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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-25
(45)【発行日】2022-05-09
(54)【発明の名称】耐熱部品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 41/89 20060101AFI20220426BHJP
   C04B 35/80 20060101ALI20220426BHJP
   C04B 35/577 20060101ALI20220426BHJP
   F01D 5/28 20060101ALI20220426BHJP
   F02C 7/00 20060101ALI20220426BHJP
【FI】
C04B41/89 Z
C04B35/80 600
C04B35/577
F01D5/28
F02C7/00 C
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2018064963
(22)【出願日】2018-03-29
(65)【公開番号】P2019172534
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2020-12-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高木 俊
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-135727(JP,A)
【文献】特開2017-052673(JP,A)
【文献】国際公開第2017/217076(WO,A1)
【文献】特開2003-201184(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 41/80- 41/91
C04B 37/00- 37/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全体形状を構成する芯材と、前記芯材の表面を、シリコンを含む接着層を介して覆うSiC繊維強化SiC複合材の被覆層とからなり、
前記芯材は、モノリシックのCVD-SiCである耐熱部品。
【請求項2】
前記芯材には、内部空間が形成されている請求項1に記載の耐熱部品。
【請求項3】
前記接着層は、シリコンまたは反応焼結SiCからなる請求項1または2に記載の耐熱部品。
【請求項4】
前記被覆層は、複数に分割されている請求項1から3のいずれか1項に記載の耐熱部品。
【請求項5】
前記耐熱部品はガスタービン部品である請求項1から4の何れか1項に記載の耐熱部品。
【請求項6】
全体形状を構成する芯材と、前記芯材の表面を、シリコンを含む接着層を介して覆うSiC繊維強化SiC複合材の被覆層とからなり、
前記芯材は、SiC繊維が骨材として含まれ、CVD-SiCからなり、
前記被覆層よりも前記芯材のほうがCVD-SiCからなるマトリックスの比率が高い耐熱部品。
【請求項7】
前記芯材には、内部空間が形成されている請求項6に記載の耐熱部品。
【請求項8】
前記接着層は、シリコンまたは反応焼結SiCからなる請求項6または7に記載の耐熱部品。
【請求項9】
前記被覆層は、複数に分割されている請求項6から8のいずれか1項に記載の耐熱部品。
【請求項10】
前記耐熱部品はガスタービン部品である請求項6から9の何れか1項に記載の耐熱部品。
【請求項11】
黒鉛からなる基材にCVD法でSiC層を形成するCVD工程と、前記基材を除去することにより前記SiC層を分離して全体形状を構成する芯材を形成する分離工程と、前記芯材の周囲にシリコンを含む接着剤を挟んでSiC繊維強化SiC複合材の被覆層を配置し、前記シリコンを溶融させて接着層に転化する被覆層形成工程とを含む耐熱部品の製造方法。
【請求項12】
前記芯材には、内部空間が形成されている請求項11に記載の耐熱部品の製造方法。
【請求項13】
前記芯材には、SiC繊維が骨材として含まれる請求項11または12に記載の耐熱部品の製造方法。
【請求項14】
前記接着剤は、SiCまたは炭素を含む請求項11から13のいずれか1項に記載の耐熱部品の製造方法。
【請求項15】
前記被覆層は、複数に分割されている請求項11から14のいずれか1項に記載の耐熱部品の製造方法。
【請求項16】
前記耐熱部品はガスタービン部品である請求項11から15の何れか1項に記載の耐熱部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱部品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
SiC/SiC複合材は、高強度で耐食性、耐熱性に優れるため、超合金に代わる耐熱材料として期待されている。
【0003】
特許文献1には、多層セラミックチューブにおいて、モノリシック炭化ケイ素の内層と、炭化ケイ素ファイバーを炭化ケイ素マトリックスで囲んだ複合材である中間層と、モノリシック炭化ケイ素の外層から成ることを特徴とする前記多層セラミックチューブが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2008-501977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記記載された発明は、セラミックチューブの周囲を炭化ケイ素繊維で囲む構造であるため、パイプのような単純な形状には容易に適用できるが、複雑な立体形状には適用が困難である。
【0006】
本発明では、前記課題を鑑み、複雑な立体形状にも適用でき、気密性が高く、安定して強度の得られる耐熱部品およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための本発明の耐熱部品は、以下のものである。
【0008】
(1)全体形状を構成する芯材と、前記芯材の表面を、シリコンを含む接着層を介して覆うSiC繊維強化SiC複合材の被覆層とからなる。
【0009】
本発明の耐熱部品は、SiC繊維強化SiC複合材の被覆層のみでなく、芯材を有しているので芯材が気密性を確保する構造となっている。芯材は、気体不浸透の材料であることが好ましく、例えば、CVD-SiC、超合金などを利用することができる。
【0010】
本発明の耐熱部品は、芯材にSiC繊維強化SiC複合材の被覆層を貼り付ける構造となっている。SiC繊維強化SiC複合材は、厚くなるに従って内部に気孔が形成されやすくなり、強度のバラツキの原因となる。本発明では、芯材の表面に接着層を介して覆う構造をとっているので、厚いSiC繊維強化SiC複合材が必要ではなく、表層のみを複合材にする構造をとっている。また、緻密な芯材を用いることにより、芯材が、気密性と絶対的な強度を確保し、被覆層が破壊靱性を確保する構造となり、高温で使用する耐熱部材として好適に利用することができる。被覆層は、パネル状部品を貼り付けたものであってもよい。
【0011】
本発明の耐熱部品は、以下の態様であることが望ましい。
【0012】
(2)前記芯材には、内部空間が形成されている。
【0013】
内部空間を有することにより、芯材は殻状の構造となり、温度差による熱応力を緩和しやすい構造をとることができる。
内部空間の応用例として、空気、水などが通過する冷却通路などがある。
【0014】
(3)前記芯材は、CVD-SiCからなる。
【0015】
芯材がCVD-SiCであると、強度、気密性がともに高く、外側に貼り付けられる被覆層と熱膨張挙動が同等であるので、熱応力が生じにくく、高強度で剥がれにくい耐熱部品を得ることができる。
【0016】
(4)前記芯材には、SiC繊維が骨材として含まれる。
【0017】
芯材は、モノリシックのSiCであってもよいが、セラミック繊維を骨材として含んでいてもよい。セラミック繊維としては、SiC繊維、炭素繊維などが挙げられる。これらのセラミック繊維を骨材として含む場合、空隙の形成を防止するため芯材に占めるセラミック繊維の比率は30vol%以下であることが好ましい。セラミック繊維の比率が30vol%以下であると、セラミック繊維が密集した気相成長時に原料ガスが到達しない部分ができにくく、強度劣化の原因となる気孔の形成を抑制できる。
【0018】
(5)前記接着層は、シリコンまたは反応焼結SiCからなる。
【0019】
シリコンまたは、反応焼結SiCは、1400℃程度まで耐熱性があり、強い接着力を確保することができる。反応焼結SiCは、SiCの粉またはカーボンの粉と溶融シリコンとを反応させて得られたものであり、シリコンが液化した段階で隙間を埋め、気孔の少ないSiCを得ることができ、高強度のSiCを得ることができる。また、反応焼結SiCを用い芯材がCVD-SiCである場合、熱膨張挙動が同等であるので、熱応力が生じにくく、高強度で剥がれにくい耐熱部品を得ることができる。
【0020】
(6)前記被覆層は、複数に分割されている。
【0021】
耐熱部品は、用途によっては複雑な立体形状である。このような耐熱部品に対しては、表面を覆う被覆層を立体形状に合わせて複数に分割されていることによって被覆層を構成するSiC繊維をムラなく配置することができる。特に、被覆層を構成するSiC繊維が織布の形態である場合に、織布は平面であるので、適宜分割することにより、複雑な立体形状の表面を効率よく覆うことができる。
【0022】
(7)前記耐熱部品はガスタービン部品である。
ガスタービン部品は、内部に冷却用の空洞を有し、気密性、耐熱性、高強度、高い破壊靭性を必要とする。本発明の耐熱部品は、これらの特性を有しているので好適に利用することができる。
【0023】
前記課題を解決するための本発明の耐熱部品の製造方法は、以下のものである。
【0024】
(8)全体形状を構成する芯材の周囲にシリコンを含む接着剤を挟んでSiC繊維強化SiC複合材の被覆層を配置し、前記シリコンを溶融させて接着層に転化する。
【0025】
本発明の耐熱部品の製造方法は、SiC繊維強化SiC複合材の被覆層のみでなく、芯材を用いているので芯材が気密性を確保する構造となっている。芯材は、気体不浸透の材料であることが好ましく、例えば、CVD-SiC、超合金などを利用することができる。
【0026】
本発明の耐熱部品の製造方法は、芯材にSiC繊維強化SiC複合材の被覆層を貼り付ける構造となっている。SiC繊維強化SiC複合材は、厚くなるに従って内部に気孔が形成されやすくなり、強度のバラツキの原因となる。本発明では、芯材の表面に接着層を介して覆う構造をとっているので、厚いSiC繊維強化SiC複合材が必要ではなく、表層のみを複合材にする構造をとっている。また、緻密な芯材を用いることにより、芯材が、気密性と絶対的な強度を確保し、被覆層が破壊靱性を確保する構造となり、高温で使用する耐熱部材として好適に利用することができる。
【0027】
本発明の耐熱部品の製造方法は、以下の態様であることが望ましい。
【0028】
(9)前記芯材には、内部空間が形成されている。
【0029】
内部空間を有することにより、芯材は殻状の構造となり、温度差による熱応力を緩和しやすい構造をとることができる。
内部空間の応用例として、空気、水などが通過する冷却通路などがある。
【0030】
(10)前記耐熱部品の製造方法は、黒鉛からなる基材にCVD法でSiC層を形成するCVD工程と、前記基材を除去することにより前記SiC層を分離して芯材を形成する分離工程とをさらに含む。
【0031】
黒鉛は、加工しやすく耐熱性を有しているので、基材として使用すると複雑な形状を容易に得ることができる。また、CVD工程の後、除去工程では、基材の黒鉛を切削加工、酸化によって除去することができる。除去工程では、切削加工により大まかに除去した後、酸化によって基材を除去してもよい。酸化の条件は黒鉛が酸化し、SiCが劣化しない条件であれば特に限定されないが、例えば大気中500~1000℃の条件で除去することができる。
【0032】
(11)前記芯材には、SiC繊維が骨材として含まれる。
【0033】
芯材は、モノリシックのSiCであってもよいが、セラミック繊維を骨材として含んでいてもよい。セラミック繊維としては、SiC繊維、炭素繊維などが挙げられる。これらのセラミック繊維を骨材として含む場合、空隙の形成を防止するため芯材に占めるセラミック繊維の比率は30vol%以下であることが好ましい。セラミック繊維の比率が30vol%以下であると、セラミック繊維が密集した気相成長時に原料ガスが到達しない部分ができにくく、強度劣化の原因となる気孔の形成を抑制できる。
【0034】
(12)前記接着剤は、シリコンを含む。
【0035】
接着剤にシリコンが含まれていると、強い接着力が得られるとともに、1400℃程度まで耐熱性を得ることができる。
【0036】
(13)前記接着剤は、SiCまたは炭素を含む。
【0037】
接着剤にSiCまたは、炭素を含んでいると、溶融シリコンと反応し、反応焼結SiCを形成する。なおSiCと溶融シリコンとの反応では、シリコンリッチのSiCとなる。シリコンは、凝固時に体積膨張を起こすため、接着剤にSiCまたは、炭素を含有することにより、凝固時の体積膨張による歪を緩和することができる。
【0038】
(14)前記被覆層は、複数に分割されている。
【0039】
耐熱部品は、用途によっては複雑な立体形状である。このような耐熱部品に対しては、表面を覆う被覆層を立体形状に合わせて複数に分割されていることによってSiC繊維をムラなく配置することができる。特に、被覆層を構成するSiC繊維が織布の形態である場合に、織布は平面であるので、適宜分割することにより、複雑な立体形状の表面を効率よく覆うことができる。
【0040】
(15)前記耐熱部品はガスタービン部品である。
ガスタービン部品は、内部に冷却用の空洞を有し、気密性、耐熱性、高強度、高い破壊靭性を必要とする。本発明の耐熱部品の製造方法は、これらの特性を有する耐熱部品を得ることができるので好適に利用することができる。
【発明の効果】
【0041】
芯材にSiC繊維強化SiC複合材の被覆層を貼り付ける構造となっている。SiC繊維強化SiC複合材は、厚くなるに従って内部に気孔が形成されやすくなり、強度のバラツキの原因となる。本発明では、芯材の表面に接着層を介して覆う構造をとっているので、厚いSiC繊維強化SiC複合材が必要ではなく、表層のみを複合材にする構造をとっている。また、緻密な芯材を用いることにより、芯材が、気密性と絶対的な強度を確保し、被覆層が破壊靱性を確保する構造となり、高温で使用する耐熱部材として好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】本発明に係る耐熱部品の一例を示し、(a)斜視図、(b)平面図、(c)側面図。
図2】本発明に係る耐熱部品の製造方法の一例を示し、(a)基材、(b)マスキング工程、(c)CVD工程、(d)マスキング除去工程、(e)分離工程、(f)接着材塗布工程、(g)被覆層形成工程。
【0043】
(発明の詳細な説明)
本発明の耐熱部品は、全体形状を構成する芯材と、前記芯材の表面を、シリコンを含む接着層を介して覆うSiC繊維強化SiC複合材の被覆層とからなる。
【0044】
本発明の耐熱部品は、SiC繊維強化SiC複合材の被覆層のみでなく、芯材を有しているので芯材が気密性を確保する構造となっている。芯材は、気体不浸透の材料であることが好ましく、例えば、CVD-SiC、超合金などを利用することができる。
【0045】
本発明の耐熱部品は、芯材にSiC繊維強化SiC複合材の被覆層を貼り付ける構造となっている。SiC繊維強化SiC複合材は、厚くなるに従って内部に気孔が形成されやすくなり、強度のバラツキの原因となる。本発明では、芯材の表面に接着層を介して覆う構造をとっているので、厚いSiC繊維強化SiC複合材が必要ではなく、表層のみを複合材にする構造をとっている。また、緻密な芯材を用いることにより、芯材が、気密性と絶対的な強度を確保し、被覆層が破壊靱性を確保する構造となり、高温で使用する耐熱部材として好適に利用することができる。被覆層は、パネル状部品を貼り付けたものであってもよい。
【0046】
本発明の耐熱部品は、以下の態様であることが望ましい。
【0047】
前記芯材には、内部空間が形成されている。
【0048】
内部空間を有することにより、芯材は殻状の構造となり、温度差による熱応力を緩和しやすい構造をとることができる。
内部空間の応用例として、空気、水などが通過する冷却通路などがある。
【0049】
前記芯材は、CVD-SiCからなる。
【0050】
芯材がCVD-SiCであると、強度、気密性がともに高く、外側に貼り付けられる被覆層と熱膨張挙動が同等であるので、熱応力が生じにくく、高強度で剥がれにくい耐熱部品を得ることができる。
【0051】
前記芯材には、SiC繊維が骨材として含まれる。
【0052】
芯材は、モノリシックのSiCであってもよいが、セラミック繊維を骨材として含んでいてもよい。セラミック繊維としては、SiC繊維、炭素繊維などが挙げられる。これらのセラミック繊維を骨材として含む場合、空隙の形成を防止するため芯材に占めるセラミック繊維の比率は30vol%以下であることが好ましい。セラミック繊維の比率が30vol%以下であると、気相成長時に原料ガスが到達しない部分ができにくく、強度劣化の原因となる気孔の形成を抑制できる。
この場合、芯材も被覆層もSiC繊維強化SiC複合材であるが、被覆層よりも芯材のほうがCVD-SiCからなるマトリックスの比率か高くなるようにすることが望ましい。芯材が気密性、絶対的な強度を確保し、被覆層が破壊靭性を確保することができる。
【0053】
前記接着層は、シリコンまたは反応焼結SiCからなる。
【0054】
シリコンまたは、反応焼結SiCは、1400℃程度まで耐熱性があり、強い接着力を確保することができる。反応焼結SiCは、SiCの粉またはカーボンの粉と溶融シリコンとを反応させて得られたものであり、シリコンが液化した段階で隙間を埋め、気孔の少ないSiCを得ることができ、高強度のSiCを得ることができる。また、反応焼結SiCを用い芯材がCVD-SiCである場合、熱膨張挙動が同等であるので、熱応力が生じにくく、高強度で剥がれにくい耐熱部品を得ることができる。
【0055】
前記被覆層は、複数に分割されている。
【0056】
耐熱部品は、用途によっては複雑な立体形状である。このような耐熱部品に対しては、表面を覆う被覆層を立体形状に合わせて複数に分割されていることによって被覆層を構成するSiC繊維をムラなく配置することができる。特に、被覆層を構成するSiC繊維が織布の形態である場合に、織布は平面であるので、適宜分割することにより、複雑な立体形状の表面を効率よく覆うことができる。
【0057】
前記耐熱部品はガスタービン部品である。
ガスタービン部品は、内部に冷却用の空洞を有し、気密性、耐熱性、高強度、高い破壊靭性を必要とする。本発明の耐熱部品は、これらの特性を有しているので好適に利用することができる。
【0058】
本発明の耐熱部品の製造方法は、全体形状を構成する芯材の周囲にシリコンを含む接着剤を挟んでSiC繊維強化SiC複合材の被覆層を配置し、前記シリコンを溶融させて接着層に転化する。
【0059】
本発明の耐熱部品の製造方法は、SiC繊維強化SiC複合材の被覆層のみでなく、芯材を用いているので芯材が気密性を確保する構造となっている。芯材は、気体不浸透の材料であることが好ましく、例えば、CVD-SiC、超合金などを利用することができる。
接着材がシリコンである場合には、芯材または被覆層にあらかじめシリコンを蒸着しておく、シリコンの粒子を塗布しておくなどの方法をとることができる。また、接着層が反応焼結SiCである場合には、芯材または被覆層にあらかじめ黒鉛及びシリコンの粒子を塗布しておく方法をとることができる。
【0060】
本発明の耐熱部品の製造方法は、芯材にSiC繊維強化SiC複合材の被覆層を貼り付ける構造となっている。SiC繊維強化SiC複合材は、厚くなるに従って内部に気孔が形成されやすくなり、強度のバラツキの原因となる。本発明では、芯材の表面に接着層を介して覆う構造をとっているので、厚いSiC繊維強化SiC複合材が必要ではなく、表層のみを複合材にする構造をとっている。また、緻密な芯材を用いることにより、芯材が、気密性と絶対的な強度を確保し、被覆層が破壊靱性を確保する構造となり、高温で使用する耐熱部材として好適に利用することができる。
【0061】
本発明の耐熱部品の製造方法は、以下の態様であることが望ましい。
【0062】
前記芯材には、内部空間が形成されている。
【0063】
内部空間を有することにより、芯材は殻状の構造となり、温度差による熱応力を緩和しやすい構造をとることができる。
内部空間の応用例として、空気、水などが通過する冷却通路などがある。
【0064】
前記耐熱部品の製造方法は、黒鉛からなる基材にCVD法でSiC層を形成するCVD工程と、前記基材を除去することにより前記SiC層を分離して芯材を形成する分離工程とをさらに含む。
【0065】
黒鉛は、加工しやすく耐熱性を有しているので、基材として使用すると複雑な形状を容易に得ることができる。また、CVD工程の後、除去工程では、基材の黒鉛を切削加工、酸化によって除去することができる。除去工程では、切削加工により大まかに除去した後、酸化によって基材を除去してもよい。酸化の条件は黒鉛が酸化し、SiCが劣化しない条件であれば特に限定されないが、例えば大気中500~1000℃の条件で除去することができる。
また、耐熱部品に内部空間を有し、基材用い除去する必要がある場合には、基材の露出部分を形成できるよう基材にマスキングをしておくことが望ましい。基材のマスキングで覆われた部分には、SiC層が形成されず、容易に基材を除去することができる。
【0066】
前記芯材には、SiC繊維が骨材として含まれる。
【0067】
芯材は、モノリシックのSiCであってもよいが、セラミック繊維を骨材として含んでいてもよい。セラミック繊維としては、SiC繊維、炭素繊維などが挙げられる。これらのセラミック繊維を骨材として含む場合、空隙の形成を防止するため芯材に占めるセラミック繊維の比率は30vol%以下であることが好ましい。セラミック繊維の比率が30vol%以下であると、気相成長時に原料ガスが到達しない部分ができにくく、強度劣化の原因となる気孔の形成を抑制できる。
【0068】
前記接着剤は、シリコンを含む。
【0069】
接着剤にシリコンが含まれていると、強い接着力が得られるとともに、1400℃程度まで耐熱性を得ることができる。
接着材がシリコンである場合には、芯材または被覆層にあらかじめシリコンを蒸着しておく、シリコンの粒子を塗布しておくなどの方法をとることができる。
【0070】
前記接着剤は、SiCまたは炭素を含む。
【0071】
接着剤にSiCまたは、炭素を含んでいると、溶融シリコンと反応し、反応焼結SiCを形成する。なおSiCと溶融シリコンとの反応では、シリコンリッチのSiCとなる。シリコンは、凝固時に体積膨張を起こすため、接着剤にSiCまたは、炭素を含有することにより、凝固時の体積膨張による歪を緩和することができる。
また、接着剤がSiCまたは炭素を含む場合には、芯材または被覆層にあらかじめ黒鉛及びシリコンの粒子を塗布しておく方法をとることができる。
【0072】
前記被覆層は、複数に分割されている。
【0073】
耐熱部品は、用途によっては複雑な立体形状である。このような耐熱部品に対しては、表面を覆う被覆層を立体形状に合わせて複数に分割されていることによってSiC繊維をムラなく配置することができる。特に、被覆層を構成するSiC繊維が織布の形態である場合に、織布は平面であるので、適宜分割することにより、複雑な立体形状の表面を効率よく覆うことができる。
【0074】
(発明を実施するための形態)
図1に基づいて、耐熱部品を説明する。
【0075】
耐熱部品1は、全体形状を構成する芯材2と、芯材2の表面を覆う被覆層3と、芯材2で形成される内部空間4とを備える。被覆層3は、芯材2に対してシリコンを含む接着剤を転化した接着層5を介して接合されている。また、芯材2は、SiC繊維が骨材として含まれ、CVD-SiCからなり、被覆層3は、SiC繊維強化SiC複合材からなり、複数に分割されている。耐熱部品1は、やジェットエンジンのガスタービン部品などに利用される。
【0076】
図2に基づいて耐熱部品の製造方法を説明する。本発明の耐熱部品1は、以下の工程で製造される。
【0077】
(1)マスキング工程:黒鉛からなる基材10にマスキング11を施す(図2(b))。
(2)CVD工程:マスキング11が施された基材10にCVD法でSiC層12を形成する(図2(c))。
(3)マスキング除去工程:SiC層12が形成された状態で、マスキング11を取り外す(図2(d))。
(4)分離工程:基材10を切削加工、酸化によって除去してSiC層12を分離して芯材2を形成する(図2(e))。
(5)接着材塗布工程:芯材2の表面にシリコンの粒子を含む接着材13を塗布する(図2(f))。
(6)被覆層形成工程:接着材13の表面にSiC繊維強化SiC複合材の被覆層3を配置し、シリコンを溶融させて接着層5に転化する(図2(g))。
【0078】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の耐熱部品及びその製造方法は、複雑な立体形状にも適用でき、気密性が高く、安定した強度を要望するジェットエンジン、核融合炉用アーマータイルなどの分野に適合可能である。
【符号の説明】
【0080】
1 耐熱部品
2 芯材
3 被覆層
4 内部空間
5 接着層
10 基材
11 マスキング
12 SiC層
13 接着材
図1
図2