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  • 特許-複合金属酸化物粒子連結体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-25
(45)【発行日】2022-05-09
(54)【発明の名称】複合金属酸化物粒子連結体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 30/00 20060101AFI20220426BHJP
【FI】
C01G30/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017254193
(22)【出願日】2017-12-28
(65)【公開番号】P2019119636
(43)【公開日】2019-07-22
【審査請求日】2020-08-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 聡
(72)【発明者】
【氏名】濱▲崎▼ 裕一
(72)【発明者】
【氏名】足立 健太郎
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-177552(JP,A)
【文献】特開2010-180112(JP,A)
【文献】特許第6016548(JP,B2)
【文献】特開2014-058652(JP,A)
【文献】特開2005-139026(JP,A)
【文献】特開2013-163634(JP,A)
【文献】特開昭62-223019(JP,A)
【文献】特開2007-211155(JP,A)
【文献】特開2019-026527(JP,A)
【文献】XUE, L. et al.,Journal of Materials Chemistry A,2013年,Vol.1,pp.13807-13813,<DOI:10.1039/c3ta12921g>
【文献】KAKINUMA, K. et al.,Electrochimica Acta,2010年12月30日,Vol.56,pp.2881-2887, <DOI:10.1016/j.electacta.2010.12.077>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 30/00
C01G 19/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンチモンとスズを含む複合金属酸化物粒子連結体であって、前記複合金属酸化物粒子は多面体構造を有し、前記多面体構造が線状に連結してなる複合金属酸化物粒子連結体を製造する方法であって、
下記(A)、(B)および(C)に示す各工程を備え、
前記(A)工程で得られた溶液Aの酸化還元電位E、前記(B)工程で得られた溶液の酸化還元電位E、および前記(C)工程における混合液Cの酸化還元電位Eが下記式(1)または下記式(2)の関係を維持する、複合金属酸化物粒子連結体の前駆体溶液の製造方法得られた前駆体溶液(混合液C)を用い、
下記(M)、(N)、(O)、(P)、および(Q)に示す各工程を備える
ことを特徴とする複合金属酸化物粒子連結体の製造方法。
≦E≦E (1)
≦E≦E (2)
(A)アンチモンを含む溶液を調製する工程
(B)スズを含む溶液を調製する工程
(C)(A)工程で得られた溶液Aと、前記(B)工程で得られた溶液Bとを混合して混合液Cを調製する混合工程
(M)前記混合液CのpHを調整して前記前駆体溶液中に前駆体ゲルを生成させる工程
(N)前記前駆体ゲルを水で洗浄し、洗浄ゲルを得る工程(ただし、洗浄ゲルを5質量%の濃度になるように水に懸濁したときの懸濁液の伝導度は1~2mS/cmである。)
(O)前記洗浄ゲルを水に懸濁して100℃以上の温度で熟成する工程
(P)工程(O)により得られた連結体前駆体分散液を噴霧して乾燥する工程
(Q)工程()により得られた粒子を250℃以上で焼結する工程
【請求項2】
前記複合金属酸化物粒子連結体が分岐構造を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の複合金属酸化物粒子連結体の製造方法
【請求項3】
前記複合金属酸化物粒子連結体の最大長さが10nm~100μmの範囲にある
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の複合金属酸化物粒子連結体の製造方法
【請求項4】
前記多面体構造が4面体構造~8面体構造からなる群から選択される少なくとも1つの構造である
ことを特徴とする請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の複合金属酸化物粒子連結体の製造方法
【請求項5】
前記多面体構造が6面体構造である
ことを特徴とする請求項4に記載の複合金属酸化物粒子連結体の製造方法
【請求項6】
前記多面体構造の一辺の長さが10nm~1000nmの範囲にある
ことを特徴とする請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の複合金属酸化物粒子連結体の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合金属酸化物粒子連結体、その前駆体溶液の製造方法、および複合金属酸化物粒子連結体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スズ・アンチモン複合酸化物(ATO)は、導電性塗膜などの電気化学的デバイス素材として広く用いられてきた。例えば、特許文献1には、特定の表面処理を施した鎖状アンチモンドープ酸化スズ粒子(ATO粒子)が記載されている。このATO粒子は、一次粒子形状が球状であり、一次粒子が互いに連結している。そのため、粉体抵抗値が低く、上記した各用途への展開が期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6016548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された鎖状アンチモンドープ酸化スズ粒子(ATO粒子)は、一次粒子が球状であるため、必ずしも一次粒子の接触面積を広げることができず、粉体抵抗について十分に低い値とすることは困難である。
そこで、本発明は、粉体抵抗を十分に低くすることができ、導電性塗膜などの電気化学的デバイスなどの素材として好適に用いることができる複合金属酸化物粒子連結体、その前駆体溶液の製造方法、および当該複合金属酸化物粒子連結体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記した課題を解決すべく、本発明の複合金属酸化物粒子連結体は、アンチモンとスズを含む複合金属酸化物粒子連結体であって、前記複合金属酸化物粒子は多面体構造を有し、前記多面体構造が線状に連結してなることを特徴とする。
また、もう一つの本発明である複合金属酸化物粒子連結体の前駆体溶液の製造方法は、下記(A)、(B)および(C)に示す各工程を備え、前記(A)工程で得られた溶液Aの酸化還元電位E、前記(B)工程で得られた溶液の酸化還元電位E、および前記(C)工程における混合液Cの酸化還元電位Eが下記式(1)または下記式(2)の関係を維持することを特徴とする。
≦E≦E (1)
≦E≦E (2)
(A)アンチモンを含む溶液を調製する工程
(B)スズを含む溶液を調製する工程
(C)(A)工程で得られた溶液Aと、前記(B)工程で得られた溶液Bとを混合して混合液Cを調製する混合工程
【0006】
さらにもう一つの本発明である複合金属酸化物粒子連結体の製造方法は、上記した前駆体溶液(混合液C)を用い、下記(M)、(N)、(O)、(P)、および(Q)に示す各工程を備えることを特徴とする。
(M)前記混合液CのpHを調整して前記前駆体溶液中に前駆体ゲルを生成させる工程
(N)前記前駆体ゲルを水で洗浄し、洗浄ゲルを得る工程(ただし、洗浄ゲルを5質量%の濃度になるように水に懸濁したときの懸濁液の伝導度は1~2mS/cmである。)
(O)前記洗浄ゲルを水に懸濁して100℃以上の温度で水熱合成する工程
(P)工程(O)により得られた連結体前駆体分散液を噴霧して乾燥する工程
(Q)工程(Q)により得られた粒子を250℃以上で焼結する工程
【発明の効果】
【0007】
本発明の複合金属酸化物粒子連結体によれば、粉体抵抗を十分に低くすることができ、導電性塗膜などの電気化学的デバイスなどの素材として好適に用いることができる。また、本発明の前駆体溶液の製造方法によって得られた当該前駆体を用いることで、本発明の複合金属酸化物粒子連結体を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態における複合金属酸化物粒子連結体の模式図。
図2】本実施形態における複合金属酸化物粒子連結体の模式図(分岐構造を有する例1)。
図3】本実施形態における複合金属酸化物粒子連結体の模式図(分岐構造を有する例2)。
図4】実施例1におけるATO粉末(複合金属酸化物粒子連結体)の電子顕微鏡写真。
図5】実施例1におけるATO粉末の電子顕微鏡写真(図4の写真における連結構造を拡大したもの)。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明の実施形態についてさらに詳細に説明する。
【0010】
[複合金属酸化物粒子連結体]
本発明は、アンチモンとスズを含む複合金属酸化物粒子連結体であって、前記複合金属酸化物粒子は多面体構造を有し、前記多面体構造が線状に連結してなることを特徴とする(以下、本発明の複合金属酸化物粒子連結体を単に「本連結体」ともいう。)。
【0011】
多面体構造としては、4面体、6面体、8面体などが挙げられるが連結のしやすさの観点より6面体が好ましく、立方体形状が特に好ましい。例えば、6面体を有するもので立方体形状に近い本連結体を模式的に示すと図1のようになる。また、本連結体は分岐構造を備えていてもよい。例えば、6面体構造の連結体としては図2図3のような連結構造が挙げられる。
分岐構造を多く持った連結体構造を例えば多層膜として形成した場合、本連結体は前記多層膜単位面積当たり広い表面積を有し、本連結体どうしの接点を多く持つことになり、本連結体により構成されたATO粒子を導電体として用いた場合に好適である。
【0012】
ここで、本連結体の最大長さは成膜性の観点より10nm~100μmの範囲にあることが好ましく、後述する噴霧乾燥や焼結時にこの連結体構造を扱うことができる連結の大きさの観点より、100nm~50μmの範囲にあることがさらに好ましい。
なお、「最大長さ」とは、本連結体に分岐構造がない場合は、ある末端からもう一つの末端までの長さであるが、本連結体に分岐構造がある場合は、最大の長さを構成する連結構造の長さをいう。
【0013】
前記した多面体構造の一辺の長さは、10nm~1000nmの範囲あることが好ましく。20nm~200nmの範囲であることがより好ましい。例えば、ATO粒子に他の貴金属や卑金属を担持するような用途がある場合、これらの金属は一般に5nm~100nmなので、本連結体により構成されたATO粒子を支持体として使用する場合、担持でき得る大きさの観点より上記した範囲が好ましい。
【0014】
上記した本連結体により構成されたATO粒子は、粉体抵抗が低く、導電性塗膜などの電気化学的デバイスなどの素材として好適に用いることができる。
【0015】
[本連結体の前駆体溶液の製造]
本連結体を製造するには、まずその前駆体溶液を製造することが好ましい。以下に、前駆体溶液の製造方法を説明する。
【0016】
前駆体溶液の製造方法では、下記(A)、(B)および(C)に示す各工程を備え、前記(A)工程で得られた溶液Aの酸化還元電位E、前記(B)工程で得られた溶液の酸化還元電位E、および前記(C)工程における混合液Cの酸化還元電位Eが下記式(1)または下記式(2)の関係を維持している。なお、酸化還元電位は25℃における値であり、測定法は後述する。
≦E≦E (1)
≦E≦E (2)
(A)アンチモンを含む溶液を調製する工程
(B)スズを含む溶液を調製する工程
(C)(A)工程で得られた溶液Aと、前記(B)工程で得られた溶液Bとを混合して混合液Cを調製する混合工程
【0017】
上記したように、溶液Aと溶液Bを混合する際は、混合液CのEが、溶液AのEと溶液BのEとの間に維持されるように混合することが重要である。混合液CのEをこのように制御することによって、得られた前駆体溶液は、後述するような酸化還元電位の調整により、2つの金属種を含む前駆体溶液とすることができる。この前駆体溶液は、後述するようにpH調整をすることで複合前駆体ゲルを含んだ溶液とすることができ、さらに、乾燥、焼結等の操作によって、容易に本発明の複合金属酸化物粒子連結体とすることが可能となる。
【0018】
混合液CのEが、溶液AのEと溶液BのEとの間に維持されるように溶液Aと溶液Bを混合する具体的な方法としては、例えば、次の1)~3)のうち1つまたは複数を併用することが好ましいが、これらに限定されるものではない。
1) 酸またはアルカリ等を用いて予め各溶液の酸化還元電位を調整する
2) 一方の溶液に他方の溶液を添加するときの添加速度を調整する
3) 2)の処理の際に酸またはアルカリ等を同時に添加して調整する
【0019】
前記(A)工程では、アンチモンを含んだ溶液を調整し、所望により酸またはアルカリを所望の添加速度で加えて、所望の酸化還元電位に調整し、溶液Aとする。
前記(B)工程では、スズを含んだ溶液を調整し、所望により酸またはアルカリを所望の添加速度で加えて、所望の酸化還元電位に調整し、溶液Bとする。
【0020】
前記(C)の工程では、前記(A)工程で得られた溶液Aと、前記(B)工程で得られた溶液Bとを混合して混合液Cを調製する。このとき、溶液Aの全量に対し、溶液Bを所望の添加速度で連続的または断続的に添加して混合液Cを調製することが望ましい。また、溶液Bの添加と同時に酸またはアルカリを連続的または断続的に添加することが望ましい。混合液Cの酸化還元電位を測定しながらこれらの処理を行うことで、混合液CのEが、溶液AのEと溶液BのEとの間に維持されるように溶液Aと溶液Bを混合することができる。もちろん、添加の仕方を逆にして溶液Bの全量に対し、溶液Aを所望の添加速度で連続的または断続的に添加して混合液Cを調製してもよい。
【0021】
混合液CのEが、溶液AのEと溶液BのEとの間に維持されるように溶液Aと溶液Bを混合することにより、混合時に溶液Aと溶液Bの平衡が保たれる結果、最終的に得られ得る複合金属酸化物粒子では、溶液Aに含まれる金属がコア粒子となり、溶液Bに含まれる金属が粒子状にコア粒子を被覆してなるシェルになるものと推定される。なお、添加の仕方を逆にして、溶液Bに対して溶液Aを添加する場合にはコアとシェルの関係が逆になる。
【0022】
ここで、溶液Aと溶液Bの混合方法についてまとめると、以下のような態様が含まれる。
1) 溶液Aと溶液Bを同時に全量一括混合して混合液Cを調製する態様
2) 溶液A全量を容器に満たし、溶液Bを徐々に(所定の添加速度で)添加し、混合液Cを調製する態様
3) 溶液B全量を容器に満たし、溶液Aを徐々に(所定の添加速度で)添加し、混合液Cを調製する態様
【0023】
また、当該前駆体溶液における両金属の濃度は、後述する複合ゲル水和物を、複合ゲルの構造を取り得る大きさとする観点より、金属換算かつ各金属種の合計量で0.1質量%以上、40質量%以下が好ましく、0.5質量%以上、35質量%以下であることがより好ましい。
【0024】
また、用いられる両金属の形態(金属源)としては、金属塩化物塩、金属硫化物塩、金属硝酸化物塩、金属炭酸化物塩、金属オキシ塩化物塩、金属オキシ硫化物塩、金属オキシ硝酸化物塩、金属オキシ炭酸化物塩、金属オキシアルカリ金属塩、金属ヒドロキソ酸、および金属アルコキシドなどが好ましく挙げられる。
【0025】
また、用いられる金属が配位子と錯体を形成する場合、配位子としては、1,2-MeIm、1-MeIm、1-(MeCO)Im、2-MeIm、3-(MeCo)Py、2-CNPy、3-(OH)Py、3-(OMe)Py、3-(NH)Py、3,5-ClPy、3-BrPy、3,4-MePy、3-ClPy、4-(MeCO)Py、4-(NMe)Py、4-(OMe)Py、4-(NH)Py、4-CNPy、4-MeIm、4,4-biPy、4-OH-pip、4-MePy、4-PhPy、4-PhIm、5,6-MeBzIm、AuCl 、acac、azPy、BF 、biPy、Br、Bu、BuCN、BzIm、Cat 、:C=C(p-CCl)、:C=CPh、CPh、C、CPh、CBr、CCl、CI、CBr、CCl、CI、C10Br、C10Cl、C10I、C11、p-CH、C、C12、C12I、C13、CCN、CMe、CSO 、o-CEt、p-CBr、p-CMe、p-CCl、p-CF、p-CNO、p-COMe、m-(OHCNH)、m,m’-C、o,m,p-C、o,o’,p-C、C13、:CH=CHPh、:CH-CHPh、CCl、:CH=C(p-CCl)、:CH=CPh、CHBr、CHCl、CHI、CHPh、CHCl、CHI、CHMe、CMe、Cl、Cl、ClO 、cMU、CN、:C(NHCHPh)、CNCHPh、CO、(CO)、(CO)、Co(CO)、COEt、COEt、COMe、COPr、Cr(CO)Cp、o-cresol、p-cresol、CS、CSe、dabco、DMF、DMS、DMSO、dppe、Et、EtNH、EtOH、F、facam、Fe、Fe(CO)、H、HSO 、I、Im、Me、MeNH、MeCN、Mn(CO)、Mo(CO)Cp、NCS、NHOH、NH、NHMe、NMe、NO、NO 、NO 、NPh 、NS、N 、N(CH=CH)、NC(CH=CH)、NC(CH=CHCN)、NCCMe、NC(m-CMe)、NC(p-C(NO))、NC(p-CMe)、N(COMe)、NCEt、NCMe、NCPh、O 、OBu、OC 、OCHF 、OC(NO 、OCHPh、OCMe 、OCN、OEt、OH、OH、O-m,m’-tBu,o-OHC 、O-m,p-CMe 、OMe、O-o,p-C(NO 、O-o,p-CMe 、O-p-CCN、O-p-CNO 、O-p-CMe、O-p-PhO-o,p-(NOPh、O-p-PhO-p-(NO)Ph、O 、O 2-、OC(3-ClC、OCMe、OC(o-CCl)、OCCCl 、O2CCF 、OCCHCl、OCCHPh、OCCHCl 、OCCMe 、OCCMe 、OCEt、OCH、OC-(m-CNO、OCPh、OCPr、OTeF 、P(OEt)、P(OMe)、PEt、PF、PF 、Ph、PhCHNH、PhNH、PhSn、pip、PPhMe、PPh、PPhMe、Pr、PrOH、Py、Pyan、Pyen、PyPh、Pyrl、Pyrazole、pyz、quinine、quinuclidine、Re(CO)、S(CH、S 、SbF 、SC、SCN、Se 、SH、S-o-(CFCONH)C、S-o,o’-C(CFCONH)、SOMe、SOPh、SO 2-、S-p-C6H4Me、SPh、η-S 2-、η-Se 、tdt2-、THF、THT、tMU、trans-1,2-(4-py)、およびW(CO)Cpなどが好ましく挙げられる。
【0026】
なお、上記した各配位子の記載で用いた記号・略号の意味は以下の通りである。
acac:アセチルアセトナートイオン
azpy:4,4‘-アゾピリジン
biPy:4,4‘-ビピリジル
Bu:ブチル
BzIm:ベンゾイミダゾール
Cat2-:カテコールジアニオン
cMU:シス-メチルウロカネート
Cp:シクロペンタジエニル
cresol:クレゾールイオン
dabco:1,4-ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン
dppe:1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン
Et:エチル
facam:トリフルオロアセチルカンフルイオン
Fe:フェロセニル
Im:イミダゾール
Me:メチル
C(R):テトラアゾラート
Ph:フェニル
pip:ピペリジン
Pr:プロピル
Py:ピリジン
Pyan:1,2-ビス(4-ピリジル)エタン
Pyen:1,2-ビス(4-ピリジル)エチレン
pyrl:ピロール
pyz:ピラジン
tdt2-:3,4-トルエンジチオレートジアニオンTHT:テトラヒドロチオフェン
tMU:トランス-メチルウロカネート
DMF:N,N-ジメチルホルムアミド
DMS:ジメチルスルフィド
DMSO:ジメチルスルホキシド
【0027】
前駆体溶液を調製するために用いられる溶媒としては、水、メタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ブチルカルビトールアセテート、エチレングリコール、およびイソプロピルアルコールなどが挙げられる。これらの中では、前駆体溶液の製造しやすさの観点より水が特に好ましい。なお、溶媒も配位子として機能する場合がある。
【0028】
溶液の酸化還元電位は、金属源となる金属塩溶液に、酸性液あるいは塩基性液を添加することによって調整できる。用いる酸性液としては例えば、塩酸、硫酸、および硝酸などの鉱酸でもよく、あるいはクエン酸やリンゴ酸などの有機酸でもよい。用いる塩基性液としては例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、およびアンモニアなどの無機塩基でもよく、あるいはピリジンなどの有機塩基でもよい。なお、酸性液と塩基性液を構成する成分は配位子として機能する場合がある。
【0029】
また、溶液の酸化還元電位については、例えば、ATLAS(Atlas of Eh-pH diagrams Intercomparison of thermodynamic databases Geological Survey of Japan Open File Report)に記載されたプールベダイアグラムを参照して好ましく調整することができる。なお、プールベダイアグラムとは、溶液のpHと酸化還元電位に応じた各種金属の状態(金属、金属イオン、金属水酸化物、および金属オキソイオンなど)を示す図である。
【0030】
アンチモンやスズのような金属の塩の水溶液(例えば酸性塩が溶解した水溶液)にpH調整剤(例えば塩基性物質)を徐々に添加すると、pHの上昇に伴って酸化還元電位の低下が見られることから、pHと酸化還元電位の間に相関性があることがわかる。この相関性は、金属の種類または金属源となる金属塩等の種類(さらに金属塩等が配位子を有する場合にあっては、その配位子の種類)によって影響を受ける。そして、酸化還元電位を制御することにより均一な当該前駆体を含む複合金属酸化物溶液を得ることができる。
【0031】
混合液Cの酸化還元電位を前記した所定範囲内で保持するための支配因子としては、例えば、混合する金属源たる各金属塩水溶液の各々のpH値と酸化還元電位の値、混合処理において一方の金属塩水溶液に他方の金属塩水溶液を添加する速度、および同時に添加するpH調整剤の添加速度等を挙げることができる。これらのpH値、酸化還元電位の値、pH調整剤の添加速度などは、金属の種類により最適な範囲が異なる。本願においては、pHは0.5~13.5の範囲、酸化還元電位は-1,000mV~1,000mVの範囲を好ましい範囲として挙げることができる。
【0032】
[前駆体溶液からの本連結体の製造]
本連結体は、以下の方法で好ましく製造することができる。すなわち、上記した前駆体溶液(混合液C)を用い、下記(M)、(N)、(O)、(P)、および(Q)に示す各工程を実施することで本連結体を好ましく製造することができる。
(M)前記混合液CのpHを調整して前記前駆体溶液中に複合前駆体ゲルを生成させる工程
(N)前記複合前駆体ゲルを水で洗浄し、洗浄ゲルを得る工程(ただし、洗浄ゲルを5質量%の濃度になるように水に懸濁したときの懸濁液の伝導度は1~2mS/cmである。)
(O)前記洗浄ゲルを水に懸濁して100℃以上の温度で水熱合成する工程
(P)工程(O)により得られた連結体前駆体分散液を噴霧して乾燥する工程
(Q)工程(Q)により得られた粒子を250℃以上で焼結する工程
【0033】
ここで、2つの金属種(アンチモンとスズ)を含む複合前駆体ゲルとは、その構造中に下記(a)の構造を有し、さらに下記(b)と(c)のいずれかまたは両方の構造を有するものである。
(a)異種金属原子または同種金属原子が酸素原子を介して結合する構造
(b)異種金属原子または同種金属原子が水和層を介して存在する構造
(c)異種金属原子または同種金属原子が水和層と配位子を介して存在する構造
【0034】
上記した溶液A若しくは溶液Bにおいて、水和層をもった複合前駆体ゲルは、酸化還元電位Eが小さいほど水和層が大きなゲルとなる。両者を徐々に添加混合した場合に、ゲル水和物の大きさが小さい方が溶液内でのブラウン運動の速度が速い。それゆえ、水和物として小さい方が大きいものを取り囲むようになって、酸素原子を共有する形で取り囲むものと推定される。
上記したように前駆体溶液に対し、pHを調節することで溶液中にゲルを生成・分散させ、得られた複合前駆体ゲル(洗浄ゲル)溶液に対し、所定の水熱合成、噴霧乾燥および焼結によって、本連結体を容易に作ることが可能となる。
ここで、本連結体を構成する多面体構造の大きさ(一辺の長さ)は、複合前駆体ゲルを生成させる際のpHを上げることで水和物としてのゲルを大きくでき、結果的に上記した一辺の長さを長くすることができ、同時に連結体の長さを長くすることもできる。
【0035】
推定される反応機構を示すと以下の通りである。
前記した洗浄ゲルをオートクレーブ等で水熱合成を行って溶解、成長を行うと、スズ・アンチモンの間の水和物から縮重合という形で水和物が除去され、アモルファス粒子が凝集した構造をとる。このATO粒子は、スズとアンチモンが酸素を共有したコアシェル構造を取っているために、縮重合してアモルファス粒子となった場合、従来知られたATO粒子にくらべ、ATO粒子内に酸素欠損が多いアモルファス粒子となっている。
アンチモンとスズは二元平衡状態図により、230℃以上の温度で溶解して金属間化合物になることが知られており、溶解温度が高いほどスズにアンチモンは多く固溶して合金化することがわかっている。
そして、この凝集したATO粒子を乾燥した後、230℃以上の温度で焼結すると、前記した酸素欠損構造の箇所は、スズとアンチモンが一度溶解して二元平衡状態図に従いスズ金属結晶にアンチモンを固溶する形で合金化結晶構造をとるため結果的に、ATO粒子が直線的な連結構造をとるものと推定される。
【実施例
【0036】
以下に実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は実施例などの内容に何ら限定されるものではない。また、以下の実施例・比較例では、アンチモン・スズ複合酸化物をATO(ATO粒子)とも表記する。ATO粒子からなる粉体はATO粉末ともいう。
【0037】
[測定方法]
本願で採用した各測定方法について以下に記す。
[1]溶液のpH
HORIBA社製pHメーター:D-74と、HORIBA社製pH電極:9625-10Dを用いて25℃で測定した。
[2]溶液の酸化還元電位
NISSIN社製ORPメーター:NOR-6800と、NISSIN社製ORP電極:CP-101Cを用いて25℃で測定した(単位:mV)。
[3]ATO粒子の一辺の平均長さおよび平均粒子径
TEM写真を撮影し、100個の一次粒子について一辺の長さおよび粒子径を測定し、その算術平均値を算出した(単位:μm)。
[4]ATO粒子(粉体)の粉体抵抗
水熱合成して作った凝集粒子ゾルを、シリコンウエーハ上に数μmの厚さでスピンコートし乾燥した後、窒素雰囲気中300℃で焼結させ、低抵抗 抵抗率計(ロレスタ-社製GX MCP-T700)にマイクロプローブ(ロレスタ-社製TFTプローブMCP-TFP RMJ217)を用いて四短針法により体積抵抗率を測定した後、膜厚から表面抵抗(粉体抵抗)を算出した。
【0038】
[実施例1]
〔ATO複合前駆体溶液およびATO複合前駆体ゲルの製造〕
スズ酸カリウム25gを75gのイオン交換水に溶解し、スズ酸カリウム水溶液を得た。このスズ酸カリウム水溶液のpHは12.82であり、酸化還元電位は、43mVであった。次に、このスズ酸カリウム水溶液に対し、2.5質量%の塩酸を2.9g/minの速度で添加してpHが9.1、酸化還元電位が253mVであるスズ前駆体溶液を得た。
次に、吐酒石0.95gを18.1gのイオン交換水に溶解して吐酒石水溶液を得た。吐酒石水溶液のpHは、3.3であり、酸化還元電位は390mVであった。吐酒石水溶液に1.5質量%アンモニア水溶液を2.9g/minの速度で添加してpHが7.0、酸化還元電位が320mVであるアンチモン前駆体水溶液を得た。
【0039】
上記したスズ前駆体水溶液に、上記したアンチモン前駆体水溶液を5.0g/minの速度で添加しながら、同時に2.5質量%の塩酸を2.9g/minの速度で添加したところ、pHが9.1から徐々に低下したが、pHが8.2となるまでは、酸化還元電位は253mVと320mVの間を維持でき、これをATO複合前駆体溶液とした。
上記したATO複合前駆体溶液にさらに塩酸を加えてpHを8.2から下げていくと徐々に酸化還元電位が低下し、最終的にpHが8.1、酸化還元電位が160mVであるATO複合前駆体ゲル分散液が得られた。
【0040】
〔複合金属酸化物粒子連結体(新規なATO複合粒子)の製造〕
上記したATO複合前駆体ゲル分散液を濾過により脱水し温水を掛けながら通水洗浄した。その結果、得られたATO複合前駆体洗浄ゲルを5質量%濃度になるように純水に懸濁したときに電導度が1.44mS/cmであるATO複合前駆体洗浄ゲルが得られた。
上記したATO複合前駆体洗浄ゲルを濃度5質量%となるように純水に懸濁したところpHは8.1であった。さらに、アンモニア水溶液(濃度1.0質量%)を用いてpHを8.4に調整し、オートクレーブに仕込んで200℃で16時間処理して、ATO粒子分散液を得た。
【0041】
上記したATO粒子分散液を80℃で乾燥した後、400℃で焼結してATO粉末(新規なATO複合粒子)を得た。このATO粉末を、電子顕微鏡を用いて観察したところ、一次粒子が立方体に近く、立方体の一辺の長さが80nm~200nmであった(一辺の平均長さは138nm)。図4にこのATO粉末の電子顕微鏡写真を示す。また、図5は、図4の写真における連結構造を拡大したものである。各一次粒子が互いに直線状に連結した構造をとっていることが分かる。
そして、このATO粉末の粉体抵抗を測定したところ1×10Ω/μmであり、後述する比較例1におけるATO粉末よりもはるかに低い値を示した。それ故、本発明のATO粉末は例えば導電性塗膜などの電気化学的デバイスなどの素材として好適に用いることができる。
【0042】
[比較例1]
〔ATO複合粒子の製造〕
従来公知の方法でATO粉末を製造した。具体的には以下の通りである。
スズ酸カリウム130gと酒石酸アンチモニルカリウム30gを純水400gに溶解した混合液を調製した。
この調製した混合液を、純水1000gに硝酸アンモニウム1.0gとアンモニア水溶液(濃度15質量%)12gを溶解してなる水溶液に、12時間かけて撹拌しながら添加して加水分解を行った(液温度は60℃に保った)。
このとき硝酸溶液(濃度10質量%)を、前記水溶液のpHを9.0に保つよう同時に添加した。
【0043】
生成した沈殿物を濾別洗浄した後、再び水に分散させて固形分濃度20質量%の金属酸化物前駆体水酸化物分散液を調製した。この分散液を温度100℃で噴霧乾燥して金属酸化物前駆体水酸化物粉体を調製した。この粉体を空気雰囲気下、550℃で2時間加熱処理することによりSbド-プ酸化錫(ATO)粉末を得た。この粉末60gを濃度4.3質量%の水酸化カリウム水溶液140gに分散させ、分散液を30℃に保持しながらサンドミルで3時間粉砕してゾルを調製した。次に、このゾルをイオン交換樹脂でpHが3.0になるまで脱アルカリイオン処理を行い、ついで、純水を加えて固形分濃度20質量%のSbドープ酸化スズ微粒子からなるATO粒子分散液を調製した。このATO粒子分散液のpHは3.3であった。
上記したATO粒子分散液を80℃で乾燥した後、400℃で焼結してATO粉末(ATO複合粒子)を得た。このATO粉末を、電子顕微鏡を用いて観察したところ、一次粒子径が10nm~50nmであった(平均粒子径20nm)。一次粒子の形状は球状に近く、互いに直線的に連結した集合構造はとっていなかった。また、このATO粉末の粉体抵抗を測定したところ1×10Ω/μmであった。
図1
図2
図3
図4
図5