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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-25
(45)【発行日】2022-05-09
(54)【発明の名称】車両用の回路体
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/00 20060101AFI20220426BHJP
   B60R 16/02 20060101ALI20220426BHJP
【FI】
H01B7/00 301
B60R16/02 620S
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2017232891
(22)【出願日】2017-12-04
(65)【公開番号】P2019102304
(43)【公開日】2019-06-24
【審査請求日】2020-11-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 暢志
(72)【発明者】
【氏名】古川 正大
(72)【発明者】
【氏名】榎本 聖
(72)【発明者】
【氏名】金澤 昭義
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-275632(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/00
B60R 16/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車体に配索されて電装品への電力の供給及び各種の通信信号の伝達を行うための車両用の回路体であって、
該回路体上に分散配置されると共に電力及び通信信号の少なくとも一方の入出力を制御可能な複数の制御ボックスと、前記複数の制御ボックスのうちの一の前記制御ボックスと他の前記制御ボックスとの間を繋ぐ幹線ハーネスと、前記一の制御ボックスと前記電装品を繋ぐ枝線ハーネスと、を備え、
前記一の制御ボックス
前記枝線ハーネスに接続される前記電装品を介して接地可能に構成され
前記幹線ハーネスは、電力を伝送する電源線と、信号を伝送する通信線とを備え、アース線を含まない、
車両用の回路体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用の回路体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両に搭載された電源等と各種の電装品等とを接続するための回路体(いわゆるワイヤハーネス)が知られている。この種の回路体は、一般に、主電源であるオルタネータ(発電機)及びバッテリから多数の電装品(例えば、ECU及び各種の補機など)に対する電力の適切な供給、電力の供給または遮断の適切な切り替え、及び、各種の通信信号の伝達などを実現可能であるように構成される。
【0003】
具体的には、この種の回路体(ワイヤハーネス)は、一般に、電源と電装品とを繋ぐ多種多様な電線の集合体である電線束、電力を複数の系統に分配するジャンクションブロック、電力の供給または遮断を系統毎に制御するリレーボックス、及び、過大な電流等から電線および電装品を保護するヒューズボックスなどから構成されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-78962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、車両に搭載される電装品の増加および制御の複雑化などに伴い、回路体(ワイヤハーネス)の構造が複雑化する傾向がある。その結果、回路体を構成する電線の本数の増大、及び、回路体自体の大型化などが生じ、回路体の重量が増大する傾向がある。また、回路体を搭載する車種の違いやオプション電装品の種類の増加に伴い、製造すべき回路体の種類が増え、回路体を製造する工程も複雑化し、回路体の製造コスト及び製造時間も増大する傾向がある。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、車両用の回路体として要求される機能を維持しながら、回路体の構造を単純化(シンプル化)した車両用の回路体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した目的を達成するために、本発明に係る車両用の回路体は、下記(1)を特徴としている。
(1)
車両の車体に配索されて電装品への電力の供給及び各種の通信信号の伝達を行うための車両用の回路体であって、
該回路体上に分散配置されると共に電力及び通信信号の少なくとも一方の入出力を制御可能な複数の制御ボックスと、前記複数の制御ボックスのうちの一の前記制御ボックスと他の前記制御ボックスとの間を繋ぐ幹線ハーネスと、前記一の制御ボックスと前記電装品を繋ぐ枝線ハーネスと、を備え、
前記一の制御ボックス
前記枝線ハーネスに接続される前記電装品を介して接地可能に構成され
前記幹線ハーネスは、電力を伝送する電源線と、信号を伝送する通信線とを備え、アース線を含まない、
車両用の回路体であること。
【0008】
上記(1)の構成の車両用の回路体によれば、幹線ハーネス及び枝線ハーネスによって回路体の骨格が構成されると共に、回路体上に分散配置された複数の制御ボックスによって回路体を通じた電装品への電力の供給および通信信号の伝達が制御される。これにより、例えば、制御ボックス同士の間において多重通信を行うことで通信信号の伝達を単一の信号線に集約し、同様に電力の伝達も単一の電源線に集約すれば、従来の回路体のように電源と電装品との間を原則的に一対一で繋ぐ回路構成に比べ、回路体の構造を単純化(シンプル化)できる。また、制御ボックスにおいて、電力の複数の系統への分配、電力の供給または遮断の系統毎の制御、及び、過大な電流等からの電線および電装品の保護を行えば、従来の回路体で用いられるジャンクションボックス等も不要にでき、更に回路体の構造を単純化(シンプル化)できる。
【0009】
更に、制御ボックスは、電装品が自らの接地(アース)のために備えているアース用経路を介して接地される。そのため、例えば、一の制御ボックスと他の制御ボックスとを繋ぐ幹線ハーネスからアース線を省略しても、他の制御ボックスと電装品とを繋ぐ枝線ハーネスにさえアース線を含めれば、一の制御ボックスの接地(アース)を実現できることになる。その結果、幹線ハーネスからアース線を省略できる分、更に回路体の構造を単純化できる。加えて、幹線ハーネスからアース線を省略することにより、アース線の長さを短縮でき、アース線がアンテナとして働いて周辺のノイズの影響を受けることも抑制できることになる。
【0010】
このように、本構成の車両用の回路体によれば、車両用の回路体として要求される機能を維持しながら、回路体の構造を単純化(シンプル化)することが可能である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、車両用の回路体として要求される機能を維持しながら、回路体の構造を単純化(シンプル化)した車両用の回路体を提供できる。
【0012】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の第1実施形態に係るワイヤハーネスを車体上に配索した状態を示した概略構成図である。
図2図2(a)は、図1に示す電気接続箱-電気接続箱間を接続するI型の幹線ハーネスの斜視図であり、図2(b)は、図2(a)のA-A断面図である。
図3図3(a)は、図1に示す電気接続箱-電装品間を接続するI型の枝線ハーネスの斜視図であり、図3(b)は、図1に示す電気接続箱-電装品間を接続するV型の枝線ハーネスの斜視図であり、図3(c)は、図3(a)のB-B断面図である。
図4図4は、図1に示す電気接続箱の斜視図である。
図5図5(a)~図5(c)は、図1に示すワイヤハーネスを製造する際の手順を説明するための図である。
図6図6は、電源線に接続されたコネクタと通信線に接続されたコネクタとを結合させて幹線ハーネスを構成する際の手順を説明するための図である。
図7図7は、本発明の第2実施形態に係るワイヤハーネスを右ハンドル仕様の車両の車体上に配索した状態を示した概略構成図である。
図8図8、本発明の第2実施形態に係るワイヤハーネスを左ハンドル仕様の車両の車体上に配索した状態を示した概略構成図である。
図9図9(a)~図9(f)は、図7及び図8示すワイヤハーネスを製造する際の手順を説明するための図である。
図10図10(a)~図10(c)は、本発明の他の実施形態に係る枝線ハーネスの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<第1実施形態>
以下、図1図6を参照しながら、本発明の第1実施形態に係る車両用の回路体(ワイヤハーネス1)について説明する。
【0015】
図1に示すように、本発明の第1実施形態に係るワイヤハーネス1は、典型的には、種々の電装品40(40a~40v)が搭載された車体2上に配索されて使用される。ワイヤハーネス1は、複数の電気接続箱10(10a~10i)と、隣接する電気接続箱10-電気接続箱10間を電気的に接続する幹線ハーネス20(20a~20j)と、隣接する電気接続箱10-電装品40間を電気的に接続する枝線ハーネス30と、を備える。
【0016】
電気接続箱10は、複数のコネクタ収容孔11(図4参照)を有する。各電気接続箱10の複数のコネクタ収容孔11には、少なくとも1つの幹線ハーネス20のコネクタ23(図2参照)と、少なくとも1つの枝線ハーネス30のコネクタ34(図3参照)とが接続される。これにより、各電気接続箱10は、少なくとも1つの他の電気接続箱10と、少なくとも1つの電装品40とに接続されている。複数のコネクタ収容孔11については後述する。
【0017】
各電気接続箱10は、マイクロコンピュータ(図示省略)を内蔵している。このマイクロコンピュータを利用して、各電気接続箱10は、幹線ハーネス20及び枝線ハーネス30を介して接続されている他の電気接続箱10及び電装品40が有するID情報を参照することで、当該接続されている他の電気接続箱10及び電装品40を識別可能となっている。
【0018】
また、各電気接続箱10は、マイクロコンピュータ等を利用し、幹線ハーネス20及び枝線ハーネス30を介して接続されている他の電気接続箱10及び電装品40から送信されるセンサ信号や動作信号等に基づき、当該接続されている電装品40を制御可能となっている。更に、各電気接続箱10は、2つ以上の幹線ハーネス20を介して2つ以上の他の電気接続箱10と接続されている場合、2つ以上の他の電気接続箱10との間におけるセンサ信号や動作信号等の伝送の中継、及び、電力の伝送の中継を行い得るようになっている。
【0019】
図2(a)に示すように、幹線ハーネス20は、電力を伝送するための1本の電源線21と、センサ信号や動作信号等を多重通信にて伝送するための1本の通信線22と、1組の電源線21及び通信線22の両端に接続された一対のコネクタ23と、を備える、いわゆるI型のハーネスである。なお、幹線ハーネス20には、アースを行うためのアース線は設けられていない。
【0020】
図2(b)に示すように、電源線21は、電力伝送用の断面円形の導体線21aと、導体線21aを覆う樹脂製の絶縁体21bと、を有する。通信線22は、信号伝送用の一対の電線22aと、一対の電線22aを覆う編組導体22bと、編組導体22bを覆う樹脂製の絶縁体22cと、を有する。編組導体22bは、一対の電線22aにて伝送される信号が外部磁界等に起因するノイズの影響を受けることを防止する機能を有する。
【0021】
電源線21の絶縁体21bと、通信線22の絶縁体22cとは、樹脂製の連結部24により、幹線ハーネス20の延在方向の全域に亘って一体に連結されている。コネクタ23には、導体線21a及び一対の電線22aと電気的に接続された複数の端子(図示省略)が設けられている。幹線ハーネス20の両端に位置する一対のコネクタ23が隣接する電気接続箱10のコネクタ収容孔11にそれぞれ挿入・接続されることで、隣接する電気接続箱10が幹線ハーネス20によって電気的に接続されて、隣接する電気接続箱10間にて、電力の伝送、及び、多重通信が可能となる。
【0022】
図3(a)に示すように、枝線ハーネス30は、電力を伝送するための1本の電源線31と、センサ信号や動作信号等を多重通信にて伝送するための1本の通信線32と、アースを行うための1本のアース線33と、1組の電源線31、通信線32及びアース線33の両端に接続された一対のコネクタ34と、を備える、いわゆるI型のハーネスである。枝線ハーネス30は、図3(b)に示すように、一端側に、2組の電源線31、通信線32及びアース線33と接続された1つのコネクタ34と、他端側に、それぞれが1組の電源線31、通信線32及びアース線33と接続された2つのコネクタ34と、を備える、いわゆるV型のハーネスであってもよい。
【0023】
図3(c)に示すように、電源線31は、電力伝送用の断面円形の導体線31aと、導体線31aを覆う樹脂製の絶縁体31bと、を有する。通信線32は、信号伝送用の一対の電線32aと、一対の電線32aを覆う編組導体32bと、編組導体32bを覆う樹脂製の絶縁体32cと、を有する。編組導体32bは、一対の電線32aにて伝送される信号が外部磁界等に起因するノイズの影響を受けることを防止する機能を有する。アース線33は、アース用の断面円形の導体線33aと、導体線33aを覆う樹脂製の絶縁体33bと、を有する。
【0024】
電源線31の絶縁体31b及び通信線32の絶縁体32c、並びに、通信線32の絶縁体32c及びアース線33の絶縁体33bは、電源線31、通信線32、及びアース線33が幅方向に一列に並ぶように、枝線ハーネス30の延在方向の全域に亘って一体に連結されている。コネクタ34には、導体線31a、一対の電線32a、及び導体線33aと電気的に接続された複数の端子(図示省略)が設けられている。枝線ハーネス30の一端に位置するコネクタ34が電気接続箱10のコネクタ収容孔11に挿入・接続され、枝線ハーネス30の他端に位置するコネクタ34が電装品40のコネクタ収容孔(図示省略)に挿入・接続されることで、電気接続箱10-電装品40間が枝線ハーネス30によって電気的に接続されて、電気接続箱10-電装品40間にて、電力の伝送、及び、多重通信が可能となる。
【0025】
図1に示す例では、各電気接続箱10は、接続される電装品40の車体2上の搭載位置から比較的近い位置に配置されている。このため、各電気接続箱10に接続されている枝線ハーネス30の長さは、比較的短い。一方、隣接する電気接続箱10の中には、両者間の距離が大きいものもある。このため、複数の幹線ハーネス20の中には、比較的長いものも含まれている。
【0026】
具体的には、図1に示す例では、電気接続箱10aは、車体右前の方向指示ランプ40a、及び右ヘッドライト40bと接続されている。電気接続箱10bは、左ヘッドライト40c、及び車体左前の方向指示ランプ40dと接続されている。電気接続箱10cは、ブレーキ制御用モジュール40eと接続されている。電気接続箱10dは、燃料噴射制御用モジュール40fと接続されている。電気接続箱10eは、右電動ドアミラー40g、右前ドアの電装品40h、及び右前電動シート周辺の電装品4iと接続されている。電気接続箱10fは、左電動ドアミラー40j、左前ドアの電装品40k、及び左前電動シート周辺の電装品40lと接続されている。電気接続箱10gは、エアーコンディショナー周辺の電装品40m、ヘッドアップディスプレイ周辺の電装品40n、及びステアリング周辺の電装品40oと接続されている。電気接続箱10hは、右後ドアの電装品40p、右後電動シート周辺の電装品40q、及び車体右後の方向指示ランプ40rと接続されている。電気接続箱10iは、左後ドアの電装品40s、左後電動シート周辺の電装品40t、車体左後の方向指示ランプ40u、及びハイマウントストップランプ40vと接続されている。
【0027】
ここで、電気接続箱10eと、右電動ドアミラー40g及び右前ドアの電装品40hとの接続、電気接続箱10fと、左電動ドアミラー40j及び左前ドアの電装品40kとの接続、並びに、電気接続箱10gと、エアーコンディショナー周辺の電装品40m及びヘッドアップディスプレイ周辺の電装品40nとの接続には、図3(b)に示したV型の枝線ハーネス30が使用され、これ以外の電気接続箱10と電装品40との接続には、図3(a)に示したI型の枝線ハーネス30が使用されている。
【0028】
電気接続箱10a,10c間は、幹線ハーネス20aにより接続されている。電気接続箱10b,10d間は、幹線ハーネス20bにより接続されている。電気接続箱10c,10d間は、幹線ハーネス20cにより接続されている。電気接続箱10c,10e間は、幹線ハーネス20dにより接続されている。電気接続箱10d,10f間は、幹線ハーネス20eにより接続されている。電気接続箱10e,10f間は、幹線ハーネス20fにより接続されている。電気接続箱10f,10g間は、幹線ハーネス20gにより接続されている。電気接続箱10e,10h間は、幹線ハーネス20hにより接続されている。電気接続箱10f,10i間は、幹線ハーネス20iにより接続されている。電気接続箱10h,10i間は、幹線ハーネス20jにより接続されている。
【0029】
特に、幹線ハーネス20d,20dそれぞれは、車体2のダッシュパネル4に設けられた貫通孔に挿通されている。具体的には、幹線ハーネス20d,20dそれぞれが挿通されたグロメット3(外装材)が当該貫通孔にそれぞれ固定されることにより、ダッシュパネル4を挟んだエンジンルーム5と車室6とが液密的に区画されている。
【0030】
図1に示す例では、車体2に搭載されている複数の電装品40(40a~40v)の少なくとも一部が、対応する車体2のアースポイント(図示省略)にそれぞれ接続されることで、アース(接地)されている。例えば、電装品40が金属製の筐体を有する場合、その筐体と車体2(リインフォース等を含む)とを電気的に接続すること(ネジ止め等)により、電装品40を接地できる。よって、枝線ハーネス30(図10)は電源線31と通信線32のみで構成されればよい。なお、電装品40に接続されている電気接続箱10の周辺にアースポイントを設ける事が困難な場合、電源線31と通信線32、アース線33を備えた枝線ハーネス30を用いて、電装品40と電気接続箱10を接続し、電気接続箱10の接地を電装品40でおこなってもよい。その場合、電気接続箱10は電装品40及び枝線ハーネス30(図3)を介してアース(接地)できることになる。
【0031】
なお、複数の電装品40のうち、その周辺にアースポイントを設けることが困難な電装品40や、樹脂製の筐体で覆われている電装品40のように、電装品40を車体2にアース(接地)することが困難である場合には、その電装品40に枝線ハーネス30(図3)を介して接続されている電気接続箱10を車体2にアース(接地)すると共に、その電装品40を枝線ハーネス30及び電気接続箱10を介してアース(接地)することも可能である。
【0032】
この結果、複数の電気接続箱10をアース(接地)するために、電気接続箱10同士の間を接続する幹線ハーネス20にアース線を設ける必要がなくなるので、ワイヤハーネス1では、幹線ハーネス20にアース線が設けられていない。上述したように、複数の幹線ハーネス20の中には、比較的長いものも含まれている。このため、電気接続箱10間を接続する複数の幹線ハーネス20の全てにアース線が設けられる態様と比べて、ワイヤハーネス1全体として、アース線の延べ長さを大幅に短くでき、ワイヤハーネス1を軽量化・コンパクト化できる。更に、アース線の延べ長さが大幅に短くなることで、アース線がアンテナとして機能することに起因してワイヤハーネス1にノイズが印加される程度も大幅に低減できる。
【0033】
図1に示す例では、複数の電気接続箱10間を複数の幹線ハーネス20で接続することで、複数のループ回路が構成されている。具体的には、「電気接続箱10c-幹線ハーネス20c-電気接続箱10d-幹線ハーネス20e-電気接続箱10f-幹線ハーネス20f-電気接続箱10e-幹線ハーネス20d-電気接続箱10c」のように順に接続されたループ回路、及び、「電気接続箱10e-幹線ハーネス20f-電気接続箱10f-幹線ハーネス20i-電気接続箱10i-幹線ハーネス20j-電気接続箱10h-幹線ハーネス20h-電気接続箱10e」のように順に接続されたループ回路、という2つのループ回路が構成されている。
【0034】
このため、幹線ハーネス20の一部に断線等の異常が発生しても、迂回経路を確保し易くなる。よって、ワイヤハーネス1は、ワイヤハーネス1を利用するシステムの冗長性を非常に高めることができる。
【0035】
以下、図4を参照しながら、電気接続箱10が有する複数のコネクタ収容孔11について説明する。図4に示すように、電気接続箱10には、複数種類のサイズを有する複数のコネクタ収容孔11が形成されている。複数種類のサイズには、そのサイズを有する単一のコネクタ収容孔11が形成されたサイズ(コネクタ収容孔11aのサイズに相当)、及び、そのサイズを有する複数のコネクタ収容孔11が形成されたサイズ(コネクタ収容孔11b~11dのサイズに相当)が含まれている。
【0036】
図4に示す例では、4種類のサイズを有する複数のコネクタ収容孔11が形成されており、具体的には、サイズの大きいものから順に、1つのコネクタ収容孔11a、2つのコネクタ収容孔11b、6つのコネクタ収容孔11c、及び、10個のコネクタ収容孔11dが形成されている。コネクタ収容孔11a~11dそれぞれには、対応するサイズを有するサブハーネスのコネクタCa~Cdが接続される。コネクタCa~Cdは、具体的には、幹線ハーネス20のコネクタ23、又は、枝線ハーネス30のコネクタ34である。
【0037】
図4に示す例では、サブハーネスを流れる電流の大きさが大きいほど、より大きいサイズのコネクタCa~Cdがサブハーネスに接続されている。このため、コネクタ収容孔11のサイズは、コネクタ収容孔11に接続されるサブハーネスに流れる電流の大きさ(具体的には、電源線21,31を流れる電流の大きさ)に対応している。この結果、複数のサブハーネスのコネクタのサイズ、及び、複数のコネクタ収容孔11のサイズを最も大きいサイズに統一した態様と比べて、電気接続箱10に過剰なスペックを要求することがなくなるため、電気接続箱10を大幅にコンパクト化できる。
【0038】
また、上述したように、電気接続箱10は、内蔵するマイクロコンピュータを利用して、接続されているサブハーネスの接続先のID情報を参照することで、当該接続先を識別可能となっている。換言すると、接続互換性を有している。このため、同一サイズの複数のサブハーネスのコネクタを、対応する同一サイズの複数のコネクタ収容孔11に接続する場合、コネクタの各々を複数のコネクタ収容孔11のどれに接続しても、接続先をそれぞれ認識して所望の回路を構成することができる。この結果、コネクタの各々を接続すべきコネクタ収容孔11がそれぞれ指定されている態様と比べて、サブハーネスのコネクタをコネクタ収容孔11に接続する際の作業者の負担を大幅に軽減することができる。
【0039】
次いで、上述したワイヤハーネス1の製造方法の一例について、図面を参照しながら説明する。
【0040】
まず、図5(a)に示すように、車体への配索形状に対応するように幹線ハーネス20を構成する。このとき、幹線ハーネス20は、図2に示すように電源線21と通信線22とが一纏まりの電線となるように構成されてもよく、図6に示すように電源線21と通信線22とが各々独立した電線として構成されてもよい。
【0041】
前者(一纏まり)の場合、例えば、電源線21及び通信線22を絶縁体21b及び絶縁体22cによって覆いながら連結部24を設けるように一括押出成形することにより、幹線ハーネス20を構成できる。一方、後者(各々独立)の場合、例えば、図6に示すように、電源線21と通信線22とを各々独立させた状態で準備し、幹線ハーネス20の電源線21の両端に接続された一対のコネクタC1と、幹線ハーネス20の通信線22の両端に接続された一対のコネクタC2とを、対応する端部に位置するコネクタ同士にて、図示しない結合構造によってそれぞれ結合させる。これにより、1本の電源線21と、1本の通信線22と、1組の電源線21及び通信線22の両端に接続された一対のコネクタ23(=コネクタC1+コネクタC2)と、を備えるI型の幹線ハーネス20が得られる。このように、図6に示した幹線ハーネス20は、電源線21と通信線22とが延在方向の全域に亘って連結されていない点において、図2に示した幹線ハーネス20と異なっている。
【0042】
続いて、図5(b)に示すように、車体への配索形状に対応するように枝線ハーネス30を構成する。
【0043】
そして、図5(c)に示すように、幹線ハーネス20及び枝線ハーネス30を、複数の電気接続箱10のうち対応するものに順に接続していく。これにより、ワイヤハーネス1が完成する。
【0044】
このような製造方法により、上述した従来の回路体のように電源と電装品との間を原則的に一対一で繋ぐ回路構成に比べ、ワイヤハーネス1の製造工程を単純化でき、ワイヤハーネス1の生産性が向上する。また、例えば、車体上の各々のエリアごとに枝線ハーネス30を一体化させること等により、更に生産性を向上させることも可能である。
【0045】
<第2実施形態>
以下、図7図9を参照しながら、本発明の第2実施形態に係る車両用の回路体(ワイヤハーネス1A及びワイヤハーネス1B)について説明する。
【0046】
第2実施形態に係るワイヤハーネス1A,1Bは、本発明に係る回路体を右ハンドル仕様の車両の車体2A又は左ハンドル仕様の車両の車体2Bに適用する点において、図1に示したワイヤハーネス1と相違している。そこで、説明の便宜上、図7図9において図1に示した各部品と実質的に同一の構造・機能を有する部品には、図1のそのような部品に付された符号と同一の符号が付されている。また、これら部品についての詳細な説明は、適宜省略される。
【0047】
図7は、右ハンドル仕様の車両の車体2Aにワイヤハーネス1Aを配索した例を表している。図7に示すように、ワイヤハーネス1Aは、複数の電気接続箱10及び幹線ハーネス20に加え、右ハンドル用枝線ハーネス30(枝線ハーネス30aを含む。)を備える。
【0048】
右ハンドル用枝線ハーネス30は、右ハンドル仕様の車体2Aに対応しており、車体2Aのインストルメンタルパネル周辺の右側に設けられた電気接続箱10eに、枝線ハーネス30aを介し、ステアリング周辺の電装品40o及びヘッドアップディスプレイ周辺の電装品40nが接続されている。これにより、電装品40o及び電装品40nを図1の例に比べて短い距離で電気接続箱10eと接続することができ、且つ、図1の例で設けられていた中央の電源接続箱10gを除くことができる。
【0049】
図8は、左ハンドル仕様の車両の車体2Bにワイヤハーネス1Bを配索した例を表している。図8に示すように、ワイヤハーネス1Bは、複数の電気接続箱10及び幹線ハーネス20に加え、左ハンドル用枝線ハーネス30(枝線ハーネス30bを含む。)を備える。
【0050】
左ハンドル用枝線ハーネス30は、左ハンドル仕様の車体2Bに対応しており、車体2Aのインストルメンタルパネル周辺の左側に設けられた電気接続箱10fに、枝線ハーネス30bを介し、ステアリング周辺の電装品40o及びヘッドアップディスプレイ周辺の電装品40nが接続されている。これにより、図7と同様、電装品40o及び電装品40nを図1の例に比べて短い距離で電気接続箱10fと接続することができ、且つ、図1の例で設けられていた中央の電源接続箱10gを除くことができる。
【0051】
なお、図7及び図8に示す例では、図1に示す例とは異なり、複数の電気接続箱10と複数の幹線ハーネス20とによるループ回路は、構成されていない。車両用の回路体(ワイヤハーネス)に要求される冗長性の度合いなどに応じ、図1図7及び図8に示すように、ループ回路を構成するか否かを定めればよい。具体的には後述する。
【0052】
次いで、上述したワイヤハーネス1A又はワイヤハーネス1Bの製造方法の一例について、図面を参照しながら説明する。
【0053】
まず、図9(a)に示すように、車体への配索形状に対応するように幹線ハーネス20を構成する。このとき、幹線ハーネス20は、図2に示すように電源線21と通信線22とが一纏まりの電線となるように構成されてもよく、図6に示すように電源線21と通信線22とが各々独立した電線として構成されてもよい。前者(一纏まり)及び後者(各々独立)の場合における幹線ハーネス20の製造方法の例については、上述した第1実施形態と同様である。
【0054】
続いて、右ハンドル仕様の車両用のワイヤハーネス1Aの場合、図9(b)に示すように、車体への配索形状に対応するように右ハンドル用枝線ハーネス30(枝線ハーネス30aを含む。)を構成する。一方、左ハンドル仕様の車両用のワイヤハーネス1Bの場合、図9(c)に示すように、車体への配索形状に対応するように左ハンドル用枝線ハーネス30(枝線ハーネス30bを含む。)を構成する。
【0055】
そして、図9(d)に示すように、幹線ハーネス20及び枝線ハーネス30(枝線ハーネス30aを含む。)を、複数の電気接続箱10のうち対応するものに順に接続していく。これにより、右ハンドル仕様の車両用のワイヤハーネス1Aが完成する。同様に、図9(e)に示すように、幹線ハーネス20及び枝線ハーネス30(枝線ハーネス30bを含む。)を、複数の電気接続箱10のうち対応するものに順に接続していく。これにより、左ハンドル仕様の車両用のワイヤハーネス1Bが完成する。
【0056】
このような製造方法により、右ハンドル仕様の車両用のワイヤハーネス1A及び左ハンドル仕様の車両用のワイヤハーネス1Bの製造工程を単純化でき、生産性が向上する。また、それら仕様にかかわらず共通の構造を有する部品を共用できるため、汎用性が高く、実際には右ハンドル仕様の枝線ハーネス30a又は左ハンドル仕様の枝線ハーネス30bを選択するだけで、ハンドル位置による仕様の違いに対応できることになる。
【0057】
また、図7及び図8の回路にループ回路を構成する場合は、図9(f)の幹線ハーネス20を図9(a)の幹線ハーネス20に選択的に接続すればよい。
【0058】
<他の態様>
なお、本発明は上記各実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0059】
例えば、第1実施形態および第2実施形態では、電装品40がID情報を有するようになっている。しかし、電装品40に代えて、枝線ハーネス30の端部に設けられているコネクタがID情報を有していてもよい。
【0060】
更に、第1実施形態および第2実施形態では、枝線ハーネス30がアース線33を有するようになっている(図3を参照)。しかし、枝線ハーネス30にアース線33を設ける必要がない場合、図10に示すように、枝線ハーネス30は、アース線33を有さないように、電源線31及び通信線32から構成されてもよい。
【0061】
更に、第1実施形態および第2実施形態では、幹線ハーネス20及び枝線ハーネス30は、電源線31を1本のみ有するようになっている(図2及び図3を参照)。しかし、必要に応じ、幹線ハーネス20及び枝線ハーネス30は、複数の(例えば2本の)電源線31を有するように構成されてもよい。
【0062】
加えて、電気接続箱10は、上述した各種の機能の他に、外部と無線通信可能なアンテナを備え、外部との間で授受した各種情報の処理、及び、通信線32を通じたそれら情報の送受信が可能であるように構成されてもよい。
【0063】
ここで、上述した本発明に係る車両用の回路体の特徴を以下(1)に簡潔に纏めて列記する。
(1)
車両の車体に配索されて電装品(40)への電力の供給及び各種の通信信号の伝達を行うための車両用の回路体(1)であって、
該回路体上に分散配置されると共に電力及び通信信号の少なくとも一方の入出力を制御可能な複数の制御ボックス(10)と、前記複数の制御ボックスのうちの一の前記制御ボックスと他の前記制御ボックスとの間を繋ぐ幹線ハーネス(20)と、前記制御ボックスと前記電装品を繋ぐ枝線ハーネス(30)と、を備え、
前記複数の制御ボックス(10)の少なくとも一つは、
前記枝線ハーネス(30)に接続される前記電装品(40)を介して接地可能に構成された、
車両用の回路体。
【符号の説明】
【0064】
1 ワイヤハーネス(車両用の回路体)
3 グロメット(外装材)
5 エンジンルーム
6 車室
10 電気接続箱(制御ボックス)
20 幹線ハーネス
21 電源線
22 通信線
30 枝線ハーネス
40a~40v 電装品
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10