。「SDエッチングレート」とは、E2をTで除した値である。「エッチングレート比」とは、E2をE1で除した値である。
【0040】
図12に示される第1実験の結果から、次のことが分かった。すなわち、一方の表面(単結晶シリコン基板に一方の表面側からドライエッチングを施す場合の当該一方の表面)に亀裂が至っていると、亀裂が繋がっている範囲内において、ドライエッチングが一方の表面側から亀裂に沿って選択的に(すなわち、高いエッチングレート比で)進行し、開口の幅が狭く且つ深い(すなわち、溝アスペクト比が高い)溝が形成される(「標準加工 表面:HC」と「VLパターン加工 表面:ST」及び「VLパターン加工 表面:アブレーション」との比較)。改質領域自体よりも亀裂のほうがドライエッチングの選択的な進行に顕著に寄与している(「標準加工 表面:HC」と「VLパターン加工 表面:HC」及び「VLパターン加工 表面:アブレーション」との比較)。各改質領域から厚さ方向に伸展した亀裂が繋がっていないと、亀裂が繋がっていない部分(
図11の(a)に見られる黒いスジの部分)でドライエッチングの選択的な進行が停止する(「標準加工 表面:HC」と「タクトアップ加工 表面:HC」との比較)。なお、ドライエッチングの選択的な進行が停止するとは、ドライエッチングの進行速度が低下することを意味する。
【0041】
第2実験(
図14及び
図15参照)では、厚さ100μmの単結晶シリコン基板に100μm間隔で格子状に複数の切断予定ラインを設定し、複数の切断予定ラインのそれぞれに沿って、単結晶シリコン基板の厚さ方向に並ぶ2列の改質領域を単結晶シリコン基板の内部に形成した。ここでは、厚さ方向において互いに隣り合う改質領域が互いに離れた状態であって、各改質領域から厚さ方向に伸展した亀裂が一方の表面及び他方の表面(一方の表面とは反対側の表面)の両方に至っている状態とした。そして、単結晶シリコン基板の一方の表面に、CF
4を用いた反応性イオンエッチングを施した。
【0042】
第2実験の結果は、
図14及び
図15に示されるとおりである。
図14及び
図15において、「CF
4:60min」は、CF
4を用いた反応性イオンエッチングを60分間施した場合を示し、「CF
4:120min」は、CF
4を用いた反応性イオンエッチングを120分間施した場合を示す。
図14の(a)は、反応性イオンエッチング実施前の単結晶シリコン基板の平面写真(一方の表面の写真)であり、
図14の(b)は、反応性イオンエッチング実施後の単結晶シリコン基板の底面写真(他方の表面の写真)である。
図15の(a)は、複数の切断予定ラインのそれぞれに沿って単結晶シリコン基板が切断されることにより得られた単結晶シリコンチップの側面写真であり、
図15の(b)は、当該単結晶シリコンチップの寸法を示す図である。なお、
図15の(a)及び(b)では、単結晶シリコン基板の一方の表面が下側になっている。
【0043】
図14及び
図15に示される第2実験の結果から、次のことが分かった。すなわち、一方の表面(単結晶シリコン基板に一方の表面側からドライエッチングを施す場合の当該一方の表面)に亀裂が至っていると、亀裂が繋がっている範囲内において、ドライエッチングが一方の表面側から亀裂に沿って選択的に(すなわち、高いエッチングレート比で)進行し、開口の幅が狭く且つ深い(すなわち、溝アスペクト比が高い)溝が形成される。各改質領域から厚さ方向に伸展した亀裂が一方の表面及び他方の表面の両方に至っていると、ドライエッチングのみで単結晶シリコン基板を完全にチップ化することができる。なお、「CF
4:60min」の場合に、単結晶シリコン基板の他方の面に貼り付けられた拡張フィルムを拡張させると、50mm×50mmの矩形板状の単結晶シリコン基板を100μm×100μmのチップに100%の割合で切断することができた。
【0044】
第3実験(
図16参照)では、厚さ400μmの単結晶シリコン基板に2mm間隔でストライプ状に複数の切断予定ラインを設定し、複数の切断予定ラインのそれぞれに沿って、単結晶シリコン基板の厚さ方向に並ぶ複数列の改質領域を単結晶シリコン基板の内部に形成した。ここでは、自然球面収差でレーザ光を集光した場合において、一方の表面側に位置する1列の改質領域が一方の表面から離れており、且つ当該1列の改質領域から一方の表面に亀裂が至っている状態であって、各改質領域から厚さ方向に伸展した亀裂が互いに繋がっている状態とした。そして、単結晶シリコン基板の一方の表面に、反応性イオンエッチングを施した。
【0045】
第3実験の結果は、
図16に示されるとおりである。
図16において、「CF
4(RIE)」は、CF
4を用いた反応性イオンエッチングをRIE(Reactive Ion Etching)装置にて施した場合を示し、「SF
6(RIE)」は、SF
6(六フッ化硫黄)を用いた反応性イオンエッチングをRIE装置にて施した場合を示し、「SF
6(DRIE)」は、SF
6を用いた反応性イオンエッチングをDRIE(Deep Reactive Ion Etching)装置にて施した場合を示す。
図16の(a)は、反応性イオンエッチング実施後の単結晶シリコン基板の平面写真であり、
図16の(b)は、反応性イオンエッチング実施後の単結晶シリコン基板の断面写真(切断予定ラインに垂直な切断面の写真)である。
【0046】
図16に示される第3実験の結果から、次のことが分かった。すなわち、同程度のSiエッチング量を確保するのに、SF
6を用いた反応性イオンエッチングよりもCF
4を用いた反応性イオンエッチングのほうが長時間を要するものの、高いエッチングレート比及び高い溝アスペクト比を確保し得る点では、SF
6を用いた反応性イオンエッチングよりもCF
4を用いた反応性イオンエッチングのほうが有利である。
【0047】
第4実験(
図17参照)では、厚さ400μmの単結晶シリコン基板に2mm間隔でストライプ状に複数の切断予定ラインを設定し、複数の切断予定ラインのそれぞれに沿って、単結晶シリコン基板の厚さ方向に並ぶ複数列の改質領域を単結晶シリコン基板の内部に形成した。
図17において、「CF
4(RIE):30min 表面:HC」、「CF
4(RIE):60min 表面:HC」、「CF
4(RIE):6H 表面:HC」は、自然球面収差でレーザ光を集光した場合において、一方の表面側に位置する1列の改質領域が一方の表面から離れており、且つ当該1列の改質領域から一方の表面に亀裂が至っている状態であって、各改質領域から厚さ方向に伸展した亀裂が互いに繋がっている状態としたことを意味する。「CF
4(RIE):6H 表面:ST」は、自然球面収差でレーザ光を集光した場合において、一方の表面側に位置する1列の改質領域が一方の表面から離れており、且つ当該1列の改質領域から一方の表面に亀裂が至っていない状態であって、各改質領域から厚さ方向に伸展した亀裂が互いに繋がっている状態としたことを意味する。
【0048】
そして、単結晶シリコン基板の一方の表面に、CF
4を用いた反応性イオンエッチングを施した。
図17において、「CF
4(RIE):30min 表面:HC」、「CF
4(RIE):60min 表面:HC」、「CF
4(RIE):6H 表面:HC」、「CF
4(RIE):6H 表面:ST」は、それぞれ、30分、60分、6時間、6時間、CF
4を用いた反応性イオンエッチングをRIE装置にて施したことを意味する。
【0049】
第4実験の結果は、
図17に示されるとおりである。
図17の(a)は、反応性イオンエッチング実施後の単結晶シリコン基板の断面写真(切断予定ラインに垂直な切断面の写真)である。
【0050】
図17に示される第4実験の結果から、次のことが分かった。すなわち、一方の表面(単結晶シリコン基板に一方の表面側からドライエッチングを施す場合の当該一方の表面)に亀裂が至っていると、亀裂が繋がっている範囲内においては、ドライエッチングの選択的な進行は停止しない(すなわち、高いエッチングレート比が維持される)。一方の表面に亀裂が至っていなくても、一方の表面のエッチングが進行し、一方の表面に亀裂が現れれば、当該亀裂に沿ってドライエッチングが選択的に進行し始める。ただし、一方の表面から一定の深さで亀裂の伸展を停止させることは困難であることから、エッチングの進行によって一方の表面に亀裂が現れるタイミングは場所によって異なり易く、その結果、形成される溝の開口の幅及び深さも場所によって異なり易い。したがって、一方の表面側に位置する1列の改質領域を形成する際に、一方の表面に亀裂が至るように当該改質領域を形成することは極めて重要である。
【0051】
第5実験(
図18参照)では、厚さ320μmの単結晶シリコン基板に3mm間隔で格子状に複数の切断予定ラインを設定し、複数の切断予定ラインのそれぞれに沿って、単結晶シリコン基板の厚さ方向に並ぶ複数列の改質領域を単結晶シリコン基板の内部に形成した。ここでは、自然球面収差でレーザ光を集光した場合において、一方の表面側に位置する1列の改質領域が一方の表面から離れており、且つ当該1列の改質領域から一方の表面に亀裂が至っている状態であって、各改質領域から厚さ方向に伸展した亀裂が互いに繋がっている状態とした。
【0052】
そして、単結晶シリコン基板の一方の表面に、反応性イオンエッチングを施した。
図18において、「CF
4(RIE) 表面:HC」は、CF
4を用いた反応性イオンエッチングをRIE装置にて施したことを意味する。「XeF
2 表面:HC」は、XeF
2(二フッ化キセノン)を用いた反応性ガスエッチングを犠牲層エッチャー装置にて施したことを意味する。「XeF
2 表面:HC SiO
2エッチング保護層」は、SiO
2(二酸化シリコン)からなるエッチング保護層が単結晶シリコン基板の一方の表面に形成され、且つ一方の表面側に位置する1列の改質領域から当該エッチング保護層の表面(単結晶シリコン基板とは反対側の外表面)に亀裂が至っている状態で、XeF
2を用いた反応性ガスエッチングを犠牲層エッチャー装置にて施したことを意味する。
【0053】
第5実験の結果は、
図18に示されるとおりである。
図18の(a)は、反応性イオンエッチング実施前の単結晶シリコン基板の平面写真であり、
図18の(b)は、反応性イオンエッチング実施後の単結晶シリコン基板の平面写真であり、
図18の(c)は、反応性イオンエッチング実施後の単結晶シリコン基板の断面写真(切断予定ラインに垂直な切断面の写真)である。なお、抜け幅とは、溝が単結晶シリコン基板の他方の面に至った場合の当該他方の面での開口の幅である。
【0054】
図18に示される第5実験の結果から、次のことが分かった。すなわち、SiO
2からなるエッチング保護層が単結晶シリコン基板の一方の表面(単結晶シリコン基板に一方の表面側からドライエッチングを施す場合の当該一方の表面)に形成されていなければ、高いエッチングレート比及び高い溝アスペクト比を確保する点で、CF
4を用いた反応性イオンエッチングとXeF
2を用いた反応性ガスエッチングとで大きな差はない。SiO
2からなるエッチング保護層が単結晶シリコン基板の一方の表面に形成されており、且つ一方の表面側に位置する1列の改質領域から当該エッチング保護層の表面に亀裂が至っていると、エッチングレート比及び溝アスペクト比が飛躍的に高くなる。
【0055】
第6実験(
図19参照)では、SiO
2からなるエッチング保護層が一方の表面に形成された厚さ320μmの単結晶シリコン基板に3mm間隔で格子状に複数の切断予定ラインを設定し、複数の切断予定ラインのそれぞれに沿って、単結晶シリコン基板の厚さ方向に並ぶ複数列の改質領域を単結晶シリコン基板に形成した。そして、単結晶シリコン基板の一方の表面に、XeF
2を用いた反応性ガスエッチングを犠牲層エッチャー装置にて180分間施した。
【0056】
図19において、「標準加工 表面:HC」は、厚さ方向において互いに隣り合う改質領域が互いに離れ、且つ一方の表面側に位置する1列の改質領域が一方の表面から離れており、当該1列の改質領域からエッチング保護層の表面(単結晶シリコン基板とは反対側の外表面)に亀裂が至っている状態であって、各改質領域から厚さ方向に伸展した亀裂が互いに繋がっている状態である。「標準加工 表面:ST」は、厚さ方向において互いに隣り合う改質領域が互いに離れ、且つ一方の表面側に位置する1列の改質領域が一方の表面から離れており、当該1列の改質領域から一方の表面に亀裂が至っていない状態であって、各改質領域から厚さ方向に伸展した亀裂が互いに繋がっている状態である。
【0057】
「タクトアップ加工1 表面:HC」は、厚さ方向において互いに隣り合う改質領域が互いに離れ、且つ一方の表面側に位置する1列の改質領域が一方の表面から離れており、当該1列の改質領域からエッチング保護層の表面に亀裂が至っている状態であって、各改質領域から厚さ方向に伸展した亀裂が互いに繋がっている状態である。「タクトアップ加工2 表面:HC」は、厚さ方向において互いに隣り合う改質領域が互いに離れ、且つ一方の表面側に位置する1列の改質領域が一方の表面から離れており、当該1列の改質領域からエッチング保護層の表面に亀裂が至っている状態であって、各改質領域から厚さ方向に伸展した亀裂が一部分で繋がっていない状態である。
【0058】
「VLパターン加工 表面:HC」は、厚さ方向において互いに隣り合う改質領域が互いに繋がり、且つ一方の表面側に位置する1列の改質領域が一方の表面から離れており、当該1列の改質領域からエッチング保護層の表面に亀裂が至っている状態である。「VLパターン加工 表面:アブレーション」は、厚さ方向において互いに隣り合う改質領域が互いに繋がり、且つ一方の表面側に位置する1列の改質領域がエッチング保護層の表面に露出している状態である。
【0059】
第6実験の結果は、
図19に示されるとおりである。
図19の(a)は、反応性イオンエッチング実施後の単結晶シリコン基板の断面写真(切断予定ラインに垂直な切断面の写真)であり、
図19の(b)は、反応性イオンエッチング実施後の単結晶シリコン基板の切断面の写真である。
【0060】
図19に示される第5実験の結果から、次のことが分かった。すなわち、エッチング保護層の表面に亀裂が至っていると、亀裂が繋がっている範囲内において、ドライエッチングが一方の表面側から亀裂に沿って選択的に(すなわち、高いエッチングレート比で)進行し、開口の幅が狭く且つ深い(すなわち、溝アスペクト比が高い)溝が形成される。各改質領域から厚さ方向に伸展した亀裂が繋がっていないと、亀裂が繋がっていない部分においてドライエッチングの等方的に進行する(「タクトアップ加工2 表面:HC」における(a)欄の写真)。
【0061】
以上の加工対象物切断方法に関する実験結果から、次のことが分かった。すなわち、一方の表面(単結晶シリコン基板に一方の表面側からドライエッチングを施す場合の当該一方の表面)側に位置する1列の改質領域から一方の表面に亀裂が至っていること(SiO
2からなるエッチング保護層が単結晶シリコン基板の一方の表面に形成されている場合には、当該エッチング保護層の表面に亀裂が至っていること)を前提とすると、亀裂が繋がっている範囲内では、
図20に示されるように、SF
6を用いた反応性イオンエッチングよりも、CF
4を用いた反応性イオンエッチング、及びXeF
2を用いた反応性ガスエッチングのほうが、高いエッチングレート比を確保することができる。更に、SiO
2からなるエッチング保護層が単結晶シリコン基板の一方の表面に形成されており、且つ一方の表面側に位置する1列の改質領域から当該エッチング保護層の表面に亀裂が至っていると、エッチングレート比が飛躍的に高くなる。また、溝アスペクト比に着目すると、CF
4を用いた反応性イオンエッチングが特に優れている。なお、XeF
2を用いた反応性ガスエッチングは、プラズマによる単結晶シリコン基板の強度低下が防止される点で、有利である。
【0062】
ドライエッチングが亀裂に沿って選択的に進行する原理について説明する。パルス発振されたレーザ光Lの集光点Pを加工対象物1の内部に位置させて、当該集光点Pを切断予定ライン5に沿って相対的に移動させると、
図21に示されるように、切断予定ライン5に沿って並んだ複数の改質スポット7aが加工対象物1の内部に形成される。切断予定ライン5に沿って並んだ複数の改質スポット7aが1列の改質領域7に相当する。
【0063】
加工対象物1の厚さ方向に並ぶ複数列の改質領域7が加工対象物1の内部に形成されている場合、加工対象物1の第2主面1b(加工対象物1に第2主面1b側からドライエッチングを施す場合の当該第2主面1b)側に位置する1列の改質領域7と第2主面1bとの間に渡るように亀裂31が形成されていると、数nm~数μmの間隔を有する亀裂31にエッチングガスが毛細管現象のように進入する(
図21の矢印参照)。これにより、ドライエッチングが亀裂31に沿って選択的に進行すると推定される。
【0064】
このことから、複数列の改質領域7において互いに隣り合う改質領域7の間に渡るように亀裂31が形成されていると、ドライエッチングがより深く選択的に進行すると推定される。更に、切断予定ライン5に沿って並ぶ複数の改質スポット7aにおいて互いに隣り合う改質スポット7aの間に渡るように亀裂31が形成されていると、ドライエッチングがより効率良く選択的に進行すると推定される。このとき、各改質スポット7aには、その周囲からエッチングガスが接触することになるため、数μm程度の大きさを有する改質スポット7aは、速やかに除去されると推定される。
【0065】
なお、ここでいう亀裂31は、各改質スポット7aに含まれるマイクロクラック、各改質スポット7aの周囲にランダムに形成されるマイクロクラック等とは異なる。ここでいう亀裂31は、加工対象物1の厚さ方向に平行であり且つ切断予定ライン5を含む面に沿って伸展する亀裂である。ここでいう亀裂31が単結晶シリコン基板に形成される場合、当該亀裂31によって形成される面(数nm~数μmの間隔で互いに対向する亀裂面)は、単結晶シリコンが露出した面となる。なお、単結晶シリコン基板に形成される改質スポット7aは、多結晶シリコン領域、高転位密度領域等を含んでいる。
[一実施形態]
【0066】
一実施形態に係る加工対象物切断方法について説明する。なお、
図22~
図26、
図28~
図38に示される各構成は模式的なものであり、各構成の縦横比等は実際のものとは異なる。まず、第1ステップとして、
図22の(a)に示されるように、単結晶シリコン基板11と、第1主面1a側に設けられた機能素子層12と、を有する加工対象物1を準備し、保護フィルム21を加工対象物1の第1主面1aに貼り付ける。続いて、例えば蒸着によって、加工対象物1の第2主面1bに、SiO
2からなるエッチング保護層23を形成する。SiO
2は、レーザ光Lに対して透過性を有する材料である。
【0067】
第1ステップの後に、第2ステップとして、
図22の(b)に示されるように、エッチング保護層23を介して加工対象物1にレーザ光Lを照射することにより、複数の切断予定ライン5のそれぞれに沿って単結晶シリコン基板11の内部に複数列の改質領域7を形成し、複数の切断予定ライン5のそれぞれに沿って加工対象物1に亀裂31を形成する。複数の切断予定ライン5のそれぞれに沿って形成された複数列の改質領域7は、加工対象物1の厚さ方向に並んでいる。複数列の改質領域7のそれぞれは、切断予定ライン5に沿って並ぶ複数の改質スポット7aによって構成されている(
図21参照)。亀裂31は、第2主面1b側に位置する1列の改質領域7とエッチング保護層23の表面23a(単結晶シリコン基板11とは反対側の外表面)との間、及び、複数列の改質領域7において互いに隣り合う改質領域7の間に渡っている。更に、亀裂31は、複数の改質スポット7aにおいて互いに隣り合う改質スポット7aの間に渡っている(
図21参照)。ここでは、複数の切断予定ライン5のそれぞれに沿ってエッチング保護層23に形成された亀裂31が、エッチング保護層23においてガス通過領域として機能する。
【0068】
第2ステップの後に、第3ステップとして、
図23の(a)に示されるように、エッチング保護層23が第2主面1bに形成された状態で、加工対象物1に第2主面1b側からドライエッチングを施すことにより、
図23の(b)に示されるように、複数の切断予定ライン5のそれぞれに沿って加工対象物1に溝32を形成する。溝32は、第2主面1bに開口する例えばV溝(断面V字状の溝)である。ここでは、XeF
2を用いて、加工対象物1に第2主面1b側からドライエッチングを施す(つまり、XeF
2を用いた反応性ガスエッチングを施す)。また、ここでは、エッチング保護層23が残存するように、加工対象物1に第2主面1b側からドライエッチングを施す。更に、ここでは、複数列の改質領域7のうち第2主面1b側に位置する1列の改質領域7が除去されることにより、除去された1列の改質領域7に対応する凹凸形状を呈する凹凸領域9が溝32の内面に形成されるように、加工対象物1に第2主面1b側からドライエッチングを施す。なお、凹凸領域9を形成する場合には、溝32の内面から改質領域7(改質スポット7a)が完全に除去されるまでドライエッチングを実施することが好ましい。その一方で、凹凸領域9が完全になくなるまではドライエッチングを実施しないことが好ましい。
【0069】
第3ステップの後に、第4ステップとして、
図24の(a)に示されるように、拡張フィルム22をエッチング保護層23の表面23aに貼り付け(つまり、加工対象物1の第2主面1b側に貼り付け)、
図24の(b)に示されるように、保護フィルム21を加工対象物1の第1主面1aから取り除く。続いて、
図25の(a)に示されるように、拡張フィルム22を拡張させることにより、複数の切断予定ライン5のそれぞれに沿って加工対象物1を複数の半導体チップ15に切断し、
図25の(b)に示されるように、半導体チップ15をピックアップする。
【0070】
以上の一実施形態に係る加工対象物切断方法によって得られた半導体チップ15について説明する。
図26に示されるように、半導体チップ15は、単結晶シリコン基板110と、単結晶シリコン基板110の第1表面110a側に設けられた機能素子層120と、単結晶シリコン基板110の第2表面110b(第1表面110aとは反対側の表面)に形成されたエッチング保護層230と、を備えている。単結晶シリコン基板110は、加工対象物1の単結晶シリコン基板11から切り出された部分である(
図25参照)。機能素子層120は、加工対象物1の機能素子層12から切り出された部分であり(
図25参照)、1つの機能素子12aを含んでいる。エッチング保護層230は、エッチング保護層23から切り出された部分である(
図25参照)。
【0071】
単結晶シリコン基板110は、第1部分111と、第2部分(部分)112と、を含んでいる。第1部分111は、第1表面110a側の部分である。第2部分112は、第2表面110b側の部分である。第2部分112は、第1表面110aから離れるほど細くなる形状を呈している。第2部分112は、加工対象物1の単結晶シリコン基板11のうち溝32が形成された部分(すなわち、ドライエッチングが進行した部分)に対応している(
図25参照)。一例として、第1部分111は、四角形板状(直方体状)を呈しており、第2部分112は、第1部分111から離れるほど細くなる四角錘台状を呈している。
【0072】
第1部分111の側面111aには、改質領域7が帯状に形成されている。つまり、改質領域7は、各側面111aおいて、各側面111aに沿って第1表面110aに平行な方向に延在している。第1表面110a側に位置する改質領域7は、第1表面110aから離れている。改質領域7は、複数の改質スポット7aによって構成されている(
図21参照)。複数の改質スポット7aは、各側面111aおいて、各側面111aに沿って第1表面110aに平行な方向に並んでいる。改質領域7(より具体的には、各改質スポット7a)は、多結晶シリコン領域、高転位密度領域等を含んでいる。
【0073】
第2部分112の側面112aには、凹凸領域9が帯状に形成されている。つまり、凹凸領域9は、各側面112aおいて、各側面112aに沿って第2表面110bに平行な方向に延在している。第2表面110b側に位置する凹凸領域9は、第2表面110bから離れている。凹凸領域9は、加工対象物1の第2主面1b側に位置する改質領域7がドライエッチングによって除去されることにより、形成されたものである(
図25参照)。したがって、凹凸領域9は、改質領域7に対応する凹凸形状を呈しており、凹凸領域9では、単結晶シリコンが露出している。つまり、第2部分112の側面112aは、凹凸領域9の凹凸面を含め、単結晶シリコンが露出した面となっている。
【0074】
なお、半導体チップ15は、エッチング保護層230を備えていなくてもよい。そのような半導体チップ15は、例えば、エッチング保護層23が除去されるように第2主面1b側からドライエッチングが施された場合に得られる。
【0075】
図27の(a)において、上段は、凹凸領域9の写真であり、下段は、上段の一点鎖線に沿った凹凸領域9の凹凸プロファイルである。
図27の(b)において、上段は、改質領域7の写真であり、下段は、上段の一点鎖線に沿った改質領域7の凹凸プロファイルである。これらを比較すると、凹凸領域9では、比較的大きな複数の凹部のみが形成される傾向があるのに対し、改質領域7では、比較的大きな複数の凹部だけでなく比較的大きな複数の凸部がランダムに形成される傾向があることが分かる。なお、
図27の(c)は、加工対象物1に第2主面1b側からドライエッチングを施さずに加工対象物1を切断した場合の「第2主面1b側に位置する改質領域7」の写真及び凹凸プロファイルである。この場合の改質領域7でも、比較的大きな複数の凹部だけでなく比較的大きな複数の凸部がランダムに形成される傾向がある。つまり、凹凸領域9において比較的大きな複数の凹部のみが形成される傾向があるのは、改質領域7がドライエッチングによって除去されたことに起因していることが分かる。
【0076】
以上説明したように、一実施形態に係る加工対象物切断方法は、単結晶シリコン基板11と、第1主面1a側に設けられた機能素子層12と、を有する加工対象物1を準備する第1ステップと、第1ステップの後に、加工対象物1にレーザ光Lを照射することにより、複数の切断予定ライン5のそれぞれに沿って、単結晶シリコン基板11の内部に、少なくとも1列の改質領域7を形成し、複数の切断予定ライン5のそれぞれに沿って、加工対象物1に、少なくとも1列の改質領域7と加工対象物1の第2主面1bとの間に渡るように亀裂31を形成する第2ステップと、第2ステップの後に、加工対象物1に第2主面1b側からドライエッチングを施すことにより、複数の切断予定ライン5のそれぞれに沿って、加工対象物1に、第2主面1bに開口する溝32を形成する第3ステップと、を備える。
【0077】
この加工対象物切断方法では、少なくとも1列の改質領域7と加工対象物1の第2主面1bとの間に渡るように亀裂31が形成された加工対象物1に、第2主面1b側からドライエッチングを施す。これにより、ドライエッチングが第2主面1b側から亀裂31に沿って選択的に進行し、開口の幅が狭く且つ深い溝32が複数の切断予定ライン5のそれぞれに沿って形成される。したがって、例えば、溝32が開口する第2主面1b側に貼り付けられた拡張フィルム22を拡張させることにより、切断予定ライン5のそれぞれに沿って加工対象物1を複数の半導体チップ15に確実に切断することができる。
【0078】
また、第3ステップにおいては、少なくとも1列の改質領域7が除去されることにより、除去された改質領域7に対応する凹凸形状を呈し且つ単結晶シリコンが露出した凹凸領域が溝32の内面に形成されるように、第2主面1b側からドライエッチングを施す。これにより、単結晶シリコンが露出した凹凸領域9が形成されるため、凹凸領域9周辺での強度低下を抑制することができる。
【0079】
また、第3ステップにおいては、複数の切断予定ラインのそれぞれに沿ってガス通過領域(ここでは、亀裂31)が形成されたエッチング保護層23が第2主面1bに形成された状態で、XeF2を用いて、第2主面1bからドライエッチングを施す。これにより、ドライエッチングをより効率良く選択的に進行させることができ、開口の幅が狭く且つ深い溝32をより効率良く形成することができる。
【0080】
特に、少なくとも1列の改質領域7とエッチング保護層23の表面23aとの間に渡るように亀裂31を形成するため、エッチング保護層23にパターニングを施してエッチング保護層23にスリットを形成するような手間を省くことができる。
【0081】
また、第3ステップにおいては、エッチング保護層23が残存するように、第2主面1b側からドライエッチングを施す。これにより、半導体チップ15において、エッチング保護層23を、強度的な補強層、不純物を捕捉するゲッタリング層として機能させることができる。更に、半導体チップ15において、単結晶シリコン基板11の元厚を維持することができる。なお、第3ステップにおいて、エッチング保護層23が除去されるように、第2主面1b側からドライエッチングを施してもよい。これによれば、半導体チップ15において、エッチング保護層23によって不要な影響が生じるのを防止することができる。
【0082】
また、第1ステップにおいては、レーザ光Lに対して透過性を有する材料を用いてエッチング保護層23を形成し、第2ステップにおいては、エッチング保護層23を介して加工対象物1にレーザ光Lを照射する。これにより、単結晶シリコン基板11に機能素子層12とは反対側からレーザ光Lを入射せることができるため、機能素子層12の構成によらず、改質領域7及び亀裂31を確実に形成することができる。
【0083】
また、第2ステップにおいては、加工対象物1の厚さ方向に並ぶ複数列の改質領域7を形成することにより、複数の切断予定ライン5のそれぞれに沿って少なくとも1列の改質領域7を形成し、複数列の改質領域7において互いに隣り合う改質領域7の間に渡るように亀裂31を形成する。これにより、ドライエッチングをより深く選択的に進行させることができる。この場合、第3ステップにおいては、複数列の改質領域7のうち第2主面1b側に位置する改質領域7が除去されることにより、除去された改質領域7に対応する凹凸形状を呈する凹凸領域9が溝32の内面に形成されるように、第2主面1b側からドライエッチングを施す。
【0084】
また、第2ステップにおいては、複数の切断予定ライン5のそれぞれに沿って並ぶ複数の改質スポット7aを形成することにより、複数の切断予定ライン5のそれぞれに沿って少なくとも1列の改質領域7を形成し、複数の改質スポット7aにおいて互いに隣り合う改質スポット7aの間に渡るように亀裂31を形成する。これにより、ドライエッチングをより効率良く選択的に進行させることができる。
【0085】
また、第4ステップにおいては、第2主面1b側に拡張フィルム22を貼り付け、拡張フィルム22を拡張させることにより、複数の切断予定ライン5のそれぞれに沿って、加工対象物1を複数の半導体チップ15に切断する。これにより、切断予定ライン5のそれぞれに沿って加工対象物1を複数の半導体チップ15に確実に切断することができる。更に、拡張フィルム22上において複数の半導体チップ15が互いに離間するため、半導体チップ15のピックアップの容易化を図ることができる。
【0086】
また、半導体チップ15は、単結晶シリコン基板110と、単結晶シリコン基板110の第1表面110a側に設けられた機能素子層120と、を備える。単結晶シリコン基板110における少なくとも第2表面110b側の第2部分112は、第1表面110aから離れるほど細くなる形状を呈しており、第2部分112の側面112aには、凹凸形状を呈し且つ単結晶シリコンが露出した凹凸領域9が帯状に形成されている。
【0087】
この半導体チップ15では、凹凸領域9を、不純物を捕捉するゲッタリング領域として機能させることができる。また、凹凸領域9では単結晶シリコンが露出しているため、凹凸領域9周辺での強度低下を抑制することができる。
【0088】
なお、保護フィルム21としては、例えば、耐真空性を有する感圧テープ、UVテープ等を用いることができる。保護フィルム21に替えて、エッチング耐性を有するウェハ固定治具を用いてもよい。
【0089】
また、エッチング保護層23の材料は、レーザ光Lに対して透過性を有する材料であれば、SiO2に限定されない。エッチング保護層23として、例えば、スピンコートによって加工対象物1の第2主面1bにレジスト膜又は樹脂膜を形成してもよいし、或いは、シート状部材(透明樹脂フィルム等)、裏面保護テープ(IRLCテープ/WPテープ)等を加工対象物1の第2主面1bに貼り付けてもよい。
【0090】
また、複数の切断予定ライン5のそれぞれに沿ってエッチング保護層23に形成されるガス通過領域は、亀裂31に限定されない。ガス通過領域として、例えば、エッチング保護層23にパターニングを施すことにより、加工対象物1の第2主面1bを露出させるスリットを形成してもよいし、或いは、レーザ光Lを照射することにより、改質領域(多数のマイクロクラックを含む領域、アブレーション領域等)を形成してもよい。
【0091】
また、複数の切断予定ライン5のそれぞれに沿って単結晶シリコン基板11の内部に形成される改質領域7の列数は、複数列に限定されず、1列であってもよい。つまり、複数の切断予定ライン5のそれぞれに沿って単結晶シリコン基板11の内部に少なくとも1列の改質領域7を形成すればよい。複数の切断予定ライン5のそれぞれに沿って単結晶シリコン基板11の内部に複数列の改質領域7を形成する場合、互いに隣り合う改質領域7は、互いに繋がっていてもよい。
【0092】
また、亀裂31は、少なくとも1列の改質領域7と加工対象物1の第2主面1bとの間に渡るように形成されればよい。つまり、亀裂31は、部分的であれば、第2主面1bに至らなくてもよい。更に、亀裂31は、部分的であれば、互いに隣り合う改質領域7の間に渡らなくてもよいし、互いに隣り合う改質スポット7aの間に渡らなくてもよい。亀裂31は、加工対象物1の第1主面1aには、至っても、至らなくてもよい。
【0093】
また、ドライエッチングは、エッチング保護層23が除去されるように第2主面1b側から施されてもよい。ドライエッチングは、複数列の改質領域7が除去されることにより、除去された複数列の改質領域7に対応する凹凸形状を呈し且つ単結晶シリコンが露出した凹凸領域9が溝32の内面に形成されるように、第2主面1b側から施されてもよい。ドライエッチングの種類は、XeF2を用いた反応性ガスエッチングに限定されない。ドライエッチングとして、例えば、CF4を用いた反応性イオンエッチング、SF6を用いた反応性イオンエッチング等を実施してもよい。
【0094】
また、複数の切断予定ライン5のそれぞれに沿って単結晶シリコン基板11の内部に複数列の改質領域7が形成されている場合、
図28の(a)に示されるように、エッチング保護層23が残存し且つ一部の改質領域7が除去されるようにドライエッチングを実施してもよいし、或いは、
図28の(b)に示されるように、エッチング保護層23が残存し且つ全ての改質領域7が除去されるようにドライエッチングを実施してもよいし、或いは、
図28の(c)に示されるように、エッチング保護層23が残存し且つ加工対象物1が完全に分離されるようにドライエッチングを実施してもよい。
【0095】
また、複数の切断予定ライン5のそれぞれに沿って単結晶シリコン基板11の内部に複数列の改質領域7が形成されている場合、
図29の(a)に示されるように、エッチング保護層23が残存し且つ溝32の断面形状がU字状となるようにドライエッチングを実施してもよいし、或いは、
図29の(b)に示されるように、エッチング保護層23が残存し且つ溝32の断面形状がI字状となるようにドライエッチングを実施してもよい。
【0096】
また、複数の切断予定ライン5のそれぞれに沿って単結晶シリコン基板11の内部に複数列の改質領域7が形成されている場合、
図30の(a)に示されるように、エッチング保護層23が除去され且つ一部の改質領域7が除去されるようにドライエッチングを実施してもよいし、或いは、
図30の(b)に示されるように、エッチング保護層23が除去され且つ全ての改質領域7が除去されるようにドライエッチングを実施してもよいし、或いは、
図30の(c)に示されるように、エッチング保護層23が除去され且つ加工対象物1が完全に分離されるようにドライエッチングを実施してもよい。
【0097】
また、複数の切断予定ライン5のそれぞれに沿って単結晶シリコン基板11の内部に複数列の改質領域7が形成されている場合、
図31の(a)に示されるように、エッチング保護層23が除去され且つ溝32の断面形状がU字状となるようにドライエッチングを実施してもよいし、或いは、
図31の(b)に示されるように、エッチング保護層23が除去され且つ溝32の断面形状がI字状となるようにドライエッチングを実施してもよい。
【0098】
また、加工対象物1が完全に分離されるようにドライエッチングを実施した場合(
図28の(c)、
図29の(b)、
図30の(c)及び
図31の(b)参照)、拡張フィルム22を拡張させることは必須ではない。ただし、半導体チップ15のピックアップの容易化を図るために、拡張フィルム22を拡張させて、拡張フィルム22上において複数の半導体チップ15を互いに離間させてもよい。
【0099】
また、半導体チップ15においては、
図32に示されるように、単結晶シリコン基板110の側面110cに、改質領域7が残存しておらず、少なくとも1列の凹凸領域9が帯状に形成されていてもよい。凹凸領域9は、加工対象物1の単結晶シリコン基板11の内部に形成された全ての改質領域7がドライエッチングによって除去されることにより、形成されたものである(
図30の(b)及び(c)参照)。このような半導体チップ15は、例えば、加工対象物1が完全に分離されるように第2主面1b側からドライエッチングが施された場合に得られる。
図32に示される半導体チップ15においては、単結晶シリコン基板110の全体が第1表面110aから離れるほど細くなる形状を呈している。つまり、単結晶シリコン基板110の側面110cの全体が、加工対象物1の単結晶シリコン基板11に形成された溝32の内面に対応している(
図30の(b)及び(c)参照)。一例として、単結晶シリコン基板110の全体は、第1表面110aから離れるほど細くなる四角錘台状を呈している。なお、
図32に示される半導体チップ15は、単結晶シリコン基板110の第2表面110bに形成されたエッチング保護層230を備えていてもよい。
【0100】
また、上述した第1ステップ及び第2ステップに替えて、次のように第1ステップ及び第2ステップを実施してもよい。すなわち、第1ステップとして、
図33の(a)に示されるように、加工対象物1を準備し、加工対象物1の第2主面1bにエッチング保護層23を形成する。この場合、エッチング保護層23の材料は、レーザ光Lに対して透過性を有する材料である必要はない。続いて、
図33の(b)に示されるように、保護フィルム21をエッチング保護層23の表面23aに貼り付ける。第1ステップの後に、第2ステップとして、
図34の(a)に示されるように、第1主面1aをレーザ光入射面として加工対象物1にレーザ光Lを照射することにより、複数の切断予定ライン5のそれぞれに沿って単結晶シリコン基板11の内部に少なくとも1列の改質領域7を形成し、複数の切断予定ライン5のそれぞれに沿って、少なくとも1列の改質領域7とエッチング保護層23の表面23aとの間に渡るように加工対象物1に亀裂31を形成する。続いて、
図34の(b)に示されるように、別の保護フィルム21を第1主面1aに貼り付け、先に貼り付けられていた保護フィルム21をエッチング保護層23の表面23aから取り除く。以降のステップは、上述した第3ステップ以降のステップと同様である。
【0101】
また、加工対象物1の第1主面1aに貼り付けられた保護フィルム21の材料が、レーザ光Lに対して透過性を有する材料である場合には、
図35に示されるように、保護フィルム21を介して加工対象物1にレーザ光Lを照射してもよい。
【0102】
また、次のように加工対象物切断方法を実施することもできる。次のような加工対象物切断方法によっても、加工対象物1を複数の半導体チップ15に確実に切断することができる。
【0103】
まず、第1ステップとして、
図36の(a)に示されるように、単結晶シリコン基板11と、第1主面1a側に設けられた機能素子層12と、を有する加工対象物1を準備し、保護フィルム21を加工対象物1の第2主面1bに貼り付ける。続いて、加工対象物1の第1主面1aにエッチング保護層23を形成する。エッチング保護層23の材料は、レーザ光Lに対して透過性を有する材料である。なお、機能素子層12に存在するパシベーション膜をエッチング保護層23として用いてもよい。
【0104】
第1ステップの後に、第2ステップとして、
図36の(b)に示されるように、エッチング保護層23を介して加工対象物1にレーザ光Lを照射することにより、複数の切断予定ライン5のそれぞれに沿って単結晶シリコン基板11の内部に少なくとも1列の改質領域7を形成し、複数の切断予定ライン5のそれぞれに沿って、少なくとも1列の改質領域7とエッチング保護層23の表面23aとの間に渡るように加工対象物1に亀裂31を形成する。ここでは、複数の切断予定ライン5のそれぞれに沿ってエッチング保護層23に形成された亀裂31が、エッチング保護層23においてガス通過領域として機能する。
【0105】
第2ステップの後に、第3ステップとして、
図37の(a)に示されるように、エッチング保護層23が第1主面1aに形成された状態で、加工対象物1に第1主面1a側からドライエッチングを施すことにより、
図37の(b)に示されるように、複数の切断予定ライン5のそれぞれに沿って加工対象物1に溝32を形成する。溝32は、第1主面1aに開口する例えばV溝(断面V字状の溝)である。ここでは、エッチング保護層23が残存するように、加工対象物1に第1主面1a側からドライエッチングを施す。ただし、エッチング保護層23が除去されるように、加工対象物1に第1主面1a側からドライエッチングを施してもよい。
【0106】
なお、加工対象物1に第1主面1a側からドライエッチングを施すとは、第2主面1bを保護フィルム等で覆い、第1主面1a(又は、複数の切断予定ライン5のそれぞれに沿ってガス通過領域が形成されたエッチング保護層23)をエッチングガスに晒した状態で、単結晶シリコン基板11にドライエッチングを施すことを意味する。特に、反応性イオンエッチング(プラズマエッチング)を実施する場合には、プラズマ中の反応種を第1主面1a(又は、複数の切断予定ライン5のそれぞれに沿ってガス通過領域が形成されたエッチング保護層23)に照射することを意味する。
【0107】
第3ステップの後に、第4ステップとして、
図38の(a)に示されるように、加工対象物1の第2主面1bに貼り付けられた保護フィルム21を拡張フィルム22として拡張させることにより、複数の切断予定ライン5のそれぞれに沿って加工対象物1を複数の半導体チップ15に切断し、
図38の(b)に示されるように、半導体チップ15をピックアップする。
【符号の説明】
【0108】
1…加工対象物、1a…第1主面、1b…第2主面、5…切断予定ライン、7…改質領域、7a…改質スポット、11…単結晶シリコン基板、12…機能素子層、15…半導体チップ、22…拡張フィルム、23…エッチング保護層、23a…表面、31…亀裂、32…溝、L…レーザ光。