(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-25
(45)【発行日】2022-05-09
(54)【発明の名称】センサ素子の耐熱衝撃性評価方法及びセンサ素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 3/60 20060101AFI20220426BHJP
G01N 27/26 20060101ALI20220426BHJP
G01N 27/409 20060101ALI20220426BHJP
【FI】
G01N3/60 A
G01N27/26 391B
G01N27/409 100
(21)【出願番号】P 2018067741
(22)【出願日】2018-03-30
【審査請求日】2020-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】日野 隆志
【審査官】野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-109685(JP,A)
【文献】特開2006-118490(JP,A)
【文献】特開2010-038638(JP,A)
【文献】特開2016-099200(JP,A)
【文献】特開2000-283948(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/00-3/62
G01N 27/26
G01N 27/409
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
素子本体と、該素子本体を加熱するヒータと、を備えたセンサ素子の耐熱衝撃性評価方法であって、
(a)前記ヒータを発熱させている状態で、前記センサ素子にクラックが生じない程度の所定量の液体を前記センサ素子に滴下し、該液体によって温度が一時的に低下した前記ヒータの該温度に関する情報を取得するステップと、
(b)前記取得された前記ヒータの温度に関する情報に基づいて前記センサ素子の耐熱衝撃性を評価するステップと、
を含むセンサ素子の耐熱衝撃性評価方法。
【請求項2】
前記ステップ(a)では、前記温度に関する情報として、前記ヒータの温度が一時的に低下した際の該温度の最小値Tminと、前記液体を滴下してから該温度が最小値Tminとなるまでの時間Sと、前記ヒータの温度が一時的に低下した際の該温度の下降の傾きGと、の少なくともいずれかを取得する、
請求項1に記載のセンサ素子の耐熱衝撃性評価方法。
【請求項3】
前記ステップ(a)では、1μL以上の前記液体を滴下する、
請求項1又は2に記載のセンサ素子の耐熱衝撃性評価方法。
【請求項4】
前記センサ素子は、前記素子本体を被覆する保護層を備えており、
前記ステップ(a)では、前記保護層に前記液体を滴下する、
請求項1~3のいずれか1項に記載のセンサ素子の耐熱衝撃性評価方法。
【請求項5】
素子本体と、該素子本体を加熱するヒータと、を備えたセンサ素子を複数作製する作製工程と、
前記作製工程で作製された複数のセンサ素子のうち1以上を評価対象として、請求項1~4のいずれか1項に記載の耐熱衝撃性評価方法を行う検査工程と、
を含む、
複数のセンサ素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサ素子の耐熱衝撃性評価方法及びセンサ素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の排気ガスなどの被測定ガスにおけるNOxなどの特定ガスの濃度を検出するセンサ素子が知られている(例えば特許文献1)。このセンサ素子は、例えば被測定ガス中の水分の付着によりクラックが生じる場合がある。これに関して、センサ素子の耐熱衝撃性(耐被水性とも言う)を評価する方法が知られている。例えば特許文献2には、水滴を滴下してセンサ素子にクラックが発生したか否かを判定する処理を、滴下量を徐々に大きくしながら繰り返し行って、滴下量がいくつのときにセンサ素子にクラックが発生するかによって耐熱衝撃性を評価することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-109685号公報
【文献】特開2016-099200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献2に記載された方法は、センサ素子にクラックが発生するまで行うため、破壊試験になってしまう。そのため、センサ素子を破壊せずに耐熱衝撃性を評価したいという要望があった。
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、センサ素子の耐熱衝撃性を非破壊で評価することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述した主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明のセンサ素子の耐熱衝撃性評価方法は、
素子本体と、該素子本体を加熱するヒータと、を備えたセンサ素子の耐熱衝撃性評価方法であって、
(a)前記ヒータを発熱させている状態で、前記センサ素子にクラックが生じない程度の所定量の液体を前記センサ素子に滴下し、該液体によって温度が一時的に低下した前記ヒータの該温度に関する情報を取得するステップと、
(b)前記取得された前記ヒータの温度に関する情報に基づいて前記センサ素子の耐熱衝撃性を評価するステップと、
を含むものである。
【0008】
この耐熱衝撃性評価方法では、センサ素子のヒータを発熱させている状態で、所定量の液体をセンサ素子に滴下する。これにより、液体でセンサ素子が冷やされて、ヒータの温度は一時的に低下する。本発明者らは、このヒータの一時的な温度の低下の態様が、センサ素子の耐熱衝撃性の高低によって変化することを見いだした。そのため、この一時的に低下したヒータの温度に関する情報を取得することで、取得した情報に基づいてセンサ素子の耐熱衝撃性を評価できる。そして、この耐熱衝撃性評価方法では、センサ素子にクラックが生じない程度の液体を滴下するため、センサ素子の耐熱衝撃性を非破壊で評価できる。
【0009】
本発明のセンサ素子の製造方法は、
素子本体と、該素子本体を加熱するヒータと、を備えたセンサ素子を複数作製する作製工程と、
前記作製工程で作製された複数のセンサ素子のうち1以上を評価対象として、上述した本発明の耐熱衝撃性評価方法を行う検査工程と、
を含むものである。
【0010】
この製造方法は、検査工程において上述した耐熱衝撃性評価方法を行う。そのため、上述した本発明の耐熱衝撃性評価方法と同様の効果、例えばセンサ素子の耐熱衝撃性を非破壊で評価できる効果が得られる。また、これにより、作製工程で作製された複数のセンサ素子のうち検査工程で破壊されて破棄されるセンサ素子の数を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図3】耐熱衝撃性評価システム1の構成の概略を示す説明図。
【
図4】データロガー80に記録された時刻と温度との関係の一例を示す説明図。
【
図5】センサ素子A,Bの温度の時間変化の実測値を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。まず、本発明の製造方法で製造するセンサ素子の一例であるセンサ素子10について説明する。
図1はセンサ素子10の斜視図であり、
図2は
図1のA-A断面である。
【0013】
センサ素子10は、例えば車両の排ガス管などの配管に取り付けられて、被測定ガスとしての排気ガスに含まれるNOxやO
2等の特定ガスの濃度(特定ガス濃度)を測定するために用いられる。本実施形態では、センサ素子10は特定ガス濃度としてNOx濃度を測定する。センサ素子10は、素子本体20と、多孔質保護層30と、ヒータ部40(
図2参照)と、を備えている。
【0014】
素子本体20は、積層構造を有しており、長尺な直方体形状をしている。この素子本体20の長手方向(前後方向)を長さ方向とし、素子本体20の積層方向(上下方向)を厚さ方向とする。また、長さ方向及び厚さ方向に垂直な方向(左右方向)を素子本体20の幅方向とする。
【0015】
素子本体20は、ジルコニア(ZrO
2)等の酸素イオン伝導性固体電解質層を複数積層した積層体を有している。本実施形態では、
図2に示すように素子本体20は6層の積層体を有している。素子本体20は、
図1,2に示すように、積層体の上下左右前後の表面である第1~第6面20a~20fを有している。素子本体20のうち第5面20e側を前端側,第6面20f側と後端側とも称する。素子本体20の寸法は、例えば長さが25mm以上100mm以下、幅が2mm以上10mm以下、厚さが0.5mm以上5mm以下としてもよい。
【0016】
素子本体20は、被測定ガス導入口21と、基準ガス導入口22と、検出部23と、接着層29と、を有している。被測定ガス導入口21は、第5面20eに開口して被測定ガスを自身の内部に導入する。基準ガス導入口22は、第6面20fに開口して特定ガス濃度の検出の基準となる基準ガス(ここでは大気)を自身の内部に導入する。検出部23は、被測定ガス中の特定ガス濃度を検出する。検出部23は、少なくとも1つの電極を備えており、第1面20aに配設された外側電極24と、素子本体20の内部に配設された内側主ポンプ電極25,内側補助ポンプ電極26,測定電極27,及び基準電極28とを備えている。内側主ポンプ電極25及び内側補助ポンプ電極26は、素子本体20の内部の空間の内周面に配設されておりトンネル状の構造を有していてもよい。
【0017】
検出部23が特定ガス濃度を検出する原理は周知であり例えば上述した特許文献1にも記載されている。例えば、NOx濃度を検出する場合、被測定ガス導入口21から導入された被測定ガスは、まず、内側主ポンプ電極25及び外側電極24を備えるポンプセルと、内側補助ポンプ電極26及び外側電極24を備えるポンプセルと、によって酸素が汲み出されて酸素分圧が実質ゼロになる。続いて、測定電極27の周囲で被測定ガス中のNOxが還元されて酸素が発生する。そして、測定電極27と基準電極28との間の起電力が一定になるように測定電極27と外側電極24との間の電圧をフィードバック制御し、発生した酸素を測定電極27及び外側電極24を備えるポンプセルが汲み出すことによって流れるポンプ電流に基づいて、NOx濃度を検出する。また、発生した酸素に基づいて生じる測定電極27と基準電極28との間の起電力に基づいてNOx濃度を検出することもできる。
【0018】
接着層29は、素子本体20が備える積層体の表面の少なくとも一部を覆う多孔質体である。接着層29は、第1面20aの前端側の領域を覆う第1接着層29aと、第2面20bの前端側の領域を覆う第2接着層29bと、を備えている。接着層29は、素子本体20の積層体と多孔質保護層30との間に配設されて、両者を密着させる役割を果たす。
【0019】
多孔質保護層30は、素子本体20の外側に形成された被膜である。本実施形態では、多孔質保護層30は、素子本体20の第1~第5面20a~20eにそれぞれ形成された第1~第5多孔質保護層30a~30eを備えている。第1~第5多孔質保護層30a~30eは、互いに隣接する層同士が接続されており、多孔質保護層30全体で素子本体20の前端面(第5面20e)及びその周辺(第1~第4面20a~20dの各々の面の一部)を覆っている。第1多孔質保護層30aは、第1接着層29aを介して第1面20aと接着されている。第2多孔質保護層30bは、第2接着層29bを介して第2面20bと接着されている。多孔質保護層30は、素子本体20のうち特に検出部23周辺を被覆して、その部分を保護する。多孔質保護層30は、例えば被測定ガス中の水分等が付着して素子本体20にクラックが生じるのを抑制する役割を果たす。多孔質保護層30の膜厚は、例えば40μm以上800μm以下である。
【0020】
接着層29及び多孔質保護層30は、いずれも多孔質体である。接着層29及び多孔質保護層30は、例えばアルミナ、ジルコニア、スピネル、コージェライト,チタニア、マグネシアなどのセラミックスからなるものである。本実施形態では、接着層29及び多孔質保護層30はいずれもアルミナからなるものとした。接着層29と多孔質保護層30とは材質が同じであることが好ましいが、材質が異なっていてもよい。接着層29の気孔率は、例えば10%以上60%以下である。多孔質保護層30の気孔率は、例えば10%以上50%以下である。
【0021】
ヒータ部40は、素子本体20の固体電解質の酸素イオン伝導性を高めるために、素子本体20を加熱して保温する温度調整の役割を担うものである。ヒータ部40は、ヒータコネクタ電極41と、ヒータ42と、スルーホール43と、ヒータ絶縁層44と、リード線46と、を備えている。ヒータコネクタ電極41は、第2面20bの表面(下面)の後端側に配設されている。ヒータコネクタ電極41は、
図2では1つのみ示しているが、実際には第2面20bの表面に複数配設されており、例えば左右に並べて配設されている。ヒータ42は、素子本体20の積層体の内部に配設された電気抵抗体であり、固体電解質層に上下から挟まれている。ヒータ42は、リード線46及びスルーホール43を介してヒータコネクタ電極41と接続されており、ヒータコネクタ電極41を通して外部より給電されることにより発熱する。ヒータ絶縁層44は、ヒータ42の上下面に、アルミナ等の絶縁体によって形成されてなる絶縁層である。ヒータ絶縁層44は、固体電解質層とヒータ42との間の電気的絶縁性を得る目的で形成されている。
【0022】
次に、こうしたセンサ素子10の製造方法について説明する。本実施形態のセンサ素子10の製造方法は、
素子本体20と、素子本体20を加熱するヒータ42と、を備えたセンサ素子10を複数作製する作製工程と、
作製工程で作製された複数のセンサ素子10のうち1以上を評価対象として、センサ素子10の耐熱衝撃性評価方法を行う検査工程と、
を含む。
【0023】
作製工程では、まず、ジルコニアなどの酸素イオン伝導性固体電解質をセラミックス成分として含む未焼成のセラミックスグリーンシートを複数(ここでは6枚)用意する。各グリーンシートには、必要に応じて切欠や貫通孔や溝などを打ち抜き処理などによって設けたり、各電極24~28,ヒータ42,及び配線パターンなどをスクリーン印刷したりする。また、焼成後に接着層31となる未焼成接着層についても、スクリーン印刷によりグリーンシートのうち接着層31の形成面(ここでは第1,第2面20a,20b)に対応する面に形成する。各グリーンシートへのスクリーン印刷を行った後、複数のグリーンシートを積層及び接着する。こうして得られた積層体は、未焼成の素子本体20を複数個包含したものである。その積層体を切断して素子本体20の大きさに切り分ける。そして、切り分けた複数の未焼成の素子本体20を所定の焼成温度で焼成する。これにより、検出部23,接着層29,及びヒータ42などを備えた複数の素子本体20を得る。続いて、プラズマ溶射により複数の素子本体20の各々の外側に多孔質保護層30を形成して、複数のセンサ素子10を得る。プラズマ溶射は、素子本体20を回転させながら行って、第1~第5多孔質保護層30a~30eのうち2以上を同時に形成してもよい。多孔質保護層30は、プラズマ溶射に限らず、スクリーン印刷、ゲルキャスト法,ディッピングなどを用いて形成してもよい。
【0024】
次に、検査工程について説明する。本実施形態のセンサ素子10の検査工程は、
(a)ヒータ42を発熱させている状態で、センサ素子10にクラックが生じない程度の所定量の液体をセンサ素子10に滴下し、液体によって温度が一時的に低下したヒータ42の温度に関する情報を取得するステップと、
(b)取得されたヒータ42の温度に関する情報に基づいてセンサ素子10の耐熱衝撃性を評価するステップと、
を含む。
【0025】
ステップ(a)は、本実施形態では、
図3に示す耐熱衝撃性評価システム1を用いて行う。耐熱衝撃性評価システム1は、ディスペンサ50と、センサ制御装置70と、データロガー80と、トリガースイッチ85と、を備えている。
【0026】
ディスペンサ50は、滴下制御装置52と、この滴下制御装置52にチューブ58を介して接続されたシリンジ56と、シリンジ56にチューブ62を介して接続されたヘッド60と、ヘッド60に取り付けられたノズル66とを備えている。
【0027】
滴下制御装置52は、圧力調整ノブ53と、開時間調整ノブ54と、滴下スイッチ55と、を備えている。圧力調整ノブ53が操作されることで、シリンジ56へ供給するエアの圧力が調整される。開時間調整ノブ54が操作されることで、電磁弁64が開く時間の長さが調整される。滴下スイッチ55は、作業者が電磁弁64の開放を指示する際に押下される。滴下制御装置52は、圧力調整ノブ53で設定された圧力が正圧(加圧)の場合にはシリンジ56へ加圧エアを供給し、設定された圧力が負圧(減圧)の場合にはシリンジ56側からエアを吸引する。
【0028】
シリンジ56は、液体を貯留可能な液体貯留部であり、上面にチューブ58が気密に取り付けられている。このチューブ58はシリンジ56から着脱可能となっている。このシリンジ56の下面にはニードル56aが取り付けられ、このニードル56aにチューブ62が気密に接続されている。
【0029】
ヘッド60は、上下方向に液体通路61を有している。液体通路61は、ヘッド60の上面に気密に接続されたチューブ62から供給された液体を、ヘッド60の下面に気密に取り付けられたノズル66へ導く通路である。この液体通路61の途中には、電磁弁64が設けられている。電磁弁64は、液体通路61の開閉を行う弁である。電磁弁64は、滴下スイッチ55が押されていない状態では閉じており、滴下スイッチ55が押されると、開時間調整ノブ54で設定された時間だけ開く。また、電磁弁64は、トリガースイッチ85からのトリガー信号を入力した場合も、開時間調整ノブ54で設定された時間だけ開くようになっている。
【0030】
ノズル66は、ヘッド60の下面に設けられた取付口に着脱可能に取り付けられている。このノズル66は、種々の内径を持つものが用意されている。ノズル66の直径と、圧力調整ノブ53で調整される圧力と、開時間調整ノブ54で調整される開時間と、によって、ノズル66から滴下される液体の量が調整される。
【0031】
センサ制御装置70は、制御部72と、ヒータ電源76と、温度取得部78と、を備えている。制御部72は、例えばCPU及びRAMなどを備えたマイクロプロセッサとして構成されている。制御部72は、処理プログラムや各種データを記憶する記憶部73を備えている。ヒータ電源76は、ヒータコネクタ電極41を介してヒータ42に電力を供給する電源であり、制御部72によって出力が制御される。温度取得部78は、ヒータ42の温度を測定するためのモジュールである。本実施形態では、温度取得部78は、温度に換算可能な値として、ヒータ42の抵抗値を測定する。例えば、温度取得部78は、ヒータコネクタ電極41を介してヒータ42に微小な電流を流してその際の電圧を測定することで、ヒータ42の抵抗値を取得する。
【0032】
記憶部73には、ヒータ42の抵抗値と温度との対応関係を表す情報が記憶されている。制御部72は、温度取得部78が取得したヒータ42の抵抗値と記憶部73に記憶された情報とに基づいてヒータ42の温度を導出し、導出した温度に基づいてヒータ42が所定の目標温度(例えば800℃)に維持されるようにヒータ電源76をフィードバック制御する。また、制御部72は、導出したヒータ42の温度をデータロガー80に出力する。温度取得部78及び制御部72は、ヒータ42の温度の導出に関して、1msecより短い時間の分解能を有することが好ましい。
【0033】
データロガー80は、ヒータ42の温度を記録する装置である。データロガー80は、トリガースイッチ85からのトリガー信号を入力すると、センサ制御装置70から入力したヒータ42の温度と、時刻と、を対応付けて記憶していく。データロガー80は、1msecより短い時間の分解能を有することが好ましい。
【0034】
トリガースイッチ85は、滴下制御装置52及びデータロガー80に接続されており、作業者が滴下制御装置52及びデータロガー80の動作開始を指示する際に押下される。トリガースイッチ85が押下されると、トリガースイッチ85から滴下制御装置52及びデータロガー80にトリガー信号が出力される。本実施形態では、トリガースイッチ85から滴下制御装置52及びデータロガー80に出力されるトリガー信号は共通化されている。
【0035】
こうした耐熱衝撃性評価システム1を用いてステップ(a)を行う様子について説明する。まず、作業者は、センサ素子10にクラックが生じない程度の所定量の液体(ここでは水とする)がノズル66から滴下されるように、予めノズル66の種類(直径)を選択し、圧力調整ノブ53及び開時間調整ノブ54を操作しておく。また、シリンジ56内に液体を貯留しておく。クラックが生じない程度の所定量は、例えば予め実験によりセンサ素子10と同じセンサ素子を用いてクラックが生じる滴下量(破壊水量と称する)を測定しておき、破壊水量未満の値として定めておく。
【0036】
続いて、作業者は、センサ素子10がノズル66の真下に位置するように、図示しないクランプにセンサ素子10を固定する。本実施形態では、素子本体20の第2面20bが上方を向くようにセンサ素子10を固定する。また、多孔質保護層30(ここでは特に第2多孔質保護層30b)がノズル66の真下に位置するように、センサ素子10を固定する。
【0037】
次に、作業者は、
図3に示すようにセンサ素子10とセンサ制御装置70とを接続して、制御部72によるヒータ42のフィードバック制御を開始させ、ヒータ42を発熱させる。ヒータ42の温度がフィードバック制御の目標値付近に到達して安定した後、作業者は、トリガースイッチ85を押下する。これにより、ノズル66からは所定量の液体が第2多孔質保護層30bに滴下される。また、データロガー80によるヒータ42の温度の記録が開始される。ノズル66からの所定量の液体の滴下は、1滴の滴下により行われてもよいし、連続した数滴の滴下により行われてもよい。
【0038】
図4は、データロガー80に記録された時刻と温度との関係の一例を示す説明図である。
図4は、正常に作製されたセンサ素子10におけるヒータ42の温度の時間変化を示す曲線Laと、作製時に異常(ここでは多孔質保護層30の厚さ不足とする)が生じたセンサ素子10におけるヒータ42の温度の時間変化を示す曲線Lbと、を例示している。
図4では、トリガー信号をデータロガー80が受信して温度の記録を開始した時刻を時刻0としている。
図4に示すように、時刻0(又は時刻0の前後)にセンサ素子10に液体が付着すると、ヒータ42を含むセンサ素子10の温度が一時的に低下し、ヒータ42のフィードバック制御によって再び温度が上昇する。データロガー80が温度の記録を行う期間は、この一時的な温度の低下から再び温度が上昇し始めるまでの時間を含むように、予め定められている。
【0039】
そして、作業者は、データロガー80に記録された
図4のような時刻と温度との関係(以下、温度の時間変化のデータ)に基づいて、液体によって温度が一時的に低下したヒータ42の温度に関する情報を取得する。本実施形態では、この温度に関する情報として、液体を滴下してからヒータ42の温度が最小値Tminとなるまでの時間Sを取得する。例えば、温度の時間変化のデータとして曲線Laが測定された場合について説明する。曲線Laは、ヒータ42は時刻0では温度T0であり、時刻0から時刻Sa1までの期間は温度が低下し続け、時刻Sa1において温度がTaとなり、時刻Sa1から時刻Sa2までの期間は温度Ta又は温度Taよりわずかに高い値となり、時刻Sa2以降から温度が上昇し始める。本実施形態では、この場合の時間Sは、時刻0からヒータ42の温度が初めて最小値Tmin(=Ta)となる時刻Sa1までの時間(=Sa1)となる。同様に、温度の時間変化のデータとして曲線Lbが測定された場合について説明する。曲線Lbは、ヒータ42は時刻0では温度T0であり、時刻0から時刻Sb1までの期間は温度が低下し続け、時刻Sb1において温度がTbとなり、時刻Sb1から時刻Sb2までの期間は温度Tb又は温度Tbよりわずかに高い値となり、時刻Sb2以降から温度が上昇し始める。本実施形態では、この場合の時間Sは、時刻0からヒータ42の温度が初めて最小値Tmin(=Tb)となる時刻Sb1までの時間(=Sb1)となる。なお、データロガー80に記録されたデータに基づいて時間Sを導出するコンピュータなどの導出装置を耐熱衝撃性評価システム1が備えていてもよい。
【0040】
このようにしてステップ(a)で時間Sを取得すると、ステップ(b)では、時間Sに基づいてセンサ素子10の耐熱衝撃性を評価する。ここで、
図4に示すような液体によるヒータ42の一時的な温度の低下の態様は、センサ素子10の耐熱衝撃性の高低によって変化する。例えば、作製時に異常(多孔質保護層30の厚さ不足)が生じたセンサ素子10では、多孔質保護層30が薄い分だけ素子本体20に熱衝撃が伝わりやすいため、耐熱衝撃性が低い。実際に、このような異常のあるセンサ素子10において上述した破壊水量を測定すると、正常なセンサ素子10と比べて破壊水量は小さくなる傾向にある。そして、このような耐熱衝撃性が低いセンサ素子10では、素子本体20に熱衝撃が伝わりやすいため、液体を滴下した際のヒータ42の温度が低下しやすかったり、ヒータ42の温度の低下の最小値が小さかったりする。そのため、このような耐熱衝撃性の高低が、曲前Laと曲線Lbとの態様の相違として現れる。本実施形態では、この態様の相違を表す情報として、時間Sを取得するため、時間Sに基づいてセンサ素子10の耐熱衝撃性を評価できる。例えば、曲線Laの時間S(=Sa1)と曲線Lbの時間S(=Sb1)とでは、
図4に示すように後者の方が時間が短い。そのため、曲線Lbが測定されたセンサ素子10の方が耐熱衝撃性が低いことが、この時間Sの比較から把握できる。ステップ(b)では、例えばセンサ素子10が正常とみなせる時間Sの下限値を閾値として予め実験により定めておき、今回取得された時間Sが閾値以上であるか否かによって、その時間Sが取得されたセンサ素子10が正常か否かを判定する。ステップ(b)を行うと、検査工程を終了する。
【0041】
ステップ(b)で時間Sが閾値未満であったセンサ素子10は、検査工程において異常と判定され、異常の原因が調査されたり廃棄されたりする。検査工程で正常と判定されたセンサ素子10は、正常な製品として扱われ、センサ素子10の製造が完了する。正常と判定されたセンサ素子10は、以降の工程に回される。例えば、センサ素子10を図示しない素子固定部内に挿入して封止固定したり、素子固定部内に図示しない保護カバーを取り付けたりして、センサ素子10を組み込んだガスセンサが作製される。なお、本実施形態では、作製工程で作製された複数のセンサ素子10を全て評価対象とすることとしたが、一部のセンサ素子10を評価対象としてもよい。この場合、評価対象のセンサ素子10が検査工程で全て正常と判定されたら、残りの評価対象以外のセンサ素子10についても正常と判定してもよい。
【0042】
ステップ(a)でセンサ素子10に滴下する所定量は、センサ素子10にクラックが生じない程度の量であればよいが、この所定量は、1μL以上とすることが好ましい。1μL以上であれば、液体の滴下によりヒータ42の温度を十分低下させやすいため、耐熱衝撃性を精度良く評価できる。また、この所定量は、同じセンサ素子10を複数製造したときの破壊水量のばらつきを考慮して定めることが好ましく、例えば破壊水量の平均値の80%以下としてもよいし、70%以下としてもよい。本実施形態では、この所定量は、破壊水量の平均値の50%とした。
【0043】
以上詳述した本実施形態のセンサ素子10の耐熱衝撃性評価方法によれば、一時的に低下したヒータ42の温度に関する情報(ここでは時間S)を取得することで、取得した情報に基づいてセンサ素子10の耐熱衝撃性を評価できる。そして、この耐熱衝撃性評価方法では、センサ素子10にクラックが生じない程度の液体を滴下するため、センサ素子10の耐熱衝撃性を非破壊で評価できる。また、非破壊で評価できるため、耐熱衝撃性が異常と判定されたセンサ素子10について他の試験を行って原因を調査しやすくなる。
【0044】
また、ステップ(a)では、1μL以上の液体を滴下する。そのため、液体の滴下によりヒータ42の温度を十分低下させやすくなり、耐熱衝撃性を精度良く評価できる。さらに、ステップ(a)では、素子本体20を被覆する多孔質保護層30に液体を滴下する。これにより、多孔質保護層30を含めたセンサ素子10の耐熱衝撃性を評価できる。多孔質保護層30は素子本体20の耐熱衝撃性、ひいてはセンサ素子10の耐熱衝撃性に大きく影響するため、多孔質保護層30を含めた耐熱衝撃性を評価する意義が高い。
【0045】
さらに、本実施形態のセンサ素子10の製造方法では、検査工程で非破壊で耐熱衝撃性を評価する。ここで、例えば作製工程で作製された複数のセンサ素子10の一部について破壊水量を測定すると、そのセンサ素子10については破壊されるため廃棄されることになるが、本実施形態ではそのような破壊されるセンサ素子10の数を減らすことができる。また、検査工程で耐熱衝撃性を評価したあとのセンサ素子10を他の検査に回すこともできる。
【0046】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0047】
例えば、上述した実施形態では、トリガースイッチ85はデータロガー80と滴下制御装置52とに共通のトリガー信号を出力したが、これに限らずトリガー信号が別々であってもよい。ただし、トリガー信号を共通化した方が、液体の滴下と温度の記録開始との時間差を少なくしたり、両者の時間差のばらつきを小さくしたりできる。
【0048】
上述した実施形態では、時間Sは、時刻0からヒータ42の温度が初めて最小値Tminとなるまでの時間としたが、これに限られない。時間Sは、液体を滴下してからヒータ42の温度が最小値Tminとなるまでの時間であればよい。例えば「液体を滴下してから」は、上述した「時刻0から」としてもよいし、トリガー信号を滴下制御装置52が受信してから実際に液体がセンサ素子10に到達するまでの時間差などを考慮して、「センサ素子10に液体が到達したとみなせる時刻から」としてもよい。また、「ヒータ42の温度が最小値Tminとなるまで」は、上述した「ヒータ42の温度が初めて最小値Tminとなるまで」としてもよいし、「ヒータ42の温度が最後に最小値Tminとなるまで」(例えば
図4の曲線Laの場合には時刻Sa2まで)としてもよい。あるいは、「ヒータ42の温度が最小値Tminとなるまで」を「ヒータ42の温度が最初に最小値Tminとなってから最後に最小値Tminとなるまでの期間の中心の時刻」(例えば
図4の時刻Sa1とSa2との中間の時刻)としてもよい。
【0049】
上述した実施形態では、液体によって温度が一時的に低下したヒータ42の温度に関する情報として時間Sを取得したが、これに限られない。例えば、この温度に関する情報として、ヒータ42の温度が一時的に低下した際の温度の最小値Tminを取得してもよい。
図4に示したように、曲線La,Lbを比較すると、耐熱衝撃性の低いセンサ素子10の測定結果である曲線Lbの方が温度の最小値Tminは小さくなっている(Ta>Tb)。そのため、この最小値Tminに基づいて耐熱衝撃性を評価することもできる。あるいは、この温度に関する情報として、ヒータ42の温度が一時的に低下した際の温度の下降の傾きGを取得してもよい。
図4に示したように、曲線La,Lbを比較すると、耐熱衝撃性の低いセンサ素子10の測定結果である曲線Lbの方が温度の下降の傾きは急激になっている。そのため、この傾きGに基づいて耐熱衝撃性を評価することもできる。傾きGは、例えば曲線Laであれば時刻0と温度が初めて最小値Tminになった時刻との2点間の傾き(Ta-T0)/(Sa1-0)としてもよい。あるいは、傾きGは、時刻0と、時刻0から所定時間が経過した時刻(ただし温度が下降している期間とする)との2点間の傾きとしてもよい。なお、このように予め時刻の定められた2点間の温度の傾きを調べる場合には、
図4のようにヒータ42の連続的な温度変化を記録しなくとも、その2点の温度が記録できればよい。
【0050】
上述した実施形態では、時間Sが閾値以上であれば正常と判定したが、このうち時間Sが長すぎる場合にも異常と判定してもよい。例えば、多孔質保護層30に素子本体20からの剥離が生じている場合には、多孔質保護層30と素子本体20との間の空間によって熱衝撃が伝わりにくくなるため、時間Sは正常なセンサ素子10よりも長くなる場合がある。そこで、多孔質保護層30の剥離が生じていないとみなせる時間Sの上限値を閾値として予め実験により定めておき、時間Sがこの上限の閾値を超えている場合にはセンサ素子10が異常と判定してもよい。時間S以外の情報を用いて評価する場合も同様である。
【0051】
上述した実施形態では、多孔質保護層30を備えたセンサ素子10に液体を滴下したが、これに限らず多孔質保護層30を備えない又は多孔質保護層30が形成される前のセンサ素子10に液体を滴下して耐熱衝撃性評価を行ってもよい。
【0052】
上述した実施形態では、センサ素子10のうち第2面20b側に液体を滴下したが、これに限らず例えば第1面20a側に液体を滴下してもよい。
【0053】
上述した実施形態では、データロガー80はセンサ制御装置70から入力したヒータ42の温度を記録したが、これに限らず温度とみなせる(温度に換算可能な)情報を記録すればよい。例えば、データロガー80は、ヒータ42の電圧,電流又は抵抗値を記録してもよい。
【0054】
図4に示した曲線La,Lbでは、では、温度が最小値Tmin又は最小値Tminよりわずかに高い値となる期間が存在したが(例えば曲線Laにおける時刻Sa1~Sa2)、このような期間が存在せず、温度が瞬間的に最小値Tminとなってすぐに上昇を始める場合もある。
【0055】
上述した実施形態では、ステップ(a)ではヒータ42をフィードバック制御したが、これに限られない。例えば、ヒータ42に一定の電力を供給し続けてもよい。
【実施例】
【0056】
以下には、センサ素子の耐熱衝撃性評価を具体的に行った例を実施例として説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0057】
[センサ素子A,Bの作製]
評価対象として、
図1,2に示したセンサ素子10を上述した作製工程を行って作製し、センサ素子A,Bとした。センサ素子Aは、以下のように作製した。まず、安定化剤のイットリアを4mol%添加したジルコニア粒子と有機バインダーと有機溶剤とを混合してテープ成形により成形したセラミックスグリーンシートを6枚用意した。各々のグリーンシートにはヒータ42や各電極等のパターンを印刷した。また、焼成後に第1,第2接着層29a,29bとなる未焼成接着層を、スクリーン印刷により、グリーンシートのうち第1,第2面20a,20bに対応する面に形成した。その後、6枚のグリーンシートを積層及び焼成した。これにより、接着層29及びヒータ42を備えた素子本体20を得た。素子本体60の寸法は、長さが67.5mm、幅が4.25mm、厚さが1.45mmとした。次に、この素子本体20に、アルミナの溶射用粉末を用いてプラズマ溶射により多孔質保護層30を形成した。多孔質保護層30の厚さは400μmとした。多孔質保護層30の気孔率は20%であった。また、多孔質保護層30の形成不良(膜厚不足)を模擬するため、多孔質保護層30の厚さを100μmとした点以外は、センサ素子Aと同様にしてセンサ素子10を作成し、センサ素子Bとした。
【0058】
[耐熱衝撃性の評価]
センサ素子A,Bについて、上述した耐熱衝撃性評価方法を行って、温度の時間変化のデータの測定及び時間Sの導出を行った。データの測定にあたり、ディスペンサ50としては武蔵エンジニアリング社の中・高粘度 非接触ジェットディスペンサー AeroJetを用いた。また、ステップ(a)では
図3と同様に第2多孔質保護層30bに液体を滴下した。液体は水とし、滴下量は3μLとした。ヒータ42のフィードバック制御の目標値は838℃とした。測定する温度の分解能は1℃とし、時間の分解能は1msecとした。測定された温度の時間変化のデータ(実測値)を
図5に示す。
図5に示すように、センサ素子Aよりもセンサ素子Bの方がヒータ42の温度の下降が急激であった。また、センサ素子A,Bの温度の最小値Tminはそれぞれ830℃,828℃であり、センサ素子Bの方が最小値Tminが小さかった。導出された時間S(時刻0から温度が初めて最小値Tminになるまでの時間)は、センサ素子Aが391msec,センサ素子Bが300msecであった。時刻0から温度が最後に最小値Tminとなるまでの時間は、センサ素子Aが800msec,センサ素子Bが580msecであった。
【0059】
[破壊水量の測定]
センサ素子A,Bについて、破壊水量を測定した。まず、ヒータ42のフィードバック制御の目標値を838℃として温度が安定するまで待ち、検出部23の各電極で構成されるポンプセルを制御して、センサ素子10の出力(ここでは測定電極27及び外側電極24を備えるポンプセルが酸素を汲み出すことによって流れるポンプ電流)が安定するのを待った。その後、ディスペンサ50を用いて液体を滴下し、所定時間内にポンプ電流が異常値を示すか否かを判定した。所定時間が経過してもポンプ電流が異常値を示さなかった場合には、センサ素子10にクラックが発生しなかったものとみなし、滴下量を大きくして同様に液体の滴下とポンプ電流が異常値を示すか否かの判定とを行った。この作業をポンプ電流が異常値を示すまで繰り返して、初めてポンプ電流が異常値を示したときの滴下量を、破壊水量とした。センサ素子Aの破壊水量は6μLであり、センサ素子Bの破壊水量は4μLであった。なお、破壊水量を測定する際には、水滴を第1多孔質保護層30aに滴下した。理由は、耐熱衝撃性評価方法と同様に第2多孔質保護層30bに水滴を滴下しても、ディスペンサ50が滴下できる滴下量の範囲ではポンプ電流に異常が発生しなかったためである。これは、ヒータ42に近い第2面20b側に液体を滴下した場合の方がセンサ素子10にクラックが生じにくいためであると考えられる。
【0060】
センサ素子A,Bについて取得された時間Sと破壊水量とを表1に示す。表1からわかるように、多孔質保護層30が薄いセンサ素子Bの方が、破壊水量が大きく、時間Sが短かった。すなわち、破壊水量の大小と、時間Sの長短とに相関が見られた。この結果から、破壊水量を測定しなくとも、時間Sを取得することで、耐熱衝撃性を評価できることが確認できた。なお、
図5から、時間Sに限らず上述した最小値Tminや傾きGを用いても、同様に耐熱衝撃性を評価できることがわかる。
【0061】
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、自動車の排気ガスなどの被測定ガスにおけるNOxなどの特定ガスの濃度を検出するガスセンサ素子の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0063】
1 耐熱衝撃性評価システム、10 センサ素子、20 素子本体、20a~20f 第1面~第6面、21 被測定ガス導入口、22 基準ガス導入口、23 検出部、24 外側電極、25 内側主ポンプ電極、26 内側補助ポンプ電極、27 測定電極、28 基準電極、29 接着層、29a,29b 第1,第2接着層、30 多孔質保護層、30a~30e 第1~第5多孔質保護層、40 ヒータ部、41 ヒータコネクタ電極、42 ヒータ、43 スルーホール、44 ヒータ絶縁層、46 リード線、 50 ディスペンサ、52 滴下制御装置、53 圧力調整ノブ、54 開時間調整ノブ、55 滴下スイッチ、56 シリンジ、56a ニードル、58 チューブ、60 ヘッド、61 液体通路、62 チューブ、64 電磁弁、66 ノズル、70 センサ制御装置、72 制御部、73 記憶部、76 ヒータ電源、78 温度取得部、80 データロガー、85 トリガースイッチ。