IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三井化学株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-25
(45)【発行日】2022-05-09
(54)【発明の名称】光学結像装置用接着剤およびその硬化物
(51)【国際特許分類】
   C09J 163/00 20060101AFI20220426BHJP
   C09J 11/08 20060101ALI20220426BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20220426BHJP
   G02B 30/00 20200101ALI20220426BHJP
【FI】
C09J163/00
C09J11/08
C09J11/06
G02B30/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018067411
(22)【出願日】2018-03-30
(65)【公開番号】P2019178208
(43)【公開日】2019-10-17
【審査請求日】2020-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103517
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 寛之
(74)【代理人】
【識別番号】100149607
【弁理士】
【氏名又は名称】宇田 新一
(72)【発明者】
【氏名】永田 桂
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特許第6203989(JP,B2)
【文献】特開2016-212417(JP,A)
【文献】特開2018-012750(JP,A)
【文献】特表2016-536410(JP,A)
【文献】特開2001-011416(JP,A)
【文献】国際公開第2014/058042(WO,A1)
【文献】特開2014-148580(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00 - 201/10
G02B 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹凸面を有し、前記凹凸面の一部に光反射部が設けられる2つの樹脂基板が、前記凹凸面が互いに向かい合うように接着される光学結像装置の前記2つの樹脂基板を接着するための光学結像装置用接着剤であって、
厚さが100μmである前記光学結像装置用接着剤の硬化物における、波長380nm~780nmの平行光線透過率の平均値が90%以上であり、
前記光学結像装置用接着剤の硬化収縮率が5%以下であり、
脂環式エポキシ樹脂と、
炭素環不含有カチオン重合性樹脂と、
粘着付与樹脂と、
光重合開始剤と、を含み、
前記脂環式エポキシ樹脂は、エポキシシクロヘキシル構造含有エポキシ樹脂を含み、
前記エポキシシクロヘキシル構造含有エポキシ樹脂は、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(3,4-エポキシ)シクロヘキサンカルボキシレートであり、
前記脂環式エポキシ樹脂の含有割合は、前記光学結像装置用接着剤に対して、5質量%以上60質量%以下であり、
前記炭素環不含有カチオン重合性樹脂は、オキセタン環含有化合物を含み、
前記オキセタン環含有化合物は、3,3’-(オキシビスメチレン)ビス(3-エチルオキセタン)であり、
前記炭素環不含有カチオン重合性樹脂の含有割合は、前記光学結像装置用接着剤に対して、5質量%以上60質量%以下であり、
前記粘着付与樹脂は、芳香族系炭化水素樹脂または飽和脂肪族系炭化水素樹脂を含み、
前記粘着付与樹脂の含有割合は、前記光学結像装置用接着剤に対して、30質量%以上70質量%以下であり、
前記光重合開始剤は、光カチオン重合開始剤を含み、
前記光重合開始剤の含有割合は、前記光学結像装置用接着剤に対して、0.1質量%以上7.0質量%以下であることを特徴とする、光学結像装置用接着剤。
【請求項2】
前記粘着付与樹脂は、飽和脂肪族系炭化水素樹脂を含み、
前記飽和脂肪族系炭化水素樹脂は、水添ロジン系炭化水素樹脂を含むことを特徴とする、請求項に記載の光学結像装置用接着剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の光学結像装置用接着剤を硬化してなることを特徴とする、硬化物。
【請求項4】
厚さが1mmである前記硬化物におけるヘイズが5%以下であることを特徴とする、請求項に記載の硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学結像装置用接着剤およびその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイなどの画像表示装置からの光を透過することにより、空中に画像を結像する光学結像装置が知られている。
【0003】
例えば、金属反射膜が設けられる溝が複数並列配置される表面を有する第1光制御パネルおよび第2光制御パネルが、溝が配置される表面が互いに向かい、それら溝が互いに直交するように重ねられた状態で、透明樹脂により接合される立体像結像装置が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6203989号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかるに、特許文献1に記載の立体像結像装置において、透明樹脂として硬化性樹脂が選択される場合がある。このような場合、第1光制御パネルおよび第2光制御パネルの間において、それらの溝に硬化性樹脂組成物を充填した後、硬化性樹脂組成物を硬化させて、立体像結像装置を製造する。
【0006】
しかし、硬化性樹脂組成物の硬化収縮率が5%を超過すると、硬化性樹脂組成物の収縮により引っ張られて、溝に設けられる金属反射膜が光制御パネルから剥離する場合や、光制御パネルに反りが生じて立体像結像装置の結像に乱れが生じる場合がある。
【0007】
また、このような立体像結像装置では、硬化性樹脂に優れた光透過性が要求されており、硬化性樹脂組成物の優れた硬化収縮率と、硬化性樹脂の優れた光透過性とをバランスよく確保することが望まれる。
【0008】
本発明は、硬化収縮率の低減を図ることができながら、硬化物に優れた光透過性を付与することができる光学結像装置用接着剤およびその硬化物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明[1]は、凹凸面を有し、前記凹凸面の一部に光反射部が設けられる2つの樹脂基板が、前記凹凸面が互いに向かい合うように接着される光学結像装置の前記2つの樹脂基板を接着するための光学結像装置用接着剤であって、厚さが100μmである前記光学結像装置用接着剤の硬化物における、波長380nm~780nmの平行光線透過率の平均値が90%以上であり、前記光学結像装置用接着剤の硬化収縮率が5%以下である、光学結像装置用接着剤を含んでいる。
【0010】
本発明[2]は、脂環式エポキシ樹脂と、炭素環不含有カチオン重合性樹脂と、粘着付与樹脂と、光重合開始剤と、を含み、前記粘着付与樹脂の含有割合は、前記光学結像装置用接着剤に対して、30質量%以上70質量%以下である、上記[1]に記載の光学結像装置用接着剤を含んでいる。
【0011】
本発明[3]は、前記炭素環不含有カチオン重合性樹脂は、オキセタン環含有化合物を含む、上記[1]または[2]に記載の光学結像装置用接着剤を含んでいる。
【0012】
本発明[4]は、前記脂環式エポキシ樹脂は、エポキシシクロヘキシル構造含有エポキシ樹脂を含む、上記[1]~[3]のいずれか一項に記載の光学結像装置用接着剤を含んでいる。
【0013】
本発明[5]は、前記粘着付与樹脂は、水添ロジン系炭化水素樹脂を含む、上記[1]~[4]のいずれか一項に記載の光学結像装置用接着剤を含んでいる。
【0014】
本発明[6]は、上記[1]~[5]のいずれか一項に記載の光学結像装置用接着剤を硬化してなる、硬化物を含んでいる。
【0015】
本発明[7]は、厚さが1mmである前記硬化物におけるヘイズが5%以下である、上記[6]に記載の硬化物を含んでいる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の光学結像装置用接着剤によれば、光学結像装置用接着剤の硬化収縮率が上記上限以下であり、厚さが100μmである光学結像装置用接着剤の硬化物における、波長380nm~780nmの平行光線透過率の平均値が上記下限以上であるので、光学結像装置用接着剤の硬化収縮率の低減と、光学結像装置用接着剤の硬化物の光透過性の向上とがバランスよく図られている。
【0017】
そのため、光学結像装置用接着剤により、光反射部が設けられる凹凸面を有する2つの樹脂基板を、凹凸面が互いに向かい合うように接着すると、樹脂基板からの光反射部の剥離や樹脂基板の反りを抑制できるとともに、光学結像装置に優れた光透過性を付与することができる。
【0018】
また、本発明の硬化物は、上記した光学結像装置用接着剤を硬化してなるので、硬化による収縮を抑制できながら、優れた光透過性を有することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<光学結像装置用接着剤>
本発明の光学結像装置用接着剤(以下、接着剤とする。)は、詳しくは後述するが、公知の光学結像装置が備える2つの樹脂基板を接着するための硬化性樹脂組成物であって、硬化することにより2つの樹脂基板を接着する。
【0020】
接着剤は、例えば、脂環式エポキシ樹脂と、炭素環不含有カチオン重合性樹脂と、粘着付与樹脂と、光重合開始剤とを含む。
【0021】
(1)脂環式エポキシ樹脂
脂環式エポキシ樹脂は、エポキシ基と脂肪族環(脂環骨格)とを有し、芳香族環を有しない硬化性樹脂(例えば、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂など)であって、好ましくは、光硬化性樹脂(より具体的には、紫外線硬化性)である。
【0022】
接着剤が脂環式エポキシ樹脂を含むと、接着剤が芳香族エポキシ樹脂を含む場合と比較して、可視光領域の光の吸収を抑制でき、接着剤の硬化物の平行光線透過率(後述)の低減を図ることができる。
【0023】
また、接着剤が脂環式エポキシ樹脂を含むと、接着剤が非環式の脂肪族エポキシ樹脂を含む場合と比較して、接着剤の硬化物のガラス転移温度(Tg)の向上を図ることができ、接着剤の硬化物の耐熱性の向上を図ることができる。
【0024】
脂環式エポキシ樹脂は、例えば、複数のエポキシ基を有する多官能(二官能を含む)型エポキシ樹脂であり、好ましくは、2つのエポキシ基を有する二官能型エポキシ樹脂である。
【0025】
脂環式エポキシ樹脂の重量平均分子量は、例えば、200以上、例えば、1000以下、好ましくは、500以下である。重量平均分子量(M)は、ポリスチレンを標準物質とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により求めることができる(以下同様)。
【0026】
脂環式エポキシ樹脂の重量平均分子量が上記の範囲であると、接着剤の粘度の低減を図ることができ、かつ、接着剤の硬化物の耐熱性の向上を確実に図ることができる。
【0027】
また、脂環式エポキシ樹脂におけるエポキシ当量は、例えば、90g/eq.以上、好ましくは、100g/eq.以上、例えば、250g/eq.以下、好ましくは、190g/eq.以下である。エポキシ当量は、JIS K7236:2001に準拠して測定できる(以下同様)。
【0028】
脂環式エポキシ樹脂として、例えば、脂肪族環に結合する複数のグリシジルエーテルユニットを有するポリグリシジルエーテル含有脂環式エポキシ樹脂、脂肪族環を形成している隣接する2つの炭素原子と、それら2つの炭素原子に結合する1つの酸素原子とから構成されるエポキシ基を有するエポキシシクロ構造含有エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0029】
ポリグリシジルエーテル含有脂環式エポキシ樹脂として、例えば、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステルなどの二官能型グリシジルエーテル含有脂環式エポキシ樹脂が挙げられる。ポリグリシジルエーテル含有脂環式エポキシ樹脂は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0030】
エポキシシクロ構造含有エポキシ樹脂として、例えば、エポキシシクロヘキサン構造含有エポキシ樹脂(以下、ECH構造含有エポキシ樹脂とする。)が挙げられる。
【0031】
ECH構造含有エポキシ樹脂として、例えば、下記化学式(1)に示される1つのECH構造を含有するエポキシ樹脂、下記一般式(2)に示される2つのECH構造を含有するエポキシ樹脂、それらの変性物などが挙げられる。
【0032】
【化1】
【0033】
【化2】
【0034】
[式(2)中において、Xは、連結基(1以上の原子を有する2価の基)を示す。Rは、水素原子、フッ素原子、アルキル基、フルオロアルキル基、アリール基、フリル基およびチエニル基からなる群から選択される1つの原子または置換基を示す。式(2)中における2つのRは、互いに同一であってもよく互いに異なっていてもよい。]
上記一般式(2)に示される2つのECH構造を含有するエポキシ樹脂(以下、一般式(2)に示されるECH構造含有エポキシ樹脂とする。)は、ECH構造(エポキシシクロヘキシル基)を分子の両末端に有し、2つのエポキシシクロヘキシル基が連結基を介して結合する。なお、エポキシシクロヘキシル基は、シクロヘキサン環と、シクロヘキサン環を形成している隣接する2つの炭素原子と、それら2つの炭素原子に結合する1つの酸素原子とにより構成されるエポキシ基とを含む官能基である。
【0035】
上記一般式(2)においてRで示されるアルキル基として、例えば、炭素数1~6の直鎖または分岐鎖状のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基など)などが挙げられる。
【0036】
上記一般式(2)においてRで示されるフルオロアルキル基として、例えば、炭素数1~6の直鎖または分岐鎖状のフルオロアルキル基(例えば、パーフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基など)などが挙げられる。
【0037】
上記一般式(2)においてRで示されるアリール基として、例えば、炭素数6~18のアリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基など)などが挙げられる。
【0038】
上記一般式(2)においてXで示される連結基として、例えば、酸素原子、硫黄原子、2価の炭化水素基、ポリオキシアルキレン基、カルボニル基、エーテル基、チオエーテル基、エステル基、カーボネート基、アミド基、および、これらが連結した基などが挙げられる。
【0039】
2価の炭化水素基として、例えば、炭素数1~20の直鎖または分岐鎖状のアルキレン基(例えば、メチレン基、メチルメチレン基、ジメチルメチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、ブチレン基など)、炭素数1~20の直鎖または分岐鎖状の不飽和炭化水素基(例えば、プロペニレン基、メチルプロペニレン基、ブテニレン基など)などが挙げられる。
【0040】
ポリオキシアルキレン基として、例えば、炭素数1~120の直鎖または分岐鎖状のポリオキシアルキレン基(例えば、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基など)などが挙げられる。
【0041】
このような脂環式エポキシ樹脂のなかでは、好ましくは、エポキシシクロ構造含有エポキシ樹脂が挙げられ、さらに好ましくは、ECH構造含有エポキシ樹脂が挙げられる。
【0042】
つまり、脂環式エポキシ樹脂は、好ましくは、エポキシシクロ構造含有エポキシ樹脂を含み、さらに好ましくは、ECH構造含有エポキシ樹脂を含み、とりわけ好ましくは、ECH構造含有エポキシ樹脂からなる。
【0043】
脂環式エポキシ樹脂がエポキシシクロ構造含有エポキシ樹脂(ECH構造含有エポキシ樹脂)を含むと、接着剤の硬化収縮率の低減を確実に図ることができながら、接着剤の硬化物に優れた光透過性を確実に付与することができる。
【0044】
また、ECH構造含有エポキシ樹脂のなかでは、好ましくは、上記一般式(2)に示されるECH構造含有エポキシ樹脂が挙げられる。
【0045】
また、上記一般式(2)に示されるECH構造含有エポキシ樹脂において、好ましくは、酸素原子を含む連結基を有するECH構造含有エポキシ樹脂が挙げられ、さらに好ましくは、エステル基とアルキレン基とが連結する連結基を有するECH構造含有エポキシ樹脂が挙げられ、とりわけ好ましくは、エステル基とメチレン基とが連結する連結基を有するECH構造含有エポキシ樹脂が挙げられる。
【0046】
以下に、一般式(3)として、エステル基とメチレン基とが連結する連結基を有するECH構造含有エポキシ樹脂を示す。
【0047】
【化3】
【0048】
[式(3)中において、Rは、上記した式(2)中のRと同様の原子または置換基を示す。]
上記一般式(2)および(3)においてRで示される原子または置換基のなかでは、好ましくは、水素原子が挙げられる。
【0049】
このような上記一般式(2)に示されるECH構造含有エポキシ樹脂は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0050】
このような上記一般式(2)に示されるECH構造含有エポキシ樹脂として、具体的には、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル、1,2-ビス(3,4-エポキシシクロヘキサン-1-イル)エタン、2,2-ビス(3,4-エポキシシクロヘキサン-1-イル)プロパン、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(3,4-エポキシ)シクロヘキサンカルボキシレート、ε-カプロラクトン変性3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキリレートなどが挙げられ、好ましくは、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(3,4-エポキシ)シクロヘキサンカルボキシレートが挙げられる。
【0051】
また、上記一般式(2)に示されるECH構造含有エポキシ樹脂は、市販品を用いることもできる。上記一般式(2)に示されるECH構造含有エポキシ樹脂の市販品として、例えば、セロキサイド8000、セロキサイド2021P(エポキシ当量128~145g/eq.)、セロキサイド2081(いずれもダイセル社製)などが挙げられる。
【0052】
脂環式エポキシ樹脂の含有割合は、光学結像装置用接着剤に対して、例えば、5質量%以上、好ましくは、10質量%以上、さらに好ましくは、15質量%以上、とりわけ好ましくは、17質量%以上、例えば、60質量%以下、好ましくは、50質量%以下、さらに好ましくは、30質量%以下である。
【0053】
脂環式エポキシ樹脂の含有割合が上記範囲内であると、他の成分の含有割合を確保することができ、接着剤の硬化物に要求される種々の特性をバランスよく確保できる。とりわけ、脂環式エポキシ樹脂の含有割合が上記下限以上であれば、接着剤の粘度の低減をより確実に図ることができながら、接着剤の硬化物の屈折率の低減を確実に図ることができる。
【0054】
(2)炭素環不含有カチオン重合性樹脂
炭素環不含有カチオン重合性樹脂は、炭素環(脂肪族環および芳香族環)を含有しないカチオン重合性樹脂であり、好ましくは、光硬化性樹脂(より具体的には、紫外線硬化性)である。
【0055】
接着剤が炭素環不含有カチオン重合性樹脂を含むと、炭素環不含有カチオン重合性樹脂が炭素環(脂肪族環および芳香族環)を含有していないので、可視光領域の光の吸収を抑制でき、接着剤の硬化物の平行光線透過率(後述)の低減をより確実に図ることができる。
【0056】
炭素環不含有カチオン重合性樹脂の重量平均分子量は、例えば、100以上、好ましくは、200以上、例えば、10000以下、好ましくは、1000以下、さらに好ましくは、500以下である。
【0057】
炭素環不含有カチオン重合性樹脂として、例えば、ポリグリシジルエーテル含有非環式エポキシ樹脂、オキセタン環含有化合物、フラン環含有化合物などが挙げられる。炭素環不含有カチオン重合性樹脂は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0058】
このような炭素環不含有カチオン重合性樹脂のなかでは、好ましくは、ポリグリシジルエーテル含有非環式エポキシ樹脂およびオキセタン環含有化合物が挙げられる。
【0059】
ポリグリシジルエーテル含有非環式エポキシ樹脂は、炭素環(脂肪族環および芳香族環)を含有せず、複数のグリシジルエーテルユニットを含有する多官能(二官能含む)型エポキシ樹脂である。ポリグリシジルエーテル含有非環式エポキシ樹脂の炭素数は、例えば、2以上10以下である。
【0060】
ポリグリシジルエーテル含有非環式エポキシ樹脂として、例えば、アルキレングリコールジグリシジルエーテル、ポリアルキレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、ジペンタエリスリトールヘキサグリシジルエーテルなどが挙げられる。ポリグリシジルエーテル含有非環式エポキシ樹脂は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0061】
オキセタン環含有化合物は、例えば、1以上5以下のオキセタン環を含有する。
【0062】
オキセタン環含有化合物として、例えば、1つのオキセタン環を有する単官能オキセタン化合物、2つのオキセタン環を有する二官能オキセタン化合物、3つ以上のオキセタン環を有する三官能以上のオキセタン化合物などが挙げられる。
【0063】
単官能オキセタン化合物として、例えば、3-エチル-3-ヒドロキシメチルオキセタン、3-(メタ)アリルオキシメチル-3-エチルオキセタン、(3-エチル-3-オキセタニルメトキシ)メチルベンゼン、2-エチルヘキシル(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、エチルジエチレングリコール(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、3-シクロヘキシルメチルー3-エチル-オキセタンなどが挙げられる。
【0064】
二官能オキセタン化合物として、例えば、1,4-ビス{〔(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシ〕メチル}ベンゼン、3,3’-(オキシビスメチレン)ビス(3-エチルオキセタン)、1,4-ビス〔(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシ〕ベンゼン、1,3-ビス〔(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシ〕ベンゼン、3,7-ビス(3-オキセタニル)-5-オキサ-ノナン、1,4-ビス〔(3-エチル-3-オキセタニルメトキシ)メチル〕ベンゼン、1,2-ビス〔(3-エチル-3-オキセタニルメトキシ)メチル〕エタン、1,2-ビス〔(3-エチル-3-オキセタニルメトキシ)メチル〕プロパン、エチレングリコールビス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、ジシクロペンテニルビス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテルなどが挙げられる。
【0065】
三官能以上のオキセタン化合物として、例えば、トリメチロールプロパントリス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、ペンタエリスリトールトリス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、ペンタエリスリトールテトラキス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、ジペンタエリスリトールペンタキス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテルなどが挙げられる。
【0066】
このようなオキセタン環含有化合物は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0067】
このようなポリグリシジルエーテル含有非環式エポキシ樹脂およびオキセタン環含有化合物のなかでは、好ましくは、オキセタン環含有化合物が挙げられ、さらに好ましくは、二官能オキセタン化合物が挙げられ、とりわけ好ましくは、3,3’-(オキシビスメチレン)ビス(3-エチルオキセタン)が挙げられる。
【0068】
つまり、炭素環不含有カチオン重合性樹脂は、好ましくは、オキセタン環含有化合物(二官能オキセタン化合物、3,3’-(オキシビスメチレン)ビス(3-エチルオキセタン))を含み、さらに好ましくは、オキセタン環含有化合物(二官能オキセタン化合物、3,3’-(オキシビスメチレン)ビス(3-エチルオキセタン))からなる。
【0069】
炭素環不含有カチオン重合性樹脂がオキセタン環含有化合物(二官能オキセタン化合物)を含むと、接着剤の硬化物のガラス転移温度(Tg)の向上をより確実に図ることができ、接着剤の硬化物の耐熱性の向上をより一層確実に図ることができる。
【0070】
また、オキセタン環含有化合物は、市販品を用いることもできる。オキセタン環含有化合物の市販品として、例えば、アロンオキセタン OXT-221、アロンオキセタン OXT-121(いずれも東亜合成化学社製)などが挙げられる。
【0071】
炭素環不含有カチオン重合性樹脂の含有割合は、光学結像装置用接着剤に対して、例えば、5質量%以上、好ましくは、10質量%以上、さらに好ましくは、15質量%以上、とりわけ好ましくは、17質量%以上、特に好ましくは、20質量%以上、例えば、60質量%以下、好ましくは、40質量%以下、さらに好ましくは、35質量%以下である。
【0072】
脂環式エポキシ樹脂の含有割合が上記範囲内であると、他の成分の含有割合を確保することができ、接着剤の硬化物に要求される種々の特性をバランスよく確保できる。とりわけ、炭素環不含有カチオン重合性樹脂の含有割合が上記下限以上であれば、接着剤の粘度の低減をより一層確実に図ることができながら、接着剤の硬化物の屈折率の低減をより確実に図ることができる。
【0073】
(3)粘着付与樹脂
粘着付与樹脂は、上記した脂環式エポキシ樹脂および上記した炭素環不含有カチオン重合性樹脂と反応しない熱可塑性樹脂であって、有機充填剤として接着剤に添加される。
【0074】
粘着付与樹脂は、接着剤の硬化収縮率を低減するとともに、接着剤の硬化物の平行光線透過率を向上させる。
【0075】
粘着付与樹脂の軟化点は、例えば、70℃以上、好ましくは、90℃以上、例えば、160℃以下、好ましくは、140℃以下である。
【0076】
粘着付与樹脂は、上記した脂環式エポキシ樹脂および上記した炭素環不含有カチオン重合性樹脂と相溶可能である。粘着付与樹脂の溶解度パラメータは、例えば、8.0(cal/cm1/2以上、好ましくは、9.0(cal/cm1/2以上、例えば、12(cal/cm1/2以下である。SP値は、Million Zillion Software社の計算ソフトCHEOPS(version4.0)にて算出できる。なお、該計算ソフトで用いられる計算手法は、Computational Materials Science of Polymers(A.A.Askadskii、 Cambridge Intl Science Pub (2005/12/30))Chapter XIIに記載されている。
【0077】
粘着付与樹脂の溶解度パラメータが上記の範囲であると、脂環式エポキシ樹脂および炭素環不含有カチオン重合性樹脂との相溶性の向上を図ることができ、接着剤の硬化物のヘイズの低減を図ることができる。
【0078】
また、粘着付与樹脂のガードナー色数は、例えば、3以下である。
【0079】
粘着付与樹脂として、例えば、芳香族系炭化水素樹脂、不飽和脂肪族系炭化水素樹脂、飽和脂肪族系炭化水素樹脂などが挙げられる。
【0080】
芳香族系炭化水素樹脂は、芳香族環を有する炭化水素樹脂である。芳香族系炭化水素樹脂として、例えば、C9系石油樹脂、テルペンフェノール樹脂などが挙げられる。
【0081】
不飽和脂肪族系炭化水素樹脂は、芳香族環を有さず、不飽和結合を有する炭化水素樹脂である。不飽和脂肪族系炭化水素樹脂として、例えば、ロジン系炭化水素樹脂、ポリテルペン樹脂、C5系石油樹脂などが挙げられる。
【0082】
飽和脂肪族系炭化水素樹脂は、不飽和結合を有しない炭化水素樹脂であり、脂肪族環を有する脂環族飽和炭化水素樹脂を含む。
【0083】
飽和脂肪族系炭化水素樹脂として、例えば、上記した芳香族系炭化水素樹脂の水素添加物(具体的には、水添C9系石油樹脂、水添テルペンフェノール樹脂など)、上記した不飽和脂肪族系炭化水素樹脂の水素添加物(具体的には、水添ロジン系炭化水素樹脂、水添ポリテルペン樹脂、水添C5系石油樹脂など)などが挙げられる。
【0084】
このような粘着付与樹脂は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0085】
このような粘着付与樹脂のなかでは、好ましくは、芳香族系炭化水素樹脂および飽和脂肪族系炭化水素樹脂が挙げられ、さらに好ましくは、飽和脂肪族系炭化水素樹脂が挙げられ、とりわけ好ましくは、不飽和脂肪族系炭化水素樹脂の水素添加物、特に好ましくは、水添ロジン系炭化水素樹脂が挙げられる。
【0086】
つまり、粘着付与樹脂は、好ましくは、芳香族系炭化水素樹脂および/または飽和脂肪族系炭化水素樹脂を含み、さらに好ましくは、飽和脂肪族系炭化水素樹脂(不飽和脂肪族系炭化水素樹脂の水素添加物、水添ロジン系炭化水素樹脂)を含み、とりわけ好ましくは、飽和脂肪族系炭化水素樹脂(不飽和脂肪族系炭化水素樹脂の水素添加物、水添ロジン系炭化水素樹脂)からなる。
【0087】
粘着付与樹脂が飽和脂肪族系炭化水素樹脂(不飽和脂肪族系炭化水素樹脂の水素添加物、水添ロジン系炭化水素樹脂)を含むと、接着剤の硬化物の透明性の向上を確実に図ることができる。
【0088】
また、芳香族系炭化水素樹脂および飽和脂肪族系炭化水素樹脂のそれぞれは、市販品を用いることもできる。芳香族系炭化水素樹脂の市販品として、例えば、FTR8100(三井化学社製)、タマノル901(荒川化学工業社製)などが挙げられる。飽和脂肪族系炭化水素樹脂の市販品として、例えば、パインクリスタル KE-100(水添ロジン系炭化水素樹脂、荒川化学工業社製)、Quintone A100(日本ゼオン社製)などが挙げられる。
【0089】
粘着付与樹脂の含有割合は、光学結像装置用接着剤に対して、30質量%以上、好ましくは、35質量%以上、さらに好ましくは、45質量%以上、70質量%以下、好ましくは、66質量%以下、さらに好ましくは、60質量%以下、とりわけ好ましくは、50質量%以下である。
【0090】
粘着付与樹脂の含有割合が上記範囲内であると、他の成分の含有割合を確保することができ、接着剤の硬化物に要求される種々の特性をバランスよく確保できる。とりわけ、粘着付与樹脂の含有割合が上記下限以上であれば、接着剤の硬化収縮率の低減を図ることができ、粘着付与樹脂の含有割合が上記上限以下であれば、光学結像装置用接着剤の硬化物の平行光線透過率の向上を図ることができる。
【0091】
(4)光重合開始剤
光重合開始剤は、光照射により酸を発生する光酸発生剤であって、光照射(例えば、紫外線照射)により接着剤を硬化させる。
【0092】
光重合開始剤は、特に制限されず、公知の光カチオン重合開始剤を用いることができる。
【0093】
光カチオン重合開始剤として、例えば、AsF 、SbF 、PF 、BF 、SbCl などを対アニオンとする、スルホニウム塩、ホスホニウム塩、4級アンモニウム塩、ジアゾニウム塩、ヨードニウム塩などが挙げられる。光カチオン重合開始剤は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0094】
このような光カチオン重合開始剤のなかでは、好ましくは、フッ化リン系スルホニウム塩が挙げられる。
【0095】
フッ化リン系スルホニウム塩として、例えば、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、p-(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェートなどが挙げられる。
【0096】
このような光カチオン重合開始剤は、市販品を用いることもできる。光カチオン重合開始剤の市販品として、例えば、CPI-100P(サンアプロ社製)、BULESIL PI2074(ソルベイ社製)などが挙げられる。
【0097】
光重合開始剤の含有割合は、光学結像装置用接着剤に対して、例えば、0.1質量%以上、好ましくは、1.0質量%以上、例えば、7.0質量%以下、好ましくは、5.0質量%以下である。
【0098】
(5)その他の添加剤
接着剤は、必要に応じて、他の添加剤として、公知のシランカップリング剤(例えば、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランなど)、公知のレベリング剤(例えば、シリコーン系ポリマーなど)、公知の消泡剤(例えば、ポリエチレン系消泡剤など)などを含有することができる。
【0099】
シランカップリング剤、レベリング剤および消泡剤のそれぞれの含有割合は、光学結像装置用接着剤に対して、例えば、0.01質量%以上、好ましくは、0.05質量%以上、例えば、10質量%以下、好ましくは、3質量%以下である。
【0100】
また、接着剤は、さらに必要に応じて、他の添加剤として、安定剤、有機溶剤、重合開始助剤、老化防止剤、濡れ性改良剤、界面活性剤、可塑剤、紫外線吸収剤、防腐剤、抗菌剤などを、適宜の割合で含有してもよい。
【0101】
<光学結像装置用接着剤の製造>
次に、上記した光学結像装置用接着剤(接着剤)の製造方法について説明する。
【0102】
上記した接着剤を製造するには、例えば、まず、上記の脂環式エポキシ樹脂、上記の炭素環不含有カチオン重合性樹脂および上記の粘着付与樹脂を、必要に応じて加熱しながら、上記した割合で混合する。
【0103】
混合温度は、例えば、80℃以上、好ましくは、100℃以上、例えば、150℃以下、好ましくは、140℃以下である。混合時間は、例えば、30分以上、好ましくは、40分以上、例えば、120分以下、好ましくは、80分以下である。
【0104】
これによって、脂環式エポキシ樹脂、炭素環不含有カチオン重合性樹脂および粘着付与樹脂が相溶して、樹脂混合物が調製される。
【0105】
次いで、室温(25℃)において、上記の光重合開始剤と、必要に応じて上記の他の添加剤(例えば、シランカップリング剤、レベリング剤および消泡剤など)とを、上記した割合で、樹脂混合物に添加して混合する。
【0106】
以上によって、脂環式エポキシ樹脂と、炭素環不含有カチオン重合性樹脂と、粘着付与樹脂と、光重合開始剤とを含み、必要に応じて、他の添加剤をさらに含む接着剤が製造される。
【0107】
このような接着剤の硬化収縮率は、0%が好ましいが、例えば、0.1%以上、5%以下、好ましくは、4%以下、さらに好ましくは、3.5%以下である。接着剤の硬化収縮率は、後述する実施例に記載の方法に準拠して測定できる。
【0108】
接着剤の硬化収縮率が上記上限以下であると、接着剤を後述する2つの樹脂基板の接着に用いても、樹脂基板(後述)から光反射部(後述)が剥離することを抑制できるとともに、樹脂基板(後述)に反りが生じることを抑制できる。
【0109】
また、接着剤の25℃における粘度は、例えば、50mPa・s以上、好ましくは、250mPa・s以上、例えば、100,000mPa・s以下、好ましくは、10,000mPa・s以下、さらに好ましくは、1,000mPa・s以下である。なお、25℃における粘度は、後述する実施例に記載の方法に準拠して測定できる。
【0110】
接着剤の25℃における粘度が上記下限以上であると、2つの樹脂基板(後述)を接着するときに、接着剤が2つの樹脂基板(後述)の間から流出することを抑制でき、接着剤の取扱性の向上を図ることができる。接着剤の25℃における粘度が上記上限以下であると、接着剤の硬化物に気孔(ボイド)が形成されることを抑制でき、接着剤の硬化物の充填性の向上を図ることができる。
【0111】
また、上記した接着剤を硬化してなる硬化物は、優れた透明性を有している。
【0112】
具体的には、厚さが100μmである接着剤の硬化物における、波長380nm~780nmの平行光線透過率の平均値は、例えば、90%以上、好ましくは、93%以上、さらに好ましくは、95%以上、例えば、100%以下である。なお、平行光線透過率の平均値は、後述する実施例に記載の方法に準拠して測定できる。
【0113】
接着剤の硬化物の平行光線透過率の平均値が、上記下限以上であれば、接着剤の硬化物の優れた透明性を確実に確保することができ、接着剤が用いられる光学結像装置(後述)に優れた光透過性を付与することができる。
【0114】
また、厚さが1mmである接着剤の硬化物におけるヘイズは、例えば、0%以上、好ましくは、1.0%以上、例えば、7.0%以下、好ましくは、6.0%以下、さらに好ましくは、5.0%以下、とりわけ好ましくは、3.0%以下である。なお、ヘイズは、後述する実施例に記載の方法に準拠して測定できる。
【0115】
接着剤の硬化物のヘイズが、上記上限以下であれば、接着剤の硬化物における光の拡散を抑制することができ、接着剤の硬化物の透明性の向上をより確実に図ることができる。
【0116】
また、接着剤の硬化物のD線における屈折率は、例えば、1.30以上、好ましくは、1.40以上、さらに好ましくは、1.50以上、例えば、1.70以下、好ましくは、1.60以下、さらに好ましくは、1.55以下である。なお、D線における屈折率は、後述する実施例に記載の方法に準拠して測定できる(以下同様)。
【0117】
また、接着剤の硬化物のD線における屈折率の、光学結像装置(後述)に用いられる樹脂基板(後述)の屈折率に対する比率(接着剤の硬化物のD線における屈折率/光学結像装置に用いられる樹脂基板の屈折率)は、は、例えば、0.996以上、好ましくは、0.998以上、例えば、1.005以下、好ましくは、1.004以下、さらに好ましくは、1.000以下である。
【0118】
接着剤の硬化物のD線における屈折率の、光学結像装置に用いられる樹脂基板の屈折率に対する比率が上記の範囲であれば、光学結像装置(後述)の結像性の向上を図ることができる。
【0119】
また、接着剤の硬化物のガラス転移温度(Tg)は、例えば、50℃以上、好ましくは、80℃以上、例えば、200℃以下、好ましくは、150℃以下である。なお、ガラス転移温度(Tg)は、粘弾性測定装置(DMA7100/日立ハイテクサイエンス社製)により測定できる。
【0120】
接着剤の硬化物のガラス転移温度が上記の範囲であれば、接着剤の硬化物の耐熱性の向上を図ることができる。
【0121】
<光学結像装置用接着剤の用途>
このような光学結像装置用接着剤(接着剤)は、公知の光学結像装置の2つの樹脂基板を接着するために用いられる。
【0122】
光学結像装置として、例えば、国際公開第2009/131128号に記載の光学結像装置、特開2015-14777号公報に記載の光学結像装置、特許第6203989号明細書に記載の立体結像装置、特開2018-13585号公報に記載の立体結像素子、特開2011-90117号公報に記載の光学結像装置、国際公開第2013/129063号に記載の光学結像手段などが挙げられる。
【0123】
このような光学結像装置は、凹凸面を有し、凹凸面の一部に光反射部が設けられる2つの樹脂基板を有する。
【0124】
凹凸面には、例えば、所定方向に延びる溝が、互いに平行となるように、所定方向と交差する方向に複数並んでいる。溝の形状は、特に制限されず、例えば、断面矩形状であってもよく、断面三角形状であってもよい。溝の深さは、特に制限されないが、例えば、0.5mm程度である。樹脂基板の材料は、特に制限されないが、例えば、シクロオレフィンポリマーなどのポリオレフィンが挙げられる。
【0125】
光反射部は、凹凸面の一部に設けられており、具体的には、複数の溝のそれぞれが有する表面の一部に設けられている。光反射部の材料は、例えば、アルミニウムなどの金属であって、光反射部は、例えば、金属蒸着膜である。
【0126】
そして、そのような2つの樹脂基板は、凹凸面が互いに向かい合うように配置されて、上記した光学結像装置用接着剤(接着剤)により接着される。
【0127】
具体的には、2つ樹脂基板の凹凸面が互いに向かい合い、凹凸面が含む複数の溝が互いに交差するように、2つ樹脂基板が重ねられ、それら2つ樹脂基板の間に、未硬化の接着剤が充填される。そして、接着剤に光(具体的には、UV光)を照射して硬化させた後、必要に応じて乾燥させる。
【0128】
これによって、2つ樹脂基板が接着剤により接着されて、光学結像装置が製造される。
【0129】
<作用効果>
上記した光学結像装置用接着剤の硬化収縮率は、上記上限以下であり、厚さが100μmである接着剤の硬化物における、波長380nm~780nmの平行光線透過率の平均値は、上記下限以上である。そのため、光学結像装置用接着剤の優れた硬化収縮率と、光学結像装置用接着剤の硬化物の優れた平行光線透過率とがバランスよく確保されている。
【0130】
その結果、光学結像装置用接着剤により、光反射部が設けられる凹凸面を有する2つの樹脂基板を、凹凸面が互いに向かい合うように接着しても、樹脂基板からの光反射部の剥離や樹脂基板の反りを抑制できるとともに、光学結像装置に優れた光透過性を付与することができる。
【0131】
しかるに、接着剤の技術分野において、接着剤の硬化収縮率の低減が検討される場合、通常、接着剤にシリカなどの無機充填剤を添加する。
【0132】
一方、接着剤に無機充填剤を添加すると、接着剤の硬化物の光透過性が低下するため、光学結像装置用接着剤に要求される優れた硬化収縮率と、光学結像装置用接着剤の硬化物に要求される優れた平行光線透過率とをバランスよく確保することは困難である。また、光学結像装置用接着剤に無機充填剤を添加すると、無機充填剤と光反射部とが接触して、光反射部が傷つくおそれがある。
【0133】
そこで、光学結像装置用接着剤に有機充填剤を添加することが検討されるが、有機充填剤の添加によっても、優れた硬化収縮率と優れた平行光線透過率とをバランスよく確保することは困難である。
【0134】
これに対して、本発明者らは、種々の有機充填剤のうち粘着性付与剤を、上記の含有割合となるように光学結像装置用接着剤に添加すると、光学結像装置用接着剤の硬化収縮率を上記上限以下に確実に調整できるとともに、光学結像装置用接着剤の硬化物における平行光線透過率の平均値を上記下限以上に確実に調整できることを見出した。
【0135】
つまり、粘着性付与剤は、光学結像装置用接着剤に対して初期タック性を付与するために添加されるのではなく、光学結像装置用接着剤の硬化収縮率の低減および光学結像装置用接着剤の硬化物の平行光線透過率の向上のために添加される。
【0136】
具体的には、光学結像装置用接着剤は、脂環式エポキシ樹脂と、炭素環不含有カチオン重合性樹脂と、粘着付与樹脂と、光重合開始剤とを含み、脂環式エポキシ樹脂、炭素環不含有カチオン重合性樹脂および粘着付与樹脂の総和に対する、粘着付与樹脂の含有割合が上記範囲内である。
【0137】
そのため、粘着付与樹脂が、脂環式エポキシ樹脂および炭素環不含有カチオン重合性樹脂の硬化収縮を抑制でき、光学結像装置用接着剤の硬化収縮率を上記上限以下に確実に調整できるとともに、光学結像装置用接着剤の硬化物の平行光線透過率の平均値を上記下限以上に確実に調整できる。
【0138】
よって、光学結像装置用接着剤の硬化収縮率の低減を確実に図ることができながら、光学結像装置用接着剤の硬化物に優れた光透過性を確実に付与することができる。
【0139】
このような光学結像装置用接着剤では、好ましくは、有機充填剤として粘着付与樹脂のみを含有し、無機充填剤を含有しない。なお、本発明の効果を阻害しない範囲で、光学結像装置用接着剤は、無機充填剤を含有することもできるが、無機充填剤の含有割合は、光学結像装置用接着剤に対して、例えば、1質量%以下であり、好ましくは、0質量%である。
【実施例
【0140】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、それらに限定されない。以下の記載において用いられる配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上記の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなど該当記載の上限値(「以下」、「未満」として定義されている数値)または下限値(「以上」、「超過」として定義されている数値)に代替することができる。なお、「部」および「%」は、特に言及がない限り、質量基準である。
【0141】
実施例1~3および比較例1~4
脂環式エポキシ樹脂(商品名:セロキサイド2021P、ダイセル化学工業社製、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(3,4-エポキシ)シクロヘキサンカルボキシレート)、炭素環不含有カチオン重合性樹脂(商品名:アロンオキセタン OXT-221、東亜合成化学社製、3-エチル-3{[(3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシ]メチル}オキセタン)、水添ロジン系石油樹脂(粘着付与樹脂、商品名:パインクリスタル KE-100、荒川化学工業社製)を、表1に示す処方にてフラスコに仕込み、120℃で1時間加熱し、粘着性付与樹脂が溶解したことを確認して、樹脂混合物を調製した。
【0142】
次いで、室温(25℃)に冷却した後、光重合開始剤(商品名:CPI-100P、サンアプロ社製)、シランカップリング剤(商品名:KBM-403、信越化学工業社製)、レベリング剤(商品名:LS-460、楠本化成社製)、消泡剤(商品名:BYK1790、ビックケミージャパン社製)を、表1に示す処方にて樹脂混合物に添加して混合し、接着剤を調製した。
【0143】
実施例4
水添ロジン系石油樹脂70質量部を、芳香族系炭化水素樹脂(商品名:FTR8100、三井化学社製)50質量部に変更したこと以外は、実施例3と同様にして、接着剤を調製した。
【0144】
比較例5
脂環式エポキシ樹脂を、芳香族エポキシ樹脂(ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂、商品名:EPICLON850、DIC社製)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、接着剤を調製した。
【0145】
<評価>
・接着剤の粘度測定
各実施例および各比較例の接着剤の25℃における粘度を、HB型粘度計(東機産業社製)により測定した。その結果を表1に示す。
【0146】
・硬化物の屈折率測定
100mm×120mmの離形処理を施したポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚み:188μm)を準備した。そのPETフィルムの周縁部上に、テフロン(登録商標)シート(厚み:1mm)により、幅が10mmの矩形枠形状の堰を設けた。
【0147】
次いで、各実施例および各比較例の接着剤を堰内部と同じ容積となるように計量し、各接着剤を堰内部に流し込んだ。
【0148】
次いで、上記と同様のPETフィルムをさらに準備し、そのPETフィルムを、堰内部の接着剤に上から乗せて、接着剤を2枚のPETフィルムの間に挟み込んだ。
【0149】
次いで、コンベア型UV照射装置を使用して、接着剤にUV光を3000mJ照射した。その後、熱風乾燥機を使用して、80℃30分間の条件で、接着剤を硬化させた。硬化後、PETフィルムとテフロン(登録商標)シートとを剥離し、フィルム状の接着剤の硬化物を得た。
【0150】
得られたサンプル(フィルム状の接着剤の硬化物)のD線(589nm)での屈折率を、アッベ屈折計(DR-M2型、アタゴ社製)により測定した。測定値から、シクロオレフィンポリマー(商品名:ゼオノア、日本ゼオン社製、屈折率1.531)との屈折率の比(接着剤の硬化物の屈折率/樹脂基板の屈折率)を算出した。その結果を表1に示す。
【0151】
・硬化収縮率測定
厚み1mmのテフロン(登録商標)シートを、厚み0.2mmのテフロン(登録商標)シートに変更したこと以外は、硬化物の屈折率測定と同様にして、2枚のPETフィルムの間に挟まれた接着剤を準備した。
【0152】
次いで、コンベア型UV照射装置を使用して、接着剤にUV光を3000mJ照射した。その後、熱風乾燥機を使用して、80℃30分間の条件で、接着剤を硬化させた。
【0153】
得られたサンプル(フィルム状の接着剤の硬化物)を硬化後の密度測定用サンプルとした。
【0154】
そして、硬化前の接着剤の密度および硬化後のサンプルの密度を、自動密度計(商品名:アキュピックII1340、島津製作所社製)により測定し、以下の式により硬化収縮率を算出した。その結果を表1に示す。
【0155】
硬化収縮率(%)=(硬化後のサンプルの密度-硬化前の接着剤の密度)/硬化後のサンプルの密度×100
・アルミニウム蒸着膜の剥離確認
アルミニウム蒸着膜(厚み:100nm)が一方の表面に設けられる100mm×150mmのPP板(厚み:0.5mm)を2枚準備した。
【0156】
そして、一方のPP板のアルミニウム蒸着面の周縁部上に、テフロン(登録商標)シート(厚み:1mm)により、幅が10mmの矩形枠形状の堰を設けた。
【0157】
次いで、各実施例および各比較例の接着剤を堰内部と同じ容積となるように計量し、各接着剤を堰内部に流し込んだ。
【0158】
次いで、他方のPP板を、アルミニウム蒸着面が接着剤と接触するように、堰内部の接着剤に上から乗せて、接着剤を2枚のPP板の間に挟み込んだ。
【0159】
次いで、コンベア型UV照射装置を使用して、接着剤にUV光を3000mJ照射した。その後、熱風乾燥機を使用して、80℃30分間の条件で、接着剤を硬化させた。
【0160】
接着剤の硬化後、得られたサンプル(2枚のPP板に挟まれる接着剤の硬化物)におけるアルミニウム蒸着膜の剥離の有無を目視により確認した。
【0161】
そして、以下の基準により、光反射部の剥離性を評価した。その結果を表1に示す。
○-アルミニウム蒸着膜の剥離なし。
△-アルミニウム蒸着膜の剥離面積が0面積%を超過し20面積%以下。
×-アルミニウム蒸着膜の剥離面積が20面積%を超過。
・反り試験
各実施例および各比較例の接着剤を、厚さが0.5mとなるように、100mm×150mmのポリプロピレン(PP)板(厚み:0.5mm)に塗布した。
【0162】
次いで、上記と同様のPP板をさらに準備し、そのPP板を、PP板上の接着剤に上から乗せて、接着剤を2枚のPP板の間に挟み込んだ。
【0163】
次いで、コンベア型UV照射装置を使用して、接着剤にUV光を3000mJ照射した。その後、熱風乾燥機を使用して、80℃30分間の条件で、接着剤を硬化させた。
【0164】
接着剤の硬化後、得られたサンプル(2枚のPP板に挟まれる接着剤の硬化物)を、平坦な台上に載せて、PP板の4隅における浮きの有無を目視で確認した。
【0165】
そして、以下の基準により、接着剤の硬化物の反りを評価した。その結果を表1に示す。
○-PP板の4隅に浮きはみられない。
△-PP板の最大反り高さが0mmを超過1mm以下。
×-PP板の最大反り高さが1mmを超過。
・透明性評価
100mm×150mmのPP板(厚み:0.5mm)を準備した。そのPP板の周縁部上に、テフロン(登録商標)シート(厚み:0.5mm)により、幅が10mmの矩形枠形状の堰を設けた。
【0166】
次いで、各実施例および各比較例の接着剤を堰内部と同じ容積となるように計量し、各接着剤を堰内部に流し込んだ。
【0167】
次いで、上記と同様のPP板をさらに準備し、そのPP板を、堰内部の接着剤に上から乗せて、接着剤を2枚のPP板の間に挟み込んだ。
【0168】
次いで、コンベア型UV照射装置を使用して、接着剤にUV光を3000mJ照射した。その後、熱風乾燥機を使用して、80℃30分間の条件で、接着剤を硬化させた。
【0169】
接着剤の硬化後、得られたサンプル(2枚のPP板に挟まれる接着剤の硬化物)に、サンプルの厚み方向に蛍光灯光を照射した。そして、サンプルを透過した透過光を目視により観察して、以下の基準により、サンプルの透明性を評価した。その結果を表1に示す。
○-透過光に、にじみ、ムラおよび曇りのいずれもない。
×-透過光に、にじみ、ムラおよび曇りのいずれかがある。
・硬化物の平行光線透過率測定
各実施例および各比較例の接着剤を、厚さが100μmとなるようにガラス板に塗布した後、コンベア型UV照射装置を使用して、接着剤にUV光を3000mJ照射した。その後、熱風乾燥機を使用して、80℃30分間の条件で、接着剤を硬化させた。
【0170】
次いで、厚さが100μmである硬化物における波長380~780nmの平行光線透過率と、リファレンスとしてのガラス板の平均光線透過率とを、紫外可視分光光度計(商品名:UV-2550、島津製作所社製)により測定した。
【0171】
そして、厚さが100μmである硬化物における波長380~780nmの平行光線透過率の平均値を算出した。なお、波長380~780nmの平行光線透過率の平均値は、波長を380nmから780nmに走査させたときの波長1nm毎の平行光線透過率の平均値とした。その結果を表1に示す。
【0172】
・硬化物のヘイズ測定
各実施例および各比較例の接着剤を、厚さが1mmとなるようにガラス板に塗布した後、コンベア型UV照射装置を使用して、接着剤にUV光を3000mJ照射した。その後、熱風乾燥機を使用して、80℃30分間の条件で、接着剤を硬化させた。
【0173】
次いで、厚さが1mmである硬化物におけるヘイズを、ヘイズメーター(商品名:NDH2000、日本電色工業社製)により測定した。その結果を表1に示す。
・外観評価
上記した硬化物の透明性評価と同様にして、サンプル(2枚のPP板に挟まれる接着剤の硬化物)を調製し、接着剤の硬化物の外観を目視により確認した。
【0174】
そして、以下の基準により、接着剤の硬化物の外観を評価した。その結果を表1に示す。
ボイドの有無:
○-接着剤の硬化物中にボイドがない。
×-接着剤の硬化物中にボイドがある。
空隙の有無:
○-接着剤の硬化物とPP板との間に空隙がない。
×-接着剤の硬化物とPP板との間に空隙がある。
【0175】
【表1】
【0176】
なお、表1中の各成分の詳細を下記する。
【0177】
脂環式エポキシ樹脂:セロキサイド2021P、ダイセル化学工業社製、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(3,4-エポキシ)シクロヘキサンカルボキシレート、
芳香族エポキシ樹脂:EPICLON850、DIC社製、ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂、
炭素環不含有カチオン重合性樹脂:アロンオキセタン OXT-221、東亜合成化学社製、3-エチル-3{[(3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシ]メチル}オキセタン(3,3’-(オキシビスメチレン)ビス(3-エチルオキセタン)、
水添ロジン系石油樹脂:パインクリスタル KE-100、荒川化学工業社製、
芳香族系炭化水素樹脂:FTR8100、三井化学社製、
光重合開始剤:CPI-100P、サンアプロ社製、
シランカップリング剤:KBM-403、信越化学工業社製、
消泡剤:BYK1790、ビックケミージャパン社製、
レベリング剤:LS-460、楠本化成社製。