(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-25
(45)【発行日】2022-05-09
(54)【発明の名称】最小で600MPaの引張強さを有する熱間圧延され析出強化され結晶粒が微細化された高強度二相鋼鈑およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C21D 9/46 20060101AFI20220426BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20220426BHJP
C22C 38/26 20060101ALI20220426BHJP
【FI】
C21D9/46 S
C22C38/00 301W
C22C38/26
(21)【出願番号】P 2018534952
(86)(22)【出願日】2017-05-10
(86)【国際出願番号】 IN2017050171
(87)【国際公開番号】W WO2018146695
(87)【国際公開日】2018-08-16
【審査請求日】2020-02-14
(31)【優先権主張番号】201731004831
(32)【優先日】2017-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(73)【特許権者】
【識別番号】510146377
【氏名又は名称】タータ スチール リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アッパ ラオ チンタ
(72)【発明者】
【氏名】サウラブ クンデュ
(72)【発明者】
【氏名】プラシャント パサック
(72)【発明者】
【氏名】スシル クマール ギリ
(72)【発明者】
【氏名】ソウメンデュ モニア
(72)【発明者】
【氏名】スバーンカル ダス バクシ
(72)【発明者】
【氏名】ジー センティル クマール
(72)【発明者】
【氏名】ヴィネイ ブイ. マハシャブデ
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-031534(JP,A)
【文献】特開2005-206864(JP,A)
【文献】特開2012-197516(JP,A)
【文献】国際公開第2008/123366(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2012-0097173(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第104451402(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 8/00- 8/10
C21D 9/46- 9/48
C22C 38/00-38/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二相鋼板の製造方法であって、
化学組成が、重量%で、C:0.03~0.12、Mn:0.8~1.5、Si:0.1未満、Cr:0.3~0.7、S:最大0.008、P:最大0.025、Al:0.01~0.1、N:最大0.007、Nb:0.005~0.035、V:最大0.06を含み、残部が鉄及び不可避不純物である溶融鋼を製造するステップ、
前記溶融鋼をスラブに連続鋳造するステップ、
仕上圧延温度(FRT)840±30℃で前記スラブを熱延鋼板に熱間圧延するステップ、
前記熱延鋼板を冷却速度40~70℃/sで中間温度(T
INT)650℃≦T
INT≦720℃に達するまでランアウトテーブル上で冷却するステップ、
前記熱延鋼板を5~7秒間自然冷却するスッテプ、および
前記熱延鋼板を40~70℃
/sの冷却速度で400℃未満の巻取り温度まで急冷して残留する炭素富化オーステナイトをマルテンサイトに変態させるステップ
を含み、
前記二相鋼板は、75~90体積%のフェライト、10~25体積%のマルテンサイト、5体積%未満のベイナイトを有し、結晶粒径が2~5μmである、製造方法。
【請求項2】
析出物を固溶させるために、連続鋳造された前記スラブを1100℃~1200℃の温度範囲で20分~2時間再加熱する、請求項1に記載された製造方法。
【請求項3】
前記二相鋼板の降伏強さが350~500MPaである、請求項1に記載された製造方法。
【請求項4】
前記二相鋼板が、600MPa以上の引張強さを有する、請求項1に記載された製造方法。
【請求項5】
前記二相鋼板が、16%以上の均一伸びを有する、請求項1に記載された製造方法。
【請求項6】
前記二相鋼板が、22%以上の全伸びを有する、請求項1に記載された製造方法。
【請求項7】
前記二相鋼板の加工硬化指数(n)が0.15~0.16である、請求項1に記載された製造方法。
【請求項8】
前記二相鋼板の降伏強さの引張強さに対する比が0.6~0.8である、請求項1に記載された製造方法。
【請求項9】
前記二相鋼板は、打ち抜き穴の穴拡げ率が38.5%~40%である、請求項1に記載された製造方法。
【請求項10】
重量%で、C:0.03~0.12、Mn:0.8~1.5、Si:0.1未満、Cr:0.3~0.7、S:最大0.008、P:最大0.025、Al:0.01~0.1、N:最大0.007、Nb:0.005~0.035、V:最大0.06を含み、残部が鉄及び不可避不純物である化学組成を有し、75~90体積%のフェライト、10~25体積%のマルテンサイト、5体積%未満のベイナイトを有し、結晶粒径が2~5μmである、二相鋼鈑。
【請求項11】
前記二相鋼板の降伏強さが350~500MPaである、請求項10に記載された二相鋼鈑。
【請求項12】
前記二相鋼板が、600MPa以上の引張強さを有する、請求項10に記載された二相鋼鈑。
【請求項13】
前記二相鋼板が、16%以上の均一伸びを有する、請求項10に記載された二相鋼鈑。
【請求項14】
前記二相鋼板が、22%以上の全伸びを有する、請求項10に記載された二相鋼鈑。
【請求項15】
前記二相鋼板の加工硬化指数(n)が0.15~0.16である、請求項10に記載された二相鋼鈑。
【請求項16】
前記二相鋼板の降伏強さの引張強さに対する比が0.6~0.8である、請求項10に記載された二相鋼鈑。
【請求項17】
前記二相鋼板は、打ち抜き穴の穴拡げ率が38.5%~40%である、請求項10に記載された二相鋼鈑。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間圧延された高強度二相鋼の製造方法に関するものである。さらに本発明は、600MPa超の引張強さおよび25%の全伸びを有する熱間圧延された高強度二相鋼に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の燃料消費及びそれによる排出は、大気汚染の主要な要因の1つである。環境に配慮した軽量車両設計が、環境汚染問題に対処するために要求されている。軽量自動車の成功には、先進の高強度鋼(AHSS)の鋼鈑の利用が必要とされる。しかし、AHSS鋼鈑は成形性に劣るため、様々な自動車部品に容易に適用できるものではない。そのため、AHSS鋼鈑の延性および成形性に対する要求はますます増大している。したがって、この流れに対処するには、ホイールウェブ用途などの自動車部品用の、優れた均一伸び、加工硬化率および全伸びと組み合わされた高引張強度を有する熱延鋼板の開発が必要であった。
【0003】
したがって、自動車構造用およびホイールウエブ用途に使用される既存の鋼種を置き換えるには、最小で600MPaの引張強さを有するだけでなく、良好な成形性および良好な表面品質を有する熱延鋼板を開発する必要がある 。
【0004】
欧州特許出願公開第1398392号(A1)および米国特許第8337643号は、最小で590MPaの引張強さを有する熱間圧延された二相(フェライト+マルテンサイト)鋼を製造する方法を開示している。提案された鋼は、強度を有するものの、多量のSi(最小で、0.5重量%(欧州特許出願)、0.2重量%(米国特許))を含有する。Siが存在すると、一般に虎マークと呼ばれる表面スケールの発生を起こすであろう。
【0005】
欧州特許第2053139号(B1)には、熱延鋼板を成形後に、440~640MPaの範囲で変化する引張強さを達成するように熱処理を行う方法が開示されている。しかし、この特許の本質的構成である成形後の熱処理は、加工コストが増加することにつながりやすく、量産に適さない。
【0006】
欧州特許出願公開第2578714号(A1)には、焼き入れ硬化性および伸びフランジ性に優れた最小で590MPaの引張強さを有する熱延鋼板の製造方法が開示されている。提案された方法によれば、この鋼は1.7~2.5重量%のMnを含有しなければならない。このように多量にMnを添加すると、Mnは厚さ方向中央部に偏析しやすく、プレス成形時に割れが発生するだけでなく、所望の伸びフランジ性を得にくくなる。
【0007】
鋼の開発には、自動車のホイールを理解することも重要である。自動車用ホイールはディスクおよびリムから構成されている。ディスクはプレス成形されるが、リムはフレア接続され、突き合わせフラッシュ溶接の後にロール成形される。したがって、ディスクを形成するために必要な材料は、良好な深絞り性、伸び成形性および伸びを有する必要があるが、リムを形成するために必要な材料は、溶接後に良好な成形性を有する必要がある。ホイールディスクおよびリムがそれぞれの工程で形成された後、スポット溶接またはアーク溶接によって組み立てられる。したがって、リムおよびディスクに使用する両方の材料は、良好なスポット溶接性を有する必要がある。自動車ホイール使用の観点から、自動車ホイールに最も重要な機能要件は耐久性であり、これは車輪材料の疲労強度を増加させることによって向上させることができる。
【0008】
近年行われた様々な研究では、析出硬化鋼および二相(DP)鋼の両方がホイールディスク用途に適していることが示されている。疲労強度の検討から、ホイール用の鋼の引張強さの上限は約600MPa(または85ksi)である(イリエ、ツノヤマ、シノザキ、カトウ、「SAEペーパー」、第880695号、1988年(T. Irie、Tsunoyama、M.Shinozaki and T.Kato:SAE Paper No. 880695、1988)。これは、引張強さが600MPaを超えると、ノッチ感度が増大して疲労強度が低下するためである。600MPa(またはHR-DP600)の引張強さを有する熱延DP鋼は、優れた強度および成形性と同時に良好な伸び(大きいn値)およびスポット溶接性のためにホイールディスク用途に非常に一般的な選択となっている。しかし、HR-DP600をどの圧延機でも製造することは難しい。なぜなら、最終的な機械的特性を決定する所望のミクロ組織を得るためには、多くのプロセスパラメータ、例えば、仕上圧延温度、冷却速度などが最適化される必要があり、ランアウトテーブルの長さ、利用可能な水量など圧延機構成を考慮して微調整する必要がある。既存のすべての特許および文献は、鋼の疲労寿命のためにフェライトの強度を増加させるためにかなりの量のSiを含有させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】欧州特許出願公開第1398392号明細書
【文献】米国特許第8337643号明細書
【文献】欧州特許第2053139号明細書
【文献】欧州特許出願公開第2578714号明細書
【非特許文献】
【0010】
【文献】イリエ、ツノヤマ、シノザキ、カトウ、「SAEペーパー」、第880695号、1988年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
先行技術に内在する上記の限定を考慮して、本発明の目的は、Si含有量が低く600MPa超の引張強さを有する熱間圧延された析出強化高強度二相鋼板を製造する方法を提案することである。
本開示の他の目的は、Si含有量が低い熱間圧延された析出強化高強度二相鋼板を製造する方法を提案することである。
本開示の他の目的は、Si含有量が低く600MPa超の引張強さを有する熱間圧延された析出強化高強度二相鋼板を提案することである。
本開示の更に他の目的は、Si含有量が低い熱間圧延された析出強化高強度二相鋼板を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、二相鋼板を製造する方法を提供する。この方法は、
化学組成が、重量%で、C:0.03~0.12、Mn:0.8~1.5、Si:<0.1、Cr:0.3~0.7、S:最大0.008、P:最大0.025、Al:0.01~0.1、N:最大0.007、Nb:0.005~0.035、V:最大0.06の溶融鋼を製造するステップ、
溶融鋼をスラブに連続鋳造するステップ、
仕上圧延温度(FRT)840±30℃でスラブを熱延鋼板に熱間圧延するステップ、
熱延鋼板を冷却速度40~70℃/sで中間温度(TINT)720≦TINT≦650に達するまでランアウトテーブル上で冷却するステップ、
熱延鋼板を5~7秒間自然冷却するスッテプ、および
熱延鋼板を40~70℃/sの冷却速度で400℃未満の巻取り温度まで急冷して残留する炭素富化オーステナイトをマルテンサイトに変態させるステップを含む。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一具体例による高強度二相鋼を製造する方法の様々なステップ。
【
図2】本発明の一具体例による高強度二相鋼を得るための冷却曲線の略図。
【
図3】本発明の一具体例による鋼鈑1の引張応力-歪み曲線。
【
図4】本発明の一具体例による鋼鈑1の光学顕微鏡写真(ナイタールエッチング)。
【
図5】本発明の一具体例によるレペラエッチング試料の光学顕微鏡像(白:マルテンサイト(α)、黒:フェライト(α´))。
【
図6】本発明の一具体例によるレペラエッチング試料の光学顕微鏡像(2μm程度の微細結晶粒が見える)。
【
図7】本発明の一具体例による鋼鈑1の走査型電子顕微鏡像。
【
図8】(a)フェライトマトリクス内の1つの析出物のTEM明視野像。(b)
図8(a)の暗視野像。(c)Nb(C,N)析出物の制限視野回折パターン。(d)Nb(C,N)析出物の暗視野像。(e)析出物のEDSスペクトル。(f)析出物の組成。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の様々な具体例により、以下のステップを含む二相鋼板を製造する方法が提供される。すなわち、この方法は、
化学組成が、重量%で、C:0.03~0.12、Mn:0.8~1.5、Si:0.1未満、Cr:0.3~0.7、S:最大0.008、P:最大0.025、Al:0.01~0.1、N:最大0.007、Nb:0.005~0.035、V:最大0.06の溶融鋼を製造するステップ、
溶融鋼をスラブに連続鋳造するステップ、
仕上圧延温度(FRT)840±30℃でスラブを熱延鋼板に熱間圧延するステップ、
熱延鋼板を冷却速度40~70℃/sで中間温度(TINT)720≦TINT≦650に達するまでランアウトテーブル上で冷却するステップ、
熱延鋼板を5~7秒間自然冷却するスッテプ、および
熱延鋼板を40~70℃/sの冷却速度で400℃未満の巻取り温度まで急冷して残留する炭素富化オーステナイトをマルテンサイトに変態させるステップを含む。
【0015】
本発明の他の具体例によれば、重量%で、C:0.03~0.12、Mn:0.8~1.5、Si:0.1未満、Cr:0.3~0.7、S:最大0.008、P:最大0.025、Al:0.01~0.1、N:最大0.007、Nb:0.005~0.035、V:最大0.06の化学組成を有する二相鋼板が提供される。
【0016】
図1に二相鋼板を製造する方法100を示す。ステップ104では溶融鋼を製造する。溶融鋼の組成は、重量%で、C:0.03~0.12、Mn:0.8~1.5、Si:0.1未満、Cr:0.3~0.7、S:最大0.008、P:最大0.025、Al:0.01~0.1、N:最大0.007、Nb:0.005~0.035、V:最大0.06である。
【0017】
各合金元素の添加および各元素の制限は、目標のミクロ組織および特性を達成するために不可欠である。
【0018】
C:0.03~0.12%
炭素は、最も効果的かつ経済的な強化元素の1つである。炭素は、NbまたはVと結合して、炭化物または炭窒化物を形成し、これにより析出強化が起こる。これは、鋼中に0.03%以上のCを必要とする。しかし、良好な溶接性を得るためには、炭素含有量を0.12%未満に制限しなければならない。
【0019】
Mn:0.8~1.5%:
マンガンは、フェライトを固溶強化するだけでなく、オーステナイトからフェライトへの変態温度を低下させ、それによってフェライト粒径を微細化する。しかし、Mn含有量は1.5%超にすることはできない。このような高含有量では連続鋳造時に中心偏析の発生を高める。
【0020】
Si<0.1重量%
ケイ素は、Mnのように非常に効果的な固溶強化元素である。しかし、Siは、熱間圧延における表面スケールの問題を招く。表面スケールの形成を防止するために0.1%未満に制限すべきである。
【0021】
Nb:最大0.035%
ニオブは、微量添加であっても結晶粒微細化のための最も強力な微量元素である。ニオブは、固溶体中ではオーステナイトからフェライトへの変態温度を低下させ、フェライト粒径を微細化するだけでなく、ベイナイトのような低温変態生成物の生成を促進する。しかし、Nbの有効性を保証するために、変態温度に達する前にNbを析出させてはならない。圧延が開始される前に全Nb成分が固溶体に残ることを確実にするために、そして単独で添加されるために、最大Nb含有量は0.035%に制限する。
【0022】
V: 最大0.06%
バナジウムによる微量合金化も、析出強化および結晶粒微細化をもたらす。オーステナイトへのバナジウムの溶解度は、他の微小合金元素のそれよりも大きいため、変態前に固溶体に残る可能性が高い。相変態の間に、バナジウムは相対的な炭素および窒素含有量に応じて、粒界に炭化物および/または窒化物として析出し、析出強化および結晶粒微細化をもたらす。所望の強化を達成するためには、NbまたはVのいずれかを添加することが必要である。両者を添加することもできる。Vのみを添加する場合、最大で0.06重量%が必要である。
【0023】
P: 最大0.025%
リンの含有量が高いと、Pの粒界への偏析による靭性および溶接性の低下を招くため、最大0.025%に制限する必要がある。
【0024】
S:最大0.008%
硫黄含有量は制限しなければならない。そうでなければ、介在物が非常に多くなり成形性を劣化させる。
【0025】
N:<0.007
N含有量が多すぎると、Nb(C、N)の溶解温度が上昇し、Nbの有効性が低下する。窒素含有量を低下させることは、溶接部の熱影響部における時効安定性、靱性および粒界型応力腐食割れに対する耐性にも良い影響を及ぼす。したがって、窒素含有量は0.007未満に保つべきであることが好ましい。
【0026】
Al:0.01~0.1
Alは、溶鋼から望ましくない酸素を除去するために使用する。したがって、鋼は、ある量のAlを含む。その量は0.05重量%まででよい。製鋼における過剰(高)なAlは、鋳造中のノズルの目詰まりの他に、鋳造スラブの熱変形を減少させるために大きな問題である。したがって、Alは0.1重量%に制限する必要がある。
【0027】
ステップ108において、溶融鋼をスラブに連続鋳造する。
特定された組成の溶融鋼を、まず、従来型の連続鋳造機または薄スラブ鋳造機のいずれかにより連続鋳造する。薄スラブ鋳造機で鋳造する際、鋳造スラブの温度が950℃未満の温度に低下することは許されない。薄スラブ温度が950℃を下回ると、Nbの析出が起こるからである。その後の再加熱工程で析出物を完全に固溶させることは困難であり、析出強化に効果がなくなるからである。
【0028】
再加熱
上記に特定した組成のスラブを鋳造した後、そのスラブを1100℃~1200℃の温度で20分~2時間再加熱する。それ以前の加工処理ステップで形成されたNbおよび/またはVの析出物を完全に固溶させることを確実にするために、再加熱温度は1100℃超でなければならない。再加熱温度が1200℃を超えることは、オーステナイトが粗大化し、および/または過剰なスケールによる損失を招くため望ましくない。
【0029】
ステップ112において、スラブを、仕上圧延温度(FRT)840±30℃で熱延鋼鈑に熱間圧延する。
【0030】
熱間圧延は、従来の熱間圧延機で圧延を行う場合、再結晶温度よりも高い温度で行う粗工程と、再結晶温度未満の温度で行う仕上工程とから構成される。鋼鈑を連続処理工程を用いて製造する場合、別個の粗圧延機はなく、圧延スケジュールは、鋳造組織を最初のスタンドで破壊し、再結晶温度未満で仕上げ圧延を行なうように設計される。より具体的には、いずれの設定でも仕上げ圧延はTFRTが840±30℃の温度で行う必要がある。
【0031】
ランアウトテーブル(ROT)での層状冷却
ステップ116で、ランアウトテーブル上で熱間圧延鋼鈑を冷却速度40℃~70℃/sで冷却する。この冷却速度は、中間温度(TINT)720≦TINT≦650を達成するまで維持する。
【0032】
冷却速度は、パーライトの生成を防止するために、40℃/秒よりも大きくすべきである。どのようなパーライトまたは疑似パーライトでも形成されると、引張強度および伸びフランジ性の両方の劣化がもたらされる。冷却速度が大きいと、フェライト開始温度が低下し、フェライト粒径の微細化ももたらされる。また、フェライトの成長も阻害される。冷却速度を高め、圧延スケジュールを制御することによって、2~6μmの所望の結晶粒径を達成できる。所望量のフェライトが形成されないので、冷却速度は70℃/sを超えてはならない。この大きな冷却速度は、中間温度まで続ける。中間温度(TINT)は、650℃≦TINT≦720℃とすべきである。
【0033】
ステップ120では、鋼鈑をRoT上で搬送しながら自然冷却させる。空冷時間は非常に重要で、5~7秒である。鋼鈑の空冷時間が5秒未満だと、十分な量のフェライトが形成されない。他方、鋼鈑の空冷時間が7秒超だと、マルテンサイト量が不十分になる。
【0034】
この時間の間にオーステナイトはフェライトに変態する。しかし、完全に変態するには時間が不十分であるため、オーステナイト全体がフェライトに変態することはない。その結果、自然冷却の終了時に残留しているオーステナイトは炭素富化(リッチ)になっている。フェライトは鋼の平均炭素量を含有できないからである。
【0035】
ステップ120で自然冷却の後、ステップ124において、鋼鈑を、さらに急冷する。これにより、残留していた炭素富化オーステナイトが確実にマルテンサイトに変態する。この期間の冷却速度は、400℃未満の巻取り温度に達するまで40℃~70℃/sである。冷却温度は、100℃程度の低温にできる。
【0036】
固溶元素および微量合金化元素からの強化の寄与は限定されたものである。また、圧延および冷却の制御により可能な結晶粒の微細化の程度は2μmに制限される。これにより、高強度二相鋼が得られる。
【0037】
得られたミクロ組織は、フェライトのマトリクス内にマルテンサイト粒子/相を有するものである。ミクロ組織は均一である。換言すれば、フェライトマトリックス全体に均一にマルテンサイト相が分布している。さらに、ベイナイトまたは疑似パーライト/パーライトおよび粒界セメンタイトが回避されており、高強度二相鋼板は、良好な加工硬化率、低降伏強さおよび連続降伏を達成する。ミクロ組織の各相の寄与を以下に示す。
【0038】
a)フェライト
本発明による熱延鋼板は75~90体積%のフェライトを有する。フェライトは、Mnからの寄与による固溶強化により強化される。適切な加工条件を用いると、結晶粒径は2~5μmに制限される。フェライトの微粒化は、フェライトをホールペッチ(Hall-Petch)の関係によって強化する。また、微細なNb、V(CN)析出物の生成により析出強化される。
【0039】
b)マルテンサイト
ミクロ組織中のマルテンサイトの量は、10~25体積%である。マルテンサイトによる強化は、その構造、炭素含有量および高転位密度によるものである。
【0040】
c)ベイナイト
ミクロ組織中のマルテンサイトの量は5体積%未満である。
【0041】
高強度二相鋼板は、第二相としてのマルテンサイトと結合したフェライトマトリクス中に微細な析出物が存在するため、疲労寿命が向上している。
【0042】
得られた高強度二相鋼板の降伏強さは350~500MPaである。得られた引張強さは、最小で600MPaである。均一伸び、全伸びは最小でそれぞれ16%、22%である。
【0043】
さらに、高強度二相鋼板の加工硬化指数(n)は0.15~0.16である。高強度二相鋼板の降伏強さの引張強さに対する比は0.6~0.8であり、打ち抜き穴の穴拡げ率は約40%である。
【実施例】
【0044】
例示のみを目的として、方法100(鋼鈑1)による(表1に示す)組成を有するスラブをCSPミルにより連続鋳造して、そのスラブを熱間圧延した。鋼鈑の機械的性質を表2、表3および表4に示す。鋼鈑のミクロ組織を
図4、
図5、
図6および
図7に示す。得られた機械的性質およびミクロ組織から、化学成分およびROT冷却パラメータが本開示の要件に適合する場合に目標の特性が達成できることが明らかである。
【0045】
光学顕微鏡(ナイタールおよびレペラによりエッチングした)およびSEMによるミクロ組織を
図4、
図5、
図6および
図7に示す。そのミクロ組織はフェライトとマルテンサイトからなっている。50mmの測定部長さの引張試験サンプルを、ASTM E8規格に準拠して作製した。典型的な引張曲線を
図3に示す。図表から明らかなように、新たに開発された鋼は600MPa以上の引張強さ、16%の均一伸び、22%以上の全伸びを有し、0.15という大きな加工硬化指数、降伏比(引張強さに対する降伏強さ)が0.6~0.8である。鋼は、フェライトマトリクス中に微細な析出物が分散している。これらの析出物の同定は、TEMにおけるエネルギー分散型分光法(EDS)および選択的領域回折(SAD)技術を用いて確認される。
図8a~fに示すように、析出物は主としてNb(C、N)である。また、鋼は3μm未満の非常に微細な平均結晶粒径を有する。
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】