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特許7063562多孔質触媒体膜及びそれを用いたガス処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-25
(45)【発行日】2022-05-09
(54)【発明の名称】多孔質触媒体膜及びそれを用いたガス処理装置
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/52 20060101AFI20220426BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20220426BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20220426BHJP
   B01J 37/16 20060101ALI20220426BHJP
   B01J 23/63 20060101ALI20220426BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20220426BHJP
【FI】
B01J23/52 A
B01J37/08
B01J37/02 301B
B01J37/02 101C
B01J37/16
B01J23/63 A
B01D53/94 245
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2017174077
(22)【出願日】2017-09-11
(65)【公開番号】P2019048269
(43)【公開日】2019-03-28
【審査請求日】2020-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】391018341
【氏名又は名称】株式会社NBCメッシュテック
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】秋田 真吾
(72)【発明者】
【氏名】直原 洋平
(72)【発明者】
【氏名】中山 鶴雄
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-078759(JP,A)
【文献】国際公開第2013/042328(WO,A1)
【文献】特開2012-061393(JP,A)
【文献】特開2008-049280(JP,A)
【文献】特開2006-326530(JP,A)
【文献】特開平02-187149(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0222116(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/73
53/86-53/90
53/94
53/96
B01J 10/00-12/02
14/00-19/32
21/00-38/74
Scopus
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体粒子、繊維、繊維もしくは固体粒子の集合体、およびモノリス構造体からなる群から1種または2種以上選択されて構成され、膜の形状維持を補助する膜支持体領域と、
膜内において前記膜支持体領域と隣接し、膜表面において開口する細孔を有する多孔質であり、細孔内に貴金属および/または貴金属酸化物を含む触媒粒子が担持されている触媒体領域とを備えることを特徴とする多孔質触媒体膜。
【請求項2】
前記膜支持体領域が金属酸化物および/または珪素酸化物で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の多孔質触媒体膜。
【請求項3】
前記金属酸化物および/または珪素酸化物がSiO、Al、TiO、Fe、ZrO、およびCeOのうち少なくとも1種類以上で構成されていることを特徴とする請求項2に記載の多孔質触媒体膜。
【請求項4】
前記膜支持体領域が固体粒子および/または固体粒子集合体で構成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載の多孔質触媒体膜。
【請求項5】
前記膜支持体領域が固体粒子集合体で構成されており、該固体粒子集合体は粒子が焼結して連続した構造体であることを特徴とする請求項4に記載の多孔質触媒体膜。
【請求項6】
前記膜支持体領域の少なくとも一部が細孔を有し、その細孔に貴金属および/または貴金属酸化物を含む触媒粒子が担持されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか一つに記載の多孔質触媒体膜。
【請求項7】
前記多孔質触媒体膜の触媒粒子担持量が0.050mg/cm以上、1.000mg/cm以下であることを特徴とする請求項1から6のいずれか一つに記載の多孔質触媒体膜。
【請求項8】
前記膜支持体領域が触媒粒子を除いた前記支持体領域および前記触媒体領域の合計に対して、質量比で60%以上95%以下であることを特徴とする請求項1から7のいずれか一つに記載の多孔質触媒体膜。
【請求項9】
前記触媒粒子が金、白金、パラジウムおよびこれらの酸化物からなる群から1種または2種以上選択される物質を含む粒子であることを特徴とする請求項1から8のいずれか一つに記載の多孔質触媒体膜。
【請求項10】
前記触媒体領域における多孔質体がSiO、Al、TiO、Fe、ZrO、およびCeOからなる群から1種または2種以上選択される金属酸化物を含むことを特徴とする請求項1から9のいずれか一つに記載の多孔質触媒体膜。
【請求項11】
前記触媒粒子の粒径が2nm以上9nm以下であることを特徴とする請求項1から10のいずれか一つに記載の多孔質触媒体膜。
【請求項12】
前記触媒粒子の担持量が前記触媒体領域100質量%に対して30質量%以上70質量%以下であることを特徴とする請求項1から11のいずれか一つに記載の多孔質触媒体膜。
【請求項13】
前記触媒体領域がメソ孔を有することを特徴とする請求項1から12のいずれか一つに記載の多孔質触媒体膜。
【請求項14】
前記メソ孔のBET法で測定した平均孔径が3nm以上10nm以下であることを特徴とする請求項13に記載の多孔質触媒体膜。
【請求項15】
前記多孔質触媒体膜が一酸化炭素もしくは有機化合物の酸化反応触媒であることを特徴とする請求項1から14のいずれか一つに記載の多孔質触媒体膜。
【請求項16】
固体粒子、アルコキシシランもしくは金属アルコキシドの加水分解物、および界面活性剤を含有する溶液を基材に塗布後に焼成して得られる細孔を有する膜状体と貴金属および/または貴金属酸化物に対応する金属化合物が溶解している溶液とを接触させ、
焼成および/または還元処理を行い前記膜状体の細孔内に貴金属および/または貴金属酸化物を含む触媒粒子を形成することを含むことを特徴とする、請求項1から15のいずれか一つに記載の多孔質触媒体膜の製造方法。
【請求項17】
第1の電極と、第2の電極と、前記第1の電極と前記第2の電極の間に配置される誘電体とを少なくとも備え、前記第1の電極と前記第2の電極の間に電圧を印加して放電を発生させることによりプラズマを発生させるプラズマ発生部と、
前記プラズマ発生部によって発生した前記プラズマが存在する領域に形成される、被処理気体が流れる流路と、
前記流路に配置される請求項1から15のいずれか一つに記載の多孔質触媒体膜と、を備えることを特徴とするガス処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有害成分等として作用する化合物を酸化により分解することができる多孔質触媒体膜と、それを用いたガス処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や工場などの内燃機関から発生する排気ガスには微量の一酸化炭素などの有害成分が含まれるため、除去手段を用いてこれらを除去してから大気中に放出されている。また、密閉した保管庫などでは微量の悪臭物質が産生されアンモニア臭が発生する場合があり、種々の除去手段が施されている。
【0003】
有害成分を除去する方法は活性炭などの吸着剤への吸着、プラズマ発生装置によるラジカルや、オゾンなど活性種による分解除去方法などが広く用いられている。しかしながら吸着剤による吸着処理では吸着剤の有害成分吸着量には上限があり、定期的な吸着剤の交換が必要である。
【0004】
有害成分を分解除去する方法としては、上述のプラズマ法のような物理的に発生させた活性種で酸化して分解する方法以外に、触媒を用いて酸化して分解する方法も広く用いられている。酸化触媒体としては、接触面積を広くするため、無機粒子である担体に活性物質(触媒粒子)を担持させた構造体が使用されている(特許文献1)。また、シリンダー状のメソ孔を有する無機メソポーラス担体の細孔内に触媒粒子を担持させている触媒体も開発されている(特許文献2、3)が、空気中の水分を吸着して細孔が閉塞したりすることで触媒活性が徐々に低下し易いという課題がある。
【0005】
さらに、触媒である固体微粒子と多孔体が複合化した複合多孔体が提案されている(特許文献4)。3次元細孔を持ち、高い分子選択性を有するとしているが、触媒である固体微粒子は細孔外に存在し、その粒径は細孔直径より大きな比較的大きい粒子であるため、メソポーラス担体の細孔内に担持される触媒粒子と比較すると、比表面積は大きくなく、複合体単位重量あたりの触媒活性は必ずしも十分ではない。
特許文献5では酸触媒とアルコールとノニオン性界面活性剤と金属アルコキシドと、金属及び金属酸化物粒子の少なくとも一方の粒子から製造される多孔質粒子が開示されているが、当該特許では金属及び金属酸化物粒子はその一部が多孔質の隔壁を形成するために使用され、細孔は被処理気体の吸着場として利用しているだけである。金属および金属酸化物粒子の触媒作用については言及がないが、当該作用効果を有しているとしても当該粒子の粒径は特許文献4同様に細孔径より大きいため、触媒活性は必ずしも十分ではない。
【0006】
使用用途に応じて、触媒体は適切な形状に調整して用いられるが、適切な触媒量を含有していることも必要である。膜状の触媒体では担持できる触媒の絶対量は膜厚にも依存するので、厚い膜が形成できるのが望ましい。一般に膜状に形成する場合は、触媒体の構成成分もしくは前駆体を溶媒に溶解した溶液を基材に塗布して製造される。膜厚を厚くするには粘度の高い溶液を用いればよいが、特許文献2、3のように触媒を担持させる細孔を形成する際に高温処理を施すと膜の脱離などが生じるため、厚い膜を形成するのは困難であった。
【0007】
厚膜を形成する方法としては、細孔を形成する際に真空状態でUV照射によって細孔の鋳型となる有機化合物を分解することで、高温にさらすことなく厚膜を製造する方法が開示されている(特許文献7)。しかしながら、当該方法は製造に真空装置及び紫外線照射装置が必要で、数時間の照射も必要であり、コストを要する方法である。また、細孔内に触媒を担持させるときに高温処理を行うので、その際の温度変化によってひずみが生じて膜が脱離する恐れもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2003-080077号公報
【文献】特開2004-283770号公報
【文献】特開2007-326094号公報
【文献】特許第5167482号公報
【文献】特開2011-006273号公報
【文献】国際公開第2013/42328号
【文献】特開2006-130889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した触媒体は、いずれも触媒活性が不十分であり、触媒活性の更なる向上が求められている。本発明者らはプラズマ発生装置と金属微粒子触媒を組み合わせた除去方法を提案しているが(特許文献6)、有害成分の分解能力は使用用途によっては必ずしも十分ではなく、浄化装置の更なる向上も求められている。
【0010】
そこで本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、触媒活性について改善された新規な多孔質触媒体膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の要旨は以下のとおりである。
[1] 固体粒子、繊維、繊維もしくは固体粒子の集合体、およびモノリス構造体からなる群から1種または2種以上選択されて構成され、膜の形状維持を補助する膜支持体領域と、
膜内において前記膜支持体領域と隣接し、膜表面において開口する細孔を有する多孔質であり、該細孔内に貴金属および/または貴金属酸化物を含む触媒粒子が担持されている触媒体領域とを備えることを特徴とする多孔質触媒体膜。
[2] 前記膜支持体領域が金属酸化物および/または珪素酸化物で構成されていることを特徴とする[1]に記載の多孔質触媒体膜。
[3] 前記金属酸化物および/または珪素酸化物がSiO、Al、TiO、Fe、ZrO、およびCeOのうち少なくとも1種類以上で構成されていることを特徴とする[2]に記載の多孔質触媒体膜。
[4] 前記膜支持体領域が固体粒子および/または固体粒子集合体で構成されていることを特徴とする[1]から[3]のいずれか一つに記載の多孔質触媒体膜。
[5] 前記膜支持体領域が固体粒子集合体で構成されており、該固体粒子集合体は粒子が焼結して連続した構造体であることを特徴とする[4]に記載の多孔質触媒体膜。
[6] 前記膜支持体領域の少なくとも一部が細孔を有し、その細孔に貴金属および/または貴金属酸化物を含む触媒粒子が担持されていることを特徴とする[1]から[5]のいずれか一つに記載の多孔質触媒体膜。
[7] 前記多孔質触媒体膜の触媒粒子担持量が0.050mg/cm以上、1.000mg/cm以下であることを特徴とする[1]から[6]のいずれか一つに記載の多孔質触媒体膜。
[8] 前記膜支持体領域が触媒粒子を除いた前記支持体領域および前記触媒体領域の合計に対して、質量比で60%以上95%以下であることを特徴とする[1]から[7]のいずれか一つに記載の多孔質触媒体膜。
[9] 前記触媒粒子が金、白金、パラジウムおよびこれらの酸化物からなる群から1種または2種以上選択される物質を含む粒子であることを特徴とする[1]から[8]のいずれか一つに記載の多孔質触媒体膜。
[10] 前記触媒体領域における多孔質体がSiO、Al、TiO、Fe
、ZrO、およびCeOからなる群から1種または2種以上選択される金属酸化物を含むことを特徴とする[1]から[9]のいずれか一つに記載の多孔質触媒体膜。
[11] 前記触媒粒子の粒径が2nm以上9nm以下であることを特徴とする[1]から[10]のいずれか一つに記載の多孔質触媒体膜。
[12] 前記触媒粒子の担持量が前記触媒体領域100質量%に対して30質量%以上70質量%以下であることを特徴とする[1]から[11]のいずれか一つに記載の多孔質触媒体膜。
[13] 前記触媒体領域がメソ孔を有することを特徴とする[1]から[12]のいずれか一つに記載の多孔質触媒体膜。
[14] 前記メソ孔のBET法で測定した平均孔径が3nm以上10nm以下であることを特徴とする[13]に記載の多孔質触媒体膜。
[15] 前記多孔質触媒体膜が一酸化炭素もしくは有機化合物の酸化反応触媒であることを特徴とする[1]から[14]のいずれか一つに記載の多孔質触媒体膜。
[16] 固体粒子、アルコキシシランもしくは金属アルコキシドの加水分解物、および界面活性剤を含有する溶液を基材に塗布後に焼成して得られる細孔を有する膜状体と貴金属および/または貴金属酸化物に対応する金属化合物が溶解している溶液とを接触させ、
焼成および/または還元処理を行い前記膜状体の細孔内に貴金属および/または貴金属酸化物を含む触媒粒子を形成することを含むことを特徴とする、[1]から[15]のいずれか一つに記載の多孔質触媒体膜の製造方法。
[17] 第1の電極と、第2の電極と、前記第1の電極と前記第2の電極の間に配置される誘電体とを少なくとも備え、前記第1の電極と前記第2の電極の間に電圧を印加して放電を発生させることによりプラズマを発生させるプラズマ発生部と、
前記プラズマ発生部によって発生した前記プラズマが存在する領域に形成される、被処理気体が流れる流路と、
前記流路に配置される[1]から[15]のいずれか一つに記載の多孔質触媒体膜と、
を備えることを特徴とするガス処理装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、触媒活性について改善された触媒体膜を提供することができる。
本発明の触媒体膜は例えばガス処理装置に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態の多孔質触媒体膜の構成の概要を示す図である(固体粒子)。
図2】本実施形態の多孔質触媒体膜の構成の概要を示す図である(繊維)。
図3】本実施形態の多孔質触媒体膜の構成の概要を示す図である(モノリス構造体)。
図4】第1実施形態のガス処理装置200の断面の一部を模式的に表した図である。
図5】第2実施形態のガス処理装置300の断面の一部を模式的に表した図である。
図6】第3実施形態のガス処理装置400の断面の一部を模式的に表した図である。
図7】第4実施形態のガス処理装置500の断面の一部を模式的に表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について詳述する。
【0015】
本実施形態の多孔質触媒体膜100(以下、単に「触媒体膜」ともいう)は、通気性を有する部材であり、触媒体領域51と膜支持体領域53を有する。膜支持体領域53は固体粒子、繊維、繊維もしくは固体粒子の集合体、およびモノリス構造体からなる群から1種または2種以上選択されて構成され、膜の形状を支持する。触媒体領域51は、膜支持体領域53に隣接している。また、触媒体領域51は、多孔質触媒体膜の表面の少なくとも一部を構成しており、該部分において開口している気体が通気可能な細孔を有する。第さらに触媒体領域53は、その細孔内に担持された貴金属および/または貴金属酸化物触媒粒子55(以下、単に「触媒粒子」とすることがある)を含む。なお、図1は膜支持体領域53が固体粒子もしく固体粒子集合体の場合を、図2は膜支持体領域53が繊維もしくは繊維集合体の場合を、図3は膜支持体領域53がモノリス構造体である場合をそれぞれ概要図として示している。
【0016】
被処理気体を本実施形態の触媒体膜100の表面に曝すことによって、被処理気体が細孔を通して触媒体膜100内部へ拡散し、細孔内の触媒粒子55と接触して、被処理気体中の有害成分が酸化されて分解される。
【0017】
本実施形態の触媒体膜100は膜状であり、粉体状のような凝集形態になりにくいので、触媒粒子55が存在する細孔と触媒体膜100外部の被処理気体までの距離が、粉体状など他の形状の細孔を有する触媒体(以下「従来の触媒体」ともいう)と比較して短くなりやすい。したがって、本実施形態の触媒体膜100は、被処理気体が内部に拡散しやすく、触媒体膜100の表層部に形成される細孔だけでなく、触媒体膜100の内部に形成される細孔にも被処理気体が到達しやすい。このため、本実施形態の触媒体膜100は、触媒体膜100に含まれる触媒粒子55の全てが被処理気体と接触しやすい。
一方、従来の触媒体は、本実施形態の触媒体膜100と比較し、触媒体外部の被処理気体までの距離が長くなりやすいため、内部に形成される細孔には被処理気体が到達しにくい。このため、従来の触媒体は、触媒体に含まれる触媒粒子の一部が被処理気体と接触しにくい。
ここで、触媒粒子と有害成分等の処理対象となる化合物(以下、単に有害成分ともいう)が接触すると、触媒粒子が被毒して有害成分が触媒粒子に付着したり、有害成分を分解する際に生じる反応中間体が触媒粒子に付着したりして触媒体の触媒活性が失われることがある。従来の触媒体においては一部分の触媒に被処理気体が接触しやすいので該触媒に上記付着がより生じる傾向がある。その結果、触媒体に含まれる触媒粒子の全てが被毒しなくても、触媒体の触媒活性が失われやすい。つまり、従来の触媒体は、触媒活性を維持しにくい。
しかしながら、本実施形態の触媒体膜100は、触媒体膜100に含まれる触媒粒子が被処理気体とより接触しやすいため、全ての触媒粒子が被毒するまで触媒体膜の活性が維持される。このため、本実施形態の触媒体膜100は、触媒活性を長期に維持することができる。
【0018】
また、本実施形態の触媒体膜100は、上述したように、被処理気体が内部に拡散しやすいため、細孔内に被処理気体中の水分が吸着した場合、被処理気体に対する水分の濃度勾配が発生しやすい。従って、吸着した水分の被処理気体への再拡散が進行し、結果として吸着する水分が一定量に抑制される効果がある。一方従来の触媒体は、粉体内部の細孔から、触媒体外部の被処理気体までの距離が相対的に長く、特に粉体内部に吸着した水分の再拡散が起き難い状態になっている。このため、吸着した水分による細孔の閉塞が生じ易く、触媒活性が低下するものと推察される。
【0019】
本実施形態の触媒体膜100は、例えば基材57上に形成させることができる。このとき、基材が通気性を有するか否かは特に限定されない。通気性のない基材57上に本実施形態の触媒体膜100が配置されている場合には、触媒体膜100の表面にエンボス加工などにより凹凸が形成されていてもよい。触媒体膜100の表面に凹凸が形成されていると、被処理気体と触媒体膜との接触面積が増加するため、被処理気体中の有害成分等の酸化反応をより促進することができる。
【0020】
触媒体膜100が形成される基材57がハニカム状、メッシュ状など通気可能な形状を有していれば、触媒体膜100の厚み方向に被処理気体を流通させても構わない。また、基材57の両面に本実施形態の触媒体膜100が形成されていてもよく、いずれの形態で用いるかは本実施形態の触媒体膜100を組み込む装置の設計等に応じて決めればよい。
【0021】
本実施形態の触媒体膜100の膜厚は特に限定されないが、300nm以上5,000nm以下であることが望ましい。
300nm未満であると、上記範囲内である場合と比較して、触媒体領域51に担持することができる触媒粒子55の絶対量が低減するので、被処理気体中の有害成分を十分分解し難くなる。5,000nmより大きくなると、触媒体膜100の内部に被処理気体が拡散しにくくなり、触媒体膜100の内部の触媒粒子が被処理気体と接触しにくくなる。また、触媒体膜100の内部に存在するメソ孔に吸着した水分が再拡散されにくくなり、メソ孔内に吸着する水分量が増加し、触媒粒子の作用を阻害しやすくなる。このため、上記範囲内である場合と比較して、触媒体膜100の触媒活性を維持しにくくなる。なお、本実施形態の触媒体膜100の膜厚は、触媒体膜100の断面をTEM観察し、断面画像のサイズを測ることにより測定することができる。
【0022】
本実施形態の触媒体膜100は、被処理気体中の有害成分を酸化反応で二酸化炭素や水などの無害な物質に分解処理し、大気中に排出できる。本実施形態の触媒体膜100において処理可能な化合物としては、自動車の内装材、住宅の建材・内装材、家電の筐体・部材などの素材から揮発する物質、たとえば、塗料、接着剤、洗浄剤などの有機溶剤から揮発する物質が挙げられる。具体的には、エチレン、ベンゼン、キシレン、トルエン、エチルベンゼン、スチレンなどの炭化水素類、メタノール、エタノール、プロピルアルコールなどのアルコール類、ホルムアルデヒドやアセトアルデヒドなどのアルデヒド類、アセトン、エチルメチルケトンなどのケトン類、アンモニアなどが例示される。また、工場や厨房の燃焼工程や家庭用暖房器具などやタバコの不完全燃焼により生じる一酸化炭素も処理可能である。
【0023】
本実施形態の構成要素である膜支持体領域53は、無機材料、有機材料あるいは無機有機複合材料のいずれで構成されていても構わず、処理対象のガス等の種類や触媒体膜を適用する機器や諸環境条件に応じて選択すればよい。このうち多孔体の細孔形成時に高温処理を行うため、耐熱性がより高い無機材料を用いるのが好ましい。該無機材料として、例えば、γ-Al2O3、α-Al2O3、θ-Al2O3、η-Al2O3、アモルファスのAl2O3、TiO2、ZrO2、SnO2、SiO2、MgO、ZnO2、Bi2O3、In2O3、MnO2、Mn2O3、Nb2O5、FeO、Fe2O3、Fe3O4、Sb2O3、CuO、Cu2O、NiO、Ni3O4、Ni2O3、CoO、Co3O4、Co2O3、WO3、CeO2、Pr6O11、Y2O3、In2O3、PbO、ThO2などの単一の無機酸化物が挙げられる。また、例えば、SiO2-Al2O3、SiO2-B2O3、SiO2-P2O5、SiO2-TiO2、SiO2-ZrO2、Al2O3-TiO2、Al2O3-ZrO2、Al2O3-CaO、Al2O3-B2O3、Al2O3-P2O5、Al2O3-CeO2、Al2O3-Fe2O3、TiO2-CeO2、TiO2-ZrO2、TiO2-WO3、ZrO2-WO3、SnO2-WO3、CeO2-ZrO2、SiO2-TiO2-ZrO2、Al2O3-TiO2-ZrO2、SiO2-Al2O3-TiO2、SiO2-TiO2-CeO2、セリウム・ジルコニウム・ビスマス複合酸化物などの複合酸化物も膜支持体領域53を構成する物質として挙げられる。
例えばこれら単一の無機酸化物や複合酸化物のうち1種または2種以上が本実施形態に係る膜支持体領域53を構成する物質として触媒体膜100に含まれるようにしてもよく、具体的にはこれら物質によって後述の固体粒子等を構成すればよい。尚、セリウム・ジルコニウム・ビスマス複合酸化物は一般式Ce1-X-YZrBi2-δで表わされる固溶体であり、X、Y、δの値がそれぞれ0.1≦X≦0.3、0.1≦Y≦0.3、0.05≦δ≦0.15の範囲である。
このうち、上記耐熱性の観点から、膜支持体領域が金属酸化物および/または珪素酸化物で構成されていることが好ましく、SiO、Al3、TiO、Fe、ZrO、およびCeOのうち少なくとも1種類以上で構成されていることがより好ましい。
【0024】
これらの膜支持体領域53の材質と触媒体領域51の材質は同一でも異なっていても構わないが、同一である方が膜支持体領域53と触媒体領域51が強固に結びつき、基材界面に強固に接着した膜状触媒体が得られるのでより好ましい。
【0025】
使用用途に応じて、触媒体は必要な触媒量を含有することが必要であるが、触媒体膜100に担持される触媒粒子量は0.050mg/cm以上、1.000mg/cm以下が好ましい。0.050mg/cm未満であると、0.050mg/cm以上である場合と比較して触媒体膜の触媒活性が低く、被処理気体中の有害成分を十分に除去することができなくなる。1.000mg/cmを超えると膜厚が厚くなりすぎて触媒体膜が脱離し易くなったり、触媒粒子が凝集して触媒活性が低下したりするため、好ましくない。
本実施形態のような膜状の触媒体では担持できる触媒の絶対量は膜厚に依存する。本実施形態の触媒体膜100は膜支持体領域53を含有しているため、膜支持体領域53が後述の製造工程での前駆体の増粘剤として作用したり、膜形成の足場としても機能することで、膜支持体領域が存在しない膜と比較して、より厚い膜を形成するのが容易となる。言い換えれば、膜支持体領域53は、膜の形状維持を補助し、意図する厚みの膜の提供に寄与する。一方、膜支持体領域を含有しない場合は細孔を形成する際に高温にさらすなどするときに、膜自体の脱離などが生じ、膜の厚みを維持することが難しい。膜厚を厚くすることで触媒粒子の担持量を多くして、触媒活性のより高い触媒体膜100を得ることができる。
【0026】
例えば、後述の触媒体膜の製造方法において、鋳型となる界面活性剤と金属アルコキシドの加水分解物と固体粒子を含む溶液(以下、「前駆体溶液」と称する)を基材に塗布して加熱することで溶媒を揮散させ膜状体が得ている。膜支持体領域を形成する材料を含まない前駆体溶液を用いると、前駆体溶液の粘度が低いので厚い膜状体が形成しにくい。
【0027】
膜支持体領域53は、触媒体膜内において固体粒子、繊維、固体粒子集合体、繊維集合体、およびモノリス構造体からなる群から材料が1種以上選択されて構成される。
膜支持体領域を含むようにして触媒体膜を形成する方法は特に限定しないが、膜支持体領域を構成する材料を触媒体領域の原料を含む溶液に分散させるなどによって、膜支持体領域と触媒体領域を同時に膜状に形成するようにしてもよく、基材上に膜支持体領域を膜状に形成後、膜状支持体領域に隣接する周囲に存在する空間に触媒体領域を形成することで触媒体膜を得てもよい。
【0028】
膜支持体領域53が固体粒子で構成されている場合、固体粒子の平均粒径は特に限定されないが、固体粒子の平均粒径は0.01μm以上1μm以下であることが好ましい。0.01μm以下の固体粒子は製造が難しく、1μm以上であると、触媒体膜の製造工程において触媒体領域の前駆体溶液中で容易に沈降するため、固体粒子が膜中に均一に分散した触媒体膜の製造が困難になる。
なお、固体粒子の平均粒径は後述の触媒粒子と同様にTEMを用いて測定することができる。
【0029】
膜支持体領域53が繊維の場合、平均繊維径および平均繊維長は特に限定されないが、平均繊維径は0.01μm以上1μm以下、平均繊維長は1μm以上100μm以下であることが好ましい。平均繊維径0.01μm未満である場合や平均繊維長1μm未満の場合、繊維は製造が難しく、平均繊維径1μm以上である場合や平均繊維長100μm以上である場合には、触媒体膜の製造工程において繊維が触媒体領域の前駆体溶液中で容易に沈降するため、繊維が膜中に均一に分散した触媒体膜の製造が困難になる。なお、平均繊維径および平均繊維長もTEMを用いて測定することができる。
【0030】
固体粒子集合体はその構成単位である固体粒子が物理的に固着した集合体であり、多数の固体粒子(一次粒子)が集合した粒子(二次粒子)などが含まれる。また、一次粒子の少なくとも一部が焼結などによって互いに化学的に接合した連続体となっていても構わない。
固体粒子集合体の平均粒径は固体粒子同様0.01μm以上1μm以下であることが好ましい。0.01μm未満の固体粒子集合体は製造が難しく、1μmより大きくなると、触媒体膜の製造工程において第2の領域の前駆体溶液中で容易に沈降するため、固体粒子集合体が膜中に均一に分散した触媒体膜の製造が困難になる。
【0031】
繊維集合体は固体粒子集合体同様、繊維が物理的に固着した集合体であり、多数の繊維(一次繊維)が集合した繊維(二次繊維)などが含まれ、一次繊維の少なくとも一部が焼結などによって互いに化学的に接合した連続体となっていても構わない。また、繊維集合体が、織物、網物、不織布などから構成される繊維構造体であっても構わない。また、膜支持体領域53は、網目状の連続構造をもつ一体型の構造体であるモノリス構造体であってもよい。
膜支持体領域53は上述の通り、様々な形状の材料が使用できるが、固体粒子もしくは固体粒子集合体は後述の触媒体膜の製造工程において多孔質の前駆体溶液に分散することで、所望の触媒体膜が容易に製造できるため好ましい。また、固体粒子もしくは固体粒子集合体が細孔を有する固体粒子で構成されていると、当該細孔内にも触媒粒子を担持させることができるので、触媒体膜の触媒活性をより高めることができ、さらに好ましい。
【0032】
また、膜支持体領域53はゼオライトや活性炭などの、有害成分の吸着活性を有する材料を使用するのも好ましい。被処理気体の流量が増大する、非処理気体中の有害成分濃度が高まる、などによって担持されている触媒粒子の酸化分解能力以上の有害成分が触媒体膜に供給された場合、膜支持体領域53が吸着活性を有さないと、酸化分解能力を超えた有害成分は酸化分解されずに触媒体膜を通過する。
一方、膜支持体領域53が吸着活性を有する場合は、触媒粒子の酸化分解能力以上の有害成分が触媒体膜に一時的に供給されても、触媒粒子の処理能力を超える有害成分は膜支持体領域53に一旦吸着されるが、有害成分の供給量が減少すると有害成分が膜支持体領域53から放出されて、触媒粒子によって酸化分解される。よって酸化分解量が平準化され、有害成分供給量変動にも対応できる触媒体膜を得ることができる。
【0033】
膜支持体領域が、触媒粒子を除いた膜支持体領域および触媒体領域の合計に占める割合は重量比率で60%以上95%以下であるのが好ましく、より好ましくは70%以上90%以下である。膜支持体領域が60%以上となると、60%未満である場合と比較して触媒粒子の担持量が高まり触媒活性がより高くなるので好ましい。一方、95%を超えると、例えば後述の触媒体膜の製造工程において前駆体溶液の粘度が高くなり基材に均一に塗布することが困難になる、などのように触媒体膜の製造が95%以下の場合と比較して困難になるため、好ましくない。
【0034】
本実施形態の触媒体膜の構成要素である触媒体領域51は、多孔質体であり細孔を有するが、細孔がメソ孔であると、細孔内に担持される触媒粒子の活性が高まるので好ましい。本明細書において、メソ孔とは、触媒体領域51の表面に形成される少なくとも2つの開口部に連通している、直径が2nm以上50nm以下である細孔を指す。メソ孔の形状やその開口部の位置関係などは特に限定されず、例えば、触媒体領域51表面の2つの対向する面に向かって同一直線上に延びるメソ孔により構成されるシリンダー形状(例えば、ハニカム形状)でも、メソ孔が触媒体領域51内部で分岐して他のメソ孔とつながっているようないわゆる連通構造でもよい。これらのうち、連通構造は、シリンダー形状などと比較して、一つのメソ孔がより多くの開口部につながっているので、触媒体膜100の内部に被処理気体が拡散しやすく、メソ孔内や開口部に形成される触媒粒子が形成されても通気性が損なわれにくい。また、触媒体領域51内部のメソ孔に水分が付着しても通気性が損なわれにくい。このため、連通構造のほうがより好ましい。ここで、メソ孔の直径は、3nm以上10nm以下であることが好ましい。メソ孔の直径が当該範囲内にある場合、担持される触媒粒子55の粒径も当該範囲内になり、粒径が10nmを超える触媒粒子55と比較して、触媒粒子の比表面積が大きくなりやすいため、より高い活性の触媒体膜が得られる。また、メソ孔に触媒粒子55が担持されることで、触媒粒子55が凝集しにくくなり、触媒活性がより維持される。なお、本実施形態に係る触媒体領域51が有するメソ孔の直径は、触媒体領域51に形成されるメソ孔の平均直径であり、JIS-Z-8831に基づくBET法による自動比表面積/細孔分布測定装置を用いて測定した値である。
【0035】
本実施形態の触媒体膜100の構成要素である触媒粒子55は、酸化反応を促進する触媒活性を有する貴金属もしくは貴金属酸化物、またはその両方を含む粒子であればよく、特に限定されない。
【0036】
本明細書において、貴金属とは金、銀および白金族のルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウムおよび白金を指す。貴金属酸化物は上述の貴金属の酸化物およびその水和物であり、具体的にはAu、AgO、AgO、AgO・Ag、RuO、RuO、Rh、PdO、OsO、OsO、IrO、Ir・nHO、PtO、PtO・HO、白金黒等を指す。
好ましくは酸化触媒能がより高い、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)及びそれらの酸化物の少なくともいずれかから触媒粒子55が構成されるのがよい。触媒粒子55として、Au、Pt、Pd、Au、AgO、AgO、AgO・Ag、PdO、PtO、PtO・HO、白金黒等の一種以上から構成される粒子が挙げられる。
【0037】
触媒粒子55の粒径は、メソ孔内に担持されるのでメソ孔の直径以下の大きさであるが、メソ孔内部に担持される触媒粒子55とメソ孔内に拡散した被処理気体とを接触するための被処理気体が通過する通路が十分確保されるために、触媒粒子55の粒径はメソ孔の直径の90%以下であるのが望ましい。90%より大きい粒径であると、90%以下である場合と比較して、被処理気体が触媒体膜100内部まで拡散しにくくなり、触媒活性を長期に維持しにくくなるとともに、被処理気体中の有害成分の分解効率が低下しやすくなる。また、触媒粒子55の粒径が9nm以下(より好ましくは2nm以上6nm以下)であれば、粒径が9nmを超える場合と比較して、触媒粒子の比表面積が増大し触媒活性が飛躍的に向上して被処理気体中の有害成分の分解効率がさらに高まる。このため、触媒粒子55の粒径は、9nm以下であることがさらに好ましい。また、粒径が2nmより小さいときに触媒粒子55が金属または金属酸化物である場合は、物質として非常に不安定であり、触媒活性が低くなりやすい。なお、触媒粒子55の粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて触媒粒子55の画像写真を取得し、画像写真に写る触媒粒子55から無作為に抽出した300個以上の触媒粒子55のフェレ径を測定し、そのフェレ径を相加平均した値である。なお、フェレ径は、TEMにより確認することができる触媒粒子の画像において、触媒粒子を通過(接することを含む)する任意の直線に平行な直線群の中で、最も距離の離れた2本の平行線の間の距離である。
【0038】
触媒粒子55の担持量は、触媒粒子を担持している状態での触媒体領域100質量%に対して、30質量%以上70質量%以下とするのが好ましく、より好ましくは40質量%以上70質量%以下であり、さらに好ましくは50質量%以上70質量%以下である。70質量%を超えると、触媒粒子同士が凝集しやすくなり、上記範囲内にある場合と比較して触媒活性が減少しやすくなる。また、30質量%未満では、上記範囲内にある場合と比較して、十分な触媒活性が得られにくい。粒径2nm以上9nm以下の触媒粒子55を30質量%以上担持するには、細孔がメソ孔を有していないと困難である。
【0039】
なお、本実施形態の触媒体膜100においては、触媒粒子に加えて、助触媒粒子や貴金属以外の他の金属または金属酸化物などを含んでいてもよく、特に限定されない。具体的には、助触媒粒子と触媒粒子が混在するものや、貴金属以外の金属元素を触媒粒子と複合化させた複合粒子からなる複合触媒であってもよい。触媒粒子単独で用いる場合や触媒粒子と助触媒粒子とを混在させたものを用いる場合には、触媒粒子を上述の大きさの範囲内(粒径が2nm以上9nm以下)とすることができる。また、貴金属以外の金属元素を触媒粒子と複合化した複合粒子の場合には、複合粒子の大きさを上述の大きさの範囲内(粒径が2nm以上9nm以下)とすることができる。助触媒粒子または複合触媒において用いることができる触媒粒子以外の金属粒子(ナノ粒子)としては、卑金属およびその酸化物などが挙げられる。これらの貴金属およびその酸化物、卑金属およびその酸化物の粒子は2種以上混合されて、触媒体領域51に形成されるメソ孔内表面に担持されてもよい。
【0040】
本実施形態に係る触媒体領域51は、珪素酸化物もしくは金属酸化物から構成されていることが好ましい。珪素酸化物もしくは金属酸化物から構成される触媒体領域51は、触媒粒子55に作用し、触媒体膜の触媒活性を向上することができる。珪素酸化物もしくは金属酸化物以外の他の材料から形成される触媒体領域51は、触媒粒子に作用しにくく、触媒粒子の触媒活性を向上させにくい。また、珪素酸化物もしくは金属酸化物以外の他の材料から形成される触媒体領域51の場合、助触媒粒子を用いれば触媒粒子の活性が上がるが、多孔質に担持できる粒子の量には上限があるため、助触媒粒子と触媒粒子の両方を多孔質に担持すると、触媒粒子の担持量を増やすことに限界がある(例えば、触媒体領域100質量%に対して、触媒粒子を10質量%以上担持しにくい)。さらに、金属酸化物は、耐熱性が有り、製造工程で高温状態を経る場合に、物性が変化しにくいため好ましい。
【0041】
金属とは、周期表における、1族(Hを除く)、2~12族、13族(Bを除く)、14族(C及びSiを除く)、15族(N、P及びAsを除く)、及び16族(O、S、Se、及びTeを除く)に属する元素、並びにランタノイド及びアクチノイドをいう。金属酸化物としては、例えば、γ-Al、α-Al、θ-Al、η-Al、アモルファスのAl、TiO、ZrO、SnO、MgO、ZnO、Bi、In、MnO、Mn、Nb、FeO、Fe、Fe、Sb、CuO、CuO、NiO、Ni、Ni、CoO、Co、Co、WO、CeO、Pr11、Y、In、PbO、ThOなどの金属酸化物が挙げられる。また、金属酸化物は、例えば、Al-TiO、Al-ZrO、Al-CaO、Al-CeO、Al-Fe、TiO-CeO、TiO-ZrO、TiO-WO、ZrO-WO、SnO-WO、CeO-ZrO、Al-TiO-ZrO、セリウム・ジルコニウム・ビスマス複合酸化物などの2種以上の金属を含む複合酸化物であってもよい。例えばこれら金属酸化物のうち1種または2種以上で本実施形態に係る触媒体領域51が構成されるようにしてもよい。尚、セリウム・ジルコニウム・ビスマス複合酸化物は一般式Ce1-X-YZrBi2-δで表わされる固溶体であり、X、Y、δの値がそれぞれ0.1≦X≦0.3、0.1≦Y≦0.3、0.05≦δ≦0.15の範囲である。
【0042】
本実施形態の触媒体膜100に、後述する誘電体13としての機能も付与する場合、触媒体領域51は、少なくとも一部が絶縁体となる金属酸化物により形成されればよい。絶縁体となる金属酸化物としては、例えば、ZrO、γ-Al、α-Al、θ-Al、η-Al、アモルファスのAl、チタン酸マグネシウム、チタン酸バリウムなどが挙げられる。誘電体13を金属酸化物から形成することで、耐プラズマ性、耐熱性を向上させることができる。
【0043】
触媒体領域51を形成する珪素酸化物もしくは金属酸化物は、SiO、Al、Fe、TiO、ZrO、CeOの少なくとも1種類以上であることが好ましい。SiO、Al、Fe、TiO、ZrO、CeOの少なくとも1種類以上により形成されている触媒体領域51は、触媒粒子55をより強固に担持できるため、触媒粒子55が凝集しにくい。また、基材57とより強固に接着でき、さらに触媒粒子55に作用しやすく、触媒粒子55の触媒活性が他の金属酸化物等よりも高まるのでより望ましい。
【0044】
本実施形態の触媒体膜100は上述のとおり基材57上に形成されるようにすることができる。基材を用いることで、後述する膜前駆体の支持体として働くので、触媒体膜100製造時に容易に膜形状に成形できるため、好ましい。基材57は、上述のように、板状など通気性のない構造でも通気性を有する構造でもよい。通気性を有する構造としては、例えば、パンチング加工により多数の貫通孔が形成されているシート状のものや、繊維状、布状、メッシュ状で、織物、網物、不織布などから構成される繊維構造体(フィルター状)を挙げることができる。その他、使用目的に合った種々の形状及びサイズ等のものを適宜利用できる。
【0045】
触媒体膜100が形成される基材57には膜状体を形成する際に高温に加熱する場合があるため、当該加熱温度に耐える耐熱性を有する材料を用いることが望ましい。具体的には金属材料、セラミックス、ガラス、炭素繊維、炭化珪素繊維や耐熱性有機高分子材料などが好ましく、さらには金属、金属酸化物、ガラスがより好ましい。
【0046】
基材57に用いられる金属材料としては、タングステン、モリブデン、タンタル、ニオブ、TZM(Titanium Zirconium Molybdenum)、W-Re(tungsten-rhenium)などの高融点金属や、銀、ルテニウムなどの貴金属及びそれらの合金または酸化物、チタン、ニッケル、ジルコニウム、クロム、インコネル、ハステロイなどの特殊金属、アルミニウム、銅、ステンレス鋼、亜鉛、マグネシウム、鉄などの汎用金属およびこれら汎用金属を含む合金またはこれら汎用金属の酸化物を用いることができる。また、各種めっき及び真空蒸着や、CVD法や、スパッタ法などにより、上述した金属、合金または酸化物の被膜が形成された部材を金属材料として用いてもよい。
【0047】
さらに、基材57に用いられるセラミックスとしては、土器、陶器、せっ器、磁気などの陶磁器、セメント、石膏、ほうろう及びファインセラミックスなどのセラミックスを挙げることができる。セラミックスの組成は、元素系、酸化物系、水酸化物系、炭化物系、炭酸塩系、窒化物系、ハロゲン化物系、及びリン酸塩系などを挙げることができ、また、それらの複合物でもよい。
【0048】
また、基材57に用いられるセラミックスとしては、さらに、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、フェライト、アルミナ、フォルステライト、ジルコニア、ジルコン、ムライト、ステアタイト、コーディエライト、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ニューカーボンなどや、高強度セラミックス、機能性セラミックス、超伝導セラミックス、非線形光学セラミックス、抗菌性セラミックス、生分解性セラミックス、及びバイオセラミックスなどのセラミックスを挙げることができる。
【0049】
また、基材57に用いられるガラスとしては、ソーダ石灰ガラス、カリガラス、クリスタルガラス、石英ガラス、カルコゲンガラス、ウランガラス、水ガラス、偏光ガラス、強化ガラス、合わせガラス、耐熱ガラス・硼珪酸ガラス、防弾ガラス、ガラス繊維、ダイクロ、ゴールドストーン(茶金石・砂金石・紫金石)、ガラスセラミックス、低融点ガラス、金属ガラス、ニューガラス、及びサフィレットなどのガラスを挙げることができる。
【0050】
また、基材57にはその他に、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、及びポルトランドセメントに高炉スラグ、フライアッシュ、シリカ質混合材を添加した混合セメントである高炉セメント、シリカセメント、及びフライアッシュセメントなどのセメントを使用することも可能である。
【0051】
また、基材57にはその他に、チタニア、ジルコニア、アルミナ、セリア(酸化セリウム)、ゼオライト、アパタイト、シリカ、活性炭、珪藻土などを使用することができる。さらに、基材には、クロム、マンガン、コバルト、ニッケル、錫などからなる金属酸化物を用いることも可能である。
【0052】
さらに、基材57には、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアラミド、ポリベンゾチアゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾイミダゾール、ポリキノリン、ポリキノキサリン、フッ素樹脂などや、フェノール樹脂やエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂などの当業者に公知な耐熱性有機高分子材料を用いることも可能である。
【0053】
次に、本実施形態の触媒体膜100を得る方法の一例について説明する。当該方法においては、膜支持体領域53を構成する材料として固体粒子を用い、まず、膜状体の前駆体を形成する。細孔を有する多孔質を含む膜状体は、例えば、多孔質内部のメソ孔の鋳型として作用する物質が含有している状態で基材上に膜状体の前駆体を形成し、その後鋳型として作用する物質を分解除去することで得ることができる。
【0054】
当該方法の具体的な一例について説明する。まず、鋳型となる界面活性剤と金属アルコキシドの加水分解物と固体粒子を含む溶液(以下、「前駆体溶液」と称する)を調製する。より具体的には、例えば、界面活性剤を溶解した溶液に金属アルコキシドを加え、pH調整を行って金属アルコキシドを加水分解する。これにより金属水酸化物を生成させる。界面活性剤は溶液中でミセルを形成しメソ孔の鋳型となる。さらに得られた溶液に固体粒子を加えて分散させ、前駆体溶液が得られる。なお固体粒子を加える順番は特に限定されず、界面活性剤を溶解した溶液に固体粒子を加えてから金属アルコキシドを加えても構わない。
この前駆体溶液を基材に塗布し、加熱することで溶媒を揮散させるとともに、金属水酸化物を縮合硬化させて、基材表面に膜状体の前駆体を形成させる。その後、さらに300℃以上の高温に焼成することで、前駆体中の鋳型である界面活性剤を分解揮発させることにより除去し、固体粒子によって構成される膜支持体領域53と細孔を有する触媒体領域51とを含む膜状体が得られる。なお、基材に塗布された前駆体溶液の加熱と、膜状体の前駆体の焼成は、同時に行われてもよく、これらを同時に行う場合、基材に塗布された前駆体溶液を300℃以上で焼成すればよい。
【0055】
前駆体溶液は、例えば、(1)金属アルコキシドの加水分解物、(2)溶媒(溶剤)、(3)界面活性剤、(4)固体粒子の4つの成分を含んで構成することができる。金属アルコキシドについて、溶液中で加水分解処理を行って加水分解物を得る場合には、水が必要なので、溶媒は水や、水とエタノールやメタノールなどのアルコール類との混合溶媒とすることが好ましい。また、金属アルコキシドの加水分解処理のための触媒が溶液中にさらに含まれるようにしてもよく、当該触媒としては硝酸、塩酸等の酸を用いることが好ましい。なお、前駆体溶液を得るために配合される界面活性剤の配合割合(配合量)や金属アルコキシドの配合割合(配合量)は特に限定されず、適宜設定でき、特に限定されない。金属アルコキシドに対する界面活性剤のモル比(界面活性剤(mol)/金属アルコキシド(mol))を変えることで、得られる触媒体領域51における細孔の体積率、多孔度を制御することができる。また、膜状体の前駆体を焼成する温度を変更することにより、触媒体領域51の比表面積や、細孔の容積(以下、「細孔容積」ともいう)や、細孔の直径(以下、「細孔径」ともいう)を制御することができる。
【0056】
なお、基材への塗布の前に前駆体溶液中に沈殿物を生成させないことが、均一な膜厚を有する触媒体膜(膜状体)の形成の観点から好ましく、酸性(pHが7未満)のアルコールを用いることで沈殿物の生成を回避できる。別法としては、水と金属アルコキシドとのモル比だけを調節するか、pH調整と共に前述したモル比を調節するか、pH調整と共にアルコールを添加するか、前述したモル比の調節とアルコールの添加の両方を行うかにより沈殿物の生成を回避することもできる。
【0057】
界面活性剤としてはポリオキシエチレンエーテルやポリアルキレンオキシドブロックコポリマーなどが使用できる。ポリオキシエチレンエーテルとしてはC1225(CHCHO)10OH、C1633(CHCHO)10OH、C1837(CHCHO)10OH、C1225(CHCHO)OH、C1633(CHCHO)OHなどが挙げられる。ポリアルキレンオキシドブロックコポリマーとしてはエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのブロックコポリマーが挙げられる。
【0058】
界面活性剤の鎖長が細孔の直径に影響するので、目的の細孔の直径に応じて界面活性剤を選択すればよい。またメシチレンなどの疎水性化合物を前駆体溶液に添加するようにしてもよく、当該疎水性化合物は前駆体溶液中のミセル径を増大させられるので、細孔の直径の調整に使用することができる。
【0059】
金属アルコキシドとしてはテトラプロポキシアルミニウム、テトラプロポキシすず、テトラプロポキシチタニウム、テトラプロポキシジルコニウムなどを使用することができる。
【0060】
基材に前駆体溶液を塗布する方法は、前駆体溶液を均一に薄く塗布できれば方法は問わないが、スピンコート法や基材を前駆体溶液に浸漬後に不要な溶液を吹き飛ばすDip&ブロー法などが適用できる。前駆体溶液を塗布する方法は、塗布する基材の形状などに合わせて選択すればよい。また、多孔質の前駆体を形成した後に鋳型分子(界面活性剤(ミセル))を除去するときの加熱条件も特に限定されず、例えば300~600℃で膜状体の前駆体を加熱すればよい。
【0061】
次に、触媒粒子を膜状体が有する触媒体領域51における細孔に担持させ、本実施形態の触媒体膜を得る。まず、膜状体が有する細孔と貴金属化合物が溶解及び/又は分散している溶液(以下、「貴金属化合物溶液」と称する)とを接触させて触媒体領域51の細孔に貴金属化合物溶液を導入する。その後、還元処理を行い触媒体領域51の細孔内に触媒粒子を形成することにより、本実施形態の触媒体膜を得ることができる。
【0062】
具体的には、例えば、貴金属化合物溶液に膜状体を浸漬後、還元処理を行うようにすることができる。より具体的には、貴金属化合物溶液を20~90℃、好ましくは50~70℃に加温、攪拌しながら、pH3~10、好ましくはpH5~8になるようにアルカリ溶液を用いて調整する。その後、その表面に膜状体が形成されている基材を貴金属化合物溶液に浸漬し、続いて、減圧脱気処理を行い細孔に貴金属化合物溶液を浸透させた後、200~300℃で加熱焼成して還元処理を行う。
【0063】
また、200~300℃の加熱焼成の替わりに、100~200℃の水素気流による水素還元法、水素化ホウ素ナトリウム溶液に浸漬する液相還元法、エチレングリコールを添加してマイクロ波で加熱するマイクロ波法など公知の方法で貴金属化合物を還元してもよい。
【0064】
貴金属化合物としては、例えば、金化合物としてHAuCl・4HO、NHAuCl、KAuCl・nHO、KAu(CN)、NaAuCl、KAuBr・2HO、NaAuBrなどが、白金化合物については塩化白金酸、ジニトロジアンミン白金、ジクロロテトラアンミン白金などが、パラジウム化合物についてはジニトロジアンミンパラジウム、塩化パラジウム酸アンモニウムなどが挙げられる。金属化合物溶液における金属化合物の濃度は特に限定されないが、1×10-2~1×10-5mol/Lとして溶液を調製するのが、生成した触媒粒子が凝集しにくいので好ましい。
【0065】
以上、本実施形態の触媒体膜100は、膜状であるため、触媒体膜に含まれる触媒粒子の全てが被処理気体と接触しやすく、優れた触媒活性を持続することができる。また、本実施形態の触媒体膜はその厚みをより厚くして触媒体膜を構成することが可能であり、より優れた触媒活性を有する触媒体膜を提供することができる。
本実施形態の多孔質触媒体膜は、炭化水素や一酸化炭素、アンモニアといった有害成分を酸化することにより分解除去でき、またその触媒活性の低下が起き難く、長期に使用可能である。
【0066】
次に、本実施形態の触媒体膜100が用いられるガス処理装置について説明する。図は、第1実施形態のガス処理装置200の断面の一部を模式的に表した図である。本実施形態のガス処理装置200は、ガス処理装置200に対して矢印A方向に供給される被処理気体中の有害成分を、ガス処理装置200において発生させるプラズマと触媒体膜100の機能によって、酸化して分解する装置である。
【0067】
ガス処理装置200は、印加電極11と接地電極12と誘電体13とを備えるプラズマ発生部を有し、印加電極11には、電源部である(高圧)電源14が接続されている。接地電極12と印加電極11は、互いに対向して配置されており、接地電極12と印加電極11との間に誘電体13が配置されている。誘電体13は、接地電極12にのみ密着しており、印加電極11と離隔している。ガス処理装置200において、これら印加電極11と接地電極12と誘電体13は、プラズマを発生させるための部材・装置(プラズマ発生部)であり、電源14によって印加電極11と接地電極12との間に電圧が印加されることで、印加電極11と接地電極12と誘電体13によって、印加電極11と誘電体13との間に放電による低温プラズマ反応層(プラズマが存在する領域)が形成される。なお、印加電極11と接地電極12のいずれか一方が第1の電極であり、他方が第2の電極である。また、他の実施形態において印加電極11と接地電極12がそれぞれ複数組み合わせられる場合にも、いずれか一方の種類の複数の電極それぞれが第1の電極であり、他方の種類の複数の電極それぞれが第2の電極である。また、本実施形態において、誘電体13は、接地電極12と触媒体膜100との間にのみ設けられているが、接地電極12と触媒体膜100との間に加えて、印加電極11と触媒体膜100との間に設けられてもよい。
【0068】
印加電極11は、電源14によって電圧が印加される電極である。接地電極12は、接地線12aによって接地されている。そして、印加電極11、接地電極12および誘電体13は、被処理気体が通過できる通気性を有する構造である。具体的には、印加電極11と接地電極12と誘電体13の構造としては、格子状や簾状、パンチング加工などによる多孔状やエキスパンドメッシュ状、ハニカム状の構造が挙げられ、これらの構造を2種以上組み合わせた構造であってもよい。印加電極11、接地電極12については、針状の構造でもよい。また、印加電極11と接地電極12と誘電体13は、上記した形状・構造のうち、同じ形状・構造であってもよい。図では、印加電極11はメッシュのように開口が小さく多数存在し、接地電極12と誘電体13はパンチングによる多孔状のように開口が大きく少数存在している。
【0069】
矢印A方向からプラズマ発生部に供給される被処理気体は、印加電極11に形成される開口を介して、印加電極11と誘電体13との間に形成される低温プラズマ反応層に到達する。低温プラズマ反応層に到達した被処理気体は、プラズマ発生部の外部に直接排出されるか、誘電体13に形成される開口と接地電極12に形成される開口を介して、プラズマ発生部の外部に排出される。つまり、プラズマ発生部には、印加電極11と接地電極12と誘電体13に形成される開口、及び、印加電極11と誘電体13との間に形成される低温プラズマ反応層によって構成される流路が形成されている。
【0070】
プラズマ発生部に形成される流路のうち、低温プラズマ反応層(印加電極11と誘電体13との間)には、誘電体13と印加電極11に密着する触媒体膜100が配置されている。このため、流路を流れて低温プラズマ反応層に到達した被処理気体は、細孔を介して触媒体膜100を通過することができる。従って、被処理気体中の有害成分は、プラズマが作用する触媒体膜100の機能によって、酸化されて分解される。
【0071】
ガス処理装置200に用いられる印加電極11および接地電極12としては、電極として機能する材料を用いることができる。印加電極11、接地電極12の材料としては、例えば、Cu、Ag、Au、Ni、Cr、Fe、Al、Ti、W、Ta、Mo、Coなどの金属やその合金を用いることができる。
【0072】
誘電体13は、絶縁体となる性質を有していればよい。誘電体13の材料としては、例えば、ZrO、γ-Al、α-Al、θ-Al、η-Al、アモルファスのAl、アルミナナイトライド、ムライト、ステアライト、フォルステライト、コーディエライト、チタン酸マグネシウム、チタン酸バリウム、SiC、Si、Si-SiC、マイカ、ガラスなどの無機材料や、ポリイミド、液晶ポリマー、PTFE(poly tetra fluoro ethylene)、ETFE(ethylene tetra fluoro ethylene)、PVF(poly vinyl fluoride)、PVDF(poly vinylidene difluoride)、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミドなどの高分子材料が挙げられる。耐プラズマ性、耐熱性を考慮すると無機材料がより好ましい。
【0073】
なお、上述したように触媒体膜100が誘電体としての機能も備える場合(例えば、触媒体膜100の一部が絶縁体であるような場合)、触媒体膜100を誘電体としても利用できるため、誘電体13を備えなくてもよい。また、本実施形態のガス処理装置200において、流路に流れる被処理気体の量や、流速などの使用条件は、特に限定されない。例えば、ガス処理装置200に送風機を接続し、所定量の被処理気体を所定の流速で流路に送ってもよく、ガス処理装置200を被処理気体中に放置し、自然に被処理気体が流路に流れ込むだけであってもよい。
【0074】
電源14は、高電圧を印加可能な電源である。電源14としては、交流高電圧、パルス高電圧などの高電圧電源、DCバイアスに交流あるいはパルスを重畳させた電源などを用いることができる。交流高電圧の例としては、正弦波交流、矩形波交流、三角波交流、鋸波交流などが挙げられる。この電源14により、印加電極11と接地電極12と誘電体13によって形成される放電空間にプラズマが発生するように、印加電極11と接地電極12との間に所定の電圧を印加すればよい。電源14による印加電圧は、被処理気体に含まれる有害成分の濃度などにより変動するが、通常1~20kV、好ましくは2~10kVとすることができる。なお、プラズマを発生させるために電源14から供給される電力により発生させる放電の種類としては、プラズマを発生させることができれば特に限定されないが、たとえば無声放電や沿面放電やコロナ放電やパルス放電などであればよい。また、これらの放電が2種類以上組み合わされて発生してプラズマを発生させてもよい。
【0075】
また、電源14の出力周波数は、高周波数が好ましく、具体的には0.5kHz以上とすることができる。さらには0.5kHz以上30kHz以下が好ましく、より好ましくは1kHz以上20kHz以下がよい。周波数が0.5kHzよりも小さいと中間生成物やオゾンの生成量が増えることがあり、30kHzよりも大きいと処理対象とするいずれの有害成分についても酸化による分解が抑制されることがある。
【0076】
なお、本実施形態では、誘電体13を接地電極12に密着させた構成としたが、これに限られない。プラズマを発生させることができればよく、誘電体13が、少なくとも印加電極11と接地電極12のいずれかに密着していればよい。また、印加電極11と接地電極12のそれぞれに誘電体13を密着して配置し、その2つの誘電体13の間に触媒体膜100を備える構成にしてもよい。さらに、触媒体膜100を上述した基材上に形成する場合、誘電体13を基材としても利用できる。
【0077】
次に、第2実施形態のガス処理装置300を説明する。本実施形態において、第1実施形態で説明した部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を用い、詳細な説明は省略する。以下、第1実施形態と異なる点について、主に説明する。
【0078】
は、第2実施形態のガス処理装置300の断面の一部を模式的に表した図である。本実施形態のガス処理装置300は、無声放電によりプラズマを発生させる。本実施形態のガス処理装置300は、印加電極11と接地電極12との間に、対向する2つの誘電体13が配置される積層構造であり、それぞれの誘電体13は、印加電極11と接地電極12に密着している。
【0079】
ガス処理装置300は、高電圧電源14を用いて印加電極11と接地電極12との間に電圧を印加することにより、2つの誘電体13の間に放電による低温プラズマ反応層を形成する。なお、図では、印加電極11と接地電極12の両方に対して誘電体13がそれぞれ密着して積層されているが、誘電体13はいずれか一つだけでもよい。
【0080】
本実施形態のガス処理装置300において、印加電極11,接地電極12及び誘電体13は、被処理気体が通過しない通気性のない構造である。このため、図の矢印a方向からプラズマ発生部に供給される被処理気体は、2つの誘電体13の間に形成される低温プラズマ反応層を通過して、プラズマ発生部の外部に排出される(矢印b方向)。つまり、プラズマ発生部には、2つの誘電体13の間に形成される低温プラズマ反応層(プラズマが存在する領域)によって構成される流路が形成されている。低温プラズマ反応層に形成される流路には、異なる誘電体13に密着する、対向する2つの触媒体膜100が所定の間隔をあけて配置されている。このため、低温プラズマ反応層を流れる被処理気体は、メソ孔を介して触媒体膜100を通過することができる。従って、被処理気体中の有害成分は、第一実施形態と同様に、プラズマが作用する触媒体膜100の機能によって、酸化されて分解される。なお、触媒体膜100は、誘電体13に密着してもよく、密着していなくてもよい。処理する被処理気体の量にもよるが、流路における圧力損失が高くなる場合は、触媒体膜100は、誘電体13に密着していない方がよい。なお、本実施形態も、触媒体膜100を誘電体13としても利用してもよく、また、誘電体13を触媒体膜100が形成される基材としても利用できる。
【0081】
ガス処理装置300は、多層構造とすることで、流路を確保しやすくなる。このため、処理するガス量を増やしやすくなり、多量の有害成分を効率よく分解できる。ガス処理装置300は、処理対象の有害成分の量や、流速などの使用条件に応じて、有害成分を効率よく酸化して分解できるように設置される。触媒体膜100は単層でも複数層に分けてもどちらでもよく、任意に設定できる。
【0082】
次に、第3実施形態のガス処理装置400について説明する。本実施形態において、第1実施形態で説明した部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を用い、詳細な説明は省略する。以下、第1実施形態と異なる点について、主に説明する。
【0083】
は、第3実施形態のガス処理装置400の断面の一部を模式的に表した図である。本実施形態のガス処理装置400には、対向する2つの接地電極12と、2つの接地電極12の間に配置される2つの誘電体13と、2つの誘電体13の間に配置される印加電極11とが設けられている。接地電極12と誘電体13は、互いに密着しており、誘電体13と印加電極11は、所定の間隔をあけて配置されている。ガス処理装置400は、高電圧電源14を用いて印加電極11と接地電極12との間に電圧を印加することにより、2つの誘電体13と印加電極11との間にプラズマを発生させることができ、印加電極11を挟む2つのプラズマ反応層を形成することができる。
【0084】
本実施形態のガス処理装置400において、接地電極12及び誘電体13は、被処理気体が通過しない通気性のない構造である。一方、印加電極11は、複数の開口を有しており、被処理気体が通過する通気性の有る構造である。このため、図の矢印A方向からプラズマ発生部に供給される被処理気体は、印加電極11に形成される開口を介して2つのプラズマ反応層を移動しながら、低温プラズマ反応層を通過し、プラズマ発生部の外部に排出される。つまり、プラズマ発生部には、印加電極11に形成される開口、及び、2つのプラズマ反応層によって構成される流路が形成されている。
【0085】
プラズマ発生部に形成される流路のうち、2つの低温プラズマ反応層(2つの誘電体13と印加電極11との間)には、印加電極11に密着する触媒体膜100がそれぞれ配置されている。このため、流路を移動する被処理気体は、細孔を介して触媒体膜100を通過することができる。従って、被処理気体中の有害成分は、プラズマが作用する触媒体膜100の機能によって、酸化されて分解される。
【0086】
ガス処理装置400は、第2実施形態のガス処理装置300と同様に、多層構造とすることで、流路を確保しやすくなる。このため、処理するガス量を増やしやすくなり、多量の有害成分を効率よく分解できる。ガス処理装置400は、処理対象の有害成分の量や、流速などの使用条件に応じて、有害成分を効率よく酸化して分解できるように設置される。触媒体膜100は単層でも複数層に分けてもどちらでもよく、任意に設定できる。
【0087】
次に、第4実施形態のガス処理装置500について説明する。本実施形態において、第1実施形態で説明した部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を用い、詳細な説明は省略する。以下、第1実施形態と異なる点について、主に説明する。
【0088】
は、第4実施形態のガス処理装置500の断面の一部を模式的に表した図である。本実施形態のガス処理装置500は、無声放電によりプラズマを発生させ、有害成分を分解する。本実施形態のガス処理装置500では、筒型の印加電極11と触媒体膜100と誘電体13が、円柱状の接地電極12を中心軸として、年輪状に径方向外側に積層して構成される円筒状の構造である。
【0089】
ガス処理装置500において、誘電体13は、2つ設けられている。一方の誘電体13は、接地電極12の径方向外側に配置されるとともに、接地電極12に密着している。他方の誘電体13は、印加電極11の径方向内側に配置されるとともに、印加電極11に密着している。ガス処理装置500は、高電圧電源14を用いて印加電極11と接地電極12との間に電圧を印加することにより、2つの誘電体13の間に放電による低温プラズマ反応層を形成することができる。なお、図では、印加電極11と接地電極12ともにそれぞれに対して誘電体13が密着して積層されているが、誘電体13はいずれか一つだけでもよい。
【0090】
本実施形態のガス処理装置500において、印加電極11,接地電極12及び誘電体13は、被処理気体が通過しない通気性のない構造である。このため、円形の両端面の一方(図の矢印a方向)からプラズマ発生部に供給される被処理気体は、2つの誘電体13の間に形成される低温プラズマ反応層を通過して、他方の端面側から排出される(図の矢印b方向)。つまり、プラズマ発生部には、2つの誘電体13の間に形成される低温プラズマ反応層によって構成される流路が形成されている。低温プラズマ反応層に形成される流路には、2つの誘電体13と離隔する触媒体膜100が配置されている。このため、低温プラズマ反応層を流れる被処理気体は、メソ孔を介して触媒体膜100を通過することができる。従って、被処理気体中の有害成分は、第1~第3実施形態と同様に、プラズマが作用する触媒体膜100の機能によって、酸化されて分解される。なお、図において、触媒体膜100と2つの誘電体13との間には、空間が形成されている。また、触媒体膜100は、一方の誘電体13に密着していてもよいし、密着していなくてもよい。
【0091】
本実施形態のガス処理装置500のように、年輪状の多層構造としてもよく、多層構造とすることで、流路を確保しやすくなる。このため、処理するガス量を増やしやすくなり、多量の有害成分を効率よく分解できる。ガス処理装置500は、処理対象の有害成分の量や、流速などの使用条件に応じて、処理対象ガスを効率よく酸化して分解できるように、触媒体膜100の筒型年輪状の枚数は複数でも一枚でも任意に設定できる。
【0092】
ここで、第1~第4実施形態のガス処理装置において、被処理気体に含まれる有害成分を処理する場合には、電源14によって、印加電極11に電圧を印加した状態で、有害成分を含む被処理気体を流路に供給する。これにより、流路を流れて細孔に到達する被処理気体中の有害成分は、触媒体膜100により加温することなく常温で酸化して分解される。さらに、被処理気体中の有害成分は、プラズマにより酸化して分解されることもある。
また、触媒体膜100のみであれば、有害成分との接触により触媒体膜100表面(より具体的には、表面において開口する細孔中の触媒粒子)が被毒し、触媒活性が失われたり、ホルムアルデヒドなどの反応中間体を生じたりすることがある。第1~第4実施形態のガス処理装置においては、プラズマを併用することにより触媒体膜100の表面がクリーニングされ触媒活性がさらに長期間保たれる。さらに、第1~第4実施形態のガス処理装置においては反応中間体の生成量もほとんどなく、有害成分の酸化による分解をさらに長期間維持することができる。
【0093】
また、第1実施形態のガス処理装置200では、印加電極11をガスの流れ方向における上流側に配置するとして説明したが、これに限られず、接地電極12側からガスを流してもよい。
【0094】
以上説明した第1~第4実施形態のガス処理装置は、優れた触媒活性を有するとともに、その触媒活性を持続できる触媒体膜100と、プラズマとの組み合わせにより、反応中間体の生成を抑制できると共に、分解処理の過程で触媒体膜100(具体的には触媒粒子)が被毒しても、プラズマによって触媒体膜100がクリーニングされるため、触媒体膜100の触媒活性をさらに長期間持続することができる。従って、第1~第4実施形態のガス処理装置によれば、さらに長期間有害成分を酸化して分解可能なガス処理装置を実現できる。
【実施例
【0095】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0096】
[実施例1]
(酸化ジルコニウム粒子含有酸化ジルコニウム膜を固定化したガラス基板)
0.2gの界面活性剤(P123)に対し、エタノールを1mL加え20分間攪拌してA液を得た。
また、0.58gのジルコニウム(IV)プロポキシド(Zr(OPr)4)に対し、酢酸0.286mLおよび純水0.1mLと酸化ジルコニウム粒子(新日本電工(株)製)0.5gを加え、10分間攪拌してB液を得た。
B液にA液を加えた後、塩酸を0.093mL加え、1時間攪拌し多孔質酸化ジルコニウム膜の前駆体溶液を得た。
その後、多孔質酸化ジルコニウム膜の前駆体溶液を用い、ガラス基板上にスピンコーターを用いて回転数3000rpmで成膜した。成膜したガラス基板をシャーレに入れ、-20℃, 20%RH環境下(冷凍庫)で2時間静置した。冷凍庫から出し、常温に戻してからシャーレの蓋を開けてガラス基板を取り出した。電気炉で450℃,4時間焼成し、多孔質酸化ジルコニウム膜を固定化したガラス基板を得た。なお、昇温および降温は毎分1℃で行った。
ビーカーに所定濃度の塩化金酸水溶液を入れ、ウォーターバスで70℃に加温した。0.1Mの水酸化ナトリウム水溶液をゆっくり加えていき、pHを7に調節した。塩化金酸水溶液を常温まで冷やし、メソポーラス酸化ジルコニウム膜を固定化したガラス基板を浸し、約15分減圧して脱気した。再度ウォーターバスにて70℃まで加温し、70℃に到達してから1時間攪拌した。多孔質酸化ジルコニウム膜を固定化したガラス基板を取り出し、純水で5回洗浄し、ウエスで余分な水分を取り除いた。電気炉で300℃, 2時間焼成し、Au担持多孔質酸化ジルコニウム膜を固定化したガラス基板を得た。
Au担持多孔質酸化ジルコニウム膜の膜厚および質量を測定したところ、膜厚は890nm、基板面積に対する膜質量は0.587mg/cmであり、酸化ジルコニウム粒子と多孔体(触媒粒子を除いた触媒体領域、以下同じ)の質量比率は77:23であった。また、原子吸光で測定したところ、基板面積に対するAuの担持量は0.063g/cmであった。Au担持多孔質酸化ジルコニウム膜を固定化したガラス基板をBET法による測定を実施したところ、多孔質酸化ジルコニア膜の比表面積、細孔容積、細孔径がそれぞれ148m/g、0.38g/cm、3.28nmであった。また、Auの粒径をTEMで観察したところ、2.5nmであった。
【0097】
[実施例2]
(酸化チタン粒子含有酸化ジルコニウム膜を固定化したガラス基板)
酸化ジルコニウム粒子を酸化チタン粒子(日本アエロジル(株)製)に替えた以外は実施例1と同様の方法でAu担持多孔質酸化ジルコニウム膜を固定化したガラス基板を得た。
Au担持多孔質酸化ジルコニウム膜の膜厚および質量を測定したところ、膜厚は1614nm、基板面積に対する膜質量は0.830mg/cmであり、酸化チタン粒子と多孔体の質量比率は77:23であった。また、原子吸光で測定したところ、基板面積に対するAuの担持量は0.102g/cmであった。Au担持メソポーラス酸化ジルコニウム膜を固定化したガラス基板をBET法による測定を実施したところ、メソポーラス酸化ジルコニウム膜の比表面積、細孔容積、細孔径がそれぞれ148m/g、0.38g/cm、3.28nmであった。また、Auの粒径をTEMで観察したところ、2.5nmであった。
【0098】
[実施例3]
(酸化ジルコニウム粒子含有酸化ジルコニウム膜を固定化したガラス基板)
焼成温度を350℃に替えた以外は実施例1と同様の方法でAu担持多孔質酸化ジルコニウム膜を固定化したガラス基板を得た。
Au担持多孔質酸化ジルコニウム膜の膜厚および質量を測定したところ、膜厚は1236nm、基板面積に対する膜質量は0.823mg/cmであり、酸化ジルコニウム粒子と多孔体の体積比率は77:23であった。また、原子吸光で測定したところ、基板面積に対するAuの担持量は0.095g/cmであった。Au担持多孔質酸化ジルコニウム膜を固定化したガラス基板をBET法による測定を実施したところ、多孔質酸化ジルコニウム膜の比表面積、細孔容積、細孔径がそれぞれ220m/g、0.45g/cm、3.28nmであった。また、Auの粒径をTEMで観察したところ、2.5nmであった。
【0099】
[実施例4]
(酸化セリウム粒子含有酸化ジルコニウム膜を固定化したガラス基板(1))
酸化ジルコニウム粒子0.5gを酸化セリウム粒子(信越化学(株)製)1.0gに替えた以外は実施例1と同様の方法でAu担持多孔質酸化ジルコニウム膜を固定化したガラス基板を得た。
Au担持多孔質酸化ジルコニウム膜の膜厚および質量を測定したところ、膜厚は1790nm、基板面積に対する膜質量は1.532mg/cmであり、酸化セリウム粒子と多孔体の質量比率は87:33であった。また、原子吸光で測定したところ、基板面積に対するAuの担持量は0.272g/cmであった。Au担持多孔質酸化ジルコニウム膜を固定化したガラス基板をBET法による測定を実施したところ、多孔質酸化ジルコニウム膜の比表面積、細孔容積、細孔径がそれぞれ148m/g、0.38g/cm、3.28nmであった。また、Auの粒径をTEMで観察したところ、2.5nmであった。
【0100】
[実施例5]
(酸化セリウム粒子含有酸化ジルコニウム膜を固定化したガラス基板(2))
酸化ジルコニウム粒子を酸化セリウム粒子(信越化学(株)製)に替えた以外は実施例1と同様の方法でAu担持多孔質酸化ジルコニウム膜を固定化したガラス基板を得た。
Au担持多孔質酸化ジルコニウム膜の膜厚および質量を測定したところ、膜厚は834nm、基板面積に対する膜質量は0.749mg/cmであり、酸化セリウム粒子と多孔体の質量比率は77:13であった。また、原子吸光で測定したところ、基板面積に対するAuの担持量は0.173g/cmであった。Au担持多孔質酸化ジルコニウム膜を固定化したガラス基板をBET法による測定を実施したところ、多孔質酸化ジルコニウム膜の比表面積、細孔容積、細孔径がそれぞれ148m/g、0.38g/cm、3.28nmであった。また、Auの粒径をTEMで観察したところ、2.5nmであった。
【0101】
[実施例6]
(酸化セリウム粒子含有酸化ジルコニウム膜を固定化したガラス基板(3))
酸化ジルコニウム粒子0.5gを酸化セリウム粒子(信越化学(株)製)0.3gに替えた以外は実施例1と同様の方法でAu担持多孔質酸化ジルコニウム膜を固定化したガラス基板を得た。
Au担持多孔質酸化ジルコニウム膜の膜厚および質量を測定したところ、膜厚は571nm、基板面積に対する膜質量は0.387mg/cmであり、酸化セリウム粒子と多孔体の質量比率は67:23であった。また、原子吸光で測定したところ、基板面積に対するAuの担持量は0.075g/cmであった。Au担持多孔質酸化ジルコニウム膜を固定化したガラス基板をBET法による測定を実施したところ、多孔質酸化ジルコニウム膜の比表面積、細孔容積、細孔径がそれぞれ148m/g、0.38g/cm、3.28nmであった。また、Auの粒径をTEMで観察したところ、2.5nmであった。
【0102】
[比較例1]
酸化ジルコニウム粒子を用いないで前駆体溶液を調製したこと以外は、実施例1と同様の方法でAu担持多孔質酸化ジルコニウム膜を固定化したガラス基板を得た。
Au担持多孔質酸化ジルコニウム膜の膜厚および質量を測定したところ、膜厚は109nm、基板面積に対する膜質量は0.082mg/cmであった。また、原子吸光で測定したところ、基板面積に対するAuの担持量は0.018mg/cmであった。Au担持酸化ジルコニウム膜を固定化したガラス基板をBET法による測定を実施したところ、多孔質酸化ジルコニア膜の比表面積、細孔容積、細孔径がそれぞれ148m/g、0.38g/cm、3.28nmであった。また、Auの粒径をTEMで観察したところ、2.5nmであった。
【0103】
[比較例2]
無機微粒子として、市販の酸化ジルコニウム微粒子(日本電工株式会社製、PCS)をメタノールに10.0質量%分散して、塩酸でpHを4.0に調整した後、ビーズミルにより平均粒子径20nmに粉砕分散した。その後、得られた分散溶液を用い、ガラス基板上にスピンコーターを用いて回転数3000rpmで成膜し、酸化ジルコニウム微粒子のみを固定化したガラス基板を得た。実施例1と同様の方法でAu担持酸化ジルコニウム微粒子膜を固定化したガラス基板を得た。尚、この膜は微粒子のみで構成されているためガラス基板との密着性が悪く、衝撃等を加えると膜は脱落してしまった。
Au担持酸化ジルコニウム膜の膜厚および質量を測定したところ、膜厚は156nm、基板面積に対する膜質量は0.106mg/cmであった。また、原子吸光で測定したところ、基板面積に対するAuの担持量は0.014mg/cmであった。Au担持酸化ジルコニウム膜を固定化したガラス基板をBET法による測定を実施したところ、酸化ジルコニウム膜の比表面積は10m/gであり、この酸化ジルコニウム膜はメソポーラス構造を有していないことが確認された。また、Auの粒径をTEMで観察したところ、2.5nmであった。
実施例1~6及び比較例1、2で得られた触媒体膜の特性を表1に示す。
【0104】
【表1】
【0105】
(CO除去試験)
有害成分として一酸化炭素(CO)を用い、実施例及び比較例の触媒体膜のCO酸化反応を評価した。具体的には、実施例及び比較例の触媒体膜を固定化したガラス基板を所定の流路幅および高さ(幅5cm、高さ1mm)となるように流路内に設置した試験装置を用意した。一酸化炭素(濃度1,000ppm)と空気を混合して被処理気体を調製し、流量をマスフローコントローラーで制御しながら、被処理気体を当該流路に供給し、CO除去試験を実施した。
【0106】
試験装置による処理前の被処理気体と処理後の被処理気体の分析は長光路(2.5m)のガスセルを装填した赤外分光光度計(FTIR-6000、日本分光株式会社製)を用いた。反応条件は一酸化炭素濃度1,000ppm、酸素濃度20%、相対湿度50%、ガス流量0.1L/min、触媒サイズ25cm2、反応温度は室温、処理時間1時間とした。
【0107】
上述した赤外分光光度計を用いて、試験装置に供給する前の被処理気体中のCO濃度(以下、「初期CO濃度」ともいう)と、試験装置で1時間処理した後の被処理気体中のCO濃度(以下、「反応後CO濃度」ともいう)を測定し、以下の式を用いてCO除去率を算出した。
CO除去率(%)={(初期CO濃度 - 反応後CO濃度)/初期CO濃度}×100
【0108】
(試験例1)
実施例1で得られたガラス基板を試験装置に設置し、CO除去試験を実施した。
(試験例2)
実施例2で得られたガラス基板を試験装置に設置し、試験例1と同様な方法でCO除去試験を実施した。
(試験例3)
実施例3で得られたガラス基板を試験装置に設置し、試験例1と同様な方法でCO除去試験を実施した。
(試験例4)
実施例4で得られたガラス基板を試験装置に設置し、試験例1と同様な方法でCO除去試験を実施した。
(試験例5)
実施例5で得られたガラス基板を試験装置に設置し、試験例1と同様な方法でCO除去試験を実施した。
(試験例6)
比較例1で得られたガラス基板を試験装置に設置し、試験例1と同様な方法でCO除去試験を実施した。
(試験例7)
比較例2で得られたガラス基板を試験装置に設置し、試験例1と同様な方法でCO除去試験を実施した。
【0109】
試験例1~7でのCO除去率を表2に示す。
【0110】
【表2】
【0111】
表1に示すように、実施例1~6の触媒体膜は比較例1および2の触媒体膜と比較して、単位面積あたりの膜質量および金粒子担持量が大きく、触媒粒子を多く担持していることが確認できた。
また、表2に示すように、実施例1~5の触媒体膜を用いた試験例1~5はCO除去率がいずれも30%以上となった、一方、比較例1、2の試験例6~7はCO除去率が4%以下であった。これらの結果から実施例1~5の多孔質触媒体膜は比較例1および2の触媒体膜と比較して優れた触媒活性を有することが確認された。以上の結果から、本発明の有効性が示された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7