(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-25
(45)【発行日】2022-05-09
(54)【発明の名称】流体デバイス用複合部材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 19/00 20060101AFI20220426BHJP
B32B 3/30 20060101ALI20220426BHJP
B32B 25/20 20060101ALI20220426BHJP
B32B 25/08 20060101ALI20220426BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20220426BHJP
B81B 1/00 20060101ALI20220426BHJP
B81C 1/00 20060101ALI20220426BHJP
【FI】
B01J19/00 321
B32B3/30
B32B25/20
B32B25/08
G01N37/00 101
B81B1/00
B81C1/00
(21)【出願番号】P 2018066609
(22)【出願日】2018-03-30
【審査請求日】2020-09-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【氏名又は名称】進藤 素子
(74)【代理人】
【識別番号】100115646
【氏名又は名称】東口 倫昭
(74)【代理人】
【識別番号】100196759
【氏名又は名称】工藤 雪
(72)【発明者】
【氏名】岡下 勝己
(72)【発明者】
【氏名】林 翔太
【審査官】宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-325153(JP,A)
【文献】特開2017-154036(JP,A)
【文献】国際公開第2015/098719(WO,A1)
【文献】特開2004-330038(JP,A)
【文献】特開2013-188677(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0210445(US,A1)
【文献】特開2012-132894(JP,A)
【文献】特開2000-248076(JP,A)
【文献】特表2001-519907(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 19/00
B32B 3/30
B32B 25/20
B32B 25/08
G01N 37/00
B81B 1/00
B81C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一面に流路を区画する流路区画部を有
し、液状シリコーンゴム材料の硬化物からなる本体部と、該流路区画部の少なくとも一部に配置され、親水性または疎水性を有するバリア層と、を有するシリコーン部材と、
該本体部の該一面とは反対側の他面に配置され
、オレフィン樹脂またはアクリル樹脂からなる樹脂基材と、
を備え
、
該シリコーン部材の該本体部と該樹脂基材とは架橋接着されている流体デバイス用複合部材。
【請求項2】
厚さが500μm以下である請求項1に記載の流体デバイス用複合部材。
【請求項3】
前記樹脂基材の厚さは、全体の厚さの40%以上である請求項1
または請求項2に記載の流体デバイス用複合部材。
【請求項4】
前記本体部は、白金触媒を有するシリコーンゴムからなる請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の流体デバイス用複合部材。
【請求項5】
前記本体部は、接着成分を有するシリコーンゴムからなる請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の流体デバイス用複合部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細な流路を有する流体デバイスに用いられる複合部材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微細な流路を有するマイクロ流体デバイスを用いると、反応、抽出、分離、測定などの各種操作を、極めて少量の試料で短時間に行うことができる。マイクロ流体デバイスを構成する部材の材料としては、ガラスが一般的である。しかしながら、ガラス製の部材に微細な凹凸を形成するには、フォトリソグラフィおよびドライエッチングなどの工程が必要である。このため、部材の製造に時間がかかり生産性が低い。また、部材がガラス製の場合、焼却による廃棄ができないという問題もある。そこで、ガラスに代わる材料として、微細加工が容易であり、光透過性、耐薬品性に優れるという理由から、シリコーンが注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-181407号公報
【文献】特開2017-154036号公報
【文献】特開2004-325153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
顕微鏡を用いた光学検査などに用いられるマイクロ流体デバイスは、小型で薄い。このため、デバイスの材料としてシリコーンを用いると、その軟らかさ故に取り扱いが難しい。加えて、シリコーンは粘着性を有する。よって、例えば顕微鏡の試料台にデバイスを設置する際、デバイスのすべり性が悪く試料台に貼り付いてしまうため、位置合わせしにくい。検査終了後においても、試料台との密着性が高いため、デバイスを取り外しにくい。また、試料台とデバイスとの間に気泡が入り込むと、それを取り除くことは難しいため、デバイスが微小変形して顕微鏡の焦点が合わなくなるおそれがある。さらに、シリコーンは帯電しやすいため、空気中の塵埃を吸着しやすいという問題もある。
【0005】
また、シリコーン製の部材は、ガラス製の部材と比較して、水に対する親和性が低い。このため、流路に親水性の液体を流す場合、流れ性の悪さから、所望の操作を正確に行えないおそれがある。また、部材上に形成された凹部に、捕捉したい成分が入りにくいという問題がある。したがって、シリコーン製の部材を用いる場合、流路に親水性を付与する処理を施すことがある(例えば、特許文献1、2参照)。
【0006】
上述したように、シリコーン製の部材は、その軟らかさ故に取り扱い時(試料台への設置時、取り外し時など)に変形しやすい。したがって、シリコーン製の部材に表面処理を施して、親水性層などのバリア層を形成した場合、変形によりバリア層にクラックや割れが生じてしまい、所望の効果を発揮させることができないおそれがある。
【0007】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、シリコーンを用いて取り扱い性に優れた流体デバイス用複合部材を提供することを課題とする。また、当該流体デバイス用複合部材を容易に製造することができる製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記課題を解決するため、本発明の流体デバイス用複合部材は、一面に流路を区画する流路区画部を有するシリコーン製の本体部と、該流路区画部の少なくとも一部に配置され、親水性または疎水性を有するバリア層と、を有するシリコーン部材と、該本体部の該一面とは反対側の他面に配置される樹脂基材と、を備えることを特徴とする。
【0009】
(2)上記課題を解決するため、本発明の流体デバイス用複合部材の製造方法は、一面に流路を区画する流路区画部を有するシリコーン製の本体部を有するシリコーン部材と、該本体部の該一面とは反対側の他面に配置される樹脂基材と、を備える流体デバイス用複合部材の製造方法であって、該樹脂基材の表面に液状シリコーン材料を配置し、100℃以下の温度下で該液状シリコーン材料を硬化させることにより、該樹脂基材にシリコーン硬化物が接着された積層体を得る積層体製造工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
(1)本発明の流体デバイス用複合部材は、シリコーン部材と樹脂基材とを備える。樹脂基材は、シリコーン部材において流路を形成する側の一面とは反対側の他面に配置される。すなわち、樹脂基材は、シリコーン部材を支持するように配置される。本発明の流体デバイス用複合部材においては、シリコーン部材が樹脂基材に支持されるため、複合部材全体の剛性が大きくなり、形状保持性が高くなる。したがって、本発明の流体デバイス用複合部材は、シリコーン製の本体部を有していても扱いやすい。
【0011】
例えば、本発明の流体デバイス用複合部材を顕微鏡の試料台に設置する場合、樹脂基材側を下にして試料台に載置する。この場合、シリコーン部材を直接試料台に接触させる場合と比較して、複合部材のすべり性が良くなるため、位置合わせがしやすい。また、検査などの操作終了後においても、試料台から流体デバイス用複合部材を取り外しやすい。仮に、試料台と流体デバイス用複合部材との間に気泡が入り込んでも、流体デバイス用複合部材と試料台との密着力が小さいため、気泡を取り除くことはそれほど難しくない。また、シリコーン部材の他面が樹脂基材に被覆され、露出が少なくなることにより、空気中の塵埃を吸着しにくくなる。
【0012】
シリコーン製の本体部の流路区画部の少なくとも一部には、親水性または疎水性を有するバリア層が配置される。例えば、流路区画部が流体の一部を捕捉するための凹部とそれ以外の流路部とからなる場合、凹部に親水性のバリア層を配置すると、親水性の液体を流した場合の凹部における流れ性が向上する。この場合、凹部以外の流路部はシリコーンが表出しており水との親和性が低いため、親水性を有する凹部に捕捉したい成分を確実に捕捉することができる。これにより、試料のロスを少なくし、分析精度を向上させることができる。他方、凹部に疎水性のバリア層を配置すると、オイル、有機溶剤などの疎水性の液体を流した場合に、当該液体と本体部との直接的な接触がバリア層により回避され、当該液体の本体部への染み込みが抑制される。これにより、本体部の膨潤が抑制され、凹部の大きさが変化するおそれが少なくなる。加えて、凹部以外の流路部に親水性のバリア層を配置すると、流路部に疎水性の流体が残留しにくくなるため、疎水性の流体に含まれる捕捉対象物を流路部に付着させることなく、凹部に漏れなく捕捉することができる。
【0013】
このように、流路区画部にバリア層を配置することにより、用途に応じて分析精度や回収率などを向上させることができる。本明細書においては、JIS R3257:1999に準じて測定された水接触角が80°未満の場合を親水性、80°以上の場合を疎水性と定義する。
【0014】
本発明の流体デバイス用複合部材は、シリコーン部材のみからなる場合と比較して、剛性が大きく、形状保持性が高い。すなわち、取り扱い時に変形しにくいため、流路区画部にバリア層を配置しても、バリア層にクラック、割れなどが生じにくい。したがって、バリア層の所望の効果を充分に発揮させることができる。
【0015】
ちなみに、特許文献3には、一面にマイクロチャネルが配設されたポリジメチルシロキサン(PDMS)製の基板を、PDMS以外の素材からなる二つの外面部材で挟持したサンドイッチ構造を有するマイクロチップが記載されている。特許文献3に記載されたマイクロチップにおいては、PDMS製の基板の一面とは反対側の他面に、合成樹脂製の外面部材が配置されている。しかし、基板の一面は、PDMSそのものであって、バリア層を有しない。このため、使用する液体の種類により、流れ性の悪さ、基板の膨潤、変形などの種々の問題が生じる。
【0016】
(2)特許文献3には、PDMS製の基板を成形型を用いずに成形した後、外面部材と貼り合わせてマイクロチップを製造する方法が記載されている。しかし、基板に外面部材を貼り付ける場合には、特許文献3の段落[0020]に記載されているように、接着剤や前処理剤が必要であったり、基板の表面の平滑化や、基板と外面部材との両方に表面改質を施すなど、様々な作業が必要になる。
【0017】
流体デバイス用複合部材の厚さは、ミクロンオーダーで薄い。このため、薄膜状の樹脂基材に薄膜状のシリコーン部材を貼り付けようとすると、帯電により薄膜が手などにくっつきやすく、空気中の塵埃を吸着するおそれがある。また、薄膜であるためちぎれやすく、貼り付け時に両者の間に気泡が入るおそれもある。このように、シリコーン部材を樹脂基材に貼り付けようとすると、多くの課題がある。
【0018】
この点、本発明の流体デバイス用複合部材の製造方法においては、樹脂基材の表面に液状シリコーン材料を配置して、液状シリコーン材料を硬化させることにより、樹脂基材にシリコーン硬化物を接着する。本発明の製造方法によると、液状シリコーンの硬化を利用して、シリコーン硬化物を樹脂基材に接着させるため、上述した貼り付け方法による問題は生じない。
【0019】
例えば、液状シリコーン材料を射出成形する場合、通常であれば硬化速度などを考慮して、130℃程度の温度下で成形を行う。しかし、本発明の製造方法においては、樹脂基材の表面で液状シリコーン材料を硬化させる必要があるため、従来の温度で成形すると、熱により樹脂基材が変形してしまう。上述したとおり、シリコーン部材の厚さはミクロンオーダーで薄く、そこにさらに微細な凹部が形成される。例えば、液状シリコーン材料の硬化と同時に、一面に凹部を形成する場合には、樹脂基材が少しでも変形すると凹部の寸法精度を維持することができない。この点、本発明の製造方法においては、100℃以下の低温下で液状シリコーン材料を硬化させる。これにより、樹脂基材の変形を抑制しつつ、液状シリコーンの硬化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】第一実施形態の流体デバイス用複合部材を備える流体デバイスの透過上面図である。
【
図3】同流体デバイスのIII-III断面図である。
【
図4】流体デバイスの下側部材の製造における改質工程の概略図である。
【
図5】同下側部材の製造における積層体製造工程の概略図である。
【
図6】同下側部材の製造における疎水性層形成工程の概略図である。
【
図7】同下側部材の製造における親水性層形成工程の概略図である。
【
図8】流体デバイスの製造における積層工程の概略図である。
【
図9A】たわみ量の測定実験で使用した積層体の上面図である。
【
図9B】治具で把持された状態の同積層体の側面図である。
【
図10】樹脂基材の厚さ比率に対する積層体のたわみ量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の流体デバイス用複合部材およびその製造方法の実施の形態を説明する。
【0022】
<第一実施形態>
[流体デバイス用複合部材の構成]
まず、第一実施形態の流体デバイス用複合部材の構成を説明する。
図1に、第一実施形態の流体デバイス用複合部材を備える流体デバイスの透過上面図を示す。
図2に、同流体デバイスのII-II断面図を示す。
図3に、同流体デバイスのIII-III断面図を示す。本実施形態において、流体デバイス用複合部材は、流体デバイスの下側部材として具現化されている。以下の図においては、上下方向が流体デバイスの厚さ方向に対応している。
【0023】
図1~
図3に示すように、流体デバイス1は、上側部材10と、下側部材20と、を有している。上側部材10と下側部材20とは上下方向に積層されている。上側部材10と下側部材20との間には、流路11が区画されている。
【0024】
上側部材10は、上側基材12と、親水性層13と、を有している。上側基材12は、シリコーンゴム(ポリジメチルシロキサン(PDMS))製であり、長方形板状を呈している。上側基材12の下面には、上側凹部14が形成されている。上側基材12の前端部中央には、上側基材12を上下方向に貫通する導入孔15が穿設されている。流路11の上流端は、導入孔15と連通している。流路11の下流端には、後面に開口する排出口16が配置されている。親水性層13は、導入孔15の内周面を含めて上側基材12の下面全体に配置されている。親水性層13は、有機成分を含むケイ素酸化物膜である。
【0025】
下側部材20は、シリコーン部材21と、樹脂基材22と、を有している。シリコーン部材21の厚さは100μmである。シリコーン部材21は、本体部23と、疎水性層24と、親水性層25を有している。本体部23は、PDMS、白金触媒およびオルガノポリシロキサン(接着成分)を含むシリコーンゴム製であり、長方形板状を呈している。本体部23は、上面230と、下面231と、を有している。上面230は、上側部材10との間に流路11を区画する流路区画部232を有している。上面230の中央付近には、7本の溝状の下側凹部26が形成されている。下側凹部26は、各々、左右方向に延びる直線状を呈している。下側凹部26は、各々、前後方向に所定の間隔で離間して平行に配置されている。下側凹部26の上下方向断面は矩形状を呈している。流路区画部232は、下側凹部26と、それ以外の流路部27と、からなる。下側凹部26は、流路11を流れる流体の一部を捕捉する。
【0026】
疎水性層24は、下側凹部26を含む本体部23の上面230全体に配置されている。疎水性層24は、フッ化炭素膜である。親水性層25は、下側凹部26を除く領域において疎水性層24の上面を覆うように配置されている。親水性層25は、ケイ素酸化物膜である。これにより、流路区画部232の下側凹部26の表面は疎水性層24により被覆され、流路部27の表面は疎水性層24および親水性層25により被覆されている。流路部27の最表層は、親水性層25である。疎水性層24および親水性層25は、本発明におけるバリア層の概念に含まれる。
【0027】
樹脂基材22は、シリコーン部材21の本体部23の下面231に接着されている。樹脂基材22は、ポリプロピレン樹脂製であり、長方形板状を呈している。樹脂基材22の厚さは100μmである。樹脂基材22の厚さは、下側部材20全体の厚さを100%とした場合の50%である。
【0028】
[流体デバイス用複合部材の製造方法]
次に、流体デバイス1の製造方法を説明しながら、本実施形態の流体デバイス用複合部材の製造方法を説明する。
図4に、流体デバイスの下側部材の製造における改質工程を示す。
図5に、同下側部材の製造における積層体製造工程を示す。
図6に、同下側部材の製造における疎水性層形成工程を示す。
図7に、同下側部材の製造における親水性層形成工程を示す。
図8に、流体デバイスの製造における上側部材と下側部材との積層工程を示す。
【0029】
図4に示すように、改質工程においては、樹脂基材22の表面に、酸素を含むガス雰囲気中でマイクロ波プラズマPを照射して、改質処理を行う。改質処理により、樹脂基材22の表面に水酸基が付与される。
【0030】
図5に示すように、積層体製造工程においては、成形型3の第一型30に、樹脂基材22を改質処理後の表面を上にして配置して、第一型30と第二型31とを型締めする。第二型31の第二型面310は、本体部23の上面230と凹凸が反対の形状を有している。そして、成形型3のキャビティー32内に、液状シリコーン材料40を80℃の温度下で射出成形する。液状シリコーン材料40は、PDMS、白金触媒およびオルガノポリシロキサン(接着成分)を含んでいる。液状シリコーン材料40が硬化し成形が終了したら脱型して、樹脂基材22にシリコーン硬化物が接着された積層体を得る。本工程において得られるシリコーン硬化物は、樹脂基材22との接着面とは反対側の面に凹部が形成されている。すなわち、本工程においては、樹脂基材22に本体部23が接着された積層体が製造される。
【0031】
図6に示すように、疎水性層形成工程においては、本体部23の上面230に、フッ化炭素ガスを含む雰囲気中でマイクロ波プラズマPを照射して、フッ化炭素膜を形成する。これにより、下側凹部26を含む上面230全体に疎水性層24が形成される。続いて、
図7に示すように、親水性層形成工程においては、本体部23および樹脂基材22からなる積層体を反転させて、本体部23の疎水性層24側をスタンプ部材50に押しつける。スタンプ部材50には、予めポリシラザンを含む試薬500が含浸されている。これにより、下側凹部26以外の疎水性層24の表面に、ポリシラザン液が付着する。その後、付着したポリシラザン液を乾燥させて、下側凹部26以外の疎水性層24の表面に、親水性層25としてのケイ素酸化物膜を形成する。このようにして、後出の
図8に示すように、本体部23の上面230に疎水性層24および親水性層25を形成する。疎水性層形成工程および親水性層形成工程は、本発明におけるバリア層形成工程の概念に含まれる。
【0032】
これとは別に、上側基材12の下面全体に、テトラエトキシシラン(TEOS)ガスを含む雰囲気中でマイクロ波プラズマを照射して、有機成分を含むケイ素酸化物膜(親水性層13)を形成しておく。そして、
図8中、白抜き矢印で示すように、積層工程において、シリコーン部材21と樹脂基材22との積層体(下側部材20)に上側部材10を重ね合わせて、前出
図2に示す流体デバイス1が製造される。
【0033】
[作用効果]
次に、本実施形態の流体デバイス用複合部材およびその製造方法の作用効果を説明する。本実施形態の流体デバイス1において、導入孔15から注入された流体は、流路11を流れて排出口16から排出される。例えば、有機溶媒に粒子が分散されている疎水性のサンプル液を流体デバイス1に流した場合、サンプル液と本体部23との直接的な接触は、疎水性層24および親水性層25により回避される。このため、本体部23にサンプル液が染み込みにくく、本体部23の膨潤が抑制される。したがって、シリコーン部材21の変形が抑制され、下側凹部26の大きさが変化しにくい。また、下側凹部26は疎水性層24で被覆され、流路部27の最表層は親水性層25である。さらに、流路11を形成する上側基材12の下面全体にも親水性層13が配置される。流路11における下側凹部26以外の部分は全て親水性を有するため、下側凹部26以外の部分に疎水性のサンプル液が付着、残留しにくい。したがって、サンプル液中の所望の粒子を下側凹部26に漏れなく捕捉することができる。
【0034】
下側部材20は、シリコーン部材21と樹脂基材22とを備える。樹脂基材22は、シリコーン部材21の流路11を形成する側の一面(上面230)とは厚さ方向において反対側の他面(下面231)に配置される。樹脂基材22の厚さは、下側部材20全体の厚さの50%(半分)である。樹脂基材22によりシリコーン部材21を支持することにより、下側部材20全体の剛性が大きくなり、形状保持性が高くなる。したがって、シリコーン部材21を単独で用いるよりも、取り扱い性が向上する。樹脂基材22は、ポリプロピレン樹脂(オレフィン樹脂)からなる。オレフィン樹脂は、自家蛍光性を有しないため、下側部材20の下方から光を照射して、下側凹部26における極めて弱い発光を観察する光学検査などにも用いることができる。
【0035】
流体デバイス1を樹脂基材22側を下にして顕微鏡の試料台に設置すると、樹脂基材22のすべり性はシリコーン部材21のそれよりも良いため、位置合わせがしやすい。また、検査などの操作終了後においても、試料台から流体デバイス1を取り外しやすい。仮に、試料台と樹脂基材22との間に気泡が入り込んでも、試料台との密着力が小さいため、気泡を取り除くことはそれほど難しくない。また、シリコーン部材21の露出面積が少ないため、空気中の塵埃を吸着しにくい。
【0036】
本実施形態の流体デバイス用複合部材(下側部材)の製造方法によると、樹脂基材22の表面に液状シリコーン材料40を射出成形する。液状シリコーン材料40の硬化を利用して、シリコーン部材21と樹脂基材22とを接着させるため、従来のようにシリコーン部材と樹脂基材とを貼り付ける方法と比較して、接着が容易であり不具合も生じにくい。また、本実施形態の製造方法においては、液状シリコーン材料40を80℃の温度下で硬化させる。したがって、樹脂基材22が変形しにくく、シリコーン部材21における微細な下側凹部26の寸法精度を維持することができる。液状シリコーン材料40は、PDMS、白金触媒およびオルガノポリシロキサン(接着成分)を含んでいる。白金触媒を含むことにより、100℃以下の低温下でも液状シリコーン材料40を硬化させることができる。また、接着成分を含むことにより、樹脂基材22との接着性が向上する。さらに、樹脂基材22の表面は、改質処理されている。接着成分および改質処理の両方の作用により、シリコーン部材21と樹脂基材22との接着性をより高めることができる。
【0037】
積層体製造工程においては、本体部23の上面230と凹凸が反対の形状を有する第二型面310を有する第二型31を使用した。これにより、射出成形するだけで、下側凹部26および流路部27を有する本体部23が樹脂基材22に接着された積層体を製造することができる。
【0038】
本実施形態の製造方法においては、疎水性層24を、マイクロ波プラズマを用いたプラズマCVD法により形成した。マイクロ波プラズマを用いると、成膜速度が大きいため生産性が高い。また、本体部23へのプラズマダメージも少ない。また、親水性層25を形成する際に、ポリシラザン液を疎水性層24の表面に転写させる転写法を採用した。これにより、下側凹部26以外の部分に容易に親水性層25を形成することができる。このように、本実施形態の製造方法によると、下側凹部26の全体が疎水性層24で被覆され、流路部27が疎水性層24および親水性層25で被覆され、流路部27の最表層が親水性層25である形態の本体部23を、容易に製造することができる。
【0039】
<その他の形態>
以上、本発明の流体デバイス用複合部材およびその製造方法の実施の形態を示したが、本発明の流体デバイス用複合部材を備える流体デバイスの構成は、上記形態に限定されない。例えば、本発明の流体デバイス用複合部材に積層される相手部材の材質は、PDMSなどのシリコーンの他、フッ素樹脂、ガラスなどでもよい。相手部材の形状、大きさなども何ら限定されない。本発明の流体デバイス用複合部材と相手部材とは、単に積層させるだけでもよいが、接着剤などを用いて接着してもよい。
【0040】
また、本発明の流体デバイス用複合部材およびその製造方法は、上記形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良などを施した種々の形態にて実施することができる。次に、本発明の流体デバイス用複合部材およびその製造方法について詳しく説明する。
【0041】
[流体デバイス用複合部材]
(1)樹脂基材
樹脂基材の材料としては、シリコーン部材が有する軟らかさ、粘着性、帯電性などの課題を改善できる材料を選択すればよい。例えば、比較的硬質で、光透過性に優れ、自家蛍光性が少ないという観点から、オレフィン樹脂またはアクリル樹脂を用いることが望ましい。例えば、ポリプロピレン樹脂、環状オレフィン樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂などが好適である。
【0042】
樹脂基材はシリコーン部材に積層されていれば、必ずしも接着されている必要はない。しかし、取り扱い性の向上、長期保管などに伴う、樹脂基材とシリコーン部材界面への水分侵入による分離、および光学特性などの劣化防止という観点から、両者は接着されていることが望ましい。ここで、「接着」とは、接着剤などによる接着の他、架橋接着などの化学結合による接着を含む。樹脂基材とシリコーン部材との接着性を向上させるため、樹脂基材におけるシリコーン部材との接着面は、予め改質処理されていることが望ましい。改質処理は、大気圧下または真空下におけるプラズマの照射、エキシマ光の照射、紫外線の照射、シランカップリング剤の塗布などにより行えばよい。プラズマ照射を採用する場合、プラズマの発生方法は、特に限定されない。例えば、高周波(RF)電源を用いたRFプラズマや、マイクロ波電源を用いたマイクロ波プラズマなどを採用すればよい。プラズマの照射は、アルゴンなどの希ガス雰囲気中、または酸素を含むガス雰囲気中で行うとよい。
【0043】
流体デバイス用複合部材の厚さは、用途により適宜決定すればよい。例えば、顕微鏡を用いた光学検査などに用いる場合には、1mm以下、750μm以下、さらには500μm以下であることが望ましい。このうち、樹脂基材の厚さは、流体デバイス用複合部材の剛性を高めるという観点から、複合部材の全体の厚さの40%以上、さらには50%以上であることが望ましい。
【0044】
(2)シリコーン部材
シリコーン部材は、シリコーン製の本体部と、バリア層と、を有する。本明細書において「シリコーン」とは、シリコーン樹脂およびシリコーンゴムの両方を含む概念である。本体部の好適例として、白金触媒を有するシリコーンゴムからなる態様が挙げられる。白金触媒を配合することにより、液状シリコーン材料の硬化温度を低下させることができる。したがって、樹脂基材の表面に液状シリコーン材料を配置して、所定の温度下で硬化させる方法を採用した場合、通常よりも低温で硬化させることが可能になる。これにより、樹脂基材の変形を抑制することができる。白金触媒の含有量は、硬化温度、硬化速度、本体部の光学特性などを考慮して適宜決定すればよい。例えば白金触媒の含有量が多いと、硬化温度は低下するが、ポットライフが短くなる、ヘイズ(濁度)が大きくなり光学特性が低下する、コストが高くなるなどの問題がある。
【0045】
本体部の好適例として、接着成分を有するシリコーンゴムからなる態様が挙げられる。接着成分を配合することにより、樹脂基材との接着性を高めることができる。接着成分としては、フェニル基を有する化合物が望ましい。フェニル基を有する化合物は、シリコーンゴムとの相溶性が低いため、界面にブリードして樹脂基材との接着に寄与すると考えられる。フェニル基を有する化合物としては、オルガノポリシロキサン、シランカップリング剤などが挙げられる。
【0046】
本体部の一面は、流路を区画する流路区画部を有する。流路は本体部のみで形成されても、本体部と相手部材とにより形成されてもよい。流路を流れる流体は、疎水性でも親水性でもよい。流路区画部は、流体の一部を捕捉するための凹部とそれ以外の流路部とから構成することができる。凹部に捕捉される流体の一部は、流体そのものの一部でもよく、流体に含まれている特定の物質のみでもよい。
【0047】
凹部の大きさ、形状、配置形態は、特に限定されない。例えば、凹部は、溝状でも窪み状でもよい。凹部の深さ方向の断面は、正方形、長方形、台形などの矩形状、半円、楕円などの曲面状、V字状などであればよい。
【0048】
流路区画部の少なくとも一部には、親水性または疎水性を有するバリア層が配置される。流路区画部が凹部とそれ以外の流路部とから構成される場合、バリア層は、凹部のみ、流路部のみ、凹部および流路部の全体または一部に配置される。バリア層は、配置する場所に応じて、親水性と疎水性とを変えてもよい。バリア層は、親水性層または疎水性層の一層でも、これらの積層体であってもよい。バリア層は、改質により形成されたものでもよく、成膜されたものでもよい。
【0049】
例えば、疎水性層を改質により形成する場合、炭素および水素を含むガス雰囲気中でのプラズマの照射、エキシマ光の照射、短時間パルス過熱による極表面アニールなどを用いて、改質対象の表面を炭化水素改質することにより、表面にフェニル基(-C6H5)、メチル基(-CH3)などの疎水性の官能基を付与すればよい。疎水性層を成膜する場合、上記実施形態のフッ化炭素膜の他、フッ素樹脂膜などを形成すればよい。この場合、膜は単分子膜でもよい。用途により、疎水性層は、疎水性に加えて撥油性などを有してもよい。
【0050】
親水性層を改質により形成する場合、疎水性層と同様に、プラズマの照射などにより、改質対象の表面に水酸基、アミノ基、C-N結合、C=O結合、アミド結合(O=C-N)などを付与すればよい。親水性層を成膜する場合、金属酸化物膜、有機成分を含む金属酸化物膜などを形成すればよい。金属酸化物としては、ケイ素酸化物、チタン酸化物、アルミニウム酸化物、亜鉛酸化物などが挙げられる。この場合、膜は単分子膜でもよい。
【0051】
有機成分を含む金属酸化物膜においては、含まれる炭素量により、水との親和性および層の硬さが変化する。炭素含有量が多いと、軟らかな層になる。これにより、相手部材との親和性が良くなり、密着性が向上する。反対に、炭素含有量が少ないと、非晶質に近い硬い層になる。これにより、液体の染み込みを抑制する効果が高くなる。例えば、バリア層を有機成分を含む金属酸化物膜で構成し、配置する場所ごとに炭素含有量を変化させることにより、水との親和性(疎水性、親水性)を変えてもよい。また、バリア層を積層構造にして、相手部材に接する層の炭素含有量を多くして密着性を高めてもよい。
【0052】
[流体デバイス用シリコーン部材の製造方法]
本発明の流体デバイス用シリコーン部材の製造方法は、積層体製造工程の他、改質工程、バリア層形成工程、凹部形成工程などを含んでもよい。以下に、各工程を説明する。
【0053】
(1)改質工程
本工程は、後述する積層体製造工程の前に、樹脂基材の表面を改質処理する工程である。本工程は必ずしも必要ではないが、樹脂基材の表面を改質処理しておくことにより、樹脂基材とシリコーン部材との接着性が向上する。改質処理は、上述したように、大気圧下または真空下におけるプラズマの照射、エキシマ光の照射、紫外線の照射、シランカップリング剤の塗布などにより行えばよい。なかでも、短時間の処理で効果が得られ、樹脂基材に熱ダメージを与えにくい、廃液処理や乾燥の必要がないという観点から、アルゴンなどの希ガス雰囲気中、または酸素を含むガス雰囲気中で行う真空マイクロ波プラズマ処理が望ましい。これにより、樹脂基材の表面に容易に水酸基を付与することができる。また、例えばロール状に巻きつけられた連続フィルム状の樹脂基材を用いる場合などで広く用いられている技術を適用して、生産効率を高めるという観点では、シランカップリング剤の塗布が望ましい。
【0054】
(2)積層体製造工程
本工程は、樹脂基材の表面に液状シリコーン材料を配置し、100℃以下の温度下で該液状シリコーン材料を硬化させることにより、該樹脂基材にシリコーン硬化物が接着された積層体を得る工程である。
【0055】
液状シリコーン材料は、シリコーンポリマーの他、硬化剤、触媒などを含むものであるが、上述したように、硬化温度を低下させるという観点から、特に白金触媒を有することが望ましい。白金触媒を含む液状シリコーン材料を用いることにより、100℃以下の温度下であっても実用的な硬化時間でシリコーン硬化物を得ることができる。樹脂基材の変形を抑制するという観点から、硬化温度を90℃以下、さらには80℃以下にするとよい。また、上述したように、樹脂基材との接着性を高めるという観点から、液状シリコーン材料は接着成分を有することが望ましい。接着成分としては、オルガノポリシロキサン、シランカップリング剤などのフェニル基を有する化合物が望ましい。
【0056】
本工程は、成形型を用いた射出成形法により行われることが望ましい。例えば、流路区画部が凹部を有する場合、シリコーン硬化物に凹部を形成できるよう成形型の型面形状を設計しておくことにより、射出成形するだけで、シリコーン部材の本体部が樹脂基材に接着された積層体を製造することができる。
【0057】
(3)バリア層形成工程
本工程は、積層体製造工程の後に、シリコーン硬化物の一面の少なくとも一部に親水性または疎水性を有するバリア層を形成する工程である。本工程は必ずしも必要ではないが、用途に応じて流路区画部にバリア層を配置することにより、分析精度や回収率を向上させることができる。
【0058】
上述したように、バリア層は、親水性層または疎水性層の一層でも、これらの積層体であってもよい。また、バリア層は、改質により形成されたものでもよく、成膜されたものでもよい。バリア層は、スパッタ法、真空蒸着などの乾式処理、または転写法、スプレーコーティング、ディップ処理などの湿式処理などの種々の方法により形成することができる。スプレーコーティングなどの湿式処理によると、薄膜化のために、コーティング材料に有機溶剤を加えて希釈することが必要になる。この際、有機溶剤が染み込んで本体部が膨潤したり、本体部が有機溶剤に溶解して変形するおそれがある。よって、乾式処理による形成が望ましい。なかでも、膜組成の調整が行いやすく、製造が容易であることから、プラズマCVD法(化学気相蒸着)法が好適である。
【0059】
プラズマCVD法においては、真空容器内に、原料ガスおよびキャリアガスを供給して所定のガス雰囲気を形成した後、プラズマを発生させて成膜を行う。プラズマの発生方法は、RFプラズマ、マイクロ波プラズマなどを採用すればよい。なかでも、マイクロ波プラズマは、プラズマ密度が大きく成膜速度が大きいため生産性が高い、プラズマダメージが少なく薄膜の形成に適している、などの理由から好適である。マイクロ波の周波数は、特に限定されない。8.35GHz、2.45GHz、1.98GHz、915MHzなどが挙げられる。
【0060】
疎水性層を形成する場合の原料ガスは、膜の種類に応じて適宜選択すればよい。例えば、フッ化炭素膜を形成する場合には、CxFy(x、yは任意の整数)ガスを用いればよい。CxFyは、水素原子(H)またはフッ素以外のハロゲン原子を含んでいてもよい。具体的には、CH3F、CH2F2、CHF3、CF4、C2F6、C5F8などのガスを用いればよい。また、これらのガスを酸素(O2)ガスやキャリアガスと混合して用いればよい。キャリガスとしては、アルゴン(Ar)、ヘリウムなどの希ガスや窒素などが挙げられる。成膜する際の圧力は、0.1~100Pa程度にすればよい。
【0061】
親水性層を形成する場合の原料ガスは、膜の種類に応じて適宜選択すればよい。例えば、有機成分を含む金属酸化物膜を形成する場合には、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、TEOS、オルトチタン酸テトライソプロピル(TTIP)、チタン酸テトラエチル、チタン酸イソプロピルなどのガスを単独、または酸素(O2)ガスと混合して用いればよい。キャリガスとしては、アルゴン(Ar)、ヘリウムなどの希ガスや窒素などが挙げられる。成膜する際の圧力は、1~100Pa程度にすればよい。
【0062】
(4)凹部形成工程
本工程は、積層体製造工程の後に、シリコーン硬化物の一面に凹部を形成する工程である。上述したように、積層体製造工程において、積層体を製造するのと同時にシリコーン硬化物の一面に凹部を形成してもよい。しかし、積層体製造工程においてはシリコーン硬化物の一面に凹部を形成せず、別途本工程においてシリコーン硬化物の一面に凹部を形成してもよい。凹部を形成する方法としては、レーザー描画、フォトリソグラフィを用いたエッチング、マイクロビーズブラスト、ナノインプリントなどが挙げられる。
【実施例】
【0063】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0064】
<液状シリコーン材料の硬化温度と樹脂基材の変形との関係>
成形型にポリプロピレン樹脂製の樹脂基材を配置し、種々の硬化温度下で液状シリコーン材料を射出成形して、得られた積層体における樹脂基材の変形の程度を調べた。硬化温度は、80~130℃の範囲において10℃刻みで設定した。これとは別に、設定した硬化温度ごとに液状シリコーン材料のみを射出成形し、未硬化部分がなくなるまでの最短時間を測定した。この測定された最短時間を、各硬化温度における硬化時間として採用した。
【0065】
樹脂基材の50mm角の矩形領域を検査領域とし、当該検査領域をさらに10mm角の矩形小領域に25等分して、小領域ごとに変形の有無を調べた。変形の有無は、光学顕微鏡による観察と、可視光を透過させた状態における目視観察と、の両方で判断した。そして、全ての小領域の外観が同じであれば変形なし(後出表1中、〇印で示す)、他の小領域と比較して外観が変化している小領域の数が1~2箇所であれば若干変形あり(同表1中、△印で示す)、他の小領域と比較して外観が変化している小領域の数が3箇所以上であれば変形あり(同表1中、×印で示す)、と評価した。表1に硬化温度および評価結果をまとめて示す。
【表1】
【0066】
表1に示すように、硬化温度が80℃および90℃の場合には、樹脂基材に変形は見られなかった。また、硬化温度が100℃の場合には、樹脂基材の一部が若干変形し、弱いうねりが見られた。これに対して、硬化温度が110℃以上の場合には、樹脂基材が大きく変形した。以上より、樹脂基材がオレフィン樹脂の場合には、硬化温度を100℃以下に設定することが望ましいことが確認された。
【0067】
<樹脂基材の厚さと積層体のたわみ量との関係>
樹脂基材とシリコーン硬化物との積層体において、樹脂基材の厚さ比率を変えて積層体のたわみ量を測定した。まず、ポリプロピレン樹脂からなり、縦30mm、横50mmで厚さが異なる長方形薄膜状の樹脂基材を6種類準備した。次に、各樹脂基材の上面に、80℃下で液状シリコーン材料を射出成形して、樹脂基材とシリコーン硬化物との積層体を製造した。積層体の厚さは全て200μmとした。すなわち、樹脂基材の厚さに応じてシリコーン硬化物の厚さを調整した。そして、得られた積層体の短手方向一端部を治具で把持し、積層体が自重でどの程度たわむか測定した。
図9Aに、積層体の上面図を示し、
図9Bに、治具で把持された状態の積層体の側面図を示す。
図9Aにハッチングを施して示すように、積層体60の短手方向一端部には、幅5mmの把持部600が配置されている。
図9Bに示すように、把持部600は、治具61にて把持され固定されている。積層体60を水平状態に保持した状態を0mm地点とし、把持部600とは反対側の他端部が自重により下がった距離を測定してたわみ量とした。
図10に、樹脂基材の厚さ比率に対する積層体のたわみ量をグラフで示す。なお、
図10中、樹脂基材の厚さ比率が0%の場合はシリコーン硬化物のみからなる試験片の結果であり、100%の場合は樹脂基材のみからなる試験片の結果である。両試験片の形状および大きさは、積層体のそれと同じである(縦30mm、横50mm、厚さ200μmの長方形薄膜状)。
【0068】
図10に示すように、樹脂基材の厚さ比率が大きくなるほど、積層体のたわみ量は小さくなった。積層体のたわみ量が10mm以下の場合を、積層体の剛性が適当であると評価すると、好適な樹脂基材の厚さは、全体の厚さの40%以上であることが確認された。
【符号の説明】
【0069】
1:流体デバイス、10:上側部材、11:流路、12:上側基材、13:親水性層、14:上側凹部、15:導入孔、16:排出口、20:下側部材(流体デバイス用複合部材)、21:シリコーン部材、22:樹脂基材、23:本体部、24:疎水性層(バリア層)、25:親水性層(バリア層)、26:下側凹部、27:流路部、230:上面(一面)、231:下面(他面)、232:流路区画部、3:成形型、30:第一型、31:第二型、310:第二型面、40:液状シリコーン材料、50:スタンプ部材、500:試薬、60:積層体、600:把持部、61:治具、P:マイクロ波プラズマ。