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特許7063813術後認知機能障害の処置のための方法及び医薬組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-25
(45)【発行日】2022-05-09
(54)【発明の名称】術後認知機能障害の処置のための方法及び医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/10 20060101AFI20220426BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20220426BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20220426BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220426BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220426BHJP
【FI】
A61K38/10
A61K38/16
A61P25/28
A61P43/00 121
A61K45/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018542732
(86)(22)【出願日】2017-02-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-03-28
(86)【国際出願番号】 EP2017053308
(87)【国際公開番号】W WO2017140684
(87)【国際公開日】2017-08-24
【審査請求日】2019-12-05
(31)【優先権主張番号】16305170.9
(32)【優先日】2016-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591100596
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
(73)【特許権者】
【識別番号】510139564
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ ポール サバティエ トゥールーズ トロワ
(73)【特許権者】
【識別番号】515034781
【氏名又は名称】サントル・オスピタリエ・ユニヴェルシテール・ドゥ・トゥールーズ
【氏名又は名称原語表記】CENTRE HOSPITALIER UNIVERSITAIRE DE TOULOUSE
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】バレ,フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】ドレイ,セドリック
(72)【発明者】
【氏名】ミンヴィル,ヴァンサン
(72)【発明者】
【氏名】フランシス,ベルナール
(72)【発明者】
【氏名】ラバスト,フランソワ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィネル,クレール
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】Peptides, (2013), 39, p.171-174
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00-45/08
A61K 38/00-38/44
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
APJレセプターアゴニストであるアペリンペプチドを含む、術後認知機能障害(POCD)を処置するための医薬組成物であって、POCDは、手術後に経験する認知機能の障害を指し、該手術は、疾患、傷害又は変形の治療又は予防のためのものである、医薬組成物。
【請求項2】
術後認知機能障害のリスクにあると判定されている対象に投与される、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
認知機能に障害があると診断されている又は認知機能に障害を有することが示されている対象に投与される、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項4】
APJレセプターアゴニストであるアペリンペプチドが、手術に際して(すなわち、手術の前、術中及び/又は後)並びに退院後に、投与される、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項5】
術後認知機能障害が、腹部手術(例えば、腹部の内臓の手術)、ベンチサージェリー(例えば、その後に臓器が再移植されうる、身体から取り出された臓器に行われる手術)、心臓(例えば、心臓の手術)、脳(例えば、脳の手術)、動形成切断(例えば、義肢を動作させるのに筋肉を使用することを可能にするために、切断された四肢の断端に隣接する筋肉を通してトンネルを形成するための手術)、美容(例えば、傷の成形修復、矯正又は除去により対象の外観を改善するための手術)、歯牙顔面(例えば、顔の欠陥及び口の構造に関連する手術)、神経(例えば、末梢又は中枢神経系に関連する手術)、口腔(例えば、口、顎及び関連する構造の欠陥に関連する手術)、整形外科(例えば、骨及び骨構造(例えば人工股関節置換)を取り扱う手術)、骨盤(例えば、骨盤(主に産婦人科)に関連する手術)、形成(例えば、傷害、疾患、又は成長及び発達により欠損、損傷又は奇形している身体構造の形及び外観の修復、再建、修正又は改善に関連する手術)、又は直腸(例えば、直腸の手術)、泌尿器(例えば、尿生殖器系(主に男性における)に関連する手術)、血管(例えば、血管の手術)、又は耳鼻咽喉科に関連する手術(例えば、耳、鼻、喉又は関連する構造の手術)を含む手術後に経験する認知機能障害である、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項6】
APJレセプターアゴニストであるアペリンペプチドが、麻酔剤と同時又は順次に対象に投与される、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項7】
麻酔剤が、ジエチルエーテル、メトキシプロパン、ビニルエーテル、ハロゲン化エーテル、例えば、デスフルラン、エンフルラン、ハロタン、イソフルラン、メトキシフルラン;ハロアルカン、例えば、クロロホルム、ハロタン、トリクロロエチレン、シクロプロパン、エチレン、亜酸化窒素、セボフルラン、キセノン、重水素化イソフルラン、ヘキサフルオロ-t-ブチル-ジフルオロメチルエーテル、及びメトキシフルランの重水素化アナログ、重水素化セボフルランからなる群より選択される、請求項6記載の医薬組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、術後認知機能障害の処置のための方法及び医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
術後認知機能障害(POCD)は、手術後における認知能力の持続的な低下により特徴付けられ、高齢患者の死亡率の増加と関連している。60歳超の患者における推定発生率は、15~25%であり、約10%が、手術後3ヶ月で症候を示す。POCDのリスク因子は、加齢、術前認知機能障害及び手術期の感染を含む。現在、十分な処置は存在しない。矛盾のない証拠が、手術外傷及びその後の合併症に起因して生じる炎症プロセスの役割について蓄積されている。海馬は、炎症に特に感受性なようである。周辺の感染及び加齢は、海馬での記憶の固定を損なうように相互作用し、年を取ったげっ歯類は、周辺免疫チャレンジ後の認知低下に対してより感受性である(Barrientos et al., 2006; 2009; 2012)。中枢炎症応答(特に、手術後の海馬におけるサイトカインの増大)が、POCDのラット及びマウスモデルにおいて繰返し報告されている(Cao et al., 2010;Cibelli et al., 2010;Fidalgo et al., 2011a, 2011b;Rosczyk et al., 2008;Terrando et al., 2010;Wan et al., 2007, 2010)。
【0003】
既に言及されているように、炎症促進性環境は、中枢麻酔に関連する手術後に生じる。このメカニズムは、一部には、海馬炎症の増大及び神経可塑性の変化により、POCDの原因となっている可能性がある。年をとった個体において、炎症促進性バックグラウンドは、種々の経路を介して説明されており、多くの加齢関連病理(例えば、神経変性疾患)の起源である可能性がある。手術中において、炎症の急性段階は、小児及び成人における保護系により抑えられる。炎症相が長く継続するのが示されていることから、このような保護系は、年をとった患者では、変化してしまっている。要するに、これらのデータは、POCDを発症するリスクを低下させるために、年をとった患者において、抗炎症ストラテジーを進行すべきであることを示している。しかしながら、これらのアプローチは、腎臓又は腸レベルにおける非ステロイド系抗炎症剤(NSAID)に対するこの集団の耐性の無さのために、老人には一般的にはアドバイスされない。このため、新たなストラテジーが、炎症促進性環境に関連する場合、POCDと戦うのに必須である。
【0004】
アペリンは、種々の組織により合成及び分泌され、77個のアミノ酸前駆体として種々の種において回収されるペプチドである。エンドペプチダーゼ開裂後、アペリンは、4つの主なアイソフォーム:アペリン-36、アペリン17、アペリン-13及びピログルタミン酸化アペリン-13として、環状で見出される。アペリン-13は、生体液中で最も安定なアイソフォームとして記載されている。アペリンは、APJ(その内在性リガンドがアペリンである同じ組織に存在するGプロテイン共役レセプター)に結合する。アペリン/APJ複合体は、骨形成、炎症及び神経保護に関与する。例えば、MC3T3-E1骨芽細胞のin vitroアペリン処置は、アポトーシス減少に関連する増殖の用量依存的増加を示す。また、アペリンは、炎症プロセスにも関連している。実際には、たとえメカニズムが完全には理解されていなくとも、アペリン生成は、炎症促進性サイトカイン(例えば、TNFアルファ)により増大されるので、炎症性プロセスを防ぐことができるだろう。アペリンの別の非常に興味深い特性は、その神経保護作用である。実際には、アペリン-13及び-36は、キナ酸のN-メチル-d-アスパラギン酸媒介毒性により誘導される培養海馬ニューロンの生存を促進する。別の実験セットにより、NT2.Nニューロンにおいて、アペリン-13及び-17は、Raf、AKT及びERK1/2のリン酸化を増大し、HIVにより誘導されるアポトーシスを阻害することが示されている。培養海馬ニューロンにおいて、アペリンは、vEGFと会合した場合、過酸化水素毒性に対してかなり神経保護性である。大脳皮質ニューロンにおいて、アペリン-13は、ROS産生、ミトコンドリア脱分極、ミトコンドリアからサイトゾルへのシトクロムc放出、カスパーゼ-3活性化、及び血清除去により誘導されるアポトーシスを阻害する。更に、アペリン-13は、リン酸化ERK1/2の血清除去誘導増大を減少させる。また、アペリン-13は、NMDA神経毒性に対する培養大脳皮質ニューロンの保護を示すAKTのリン酸化も減少させる。このことは、アペリンペプチドが中枢の虚血再灌流障害に対して神経保護的でありうることを強調している。まとめると、これらの結果は、アペリンがアポトーシスを阻害するだけでなく、神経細胞における興奮毒性も弱めることを示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明の概要
本発明は、術後認知機能障害の処置のための方法及び医薬組成物に関する。特に、本発明は、特許請求の範囲により定義される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の詳細な説明
本発明者らは、アペリンが手術媒介性炎症に応答して分泌される可能性があり、POCDに関連する神経傷害に対して保護するだろうと仮定した。この仮説を検証するために、若いマウス及び年をとったマウスを、アペリンを毎日i.p.投与することにより慢性的に処置し、脛骨骨折手術後における記憶、疼痛及びストレスに対する処置の影響を決定した。更に、脛骨手術媒介性POCD中におけるアペリンの役割をより良好に評価するために、本発明者らは、組織中での炎症促進性プロファイル修飾(TNFアルファ、IL6...)におけるアペリン投与の結果を測定した。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、Von Frey又はHagreaveの技術により測定された疼痛及び痛覚が、図1a及び1bにそれぞれ示されたように、アペリン処置により有意に減少されることを示す。
図2図2は、アペリンでの毎日の処置が、マウスにおいて行われるすくみを増加することを示す。
図3図3は、アペリン処置が、骨折マウスにおける血腫TNFa mRNa及び海馬IL-6 mRNAの発現を低下したことを示す。
図4】年をとったマウスにおけるすくみの割合。20月齢の雄性C57/B16/jマウスを、骨折前、及び骨折後3日間のアペリン(0.5nmol/kg)のi.p処置を行い(骨折アペリン)又は行わずに(骨折PBS)、骨折させた。3日後、動物の海馬記憶を恐怖条件付け試験により試験した。N=6~10、p<0.05 対照との比較。
図5】計画された人工股関節置換手術前後での血漿アペリン変動。血液を、手術の24時間前(J-1)又はその後24時間若しくは6日(J+1及びJ+6)の患者において採取した。血漿アペリンを市販のELISA試験により測定した。この研究では、患者は60歳以上である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の第1の目的は、それを必要とする対象において術後認知機能障害を処置する方法であって、治療有効量のAPJレセプターアゴニストを対象に投与することを含む方法に関する。
【0009】
本明細書で使用する場合、「術後認知機能障害」又は「POCD」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、手術後に経験する認知機能の障害を指す。POCDは、記憶、注意力、学習、及び情報処理速度における低下を含む認知障害である。POCDは、短期症候として表われることもあるし、長期間持続することもある。いくつかの状況では、POCDは、認知機能の永続的な変化を生じうる。実際には、POCDは、麻酔後に一般に観察される。対象におけるPOCDを診断するための方法は、当技術分野において公知である。例えば、対象の術前及び術後認知機能の有効な評価を、POCDを特徴付けるために行うことができる。当業者に公知の典型的な神経心理学試験は、言語理解力、知覚の体制化、実行能力(抽象概念、課題解決及び認知の柔軟性)、視覚的追尾、ゲームパフォーマンス、精神運動機能、精神運動速度、数字記号置き換え、処理速度、ドット連結、フリッカー融合、単純反応時間、選択反応時間、及び知覚の正確性の試験を含むが、これらに限定されない。
【0010】
本明細書で使用する場合、「処置」又は「処置する」という用語は、予防的(prophylactic)又は防止的(preventive)処置と治癒的又は疾患改変処置の両方を指し、疾患にかかるリスクがある対象又は疾患にかかっている疑いがある対象、及び病気であるか又は疾患若しくは健康状態を患っていると診断された対象の処置を含み、臨床的逆行の抑制を含む。処置は、医療的障害を有する対象又は最終的に障害を取得しうる対象に、障害の1つ以上の症候を予防、治癒、発症を遅延、重症度を低下、若しくは軽減するか、又は障害を回復させるために、或いは、そのような処置の非存在下で予測されるのを超えて対象の生存を伸ばすために、投与してもよい。「治療レジメン」は、病気の処置のパターン(例えば、治療中に使用される投薬のパターン)を意味する。治療レジメンは、誘導レジメン及び維持レジメンを含みうる。「誘導レジメン」又は「誘導期間」という言い回しは、疾患の初期処置に使用される治療レジメン(又は治療レジメンの一部)を指す。誘導レジメンの一般的な目的は、処置レジメンの初期の期間に、高レベルの薬物を対象に提供することである。誘導レジメンは、「負荷レジメン」を(部分的又は全体的に)利用してもよく、これは、臨床医が維持レジメンの間に採用するであろうよりも多くの用量の薬物を投与すること、臨床医が維持レジメンの間に薬物を投与するであろうよりも高い頻度で薬剤を投与すること、又はその両方を含みうる。「維持レジメン」又は「維持期間」という言い回しは、病気の処置中に対象を維持するために(例えば、長期間(数ヶ月又は数年)対象を軽減に維持するために)使用される治療レジメン(又は治療レジメンの一部)を指す。維持レジメンは、連続的な治療(例えば、薬物を規則的な間隔、例えば、毎週、毎月、1年等で投与すること)又は断続的な治療(例えば、中断された処置、断続的な処置、逆行時の処置、又は特定の所定の評価基準[例えば、疾患症候等]の達成時の処置を採用しうる。
【0011】
特に、本発明のAPJレセプターアゴニストは、対象をPOCDに関連する神経傷害から保護するのに特に適している。
【0012】
いくつかの実施態様では、本発明の方法は、術後認知機能障害のリスクにあると判定されている対象において行われる。いくつかの実施態様では、本発明の方法は、認知機能に障害があると診断されている又は認知機能に障害を有することが示されている対象において行われる。
【0013】
いくつかの実施態様では、本発明のAPJレセプターアゴニストは、手術に際して(すなわち、手術の前、術中及び/又は後)並びに退院後に、投与される。
【0014】
本明細書で使用する場合、「手術」という用語は、疾患、傷害又は変形の治療又は予防のための、任意の手での若しくは手術の方法又は操作を指す。手術は、対象が麻酔(局所麻酔又は全身麻酔を含む)下にある間に行われる方法又は操作を含む。手術は、医師、外科医又は歯科医により、一般的には病院又は他の健康管理施設において、行われうる。手術を受ける対象は、入院していても又は外来(例えば、外来対象の手術)であってもよい。本発明の目的で、手術は、腹部手術(例えば、腹部の内臓の手術)、ベンチサージェリー(例えば、その後に臓器が再移植されうる、身体から取り出された臓器に行われる手術)、心臓(例えば、心臓の手術)、脳(例えば、脳の手術)、動形成切断(例えば、義肢を動作させるのに筋肉を使用することを可能にするために、切断された四肢の断端に隣接する筋肉を通してトンネルを形成するための手術)、美容(例えば、傷の成形修復、矯正又は除去により対象の外観を改善するための手術)、歯牙顔面(例えば、顔の欠陥及び口の構造に関連する手術)、神経(例えば、末梢又は中枢神経系に関連する手術)、口腔(例えば、口、顎及び関連する構造の欠陥に関連する手術)、整形外科(例えば、骨及び骨構造(例えば人工股関節置換)を取り扱う手術)、骨盤(例えば、骨盤(主に産婦人科)に関連する手術)、形成(例えば、傷害、疾患、又は成長及び発達により欠損、損傷又は奇形している身体構造の形及び外観の修復、再建、修正又は改善に関連する手術)、又は直腸(例えば、直腸の手術)、泌尿器(例えば、尿生殖器系(主に男性における)に関連する手術)、血管(例えば、血管の手術)、及び耳鼻咽喉科に関連する手術(例えば、耳、鼻、喉又は関連する構造の手術)を含むが、これらに限定されない。手術は、保存的(例えば、最少のリスクで病気の又は傷害の臓器、組織又は四肢を保存又は除去するための手術)であっても、根治的(例えば、局所的に広がった疾患の全領域及びリンパ排出の隣接するゾーンを摘出するように設計された手術)であってもよい。
【0015】
いくつかの実施態様では、本発明のAPJレセプターアゴニストは、麻酔剤と同時又は順次に対象に投与される。いくつかの実施態様では、APJレセプターアゴニスト及び麻酔剤はいずれの順序でも、互いに特定の時間内、例えば、互いに6時間以内、互いに5時間以内、互いに4時間以内、互いに3時間以内、互いに2時間以内、互いに1時間以内、互いに30分以内、互いに20分以内、互いに10分以内、互いに5分以内、互いに1分以内に、又は実質的に同時(simultaneously)若しくは同時(concurrently)に、投与される。いくつかの実施態様では、本発明のAPJレセプターアゴニストは、麻酔剤の前に、例えば、麻酔剤投与前約6時間、約5時間、約4時間、約3時間、約2時間、約1時間、約30分、約20分、約10分、約5分、又は約1分に、対象に投与される。いくつかの実施態様では、本発明のAPJレセプターアゴニスト及び麻酔剤は、同時に投与されうる。
【0016】
本明細書で使用する場合、「麻酔剤」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、麻酔を生じさせる薬物(例えば、これは、手術を容易にするため、非外科的な痛みを緩和するため、又は疾患若しくは障害の診断を可能にするため、一般的に投与される)を指す。吸入麻酔剤の非限定的な例は、エーテル、例えば、ジエチルエーテル、メトキシプロパン、ビニルエーテル、ハロゲン化エーテル、例えば、デスフルラン、エンフルラン、ハロタン、イソフルラン、メトキシフルラン;ハロアルカン、例えば、クロロホルム、ハロタン、トリクロロエチレン、シクロプロパン、エチレン、亜酸化窒素、セボフルラン、キセノン、重水素化イソフルラン(米国特許第4,220,644号及び同第4,262,144号に開示されている)、ヘキサフルオロ-t-ブチル-ジフルオロメチルエーテル(米国特許第3,949,005号に開示されている)、メトキシフルランの重水素化アナログ(米国特許第4,281,020号に開示されている)、重水素化セボフルラン(米国特許第5,391,579号及び同第5,789,450号に開示されている)、及び米国特許(例えば、米国特許第3,931,344号、同第3,932,669号、同第3,981,927号、同第3,980,714号、同第4,346,246号、同第3,932,529号、同第3,932,667号、同第3,954,893号、同第3,987,100号、同第3,987,203号、同第3,995,062号)に開示されている他の吸入麻酔剤を含む。これら全ての内容は、その全体が参照により本明細書中に援用される。吸入麻酔剤はいずれも、単独で、又は麻酔を維持するための他の医薬との組み合わせて、使用されうる。例えば、亜酸化窒素は、他の吸入麻酔剤と組み合わせて使用されうる。
【0017】
本明細書で使用する場合、「APJレセプター」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、O'Dowdらにより最初に同定されたアペリンに対するレセプターを指す(O'Dowd et al, 1993, Gene 136: 355360)。APJは、380個の残基で7個の膜貫通ドメインのGi共役レセプターであり、その遺伝子は、ヒトにおける第11番染色体の長腕に位置している(NCBIリファレンス配列:NP_005152.1。NCBIリファレンス配列:NM_005161によりコードされる)。長年オーファンであったが、内在性のリガンドが単離され、アペリンと命名された(Tatemoto et al., Biochem Biophys Res Commun 251, 471-6 (1998))。
【0018】
本明細書で使用する場合、「アペリン」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、77個の残基のタンパク質前駆体を示し(NCBIリファレンス配列:NP_0059109.3。NCBIリファレンス配列:NM_017413.3によりコードされる)、これは、生体活性型のアペリンペプチド(例えば、アペリン-36、アペリン-17、アペリン-16、アペリン-13、アペリン-12)にプロセッシングされる。「アペリン-36」と呼ばれる全長の成熟ペプチドは、36個のアミノ酸を含むが、最も強力なアイソフォームは、ピログルタミン酸型の13merのアペリン(アペリン-13)(「Pyr-1-アペリン-13又はPyr1-アペリン-13」と呼ばれる)である。種々のアペリン型が、例えば、米国特許第6,492,324号に記載されている。
【0019】
本明細書で使用する場合、「APJレセプターアゴニスト」という用語は、天然又は非天然で、APJレセプター機能を促進可能な任意の化合物を指す。本発明のAPJレセプターアゴニストの例は、ポリペプチド、抗体、アプタマー及び有機小分子を含むが、これらに限定されない。APJレセプターに対する試験化合物のアゴニスト活性は、当技術分野において周知の任意の方法により決定されうる。例えば、本発明のアゴニストはAPJレセプターの機能を促進することができることから、このアゴニストは、APJレセプターの天然のアゴニスト(すなわち、アペリン)及びそのレセプターを使用してスクリーニングすることができる。典型的には、本発明のアゴニストは、APJレセプターの機能を促進する物質をスクリーニングする方法であって、(i)アペリンをAPJレセプターと接触させている場合と(ii)試験化合物をAPJレセプターと接触している場合とを比較することを含む方法を使用して得ることができる。本発明のスクリーニング方法では、例えば、(a)(i)アペリンをAPJレセプターと接触させている場合と(ii)アペリン及び試験化合物をAPJレセプターと接触させている場合に、APJレセプターに対するアペリンの結合量を測定し、その結果を比較する、又は、(b)(i)アペリンをAPJレセプターと接触させている場合と(ii)試験化合物をAPJレセプターと接触させている場合に、APJレセプターにより媒介される細胞刺激活性(例えば、アラキドン酸放出、アセチルコリン放出、細胞内Ca2+放出、細胞内cAMP産生、細胞内cGMP産生、イノシトールリン酸産生、細胞膜電位の変化、細胞内タンパク質のリン酸化、c-fosの活性化、pH変化等を促進する活性)を測定し、その結果を比較する。典型的には、次いで、アペリンよりも高いAPJレセプターの促進又は少なくとも同じ促進を提供する試験化合物を、APJレセプターアゴニストとして選択する。本発明のスクリーニング方法の具体例は、(1)標識したアペリンをAPJレセプターと接触させている場合と標識したアペリン及び試験化合物をAPJレセプターと接触させている場合に、APJレセプターへの標識したアペリンの結合量を測定すること、及びそれらの量を比較することを含む、APJレセプターの機能を促進する物質をスクリーニングする方法;(2)標識したアペリンを細胞又は膜の分画と接触させている場合と標識したアペリン及び試験化合物を細胞又は膜の分画と接触させている場合に、APJレセプターを含有する細胞又はその細胞の膜分画への標識したアペリンの結合量を測定すること、及びそれらの結合量を比較することを含む、APJレセプターの機能を促進する物質をスクリーニングする方法、並びに、(3)標識したアペリンをAPJレセプターと接触させている場合と標識したアペリン及び試験化合物をAPJレセプターと接触させている場合に、APJレセプターをコードするDNAを有するトランスフォーマントを培養することによって、細胞膜上に発現しているAPJレセプターへの標識したアペリンの結合量を測定すること、及びそれらの結合量を比較することを含む、APJレセプターの機能を促進する物質をスクリーニングする方法を含む。そのような例において、次いで、アペリンよりも高い結合又は少なくとも同じ結合を提供する試験化合物を、APJレセプターアゴニストとして選択する。具体的には、化合物がAPJレセプターアゴニストであるかどうかを決定するための方法は、Iturrioz Xら(Iturrioz X, Alvear-Perez R, De Mota N, Franchet C, Guillier F, Leroux V, Dabire H, Le Jouan M, Chabane H, Gerbier R, Bonnet D, Berdeaux A, Maigret B, Galzi JL, Hibert M, Llorens-Cortes C. Identification and pharmacological properties of E339-3D6, the first nonpeptidic apelin receptor agonist. FASEB J. 2010 May;24(5):1506-17. Epub 2009 Dec 29)に記載されている。米国特許出願公開第2005/0112701号も、APJレセプターを含むアンギオテンシンレセプター様-1(APJレセプター)に対するリガンドの特定のための試験系を記載した。また、別の方法も、米国特許第6,492,324号に記載されている。
【0020】
いくつかの実施態様では、APJレセプターアゴニストは、有機小分子である。「有機小分子」という用語は、医薬で一般的に使用される有機分子と同等のサイズの分子を指す。この用語は、生体巨大分子(例えば、タンパク質、核酸等)を除外する。好ましい有機小分子は、最大約5000Da、より好ましくは最大2000Da、及び最も好ましくは、最大約1000Daのサイズ範囲である。APJレセプターアゴニストである有機小分子の例は、欧州特許出願公開第19030052号及びIturrioz X.ら(Iturrioz X, Alvear-Perez R, De Mota N, Franchet C, Guillier F, Leroux V, Dabire H, Le Jouan M, Chabane H, Gerbier R, Bonnet D, Berdeaux A, Maigret B, Galzi JL, Hibert M, Llorens-Cortes C. Identification and pharmacological properties of E339-3D6, the first nonpeptidic apelin receptor agonist. FASEB J. 2010 May;24(5):1506-17. Epub 2009 Dec 29)に記載されているものを含む。典型的には、APJレセプターアゴニストである有機小分子は、一般式(I):
【化1】

[式中、
R1は、アリール、アルキルアリール、ヘテロアリール又はアルキルへテロアリール基であり、
R2は、水素原子又はアリール基であり、
R3及びR4は、水素原子又はヘテロシクロアルキル基を表わすが、ただし、R3及びR4は同時に水素を表わすことはできず、かつR3及びR4は両方ともヘテロシクロアルキル基の一部であることができ、
R5は、boc、fmoc、texas red、patent blue V、リサミン及びローダミン101からなる群より選択される基を表わし、
nは、0~1の整数であり、
Yは、-CO-(NH)n’-A-NH-基を表わし、ここで、
n’は、0~1の整数であり、
Aは、
-(CH2)n’’-
-[(CH2)2-O]n’’’-(CH2)2-
-(CH2)m-NH-CO-(CH2)m’-
-(CH2)m-NH-CO-(CH2)m’-NH-CO-(CH2)m’’-
-(CH2)m-CO-NH-(CH2)m’-
-(CH2)m-CO-NH-(CH2)m’-CO-NH-(CH2)m’’-
からなる群より選択される基であり、
ここで、n’’は、1~20の整数を表わし、
ここで、n’’’は、1~10の整数を表わし、
ここで、m、m’及びm’’は、他とは独立して、1~15の整数を表わし、
Xは、以下のリスト:
【化2】

において選択される基を表わす]
を有する。
【0021】
いくつかの実施態様では、APJレセプターアゴニストは、抗体(この用語は、「抗体部分」を含む)に存する。本明細書で使用する場合、「抗体」は、天然及び非天然の両方の抗体を含む。具体的には、「抗体」は、ポリクローナル及びモノクローナルの抗体並びにそれらの一価及び二価のフラグメントを含む。更に、「抗体」は、キメラ抗体、全合成抗体、一本鎖抗体、及びそれらのフラグメントを含む。抗体は、ヒト又は非ヒト抗体でありうる。非ヒト抗体は、ヒトにおけるその免疫原性を低下させるために、リコンビナント法によりヒト化してもよい。抗体は、従来の方法論に従って調製される。モノクローナル抗体は、Kohler及びMilsteinの方法(Nature, 256:495, 1975)を使用して作製されうる。いくつかの実施態様では、抗体は、ヒト化抗体である。本明細書で使用する場合、「ヒト化」は、CDR領域外のいくらか、大部分又は全てのアミノ酸が、ヒト免疫グロブリン分子由来の対応するアミノ酸により置き換えられている抗体を記載する。ヒト化の方法は、米国特許第4,816,567号、同第5,225,539号、同第5,585,089号、同第5,693,761号、同第5,693,762号及び同第5,859,205号に記載されたものを含むが、これらに限定されない。これらは、参照により本明細書に援用する。上記米国特許第5,585,089号及び同第5,693,761号並びに国際公開第90/07861号にも、ヒト化抗体を設計するのに使用されうる4つの可能性のある評価基準が提唱されている。いくつかの実施態様では、抗体は、ヒト抗体である。また、完全ヒトモノクローナル抗体は、ヒト免疫グロブリン重鎖及び軽鎖遺伝子座の大分部について、トランスジェニックにマウスを免疫化することにより調製することができる。例えば、米国特許第5,591,669号、同第5,598,369号、同第5,545,806号、同第5,545,807号、同第6,150,584及びそれらで引用された参考文献を参照のこと。これらの内容は、参照により本明細書に援用される。ヒト抗体を作製するためのin vitroの方法も存在する。これらは、ファージディスプレイ技術(米国特許第5,565,332号及び同第5,573,905号)及びヒトB細胞のin vitro刺激(米国特許第5,229,275号及び同第5,567,610号)を含む。これら特許の内容は、参照により本明細書に援用される。いくつかの実施態様では、抗体は、シングルドメイン抗体である。「シングルドメイン抗体」(sdAb)又は「VHH」という用語は、軽鎖を生来欠いているラクダ科哺乳動物に見出すことができる種類の抗体の単一重鎖可変ドメインを指す。このようなVHHは、「nanobody(登録商標)」とも呼ばれる。本発明によれば、sdAbは、特にラマsdAbでありうる。
【0022】
いくつかの実施態様では、APJレセプターアゴニストは、アプタマーである。アプタマーは、分子認識の点から抗体の代替物を表わす分子のクラスである。アプタマーは、高い親和性及び特異性で任意のクラスのターゲット分子を実質的に認識する能力を有するオリゴヌクレオチド配列である。このようなリガンドは、ランダム配列ライブラリのSystematic Evolution of Ligands by EXponential enrichment(SELEX)により単離されうる。ランダム配列ライブラリは、DNAのコンビナトリアル化学合成により入手可能である。このライブラリでは、各メンバーは、固有のオリゴマーの最終的に化学的に改変された直鎖オリゴマーである。
【0023】
いくつかの実施態様では、APJレセプターアゴニストは、ポリペプチドに存する。いくつかの実施態様では、ポリペプチドは、アペリンポリペプチドである。アペリンポリペプチドの配列及びこのようなタンパク質をコードするための核酸は、当業者に周知である。本発明によれば、「アペリン」ポリペプチドという用語は、アペリン-13のC末端フラグメントを含む任意のポリペプチドを指す。したがって、この用語は、アペリン自体又はそのフラグメント(アペリン-17若しくはアペリン-36フラグメントを含む)を包含する。APJレセプターアゴニストとして使用することができる他のポリペプチドは、米国特許第6,492,324号、同第7,635,751号、米国特許出願公開第2010221255号、同第2008182779号、国際公開第2013111110号、同第2014081702号、同第2014099984号、同第201501316号、同第2015013168号及び同第2015013169に記載されているものを含む。
【0024】
いくつかの実施態様では、ポリペプチドは、下記式:
X1-X2-X3-R-X5-X6-X7-X8-X9-X10-X11-X12-X13 (I)
[式中、
X1は、ポリペプチドのN末端であり、存在しないか又はpEかのいずれかであり、
X2は、R又はrであり、
X3は、P又は4-PhPであり、
X5は、L、Cha、D-L、F、Y、Y(Bzl)、3,4-Cl2-F又はNalであり、
X6は、D-アミノ酸、S又はAであり、
X7は、D-アミノ酸、L、H又はAibであり、X6及びX7のうちの少なくとも一方は、D-アミノ酸又はAibであり、
X8は、K、k、Q又はEであり、
X9は、G又はDであり、
X10は、P又はピペコリン酸であり、
X11は、D-Nle、Nle、f又はD-Nvaであり、
X12は、存在しないか、P又はD-アミノ酸であり、
X13は、C末端であり、存在しないか、F又はD-アミノ酸であり、X11、X12及びX13のうちの少なくとも1つは、D-アミノ酸であり、
ここで、
Nleは、L-ノルロイシンであり、
D-Nleは、D-ノルロイシンであり、
Nalは、L-ナフチル)アラニンであり、
D-Nvaは、D-ノルバリンであり、
Aibは、α-アミノイソ酪酸であり、
Chaは、(S)-β-シクロヘキシルアラニンであり、
D-Ticは、D-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-3-カルボン酸であり、
pEは、L-ピログルタミン酸であり、
3,4-Cl2-Fは、(S)-3,4-ジクロロフェニルアラニンであり、
Yは、L-チロシンであり、
Y(Bzl)は、L-ベンジル-チロシンである]
又は当該ポリペプチドのアミド、エステル若しくは塩
を有する。
【0025】
いくつかの実施態様では、ポリペプチドは、下記式:
X1-R-X3-R-L-X6-X7-K-X9-P-X11-X12-X13 (II)
[式中、
X1は、ポリペプチドのN末端であり、存在しないか又はQ、A及びpEから選択され、
X3は、Pであるか、又はX3は、C、c、hC及びD-hCから選択され、ここで、C、c、hC又はD-hCの側鎖は、X6の側鎖とジスルフィド結合を形成しており、
X6は、C、c、hC及びD-hCから選択され、ここで、C、c、hC又はD-hCの側鎖は、X3、X9及びX13のいずれかのC、c、hC又はD-hCの側鎖とジスルフィド結合を形成しており、
X7は、H又はAibであり、
X9は、Gであるか、又はX9は、C、c、hC及びD-hCから選択され、ここで、C、c、hC又はD-hCの側鎖は、X6の側鎖とジスルフィド結合を形成しており、
X11は、D-Nle、Nle、M又はfであり、
X12は存在しないか又はP、f若しくはaであり、
X13は、存在しないか、F、f、a、y若しくはNalであるか、又はX13は、C、c、hC及びD-hCから選択され、ここで、C、c、hC又はD-hCの側鎖は、X6の側鎖とジスルフィド結合を形成しており、
ここで、X3、X9及びX13のうちの1つのみが、C、c、hC及びD-hCから選択され、
Nleは、L-ノルロイシンであり、
D-Nleは、D-ノルロイシンであり、
D-hCは、D-ホモシステインであり、
hCは、L-ホモシステインであり、
Nalは、L-ナファタリンであり、
Aibは、2-アミノイソ酪酸であり、
pEは、L-ピログルタミン酸である]
又は当該ポリペプチドのアミド、エステル若しくは塩、或いはそれと実質的に同等のポリペプチド
を有する。
【0026】
本発明によれば、ポリペプチドは、任意の従来の自動化ペプチド合成法によって又はリコンビナント発現によって、作製される。タンパク質を設計及び製造するための一般原理は、当業者に周知である。
【0027】
いくつかの実施態様では、治療効果を改善するためにアペリンポリペプチドを改変することが企図される。治療化合物のこのような改変(単数又は複数)は、毒性を減少するか、循環時間を増大するか、又は生体分布を改変するのに、使用されうる。例えば、生体分布を改変する多様な薬物担体ビヒクルと組み合わせることによって、重要である可能性のある治療化合物の毒性を顕著に減少することができる。例えば、ポリエチレングリコール(PEG)は、その高度の生体適合性及び改変の容易性を考えると、薬物担体として広く使用されている。種々の薬物、タンパク質及びリポソームへの連結は、滞留時間を改善し、毒性を減少することが示されている。PEGは、鎖の末端のヒドロキシル基を介して及び他の化学的方法を介して、活性剤に結合することができるが、PEG自体は、1分子当たり多くて2個の活性剤に限定される。
【0028】
本発明によれば、本発明のAPJレセプターアゴニストは、治療有効量で対象に投与される。「治療有効量」は、任意の医療処置に適用可能な合理的な利益/リスク比で疾患を処置するための、活性成分の十分な量を意味する。本発明の化合物及び組成物の合計一日使用量は、正常な医療判断の範囲内で主治医により決定されることが理解される。任意の特定の対象についての具体的な治療有効量レベルは、処置される障害、及び障害の重症度;採用される具体的な化合物の活性;採用される具体的な組成物、対象の年齢、体重、全体の健康、性別及び食事;採用される具体的な化合物の投与時間、投与経路及び排出速度;処置期間;活性成分と組み合わせて使用される薬物;並びに医療分野において周知の同様の因子を含む様々な因子に依存する。例えば、所望の治療効果を達成するのに必要とされるよりも少ないレベルで化合物の用量を開始し、所望の効果が達成されるまで投薬量を徐々に増加させることは、当業者の十分な範囲内である。しかしながら、製品の一日投薬量は、1日当たり、1人の成人当たり、0.01~1,000mgの広い範囲にわたり変動されうる。典型的には、組成物は、処置されるべき対象に投薬量を症候的に調整するために、0.01、0.05、0.1、0.5、1.0、2.5、5.0、10.0、15.0、25.0、50.0、100、250及び500mgの活性成分を含有する。医薬は、典型的には、約0.01mg~約500mgの活性成分、典型的には1mg~約100mgの活性成分を含有する。有効量の薬物は、通常、1日当たり0.0002mg/kg~約20mg/kg体重、特に1日あたり約0.001mg/kg~7mg/kg体重の投薬レベルで提供される。
【0029】
典型的には、本発明のAPJレセプターアゴニストは、医薬組成物を形成するために、薬学的に許容し得る賦形剤及び必要に応じて徐放性マトリックス(例えば、生分解性ポリマー)と組み合わせられる。「薬学的に」又は「薬学的に許容し得る」という用語は、哺乳動物(特にヒト)に適切に投与された場合、有害、アレルギー又は他の不都合な反応を生じない分子実体及び組成物を指す。薬学的に許容し得る担体又は賦形剤は、任意のタイプの非毒性の固体、半固体又は液体の充填剤、希釈剤、カプセル化材料又は製剤助剤を指す。また、担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、ポリエチレングリコール及び液状ポリエチレングルコール等)、それらの適切な混合物、及び植物油を含有する溶媒又は分散媒体でありえる。適切な流動性は、例えば、コーティング(例えば、レシチン)の使用によって、分散剤の場合に必要とされる粒子サイズの維持によって、及び界面活性剤の使用によって、維持することができる。微生物の作用の防止は、種々の抗菌剤及び抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサール等によりもたらすことができる。多くの場合には、等張化剤、例えば、糖類又は塩化ナトリウムを含むのが好ましい。注射可能な組成物の延長した吸収は、組成物における吸収を遅延させる薬剤(例えば、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチン)の使用によりもたらすことができる。本発明の医薬組成物において、本発明の活性成分は、従来の薬学的支持物質との混合物として、単位投与形態で投与することができる。適切な単位投与形態は、経口経路形態、例えば、錠剤、ゲルカプセル剤、散剤、顆粒剤及び経口の懸濁剤又は液剤、舌下及びバッカル投与形態、エアロゾル剤、インプラント、皮下、経皮、局所、腹腔内、筋肉内、静脈内、真皮下、経皮、くも膜下及び鼻内の投与形態、並びに直腸投与形態を含む。
【0030】
本発明を、以下の図面及び実施例によって、更に説明する。しかしながら、これらの実施例及び図面は、本発明の範囲を制限するものとしてどのようにしても解釈されるべきではない。
【実施例
【0031】
[実施例1]
材料及び方法
〔手術〕
全てのマウスを2~3% セボフルランにより麻酔した。つま先を激しくつまんだ後に足を引っこめる反射が無いことにより、十分な麻酔を確認した。脛骨閉鎖骨折を以前に記載されたように行った(Minville et al 2008)。簡潔には、ポビドン-ヨウ素による右足の消毒準備後に、特別に設計した骨折装置(鈍いギロチン)を使用して、一方向閉鎖骨折を右脛骨に作り出した。無菌技術を使用した髄内ピニングのために、27Gニードル(BD Microlance 27G 3/4L 19mm)を使用して、孔を脛骨結節上に経皮的に形成した。次いで、ニードルを骨髄管内に真っ直ぐに向けた。ニードルを回転させることにより、管を足首関節まで5mmに広げた。皮膚がニードル上に伸びニードルを覆うことができるように、ニードルの端部を可能な限り短く切断した。縫合を行わなかった。次いで、鈍いギロチンを頚骨のほぼ1/3と並ばせるために、アンビル上に足を着かせてマウスを置いた。300gの重りを高さ9~10cmから落下させて、脛骨シャフトを骨折させた。傷害に対する運動応答は、これらの条件下では起きなかった。
【0032】
〔薬物の投与〕
アペリン投与(ip、0.5umol/kg、Bachem)を骨折1時間前及び15連日の間毎日行った。同じ量のPBSを対照マウスに注入した。
【0033】
〔行動試験〕
機械的痛覚
傷を負った後ろ足にVon Freyフィラメントを適用するために、上昇させたワイヤ床を備えたケージに動物を入れた。15分の馴化期間を観察した。次いで、増大するサイズのVon Freyフィラメントを、傷を負った足の足底弓に適用して、特徴的な疼痛応答(足の引き込み、三重屈曲、足のリッキング、これら異なる応答の関連)を観察した。各フィラメントを、0.6gで開始して正の応答まで増大させて、6秒間わずかに曲がるように適用した。試験を、各試験間に5分の休憩期間をおいて3回繰返した。正の応答を生じるのに適用した最も低いフィラメントの値を、機械的痛覚の閾値とみなした。試験を、骨折後1日目、5日目及び15日目に繰り返した。
【0034】
熱痛覚
熱痛覚を、Hargreaves法を使用して評価した。動物を、光線刺激(52℃の熱を生じるように、最大強度の40%で予め設定された光強度で、4×6mm)の適用を可能にする透明な窓を備えた個々のケージに入れた。光線を後ろ足に適用した。15分の馴化期間を観察した。次いで、ビームの適用開始と疼痛応答との間の潜在期間(秒)を測定した。組織傷害を避けるために、熱刺激は20秒を超過させなかった。試験を3回繰返し、それぞれ、5分の休憩期間をおいた。記録された最も短い潜在期間を、熱痛覚についての閾値とみなした。試験を、骨折後1日目、5日目及び15日目に繰り返した。
【0035】
〔恐怖条件付け〕
長期記憶及び学習能力を試験するために、恐怖に対する適合性試験(恐怖条件付け試験)を使用した。
【0036】
学習期間中に、この試験を、環境条件(金属グリルを備えたフロアケージ、1日に複数回アルコール溶液で洗浄)、視覚(黒と白のストライプの混成壁、及び室内壁の白色光パターン)及び音(各放電に先立って80dBの音を20秒間)での、苦痛及び不安を生じるイベント(足に2回の0.3mA 2秒の短い電気放電)と組み合わせた。学習期間を4分25秒間継続した。
【0037】
試験期間(術後3日目に行った)の環境において、動物を同じケージに4分間再導入した。条件を同じとしたが、音の刺激又は疼痛の刺激は無しとした。動物がこの環境が疼痛イベントと関連するという事実を記憶できた場合、呼吸運動を除いた全身不動として定義される恐怖の行動(すくみ)をとった。各動物が受けた処置を知らないオペレーターが、各動物のすくみ時間を評価した。全ての操作の最後にブラインドを上げた。この厳格な試験は、海馬だけでなく扁桃核及び大脳皮質の適切な機能も必要とする。この試験は、複数の刊行物において、動物モデルにおける術後認知機能障害を診断するのに使用されてきた。試験を骨折後3日目に行った。
【0038】
〔組織収集〕
骨折72時間後、マウスを素早い頚動脈切断及び断頭により安楽死させた。海馬及び血腫を素早く収集し、急速凍結した。血液を頚動脈切断中に収集し、遠心分離し、血漿を急速凍結した。
【0039】
〔炎症促進性サイトカインのmRNA発現〕
IL-6及びTNFa mRNAレベルをRT-PCR技術により測定した(Dray et al. Cell metabolism 2008を参照のこと)。
【0040】
結果
〔疼痛がアペリン処置により減少する〕
Von Frey又はHargreaveの技術により測定された疼痛及び痛覚は、図1a及び1bにそれぞれ示されたように、アペリン処置により有意に減少する。
【0041】
〔アペリンでの毎日の処置により、マウスにおいて行われるすくみが増加する。〕
術後、手術を受けたマウスは、認知機能障害を発症した(図2)。実際には、術後3日目になされた環境で試験した場合、手術を受けた動物は、手術を受けなかった動物よりも統計学的に低いすくみ割合を示した。これらの操作により、再度、本発明者らのチームにより開発された動物モデルは確認された。アペリンの毎日の注射を受けた手術を受けたマウスは、手術を受け生理食塩水の注射を受けたマウスと比較して増加したすくみ割合を有した(図2)。アペリンにより処置された手術を受けていないマウスは、そのすくみ割合に変化を示さなかった。
【0042】
〔炎症状態〕
アペリン処置により、骨折マウスにおいて、血腫TNFa mRNa及び海馬IL-6 mRNAの発現が減少した。アペリンにより処置された骨折マウスは、血腫において、炎症促進性サイトカインであるTNFaの強力な減少を示した(図3a)。この減少と関連して、アペリン処置により、骨折マウスの海馬におけるIL-6の増大を避けることができる(図3b)。
【0043】
[実施例2]
材料及び方法
実施例1の材料及び方法を参照のこと。
【0044】
結果
図4は、その年齢(20月齢)にも関わらず、アペリンで処置された動物は、骨折後の海馬記憶喪失を示さないので、ペプチドに依然として感受性である。一方、PBSで処置した動物は、3ヶ月齢の動物と比較して、すくみの減少を示す。
【0045】
[実施例3]
材料及び方法
患者は、60歳以上で、56%が男性である。彼らは、可能性のある処置に関連するいずれの顕著な病理(ガン、心不全...)も示していない。これらの患者は、人工股関節置換を目的とする手術が計画されている。
【0046】
結果
図5に、手術後24時間でのアペリンの減少及び6日後での血中アペリン量の正常化を伴う、手術に応答した血漿アペリン変動を示す。
【0047】
〔参考文献〕
本明細書全体を通して、種々の参考文献が、本発明が属する分野の技術水準を記載している。これらの参考文献の開示は、参照により本開示に援用される。
図1
図2
図3
図4
図5