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特許7063812焼結磁石形成用焼結体の製造方法及び焼結磁石形成用焼結体を用いた永久磁石の製造方法
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  • 特許-焼結磁石形成用焼結体の製造方法及び焼結磁石形成用焼結体を用いた永久磁石の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-25
(45)【発行日】2022-05-09
(54)【発明の名称】焼結磁石形成用焼結体の製造方法及び焼結磁石形成用焼結体を用いた永久磁石の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20220426BHJP
   H01F 1/057 20060101ALI20220426BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20220426BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20220426BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20220426BHJP
【FI】
H01F41/02 G
H01F1/057 170
B22F3/00 F
B22F1/00 Y
C22C38/00 303D
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018540311
(86)(22)【出願日】2017-09-22
(86)【国際出願番号】 JP2017034220
(87)【国際公開番号】W WO2018056390
(87)【国際公開日】2018-03-29
【審査請求日】2020-07-06
(31)【優先権主張番号】P 2016185822
(32)【優先日】2016-09-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000992
【氏名又は名称】特許業務法人ネクスト
(72)【発明者】
【氏名】江部 宏史
(72)【発明者】
【氏名】尾関 出光
(72)【発明者】
【氏名】山本 貴士
(72)【発明者】
【氏名】藤川 憲一
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-323509(JP,A)
【文献】特開2016-042531(JP,A)
【文献】特開2015-135856(JP,A)
【文献】特開2013-191615(JP,A)
【文献】特開2011-109004(JP,A)
【文献】特開2015-226337(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 41/02
H01F 1/057
B22F 3/00
B22F 1/00
C22C 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁石粉末を成形することにより得られた成形体を焼成温度まで昇温した後、加圧下で保持することにより焼結する工程と、
前記焼結を行う前に磁場を印加することにより前記磁石粉末を磁場配向する工程と、を有し、
前記焼結する工程では、前記成形体の昇温を開始してから前記成形体の昇温中における所定のタイミングまでは、前記成形体を加圧する加圧値を3MPa未満とするとともに、前記タイミング以降は3MPa以上とし、
加圧値を3MPa以上にする前記タイミングは、前記成形体の温度が300℃~900℃の範囲にあるいずれかのタイミングであることを特徴とする焼結磁石形成用焼結体の製造方法。
【請求項2】
加圧値を3MPa以上にする前記タイミングは、前記成形体に含まれる磁石粉末が融着を開始するタイミングであることを特徴とする請求項に記載の焼結磁石形成用焼結体の製造方法。
【請求項3】
前記タイミング以降は加圧値を3MPa以上とした状態で、最終的に成形体の温度を900℃以上まで上昇させて保持して焼結することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の焼結磁石形成用焼結体の製造方法。
【請求項4】
前記成形体を加圧する加圧値の最大値が30MPa以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項のいずれかに記載の焼結磁石形成用焼結体の製造方法。
【請求項5】
前記焼結する工程では、前記成形体の昇温速度は20℃/min以上であることを特徴とする請求項1乃至請求項のいずれかに記載の焼結磁石形成用焼結体の製造方法。
【請求項6】
記焼結する工程では、磁石粉末の配向方向と垂直方向に前記成形体を加圧することを特徴とする請求項1乃至請求項のいずれかに記載の焼結磁石形成用焼結体の製造方法。
【請求項7】
前記成形体は、磁石粉末とバインダーとを含む混合物からなるグリーン体を脱バインダー処理することによって得られることを特徴とする請求項1乃至請求項のいずれかに記載の焼結磁石形成用焼結体の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至請求項のいずれかの焼結磁石形成用焼結体の製造方法によって製造された焼結磁石形成用焼結体を着磁する工程を有する永久磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結磁石形成用焼結体の製造方法及び焼結磁石形成用焼結体を用いた永久磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイブリッドカーやハードディスクドライブ等に使用される永久磁石モータでは、小型軽量化、高出力化、高効率化が要求されている。そこで、上記永久磁石モータの小型軽量化、高出力化、高効率化を実現するに当たって、モータに埋設される永久磁石について、薄膜化と更なる磁気特性の向上が求められている。
【0003】
ここで、永久磁石モータに用いられる永久磁石である焼結磁石の製造方法としては、従来より粉末焼結法が一般的に用いられる。ここで、粉末焼結法は、先ず原材料をジェットミル(乾式粉砕)等により粉砕した磁石粉末を製造する。その後、その磁石粉末を型に入れて、所望の形状にプレス成形する。そして、所望形状に成形された磁石粉末の成形体を真空雰囲気で所定の焼成温度(例えばNd-Fe-B系磁石では1100℃)で焼結することにより焼結体を製造する。しかしながら、成形体を真空雰囲気で焼結を行うと焼結型への追従性が低く、焼結後の焼結体の形状が製造者側の意図する形状と大きく異なる形状となる問題があった。その結果、焼結後に焼結体を製品形状へと更に加工する必要が生じ、歩留まりも低下していた。そこで、例えば特開平10-163055号公報には、成形体を焼結する場合において、成形体を0.25ton/cm(約25MPa)に加圧した状態で焼結する加圧焼結(例えば放電プラズマ焼結)を行うことについて開示されている。加圧焼結を行うことによって、上記焼結型への追従性を向上させることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-163055号公報(第3頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記加圧焼結を行う場合において、例えば特許文献1に記載されたような高い圧力(例えば25MPa)で加圧を行うと、焼結工程において成形体に割れが生じる問題があった。その結果、焼結後の焼結体を用いて製造された永久磁石の強度が低下し、磁石特性についても低下する虞があった。その一方で、低圧で加圧を行うと焼結型への追従性を十分に向上させることができない問題がある。
【0006】
本発明は前記従来における問題点を解消するためになされたものであり、磁石粉末の成形体を焼結する工程において、加圧した状態で焼結することによって焼結型への追従性を向上させるとともに、成形体に割れが生じることについても防止した焼結磁石形成用焼結体の製造方法及び永久磁石の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため本願の請求項1に係る焼結磁石形成用焼結体の製造方法は、磁石粉末を成形することにより得られた成形体を焼成温度まで昇温した後、加圧下で保持することにより焼結する工程と、前記焼結を行う前に磁場を印加することにより前記磁石粉末を磁場配向する工程と、を有し、前記焼結する工程では、前記成形体の昇温を開始してから前記成形体の昇温中における所定のタイミングまでは、前記成形体を加圧する加圧値を3MPa未満とするとともに、前記タイミング以降は3MPa以上とし、加圧値を3MPa以上にする前記タイミングは、前記成形体の温度が300℃~900℃の範囲にあるいずれかのタイミングであることを特徴とする。
尚、「3MPa未満」には0(無加圧)についても含む。
【0009】
また、請求項に係る焼結磁石形成用焼結体の製造方法は、請求項1に記載の焼結磁石形成用焼結体の製造方法であって、加圧値を3MPa以上にする前記タイミングは、前記成形体に含まれる磁石粉末が融着を開始するタイミングであることを特徴とする。
【0010】
また、請求項に係る焼結磁石形成用焼結体の製造方法は、請求項1又は請求項2に記載の焼結磁石形成用焼結体の製造方法であって、前記タイミング以降は加圧値を3MPa以上とした状態で、最終的に成形体の温度を900℃以上まで上昇させて保持して焼結することを特徴とする。
【0011】
また、請求項に係る焼結磁石形成用焼結体の製造方法は、請求項1乃至請求項のいずれかに記載の焼結磁石形成用焼結体の製造方法であって、前記成形体を加圧する加圧値の最大値が30MPa以下であることを特徴とする。
【0012】
また、請求項に係る焼結磁石形成用焼結体の製造方法は、請求項1乃至請求項のいずれかに記載の焼結磁石形成用焼結体の製造方法であって、前記焼結する工程では、前記成形体の昇温速度は20℃/min以上であることを特徴とする。
【0013】
また、請求項に係る焼結磁石形成用焼結体の製造方法は、請求項1乃至請求項のいずれかに記載の焼結磁石形成用焼結体の製造方法であって、前記焼結する工程では、磁石粉末の配向方向と垂直方向に前記成形体を加圧することを特徴とする。
【0014】
また、請求項に係る焼結磁石形成用焼結体の製造方法は、請求項1乃至請求項のいずれかに記載の焼結磁石形成用焼結体の製造方法であって、前記成形体は、磁石粉末とバインダーとを含む混合物からなるグリーン体を脱バインダ処理することによって得られることを特徴とする。
【0015】
更に、請求項に係る永久磁石の製造方法は、請求項1乃至請求項のいずれかの焼結磁石形成用焼結体の製造方法によって製造された焼結磁石形成用焼結体を着磁する工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
前記構成を有する請求項1に記載の焼結磁石形成用焼結体の製造方法によれば、磁石粉末の成形体を焼結する工程において、加圧した状態で焼結することによって焼結型への追従性を向上させるとともに、成形体に割れが生じることについても防止することが可能となる。その結果、歩留まりを低下させることなく、着磁後は磁石特性についても優れた永久磁石を低コストで提供することが可能となる。
【0017】
また、焼結工程において加圧値を3MPa以上にするタイミングを、成形体の温度が300℃~900℃の範囲のいずれかとするので、適切なタイミングで加圧値を上昇させることにより、焼結型への追従性を向上させるとともに、成形体に割れが生じることについても防止することが可能となる。
【0018】
また、請求項に記載の焼結磁石形成用焼結体の製造方法によれば、焼結工程において加圧値を3MPa以上にするタイミングを、成形体に含まれる磁石粉末が融着を開始するタイミングとするので、適切なタイミングで加圧値を上昇させることにより、焼結型への追従性を向上させるとともに、成形体に割れが生じることについても防止することが可能となる。
【0019】
また、請求項に記載の焼結磁石形成用焼結体の製造方法によれば、加圧値を3MPa以上とした状態で、成形体の温度を900℃以上に保持して焼結するので、焼結後の成形体(以下、焼結体という)の密度が向上し、焼結体の着磁後の磁気特性や焼結体の強度を上昇させることができる。
【0020】
また、請求項に記載の焼結磁石形成用焼結体の製造方法によれば、焼結工程において成形体を加圧する加圧値の最大値を30MPa以下とするので、焼結型への追従性を向上させるとともに、成形体に割れが生じることについても防止することが可能となる。
【0021】
また、請求項に記載の焼結磁石形成用焼結体の製造方法によれば、焼結工程において昇温速度を20℃/min以上とするので、成形体の焼結を適切に行いつつ加圧による焼結型への追従性の向上についても実現することが可能となる。
【0022】
また、請求項に記載の焼結磁石形成用焼結体の製造方法によれば、焼結工程において磁石粉末の配向方向と垂直方向に加圧するので、成形体への加圧によって配向後の磁石粒子のC軸(磁化容易軸)方向が変化することが無い。従って、配向度を低下させる虞が無く、磁気特性の低下についても防止することが可能となる。
【0023】
また、請求項に記載の焼結磁石形成用焼結体の製造方法によれば、成形体が磁石粉末とバインダーとを含む混合物からなるグリーン体であったとしても、成形体を加圧した状態で焼結することによって焼結型への追従性を向上させるとともに、成形体に割れが生じることについても防止することが可能となる。
【0024】
更に、請求項に記載の永久磁石の製造方法によれば、磁石粉末の成形体を焼結する工程において、加圧した状態で焼結することによって焼結型への追従性を向上させるとともに、成形体に割れが生じることについても防止することが可能となる。その結果、歩留まりを低下させることなく、磁石特性についても優れた永久磁石を低コストで提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明に係る永久磁石を示した全体図である。
図2】本発明に係る焼結磁石形成用焼結体の製造工程及び焼結磁石形成用焼結体を用いた永久磁石の製造工程を示した説明図である。
図3】本発明に係る焼結磁石形成用焼結体の製造工程の内、特に加圧焼結工程の昇温態様及び加圧値の変位態様について説明した図である。
図4】実施例と比較例の各成形体の形状を示した図である。
図5】加圧用のパンチの変位率(焼結時の加圧方向への収縮率)を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る焼結磁石形成用焼結体の製造方法及び焼結磁石形成用焼結体を用いた永久磁石の製造方法について具体化した一実施形態について以下に図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0027】
[永久磁石の構成]
先ず、本発明に係る焼結磁石形成用焼結体を用いて製造される永久磁石1の構成の一例について説明する。図1は永久磁石1を示した全体図である。
【0028】
永久磁石1は、好ましくは、Nd-Fe-B系磁石等の希土類系の異方性磁石である。尚、C軸(磁化容易軸)の配向方向については永久磁石1の形状や用途に応じて適宜設定可能である。例えば、図1に示す蒲鉾型形状の磁石では、一例として平面方向から曲面方向へとパラレル方向に配向する。尚、永久磁石1は必ずしも異方性磁石である必要はなく、等方性磁石としても良い。
尚、各成分の含有量は例えば、重量百分率でR(RはYを含む希土類元素のうちの1種又は2種以上):27.0~40.0wt%(好ましくは、28.0~35.0wt%、より好ましくは28.0~33.0wt%)、B:0.6~2wt%(好ましくは0.6~1.2wt%、更に好ましくは0.6~1.1wt%)、Fe(好ましくは電解鉄):残部とする。また、磁気特性向上の為、Co、Cu、Al、Si、Ga、Nb、V、Pr、Mo、Zr、Ta、Ti、W、Ag、Bi、Zn、Mg等の他元素や不可避不純物を少量含んでも良い。図1は本実施形態に係る永久磁石1を示した全体図である。
【0029】
ここで、永久磁石1は例えば蒲鉾型形状等の各種形状を有する永久磁石である。尚、図1に示す永久磁石1は蒲鉾型形状を備えるが、永久磁石1の形状は用途に応じて任意に変更することが可能となる。例えば直方体形状、台形形状、扇型形状とすることが可能である。そして、永久磁石1は後述のように圧粉成形により成形された磁石粉末の成形体を焼結することや、磁石粉末とバインダーとが混合された混合物(スラリー又はコンパウンド)を成形した成形体を焼結することによって作製される。
【0030】
[永久磁石の製造方法]
次に、本発明に係る焼結磁石形成用焼結体の製造方法及び焼結磁石形成用焼結体を用いた永久磁石1の製造方法の一実施形態について図2を用いて説明する。図2は本実施形態に係る焼結磁石形成用焼結体の製造工程及び焼結磁石形成用焼結体を用いた永久磁石1の製造工程を示した説明図である。
【0031】
先ず、ストリップキャスティング法により所定分率のNd-Fe-B(例えばNd:23.0wt%、Fe(電解鉄):残部、B:1.00wt%、Pr:6.75wt%、Cu:0.10wt%、Ga:0.10wt%、Nb:0.20wt%、Co:2.00wt%、Al:微妙))からなる、インゴットを製造する。その後、インゴットをスタンプミルやクラッシャー等によって200μm程度の大きさに粗粉砕する。若しくは、インゴットを溶解し、ストリップキャスト法でフレークを作製し、フレークに水素を吸蔵させることで粗粉化を行う水素解砕法で粗粉化する。それによって、粗粉砕磁石粉末10を得る。粗粉化は、水素解砕法で粗粉化することが好ましく、水素吸蔵時の最高温度は600℃以下が好ましく、550℃以下であることがより好ましい。水素解砕法で粗粉化することで希土類リッチ相の分散性が高まり、磁気特性が向上する傾向がある。また、水素吸蔵時の最高到達温度を600℃以下、より好ましくは550℃以下とすることで、磁石合金(フレーク)の水素分解を抑制することが可能である。水素分解が生じた場合、磁石粉末の粒子径が著しく小さくなってしまい、本願発明の加圧焼結を行った時に異常な粒子成長が促進されてしまい、磁気特性が低下してしまう虞がある。
【0032】
次いで、粗粉砕磁石粉末10をビーズミル11による湿式法又はジェットミルを用いた乾式法等によって微粉砕する。例えば、ビーズミル11による湿式法を用いた微粉砕では溶媒中で粗粉砕磁石粉末10を所定範囲の粒径(例えば0.1μm~5.0μm)に微粉砕するとともに溶媒中に磁石粉末を分散させる。その後、湿式粉砕後の溶媒に含まれる磁石粉末を真空乾燥などで乾燥させ、乾燥した磁石粉末を取り出す。また、粉砕に用いる溶媒の種類に特に制限はなく、イソプロピルアルコール、エタノール、メタノールなどのアルコール類、酢酸エチル等のエステル類、ペンタン、ヘキサンなどの低級炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレンなど芳香族類、ケトン類、それらの混合物等が使用できる。尚、好ましくは、溶媒中に酸素原子を含まない溶媒が用いられる。微粉砕された磁粉の中心粒子径(D50)は、1μm~10μmの範囲が好ましく、1μm~5μmの範囲がより好ましい。上記範囲である微粉砕された磁粉を用いることで昇温途中に適切に磁粉同士の融着が生じ、加圧焼結による焼結体の割れを防止することが可能である。
【0033】
一方、ジェットミルによる乾式法を用いた微粉砕では、粗粉砕した磁石粉末を、(a)酸素含有量が実質的に0%の窒素ガス、Arガス、Heガスなど不活性ガスからなる雰囲気中、又は(b)酸素含有量が0.0001~0.5%の窒素ガス、Arガス、Heガスなど不活性ガスからなる雰囲気中で、ジェットミルにより微粉砕し、所定範囲の粒径(例えば0.7μm~5.0μm)の平均粒径を有する微粉末とする。尚、酸素濃度が実質的に0%とは、酸素濃度が完全に0%である場合に限定されず、微粉の表面にごく僅かに酸化被膜を形成する程度の量の酸素を含有しても良いことを意味する。微粉砕された磁粉の中心粒子径(D50)は、1μm~10μmの範囲が好ましく、1μm~5μmの範囲がより好ましい。上記範囲である微粉砕された磁粉を用いることで昇温途中に適切に磁粉同士の融着が生じ、加圧焼結による焼結体の割れを防止することが可能である。
【0034】
次に、ビーズミル11等で微粉砕された磁石粉末を所望形状に成型する。尚、磁石粉末の成形には、例えば金型を用いて所望の形状へと成形する圧粉成形や、磁石粉末とバインダーとを混合した混合物を所望の形状へと成形するグリーン体成形がある。更に、圧粉成形には、乾燥した微粉末をキャビティに充填する乾式法と、磁石粉末を含むスラリーを乾燥させずにキャビティに充填する湿式法がある。一方、グリーン体成形は、磁石粉末とバインダーとが混合したコンパウンドを加熱溶融した状態で成形するホットメルト成形や、磁石粉末とバインダーと有機溶媒とを含むスラリーを成形するスラリー成形が有る。また、グリーン体成形では、混合物を一旦製品形状以外に成形した状態で磁場を印加して磁場配向を行い、その後に打ち抜き加工、切削加工、変形加工等を行うことによって製品形状(例えば図1に示す蒲鉾型形状)としても良いし、直接製品形状へと成形しても良い。
【0035】
以下では、特にホットメルト成形の一例について説明する。
先ず、ビーズミル11等で微粉砕された磁石粉末にバインダーを混合することにより、磁石粉末とバインダーからなる粘土状の混合物(コンパウンド)12を作製する。
【0036】
磁石粉末に混合されるバインダーは、樹脂や長鎖炭化水素や脂肪酸メチルエステルやそれらの混合物等が用いられる。例えばイソブチレンの重合体であるポリイソブチレン(PIB)、イソプレンの重合体であるポリイソプレン(イソプレンゴム、IR)、1,3-ブタジエンの重合体であるポリブタジエン(ブタジエンゴム、BR)、スチレンの重合体であるポリスチレン、スチレンとイソプレンの共重合体であるスチレン-イソプレンブロック共重合体(SIS)、イソブチレンとイソプレンの共重合体であるブチルゴム(IIR)、スチレンとブタジエンの共重合体であるスチレン-ブタジエンブロック共重合体(SBS)、2-メチル-1-ペンテンの重合体である2-メチル-1-ペンテン重合樹脂、2-メチル-1-ブテンの重合体である2-メチル-1-ブテン重合樹脂、α-メチルスチレンの重合体であるα-メチルスチレン重合樹脂等がある。尚、α-メチルスチレン重合樹脂は柔軟性を与えるために低分子量のポリイソブチレンを添加することが望ましい。また、バインダーに用いる樹脂としては、酸素原子を含むモノマーの重合体又は共重合体(例えば、ポリブチルメタクリレートやポリメチルメタクリレート等)を少量含む構成としても良い。
【0037】
更に、バインダーに樹脂を用いる場合には、構造中に酸素原子を含まず、且つ解重合性のあるポリマーを用いるのが好ましい。また、成形された成形体を加熱して軟化した状態で磁場配向を行う為に、熱可塑性樹脂が用いられる。磁場配向を適切に行う為に250℃以下で軟化する熱可塑性樹脂、より具体的にはガラス転移点又は流動開始温度が250℃以下の熱可塑性樹脂を用いることが望ましい
【0038】
一方、バインダーに長鎖炭化水素を用いる場合には、室温で固体、室温以上で液体である長鎖飽和炭化水素(長鎖アルカン)を用いるのが好ましい。具体的には炭素数が18以上である長鎖飽和炭化水素を用いるのが好ましい。そして、後述のように成形体を磁場配向する際には、成形体を長鎖炭化水素のガラス転移点又は流動開始温度以上で加熱して軟化した状態で磁場配向を行う。
【0039】
また、バインダーに脂肪酸メチルエステルを用いる場合においても同様に、室温で固体、室温以上で液体であるステアリン酸メチルやドコサン酸メチル等を用いるのが好ましい。そして、後述のように成形体を磁場配向する際には、成形体を脂肪酸メチルエステルの流動開始温度以上で加熱して軟化した状態で磁場配向を行う。
【0040】
磁石粉末に混合されるバインダーとして上記条件を満たすバインダーを用いることによって、磁石内に含有する炭素量及び酸素量を低減させることが可能となる。具体的には、焼結後に磁石に残存する炭素量を2000ppm以下、より好ましくは1500ppm以下、更に好ましくは1000ppm以下とする。また、焼結後に磁石に残存する酸素量を5000ppm以下、より好ましくは3500ppm以下、更に好ましくは2000ppm以下とする。
【0041】
また、バインダーの添加量は、スラリーや加熱溶融したコンパウンドをシート状に成形する際にシートの厚み精度を向上させる為に、磁石粒子間の空隙を適切に充填する量とする。例えば、磁石粉末とバインダーの合計量に対するバインダーの比率が、1wt%~40wt%、より好ましくは2wt%~30wt%、更に好ましくは5wt%~20wt%、特に好ましくは7wt%~15wt%とする。
【0042】
また、上記コンパウンド12には後述の磁場配向時において配向度を向上させる為に、配向潤滑剤を添加する構成としても良い。特に、グリーン体成形を用いる場合には、粒子表面にバインダーが存在するため、配向時の摩擦力が上がり、粒子の配向性が低下する為、配向潤滑剤を添加する効果がより大きくなる。
【0043】
続いて、コンパウンド12から成形体13を成形する。特に、ホットメルト成形では、コンパウンド12を加熱することによりコンパウンド12を溶融し、流体状にしてから所望の形状とする。その後、放熱して凝固させることにより、成形体13を形成する。尚、コンパウンド12を加熱溶融する際の温度は、用いるバインダーの種類や量によって異なるが50~300℃とする。但し、用いるバインダーの流動開始温度よりも高い温度とする必要がある。
【0044】
例えばコンパウンド12をシート形状の成形体13に成形する場合には、コンパウンド12を加熱することによりコンパウンド12を溶融し、流体状にしてからセパレータ等の支持基材上に塗工する。その後、放熱して凝固させることにより、支持基材上に長尺シート状の成形体13を形成する。また、支持基材上に塗工するのではなく、押出成型や射出成形によって溶融したコンパウンド12をシート状に成型するとともに支持基材上に押し出すことによって、支持基材上に長尺シート状の成形体13を形成する。
【0045】
次に、成形された成形体13に対して磁場配向を行う。具体的には、先ず成形体13を加熱することにより成形体13を軟化させる。具体的には、成形体13の粘度が1~1500Pa・s、より好ましくは1~500Pa・sとなるまで軟化させる。それによって、磁場配向を適切に行わせることが可能となる。
【0046】
尚、成形体13を加熱する際の温度及び時間は、用いるバインダーの種類や量によって異なるが、例えば100~250℃で0.1~60分とする。但し、成形体13を軟化させる為に、用いるバインダーのガラス転移点又は流動開始温度以上の温度とする必要がある。また、成形体13を加熱する加熱方式としては、例えばホットプレートによる加熱方式や熱媒体(シリコーンオイル)を熱源に用いた加熱方式が有る。次に、加熱により軟化した成形体13に対して磁場発生源14を用いて磁場を印加することにより磁場配向を行う。印加する磁場の強さは5000[Oe]~150000[Oe]、好ましくは、10000[Oe]~120000[Oe]とする。磁場発生源としては、例えばソレノイドを用いる。
【0047】
その結果、成形体13に含まれる磁石結晶のC軸(磁化容易軸)が一方向に配向される。尚、磁場を印加する方向は製品形状や製品の用途によって決定される。また、配向方向はパラレル(平行)方向としても良いし、ラジアル方向としても良い。また、磁場配向工程については行わない構成としても良い。
【0048】
更に、成形体13に磁場を印加する際には、加熱工程と同時に磁場を印加する工程を行う構成としても良いし、加熱工程を行った後であって成形体13が凝固する前に磁場を印加する工程を行うこととしても良い。また、ホットメルト成形により成形された成形体13が凝固する前に磁場配向する構成としても良い。その場合には、加熱工程は不要となる。また、配向処理を行った後に、成形体13に対して減衰する交流磁場を印加することで、脱磁処理するのが望ましい。
【0049】
また、成形体13の磁場配向を行った後に、成形体13に荷重をかけて変形させることによって、最終的な製品形状へと成形しても良い。尚、上記変形によって、最終的な製品で要求される磁化容易軸の方向となるように磁化容易軸の方向を変位させることも可能である。それによって、磁化容易軸の方向を操作することが可能となる。
【0050】
その後、成形並びに磁場配向された成形体13を真空雰囲気下にて加熱することにより、脱オイル処理を行う。尚、脱オイル処理については省略しても良い。
【0051】
続いて、脱オイル処理を行った後の成形体13を大気圧、又は大気圧より高い圧力や低い圧力(例えば、1.0Paや1.0MPa)に加圧した非酸化性雰囲気(特に本発明では水素雰囲気又は水素と不活性ガスの混合ガス雰囲気)においてバインダー分解温度で数時間~数十時間(例えば5時間)保持することにより脱バインダ処理を行う。水素雰囲気下で行う場合には、例えば脱バインダ処理中の水素の供給量は5L/minとする。脱バインダ処理を行うことによって、バインダー等の有機化合物を解重合反応等によりモノマーに分解し飛散させて除去することが可能となる。即ち、成形体13中の炭素量を低減させる所謂脱カーボンが行われることとなる。また、脱バインダ処理は、成形体13中の炭素量が2000ppm以下、より好ましくは1500ppm以下、更に好ましくは1000ppm以下とする条件で行うこととする。それによって、その後の焼結処理で成形体13の全体を緻密に焼結させることが可能となり、残留磁束密度や保磁力の低下を抑制する。また、上述した脱バインダ処理を行う際の加圧条件を大気圧より高い圧力で行う場合には、15MPa以下とすることが望ましい。尚、加圧条件は大気圧より高い圧力、より具体的には0.2MPa以上とすれば特に炭素量軽減の効果が期待できる。
【0052】
尚、バインダー分解温度は、バインダー分解生成物および分解残渣の分析結果に基づき決定する。具体的にはバインダーの分解生成物を補集し、モノマー以外の分解生成物が生成せず、かつ残渣の分析においても残留するバインダー成分の副反応による生成物が検出されない温度範囲が選ばれる。バインダーの種類により異なるが200℃~900℃、より好ましくは300℃~600℃、更に好ましくは350℃~550℃(例えば450℃)とする。
【0053】
また、上記脱バインダ処理は、一般的な磁石の焼結を行う場合と比較して、昇温速度を小さくするのが好ましい。具体的には、昇温速度を2℃/min以下(例えば1.5℃/min)とする。従って、脱バインダ処理を行う場合には、2℃/min以下の所定の昇温速度で昇温し、予め設定された設定温度(バインダー分解温度)に到達した後に、該設定温度で数時間~数十時間保持することにより脱バインダ処理を行う。上記のように脱バインダ処理において昇温速度を小さくすることによって、成形体13中の炭素が急激に除去されず、段階的に除去されるので、焼結後の永久磁石の密度を上昇させる(即ち、永久磁石中の空隙を減少させる)ことが可能となる。そして、昇温速度を2℃/min以下とすれば、焼結後の永久磁石の密度を95%以上とすることができ、高い磁石特性が期待できる。
【0054】
また、脱バインダ処理後の成形体15を続いて真空雰囲気で保持することにより脱水素処理を行っても良い。脱水素処理では、仮脱バインダ処理によって生成された成形体15中のNdH(活性度大)を、NdH(活性度大)→NdH(活性度小)へと段階的に変化させることによって、脱バインダ処理により活性化された成形体15の活性度を低下させる。それによって、脱バインダ処理後の成形体15をその後に大気中へと移動させた場合であっても、Ndが酸素と結び付くことを防止し、残留磁束密度や保磁力の低下を抑制する。また、磁石結晶の構造をNdH等からNdFe14B構造へと戻す効果も期待できる。
【0055】
続いて、脱バインダ処理後の成形体15を焼結する焼結処理を行う。尚、成形体15の焼結方法としては、一軸方向に加圧した状態で焼結する一軸加圧焼結、2軸方向に加圧した状態で焼結する2軸加圧焼結、等方に加圧した状態で焼結する等方加圧焼結等がある。例えば、本実施形態では一軸加圧焼結を用いる。また、加圧焼結としては、例えば、ホットプレス焼結、熱間静水圧加圧(HIP)焼結、超高圧合成焼結、ガス加圧焼結、放電プラズマ(SPS)焼結等がある。但し、一軸方向に加圧可能な熱源が焼結炉内に設置された内熱式焼結装置により焼結することが好ましい。
【0056】
また、上記加圧焼結をする際の加圧方向は、磁場を印加した方向に対して垂直方向とすることが好ましい(但し、磁場配向工程を行った場合のみ)。即ち、磁場配向処理によって配向された磁石粒子のC軸(磁化容易軸)方向に対して垂直方向(例えば、C軸が一平面に配向した面に対して直交する方向)に加圧することが好ましい。また、本実施形態では図3に示すように成形体15の昇温中において加圧値をP1(初期値)からP2へと段階的に変更する。具体的には、成形体15の昇温を開始してから成形体15の昇温中における所定のタイミングT(以下、加圧値変更タイミングという)までは、成形体15を加圧する加圧値を3MPa未満とする。一方、加圧値変更タイミングT以降は、成形体15を加圧する加圧値を3MPa以上とする。より具体的には、加圧値変更タイミングT以降は、加圧値を3MPa以上30MPa以下、好ましくは3MPa以上20MPa以下、より好ましくは3MPa以上15MPa以下、更に好ましくは5Mpa以上15MPa以下とする。加圧力が上記圧力よりも高くなった場合、加圧方向に平行となるように磁石粒子の磁化容易軸が成長する虞があり、磁石粒子の配向乱れが生じる可能性がある。尚、加圧値の変更は図3に示すように一段階で行っても良いし、複数段階で行っても良い。また、加圧値変更タイミングTより前では、成形体15を加圧する加圧値P1を0(即ち無加圧)としても良い。
【0057】
また、加圧値変更タイミングTは、成形体15の昇温中において適宜設定することが可能であるが、成形体15の温度が300℃~900℃、好ましくは550℃~900℃、より好ましくは600℃~850℃、更に好ましくは600℃~800℃の範囲にあるいずれかのタイミングとする。成形体15の温度は、成形体15の収められた焼結用型に熱電対を挿入することで測定した。また、焼結時の最高到達温度は900℃以上であることが好ましい。焼結時の最高到達温度を900℃以上とすることで、焼結体の密度が向上し、焼結体の着磁後の磁気特性や焼結体の強度を上げることができる。
【0058】
更に、加圧値変更タイミングTは、成形体15に含まれる磁石粉末が融着を開始するタイミング(融着がわずかに生じたタイミング)であることが望ましい。ここで、「融着開始時」は、例えば以下の方法により特定することが可能である。先ず、事前に室温から4.9Mpaの圧力を印加しながら、20℃/minで昇温を行い、加圧用のパンチの変位率(焼結時の加圧方向への収縮率)を測定する。そして、300℃以上において、加圧方向への収縮率αが0.0%~35.0%、好ましくは0.2%~20.2%、好ましくは1.2%~20.2%、より好ましくは1.4%~10.4%、更に好ましくは1.4%~4.7%となる温度領域を「融着開始時」と判断する。
【0059】
尚、成形体15の焼結は、20℃/min以上、より好ましくは50℃/min以上の昇温速度で焼成温度(例えば940℃)まで昇温を行う。昇温速度を速くすることで生産性を向上させるとともに、焼結体の表面凹凸が少なくなる傾向にある。焼成温度の上限(最高到達温度)は、900℃以上であることが好ましく、950℃以上であることが更に好ましい。その後、焼成温度で所定時間(例えば加圧方向の収縮率がほぼ0となるまで)保持する。その後冷却し、再び300℃~1000℃で2時間熱処理を行う。そして、焼結の結果、本発明に係る焼結磁石形成用焼結体(以下、単に焼結体16という)が製造される。
【0060】
その後、焼結体16に対してC軸に沿って着磁を行う。その結果、永久磁石1を製造することが可能となる。尚、焼結体16の着磁には、例えば着磁コイル、着磁ヨーク、コンデンサー式着磁電源装置等が用いられる。
【実施例
【0061】
以下に、本発明の実施例について比較例と比較しつつ説明する。
【0062】
(実施例1)
<粗粉砕>
ストリップキャスティング法により得られた、以下の表1に示す合金組成Aの合金を、室温にて水素を吸蔵させ、0.85MPaで1日保持した。その後、液化Arで冷却しながら、0.2MPaで1日保持することにより、水素解砕を行った。
【表1】

<微粉砕>
水素粉砕された合金粗粉100重量部に対して、Zrビーズ(2mmφ)1.5kgを混合し、タンク容量0.8Lのボールミル(製品名:アトライタ0.8L、日本コークス工業社製)に投入し、回転数500rpmで2時間粉砕した。粉砕時の粉砕助剤として、ベンゼンを10重量部添加し、また、溶媒として液化Arを用いた。粉砕後の粒子径は約1umであった。
<混練>
粉砕後の合金粒子100重量部に対して、以下の表2に示すバインダー組成aのバインダー及び配向潤滑剤を混合し、ミキサー(装置名:TX-0.5、井上製作所製)により70℃で加熱撹拌を行いながら、トルエンを減圧雰囲気により取り除いた。その後、減圧下で2時間混練を行ない、粘土状のコンパウンドを作製した。
【表2】

<成形>
混練により作製したコンパウンドを図4に示す蒲鉾型の形状に成形した。
<配向>
実施例1では、配向工程を行わなかった。
<脱オイル工程>
グラファイト型に挿入された成形体に対して、真空雰囲気下にて脱オイル処理を行った。排気ポンプは、ロータリーポンプで行い、室温から100℃まで0.9℃/minで昇温し、60h保持した。
<脱バインダ工程>
脱オイル処理を行った成形体に対して、0.8MPaの水素加圧雰囲気下にて、脱バインダ処理を行った。室温から350℃まで8時間で昇温し、2時間保持した。また、水素流量は2~3L/minであった。
<焼結>
脱バインダ処理後に、グラファイト型にグラファイト製のパンチを挿入し、成形体を加熱するとともに、パンチで成形体を加圧することで加圧焼結を行った。加圧方向は、図4に示す成形体の奥行き方向とした。具体的には、焼結は、常温から700℃まで20℃/minで昇温し、その間、初期加圧値として0.5MPaを加えた。700℃となった時点で加圧値を4.9MPaへと上昇し、以降は4.9MPaの加圧を加えながら、950℃まで20℃/minで昇温することで実施した。950℃に焼結温度が達した後は、4.9MPaの圧力を加えながら、加圧方向への収縮率がほぼゼロになるまで、保持した。
<評価>
加圧焼結後の焼結体の表層の酸化層を研削盤(装置名:PSG42SA-iQ、岡本製作所製)により取り除いた後(100~300um)、外観を目視で観察し、割れがない場合を○、ある場合を×とした。また、焼結による収縮の度合いを評価し、加圧方向にのみ大きく収縮し(約50%)、その他の方向にはほとんど収縮していない場合を、焼結型への追従ができているとして、○の評価とした。より具体的には加圧方向への収縮率αが45%以上である結果を○の評価とした。結果を表3に示す。表3に示すように、実施例1のサンプルは、割れは確認されず、焼結型への追従性が良く、○評価であった。また、焼結体表面の凹凸をキーエンス製3D測定マクロスコープ(VR-3200)にて測定を行った。具体的には、焼結体における加圧方向と平行な面の内、最も面積の大きな面における、その最大と最小の高さの差を表面凹凸の値とした。
【表3】
【0063】
(実施例2~10、比較例1~3)
表3に記載した条件に従って基本的に実施例1と同様の操作を行い、各焼結体を得た。実施例1に記載のない工程の詳細を以下に示す。
<ジェットミル粉砕>
ジェットミル粉砕は、次の通り行った。水素粉砕された合金粗粉100重量部に対して、カプロン酸メチル1重量部を混合した後、ヘリウムジェットミル粉砕装置(装置名:PJM-80HE、NPK製)により粉砕を行った。粉砕した合金粒子の捕集は、サイクロン方式により分離回収し、超微粉は除去した。粉砕時の供給速度を1kg/hとし、Heガスの導入圧力は0.6MPa、流量1.3m3/min、酸素濃度1ppm以下、露点-75℃以下であった。粉砕後の粒子径は約1umであった。
<オクテン処理>
ボールミルやジェットミル粉砕のような微粉砕後の合金粒子100重量部に対して、1-オクテンを40重量部添加し、ミキサー(装置名:TX-0.5、井上製作所製)により60℃で1時間加熱撹拌を行った。その後、1-オクテンとその反応物を減圧下で加熱することにより取り除くことで、脱水素処理を行った。その後、混練工程を行った。
<配向>
成型後の複合材料が収められたステンレス鋼(SUS)製の型を、超伝導ソレノイドコイル(装置名:JMTD-12T100、JASTEC製)を用いて、外部から平行磁場を印加することにより、配向処理を行った。この配向は、外部磁場を7Tとし、温度80℃で10分間行った。その後、減衰する交流磁場を印加することで、配向処理のされた成形体を脱磁処理した。尚、配向方向は成形体の形状毎に設定しており、図4に示す。
<評価>
加圧の開始温度を300℃~800℃とすることで、割れが抑制されることが分かった(実施例1~10)。常温から加圧を開始した場合と950℃から加圧を開始した場合には、割れが発生することが分かった(比較例1、2)。
常温から加圧を開始した場合、磁石粉末同士が融着していないため、加圧の圧力に耐えられずに割れが生じるものと考えられる。室温で磁石粉末の成形体を加圧していくと、3MPa程度の圧力で成形体にクラックが入ることを確認しており、室温から加圧をする場合には、3MPa以下の圧力を掛けながら昇温し、熱により磁石粉末同士が融着し、強度が上昇した後に3MPa以上で加圧焼結をすることが好ましいと考えられる。
また、加圧力を2.5MPaに設定した場合には、焼結型への追従ができておらず、加圧力が不足していると考えられる(比較例3)。加圧力は11.8Mpaの高い圧力を掛けても、割れることなく焼結することが可能であった(実施例5~10)。
昇温速度に関しては、5℃/minから50℃/minの範囲において、割れを抑制しながら、焼結型への追従の良い加圧焼結が行えることが分かった(実施例1~10)。ただし、昇温速度は速いほうが焼結体の表面凹凸が少ない傾向にあり、焼結後の研磨などを少なくすることが可能であり、生産性も向上することが可能である(実施例1、5~10)。
また、加圧値を上昇する加圧値変更タイミングTを加圧方向への収縮率であらかじめ判断することも可能である。室温から4.9MPaの圧力を印加しながら、20℃/minで昇温を行い、加圧用のパンチの変位率(焼結時の加圧方向への収縮率)を算出する。その結果を図5に示す。図5に示すように、加圧方向への収縮率が0.2%~20%となる温度領域で3MPa以上の加圧をすることで、割れなく加圧焼結をすることが可能である。
【0064】
また、ジェットミル粉砕時の粉砕速度を変更することにより、磁粉の粒子径を3umとした場合の結果を表4に示す。尚、バインダー組成は、磁粉に対して、1-オクタデシンが1.5重量部、1-オクタデセンが4.5重量部、PIB(B150:BASF社製)を4重量部の構成とする。
【表4】
【0065】
粒子径が変わっても焼結時に加圧を行わなかった比較例4ではすべての方向に収縮が生じるため、焼結型へ追従することはなかった。また、焼結時の最大荷重が2MPaである比較例5では、圧力不足のため焼結型への追従性が悪く、磁石表面の凹凸が510umと非常に悪い結果であった。磁石表面の凹凸が大きいとその分だけ研磨を行う必要があり、歩留まりが大きく低下する。
加圧焼結時の最大圧力を3MPaから26MPaまでの間の各値とし、最大圧力について検討した実施例11~15においては、焼結時の収縮がほぼ加圧方向に平行な方向にのみ生じるため、焼結型への追従性が良く、その結果、磁石表面の凹凸も250um以下に抑制することが可能であった。以上の結果から、加圧力の最大値は3MPa~30MPaの範囲にて行うことが割れ抑制には良いと考えられる。
また、焼結時の最高(最終)温度を850℃から970℃までの間の各値とし、焼結時の最高(最終)温度を検討した実施例16~18においては、焼結時の最高温度を900℃以上にして保持することで焼結体の密度を7.3g/cm以上とすることが可能であることが分かる。焼結体の密度を向上させることで磁気特性が向上し、更に焼結体強度も向上することが期待される。
実施例19、20では加圧力が3MPa以上となる温度を検討したが、いずれの条件でも焼結体の表面凹凸が250um以下とすることが可能であった。ただし、加圧力が3MPa以上となる温度は900℃以下であるほうが焼結体の表面凹凸が小さい傾向にあった。これは、加圧力が3MPa以上となる温度が高すぎると、成形体の収縮が始まった結果、成形体と焼結型の間に空隙が生じ、その後、加圧により押しつぶされたためであると考えられる。
また、実施例21では粒子径を4umに変更した。実施例21では、上記実施例と同様に焼結型への追従性を良くしながら焼結体の割れを抑制することが可能であった。
【0066】
更に表5では、加圧焼結後に焼結体を970℃で9時間熱処理を行い、着磁を行った後の磁気特性の評価結果を示す。尚、角形性(Hk/Hcj)の評価は2度行い、平均値を算出した。尚、角形性(Hk/Hcj)は100%に近い程、より優れた磁気特性を備えていると評価できる。
【表5】
【0067】
表5に示すように昇圧開始温度が高くなるほど角形性が良くなる傾向にあり、割れや焼結型への追従性だけでなく磁気特性の安定性を考えた場合には、600℃以上で昇圧を開始したほうが好ましいと考えられる。
【0068】
以上の結果から、初期荷重を3MPa以下とし、加圧値を上昇させる加圧値変更タイミングTを成形体の温度が300℃以上から900℃以下の範囲で行い、更に加圧値変更タイミングT以降の加圧値を3MPa以上とすることで、加圧による割れを抑制しながら、焼結型への追従性を向上させることが可能となることが分かった。
【0069】
尚、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることは勿論である。
例えば、磁石粉末の粉砕条件、混練条件、磁場配向工程、脱バインダ条件、焼結条件などは上記実施例に記載した条件に限られるものではない。例えば、上記実施例ではビーズミルを用いた湿式粉砕により磁石原料を粉砕しているが、ジェットミルによる乾式粉砕により粉砕することとしても良い。また、脱バインダ処理を行う際の雰囲気は非酸化性雰囲気であれば水素雰囲気以外(例えば窒素雰囲気、He雰囲気等、Ar雰囲気等)で行っても良い。また、上記実施例では、一軸方向に加圧可能な熱源が焼結炉内に設置された内熱式焼結装置により磁石を焼結しているが、他の加圧焼結方法(例えばSPS焼結等)を用いて磁石を焼結しても良い。また、脱バインダ処理を省略しても良い。その場合には、焼結処理の過程で脱バインダが行われることとなる。
【0070】
また、上記実施例では、バインダーとして樹脂や長鎖炭化水素や脂肪酸メチルエステルを用いることとしているが、他の材料を用いても良い。
【0071】
また、本実施の形態ではNd-Fe-B系磁石を例に挙げて説明したが、他の磁石(例えばコバルト磁石、アルニコ磁石、フェライト磁石等)を用いても良い。また、磁石の合金組成は本発明ではNd成分を量論組成より多くしているが、量論組成としても良い。
【0072】
更に、本実施の形態では、バインダーと磁石粉末を混練したコンパウンドを成形したグリーン体を脱バインダ処理した成形体を加圧焼結する方法について説明したが、本発明はこれには限られない。例えば、バインダーを用いずに、主として磁粉のみで圧粉成形した成形体を加圧焼結する場合も本発明の範囲に含まれる。
【0073】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0074】
1 永久磁石
11 ジェットミル
12 コンパウンド
13 成形体(脱バインダ前)
14 磁場発生源
15 成形体(脱バインダ後)
16 焼結体(焼結磁石形成用焼結体)
21 焼結型
22 真空チャンバー
23 上部パンチ
24 下部パンチ
25 上部パンチ電極
26 下部パンチ電極
図1
図2
図3
図4
図5