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特許7063819コーティング剤および当該コーティング剤で表面処理してなる医療機器
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  • 特許-コーティング剤および当該コーティング剤で表面処理してなる医療機器 図1A
  • 特許-コーティング剤および当該コーティング剤で表面処理してなる医療機器 図1B
  • 特許-コーティング剤および当該コーティング剤で表面処理してなる医療機器 図2A
  • 特許-コーティング剤および当該コーティング剤で表面処理してなる医療機器 図2B
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-25
(45)【発行日】2022-05-09
(54)【発明の名称】コーティング剤および当該コーティング剤で表面処理してなる医療機器
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/04 20060101AFI20220426BHJP
   C09D 183/06 20060101ALI20220426BHJP
   C09D 183/08 20060101ALI20220426BHJP
   A61L 31/10 20060101ALI20220426BHJP
   A61L 31/06 20060101ALI20220426BHJP
   A61L 31/12 20060101ALI20220426BHJP
   A61M 5/162 20060101ALI20220426BHJP
   A61L 31/02 20060101ALN20220426BHJP
   A61M 5/32 20060101ALN20220426BHJP
【FI】
C09D183/04
C09D183/06
C09D183/08
A61L31/10
A61L31/06
A61L31/12
A61M5/162 500H
A61L31/02
A61M5/32 520
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2018558869
(86)(22)【出願日】2017-11-07
(86)【国際出願番号】 JP2017040079
(87)【国際公開番号】W WO2018123276
(87)【国際公開日】2018-07-05
【審査請求日】2020-09-02
(31)【優先権主張番号】P 2016253828
(32)【優先日】2016-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】谷田部 輝幸
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-520241(JP,A)
【文献】特開平07-178159(JP,A)
【文献】特開2001-190654(JP,A)
【文献】特開平10-309316(JP,A)
【文献】国際公開第2016/013528(WO,A1)
【文献】特開平06-145029(JP,A)
【文献】特開2004-313229(JP,A)
【文献】国際公開第2017/002599(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
A61L 31/10
A61M 5/162
A61M 5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)下記一般式(1):
【化1】

ただし、RおよびRは、それぞれ独立して、一価の炭化水素基を表し、
1’は、それぞれ独立して、一価の炭化水素基または水酸基(-OH基)を表し、
mは、2,000~30,000の整数である、
で示される、ポリオルガノシロキサン(1)と、
(2)下記一般式(2):
【化2】

ただし、RおよびRは、それぞれ独立して、一価の炭化水素基を表し、
nは、8~1,000の整数である、
で示される、ポリジオルガノシロキサン(2)と、
(3)下記一般式(3):
【化3】

ただし、Rは、それぞれ独立して、一価の炭化水素基または-OR基を表し、この際、Rは、それぞれ独立して、置換または非置換の炭素数1~4の一価の炭化水素基を表し、
およびRは、それぞれ独立して、一価の炭化水素基を表し、
Aは、それぞれ独立して、アミノ基含有基を表し、
p:q=5~100:1であり、および
qは、1~100の整数である、
で示される、1分子中に少なくとも1個のアミノ基を含有するアミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)および
(4)下記一般式(4):
【化4】

ただし、RおよびR9’は、それぞれ独立して、一価の炭化水素基または水酸基(-OH)を表し、この際、Rの少なくとも1個およびR9’の少なくとも1個は、水酸基(-OH)であり、
10は、それぞれ独立して、一価の炭化水素基を表し、
rは、1,000~30,000の整数である、
で示される水酸基含有ポリオルガノシロキサン(4)のいずれか一方と、
を含むコーティング剤。
【請求項2】
前記ポリジオルガノシロキサン(2)は、前記アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)または前記水酸基含有ポリオルガノシロキサン(4)に対する質量比が0.7~3.0の割合で含まれる、請求項1に記載のコーティング剤。
【請求項3】
(1)下記一般式(1):
【化5】

ただし、R およびR は、それぞれ独立して、一価の炭化水素基を表し、
1’ は、それぞれ独立して、一価の炭化水素基または水酸基(-OH基)を表し、
mは、1,500~30,000の整数である、
で示される、ポリオルガノシロキサン(1)と、
(2)下記一般式(2):
【化6】

ただし、R およびR は、それぞれ独立して、一価の炭化水素基を表し、
nは、8~1,000の整数である、
で示される、ポリジオルガノシロキサン(2)と、
(3)下記一般式(3):
【化7】

ただし、R は、それぞれ独立して、一価の炭化水素基または-OR 基を表し、この際、R は、それぞれ独立して、置換または非置換の炭素数1~4の一価の炭化水素基を表し、
およびR は、それぞれ独立して、一価の炭化水素基を表し、
Aは、それぞれ独立して、アミノ基含有基を表し、
p:q=5~100:1であり、および
qは、1~100の整数である、
で示される、1分子中に少なくとも1個のアミノ基を含有するアミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)および
(4)下記一般式(4):
【化8】

ただし、R およびR 9’ は、それぞれ独立して、一価の炭化水素基または水酸基(-OH)を表し、この際、R の少なくとも1個およびR 9’ の少なくとも1個は、水酸基(-OH)であり、
10 は、それぞれ独立して、一価の炭化水素基を表し、
rは、1,000~30,000の整数である、
で示される水酸基含有ポリオルガノシロキサン(4)のいずれか一方と、
を含み、
前記ポリジオルガノシロキサン(2)は、前記アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)または前記水酸基含有ポリオルガノシロキサン(4)に対する質量比が0.7~3.0の割合で含まれる、コーティング剤。
【請求項4】
前記一般式(1)中のR1’は、それぞれ独立して、一価の炭化水素基である、請求項1~3のいずれか1項に記載のコーティング剤。
【請求項5】
前記ポリジオルガノシロキサン(2)は、前記ポリオルガノシロキサン(1)と、前記ポリジオルガノシロキサン(2)と、前記アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)または前記水酸基含有ポリオルガノシロキサン(4)と、の合計質量に対して、40~75質量%の割合で含まれる、請求項1~4のいずれか1項に記載のコーティング剤。
【請求項6】
前記ポリオルガノシロキサン(1)は、前記ポリオルガノシロキサン(1)と、前記ポリジオルガノシロキサン(2)と、前記アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)または前記水酸基含有ポリオルガノシロキサン(4)と、の合計質量に対して、2.4~5.5質量%の割合で含まれる、請求項1~のいずれか1項に記載のコーティング剤。
【請求項7】
前記ポリオルガノシロキサン(1)は、前記ポリオルガノシロキサン(1)と、前記ポリジオルガノシロキサン(2)と、前記アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)または前記水酸基含有ポリオルガノシロキサン(4)と、の合計質量に対して、3.0~4.5質量%の割合で含まれる、請求項1~6のいずれか1項に記載のコーティング剤。
【請求項8】
前記一般式(2)中のnに対する前記一般式(1)中のmの比(m/n)は、5~400である、請求項1~のいずれか1項に記載のコーティング剤。
【請求項9】
前記一般式(1)において、R、R1’およびRは、それぞれ独立して、炭素数1~4の直鎖もしくは分岐状のアルキル基であり、
前記一般式(2)において、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数1~4の直鎖もしくは分岐状のアルキル基である、請求項1~のいずれか1項に記載のコーティング剤。
【請求項10】
前記一般式(3)において、Rは、それぞれ独立して、炭素数1~4の直鎖もしくは分岐状のアルキル基であり、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数1~4の直鎖もしくは分岐状のアルキル基であり、Aは、γ-アミノプロピル基、N-(β-アミノエチル)アミノメチル基またはγ-(N-(β-アミノエチル)アミノ)プロピル基である、請求項1~のいずれか1項に記載のコーティング剤。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載のコーティング剤の硬化処理により表面処理してなる医療機器。
【請求項12】
針である、請求項11に記載の医療機器。
【請求項13】
前記硬化処理は、前記コーティング剤を含む塗膜を加熱するまたは放射線照射することによって行われる、請求項11または12に記載の医療機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング剤および当該コーティング剤で表面処理してなる医療機器に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、病気を患っている患者のみならず、健常な人も、健診などの様々な医療行為を受けている。例えば、注射は、治療のための薬液注入や手術時の麻酔などを目的として、病気を患う患者に使用されている。また、健常人であっても、献血、予防接種など、注射を経験することはしばしばある。しかし、穿刺時の痛みや薬液注入時の違和感などにより、注射は患者や健常人に多大な苦痛を与えている。このため、痛みを緩和する目的で、注射針の先端部の形状や注射針表面へのコーティング剤など、様々な検討がなされてきた。このうち、注射針表面へのコーティング剤としてはシリコーンが主として用いられている。このシリコーンコーティング剤は、注射針に潤滑性を付与し、穿刺時の摩擦を低減する。そのため、シリコーンコーティング剤がコーティングされた注射針は、注射時の痛みを緩和する。例えば、特開平7-178159号公報では、アミノ基含有ポリオルガノシロキサンおよびポリジオルガノシロキサンを特定の混合比で含むシリコーンコーティング剤が提案されている。当該コーティング剤がコーティングされた注射針は、優れた刺通特性を示す。
【発明の概要】
【0003】
しかしながら、上記特開平7-178159号公報に記載のコーティング剤でコーティングされた注射針をもってしても、患者ら被術者に完全に痛みを与えないというわけにはいかず、より刺通特性の向上が求められている。
【0004】
また、シリコーンコーティング剤でコーティングされた針は、複数回の穿刺に使用されることがある。例えば、シリコーンコーティング処理された針は、薬瓶の栓に刺通して薬液を吸引した後、患者に注射する場合に使用されることがある。また、シリコーンコーティング処理されたビン針は、輸液バッグを交換する際、異なる輸液バッグに繰り返し刺し換えられる場合がある。このような場合には、コーティング剤による被膜が針表面から剥離して、使用中に摩擦(穿刺抵抗)が増大して患者に苦痛を与えるなどという課題があった。このため、耐久性(コーティングの剥離の抑制・防止性)をより向上することもまた求められている。
【0005】
したがって、本発明の目的は、上記事情を鑑みてなされたものであり、刺通特性が向上したコーティング剤および当該コーティング剤で表面処理(塗布)されてなる医療機器(特に、針)を提供することである。また、本発明の他の目的は、耐久性が向上したコーティング剤および当該コーティング剤で表面処理(塗布)されてなる医療機器(特に、針)を提供することである。
【0006】
本発明者は、上記の問題を解決すべく、鋭意研究を行った。その結果、重合度の異なる二種のポリオルガノシロキサンおよびアミノ基含有ポリオルガノシロキサンまたは水酸基含有ポリオルガノシロキサンを含むコーティング剤によって、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、上記諸目的は、(1)下記一般式(1):
【0008】
【化1】
【0009】
ただし、RおよびRは、それぞれ独立して、一価の炭化水素基を表し、
1’は、それぞれ独立して、一価の炭化水素基または水酸基(-OH基)を表し、
mは、1,500~30,000の整数である、
で示される、ポリオルガノシロキサン(1)と、
(2)下記一般式(2):
【0010】
【化2】
【0011】
ただし、RおよびRは、それぞれ独立して、一価の炭化水素基を表し、
nは、8~1,000の整数である、
で示される、ポリジオルガノシロキサン(2)と、
(3)下記一般式(3):
【0012】
【化3】
【0013】
ただし、Rは、それぞれ独立して、一価の炭化水素基または-OR基を表し、この際、Rは、それぞれ独立して、置換または非置換の炭素数1~4の一価の炭化水素基を表し、
およびRは、それぞれ独立して、一価の炭化水素基を表し、
Aは、それぞれ独立して、アミノ基含有基を表し、
p:q=5~100:1であり、および
qは、1~100の整数である、
で示される、1分子中に少なくとも1個のアミノ基を含有するアミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)および
(4)下記一般式(4):
【0014】
【化4】
【0015】
ただし、RおよびR9’は、それぞれ独立して、一価の炭化水素基または水酸基(-OH)を表し、この際、Rの少なくとも1個およびR9’の少なくとも1個は、水酸基(-OH)であり、
10は、それぞれ独立して、一価の炭化水素基を表し、
rは、1,000~30,000の整数である、
で示される水酸基含有ポリオルガノシロキサン(4)のいずれか一方と、
を含むコーティング剤によって達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1A図1Aは、実施例1~3(Ex.1~3)および比較例1~2(Com.1~2)のコーティング剤で加熱により表面処理した針の初期(0回穿刺時)の穿刺抵抗(摺動抵抗値(mN))を示すグラフである。
図1B図1Bは、実施例1~3(Ex.1~3)および比較例1~2(Com.1~2)のコーティング剤で加熱により表面処理した針の10回穿刺後の穿刺抵抗(摺動抵抗値(mN))を示すグラフである。
図2A図2Aは、実施例2、4~7(Ex.2、4~7)および比較例1~2(Com.1~2)のコーティング剤で加熱により表面処理した針の初期(0回穿刺時)の穿刺抵抗(摺動抵抗値(mN))を示すグラフである。
図2B図2Bは、実施例2、4~7(Ex.2、4~7)および比較例1~2(Com.1~2)のコーティング剤で加熱により表面処理した針の10回穿刺後の穿刺抵抗(摺動抵抗値(mN))を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を説明する。本発明のコーティング剤は、(1)下記一般式(1):
【0018】
【化5】
【0019】
ただし、RおよびRは、それぞれ独立して、一価の炭化水素基を表し、
1’は、それぞれ独立して、一価の炭化水素基または水酸基(-OH基)を表し、
mは、1,500~30,000の整数である、
で示される、ポリオルガノシロキサン(1)と、
(2)下記一般式(2):
【0020】
【化6】
【0021】
ただし、RおよびRは、それぞれ独立して、一価の炭化水素基を表し、
nは、8~1,000の整数である、
で示される、ポリジオルガノシロキサン(2)と、
(3)下記一般式(3):
【0022】
【化7】
【0023】
ただし、Rは、それぞれ独立して、一価の炭化水素基または-OR基を表し、この際、Rは、それぞれ独立して、置換または非置換の炭素数1~4の一価の炭化水素基を表し、
およびRは、それぞれ独立して、一価の炭化水素基を表し、
Aは、それぞれ独立して、アミノ基含有基を表し、
p:q=5~100:1であり、および
qは、1~100の整数である、
で示される、1分子中に少なくとも1個のアミノ基を含有するアミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)および
(4)下記一般式(4):
【0024】
【化8】
【0025】
ただし、RおよびR9’は、それぞれ独立して、一価の炭化水素基または水酸基(-OH)を表し、この際、Rの少なくとも1個およびR9’の少なくとも1個は、水酸基(-OH)であり、
10は、それぞれ独立して、一価の炭化水素基を表し、
rは、1,000~30,000の整数である、
で示される水酸基含有ポリオルガノシロキサン(4)のいずれか一方と、
を含む。上記構成を有するコーティング剤は潤滑性に優れる。このため、本発明のコーティング剤で表面処理された針は、穿刺時の摩擦(穿刺抵抗または刺通抵抗)を低減して、刺通特性(特に、初期の刺通特性)を向上できる。さらに、本発明のコーティング剤は、強固な被膜を形成し、また、基材(例えば、針、カテーテル、カニューレ等の医療機器)表面との密着性にも優れるため、コーティングの基材からの剥離を抑制・防止でき、耐久性に優れる。
【0026】
なお、本明細書において、一般式(1)で示されるポリオルガノシロキサン(1)を「ポリオルガノシロキサン(1)」と、一般式(2)で示されるポリジオルガノシロキサン(2)を、「ポリジオルガノシロキサン(2)」または「ポリオルガノシロキサン(2)」と、一般式(3)で示される1分子中に少なくとも1個のアミノ基を含有するアミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)を「アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)」または「ポリオルガノシロキサン(3)」と、一般式(4)で示される水酸基含有ポリオルガノシロキサン(4)を「水酸基含有ポリオルガノシロキサン(4)」または「ポリオルガノシロキサン(4)」と、それぞれ称する。
【0027】
上記したように、本発明のコーティング剤は、
(a)重合度の大きいポリオルガノシロキサン(1)と、重合度の小さいポリジオルガノシロキサン(2)と、を必須に含み、
(b)上記成分に加えて、さらに、アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)および水酸基含有ポリオルガノシロキサン(4)のいずれか一方を含むことを特徴とする。
【0028】
すなわち、本発明のコーティング剤は、ポリオルガノシロキサン(1)、ポリジオルガノシロキサン(2)およびアミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)を含むか、または、ポリオルガノシロキサン(1)、ポリジオルガノシロキサン(2)および水酸基含有ポリオルガノシロキサン(4)を含む。
【0029】
上記組成により、本発明のコーティング剤は、基材との摩擦を低減でき、刺通特性(特に、初期の刺通特性)に優れる。また、本発明のコーティング剤は、被膜形成性に優れ、基材(例えば、針、カテーテル、カニューレ、三方活栓)表面との密着性に優れるため、コーティング剤による表面処理物(被膜)の基材からの剥離を抑制・防止でき、耐久性に優れる。また、上記効果が達成しうる理由は不明であるが、以下のように推測される。なお、本発明は、下記推測によって限定されない。
【0030】
本発明者は、上記特開平7-178159号公報に記載のコーティング剤の刺通特性のさらなる向上について鋭意検討を行った。また、これと共に、コーティング剤の基材に対する耐久性の向上についても鋭意検討を行った。その結果、上記したような特徴(a)および(b)が有効な手段であることを見出した。
【0031】
本発明に係るコーティング剤は、上記において特徴(b)として述べたように、アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)および水酸基含有ポリオルガノシロキサン(4)のいずれか一方を含む。ここで、アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)は、そのアミノ基により、また、水酸基含有ポリオルガノシロキサン(4)は、その両末端の水酸基により、基材と結合すると考えられる。そして、これらのアミノ基または水酸基が、基材(例えば、金属基材表面の水酸基)と結合(比較的長い架橋構造を形成)し、さらに、ポリオルガノシロキサン部分が網目構造を形成し、被膜を形成する。このようにして、アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)および水酸基含有ポリオルガノシロキサン(4)は、基材との密着性および被膜形成性に寄与する。
【0032】
本発明に係るコーティング剤は、さらに、上記において特徴(a)として述べたように、重合度が大きな(一般式(1)中のmが1,500~30,000の整数である)ポリオルガノシロキサン(1)および重合度が小さな(一般式(2)中のnが8~1,000の整数である)ポリジオルガノシロキサン(2)を含む。
【0033】
重合度の大きいポリオルガノシロキサン(1)は、その長い分子鎖(ポリオルガノシロキサン部分)によって、被膜の形成に寄与するだけでなく、ポリオルガノシロキサン部分によって、潤滑性を付与する(刺通特性を向上する)ことができると考えられる。さらに、重合度の小さいポリジオルガノシロキサン(2)は、そのポリジオルガノシロキサン部分により、刺通特性を向上させる。
【0034】
より詳細には、ポリオルガノシロキサン(1)およびポリジオルガノシロキサン(2)は、上記アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)または水酸基含有ポリオルガノシロキサン(4)により形成された被膜の網目にしみ込む(分子鎖が絡まる)ようにして存在していると推測される。そして、これらの成分は、摩擦力が加わった際、上記被膜の網目からしみ出し、潤滑性を向上させる(刺通特性を向上させる)と考えられる。
【0035】
このように、重合度の大きいポリオルガノシロキサン(1)は、被膜の一部となりつつ、摩擦力が加わった際には染み出すことができる。ここで、重合度の大きいポリオルガノシロキサン(1)は、重合度の小さいポリオルガノシロキサン(2)と比較して、アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)や水酸基含有ポリオルガノシロキサン(4)との絡み合いが強くなる。このため、摩擦力が小さい場合にはポリオルガノシロキサン(2)が主として染み出し、摩擦力が大きい場合にはポリオルガノシロキサン(2)に加えてポリオルガノシロキサン(1)も染み出る。このため、本発明のコーティング剤で表面された医療用具(例えば、針)は、摩擦力の大小にかかわらず、優れた潤滑性を発揮できる。また、ポリオルガノシロキサン(1)を含む被膜はその重合度の大きさにより、ポリオルガノシロキサン(1)を含まない被膜に比して、膜強度が高い。このため、本発明のコーティング剤で表面された医療用具(例えば、針)は、被膜の強固さにより、摩擦によるコーティング剤の剥離を抑制・防止し、耐久性を向上できる。したがって、ポリオルガノシロキサン(1)は、被膜形成性に部分的に寄与しながら、潤滑性の向上にも寄与することができる。したがって、本発明に係るコーティング剤は、基材との摩擦を低減でき、刺通特性に優れる。
【0036】
さらに、本発明に係るコーティング剤は、上記特徴(b)によるように、被膜形成性に寄与するアミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)または水酸基含有ポリオルガノシロキサン(4)を含有することによって、本発明のコーティング剤による被膜の強度を向上することができる。これらの成分による被膜の強固さにより、ポリオルガノシロキサン(1)およびポリジオルガノシロキサン(2)が被膜にしっかりと保持され、摩擦によるポリオルガノシロキサン(1)およびポリジオルガノシロキサン(2)の脱離を抑制・防止し、耐久性を向上できる。
【0037】
以上のように、本発明に係るコーティング剤は、基材に塗布された際に、潤滑性(特に初期の刺通特性)を向上できる。また、本発明に係るコーティング剤は、基材に塗布された際に、耐久性を向上できる。さらに、本発明のコーティング剤は、基材に塗布された際に、潤滑性、密着性および被膜形成性の良好なバランスを達成できる。ゆえに、本発明に係るコーティング剤は、上記したような特性を強く要求される医療機器、特に注射針等の針に特に好適に使用できる。すなわち、本発明は、コーティング剤で表面処理された医療機器(例えば、生体への挿入時に摩擦を生じる医療機器、例えば、針、カテーテル、カニューレ)をも提供する。
【0038】
このような医療機器であれば、複数回使用した場合であっても、医療機器表面からの被膜(コーティング剤)の剥離が抑制される。ゆえに、高い潤滑性を維持できるため、使用中の摩擦(穿刺抵抗)を低減することができる結果、患者に与える苦痛を有効に軽減できる。さらに、本発明のコーティング剤を用いることにより、被膜が医療機器(基材)表面から剥離することを抑制・防止できる。このため、本発明のコーティング剤で表面処理された医療用具(例えば、針、カテーテル、カニューレ、三方活栓)は、コーティング剤による表面処理物(被膜)の基材からの剥離を抑制・防止でき、潤滑性を長期間維持できる(耐久性に優れる)。ゆえに、本発明のコーティング剤で表面処理された針を輸液バッグに刺しかえても、異物(被膜剥離物)が輸液バックの中に混入することが抑制・防止できるため、安全性の観点からも好ましい。また、三方活栓は生体へ挿入しないが、三方活栓の動作部の摺動性が維持できる。
【0039】
以下、本発明の実施の形態を説明する。本明細書において、範囲を示す「X~Y」は、XおよびYを含み、「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で測定する。
【0040】
なお、以下では、医療機器が針である形態について詳細に説明しているが、本発明は下記形態に限定されない。例えば、カテーテルなどの他の医療機器についても同様にして適用できる。
【0041】
[ポリオルガノシロキサン(1)]
本発明に係るポリオルガノシロキサン(1)は、下記一般式(1):
【0042】
【化9】
【0043】
で示される。なお、式:-Si(RO-の構成単位が複数存在する場合には、各構成単位は同一であってもまたは異なるものであってもよい。また、本発明のコーティング剤は、ポリオルガノシロキサン(1)を1種単独で含んでも、または2種以上のポリオルガノシロキサン(1)を含んでもよい。
【0044】
ポリオルガノシロキサン(1)は、重合度(m)が比較的大きなポリオルガノシロキサンである。ポリオルガノシロキサン(1)は、上記構造から示されるように、分子鎖両末端にトリオルガノシリル基を有し、分子中にアミノ基を含有しないポリオルガノシロキサンであるか、または、分子鎖の一端(片末端)にトリオルガノシリル基を、他端にヒドロキシ(オルガノ)シリル基を有し、分子中にアミノ基を含有しない、ポリオルガノシロキサンである。
【0045】
ポリオルガノシロキサン(1)は、そのオルガノシロキサン部分により被膜の一部を形成すると共に、アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)や水酸基含有ポリオルガノシロキサン(4)が形成した被膜(網目構造)に潤滑性を付与する。このため、ポリオルガノシロキサン(1)を含む本発明のコーティング剤によって形成される被膜は、特に大きな摩擦力が加わった際の初期刺通時に、高い潤滑性(刺通容易性、刺通抵抗の低減効果)を発揮できる。また、ポリオルガノシロキサン(1)は、大きな重合度を有するため、本発明に係るコーティング剤によって形成される被膜は、膜強度が高い。よって、耐久性に優れた被膜を形成することができる。
【0046】
上記一般式(1)において、Rは、一価の炭化水素基を表し、R1’は、一価の炭化水素基または水酸基(-OH)を表す。ここで、RおよびR1’は、同一であってもまたは異なるものであってもよい。また、-Si(Rにおいて、複数のRは、それぞれ、同一であってもまたは異なるものであってもよい。同様にして、-Si(R1’において、複数のR1’は、それぞれ、同一であってもまたは異なるものであってもよい。
【0047】
ここで、上述のように、一般式(1)は、両末端が一価の炭化水素基(すなわち、RおよびR1’がすべて一価の炭化水素基)である形態と、一方の末端は一価の炭化水素基であり、他方の末端に水酸基を含む形態(すなわち、Rが一価の炭化水素基であり、R1’の少なくとも1個が水酸基である形態)を含む。潤滑性(刺通特性)の向上効果を考慮すると、ポリオルガノシロキサン(1)は、前者の形態(すなわち、RおよびR1’がすべて一価の炭化水素基である形態)が好ましい。すなわち、前記一般式(1)中のR1’は、それぞれ独立して、一価の炭化水素基であると好ましい。さらに換言すると、RおよびR1’が、それぞれ独立して、一価の炭化水素基であると好ましい。後者の形態(すなわち、Rが一価の炭化水素基であり、R1’の少なくとも1個が水酸基)である形態では、一方の末端が水酸基により基材に結合し、ポリオルガノシロキサン部分が自由に動ける範囲が制限される。これに対し、前者の形態では、いずれの末端も基材に固定されないため、ポリオルガノシロキサン部分が自由に動くことができる。その結果、摩擦力が加わった際、ポリオルガノシロキサン(1)が容易にしみ出すことができるため、潤滑性(刺通特性)が向上しやすい。
【0048】
一方、被膜の耐久性の向上効果などを考慮すると、R1’の少なくとも1個は、水酸基であることが好ましい。かような形態であると、水酸基が基材に結合することができるため、被膜の耐久性が向上しやすい。
【0049】
およびR1’としての一価の炭化水素基は、特に制限されないが、例えば、炭素数1~24の直鎖もしくは分岐状のアルキル基、炭素数2~24の直鎖もしくは分岐状のアルケニル基、炭素数3~9のシクロアルキル基、炭素数6~30のアリール基などが挙げられる。
【0050】
ここで、炭素数1~24の直鎖もしくは分岐状のアルキル基としては、特に制限されないが、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、tert-ペンチル基、ネオペンチル基、1,2-ジメチルプロピル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、1,3-ジメチルブチル基、1-イソプロピルプロピル基、1,2-ジメチルブチル基、n-ヘプチル基、1,4-ジメチルペンチル基、3-エチルペンチル基、2-メチル-1-イソプロピルプロピル基、1-エチル-3-メチルブチル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、3-メチル-1-イソプロピルブチル基、2-メチル-1-イソプロピル基、1-t-ブチル-2-メチルプロピル基、n-ノニル基、3,5,5-トリメチルヘキシル基、n-デシル基、イソデシル基、n-ウンデシル基、1-メチルデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、n-エイコシル基、n-ヘンエイコシル基、n-ドコシル基、n-トリコシル基、n-テトラコシル基などが挙げられる。炭素数2~24の直鎖もしくは分岐状のアルケニル基としては、特に制限されないが、例えば、ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基(アリル基)、イソプロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、3-ペンテニル基、1-ヘキセニル基、2-ヘキセニル基、3-ヘキセニル基、1-ヘプテニル基、2-ヘプテニル基、5-ヘプテニル基、1-オクテニル基、3-オクテニル基、5-オクテニル基、ドデセニル基、オクタデセニル基などが挙げられる。炭素数3~9のシクロアルキル基としては、特に制限されないが、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基などが挙げられる。炭素数6~30のアリール基としては、特に制限されないが、例えば、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ペンタレニル基、インデニル基、ナフチル基、アズレニル基、ヘプタレニル基、ビフェニレニル基、フルオレニル基、アセナフチレニル基、プレイアデニル基、アセナフテニル基、フェナレニル基、フェナントリル基、アントリル基、フルオランテニル基、アセフェナントリレニル基、アセアントリレニル基、トリフェニレニル基、ピレニル基、クリセニル基、ナフタセニル基などが挙げられる。
【0051】
これらのうち、潤滑性のさらなる向上効果、溶媒との相溶性などの観点から、RおよびR1’は、炭素数1~16の直鎖もしくは分岐状のアルキル基が好ましく、炭素数1~8の直鎖もしくは分岐状のアルキル基がより好ましく、炭素数1~4の直鎖もしくは分岐状のアルキル基がさらにより好ましく、メチル基が特に好ましい。なお、上記「相溶性」は、異種分子間での相互溶解性をいい、分子レベルでの混ざりやすさを意味する。
【0052】
上記一般式(1)において、Rは、一価の炭化水素基を表す。ここで、1つの構成単位中に存在する各Rは、同一であってもまたは異なるものであってもよい。また、構成単位が複数存在する場合には、各構成単位は同一であってもまたは異なるものであってもよい。Rとしての一価の炭化水素基は、上記RおよびR1’における定義と同様であるため、ここでは説明を省略する。潤滑性、耐久性のさらなる向上効果、溶媒への相溶性などの観点から、Rは、炭素数1~16の直鎖もしくは分岐状のアルキル基が好ましく、炭素数1~8の直鎖もしくは分岐状のアルキル基がより好ましく、炭素数1~4の直鎖もしくは分岐状のアルキル基がさらにより好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0053】
すなわち、本発明の好ましい形態によると、一般式(1)において、RおよびR1’が、それぞれ独立して、炭素数1~4の直鎖もしくは分岐状のアルキル基であり、Rが、それぞれ独立して、炭素数1~4の直鎖もしくは分岐状のアルキル基である。また、本発明のより好ましい形態によると、一般式(1)において、RおよびR1’がメチル基であり、Rがメチル基である。
【0054】
また、mは、1,500~30,000の整数であり、好ましくは2,000~20,000の整数であり、より好ましくは3,000~15,000の整数であり、特に好ましくは3,500~10,000の整数である。上記したような範囲であれば、ポリオルガノシロキサン(1)により、十分な潤滑性(刺通特性)の向上効果を得ることができる。ポリオルガノシロキサン(1)の分子量は特に制限されないが、重量平均分子量が100,000~2,000,000であることが好ましく、150,000~1,500,000であることがより好ましく、200,000~1,000,000であることがさらにより好ましく、250,000~800,000であることが特に好ましい。本明細書において、重量平均分子量は、ゲルろ過クロマトグラフィー(GPC)分析による測定結果から、ポリスチレンを標準物質とした検量線法により求めた値を意味する。また、本明細書中、重合度(一般式(1)中のm、一般式(2)中のn、一般式(3)中のpおよびq、ならびに一般式(4)中のr、等)は、上記重量平均分子量と、ポリオルガノシロキサン(1)~(4)の構造(繰り返し単位の構造)に基づき算出できる。なお、ポリオルガノシロキサン(1)~(4)の構造(繰り返し単位の構造)は、H-NMR等の手法により特定できる。
【0055】
さらに、mは、以下で詳説する一般式(2)中のnとの関係において、以下を満たすと好ましい。すなわち、一般式(2)中のnに対する一般式(1)中のmの比(m/n)は、5~400であると好ましい。
【0056】
上記したような範囲であれば、ポリオルガノシロキサン(1)およびポリジオルガノシロキサン(2)による潤滑性(刺通特性)の向上効果がより得られやすい。また、耐久性も同時に向上させるという観点から、さらに、上記比(m/n)は、50~300がより好ましく、100~250であるとさらにより好ましく、100~200であると特に好ましい。
【0057】
具体的には、ポリオルガノシロキサン(1)の好ましい例としては、ポリジメチルシロキサン、ポリジエチルシロキサン、ポリジプロピルシロキサン、ポリジイソプロピルシロキサン、ポリメチルエチルシロキサン、ポリメチルプロピルシロキサン、ポリメチルイソプロピルシロキサン、ポリエチルプロピルシロキサン、ポリエチルイソプロピルシロキサンなどがある。これらのうち、潤滑性(刺通特性)などを考慮すると、ポリジメチルシロキサン、ポリジエチルシロキサンが好ましく、ポリジメチルシロキサンがより好ましい。
【0058】
ポリオルガノシロキサン(1)の含有量は、特に制限されない。潤滑性、密着性および被膜形成性のより良好なバランスを考慮すると、ポリオルガノシロキサン(1)の含有量は、ポリオルガノシロキサン(1)と、ポリジオルガノシロキサン(2)と、アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)または水酸基含有ポリオルガノシロキサン(4)と、の合計質量に対して、好ましくは2.0~6.0質量%、より好ましくは2.4~5.5質量%、さらにより好ましくは3.0~4.5質量%、特に好ましくは3.2~4.1質量%である。このような量であれば、潤滑性(刺通容易性、刺通抵抗の低減効果)および耐久性をより有効に向上できる。なお、ポリオルガノシロキサン(1)を2種以上含む場合には、上記含有量はポリオルガノシロキサン(1)の合計量を意味する。
【0059】
本発明のコーティング剤は、ポリオルガノシロキサン(1)を、ポリジオルガノシロキサン(2)に対する質量比が0.01~0.15の割合となる量で含んでいると好ましい。このような量であれば、潤滑性(刺通容易性、刺通抵抗の低減効果)および耐久性をより有効に向上できる。潤滑性および耐久性のさらなる向上効果などを考慮すると、ポリジオルガノシロキサン(2)に対するポリオルガノシロキサン(1)の質量比は、好ましくは0.02~0.14、より好ましくは0.03~0.10であり、さらにより好ましくは0.04~0.07であり、特に好ましくは0.05~0.06である。
【0060】
[ポリジオルガノシロキサン(2)]
本発明に係るポリジオルガノシロキサン(2)は、下記一般式(2):
【0061】
【化10】
【0062】
で示される。なお、式:-Si(RO-の構成単位が複数存在する場合には、各構成単位は同一であってもまたは異なるものであってもよい。また、本発明のコーティング剤は、ポリジオルガノシロキサン(2)を1種単独で含んでも、または2種以上のポリジオルガノシロキサン(2)を含んでもよい。
【0063】
ポリジオルガノシロキサン(2)は、重合度(n)が比較的小さなポリジオルガノシロキサンである。ポリジオルガノシロキサン(2)は、上記構造から示されるように、分子鎖両末端にトリオルガノシリル基を有し、分子中にアミノ基を含有しない、ポリジオルガノシロキサンであり、分子中に水酸基および加水分解性基を実質的に含有しない。
【0064】
ポリジオルガノシロキサン(2)は、そのオルガノシロキサン部分によりアミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)または水酸基含有ポリオルガノシロキサン(4)が形成した被膜に潤滑性を付与する。このため、ポリジオルガノシロキサン(2)の存在により、形成される被膜は、特に、小さな摩擦力が加わった際の初期刺通時に高い潤滑性(刺通容易性、刺通抵抗の低減効果)を発揮できる。
【0065】
上記一般式(2)において、RおよびRは、一価の炭化水素基を表す。ここで、複数のRは、同一であってもまたは異なるものであってもよい。同様にして、複数のRは、同一であってもまたは異なるものであってもよい。RおよびRとしての一価の炭化水素基は、上記一般式(1)における定義と同様であるため、ここでは説明を省略する。これらのうち、潤滑性のさらなる向上効果などの観点から、RおよびRとしての一価の炭化水素基は、炭素数1~16の直鎖もしくは分岐状のアルキル基が好ましく、炭素数1~8の直鎖もしくは分岐状のアルキル基がより好ましく、炭素数1~4の直鎖もしくは分岐状のアルキル基がさらにより好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0066】
すなわち、本発明の好ましい形態によると、一般式(2)において、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数1~4の直鎖もしくは分岐状のアルキル基である。また、本発明のより好ましい形態によると、一般式(2)において、RおよびRは、メチル基である。
【0067】
上記一般式(2)において、nは、8~1,000の整数であり、好ましくは10~200の整数であり、より好ましくは20~100であり、特に好ましくは30~50である。上記したような範囲であれば、ポリジオルガノシロキサン(2)により、十分な潤滑性(刺通特性)の向上効果が得られ、基材との摩擦(穿刺抵抗)をより低減できる。このため、ポリジオルガノシロキサン(2)の分子量は特に制限されないが、重量平均分子量が500~7,000であることが好ましく、1,500~5,000であることがより好ましく、2,000~4,000であることが特に好ましい。
【0068】
具体的には、ポリジオルガノシロキサン(2)の好ましい例としては、ポリジメチルシロキサン、ポリジエチルシロキサン、ポリジプロピルシロキサン、ポリジイソプロピルシロキサン、ポリメチルエチルシロキサン、ポリメチルプロピルシロキサン、ポリメチルイソプロピルシロキサン、ポリエチルプロピルシロキサン、ポリエチルイソプロピルシロキサンなどがある。これらのうち、潤滑性(刺通特性)などを考慮すると、ポリジメチルシロキサン、ポリジエチルシロキサンが好ましく、ポリジメチルシロキサンがより好ましい。
【0069】
ポリジオルガノシロキサン(2)の含有量は、特に制限されない。潤滑性、密着性および被膜形成性のより良好なバランスを考慮すると、ポリジオルガノシロキサン(2)の含有量は、ポリオルガノシロキサン(1)と、ポリジオルガノシロキサン(2)と、アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)または水酸基含有ポリオルガノシロキサン(4)と、の合計質量に対して、好ましくは40~75質量%、より好ましくは45~75質量%、さらにより好ましくは45~65質量%、さらに好ましくは50~65質量%、特に好ましくは55~65質量%である。このような量であれば、潤滑性(刺通容易性、刺通抵抗の低減効果)および耐久性をより有効に向上できる。なお、ポリジオルガノシロキサン(2)を2種以上含む場合には、上記含有量はポリジオルガノシロキサン(2)の合計量を意味する。
【0070】
本発明のコーティング剤は、ポリジオルガノシロキサン(2)を、アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)または水酸基含有ポリオルガノシロキサン(4)に対する質量比が0.7~3.0の割合となる量で含んでいると好ましい。このような量であれば、潤滑性(刺通容易性、刺通抵抗の低減効果)および耐久性をより有効に向上できる。潤滑性および耐久性のさらなる向上効果などを考慮すると、アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)または水酸基含有ポリオルガノシロキサン(4)に対するポリジオルガノシロキサン(2)の質量比は、好ましくは0.9~2.5、より好ましくは1.1~2.4であり、さらにより好ましくは1.1~2.0であり、特に好ましくは1.5~2.0である。
【0071】
[アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)]
本発明に係るアミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)は、下記一般式(3):
【0072】
【化11】
【0073】
で示される。なお、式:-Si(RO-の構成単位が2以上存在する(pが2以上である)場合には、各構成単位は同一であってもまたは異なるものであってもよい。同様にして、式:-Si(R)(A)O-の構成単位が2以上存在する(qが2以上である)場合には、各構成単位は同一であってもまたは異なるものであってもよい。
【0074】
本発明のコーティング剤がアミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)含む場合、アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)は、1種単独でも、または2種以上を含んでもよい。
【0075】
アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)は、アミノ基(一般式(3)中の置換基「A」)を介して、基材、特に基材表面に存在する水酸基(例えば、金属基材表面の水酸基)と相互作用して、基材と結合(密着)できる。このため、アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)を含む本発明のコーティング剤は被膜形成性に優れる。さらに、アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)により形成される被膜中にポリオルガノシロキサン(1)やポリジオルガノシロキサン(2)をしっかりと保持できる。ゆえに、本発明のコーティング剤は、耐久性に加え、潤滑性(刺通特性)にもまた優れる。また、本発明に係るアミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)に存在するオルガノシロキサン部分(-Si(RO-)は、潤滑性(刺通容易性)を付与する。したがって、本発明のコーティング剤で表面処理された針高い潤滑性を維持できるため、使用中の摩擦(穿刺抵抗)が小さく、患者に与える苦痛を有効に低減できる。
【0076】
上記一般式(3)において、Rは、一価の炭化水素基または-OR基である。ここで、複数のRは、同一であってもまたは異なるものであってもよい。ここで、一価の炭化水素基は、上記一般的(1)における定義と同様であるため、ここでは説明を省略する。これらのうち、潤滑性、耐久性のさらなる向上効果、溶媒への相溶性などの観点から、Rは、炭素数1~16の直鎖もしくは分岐状のアルキル基が好ましく、炭素数1~8の直鎖もしくは分岐状のアルキル基がより好ましく、炭素数1~4の直鎖もしくは分岐状のアルキル基がさらにより好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0077】
また、Rとしての-ORについて、Rは、それぞれ独立して、置換または非置換の炭素数1~4の一価の炭化水素基を表す。ここで、複数のRが-OR基である場合には、当該複数の-OR基は、同じあってもまたは相互に異なるものであってもよい。ここで、一価の炭化水素基は、特に制限されないが、例えば、炭素数1~4の直鎖もしくは分岐状のアルキル基(メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基)、炭素数2~4の直鎖もしくは分岐状のアルケニル基(ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基(アリル基)、イソプロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基)、炭素数3または4のシクロアルキル基(シクロプロピル基、シクロブチル基)でありうる。これらのうち、潤滑性のより向上効果、基材への密着性などの観点から、メチル基、エチル基が好ましい。
【0078】
上記一般式(3)において、RおよびRは、一価の炭化水素基を表す。ここで、オルガノシロキサン部分(-Si(RO-)における各Rおよび式:-Si(R)(A)O-の構成単位中のRは、それぞれ同一であってもまたは異なるものであってもよい。ここで、一価の炭化水素基は、特に制限されないが、上記置換基「R」と同様の定義である、すなわち上記一般的(1)における定義と同様であるため、ここでは説明を省略する。これらのうち、潤滑性のさらなる向上効果、入手のしやすさなどの観点から、RおよびRは、炭素数1~4の直鎖のアルキル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0079】
上記一般式(3)において、Aは、アミノ基含有基を表す。ここで、Aが複数存在する(qが2以上である)場合には、各Aは、同一であってもまたは異なるものであってもよい。アミノ基含有基は、特に制限されないが、例えば、β-アミノエチル基、γ-アミノプロピル基、N-(β-アミノエチル)アミノメチル基、γ-(N-(β-アミノエチル)アミノ)プロピル基などが挙げられる。これらのうち、潤滑性のさらなる向上効果、基材への密着性などの観点から、γ-アミノプロピル基、N-(β-アミノエチル)アミノメチル基またはγ-(N-(β-アミノエチル)アミノ)プロピル基が好ましく、γ-(N-(β-アミノエチル)アミノ)プロピル基、γ-アミノプロピル基がより好ましく、γ-(N-(β-アミノエチル)アミノ)プロピル基が特に好ましい。すなわち、本発明の好ましい形態によると、一般式(3)において、Rは、それぞれ独立して、炭素数1~4の直鎖もしくは分岐状のアルキル基であり、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数1~4の直鎖もしくは分岐状のアルキル基であり、Aは、γ-アミノプロピル基、N-(β-アミノエチル)アミノメチル基またはγ-(N-(β-アミノエチル)アミノ)プロピル基である。また、本発明のより好ましい形態によると、一般式(3)において、Rはメチル基であり、RおよびRはメチル基であり、Aはγ-(N-(β-アミノエチル)アミノ)プロピル基である。
【0080】
また、上記一般式(3)において、qは、1~100の整数であり、好ましくは3~20の整数であり、より好ましくは3~15の整数であり、特に好ましくは4~10の整数である。また、pは、qと、p:q=5~100:1の関係(モル比)を満たす整数である。好ましくは、p:q=10~100:1であり、より好ましくは20~80:1であり、特に好ましくは30~50:1である。上記したようなpおよびqであれば、アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)中に十分数のアミノ基が存在するため、基材との十分な密着性を達成できる。また、このようなpおよびqであれば、アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)中に十分数のオルガノシロキサン部分が存在するため、コーティング剤はより十分な潤滑性を発揮して、基材との摩擦(穿刺抵抗)をより低減できる。pは、上記関係を満たす限り、特に制限されないが、10~800、より好ましくは60~400、特に好ましくは100~300であることが好ましい。
【0081】
アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)の分子量は特に制限されないが、重量平均分子量が5,000~50,000であることが好ましく、7,500~30,000であることがより好ましく、10,000~20,000であることが特に好ましい。
【0082】
本発明に係るアミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)の製造方法は、特に制限されない。例えば、本発明に係るアミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)は、特開平7-178159号公報等の公知の文献に記載の方法と同様にしてあるいは適宜修飾して製造できる。
【0083】
アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)の含有量は、特に制限されない。潤滑性、密着性および被膜形成性のより良好なバランスを考慮すると、アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)の含有量は、ポリオルガノシロキサン(1)と、ポリジオルガノシロキサン(2)と、アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)と、の合計質量に対して、好ましくは24~57質量%、より好ましくは24~54質量%、さらにより好ましくは32~54質量%、さらに好ましくは32~45質量%、特に好ましくは32~41質量%である。このような量であれば、基材との密着性および潤滑性(刺通容易性、刺通抵抗の低減効果)をより有効に向上できる。加えて、コーティング剤の安全性をより向上でき、特に針などの医療用途に使用する場合には好ましい。なお、アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)を2種以上含む場合には、上記含有量はアミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)の合計量を意味する。
【0084】
[水酸基含有ポリオルガノシロキサン(4)]
本発明に係る水酸基含有ポリオルガノシロキサン(4)は、下記一般式(4):
【0085】
【化12】
【0086】
で示される。なお、式:-Si(R10O-の構成単位が2以上存在する(rが2以上である)場合には、各構成単位は同一であってもまたは異なるものであってもよい。
【0087】
本発明のコーティング剤が水酸基含有ポリオルガノシロキサン(4)を含む場合、水酸基含有ポリオルガノシロキサン(4)は、1種単独でも、または2種以上を含んでもよい。
【0088】
水酸基含有ポリオルガノシロキサン(4)は、両末端の水酸基が基材と結合し、被膜を形成する。このため、水酸基含有ポリオルガノシロキサン(4)を含む本発明のコーティング剤は被膜形成性に優れる。また、本発明に係る水酸基含有ポリオルガノシロキサン(4)は、両末端に水酸基(RおよびR9’)を有する。この水酸基は、基材、特に基材の水酸基と相互作用するため、基材との密着性に優れる。さらに、水酸基含有ポリオルガノシロキサン(4)により形成される被膜中にポリオルガノシロキサン(1)やポリジオルガノシロキサン(2)をしっかりと保持できる。ゆえに、本発明のコーティング剤は、耐久性にもまた優れる。したがって、本発明のコーティング剤で表面処理された針を用いれば、ゴム栓に複数回穿刺した場合であっても、被膜(コーティング剤)が針表面から剥離することが抑制される。したがって、本発明のコーティング剤で表面処理された針は、ゴム栓に複数回穿刺した場合であっても、被膜(コーティング剤)が針表面から剥離することが抑制される。
【0089】
上記一般式(4)において、RおよびR9’は、一価の炭化水素基または水酸基(-OH)を表す。ここで、RおよびR9’は、同一であってもまたは異なるものであってもよい。また、-Si(Rにおいて、複数のRは、それぞれ、同一であってもまたは異なるものであってもよい。同様にして、-Si(R9’において、複数のR9’は、それぞれ、同一であってもまたは異なるものであってもよい。ただし、Rの少なくとも1個およびR9’の少なくとも1個は、水酸基(-OH)である。被膜形成性のさらなる向上効果などを考慮すると、Rの1または2個および/またはR9’の1または2個が水酸基であることが好ましく、RおよびR9’が1個ずつ水酸基であることがより好ましい。
【0090】
およびR9’としての一価の炭化水素基は、上記一般式(1)における定義と同様であるため、ここでは説明を省略する。これらのうち、潤滑性のさらなる向上効果などの観点から、RおよびR9’としての一価の炭化水素基は、炭素数1~16の直鎖もしくは分岐状のアルキル基が好ましく、炭素数1~8の直鎖もしくは分岐状のアルキル基がより好ましく、炭素数1~4の直鎖もしくは分岐状のアルキル基がさらにより好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0091】
上記一般式(4)において、R10は、一価の炭化水素基を表す。ここで、1つの構成単位中に存在する各R10は、同一であってもまたは異なるものであってもよい。R10としての一価の炭化水素基は、上記RおよびR9’における定義と同様であるため、ここでは説明を省略する。潤滑性、耐久性のさらなる向上効果、溶媒への相溶性などの観点から、R10は、炭素数1~16の直鎖もしくは分岐状のアルキル基が好ましく、炭素数1~8の直鎖もしくは分岐状のアルキル基がより好ましく、炭素数1~4の直鎖もしくは分岐状のアルキル基がさらにより好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0092】
すなわち、本発明の好ましい形態によると、一般式(4)において、RおよびR9’の1個が水酸基であり、残りのRおよびR9’が、それぞれ独立して、炭素数1~4の直鎖もしくは分岐状のアルキル基であり、R10が、それぞれ独立して、炭素数1~4の直鎖もしくは分岐状のアルキル基である。また、本発明のより好ましい形態によると、一般式(4)において、RおよびR9’の1個が水酸基であり、残りのRおよびR9’がメチル基であり、R10がメチル基である。
【0093】
また、rは、1,000~30,000の整数であり、好ましくは5,000~20,000の整数であり、より好ましくは10,000~15,000である。上記したような範囲であれば、水酸基含有ポリオルガノシロキサン(4)は十分な被膜形成を発揮できる。水酸基含有ポリオルガノシロキサン(4)の分子量は特に制限されないが、重量平均分子量が10,000~2,000,000であることが好ましく、100,000~1,050,000であることがより好ましく、100,000~1,000,000であることがさらにより好ましく、500,000~1,000,000であることが特に好ましい。
【0094】
水酸基含有ポリオルガノシロキサン(4)の含有量は、特に制限されない。潤滑性、密着性および被膜形成性のより良好なバランスを考慮すると、ポリオルガノシロキサン(1)と、ポリジオルガノシロキサン(2)と、水酸基含有ポリオルガノシロキサン(4)と、の合計質量に対して、好ましくは2.4~5.5質量%、より好ましくは2.9~5.5質量%、さらにより好ましくは3.2~5.5質量%であり、さらにより好ましくは3.2~4.6質量%であり、特に好ましくは3.2~3.9質量%である。なお、水酸基含有ポリオルガノシロキサン(4)を2種以上含む場合には、上記含有量は水酸基含有ポリオルガノシロキサン(4)の合計量を意味する。
【0095】
[他の成分]
本発明のコーティング剤は、上記ポリオルガノシロキサン(1)、ポリジオルガノシロキサン(2)、アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)または水酸基含有ポリオルガノシロキサン(4)を必須に含む。ここで、本発明のコーティング剤は、上記ポリオルガノシロキサン(1)~(3)のみ、または(1)、(2)および(4)のみから構成されても、または上記に加えて他の成分をさらに含んでもよい。後者の場合、使用できる他の成分としては、特に制限されず、公知のコーティング剤、特に医療機器(例えば、注射針、カテーテル、カニューレ)の被覆用のコーティング剤に通常添加される成分が挙げられる。より具体的には、縮合反応触媒、抗酸化剤、色素、界面活性剤、スリップ剤、下塗り剤などが挙げられる。また、他の成分の含有量は、ポリオルガノシロキサン(1)~(3)による効果を阻害しない限り特に制限されないが、ポリオルガノシロキサン(1)~(3)の合計量、またはポリオルガノシロキサン(1)、(2)および(4)の合計量に対して、0.1~5質量%程度である。
【0096】
また、本発明のコーティング剤は、有機溶媒を含んでもよい。ここで、有機溶媒としては、特に制限されず、公知のコーティング剤に使用されるのと同様の溶媒が使用できる。具体的には、1,1,2-トリクロロ-1,2,2-トリフルオロエタンなどのフロン系溶剤、塩化メチレン(ジクロロメタン)、クロロホルムなどの塩素含有炭化水素、ブタン、ペンタン、ヘキサン等の脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、メチルイソブチルケトン等の非水溶性ケトン類、テトラヒドロフラン(THF)、ブチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどの脂肪族アルコール類、ヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサンなどの揮発性シロキサン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、二硫化炭素等が挙げられる。これらの有機溶媒は、単独で使用してもよいし、これらの溶媒を2種以上組み合わせた混合溶媒として使用してもよい。有機溶媒の使用量は、特に制限されないが、コーティングの容易性などを考慮すると、ポリオルガノシロキサン(1)~(3)の合計濃度、または、ポリオルガノシロキサン(1)、(2)および(4)の合計濃度が、5~80質量%であることが好ましく、50~75質量%程度であることがより好ましい。なお、本発明のコーティング剤を医療機器(例えば、針)にコーティングする場合には、上記コーティング剤を、さらに上記有機溶媒で希釈してもよい。この場合には、ポリオルガノシロキサン(1)~(3)の合計濃度、または、ポリオルガノシロキサン(1)、(2)および(4)の合計濃度が1~10質量%、より好ましくは3~7質量%となるように、有機溶媒で希釈することが好ましい。
【0097】
本発明のコーティング剤の製造方法は、特に制限されず、ポリオルガノシロキサン(1)~(3)、または、ポリオルガノシロキサン(1)、(2)および(4)、ならびに必要であれば上記他の成分を、上記した組成で混合して、撹拌・混合する方法が使用できる。上記方法において、有機溶媒を添加することが好ましい。これにより、実際に医療機器(例えば、針)などに容易にコーティングすることが可能になる。ここで、有機溶媒としては特に制限されず、上記他の成分として記載した有機溶媒が好ましく使用される。ここで、撹拌・混合条件は、特に制限されない。具体的には、撹拌・混合温度は、好ましくは25~130℃であり、より好ましくは40~100℃である。また、撹拌・混合時間は、好ましくは0.5~8時間であり、より好ましくは1~6時間である。このような条件であれば、上記ポリオルガノシロキサン(1)~(3)、または、ポリオルガノシロキサン(1)、(2)および(4)ならびに必要であれば上記他の成分は、望ましくない反応を起こすことなくかつ均一に混合できる。
【0098】
[好ましい組成]
潤滑性(刺通特性)をより向上させ、かつ、耐久性に優れた被膜を得るという観点から、本発明に係るコーティング剤に含まれるポリオルガノシロキサン成分は、ポリオルガノシロキサン(1)~(3)のみからなる、またはポリオルガノシロキサン(1)、(2)および(4)のみからなると好ましく、ポリオルガノシロキサン(1)~(3)のみからなるとより好ましい。
【0099】
さらに、本発明に係るコーティング剤は、ポリオルガノシロキサン(1)2.0~6.0質量%;ポリオルガノシロキサン(2)40~75質量%;およびアミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)24~57質量%を含んでいると好ましく、ポリオルガノシロキサン(1)2.4~5.5質量%;ポリオルガノシロキサン(2)45~75質量%;およびアミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)24~54質量%を含んでいるとより好ましく、ポリオルガノシロキサン(1)3.0~4.5質量%;ポリオルガノシロキサン(2)45~65質量%;およびアミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)32~54質量%を含んでいると特に好ましく、ポリオルガノシロキサン(1)3.2~4.1質量%;ポリオルガノシロキサン(2)55~65質量%;およびアミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)32~41質量%を含んでいると最も好ましい(ただし、上記において、ポリオルガノシロキサン(1)~(3)の合計量は、100質量%である)。かような配合比とすることにより、潤滑性(刺通特性)および耐久性について、バランスよく向上した被膜を形成することができる。
【0100】
[コーティング剤の用途]
上記本発明のコーティング剤は、対象物の潤滑性および耐久性を向上させることができる。このため、本発明のコーティング剤は、上記特性の要求が高い医療機器(例えば、針、カテーテル、カニューレ)の分野で特に好適に使用できる。したがって、本発明は、本発明のコーティング剤の硬化処理により表面処理してなる医療機器をも提供する。また、本発明は、医療機器表面を本発明のコーティング剤で硬化処理することを有する、医療機器の製造方法をも提供する。
【0101】
医療機器は、上記特性が要求されるものであればいずれの用途で使用されてもよい。例えば、カテーテル、カニューレ、針、三方活栓、ガイドワイヤーなどが挙げられる。これらのうち、本発明のコーティング剤は、カテーテル、カニューレ、針、三方活栓に好ましく使用でき、針、特に医療用針(例えば、注射針)により好ましく使用できる。すなわち、本発明の好ましい形態では、本発明のコーティング剤の硬化処理により表面処理してなる針が提供される。
【0102】
本発明のコーティング剤によれば、初回の穿刺時の摩擦が低減される。よって、本発明に係る針、特に医療用針(例えば、注射針)は、初期(0回穿刺時)の穿刺抵抗(最大抵抗値)が小さいほど好ましい。具体的には、上記穿刺抵抗(最大抵抗値)が、55mN未満であると好ましく、45mN以下であるとより好ましい。なお、初期(0回穿刺時)の穿刺抵抗(最大抵抗値)の下限は、低いほど好ましいため、特に限定されず、0mNであるが、通常、10mN以上であれば許容できる。上記穿刺抵抗(最大抵抗値)は、実施例に記載の方法により測定される。
【0103】
加えて、本発明のコーティング剤によれば、穿刺時の摩擦が低減されることに加え、コーティングの耐久性にも優れる。よって、これらの特性の観点から、本発明に係る針、特に医療用針(例えば、注射針)は、当該針をゴムシートに10回穿刺した後の穿刺抵抗(最大抵抗値)が小さいほど好ましい。具体的には、上記穿刺抵抗(最大抵抗値)が、130mN未満であると好ましく、105mN以下であるとより好ましく、100mN以下であると特に好ましい。なお、針をゴムシートに10回穿刺した後の穿刺抵抗(最大抵抗値)の下限は、低いほど好ましいため、特に限定されず、0mNであるが、通常、10mN以上であれば許容できる。上記穿刺抵抗(最大抵抗値)は、実施例に記載の方法により測定される。
【0104】
また、本発明は、針(医療用針)表面を本発明のコーティング剤で硬化処理することを有する、針(医療用針)の製造方法をも提供する。
【0105】
医療機器(基材としての)は、いずれの材料で形成されてもよく、従来と同様の材料が使用できる。以下では、医療機器が針である形態を例にとって説明するが、本発明は下記形態に限定されるものではなく、針を構成する材料の代わりに所望の医療機器を構成する材料を使用するなどして適用できる。
【0106】
針は、いずれの材料で形成されてもよく、金属材料や高分子材料等の、針、特に医療用針(例えば、注射針)に通常使用されるのと同様の材料が使用できる。上記金属材料としては、以下に制限されないが、SUS304、SUS316L、SUS420J2、SUS630などの各種ステンレス鋼(SUS)、金、白金、銀、銅、ニッケル、コバルト、チタン、鉄、アルミニウム、スズあるいはニッケル-チタン(Ni-Ti)合金、ニッケル-コバルト(Ni-Co)合金、コバルト-クロム(Co-Cr)合金、亜鉛-タングステン(Zn-W)合金等の各種合金、更には金属-セラミックス複合体などが挙げられる。上記金属材料は、単独で使用してもまたは2種以上を併用してもよい。上記金属材料は、表面上の水酸基とコーティング剤を構成するアミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)のアミノ基、末端に水酸基を有するポリオルガノシロキサン(1)および水酸基含有ポリオルガノシロキサン(4)の水酸基と結合する。このため、上記材料で形成される針は、本発明のコーティング剤による被膜との密着性に優れる。上記高分子材料としては、以下に制限されないが、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66(いずれも登録商標)などのポリアミド樹脂、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)などのポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂などのポリオレフィン樹脂、変性ポリオレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂(アリル樹脂)、ポリカーボネート樹脂、フッ素樹脂、アミノ樹脂(ユリア樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂)、ポリエステル樹脂、スチロール樹脂、アクリル樹脂、ポリアセタール樹脂、酢酸ビニル樹脂、フェノール樹脂、塩化ビニル樹脂、シリコーン樹脂(ケイ素樹脂)、ポリエーテル樹脂、ポリイミド樹脂などが挙げられる。上記高分子材料は、単独で使用してもまたは2種以上を併用してもよい。
【0107】
また、本発明のコーティング剤で表面処理される基材は、本発明のコーティング剤が有するアミノ基や水酸基等の官能基と相互作用しやすいという観点から、水酸基、カルボキシル基、アミノ等の官能基を有する基材が好ましい。特に、基材が金属材料の場合、金属材料は、その表面が酸化被膜に覆われて水酸基等を有するため、本発明のコーティング剤との密着性が高く好ましい。また、本発明のコーティング剤が有するアミノ基や水酸基等の官能基と相互作用が少ない基材の場合、プラズマ処理等で基材に水酸基等の官能基を付与することにより、本発明のコーティング剤と基材との密着性を高めることができる。
【0108】
本発明のコーティング剤による表面処理方法は、特に制限されないが、コーティング剤を含む塗膜を加熱するまたは放射線照射することによって硬化処理が行われることが好ましい。すなわち、本発明は、医療機器(好ましくは針)の表面に、本発明のコーティング剤を含む塗膜を形成し、前記塗膜を加熱するまたは放射線照射することにより硬化処理することを有する、医療機器(好ましくは針)の製造方法をも提供する。または、本発明のコーティング剤による表面処理方法は、コーティング剤を含む塗膜を加熱と加湿を行うことによって硬化処理が行われることが好ましい。すなわち、本発明は、医療機器(好ましくは針)の表面に、本発明のコーティング剤を含む塗膜を形成し、前記塗膜を加熱および加湿により硬化処理することを有する、医療機器(好ましくは針)の製造方法をも提供する。
【0109】
コーティング剤を含む塗膜の形成方法は、制限されず、公知の塗布方法が適用できる。具体的には、コーティング(被覆)する手法としては、浸漬法(ディッピング法)、塗布・印刷法、噴霧法(スプレー法)、はけ塗り、スピンコート法、コーティング剤含浸スポンジコート法などを適用することができる。なお、コーティング剤を針表面にコーティングする場合、針の内部に空気等の気体を送りこむことにより、針内部へのコーティング剤の侵入を防止してもよい。これにより、コーティング剤による針詰まりを防止することができる。また、基材にコーティングしたコーティング剤は、必要により、自然乾燥、風乾、加熱などにより溶剤を揮散させ、場合によっては同時にコーティング剤をプレキュアしてもよい。
【0110】
また、針表面の一部にのみ塗膜を形成させる場合には、針表面の一部のみをコーティング剤中に浸漬して、該コーティング剤(コーティング溶液)を針表の一部にコーティングし、針表面の所望の表面部位に塗膜を形成してもよい。針表面の一部のみをコーティング剤中に浸漬するのが困難な場合には、予め塗膜を形成する必要のない針表面部分を着脱(装脱着)可能な適当な部材や材料で保護(被覆等)した上で、針をコーティング剤中に浸漬して、該コーティング剤を針表面にコーティングした後、塗膜を形成する必要のない針表面部分の保護部材(材料)を取り外すことで、針表面の所望の表面部位に塗膜を形成することができる。但し、本発明では、これらの形成法に何ら制限されるものではなく、従来公知の方法を適宜利用して、塗膜を形成することができる。例えば、針表面の一部のみをコーティング剤中に浸漬するのが困難な場合には、浸漬法に代えて、他のコーティング手法(例えば、塗布法や噴霧法など)を適用してもよい。なお、針表面の外表面と内表面の双方が潤滑性や耐久性を有する必要がある場合には、一度に外表面と内表面の双方をコーティングすることができる点で、浸漬法(ディッピング法)が好ましく使用される。
【0111】
上記のようにコーティング剤を含む塗膜を形成した後、当該塗膜に対して硬化処理を行う。上記硬化処理(表面処理)のうち、コーティング剤を含む塗膜を加熱する場合の、硬化処理(表面処理)方法は、特に制限されない。具体的には、硬化処理(表面処理)としては、常圧(大気圧)下での加熱処理、加圧蒸気下での加熱処理、エチレンオキサイドガス(EOG)を用いた加熱処理などが挙げられる。
【0112】
常圧(大気圧)下での加熱処理による場合の、加熱処理条件(反応条件)は、所望の効果(例えば、潤滑性、耐久性)を達成できる条件であれば、特に制限されるものではない。加熱温度は、好ましくは50~150℃、より好ましくは60~130℃である。また、加熱時間は、好ましくは2~48時間、より好ましくは15~30時間である。このような反応条件であれば、アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)(アミノ基)や、末端に水酸基を含むポリオルガノシロキサン(1)、水酸基含有ポリオルガノシロキサン(4)(水酸基)が基材と強固に結合できる。また、末端に水酸基を含むポリオルガノシロキサン(1)、水酸基含有ポリオルガノシロキサン(4)(水酸基)が基材表面と反応して強固な被膜を形成できる。また、加熱手段(装置)としては、例えば、オーブン、ドライヤー、マイクロ波加熱装置などを利用することができる。
【0113】
加圧蒸気下での加熱処理による場合の、加熱処理条件(反応条件)もまた、所望の効果(例えば、潤滑性、耐久性)を達成できる条件であれば、特に制限されるものではない。加熱温度は、好ましくは100~135℃、より好ましくは105~130℃である。また、加熱時間は、好ましくは1~120分間、より好ましくは10~60分間である。さらに、圧力は、所望の反応性(例えば、潤滑性、耐久性、基材との結合性)などを考慮して、適切に選択すればよい。このような反応条件であれば、アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)(アミノ基)や、末端に水酸基を含むポリオルガノシロキサン(1)、水酸基含有ポリオルガノシロキサン(4)(水酸基)が基材と強固に結合できる。また、末端に水酸基を含むポリオルガノシロキサン(1)、水酸基含有ポリオルガノシロキサン(4)(水酸基)が基材表面と反応して強固な被膜を形成できる。加えて、上記条件であれば、針を同時に滅菌処理できる。また、加熱手段(装置)としては、例えば、コッホ殺菌釜、オートクレーブなどを利用することができる。
【0114】
エチレンオキサイドガス(EOG)を用いた加熱処理による場合の、加熱処理条件(反応条件)もまた、所望の効果(例えば、潤滑性、耐久性)を達成できる条件であれば、特に制限されるものではない。加熱温度は、好ましくは40~135℃、より好ましくは45~80℃である。また、加熱時間は、好ましくは1~300分間、より好ましくは20~250分間である。さらに、圧力は、所望の反応性(例えば、潤滑性、耐久性、基材との結合性)などを考慮して、適切に選択すればよい。このような反応条件であれば、アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)(アミノ基)や、末端に水酸基を含むポリオルガノシロキサン(1)、水酸基含有ポリオルガノシロキサン(4)(水酸基)が基材と強固に結合できる。また、末端に水酸基を含むポリオルガノシロキサン(1)、水酸基含有ポリオルガノシロキサン(4)(水酸基)が基材表面と反応して強固な被膜を形成できる。加えて、上記条件であれば、針を同時に滅菌処理できる。
【0115】
また、上記表面処理(硬化処理)を放射線照射により行う場合の、放射線は、特に制限されず、ガンマ線(γ線)、電子線、中性子線またはX線でありうる。これらのうち、ガンマ線または電子線が好ましい。放射線照射を行うことによって、コーティング剤の硬化処理を促進させるだけでなく、針の滅菌も行うことができる。放射線照射条件(反応条件)は、所望の効果(例えば、潤滑性、耐久性)を達成できる条件であれば、特に制限されるものではない。例えば、ガンマ線照射の場合では、線量、照射時間などの条件は特に制限されないが、通常は、γ線量は、10~50kGyであり、好ましくは15~25kGyである。このような照射条件であれば、アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)(アミノ基)や、末端に水酸基を含むポリオルガノシロキサン(1)、水酸基含有ポリオルガノシロキサン(4)(水酸基)が基材と強固に結合できる。また、末端に水酸基を含むポリオルガノシロキサン(1)、水酸基含有ポリオルガノシロキサン(4)(水酸基)が基材表面と反応して強固な被膜を形成できる。
【実施例
【0116】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(25℃)で行われた。また、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。
【0117】
(合成例1:両末端アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(5)の合成)
以下のようにして、下記構造の両末端アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(5)を、特開平7-178159号公報の調製例1と同様にして合成した。
【0118】
【化13】
【0119】
すなわち、下記構造の両末端シラノール基含有ポリジメチルシロキサン(重量平均分子量=約900,000)100質量部にトルエン390質量部を加えて50℃で3時間攪拌した後、γ-[N-(β-アミノエチル)アミノ]プロピルメチルジメトキシシラン20質量部を加え、80℃で12時間反応させることによって、両末端アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(5)(重量平均分子量=約900,000)を得た。
【0120】
【化14】
【0121】
(比較例1)
上記合成例1で合成した両末端アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(5)120質量部、下記構造のポリジメチルシロキサン(2)(重量平均分子量=約3000、一般式(2)中のn=38)730質量部、下記構造のアミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)(重量平均分子量=約15,000)660質量部、トルエン1700質量部およびエタノール200質量部を加えて、85℃で2時間撹拌して、比較コーティング剤1を得た。
【0122】
【化15】
【0123】
(比較例2)
上記比較例1で使用した上記構造のポリジメチルシロキサン(2)(重量平均分子量=約3000、一般式(2)中のn=38)10質量部、上記構造のアミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)(重量平均分子量=約15000)15質量部、トルエン70質量部およびエタノール5質量部を加えて、40℃で2時間撹拌して、比較コーティング剤2を得た。
【0124】
(実施例1)
下記構造のポリジメチルシロキサン(1)(重量平均分子量=約592,000、一般式(1)中のm=8,000)、下記構造のポリジメチルシロキサン(2)(重量平均分子量=約3,000、一般式(2)中のn=38)、下記構造のアミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)(重量平均分子量=約15,000)、トルエンおよびエタノールを、下記表1に示される組成となるように加えて、45℃で4時間撹拌・混合して、コーティング剤1(実施例1)を得た。なお、下記表1において、ポリジメチルシロキサン(1)を「化合物1」と、ポリジメチルシロキサン(2)を「化合物2」と、およびアミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)を「化合物3」と、それぞれ、称する。
【0125】
【化16】
【0126】
(実施例2)
上記実施例1において、ポリジメチルシロキサン(1)(重量平均分子量=約592,000、一般式(1)中のm=8,000)を、重量平均分子量=約444,000(一般式(1)中のm=6,000)であるポリジメチルシロキサン(1)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、コーティング剤2を得た。
【0127】
(実施例3)
上記実施例1において、ポリジメチルシロキサン(1)(重量平均分子量=約592,000、一般式(1)中のm=8,000)を、重量平均分子量=約296,000(一般式(1)中のm=4,000)であるポリジメチルシロキサン(1)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、コーティング剤3を得た。
【0128】
(実施例4~7)
上記実施例2において、化合物1~3の添加量を下記表1に示される組成となるように変更したこと以外は実施例2と同様にして、コーティング剤4~7をそれぞれ得た。
【0129】
【表1】
【0130】
[評価:刺通抵抗(穿刺抵抗)の測定]
上記実施例1~7で得られたコーティング剤1~7および比較例1~2で得られた比較コーティング剤1~2について、下記方法に従って刺通抵抗を測定した。
【0131】
(注射針へのコーティング1:加熱)
各コーティング剤に、シリコーン成分の濃度が約5質量%となるようにジクロロメタンを加えて希釈し、無色透明のコーティング液を得た。なお、シリコーン成分の濃度は、実施例1~7では、ポリジメチルシロキサン(1)、ポリジメチルシロキサン(2)およびアミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)のコーティング液における合計濃度をいう。また、比較例1では、シリコーン成分の濃度は、両末端アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(5)、ポリジメチルシロキサン(2)およびアミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)のコーティング液における合計濃度をいう。さらに、比較例2では、シリコーン成分の濃度は、ポリジメチルシロキサン(2)およびアミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)のコーティング液における合計濃度をいう。
【0132】
上記のようにして調製された各コーティング液に、引張試験機(オートグラフAG-1kNIS 島津製作所製)を用いて、18G注射針(針部分はSUS304製)を浸漬し、1000mm/minの速度で注射針を引き上げた。室温で2時間自然乾燥した。さらに、この注射針をオーブン中で、105℃で24時間、加熱して、硬化処理を行った。なお、コーティング剤1~7で表面に被膜を形成した注射針を注射針1~7と、比較コーティング剤1~2で表面に被膜を形成した注射針を比較注射針1~2と、それぞれ、称する。
【0133】
(注射針へのコーティング2:EOG)
上記(注射針へのコーティング1:加熱)と同様にして、コーティング液を調製した。
【0134】
上記のようにして調製された各コーティング液に、引張試験機(オートグラフAG-1kNIS 島津製作所製)を用いて、18G注射針(針部分はSUS304製)を浸漬し、1000mm/minの速度で注射針を引き上げた。室温で2時間自然乾燥した。さらに、この注射針を、エチレンオキサイドガス(EOG)を用いて、50℃で210分間、硬化処理を行った。なお、上記処理により、注射針は、EOG(エチレンオキサイドガス)滅菌が施された。また、コーティング剤1~7で表面に被膜を形成した注射針を注射針8~14と、比較コーティング剤1~2で表面に被膜を形成した注射針を比較注射針3~4と、それぞれ、称する。
【0135】
(注射針へのコーティング3:高圧蒸気)
上記(注射針へのコーティング1:加熱)と同様にして、コーティング液を調製した。
【0136】
上記のようにして調製された各コーティング液に、引張試験機(オートグラフAG-1kNIS 島津製作所製)を用いて、18G注射針(針部分はSUS304製)を浸漬し、1000mm/minの速度で注射針を引き上げた。室温で2時間自然乾燥した。さらに、この注射針を、121℃の高圧蒸気下で20分間、硬化処理を行った。なお、上記処理により、注射針は、高圧蒸気(オートクレーブ)滅菌が施された。また、コーティング剤1~7で表面に被膜を形成した注射針を注射針15~21と、比較コーティング剤1~2で表面に被膜を形成した注射針を比較注射針5~6と、それぞれ、称する。
【0137】
(注射針へのコーティング4:放射線)
上記(注射針へのコーティング1:加熱)と同様にして、コーティング液を調製した。
【0138】
上記のようにして調製された各コーティング液に、引張試験機(オートグラフAG-1kNIS 島津製作所製)を用いて、18G注射針(針部分はSUS304製)を浸漬し、1000mm/minの速度で注射針を引き上げた。室温で2時間自然乾燥した。さらに、この注射針に、γ線を20kGy照射して、硬化処理を行った。なお、上記処理により、注射針は、放射線滅菌が施された。また、コーティング剤1~7で表面に被膜を形成した注射針を注射針22~28と、比較コーティング剤1~2で表面に被膜を形成した注射針を比較注射針7~8と、それぞれ、称する。
【0139】
(刺通抵抗の測定)
注射針1~28および比較注射針1~8について、それぞれ、引張試験機(オートグラフAG-1kNIS 島津製作所製)を用い、厚さ0.5mmのシリコーンゴムシート(デュロメーター硬度A50)に角度90度、速度100mm/minで穿刺したときの摺動抵抗値(刺通抵抗値)(mN)を測定した。具体的には、注射針の移動量に対する摺動抵抗値を時系列データで取得した。また、その測定値より、最大抵抗値(mN)を算出した。なお、上記測定は、注射針1~28および比較注射針1~8を、それぞれ、ゴム栓に0回(初期)、10回穿刺した後に行った。
【0140】
結果を図1および図2に示す。詳細には、注射針1~3および比較注射針1~2(コーティング1:105℃で24時間加熱)の0回および10回穿刺時の摺動抵抗値(刺通抵抗値)(mN)の結果を図1Aおよび図1Bにそれぞれ示す。また、注射針2、4~7および比較注射針1~2(コーティング1:105℃で24時間加熱)の0回および10回穿刺時の摺動抵抗値(刺通抵抗値)(mN)の結果を図2Aおよび図2Bにそれぞれ示す。
【0141】
なお、図1は、摺動抵抗値に対する化合物1の重量平均分子量(重合度m)の依存性を評価したグラフであり、図2は、摺動抵抗値に対する化合物1~3の組成比(含有割合)の依存性を評価したグラフである。図1および図2において、縦軸は、摺動抵抗値(単位:mN)を示す。また、図1および図2において、横軸は、各実施例及び比較例を示す。すなわち、図1に示される折れ線の各プロットは、左から、実施例3(Ex3)、実施例2(Ex2)および実施例1(Ex1)を示す。図2に示される折れ線の各プロットは、左から、実施例3(Ex3)、実施例2(Ex2)および実施例1(Ex1)を示す。実施例7(Ex7)、実施例6(Ex6)、実施例2(Ex2)、実施例5(Ex5)および実施例4(Ex4)を示す。図1および図2中、「Com1」は、比較例1を、「Com2」は、比較例2を、それぞれ示す。
【0142】
図1および図2から、本発明に係る注射針は、比較注射針と比較して、0回穿刺時において、小さな摺動抵抗値(刺通抵抗値)を示した。ゆえに、本発明によれば、穿刺時の摩擦(穿刺抵抗)低減効果に優れるコーティング剤(注射針)が得られていると言える。さらに、本発明に係る注射針は、10回穿刺時でも、比較注射針に比して有意に低い摺動抵抗値(刺通抵抗値)を示した。ゆえに、本発明によれば、耐久性もまた向上できると考察される。
【0143】
また、図2Aから、コーティング剤2、5および6で表面に被膜を形成した注射針(注射針2、5および6)は穿刺時の摩擦(穿刺抵抗)低減効果が特に優れていると考察される。さらに、図2Bより、コーティング剤2および5で表面に被膜を形成した注射針(注射針2および5)は、耐久性向上効果もまた顕著に発揮できると考察される。
【0144】
なお、コーティング2(EOG)、コーティング3(高圧蒸気)、コーティング4(放射線)の結果は図示しないが、上記コーティング1(加熱)と同様の結果が得られた。すなわち、注射針8~14、注射針15~21、注射針22~28をゴム栓に0回穿刺した後の摺動抵抗値(刺通抵抗値)(mN)は、比較注射針3~4、比較注射針5~6、比較注射針7~8に比して、それぞれ有意に低いという結果であった。また、注射針8~14、注射針15~21、注射針22~28をゴム栓に10回穿刺した後の摺動抵抗値(刺通抵抗値)(mN)は、比較注射針3~4、比較注射針5~6、比較注射針7~8に比して、それぞれ有意に低い摺動抵抗値(刺通抵抗値)を示した。
【0145】
ゆえに、本発明の注射針によると、刺通特性を向上でき、さらには、耐久性もまた向上できると考察される。また、上記結果により、本発明のコーティング剤が、針以外の医療機器に対しても上記と同様の潤滑性及び耐久性を発揮できることが期待される。
【0146】
本出願は、2016年12月27日に出願された日本国特許出願第2016-253828号に基づいており、その開示内容は、参照され、全体として組み入れられている。
図1A
図1B
図2A
図2B