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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-25
(45)【発行日】2022-05-09
(54)【発明の名称】樹脂製窓及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B60S 1/58 20060101AFI20220426BHJP
   H05B 3/84 20060101ALI20220426BHJP
【FI】
B60S1/58 100K
H05B3/84
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018156203
(22)【出願日】2018-08-23
(65)【公開番号】P2020029191
(43)【公開日】2020-02-27
【審査請求日】2021-01-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000150774
【氏名又は名称】株式会社槌屋
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本間 信孝
(72)【発明者】
【氏名】西田 愛
(72)【発明者】
【氏名】吉田 和弘
【審査官】鈴木 貴晴
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05525401(US,A)
【文献】特開2016-091658(JP,A)
【文献】実開昭54-174663(JP,U)
【文献】特開2010-028669(JP,A)
【文献】特開2017-117785(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60S 1/00-1/68
H05B 3/20-3/38,3/84-3/86
B60J 1/00,1/04-1/08,1/12-1/17,1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端側から他端側に向かって延在するとともに、その延在方向に曲面部が形成された板状の樹脂ガラスと、
前記樹脂ガラスの形状に沿って配置されるとともに、前記樹脂ガラスの延在方向に延びるデフォッガラインを有するフィルムと、
を備え、
前記曲面部は、前記樹脂ガラスの前記一端側及び前記他端側にそれぞれ形成され、
前記樹脂ガラスの法線方向から見たときに、前記デフォッガラインは、前記一端側及び前記他端側に形成された前記曲面部にそれぞれ対応する位置の少なくとも一部に設けられた一対の波形状部と、これらの波形状部を接続する直線状部と、を有し、
前記波形状部は、前記直線状部に近づくにつれて減衰するようになっていることを特徴とする樹脂製窓。
【請求項2】
1つの前記直線状部には、枝状に分かれた複数の前記波形状部が並列に接続され、
前記直線状部の線の太さは前記波形状部の線の太さと同じである請求項に記載の樹脂製窓。
【請求項3】
前記デフォッガラインは、複数であり、前記樹脂ガラスの延在方向と直交する方向に並べて配置され、
前記樹脂ガラスの延在方向と直交する方向において、隣接する前記波形状部同士の位相がずれている請求項1又は2に記載の樹脂製窓。
【請求項4】
デフォッガラインとなる導電ペーストを平板状のフィルムに印刷する第1工程と、
前記導電ペーストが印刷された前記フィルムを延伸させて、前記フィルムの両端部に一対の曲面部を形成する第2工程と、
前記曲面部が形成された前記フィルムと一体化される樹脂ガラスを形成する第3工程と、
を含み、
前記第1工程において、前記フィルムにおける前記一対の曲面部を形成しようとする位置に前記第2工程で前記フィルムを延伸させようとする方向に延びる波形状の導電ペースト、前記曲面部以外の位置に直線状の導電ペーストを印刷し、
前記波形状の導電ペーストは、前記直線状の導電ペーストに近づくにつれて減衰するようになっていることを特徴とする樹脂製窓の製造方法。
【請求項5】
前記波形状の導電ペーストは、三角波形状である請求項に記載の樹脂製窓の製造方法。
【請求項6】
前記第1工程において、前記第2工程で前記フィルムを延伸させようとする方向と直交する方向に、隣接する導電ペースト同士の波形状の位相がずれるように複数の導電ペーストを並べて印刷する請求項4又は5に記載の樹脂製窓の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、航空機、船舶、鉄道等に取り付けられる樹脂製窓及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、航空機、船舶、鉄道等に取り付けられる樹脂製窓として、曇りや凍結を防止するために、窓の表面にデフォッガライン(熱線ともいう)が配置されるものが知られている。例えば特許文献1には、樹脂ガラスと、該樹脂ガラスに配置されて縦方向と横方向に延びるデフォッガラインからなる網状の導電性メッシュと、導電性メッシュに接続された給電部とを備える樹脂製窓が開示されている。
【0003】
このような構造を有する樹脂製窓は、導電性メッシュを金型に設置した状態で該金型内に液状樹脂を射出注入し、注入した液状樹脂を硬化させることで製造されている。そして、射出成形時に、導電性メッシュの交点間の距離が可変であるので、窓の曲面部の形状に対応することでデフォッガラインの延びを防止することができる。その結果、デフォッガラインの延びによるデフォッガラインの太さのばらつきを抑制し、デフォッガラインの太さのばらつきに起因した発熱量の不均一を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-60793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述の樹脂製窓を製造する際に、デフォッガラインが窓の曲面部の形状に完全に追従できず、断線する問題が生じている。
【0006】
本発明は、このような技術課題を解決するためになされたものであって、デフォッガラインの断線を防止できる樹脂製窓及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る樹脂製窓は、一端側から他端側に向かって延在するとともに、その延在方向に曲面部が形成された板状の樹脂ガラスと、前記樹脂ガラスの形状に沿って配置されるとともに、前記樹脂ガラスの延在方向に延びるデフォッガラインを有するフィルムと、を備え、前記樹脂ガラスの法線方向から見たときに、前記デフォッガラインは、前記曲面部に対応する位置の少なくとも一部に設けられた波形状部を有することを特徴としている。
【0008】
本発明に係る樹脂製窓では、デフォッガラインは樹脂ガラスの曲面部に対応する位置の少なくとも一部に設けられた波形状部を有するので、該波形状部を利用して曲面部の形成に伴うフィルムの延伸に追従することで、デフォッガラインの断線を防止することができる。
【0009】
本発明に係る樹脂製窓において、前記曲面部は、前記樹脂ガラスの前記一端側及び前記他端側にそれぞれ形成され、前記樹脂ガラスの法線方向から見たときに、前記デフォッガラインは、前記一端側及び前記他端側に形成された前記曲面部にそれぞれ対応する位置の少なくとも一部に設けられた一対の波形状部と、これらの波形状部を接続する直線状部と、を有することが好ましい。このようにすれば、デフォッガラインが波形状部だけを有する場合と比べて、デフォッガラインとなる導電ペーストの使用量を低減することができるので、コスト削減を図ることができる。
【0010】
本発明に係る樹脂製窓において、前記波形状部は、前記直線状部に近づくにつれて減衰するようになっていることが好ましい。このようにすれば、デフォッガラインの断線を防止する効果を更に高めることができる。
【0011】
本発明に係る樹脂製窓において、1つの前記直線状部には、枝状に分かれた複数の前記波形状部が並列に接続され、前記直線状部の線の太さは前記波形状部の線の太さと同じであることが好ましい。このようにすれば、デフォッガラインの断線を防止できるとともに、加熱があまり必要でない樹脂製窓の周縁部の発熱量を低減することができる。
【0012】
本発明に係る樹脂製窓において、前記デフォッガラインは、複数であり、前記樹脂ガラスの延在方向と直交する方向に並べて配置され、前記樹脂ガラスの延在方向と直交する方向において、隣接する前記波形状部同士の位相がずれていることが好ましい。このようにすれば、干渉縞の発生を抑制し、クリアな視界を確保することができる。
【0013】
また、本発明に係る樹脂製窓の製造方法は、デフォッガラインとなる導電ペーストを平板状のフィルムに印刷する第1工程と、前記導電ペーストが印刷された前記フィルムを延伸させて曲面部を形成する第2工程と、前記曲面部が形成された前記フィルムと一体化される樹脂ガラスを形成する第3工程と、を含み、前記第1工程において、前記第2工程で前記フィルムを延伸させようとする方向に延びる波形状の導電ペーストを印刷することを特徴としている。
【0014】
本発明に係る樹脂製窓の製造方法では、第1工程において第2工程でフィルムを延伸させようとする方向に延びる波形状の導電ペーストを印刷するので、第2工程で曲面部を形成する際に、該波形状の導電ペーストが曲面部の形成に伴うフィルムの延伸に追従し、導電ペーストの断線の発生を抑制することができる。その結果、形成されるデフォッガラインの断線を防止することができる。
【0015】
本発明に係る樹脂製窓の製造方法において、前記波形状の導電ペーストは、三角波形状であることが好ましい。このようにすれば、デフォッガラインの断線を防止する効果を更に高めることができる。
【0016】
本発明に係る樹脂製窓の製造方法において、前記第2工程において、前記フィルムの両端部に一対の曲面部を形成する場合、前記第1工程において、前記フィルムにおける前記一対の曲面部を形成しようとする位置に前記波形状の導電ペースト、前記曲面部以外の位置に直線状の導電ペーストを印刷することが好ましい。このようにすれば、波形状だけの導電ペーストの場合と比べて、導電ペーストの使用量を低減することができるので、コスト削減を図ることができる。
【0017】
本発明に係る樹脂製窓の製造方法において、前記波形状の導電ペーストは、前記直線状の導電ペーストに近づくにつれて減衰するようになっていることが好ましい。このようにすれば、導電ペーストの断線を抑制する効果を更に高めることができる。
【0018】
本発明に係る樹脂製窓の製造方法において、前記第1工程において、前記第2工程で前記フィルムを延伸させようとする方向と直交する方向に、隣接する導電ペースト同士の波形状の位相がずれるように複数の導電ペーストを並べて印刷することが好ましい。このようにすれば、干渉縞の発生を抑制し、クリアな視界を確保することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、デフォッガラインの断線を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】第1実施形態に係る樹脂製窓を示す正面図及び断面図である。
図2】デフォッガラインの波形状部の拡大図である。
図3A】樹脂製窓の製造方法を示す工程図である。
図3B】樹脂製窓の製造方法を示す工程図である。
図3C】樹脂製窓の製造方法を示す工程図である。
図3D】樹脂製窓の製造方法を示す工程図である。
図3E】樹脂製窓の製造方法を示す工程図である。
図4】デフォッガラインの変形例を示す模式図である。
図5】デフォッガラインの変形例を示す模式図である。
図6】デフォッガラインの変形例を示す模式図である。
図7】デフォッガラインの変形例を示す模式図である。
図8】デフォッガラインの変形例を示す模式図である。
図9】第2実施形態に係る樹脂製窓を示す正面図及び断面図である。
図10】第3実施形態に係る樹脂製窓を示す正面図及び断面図である。
図11】第4実施形態に係る樹脂製窓を示す正面図及び断面図である。
図12】第5実施形態に係る樹脂製窓を示す正面図及び断面図である。
図13】実施例及び比較例のサンプルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明に係る樹脂製窓及びその製造方法の実施形態について説明する。図面の説明において同一の要素には同一符号を付し、重複説明は省略する。また、各図において、樹脂製窓の各構成部分の厚さや大きさ等は、発明の理解を容易にするために、実際の製品に比べて大きく或いは小さく描かれる場合がある。
【0022】
更に、以下の説明において、本発明に係る樹脂製窓を自動車のリアガラスとした例を説明するが、本発明の樹脂製窓は航空機、船舶、鉄道等の窓としても良い。また、以下の説明では、上下、左右の方向及び位置は、樹脂製窓が自動車に取り付けられた状態を基準にする。
【0023】
[第1実施形態]
図1は第1実施形態に係る樹脂製窓を示す正面図及び断面図である。図1の上段は車両の内側から見た樹脂製窓の正面図であり、図1の下段は図1の上段に示すA-A線に沿う断面図である。本実施形態の樹脂製窓1は、円弧板状の樹脂ガラス11と、樹脂ガラス11の内側(すなわち、車両の内側)に配置され、樹脂ガラス11の形状に沿って形成されたフィルム12と、を備えている。
【0024】
樹脂ガラス11は、一端側(例えば、車両の左側)から他端側(例えば車両の右側)に向かって延在しており、その延在方向(すなわち、自動車の左右方向)に形成された曲面部111を有する。具体的には、この樹脂ガラス11は、全体として一つの曲面部111を有するように、車両の内側に向かって曲線状に湾曲して形成されている。本実施形態では、曲面部111は、二次元的に形成されているが、必要に応じて三次元的に形成されても良い。樹脂ガラス11は、透明樹脂によって形成されている。透明樹脂としては、ポリカーボネート系樹脂、ポリ塩化ビニール、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリイミド系樹脂、アクリル系樹脂等が挙げられる。
【0025】
フィルム12は、シリコーン系樹脂、アクリル系樹脂などの透明樹脂によって形成されている。該フィルム12は、複数(ここでは、6本)のデフォッガライン13を有する。この6本のデフォッガライン13は、樹脂ガラス11の延在方向と直交する方向(すなわち、車両の上下方向)に等間隔で並べて配置されている。そして、樹脂ガラス11の延在方向と直交する方向において、隣接する波形状部131同士の位相は同じになっている。
【0026】
図1の上段の正面図に示すように、樹脂ガラス11の法線方向から樹脂製窓1を見たときに、デフォッガライン13は、曲面部111の左側部分に対応する位置の一部に設けられた波形状部131と、曲面部111の右側部分に対応する位置の一部に設けられた波形状部131と、左右両側の波形状部131の間に配置されてこれらの波形状部131を接続する直線状部132とを有する。そして、樹脂ガラス11の延在方向において、直線状部132と2つの波形状部131とは、それぞれデフォッガライン13の全体長さの略1/3を占めている。
【0027】
波形状部131は三角波形状となっている。ここで、以下の理由により、波形状部131が樹脂ガラス11の延在方向に対する傾斜角度θ(図2参照)は、0<θ≦60°の関係を満たすことが好ましく、0<θ≦45°の関係を満たすことがより好ましい。すなわち、波形状部131を樹脂ガラス11の延在方向に引き伸ばすと、波形状部131が横軸に近づくように移動するので、三角波の頂点部及び谷底部に負荷がかかる。そして、傾斜角度θが60°を超えると、波形状部131の移動距離が大きくなり、三角波の頂点部及び谷底部にかかる負荷が増大し、頂点部及び谷底部での断線が生じる可能性がある。このような断線を防止するために、波形状部131が樹脂ガラス11の延在方向に対する傾斜角度θは0<θ≦60°の関係を満たすことが必要である。特に0<θ≦45°の場合、三角波の頂点部及び谷底部での断線を防止する効果を更に向上することができる。
【0028】
また、本実施形態の樹脂製窓1は、樹脂ガラス11の延在方向の両端に配置された一対の給電部14を有する。給電部14は、長尺状を呈しており、樹脂ガラス11の延在方向と直交する方向に延びている。そして、波形状部131における直線状部132から離れた端部は、給電部14と接続されている。
【0029】
また、樹脂製窓1では、車両内側にあるピラー等の車両構成部材が車両の外側から視認されることを抑制するために、樹脂製窓1の周縁には黒色枠15が設けられている。
【0030】
以上のように構成された樹脂製窓1では、デフォッガライン13は、曲面部111の左側部分に対応する位置の一部に設けられた波形状部131と、曲面部111の右側部分に対応する位置の一部に設けられた波形状部131とを有するので、これらの波形状部131を利用して曲面部111の形成に伴うフィルム12の延伸に追従することで、デフォッガライン13の断線を防止することができる。
【0031】
以下、図3A図3Eを参照して樹脂製窓1の製造方法を説明する。なお、図3A図3Cにおいて、図面の上段は断面図を示し、図面の下段は平面図を示す。本実施形態に係る樹脂製窓1の製造方法は、主に、デフォッガラインとなる導電ペーストを平板状のフィルムに印刷する第1工程と、導電ペーストが印刷されたフィルムを延伸させて曲面部を形成する第2工程と、曲面部が形成されたフィルムと一体化される樹脂ガラスを形成する第3工程とを含む。
【0032】
第1工程では、まず、矩形平板状のフィルム12を用意する(図3A参照)。続いて、フィルム12の所定位置に、デフォッガライン13となる導電ペースト21を印刷する。このとき、第2工程でフィルム12を延伸させようとする方向に延びる波形状の導電ペースト211と直線状の導電ペースト212とを有する導電ペースト21を印刷する(図3B参照)。なお、ここでの波形状の導電ペースト211は三角波形状である。
【0033】
具体的には、例えば第2工程でフィルム12を延伸させようとする方向がフィルム12の左右方向である場合、その左右方向に延びる波形状の導電ペースト211と直線状の導電ペースト212とを有する導電ペースト21を印刷する。例えば、フィルム12の左右両側にそれぞれ波形状の導電ペースト211、波形状の導電ペースト211同士の間に直線状の導電ペースト212をフィルム12に印刷する。波形状の導電ペースト211は上述したデフォッガライン13の波形状部131を形成する部分であり、直線状の導電ペースト212はデフォッガライン13の直線状部132を形成する部分である。
【0034】
また、上述したように、デフォッガライン13が6本であるため、第1工程において、第2工程でフィルム12を延伸させようとする方向と直交する方向に、6本の導電ペースト21を並べて印刷することが好ましい。このとき、6本の導電ペースト21を1本ずつ順番に印刷しても良く、6本の導電ペースト21をまとめて一緒に印刷しても良い。そして、6本の導電ペースト21を印刷した後に、フィルム12の左右両側の所定位置に給電部14となる導電ペースト22を印刷する。なお、ここで、給電部14となる導電ペースト22は、導電ペースト21と一緒に印刷しても良い。
【0035】
続いて、印刷された導電ペースト21及び導電ペースト22を取り囲むように、導電ペースト21及び導電ペースト22の外周縁に黒色枠15となる黒ペースト23を印刷する(図3C参照)。
【0036】
第2工程では、成形型24を構成する上型25と下型26を型開きし、その中に導電ペースト21、導電ペースト22及び黒ペースト23が印刷されたフィルム12を配置し、図示しない赤外線ヒータで加熱してフィルム12を軟化させる。その後、上型25、下型26の型閉めを行い、賦形処理でフィルム12を延伸させて曲面部121を形成する(図3D参照)。そして、曲面部121の形成に伴って、波形状の導電ペースト211はフィルム12の延伸に追従して引き伸ばされる。
【0037】
第3工程では、射出成形用金型27を構成する上型28と下型29を型開きし、その中に曲面部121が形成されたフィルム12を配置した後に型閉めを行い、透明樹脂(例えばポリカーボネート)30を射出成形用金型27の内部に射出成形することにより、フィルム12の形に合わせた曲面部111を有する樹脂ガラス11を形成する(図3E参照)。その後、形成された樹脂ガラスを射出成形用金型27から取り出し、該樹脂ガラスの車両外側に面する表面に損傷防止ためのハードコートを塗装すれば、樹脂製窓1の製造が完了する。
【0038】
本実施形態に係る樹脂製窓の製造方法では、第1工程において第2工程でフィルム12を延伸させようとする方向に延びる波形状の導電ペースト211を印刷するので、第2工程で曲面部121を形成する際に、該波形状の導電ペースト211が曲面部121の形成に伴うフィルム12の延伸に追従し、導電ペースト21の断線の発生を抑制することができる。その結果、形成されるデフォッガライン13の断線を防止することができる。加えて、導電ペースト21の断線の発生を抑制することで、形成されるデフォッガライン13の抵抗値の上昇を防止し、デフォッガライン13の発熱性能を確保することができる。
【0039】
なお、本実施形態のデフォッガライン13の波形状部については、上述の三角波形状のほか、様々な変形例が考えられる。例えば、図4に示す変形例では、デフォッガライン13Aの波形状部131Aは、正弦波形状となっている。より具体的には、波形状部131Aは、半円を樹脂ガラス11の延在方向に上下交互に繰り返すことによって形成されている。このようなデフォッガライン13Aを有する樹脂製窓によれば、上述の実施形態と同様な作用効果を得られる。
【0040】
また、図5に示す変形例では、デフォッガライン13Bの波形状部131Bは三角波形状となっており、且つ、三角波の頂点部及び谷底部がそれぞれ角Rを有するようになっている。このようなデフォッガライン13Bを有する樹脂製窓によれば、上述の実施形態と同様な作用効果を得られる。
【0041】
また、図6に示す変形例では、デフォッガライン13Cの波形状部131Cは、三角波形状になっており、且つ、直線状部132に近づくにつれて減衰するようになっている。このようなデフォッガライン13Cを有する樹脂製窓によれば、上述の実施形態と同様な作用効果を得られるほか、波形状部131Cが直線状部132に近づくにつれて減衰するようになることで、デフォッガライン13Cの断線を防止する効果を更に高めることができる。
【0042】
また、図7に示す変形例では、樹脂ガラス11の延在方向と直交する方向において、隣接する波形状部131同士の位相は、ずれるようになっている。位相のずれは、例えば20°、30°である。このようなデフォッガライン13Dを有する樹脂製窓によれば、上述の実施形態と同様な作用効果を得られるほか、隣接する波形状部131同士の位相がずれることで、干渉縞の発生を抑制し、クリアな視界を確保することができる。なお、このようなデフォッガライン13Dを有する樹脂製窓を製造する際に、第1工程において、第2工程でフィルム12を延伸させようとする方向と直交する方向に、隣接する波形状の導電ペースト211同士の波形状の位相がずれるように複数の導電ペースト21を並べて印刷すれば良い。
【0043】
また、図8に示す変形例では、1本の直線状部132には、枝状に分かれた複数(ここでは、2本)の波形状部133,134が並列に接続されており、直線状部132の線の太さは波形状部133,134の線の太さと同じである。具体的には、波形状部133と波形状部134とは、それぞれ三角波形状を呈しており、例えば位相が180°ずれた状態で並べて配置されている。波形状部133及び波形状部134の一端部は直線状部132とそれぞれ接続され、他端部は給電部14とそれぞれ接続されている。ここで、樹脂ガラス11の延在方向と直交する方向において、隣接する波形状部133同士又は波形状部134同士の位相は更にずれることが好ましい。位相のずれは、例えば20°、30°である。
【0044】
このようなデフォッガライン13Eを有する樹脂製窓によれば、上述の実施形態と同様な作用効果を得られるほか、更に以下の作用効果を得られる。すなわち、1本の直線状部132に枝状に分かれた2本の波形状部133,134が並列に接続されているので、抵抗値が下がり、加熱があまり必要でない樹脂製窓1の周縁部の発熱量を低減することができる。加えて、直線状部132の線の太さは波形状部133,134の線の太さと同じであるので、直線状部132及び波形状部133,134の形成に1種類の導電ペーストで対応することができ、既存設備を流用することが可能になる。
【0045】
[第2実施形態]
図9は第2実施形態に係る樹脂製窓を示す正面図及び断面図である。図9の上段は車両の内側から見た樹脂製窓の正面図であり、図9の下段は図9の上段に示すB-B線に沿う断面図である。本実施形態の樹脂製窓1Aは、その形状において上述の第1実施形態と相違している。以下、第1実施形態との相違点のみを説明する。
【0046】
具体的には、樹脂製窓1Aの樹脂ガラス11Aは、その延在方向の左側に形成された曲面部112と、右側に形成された曲面部113と、これらの曲面部112,113の間に配置された平面部114とを有する。樹脂ガラス11Aの延在方向において、平面部114は曲面部112,113よりも大きく形成されている。一方、フィルム12は、樹脂ガラス11Aの曲面部112、平面部114及び曲面部113の形状に沿って配置されている。
【0047】
そして、樹脂ガラス11Aの法線方向から見たときに、デフォッガライン13は、樹脂ガラス11Aの曲面部112の全体及び平面部114の一部に対応する位置に設けられた波形状部131と、曲面部113の全体及び平面部114の一部に対応する位置に設けられた波形状部131と、これらの波形状部131を接続する直線状部132とを有する。
【0048】
本実施形態に係る樹脂製窓1Aによれば、上述の第1実施形態と同様な作用効果を得られるほか、デフォッガライン13が波形状部131と直線状部132とを有するので、デフォッガラインが波形状部だけを有する場合と比べて、デフォッガライン13となる導電ペーストの使用量を低減することができるので、コスト削減を図ることができる。
【0049】
なお、樹脂製窓1Aの製造方法は、第1工程において上述した第1実施形態と相違している。すなわち、樹脂製窓1Aの製造方法に係る第1工程では、樹脂ガラス11Aの曲面部112,113にそれぞれ対応するフィルム12の曲面部を形成しようとする位置に波形状の導電ペースト211、樹脂ガラス11Aの平面部114の一部に対応する位置に波形状の導電ペースト211をそれぞれ印刷し、それ以外の位置に直線状の導電ペースト212を印刷する。
【0050】
[第3実施形態]
図10は第3実施形態に係る樹脂製窓を示す正面図及び断面図である。図10の上段は車両の内側から見た樹脂製窓の正面図であり、図10の下段は図10の上段に示すC-C線に沿う断面図である。本実施形態の樹脂製窓1Bは、その形状において上述の第2実施形態と相違している。以下、第2実施形態との相違点のみを説明する。
【0051】
具体的には、樹脂製窓1Bの樹脂ガラス11Bは、第2実施形態の樹脂ガラス11Aと同様に、延在方向の左側に形成された曲面部112と、右側に形成された曲面部113と、これらの曲面部112,113の間に配置された平面部114とを有する。そして、樹脂ガラス11Bの延在方向において、曲面部112、平面部114及び曲面部113は、それぞれ樹脂ガラス11Bの全体長さの略1/3を占めている。
【0052】
樹脂ガラス11Bの法線方向から見たときに、デフォッガライン13は、樹脂ガラス11Aの曲面部112の全体に対応する位置に設けられた波形状部131と、曲面部113の全体に対応する位置に設けられた波形状部131と、平面部114の全体に対応する位置に設けられた直線状部132とを有する。そして、樹脂ガラス11Bの延在方向において、直線状部132及び2つの波形状部131は、それぞれデフォッガライン13の全体長さの略1/3を占めている。
【0053】
本実施形態に係る樹脂製窓1Bによれば、上述の第1実施形態と同様な作用効果を得られる。また、樹脂製窓1Bの製造方法は、上述の第2実施形態と同様である。
【0054】
[第4実施形態]
図11は第4実施形態に係る樹脂製窓を示す正面図及び断面図である。図11の上段は車両の内側から見た樹脂製窓の正面図であり、図11の下段は図11の上段に示すD-D線に沿う断面図である。本実施形態の樹脂製窓1Cは、その形状において上述の第1実施形態と相違している。以下、第1実施形態との相違点のみを説明する。
【0055】
具体的には、樹脂ガラス11Cは、逆V字状の曲面部115を有するように形成されている。該曲面部115を形成する左側稜線部115aと右側稜線部115bは、曲面部115の中心に対して左右対称となっている。一方、フィルム12は、樹脂ガラス11Cの形状に沿って配置されている。
【0056】
そして、樹脂ガラス11Cの法線方向から見たときに、デフォッガライン13は、左側稜線部115aに対応する位置の一部に設けられた波形状部131と、右側稜線部115bに対応する位置の一部に設けられた波形状部131と、これらの波形状部131を接続する直線状部132とを有する。図11の下段の断面図に示すように、波形状部131は、左側稜線部115a又は右側稜線部115bに対応する位置の全領域に亘って設けられずに、左側稜線部115a又は右側稜線部115bに対応する位置の一部であって逆V字状の頂点寄りに設けられている。
【0057】
また、図11の下段の断面図に示すように、左側稜線部115aに対応する位置の一部に設けられた波形状部131は、直線状部132を介して左側に配置された給電部14と接続されている。同様に、右側稜線部115bに対応する位置の一部に設けられた波形状部131は、直線状部132を介して右側に配置された給電部14と接続されている。
【0058】
本実施形態に係る樹脂製窓1Cによれば、上述の第1実施形態と同様な作用効果を得られる。また、樹脂製窓1Cの製造方法は、上述の第1実施形態と同様である。
【0059】
[第5実施形態]
図12は第5実施形態に係る樹脂製窓を示す正面図及び断面図である。図12の上段は車両の内側から見た樹脂製窓の正面図であり、図12の下段は図12の上段に示すE-E線に沿う断面図である。本実施形態の樹脂製窓1Dは、その形状において上述の第1実施形態と相違している。以下、第1実施形態との相違点のみを説明する。
【0060】
具体的には、樹脂ガラス11Dは、略M字状の曲面部116を有するように形成されている。すなわち、4本の稜線部(第1稜線部116a、第2稜線部116b、第3稜線部116c及び第4稜線部116d)は、左側から右側に順に配置されるとともにM字状に連結されている。従って、隣接する第1稜線部116aと第2稜線部116bとはM字状の一方の山部を形成し、隣接する第2稜線部116bと第3稜線部116cとはM字状の谷部を形成し、隣接する第3稜線部116cと第4稜線部116dとはM字状の他方の山部を形成する。一方、フィルム12は、樹脂ガラス11Dの形状に沿って配置されている。
【0061】
そして、樹脂ガラス11Dの法線方向から見たときに、デフォッガライン13は、第1稜線部116aに対応する位置の一部に設けられた波形状部131と、第2稜線部116bに対応する位置の一部に設けられた波形状部131と、第3稜線部116cに対応する位置の一部に設けられた波形状部131と、第4稜線部116dに対応する位置の一部に設けられた波形状部131と、隣接する波形状部131同士をそれぞれ接続する直線状部132とを有する。図12の下段の断面図に示すように、各波形状部131は、各稜線部に対応する位置の全領域に亘って設けられずに、M字状の曲面部116の各山部の頂点寄りに設けられている。
【0062】
本実施形態に係る樹脂製窓1Dによれば、上述の第1実施形態と同様な作用効果を得られる。また、樹脂製窓1Dの製造方法は、上述の第1実施形態と同様である。
【0063】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は実施例の範囲に限定されるものではない。
【0064】
[実施例1~3]
実施例1~3では、図13に示す諸条件(寸法の単位:mm)を有する各サンプルを作製した。各サンプルは、長尺状のフィルムにデフォッガラインとなる波形状の導電ペースト(導電ペーストの幅:0.3mm)を印刷したものである。そして、実施例1には正弦波形状の導電ペースト、実施例2には三角波形状(角Rあり)の導電ペースト、実施例3には三角波形状(角Rなし)の導電ペーストをそれぞれ用いた。
【0065】
次に、作製した各サンプルを恒温槽(温度:160℃)内に入れて約5分間放置した後に取り出し、各サンプルに対してチャック間70mmにて長手方向に等速延伸試験(引張速度:1000mm/min)を実施し、デフォッガラインの断線の有無を確認した。また、各サンプルに対して、恒温槽(温度:160℃)内に入れて約5分間放置した後、常温室温下で60分間放置し、図13に示す各標線間の寸法及び抵抗値を測定し、更に各延伸倍率時の抵抗を計算した。
【0066】
[比較例]
また、比較のために、図13に示す諸条件を有する直線状の導電ペーストのサンプルを作製し、上述の実施例と同様な試験等を行った。
【0067】
【表1】
【0068】
表1は各延伸倍率での断線確認結果を示すものである。断線は「×」、通電(すなわち、断線無し)は「○」で示す。表1から分かるように、比較例の場合、延伸倍率1.23倍で断線が発生した。これに対し、実施例1の場合は延伸倍率1.3倍まで、実施例2及び3の場合は延伸倍率1.33倍時にも通電が確認できた。これらの結果より、波形状の導電ペーストは直線状の導電ペーストよりも延伸に追従でき、デフォッガラインの断線を防止できることが明らかになった。
【0069】
【表2】
【0070】
表2は各延伸倍率時の抵抗計算値を示すものである。表2中の各抵抗計算値は、延伸前後に測定した抵抗値の変化と延伸倍率との関係から近似式を得て、得た近似式で各延伸倍率時の抵抗を計算したものである。表2から分かるように、比較例の場合は、延伸倍率1.25倍時に抵抗計算値が6.65Ω、延伸倍率1.3倍時に抵抗計算値が10.37Ωとなった。これに対し、実施例1~3の場合は、延伸倍率1.3倍時でも抵抗計算値がいずれも6Ω以下であった。これによって、波形状の導電ペーストは直線状の導電ペーストよりも延伸に追従でき、抵抗の上昇を抑制できることが明らかになった。
【0071】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。例えば、上述の実施形態において、デフォッガライン13の波形状部として、正弦波形状及び三角波形状の例を挙げて説明したが、矩形波形状、台形波形状、又はのこぎり波形状であっても良い。
【符号の説明】
【0072】
1,1A,1B,1C,1D 樹脂製窓
11,11A,11B,11C,11D 樹脂ガラス
12 フィルム
13,13A,13B,13C,13D,13E デフォッガライン
14 給電部
15 黒色枠
21,22 導電ペースト
23 黒ペースト
111,112,113,115,116,121 曲面部
114 平面部
131,131A,131B,131C,133,134 波形状部
132 直線状部
211 波形状の導電ペースト
212 直線状の導電ペースト
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13