IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 医療法人とみなが歯科医院の特許一覧

<>
  • 特許-歯科用治療器 図1
  • 特許-歯科用治療器 図2
  • 特許-歯科用治療器 図3
  • 特許-歯科用治療器 図4
  • 特許-歯科用治療器 図5
  • 特許-歯科用治療器 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-25
(45)【発行日】2022-05-09
(54)【発明の名称】歯科用治療器
(51)【国際特許分類】
   A61C 19/06 20060101AFI20220426BHJP
【FI】
A61C19/06 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020081687
(22)【出願日】2020-05-07
(65)【公開番号】P2021176346
(43)【公開日】2021-11-11
【審査請求日】2020-05-29
(73)【特許権者】
【識別番号】510244396
【氏名又は名称】医療法人とみなが歯科医院
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】富永 敏彦
【審査官】小林 睦
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-252997(JP,A)
【文献】特表2009-515640(JP,A)
【文献】特表2000-515398(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 19/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
能動針電極と、該能動針電極との間で電流を通すための対極と、前記能動針電極および前記対極との間での通電を制御する通電制御器とからなり、
前記能動針電極は、細長い形状の電極と、該電極の基部に取付けたハンドル部と、該電極の先端部を除く部位に形成された絶縁被覆層とからなり、
前記電極は、通電により発熱し、かつ先端部は無負荷で湾曲した形状となる超弾性合金で形成されている
ことを特徴とする歯科治療器。
【請求項2】
前記電極は、基部が太く先端が細いテーパー形状である
ことを特徴とする請求項1記載の歯科治療器。
【請求項3】
前記電極は、基部と先端が同径のストレート形状である
ことを特徴とする請求項1記載の歯科治療器。
【請求項4】
前記電極は、スパイラル形状に形成されている
ことを特徴とする請求項2または3記載の歯科治療器
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用治療器に関する。
【背景技術】
【0002】
人の歯の構造は、図6に示すように、歯冠aと歯根bとからなる。歯冠aは、エナメル質a1、象牙質a2、歯髄a3および歯肉a4からなる。歯根bは1~4本あり、セメント質b5で覆われている。歯根bは、内部に細長い孔である根管b9があり、その内部を血管b7と神経b8が通っている。歯根bは歯槽骨b6にとり囲まれ、歯槽骨b6によって支持されている。また、歯肉a4は歯槽骨b6の上部で歯冠aをとり囲んでいる。
人の歯が虫歯を病み、歯の神経b8に到達した細菌が根管b9を通って歯根周囲に到達すると、歯槽骨b6に病原因子を放出して、骨を溶かし吸収する。これを根尖病変という。図6において、太点線は根尖病変部Cを示している。
【0003】
根尖病変により歯槽骨b6が吸収されていくと、歯は歯槽骨b6による支持力を失って動揺しはじめる。そして、歯槽骨b6が歯根の2/3位まで、あるいは骨吸収が8mm位まで吸収されると、抜歯となるのが、現状の治療法である。
しかしながら、いったん抜歯すると、二度と歯を再生できないので、抜歯しないで治療できれば、その方が好ましい。
【0004】
上記のような根尖病変を治療する従来技術として、本発明者の提案による特許文献1の技術がある。
この従来技術は、通電により発熱する金属製の電極をもつ能動針電極を用いるもので、歯の根管に電極を差し込んで病変部に届かせ加熱する。病変部は加熱されると熱凝固され、歯根周辺の細菌も死滅させることができる。したがって、病変組織を切開する必要がない点で優れている。
【0005】
しかるに、上記従来技術では、歯根bの根尖部外面にこびりついた細菌bcを取り除くことはできない。それゆえ、根尖病変の再発の可能性が残されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4469015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事情に鑑み、歯根の根尖部にこびりついた細菌を除去・熱殺菌し、根尖病をより完全に治癒できる歯科用治療器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1発明の歯科治療器は、能動針電極と、該能動針電極との間で電流を通すための対極と、前記能動針電極および前記対極との間での通電を制御する通電制御器とからなり、前記能動針電極は、細長い形状の電極と、該電極の基部に取付けたハンドル部と、該電極の先端部を除く部位に形成された絶縁被覆層とからなり、前記電極は、通電により発熱し、かつ先端部は無負荷で湾曲した形状となる超弾性合金で形成されていることを特徴とする。
第2発明の歯科治療器は、第1発明において、前記電極は、基部が太く先端が細いテーパー形状であることを特徴とする。
第3発明の歯科治療器は、第1発明において、前記電極は、基部と先端が同径のストレート形状であることを特徴とする。
第4発明の歯科治療器は、第2または第3発明において、前記電極は、スパイラル形状に形成されていることを特徴とする
【発明の効果】
【0009】
第1発明によれば、つぎの効果を奏する。
a)能動針電極を歯の歯根に差し込み、対極を人の口に取付け通電制御器から通電すると、能動針電極と対極との間に電流が流れる。それにより電極における絶縁被覆層の無い先端部のみを発熱させることができ、根尖病変部の治療をすることができる。
b)電極の先端部が根尖部から突き抜けて病変部に届くと、電極の先端部が無負荷状態になるので、根尖を貫いた電極の先端部が湾曲して根尖部の外面に接触する。この状態で、電極を回転させると根尖部外面にこびりついた細菌をそぎ落とすことができる。そのうえで通電を続けば細菌を死滅させ根尖病変部を凝固・殺菌させることができる。
第2発明によれば、電極がテーパー形状であって先端がしなりやすいので歯の根管内に挿入しやすく、しかも基部が太いので折損なども生じにくい。
第3発明によれば、ストレート形状であると、全長にわたって強度が高いので折損などの不具合が生じにくい。
第4発明によれば、電極がスパイラル状であると、柔軟性が高いので真直ぐでない根管内への挿入が容易に行える
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る能動針電極Aの説明図である。
図2】(A)図はテーパー形状の電極1の部分説明図、(B)図はストレート形状の電極1の部分説明図、(C)図はスパイラル形状の電極1の部分説明図である。
図3】本発明の一実施形態に係る歯科治療器Bの説明図である。
図4】能動針電極Aの挿入途中を示す説明図である。
図5】能動針電極Aによる根尖部治療の説明図である。
図6】人の歯の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
まず、本発明の一実施形態に係る歯科治療器を構成する能動針電極Aを説明する。図において、1は電極、2はハンドル部、3は絶縁被覆層であり、この3部材で能動針電極Aが構成されている。
電極1は、通電により発熱する金属針であって、無負荷で先端部1aが湾曲した形状の超弾性合金からなる。
ハンドル部2は、医療従事者が能動針電極Aを取り扱いしやすくするために電極1の基部に形成されている。このハンドル部2は、通電時に手に熱を伝えない材料、たとえばシリコンなどで、指先で持ちやすい大きさと形に形成されている。
絶縁被覆層3は絶縁剤を用いた被覆層であって電極1の大部分(先端部1aを除いた部分)の外面を被覆している。
【0012】
電極1に用いた超弾性合金は、外力を加えると変形するが、外力を除くと母相に逆変態し元の形に戻る金属である。超弾性合金としては、チタンニッケル合金が一般的であるが、これに限らず、種々の合金を用いることができる。
電極1の先端部1aは外力を加えない状態では、図1の点線で示すように、湾曲している。ただし、外力を加えると真直ぐになる。真直ぐにする外力は小さい力でよく、たとえば歯の根管内を通すときに根管の内壁から受ける力で真直ぐに曲げられる程度でよい。なお、ここでいう「真直ぐ」とは、幾何学的な真直を意味するものではなく、多少湾曲していても根管内を通せる程度に直線に近い形状を含む意味である。
【0013】
以下、能動針電極Aの詳細を説明する。
電極1の長さL1は、10.0~40.0mmの範囲が好ましく、30.0mm位が最も好ましい。この長さであると、歯の根管を通し、歯根周囲まで深く、電極1の先端部1aを届かすことができる。一方、10.0mmより短いと歯根周囲まで届かず歯の再生治療を行うことができない。逆に40.0mmより長いと、電極1の湾曲、破折などの問題を生じ、扱いにくくなる。
【0014】
電極1の先端部1aの長さL1aは、1~3mm位が好ましいが、この寸法に限られない。
このように加熱部位を狭い範囲に限定することで、歯根上方を不要に加熱することなく、小さな電力で根尖病変部を加熱し、病原因子を加熱凝固・殺菌させることができる。
【0015】
電極1の直径は、0.10~0.20mmが好ましく、0.15mm位が最も好ましい。この直径であると、歯の根管b9に無理なく通すことができ、歯根形態に適合させやすい。0.10mmより外径が小さいと剛性が低くなり、折れやすく、扱いにくくなる。逆に0.20mmより大きいと、根管を通しにくかったり、操作性が悪い。
【0016】
電極1は、基部から先端まで断面が円形のままの針状を例示できる。また、その針形状は、図2の(A)図に示すテーパー形状と同(B)図に示すストレート形状のいずれも採用できる。
さらに、各針状は、同(C)図に示すようにスパイラル形状にしてもよい。スパイラル形状はテーパー針にもストレート針にも適用できる。スパイラル状のものとしては、針状部材の外周に溝をスパイラル状に形成したものでもよく、さらに薄帯板をスパイラル状に巻き付けたものでもよい。電極1がスパイラル形状であると、柔軟性が高くなり曲がった根管用でも挿入が容易となる。
【0017】
テーパー形状の電極1は、基部が太く先端が細いので、先端ほどしなりやすくなって歯の根管に通しやすくなる。しかも、基部が太いので折損なども生じにくい。テーパーは、1/100~6/100が好ましく、とくに2/100位が適当である。
ストレート形状の電極1は、全長にわたって強度が高いので折損などの不具合が生じにくい。
【0018】
絶縁被覆層3の長さは、電極1の長さL1から先端部L1aの部分を除いたものである。
絶縁被覆層3を構成する絶縁剤は市販の絶縁コーティング剤をとくに制限なく使用できる。代表的には、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレン、シリコン、パリレン(日本パリレン合同会社の登録商標)などの各樹脂がある。
【0019】
絶縁被覆層3は、電極1の先端部1aを除いた部分(治療中は歯の内部に挿入される部分)で通電・発熱しないようにし、根尖病変部Cに進入した先端部1aのみで発熱させるために用いられている。
【0020】
つぎに、上記した能動針電極Aを用いた歯科治療器Bを説明する。
図3において、10は対極であって電極1との間で電流を流すために使用される。対極10の形状は任意であって、板状や棒状のものが特に制約なく使用される。対極10を治療する歯と同側の口角に引っ掛けるためフック11が用いられるが、フック11の形状も任意である。また、フック以外の任意の器具を用いてもよい。
一方、電極1の根元には、通電線を固定するクリップ12が止められる。
そして、対極10とクリップ12との間には通電線を介して通電制御器13が接続されている。
【0021】
通電制御器13は、直流または交流の電源に接続して、能動針電極Aに通電する機器であって、公知の電気回路で構成されている。この通電制御器13を用いて、能動針電極Aと対極10に通電すると、断面積の小さい電極1で発熱し、その熱が電極1の先端部1aから病変部に伝えられる。
治療時には、電極1における先端部1aの発熱温度は100℃以上にするのが好ましい。
【0022】
通電波形については、連続波よりトーンバースト波を用いるのが好ましい。連続波の電流を流すと組織は切開されるが、断続波形であるトーンバースト波を流すと組織は熱凝固するからである。本明細書にいうトーンバースト波とは、半波方形型の波形であり、各波形が断続したものをいう。
【0023】
本発明の能動針電極Aの使用法を、図4および図5に基づき説明する。
図4において、Tは歯、b9は根管、Cは根尖病変部である。図示のごとく、能動針電極Aの電極1は歯Tの根管b9を通して病変部Cまで差し込まれる。なお、歯冠aには必要に応じ歯科治療器具で突孔される。
電極1の先端部1aは常態では湾曲している(図では根管内壁と区別しやすいように、電極1を真直に描いている)が、根管b9への挿入中は根管b9の内壁に当たって湾曲具合は矯正される。そして、電極1が細く湾曲しやすいことから、根管b9が曲がっていても、根管b9の奥深く差し込むことができ、また、電極1自体が充分な長さを有しているので、電極1の先端部1aを根尖部より先に届かせることができる。
なお、電極1の根管b9への挿入には、筒状のスリーブをガイドとして用いてもよく、その実施形態も本発明に含まれる。スリーブを根管b9に差し込み、そのスリーブに電極1を挿入するようにすると、先端部1aが湾曲していても挿入が容易に行える。
【0024】
図5は、電極1の先端部1aが根尖部から下に突き出た状態を示している。本発明の電極1は長細く柔らかいので、根管b9から根尖孔を通過させ、根尖外に突き出して、根尖病変部Cまで届かせることができる。このため、外力が除荷されているので、電極1の先端部1aが元戻りに湾曲して根尖部の外面に接触する。この状態で、ハンドル部2を手で回転させると電極1の先端部1aも回転して根尖部外面にこびりついた細菌bcをそぎ落とすことができる。
【0025】
ついで、図3に示す通電制御器13により通電すると、口の中の水分を介して電極1の先端部1a→根尖病変部C→歯根膜腔→歯肉→頬粘膜→対極10と電流が流れる。このとき、電極1の発熱している先端部1aを根尖部の外周に沿って回すと、歯根外表面全体を能率よく加熱することができる。これにより、根尖病変部C膿や炎症性肉芽組織が加熱され、熱凝固する。
【実施例
【0026】
つぎに、本発明の歯科治療器Bを用いた治療例の効果を説明する。
(治療条件)
治療条件と治療結果を表1に示す。
表の氏名欄には、治験者14名の氏名をアルファベットの頭文字で示した。
治療日数は1日1回である。電極1への通電は、電流値が50mAから150mA位の範囲のトーンバースト波を用いた。通電時間と通電回数は表1のとおりであり、電極1の温度は100℃以上となった。なお、電極温度が治療に効果的な100℃以上になるなら、電流は前記範囲に限られない。
【0027】
(治療結果の評価)
表1に示すように、14名の全ての治験者の根尖病変は6例が消滅し、8例が縮小している。病変部が縮小した8例も更に長期に経過観察すれば消滅したと考えられる。以上の結果から、治療が有効であることが分かる。
【符号の説明】
【0028】
A 能動針電極
1 電極
2 ハンドル部
3 絶縁被覆層
13 通電制御器
B 歯科治療器

図1
図2
図3
図4
図5
図6