(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-25
(45)【発行日】2022-05-09
(54)【発明の名称】紡糸延伸装置
(51)【国際特許分類】
D01D 10/00 20060101AFI20220426BHJP
D02J 1/22 20060101ALI20220426BHJP
【FI】
D01D10/00 A
D02J1/22 302Z
(21)【出願番号】P 2018012278
(22)【出願日】2018-01-29
【審査請求日】2020-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】502455511
【氏名又は名称】TMTマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】特許業務法人梶・須原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】米倉 踏青
(72)【発明者】
【氏名】北山 太
(72)【発明者】
【氏名】川本 和弘
(72)【発明者】
【氏名】水谷 光範
【審査官】鈴木 祐里絵
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-524840(JP,A)
【文献】特開2016-164314(JP,A)
【文献】特開昭61-252311(JP,A)
【文献】特開2012-36526(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01D1/00-13/02
D02G1/00-3/48
D02J1/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定方向の一方側の壁面が扉部とされている保温箱と、
軸方向が前記所定方向と平行となるように前記保温箱内に配置されており、複数の糸が前記軸方向に並んだ状態で外周面に巻き掛けられる加熱ローラと、
前記保温箱の前記所定方向の他方側の壁面から前記一方側に突出し、且つ、閉状態の前記扉部から離間配置される板状部材と、
前記板状部材の前記一方側の端と閉状態の前記扉部との間の隙間を塞ぐシール部材と、
を備え
、
前記シール部材は弾性部材であることを特徴とする紡糸延伸装置。
【請求項2】
前記保温箱には、前記保温箱に前記複数の糸を導入するための導入口が形成されており、
前記板状部材として、前記導入口と前記加熱ローラとの間に第1整流板が配置されており、前記第1整流板に対して前記シール部材が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の紡糸延伸装置。
【請求項3】
前記保温箱には、前記保温箱から前記複数の糸を導出するための導出口が形成されており、
前記板状部材として、前記導出口と前記加熱ローラとの間に第2整流板が配置されており、前記第2整流板に対して前記シール部材が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の紡糸延伸装置。
【請求項4】
前記加熱ローラとして、延伸前の糸を加熱する予熱ローラと、前記予熱ローラよりも糸走行方向下流側に配置され、前記予熱ローラよりも高温且つ高速に設定された調質ローラと、が配置されており、
前記板状部材として、前記予熱ローラと前記調質ローラとの間に仕切板が配置されており、前記仕切板に対して前記シール部材が設けられていることを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の紡糸延伸装置。
【請求項5】
糸走行方向に複数の前記予熱ローラが設けられており、
前記複数の予熱ローラのうち最も糸走行方向下流側に配置された最終予熱ローラと、前記調質ローラとの間に配置された前記仕切板に対して、前記シール部材が設けられていることを特徴とする請求項4に記載の紡糸延伸装置。
【請求項6】
前記仕切板よりも前記予熱ローラが配置されている側の低温空間と、前記仕切板よりも前記調質ローラが配置されている側の高温空間とを連通させる連通流路が、前記軸方向において前記複数の糸が並んでいる領域にわたって形成されていることを特徴とする請求項4又は5に記載の紡糸延伸装置。
【請求項7】
前記連通流路は、前記予熱ローラと前記調質ローラとの間の糸道とは異なる位置に形成された流路であることを特徴とする請求項6に記載の紡糸延伸装置。
【請求項8】
前記連通流路は、前記保温箱の前記所定方向に平行な壁面と前記仕切板との間に形成されていることを特徴とする請求項6又は7に記載の紡糸延伸装置。
【請求項9】
前記保温箱の前記所定方向に平行な壁面のうち前記連通流路よりも前記調質ローラ側の位置から前記調質ローラの外周面に向かって延びる遮断部材が設けられており、
前記調質ローラの外周面のうち前記遮断部材の先端部に対向する部分が前記連通流路から遠ざかるように、前記調質ローラは回転していることを特徴とする請求項8に記載の紡糸延伸装置。
【請求項10】
前記連通流路の流路面積を変更するためのシャッターが設けられていることを特徴とする請求項6~9の何れか1項に記載の紡糸延伸装置。
【請求項11】
前記シール部材は、前記板状部材に取り付けられていることを特徴とする請求項1~10の何れか1項に記載の紡糸延伸装置。
【請求項12】
前記シール部材は、前記板状部材の前記一方側の端に沿って長手方向に延びており、
前記シール部材は、前記長手方向に直交する断面がU字形状の固定部を有することを特徴とする請求項11に記載の紡糸延伸装置。
【請求項13】
前記固定部は、
前記長手方向に直交する断面がU字形状のU字部と、
前記U字部のU字形状に沿って設けられた塑性変形可能な金属部材と、
を有し、
前記U字部で前記板状部材を挟み込むように前記U字部を変形させたときに、前記金属部材が塑性変形することを特徴とする請求項12に記載の紡糸延伸装置。
【請求項14】
前記固定部は、前記U字部の内側に突出する爪部をさらに有することを特徴とする請求項13に記載の紡糸延伸装置。
【請求項15】
前記シール部材は、前記板状部材の前記一方側の端と前記扉部との間に中空状のシール部を有することを特徴とする請求項1~14の何れか1項に記載の紡糸延伸装置。
【請求項16】
前記シール部材はシリコンゴム製であることを特徴とする請求項1~15の何れか1項に記載の紡糸延伸装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸を延伸する紡糸延伸装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、前面が扉部とされている保温箱内に、糸を加熱するための複数の加熱ローラ(ゴデットローラ)が配置された紡糸延伸装置が開示されている。複数の加熱ローラは、軸方向が前後方向と平行になるように配置されており、その外周面には複数の糸が軸方向に並んだ状態で巻き掛けられる。また、この紡糸延伸装置には、保温箱の背面から前方の扉部に向かって突出するように複数の板状部材が配置されている。これらの板状部材は、整流板として機能したり、保温箱内の高温空間と低温空間とを仕切る仕切板として機能したりする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
保温箱内に配置された板状部材が前方に突出しすぎていると、扉部を閉めるときに扉部が板状部材と接触し、扉部をきちんと閉められなくなる。このため、板状部材は閉状態の扉部から離間配置されている。これによって、板状部材の前端と閉状態の扉部との間には隙間が確保され、扉部が板状部材と接触することを防止できる。
【0005】
しかしながら、板状部材と扉部との間に隙間があると、この隙間を空気が流れることにより気流が生じる。この気流は保温箱内の前端部に生じるため、前部の気流に大きな影響を及ぼし、後部の気流に対する影響は相対的に小さい。このため、保温箱内の気流を前後方向において不均一にさせる要因となっていた。加熱ローラに巻き掛けられている複数の糸は、加熱ローラの軸方向(前後方向)に並んでいるため、気流が前後方向において不均一になると、各糸に対する気流の作用に大きな差が生じ、糸の品質にばらつきが生じるおそれがあった。
【0006】
以上の課題に鑑みて、本発明に係る紡糸延伸装置は、保温箱内に板状部材が設けられている場合に、加熱ローラの軸方向において保温箱内の気流が不均一になることを抑えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、所定方向の一方側の壁面が扉部とされている保温箱と、軸方向が前記所定方向と平行となるように前記保温箱内に配置されており、複数の糸が前記軸方向に並んだ状態で外周面に巻き掛けられる加熱ローラと、前記保温箱の前記所定方向の他方側の壁面から前記一方側に突出し、且つ、閉状態の前記扉部から離間配置される板状部材と、前記板状部材の前記一方側の端と閉状態の前記扉部との間の隙間を塞ぐシール部材と、を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、板状部材の一方側の端と閉状態の扉部との間の隙間を塞ぐシール部材が設けられているので、板状部材と扉部との間に気流が生じることがない。したがって、加熱ローラの軸方向において保温箱内の気流が不均一になることを抑えることができる。
【0009】
本発明において、前記保温箱には、前記保温箱に前記複数の糸を導入するための導入口が形成されており、前記板状部材として、前記導入口と前記加熱ローラとの間に第1整流板が配置されており、前記第1整流板に対して前記シール部材が設けられているとよい。
【0010】
第1整流板と扉部との間に隙間があると、導入口付近の冷たい空気がこの隙間を通って加熱ローラ側に流れ込んだり、加熱ローラ周辺の温かい空気がこの隙間を通って逃げたりすることで、加熱ローラの消費電力が増加するおそれがある。そこで、第1整流板に対してシール部材を設けることで、第1整流板と扉部との間における空気の流れを遮断し、加熱ローラの消費電力の増加を抑えることができる。
【0011】
本発明において、前記保温箱には、前記保温箱から前記複数の糸を導出するための導出口が形成されており、前記板状部材として、前記導出口と前記加熱ローラとの間に第2整流板が配置されており、前記第2整流板に対して前記シール部材が設けられているとよい。
【0012】
第2整流板と扉部との間に隙間があると、導出口付近の冷たい空気がこの隙間を通って加熱ローラ側に流れ込んだり、加熱ローラ周辺の温かい空気がこの隙間を通って逃げたりすることで、加熱ローラの消費電力が増加するおそれがある。そこで、第2整流板に対してシール部材を設けることで、第2整流板と扉部との間における空気の流れを遮断し、加熱ローラの消費電力の増加を抑えることができる。
【0013】
本発明において、前記加熱ローラとして、延伸前の糸を加熱する予熱ローラと、前記予熱ローラよりも糸走行方向下流側に配置され、前記予熱ローラよりも高温且つ高速に設定された調質ローラと、が配置されており、前記板状部材として、前記予熱ローラと前記調質ローラとの間に仕切板が配置されており、前記仕切板に対して前記シール部材が設けられているとよい。
【0014】
仕切板と扉部との間に隙間があると、高温の調質ローラ側から低温の予熱ローラ側へと意図せずに熱が移動し、予熱ローラが設定温度を超えてしまうおそれがある。そこで、仕切板に対してシール部材を設け、調質ローラ側から予熱ローラ側への熱移動を抑えることで、予熱ローラの温度が上昇しすぎることを抑えることができる。
【0015】
本発明において、糸走行方向に複数の前記予熱ローラが設けられており、前記複数の予熱ローラのうち最も糸走行方向下流側に配置された最終予熱ローラと、前記調質ローラとの間に配置された前記仕切板に対して、前記シール部材が設けられているとよい。
【0016】
複数の予熱ローラが設けられている場合、各予熱ローラで糸は順次加熱されるため、最終予熱ローラでは糸の加熱によって消費される熱量が少ない。また、最終予熱ローラは調質ローラの近くに配置される。したがって、最終予熱ローラは他の予熱ローラと比べて、調質ローラからの熱の影響で温度が上昇しやすい。さらに、最終予熱ローラと調質ローラとの間で糸が延伸されるため、最終予熱ローラの温度制御は特に精度が要求される。そこで、最終予熱ローラと調質ローラとの間の仕切板に対してシール部材を設ければ、最終予熱ローラの温度が上昇しすぎることを抑え、最終予熱ローラの温度を精度よく制御することが可能となる。
【0017】
本発明において、前記仕切板よりも前記予熱ローラが配置されている側の低温空間と、前記仕切板よりも前記調質ローラが配置されている側の高温空間とを連通させる連通流路が、前記軸方向において前記複数の糸が並んでいる領域にわたって形成されているとよい。
【0018】
上述のように、仕切板に対してシール部材を設けることで、予熱ローラの温度が上昇しすぎることを抑えることができる。しかし、その反面、調質ローラからの熱を予熱ローラの加熱に有効利用できないという副作用もある。そこで、予熱ローラ側の低温空間と調質ローラ側の高温空間との間に連通流路を適切に設けることで、予熱ローラの温度が上昇しすぎることを抑えつつ、調質ローラからの熱を予熱ローラの加熱に有効利用することができる。この連通流路は、軸方向において複数の糸が並んでいる領域にわたって形成されている。したがって、連通流路に生じる気流による各糸への影響を概ね均一化することができ、糸の品質のばらつきを抑えることができる。
【0019】
本発明において、前記連通流路は、前記予熱ローラと前記調質ローラとの間の糸道とは異なる位置に形成された流路であるとよい。
【0020】
このように、連通流路を糸道とは別に設けることにより、糸の走行に伴う随伴流によって熱が低温空間から高温空間に逆流することを防止でき、高温空間から低温空間へ熱を効率的に移動させることができる。
【0021】
本発明において、前記連通流路は、前記保温箱の前記所定方向に平行な壁面と前記仕切板との間に形成されているとよい。
【0022】
こうすれば、保温箱の壁面に沿って連通流路内を空気が流れやすくなり、高温空間から低温空間へ熱を効率的に移動させることができる。
【0023】
本発明において、前記保温箱の前記所定方向に平行な壁面のうち前記連通流路よりも前記調質ローラ側の位置から前記調質ローラの外周面に向かって延びる遮断部材が設けられており、前記調質ローラの外周面のうち前記遮断部材の先端部に対向する部分が前記連通流路から遠ざかるように、前記調質ローラは回転しているとよい。
【0024】
このような構成によれば、糸の走行に伴う随伴流が遮断部材によって遮られ、随伴流に含まれる熱が連通流路から遠ざかる方向に逃げるのを抑えることができる。したがって、高温空間から低温空間へ熱を効率的に移動させることができる。
【0025】
本発明において、前記連通流路の流路面積を変更するためのシャッターが設けられているとよい。
【0026】
このような構成によれば、シャッターの開度を調整することによって、連通流路を流れる空気の流量を制御することができ、ひいては高温空間から低温空間への熱の移動量を調整することができる。最適な熱の移動量は、糸の種類に応じて決まる各ローラの設定温度や外気温等の条件によって変化する可能性がある。このような場合でも、条件に応じてシャッターの開度を調整することで、条件にかかわらず、予熱ローラの温度を良好に制御しつつ、消費電力を抑えることができる。
【0027】
本発明において、前記シール部材は、前記板状部材に取り付けられているとよい。
【0028】
シール部材を扉部に取り付けることも可能であるが、そうすると、シール部材を板状部材の位置に合わせて正確に位置決めを行う必要がある。一方、シール部材を板状部材に取り付ければ、シール部材の位置決めの必要がなく、シール部材の取付作業が簡単となる。
【0029】
本発明において、前記シール部材は、前記板状部材の前記一方側の端に沿って長手方向に延びており、前記シール部材は、前記長手方向に直交する断面がU字形状の固定部を有するとよい。
【0030】
このような構成によれば、U字形状の固定部で板状部材の一方側の端部を挟み込むことで、シール部材を簡単に板状部材に取り付けることができる。
【0031】
本発明において、前記固定部は、前記長手方向に直交する断面がU字形状のU字部と、前記U字部のU字形状に沿って設けられた塑性変形可能な金属部材と、を有し、前記U字部で前記板状部材を挟み込むように前記U字部を変形させたときに、前記金属部材が塑性変形するとよい。
【0032】
このような構成によれば、U字部で板状部材の一方側の端部を挟み込んだ状態を良好に維持することができ、シール部材が板状部材から外れることを回避できる。
【0033】
本発明において、前記固定部は、前記U字部の内側に突出する爪部をさらに有するとよい。
【0034】
このような構成によれば、U字部で板状部材の一方側の端部を挟み込むときに、爪部が変形して板状部材に密着することにより、U字部と板状部材との間の気密性を高めることができる。
【0035】
本発明において、前記シール部材は、前記板状部材の前記一方側の端と前記扉部との間に中空状のシール部を有するとよい。
【0036】
このような構成によれば、扉部を閉めたときに、シール部が押しつぶされるように変形しやすい。このため、シール部材による気密性が高まり、板状部材と扉部との間の隙間に気流が生じることをより確実に防止できる。
【0037】
本発明において、前記シール部材はシリコンゴム製であるとよい。
【0038】
シリコンゴムは耐熱性に優れているため、保温箱の内部が高温となる紡糸延伸装置でも好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】本実施形態の紡糸延伸装置を備える紡糸引取機を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
[紡糸引取機]
本発明に係る紡糸延伸装置の実施形態について説明する。
図1は、本実施形態の紡糸延伸装置を備える紡糸引取機を示す模式図である。
図1に示すように、紡糸引取機1は、紡糸装置2から連続的に紡出されたポリエステル等の溶融繊維材料が固化して形成された複数の糸Yを、紡糸延伸装置3で延伸した後、糸巻取装置4で巻き取る構成となっている。なお、
図1に示した方向が紡糸引取機1の方向を示すものと定義する。
【0041】
紡糸装置2は、ポリエステル等の溶融繊維材料を連続的に紡出することで、複数の糸Yを生成する。紡糸装置2から紡出された複数の糸Yは、油剤ガイド10によって油剤が付与された後、案内ローラ11を経て紡糸延伸装置3に送られる。紡糸延伸装置3は、複数の糸Yを延伸する装置であり、紡糸装置2の下方に配置されている。紡糸延伸装置3は、保温箱20の内部に複数のゴデットローラ31~35が設けられた構成となっている。紡糸延伸装置3については、後で詳細に説明する。
【0042】
紡糸延伸装置3で延伸された複数の糸Yは、案内ローラ12を経て糸巻取装置4に送られる。糸巻取装置4は、複数の糸Yを巻き取る装置であり、紡糸延伸装置3の下方に配置されている。糸巻取装置4は、ボビンホルダ13やコンタクトローラ14等を備えている。ボビンホルダ13は、
図1の紙面奥行方向に延びる円筒形状を有し、図示しないモータによって回転駆動される。ボビンホルダ13には、その軸方向に複数のボビンBが並んだ状態で装着される。糸巻取装置4は、ボビンホルダ13を回転させることによって、複数のボビンBに複数の糸Yを同時に巻取り、複数のパッケージPを生産する。コンタクトローラ14は、複数のパッケージPの表面に接触して所定の接圧を付与し、パッケージPの形状を整える。
【0043】
[紡糸延伸装置]
図2は、紡糸延伸装置3を詳細に示す図であり、
図3は、保温箱20の斜視図である。紡糸延伸装置3は、保温箱20と、保温箱20の内部に収容された複数(本実施形態では5つ)のゴデットローラ31~35と、を有する。
図3に示すように、保温箱20は、上面部21、右側面部22、右下傾斜部23、左側面部24、左下傾斜部25、背面部26、及び、扉部27によって箱状に形成されている。扉部27は、左側面部24に不図示のヒンジを介して取り付けられており、このヒンジを中心に前後方向に揺動することで開閉可能となっている。右側面部22の下部には、複数の糸Yを保温箱20の内部に導入するための導入口20aが形成されている。右側面部22の上部には、複数の糸Yを保温箱20の外部に導出するための導出口20bが形成されている。
【0044】
ゴデットローラ31~35は、不図示のモータによって回転駆動されるとともに、不図示のヒータを有する加熱ローラである。加熱ローラ31~35は、その軸方向が前後方向(本発明の「所定方向」)と平行となるように、保温箱20の背面部26から扉部27に突出した態様で配置されている。加熱ローラ31~35は、
図2の矢印の方向にそれぞれ回転している。導入口20aから保温箱20の内部に導入された複数の糸Yは、加熱ローラ31~35の外周面に軸方向に並んだ状態で巻き掛けられており、最終的に導出口20bから保温箱20の外部に導出される。
【0045】
下側3つの加熱ローラ31~33は、複数の糸Yを延伸する前に予熱するための予熱ローラであり、これらの表面温度は、糸Yのガラス転移点以上の温度(例えば80℃程度)に設定されている。一方、上側2つの加熱ローラ34、35は、延伸された複数の糸Yを熱セットするための調質ローラであり、これらの表面温度は、予熱ローラ31~33の表面温度よりも高い温度(例えば130~140℃程度)に設定されている。また、調質ローラ34、35の回転速度すなわち糸送り速度は、予熱ローラ31~33よりも速くなっている。
【0046】
導入口20aを介して保温箱20の内部に導入された複数の糸Yは、まず、予熱ローラ31~33によって送られる間に延伸可能な温度まで予熱される。予熱された複数の糸Yは、予熱ローラ33と調質ローラ34との間の糸送り速度の差によって延伸される。複数の糸Yは、調質ローラ34、35によって送られる間にさらに高温に加熱されて、延伸された状態が熱セットされる。このようにして延伸された複数の糸Yは、導出口20bを介して保温箱20の外部に導出される。
【0047】
保温箱20の内部には、板状部材41~44が配設されている。板状部材41~44は、保温箱20の内部における空気の流れを整流する「整流板」として機能する。具体的には、板状部材41~44は、保温箱20の内部における導入口20aから導出口20bに至る空気の流れが、概ね糸走行方向に沿ったものとなるように配置されている。また、板状部材42、43は、低温の予熱ローラ31~33が配置された下部の低温空間と、高温の調質ローラ34、35が配置された上部の高温空間との間に配置されている。つまり、板状部材42、43は、高温空間と低温空間とを仕切る「仕切板」としても機能する。
【0048】
さらに、保温箱20の内部には、遮断部材51~54が配設されている。遮断部材51~54は、調質ローラ34又は35の外周面に向かって延びており、その先端部は調質ローラ34又は35の外周面に近接している。保温箱20の内部では、複数の糸Yの走行に伴って随伴流が生じるが、この随伴流が増幅しながら糸走行方向下流側に進むと、導出口20bから多くの熱が逃げてしまい、保温箱20による保温効果が低下する。そこで、遮断部材51~54によって随伴流を遮断し、随伴流の増幅を抑えることで、保温効果の低下を抑えている。なお、遮断部材51、52、54は、調質ローラ34、35への糸掛けの支障とならないように、基部を中心に揺動可能に構成されている。詳細については、特開2016-216882号公報を参照されたい。
【0049】
[保温箱内の気流の改善]
板状部材41~44は、保温箱20の背面部26から前方に突出するように配設されている。扉部27を閉めるときに扉部27が板状部材41~44の前端に接触しないよう、板状部材41~44は閉状態の扉部27から離間配置されている。しかしそうすると、板状部材41~44の前端と閉状態の扉部27との間に気流が生じ、その結果、保温箱20内の気流が前後方向において不均一になるという問題があった。加熱ローラ31~35に巻き掛けられている複数の糸Yは、加熱ローラ31~35の軸方向(前後方向)に並んでいる。このため、保温箱20内の気流が前後方向において不均一になると、各糸Yに対する気流の作用に大きな差が生じ、糸Yの品質にばらつきが生じるおそれがあった。
【0050】
そこで、本実施形態では、板状部材41~44の前端部に、板状部材41~44の前端と閉状態の扉部27との間の隙間を塞ぐシール部材61~64(
図2の一点鎖線参照)を取り付けている。シール部材61~64は、板状部材41~44の前端に沿った長手方向に延びる線状の弾性部材である。以下、シール部材61の構成について説明するが、シール部材62~64もシール部材61と同様の構成である。
【0051】
図4は、シール部材61の断面図であり、
図5は、シール部材61の取付態様を示す断面図である。これらの断面図は、シール部材61の長手方向に直交する断面を図示したものである。シール部材61は、中空状のシール部66と、断面がU字形状の固定部67と、シール部66と固定部67とを接続する接続部68と、を有する。シール部材61は、後述の金属部材67bを除いて、シリコンゴムで一体的に作製されている。
【0052】
シール部66には、長手方向に貫通する貫通孔66aが形成されている。これによって、シール部66は中空状となっている。固定部67は、U字形状のU字部67aと、U字部67aの中に埋め込まれた金属部材67bと、複数の爪部67cと、を有する。金属部材67bは、U字部67aのU字形状に沿って配置された線状の部材であり、塑性変形可能な金属材料からなる。金属部材67bは、例えばインサート成形によって、シール部材61の長手方向に複数埋め込まれている。爪部67cは、U字部67aから内側に突出するように形成された突起状の部位である。本実施形態では、互いに対向する1対の爪部67cが2対形成されているものとするが、爪部67cを何対形成するかは適宜変更可能であるし、爪部67cを対向配置することは必須ではない。
【0053】
図5のa図に示すように、シール部材61を板状部材41に取り付ける際には、U字形状の固定部67で板状部材41の前端部を挟み込み、固定部67を板状部材41に押さえ付けるように変形させる。そうすると、複数の爪部67cが弾性変形して板状部材41に密着する。また、固定部67を板状部材41に押さえ付けるように変形させると、金属部材67bが塑性変形し、固定部67で板状部材41を挟み込んだ状態を良好に維持することができる。
【0054】
このようにシール部材61が板状部材41に取り付けられると、シール部66は板状部材41の前方に位置する。このため、
図5のb図に示すように、扉部27を閉めると、扉部27がシール部66に接触し、中空状のシール部66を押しつぶす。その結果、シール部66が扉部27に密着するので、扉部27とシール部66との間の気密性を向上させることができる。
【0055】
以上のように構成されたシール部材61~64を、板状部材41~44の前端部に取り付けることで、板状部材41~44と扉部27との間の隙間を塞ぐことができ、板状部材41~44の前端と閉状態の扉部27との間に気流が生じることがない。このため、保温箱20の内部の気流が前後方向において不均一になるのを抑えることができる。
【0056】
[解析による検証]
シール部材61~64の有無によって、気流がどのように変化するかを流体解析によって検証した。具体的には、
図2に示すVI-VI面における気流を、板状部材44にシール部材64を取り付けない場合と取り付けた場合について解析した。実機の運転条件を想定し、予熱ローラ31~33の回転速度を2260~2490m/minとし、調質ローラ34、35の回転速度を4875m/minとした。
【0057】
図6は、流体解析の結果を示す図であり、VI-VI面における気流を上から見た図である。
図6のa図に示すように、シール部材64がない場合は、板状部材44の前方に隙間が生じているために、この隙間を流れる気流が生じている(楕円で囲んだ範囲を参照)。その影響で、前後方向において気流が不均一となるとともに、糸走行方向に沿った気流が大きく乱されている。このように、前後方向において気流が不均一となると、前後方向に並んで走行している各糸Yの品質にばらつきが生じやすくなる。また、糸走行方向に沿った気流が乱されることで、糸揺れが生じやすくなるという問題もある。ちなみに、
図6において右方向への大きな流速が生じているのは、調質ローラ35の直上の領域である。
【0058】
一方、
図6のb図に示すように、シール部材64を設けた場合は、板状部材44の前方の隙間が塞がれることによって、この隙間を空気が流れなくなり、前後方向における気流が不均一となることが抑えられている。したがって、各糸Yの品質のばらつきを抑えることが可能となっている。また、糸走行方向に沿った気流も概ね良好に維持されており、糸揺れが生じにくくなっている。シール部材61~63を設けた他の部位でも同様の効果が見られる。
【0059】
[気流改善と省エネとの両立]
低温の予熱ローラ33と高温の調質ローラ35との間に配置されている板状部材43に対してシール部材63を設けた場合、上述のような気流改善の効果があるが、一方で次のような副作用もある。板状部材43と扉部27との間に隙間がある場合には、この隙間を空気が流れることで、高温の調質ローラ35側から低温の予熱ローラ33側に熱が移動しやすい。その結果、予熱ローラ33を効率的に加熱でき、紡糸延伸装置3の消費電力を低減することができる。ところが、シール部材63でこの隙間を塞ぐことによって、調質ローラ35側から予熱ローラ33側へと熱が移動しにくくなり、紡糸延伸装置3の消費電力が増加してしまうおそれがある。
【0060】
そこで、本実施形態では、
図7に示すように、板状部材43よりも予熱ローラ33が配置されている下側の低温空間45と、板状部材43よりも調質ローラ35が配置されている上側の高温空間46とを連通させる連通流路47を設けている。連通流路47は、保温箱20の左側面部24の内面と板状部材43との間に形成されている。高温空間46から低温空間45へ連通流路47を介して熱が移動することによって、紡糸延伸装置3の消費電力の増加を抑えることができる。
【0061】
しかし、連通流路47を単に設けるだけでは、高温空間46から低温空間45へ熱が移動しすぎて、予熱ローラ33の温度が設定温度を超してしまうおそれもある。そこで、本実施形態では、連通流路47の流路面積を変更するためのシャッター48、49を設けている。
図7は、連通流路47付近の拡大図であり、
図8は、上側シャッター48の上面図である。
図8のa図は上側シャッター48を全閉にした状態を示し、b図は上側シャッター48を全開にした状態を示す。なお、
図8において、上側シャッター48は太線で図示している。
【0062】
図7に示すように、板状部材43は、左右方向に延びる上側仕切部43aと、上側仕切部43aの下方に間隔を空けて配置され、左右方向に延びる下側仕切部43bと、上側仕切部43aの左端部と下側仕切部43bの左端部とを接続し、上下方向に延びる接続部43cとが一体形成された構成を有する。ただし、各部43a~43cがそれぞれ別体として構成されていてもよい。
【0063】
図8のb図に示すように、上側仕切部43aの左後方の角部は、矩形状に切り欠かれた切欠部43dとなっており、この切欠部43dが連通流路47の上端となっている。図示は省略するが、下側仕切部43bの左後方の角部も、矩形状に切り欠かれた切欠部となっており、この切欠部が連通流路47の下端となっている。つまり、上側仕切部43aに形成された切欠部43dと、下側仕切部43bに形成された切欠部との間が、連通流路47となっている。
図8では調質ローラ35を一点鎖線で図示している。図より明らかなように、調質ローラ35(他の加熱ローラ31~34も同様)は、前後方向において連通流路47(切欠部43d)の形成領域に収まっている。換言すると、軸方向において加熱ローラ31~35に複数の糸Yが巻き掛けられている領域、すなわち、複数の糸Yが前後方向に並んでいる領域にわたって、連通流路47は形成されていることになる。
【0064】
上側仕切部43aには、左右方向に延びる長穴43eが前後方向に2つ形成されている。一方、上側シャッター48は、矩形状の板状部材であり、上側仕切部43aの上面に取り付けられる。上側シャッター48は、切欠部43dを閉塞可能な寸法を有している。上側シャッター48には、上側仕切部43aに形成された2つの長穴43eに対応して、不図示の丸穴が前後方向に2つ形成されている。
図7に示すように、ボルト71を上側シャッター48の丸穴及び上側仕切部43aの長穴43eに通し、ボルト71にナット72を締め付けることで、上側シャッター48を上側仕切部43aに固定することができる。下側仕切部43b及び下側シャッター49も同様の構成となっており、ボルト73及びナット74によって下側シャッター49を下側仕切部43bに固定することができる。
【0065】
このような構成によれば、ナット72を緩めた状態で上側シャッター48を長穴43eに沿って左右方向に移動させることで、上側シャッター48の開度(上側仕切部43aの切欠部43dの開放度)を変更し、連通流路47の流路面積を調整することができる。同様に、ナット74を緩めた状態で下側シャッター49を長穴に沿って左右方向に移動させることで、下側シャッター49の開度(下側仕切部43bの切欠部の開放度)を変更し、連通流路47の流路面積を調整することができる。
【0066】
例えば、
図8のa図に示すように、シャッター48、49を保温箱20の左側面部24の内面に当接するまで左側に移動させると、連通流路47を閉塞することができる。一方、シャッター48、49を左側面部24から遠ざけるように右側に移動させると、連通流路47が徐々に開放され、
図8のb図に示すように連通流路47を全開放することもできる。また、シャッター48、49の開度をそれぞれ個別に調整することで、連通流路47における空気の流量や流れ方を細かに制御することができる。
【0067】
遮断部材51~54を設けることによって、随伴流に伴って熱が保温箱20から出ていくことを抑制していることは既述の通りであるが、特に遮断部材54は、高温空間46の熱を低温空間45に効率的に移動させるのに寄与している。
図3に示すように、遮断部材54は、保温箱20の左側面部24のうち連通流路47よりも調質ローラ35側(上側)の位置から、調質ローラ35の外周面に向かって延びている。そして、調質ローラ35の外周面のうち遮断部材54の先端部に対向する部分Aが連通流路47から遠ざかるように、調質ローラ35は時計回りに回転している。このため、調質ローラ35の周りを流れる随伴流が遮断部材54によって遮断され、随伴流に含まれる熱が遮断部材54より糸走行方向下流側に逃げることを抑えることができる。その分、連通流路47を介して高温空間46から低温空間45へ、より多くの熱を移動させることができる。
【0068】
以上のように構成された紡糸延伸装置3においては、上側シャッター48及び下側シャッター49の開度を、糸Yの種類や外気温等の条件に応じて適切に調整することで、連通流路47を流れる空気の流量、ひいては熱の移動量を制御することができる。予熱ローラ33が設定温度を超えない範囲で、できるだけ高温空間46から低温空間45に熱を移動させるように連通流路47の流路面積を調整することで、予熱ローラ33の制御性と紡糸延伸装置3の省エネという相反する課題をバランスよく両立することができる。
【0069】
[検証実験]
シール部材63の有無、及び、連通流路47の有無によって、加熱ローラ31~35のヒータのON率や紡糸延伸装置3の消費電力がどのように変化するかを検証するための実験を行った。
図9は、検証実験の結果を示す表である。本実験では、予熱ローラ31~33の設定温度を80℃、調質ローラ34、35の設定温度を134℃とした。また、実施例2ではシャッター48、49を全開にした。「ヒータのON率」とは、各加熱ローラ31~35の表面温度を設定温度に維持するために、ヒータを作動させている時間の割合を示す。つまり、ヒータのON率が低いほど省エネと考えられる。しかし、ヒータのON率が0%になると、ヒータを作動させなくても設定温度を超える可能性が高くなることを意味する。したがって、制御性を考慮するとヒータのON率は常に一定以上(例えば1%以上)であることが好ましい。また、
図9の消費電力は、加熱ローラ31~35の加熱に要する電力の合計を示す。
【0070】
既に説明したように、実施例1ではシール部材63を設けることによって気流を改善することはできる。しかし、シール部材63を設けない比較例と比べると、高温空間46から低温空間45への熱の移動が減少するため、予熱ローラ33のヒータのON率及び紡糸延伸装置3の消費電力が増加している。一方、シール部材63を設け、さらに連通流路47を設けた実施例2では、予熱ローラ33のヒータのON率及び紡糸延伸装置3の消費電力が比較例よりも減少している。しかも、上述のように、連通流路47は、複数の糸Yが前後方向に並んでいる領域にわたって形成されているので、保温箱20内の気流を前後方向において大きく不均一にさせることはない。
【0071】
なお、シャッター48、49を全開にすると、予熱ローラ33のヒータのON率が小さくなりすぎる(温度が制御しにくくなる)場合は、シャッター48、49の開度を調整することで、予熱ローラ33の制御性を維持しつつ、紡糸延伸装置3の省エネを図ることが可能である。
【0072】
[効果]
以上のように、本実施形態の紡糸延伸装置3によれば、板状部材41~44の前端と閉状態の扉部27との間の隙間を塞ぐシール部材61~64が設けられているので、板状部材41~44と扉部27との間に気流が生じることがない。したがって、加熱ローラ31~35の軸方向において保温箱20内の気流が不均一になることを抑えることができる。
【0073】
本実施形態では、保温箱20には、保温箱20に複数の糸Yを導入するための導入口20aが形成されており、板状部材として、導入口20aとゴデットローラ32との間に整流板41(本発明の「第1整流板」)が配置されており、整流板41に対してシール部材61が設けられている。整流板41と扉部27との間に隙間があると、導入口20a付近の冷たい空気がこの隙間を通ってゴデットローラ32側に流れ込んだり、ゴデットローラ32周辺の温かい空気がこの隙間を通って逃げたりすることで、ゴデットローラ32の消費電力が増加するおそれがある。そこで、整流板41に対してシール部材61を設けることで、整流板41と扉部27との間における空気の流れを遮断し、ゴデットローラ32の消費電力の増加を抑えることができる。
【0074】
本実施形態では、保温箱20には、保温箱20から複数の糸Yを導出するための導出口20bが形成されており、板状部材として、導出口20bとゴデットローラ34との間に整流板44(本発明の「第2整流板」)が配置されており、整流板44に対してシール部材64が設けられている。整流板44と扉部27との間に隙間があると、導出口20b付近の冷たい空気がこの隙間を通ってゴデットローラ34側に流れ込んだり、ゴデットローラ34周辺の温かい空気がこの隙間を通って逃げたりすることで、ゴデットローラ34の消費電力が増加するおそれがある。そこで、整流板44に対してシール部材64を設けることで、整流板44と扉部27との間における空気の流れを遮断し、ゴデットローラ34の消費電力の増加を抑えることができる。
【0075】
本実施形態では、加熱ローラとして、延伸前の糸Yを加熱する予熱ローラ31~33と、予熱ローラ31~33よりも糸走行方向下流側に配置され、予熱ローラ31~33よりも高温且つ高速に設定された調質ローラ34、35と、が配置されており、板状部材として、予熱ローラ32、33と調質ローラ34、35との間に仕切板42、43が配置されており、仕切板42、43に対してシール部材62、63が設けられている。仕切板42、43と扉部27との間に隙間があると、高温の調質ローラ34、35側から低温の予熱ローラ32、33側へと意図せずに熱が移動し、予熱ローラ32、33が設定温度を超えてしまうおそれがある。そこで、仕切板42、43に対してシール部材62、63を設け、調質ローラ34、35側から予熱ローラ32、33側への熱移動を抑えることで、予熱ローラ32、33の温度が上昇しすぎることを抑えることができる。
【0076】
本実施形態では、糸走行方向に複数の予熱ローラ31~33が設けられており、複数の予熱ローラ31~33のうち最も糸走行方向下流側に配置された予熱ローラ33(本発明の「最終予熱ローラ」)と、調質ローラ35との間に配置された仕切板43に対して、シール部材63が設けられている。複数の予熱ローラ31~33が設けられている場合、各予熱ローラ31~33で糸Yは順次加熱されるため、予熱ローラ33では糸Yの加熱によって消費される熱量が少ない。また、予熱ローラ33は調質ローラ35の近くに配置される。したがって、予熱ローラ33は他の予熱ローラ31、32と比べて、調質ローラ35からの熱の影響で温度が上昇しやすい。さらに、予熱ローラ33と調質ローラ34との間で糸Yが延伸されるため、予熱ローラ33の温度制御は特に精度が要求される。そこで、予熱ローラ33と調質ローラ35との間の仕切板43に対してシール部材63を設ければ、予熱ローラ33の温度が上昇しすぎることを抑え、予熱ローラ33の温度を精度よく制御することが可能となる。
【0077】
本実施形態では、仕切板43よりも予熱ローラ33が配置されている側の低温空間45と、仕切板43よりも調質ローラ35が配置されている側の高温空間46とを連通させる連通流路47が、軸方向において複数の糸Yが並んでいる領域にわたって形成されている。上述のように、仕切板43に対してシール部材63を設けることで、予熱ローラ33の温度が上昇しすぎることを抑えることができる。しかし、その反面、調質ローラ35からの熱を予熱ローラ33の加熱に有効利用できないという副作用もある。そこで、予熱ローラ33側の低温空間45と調質ローラ35側の高温空間46との間に連通流路47を適切に設けることで、予熱ローラ33の温度が上昇しすぎることを抑えつつ、調質ローラ35からの熱を予熱ローラ33の加熱に有効利用することができる。この連通流路47は、軸方向において複数の糸Yが並んでいる領域にわたって形成されている。したがって、連通流路47に生じる気流による各糸Yへの影響を概ね均一化することができ、糸Yの品質のばらつきを抑えることができる。
【0078】
本実施形態では、連通流路47は、予熱ローラ33と調質ローラ35との間の糸道とは異なる位置に形成された流路である。このように、連通流路47を糸道とは別に設けることにより、糸Yの走行に伴う随伴流によって熱が低温空間45から高温空間46に逆流することを防止でき、高温空間46から低温空間45へ熱を効率的に移動させることができる。
【0079】
本実施形態では、連通流路47は、保温箱20の前後方向に平行な側面部24と仕切板43との間に形成されている。こうすれば、保温箱20の側面部24に沿って連通流路47内を空気が流れやすくなり、高温空間46から低温空間45へ熱を効率的に移動させることができる。
【0080】
本実施形態では、保温箱20の側面部24のうち連通流路47よりも調質ローラ35側の位置から調質ローラ35の外周面に向かって延びる遮断部材54が設けられており、調質ローラ35の外周面のうち遮断部材54の先端部に対向する部分Aが連通流路47から遠ざかるように、調質ローラ35は回転している。このような構成によれば、糸Yの走行に伴う随伴流が遮断部材54によって遮られ、随伴流に含まれる熱が連通流路47から遠ざかる方向に逃げるのを抑えることができる。したがって、高温空間46から低温空間45へ熱を効率的に移動させることができる。
【0081】
本実施形態では、連通流路47の流路面積を変更するためのシャッター48、49が設けられている。このような構成によれば、シャッター48、49の開度を調整することによって、連通流路47を流れる空気の流量を制御することができ、ひいては高温空間46から低温空間45への熱の移動量を調整することができる。最適な熱の移動量は、糸Yの種類に応じて決まる各ローラ33、35の設定温度や外気温等の条件によって変化する可能性がある。このような場合でも、条件に応じてシャッター48、49の開度を調整することで、条件にかかわらず、予熱ローラ33の温度を良好に制御しつつ、消費電力を抑えることができる。
【0082】
本実施形態では、シール部材61~64は、板状部材41~44に取り付けられている。シール部材61~64を扉部27に取り付けることも可能であるが、そうすると、シール部材61~64を板状部材41~44の位置に合わせて正確に位置決めを行う必要がある。一方、シール部材61~64を板状部材41~44に取り付ければ、シール部材61~64の位置決めの必要がなく、シール部材61~64の取付作業が簡単となる。
【0083】
本実施形態では、シール部材61~64は、板状部材41~44の前端に沿って長手方向に延びており、シール部材61~64は、長手方向に直交する断面がU字形状の固定部67を有する。このような構成によれば、U字形状の固定部67で板状部材41~44の前端部を挟み込むことで、シール部材61~64を簡単に板状部材41~44に取り付けることができる。
【0084】
本実施形態では、固定部67は、長手方向に直交する断面がU字形状のU字部67aと、U字部67aのU字形状に沿って設けられた塑性変形可能な金属部材67bと、を有し、U字部67aで板状部材41~44を挟み込むようにU字部67aを変形させたときに、金属部材67bが塑性変形する。このような構成によれば、U字部67aで板状部材41~44の前端部を挟み込んだ状態を良好に維持することができ、シール部材61~64が板状部材41~44から外れることを回避できる。
【0085】
本実施形態では、固定部67は、U字部67aの内側に突出する爪部67cをさらに有する。このような構成によれば、U字部67aで板状部材41~44の前端部を挟み込むときに、爪部67cが変形して板状部材41~44に密着することにより、U字部67aと板状部材41~44との間の気密性を高めることができる。
【0086】
本実施形態では、シール部材61~64は、板状部材41~44の前端と扉部27との間に中空状のシール部66を有する。このような構成によれば、扉部27を閉めたときに、シール部66が押しつぶされるように変形しやすい。このため、シール部材61~64による気密性が高まり、板状部材41~44と扉部27との間の隙間に気流が生じることをより確実に防止できる。
【0087】
本実施形態では、シール部材61~64はシリコンゴム製である。シリコンゴムは耐熱性に優れているため、保温箱20の内部が高温となる紡糸延伸装置3でも好適に使用できる。
【0088】
[他の実施形態]
上記実施形態に種々の変更を加えた変形例について説明する。
【0089】
上記実施形態では、保温箱20の扉部27と板状部材41~44との間の隙間を塞ぐために、板状部材41~44にシール部材61~64を取り付けるものとした。しかしながら、シール部材61~64を扉部27に取り付けるようにしてもよい。また、シール部材61~64の具体的な形状や材料は、上記実施形態に示したものに限定されない。
【0090】
上記実施形態では、連通流路47が保温箱20の左側面部24と仕切板43との間に形成されるものとした。しかしながら、連通流路47の形成位置はこれに限定されず、例えば、仕切板43に開口を空けて連通流路を形成してもよい。また、連通流路の数も1つに限定されず、2つ以上設けてもよい。
【0091】
上記実施形態では、連通流路47を設けることによって、予熱ローラ33を効率的に昇温させることができるようにした。同様に、予熱ローラ32を効率的に昇温させるようにする場合には、仕切板42よりも予熱ローラ32が配置されている側の低温空間と、仕切板42よりも調質ローラ34が配置されている側の高温空間と、を連通させる連通流路を設けるようにしてもよい。そして、この連通流路に対してシャッターを設けるようにしてもよい。
【0092】
上記実施形態では、連通流路47が糸道とは異なる位置に形成されるものとした。しかしながら、連通流路内に糸道が形成されるようにしてもよい。この場合、シャッターを全閉にすることはできなくなるが、糸道を塞がない範囲でシャッターの開度を調整することは可能である。
【0093】
上記実施形態では、連通流路47における空気の流れ方向Dにおいて、連通流路47に複数のシャッター48、49を設けるものとした。しかしながら、シャッターは少なくとも1つあればよい。
【0094】
上記実施形態では、シャッター48、49を左右方向に移動可能に構成した。しかしながら、シャッターの具体的構成はこれに限定されず、例えば揺動動作により開閉するようなものでもよい。
【0095】
上記実施形態では、複数の予熱ローラ31~33及び複数の調質ローラ34、35が設けられるものとした。しかしながら、予熱ローラ及び調質ローラを複数設けることは必須ではなく、予熱ローラ及び調質ローラが少なくとも1つずつあればよい。
【符号の説明】
【0096】
3:紡糸延伸装置
20:保温箱
20a:導入口
20b:導出口
24:左側面部(所定方向に平行な壁面)
26:背面部(所定方向の他方側の壁面)
27:扉部(所定方向の一方側の壁面)
31~33:ゴデットローラ(加熱ローラ、予熱ローラ)
34、35:ゴデットローラ(加熱ローラ、調質ローラ)
41:板状部材(第1整流板)
42:板状部材(仕切板)
43:板状部材(仕切板)
44:板状部材(第2整流板)
45:低温空間
46:高温空間
47:連通流路
48:上側シャッター(シャッター)
49:下側シャッター(シャッター)
54:遮断部材
61~64:シール部材
66:シール部
67:固定部
67a:U字部
67b:金属部材
67c:爪部
Y:糸