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  • 特許-編地の編成方法及び編地 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-25
(45)【発行日】2022-05-09
(54)【発明の名称】編地の編成方法及び編地
(51)【国際特許分類】
   D04B 1/00 20060101AFI20220426BHJP
   D04B 1/18 20060101ALI20220426BHJP
【FI】
D04B1/00 A
D04B1/18
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018086222
(22)【出願日】2018-04-27
(65)【公開番号】P2019189984
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000151221
【氏名又は名称】株式会社島精機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100086830
【弁理士】
【氏名又は名称】塩入 明
(74)【代理人】
【識別番号】100096046
【弁理士】
【氏名又は名称】塩入 みか
(72)【発明者】
【氏名】小藪 好春
(72)【発明者】
【氏名】池中 政光
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-001860(JP,A)
【文献】特開2015-127466(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104746224(CN,A)
【文献】特開2011-089218(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102041609(CN,A)
【文献】欧州特許出願公開第02319969(EP,A1)
【文献】特開2010-242235(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04B1/00-39/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
横編機で、少なくとも第1の糸と第2の糸により、編地を編成する方法であって、
渡り糸により互いにつながっている編目列をコース、編目が互いに係止しあっている編目列をウェールとして、
第1の糸のニット目のコースを編成するステップと、
第2の糸のニット目のコースを編成するステップと、
第2の糸のニット目を含むウェールでの、ニット目の一部を目移しし、隣接するウェールの第1の糸のニット目に重ねて隠れるようにするステップ、とを行うと共に、
少なくとも第2の糸が弾性糸を含み、第1の糸は第2の糸とは弾性力が異なり、
第2の糸のニット目のコースを編成するステップでは、少なくとも1本以上の針を飛ばしてニット目を編成することを複数回繰り返すことを特徴とする編地の編成方法。
【請求項2】
筒状の編地を編成することを特徴とする、請求項1の編地の編成方法。
【請求項3】
第2の糸として主糸と添糸を用い、主糸と添糸によりプレーティング編成することを特徴とする、請求項1または2の編地の編成方法。
【請求項4】
少なくとも第1の糸と第2の糸とから成る編地であって、
渡り糸により互いにつながっている編目列をコース、編目が互いに係止しあっている編目列をウェールとして、
第1の糸のニット目のコースと、
第2の糸のニット目のコースを備え、
第2の糸のニット目を含むウェールでのニット目の一部が、隣接するウェールの第1の糸のニット目に隠れるように重ねられ
少なくとも第2の糸が弾性糸を含み、第1の糸は第2の糸とは弾性力が異なり、
第2の糸のニット目のコースでは、ニット目の数が第1の糸のニット目のコースよりも少なく、かつニット目とニット目がミスの目から成る渡り糸でつながっていることを特徴とする編地。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、第1の糸と第2の糸を用いる編地の編成方法と、編成した編地に関する。
【背景技術】
【0002】
編地に、非弾性糸から成る第1の糸の他に、弾性糸等の第2の糸を編み込むことがある。第2の糸はタックにより編地に編み込まれるが、編地に強固に編み込まれているとは言い難い。例えば特許文献1では、靴下の締め込み部(足への締め付け力を要する部分)を編成する際に、非弾性糸のニット目を編成するコースと、弾性糸のタック目を編成するコースとを繰り返す。タックでは弾性糸を仮止めしているだけなので、弾性糸の渡り糸部が着用時に人体などに引っ掛かりずれる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許4919522号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明の課題は、
・ タック目ではなく、ニット目を形成するように、第2の糸を編地に編み込むことにより、第2の糸を強固に編地に編み込むことと、
・ 第2の糸が編地の表面で目立たないようにすることにある。なおタック目は元々目立ちにくい。従って第2の糸を目立たなくすることは、第2の糸のニット目を形成することに伴って生じる課題である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明の編地の編成方法は、横編機で、少なくとも第1の糸と第2の糸により、編地を編成する方法であって、
渡り糸により互いにつながっている編目列をコース、編目が互いに係止しあっている編目列をウェールとして、
第1の糸のニット目のコースを編成するステップと、
第2の糸のニット目のコースを編成するステップと、
第2の糸のニット目を含むウェールでの、ニット目の一部を目移しし、隣接するウェールの第1の糸のニット目に重ねて隠れるようにするステップ、とを行うことを特徴とする。目移しするニット目は、第2の糸のニット目でも第1の糸のニット目でも良い。
【0006】
この発明の編地は、少なくとも第1の糸と第2の糸とから成る編地であって、
渡り糸により互いにつながっている編目列をコース、編目が互いに係止しあっている編目列をウェールとして、
第1の糸のニット目のコースと、
第2の糸のニット目のコースを備え、
第2の糸のニット目を含むウェールでのニット目の一部が、隣接するウェールの第1の糸のニット目に隠れるように重ねられている。
【0007】
この発明では、第2の糸をタック目ではなくニット目で編地に編み込むので、第2の糸を編地に強固に編み込むことができる。また第2の糸のニット目は、上下左右が他のニット目につながっており、確実に編地に固定することができる。また第2の糸のニット目を含むウェールでの一部のニット目を目移しし、隣接するウェールの第1の糸のニット目に重ねると、目移ししたニット目は編地の裏面に隠れ、編地の表面から見えにくくなる。ここで第2の糸のニット目に続く第1の糸のニット目を目移しする場合でも(例えば実施例の図1)、第2の糸のニット目も目移ししたニット目と共に編地の裏面に隠れる。
【0008】
好ましくは目移しにより生じた空針により、第1の糸あるいは第2の糸の掛目を編成し、この掛目を含むウェールに、例えば掛目に続けて、第2の糸のニット目を形成する。この場合、第2の糸のニット目を含むウェールは掛目で始まり、重ね目で終わる。なおこの明細書では、ニット操作により掛目を空針に形成し、掛目をニット目に含める。
【0009】
また編地のデザイン上は、第2の糸のニット目を含みかつ掛目で始まり重ね目で終わるウェールを、複数回、ウェール方向に連続するように、言い換えるとウェールのコース方向の位置が一定になるように配置することが好ましい。このようにすると、第2の糸のニット目が同じウェールに規則的に配置される。
【0010】
少なくとも第2の糸が弾性糸を含み、第1の糸は第2の糸とは弾性力が異なり、第2の糸のニット目のコースを編成するステップでは、少なくとも1本以上の針を飛ばしてニット目を編成することを複数回繰り返す。第1の糸が非弾性糸、第2の糸が弾性糸の組み合わせの他に、第1の糸も第2の糸も弾性糸で、第1の糸は弾性が比較的弱く、第2の糸は弾性が比較的強い、ようなものでも良い。弾性糸は編地の裏面側に配置され、編機から編地を外すと収縮する。この結果、編地の表面側では伸縮性が低い非弾性糸が膨らみ、編地が立体的になる。また少なくとも1本以上の針を飛ばして第2の糸のニット目のコースを編成するので、第2の糸のニット目とニット目の間はミスの目から成る渡り糸となる。この渡り糸は第1の糸と接触し、第2の糸が動きにくくなる。
【0011】
またこの発明の方法により、靴下、手袋、サポータ、パイプのカバー等の筒状編地を編成すると、弾性糸により、編地に締め付け力を付与できる。
【0012】
なお、第2の糸のニット目の数と第1の糸のニット目の数の比、第2の糸を含むウェールと、含まないウェールの比、第2の糸のニット目を形成する際に、飛ばすウェールの数などは任意である。
【0013】
好ましくは、第2の糸として主糸と添糸を用い、主糸と添糸によりプレーティング編成する。このようにすると、多様な編地を編成できる。例えば主糸をゴム糸等の弾性糸とし、添糸を弾性糸よりも太く伸縮性が低い糸とする。弾性糸は張力を加えて編成するので、横編機から外すと弾性糸は収縮し、編地の裏面で添糸が弾性糸を覆い、疑似パイル状の編地となる。また弾性糸などの主糸には肌触りの良くない糸があるが、添糸により主糸を覆うことができる。また主糸と添糸を共に弾性糸とすると、締め付け力の強い編地を編成できる。添糸の種類は任意で、添糸として複数本の糸を用いても良い。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1の編成工程図
図2】実施例2の編成工程図
図3】変形例の編成工程図
図4】実施例1で編成した靴下の内部を示す写真
図5】実施例2で編成した靴下の要部を示す写真
図6】実施例2で編成した靴下の内部を示す写真
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、発明を実施するための最適実施例を示す。
【実施例
【0016】
実施例1
図1に実施例1での編成方法を示し、編成は、少なくとも2枚の針床を備え、編目の目移しが自在な横編機で行う。図1図3の大文字アルファベットA~Oは後針床の針の位置を示し、小文字アルファベットa~oは前針床の針の位置を示す。黒点は針を、丸マークはニット目を、Vマークは掛目を、二重の丸マークは重ね目を示す。また逆三角形マークは給糸口を、矢印は編目の目移し方向を、左右の矢印は編成方向を示す。
【0017】
図1に前針床(F.B.)と後針床(B.B)の配置を示す。また編地の表裏の関係も図示する。弾性糸等の第2の糸を用いる編成を行う箇所以外は、例えば非弾性糸から成る第1の糸を用いて編成する。編成はステップ1)からステップ6)への順に、ステップ1)~6)を繰り返し、針と編目の数は実際よりも少なく表示する。また給糸口1は第1の糸を、給糸口2は弾性糸等の第2の糸を給糸し、第2の糸のニット目と掛目はハッチング付きで示す。なおこれらの表示は、図2図3でも共通である。第1の糸により靴下を筒状に編成し、土踏まず、踵など締め付け力を要する部分を第2の糸と第1の糸を用いて編成する。図1は締め付け力を要する部分の編成を示す。なお編成する編地は筒状には限らない。
【0018】
図1のステップ1)で第1の糸を用いて往復編成し、この時針a,e,C,Gに掛目を編成する。なお掛目は、空針をニット目を形成する際と同様に進退させて形成する。ステップ2)で、針c,g,A,Eのニット目(第1の糸)をd,h,B,Fのニット目に重ねて重ね目とする。ステップ3)で、針a,e,C,Gの掛目(第1の糸)に、第2の糸のニット目を編成する。また第2の糸のニット目は3針飛ばして形成する。第2の糸は例えばゴム糸であるが、他の弾性糸でも良く、張力を加え引き伸ばした状態で編成され、編地を横編機から外すと第2の糸は収縮する。
【0019】
ステップ4)~6)では、ステップ1)~3)と同様の編成を、針の割当をシフトして行う。ステップ1)~6)の全体では、
・ 第1の糸によりニット目と掛目を編成し(ステップ1,4))、
・ 第1の糸のニット目を移動させて重ね目を形成し(ステップ2,5))、
・ 第2の糸のニット目を掛目に対して編成する(ステップ3,6))。
なおステップ3,6)では第2の糸の1コースのニット目を2回に分けて編成するが、例えば3回あるいは4回に分けて編成しても良い。第2の糸のニット目のコースを複数回に分けて編成することにより、編地に厚さが出ると共に、第2の糸が切れた場合でも、コース方向に沿ってニット目が次々と解れることを防止できる。
【0020】
第2の糸は、弾性糸以外の糸、例えば消臭作用、殺菌作用等を持つ糸、和紙の糸、鉱物糸などでも良い。これらの糸は、非弾性糸とは外観、性質等が異なるため、編地の表面に現れないことが好ましいことがある。また編地の一部のみに弾性糸を使用し、編地の他の部分を非弾性糸で編成する場合、編地の表面に非弾性糸のみが現れるようにしたいことがある。これらの場合、第2の糸を編地の裏面に隠す必要がある。
【0021】
第2の糸のニット目(針a,e,C,Gで編成)に関し、同じ針で次に形成された第1の糸のニット目をステップ2),5)で目移しし、目移しした第1の糸のニット目は編地の裏面に移動する。この時、第2の糸のニット目も編地の裏面に隠れ、編地の表面から見えにくくなる。また目移しを例えば2回行い編目を移動させて重ね目を形成することにより、編目を移動させた跡の孔が編地にあるメッシュ構造を付与する。アパレル製品の場合、メッシュ構造により編地の通気性が増し、重ね目により若干の厚みも加わる。
【0022】
第2の糸のニット目間には3ウェール分の渡り糸があり、この渡り糸が第1の糸との摩擦でずれにくくなり、第2の糸は伸び難くなる。また第2の糸のニット目は、目移しによりウェール方向に沿った繋がりが断ち切られている。即ち、針a,e,C,G等により第2の糸のニット目を繰り返し形成するが、第2の糸の上下のニット目の間で目移しを行い、上下のニット目間の繋がりを断ち切る。このため、弾性糸等の第2の糸が切れても、ウェール方向につながったニット目が次々と解れるようなことはない。なお弾性糸は通常の糸に比べ、劣化し易いので切れやすい。
【0023】
実施例2
図2は実施例2での編成方法を示し、以下に記載する点以外は、実施例1と同様である。ステップ1)で、1針ずつ飛ばして通常の第1の糸によりニット目を編成し、ステップ2),3)の2コースで、3針ずつ飛ばして弾性糸等の第2の糸による掛目を形成する。ステップ4),5)の2コースで、掛目に第2の糸によるニット目を形成する。この時も、ニット目を、3針ずつ飛ばして4針毎に形成する。ステップ6)で、第2の糸のニット目を目移しし、第1の糸のニット目に重ねる。次でステップ1)に戻り、ステップ1)~6)から成るサイクルを繰り返す。
【0024】
ステップ6)で第2の糸のニット目を目移しするので、ステップ2)~5)で編成した、第2の糸のニット目と掛目は編地の裏面に隠れる。また同じコースの第2の糸のニット目とニット目の間、及び掛目と掛目の間には3針分の渡り糸があり、第1の糸と接触して、第2の糸の伸びを抑制する。さらにウェール方向に沿っての、第2の糸のニット目間の繋がりはステップ6)の目移しにより切断されるので、仮に第2の糸が切れても、第2の糸のニット目がウェール方向に沿って多数解れることはない。
【0025】
変形例
図3は実施例2の変形を示し、筒状の編地の一部にゴム糸をニット目として配置する例である。特に示した点以外は実施例1,2と同様である。第1の糸を用いて編地を筒状に編成し、ステップ1)で目移しにより編目を移動し、空針の位置で編地に孔があるメッシュ柄を形成する。図3での筒の内側が編地の裏側である。目移しにより生じた空針b,f,D,Hに第1の糸により掛目し(ステップ2))、掛目を形成した針に弾性糸から成る第2の糸のニット目を各2目形成する(ステップ3)~6))。そしてステップ7)で、第2の糸のニット目を針b,f,D,Hから針c.g,E,Iへ目移しし、隣接する第1の糸のニット目に重ねる。そしてステップ2)~7)を繰り返す。
【0026】
図4は、実施例1で編成した靴下の内部を示す。第2の糸として、ゴム糸から成る主糸G(図では灰色に見える)と、ゴム糸に比べ伸縮率が低い弾性糸から成る添糸(図では黒く見える)を用い、主糸と添糸を同じ針に給糸し、プレーティング領域Pをプレーティング編成した。Sは第1の糸のみで編成した編地である。プレーティング領域Pに見える灰色の糸は第1の糸で、ゴム糸Gはプレーティング領域Pの周辺に僅かに見える。これは、編成した靴下を横編機から外すと、伸縮率が高いゴム糸Gは収縮し、同じく添糸の弾性糸の奥に隠れてるためである。ゴム糸Gが肌に直接触れることが嫌われることがあるが、弾性糸によりゴム糸Gが覆われ、ゴム糸Gが肌に触れることはない。
【0027】
図5図6は、ゴム糸を主糸とし、伸縮率が低くかつ太い糸を添糸として、プレーティング編成した靴下の一部を示す。図5の右側の3角形の部分(メッシュのある部分)は、ゴム糸と添糸を用いた締め込み部で土踏まずの位置となり、ゴム糸も添糸も靴下の表面からは見えない。また添糸を太く伸び難い糸としたため、編地は厚くクッション性も高い。図6は靴下の内部を示し、ゴム糸は収縮してほとんど見えず、添糸がパイル編地状に膨らんでいる。
【0028】
なおニット目を寄せる方向は左右どちらでも良く、方向を揃える必要はない。ただしメッシュ構造での孔と重ね目の配置により編地の見栄えが変化するので、これらを規則的に配置することが好ましい。また重ね目を形成する際に、重ねるニット目を重ねられるニット目の裏側に配置することにより、第2の糸を確実に隠すことができる。
【0029】
編成する編地は靴下、手袋、サポーター、シューズアッパー等の筒状編地に限らず、平面状としてクッション性の高い椅子のカバー等にも用いることができる。また弾性糸の代わりに断熱糸、高強度糸等を用いると、断熱性の編地、高強度の保護性の編地等を編成できる。
【符号の説明】
【0030】
1(第1の糸の)給糸口
2(第2の糸の)給糸口
図1
図2
図3
図4
図5
図6