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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-25
(45)【発行日】2022-05-09
(54)【発明の名称】電界発光素子
(51)【国際特許分類】
   H05B 33/14 20060101AFI20220426BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20220426BHJP
   C09K 11/66 20060101ALI20220426BHJP
【FI】
H05B33/14 Z
H05B33/10
C09K11/66
【請求項の数】 14
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020121308
(22)【出願日】2020-07-15
(62)【分割の表示】P 2017547082の分割
【原出願日】2015-11-20
(65)【公開番号】P2020191287
(43)【公開日】2020-11-26
【審査請求日】2020-08-12
(31)【優先権主張番号】1421133.8
(32)【優先日】2014-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】501484851
【氏名又は名称】ケンブリッジ・エンタープライズ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】CAMBRIDGE ENTERPRISE LIMITED
(73)【特許権者】
【識別番号】517186639
【氏名又は名称】キング・アブドゥラジズ・シティ・フォー・サイエンス・アンド・テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】リチャード・フレンド
(72)【発明者】
【氏名】ジ・クアン・タン
(72)【発明者】
【氏名】グワンル・リ
(72)【発明者】
【氏名】ダウェイ・ディ
(72)【発明者】
【氏名】ニール・シー・グリーナム
【審査官】渡邊 吉喜
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-536450(JP,A)
【文献】特開2014-078392(JP,A)
【文献】特開2008-227330(JP,A)
【文献】国際公開第2014/045021(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 33/14
H05B 33/10
C09K 11/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁材料のマトリクス又はブレンド中に埋め込まれた半導体性ペロブスカイトナノ粒子の層を含み、絶縁材料が、絶縁性ポリマー又は絶縁性有機分子を含み、前記半導体性ペロブスカイトナノ粒子が、AMX構造を有し、Aが一価カチオンであり、Mが二価カチオンであり、かつ、Xがハライドアニオンである、有機金属ハロゲン化物ペロブスカイトを含み、
前記一価カチオンAが、
・一級、二級、又は三級のアンモニウムカチオン[HNR (式中、R 、R 、及びR のそれぞれが同じであるか異なり、水素、非置換又は置換C ~C 20 アルキル基、及び非置換又は置換C ~C 18 アリール基から選択される)であり、且つ/または
・式:[R N-CH=NR
【化1】
(式中、R 、R 、R 、及びR のそれぞれは同じであるか異なり、水素、非置換又は置換C ~C 20 アルキル基、及び非置換又は置換C ~C 18 アリール基から選択される)のものであり、且つ/または
・式:(R N)(R N)C=NR
【化2】
(式中、R 、R 、R 、R 、R 、及びR のそれぞれは同じであるか異なり、水素、非置換又は置換C ~C 20 アルキル基、及び非置換又は置換C ~C 18 アリール基から選択される)のものであり、且つ/または
・セシウム(Cs )又はルビジウム(Rb )を含むアルカリ金属カチオンである、発光リン光体。
【請求項2】
絶縁材料が、絶縁性ポリマーである、請求項1に記載の発光リン光体。
【請求項3】
絶縁性ポリマーが、極性ポリマーである、請求項2に記載の発光リン光体。
【請求項4】
絶縁材料が、絶縁性有機分子である、請求項1に記載の発光リン光体。
【請求項5】
絶縁性有機分子が、極性有機分子である、請求項4に記載の発光リン光体。
【請求項6】
絶縁材料が、以下の式:
【化3】
を有する、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物/4,4-オキシジアニリン/m-フェニレンジアミンポリマー(PIP)のポリアミック酸を含むポリイミド、ポリスチレン、または以下の式:
【化4】
のポリ(9-ビニルカルバゾール)、または以下の式:
【化5】
の有機化合物、4,4-ビス(N-カルバゾリル)-1,1-ビフェニルである、請求項1に記載の発光リン光体。
【請求項7】
絶縁材料のマトリクス又はブレンド中に埋め込まれた半導体性ペロブスカイトナノ粒子の層の厚さが、500nm以下である、請求項1から6のいずれか一項に記載の発光リン光体。
【請求項8】
が、クロライド、ブロマイド、アイオダイド、及びフルオライドから選択されるハライドアニオンであり、AMX構造中、各ハライドは同じであっても異なっていてもよい、請求項1から7のいずれか一項に記載の発光リン光体。
【請求項9】
ペロブスカイト物質が、
1-iMX構造を有し、式中、
・A及びBはそれぞれ請求項1において一価カチオンAとして規定される一価カチオンであって、A及びBは異なり;
・Mは請求項8に規定される二価金属カチオンであり;
・Xは請求項8に規定されるハライドアニオンであり;且つ
・iは0と1の間であり、あるいは、
AMX3-k構造を有し、式中、
・Aは請求項に規定される一価カチオンであり;
・Mは請求項8に規定される二価金属カチオンであり;
・X及びYはそれぞれ請求項8においてハライドアニオンXとして規定されるハライドアニオンであって、X及びYは異なり;且つ
・kは0と3の間であり、あるいは、
AM1-j構造を有し、式中、
・Aは請求項に規定される一価カチオンであり;
・M及びNはそれぞれ請求項8において二価金属カチオンMとして規定される二価金属カチオンであり;
・Xは請求項8に規定されるハライドアニオンであり;且つ
・jは0と1の間であり、あるいは、
1-i1-j3-k構造を有し、式中、
・A及びBはそれぞれ請求項1において一価カチオンAとして規定される一価カチオンであり、A及びBは異なり;
・M及びNはそれぞれ請求項8において二価金属カチオンMとして規定される二価金属カチオンであり;
・X及びYはそれぞれ請求項8においてハライドアニオンXとして規定されるハライドアニオンであって、X及びYは異なり;且つ
・iは0と1の間であり、jは0と1の間であり、kは0と3の間である、請求項8に記載の発光リン光体。
【請求項10】
半導体性ペロブスカイトナノ粒子が、半導体性ペロブスカイトナノ結晶である、請求項1から9のいずれか一項に記載の発光リン光体。
【請求項11】
半導体性ペロブスカイトナノ粒子:絶縁材料の質量比が、0.01:1~2:1、0.1:1~10:1、1:1~5:1、及び1:1~2:1を含む0.01:1~20:1である、請求項1に記載の発光リン光体。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に規定される発光リン光体により放射される波長を選択する方法であって、半導体性ペロブスカイトナノ粒子の絶縁材料に対する質量比を選択することによって前記波長の前記選択を達成する工程を含む、方法。
【請求項13】
請求項1から11のいずれか一項に規定される発光リン光体により放射される波長を選択する方法であって、絶縁材料のマトリクス又はブレンド中に埋め込まれたペロブスカイトナノ粒子の大きさを変えることによって前記波長の前記選択を達成する工程を含む、方法。
【請求項14】
請求項1から11のいずれか一項に規定される発光リン光体により放射される波長を選択する方法であって、半導体性ペロブスカイトナノ粒子物質またはその前駆体を選択し、且つ/または絶縁材料を選択することによって前記波長の前記選択を達成する工程を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体発光素子、及び特にペロブスカイト系発光ダイオード、ペロブスカイト系発光リン光体、及び関連する製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
その最も基本的な形において、発光ダイオード(LED)は、アノード及びカソードの間に配置されている発光層を含む。正孔注入層が、アノードと発光層(活性又は発光層としても知られる)の間に組み込まれていてもよい。それは、アノードの仕事関数と発光層の価電子帯又は最高被占分子軌道(HOMO)の間のエネルギー差を低減し、それにより発光層に導入される正孔の数を増加させるという機能をする。概して、作動させると正孔がアノードを、そして存在する場合には正孔注入層を通して活性層に注入され、電子がカソードを通して活性層に注入される。正孔と電子が発光層中で放射的に結合されて光を生じさせる。同様に、カソードと発光層の間の電子注入層は、発光層への電子の注入を制御するのにおいて同じ役割を演じることができる。これらの注入層のさらなる役割は、素子内に担体を閉じ込めることであり、それによって順方向の電気的バイアスのもとで、カソードから発光層へ注入される電子がこの層から正孔注入層を介して離れることが顕著に防止され、同様に、アノードから発光層へ注入される正孔がこの層から電子注入層を介して離れることが顕著に防止される。
【0003】
いくつかの素子はまた、薄いポリマー中間層を正孔注入層と発光層の間に組み込んでいる。これは、LEDの素子効率及び寿命を向上させるのに重要な役割を演じる。例えば、中間層を用いて、5%より大きな外部量子効率をもつ青色発光ポリマー有機発光ダイオード(LEP OLED)を達成することができ、これはその中間層なしよりも35%高い。これは、正孔注入層/発光層の界面での励起子消光の防止によるものでありうると考えられる。
【0004】
過去20年にわたって、直接バンドギャップ半導体に基づく固体発光素子は、発光のエネルギーの効率的な源として利用されている。しかし、これらの素子の製造は典型的には費用がかかる高温及び高真空法、例えば、分子線エピタキシー又は熱昇華などに頼っており、それらを大面積ディスプレイにおいて用いるには非経済的にしている。
【0005】
発光性半導体の溶液加工は、発光素子の低コスト製造のための特に魅力的な選択肢を提供する[Burroughesら, Nature 347, 539-541 (1990);Greenhamら, Nature 365, 628-630 (1993);Colvinら, Nature 370, 354-357 (1994);及びCoeら, Nature 420, 800-803 (2002)を参照されたい]。高効率有機金属ハロゲン化物ペロブスカイト太陽電池における最近の仕事は、これらの物質が、従来の半導体の顕著な品質と有機半導体の容易な加工性の両方を有することを示している[Leeら, Science 338, 643-647, doi:10.1126/science.1228604 (2012);Burschkaら, Nature 499, 316-319, doi:10.1038/nature12340 (2013);Liuら, Nature 501, 395-398, doi:10.1038/nature12509 (2013);Stranksら, Science 342, 341-344, doi:10.1126/science.1243982 (2013);及び、Ballら, Energy & Environmental Science 6, 1739-1743, doi:10.1039/c3ee40810h (2013)]。さらなる従来技術は特開2008-227330号公報に見ることができる。
【0006】
半導体ペロブスカイト物質は、低コストかつ土壌に豊富であるという利益が得られ、周囲環境下で低温において堆積することができる。より最近、明るくかつ色が調節されたエレクトロルミネッセンスがペロブスカイト発光ダイオード(PeLED)において報告され、それによってこれらの材料のためのディスプレイ及び照明用途の潜在力ある範囲を広げた[Tan, Z.-K.ら, Nat Nano 9, 687-692, doi:10.1038/nnano.2014.149 (2014)を参照されたい]。しかし、これらの素子における量子効率は、均一な薄層の形成の困難性によって低いままである。
【0007】
発光は、注入された電子及び正孔がペロブスカイト層において接触し、発光性再結合をするときに起こる。しかし、注入された電荷にとって、薄膜中のピンホールを通って半導体性ペロブスカイト層をバイパスすることは容易であり、それが非発光性の電流損失及び低効率をもたらす。均一かつピンホールなしの半導体性ペロブスカイトの形成の困難性はよく知られており、それはその物質の結晶性による。この問題は、熱的アニーリング時に過剰なハロゲン化メチルアンモニウム前駆体の昇華によってさらに悪化し、それによってペロブスカイト層に空隙を残す。この問題を克服するための確立された手法は、ペロブスカイト前駆体の順次堆積又は蒸着を含む[Liuら, 上記、及びChen, Q.ら, Journal of the American Chemical Society 136, 622-625, doi:10.1021/ja411509g (2013)を参照されたい]が、これらの方法はフィルム形成を向上させるのみであり、完全にピンホールを排除することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2008-227330号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】Burroughesら, Nature 347, 539-541 (1990)
【文献】Greenhamら, Nature 365, 628-630 (1993)
【文献】Colvinら, Nature 370, 354-357 (1994)
【文献】Coeら, Nature 420, 800-803 (2002)
【文献】Leeら, Science 338, 643-647, doi:10.1126/science.1228604 (2012)
【文献】Burschkaら, Nature 499, 316-319, doi:10.1038/nature12340 (2013)
【文献】Liuら, Nature 501, 395-398, doi:10.1038/nature12509 (2013)
【文献】Stranksら, Science 342, 341-344, doi:10.1126/science.1243982 (2013)
【文献】Ballら, Energy & Environmental Science 6, 1739-1743, doi:10.1039/c3ee40810h (2013)
【文献】Tan, Z.-K.ら, Nat Nano 9, 687-692, doi:10.1038/nnano.2014.149 (2014)
【文献】Chen, Q.ら, Journal of the American Chemical Society 136, 622-625, doi:10.1021/ja411509g (2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、膜中でのピンホールの形成のこの問題を克服する、半導体性ペロブスカイトナノ粒子膜を調製するための改善された方法を提供する必要がある。そのような膜の提供は、改善された固体発光素子及びその他の素子、例えば、太陽電池の製造を可能にし、そのような素子では半導体性ペロブスカイト膜が半導体として組み込まれることができる。そのような膜の発光特性も、それらの膜を発光性リン光体用途のために有用にしている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本出願人は、ピンホールの形成によるペロブスカイト膜を通しての電流漏れ出しの問題は、半導体性ペロブスカイトナノ粒子よりも広いバンドギャップを有する材料中に半導体性ペロブスカイトナノ粒子を埋め込むことを通して克服することができることを発見している。
【0012】
したがって、本発明の第一の側面では、半導体性ペロブスカイトナノ粒子よりも広いバンドギャップを有する材料のマトリクス又はブレンド中に埋め込まれた半導体性ペロブスカイトナノ粒子の薄層を調製する方法を提供し、その方法は、半導体性ペロブスカイト物質又はそのための前駆体の溶液を、半導体性ペロブスカイト物質又はそのための前駆体よりも広いバンドギャップを有する材料の溶液と混合し、そうして形成された前記溶液から溶媒を除去することによって、半導体性ペロブスカイトナノ粒子よりも広いバンドギャップを有する材料のマトリクス又はブレンドに埋め込まれた半導体性ペロブスカイトナノ粒子を得る工程を含む方法を提供する。
【0013】
半導体性ペロブスカイト前駆体と、その半導体性ペロブスカイトナノ粒子よりも広いバンドギャップを有する材料とのブレンドが堆積されるときに、その場で半導体性ペロブスカイトナノ粒子が形成される。均一に分配されたペロブスカイトナノ粒子が良好な発光をもたらす一方で、ペロブスカイトナノ粒子よりも広いバンドギャップを有する材料が、周囲の空隙を埋めて非放射性の電流損失を防止する。
【0014】
本発明の第二の側面では、半導体性ペロブスカイトナノ粒子よりも広いバンドギャップを有する材料のマトリクス又はブレンドに埋め込まれた半導体性ペロブスカイトナノ粒子の薄層が提供される。
【0015】
本発明の第三の側面では、本発明の第一の側面による方法にしたがって調製された、半導体性ペロブスカイトナノ粒子よりも広いバンドギャップを有する材料のマトリクス又はブレンドに埋め込まれた半導体性ペロブスカイトナノ粒子の薄層が提供される。
【0016】
本発明の第四の側面では、第一の電荷注入層と結合された第一の電極;第二の電荷注入層と結合された第二の電極;半導体性ペロブスカイト物質を含む発光層を含み、前記発光層が前記第一及び第二の電荷注入層の間に配置されており、前記半導体性ペロブスカイト物質が、本発明の第二の態様にしたがう半導体性ペロブスカイトナノ粒子よりも広いバンドギャップを有する材料のマトリクス又はブレンドに埋め込まれた半導体性ペロブスカイトナノ粒子の薄層を構成している固体発光素子が提供される。
【0017】
本発明の第五の側面では、第一の電荷注入層と結合された第一の電極;第二の電極;半導体性ペロブスカイト物質を含む発光層を含み、前記発光層が前記の電荷注入層と第二の電極の間に配置され;前記半導体性ペロブスカイト物質が、本発明の第二の側面にしたがう半導体性ペロブスカイトナノ粒子よりも広いバンドギャップを有する材料のマトリクス又はブレンドに埋め込まれた半導体性ペロブスカイトナノ粒子の薄層を構成している、固体発光素子が提供される。
【0018】
本発明の第六の側面では、本発明の第四の側面にしたがう固体発光素子の製造方法が提供され、その方法は以下の工程:基材上に第一の電極を備えつける工程;第一の電極上に第一の導電層を堆積させる工程;第一の導電層の上に発光性半導体性ペロブスカイト層を堆積させる工程;前記発光性半導体性ペロブスカイト層の上に第二の導電層を堆積させる工程;及び、前記第二の導電層の上に第二の電極を堆積させる工程を含み、
前記の半導体性ペロブスカイト層は、半導体性ペロブスカイト物質又はそのための前駆体の溶液を、半導体性ペロブスカイトナノ粒子又はそのための前駆体よりも広いバンドギャップを有する材料の溶液と混合し、そうして形成された混合物を第一の導電層の上に堆積させ、次にそうして形成された混合物から溶媒を除去することによって、半導体性ペロブスカイトナノ粒子よりも広いバンドギャップを有する材料のマトリクス又はブレンドに埋め込まれた所望する半導体性ペロブスカイトナノ粒子を得る工程によって得られる、半導体性ペロブスカイトナノ粒子よりも広いバンドギャップを有する材料のマトリクス又はブレンドに埋め込まれた半導体性ペロブスカイトナノ粒子を含む。
【0019】
本発明の第七の側面では、LEDディスプレイを含む電子デバイスが提供され、そのディスプレイは、本発明の第四又は第五の側面による発光素子又は本発明の第六の側面の方法にしたがって調製される発光素子を含む。
【0020】
本発明の第八の側面では、半導体性ペロブスカイト膜中の空隙を充填して、固体発光素子中で用いた場合の半導体性ペロブスカイト膜の非放射性の電流損失と効率低下を防止するための、絶縁材料の使用が提供される。
【0021】
本発明の第九の側面では、半導体性ペロブスカイトナノ粒子を含むマトリクスを調製するための、ポリマー及び小有機分子から選択される半導体性有機絶縁材料の使用が提供される。
【0022】
本発明の第十の側面では、マトリクス中に埋め込まれた半導体性ペロブスカイトナノ粒子に励起子エネルギーが移動することを容易にして、エレクトロルミネッセンスを促進させるための、本発明の第九の側面にしたがって調製されるマトリクスの使用が提供される。
【0023】
本発明の第十一の側面では、固体発光素子の発光層の形成において、半導体性ペロブスカイト物質又はそのための前駆体に対する絶縁材料又はそのための前駆体の比を変えることによって、本発明の第三の側面又は第四の側面にしたがう固体発光素子によって放射させる波長を調節するための、絶縁材料のマトリクス又はブレンドの使用が提供される。
【0024】
本発明の第十二の側面では、発光性リン光体の調製における、本発明の第二の側面による半導体性ペロブスカイトナノ粒子よりも広いバンドギャップを有する材料のマトリクス又はブレンドに埋め込まれた半導体性ペロブスカイトナノ粒子の薄層の使用が提供される。
【0025】
好ましい態様は、付属の係属請求項において規定されている。
本発明は、例の目的で、添付した図面において、図によって説明されている。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1a図1aは、本発明のある態様にしたがう、CHNHPbBrペロブスカイトを含む素子構造を示している。
図1b図1bは、PI2525ポリイミド前駆体(PIP)の化学構造を示している。
図1c図1cは、本発明によるCHNHPbBr/PIP PeLEDの画像を示している。
図1d図1dは、PIP、CHNHPbBr、及びブレンド膜の吸収スペクトル、及びCHNHPbBr/PIP PeLEDのエレクトロルミネッセンススペクトル(破線)を示している。
図1e図1eは、様々なPIP/ペロブスカイトブレンド比のもとで石英基板上にスピンコーティングした膜のX線回折データを示している。
図2a図2aは、本発明のある態様におけるPeLEDの合計電流密度(実線)対電圧、及びルミネッセンス(破線)対電圧の特性のグラフを示している。
図2b図2bは、本発明のある態様におけるPeLEDの外部量子効率対電流密度特性のグラフを示している。
図2c図2cは、本発明のある態様における外部量子効率ピーク値対PIP/CHNHPbBr質量比のグラフを示している。
図3図3は、5Vのバイアスにおいて得た、F8LED、ペロブスカイトのみ及びPIP/ペロブスカイトブレンドLEDのエレクトロルミネッセンススペクトルを示している。
図4a図4aは、(質量比を変えて)CBPマトリクス中のペロブスカイトナノ結晶を用いたサンプルのフォトルミネッセンススペクトルを示している。
図4b図4bは、様々なCBP:Pe質量比をもつCBP:CHNHPbBrペロブスカイト薄膜のX線回折パターンを示している。(100)及び(200)の結晶ピークの広がりは、より小さなナノ結晶の形成を示している。
図5a図5aは、PSマトリクスに埋め込まれたCHNHPbBrペロブスカイトナノ結晶(PS:Pe=10:1質量比)のフォトルミネッセンススペクトルを示している。
図5b図5bは、PVKマトリクスに埋め込まれたCHNHPbBrペロブスカイトナノ結晶(PVK:Pe=3:1質量比)のフォトルミネッセンススペクトルを示している。
図6図6は、アルミナナノ粒子/ペロブスカイト複合体膜のフォトルミネッセンススペクトルを示している。
図7図7は、CHNHPbBrのみの膜及びCHNHPbBr/アルミナブレンド膜の吸収スペクトルを示している。
図8図8は、アルミナマトリクス中のCHNHPbBrIナノ結晶のフォトルミネッセンススペクトルを示している。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[詳細な説明]
本発明の第一の側面の方法は、半導体性ペロブスカイト膜中のピンホールの形成の問題に対する解決法を提供する。本発明の第一の側面の方法は、半導体性ペロブスカイトナノ粒子よりも広いバンドギャップを有する材料のマトリクス又はブレンド中に埋め込まれた半導体性ペロブスカイトナノ粒子の薄層の、溶液堆積法による調製を可能にする。半導体性ペロブスカイトナノ粒子より広いバンドギャップを有する材料は、ピンホールのない電荷阻止層(電荷ブロッキング層)を形成する一方で、さらに、例えば、その埋め込まれたペロブスカイト結晶が、発光ダイオードの一つの形態において電子及び正孔注入層との電気的接点を形成することを可能にしている。この修飾された構造が、非放射性の電流損失を低減し、量子効率を改善する。この簡単な技術が、半導体性ペロブスカイトオプトエレクトロニクスにおけるフィルム形成問題を回避するための代替経路をもたらし、かつ可撓性及び高性能の発光ディスプレイの可能性を提供する。
【0028】
以下では、本発明への言及は、具体的にそれとは反対の言及がない限り、本発明の全ての側面に言及するものである。
【0029】
本発明の半導体性ペロブスカイトナノ粒子は、好ましくは、半導体性ペロブスカイトナノ結晶である。
【0030】
本発明の関連では、半導体性ペロブスカイトナノ粒子がその中に埋め込まれる材料は、その半導体性ペロブスカイトナノ粒子のバンドギャップよりも広いバンドギャップを有する材料である。この結果として、膜中のピンホールを通しての非放射性の電荷漏洩の結果として半導体性ペロブスカイト膜を通ってこれまでは通過することができた電荷は、そうしてもたらされたバンドギャップバリアによって防がれる。好ましくは、半導体性ペロブスカイトナノ粒子のものよりも広いバンドギャップを有する材料は、1.5eVより大きな、例えば2eVより大きな、2.5eVより大きな、又は2.8eVより大きなバンドギャップを有する。
【0031】
半導体性ペロブスカイトナノ粒子より広いバンドギャップを有する材料は、適切には絶縁材料又は半導体材料である。好ましくは、それは、絶縁性ポリマー、絶縁性小有機分子、及び絶縁性無機材料から選択される絶縁材料、より好ましくは絶縁性ポリマー又は絶縁性小有機分子である。一つの態様では、絶縁性ポリマー又は絶縁性小有機分子は、極性ポリマー又は極性小有機分子である。絶縁材料は半導体であってもよい。
【0032】
本発明の一つの好ましい態様では、絶縁材料はポリイミドである。ポリイミドは、例えば、以下の式:
【化1】
を有する、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物/4,4-オキシジアニリン/m-フェニレンジアミンポリマー(PIP)のポリアミック酸であることができる。
【0033】
本発明の別の好ましい態様では、絶縁材料はポリスチレンである。
【0034】
本発明のなお別の態様では、絶縁材料は、以下の分子構造:
【化2】
をもつ、ポリ(9-ビニルカルバゾール)である。
【0035】
本発明のさらなる態様では、絶縁材料は、以下の分子構造:
【化3】
をもつ小有機化合物である4,4-ビス(N-カルバゾリル)-1,1-ビフェニルである。
【0036】
本発明の別の態様では、絶縁材料はアルミナである。
【0037】
本発明においては、半導体性ペロブスカイトは、好ましくは式AMXを有する半導体性ペロブスカイト物質であり、式中、A、M、及びXは、いずれかの適切にバランスが取れたカチオン及びアニオン種の組み合わせであることができ、さらに好ましくは、それは有機金属ハロゲン化物ペロブスカイト物質である。
【0038】
本発明の一つの態様では、好ましい有機金属ハロゲン化物ペロブスカイトは、AMX構造を有し、Aは一価カチオンであり、Mは二価カチオンであり、Xはハライドアニオンである。AMXにおいては、以下が好ましい:
(i)Mは二価金属カチオンである;
(ii)その二価金属カチオンMは、スズ(Sn2+)又は鉛(Pb2+)である;
(iii)一価カチオンは、一級、二級、又は三級のアンモニウムカチオン[HNRであり、式中、R、R、Rのそれぞれは同じであるか異なり、水素、非置換又は置換C~C20アルキル基、及び非置換又は置換C~C18アリール基から選択される。アルキル基のための好適な置換基の例は、1~20の炭素原子を有するアルコキシ基、ヒドロキシル基、各アルキル基が同じであるか又は異なりかつ1~20の炭素原子を有するモノ及びジアルキルアミノ基、シアノ基、ニトロ基、チオール基、スルフィニル基、スルホニル基、及び5~18の炭素原子を有するアリール基である。アルキル基のための適切な置換基の例は、1~20の炭素原子を有するアルキル基、2~20の炭素原子を有するアルケニル及びアルキニル基、1~20の炭素原子を有するアルコキシ基、1~20の炭素原子を有するハロアルキル基、ヒドロキシル基、各アルキル基が同じであるか又は異なりかつ1~20の炭素原子を有していることができるモノ及びジアルキルアミノ基、シアノ基、ニトロ基、チオール基、スルフィニル基、及びスルホニル基である;
(iv)[RN-CH=NR
【化4】
の形態の一価カチオン(式中、R、R、R、及びRのそれぞれは同じであるか異なっていてよく、水素、非置換又は置換C~C20アルキル基、及び非置換又は置換C~C18アリール基から選択される。アルキル基のための適切な置換基の例は、1~20の炭素原子を有するアルキル基、2~20の炭素原子を有するアルケニル及びアルキニル基、1~20の炭素原子を有するアルコキシ基、1~20の炭素原子を有するハロアルキル基、ヒドロキシル基、各アルキル基が同じであるか又は異なっていてよく、かつ1~20の炭素原子を有していることができる、モノ及びジアルキルアミノ基、シアノ基、ニトロ基、チオール基、スルフィニル基、及びスルホニル基である);
(v)(RN)(RN)C=NR
【化5】
の形態の一価カチオン(式中、R、R、R、R、R、及びRのそれぞれは同じであるか異なっていることができ、水素、非置換又は置換C~C20アルキル基、及び非置換又は置換C~C18アリール基から選択される。アルキル基のための適切な置換基の例は、1~20の炭素原子を有するアルキル基、2~20の炭素原子を有するアルケニル及びアルキニル基、1~20の炭素原子を有するアルコキシ基、1~20の炭素原子を有するハロアルキル基、ヒドロキシル基、各アルキル基が同じであるか又は異なっていてよく、かつ1~20の炭素原子を有していることができる、モノ及びジアルキルアミノ基、シアノ基、ニトロ基、チオール基、スルフィニル基、及びスルホニル基である);
(vi)一価カチオンがアルカリ金属カチオンである;
(vii)一価カチオンがセシウム(Cs)又はルビジウム(Rb)である;
(viii)Xが、クロライド、ブロマイド、アイオダイド、及びフルオライドから選択されるハライドアニオンであり、AMX構造中、各ハライドは同じであるか異なっていることができる。
【0039】
本発明の別の態様では、好ましい有機金属ハロゲン化物ペロブスカイト物質は、A1-iMX構造を有し、
A及びBはそれぞれ上で規定した一価カチオンであって、A及びBは異なり;
Mは上で規定した二価金属カチオンであり;
Xは上で規定したハライドアニオンであり;
iは0と1の間である。
【0040】
本発明のさらなる態様では、好ましい有機金属ハロゲン化物ペロブスカイト物質は、AMX3-k構造を有し、
Aは上で定義した一価カチオンであり;
Mは上で定義した二価金属カチオンであり;
X及びYはそれぞれ上で定義したハライドアニオンであって、X及びYは異なり;
kは0と3の間である。
【0041】
本発明のなおさらに別の態様では、好ましい有機金属ハロゲン化物ペロブスカイト物質がAM1-j構造を有し、
Aは上で定義した一価カチオンであり;
M及びNはそれぞれ上で定義した二価金属カチオンであり;
Xは上で定義したハライドアニオンであり;
jは0と1の間である。
【0042】
本発明のさらなる態様では、好ましい有機金属ハロゲン化物ペロブスカイト物質がA1-i1-j3-k構造を有し、
A及びBはそれぞれ上で定義した一価カチオンであり、A及びBは異なり;
M及びNはそれぞれ上で定義した二価金属カチオンであり;
X及びYはそれぞれ上で定義したハライドアニオンであって、X及びYは異なり;
iは0と1の間であり、jは0と1の間であり、kは0と3の間である。
【0043】
本発明においては、その半導体性ペロブスカイトナノ粒子よりも広いバンドギャップを有する材料のマトリクス又はブレンドに埋め込まれた半導体性ペロブスカイトナノ粒子の薄層の厚さは、好ましくは500nm以下、より好ましくは100nm以下である。
【0044】
本発明の第一の側面による方法では、溶媒を除去する工程の後にアニーリング工程を行ってもよい。溶媒は、当業者に公知の任意の好適な手段、例えばスピンコーティングによって除去することができる。
【0045】
本発明においては、半導体性ペロブスカイトナノ粒子と、その半導体性ペロブスカイトナノ粒子が埋め込まれている、半導体性ペロブスカイトナノ粒子よりも広いバンドギャップを有する材料との質量比は、例えば、0.01:1~20:1、好ましくは0.1:1~10:1、さらに好ましくは1:1~5:1、最も好ましくは1:1~2:1であってよい。
【0046】
本発明の方法は、半導体性ペロブスカイトナノ粒子よりも広いバンドギャップを有する材料のマトリクス又はブレンドに埋め込まれた半導体性ペロブスカイトナノ粒子の膜であって、発光性半導体層を含む素子、例えば、本発明の第四及び五の側面による固体発光素子において用いるために特に良く適した膜を生み出す。
【0047】
本出願人は、半導体性ペロブスカイトナノ粒子がその中に埋め込まれた、半導体性ペロブスカイトナノ粒子よりも広いバンドギャップを有する材料に対する、半導体性ペロブスカイトナノ粒子の割合を変えることによって、量子効率を著しく向上させることが可能であることを発見している。例えば、本出願人は、本発明にしたがって作製された発光ダイオードにおいて、本発明による発光性膜(発光フィルム)を含む素子の外部量子効率(EQE)は、半導体性ペロブスカイトナノ粒子よりも広いバンドギャップを有する材料の非存在下で膜(フィルム)として調製した同じ半導体性ペロブスカイトナノ粒子を用いて作製された同じ素子と比較して二桁より大きく増大することを発見している。それはまた、同じエレクトロルミネッセンスを達成するために必要な電流密度を顕著に低下させることをもたらした。
【0048】
このやり方は、半導体性ペロブスカイト発光ダイオード及び太陽電池における、半導体性ペロブスカイトナノ粒子よりも広いバンドギャップを有する材料のマトリクス又はブレンド中に埋め込まれた半導体性ペロブスカイトナノ粒子の同じ薄層の使用に適用することができる。
【0049】
本発明の第六の側面は、本発明の第四の側面による固体発光素子の製造方法を提供する。
【0050】
本発明の第四、第五、及び第六の側面の1つの態様においては、第一の電極はアノードであり、透明導電性材料、好ましくは、インジウムスズオキシド(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、インジウム亜鉛オキシド、グラフェン、カーボンナノチューブ、20nmより薄い厚さの金属から選択される透明導電性材料、さらに好ましくはインジウムスズオキシド(ITO)を堆積させることによって形成される。本発明の第四及び第六の側面では、アノードとしての第一の電極は、透明材料、好ましくはガラスから通常形成されている基材の上に堆積される。
【0051】
本発明の第四、第五、及び第六の側面の別の態様では、発光性半導体性ペロブスカイト層は、絶縁性ポリマー、絶縁性小有機分子、及び絶縁性無機化合物から選択される絶縁材料のマトリクス又はブレンドに埋め込まれた半導体性ペロブスカイトナノ結晶から構成される。
【0052】
本発明の第四、第五、及び第六の側面のさらなる態様では、発光層は500nm以下、好ましくは100以下の厚さを有する。
【0053】
本発明の第四、第五、及び第六の側面のなおさらなる態様では、薄い絶縁層が、電荷注入層のいずれか又は両方と発光層との間に堆積される。好ましくは、絶縁層は、酸化物又は窒化物から形成される。さらに好ましくは、絶縁層は、酸化アルミニウム、二酸化珪素、窒化珪素、酸化亜鉛、酸化ニッケル、又は酸化マグネシウムからなる群から選択される。絶縁層は、任意の適切な手段、例えば、原子層堆積(ALD)によって堆積させることができる。
【0054】
例えば、透明導電性電極材料は、酸化アルミニウム、二酸化珪素、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化ニッケル、及び窒化珪素からなる群から選択される絶縁層の薄層(好ましくは30nm未満の厚さ)でコーティングされていてもよい。その薄い足場(スキャフォールド)又は中間層は、電荷注入層と発光性ペロブスカイト層の間の界面での消光を防ぐことにより、あるいは電子又は正孔が半導体性ペロブスカイト層から外へ逃げることを防ぐことによって、素子(デバイス)の発光効率を向上させうる。
【0055】
本発明の第四、第五、及び第六の側面のさらなる態様では、第一の導電層及び第二の導電層のうちすくなくとも1つは、半導体材料から形成される。導電層(電荷注入層)のうちの1つは正孔注入性有機半導体材料であってよく、例えば、PEDOT:PSS、PANI(ポリアニリン)、ポリピロール(これは任意選択により置換されていてもよい)、及びドープされたポリ(エチレンジオキシチオフェン)(PEDT)からなる群から選択することができる。導電層(電荷注入層)のうちの1つは、電子注入性有機半導体材料であってよく、例えば、ポリ(フルオレン)類、例えば、F8及びF8-PFB ABコポリマー(95:5 F8:TFB)からなる群から選択することができる。
【0056】
本発明の第四、第五、及び第六の側面の一つの好ましい態様では、三酸化モリブデン及び三酸化タングステンから選択される材料の30nm未満の薄層が、
透明導電性電極と半導体性ペロブスカイト層の間、
電荷注入層と導電性電極の間、
透明導電性電極と電荷注入層の間、
半導体性ペロブスカイト層と電荷注入層の間、又は
半導体性ペロブスカイト層と導電性電極の間
に堆積される。
【0057】
このさらなる薄層は、発光素子の層の間の電荷注入効率を高めることができる。
【0058】
本発明の第六の側面の方法における各層の堆積は、以下の堆積方法:真空熱蒸着、スピンコーティング、直接描画印刷(direct-write printing)、インクジェット印刷、リソグラフパターン形成、及び溶液堆積のうち1つ以上を用いて行うことができる。
【0059】
本発明の第七の側面は、LEDディスプレイを含む電子デバイスを提供し、このディスプレイは上述した発光素子を含む。電子デバイスは、例えば、コンシューマー向け電子デバイス、携帯型デバイス、例えば、スマートフォン又はタブレットPC、又はディスプレイスクリーン/パネルであってよい。
【0060】
本発明の第八の側面は、半導体性ペロブスカイト膜中の空隙(void)を充填して、固体発光素子中で用いた場合の半導体性ペロブスカイト膜の非放射性の電流損失と効率低下を防止するための、絶縁材料の使用を目的とする。特に、絶縁材料は、好ましくは、上に記載し例示した絶縁性ポリマー、絶縁性小有機分子、及び絶縁性無機材料である。
【0061】
本発明の第九の側面は、半導体性ペロブスカイトナノ粒子を含むマトリクスを調製するための、ポリマー及び小有機分子から選択される半導体性有機絶縁材料の使用を提供する。好ましい絶縁性ポリマー及び絶縁性小有機分子は、上に記載し、例示したとおりである。そのようにして調製されたマトリクスは、本発明の第十の側面にしたがい、マトリクス中に埋め込まれた半導体性ペロブスカイトナノ粒子に励起子エネルギーが移動することを容易にして、エレクトロルミネッセンスを促進させるために用いることができる。
【0062】
本発明の第十一の側面は、固体発光素子の発光層の形成において、半導体性ペロブスカイト物質又はそのための前駆体に対する絶縁材料又はそのための前駆体の比を変えることによって、固体発光素子によって放射される波長を制御するための、絶縁材料の使用を提供する。絶縁材料は、好ましくは、上に記載しかつ例示した絶縁性ポリマー、絶縁性小有機分子、及び絶縁性無機材料である。固体発光素子は、本発明の第四及び第五の側面にしたがう、上に記載し、例示した固体発光素子、又は本発明の第六の側面にしたがって調製された固体発光素子のいずれかであることができる。固体発光素子の発光層の形成における、絶縁材料又はそのための前駆体と半導体性ペロブスカイト物質又はそのための前駆体との比は、典型的には、0.01:1~20:1、好ましくは0.1:1~10:1、より好ましくは1:1~5:1、最も好ましくは1:1~2:1であることができる。
【0063】
本発明の第十二の側面は、発光性リン光体の調製における、半導体性ペロブスカイトナノ粒子より広いバンドギャップを有する材料のマトリクス又はブレンド中に埋め込まれた半導体性ペロブスカイトナノ粒子の薄層の使用を提供する。半導体性ペロブスカイトナノ粒子よりも広いバンドギャップを有する材料のマトリクス又はブレンド中に埋め込まれた半導体性ペロブスカイトナノ粒子の薄層は、本発明の第二の側面において上に記載され、例示されている。半導体性ペロブスカイトナノ粒子より広いバンドギャップを有する材料は、好ましくは、絶縁性ポリマー及び絶縁性小有機分子から選択される絶縁性有機材料、及びアルミナナノ粒子ブレンドから選択され、より好ましくはアルミナナノ粒子のブレンドである。この好ましい態様における(半導体性ペロブスカイトナノ粒子:アルミナナノ粒子)の比は、典型的には、1:10~10:1、好ましくは2:1~6:1、例えば、6:1、4:1、及び2:1である。
【0064】
本出願人は、半導体性ペロブスカイト前駆体を、半導体性ペロブスカイトナノ粒子より広いバンドギャップを有する材料、好ましくはアルミナとブレンドし、それらを膜(フィルム)へと堆積させることが、そのペロブスカイトのフォトルミネッセンス効率を高めることを発見している。アルミナは透明(可視領域で)であり、半導体性ペロブスカイト発光を吸収しない。それは、半導体性ペロブスカイトと同様に、溶液から加工することができる。
【実施例
【0065】
図1aは、本発明のある態様にしたがう、ポリイミド前駆体(PIP)に埋め込まれた半導体性ペロブスカイトナノ粒子の薄層を含む素子構造10を示している。このペロブスカイト発光ダイオード(PeLED)10は、透明基板12の上に作製され、透明基板12はガラス基板であってよい。一般的には、ここに図示したPeLEDは、第一の電荷注入層16に結合された第一の電極14、第二の電荷注入層20に結合された第二の電極22、PIPに埋め込まれた有機金属ハロゲン化物ペロブスカイトナノ粒子から形成された活性層18(例えば、CHNHPbBr:PIP層)を含む。活性層18は、第一及び第二の電荷注入層16、20の間に挟まれている。電荷注入層16、20のうち1つ又は両方は、半導体材料から形成されていてもよい。
【0066】
好ましくは、第一の電極14は、透明な導電性材料、例えばインジウムスズオキシド(ITO)から形成される。第一及び第二の電荷注入層16、20のうち1つ又は両方は、活性ペロブスカイト層18に電荷を活発に注入することができ、層16、20の1つ又は両方は、単純に、電荷輸送及び電荷阻止層として作用しうる。第二の電極22は、任意の導電性材料、例えば、これらには限定されないが、MoO/Ag、Ca/Ag、Auなどから形成される。
【0067】
説明の目的のため、可視光発光PeLED素子24を、ITO/PEDOT:PSS/CHNHPbBr:PIP/F8/Ca/Ag構造を用いて作製する。したがって、ここで、第一の電荷注入層16は、導電性ポリマー物質、例えば、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホネート)(PEDOT:PSS)から形成され、第二の電荷注入層20はポリ(9,9’-ジオクチルフルオレン)(F8)から形成される。このPIPポリマーは、一般に、半導体性ペロブスカイトナノ粒子よりも大きなバンドギャップを有する。この構造では、ペロブスカイト層のバンドギャップと比較して大きなバンドギャップを有する材料から電荷注入層16、20をもたらすことによって、注入された電荷は活性層18内に閉じ込められる。加えて、活性(発光性)ペロブスカイト層内への、注入された電荷(正孔及び電子)の閉じ込めは、さらに、薄い活性ペロブスカイト層(例えば、100nm未満の厚さを有する(あるいは60nm未満、あるいは20nm未満))をもつPeLEDを形成することによって、向上されうる。
【0068】
大きなバンドギャップのペロブスカイトCHNHPbBrは、緑色発光体として用いた。ペロブスカイト前駆体を、市販されている芳香族ポリイミド前駆体(PIP)と混合する。図1bは、PI2525ポリイミド前駆体(PIP)の化学構造を示している。このポリマーはその極性官能基のために選択されたものであり、これはハイブリッドペロブスカイトとうまく組み合わされる。ペロブスカイトナノ結晶及びPIPポリマーの複合体は、スピンコーティング及び温和なアニーリング時に形成されるが、ポリマーはこれらの加工条件下でその未反応前駆体の形態のままである。X線回折研究によって確かめられているように、ポリマーマトリクスの存在下でさえ、ペロブスカイト結晶は良好に形成される。図1eは、様々なPIP/ペロブスカイトブレンド比のもとで石英基板上にスピンコーティングされた膜(フィルム)のX線回折データを示している。機器による広がりのため、ペロブスカイトのみ及びPIP/ペロブスカイトが1/10の膜の結晶の大きさは測定できない。PIP/ペロブスカイトが1/2(w/w)に対して見積もられた結晶の大きさは70nmである。
【0069】
ここで、ITOはアノード(電極14)であり、第一の電荷注入層16と結合されており、電荷注入層はPEDOT:PSSから形成されることができ、活性ペロブスカイト層18に正孔を注入するために用いられる。第二の電極22はカソードであり、銀/カルシウムから形成することができる。
【0070】
第二の電極22は第二の電荷注入層20と結合されており、後者はポリ(9,9’-ジオクチルフルオレン)(F8)ポリマー半導体物質から形成されることができる。F8物質は、(ペロブスカイト層に電荷を活発に注入するというよりはむしろ)電子輸送のためのスペーサー層として働き、第二の電極22との界面近くでの発光の消光を防ぐ。F8物質は、電子輸送層20として働き、注入された正孔が素子10から離れることを阻害し、さらに金属電極22において発光(ルミネッセンス)が消光することを防ぐ。加えて、半導体性F8層20は良好なコンフォーマルコーティング(絶縁保護コーティング)を形成して、トップ電極22が薄い(50nm未満)ペロブスカイト層18を通して短絡することを防ぐ。低い仕事関数のカルシウム電極22はオーミック接触をもたらし、その一方、高い仕事関数のPEDOT:PSSは正孔注入層16として作用する。
【0071】
図1dは、PIP、CHNHPbBr、及びブレンド膜の吸収スペクトルと、図1aに示されたCHNHPbBr/PIP PeLEDのエレクトロルミネッセンススペクトル(破線)を示している。図1dに示されているように、強い緑色エレクトロルミネッセンスが、19nmの狭い半値全幅(FWHM)をもって529nmに観測される。PIPポリマーは、UV中にのみ吸収があり、ペロブスカイトからの緑色発光を妨害しない。図1cは、本発明のある態様におけるCHNHPbBr/PIP PeLEDの画像を示している。図1cに示されているように、エレクトロルミネッセンスはスポッティングのいかなる兆候もなく全素子ピクセルにわたって均一であり、これはペロブスカイトナノ結晶がスピンコーティング膜にわたって均一に分配されていることを実証している。
【0072】
発光活性層としてのペロブスカイト:PIPポリマー複合体の有効性を判断するためにさまざまなPIPとペロブスカイトの質量比で発光ダイオードを作製した。図2aは、1:10、1:2、及び1:1の(PIP:ペロブスカイト)比をもつ素子並びに添加されたPIPなしの対照素子の、統合した発光(ルミナンス)及び電流密度対電圧の特性を示している。図2bは、各素子の対応する外部量子効率(EQE)を示している。それらの素子は、PIPの添加に伴って増大した量子効率の明確な傾向を示している。特に、EQEは、PIPなしの素子における0.010%から、1:1のPIPとペロブスカイト比をもつ素子における1.2%へと二桁より大きい強度で増大した。これは、ランベルト発光プロファイルを前提として、5.4%の内部量子効率(IQE)に対応する。この著しい効率の向上は、エレクトロルミネッセンスに必要とされる電流密度の低下によって主にもたらされている。例えば、1:2比の素子において、200cd・m-2の輝度を生み出すために、3.1mA・cm-2の電流密度が必要とされるが、580mA・cm-2及び57mA・cm-2という非常に大きな電流密度が、同じ輝度を達成するために、ペロブスカイトのみ及び1:10比の素子それぞれに必要とされる。
【0073】
PIP及びペロブスカイト複合体素子を、より広い範囲の混合比について調査し、素子の性能を図2cに示す。約1%の最高のEQEは、1:2~1:1のPIPとペロブスカイトの比で達成されている。これは、以前の研究において報告されているものに対して10倍の素子効率の増大に相当する。素子効率は、より高い比で低下し、いくつかの素子の画素はそれらの比では働かず、これは発光層が、そのような高いポリマー含有量では抵抗が高すぎることを示唆している。
【0074】
異なる比の膜の走査電子顕微鏡研究を通じて、われわれは、ペロブスカイトナノ粒子はブレンド膜中の誘電性PIPのマトリクスのなかで生成しており、絶縁性PIPポリマーは電気的短絡経路を阻止するように働くと推測している。PIPポリマーの厚さは、1:10及び1:2の比の(PIP:ペロブスカイト)の膜においてそれぞれ3nm及び30nmであることが測定された。より厚い1:2の比の膜は、優れたPIP被覆をもたらし、それによって最小の電流損失及び顕著に高められた素子効率へと導く。1:10比の膜におけるポリマー被覆はより薄く、いくらかの領域でおそらく不完全であり、それによって電流損失に対するより小さな保護しかもたらさない。ペロブスカイト及びPIPの複合体素子は1:1までのブレンド比では効率的かつ均一に発光するので、ペロブスカイトナノ結晶がそれらの膜の厚さ方向にわたって広がり、PEDOT:PSS及びF8層の両方と電気的接点を形成していると推測することが合理的である。
【0075】
図3は、5Vのバイアスで得られた、F8LED、ペロブスカイトのみ、及びPIP/ペロブスカイトブレンドLEDのエレクトロルミネッセンススペクトルを示している。ペロブスカイトで被覆された領域において接触して再結合する電荷が緑色発光を生じさせる。しかし、ペロブスカイト結晶間の空間において、電荷は、露出されたF8/PEDOT:PSS界面において失われるか、又は複合体膜中のPIP誘電体ポリマーによって阻止されるかのいずれかである。F8中での電荷の再結合は、F8のエレクトロルミネッセンスへと導くことができる。実際に、ペロブスカイトのみの素子において、エレクトロルミネッセンスへのF8の寄与は、400nm~500nmで観測されることができ、これは図3に示されているとおりである。このF8のエレクトロルミネッセンスは、PIP含有素子中で完全に遮断され、きれいなペロブスカイト発光が得られ、さらに、PIPがF8/PEDOT:PSS界面における短絡経路を阻止するのに際立って有効であることを実証している。
【0076】
有機マトリクス中に形成されるペロブスカイトナノ結晶の大きさの調整可能性
態様では、有機マトリクス中で形成されるナノ結晶の大きさを変えることによって、発光ダイオード中のペロブスカイト層又は発光性リン光体の特性を調節することができる。例えば、発光性リン光体の発光波長(色)を調節することが望まれる。
【0077】
1:1~15:1(CBP:ペロブスカイト)の範囲の質量比で混合されたCBP:ペロブスカイト試料(4,4-ビス(N-カルバゾリル)-1,1-ビフェニル(CBP)マトリクス中のCHNHPbBrペロブスカイトナノ結晶)の走査電子顕微鏡(SEM)画像は、画像中の比較的明るい領域がCHNHPbBrペロブスカイト(Pe)に対応し、一方、より暗い領域はCBPマトリクスに対応することを示している。2つの物質のコントラストは、それらの導電率の違いによる。ペロブスカイトの質量濃度が50%(CBP:Pe=1:1)の場合、ペロブスカイト物質は結合された網目を形成して、CBPの孤立した島を取り囲む。ペロブスカイトクラスターの平均の幅は約280nmである。対照的に、CBP:Pe=15:1(すなわちマトリクス内に埋め込まれたより少ない量のペロブスカイト物質)を有する試料については、ペロブスカイトナノ結晶ドメインの平均径は約50nmである。各ペロブスカイトナノ結晶ドメインは、多くのより小さなナノ結晶によって形成されている。
【0078】
図4aは、CBPマトリクス中のペロブスカイトナノ結晶を備えた試料(質量比を変えたもの)のフォトルミネッセンススペクトルを示している。特に、スペクトルは、4,4-ビス(N-カルバゾリル)-1,1-ビフェニル(CBP)マトリクス中に埋め込まれたCHNHPbBrペロブスカイトナノ結晶のフォトルミネッセンス(PL)スペクトルを示している。試料は、測定時に407nmレーザーによって光学的に励起した。バルク(純粋な)のペロブスカイト薄膜のPLスペクトルは赤い曲線として示されている。発光のピークは、CBPマトリクス中のペロブスカイトの濃度(及び大きさ)が低下するにしたがって、より短い波長へとシフトする。
【0079】
図4bは、さまざまなCBP:Pe質量比をもつCBP:CHNHPbBrペロブスカイト薄膜のX線回折パターンを示している。(100)及び(200)の結晶ピークの広がりは、より小さなナノ結晶の形成を示している。図4bに示されているX線回折結果は、ペロブスカイトナノ結晶の平均径が、CBP:Pe=1:1を有する試料については約76nm、CBP:Pe=15:1をもつ試料については約10.5nmであることを明らかにしている。したがって、試験は、ペロブスカイトの濃度が低下するにつれて、ペロブスカイト物質が、低下した径をもつナノ結晶を形成することを示している。
【0080】
別のポリマー材料中に形成されたペロブスカイトナノ結晶も調査し、ペロブスカイトナノ結晶のフォトルミネッセンス特性を調節するさらなる方法を決定している。例えば、CHNHPbBrペロブスカイトナノ結晶を、ポリスチレン(PS)マトリクス中に埋め込んだ(PS:Pe=10:1の質量比)。走査電子顕微鏡(SEM)の画像は、ナノ結晶ドメインの平均径は約180nmだったことを明らかにしている。図5aは、PSマトリクス中に埋め込まれたCHNHPbBrペロブスカイトナノ結晶のフォトルミネッセンススペクトルを示している(PS:Pe=10:1質量比)。ペロブスカイトナノ結晶はまた、共役ポリマーマトリクス中でも形成された(例えば、ポリ(9-ビニルカルバゾール)(PVK)マトリクス中のCHNHPbBrペロブスカイトナノ結晶)。図5bは、PVKマトリクス中に埋め込まれたCHNHPbBrペロブスカイトナノ結晶のフォトルミネッセンススペクトルを示している(PVK:Pe=3:1質量比)。したがって、ペロブスカイトナノ結晶が埋め込まれているマトリクスがフォトルミネッセンスに影響を及ぼしうることは明らかである。
【0081】
図5a及び5bについては、20%の濃度となるようにしてCHNHBr及びPbBrを3:1のモル比で無水N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)中で混合することによって、CHNHPbBrペロブスカイト前駆体溶液を調製した。その溶液をさらにDMFでさらに希釈して、10mg/mlの濃度にした。この溶液をさらに処理する前に24時間撹拌した。
【0082】
4,4-ビス(N-カルバゾリル)-1,1-ビフェニル(CBP)を、10mg/mlの濃度になるようにDMF中に溶かした。ポリスチレン(PS)を、20mg/mlの濃度になるようにDMF中に溶かした。ポリ(9-ビニルカルバゾール)(PVK)を10mg/mlの濃度になるようにDMF中に溶かした。これらの溶液をさらに処理する前に24時間撹拌した。
【0083】
CHNHPbBrペロブスカイト前駆体溶液及びマトリクス材料溶液を様々な体積比で混合して、上の実施例で記載した質量比を達成した。これらの混合物を70℃で2時間撹拌し、Nパージしたグローブボックス中で予めきれいにした石英基板の上にスピンコーティングして、約50nmの膜厚を得た。これらの薄膜を次に90℃で5分間アニーリングして、溶媒の蒸発と結晶化を早めた。
【0084】
発光性リン光体に用いるためのぺロブスカイトナノ粒子
我々は、ぺロブスカイトナノ粒子膜の性質をどのようにして調節して発光波長を変えるか、及びどのようにしてその調節手法を用いて、調節可能な発光性リン光体を提供するかについて上で説明している。発光性リン光体としてアルミナナノ粒子/ぺロブスカイトを用いることの可能性を調べてきた。態様のなかでは、ぺロブスカイト前駆体をアルミナとブレンドして、ペロブスカイトの発光効率を高める膜へと堆積させる。アルミナは透明(可視スペクトルにおいて)であり、ペロブスカイトの発光を吸収しない。アルミナは、ペロブスカイトと同様、溶液から加工することができ、このことは発光性リン光体の作製を簡素化しうる。
【0085】
DMF中で、3:1のモル比で、5質量%、2.5質量%、及び1.7質量%の濃度で、CHNHBrとPbBrを混合することによって、CHNHPbBr前駆体を調製した。イソプロパノール中のアルミナナノ粒子分散液(20質量%、50nm未満の粒径)を、DMFを用いて希釈して様々な濃度を達成した。ペロブスカイト溶液をアルミナ分散液とブレンドすることによって、CHNHPbBr/アルミナブレンド溶液を作成した。アルミナ/ペロブスカイト複合体膜を、窒素グローブボックス中で、酸素プラズマで浄化した石英スペクトロジル(spectrosil)上に、3000rpmで30秒間、スピンコーティングし、次に60℃で1分間アニーリングした。図6は、広範なアルミナナノ粒子とペロブスカイトの質量比をもつアルミナナノ粒子/ペロブスカイト複合体膜のフォトルミネッセンススペクトルを示している。フォトルミネッセンスのピークが、アルミナナノ粒子とペロブスカイトの比を変えることによって調節することができ、特に、アルミナナノ粒子の濃度を高くすることによってより短い波長へとピークがシフトしうることが明らかである。図7は、CHNHPbBrのみの膜と、CHNHPbBr/アルミナ(1:4質量比ブレンド)の吸収スペクトルをより詳細に示している。
【0086】
あるいは、アルミナマトリクス中でCHNHPbBrI粒子を用いてペロブスカイトナノ結晶を形成することができる。この態様では、DMF中の5質量%CHNHPbBr前駆体溶液を、DMF中の5質量%CHNHPbBrI前駆体溶液と、2:1の体積比で混合することによって、ペロブスカイト前駆体が調製される。図8は、そのようなアルミナマトリクス中のCHNHPbBrIナノ結晶のフォトルミネッセンススペクトルデータを示している。フォトルミネッセンスピークは、CHNHPbBrナノ結晶のものと比較してより長波長にシフトしている(図6を参照されたい)。したがって、異なるペロブスカイト物質を用いることによって、さらなる調節性が可能である。
【0087】
材料及び作製方法
上述したペロブスカイト物質を有機光電子素子の作製にもちいる場合、ペロブスカイト物質は溶かされて溶液を形成することが好ましい。その溶液は、そのような素子の活性/発光層を形成させるための溶液加工法において用いることができる。PeLEDの電極は、熱蒸着によって堆積させることができる。発光層、正孔注入層、及び/又は中間層(1又は複数)は、溶液加工法、例えばスピンコーティング法によって堆積させることができる。本発明の好ましい素子はまた、湿気及び酸素の侵入を避けるためにカプセル化される。慣用のカプセル化法を用いることができる。
【0088】
PeLEDの基材(基板)は、当技術分野で慣用される任意の材料、例えば、ガラス又はプラスチックから形成することができる。任意選択によって、基材は前処理されて、それに対する接着力を向上させてもよい。好ましくは、基材は透明である。好ましくは、基材はまた、素子への湿気又は酸素の侵入を防止する良好なバリア特性を有する。
【0089】
アノードは、正孔を発光層へ注入するために適した仕事関数をもつ任意の材料を含むことができる。好ましくは、アノードは透明である。透明なアノードとして用いるための材料の代表例には、インジウムスズオキシド(ITO)及びインジウム亜鉛オキシド(IZO)が含まれる。アノードが透明である必要がない場合には(例えば、カソードが透明であるか、それが底面発光素子である場合)、不透明な金属などの不透明な導電性材料をアノードとして用いてもよい。
【0090】
アノードは、単一の層を含むか、あるいは1つより多い層を含むことができる。例えば、アノードは、第一のアノード層、及びアノードと正孔注入層の間の補助導電層、例えばアノードと正孔注入層の間の有機導電性材料の層を含むことができる。
【0091】
アノードは、熱蒸着によって基材の上に堆積することができる。アノードは10nm~200nmの厚さの間であってよい。
【0092】
正孔注入層は、溶液に基づく加工法によって堆積させてもよい。任意の従来からの溶液ベースの加工法を用いることができる。溶液ベースの加工法の代表例には、スピンコーティング、ディップコーティング、スロットダイコーティング、ドクターブレードコーティング、及びインクジェット印刷が含まれる。ある態様では、スピンコーティングが好ましい堆積法である。正孔注入層をスピンコーティングするためのパラメータ、例えば、スピンコーティングの速度、加速度、及び時間は、その層について狙った厚さに基づいて選択される。堆積後、正孔注入層を、好ましくは、加熱、例えば、150~200℃で5~30分間、空気中で加熱することによってアニーリングする。正孔注入層の厚さは、15~100nm、又は30~50nmであってよい。
【0093】
上述したように、素子は、電極の一方又は両方と発光層との間に形成された薄い絶縁層を含んでいてもよい。この絶縁層は、酸化物又は窒化物から好ましくは形成され、さらに好ましくは、絶縁層は、酸化アルミニウム、二酸化珪素、窒化珪素、酸化亜鉛、酸化ニッケル、又は酸化マグネシウムからなる群から選択される。この中間層は、LEDの素子効率及び寿命を改善するのに重要な役割を演じることができる(なぜなら、電荷注入層(1又は複数)と発光層の間の界面における励起子消光が防止されるかまたは最小化されるからである)。好ましくは、絶縁層は、原子層堆積(ALD)によって堆積される。
【0094】
発光(発光性)層は、電荷注入層、又は存在する場合には中間層について上で定義したように、溶液を堆積させることによって調製できる。任意の従来からの溶液ベースの加工法を使用することができる。溶液ベースの加工法の代表例には、スピンコーティング、ディップコーティング、スロットダイコーティング、ドクターブレードコーティング、及びインクジェット印刷が含まれる。ある態様では、堆積はスピンコーティングによる。発光層をスピンコーティングするために用いられるパラメータ、例えば、スピンコーティングの速度、加速度、及び時間は、発光層について狙った厚さに基づいて選択される。堆積後、発光層をグローブボックス内で乾燥、例えば100~150℃で乾燥させることが好ましい。発光層の厚さは、50~350nm又は75~150nmであってよい。
【0095】
カソードは、発光層に電子を注入することを可能にする仕事関数を有する任意の材料を含むことができる。素子への電子の効果的な注入をもたらすためには、カソードは、好ましくは3.5eV未満の、さらに好ましくは3.2eV未満の、最も好ましくは3eV未満の仕事関数を有する。金属の仕事関数は、例えば、Michaelson, J. Appl. Phys. 48(11), 4729, 1977に見ることができる。カソードは単一材料、例えば金の層からなることができる。あるいは、カソードは、複数の金属、例えば、低仕事関数の材料と高仕事関数の材料の2層又は3層、例えば、国際公開第98/10621号に開示されているカルシウム及びアルミニウム;国際公開第98/57381号、Appl. Phys. Lett. 2002, 8 1(4), 634、及び国際公開第02/84759号に開示されているバリウム元素;あるいは、金属化合物、特に、電子注入を助けるためのアルカリ又はアルカリ土類金属の酸化物又はフッ化物、例えば、国際公開第00/48258号に開示されているフッ化リチウム;Appl. Phys. Lett. 2001, 79(5), 2001に開示されているフッ化バリウム;及び、酸化バリウム、の薄層を含んでいてよい。
【0096】
カソードは不透明又は透明であってよい。透明なカソードは、アクティブマトリクス素子のために特に有利であり、なぜならそのような素子における透明なアノードを通しての発光は、その発光画素の下に配置された駆動回路によって少なくとも部分的にブロックされるからである。透明なカソードは、透明になるために十分に薄い電子注入材料の層を含む。典型的には、この層の水平方向の伝導度は、その薄さの結果として低くなる。この場合、電子注入材料の層は、透明導電性材料、例えば、インジウムスズオキシドのより厚い層と組み合わせて用いられる。
【0097】
カソードは、熱蒸着によって堆積させることができる。カソードは100~400nmの厚さ、あるいは200~350nmの厚さであってよい。
【0098】
適切なカプセル化材には、ガラスシート、適切なバリア特性を有するフィルム、例えば、二酸化ケイ素、一酸化ケイ素、窒化ケイ素、あるいはポリマーと誘電体の交互積層体(例えば、国際公開01/81649号に記載されている)、あるいは、例えば国際公開01/19142号に開示されている気密容器が含まれる。透明カソード素子の場合には、透明なカプセル化層、例えば、一酸化ケイ素又は二酸化ケイ素は、ミクロン単位の厚さに堆積されることができるが、一つの好ましい態様では、そのような層の厚さは20~300nmの範囲である。基材又はカプセル化材を通して透過しうる空気中の水蒸気及び/又は酸素を吸収するための材料を、任意選択によって基材とカプセル化材の間に配置してもよい。
【0099】
ポリイミド前駆体(製品番号PI2525)を、使用する前にN-メチル-2-ピロリドン中に20mg/mlの濃度に希釈した。
【0100】
CHNHPbBrペロブスカイトの合成
臭化メチルアンモニウム(CHNHBr)を、エタノール中の33質量%のメチルアミン溶液(24mL)及び水中の48質量%臭化水素酸を、100mLの無水エタノールに添加することによって調製した。その反応混合物を室温で撹拌した。溶媒を、ロータリーエバポレーターによる蒸発によって除去した。得られた白色結晶を無水ジエチルエーテルで洗い、エタノール中で再結晶した。無水N,N-ジメチルホルムアミド中でCHNHBrとPbBrを3:2のモル比で混合して5質量%の濃度にすることによって、ペロブスカイト前駆体溶液を調製した。
【0101】
PeLEDの作製
様々な質量比になるように、5質量%のCHNHPbBr溶液と希釈されたPIP溶液を混合することによってブレンド溶液を調整した。これらのブレンド溶液を、使用前に室温下で2時間撹拌した。
【0102】
ITO被覆したガラス基板を、15分間、アセトン及びイソプロパノールで順次洗浄し、次に10分間の酸素プラズマ処理を行った。PEDOT:PSS(Clevios PVP AI 4083)を6000rpmで30秒間基板上にスピンコーティングし、窒素グローブボックス中で140℃において30分間アニーリングした。上記ブレンド溶液を、3000rpmで30秒間、PEDOT:PSS上にスピンコーティングし、60℃で1分間アニーリングした。クロロベンゼン中のF8の溶液(10mg・mL-1)を、ペロブスカイト層の上に3000rpmで30秒間スピンコーティングして50nmの膜を得た。PIPはクロロベンゼンに不溶であり、F8層の堆積によって影響されないことを記しておく。Ca(20nm)及びAg(100nm)を、3×10-6ミリバールより良い真空において、真空熱蒸着によって順次堆積させた。素子は、カプセル化することなしに空気中で試験をした。
【0103】
PeLED特性解析
Keithlay 2400 Source Measure Unit(SMU)を使用して、電流対電圧特性を測定した。発光画素(ピクセル)の上で中心を合わせた校正済みシリコンフォトダイオードを使用して、光子束を同時に測定した。cdm-2単位の輝度を、PeLEDの発光スペクトルとそのシリコンフォトダイオードの既知のスペクトル応答に基づいて計算した。ランベール発光プロファイルと仮定して、外部量子効率を計算した。Labsphere CDS-610分光計を使用してエレクトロルミネッセンススペクトルを測定した。
【0104】
まとめ
発光性ペロブスカイトナノ結晶を、誘電性ポリマーのピンホールのないマトリクス中に埋め込んで、優れた発光ダイオード性能を得ることができることが示されている。この技術は完全に溶液加工で行われ、かなり簡単であり、かつペロブスカイト太陽電池へと拡張して、漏洩電流の問題を解決することができる可能性がある。ポリマーマトリクスのこの組み込みは、そうでなければ脆いペロブスカイト物質に対して、柔軟性という追加の利点を素子にさらに付与する。
【0105】
結晶性ペロブスカイト物質が形成でき、複雑な表面変性の必要なしに、ポリマー混合物と非常にうまく結合でき、さらにはその顕著な光電子特性を保持できることは、確かに興味があることであり、おそらく驚くべきことである。これは、おそらく、有機金属ハロゲン化物ペロブスカイトの比類のない無機-有機ハイブリッド特性によって付与されている。有機材料とのペロブスカイトのこの並外れた相容性は、それらの素晴らしい発光及び光電子特性と組み合わされて、それらを広範囲のフレキシブルディスプレイ及び照明用途にとって価値あるものにすることが予測される。
【0106】
疑いなく、現在の特許請求の範囲にかかる発明の範囲内で、多くのその他の有効な代替物を当業者が思い付くだろう。本発明は、上記の記載した態様に限定されず、ここに添付した請求項の精神及び範囲内にある、当業者に明白な変形を包含することが理解されよう。
図1a
図1b
図1c
図1d
図1e
図2a
図2b
図2c
図3
図4a
図4b
図5a
図5b
図6
図7
図8