(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-25
(45)【発行日】2022-05-09
(54)【発明の名称】ピボットアッシー軸受装置
(51)【国際特許分類】
F16C 33/78 20060101AFI20220426BHJP
F16C 33/80 20060101ALI20220426BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20220426BHJP
F16J 15/453 20060101ALI20220426BHJP
【FI】
F16C33/78 Z
F16C33/80
F16C19/06
F16J15/453
(21)【出願番号】P 2017225992
(22)【出願日】2017-11-24
【審査請求日】2020-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】特許業務法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】金子 淳
(72)【発明者】
【氏名】大沼 慎也
(72)【発明者】
【氏名】土屋 邦博
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第08553366(US,B1)
【文献】米国特許第09245546(US,B1)
【文献】特開2005-076660(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/78-33/80
F16C 19/06
F16C 33/58
F16J 15/453
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトに固定された転がり軸受を含むピボットアッシー軸受装置であって、
前記転がり軸受の軸方向外側に、前記転がり軸受の端面の少なくとも一部と軸方向に重なる環状のシール面が設けられ、
該シール面と、前記シャフトの外周面の、前記転がり軸受よりも軸方向外側に位置する部位とのうち、少なくとも前記シャフトの外周面に、環状に撥油膜が形成されていることを特徴とするピボットアッシー軸受装置。
【請求項2】
シャフトに固定された転がり軸受を含むピボットアッシー軸受装置であって、
前記転がり軸受の軸方向外側に、前記転がり軸受の端面の少なくとも一部と軸方向に重なる環状のシール面が設けられ、
該シール面と、前記シャフトの外周面の、前記転がり軸受よりも軸方向外側に位置する部位との、少なくとも一方に、環状に撥油膜が形成され、
周囲の部位より窪んだ環状の段差部或いは溝に前記撥油膜が形成されていることを特徴とするピボットアッシー軸受装置。
【請求項3】
前記シール面は、前記シャフトの外周面に固定された環状シール板の、前記転がり軸受側の面および/またはその反対側の面により形成されることを特徴とする請求項1又は2記載のピボットアッシー軸受装置。
【請求項4】
前記転がり軸受の外輪がハウジングに固定されており、
前記シール面は、前記シャフトの外周面又は前記ハウジングの内周面に固定された環状シール板の、前記転がり軸受側の面および/またはその反対側の面により形成されることを特徴とする請求項1又は2記載のピボットアッシー軸受装置。
【請求項5】
前記撥油膜が、前記環状シール板の前記転がり軸受側の面とその反対側の面との、少なくとも一方に形成されることを特徴とする請求項
3又は4記載のピボットアッシー軸受装置。
【請求項6】
前記環状シール板は軸方向に間隔を開けて2枚以上設けられ、前記シャフトの外周面と前記ハウジングの内周面とに交互に固定されることを特徴とする請求項
4記載のピボットアッシー軸受装置。
【請求項7】
前記撥油膜が、2枚以上の前記環状シール板の前記転がり軸受側の面とその反対側の面とにより形成される複数の前記シール面のうち、少なくとも1つに形成されることを特徴とする請求項
6記載のピボットアッシー軸受装置。
【請求項8】
前記シール面は、前記シャフトの軸方向一端側に設けられたフランジ部の、前記転がり軸受に対向する面により形成されることを特徴とする請求項1又は2記載のピボットアッシー軸受装置。
【請求項9】
周囲の部位より窪んだ環状の段差部或いは溝に前記撥油膜が形成されていることを特徴とする請求項
1記載のピボットアッシー軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードディスクドライブのスイングアーム等に用いられるピボットアッシー軸受装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブ(HDD)のスイングアーム等に用いられるピボットアッシー軸受装置は、通常、シャフトに一対の転がり軸受が挿入されて構成されている。これらの転がり軸受にはグリースが封入されており、グリースは、基油と増ちょう剤とを混合して、半固体状とした潤滑剤である。ピボットアッシー軸受装置用のグリースとしては、例えば、ポリアルファオレインや鉱油などの炭化水素系基油と、増ちょう剤としてジウレア化合物とを含むウレア系グリースが使用される。近年、HDDはソリッドステートドライブ(SSD)に対する優位性を保つために大容量化が進み、ますます高密度化が要求されている。このため、従来に比べ磁気ヘッドと磁気ディスクとの間の隙間が更に小さくなり、HDDのヘッド部へのオイル付着が問題となっている。このオイル付着は、ピボットアッシー軸受装置の転がり軸受に封入されているグリースの基油が、金属面を伝わって外部へ滲みだすことに起因するものと考えられている。従って、グリースの基油が外部へ滲み出すことを抑制できるピボットアッシー軸受装置が望まれており、そのような発明も多くなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、HDDのアクチュエータを支持する転がり軸受として、内輪と外輪との間に玉が配設され、外輪に取り付けられたシールドが内輪のシール面(外周面)に対向し、外輪と内輪とシールドとで構成された軸受内部に潤滑剤が入れられ、シール面とシールドのシール面への対向面(シールドの内径側端面)とに撥油剤が付着された、揺動運動用転がり軸受が開示されている。これにより、軸受内部の潤滑剤としてグリースを用いても、グリースが撥油剤にはじかれて軸受外へ滲み出ないとされている。
一方、特許文献2には、転がり軸受の軌道面に潤滑油が塗布され、軸の外側面及びハウジングの内側面に転がり軸受の内輪及び外輪が圧入された、スイングアーム用転がり軸受装置において、ハウジング端部の内周面に撥油剤を塗布することが開示されている。この撥油剤により、転がり軸受のシールと内輪との間の隙間や、シールと外輪との固着部の微小な隙間から滲み出る潤滑油が、撥油剤にはじかれて、軸受装置から外部への潤滑油の漏れが抑制できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-62972号公報
【文献】特開平11-190353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、上述したような従来のピボットアッシー軸受装置では、転がり軸受の内輪及びシールド(シール板)や、転がり軸受を組み込んだハウジング端部の内側面に撥油剤を塗布していた。しかしながら、ピボットアッシー軸受装置に用いられるような極小玉軸受の内輪とシール板とに対して、撥油剤を塗布するのは困難である。すなわち、撥油剤は低粘度のため、塗布後、乾燥して撥油膜を形成するまでの間に、塗布領域以外にも広がってしまう。このため、極小玉軸受のシール板の内径側端面や内輪の外周面に対し、極小幅の撥油膜を形成するのは、部品寸法が小さくて難しい。又、シール板の内径側端面や内輪の外周面に形成された撥油膜は剥離しやすいので、部品段階で撥油膜を形成したとしても、玉軸受を組み立てる際に他の部材と擦れて、撥油膜が部分的に剥がれてしまう虞がある。そうすると、撥油膜の不良だけではなく、剥がれた撥油膜が軸受内部を汚染して、玉軸受の性能に悪影響を及ぼすことになる。これらの理由により、転がり軸受に撥油剤を塗布したピボットアッシー軸受装置は、実用化に至っていない。
【0006】
一方、転がり軸受を固定したハウジング端部の内周面に撥油剤を塗布して、撥油膜を形成する方法も困難である。すなわち、ハウジングに転がり軸受を組み付ける前に撥油膜を形成すると、転がり軸受を組み付ける際に撥油膜と転がり軸受の外周面とが擦れて、撥油膜が剥離してしまう。更に、ハウジングに転がり軸受を固定した後では、低粘度の撥油剤が垂れてしまい、軸受内に侵入したり、ハウジングの外周面に付着したりする虞がある。軸受内に侵入して乾燥した撥油剤は異物であり、転がり軸受を汚染してしまう。又、ハウジングの外周面に付着して乾燥した撥油剤は、ハウジングをスイングアームに接着固定する際に接着不良を引き起こしてしまう。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、グリースの外部への滲み出しを抑制しながら、容易に製造可能なピボットアッシー軸受装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(発明の態様)
以下の発明の態様は、本発明の構成を例示するものであり、本発明の多様な構成の理解を容易にするために、項別けして説明するものである。各項は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、発明を実施するための最良の形態を参酌しつつ、各項の構成要素の一部を置換し、削除し、又は、更に他の構成要素を付加したものについても、本願発明の技術的範囲に含まれ得るものである。
【0009】
(1)本発明の第一の実施例に係るピボットアッシー軸受装置は、シャフトに固定された転がり軸受を含むものであり、転がり軸受の軸方向外側に、半径方向に延在する環状のシール面が設けられている。このシール面は、転がり軸受の軸方向端面の少なくとも一部と軸方向に重なるように設けられている。これにより、転がり軸受の軸方向外側に、転がり軸受の軸方向端面とシール面との間の隙間や、シール面を含む部材の内周面または外周面とそれに対向する面(シャフトの外周面等)との間の隙間等によって、ラビリンスシールが形成される。更に、本実施例に係るピボットアッシー軸受装置は、上記のようなシール面と、シャフトの外周面の、転がり軸受よりも軸方向外側に位置する部位との、少なくとも一方に、環状に撥油膜が形成されるものである。
【0010】
ここで、転がり軸受には潤滑剤としてのグリースが封入されており、このグリースを構成する基油が、ラビリンスシールを通過して滲み出してしまう現象について検討する。すると、その滲み出しの経路は、転がり軸受よりも軸方向外側の位置において、ラビリンスシールを形成する隙間を画定している、シール面やシャフトの外周面等を伝わるものであると考えられる。そこで、本実施例に係るピボットアッシー軸受装置は、上述したように、転がり軸受の軸方向外側に設けられるシール面と、転がり軸受よりも軸方向外側に位置するシャフト外周面の部位との、少なくとも一方に、環状に撥油膜が形成されていることで、グリースの基油が伝わる経路上に、油分をはじく撥油膜を有することになる。このため、グリースの基油の滲み出しが抑制されるものとなる。
【0011】
しかも、本実施例に係るピボットアッシー軸受装置は、従来のピボットアッシー軸受装置と異なり、撥油膜の形成が容易なものである。すなわち、撥油膜が環状のシール面に設けられる場合は、シール面が水平の状態にされて撥油剤が塗布されることで、撥油剤が垂れることが防止される。一方、撥油膜がシャフトの外周面に設けられる場合は、例えば、撥油膜と転がり軸受との間に位置するシャフトの外周面から、半径方向に延在するシール面を含む構成とすることで、シャフトの外周面に塗布された撥油剤は、万が一垂れてしまっても、上記のようなシール面で止まることになるため、転がり軸受の内部を汚染することがない。このように、撥油剤が問題なく塗布され、撥油膜が容易に形成されるため、ピボットアッシー軸受装置全体が容易に製造されるものである。
【0012】
(2)上記(1)項に記載のピボットアッシー軸受装置において、前記シール面は、前記シャフトの外周面に固定された環状シール板の、前記転がり軸受側の面とその反対側の面との各々により形成されていてもよい。この場合、環状シール板は、シャフトの外周面から半径方向に延在しており、転がり軸受側の面とその反対側の面との、2つの主面の各々が、シール面を形成している。このため、転がり軸受の軸方向外側に、転がり軸受の軸方向端面と環状シール板の転がり軸受側の面(シール面)との間の隙間や、環状シール板の外周面とそれに対向する部材との間の隙間等によって、ラビリンスシールが形成される。又、撥油膜がシャフトの外周面に設けられる場合は、環状シール板よりも軸方向外側の位置に撥油膜が設けられることが好ましい。本実施例に係るピボットアッシー軸受装置は、上記のような具体化された構成においても、グリースの外部への滲み出しを抑制しながら、製造の容易化を実現するものである。
【0013】
(3)上記(1)項に記載のピボットアッシー軸受装置において、前記転がり軸受の外輪がハウジングに固定され、前記シール面が、前記シャフトの外周面又は前記ハウジングの内周面に固定された環状シール板の、前記転がり軸受側の面とその反対側の面との各々により形成されていてもよい。この場合、環状シール板は、ハウジングの内周面或いはシャフトの外周面から半径方向に延在しており、転がり軸受側の面とその反対側の面との、2つの主面の各々が、シール面を形成している。このため、転がり軸受の軸方向外側に、転がり軸受の軸方向端面と環状シール板の転がり軸受側の面(シール面)との間の隙間や、環状シール板の周面(内周面又は外周面)とシャフトの外周面又はハウジングの内周面との間の隙間等によって、ラビリンスシールが形成される。又、撥油膜がシャフトの外周面に設けられる場合は、環状シール板よりも軸方向外側の位置に撥油膜が設けられることが好ましい。本実施例に係るピボットアッシー軸受装置は、上記のようなより具体化された構成においても、グリースの外部への滲み出しを抑制しながら、製造の容易化を実現するものである。
【0014】
(4)上記(2)(3)項に記載のピボットアッシー軸受装置において、前記撥油膜は、前記環状シール板の前記転がり軸受側の面とその反対側の面との、少なくとも一方に形成されていてもよい。この場合、上記(2)(3)項に記載したようにシール面を形成する、環状シール板の2つの主面(転がり軸受側の面及びその反対側の面)の少なくとも一方に、撥油膜が形成されていればよい。ここで、環状シール板の転がり軸受側の面に撥油膜が形成される場合は、環状シール板がシャフト或いはハウジングに取り付けられる前に撥油膜を形成することが好ましい。そうすれば、環状シール板の取り付け時には撥油膜が軸方向内側(転がり軸受側)を向くため、撥油膜が治具等と接触して剥離する心配がない。又、環状シール板の転がり軸受側の面とは反対側の面に撥油膜が形成される場合は、環状シール板がシャフト或いはハウジングに取り付けられた後に撥油膜を形成することが好ましい。そうすれば、塗布面が軸方向外側を向いているため、撥油剤が容易に塗布される。このように、環状シール板の2つの主面の、何れの面に撥油膜を形成する場合であっても、撥油膜を容易に形成することができる。
【0015】
ここで、本構成において、転がり軸受に封入されたグリースを構成する基油が、ラビリンスシールを通過して滲み出してしまう現象について検討すると、環状シール板において、転がり軸受側の面から内周面または外周面を通って、転がり軸受側とは反対側の面へと伝わっていく、滲み出し経路が考えられる。このため、環状シール板の2つの主面の双方に撥油膜が形成される場合は、グリースの基油が滲み出す経路の途中の2箇所に、撥油膜が形成されることになる。これにより、グリースの基油をはじく撥油膜が2重に形成されるため、グリースの基油の滲み出しがより効果的に抑制されることとなる。更に、シャフトの外周面に撥油膜が形成される場合は、その撥油膜の形成位置よりも転がり軸受側の軸方向位置において、シャフトの外周面に環状シール板が固定され、その環状シール板の2つの主面の一方又は双方にも、撥油膜が形成されることが好ましい。この場合は、環状シール板の転がり軸受側の面から反対側の面に伝わり、そこから更にシャフトの外周面に伝わるグリースの基油の滲み出し経路上に、撥油膜が少なくとも2箇所に存在する。このため、このような構成によっても、グリースの基油の滲み出しがより効果的に抑制されることとなる。
【0016】
(5)上記(3)項に記載のピボットアッシー軸受装置において、前記環状シール板は、前記シャフトの外周面と前記ハウジングの内周面とに交互に固定される態様で、軸方向に間隔を空けて2枚以上設けられていてもよい。この場合、2枚以上の環状シール板それぞれの、転がり軸受側の面とその反対側の面とによって複数のシール面が形成されることになる。
【0017】
そして、転がり軸受に最も近い環状シール板における転がり軸受側の面(シール面)と転がり軸受の軸方向端面との間の隙間、転がり軸受に最も近い環状シール板の周面とシャフトの外周面又はハウジングの内周面との間の隙間、転がり軸受に最も近い環状シール板と転がり軸受に2番目に近い環状シール板との間の隙間、及び、転がり軸受に2番目に近い環状シール板の周面とシャフトの外周面又はハウジングの内周面との間の隙間によって、ラビリンスシールが形成される。又、撥油膜がシャフトの外周面に設けられる場合は、シャフトの外周面に固定された環状シール板よりも軸方向外側の位置に設けられることになる。本実施例に係るピボットアッシー軸受装置は、複数枚の環状シール板を備えた上記のような構成においても、グリースの外部への滲み出しを抑制しながら製造の容易化を実現するものである。
【0018】
(6)上記(5)項に記載のピボットアッシー軸受装置において、前記撥油膜は、2枚以上の前記環状シール板の前記転がり軸受側の面とその反対側の面とにより形成される複数の前記シール面のうち、少なくとも1つに形成されていてもよい。ここで、上記(4)項に記載したのと同じ理由で、何れかの環状シール板の転がり軸受側の面に撥油膜が形成される場合は、環状シール板がシャフト或いはハウジングに取り付けられる前に撥油膜が形成されることが好ましく、更に、何れかの環状シール板の転がり軸受側とは反対側の面に撥油膜が形成される場合は、環状シール板がシャフト或いはハウジングに取り付けられた後に撥油膜を形成することが好ましい。このような方法で、転がり軸受に近い方の環状シール板から順に撥油膜を形成していけばよい。このように、何れのシール面に撥油膜が形成される場合であっても、撥油膜を容易に形成することができる。
【0019】
本構成のラビリンスシールは、上記(5)項に記載したような複数の隙間により形成されている。そこで、各隙間を画定している面を通るグリースの基油の滲み出し経路を特定し、各経路上の少なくとも1箇所に撥油膜が形成されるように、複数のシール面とシャフトの外周面との中から、適切な位置を選択して撥油膜を形成すればよい。これにより、滲み出しの経路に応じた適切な位置に撥油膜が形成され、グリースの基油の滲み出しが効率よく抑制されるものとなる。しかも、特定された経路上の2箇所以上に撥油膜が形成されるように撥油膜の形成位置を選択すれば、グリースの基油の滲み出しがより効果的に抑制されることとなる。
【0020】
(7)上記(1)項に記載のピボットアッシー軸受装置において、前記シール面は、前記シャフトの軸方向一端側に設けられたフランジ部の、前記転がり軸受に対向する面により形成されていてもよい。シャフトの軸方向一端側に設けられたフランジ部は、シャフトの他の部位の外周面よりも半径方向外側に突出して延在している。このようなフランジ部の、転がり軸受に対向する面によって、上記(1)項に記載したシール面が形成される。
【0021】
このため、転がり軸受の軸方向外側に、転がり軸受の軸方向端面とフランジ部の転がり軸受に対向する面(シール面)との間の隙間によって、ラビリンスシールが形成される。従って、フランジ部のシール面に撥油膜が形成されると、グリースの基油が滲み出す経路上に撥油膜が存在することになる。この撥油膜は、転がり軸受に対向するシール面に設けられるため、シャフトに転がり軸受が取り付けられるよりも前に形成する必要があるが、取り付け後の転がり軸受の端面とシール面との間には隙間があるので、フランジ部に形成された撥油膜に転がり軸受が接触することはない。したがって、撥油膜が剥離することなく転がり軸受が取り付けられる。このように、シャフトのフランジ部によってシール面が形成される構成であっても、グリースの外部への滲み出しを抑制しながら、製造の容易化を実現するものである。
【0022】
(8)上記(1)から(7)項に記載のピボットアッシー軸受装置において、前記撥油膜は、周囲の部位より窪んでいる環状の段差部或いは環状の溝に形成されていてもよい。本実施例に係るピボットアッシー軸受装置は、シール面或いはシャフトの外周面に環状の段差部或いは溝が設けられ、周囲の部位より窪んでいる環状の段差部或いは環状の溝に撥油膜が形成されるものである。これにより、塗布された撥油剤が意図しない箇所にまで広がってしまうことが防止されるため、撥油膜が意図した箇所に容易に形成されるものとなる。更に、段差部や溝の深さは、そこに形成される撥油膜の膜厚よりも大きい方が好ましい。これによって、撥油膜が周囲の面よりも低い位置に形成されるため、組み立て中に他の部品や治具と接触して撥油膜が剥離することが防止され、撥油膜の形成がより容易になる。なお、上記(4)項に記載したように、環状シール板の2つの主面の双方に撥油膜が設けられる場合は、撥油膜が設けられる位置、すなわち、段差部或いは溝が設けられる位置を、2つの主面間で半径方向にずらすことが好ましい。段差部或いは溝が両方の主面で半径方向に同じ位置に形成されると、段差部或いは溝の深さの2倍だけ環状シール板の厚さが小さくなるので剛性が不足する場合がある。そのような剛性不足を避けるために、段差部或いは溝が両方の主面で重なる位置で十分な厚さを確保するようにすると、それ以外の部分が不必要に厚くなってしまう。段差部或いは溝が設けられる位置を、2つの主面間で半径方向にずらすことで、環状シール板の剛性不足が防止され、環状シール板の肉厚の増大が抑制されるものとなる。
【0023】
(9)上記(1)から(7)項に記載のピボットアッシー軸受装置において、前記シール面に環状の段差部或いは溝が形成されていてもよい。この段差部或いは溝は、例えば、シール面に1つのみ設けられていてもよく、シール面の半径方向に離間して複数設けられていてもよい。そして、シール面に撥油膜が形成される場合は、段差部において周囲の部位より窪んでいる面或いは溝の底面とその周囲の部位とにわたって撥油膜が形成されてもよく、更に複数の段差部或いは溝にわたって撥油膜が形成されてもよい。このような場合であっても、シール面が水平にされた状態で撥油剤が塗布されることで、撥油膜が容易に形成されるものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明は上記のような構成であるため、グリースの外部への滲み出しを抑制しながら、容易に製造可能なピボットアッシー軸受装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係るピボットアッシー軸受装置の構成を示す縦断面図である。
【
図2】(a)は
図1の符号Aで示す部分の拡大図であり、(b)は
図1の符号Bで示す部分の拡大図である。
【
図3】本発明の第1の実施の形態に係るピボットアッシー軸受装置の変形例を示しており、(a)は
図1の符号Aで示す部分に対応する部分の拡大図であり、(b)は
図1の符号Bで示す部分に対応する部分の拡大図である。
【
図4】本発明の第2の実施の形態に係るピボットアッシー軸受装置の構成を示す縦断面図である。
【
図5】(a)は
図4の符号Cで示す部分の拡大図であり、(b)は
図4の符号Dで示す部分の拡大図である。
【
図6】本発明の第3の実施の形態に係るピボットアッシー軸受装置の構成を示す縦断面図である。
【
図7】(a)は
図6の符号Eで示す部分の拡大図であり、(b)は
図6の符号Fで示す部分の拡大図である。
【
図8】本発明の第4の実施の形態に係るピボットアッシー軸受装置の構成を示す縦断面図である。
【
図9】典型的なハードディスクドライブの構成を示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面に基づき説明する。なお、図面の全体にわたって、同一部分又は対応する部分は、同一符号で示している。また、転がり軸受として玉軸受を用いた例を示している。以下の説明において、位置関係および向きが「上」、「下」、「左」、「右」を用いて記載される場合には、それらは図面における方向、向きを示すものとする。また、「軸方向」とは転がり軸受の回転軸に平行な方向であり、「径方向」または「半径方向」とは回転軸に垂直な方向である。
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るピボットアッシー軸受装置10の構成を概略的に示している。図示のように、ピボットアッシー軸受装置10は、シャフト12とハウジング16との間に一対で配置される玉軸受20を有する。玉軸受20は、シャフト12の外周面12aに固定される内輪22と、ハウジング16の内周面16aに固定される外輪24と、内輪22と外輪24との間に設けられて複数個の玉26を保持する環状の保持器28とを有する。
【0027】
シャフト12は、軸方向一端側(下端側)にフランジ部14を有する中空軸であり、フランジ部14の玉軸受20に対向する面14aの内周側には、下側に配置された玉軸受20の内輪22の下端面が当接する。これにより、下側の玉軸受20の内輪22は、シャフト12に対して軸方向に位置決めされる。又、ハウジング16の内周面16aには、各玉軸受20の外輪24が嵌合される一対の外輪嵌合部16bが形成されている。一対の外輪嵌合部16bの間にはスペーサ部16dが形成されている。そして、一対の玉軸受20の各外輪24は、対応する各外輪嵌合部16bに嵌合されてスペーサ部16dに当接している。これにより、一対の玉軸受20は、ハウジング16に対して軸方向へ位置決めされ、一対の玉軸受20間の軸方向距離が予め定められた距離に設定される。
【0028】
なお、ハウジング16の外輪嵌合部16bの直径は、玉軸受20の外輪24の外径よりも僅かに大きく設定される。又、シャフト12のフランジ部14の外径は、ハウジング16の外輪嵌合部16bの直径よりも小さく、かつ、玉軸受20の外輪24の内径よりも大きく設定される。更に、フランジ部14の玉軸受20に対向する面14aの外周側には、下側に配置された玉軸受20の外輪24との接触を避けるための、環状の段差部14bが形成されている。又、ピボットアッシー軸受装置10は、図示のように、上側に配置された玉軸受20の軸方向外側(上側)に、2つの環状シール板32(32A、32B)を備えている。
【0029】
ここで、
図2(a)を参照すると、玉軸受20に近い下側に設置された環状シール板32Aは、玉軸受20から上方向へ僅かに離れた軸方向位置で、シャフト12の外周面12aに取り付けられている。そして、環状シール板32Aは、シャフト12の外周面12aから半径方向外側へ延在して、その外周面38Aとハウジング16の内周面16aとの間に僅かな隙間ができる位置まで延びている。一方、玉軸受20から離れた上側に設置された環状シール板32Bは、環状シール板32Aから上方向へ僅かに離れた軸方向位置で、ハウジング16の内周面16aに取り付けられている。そして、環状シール板32Bは、ハウジング16の内周面16aから半径方向内側へ延在して、その内周面38Bとシャフト12の外周面12aとの間に僅かな隙間ができる位置まで延びている。又、2つの環状シール板32A、32Bの各々は、2つの主面として、玉軸受20側の面34とその反対側の面36とを有しており、それらの各面34、36がシール面30を形成している。
【0030】
上記のような構成により、玉軸受20の軸方向外側(上側)には、以下のような連続した複数の隙間が形成される。すなわち、玉軸受20の上端面と環状シール板32Aの玉軸受20側の面34(シール面30)との間の隙間、環状シール板32Aの外周面38Aとハウジング16の内周面16aとの間の隙間、環状シール板32Aの面34に対して反対側の面36(シール面30)と環状シール板32Bの玉軸受20側の面34との間の隙間、及び、環状シール板32Bの内周面38Bとシャフト12の外周面12aとの間の隙間である。そして、これらの隙間によって、玉軸受20の軸方向外側に、ラビリンスシールが形成される。
【0031】
又、ピボットアッシー軸受装置10は、
図2(a)に示すように、玉軸受20の軸方向外側の複数個所に、環状に撥油膜40が形成されている。具体的には、環状シール板32Aの面36のシャフト12側(左側)に位置する環状範囲に撥油膜40Aが形成され、シャフト12の外周面12aの、環状シール板32Aよりも軸方向外側の環状範囲に撥油膜40Bが形成されている。更に、環状シール板32Bの面34とその反対側の面36とのそれぞれの半径方向中央近傍の環状範囲に、撥油膜40C及び40Dが形成されている。これらの撥油膜40は、上述したような各隙間の大きさ(隙間を画定する平面間の距離)よりも、小さい膜厚で形成される。撥油膜は撥油剤をノズルなどで塗布して乾燥させることによって形成することができる。撥油膜が形成された表面は油分をはじくので、油分が表面を伝わって濡れ拡散することを防止する。したがって、油分をはじく性能を発揮するものであれば、その成分は特に限定されないが、撥油剤としては、例えばフッ素系界面活性剤,フッ素系シランカップリング剤,フッ素系ポリマーなどのフッ素系化合物を含むものがあげられる。また、撥油剤は、着色剤又は紫外線発色剤を含有していてもよい。この場合、撥油膜の目視確認が容易になるので好都合である。なお、
図2(a)に図示されている破線矢印R1、R2については後述する。
【0032】
他方、
図2(b)には、
図1における下側に配置された玉軸受20の軸方向外側近傍が拡大して示されている。上述したように、この玉軸受20の軸方向外側(下側)に位置する、フランジ部14の玉軸受20に対向する面14aには、玉軸受20の外輪24との接触を避けるために、玉軸受20と接触する部分よりも薄肉となっている環状の段差部14bが形成されている。そして、この玉軸受20に対向する面14aの一部である段差部14bが、シール面30を形成している。又、シャフト12のフランジ部14の外径は、上述したように、ハウジング16の外輪嵌合部16bの直径よりも小さく設定されており、フランジ部14の外周面14cは、外輪嵌合部16bから連続しているハウジング16の内周面16aよりも左側に位置している。
【0033】
上記のような構成により、玉軸受20の軸方向外側(下側)には、以下のような連続した複数の隙間が形成される。すなわち、玉軸受20の下端面とフランジ部14の段差部14b(シール面30)との間の隙間、及び、フランジ部14の外周面14cとハウジング16の内周面16aとの間の隙間である。そして、これらの連続する隙間によって、玉軸受20の軸方向外側にラビリンスシールが形成される。更に、ピボットアッシー軸受装置10は、
図2(b)に図示されているように、玉軸受20の軸方向外側の複数個所にも環状の撥油膜40を有している。具体的には、フランジ部14の段差部14bに相当する環状範囲内に撥油膜40Eが形成され、ハウジング16の内周面16aの一部である、玉軸受20よりも軸方向外側の環状範囲内に撥油膜40Fが形成されている。これらの撥油膜40は、
図2(a)に示した撥油膜40と同様に、上述した各隙間の幅(隙間を画定する平面間の距離)よりも小さい膜厚で形成され、又、油分をはじく性能を発揮するものであれば、その成分等が特に限定されないものである。
【0034】
次に、
図3を参照しながら、本発明の第1の実施の形態に係るピボットアッシー軸受装置10の変形例について説明する。
図3(a)及び(b)は、それぞれ
図2(a)及び(b)に対応する部分を図示しており、ここでは、変形例において変更された部分のみについて説明することとする。
図3(a)及び(b)に示すように、ピボットアッシー軸受装置10の変形例は、撥油膜を形成する面に、周囲の部位より窪んだ環状の段差部42或いは溝44を設けて撥油膜40を形成したものである。具体的には、
図3(a)に示すように、環状シール板32Aの玉軸受20と対向する面34(シール面30)に対して反対側の面36(シール面30)の、環状の段差部42Aに撥油膜40Aが形成され、シャフト12の外周面12aの、環状の段差部42Bに撥油膜40Bが形成されている。更に、環状シール板32Bの面34の、環状の溝44Aに撥油膜40Cが形成され、環状シール板32Bの面36の、環状の段差部42Cに撥油膜40Dが形成されている。
【0035】
ここで、
図3(a)に示す撥油膜40Dは、
図2(a)に示した撥油膜40Dと異なる位置に形成されている。すなわち、両者を比較すると明らかなように、
図3(a)において、撥油膜40C、40Dに対応する位置に設けられた溝44A及び段差部42Cは、環状シール板32Bの軸方向(上下方向)に互いに重ならない位置に設けられている。そして、撥油膜40Dは、
図2(a)の撥油膜40Dよりも、環状シール板32Bの内周側(左側)の位置に形成されている。これにより、環状シール板32Bの面34、36に形成される撥油膜40C、40Dは、環状シール板32Bの半径方向(左右方向)に沿って互いに異なる位置に形成されている。
【0036】
又、
図3(b)に示すように、シャフト12のフランジ部14の近傍では、ハウジング16の内周面16aの、環状の溝44Bが設けられている部位に撥油膜40Fが形成されている。上述した段差部42A~42C及び溝44A、44Bの各々は、そこに形成される撥油膜40の膜厚よりも大きい深さに形成されている。なお、撥油膜40Eについては、
図2(b)に示した形態において、フランジ部14の段差部14bに形成されているため、
図3(b)に示す本変形例において特に変更はない。
【0037】
続いて、
図4~
図8を参照して、本発明の第2~第4の実施の形態に係るピボットアッシー軸受装置10’、10”、10'''について説明する。
図4~
図8において、本発明の第1の実施の形態に係るピボットアッシー軸受装置10と同一部分、若しくは相当する部分については、同一の符号を付している。なお、本発明の第2~第4の実施の形態に係るピボットアッシー軸受装置10’、ピボットアッシー軸受装置10”およびピボットアッシー軸受装置10'''のそれぞれについて、本発明の第1の実施の形態に係るピボットアッシー軸受装置10との相違部分のみ説明をすることとし、本発明の第1の実施の形態に係るピボットアッシー軸受装置10と同様の部分の構成等については、説明を省略する。
【0038】
図4に示すように、本発明の第2の実施の形態に係るピボットアッシー軸受装置10’のシャフト12は、軸方向一端側(下端側)にフランジ部14を有する中空軸であり、フランジ部14は、半径方向に延在した円盤部60と、円盤部60の外縁から玉軸受20の半径方向外側を覆うように、軸方向(上方向)に延在した円筒部62とを有している。円盤部60と円筒部62によって軸方向に窪んだ凹部が形成され、この凹部の内側に玉軸受20の一端部が収まっている。そして、円盤部60の玉軸受20に対向する面60aの内周側には、下側に配置された玉軸受20の内輪22の下端面が当接する。これにより、下側の玉軸受20の内輪22は、シャフト12に対して軸方向に位置決めされる。更に、円盤部60の玉軸受20に対向する面60aの外周側には、下側に配置された玉軸受20の外輪24との接触を避けるための、環状の段差部60bが形成されている。
【0039】
又、ピボットアッシー軸受装置10’は、図示のように、上側に配置された玉軸受20の軸方向外側(上側)に、環状シール板32C(32)を備えている。環状シール板32Cは、シャフト12とハウジング16との間の隙間を閉塞するために配設され、その外周面がハウジング16の内周面16aに接着等の手段で固着される。
【0040】
ここで、
図5(a)には、
図4における下側に配置された玉軸受20の、軸方向外側近傍部Cが拡大して示されている。上述したように、円盤部60の玉軸受20に対向する面60aに環状の段差部60bが形成されている。そして、この段差部60bがシール面30を形成している。又、円筒部62の内径は、玉軸受20の外輪24の外径より僅かに大きく設定されており、円筒部62の内周面62aは、玉軸受20の外輪24の外周面24aよりも右側に位置している。更に、円筒部62の軸方向端面62bは、ハウジング16の軸方向端面16cより下側に位置している。
【0041】
上記のような構成により、玉軸受20の軸方向外側(下側)近傍には、以下のような連続した複数の隙間が形成される。すなわち、玉軸受20の下端面と円盤部60の段差部60bとの間の隙間、玉軸受20の外輪24の外周面24aと円筒部62の内周面62aとの間の隙間、及び、ハウジング16の軸方向端面16cと円筒部62の軸方向端面62bとの間の隙間である。そして、これらの隙間によって、玉軸受20の軸方向外側近傍にラビリンスシールが形成される。更に、ピボットアッシー軸受装置10’は、
図5(a)に示すように、玉軸受20の軸方向外側近傍の複数個所に、環状に撥油膜40が形成されている。具体的には、円盤部60の段差部60b(シール面30)に、玉軸受20の端面に対向する環状の撥油膜40Gが形成され、円筒部62の内周面62aに、玉軸受20の外周面に対向する環状の撥油膜40Hが形成されている。
【0042】
他方、
図5(b)には、
図4における上側に配置された玉軸受20の、軸方向外側近傍部Dが拡大して示されている。環状シール板32Cは、上述したようにハウジング16の内周面16aに固定され、ハウジング16の内周面16aから半径方向内側(左方向)へ延在している。又、環状シール板32Cは、半径方向に延在する2つの主面として、玉軸受20側の面34とその反対側の面36とを有しており、それらの各面34、36がシール面30を形成している。玉軸受20側の面34の外周側(右側)には、玉軸受20の外輪24の上端面が当接している。一方、玉軸受20の上端面の外輪24以外の部分は、面34から僅かに離れている。又、環状シール板32Cの内径は、シャフト12の外径より僅かに大きく設定されており、環状シール板32Cの内周面38は、シャフト12の外周面12aよりも右側に位置している。
【0043】
上記のような構成により、玉軸受20の軸方向外側(上側)には、以下のような連続した複数の隙間が形成される。すなわち、玉軸受20の上端面と環状シール板32Cの面34(シール面30)との間の隙間、及び、環状シール板32Cの内周面38とシャフト12の外周面12aとの間の隙間である。そして、これらの隙間によって、玉軸受20の軸方向外側にラビリンスシールが形成される。又、ピボットアッシー軸受装置10’は、
図5(b)に図示されている玉軸受20の軸方向外側の複数個所にも環状に撥油膜40が形成されている。具体的には、面34と、その反対側の面36(シール面30)とのそれぞれの、左右方向の中央近傍に、撥油膜40I及び40Kが環状に形成されている。更に、シャフト12の外周面12aの、玉軸受20よりも軸方向外側の部分、すなわち、環状シール板32Cの内周面38と対向している部分に、撥油膜40Jが環状に形成されている。
【0044】
次に、
図6及び
図7を参照して、本発明の第3の実施の形態に係るピボットアッシー軸受装置10”について説明する。
図6に示すように、ピボットアッシー軸受装置10”のシャフト12は、軸方向一端側(下端側)にフランジ部14を有する中空軸であり、フランジ部14の玉軸受20に対向する面14aの内周側には、下側に配置された玉軸受20の内輪22の下端面が当接する。更に、フランジ部14の玉軸受20に対向する面14aの外周側には、下側に配置された玉軸受20の外輪24との接触を避けるための、環状の段差部14bが形成されている。
【0045】
又、ピボットアッシー軸受装置10”は、上側に配置された玉軸受20の軸方向外側(上側)に、一枚の環状シール板32D(32)を備えている。環状シール板32Dは、シャフト12とハウジング16との間の隙間を閉塞するために配設され、その内周面がシャフト12の外周面12aに接着等の手段で固着される。
【0046】
図7(a)を参照すると、上述したように、
図6におけるフランジ部14の玉軸受20に対向する面14aには、玉軸受20の外輪24との接触を避けるための、環状の段差部14bが形成されている。そして、この段差部14bが、シール面30を形成している。又、シャフト12のフランジ部14の外径は、ハウジング16の外輪嵌合部16bの直径と比較して、僅かに小さく設定されている。ハウジング16の内周面16aの、外輪嵌合部16bより下側の位置には、環状の段差部42Dが設けられている。
【0047】
上記のような構成により、玉軸受20の軸方向外側(下側)には、以下のような連続した複数の隙間が形成される。すなわち、玉軸受20の下端面とフランジ部14の段差部14bとの間の隙間、及び、フランジ部14の外周面14cとハウジング16の内周面16aに設けられた段差部42Dとの間の隙間である。そして、これらの隙間によって、玉軸受20の軸方向外側にラビリンスシールが形成される。更に、ピボットアッシー軸受装置10”は、玉軸受20の軸方向外側の複数個所に、環状に撥油膜40が形成されている。具体的には、フランジ部14の段差部14bに、撥油膜40Lが環状に形成され、ハウジング16の内周面16aに設けられた段差部42Dに、撥油膜40Mが環状に形成されている。
【0048】
一方、
図7(b)を参照すると、環状シール板32Dは、玉軸受20から上方向へ僅かに離れた軸方向位置で、上述したようにシャフト12の外周面12aに固定されている。そして、環状シール板32Dは、シャフト12の外周面12aから半径方向(右方向)へ延在して、ハウジング16の外輪嵌合部16bの僅かに手前まで延びている。又、環状シール板32Dは、半径方向に延在する2つの主面として、玉軸受20側の面34とその反対側の面36とを有しており、それらの各面34、36がシール面30を形成している。ハウジング16の内周面16aの、外輪嵌合部16bより上側の位置には、環状の段差部42Eが設けられている。
【0049】
上記のような構成により、玉軸受20の軸方向外側(上側)には、以下のような連続した複数の隙間が形成される。すなわち、玉軸受20の上端面と環状シール板32Dの面34(シール面30)との間の隙間、及び、環状シール板32Cの内周面38とハウジング16の段差部42Eとの間の隙間である。そして、これらの隙間によって、玉軸受20の軸方向外側にラビリンスシールが形成される。更に、ピボットアッシー軸受装置10”は、
図7(b)に図示されている玉軸受20の軸方向外側の複数個所にも、環状に撥油膜40が形成されている。具体的には、環状シール板32Dの面34(シール面30)と、その反対側の面36(シール面30)とのそれぞれの、左右方向の中央近傍に、撥油膜40N及び40Pが環状に形成されている。又、ハウジング16の内周面16aに設けられた段差部42Eに、撥油膜40Qが環状に形成されている。
【0050】
次に、
図8を参照して、本発明の第4の実施の形態に係るピボットアッシー軸受装置10'''について説明する。図示のように、ピボットアッシー軸受装置10'''は、軸方向(上下方向)に間隔を空けてシャフト12に取り付けられた一対の玉軸受20を有する。シャフト12は、軸方向一端側(下端側)にフランジ部14を有する中空軸であり、フランジ部14の玉軸受20に対向する面14aの内周側には、下側に配置された玉軸受20の内輪22の下端面が当接する。これにより、下側の玉軸受20は、シャフト12に対して上下方向(軸方向)に位置決めされる。
【0051】
更に、下側の玉軸受20の外輪24と、上側の玉軸受20の外輪24との間に、環状のスペーサ64が配設されている。これにより、上側の玉軸受20は、スペーサ64及び下側の玉軸受20を介して、シャフト12に対して軸方向に位置決めされる。又、一対の玉軸受20は予圧が付与された状態でシャフト12に取り付けられている。
図8に示すピボットアッシー軸受装置10'''は、図示の状態で、例えば、
図9に示すハードディスクドライブ50のスイングアーム52に組み付けられる。これにより、スイングアーム52とシャフト12とにより一対の玉軸受が挟持され、スイングアーム52がハウジングとして機能するものとなる。
【0052】
更に
図8を参照すると、フランジ部14の玉軸受20に対向する面14aの外周側には、下側に配置された玉軸受20の外輪24との接触を避けるための、環状の段差部14bが形成されており、この段差部14bによりシール面30が形成される。又、フランジ部14の外径は、玉軸受20の外輪24の外径よりも、僅かに小さく設定されている。このため、ピボットアッシー軸受装置10'''がスイングアーム52に組み付けられると、スイングアーム52の取り付け部分の内周部とフランジ部14の外周面14cとの間に隙間が形成される。すなわち、下側に配置された玉軸受20の軸方向外側に、玉軸受20の下端面とフランジ部14の段差部14b(シール面30)との間の隙間、及び、フランジ部14の外周面14cとスイングアーム52の取り付け部分の内周面との間の隙間によって、ラビリンスシールが形成される。そして、フランジ部14の段差部14bには、環状に撥油膜40(40R)が形成されている。
【0053】
一方、シャフト12の外周面12aの上側には、上側に配置された玉軸受20から間隔を空けて、環状シール板32Eが固定されている。環状シール板32Eは、シャフト12の外周面12aから半径方向へ延在し、2つの主面として、玉軸受20側の面34とその反対側の面36とを有しており、それらの各面34、36がシール面30を形成している。又、環状シール板32Eは、玉軸受20の外輪24の外径よりも僅かに小さい外径を有している。このため、ピボットアッシー軸受装置10'''がスイングアーム52に組み付けられると、スイングアーム52の取り付け部分の内周面と環状シール板32Eの外周面38との間に隙間が形成される。すなわち、上側に配置された玉軸受20の軸方向外側に、玉軸受20の上端面と環状シール板32Eの面34との間の隙間、及び、環状シール板32Eの外周面38とスイングアーム52の取り付け部分の内周面との間の隙間によって、ラビリンスシールが形成される。そして、環状シール板32Eの面34(シール面30)と、その反対側の面36(シール面30)とのそれぞれの、左右方向の中央近傍に、撥油膜40S及び40Tが環状に形成されている。
【0054】
ここで、
図9には、上述したような本発明の実施の形態に係るピボットアッシー軸受装置10、10’、10”、10'''が組み付けられるハードディスクドライブ50を例示している。ハードディスクドライブ50は、ピボットアッシー軸受装置10、10’、10”、10'''によって揺動可能に支持されるスイングアーム52を有する。このようなハードディスクドライブ50では、スイングアーム52の先端に配置された磁気ヘッド54が磁気ディスク56上を移動して、これにより、情報を磁気ディスク56に記録すると共に記録された情報を磁気ディスク56から読み出すことができる。ハードディスクドライブ50の上記の各構成要素は、ケーシング58内に収容されている。なお、スイングアーム52は、スイングアームブロックを上下方向へ貫通する取付孔(図示省略)に、ピボットアッシー軸受装置10、10’、10”のハウジング16、或いは、ピボットアッシー軸受装置10'''の玉軸受20の外輪24が嵌着される。これにより、スイングアーム52は、シャフト12に対して相対回転可能にハードディスクドライブ50に取り付けられる。
【0055】
上記構成をなす本発明の実施の形態によれば、次のような作用効果を得ることが可能である。すなわち、本発明の第1から第4までの実施の形態に係るピボットアッシー軸受装置10、10’、10”、10'''の玉軸受20には潤滑剤としてのグリースが封入されており、このグリースを構成する基油が、ラビリンスシールを通過して滲み出してしまう場合、その滲み出しの経路は、例えば
図2(a)において破線矢印R1、R2で示されているようなものになり、玉軸受20よりも軸方向外側の位置において、ラビリンスシールを形成する隙間を画定しているシール面30やシャフト12の外周面12a等を伝わるものであると考えられる。そこで、本発明の実施の形態に係るピボットアッシー軸受装置10、10’、10”、10'''は、上述したように、玉軸受20の軸方向外側に設けられるシール面30と、シャフト12の外周面12aの、玉軸受20よりも軸方向外側に位置する部位との、少なくとも一方に、環状に撥油膜40が形成されていることで、グリースの基油が伝わる経路上に、油分をはじく撥油膜40が存在することになる。このため、ラビリンスシールによるシール効果と相まって、グリースの基油の滲み出しを効果的に抑制することが可能となる。具体的には、例えば、本発明の実施の形態に係るピボットアッシー軸受装置10、10’、10”、10'''が、
図9に示すようなハードディスクドライブ50のスイングアーム52に利用される場合は、外部空間、すなわち、ハードディスクドライブ50のケーシング58内の空間に対する、グリースの滲み出しを抑制することができる。
【0056】
しかも、本発明の実施の形態に係るピボットアッシー軸受装置10、10’、10”、10'''は、従来のピボットアッシー軸受装置と異なり、撥油膜40の形成が容易なものである。すなわち、撥油膜40が環状のシール面30に設けられる場合は、シール面30が水平の状態にされて撥油剤が塗布されることで、撥油剤が垂れることを防止することができる。一方、撥油膜40がシャフト12の外周面12aに設けられる場合は、例えば
図2(a)に示すように、シャフト12の外周面12aの、撥油膜40が設けられる位置と玉軸受20との間の軸方向位置から、半径方向に延在するシール面30(36)を含む構成であることで、シャフト12の外周面12aに塗布された撥油剤は、万が一垂れてしまっても、上記のようなシール面30で止まることになるため、玉軸受20の内部を汚染することがない。このように、撥油剤が問題なく塗布され、撥油膜40を容易に形成することができるため、装置全体を容易に製造することが可能となる。
【0057】
更に、環状シール板32の玉軸受20側の面34に撥油膜40が形成される場合は、環状シール板32がシャフト12或いはハウジング16に取り付けられる前に撥油膜40を形成することで、環状シール板32の取り付け時に、撥油膜40が軸方向内側(玉軸受20側)を向くため、撥油膜40が治具等と接触することがなく、剥離の心配がない。又、環状シール板32の玉軸受20と反対側の面36に撥油膜40が形成される場合は、環状シール板32がシャフト12或いはハウジング16に取り付けられた後であっても、塗布面が軸方向外側を向くため、撥油剤を容易に塗布することができる。このように、環状シール板32の2つの主面34、36の、何れの面に撥油膜40が形成される場合であっても、撥油膜40を容易に形成することができる。
【0058】
本発明の実施の形態に係るピボットアッシー軸受装置は、上述したような各実施例に限定されず、多様な形態を取り得るものである。例えば、シール面30を形成する環状シール板32は、
図2、
図5、
図7及び
図8に示したような、玉軸受20側の面34及びその反対側の面36が、平坦であるものに限定されることなく、
図3に示したような段差部42や溝44が形成される例を含み、面34及び36が凸凹になっていてもよいものである。すなわち、環状シール板32は、その半径方向の異なる位置に、複数の段差部42や溝44が設けられてもよく、この場合は、半径方向と軸方向とで規定される平面での断面が、ジグザグになることが想定される。更に、例えば、
図3(a)に示した環状シール板32Bと類似して、上記の断面での形状が段状になるように、環状シール板32の一方の面の内周側に他方の面に向かって低くなる段差部42が設けられると共に、環状シール板32の他方の面の外周側に一方の面に向かって低くなる段差部42が設けられてもよい。
【0059】
同様に、シャフト12のフランジ部14についても、そのシール面30に複数の段差部42や溝44が形成されてもよい。そして、上述したように段差部42や溝44が設けられたシール面30には、複数の段差部42や溝44に撥油膜40が形成されてもよい。このような場合であっても、シール面30が水平にされた状態で撥油剤が塗布されることで、撥油膜40を容易に形成することが可能となる。
【0060】
又、本発明の実施の形態に係るピボットアッシー軸受装置は、シール面30又はシャフト12の外周面12aに形成される撥油膜40の形成位置を、適宜、任意に設定してよい。例えば、
図2(a)に示す撥油膜40Aは、環状シール板32Aのシール面30の、シャフト12側(左側)の位置に形成されているが、この形成位置は、環状シール板32Aの自由端である外周面38Aから最も離れた位置であるため、撥油剤が乾燥する前に少し広がってしまっても、外周面38Aまで達することはなく、玉軸受20を汚染する虞がない。
【0061】
更に、本発明の実施の形態に係るピボットアッシー軸受装置は、玉軸受20に封入されたグリースの基油の滲み出し経路に、ハウジング16の内周面16aが含まれている場合は、例えば
図2(b)及び
図7に示す撥油膜40F、40M、40Qのように、撥油膜40がハウジング16の内周面16aに設けられていてもよい。この場合は、
図3(b)及び
図7に示すように、ハウジング16の内周面16aの、撥油膜40が形成される部位に、溝44Bや段差部42D、42E等が設けられていてもよい。これにより、組み付け時に撥油膜40が玉軸受20の外輪24と擦れて剥離する虞がないため、組み付け前に撥油膜40を容易に形成することができる。
【0062】
又、本発明の実施の形態に係るピボットアッシー軸受装置は、玉軸受20の軸方向外側に取り付けられる環状シール板32の枚数が任意に設定でき、
図5(b)、
図7(b)及び
図8の例のように1枚や、
図2(a)の例のように2枚であってもよく、更には3枚以上であってもよい。加えて、環状シール板32の肉厚も任意であり、例えば
図5(b)に示す環状シール板32Cのように、2つの主面34、36の半径方向(左右方向)の長さと同等或いはそれ以上の肉厚を有するものであってもよい。更に、例えば
図4及び
図5(a)に示すように、シール面30が形成されていれば、シャフト12のフランジ部14の形状も任意である。又、本発明の実施の形態に係るピボットアッシー軸受装置は、
図8に示したピボットアッシー軸受装置10'''のように、ハウジングを省略したピボットアッシー軸受装置に対しても適用可能なものである。
【符号の説明】
【0063】
10、10’10”、10''':ピボットアッシー軸受装置、12:シャフト、12a:外周面、14:フランジ部、14a、60a:玉軸受に対向する面、14b、60b:段差部、16:ハウジング、16a:内周面、20:玉軸受、22:内輪、24:外輪、30:シール面、32(32A~32E):環状シール板、34:玉軸受側の面、36:玉軸受側に対して反対側の面、40(40A~40T):撥油膜、42(42A~42E):段差部、44(44A、44B):溝