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特許7063886マルチプレックスリアルタイムPCRを実施する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-25
(45)【発行日】2022-05-09
(54)【発明の名称】マルチプレックスリアルタイムPCRを実施する方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6851 20180101AFI20220426BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20220426BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20220426BHJP
【FI】
C12Q1/6851 Z
C12Q1/686 Z ZNA
C12N15/09 Z
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019514212
(86)(22)【出願日】2017-09-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-10-17
(86)【国際出願番号】 EP2017073293
(87)【国際公開番号】W WO2018050828
(87)【国際公開日】2018-03-22
【審査請求日】2020-09-08
(31)【優先権主張番号】62/395,325
(32)【優先日】2016-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/435,595
(32)【優先日】2016-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/536,871
(32)【優先日】2017-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ.ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100166165
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 英直
(72)【発明者】
【氏名】イゴル コズロフ
(72)【発明者】
【氏名】アマー グプタ
(72)【発明者】
【氏名】ランドール サイキ
(72)【発明者】
【氏名】アリソン ツァン
【審査官】中山 基志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/101959(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/013017(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q1/00-3/00
C12N15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の標的核酸を増幅及び検出する方法であって、
(a)単一の反応容器内で前記標的核酸配列を含む前記試料を、
(i)各オリゴヌクレオチドプライマーが前記標的核酸の部分配列の逆鎖にハイブリダイズできる1つのオリゴヌクレオチドプライマー対、
(ii)アニーリング部分及びタグ部分を含むオリゴヌクレオチドプローブであって、前記タグ部分が、前記標的核酸配列に非相補的なヌクレオチド配列又は非ヌクレオチド分子を含み、前記アニーリング部分が、前記標的核酸配列に少なくとも部分的に相補的なヌクレオチド配列を含み、前記オリゴヌクレオチドプライマー対によって画定される前記標的核酸の前記部分配列の領域にハイブリダイズし、前記オリゴヌクレオチドプローブが、さらに前記タグ部分上又は前記アニーリング部分上に位置するレポーター部分と、前記アニーリング部分に位置する第1のクエンチャー部分とを含む相互作用二重標識をさらに含み、前記レポーター部分がヌクレアーゼ感受性切断部位によって前記第1のクエンチャー部分から隔てられ、そして前記タグ部分がクエンチング分子に温度依存的に可逆的結合され、前記クエンチング分子が前記タグ部分に結合している場合に、前記レポーター部分をクエンチできる1つ以上のクエンチャー部分を含むか又はそれと連携されるオリゴヌクレオチドプローブ
と接触させるステップ、
(b)各PCRサイクルの伸長ステップの間に、5’から3’へのポリメラーゼの前記ヌクレアーゼ活性が、前記オリゴヌクレオチドプローブの前記アニーリング部分の前記第1のクエンチャー部分からの前記タグ部分の切断及び分離を可能にするように、5’から3’へのヌクレアーゼ活性を有する核酸ポリメラーゼを用いるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)で前記標的核酸を増幅するステップ、
(c)前記クエンチング分子が前記タグ部分に結合している第1の温度で前記レポーター部分からの抑制シグナルを測定するステップ、
(d)前記クエンチング分子が前記タグ部分に結合していない第2の温度に温度を上昇させるステップ、
(e)前記第2の温度で前記レポーター部分からの温度補正シグナルを測定するステップ、
(f)前記第2の温度で検出された温度補正シグナルから前記第1の温度で検出された前記抑制シグナルを減算することによって算出シグナル値を得るステップ、
(g)複数のPCRサイクルを通してステップ(b)から(f)を繰り返すステップ、
(h)前記複数のPCRサイクルからの前記算出シグナル値を測定して、前記標的核酸の存在を検出するステップ
を含む方法。
【請求項2】
前記レポーター部分が、前記オリゴヌクレオチドプローブの前記タグ部分にある請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記タグ部分が、前記標的核酸配列に非相補的なヌクレオチド配列を含み、前記クエンチング分子が、前記オリゴヌクレオチドプローブの前記タグ部分に少なくとも部分的に相補的なヌクレオチド配列を含むオリゴヌクレオチドであり、ハイブリダイゼーションによって前記タグ部分に結合する請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記タグ部分が、核酸ポリメラーゼによって伸長できないように修飾を含む請求項1~3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記オリゴヌクレオチドプローブの前記タグ部分又は前記クエンチング分子又は前記タグ部分と前記クエンチング分子の両方が、1つ以上のヌクレオチド修飾を含み、そして
前記1つ以上のヌクレオチド修飾が、ロックド核酸(LNA)、ペプチド核酸(PNA)、架橋化核酸(BNA)、2’-O-アルキル置換、L-エナンチオマーヌクレオチド、又はそれらの組み合わせからなる群より選択される請求項1~4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
試料中の2つ以上の標的核酸配列を検出する方法であって、
(a)単一の反応容器内で前記2つ以上の標的核酸配列を含むことが疑われる前記試料を、
(i)第1の標的核酸配列の各鎖に相補的なヌクレオチド配列をもつ第1のオリゴヌクレオチドプライマー対及び第2の標的核酸配列の各鎖に相補的なヌクレオチド配列をもつ第2のオリゴヌクレオチドプライマー対、
(ii)前記第1の標的核酸配列に少なくとも部分的に相補的なヌクレオチド配列を含み、前記第1のオリゴヌクレオチドプライマー対によって画定される前記第1の標的核酸配列の領域内にアニーリングする、第1オリゴヌクレオチドプローブであって、第1オリゴヌクレオチドプローブが、検出可能なシグナルを生成できる蛍光部分と、前記蛍光部分によって生成される前記検出可能なシグナルをクエンチできる第1のクエンチャー部分とを含み、前記蛍光部分が、ヌクレアーゼ感受性切断部位によって第1のクエンチャー部分により隔てられる、第1のオリゴヌクレオチドプローブ、
(iii)2つの異なる部分:
-前記第2の標的核酸配列に少なくとも部分的に相補的なヌクレオチド配列を含み、前記第2のオリゴヌクレオチドプライマー対によって画定される前記第2の標的核酸配列の領域内にアニーリングする、アニーリング部分であって、アニーリング部分が第2のクエンチャー部分を含むアニーリング部分と、
-前記アニーリング部分の前記5’末端若しくは3’末端に結合されるか、又は前記アニーリング部分の領域にリンカーを介して結合され、前記2つ以上の標的核酸配列に非相補的なヌクレオチド配列を含むタグ部分であって、前記タグ部分が、前記第1のオリゴヌクレオチドプローブの前記蛍光部分と同一であり、その検出可能なシグナルが前記アニーリング部分の前記第2のクエンチャー部分によってクエンチできる蛍光部分を含み、前記蛍光部分が、ヌクレアーゼ感受性切断部位によって前記第2のクエンチャー部分から分離されている、タグ部分と
を含む、第2のオリゴヌクレオチドプローブ、
(iv)前記第2のオリゴヌクレオチドプローブの前記タグ部分に少なくとも部分的に相補的なヌクレオチド配列を含み、そして前記タグ部分にハイブリダイズして二本鎖を形成するクエンチングオリゴヌクレオチドであって、前記タグ部分にハイブリダイズしたときに前記タグ部分の前記蛍光部分によって生成される前記検出可能なシグナルをクエンチする第3のクエンチャー部分を含むクエンチングオリゴヌクレオチド、
と接触させるステップ、
(b)各PCRサイクルの伸長ステップの間に、前記核酸ポリメラーゼの前記5’から3’へのヌクレアーゼ活性が、
(i) 前記第1のオリゴヌクレオチドプローブの前記第1のクエンチャー部分からの前記蛍光部分の切断及び分離 並びに
(ii)前記第2のオリゴヌクレオチドプローブの前記アニーリング部分の前記第2のクエンチャー部分からの前記タグ部分の前記蛍光部分の切断及び分離
を可能にするように、前記第1及び第2の標的核酸配列を、5’から3’へのヌクレアーゼ活性を有する核酸ポリメラーゼを用いたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって増幅し、前記伸長ステップの間に、前記クエンチングオリゴヌクレオチドが前記タグ部分にハイブリダイズしたままであるステップ、
(c)前記クエンチングオリゴヌクレオチドが、前記第2のオリゴヌクレオチドプローブの前記タグ部分にハイブリダイズされている第1の温度で蛍光シグナルを測定するステップ、
(d)前記クエンチングオリゴヌクレオチドが前記第2のオリゴヌクレオチドプローブの前記タグ部分にハイブリダイズされない、前記第1の温度より高い第2の温度に温度を上昇させるステップ、
(e)前記第2の温度で蛍光シグナルを測定するステップ、
(f)前記第2の温度で検出された前記蛍光シグナルから前記第1の温度で検出された前記蛍光シグナルを減算することによって算出シグナル値を得るステップ、
(g)ステップ(b)から(f)を複数のPCRサイクルで繰り返して、第1及び第2の標的核酸配列から所望の量の増幅産物を生成するステップ、
(h)前記複数のPCRサイクルからの前記第1の温度で検出された前記蛍光シグナルから第1の標的核酸配列の存在を決定し、前記複数のPCRサイクルからの前記算出シグナル値から前記第2の標的核酸配列の存在を決定するステップ
を含む方法。
【請求項7】
前記タグ部分が、前記アニーリング部分の5’末端に結合されている請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記タグ部分が、核酸ポリメラーゼによって伸長できないように修飾を含む請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記クエンチングオリゴヌクレオチドが、ステムループ構造を介して前記第2のオリゴヌクレオチドプローブの前記タグ部分に連結されている請求項6~8の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記第2のオリゴヌクレオチドプローブの前記タグ部分又は前記クエンチングオリゴヌクレオチド又は前記タグ部分と前記クエンチングオリゴヌクレオチドの両方が、1つ以上のヌクレオチド修飾を含み、そして
前記1つ以上のヌクレオチド修飾が、ロックド核酸(LNA)、ペプチド核酸(PNA)、架橋化核酸(BNA)、2’-O-アルキル置換、L-エナンチオマーヌクレオチド、又はそれらの組み合わせからなる群より選択される請求項6~9の何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
試料中の2つ以上の標的核酸配列を検出する方法であって、
(a)単一の反応容器内で前記2つ以上の標的核酸配列を含むことが疑われる前記試料を、
(i)第1の標的核酸配列の各鎖に相補的なヌクレオチド配列をもつ第1のオリゴヌクレオチドプライマー対及び第2の標的核酸配列の各鎖に相補的なヌクレオチド配列をもつ第2のオリゴヌクレオチドプライマー対、
(ii)2つの異なる部分:
-前記第1の標的核酸配列に少なくとも部分的に相補的なヌクレオチド配列を含み、前記第1のオリゴヌクレオチドプライマー対によって画定される前記第1の標的核酸配列の領域内にアニーリングする、第1アニーリング部分であって、ここで第1アニーリング部分が、第1のクエンチャー部分を含み、3’末端でブロックされて核酸ポリメラーゼによる伸長を妨げられる、第1のアニーリング部分と;
-前記第1のアニーリング部分の5’末端若しくは3’末端に結合されるか、又は前記アニーリング部分の領域にリンカーを介して結合され、前記2つ以上の標的核酸配列に非相補的なヌクレオチド配列を含む、第1のタグ部分であって、前記第1のタグ部分が、検出可能なシグナルが前記第1のアニーリング部分の前記第1のクエンチャー部分によってクエンチできる蛍光部分を含み、前記蛍光部分が、ヌクレアーゼ感受性切断部位によって前記第1のクエンチャー部分から隔てられている第1のタグ部分と
を含む、第1オリゴヌクレオチドプローブ、
(iii)前記第1のオリゴヌクレオチドプローブの前記第1のタグ部分に少なくとも部分的に相補的なヌクレオチド配列を含み、前記第1のタグ部分にハイブリダイズして二本鎖を形成する第1クエンチングオリゴヌクレオチドであって、前記第1のタグ部分にハイブリダイズされたときに前記第1のタグ部分の前記蛍光部分によって生成される前記検出可能なシグナルをクエンチする第2のクエンチャー部分を含む、第1のクエンチングオリゴヌクレオチド、
(iv)2つの異なる部分:
-前記第2の標的核酸配列に少なくとも部分的に相補的なヌクレオチド配列を含み、前記第2のオリゴヌクレオチドプライマー対によって画定される前記第2の標的核酸配列の領域内にアニーリングする第のアニーリング部分であって、第2のアニーリング部分が第3のクエンチャー部分を含み、3’末端でブロックされて核酸ポリメラーゼによる伸長を妨げる、第2のアニーリング部分と、
-前記第2のアニーリング部分の5’末端若しくは3’末端に結合されるか、又は前記アニーリング部分の領域に結合され、前記2つ以上の標的核酸配列に非相補的なヌクレオチド配列を含み、そして前記第1のオリゴヌクレオチドプローブの前記第1のタグ部分の前記ヌクレオチド配列と比較して異なる核酸配列若しくは異なるヌクレオチド修飾を有する、第2のタグ部分であって、前記第2のタグ部分が、前記第1のオリゴヌクレオチドプローブの第1タグ部分の前記蛍光部分と同一であり、検出可能なシグナルが、前記第2のアニーリング部分の前記第3のクエンチャー部分によってクエンチできる蛍光部分を含み、前記蛍光部分が、ヌクレアーゼ感受性切断部位によって前記第3のクエンチャー部分から隔てられている第2のオリゴヌクレオチドプローブ、
(v)前記第2のオリゴヌクレオチドプローブの前記第2のタグ部分に少なくとも部分的に相補的なヌクレオチド配列を含み、前記第2のタグ部分にハイブリダイズして二本鎖を形成する第2のクエンチングオリゴヌクレオチドであって、前記第2のクエンチングオリゴヌクレオチドが前記第2のタグ部分にハイブリダイズされたときに前記第2のタグ部分の前記蛍光部分によって生成される前記検出可能なシグナルをクエンチする第4のクエンチャー部分を含む、第2のクエンチングオリゴヌクレオチド
と接触させ、ここで前記第2のクエンチングオリゴヌクレオチドと前記第2のオリゴヌクレオチドプローブの前記第2のタグ部分の間の前記二本鎖が、前記第1のクエンチングオリゴヌクレオチドと前記第1のオリゴヌクレオチドプローブの前記第1のタグ部分の間の前記二本鎖より高い融解温度(Tm)値を有するステップ、
(b)各PCRサイクルの伸長ステップの間に、前記核酸ポリメラーゼの前記5’から3’へのヌクレアーゼ活性が、
(i)前記伸長ステップにおいて、前記第1のクエンチングオリゴヌクレオチドが前記第1のタグ部分にハイブリダイズしたままである、前記第1のオリゴヌクレオチドプローブの前記第1のアニーリング部分の前記第1のクエンチャー部分からの前記第1のタグ部分の前記蛍光部分の切断及び分離、及び
(ii)前記伸長ステップにおいて、前記第2のクエンチングオリゴヌクレオチドが前記第2のタグ部分にハイブリダイズしたままである、前記第2のオリゴヌクレオチドプローブの前記第2のアニーリング部分の前記第3のクエンチャー部分からの前記第2のタグ部分の前記蛍光部分の切断及び分離
を可能にするように、5’から3’へのヌクレアーゼ活性を有する核酸ポリメラーゼを用いたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって前記第1及び第2の標的核酸配列を増幅するステップ、
(c)前記第1のクエンチングオリゴヌクレオチドが、前記第1のオリゴヌクレオチドプローブからの前記第1のタグ部分にハイブリダイズされず、前記第2のクエンチングオリゴヌクレオチドが、前記第2のオリゴヌクレオチドプローブからの前記第2のタグ部分にハイブリダイズしたままである第1の温度に温度を上昇させるステップ、
(d)前記第1の温度で蛍光シグナルを測定するステップ、
(e)前記第2のクエンチングオリゴヌクレオチドが、前記第2のオリゴヌクレオチドプローブの前記第2のタグ部分にハイブリダイズされない、前記第1の温度より高い第2の温度に温度を上昇させるステップ、
(f)前記第2の温度で蛍光シグナルを測定するステップ、
(g)前記第2の温度で検出された前記蛍光シグナルから前記第1の温度で検出された前記蛍光シグナルを減算することによって算出シグナル値を得るステップ、
(h)ステップ(b)から(f)を複数のPCRサイクルで繰り返して、第1及び第2の標的核酸配列から所望の量の増幅産物を生成するステップ、
(i)前記複数のPCRサイクルからの前記第1の温度で検出された前記蛍光シグナルから第1の標的核酸配列の存在を決定し、前記複数のPCRサイクルからの前記算出シグナル値から前記第2の標的核酸配列の存在を決定するステップ
を含む方法。
【請求項12】
前記第1のタグ部分が、前記第1のオリゴヌクレオチドプローブの前記第1のアニーリング部分の5’末端に結合され、前記第2のタグ部分が、前記第2のオリゴヌクレオチドプローブの前記第2のアニーリング部分の5’末端に結合されている請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記第1のクエンチングオリゴヌクレオチドが、ステムループ構造を介して前記第1のオリゴヌクレオチドプローブの前記第1のタグ部分に連結されているか、及び/又は
前記第2のクエンチングオリゴヌクレオチドが、ステムループ構造を介して前記第2のオリゴヌクレオチドプローブの前記第2のタグ部分に連結されている、請求項11~12の何れか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記第1のタグ部分と前記第2のタグ部分がともに、両方のタグ部分が核酸ポリメラーゼによって伸長できないように修飾を含む請求項11~13の何れか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記第1のオリゴヌクレオチドプローブの前記第1のタグ部分、若しくは前記第1のクエンチングオリゴヌクレオチド、若しくは前記第2のオリゴヌクレオチドプローブの前記第2のタグ部分、若しくは前記第2のクエンチングオリゴヌクレオチドのいずれか又はそれらのいずれかの組み合わせが、1つ以上のヌクレオチド修飾を含み、そして
前記1つ以上のヌクレオチド修飾が、ロックド核酸(LNA)、ペプチド核酸(PNA)、架橋化核酸(BNA)、2’-O-アルキル置換、L-エナンチオマーヌクレオチド、又はそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項11~14の何れか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)のための方法、具体的にはマルチプレックスリアルタイムPCRを実施するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、生物医学研究、疾患モニタリング、及び診断の普遍的なツールとなっています。PCRによる核酸配列の増幅は、米国特許第4683195号明細書、同第4683202号明細書、及び同第4965188号明細書に記載されている。今日、PCRは当該技術分野において周知であり、科学文献に広く記載されている。PCRの応用(PCR Applications)((1999) Innis et al., eds., Academic Press、サンディエゴ)、PCRの戦略(PCR Strategies)((1995) Innis et al., eds., Academic Press、サンディエゴ)PCRのプロトコール(PCR Protocols)((1990) Innis et al., eds., Academic Press、サンディエゴ)、及びPCRの技術(PCR Technology)((1989) Erlich, ed., Stockton Press、ニューヨーク)を参照。「リアルタイム」PCRアッセイは、標的配列の開始量を同時に増幅、検出、及び定量することができる。DNAポリメラーゼの5’から3’へのヌクレアーゼ活性を用いる基本的なTaqManリアルタイムPCRアッセイは、Holland et al., (1991) Proc. Natl. Acad. Sci. 88:7276-7280及び米国特許第5210015号明細書に記載されている。ヌクレアーゼ活性なしでのリアルタイムPCR(ヌクレアーゼフリーアッセイ)は、2008年12月9日に出願された米国特許出願第12/330694号明細書に記載されている。リアルタイムPCRにおける蛍光プローブの使用は、米国特許第5538848号明細書に記載されている。
【0003】
蛍光プローブを使用した典型的なリアルタイムPCRプロトコールでは、各標的配列に特異的な標識プローブを使用する。プローブは、特定の波長の光を吸収及び放出する1つ以上の蛍光部分で標識されていることが好ましい。標的配列又はそのアンプリコンにハイブリダイズすると、プローブのハイブリダイゼーション又は加水分解の結果として、プローブは蛍光発光の検出可能な変化を示す。
【0004】
しかし、リアルタイムアッセイの大きな課題は、依然として、1本のチューブで多数の標的を分析する能力にある。医学及び診断学の事実上あらゆる分野において、関心対象の遺伝子座の数は急速に増加している。例えば、いくつか例を挙げると、法医学的DNAプロファイリング、病原性微生物の検出、多遺伝子座遺伝性疾患スクリーニング、及び多遺伝子発現研究において複数の遺伝子座を分析しなければならない。
【0005】
現在の方法の大部分では、アッセイを多重化する能力は検出機器によって制限されている。具体的には、同一反応で複数のプローブを使用するには、異なる蛍光標識を使用する必要がある。複数のプローブを同時に検出するためには、機器は各プローブによって放出された光シグナルを識別できなければならない。市場に出ている現在の技術の大部分は、同じ反応容器中でせいぜい4~7つの別個の波長しか検出できない。したがって、標的ごとに1つの独自に標識されたプローブを使用して、同じ容器内で4~7つの別個の標的しか検出することができない。実際には、少なくとも1つの標的は通常対照核酸である。したがって、実際には、3~6つの実験標的しか同じチューブ内で検出することができない。また、顕著な重なり干渉なしに可視スペクトル内に約6又は7個の色素しか適合できないスペクトル幅に起因して、蛍光色素の使用にも制限がある。したがって、増幅及び検出戦略において根本的な変更がなされない限り、アッセイを多重化する能力は臨床的ニーズに追いつかないことになる。
【0006】
リアルタイム増幅反応を多重化する追加の能力は、PCR後の融解アッセイによってもたらされる。2006年6月23日に出願された米国特許出願第11/474071号明細書を参照。融解アッセイにおいて、増幅された核酸はその独自の融解プロファイルにより同定される。融解アッセイは、二本鎖標的、又は標識プローブと標的の二本鎖の融解温度(融点)を決定することを含む。米国特許第5871908号明細書に記載されているように、蛍光標識プローブを使用して融解温度を決定するために、標的核酸とプローブの二本鎖は制御温度プログラムで徐々に加熱(又は冷却)される。二本鎖の解離は、相互作用する蛍光色素分子間又は蛍光色素分子とクエンチャーの間の距離を変える。相互作用する蛍光色素分子は、米国特許第6174670号明細書に記載されているように、別個のプローブ分子に結合させることができる。代替的に、米国特許第5871908号明細書に記載されているように、一方の蛍光色素分子をプローブに結合させ、もう一方の蛍光色素分子を核酸二本鎖に挿入してもよい。さらに別の方法として、蛍光色素分子を単一のプローブオリゴヌクレオチドに結合させてもよい。二本鎖が融解すると、クエンチャーに対する蛍光色素分子が一本鎖プローブ中で一緒になるので蛍光はクエンチされる。
【0007】
核酸二本鎖の融解は、関連する蛍光の変化を測定することによってモニターされる。蛍光の変化は、「融解プロファイル」と呼ばれるグラフ上に表すことができる。異なるプローブ-標的二本鎖が異なる温度で融解(又は再アニール)しうるように設計できるので、各プローブは独自の融解プロファイルを生成することになる。適切に設計されたプローブは、同じアッセイにおいて他のプローブの融解温度と明確に区別できる融解温度を有することになる。多くの既存のソフトウェアツールは、これらの目的を念頭に置いて、同一チューブマルチプレックスアッセイ用のプローブを設計することを可能にする。例えば、Visual OMP(商標)ソフトウェア(DNA Software, Inc.、アナーバー、ミシガン州)は、さまざまな反応条件下で核酸二本鎖の融解温度を決定することを可能にする。
【0008】
色検出及びそれに続く増幅後融解アッセイを用いるマルチプレックスPCRの方法は、米国特許第6472156号明細書に記載されている。そのような方法によって検出可能な標的の数は、検出可能な波長の数と識別可能な融解プロファイルの数との積である。したがって、色検出に融解アッセイを追加することは、複数の標的を検出する能力において一歩前進した。
【0009】
増幅後融解アッセイは最も一般的には定性的な目的、すなわち標的核酸を同定するために使用される。米国特許第6174670号明細書、同第6427156号明細書、及び同第5871908号明細書を参照。融解曲線関数を微分することによって融解ピークが得られることが知られている。Ririe et al. ("Product differentiation by analysis of DNA melting curves during the polymerase chain reaction," (1997) Anal. Biochem. 245:154-160)には、生成物の混合物によって作成された融解曲線を分析するのに微分は有用であることが述べられている。微分した後、混合物の各構成成分によって生じる融解ピークは容易に区別可能になる。また、増幅後融解シグナル、すなわち融解ピークが、試料中の核酸の量に比例して高いことも以前にから知られている。例えば、米国特許第6245514号明細書は、二本鎖挿入色素を使用して微分融解ピークを作成し、次いで専有ソフトウェアを使用してそのピークを積分する増幅後融解アッセイを教示している。積分は、増幅の効率及び増幅された核酸の相対量についての情報をもたらす。
【0010】
実際には、定性的アッセイのほかに、同一サンプル中の複数の標的を定量できることが望ましいであろう。例えば、Sparano et al. "Development of the 21-gene assay and its application in clinical practice and clinical trials," J. Clin. Oncol. (2008) 26(5):721-728を参照。標的の量を定量できることは、患者の血清中のウイルス量の決定、薬物療法に応答した遺伝子の発現レベルの測定、又はその療法に対する応答を予測するための腫瘍の分子署名(molecular signature)の決定などの臨床用途において有用である。
【0011】
リアルタイムPCRアッセイでは、標識プローブによって生成されたシグナルを使用して、投入標的核酸の量を推定することができる。投入量が大きいほど、蛍光シグナルは所定の閾値(Ct)を早く越える。したがって、試料を互いに、又は既知量の核酸を有する対照試料と比較することによって、標的核酸の相対量又は絶対量を決定することができる。しかし、既存の方法には、複数の標的を同時に定量する能力に限りがある。複数の標的の定性的検出と同様に、制限要因はスペクトル的に分解可能な蛍光色素分子の利用可能性である。上記で説明したように、最先端の蛍光標識技術は、同一チューブ内の6又は7つより多い別個の蛍光標識プローブから異なるシグナルを得ることができない。したがって、リアルタイムPCRの間に多数の核酸標的の増幅及び検出を可能にするためには、根本的に異なる実験的アプローチが必要とされる。
【0012】
標的核酸を検出するための方法は数多く知られている。現在利用可能な核酸検出のためのホモジニアスアッセイとしては、TaqMan(登録商標)、Ampliflour(登録商標)、色素結合、対立遺伝子選択的キネティックPCR、及びScorpion(登録商標)プライマーアッセイが含まれる。これらのアッセイ手順は、検出されるべき各標的核酸に対して異なる色素を必要とするために容易には多重化されず、したがってその改良の可能性が制限される。そのような制限を克服するために、いくつかの最近の研究は、容易に分離及び検出できる切断可能な「タグ」部分を含むオリゴヌクレオチドプローブの使用を開示している(例えば、Chenna et al、米国特許出願公開第2005/0053939号明細書、Van Den Boom、米国特許第8133701号明細書を参照)。より最近では、構造に基づいたオリゴヌクレオチドプローブの切断を用いることによってマルチプレックス核酸標的同定を行うための改良された方法が、米国特許出願公開第2014/0272955号明細書、同第2015/0176075号明細書、同第2015/0376681号明細書に記載されている。「プロービング及びタギングオリゴヌクレオチド(Probing and Tagging Oligonucleotide)」(PTO)及び「キャプチャリングアンドテンプレーティングオリゴヌクレオチド(Capturing and Templating Oligonucleotide)」(CTO)の組み合わせを用いることによって、いわゆるPTO切断及び伸長アッセイでDNA又は核酸の混合物から標的核酸配列を検出するさらなる方法が、Chun et al.米国特許第8809239号明細書に記載されている。しかし、標的核酸のハイスループットのマルチプレックス検出を実行するための正確な方法に対する必要性が依然として存在する。
【発明の概要】
【0013】
本発明は核酸配列検出、具体的にはリアルタイムPCRアッセイを用いた複数の標的核酸の検出のための新規の方法を提供する。この方法は、2つの独自の特徴、非相補的タグ部分とクエンチング分子を有する新規のオリゴヌクレオチドプローブを使用することによって行われる。
【0014】
したがって、1つの態様では、本発明は、(a)単一の反応容器内で標的核酸配列を含む試料を、(i)各オリゴヌクレオチドプライマーが標的核酸の部分配列の逆鎖にハイブリダイズできる1つのオリゴヌクレオチドプライマー対、(ii)アニーリング部分及びタグ部分を含み、タグ部分が、標的核酸配列に非相補的なヌクレオチド配列又は非ヌクレオチド分子を含み、アニーリング部分が、標的核酸配列に少なくとも部分的に相補的なヌクレオチド配列を含み、オリゴヌクレオチドプライマー対によって境界を画された標的核酸の部分配列の領域にハイブリダイズし、タグ部分又はアニーリング部分に位置するレポーター部分及びアニーリング部分に位置する第1のクエンチャー部分を含む相互作用標識をさらに含み、レポーター部分がヌクレアーゼ感受性切断部位によって第1のクエンチャー部分から分離され、レポーター部分をクエンチできる1つ以上のクエンチャー部分を含む又はそれと結合しているクエンチング分子がタグ部分に結合しているとき、タグ部分が、クエンチング分子に温度依存的に可逆的結合しているオリゴヌクレオチドプローブと接触させるステップ、(b)各PCRサイクルの伸長ステップの間に、ポリメラーゼのヌクレアーゼ活性が、プローブのアニーリング部分の第1のクエンチング部分からのレポーター部分の切断及び分離を可能にするように、5’から3’へのヌクレアーゼ活性を有する核酸ポリメラーゼを用いるPCRで標的核酸を増幅するステップ、(c)クエンチング分子がタグ部分に結合している第1の温度でレポーター部分からの抑制シグナルを測定するステップ、(d)クエンチング分子がタグ部分に結合していない第2の温度に温度を上昇させるステップ、(e)第2の温度でレポーター部分からの温度補正シグナルを測定するステップ、(f)第2の温度で検出された温度補正シグナルから第1の温度で検出された抑制シグナルを減算することによって算出シグナル値を得るステップ、(g)複数のPCRサイクルを通してステップ(b)から(f)を繰り返すステップ、(h)複数のPCRサイクルからの算出シグナル値を測定して、標的核酸の存在を検出するステップを含む、試料中の標的核酸を増幅及び検出する方法を提供する。
【0015】
1つの実施形態では、タグ部分は、核酸ポリメラーゼによって伸長できないように修飾を含む。1つの実施形態では、レポーター部分はオリゴヌクレオチドプローブのタグ部分である。別の実施形態では、レポーター部分はオリゴヌクレオチドプローブのアニーリング部分に位置し、温度依存的に第2のクエンチャー部分を含むクエンチング分子に相互作用することができる。1つの実施形態では、タグ部分は、標的核酸配列に非相補的なヌクレオチド配列を含み、クエンチング分子は、オリゴヌクレオチドプローブのタグ部分に少なくとも部分的に相補的なヌクレオチド配列を含むオリゴヌクレオチドであり、ハイブリダイゼーションによってタグ部分に結合する。別の実施形態では、オリゴヌクレオチドプローブのタグ部分又はクエンチング分子又はタグ部分とクエンチング分子の両方は、1つ以上のヌクレオチド修飾を含む。さらに別の実施形態では、1つ以上のヌクレオチド修飾は、ロックド核酸(LNA)、ペプチド核酸(PNA)、架橋化核酸(BNA)、2’-O-アルキル置換、L-エナンチオマーヌクレオチド、又はそれらの組み合わせからなる群より選択される。1つの実施形態では、レポーター部分は蛍光色素であり、クエンチャー部分は蛍光色素からの検出可能なシグナルをクエンチする。
【0016】
別の態様では、本発明は、(a)単一の反応容器内で2つ以上の標的核酸配列を含むことが疑われる試料を、(i)第1の標的核酸配列の各鎖に相補的なヌクレオチド配列をもつ第1のオリゴヌクレオチドプライマー対及び第2の標的核酸配列の各鎖に相補的なヌクレオチド配列をもつ第2のオリゴヌクレオチドプライマー対、(ii)第1の標的核酸配列に少なくとも部分的に相補的なヌクレオチド配列を含み、第1のオリゴヌクレオチドプライマー対によって境界を画された第1の標的核酸配列内にアニールし、検出可能なシグナルを生成できる蛍光部分及び蛍光部分によって生成される検出可能なシグナルをクエンチできる第1のクエンチャー部分を含み、蛍光部分が、ヌクレアーゼ感受性切断部位によって第1のクエンチャー部分と分離されている第1のオリゴヌクレオチドプローブ、(iii)2つの異なる部分、第2の標的核酸配列に少なくとも部分的に相補的なヌクレオチド配列を含み、第2のオリゴヌクレオチドプライマー対によって境界を画された第2の標的核酸配列内にアニールし、第2のクエンチャー部分を含むアニーリング部分と、アニーリング部分の5’末端若しくは3’末端に結合された又はアニーリング部分の領域にリンカーを介して結合された、2つ以上の標的核酸配列に非相補的なヌクレオチド配列を含むタグ部分を含み、タグ部分が、第1のオリゴヌクレオチドプローブの蛍光部分と同一であり、その検出可能なシグナルがアニーリング部分の第2のクエンチャー部分によってクエンチできる蛍光部分を含み、蛍光部分が、ヌクレアーゼ感受性切断部位によって第2のクエンチング部分から分離されている第2のオリゴヌクレオチドプローブ、(iv)第2のオリゴヌクレオチドプローブのタグ部分に少なくとも部分的に相補的なヌクレオチド配列を含み、タグ部分にハイブリダイズして二本鎖を形成し、タグ部分にハイブリダイズしたときにタグ部分の蛍光部分によって生成される検出可能なシグナルをクエンチする第3のクエンチャー部分を含むクエンチングオリゴヌクレオチドと接触させるステップ、(b)各PCRサイクルの伸長ステップの間に、核酸ポリメラーゼの5’から3’へのヌクレアーゼ活性が、第1のオリゴヌクレオチドプローブの第1のクエンチング部分からの蛍光部分の切断及び分離並びに第2のオリゴヌクレオチドプローブのアニーリング部分の第2のクエンチング部分からのタグ部分の蛍光部分の切断及び分離を可能にするように、第1及び第2の標的核酸配列を、5’から3’へのヌクレアーゼ活性を有する核酸ポリメラーゼを用いたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって増幅し、伸長ステップの間に、クエンチングオリゴヌクレオチドがタグ部分にハイブリダイズしたままであるステップ、(c)クエンチングオリゴヌクレオチドが、第2のオリゴヌクレオチドプローブのタグ部分にハイブリダイズされている第1の温度で蛍光シグナルを測定するステップ、(d)クエンチングオリゴヌクレオチドが第2のオリゴヌクレオチドプローブのタグ部分にハイブリダイズされない、第1の温度より高い第2の温度に温度を上昇させるステップ、(e)第2の温度で蛍光シグナルを測定するステップ、(f)第2の温度で検出された蛍光シグナルから第1の温度で検出された蛍光シグナルを減算することによって算出シグナル値を得るステップ、(g)ステップ(b)から(f)を複数のPCRサイクルで繰り返して、第1及び第2の標的核酸配列から所望の量の増幅産物を生成するステップ、(h)複数のPCRサイクルからの第1の温度で検出された蛍光シグナルから第1の標的核酸配列の存在を決定し、複数のPCRサイクルからの算出シグナル値から第2の標的核酸配列の存在を決定するステップを含む、試料中の2つ以上の標的核酸配列を検出する方法を提供する。
【0017】
1つの実施形態では、タグ部分は、核酸ポリメラーゼによって伸長できないように修飾を含む。別の実施形態では、タグ部分は前記アニーリング部分の5’末端に結合されている。さらに別の実施形態では、タグ部分は前記アニーリング部分の3’末端に結合されている。さらに別の実施形態では、タグ部分は前記アニーリング部分の領域にリンカーを介して結合されている。別の実施形態では、第2のオリゴヌクレオチドプローブの前記タグ部分又はクエンチングオリゴヌクレオチド又は前記タグ部分と前記クエンチングオリゴヌクレオチドの両方は、1つ以上のヌクレオチド修飾を含む。さらに別の実施形態では、1つ以上のヌクレオチド修飾は、ロックド核酸(LNA)、ペプチド核酸(PNA)、架橋化核酸(BNA)、2’-O-アルキル置換、L-エナンチオマーヌクレオチド、又はそれらの組み合わせからなる群より選択される。
【0018】
さらに別の態様では、本発明は、(a)単一の反応容器内で2つ以上の標的核酸配列を含むことが疑われる試料を、(i)第1の標的核酸配列の各鎖に相補的な配列をもつ第1のオリゴヌクレオチドプライマー対及び第2の標的核酸配列の各鎖に相補的な配列をもつ第2のオリゴヌクレオチドプライマー対、(ii)2つの異なる部分、第1の標的核酸配列に少なくとも部分的に相補的な配列を含み、第1のオリゴヌクレオチドプライマー対によって境界を画された第1の標的核酸配列内にアニールし、第1のクエンチャー部分を含む第1のアニーリング部分と、第1のアニーリング部分の5’末端若しくは3’末端に結合されるか又は第1のアニーリング部分の領域にリンカーを介して結合され、2つ以上の標的核酸配列に非相補的なヌクレオチド配列を含む第1のタグ部分を含み、第1のタグ部分が、検出可能なシグナルが第1のアニーリング部分の第1のクエンチャー部分によってクエンチできる蛍光部分を含み、蛍光部分が、ヌクレアーゼ感受性切断部位によって第1のクエンチング部分から分離されている第1のオリゴヌクレオチドプローブ、(iii)第1のオリゴヌクレオチドプローブの第1のタグ部分に少なくとも部分的に相補的な配列を含み、第1のタグ部分にハイブリダイズして二本鎖を形成し、第1のタグ部分にハイブリダイズされたときに第1のタグ部分の蛍光部分によって生成される検出可能なシグナルをクエンチする第2のクエンチング部分を含む第1のクエンチングオリゴヌクレオチド、(iv)2つの異なる部分、第2の標的核酸配列に少なくとも部分的に相補的な配列を含み、第2のオリゴヌクレオチドプライマー対によって境界を画された第2の標的核酸配列内にアニールし、第3のクエンチャー部分を含む第2のアニーリング部分と、第2のアニーリング部分の5’末端若しくは3’末端に結合されるか又は第2のアニーリング部分の領域にリンカーを介して結合され、2つ以上の標的核酸配列に非相補的なヌクレオチド配列を含み、第1のオリゴヌクレオチドプローブの第1のタグ部分のヌクレオチド配列と比較して異なる核酸配列若しくは異なるヌクレオチド修飾を有する第2のタグ部分を含み、第2のタグ部分が、第1のオリゴヌクレオチドプローブの蛍光部分と同一であり、検出可能なシグナルが、第2のアニーリング部分の第3のクエンチャー部分によってクエンチできる蛍光部分を含み、蛍光部分が、ヌクレアーゼ感受性切断部位によって第3のクエンチング部分から分離されている第2のオリゴヌクレオチドプローブ(v)第2のオリゴヌクレオチドプローブの第2のタグ部分に少なくとも部分的に相補的な配列を含み、第2のタグ部分にハイブリダイズして二本鎖を形成し、第2のタグ部分にハイブリダイズされたときに第2のタグ部分の蛍光部分によって生成される検出可能なシグナルをクエンチする第4のクエンチング部分を含む第2のクエンチングオリゴヌクレオチドと接触させ、第2のクエンチングオリゴヌクレオチドと第2のオリゴヌクレオチドプローブの第2のタグ部分の間の二本鎖が、第1のクエンチングオリゴヌクレオチドと第1のオリゴヌクレオチドプローブの第1のタグ部分の間の二本鎖より高い融解温度(Tm)値を有するステップ、(b)各PCRサイクルの伸長ステップの間に、核酸ポリメラーゼの5’から3’へのヌクレアーゼ活性が、(i)伸長ステップにおいて、第1のクエンチングオリゴヌクレオチドが第1のタグ部分にハイブリダイズしたままである、第1のオリゴヌクレオチドプローブの第1のアニーリング部分の第1のクエンチング部分からの第1のタグ部分の蛍光部分の切断及び分離、及び(ii)伸長ステップにおいて、第2のクエンチングオリゴヌクレオチドが第2のタグ部分にハイブリダイズしたままである、第2のオリゴヌクレオチドプローブの第2のアニーリング部分の第3のクエンチング部分からの第2のタグ部分の蛍光部分の切断及び分離を可能にするように、5’から3’へのヌクレアーゼ活性を有する核酸ポリメラーゼを用いたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって第1及び第2の標的核酸配列を増幅するステップ、(c)第1のクエンチングオリゴヌクレオチドが、第1のオリゴヌクレオチドプローブからの第1のタグ部分にハイブリダイズされず、第2のクエンチングオリゴヌクレオチドが、第2のオリゴヌクレオチドプローブからの第2のタグ部分にハイブリダイズしたままである第1の温度に温度を上昇させるステップ、(d)第1の温度で蛍光シグナルを測定するステップ、(e)第2のクエンチングオリゴヌクレオチドが、第2のオリゴヌクレオチドプローブの第2のタグ部分にハイブリダイズされない第2の温度に温度を上昇させるステップ、(f)第2の温度で蛍光シグナルを測定するステップ、(g)第2の温度で検出された蛍光シグナルから第1の温度で検出された蛍光シグナルを減算することによって算出シグナル値を得るステップ、(h)ステップ(b)から(f)を複数のPCRサイクルで繰り返して、第1及び第2の標的核酸配列から所望の量の増幅産物を生成するステップ、(I)複数のPCRサイクルからの第1の温度で検出された蛍光シグナルから第1の標的核酸配列の存在を決定し、複数のPCRサイクルからの算出シグナル値から第2の標的核酸配列の存在を決定するステップを含む、試料中の2つ以上の標的核酸配列を検出する方法を提供する。
【0019】
1つの実施形態では、前記第1のタグ部分と前記第2のタグ部分はともに、両方のタグ部分が核酸ポリメラーゼによって伸長できないように修飾を含む。
【0020】
1つの実施形態では、第1のタグ部分は、前記第1のオリゴヌクレオチドプローブの前記第1のアニーリング部分の3’末端に結合され、第2のタグ部分は、前記第2のオリゴヌクレオチドプローブの前記第2のアニーリング部分の3’末端に結合されている。別の実施形態では、第1のタグ部分は、前記第1のオリゴヌクレオチドプローブの前記第1のアニーリング部分の3’末端に結合され、第2のタグ部分は、前記第2のオリゴヌクレオチドプローブの前記第2のアニーリング部分の5’末端に結合されている。別の実施形態では、第1のタグ部分は、前記第1のオリゴヌクレオチドプローブの前記第1のアニーリング部分の3’末端に結合され、第2のタグ部分は、第2のオリゴヌクレオチドプローブの第2のアニーリング部分の領域にリンカーを介して結合されている。
【0021】
1つの実施形態では、第1のタグ部分は、前記第1のオリゴヌクレオチドプローブの前記第1のアニーリング部分の5’末端に結合され、第2のタグ部分は、前記第2のオリゴヌクレオチドプローブの前記第2のアニーリング部分の5’末端に結合されている。別の実施形態では、第1のタグ部分は、前記第1のオリゴヌクレオチドプローブの前記第1のアニーリング部分の5’末端に結合され、第2のタグ部分は、前記第2のオリゴヌクレオチドプローブの前記第2のアニーリング部分の3’末端に結合されている。別の実施形態では、第1のタグ部分は、前記第1のオリゴヌクレオチドプローブの前記第1のアニーリング部分の5’末端に結合され、第2のタグ部分は、第2のオリゴヌクレオチドプローブの第2のアニーリング部分の領域にリンカーを介して結合されている。
【0022】
1つの実施形態では、第1のタグ部分は、第1のオリゴヌクレオチドプローブの第1のアニーリング部分の領域にリンカーを介して結合され、第2のタグ部分は、前記第2のオリゴヌクレオチドプローブの前記第2のアニーリング部分の5’末端に結合されている。別の実施形態では、第1のタグ部分は、第1のオリゴヌクレオチドプローブの第1のアニーリング部分の領域にリンカーを介して結合され、第2のタグ部分は、前記第2のオリゴヌクレオチドプローブの前記第2のアニーリング部分の3’末端に結合されている。別の実施形態では、第1のタグ部分は、第1のオリゴヌクレオチドプローブの第1のアニーリング部分の領域にリンカーを介して結合され、第2のタグ部分は、第2のオリゴヌクレオチドプローブの第2のアニーリング部分の領域にリンカーを介して結合されている。
【0023】
1つの実施形態では、前記第1のオリゴヌクレオチドプローブの前記第1のタグ部分、若しくは前記第1のクエンチングオリゴヌクレオチド、若しくは前記第2のオリゴヌクレオチドプローブの前記第2のタグ部分、若しくは前記第2のクエンチングオリゴヌクレオチドのいずれか又はそれらのいずれかの組み合わせは、1つ以上のヌクレオチド修飾を含む。1つの実施形態では、1つ以上のヌクレオチド修飾は、ロックド核酸(LNA)、ペプチド核酸(PNA)、架橋化核酸(BNA)、2’-O-アルキル置換、L-エナンチオマーヌクレオチド、又はそれらの組み合わせからなる群より選択される。さらに別の態様では、本発明は、(a)2つ以上の標的核酸配列の各鎖に相補的な配列をもつ2つ以上のオリゴヌクレオチドプライマー対、(b)2つの異なる部分、2つ以上の標的核酸配列の1つに少なくとも部分的に相補的な配列を含み、2つ以上の標的核酸配列の1つにアニールし、第1のクエンチャー部分を含むアニーリング部分と、第1のアニーリング部分の5’末端若しくは3’末端に結合された、又はアニーリング部分の領域にリンカーを介して結合されたタグ部分を含み、2つ以上の標的核酸配列に非相補的なヌクレオチド配列を含み、タグ部分が、検出可能なシグナルがアニーリング部分の第1のクエンチャー部分でクエンチできる蛍光部分を含み、蛍光部分が、ヌクレアーゼ感受性切断部位によって第1のクエンチング部分から分離されている少なくとも1つのオリゴヌクレオチドプローブ、(c)オリゴヌクレオチドプローブのタグ部分に少なくとも部分的に相補的なヌクレオチド配列を含み、タグ部分にハイブリダイズして二本鎖を形成し、クエンチングオリゴヌクレオチドがタグ部分にハイブリダイズしたとき、タグ部分の蛍光部分によって生成された検出可能なシグナルをクエンチする第2のクエンチャー部分を含む少なくとも1つのクエンチングオリゴヌクレオチドを備える、試料中の2つ以上の標的核酸配列を検出するためのキットを提供する。1つの実施形態では、前記オリゴヌクレオチドプローブの前記タグ部分、又はクエンチングオリゴヌクレオチド、又は前記オリゴヌクレオチドプローブの前記タグ部分と前記クエンチングオリゴヌクレオチドの両方は、もう1つの(one more)ヌクレオチド修飾を含み、1つ以上のヌクレオチド修飾は、ロックド核酸(LNA)、ペプチド核酸(PNA)、架橋化核酸(BNA)、2’-O-アルキル置換、L-エナンチオマーヌクレオチド、又はそれらの組み合わせからなる群より選択される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、本発明の方法を実施するために使用されるオリゴヌクレオチドプローブの1つの実施形態の図による説明である。
図2図2は、タグ部分の分離及びそれに続くクエンチングオリゴヌクレオチドの解離を示す本発明の方法を図で表したものである。
図3図3は、本発明の方法の1つの実施形態の説明である。
図4図4は、本発明の方法の別の実施形態を用いるシグナル検出温度を示す。
図5図5は、本発明の方法を実施するために使用されるオリゴヌクレオチドプローブのさまざまな実施形態を示す。
図6図6は、実施例1に記載の、クエンチングオリゴヌクレオチドと蛍光標識相補的オリゴヌクレオチドの間の2つの温度でのハイブリダイゼーション及び解離の結果を示す。
図7図7は、HIV-1グループM鋳型(HIM)の非存在下(図7A)、又は10cp/rxn(図7B)、100cp/rxn(図7C)、及び1,000cp/rxn(図7D)のHIMの存在下で、標準TaqManプローブG0、及び58℃でのFAM蛍光読み取り値を用いて、0、100、1000、又は10,000cp/rxnの内部標準(internal control)テンプレート(GIC)から作成されたPCR増幅曲線を示す。
図8図8は、GICの非存在下(図8A)、又は100cp/rxn(図8B)、1000cp/rxn(図8C)、及び10,000cp/rxn(図8D)のGICの存在下で、相補的クエンチングオリゴヌクレオチド(Q9)をもつタグ付きプローブ(L24)、及び80℃でのFAM蛍光読み取り値を用いて、0、10、100、又は1,000cp/rxnのHIMから作成されたPCR増幅曲線を示す。
図9図9は、GICの非存在下(図9A)、又は100cp/rxn(図9B)、1,000cp/rxn(図9C)、及び10,000cp/rxn(図9D)のGICの存在下における80℃での蛍光シグナルから84%の58℃での蛍光シグナルを引くことによって作成された0、10、100、又は1,000cp/rxnのHIMから得られた増幅曲線を示す。
図10A図10A及び図10Bは、標準TaqMan(登録商標)GICプローブ(G0)と相補的クエンチングオリゴヌクレオチド(Q9)をもつタグ付きHIVプローブ(L24)を用いて、内部標準テンプレート(GIC)、HIVテンプレート(HIV)、又はGICとHIVテンプレートの両方(G+H)から作成されたPCR増幅曲線を示し、両プローブは、FAM(図10A、上段)、HEX(図10A、下段)、JA270色素(図10B、上段)、又はCy5.5(図10B、下段)で標識されている。
図10B図10A及び図10Bは、標準TaqMan(登録商標)GICプローブ(G0)と相補的クエンチングオリゴヌクレオチド(Q9)をもつタグ付きHIVプローブ(L24)を用いて、内部標準テンプレート(GIC)、HIVテンプレート(HIV)、又はGICとHIVテンプレートの両方(G+H)から作成されたPCR増幅曲線を示し、両プローブは、FAM(図10A、上段)、HEX(図10A、下段)、JA270色素(図10B、上段)、又はCy5.5(図10B、下段)で標識されている。
図11A図11A図11B、及び図11Cは、L24タグ付きプローブがD-DNAの代わりにL-DNAを含む、実施例4に記載の実験のPCR増幅曲線を示し、58℃でのFAM蛍光読み取り値(図11A)、80℃でのFAM蛍光読み取り値(図11B)、及び80℃の蛍光シグナルから減算された58℃での蛍光シグナルの84%(図11C)である。
図11B図11A図11B、及び図11Cは、L24タグ付きプローブがD-DNAの代わりにL-DNAを含む、実施例4に記載の実験のPCR増幅曲線を示し、58℃でのFAM蛍光読み取り値(図11A)、80℃でのFAM蛍光読み取り値(図11B)、及び80℃の蛍光シグナルから減算された58℃での蛍光シグナルの84%(図11C)である。
図11C図11A図11B、及び図11Cは、L24タグ付きプローブがD-DNAの代わりにL-DNAを含む、実施例4に記載の実験のPCR増幅曲線を示し、58℃でのFAM蛍光読み取り値(図11A)、80℃でのFAM蛍光読み取り値(図11B)、及び80℃の蛍光シグナルから減算された58℃での蛍光シグナルの84%(図11C)である。
図12図12は、蛍光シグナル検出が、標準TaqMan(登録商標)GICプローブ(IC-QF)、A及びGヌクレオチドが2’-OMe置換で修飾されたクエンチングオリゴヌクレオチド(Q9-OMe A/G)をもつタグ付きHIVプローブ(L24)、クエンチングオリゴヌクレオチド(Q9-OMe A/G)をもつすべてのヌクレオチドが2’-OMe置換で修飾されたタグ付きHIVプローブ(L24-OMe)、及びすべてのヌクレオチドが2’-OMe置換で修飾されたクエンチングオリゴヌクレオチド(Q9-OMe)をもつタグ付きHIVプローブ(L24-OMe)の存在下において、58℃、75℃、88℃、又は97℃で測定された、実施例5に記載の実験のPCR増幅曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
定義
本明細書で使用される場合、「試料」という用語は、核酸を含む標本又は培養物(例えば、微生物学的培養物)を含む。「試料」という用語はまた、生体試料及び環境試料の両方を含むことを意味する。試料は合成に由来する標本を含みうる。生体試料としては、全血、血清、血漿、臍帯血、絨毛膜絨毛、羊水、脳脊髄液、髄液、洗浄液(例えば、気管支肺胞、胃、腹膜、乳管、耳、関節鏡検査)、生検試料、尿、糞便、喀痰、唾液、鼻粘液、前立腺液、精液、リンパ液、胆汁、涙、汗、母乳、乳房液、胚細胞、及び胎児細胞が挙げられる。好ましい実施形態では、生体試料は血液であり、より好ましくは血漿である。本明細書で使用される場合、「血液」という用語は、全血、又は従来定義されているような血清及び血漿などの血液のいずれの画分も包含する。血漿は、抗凝固剤で処理された血液の遠心分離から生じる全血の画分を指す。血清は、血液試料が凝固した後に残っている水分の多い(watery)部分を指す。環境試料としては、表面物質、土壌、水、及び工業用試料などの環境材料、並びに食品及び乳製品加工器具、装置、機器、用具、使い捨て品、及び非使い捨て品から得られる試料が挙げられる。これらの実施例は、本発明に適用可能な試料の種類を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0026】
本明細書で使用される場合、「標的」又は「標的核酸」という用語は、その存在が検出又は測定されるべきであるか、又はその機能、相互作用、若しくは特性が研究されるべきである任意の分子を意味することを意図する。標的は、それに対する検出可能なプローブ(例えば、オリゴヌクレオチドプローブ)又はアッセイが既存又は当業者によって作製できる本質的にいずれの分子も含む。例えば、標的は、検出可能なプローブ(例えば、抗体)と結合できるか、そうでなければ接触することができる、核酸分子、ポリペプチド、脂質、又は炭水化物などの生体分子でありうる。ここで検出可能プローブは本発明の方法によって検出できる核酸も含む。本明細書で使用される場合、「検出可能プローブ」とは、対象の標的生体分子にハイブリダイズ又はアニールでき、本明細書に記載の標的生体分子の特異的検出を可能にする任意の分子又は薬剤をいう。本発明の1つの態様では、標的は核酸であり、検出可能なプローブはオリゴヌクレオチドである。「核酸」及び「核酸分子」という用語は、本開示全体を通して互換的に使用されうる。この用語は、オリゴヌクレオチド、オリゴ、ポリヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチド(DNA)、ゲノムDNA、ミトコンドリアDNA(mtDNA)、相補的DNA(cDNA)、細菌DNA、ウイルスDNA、ウイルスRNA、RNA、メッセージRNA(message RNA)(mRNA)、転移RNA(tRNA)、リボソームRNA(rRNA)、siRNA、触媒RNA、クローン、プラスミド、M13、P1、コスミド、細菌人工染色体(BAC)、酵母人工染色体(YAC)、増幅核酸、アンプリコン、PCR産物、他のタイプの増幅核酸、RNA/DNAハイブリッド、及びポリアミド核酸(PNA)を指し、これらはすべて一本鎖又は二本鎖のいずれかの形態でありえ、別段の限定がない限り、天然ヌクレオチド並びにそれらの組み合わせ及び/又は混合物として同じように機能できる天然ヌクレオチドの既知のアナログを包含することになる。したがって、「ヌクレオチド」という用語は、ヌクレオシドトリ、ジ、及びモノホスフェート、並びにポリ核酸又はオリゴヌクレオチド内に存在するモノホスフェートモノマーを含む、天然と修飾/非天然ヌクレオチドの両方を指す。ヌクレオチドはまた、リボ、2’-デオキシ、2’,3’-デオキシ、並びに当該技術分野で周知の他の膨大な数のヌクレオチド模倣物であってもよい。模倣物としては、3’-O-メチル、ハロゲン化塩基、又は糖置換などの鎖末端ヌクレオチド、非糖質、アルキル環構造を含む代替糖構造、イノシンを含む代替塩基、デアザ修飾、カイ、及びプサイ、リンカー修飾、マス標識(mass label)修飾、ホスホロチオエート、メチルホスホネート、ボラノホスフェート、アミド、エステル、エーテルを含むホスホジエステル修飾又は置換、光開裂可能なニトロフェニル部分などの切断連結(cleavage linkages)を含む塩基又は完全(basic or complete)ヌクレオチド間置換が挙げられる。
【0027】
ターゲットの有無は、定量的又は定性的に測定することができる。標的は、例えば単純若しくは複雑な混合物、又は実質的に精製された形態を含むさまざまな異なる形態でありうる。例えば、標的は、他の構成成分を含有する試料の一部である場合もあり、試料の唯一の構成成分又は主要な構成成分である場合もある。したがって、標的は、全細胞若しくは組織、細胞若しくは組織抽出物、それらの分画された溶解物、又は実質的に精製された分子の構成成分でありうる。また標的は、既知又は未知の配列又は構造を有することができる。
【0028】
「増幅反応」という用語は、核酸の標的配列のコピーを増やすためのいずれかのインビトロ手段を指す。
【0029】
「増幅すること(Amplifying)」とは、増幅を可能にするのに充分な条件に溶液を供するステップを指す。増幅反応の構成要素としては、例えば、プライマー、ポリヌクレオチドテンプレート、ポリメラーゼ、ヌクレオチド、dNTPなどが挙げられうるが、これらに限定されない。「増幅すること(amplifying)」という用語は、典型的には標的核酸の「指数関数的」増加を指す。しかし、本明細書で使用される場合、「増幅すること」はまた、核酸の選択された標的配列の数の直線的増加を指すことができるが、一回の単一プライマー伸長ステップ(a one-time, single primer extension step)とは異なる。
【0030】
「ポリメラーゼ連鎖反応」又は「PCR」とは、それによって標的二本鎖DNAの特定のセグメント又は部分配列が幾何学的な進行(geometric progression)で増幅される方法を指す。PCRは当業者に周知である。例えば、米国特許第4683195号明細書及び同第4683202号明細書並びにPCRプロトコール、A Guide to Methods and Applications, Innis et al., eds, 1990を参照。
【0031】
本明細書で使用される場合、「オリゴヌクレオチド」は、ホスホジエステル結合によって連結された天然若しくは修飾ヌクレオシドモノマーの直鎖オリゴマー又はその類似体を指す。オリゴヌクレオチドとしては、標的核酸に特異的に結合できるデオキシリボヌクレオシド、リボヌクレオシド、それらのアノマー形態、ペプチド核酸(PNA)などが挙げられる。通常、モノマーはホスホジエステル結合又はその類似体によって連結されて、数モノマー単位、例えば3~4から数十モノマー単位、例えば40~60の範囲のサイズのオリゴヌクレオチドを形成する。オリゴヌクレオチドが「ATGCCTG」のなどの一連の文字で表されるときはいつでも、ヌクレオチドは左から右へ5’-3’の順序であり、別段の注記のない限り、「A」はデオキシアデノシンを表し、「C」はデオキシシチジンを表し、「G」はデオキシグアノシンを表し、「T」はデオキシチミジンを表し、「U」はリボヌクレオシド、ウリジンを表すことを理解されたい。通常、オリゴヌクレオチドは4つの天然デオキシヌクレオチドを含む。しかし、それらはリボヌクレオシド又は非天然ヌクレオチドアナログも含みうる。酵素が、活性のための、特異的なオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチド基質の必要条件を有する、例えば一本鎖DNA、RNA/DNA二本鎖などを有する場合、オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチド基質のための適切な組成物の選択は充分に当業者の知識の範囲内である。
【0032】
本明細書で使用される場合、「オリゴヌクレオチドプライマー」又は単に「プライマー」とは、標的核酸テンプレートの配列にハイブリダイズし、オリゴヌクレオチドプローブの検出を容易にするポリヌクレオチド配列を指す。本発明の増幅実施形態において、オリゴヌクレオチドプライマーは核酸合成の開始点として機能する。非増幅実施形態では、オリゴヌクレオチドプライマーを使用して、切断剤によって切断できる構造を作り出すことができる。プライマーはさまざまな長さでありうる。多くの場合、50ヌクレオチド長未満、例えば12~25ヌクレオチド長である。PCRに使用するためのプライマーの長さ及び配列は、当業者に公知の原則に基づいて設計することができる。
【0033】
本明細書で使用される場合、「オリゴヌクレオチドプローブ」という用語は、対象の標的核酸にハイブリダイズ又はアニールでき、標的核酸の特異的検出を可能にするポリヌクレオチド配列を指す。
【0034】
「レポーター部分」又は「レポーター分子」は、検出可能なシグナルを付与する分子である。検出可能な表現型は、例えば比色、蛍光、又は発光性でありうる。「クエンチャー部分」又は「クエンチャー分子」は、レポーター部分からの検出可能なシグナルをクエンチできる分子である。
【0035】
「ミスマッチヌクレオチド」又は「ミスマッチ」は、その位置又は複数の位置で標的配列に相補的ではないヌクレオチドを指す。オリゴヌクレオチドプローブは少なくとも1つのミスマッチを有することがある。2、3、4、5、6、7つ又はそれより多いミスマッチヌクレオチドを有する可能性もある。
【0036】
本明細書で使用される場合、「多型」という用語は、対立遺伝子バリアントを指す。多型は、一塩基多型(SNP)及び単純配列長多型を含みうる。多型は、1つの対立遺伝子における別の対立遺伝子に比べて1つ以上のヌクレオチド置換によるものでありうるか、又は挿入若しくは欠失、重複、逆位、及び当技術分野で公知の他の改変によるものでありうる。
【0037】
本明細書で使用される場合、「修飾」という用語は、分子レベル(例えば、塩基部分、糖部分、又はリン酸骨格)でのオリゴヌクレオチドプローブの改変を指す。ヌクレオシド修飾としては、切断ブロッカー又は切断誘発剤の導入、マイナーグルーブバインダーの導入、同位体濃縮、同位体ディプリーション(isotopic depletion)、重水素の導入、及びハロゲン修飾が挙げられるが、これらに限定されない。ヌクレオシド修飾はまた、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを高める部分又はオリゴヌクレオチドプローブの融解温度を上げる部分を含みうる。例えば、ヌクレオチド分子は、(Imanishi et al.、米国特許第6268490号明細書及びWengel et al.、米国特許第6794499号明細書に記載のように)2’及び4’炭素を連結する追加の架橋で修飾されて、ヌクレアーゼによる切断に対して抵抗性であるロックド核酸(LNA)ヌクレオチドをもたらしうる。オリゴヌクレオチドプローブ及びクエンチングオリゴヌクレオチド分子のタグ部分の組成は、安定な二本鎖を形成するそれらの能力によってのみ制限される。したがって、これらのオリゴヌクレオチドは、DNA、L-DNA、RNA、L-RNA、LNA、L-LNA、PNA(Nielsen et al.、米国特許第5539082号明細書に記載のペプチド核酸)、BNA(架橋核酸、例えば、Rahman et al., J. Am. Chem. Soc. 2008;130(14):4886-96に記載の2’,4’-BNA(NC)[2’-O,4’-C-アミノメチレン架橋核酸])、L-BNAなど(ここで、「L-XXX」は、核酸の糖単位のL-エナンチオマーを指す)、又はヌクレオチド塩基、糖、若しくはホスホジエステル骨格上のその他の既知の変形形態及び修飾形態から構成されうる。
【0038】
ヌクレオシド修飾の他の例としては、オリゴヌクレオチドの糖部分に導入されるハロ、アルコキシ、及びアリルオキシ基などのさまざまな2’置換が挙げられる。2’-置換-2’-デオキシアデノシンポリヌクレオチドはDNAよりも二本鎖RNAに似ているという証拠が提示されている。Ikehara et al., (Nucleic Acids Res., 1978, 5, 3315)は、標準的な融解アッセイで測定して、その相補体に二本鎖形成したポリA、ポリI、又はポリC中の2’-フルオロ置換基が、リボヌクレオチド又はデオキシリボヌクレオチドポリ二本鎖よりも著しく安定であることを示した。Inoue et al., (Nucleic Acids Res., 1987, 15, 6131)は、すべての核酸ヌクレオチドに2’-OMe(O-メチル)置換基を含む混合オリゴヌクレオチド配列の合成を記載している。混合2’-OMe-置換オリゴヌクレオチドはそのRNA相補体に、同じ配列のRNA-DNAヘテロ二本鎖よりも著しく強いRNA-RNA二本鎖と同じくらい強くハイブリダイズした。したがって、糖の2’位における置換の例には、F、CN、CF3、OCF3、OMe、OCN、O-アルキル、S-アルキル、SMe、SO2Me、ONO2、NO2、NH3、NH2、NH-アルキル、OCH3=CH2、及びOCCHが挙げられる。
【0039】
標的ポリヌクレオチドに対するプローブなどの、ある分子の別の分子への結合に関する「特異的な」又は「特異性」という用語は、2つの分子間の認識、接触、及び安定した複合体の形成を指し、その分子と他の分子との認識、接触、又は複合体形成が非常に少ない。本明細書で使用される場合、「アニールする」という用語は、2つの分子間の安定した複合体の形成を指す。
【0040】
プローブの少なくとも1つの領域が核酸配列の相補体の少なくとも1つの領域と実質的な配列同一性を共有する場合、プローブは核酸配列に「アニールすることができる」。「実質的な配列同一性」は、少なくとも約80%、好ましくは少なくとも約85%、より好ましくは少なくとも約90%、95%、又は99%、及び最も好ましくは100%の配列同一性である。DNA配列及びRNA配列の配列同一性を決定する目的では、U及びTはしばしば同じヌクレオチドと見なされる。例えば、配列ATCAGCを含むプローブは、配列GCUGAUを含む標的RNA配列とハイブリダイズすることができる。
【0041】
本明細書で使用される「切断剤」という用語は、オリゴヌクレオチドプローブを切断して断片を生じさせることができる任意の手段を意味し、これには酵素が含まれるがそれに限定されない。増幅が起こらない方法では、切断剤は単独でオリゴヌクレオチドプローブの第2の部分又はその断片を切断、分解、そうでなければ分離する役目を果たしうる。切断剤は酵素でありうる。切断剤は、天然、合成、無修飾、又は修飾のいずれでもよい。
【0042】
増幅が起こる方法では、切断剤は合成(又は重合)活性及びヌクレアーゼ活性を有する酵素であることが好ましい。そのような酵素はしばしば核酸増幅酵素である。核酸増幅酵素の例は、テルムス・アクウァーティクス(Thermus aquaticus)(Taq)DNAポリメラーゼ(TaqMan(登録商標))やイー・コライ(E. coli)DNAポリメラーゼIなどの核酸ポリメラーゼ酵素である。酵素は、天然、無修飾、又は修飾のいずれでもよい。
【0043】
「核酸ポリメラーゼ」とは、核酸へのヌクレオチドの取り込みを触媒する酵素を指す。例示的な核酸ポリメラーゼとしては、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、ターミナルトランスフェラーゼ、逆転写酵素、テロメラーゼなどが挙げられる。
【0044】
「耐熱性DNAポリメラーゼ」とは、選択された期間にわたって高温に供されたときに安定であり(すなわち分解又は変性に抵抗し)、充分な触媒活性を保持するDNAポリメラーゼを指す。例えば、耐熱性DNAポリメラーゼは、二本鎖核酸を変性させるのに必要な時間の間高温に供された場合に、その後のプライマー伸長反応を起こすのに充分な活性を保持する。核酸変性に必要な加熱条件は当該技術分野において周知であり、米国特許第4683202号明細書及び同第4683195号明細書に例示されている。本明細書で使用される場合、耐熱性ポリメラーゼは、典型的には、ポリメラーゼ連鎖反応(「PCR」)などの温度サイクル反応での使用に適している。耐熱性核酸ポリメラーゼの例としては、テルムス・アクウァーティクスTaq DNAポリメラーゼ、テルムス種Z05ポリメラーゼ、テルムス・フラバスポリメラーゼ、TMA-25やTMA-30ポリメラーゼなどのテルモトガ・マリティマポリメラーゼ、Tth DNAポリメラーゼなどが挙げられる。
【0045】
「修飾」ポリメラーゼとは、天然若しくは野生型のポリメラーゼ又は別の修飾された形態のポリメラーゼなど、少なくとも1つのモノマーが基準配列と異なるポリメラーゼを指す。例示的な修飾としては、モノマーの挿入、欠失、及び置換が挙げられる。修飾ポリメラーゼにはまた、2つ以上の親に由来する同定可能な構成要素配列(例えば、構造ドメイン又は機能ドメインなど)を有するキメラポリメラーゼも含まれる。修飾ポリメラーゼの定義内にはまた、基準配列の化学修飾を含むものも含まれる。修飾ポリメラーゼの例としては、G46E E678G CS5 DNAポリメラーゼ、G46E L329A E678G CS5 DNAポリメラーゼ、G46E L329A D640G S671F CS5 DNAポリメラーゼ、G46E L329A D640G S671F E678G CS5 DNAポリメラーゼ、G46E E678G CS6 DNAポリメラーゼ、Z05 DNAポリメラーゼ、ΔZ05 ポリメラーゼ、ΔZ05-ゴールドポリメラーゼ、ΔZ05R ポリメラーゼ、E615G Taq DNAポリメラーゼ、E678G TMA-25ポリメラーゼ、E678G TMA-30ポリメラーゼなどが挙げられる。
【0046】
「5’から3’へのヌクレアーゼ活性」又は「5’-3’ヌクレアーゼ活性」という用語は、核酸鎖合成に典型的に関連し、それによってヌクレオチドが核酸鎖の5’末端から除去される核酸ポリメラーゼの活性を指す。例えば、イー・コライDNAポリメラーゼIはこの活性を有するのに対し、クレノウ断片は有しない。5’から3’へのヌクレアーゼ活性を有するいくつかの酵素は、5’から3’へのエキソヌクレアーゼである。そのような5’から3’へのエキソヌクレアーゼの例としては、バチルス.サブティリス由来のエキソヌクレアーゼ、脾臓由来のホスホジエステラーゼ、ラムダエキソヌクレアーゼ、酵母由来のエキソヌクレアーゼII、酵母由来のエキソヌクレアーゼV、及びニューロスポラ・クラッサ由来のエキソヌクレアーゼが挙げられる。
【0047】
「プロパンジオール」又は「プロパンジオールスペーサー」という用語は、1,3-プロパンジオールを指し、プロパン-1,3-ジオール、1,3-ジヒドロキシプロパン、及びトリメチレングリコールと同義である。「HEG」又は「HEGスペーサー」という用語は、3,6,9,12,15-ペンタオキサヘプタデカン-1,17-ジオールと同義であるヘキサエチレングリコールを指す。
【0048】
本発明のさまざまな態様は、核酸ポリメラーゼの特別な性質に基づいている。核酸ポリメラーゼは、いくつかの活性、とりわけ5’から3’へのヌクレアーゼ活性を有することができ、それによって核酸ポリメラーゼは、より大きい相補的ポリヌクレオチドにアニールしたオリゴヌクレオチドからモノヌクレオチド又は小さいオリゴヌクレオチドを切断することができる。切断が効率的に起こるためには、上流オリゴヌクレオチドも、同じ大きいポリヌクレオチドにアニールされなければならない。
【0049】
米国特許第5210015号明細書、同第5487972号明細書、及び同第5804375号明細書、並びにHolland et al., 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88:7276-7280に記載のように、5’から3’へのヌクレアーゼ活性を利用した標的核酸の検出は、「TaqMan(登録商標)」又は「5′-ヌクレアーゼアッセイ」によって行うことができる。TaqMan(登録商標)アッセイでは、増幅反応中に増幅領域内でハイブリダイズする標識検出プローブが存在する。プローブがDNA合成のためのプライマーとして作用するのを防ぐようにプローブは修飾される。増幅は、5’から3’へのエキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼを用いて行われる。増幅の各合成ステップの間に、伸長されているプライマーから下流の標的核酸にハイブリダイズするプローブはいずれも、DNAポリメラーゼの5’から3’へのエキソヌクレアーゼ活性によって分解される。したがって、新しい標的鎖の合成もまたプローブの分解をもたらし、分解産物の蓄積は標的配列の合成の尺度を提供する。
【0050】
分解産物の検出に適した方法はいずれも、5’ヌクレアーゼアッセイに使用することができる。多くの場合、検出プローブは2つの蛍光色素で標識されており、そのうちの一方は、もう一方の色素の蛍光をクエンチすることができる。プローブがハイブリダイズしていない状態にあるときにクエンチングが起こり、DNAポリメラーゼの5’から3’へのエキソヌクレアーゼ活性によるプローブの切断が2つの色素の間で起こるように、色素は、5’末端に結合されているレポーター色素又はデテクター色素及び内部部位に結合されているクエンチング色素を典型的にもつプローブに結合されている。増幅は、色素間のプローブの切断をもたらし、附随してクエンチングが解消され、当初クエンチされた色素からの観察可能な蛍光が増加する。分解産物の蓄積は反応蛍光の増加を測定することによってモニターされる。米国特許第5491063号明細書及び同第5571673号明細書は、増幅と同時に起こるプローブの分解を検出するための代替的な方法を記載している。
【0051】
標的核酸の検出のための5’ヌクレアーゼアッセイは、5’から3’へのエキソヌクレアーゼ活性を有するいずれかのポリメラーゼを用いることができる。したがって、いくつかの実施形態では、5’-ヌクレアーゼ活性をもつポリメラーゼは耐熱性及び熱活性核酸ポリメラーゼである。そのような耐熱性ポリメラーゼとしては、限定されないが、真正細菌テルムス属、テルモトガ属、及びテルモシフォ属のさまざまな種に由来する天然及び組換え型のポリメラーゼ、並びにそれらのキメラ型が挙げられる。例えば、本発明の方法に使用できるテルムス種ポリメラーゼとしては、テルムス・アクウァーティクス(Taq)DNAポリメラーゼ、テルムス・サーモフィルス(Tth)DNAポリメラーゼ、テルムス種Z05(Z05)DNAポリメラーゼ、テルムス種sps17(sps17)、及びテルムス種Z05が挙げられる(例えば、米国特許第5405774号明細書、同第5352600号明細書、同第5079352号明細書、同第4889818号明細書、同第5466591号明細書、同第5618711号明細書、同第5674738号明細書、及び同第5795762号明細書に記載されている)。本発明の方法に使用できるテルモトガポリメラーゼとしては、例えば、テルモトガ・マリティマDNAポリメラーゼ及びテルモトガ・ネアポリタナDNAポリメラーゼが挙げられ、一方で使用できるテルモシフォポリメラーゼの例はテルモシフォ・アフリカヌスDNAポリメラーゼである。テルモトガ・マリティマ及びテルモシフォ・アフリカヌスのDNAポリメラーゼの配列は、国際特許出願PCT/US91/07035号明細書と国際公開第92/06200号パンフレットに公開されている。テルモトガ・ネアポリタナの配列は、国際特許公開第97/09451号パンフレットに見出すことができる。
【0052】
5′ヌクレアーゼアッセイでは、増幅検出は典型的には増幅と同時並行して(すなわち「リアルタイム」)に行われる。いくつかの実施形態では、増幅検出は定量的であり、増幅検出はリアルタイムである。いくつかの実施形態では、増幅検出は定性的である(例えば、標的核酸の存在又は非存在の終点検出)。いくつかの実施形態では、増幅検出は増幅に続く。いくつかの実施形態では、増幅検出は定性的であり、増幅検出は増幅に続く。
【0053】
本発明では、単一の反応容器(例えば、チューブ、ウェル)中の2つ以上の標的核酸のリアルタイムPCR増幅及び検出は、第1の標的の存在を検出するための標準TaqMan(登録商標)オリゴヌクレオチドプローブ及び第2、第3、又はより多くの標的の存在を検出するための1つ以上の新規のTaqMan(登録商標)オリゴヌクレオチドプローブを用いて行うことができる。プローブはすべて同じ蛍光標識を含んでいる。代替的に、新規のTaqMan(登録商標)オリゴヌクレオチドプローブを使用して、すべての標的核酸の存在を検出することができる。新規のプローブは2つの顕著な特徴を有する。
【0054】
新規プローブの第1の特徴は、それが2つの異なる部分を含むことである。第1の部分はアニーリング部分と呼ばれ、標的配列とハイブリダイズできるように標的核酸配列と少なくとも部分的に相補的な配列を含む。アニーリング部分はまた、クエンチャー部分も含む。1つの実施形態では、アニーリング部分は、クエンチャー部分をクエンチでき、ヌクレアーゼ感受性切断部位によってクエンチャー部分から分離されている蛍光色素などのレポーター部分を含む。オリゴヌクレオチドプローブの第2の部分はタグ部分と呼ばれる。1つの実施形態では、タグ部分はアニーリング部分の5’末端に結合されている。別の実施形態では、タグ部分はアニーリング部分の3’末端に結合されている。別の実施形態では、タグ部分は、リンカーを介してアニーリング部分の5’末端と3’末端の間のどこかに結合されている。タグ部分は、標的核酸配列に相補的ではなく、標的核酸に結合できない「フラップ」領域を形成するヌクレオチド配列を含んでもよい(5’フラッププローブを図で表したものについては図1を参照)。タグ部分はまた、それがアニーリング部分に結合でき、(次のセクションに記載のように)クエンチング分子と相互作用できる限り、任意の有機部分などの非ヌクレオチド又は繰り返し単位(例えば(CH2-CH2-O)nなど)から構成されてもよい。1つの実施形態では、タグ部分は、アニーリング部分のクエンチャー部分によってクエンチできる蛍光色素などのレポーター部分を含む。オリゴヌクレオチドプローブのアニーリング部分及びタグ部分は、任意選択で非ヌクレオチド「リンカー」によって分離されていてもよい。このリンカーは、炭素、炭素と酸素、炭素と窒素、又はこれらの任意の組み合わせから構成でき、任意の長さのものとすることができる。さらに、リンカーは直鎖状部分から構成することもでき、環状部分から構成することもできる。リンカーは、単一の単位に由来するものでもよく、又はリン酸結合で分離された複数の同一若しくは異なる単位に由来するものでもよい。リンカーの目的は、オリゴヌクレオチドプローブのアニーリング部分とタグ部分の連結部(junction)に領域を作り出すことである。タグ部分がアニーリング部分から分離されている場合、リンカーはタグ部分が核酸ポリメラーゼによって伸長されるのを防ぐこともできる。代替的に、分離されたタグ部分に対する別の修飾は、そのタグ部分を核酸ポリメラーゼによって伸長できなくする。
【0055】
新規のプローブの第2の特徴は、タグ部分がクエンチング分子に結合することである。タグ部分がヌクレオチド配列である場合、クエンチング分子は、タグ部分のヌクレオチド配列に対して完全又は部分的に相補的であり、タグ部分にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドでありうる。クエンチング分子はまた、クエンチャー部分、すなわちタグ部分のレポーター部分(例えば蛍光色素)からのシグナルもクエンチできる第2のクエンチャー部分を含むか又はそれと結合している。クエンチング分子上の又はそれと結合しているクエンチャー部分(第2のクエンチャー部分)は、アニーリング部分のクエンチャー部分(第1のクエンチャー部分)と同じであることもでき、異なっていることもできる。したがって、PCR増幅を実施する前に、タグ部分のレポーター部分は、プローブのアニーリング部分のクエンチャー部分と、クエンチング分子上の又はそれと結合しているクエンチャー部分の両方によって(例えば、図1に示されるようなクエンチングオリゴヌクレオチドによって)クエンチされる。
【0056】
5’ヌクレアーゼアッセイにおいて標的核酸のリアルタイムPCR増幅及び検出を行うために新規プローブを使用する一般的な原理を以下に記載する。最初に、標的核酸を含むことが疑われる試料が用意される。次いで試料を単一反応容器(例えば、単一試験管又はマルチウェルマイクロプレートの単一ウェル)内で標的核酸のアンプリコンを生成できるオリゴヌクレオチドプライマーと新規オリゴヌクレオチドプローブの両方を含有するPCR試薬と接触させる。PCR増幅は、各PCRサイクルの伸長ステップの間に、ポリメラーゼのヌクレアーゼ活性がプローブのアニーリング部分のクエンチング部分からタグ部分の切断及び分離を可能にするように5’から3’へのヌクレアーゼ活性を有する核酸ポリメラーゼを使用することによって始まる。分離されたタグ部分は、核酸ポリメラーゼによって伸長できないように修飾(非ヌクレオチドリンカーなど)を任意選択で含みうる。
【0057】
次に、分離されたタグ部分のレポーター部分からのシグナルは、クエンチング分子が依然としてタグ部分に結合している第1の温度、通常はアニーリング及び/又は伸長温度で測定される。クエンチング分子上の又はそれと結合しているクエンチャー部分の存在により、タグ部分のレポーター部分(例えば蛍光色素)からのシグナルはクエンチされたままである。次いで、PCRサイクルにおける通常のステップとして、温度を徐々に変性温度に上げる。温度が伸長温度から変性温度に上昇するにつれて、クエンチング分子がもはやタグ部分に結合していない温度点に達する。クエンチング分子がタグ部分のヌクレオチド配列に相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドである場合、この解離はクエンチングオリゴヌクレオチド分子とタグ部分の間の二本鎖形成の融解温度(Tm)で起こる。クエンチングオリゴヌクレオチド上の又はそれと結合しているクエンチャー部分によってもはやクエンチされていないレポーター部分からのシグナルは、次いで、二本鎖のTm温度であるかそれを超える第2の温度で測定される。実際は、タグ部分のほぼ100%が一本鎖形態であることを確実にするためには、第2の温度はTm温度を超えるほうがよい。しかし、Tm温度未満の温度でシグナルを測定することも可能である。次いで、クエンチング分子がタグ部分に結合していないときに第2の温度で検出されたシグナルから、クエンチング分子がまだタグ部分に結合しているときに第1の温度で検出されたシグナルを差し引くことによって算出シグナル値を決定する(図2図3を参照)。算出シグナル値は、温度によって影響を受ける可能性があるシグナルの補正のために任意選択で正規化することができる。例えば、蛍光シグナルは高い温度で減少することが知られており、したがって、異なる温度で得られたシグナル値を正規化するために標準品を使用することができる。
【0058】
これらのシグナルの測定と計算は複数のPCRサイクルで行われ、決定された累積シグナル値は標的核酸の有無だけでなく、PCRサイクル数に対してプロットされた算出シグナル値から作成されるPCR増幅曲線から閾値(Ct値)を決定することによって標的核酸の量を決めるのにも使用することができる。1つの実施形態では、シグナル測定及び計算は各PCRサイクルで行われる。
【0059】
1つのレポーター部分(例えば1つの蛍光色素)のみを使用するマルチプレックスPCRアッセイは、さまざまなTm温度でそれぞれのクエンチングオリゴヌクレオチド分子にハイブリダイズされるタグ部分を有するオリゴヌクレオチドプローブを設計することによって可能である。例えば、1つの反応における3つの標的核酸の増幅及び検出は、すべて同じ蛍光色素分子で標識された3つのオリゴヌクレオチドプローブを使用することによって達成することができる。標準TaqMan(登録商標)オリゴヌクレオチドプローブを使用して、第1の温度(通常はPCRサイクルのアニーリング温度)で蛍光シグナルを測定することによって第1の標的を検出することができる。低Tmタグ-クエンチングオリゴヌクレオチド二本鎖をもつ第1の「タグ付き」プローブを使用して、そのTm温度であるか又はそれを超える、第1の温度より高い第2の温度での算出蛍光値を測定することによって第2の標的を検出することができる。高Tmタグ-クエンチングオリゴヌクレオチド二本鎖をもつ第2の「タグ付き」プローブを使用して、そのTm温度であるか又はそれを超える、第2の温度より高い第3の温度で算出蛍光値を測定することによって第3の標的を検出することができる(図4を参照)。理論的には、1つのTaqMan(登録商標)プローブ及び4~7つの異なるレポーター部分(例えば蛍光色素)をもつ2つの異なるタグ付きプローブを使用して、1つの反応で12~21個の異なる標的核酸を検出することが可能であることになり、又は1つのTaqMan(登録商標)プローブと3種類のタグ付きプローブを使用して、1つの反応で16~28個の異なる標的核酸を検出することが可能であることになる。
【0060】
くわえて、本発明の新規プローブは、タグ部分がヌクレオチド配列であり、クエンチングオリゴヌクレオチドに連結されてヘアピン(すなわちステムループ構造)を形成するように設計することができる。この構造では、「ステム」部分はタグ部分とクエンチングオリゴヌクレオチドの間の相補的領域から構成されることになり、一方で「ループ」部分は非相補的ヌクレオチド又は前述のようなリンカーなどの非ヌクレオチドから構成されうる。
【0061】
本発明の新規プローブは、プローブのタグ部分に位置するレポーター部分を有するように記載されているが、レポーター部分がクエンチング分子の第2のクエンチャー部分と可逆的に相互作用できる限り、アニーリング部分にレポーター部分を配置し、タグ部分に第1のクエンチャー部分を置くことも可能である。一般的な意味では、レポーター部分は、5’ヌクレアーゼ(TaqMan(登録商標))アッセイ中にアニーリング部分の第1のクエンチング部分から分離されるようにプローブオリゴヌクレオチドに設計及び配置され、さらにクエンチング分子の第2のクエンチング部分と可逆的に相互作用するように設計される。新規プローブのこれらのさまざまな代替実施形態のいくつかは図5に見ることができる。
【0062】
本発明の方法を実施するためには、プローブオリゴヌクレオチドのタグ部分及びクエンチング分子の設計においてある特定の特徴が必要である。1つの実施形態では、タグ部分とクエンチング分子はともにヌクレオチド配列からなる。この状況では、タグ部分とクエンチングオリゴヌクレオチドはともに、標的核酸配列に特異的にハイブリダイズすべきではないが、それらは所望の温度でのハイブリダイゼーションを可能にするために互いに完全又は部分的に相補的であるべきである。両方とも、PCR増幅の間に核酸ポリメラーゼによって伸長されないために、それらの3’末端に修飾を含みうる。タグ部分のレポーター部分(例えば蛍光色素)とクエンチングオリゴヌクレオチドのクエンチャー部分はともに、5’末端、3’末端、又は5’と3’末端の間の任意の位置に位置できるが、タグ部分がクエンチングオリゴヌクレオチドにハイブリダイズするときにそれらは互いに近接して位置し、クエンチング部分がレポーター部分からの検出可能なシグナルをクエンチできなければならない。
【0063】
さまざまなTm温度でそれらのそれぞれのクエンチングオリゴヌクレオチド分子にハイブリダイズされる異なるタグ部分に関して、修飾ヌクレオチドは、オリゴヌクレオチドの長さを短くすることができるように、タグ部分、クエンチングオリゴヌクレオチド、又はタグ部分とクエンチングオリゴヌクレオチドの両方の全部又は一部の位置に導入することができる。融解温度を上昇させる役割を果たすヌクレオチド修飾の例としては、LNA、PNA、G-クランプ(9-(アミノエトキシ)-フェノキサジン-2’-デオキシシチジン)、プロピニルデオキシウリジン(pdU)、プロピニルデオキシシチジン(pdC)、及び2’-O-メチル修飾などの糖基でのさまざまな2’修飾が挙げられる。タグ部分又はクエンチングオリゴヌクレオチドへの核酸ポリメラーゼの望ましくない結合を防止する役割を果たしうる別の種類の修飾としては、L-DNAや、L-RNA、L-LNAなどのエナンチオマーL型のヌクレオチドの使用が挙げられることになる。
【0064】
別の実施形態では、オリゴヌクレオチドプローブのタグ部分及びクエンチング分子は、温度依存的に互いに可逆的に相互作用する非ヌクレオチド分子からなる。そのような非ヌクレオチド相互作用の例としては、タンパク質-タンパク質相互作用、タンパク質-ペプチド相互作用(例えばペプチドアプタマー)、タンパク質-低分子相互作用、ペプチド-低分子相互作用、低分子-低分子相互作用が挙げられるが、これらに限定されない。一例を挙げれば、ビオチンとアビジン(又はストレプトアビジン)の間のよく知られた相互作用が、相互作用を可逆的且つ温度依存的にするために、ビオチン部分(例えばデスチオビオチン)若しくはアビジン部分のいずれか(Nordlund et al., J. Biol. Chem., 2003, 278 (4) 2479-2483を参照)又はその両方を修飾することによって利用することができる。
【0065】
さらに別の実施形態では、タグ部分とクエンチング分子の間の相互作用は、配列特異的にヌクレオチド配列(又は複数のヌクレオチド配列)と非ヌクレオチド分子の間の相互作用を含みうる。これらの種類の相互作用の例としては、核酸アプタマー、DNA結合タンパク質又はペプチド、及びDNAマイナーグルーブバインダーが挙げられるが、これらに限定されない。配列特異的DNA結合分子の設計及び合成はいくつかの論文に記載されている(例えば、Dervan, Science, 1986, 232, 464-471; White et al., Nature, 1998, 391, 468-471を参照)。これらの方法は、温度に依存するタグ部分とクエンチング分子の間の相互作用を生じさせるのに使用することができる。同様に、二本鎖ヌクレオチドと可溶性クエンチャーの間の相互作用もまた、クエンチング部分はクエンチング分子自体の中に含まれる必要はないが、タグ部分がクエンチング分子に結合している場合にのみレポーター部分と相互作用してクエンチすることになる可溶性の形態でありうるように検討されうる。本発明の実施形態は、特許請求の範囲に記載の本発明の範囲を限定しない以下の実施例においてさらに説明される。
【実施例
【0066】
実施例1 クエンチングオリゴヌクレオチドによるクエンチングの確認
クエンチャー部分を含有するクエンチングオリゴヌクレオチドが、オリゴヌクレオチドプローブの蛍光標識タグ部分とハイブリダイズでき、二本鎖の融解温度より低い温度では蛍光シグナルをクエンチできるが、二本鎖が解離している融解温度より高い温度ではクエンチできないことを検証するために実験を行った。表1は、タグ部分及びクエンチングオリゴヌクレオチドのヌクレオチド配列を含む。クエンチングオリゴヌクレオチドQ0はクエンチャーを含まず、一方でクエンチングオリゴヌクレオチドQ1はその5’末端にBHQ-2クエンチャーを含む。
【0067】
【表1】
【0068】
9FAM9 TAGオリゴヌクレオチドを、クエンチングオリゴヌクレオチド(QX)なし、又はQ0若しくはQ1クエンチングオリゴヌクレオチドと1:5のモル比でインキュベーションした。次いで、混合物を、60mMトリシン、120mM酢酸カリウム、5.4%DMSO、0.027%アジ化ナトリウム、3%グリセロール、0.02%ツイーン20、43.9μM EDTA、0.2U/μL UNG、0.1μM 19TAGC9FAMC9、0.5μM Q0又はQ1、400μM dATP、400μM 4CTP、400μM dGTP、800μM dUTP、及び3.3μM 酢酸マンガンからなる50μL反応液中でPCRサイクルに供した(cycled)。典型的なPCR増幅反応を模したサイクル条件を表2に示す。
【0069】
【表2】
【0070】
実験の結果を図6に示す。FAM色素からのシグナルを58℃で測定したところ、クエンチングオリゴヌクレオチド(QX)なし又はクエンチング部分を含まないクエンチングオリゴヌクレオチド(Q0)において蛍光は検出されたが、Q1クエンチングオリゴヌクレオチドの存在下ではいずれのサイクルでもシグナルは検出されなかった。対照的に、蛍光を80℃で測定した場合、Q1クエンチングオリゴヌクレオチドの存在下でも全てのサイクルでシグナルを検出することができ、より高い温度ではQ1クエンチングオリゴヌクレオチドがもはやTAGとハイブリダイズせず、クエンチングが観察されなかったことを示す。
【0071】
実施例2 タグ付きプローブ及びクエンチングオリゴヌクレオチドを用いたリアルタイムPCR
さまざまな濃度のHIV-1グループM(HIM)のテンプレート配列と混合したさまざまな濃度の内部標準テンプレート(GIC)を含んだ試料を用いてリアルタイムPCRの検討を行った。GIC配列にハイブリダイズする標準TaqMan(登録商標)加水分解プローブ(G0)及び相補的クエンチングオリゴヌクレオチド(Q9)とHIM配列にハイブリダイズするアニーリング部分をもつタグ付きプローブ(L24)を使用して、これら2つのテンプレートから生成された増幅産物を検出した。両プローブをFAMで標識した。表3はそれらの配列及びクエンチングオリゴヌクレオチドの配列を示す。
【0072】
【表3】
【0073】
4つの濃度、0コピー/反応(cp/rxn)、100cp/rxn、1,000cp/rxn、及び10,000cp/rxnのGICを、4つの濃度、0cp/rxn、10cp/rxn、100cp/rxn、及び1,000cp/rxnのHIMと混合して16の異なる濃度の組み合わせを作った。PCR試薬及びサイクル条件は、100nMのG0及びL24プローブ並びに200nMのQ9クエンチングオリゴヌクレオチドを反応に使用したことを除いて、実施例1及び表2に記載したとおりであった。FAM標識からの蛍光の読み取りは、サイクル#6から始めて各サイクルについて58℃及び80℃で行った(表2を参照)。
【0074】
これらの実験の結果を図7~9に示す。58℃での蛍光の読み取り値を図7に増幅曲線として示す。図7Aは、HIMが存在せず、0、100、1,000、又は10,000cp/rxnのGICで作成された増幅曲線を示す。興味深いことに、10cp/rxn(図7B)、100cp/rxn(図7C)、及び1,000cp/rxn(図7D)のHIMの存在下における58℃での増幅曲線の読み取り値には、蛍光強度及びサイクル閾値(Ct)の値に本質的な違いがなく、この温度では標準TaqMan(登録商標)G0プローブからのFAMシグナルのみが検出されることを示している。これは、L24タグ付きプローブのFAM標識が、Q9クエンチングオリゴヌクレオチドのクエンチャーによって非常に効率的にクエンチされ、GIC標的の検出を妨害しないからである。
【0075】
80℃での蛍光の読み取り値を図8に増幅曲線として示す。図8Aは、GICなしに0、10、100、又は1,000cp/r×nのHIMで作成された増幅曲線を示す。蛍光は、プローブの「アニーリング部分」のクエンチャー(ヌクレアーゼによる加水分解による)によっても、この高温での鎖解離によるクエンチングオリゴヌクレオチドのクエンチャー(Q9)によっても、もはやクエンチされないので、ここでL24プローブのFAMラベルから検出することができる。L24プローブからの蛍光強度はG0プローブの蛍光強度よりかなり低いが、それでもHIMの出発濃度に対応するCt値を計算するのに充分である。しかし、HIMとGICの両方が存在する場合、80℃での蛍光読み取り値は、G0プローブから検出されるより強い蛍光に起因して複雑な曲線を生じる(図8B図8C図8Dを参照)。したがって、L24タグ付きプローブからの蛍光シグナルを「明らかにする(uncover)」ためには、G0プローブから蛍光シグナルを減算する必要があることになり、80℃での蛍光読み取り値からの(G0プローブのみによってもたらされる)58℃での蛍光読み取り値の減算を伴って、図8Aで観察されたものに類似することになる増幅曲線が導き出されることになる。
【0076】
58℃での蛍光読み取り値の100%を80℃の蛍光読み取り値からを減算すると、得られた増幅曲線は負の値を示し、減算の過剰補正があることが示唆された。この観察結果の理由は、58℃での蛍光強度と比較した、80℃でのFAM標識の強度の減少によるものであった。したがって、「正規化」係数が必要であると考えられ、80℃のシグナルから減算された58℃でのシグナルの84%が最良の結果を生むことが実験的に決定された。得られた増幅曲線は、図9A図9B図9C、及び図9Dに示され、すべてが図8Aの0GIC増幅曲線と実質的に同一である。これら結果は、GICの存在を示す蛍光シグナルは、HIMの存在を示す蛍光シグナルと切り離しできることを示し、本発明の多重化の有用性を実証している。
【0077】
実施例3 異なる蛍光色素を有するプローブを用いたリアルタイムPCR
G0及びL24プローブを、第1のセットではFAM色素で、第2のセットではHEX色素で、第3のセットではJA270色素で、第4のセットではCy5.5色素で標識したことを除いて、実施例2に記載したように一連の実験を行った。各実験セットにおいて、PCR増幅を、GICテンプレートのみが100cp/rxnで存在する状態、HIVテンプレートのみが1000cp/rxnで存在する状態、又は存在するGIC(100cp/rxn)及びHIV(1000cp/rxn)テンプレートの両方が存在する状態で実施した。実験の結果を図10に示す。58℃での蛍光読み取り値(図10、第1列)では、L24プローブは依然としてQ9クエンチングオリゴヌクレオチドとハイブリダイズしたので、GICテンプレートに対するG0プローブによって生成されたシグナルのみが観察された。80℃での蛍光読み取り値(図10、第2列)では、G0プローブ(GIC用)及び「非クエンチ」L24プローブ(HIV用)の両方によって生成されたシグナルが観察された。各蛍光色素について正規化係数を使用した後、80℃のシグナルから58℃のシグナルを減算すると、HIVテンプレートのみに由来する増幅曲線が得られた(図10、第3列)。HEX及びJA270から生成されたシグナルはFAMからのシグナルと同等又はそれより高かった一方で、Cy5.5からのシグナルはFAMシグナルよりもかなり低かったが検出可能であった。
【0078】
実施例4:L-DNAタグ付きプローブ及びクエンチングオリゴヌクレオチドを用いたリアルタイムPCR HIV-1グループM(HIM)テンプレートを検出するためのL24タグ付きプローブを、「天然の」D-デオキシリボースヌクレオチドの代わりにすべてL-デオキシリボースヌクレオチドで構成したことを除いて、実施例2に記載の実験と同一の実験を行った。実験の結果を図11に示す。ここで、L-エナンチオマー型のL24タグ付きプローブを用いて生じた蛍光シグナルは、D-エナンチオマー型のL24タグ付きプローブを用いて生じたシグナルよりも4~5倍高いことが観察された。
【0079】
実施例5:2’-Oメチル修飾を有するタグ付きプローブ及びクエンチングオリゴヌクレオチドを用いたリアルタイムPCR
ヌクレオチド修飾を有するタグ付きプローブ及びクエンチングオリゴヌクレオチドを使用したことを除いて、実施例2に記載のものと同様の実験を行った。HIMテンプレートの存在を検出するために使用した「標準」L24プローブにくわえて、プローブのタグ部分のすべてのヌクレオチド(L24の下線部分として表3に示される)がリボース部分の2’位にO-メチル置換基(2’-OMe)を有することによって修飾されたタグ付きプローブL24-OMEを生成した。L24のタグ部分にハイブリダイズするための2つの修飾Q9クエンチングオリゴヌクレオチドも生成した。Q9-OMEはすべてのヌクレオチドが2’-OMe置換基で修飾され、Q9-OME(A/G)はA及びGヌクレオチドのみが2’-OMe置換基で修飾された。タグ部分とクエンチングオリゴヌクレオチドの次の3つの異なる組み合わせを用いて、HIMテンプレートの検出を行った。Q9-OMEをもつL24(A/G)、Q9-OMEをもつL24-OME(A/G)、及びQ9-OMEをもつL24-OME。この実験の結果を図12に示す。
【0080】
予想通り、58℃では、G0 TaqMan(登録商標)プローブからの蛍光シグナルしか検出できなかった。75℃では、蛍光シグナルはG0及びL24/Q9-OME(A/G)から検出されたが、他の2つのタグ-クエンチングオリゴヌクレオチドの組み合わせからは検出されなかった。88℃では、蛍光シグナルはL24-OME/Q9-OME(A/G)からも検出でき、97℃では、シグナルはL24-OME/Q9-OMEの組み合わせを含むすべてのプローブから検出された。これら結果は、タグ付きプローブ及びクエンチング分子を用いて3つの別個の温度からの蛍光読み取りが達成できるだけでなく、2’-OMeなどのヌクレオチド修飾が、タグ部分のヌクレオチド配列又はクエンチングオリゴヌクレオチドに又は両方に、その配列又はその長さのいずれかを変える必要なしにタグ-クエンチングオリゴヌクレオチド二本鎖の融解温度を変えるために選択的に導入できることを示す。
【0081】
明瞭さや理解のために、上記の発明をある程度詳細に記載してきたが、本開示を読むことから、本発明の真の範囲(the true scope of the invention)から逸脱することなく、形態及び詳細においてさまざまな変更がなされうることは当業者なら明らかであろう。例えば、上記の方法はさまざまな組み合わせで使用することができる。
【0082】
非公式の(INFORMAL)配列リスト
配列番号1:9FAM9TAGオリゴヌクレオチド配列
CGTCGCCAGTCAGCTCCGGT
配列番号2:Q0クエンチングオリゴヌクレオチド配列(クエンチャーなし)
CCGGAGCTGACTGGCGACG
配列番号3:Q1クエンチングオリゴヌクレオチド配列(5’末端にBHQ-1クエンチャー)
CCGGAGCTGACTGGCGACG
配列番号4:G0 TaqManプローブオリゴヌクレオチド配列(FAM/BHQ/リン酸塩)
TGCGCGTCCCGTTTTGATACTTCGTAACGGTGC
配列番号5:L24タグ付きプローブオリゴヌクレオチド配列(BHQ/FAM/リン酸塩)
TCTCTAGCAGTGGCGCCCGAACAGGGACCACACATTGGCACCGCCGTCT
配列番号6:Q9クエンチングオリゴヌクレオチド配列(3’末端にクエンチャー)
AGACGGCGGTGCCAATGTGTG
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図11A
図11B
図11C
図12
【配列表】
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