(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-25
(45)【発行日】2022-05-09
(54)【発明の名称】バネ装置
(51)【国際特許分類】
F16F 1/32 20060101AFI20220426BHJP
F16F 3/02 20060101ALI20220426BHJP
F16B 43/00 20060101ALI20220426BHJP
F16B 31/02 20060101ALI20220426BHJP
F16B 39/24 20060101ALI20220426BHJP
F02M 61/14 20060101ALI20220426BHJP
【FI】
F16F1/32
F16F3/02
F16B43/00 A
F16B31/02 Q
F16B39/24 A
F02M61/14 320A
F02M61/14 320G
F02M61/14 320K
(21)【出願番号】P 2018189358
(22)【出願日】2018-10-04
【審査請求日】2021-07-16
(73)【特許権者】
【識別番号】303047034
【氏名又は名称】株式会社ジャパンエンジンコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柿元 泰
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】特公昭54-005055(JP,B2)
【文献】特開2016-169807(JP,A)
【文献】実開昭62-100316(JP,U)
【文献】実開昭59-144160(JP,U)
【文献】実開昭53-039211(JP,U)
【文献】実開昭61-145110(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 1/32
F16F 3/02
F16B 43/00
F16B 31/02
F16B 39/24
F02M 61/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に燃料噴射弁を締結するためのボルトが挿通されるバネ装置であって、
前記燃料噴射弁およびボルト頭部の間に配置され、かつ開口端を有するケースと、
前記ケースに収容され、かつ前記ボルトの軸方向に並んで配置される複数の皿バネと、
前記ボルト頭部および前記複数の皿バネの間に配置され、かつ該複数の皿バネによって前記ボルト頭部へ向かって付勢される座金と、を備え、
前記座金は、前記ケースに没入する部位と、該ケースの開口端から突出する部位とを有し、
前記座金のうち、前記ケースの開口端から突出する部位には、該ケースに没入する部位に比して拡径させた鍔部が設けられるとともに、該鍔部は、前記複数の皿バネが正規の付勢力を発現する場合、前記ケースの開口端に対し、所定以上の間隔を空けて突出する
ことを特徴とするバネ装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたバネ装置において、
前記鍔部の外面には、該鍔部と前記ケースの開口端との間隔の目安が表示される
ことを特徴とするバネ装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載されたバネ装置において、
前記鍔部は、該鍔部の外縁を切り欠いてなる被計測部を有する
ことを特徴とするバネ装置。
【請求項4】
請求項3に記載されたバネ装置において、
前記座金には、前記ボルトの軸方向における前記鍔部の移動を案内する一方、前記ボルトの周方向における前記鍔部の回動を規制する規制機構が設けられる
ことを特徴とするバネ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示する技術は、バネ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、内燃機関に締結される部品は、その内燃機関の運転に起因して熱伸びする場合がある。よって、ボルト等の締結具が変形・破損しないように、熱伸びの影響を抑制するような仕組みが求められる。
【0003】
そうした仕組みの一例として、特許文献1には、内燃機関に部品を締結するためのボルトに対し、複数枚の皿バネが内蔵されたバネ装置を挿通させることが記載されている。
【0004】
具体的に、前記特許文献1に開示されている内燃機関のマニホルド取付構造は、ボルト頭部とマニホルドとの間に配置される筒状のケースと、ケースに収容され、かつボルトの軸方向に並んで配置される複数の皿バネ(皿ばね座金)と、を備えたバネ装置として構成されている。
【0005】
また特許文献2には、前記特許文献1とは異なる観点から創作されたバネ装置として、皿バネによって付勢される座金(バネ受)を備えた締付装置が開示されている。同文献に係る座金は、筒形のバネ箱に没入する部位と、このバネ箱の開口端から突出する部位と、を有している。バネ箱から突出する部位は、このバネ箱よりも若干小径であり、その突出量(バネ受とバネ箱の距離a)を測定することで、ボルト(締付ボルト)の締付力を知ることができる。
【0006】
また特許文献3には、前記特許文献2と同様に、ボルト頭部と皿ばねとの間に配置され、かつ複数の皿ばねによってボルト頭部へ付勢される座金(可動側座金)を備えたバネ装置(締付け力管理装置)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】実開昭59-144160号公報
【文献】実開昭53-039211号公報
【文献】実開昭61-145110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本願発明者らは、内燃機関に燃料噴射弁を締結するために、前記特許文献1に記載されているようなバネ装置を用いることを検討した。このようなバネ装置は、種々の事情から、前記特許文献2および3に係る座金と併せて用いる場合がある。
【0009】
この場合、経時劣化等に起因した皿バネのヘタリは、その皿バネによって付勢される座金の突出量(没入量)に反映されることになる。すなわち、座金の突出量(没入量)を定期的に計測することで、皿バネのヘタリを判定することが可能となる。
【0010】
皿バネのヘタリを的確に判定するためには、座金の突出量を精度よく計測することが求められる。こうした計測は、通常、ノギス等の一般的な測定器を用いて行われるものの、前記特許文献2および3に開示されているような座金を計測対象とした場合、測定器を当てるための座面が確保され難く、その計測精度に改善の余地があった。
【0011】
ここに開示する技術は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、皿バネのヘタリを的確に判定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示は、内燃機関に燃料噴射弁を締結するためのボルトが挿通されるバネ装置に係る。このバネ装置は、前記燃料噴射弁およびボルト頭部の間に配置され、かつ開口端を有するケースと、前記ケースに収容され、かつ前記ボルトの軸方向に並んで配置される複数の皿バネと、前記ボルト頭部と前記複数の皿バネとの間に配置され、かつ該複数の皿バネによって前記ボルト頭部へ向かって付勢される座金と、を備え、前記座金は、前記ケースに没入する部位と、該ケースの開口端から突出する部位とを有する。
【0013】
そして、前記座金のうち、前記ケースの開口端から突出する部位には、前記ケースに没入する部位に比して拡径させた鍔部が設けられるとともに、前記鍔部は、前記複数の皿バネが正規の付勢力を発現する場合、前記ケースの開口端に対し、所定以上の間隔を空けて突出する。
【0014】
前記の構成によれば、座金に鍔部を設けたことで、ノギス等の測定器を当てるための座面が確保される。これにより、鍔部とケースの開口端との間隔を精度よく計測し、皿バネのヘタリを的確に判定することが可能になる。
【0015】
すなわち、前記座金は、複数の皿バネによって付勢された結果、ケースから突出する。この座金に設けた鍔部は、複数の皿バネが正規の付勢力を発現する場合、ケースの開口端に対して所定以上の間隔を空ける。言い換えれば、各皿バネにヘタリが生じると、正規の付勢力が発揮されず、座金がケースへ没入する。その結果、鍔部と開口端との間隔が、所定よりも狭まることになる。よって、座金に設けた鍔部と、ケースの開口端との間隔を計測することで、皿バネのヘタリを的確に判定することができる。
【0016】
また、従来の構造では、各皿バネにヘタリが生じると、ケースの開口端に対して座金の頂面が沈降する可能性があった。この場合、座金の頂面に溜った水やゴミがケース内へ侵入し、バネ装置の耐用年数に悪影響を与えるおそれがあった。
【0017】
対して、前記のように座金に鍔部を設けた場合、この鍔部がケースの開口端と接触することによって、座金の沈降が規制される。これにより、水やゴミの侵入が抑制され、バネ装置の耐用年数を確保する上で有利になる。
【0018】
また、前記鍔部の外面には、該鍔部と、前記ケースの開口端との間隔の目安が表示される、としてもよい。
【0019】
前記の構成によれば、座金に鍔部を設けたことで、測定器による計測値の目安を表示するためのスペースが確保される。これにより、皿バネのヘタリを的確に判定する上で有利になる。
【0020】
また、前記鍔部は、該鍔部の外縁を切り欠いてなる被計測部を有する、としてもよい。
【0021】
前記の構成によれば、鍔部の外縁を切り欠くことで、その切り欠いた部位に対し、ノギス等の測定器を差し込むことが可能になる。これにより、測定器による計測を安定させ、ひいては、皿バネのヘタリを的確に判定する上で有利になる。
【0022】
さらに、前記の構成によれば、鍔部の外縁に被計測部を設けることで、測定の度に異なる箇所を計測させるのではなく、毎回、同じ箇所を計測させることが可能になる。これにより、測定器による計測を安定させ、ひいては、皿バネのヘタリを的確に判定する上で有利になる。
【0023】
また、前記座金には、前記ボルトの軸方向における前記鍔部の移動を案内する一方、前記ボルトの周方向における前記鍔部の回動を規制する規制機構が設けられる、としてもよい。
【0024】
前記の構成によれば、ケースに対する鍔部の回動を規制することが可能となる。そのことで、被計測部と、ケースの開口端との位置関係を略一定に保つことができる。これにより、測定器による計測を安定させ、ひいては、皿バネのヘタリを的確に判定する上で有利になる。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように、前記のバネ装置によると、皿バネのヘタリを的確に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、燃料噴射弁の構成を例示する斜視図である。
【
図2】
図2は、バネ装置の構成を例示する部分透視図である。
【
図3A】
図3Aは、自由状態にあるバネ装置の構成を例示する縦断面図である。
【
図3B】
図3Bは、締付状態にあるバネ装置の構成を例示する縦断面図である。
【
図4】
図4は、バネ装置の鍔部の構成を例示する斜視図である。
【
図5】
図5は、バネ装置の鍔部の構成を例示する平面図である。
【
図7】
図7は、バネ装置の組立要領を例示するフローチャートである。
【
図8】
図8は、バネ装置の管理要領を例示するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本開示の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明は例示である。
図1は燃料噴射弁2の構成を例示する斜視図であり、
図2はバネ装置4の構成を例示する部分透視図である。
【0028】
(1)燃料噴射弁
図1に示す燃料噴射弁2は、内燃機関としての舶用ディーゼルエンジン1に締結される。この舶用ディーゼルエンジン1は、ユニフロー掃気方式を採用した2ストローク1サイクル機関として構成されており、タンカー、コンテナ船、自動車運搬船等、大型の船舶に搭載される。
【0029】
舶用ディーゼルエンジン1における燃焼室は、シリンダライナ(不図示)、ピストン(不図示)およびシリンダカバー11によって区画されている。燃料噴射弁2は、シリンダカバー11に対して上方から挿入された上で、このシリンダカバー11の上面に締結されるようになっている(
図2を参照)。
【0030】
具体的に、燃料噴射弁2は、燃焼室の内部に挿入される噴口部21と、シリンダカバー11の上面に締結される締結部22と、を有している。噴口部21は、燃料噴射弁2における先端部に相当し、舶用ディーゼルエンジン1に取り付けられた状態にあっては、燃焼室内に臨むように配置される。一方、締結部22は、燃料噴射弁2における基端部に相当し、舶用ディーゼルエンジン1に取り付けられた状態にあっては、シリンダカバー11の上面に沿うように配置される。
【0031】
具体的に、締結部22は、フランジ状に形成された鍔部からなり、その鍔部の両端には、ボルト3を挿通可能な左右一対の挿通口22aが設けられている。各挿通口22aにボルト軸部32を挿通した上で、そのボルト軸部32の先端をシリンダカバー11にねじ込んでナット5を締めることにより、シリンダカバー11に締結部22が締結される。そうして締結された状態にあっては、ボルト3の頭部31およびナット5によって締結部22が締め付けられることになる。
【0032】
なお、前記ボルト軸部32とは、後述の
図3Aに示すように、ボルト3の頭部31から軸状に延びる部位をいう。また以下の説明では、ボルト3の頭部31を単に「ボルト頭部31」ともいう。
【0033】
図2に示すように、ボルト3によって燃料噴射弁2を締結したとき、ボルト頭部31は、ボルト軸部32およびナット5に比して上方に位置するようになっている。同図に示すように、ボルト頭部31、ナット5、後述のバネ装置4、締結部22およびシリンダカバー11は、上方からこの順に並ぶ。
【0034】
前述のように、燃料噴射弁2の噴口部21は、燃焼室内に配置される。したがって、燃焼室内においてディーゼル燃料を燃焼させると、その燃焼により燃料噴射弁2が熱伸びする場合がある。この場合、前述の締結部22がボルト頭部31に向かって熱伸びすることにより、ナット5と締結部22との間の面圧、ひいてはボルト3の締付力が過大となり、ボルト3およびナット5が変形・破損したり、燃料噴射弁2の先端に取り付けられたガスケットが破損し、燃焼ガスが燃焼室の外部に漏れるおそれがある。
【0035】
そこで、本実施形態に係る舶用ディーゼルエンジン1は、シリンダカバー11に燃料噴射弁2を締結するためのボルト3に対し、
図2に示すようなバネ装置4を挿通せしめた構成とされている。
【0036】
バネ装置4は、ナット5と締結部22との間に配置されており、複数の皿バネ42を内蔵している。これら皿バネ42の弾性力によって、締付力を発生させることができる。そして、燃料噴射弁2が熱伸びした場合には、各皿バネ42が弾性的に圧縮されて、ボルト頭部31およびナット5周辺の面圧を緩和する。これにより、締付力を略一定に保つことができる。
【0037】
以下、バネ装置4について詳細に説明をする。
【0038】
(2)バネ装置
図3Aは自由状態にあるバネ装置4の構成を例示する縦断面図であり、
図3Bは締付状態にあるバネ装置4の構成を例示する縦断面図である。また、
図4はバネ装置4の鍔部44の構成を例示する斜視図であり、
図5はバネ装置4の鍔部44の構成を例示する平面図である。
【0039】
なお、以下の説明では、ボルト軸部32に沿う方向を「ボルト3の軸方向」、又は単に「軸方向」と呼称し、ボルト軸部32の中心軸C周りの円周に沿う方向を「ボルト3の周方向」、又は単に「周方向」と呼称する。
【0040】
図2に示すように、バネ装置4は、ボルト3が挿通された状態で、ボルト頭部31と締結部22との間(具体的には、ナット5の下方かつ締結部22の上方)に介在している。
【0041】
詳しくは
図3Aおよび
図3Bに示すように、本実施形態に係るバネ装置4は、ボルト頭部31および燃料噴射弁2(具体的には締結部22)の間に配置され、かつ両端に開口端41a,41bを有する筒体41と、筒体41に収容され、かつボルト3の軸方向に並んで配置される複数の皿バネ42と、ボルト頭部31および複数の皿バネ42の間に配置され、かつ複数の皿バネ42によってボルト頭部31へ向かって付勢される座金43と、を備えている。
【0042】
さらに詳しくは、筒体41は、上下方向に延び、かつボルト軸部32を挿通可能な長筒状に形成されている。具体的に、筒体41の上端は、座金43を介してナット5の下面と当接する開口端41aをなす。一方、筒体41の下端は、締結部22の上面と接する開口端41bをなす。なお、筒体41は「ケース」の例示である。
【0043】
図3Aおよび
図3Bに示すように、筒体41の開口端41a,41bには共通のボルト軸部32が挿通されている。また、筒体41における上端側の開口端41aを通じて、筒体41内に皿バネ42が導入される。一方、筒体41における下端側の開口端41bは、皿バネ42が抜け落ちないように、下方から皿バネ42を支持する。
【0044】
また、複数の皿バネ42は、上下方向に積み重ねられた状態で筒体41に収容されている。各皿バネ42には、共通のボルト軸部32が挿通されている。
【0045】
複数の皿バネ42は、ボルト軸部32が延びる方向、具体的にはボルト頭部31(およびナット5)と締結部22とを離間させる方向に付勢力を発現する。この付勢力の大きさは、複数の皿バネ42全体のばね定数によって規定される。本実施形態では、複数の皿バネ42全体のばね定数は、ボルト3、特にボルト頭部31のばね定数と、燃料噴射弁2、特に締結部22のばね定数と、の双方よりも小さくなるように設定されている。
【0046】
また、座金43は、上下方向に延び、かつボルト軸部32を挿通可能な短筒状に形成されている。具体的に、座金43には、該座金43を上下方向に貫く挿通孔43cが設けられている。挿通孔43cの内径は、ボルト軸部32よりも若干、大径である。
【0047】
そして、座金43の下端部43bは、筒体41に没入しており、複数の皿バネ42に対して上方から当接している。一方、座金43の上端部43aは、筒体41における上端側の開口端41a(以下、単に「筒体41の開口端41a」ともいう)から突出しており、ナット5に対して下方から当接している。座金43は、筒体41の内壁と、ボルト軸部32の外周面とに沿って軸方向にスライド可能である。
【0048】
なお、座金43の下端部43bは「筒体に没入する部位」の例示であり、座金43の上端部43aは「筒体の開口端から突出する部位」の例示である。
【0049】
図3Aおよび
図3Bに示すように、座金43の挿通孔43cには、筒体41に挿通されるものと同じボルト軸部32が挿通されている。座金43には、複数の皿バネ42が発現する付勢力が作用する。この付勢力によって、座金43は、筒体41の開口端41aから突出する方向に付勢されて、ナット5の下面に押し付けられるようになっている。
【0050】
そして、座金43の上端部43aには、座金43の下端部43bに比して拡径させた鍔部44が設けられている。この鍔部44は、筒体41の外周面と略同径とされており、複数の皿バネ42が座金43を付勢することで、筒体41の開口端41aに対して離間するように突出している。
【0051】
鍔部44は、例えばバネ装置4を組み立てた直後など、複数の皿バネ42が正規の付勢力を発現すると想定される場合は、筒体41の開口端41aに対し、所定以上の間隔hを空けて突出するようになっている。この間隔hは、
図3Bに示す締付状態(ナット5を締め付けた状態)にあっては、
図3Aに示す自由状態(ナット5を緩めた状態)に比して狭くなる。
【0052】
また、各皿バネ42にヘタリが生じると、正規の付勢力が発揮されず、座金43が筒体41へ没入する。この場合、鍔部44と、筒体41の開口端41aとの間隔hは、所定よりも狭まることになる。この間隔hは、例えば、筒体41の開口端41aから鍔部44の上面にかけての寸法Hに応じて増減する。よって、寸法Hを計測することで、皿バネ42のヘタリを判定することができる。寸法Hは、長期にわたって使用するにつれて、次第に小さくなる。寸法Hが小さくなるにつれて、皿バネ42による付勢力が小さくなるとみなすことができる。
【0053】
また、
図3Aおよび
図3Bに示すように、座金43には止めネジ45が取り付けられている。止めネジ45のネジ先は、座金43における下端部43b側の外周部にねじ込まれている。よって、止めネジ45は、座金43と一体的に軸方向にスライドする。
【0054】
一方、止めネジ45の頭部45aは、筒体41に設けた貫通溝41cの内側に配置されており、この貫通溝41cを介して外部に露出している。貫通溝41cは、軸方向に延びる長円状に形成されており、筒体41を厚み方向に貫通している。
【0055】
バネ装置4を組み立てるときには、止めネジ45のネジ先を貫通溝41cに挿通させた上で、そのネジ先を、筒体41に挿入された座金43にねじ込む。これにより、止めネジ45が、座金43の抜け止めとして機能する。
【0056】
また、前述の如き貫通溝41cを用いると、その貫通溝41cが延びる方向に沿って、止めネジ45の頭部45aをスライドさせることができる。そのことで、軸方向における座金43、そして鍔部44の移動を案内するとともに、周方向における座金43、そして鍔部44の回動を規制することができる。止めネジ45および貫通溝41cは、本実施形態に係る規制機構を構成している。
【0057】
また、
図4および
図5に示すように、鍔部44は、この鍔部44の外縁を切り欠いてなる被計測部44aを有する。具体的に、被計測部44aは、鍔部44の外縁を、該鍔部44の径方向中央部(挿通孔43cの中央部に相当)に向かって切り欠いてなる。
【0058】
また、
図5に示すように、座金43に鍔部44を設けたことで、各種情報を刻印するためのスペースが確保される。例えば、本実施形態に係る鍔部44の外面には、該鍔部44と、筒体41の開口端41aとの間隔hの目安として、寸法Hの初期値および使用限界が表示されている。
【0059】
具体的に、鍔部44の上面には、寸法Hの初期値として、組立時かつ自由状態における寸法Hの計測値“X.XX”が刻印されている。鍔部44の上面にはまた、寸法Hの使用限界として、自由状態における寸法Hの下限値“LIMIT Y.YY”が刻印されている。寸法Hが下限値以下の場合は、複数の皿バネ42が正規の付勢力を発現しておらず、各皿バネ42にヘタリが生じていると判断することができる。寸法Hの初期値および下限値は、バネ装置4毎の皿バネ42の固体差を反映した値であり、通常は、バネ装置4毎に異なる値となる。
【0060】
(3)バネ装置の管理について
図6Aは従来のバネ装置104を例示する
図3A対応図であり、
図6Bは従来のバネ装置104を例示する
図3B対応図である。従来のバネ装置104は、本実施形態に係るバネ装置4と同様に、筒体141と、複数の皿バネ142と、座金143と、を備えており、上方からボルト3が挿通されるように構成されている。
【0061】
しかしながら、従来のバネ装置104は、座金143に鍔部が設けられていないという点で、本実施形態に係るバネ装置4と相違している。そのため、従来のバネ装置104では、
図6Bに示すように、座金143全体を筒体141に没入させることができる。
【0062】
従来のバネ装置104においても、各皿バネ142にヘタリが生じると、座金143が筒体141へ没入するということに変わりない。そのため、本実施形態に係るバネ装置4と同様に、座金143の頂面143aと、筒体141の開口端141aとの間隔を計測することで、皿バネ142のヘタリを判定することができる。
【0063】
しかしながら、皿バネ142の性能には、バネ装置104毎に固体差がある。この固体差は、座金143の突出量に反映されるため、そうした固体差を考慮した判定方法が必要となる。
【0064】
そこで、従来のバネ装置104は、組立直後の締付状態(特に、一定の締付トルクで実現される締付状態)において、座金143の頂面143aと筒体141の開口端141aとが面一になるように、座金143の厚みが調整されていた。こうした管理方法を採用した場合、皿バネ142にヘタリが生じると、筒体141に対して座金143が没入するようになる。組立直後においては面一とされていたものがヘタリに応じて没入することになるから、筒体141に対する座金143の変位量を計測することで、皿バネ142の固体差を考慮しつつ、皿バネ142のヘタリを判定することが可能になる。
【0065】
本願発明者らは、バネ装置の管理方法について検討を進めた結果、以下の課題を新たに見出した。すなわち、皿バネのヘタリを的確に判定するためには、筒体に対する座金の変位量を精度よく計測することが求められる。こうした計測は、通常、ノギス等の一般的な測定器を用いて行われるものの、
図6Aおよび
図6Bに示すような座金143を計測対象とした場合、測定器を当てるための座面が確保され難く、その計測精度に改善の余地があった。
【0066】
またそもそも、従来のバネ装置104のように、座金143の頂面143aと、筒体141の開口端141aとを面一に調整するのは、手間がかかり不都合である。
【0067】
対して、本実施形態に係るバネ装置4では、
図3Aおよび
図3Bに示すように、座金43に鍔部44が設けられている。鍔部44を設けたことで、ノギス等の測定器を当てるための座面が確保される。これにより、鍔部44の上面から筒体41の開口端41aにかけての寸法Hを精度よく計測し、皿バネ42のヘタリを的確に判定することが可能になる。
【0068】
また、従来のバネ装置104では、各皿バネ142にヘタリが生じると、筒体141の開口端141aに対して座金143の頂面143aが沈降せざるを得なかった。この場合、座金143の頂面143aに溜った水やゴミが筒体141内へ侵入し、バネ装置104の耐用年数に悪影響を与えるおそれがあった。
【0069】
対して、本実施形態のように、座金43に鍔部44を設けた場合、この鍔部44が筒体41の開口端41aと接触することによって、座金43の沈降が規制される。これにより、水やゴミの侵入が抑制され、バネ装置4の耐用年数を確保する上で有利になる。
【0070】
また、
図5に示すように、座金43に鍔部44を設けたことで、ノギス等の測定器による計測値の目安を表示するためのスペースが確保される。これにより、従来のバネ装置4のように、座金43の頂面と、筒体41の開口端41aとを面一に調整せずとも、バネ装置4毎に独立して設定される目安を作業者に視認させることができる。座金43の頂面と、筒体41の開口端41aとを面一に調整する工程を省略することができるため、バネ装置4の組み立てが容易となる。また、皿バネ42のヘタリを的確に判定する上で有利になる。
【0071】
また、
図4および
図5に示すように、鍔部44の外縁を切り欠いた被計測部44aを設けることで、その被計測部44aに対し、ノギス等の測定器を差し込むことが可能になる。これにより、測定器による計測を安定させ、ひいては、皿バネ42のヘタリを的確に判定する上で有利になる。
【0072】
さらに、鍔部44の外縁に被計測部44aを設けることで、測定の度に異なる箇所を計測させるのではなく、毎回、同じ箇所を計測させることが可能になる。これにより、測定器による計測を安定させ、ひいては、皿バネ42のヘタリを的確に判定する上で有利になる。
【0073】
また、
図3Aおよび
図3Bに示すように、バネ装置4に規制機構(止めネジ45および貫通溝41c)を設けることで、筒体41に対する鍔部44の回動を規制することが可能となる。そのことで、被計測部44aと、筒体41の開口端41aとの位置関係を略一定に保つことができる。これにより、測定器による計測を安定させ、ひいては、皿バネ42のヘタリを的確に判定する上で有利になる。
【0074】
-バネ装置の組立および管理要領-
図7は、バネ装置4の組立要領を例示するフローチャートであり、
図8は、バネ装置4の管理要領を例示するフローチャートである。
【0075】
バネ装置4を組み立てる際には、
図7に例示する工程が実施される。
【0076】
具体的には、まず、
図7のステップS11に示すように、筒体41に複数の皿バネ42と、座金43を組み込む。続いて、ステップS12に示すように、自由状態での寸法Hを計測し、その計測値と、当該計測値から所定値だけ差し引いた値と、を算出する。ここでの計測値は、寸法Hの初期値に相当する。一方、計測値から所定値だけ差し引いた値は、前述の使用限界に相当する。
【0077】
そして、ステップS13に示すように、寸法Hの初期値と使用限界を、それぞれ、鍔部44の上面に刻印する。その後、ステップS14に示すように、座金43に対して止めネジ45をねじ込むことにより、バネ装置4の組み立てが完了する。図示は省略するが、バネ装置4を用いる際には、座金43に設けた挿通孔43cからボルト3を挿通し、ナット5を締め付ければよい。
【0078】
一方、バネ装置4を管理する際には、
図8に例示する工程が実施される。
【0079】
具体的には、まず、
図8のステップS21に示すように、バネ装置4に挿通されたボルト3を緩めることにより、バネ装置4を自由状態にする。続いて、ステップS22に示すように、筒体41の開口端41aから鍔部44の上面にかけての寸法Hを計測する。この計測は、鍔部44に設けた被計測部44aに計測器を差し込むことで実施される。
【0080】
そして、ステップS23に示すように、ステップS22において得られた計測値と、鍔部44の上面に打刻された使用限界とを比較する。ここで、計測値が使用限界を上回っている場合(ステップS23:YES)は、皿バネ42のヘタリは十分に小さいとみなし、バネ装置4は寿命に達していないと判断する(ステップS24)。一方、計測値が使用限界以下の場合(ステップS23:NO)は、皿バネ42のヘタリは大きいとみなし、バネ装置4は寿命に達していると判断する(ステップS25)。
【0081】
《他の実施形態》
前記実施形態では、長筒状の筒体41を用いた構成が例示されていたが、この構成には限られない。他の形状を有する部材をケースとして用いてもよい。
【符号の説明】
【0082】
1 舶用ディーゼルエンジン(内燃機関)
2 燃料噴射弁
3 ボルト
31 ボルト頭部
4 バネ装置
41 筒体(ケース)
41a 筒体の開口端
41c 貫通溝(規制機構)
42 皿バネ
43 座金
43a 座金の上端部(筒体の開口端から突出する部位)
43b 座金の下端部(筒体に没入する部位)
44 鍔部
44a 被計測部
45 止めネジ(規制機構)
h 間隔